説明

新規グラファイト材料

本発明は、新規なモルフォルジー及び表面化学性を有する、高度に配向したグレイン凝結体を含む新規な非剥離性グラファイト粉体を与える。また、そのようなグラファイト粉体の製造方法及びそのような新規なグラファイト粒子を含有する製品を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なモルフォルジーと表面化学性を有する高度に配向したグレイン凝結体(highly oriented grain aggregates、以下、「HOGA」とする)を含む、非剥離性(non−exfoliated)の新規なグラファイト粉体及びその製造方法を与える。その高度に配向したグレイン凝結体は、高度に配向した様式で結合したグラファイトの単結晶によって形成されて、グラファイト材料の粒子(particle)となる安定な非等軸性の凝結体を形成する。本発明によるグラファイトグレインの凝結体中のxy平面における配向性は、グラファイトの特性、例えば電気伝導率及び熱伝導率に大きな異方性をもたらす。加えて、ここで与えられるグラファイトの高い配向性は、高い光反射率をもたらし、その材料に光沢のある外観を与える。
【背景技術】
【0002】
近年、多くの分野で高い性能を有する新規なグラファイト材料の需要が、新製品の技術に関する必要性を生み出している。例えば、Liイオン電池の陰極用のグラファイト及びコーティング分散体での用途のためのグラファイトの開発は、この分野で、高い注目を受けている。
【0003】
これらの技術の間では、グラファイトのボールミルでの粉砕が、文献に広く記載されている。ボールミルでの粉砕は、乾式環境及び湿式環境の両方で行われて、ミクロン又はナノの次元にまでグラファイトの粒径分布を小径化させている。液体媒体で粉砕するボールミルを通常行って、コロイド分散体を製造する。しかし、ボールミルでの機械的処理は、本発明で述べられるような非等軸性のHOGA状グラファイトを製造するのに、通常は適さない。ボールミルされたグラファイトは、通常、陽極で低い電気抵抗を示す。
【0004】
非特許文献1は、低圧アトリションシステムでのグラファイトの粉砕について記載している。しかし、この処理は、乾式のアトリションミル(attrition mill)で、低い圧力と高い温度で行われ、特定的ではないナノメーター次元への粒径の小径化をもたらした。乾式アトリションの衝撃力によって、粒子は、層間剥離され、且つ分別なく破壊されてより小さな部分となる一方で、本発明のHOGAプロセスにおいては、液体媒体で行われるアトリションは、主に層間剥離を生み出している。マイクロメーター次元でのHOGAグラファイトのような極めて非等軸性の形態のグラファイトは、非特許文献1では記載されていない。
【0005】
特許文献1は、グラファイト層を剥がす(peeling−off)ことによって非剥離性のグラファイトを製造して、アルカリ電池の陽極用の極めて鱗片状(flaky)のグラファイト粉体を製造するためのプロセスについて言及している。しかし、グラファイト層を剥がすプロセスは、非常にあいまいな方法のみが記載されており、液体媒体及び粒子の凝集体(agglomeration)の使用は、発明者によって言及されていない。その得られるグラファイト生成物は、特に表面特性に関して、本発明で与えられるHOGAグラファイトのものとは明確に区別される製品特性を示す。さらに、その発明者によって記載されたグラファイト材料の密度及び特定の表面特性は、製造プロセス中に、低い値へと変化するが、これは本明細書で記載されるようなHOGAグラファイトの製造中において、それらのパラメーターが高くなることとは反対である。
【0006】
特許文献2は、マンガン複合酸化物、ニッケル複合酸化物及びコバルト複合酸化物から選択される粉砕された正極活物質の製造方法について記載している。この発明の本質は、異なるミル、例えば振動ミル、ボールミル又はサンドミルを用いての正極活物質の小径化に続いて、導電性添加剤との混合を行うことにあると考えられる。本発明とは異なり、異なるミルを用いて粉砕化した材料を調製する場合に得られる効果の間に差異はない。さらに、導電性強化添加剤としての使用に関して、カーボン系材料の言及のみがなされている(これは使用される前に乾式又は湿式のあらゆる形態の粉砕を経ていない)。したがって、HOGAグラファイトは、特許文献2では、記載されておらず、調整されておらず、且つ用いられてもいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/046146号
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0147796号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Byoung et. al. (Kim, Byoung G.; Choi, Sang K.; Chung, Hun S.; Lee, Jae J.; Saito, F. Mining and Materials, Korea Institute of Geology, Daejon, Yoosung−ku, S. Korea. Powder Technology 2002, 126(1), 22−27)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
グラファイトの調整及びその特性
グラファイトの単結晶の化学構造は、炭素原子の六員環の積層である。グラファイトの層は、弱いファンデルワールス力でともに結合されている。これらグラファイト層の層間距離は、理想的には0.3353nmである。熱力学的に安定な多角形である六方晶系構造のグラファイト層は、ABABという積層順序を示す。また、ABCAの菱面体晶の積層順序も見つかっている。グラファイト結晶中の菱面体晶の積層の量及び分布に依存して、それらを、孤立した菱面体晶相か、六方晶系構造の積層欠陥かのいずれかとしてみなすことができる。六方晶系構造中のこれらの菱面体晶相の積層欠陥は、グラファイト材料の機械的処理(グラファイトミリング)によって生成される。グラフェン層内の電気伝導率及び熱伝導率は、グラフェン層の垂直方向より約3桁の大きさで高く、これはグラファイト結晶中に電気伝導率及び熱伝導率の強い異方性をもたらしている。
【0010】
通常、グラファイト粉体は多結晶粒子を含む、すなわちグラファイト粒子は、ともに成長する一以上の単結晶を含む。グラファイト粒子は、板形状又は鱗片形状を有する。グラファイトの種類に依存して、これらの単結晶は、粒子内で比較的強く又は弱く不規則に配向している。整列又は不規則な配向の度合いは、グラファイト粒子のモザイク性を与えるが、これはグラファイトの組織(texture)を説明するのに用いられるパラメーターである。グラファイトの組織は、個々のグラファイト材料及びそれらの特性を区別するのに用いられる主なパラメーターの1つである。
【0011】
グラファイトの複数の用途では、高いアスペクト比を有する粒子、すなわち非等軸性粒子、鱗片状粒子又は針状粒子を含むグラファイト材料が必要とされる。非等軸性粒子を有するグラファイト材料は、低い見掛け密度を示す。電気伝導部の導電性成分として用いる場合、グラファイト材料は、見掛け密度が低ければ低いほど、より低い含有量でパーコレーション閾値(percolation threshold)となることを示す、すなわち非等軸性のグラファイトは、低い含有量で低い抵抗を与える。これは、同じ重量分率の炭素が比較的大きな体積となるからである。さらに、同じ見掛け密度を有するグラファイト材料の場合、より高いアスペクト比(非等軸性がより高い粒子形状)を有するグラファイト材料が、より低い炭素含有量でパーコレーションを示す。電気化学的な電極での理想的なグラファイトの導電性添加剤は、低い見掛け密度と組み合わされて、又は言い換えると高い空隙体積と組み合わされて、大きな単結晶ドメインが粒子の板平面に沿って選択的に配向されている、高いアスペクト比の粒子を有する。
【0012】
グラファイトのストラクチャー及び組織の異方性に起因して、粉砕プロセスのような機械的処理は、粒子形状に影響を与えることができる。粒子のグラファイトの単結晶に分離するのに必要なエネルギー及びファンデルワールス層に沿ってグラファイトの単結晶を劈開するのに必要なエネルギーは、その単結晶に垂直にグラファイトの単結晶を切断するのに必要なエネルギーと比較して低い。ボールミル、エアージェットミル及び機械的ミル技術のような通常適用される粉砕プロセスは、グラファイト材料に、比較的高いエネルギーの衝撃を与える。それゆえ、その粉砕プロセスは、生成する粒子形状に関して、比較的特定的ではない。これらの粉砕技術は、高いエネルギーの衝撃と共に、衝撃力と組み合わせた剪断力を適用して、粒径を小さくする。通常、それらは、グラファイト粒子及びグラファイトの単結晶を、xy平面に平行且つ垂直に劈開する。
【0013】
したがって、従来技術の粉体と比較して優れた特性を有する新規なグラファイト粉体を与えることが本発明の目的である。そのようなグラファイト粉体の適切な製造方法を与えることも、本発明の他の1つの目的である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、結晶グレインの板平面に平行で且つグラフェン層に沿って、高剪断力を適用する場合に、高アスペクト比を有するグラファイト粒子が調製できることを驚くべきことに発見した。液体媒体中でのアトリションミル又は攪拌機ミルの機械的処理は、グラファイト結晶を、グラファイトのストラクチャーのxy平面に沿って機械的に層間剥離するのに適切な手段である。ファンデルワールス層に沿ってグラファイトを特定的に層間剥離するためには、グラファイト層を破壊せずにそれらを劈開する特定の力学的エネルギーを適用する必要がある。
【0015】
アトリションミルは、比較的低いエネルギーで剪断力を主に生成する。これらの剪断力は、粒子の単結晶ドメインを分離させ、且つそれらを部分的に層間剥離しながらファンデルワールス層に沿って単結晶を劈開する。しかし、その与えるエネルギーは、これらの層に垂直に結晶グレインを切断するのに十分ではない。液体媒体では、部分的に層間剥離したグラファイトの結晶が、xy平面に沿って高度に配向している、安定な化学的に結合した凝結体を形成する。
【0016】
本発明によるそのような機械的処理は、新規なモルフォルジー及び表面化学性を有する、高度に配向したグレイン凝結体(HOGA)を含む非剥離性のグラファイト粉体を生じさせる。本発明によるHOGAグラファイトは、処理されていない同様の材料と比較して、高い密度におけるその良好な導電性により特徴付けられる。さらに、本発明で与えるグラファイト結晶の高い配向性は、高い光反射率をもたらし、その材料の光沢のある外観を与える。ストラクチャーのレベルでは、本発明のHOGAグラファイトは、XRDパターンにおける菱面体晶のピークが小さいことで広く特徴付けられる。
【0017】
したがって、1つの態様では、本発明は、高度に配向したグレイン凝結体(HOGA)を含むグラファイト粉体であって、その菱面体晶の結晶化度の割合が10%未満、5%未満、若しくは2%未満であり又は実質的に菱面体晶の積層が存在せず、且つ730℃未満、好ましくは720℃未満、さらに好ましくは710℃未満、最も好ましくは700℃未満の温度で熱重量分析(TGA)によって測定した場合に、少なくとも15重量%の損失を有するグラファイト粉体を与える。
【0018】
いくつかの実施態様では、本発明のグラファイト粉体は、密度の増加に伴って低下する電気抵抗によって特徴付けられる。好ましくは、HOGA粉体の電気抵抗は、密度の範囲が1.5〜1.8g/cmで10〜40%低下させることができ、密度の範囲が1.5〜1.8g/cmで20〜40%低下させることができ、又は密度の範囲が1.5〜1.8g/cmで30〜40%低下させることができる。あるいは、HOGA粉体の電気抵抗は、密度の範囲が1.8〜2.1g/cmで10〜40%低下させることができ、密度の範囲が1.8〜2.1g/cmで20〜40%低下させることができ、又は密度の範囲が1.8〜2.1g/cmで30〜40%低下させることができる。
【0019】
さらなる実施態様では、本発明によるグラファイト粉体は、10〜50ミクロンの範囲の平均粒径(d50)及び10m/g超のBET表面積を示す。
【0020】
他の実施態様では、本発明によるグラファイト粉体は、5〜10ミクロンの範囲の平均粒径及び15m/g超のBET表面積を示す。
【0021】
さらなる他の実施態様では、本発明によるグラファイト粉体は、1〜5ミクロンの平均粒径及び25m/g超のBET表面積を示す。
【0022】
いくつかの実施態様では、本発明によるグラファイト粉体は、10nm超のc方向の結晶方位(crystallographic c−direction)(Lc)の結晶サイズを示す。
【0023】
好ましくは、本発明によるグラファイト粉体は、10%未満のスプリングバック(spring−back)を示す。
【0024】
他の1つの態様では、本発明は、上記のような高度に配向したグレイン凝結体のグラファイト粒子を得るための方法であって、開始グラファイト粉体が、天然グラファイトカーボン及び/又は人造グラファイトカーボンである方法を与える。この方法は、その始めのグラファイト粉体を、適切なミルで、好ましくはアトリションミル、攪拌機ミル、又はサンドミルで、液体媒体の存在下で機械的に処理することを特徴とする。
【0025】
その機械的処理は、XRDスペクトルのI(002)ピークの強度が、開始材料に比べて1.5倍、好ましくは2倍、より好ましくは3倍に強まるまで好ましくは行われる。
【0026】
ある種の実施態様では、アトリションミル又は攪拌機ミルでの処理を、0.1〜3mmの範囲の直径を有するビーズの存在下で行う。
【0027】
本発明の方法を行うための液体媒体は、好ましくは水若しくは有機溶媒又はこれらの混合体を含む。
【0028】
本発明のこの態様のいくつかの実施態様では、この方法は、液体媒体を除去する工程をさらに含む。
【0029】
本発明の更なる他の1つの態様は、本発明のグラファイト粉体を含有する電極である。好ましくは、本発明によるグラファイト粉体を含有する電極における電気抵抗は、5%含有量のグラファイト粉体で、比較の未処理のグラファイト材料より、少なくとも20%低い。
【0030】
さらに、本発明は、液体媒体中に分散させている本発明のグラファイト粉体を含む、コーティング分散体を与える。この液体分散媒体は、水を含む場合がある。
【0031】
さらに、本発明は、上に規定したような本発明によるグラファイト粉体を含む電池を与える。
【0032】
また、本発明は、純粋なグラファイトの圧縮体であって、そのグラファイト体が上に規定したようなHOGAグラファイト粉体から作られている圧縮体も与える。
【0033】
さらなる他の1つの実施態様では、本発明のHOGAグラファイト粉体は、熱間金属形成プロセスにおける潤滑剤として用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1a及びbは、従来技術から公知の従来のグラファイト材料(SFG6)及び従来の膨張グラファイト材料(BNB90)と比較した、HOGAグラファイト(HOGASFG6; HOGA MK44)に関する、抵抗対密度のグラフを示す。
【図2】図2は、HOGAグラファイト(HOGA MK44)及び従来の膨張グラファイト(BNB90)の密度を高めるために適用した力学的エネルギーを表す。
【図3】図3は、平均粒径(d50)の関数としてのHOGAグラファイト及び従来の種類のグラファイトに関する、特定のBET比表面積を示す。
【図4】図4a及びbは、市販されている従来技術のグラファイト(TIMREX(商標)MX44)の、300倍及び800倍での走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
【図5】図5a〜dは、図4のグラファイト材料の、本発明について記載されているようなアトリションミルで処理した後の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図6】図6は、抵抗/密度vs圧力の測定のための装置の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明者らは、液体媒体中で高い剪断エネルギーを適用することによるグラファイト粉体の特別な機械的処理によって、HOGAグラファイトを得られることを見出した。本発明によるHOGAグラファイトを、人造源のグラファイト又は天然源のグラファイトから得ることができる。
【0036】
高剪断力は、用いられる液体媒体中に原料のグラファイト粉体を分散させ、且つ原料グラファイト粒子から個々のグラファイトグレインに部分的に分離する。加えて、グラファイトの結晶は、グラファイト層(c方向の結晶軸に垂直で、且つファンデルワールス力だけで結合している層)に沿って、部分的に層間剥離される。液体媒体中で、層間剥離したグラファイト結晶は、剪断力の影響下で再結合し、高度に配向した鱗片状グラファイトグレインの凝結体を形成する。その凝結体の大きさ及び形状を、グラファイトグレインに与えられる剪断エネルギー、処理時間及びそのプロセスで用いる液体媒体の種類によって、様々にすることができる。その機械的処理を、任意の適切なミル、例えばアトリションミル又は攪拌機ミルで行うことができる。典型的に用いる液体媒体を、水又は有機溶媒とすることができる。HOGAグラファイトを、液体分散体から乾燥させることによって回収することができ、又はそれを液体分散体で直接的に適用することができる。
【0037】
HOGAグラファイトは、高度の結晶性を示す。グラファイト層の層間距離(C/2)は、通常、約0.3353nm〜約0.3370nmの範囲となり;c方向の結晶方位(Lc)は、好ましくは10nm以上である。分離しているHOGAグラファイトは、通常、50μm未満の平均粒径を有する。従来の天然グラファイト粉体又は人造グラファイト粉体と比較して、HOGAグラファイトは、顕著に大きなBET比表面積を示し、菱面体晶の積層欠陥がない。従来の非剥離性の人造グラファイト材料及び天然グラファイト材料で10〜50μmの平均粒径を有するものは、10m/g未満のBET比表面積を示す。対照的に、本発明で与えるHOGAグラファイト粉体で10〜50μmの平均粒径を有するものは、10m/g超のBET比表面積を示す。5〜10μmの範囲の比較的微細な平均粒径の場合では、従来の非剥離性のグラファイトは、約15m/g未満のBET比表面積を示し、さらに1〜5μmの範囲の大きさの場合には、従来の非剥離性のグラファイトは、少なくとも20m/g未満のBET比表面積を示す。対照的に、1〜5μmの平均粒径を有するHOGAグラファイトは、25〜50m/gのBET比表面積を示す(図3参照)。
【0038】
グラファイトの熱力学的に安定な相は、六方晶相である。典型的なミルプロセスのような機械的処理をグラファイト材料に適用することによって、菱面体晶の積層欠陥が生成される。材料中の菱面体晶の積層欠陥の分布度合いに応じて、これらの菱面体晶の積層欠陥は、グラファイト材料中において、孤立した菱面体晶相に分離することができる。通常、機械的に処理した(粉砕した)グラファイト材料は、かなりの割合の菱面体晶の欠陥を含む。これらの積層欠陥は、不活性雰囲気で1000℃を大幅に超える熱処理によって、直すことができる。この場合には、材料の比表面積及び化学的反応性が低下する。HOGAグラファイトは、ASAによって測定されるような反応性化学物質への高い反応性、及び酸素雰囲気下のTGA実験において15%の重量損失となる比較的低い温度によって特徴付けられる。菱面体晶の積層欠陥は、驚くべきことに、HOGAグラファイトの調製中に、グラファイト原料粉体から消失する。HOGAグラファイトは、機械的に処理された高い結晶性のグラファイトであり、その菱面体晶の結晶化度の割合は10%未満、5%未満若しくは2%未満であり、又はこれはあらゆる実質的な菱面体晶の積層欠陥を示さない。さらに、HOGAグラファイトは、約10%未満のスプリングバック及び良好な圧縮率を示す。HOGAグラファイトは、高い電気伝導率及び熱伝導率を有すると共に、低い摩擦率を有する。活物質と混合し、電気化学的システムの電極に圧縮した場合に、粒子の高いアスペクト比が、優れた伝導性をもたらしている。HOGAグラファイトを伝導促進剤として含む電気化学的貯蔵システムの電極体は、低いグラファイト含有量で、顕著に低い電極の電気抵抗を示す。
【0039】
液体媒体に分散させたHOGAグラファイトは、コーティング分散体のための開始顔料濃縮物として用いることができる。水を分散媒体として用いると、水系のコーティング分散体を配合することができる。そのような水系コーティング分散体は、HOGA顔料に加えて、その顔料を安定化させるための分散剤、バインダーとしてコロイド状に分散されたポリマー、湿潤剤としての界面活性剤、及び増粘剤としてのレオロジー添加剤のような添加剤を含む。本発明のコーティング分散体から調製した層間剥離したグラファイトの乾燥させた層は、未処理のグラファイト材料から形成された層より低いフィルム電気抵抗及びフィルム熱抵抗を示すと共に、低い摩擦率を示す。
【0040】
これまで、ファンデルワールス層に沿った粒子の理想的な劈開は、従来技術では化学的処理及び後の熱処理によってのみ達成されている。この場合、通常は酸性分子が、グラファイト層間にインターカレーションされる。後の熱処理ステップで、インターカレーションした分子は、ガスを形成しながら分解し、これは粒子を劈開し、そしてグラファイト層を剥離して、剥離グラファイト(exfoliated graphite)を形成する。しかし、剥離グラファイトの場合、粒子の劈開は、複雑な化学的プロセス及び後の熱的プロセスでなされる。膨張グラファイトは、低いかさ密度を示すが、他の全てのグラファイト粉体及びカーボン粉体では密度が増加する場合に伝導率が高まるのに対して、広範な密度範囲にわたる本質的に一定の伝導率によって特徴付けられる(図1参照)。また、膨張グラファイトは、730℃超のT15%(15%の重量損失となる温度)も有する。HOGAグラファイトは、機械的処理によって製造され、これは極めて異方性の高い組織をもたらす。HOGAグラファイトを、剥離グラファイト又は膨張グラファイトとみなすことはできない。
【0041】
ファンデルワールス層に沿ってグラファイトを特定的に層間剥離するために、それらを破壊せずにグラファイト層を劈開する特定的な力学的エネルギーを適用する必要がある。アトリションミル又は攪拌機ミルでの機械的処理は、グラファイト結晶を、グラファイトのストラクチャーのxy平面に沿って機械的に層間剥離するのに適切な方法である。このプロセスでは、グラファイト粒子を、水、有機溶媒又はこれらの混合体のような液体媒体中で機械的に処理する。アトリションミルは、液体媒体中で粒子を分散させる。グラファイトグレインの部分的な層間剥離は、板平面に沿った高い配向性を伴う再結合と組み合わさる。このプロセスは、高い異方性のグラファイト粒子形状をもたらす。
【0042】
HOGA処理に関する特定のエネルギー投入量(energy input)は、用いる装置に依存するが、小さな実験室用装置に関して、通常はグラファイト1kg当たり約8〜約15MJの範囲である。比較的大きなミル装置では、エネルギー投入量とミル装置の負荷との間に予想できる関係性がないので、その値は範囲から外れる場合がある。むしろ、エネルギー投入量は、特定のミル装置の設計によって影響を受ける。したがって、上記の値は、指針としてのみ理解されるべきであり、限定することを意図していない。
【0043】
混合体中での伝導率とは対照的に、グラファイトの固有の電気伝導率及び熱伝導率は、グラファイト層の層間距離、及びその単結晶のサイズに、ある程度依存する。単結晶のドメインが大きければ大きいほど、電気伝導率及び熱伝導率の値が高くなる。通常、比較的大きな結晶は、粒子の板平面に沿って配向する位置をとる傾向が比較的強く、これは電気伝導率及び熱伝導率に比較的強い異方性をもたらす。通常、そのようなグラファイト組織を有するグラファイト材料は、高い伝導率と比較的低い摩擦率を示す。
【0044】
圧縮力を解放した後のグラファイト材料のスプリングバックは、結晶性、グラファイト組織、粒径及び表面特性に影響を受ける。グラファイトのスプリングバックは、圧縮したグラファイト体、又は他の無機物とグラファイトとの混同体の圧縮体、例えば電池の陽極の力学的安定性に影響を与える。
【0045】
アトリションミル又は攪拌機ミルは、下記の[2]〜[5]の文献で公知である。これらは、共通して、顔料又はフィラーを液相に包含させるために用いられている。アトリションミルは、顔料の凝集体(一次粒子若しくは結晶体(crystallite)又は凝結体の凝集体)を、一次粒子に解砕し、そしてそれらを液相に分配させて、液相中への顔料の均一分散体を形成させる。アトリションミルは、粉砕媒体として機能するビーズを含む。そのビーズを、並進運動及び回転運動するように組み込む。結果として、それらは、粉砕部で、互いに衝撃を与え、且つ壁及び他の表面に衝撃を与える。圧縮応力及び剪断力が生成される。アトリションミルでの粉砕媒体は、通常は0.1〜3mmの範囲の直径を有するビーズであり、これは、例えば鉄、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、Si/Al/Zrの混合酸化物、ステアタイト、ガラス及びプラスチックのような材料から製造される。従来のボールミルが、比較的大きなボールが部分的に充填された水平回転密閉シリンダーと、処理する材料とを有するのに対して、アトリションミルでは、容器は静止しており、比較的小さなボール及び分散される材料からなる混合体が、素早く回転する攪拌素子によって、運動を続ける。アトリションミルのビーズが硬ければ硬いほど、分散の強さが大きくなると共に、グラファイト粒子表面へのアトリションの効果が大きくなる。ミル中のビーズの密度は、グラファイト表面の活性にほとんど影響を与えない。ビーズの大きさが小さければ小さいほど、粉砕するグラファイト材料にミルから与えられる衝撃力に関連した剪断力は強くなる。それゆえ、グラファイトを粉砕するため、且つ液体媒体にグラファイト粒子を分散させるために通常適用される、従来のボールミルプロセスに対するアトリションミルプロセスの違いは、グラファイト粒子に与えるエネルギーである。ボールミルは、通常、グラファイト粒子に比較的高い衝撃エネルギーを与え、これは、比較的特定的ではないグラファイト粒子の破砕をもたらす。ボールが大きければ大きいほど、より大きな衝撃エネルギーを、ミルからグラファイト材料に与えることができる。一般的に、ボールミルでの機械的処理は、比較的等方性の高い粒子及び高い見掛け密度をもたらす。結果として、ボールミルでの強い処理は、通常、電極での導電性添加剤として用いるグラファイト材料の電気特性の悪化をもたらす。通常、ボールミルは、比較的大きなエネルギーを粉砕する材料に与える。比較的大きなボールとミル構造は、グラファイト粒子を破砕する高い剪断力及び衝撃力を結果として与え、これはグラファイト特性の悪化をもたらす。
【0046】
天然グラファイト材料及び人造グラファイト材料に関して、アトリションミル又は攪拌機ミルのエネルギーの影響は、グラファイト粒子の凝集体を破砕し、それらを液体媒体中に均一に分散させるのに十分である。さらに、高い剪断力は、グラファイト分散体フィルムによって覆われるビーズの間に生じる。これらの高い剪断力は、グラファイトの単結晶グレイン(一次グレイン)を分離し、グラファイト層に沿って結晶グレインを劈開し、これは、グラファイト結晶の層間剥離をもたらす。しかし、その機械的処理のエネルギーの影響は、グラフェン層に垂直に一次粒子を破砕するのに十分ではない、又はそれらの形状を変えるのに十分ではない。層間剥離プロセスと組み合わせると、層間剥離したグラファイトグレインは、再結合して、安定で、化学的に結合した、高度に配向した凝結体を形成する。こうして得られるHOGAグラファイト粉体を、単純な乾燥プロセスによって液体分散体から回収することができ、又は液体分散体から直接的に適用することができる。
【0047】
HOGAグラファイトの特性
HOGAグラファイトは、高い結晶性及び極めて鱗片状な粒子形状を有する、非膨張性の異方性の高いグラファイト材料と、表現することができる。粒子のモルフォルジーは、粒子のxy平面に沿って高度に配向した薄い単結晶によって生じている。HOGAグラファイトを、液体媒体中での結晶性グレインの分散、グラファイトグレインの部分的な層間剥離、そして安定な高度に配向した凝結体への劈開したグレインの凝集によって、従来の非膨張性グラファイト材料から、得ることができる。これは、適切なミル、例えばアトリションミル、攪拌機ミル又はサンドミルでの機械的処理によって得ることができる。粒子の凝結体は安定であり、また約400Wh超の非常に高いエネルギーを適用しない限り、超音波処理によっては劈開することができない。非等軸性の凝結体におけるグレインの高い配向は、高い光の光学反射を与え、その材料に光沢のある輝いた外観をもたらす。グラファイトの結晶化度は、機械的処理に実質的に影響されない。
【0048】
HOGAグラファイトは、膨張性グラファイトとは電気的な挙動において異なる。膨張性グラファイトは、適用する圧力の関数として変化のない発展をする抵抗率を有することが知られているのに対し、他のグラファイト及び特にHOGAグラファイトは、高い圧力を適用することでもたらされる密度の増加に伴って、伝導率の増加を示す[1]。図2は、HOGA及び従来の膨張グラファイトの密度を高めるのに必要な力学的エネルギーを示す。これは、HOGA及び他のグラファイトの場合に、適用する圧力の方向に、圧力と伴って増加する電子密度によって説明できるであろう。これは、電子密度の増加がみられない膨張グラファイトとは対照的である。試験手順は、下記の実施例に記載されている。
【0049】
HOGAグラファイトは、高いc/2(0.3353〜約0.3370nm)及びLc(10nm超)の値を典型的には有する、結晶化度の高いグラファイト材料である。開始グラファイトの結晶化度は、その製造プロセス中で、実質的に維持される。しかし、菱面体晶の回折ピークは、機械的処理の間に消失し、これはHOGAグラファイトが厳密な六方晶系の相であることを示す。高い結晶化度を有する普通に機械的に処理したグラファイト材料が、一定の菱面体晶の積層欠陥をみせるので、このことは特有のものであるとみなすことができる。HOGAグラファイトの平均粒径は、好ましくは約1〜約50μmの間の範囲となる。
【0050】
本発明のHOGAグラファイトにおける部分的に層間剥離したグラファイトグレインの配列(arrangement)は、底面の割合が増加し、グラファイト材料の角柱表面が減少する。これは、グラファイト表面の表面張力測定によって測られる:ウォッシュバーン吸着法(Washburn sorption method)[6]によって測定される、処理したグラファイト材料の表面自由エネルギーは、機械的処理の間に低下した。表面エネルギーの非極性部分が機械的処理によって増大したが、極性部分は低下した。
【0051】
従来の非剥離性のグラファイトと比較して、HOGAグラファイトのBET比表面積は増加する。BET比表面積は、アトリションミルでのグラファイトの滞留時間が長ければ長いほど、主に液体媒体での層間剥離及び凝結プロセスに起因して、大きくなる。10〜50μmの間に平均粒径を有する従来の非剥離性の人造グラファイト材料及び天然グラファイト材料は、10m/gより顕著に低いBET比表面積を示す。10〜50μmの平均粒径を有するHOGAグラファイト粉体は、10m/g超のBET比表面積を有する。より微細な1〜10μmの平均粒径の場合では、従来の非膨張性のグラファイトは、約20m/g未満のBET比表面積を示す。それに対し、HOGAグラファイトは、25〜50m/gのBET比表面積を示す。
【0052】
HOGA処理材料の表面化学性の変化は、以下の表1に示すように、空気環境下でのTGA装置における15%の重量損失となる温度(T15%)においても確認される。
【0053】
【表1】

【0054】
HOGA処理されていないグラファイト材料と比較して、空気雰囲気下でのTGA実験における15%の重量損失となる温度(T15%)は、多くで少なくとも60℃低下する。これまでに観測されたT15%の最大の低下は、110℃であった。
【0055】
処理した材料のX線光電子分光は、O(1s)強度のわずかな増加を示し、表面の酸化物の少量の増加を示唆した。粒子の表面付近領域における結晶化度がわずかに減少する一方で、表面欠陥及び炭素の無秩序性の量は、処理によってわずかに増加した。ラマン分光は、Gバンドの強度に関連してDバンドの強度の小さな増加を示した。これは、相関長(correlation length)La及び表面の結晶化度の低下を示唆する。
【0056】
表面欠陥の増加は、活性表面積の顕著な増大と、酸素の化学吸着及びその後の温度制御熱脱着によって測定される活性表面部位の増加とを伴う(Walkerら[7])。増加した表面欠陥量は、処理の間に観測されるBET比表面積の増加の一因となる。HOGA処理した材料の表面化学性の変化は、酸素下のTGA装置での15%の重量損失となる温度でも確認される。
【0057】
HOGAグラファイトの高い結晶化度と、圧力下での特定の電気的挙動とを組み合わせる、特定の組織及び表面モルフォルジーは、低いスプリングバックを説明することができる。低いスプリングバックは、クーロン反発力の低下によるものと考えられ、これは比較的低い密度で多くの場合に比較的良好な導電性を与える。
【0058】
低いスプリングバックは、圧縮したHOGAグラファイト体の優れた力学的安定性及び高い密度の原因となり、これは従来のグラファイト材料と比較して曲げ強度でほぼ50%の増加を示す。人造グラファイト材料に関して、スプリングバックは、天然グラファイトに対するものより比較的大きな範囲で低下する。発明者の認識によると、人造系グラファイト及び天然系グラファイトのフレーク(flake)の両方に関して得られるスプリングバックの値は、グラファイト粉体に関して今まで観測されたものの中で最も低い。機械的処理の後に観測されるスプリングバックの低い値は、純粋なグラファイト又は他の材料と混合したグラファイトからなる圧縮体の力学的安定性の大きな向上に対する説明となると考えられる。低いスプリングバックの値は、圧縮したグラファイト粒子間での良好な粒子間接触も示唆し、これは接触抵抗の低下及びそれによるグラファイト圧縮体の電気抵抗の低下をもたらす。
【0059】
HOGAグラファイトに関して通常観測される、関連する原料グラファイト材料と比較したかさ密度及びタップ密度の増加は、粒子形状の異方性及びアスペクト比の増大と矛盾するように思われる。しかし、粒径分布は小径化し且つ微細部の量は小さくなり、最終の材料のみかけ密度に関して、異方性の影響を埋め合わせ、そして異方性の影響を上回る。同じ説明が、吸油量の低下について通用すると考えられる:粒子の異方性の増大は、吸油量の増大の原因となる。グラファイトの吸油量を低下させる粒径分布の大径化は、この影響を上回る。
【0060】
HOGAグラファイトのモルフォルジーは、比較的高い潤滑性を与える。HOGAグラファイトは、熱間金属形成プロセス用の潤滑剤として利点を示す。さらに、これは炭素ブラシについて利点を示す。人造グラファイトに関して、HOGA材料は、高い電気伝導率、比較的高い電気的異方性、比較的高い力学的強度を示す。高い電気的異方性は、物理的異方性の全体の増加と一致する。上記のパラメーターの代表的な値を表2に与える。
【0061】
【表2】

【0062】
HOGAグラファイト特性の要約
結晶構造
層間距離2/c 0.3353〜0.3370nm
結晶サイズLc >10nm
菱面体晶の割合 10%未満、好ましくは5%未満、より好ましくは2%未満 、最も好ましくは約0%
組織
キシレン密度 2.23〜2.27g/cm
スプリングバック ≦10%;好ましくは≦8.5%;より好ましくは≦8%
BET比表面積 ≧10m/g;好ましくは≧15m/g;より好ましく は≧20m/g
平均粒径 <100μm
【0063】
技術的用途におけるHOGAグラファイトの利点
アトリションミルでの機械的処理からもたらされる生成品は、水又は有機溶媒に分散されたグラファイト粉体である。この生成品を、液体グラファイトコーティング用の開始材料として用いることができる。選ばれた分散剤、湿潤剤、コロイドエマルション又はコロイド分散体であるポリマーバインダー材料、及びレオロジー添加剤と混合されたアトリションミル後の水系グラファイト分散体は、導電性のドライコーティングを形成する。そのような分散体のドライコーティングの層は、改良された電気的及び熱的特性を示す。プライマーとして電気化学セルの金属電流コレクタに適用すると、アトリションミルで水の存在下で処理されたHOGAグラファイト顔料を含むグラファイト分散体の薄いコーティングは、電気化学セルの内部抵抗の低下をもたらす、比較的低い表面抵抗を示した。
【0064】
乾燥したグラファイト粉体を、通常の乾燥プロセスによってグラファイト分散体から回収することができる。HOGAグラファイトを含むグラファイト体又はグラファイト層は、従来のグラファイト材料と比較して、顕著に高い電気伝導率及び力学的安定性を示す。電気化学的貯蔵システム、例えば電池の電極活物質のような他の材料との混合体中に伝導性促進剤として適用すると、通常のグラファイトと比べて、HOGAグラファイトは、比較的低いグラファイト含有量で、同じ伝導率を達成する。電気化学セルの正極又は負極に伝導性添加剤として適用すると、HOGAグラファイトは、未処理のグラファイト粉体と比較して低い電極の抵抗率を示す。これは、電気化学セルに低い内部抵抗をもたらす。純粋なHOGAグラファイトの圧縮体及び他の材料との混合体の圧縮体は、同じ含有量で従来のグラファイト添加剤を含む圧縮体と比較して、比較的高い力学的安定性を示す。
【0065】
定義によれば、電気化学セルは、純粋なイオン伝導体である電解質によって分離される2つの電極からなる。電極中の電極材料の電気伝導率が十分ではない場合、グラファイト粉体を、伝導性促進剤として用いて、セル中の電極の抵抗率を低下させることができる。両方の電極を、セル中で電気のリードとして機能する電流コレクタで接続させる。金属電流コレクタ上の薄いグラファイトフィルムは、電極とその電流コレクタとの接続を改良する。加えて、グラファイトフィルムは、防食効果も有する。金属電流コレクタの化学的又は電気化学的な腐食は、通常、電流コレクタ上に高抵抗のフィルムをもたらし、これは、電気化学的システムの使用中及び保存中にセルの内部抵抗を高める。この腐食は、高い温度で充電したセルの保存中によく起こるので、電流コレクタ上のコーティングは、電気化学セルの保存特性を改良するだろう。
【0066】
例えば、公知の亜鉛二酸化マンガンアルカリ電池では、電解二酸化マンガン(electrolytic manganese dioxide:EMD)、グラファイト、KOH電解質及びいくつかの追加の添加剤の圧縮混合体が、正極(陽極)を形成する。二酸化マンガン粒子の比較的低い比導電率に起因して、グラファイト材料が、正極の電気伝導率を改良する。二酸化マンガンは、電極中で電気活性要素となる。それゆえ、陽極の所定の体積内でグラファイトに対する二酸化マンガンの比率を最適化することが重要である。グラファイトの体積の増加は、電池容量を低下させ、これは結果的に電池のエネルギー密度を低下させるが、電池の内部抵抗を低くする。逆に、グラファイトの体積の減少は、電池容量及び電池のエネルギー密度を増加させるが、バッテリーの内部抵抗を上げる。それゆえ、電気化学セルの電極で伝導性添加剤として適用されるグラファイト粉体は、電気活性要素との混合体中で低い含有量で高い伝導率を、好ましくは与えるべきである。加えて、圧縮した電極の場合では、結着特性のあるグラファイト材料は、電極中で十分に高い力学的安定性を与えるべきである。これは、電極の抵抗率に関して最適化された、少量のみのグラファイト材料を含む電極で特に重要である。従来のグラファイトと比較して、HOGAグラファイトは、同じ電気抵抗率を得るために、電極中で比較的低い含有量となる導電性添加剤を可能とする。同時に、従来のグラファイトと比較して改良されたHOGAグラファイトの結着特性によって、HOGAグラファイトは、低いグラファイト含有量であっても陽極環(cathode ring)に高い力学的安定性を与える。従来のグラファイトと比較して、HOGAグラファイトを含む電極の電気抵抗率は、通常、約30〜80%低下する。抗折力は、グラファイトの種類に依存して約20〜60%向上する。従来のグラファイトと比較してHOGAグラファイトの低いスプリングバックは、例えばアルカリ電池の陽極環の圧縮プロセス、並びにアルカリ電池製造の環状成形(ring moulding)プロセス及び固着プロセス(impaction moulding)において、利点を与える。
【0067】
アルカリ電池では、EMD/グラファイト陽極を、電流コレクタとして機能する電池缶(battery can)に接触させる。陽極に低いグラファイト含有量を含む電池の場合、陽極に接触しているアルカリ電池缶の内部表面を、微細なグラファイト粉体を主に含む薄層でコーティングする。このコーティングは、陽極と電流コレクタとの間の接触を改良し、比較的低い接触抵抗をもたらす。さらに、そのコーティングは、缶の内部表面に直接的に接触している腐食性の二酸化マンガンによる、電池缶表面の酸化を抑制する防食層として機能する。缶の内部表面に形成される酸化層は、特に電池の保管中に、改良したセル内部抵抗をもたらす。陽極と電池との改良された接触は、低いセル抵抗をもたらし、これは高出力の電池に関して重要事項である。高いEMD/グラファイト比で機能するアルカリ電池では、高い接触抵抗及び高い酸化速度をもたらす缶と陽極の接点での比較的高いEMD含有量に起因して、缶のコーティングが必要である。HOGAグラファイトを含む缶コーティングを有する電池は、従来のグラファイト製品を含むコーティングと比較して、より低い電池抵抗を示す。
【0068】
公知のリチウムイオン電池では、セルの抵抗率を低下させるために、両方の電極で、グラファイトを導電性添加剤として用いる場合がある。酸化物電極の十分に低い抵抗率のために必要であるその導電性添加剤の含有量を低下させればさせるほど、電極の容量が高くなり、これはセルの高いエネルギー密度をもたらす。負極の銅の電流コレクタ及び正極のアルミニウム箔にコーティングするグラファイトは、電流コレクタの金属箔とフィルム電極との間の接触を改良し、金属電流コレクタへの腐食の影響を回避させ、且つセルの低い内部抵抗を確保させることができる。HOGAグラファイトは、正極及び負極での伝導性添加剤と、金属箔電流コレクタへのコーティングでの伝導性添加剤との両方で用いられる場合、有利なリチウムイオン電池をもたらす。
【0069】
燃料電池で電流コレクタとして機能する金属系バイポーラプレート(bipolar plate)へのグラファイトの薄層は、バイポーラプレートとガス拡散電極との間の接触を改良する。金属系バイポーラプレートの腐食は、グラファイト/樹脂複合材料又は含浸グラファイト箔に基づくバイポーラプレートと比較した場合の、そのようなシステムの不利点であるが、金属プレートにグラファイトプライマーを適用することによって、減らすことができる。金属バイポーラプレートへのHOGAグラファイトのコーティングは、未処理のグラファイト粉体を含むコーティングと比較して、燃料電池に比較的低い内部抵抗を与える。
【0070】
低下した接触抵抗及び低下した腐食の効果は、電解キャパシタ(スーパーキャパシタ又はウルトラキャパシタ)のアルミニウム箔電流コレクタにグラファイト薄膜を適用する理由にもなる。これらのアルミニウム箔は、伝導性促進剤としてグラファイト添加剤を含む場合があるカーボン系電極用の電気のリードとなる。
【0071】
HOGAグラファイトの水系伝導性コーティングは、最適なバインダーを用いて基材への良好な接着性及びフィルムの粘着性を得る場合に、伝導性について最大の性能を与える。好ましい水系バインダー分散体は、脂肪族系のポリアクリレート及び芳香族系のポリアクリレート、脂肪族系のポリウレタン及び芳香族系のポリウレタン、スチレンブタジエンコポリマー、スチレンアクリレートブタジエンターポリマー格子(styrene acrylate butadiene ter−polymer lattice)、脂肪族系のポリビニルアセテート及び芳香族系のポリビニルアセテート並びに脂肪族系のポリアクリロニトリルである。ポリスチレンアクリレートコポリマー及びポリウレタンを用いた場合に、特に良好な結果を得ることができる。好ましい湿潤剤は、n−アルキルポリエチレンオキサイド若しくはn−アルキルポリエチレングリコール、又はイソ−アルキルポリエチレンオキサイド若しくはイソ−アルキルポリエチレングリコール等である。
【0072】
本発明による導電性コーティング分散体の1つの例は、次の組成を有する:
HOGAグラファイト 10〜40wt%
アルキルポリエチレングリコール分散剤 1〜10wt%
トリアルキルアミン又はアンモニア 0.1〜0.5wt%
脂肪族系のポリアクリレート及び芳香族系のポリアクリレート、脂肪族系のポリウレタン及び芳香族系のポリウレタン、スチレンブタジエンコポリマー、スチレンアクリレートブタジエンターポリマー格子、脂肪族系のポリビニルアセテート及び芳香族系のポリビニルアセテート並びに脂肪族系のポリアクリロニトリル、ポリスチレンアクリレート、又はポリビニルピロリジノンのバインダー 5〜40wt%
ポリアクリル酸増粘剤 0.5〜5wt%
水 10〜85wt%
【0073】
文献
[1] N. Probst, E.Grivei; Carbon 40 (2002) 201
[2] T. Brock, M. Groteklaes, P. Mischke, European Coatings Handbook, U. Zorll (Editor), Chapter 4.9, Curt R. Vincentz Verlag, Hannover, Germany (2000).
[3] 米国特許第6,460,791号
[4] 米国特許第5,897,068号
[5] K.J. Rogers, M. Hassibi, M. Yang, EPRI−DOE−EPA Combined Utility Air Pollutant Control Symposium, Atlanta, Georgia, USA (1999)
[6] G.Stroem, M.Frederiksson, P.Stenius J. Coll. Interf. Sci., 10 119/2, 352−361
[7] N.R. Laine, F.J. Vastola, P.L. Walker Jr., J. Phys. Chem., 67 (1963) 2030−2034, P.J. Harat, F.J. Vastola, P.L. Walker Jr., Carbon, 5 (1967) 363−371.
【実施例】
【0074】
層間間隔 c/2
層間間隔c/2を、X線回折法によって測定する。(002)及び(004)反射プロファイルのピーク最大値の角度位置を測定し、ブラッグの式の適用することによって、層間間隔を計算する(Klug and Alexander, X−ray diffraction Procedures, John Wiley & Sons Inc., New York, London (1967))。グラファイトのサンプルを、ケイ素の標準と混合する。ポリグリコール及びエタノールとの混合体を添加して、高粘性スラリーを得る。結果として、約150mmの薄層をガラスプレートに適用して、そして乾燥させる。CuKaX線ビームを用いる。
【0075】
結晶サイズ Lc
結晶サイズを、(002)及び(004)の回折プロファイルの解釈によって決める。しかし、この解析は、組織(例えば、気孔率)が角度プロファイルを重ね合わせる傾向にあるという事実を考慮すると、いくぶん問題がある。結晶サイズのみに影響されるべき線幅広がりを計算するために、複数の方法が提案されてきた。本発明に関しては、Jonesにより提案された方法(F.W. Jones, Proc. Roy. Soc (London) 166 A (1938))を用いる。サンプル及び参照の線プロファイルの半値全幅を測定する。補正関数によって、純粋な回折プロファイルの幅を決定することができる。そして、結晶サイズを、シェラーの式(P.Scherrer,Goettinger−Nachrichten 2(1918)p.98)を適用することによって計算する。
【0076】
キシレン密度
この解析は、DIN 51 901で規定されるような液体排除の原理に基づく。約2.5gの粉体を、25mlの比重瓶で秤量する。キシレンを減圧下(15Torr)で加える。通常の圧力下での数時間の滞留時間後に、比重瓶を調整し且つ秤量する。
【0077】
密度は、質量と体積の比で表される。質量を、サンプルの重量により与え、且つ体積を、キシレンを満たした比重瓶の、サンプルの粉体を有するものと、有さないものの重量の差から計算する。
【0078】
BET比表面積
この方法は、77Kでp/p0=0.04〜0.26の範囲である、液体窒素の吸収等温線の登録に基づいている。
【0079】
Brunauer、Emmet及びTellerによって提案された手順(Adsorption of Gases in Multimolecular Layers, J. Am. Chem. Soc., 1938, 60, 309−319)に従えば、単一層の容量を測定することができる。窒素分子の断面積、単一層容量及びサンプルの重量に基づいて、比表面積を計算することができる。
【0080】
吸油量
サンプルの粉体を、吸収が重要なパラメーターである、様々な系に混合する。この油の試験は、吸収に関してのグラファイト材料の一般的な挙動を決定する手段である。
【0081】
緩速ろ過(slow filter)紙を、13.5mmの内径及び底部に篩(18メッシュ)を有する金属の遠心管に設置する。フィルターを濡らすために、0.5gのパラフィンオイルを管に満たし、521G(1G=9.81m/s2、Sigma6−10遠心分離機での1500rpmに相当)で30分間遠心分離する。湿潤手順の後、チューブを秤量し、そして0.5gのグラファイト粉体を添加する。グラファイトを1.5gのパラフィンオイルで被覆し、521Gで90分間遠心分離する。遠心分離後にチューブを秤量する。100gのグラファイト粉体あたりの吸油量を、重量の増加に基づいて計算する。
【0082】
スプリングバック
スプリングバックは、圧縮したグラファイト粉体の復元力に関する情報源である。所定の量の粉体を金型に注ぐ。パンチを挿入し、そしてダイを密封した後、空気をダイから排出する。1.5メトリックトン/cmの圧縮力を適用し、そして粉体の高さを記録する。この高さを、圧力を解放した後に再度測定する。スプリングバックは、圧力下での高さに対する、百分率での高さの差である。
【0083】
Scott体積計による見掛け密度及びかさ密度
ASTM B 329−98 (2003)に従って、Scott密度を、乾燥したカーボン粉体をScott体積計に通過させることによって測定した。粉体を、1in3(16.39cmに相当)の容器に収集し、0.1mg精度に秤量する。その重量と体積の比が、Scott密度に相当する。3回測定し、その平均値を計算する必要がある。グラファイトのかさ密度を、目盛り付きガラスシリンダーでの250mlのサンプルの重量から計算する。
【0084】
タップ密度
100gの乾燥したグラファイト粉体を、目盛り付きシリンダーに丁寧に注ぐ。そして、そのシリンダーを偏心シャフトに基づくタッピング機械(off−centre shaft−based tapping machine)に固定し、1500回の打撃を行った。
【0085】
体積を読みとって、タップ密度を計算する。
参照:−DIN−ISO 787−11
【0086】
圧縮密度
グラファイト粉体の所定の量を、金型に注ぐ。パンチを挿入し、そしてダイを密封し、2.5メトリックトン/cmの圧縮力を適用する。試験棒の取り出し後、寸法(W×L×H)を計る。圧縮密度は、その質量の体積に対する比である。
【0087】
レーザー回折法による粒径分布
コヒーレント光のビーム内での粒子の存在は、回折をもたらす。回折パターンの寸法は、粒径と関連する。低出力のレーザーからの平衡のビームが、水に懸濁したサンプルを含むセルを照射する。セルを通過したビームを、光学システムによって集中させる。そして、そのシステムの焦点面における光エネルギーの分布を、解析する。光検出器によって与えられる電気的信号を、計算機によって粒径分布へと変える。小さなグラファイトのサンプルを、数滴の湿潤剤及び少量の水と混合させる。記載した方法で調製したサンプルを、その器具の保存容器に導入し、測定する。
参照:−ISO 13320−1 / −ISO 14887
【0088】
電気抵抗率
電気抵抗率を、所定の圧縮した試験棒(50×12×6mm、圧縮圧力:2.5t/cm)について測定する。様々なグラファイトの間で区別できるように、非常に正確且つ信頼できる方法を用いる必要がある。これらの測定に対して適用した4端子法測定(4−points measurement)は、貧弱な接触による誤差の可能性を大幅に低くする。
【0089】
抗折力
抗折力を、バインダーを用いずに50×12×6mm及び30×20×10mmのサイズを有する棒に圧縮したグラファイト圧縮体について測定する。50×12×8mmの寸法を有する試験片について行う他の測定は、同等の結果を示す。
【0090】
グラファイト混合体の抗折力
95%のEMD(DELTA EMD TA)と5%のグラファイトサンプルとの混合体を、TURBULAミキサーで混合する。24.3mmの外径、16.0mmの内径及び1cmの長さを有する3つの環を、グラファイトサンプル当たり、3t/cmの圧力で圧縮する。そのサンプルを、12時間、25℃且つ相対湿度65%で調整する。これらの環を、LF plus press(Lloyd Instruments社)を用いて、ニュートン[N]で報告した力で破壊する。
【0091】
グラファイト混合体の電気抵抗率
95%のEMD(DELTA EMD TA)と5%のグラファイトサンプルとの混合体を、TURBULAミキサーを用いて調製する。矩形のサンプル(10cm×1cm×1cm)を、3t/cmで圧縮する。そのサンプルを、12時間、25℃、相対湿度65%で調整する。電気抵抗を、4端子法測定によって、mΩcmで測定する。
【0092】
活性表面積(ASA:Active Surface Area)
活性表面積の概念は、300℃、酸素分圧50〜100Paで、脱ガスしたカーボンの表面での酸素の化学吸着の間に、活性表面積と呼ばれるグラファイト表面の特定の部分に、表面の酸素複合体が形成されるという事実に基づいている。ASAは、炭素原子価が飽和していないカーボン表面に存在している活性部位から構成される。「清浄な」グラファイト表面で、これらの活性部位は、露出したグラフェン層の面(角柱表面)の端部、並びに外部底面表面での空孔、転位及び段差を含むグラファイトのストラクチャーの欠陥部位に、位置するであろう。それらは、ストラクチャーの特徴、ヘテロ原子(O、S、N)及び鉱物質に起因する場合がある。300℃での酸素化学吸着後にこれらの活性部位に形成される酸素複合体の量は、後の熱脱着実験において、その化学吸着温度より高い温度から950℃までで放出されるCO及びCOの量を測定することによって、決定される。これは、CO及びCOが酸化物複合体の分解物の主要な物質種であることを示したためである。
【0093】
実験手順
一定分量(0.5〜1.0g)のカーボンを正確に秤量し、石英ガラス管に投入する。減圧(10〜4Pa)下、950℃で、2時間、昇温速度10℃/分で熱処理する。
減圧下で300℃までサンプルを冷却する。
この温度で10時間、66.5Paで酸素に曝露する。
300℃で、圧力を10〜4Paにする。速度10℃/分で、950℃までサンプルを熱処理し、そして15分間その温度を保持する。CO及びCOの量を、質量分光法によって測定する。
ASA = Na(nCO+2nCO)a/m
ここで、Na:アドガボロ数
nCO:脱着したCOの量(mol)
nCO:脱着したCOの量(mol)
a:活性部位によって占められる面積
m:サンプル質量
【0094】
抵抗率/密度vs圧力の測定
図6に概略的に描かれている技術的な装置を用いて測定を行った。
【0095】
実験手順
・圧力範囲:50〜450kg/cm
・約1gのサンプル質量
・1cmの内部断面を有する電気絶縁の型に入れる。
・デジタルマルチメーター(Keithley 2000)で電気抵抗を測定する。
・サンプルの高さを、0.1mmの精度で測定する。
・サンプルを安定化させるのに必要な約30秒後に、サンプルの高さと電気抵抗との両方を、所定の圧力で測定する。
【0096】
熱重量分析:
15%の測定を、通常の熱重量装置を用いて行う。熱重量装置での雰囲気は、空気である。
【0097】
グラファイト材料の菱面体晶の割合
菱面体晶の割合の測定は、XRDパターンの41°〜47°の2θの範囲に基づく。
【0098】
グラファイト層の、菱面体晶の積層によって生成される(101)3Rのピーク(通常、約43.3°)、及び六方晶の積層によって生成される(101)2Hのピーク(通常、44.5°)の強度を比較する:I(101)3R/I(101)2H×100%。
【0099】
材料
グラファイト
人造グラファイトを、グラファイト化カーボン前駆体によって、グラファイト化する条件下で製造した。その生成人造グラファイトは、0.1%未満の灰分及び高い結晶化度を示した(c/2=0.3354〜0.3356nm、Lc=50〜1000nm、キシレン密度=2.25〜2.27g/cm)。その考慮した材料の粒径分布は、3〜50μmの間のd50の値を有し(MALVERN)、1〜20m/gのBET比表面積を有した。
【0100】
天然グラファイト鉱を浮選によって精製をし、そして0.1%未満の灰分含量とする熱的精製又は化学的精製をすることによって、天然グラファイトを製造した。その材料特性は、人造グラファイトに関するものと同じであった。
【0101】
電気分解二酸化マンガン(EMD:Electrolytic Manganese Dioxide)
この実験を通じて使用したEMDは、30〜40μmの平均粒径及び4.5g/cmのかさ密度を示した。
【0102】
HOGAグラファイト調製の実験の詳細
HOGAグラファイトを、アトリションミル(DRAIS SUPERFLOW(商標) DCP−SF12)で調製した。グラファイトを、水(10%)に、濃縮アンモニア水溶液を加えることによってpHを8〜11に調整して分散させた。グラファイト分散体を、1000rpmの速度で2L/分の流量で、異なるサイクルで粉砕した。特記しない場合、15サイクルを適用した。機械的処理の後で、グラファイトを、160℃の空気中での通常の乾燥プロセスで回収した。又は、コーティング実験のために水系分散体として直接用いた。
【0103】
BET比表面積、スプリングバック、粒径分布、EMDと7%のグラファイトの圧縮混合体の電気抵抗率R、EMDと7%のグラファイトの混合体の圧縮したLR14環の破壊強度RS、ラマン実験からの相関長Laの変化を、測定した。アトリションミルでの処理サイクルを増やしていった人造グラファイトの、X線光電子分光法(XPS)から測定した場合の、グラファイト表面での酸素量を、以下の表3に記載する。
【0104】
【表3】

【0105】
【表4】

【0106】
【表5】

【0107】
【表6】

【0108】
【表7】

【0109】
【表8】

【0110】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
菱面体晶の結晶化度の割合が、10%未満、5%未満若しくは2%未満であり、又は菱面体晶の積層が実質的に存在せず、且つ730℃未満の温度での熱重量分析(TGA)によって測定される場合に少なくとも15重量%の損失を有する、高度に配向したグレイン凝結体を含むグラファイト粉体。
【請求項2】
前記粉体の電気抵抗率が、密度の増加に伴い低下する、請求項1に記載のグラファイト粉体。
【請求項3】
前記粉体の電気抵抗率が、密度の増加に伴い、1.5〜1.8g/cmの密度の範囲で10%〜40%低下し、又は1.5〜1.8g/cmの密度の範囲で20%〜40%低下し、又は1.5〜1.8g/cmの密度の範囲で30%〜40%低下し、又は1.8〜2.1g/cmの密度の範囲で10%〜40%低下し、又は1.8〜2.1g/cmの密度の範囲で20%〜40%低下し、又は1.8〜2.1g/cmの密度の範囲で30%〜40%低下する、請求項1又は2に記載のグラファイト粉体。
【請求項4】
平均粒径が10〜50μmであり、且つBET表面積が10m/g超である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のグラファイト粉体。
【請求項5】
平均粒径が5〜10μmであり、且つBET表面積が15m/g超である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のグラファイト粉体。
【請求項6】
平均粒径が1〜5μmであり、且つBET表面積が25m/g超である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のグラファイト粉体。
【請求項7】
c方向の結晶方位(Lc)の結晶サイズが、10nm超である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のグラファイト粉体。
【請求項8】
スプリングバックが、10%以下である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のグラファイト粉体。
【請求項9】
天然グラファイトカーボン及び/又は人造グラファイトカーボンである開始グラファイト粉体を、液体媒体の存在下で、アトリションミル、攪拌機ミル、又はサンドミルによって機械的に処理することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に規定された高度に配向したグレイン凝結体グラファイト粉体の製造方法。
【請求項10】
前記開始材料に比べて、XRDスペクトルのI(002)ピークの強度が、1.5倍、好ましくは2倍、より好ましくは3倍に増加するまで、前記機械的処理を行う、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記アトリションミル又は攪拌機ミルでの前記処理を、0.1〜3mmの範囲の直径を有するビーズの存在下で行う、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記液体媒体が、水若しくは有機溶媒又はこれらの混合物である、請求項9〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記液体媒体を除去するステップをさらに含む、請求項9〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれか一項に規定されたグラファイト粉体を含有する電極。
【請求項15】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のグラファイト粉体の含有量が5%で、前記電極の電気抵抗率が、請求項9〜13のいずれか一項による処理がされていない比較のグラファイト材料に関するものよりも、少なくとも20%低い、請求項14に記載の電極。
【請求項16】
液体媒体、好ましくは水を含む液体媒体に分散している請求項1〜8のいずれか一項に規定されたグラファイト粉体を含む、コーティング分散体。
【請求項17】
請求項1〜8のいずれか一項に規定されたグラファイト粉体を含有する電池。
【請求項18】
請求項1〜8のいずれか一項に規定されたグラファイト粉体から製造された、純粋なグラファイトの圧縮体。
【請求項19】
熱間金属形成プロセスの潤滑剤としての、請求項1〜8のいずれか一項に規定されたグラファイト粉体の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図6】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2012−516826(P2012−516826A)
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546877(P2011−546877)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051314
【国際公開番号】WO2010/089326
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(511089686)ティムカル ソシエテ アノニム (3)
【Fターム(参考)】