説明

新規ナルコレプシー関連遺伝子

【課題】 ナルコレプシー関連遺伝子および該遺伝子によってコードされるポリペプチド、並びに、該遺伝子および該ポリペプチドペプチドを含んでなるナルコレプシーの診断および予防もしくは治療に供される医薬組成物の提供を目的とする。
【解決手段】 本発明は、ゲノムワイドに設定したマイクロサテライトマーカーを用いて関連分析を行い関連の認められる領域を狭め、さらにその領域において特に強い関連を示すSNPマーカーを設定し、該SNPマーカーおよび特に強い関連を示した前記マイクロサテライトマーカーについて連鎖不平衡を解析しこれらの多型の連鎖不平衡を解析することで、ナルコレプシー関連遺伝子を同定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナルコレプシー関連遺伝子に関する。より詳細には、マイクロサテライトおよびSNP(単一塩基多型)を用いた遺伝子マッピング法によって特定されたナルコレプシー関連遺伝子、該遺伝子によってコードされるポリペプチド、並びに該遺伝子及び該遺伝子によってコードされるポリペプチド又は該ポリペプチドに対するアゴニストもしくはアンタゴニストを含んでなる医薬組成物に関する。
さらに本発明は、ナルコレプシーへの易罹患性の判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な過眠症であるナルコレプシーは、日中に起こる反復性の耐え難い眠気(睡眠発作)、感情の強い動きを契機に突然筋肉の力を喪失する情動脱力発作、入眠直後にREM睡眠が見られるREM睡眠異常を特徴とする。10歳代に発症することが多く、性差は見られず、日本人における有病率は0.16−0.18%である。また、一卵性双生児一致率は25−31%、第一近親発症率は1−2%と報告されており、ヒトのナルコレプシーは複数の遺伝要因と環境要因が相互に関与し合って発症にいたる多因子疾患と考えられている。これまでに明らかにされた遺伝要因としてヒト白血球抗原(human leukocyte antigen: HLA)領域に存在するHLA−DRB1*1501−DQB1*0602ハプロタイプがあり、日本人ナルコレプシー患者のほぼ全例がこのハプロタイプを持つ(例えば、非特許文献1〜3)。しかし、このハプロタイプをもつ全てのヒトがナルコレプシーに罹患するわけではなく(健常者集団においても約10%の頻度)、特にアフリカ系集団ではこのハプロタイプを持たない患者例も多い。従って、HLA−DR−DQハプロタイプはヒトナルコレプシーとの極めて強い関連を示すものの、十分条件ではないと考えられている。
【非特許文献1】Matsui, K.等,J. Clin. Invest., 76: 2078−2083, 1985
【非特許文献2】Kuwata, S.等,N. Engl. J. Med., 324: 271−272, 1991
【非特許文献3】Honda, Y.等,Genetic aspects of narcolepsy. In: Sleep and Sleep Disorders: From Molecule to Behavior. (Eds. Hayaishi, O., and Inoue, E.) Academic Press p. 341−358, 1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者らは、上記事情に鑑み、HLA−DR−DQハプロタイプ以外のナルコレプシー疾患感受性遺伝を探索するため、鋭意研究を行った結果、新規ナルコレプシー関連遺伝子(ポリヌクレオチド)を同定することに成功した。
よって、本発明は、新規なナルコレプシー関連遺伝子を提供することを目的とする。
また、本発明は、新規なナルコレプシー関連遺伝子によってコードされるポリペプチドを提供することを目的とする。
さらに、本発明は該ポリペプチドに対する抗体、アゴニスト及び/又はアンタゴニストを提供することを目的とする。
さらにまた、本発明は、該遺伝子、該ポリペプチド、該抗体、該アゴニスト及び/又は該アンタゴニストを含んでなる医薬組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は該アゴニスト、該アンタゴニストのスクリーニング方法を提供することを目的とする。
さらにまた、本発明はナルコレプシーへの易罹患性の判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
これまでに、ヒトナルコレプシーにおけるλs(危険率)は12と報告されている。しかし、今回解析した個別試料のHLAタイピング結果より、HLA−DR−DQハプロタイプのみが疾患に関与すると仮定した場合のλsを推定したところ、5.15であっことから、HLA−DR−DQハプロタイプ以外にも疾患感受性遺伝子が存在する可能性が示唆された。
【0005】
多因子疾患の疾患感受性遺伝子探索方法として、複数の患者が存在する多数の小家系を対象とするノンパラメトリック連鎖解析(罹患同胞対分析)、1人の患者が存在する多数家系を対象とした 伝達不平衡テスト(transmission disequilibrium test: TDT)、家系データのない個体集団を対象とした患者-対照関連解析の3つの方法が主に用いられる。ヒトナルコレプシーでは多発家系が少なく、罹患同胞対解析には適していない。また、TDTに比べ患者-対照関連解析の方がより高い検出力を示すが、ナルコレプシーのように発症・病態メカニズムが明らかではない疾患に対して候補遺伝子を挙げることは困難であり、また、既知遺伝子しか解析対象に出来ないという問題点がある。そこで、本発明者等は、「マイクロサテライトマーカーを用いたpooled DNAによるゲノムワイドな関連分析法」という新たな戦略を採用した。この方法は、ゲノムワイドに略等間隔で設定した多数のマイクロサテライトマーカーを用いて関連解析を行うことにより、高い検出力を保ちつつ網羅的なスクリーニングが行えるものである。
【0006】
前記方法によって有意差を示したマイクロサテライトマーカーのうちの1つのマーカー周辺について、より高密度に設定したマイクロサテライト多型およびSNPを用いたより高密度な関連解析を行った結果、ナルコレプシーとの関連性を有する新規な遺伝子を同定することに成功した。
すなわち、本発明は以下の(1)〜(8)に関する。
(1)本発明の第1の態様は、以下の(a)又は(b)のDNAからなる単離されたポリヌクレオチドおよびその相補鎖である:
(a)配列番号8で表される塩基配列からなるDNA、
(b)(a)の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ、ナルコレプシー抵抗性をもたらす活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
(2)本発明の第2の態様は、以下の(a)又は(b)のDNAからなる単離されたポリヌクレオチドおよびその相補鎖である:
(a)配列番号9で表される塩基配列からなるDNA、
(b)(a)の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ、ナルコレプシー抵抗性をもたらす活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
(3)本発明の第3の態様は、上記(1)又は(2)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列を含有するポリヌクレオチドである。
(4)本発明の第4の態様は、配列番号10又は11で表される塩基配列からなる上記(3)に記載のポリヌクレオチドである。
(5)本発明の第5の態様は、以下の(a)又は(b)のDNAからなる単離されたポリヌクレオチドおよびその相補鎖である:
(a)配列番号12で表される塩基配列からなるDNA、
(b)(a)の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ、ナルコレプシー抵抗性をもたらす活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
(6)本発明の第6の態様は、上記(5)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列を含有するポリヌクレオチドである。
(7)本発明の第7の態様は、配列番号13で表される塩基配列からなる上記(6)に記載のポリヌクレオチドである。
(8)本発明の第8の態様は、上記(1)ないし(7)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドである。
(9)本発明の第9の態様は、上記(1)ないし(7)のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含有する組換えベクターである。
(10)本発明
の第10の態様は、上記(8)に記載のポリペプチドに対するアゴニストである。
(11)本発明の第11の態様は、上記(8)に記載のポリペプチドに対するアンタゴニストである。
(12)本発明の第12の態様は、上記(8)に記載のポリペプチドに対する抗体である。
(13)本発明の第13の態様は、上記(9)に記載のベクター又は上記(10)に記載のアゴニストを有効成分として含んでなり、ナルコレプシーの治療に供される医薬組成物である。
(14)本発明の第15の態様は、上記(8)に記載のポリペプチド又はその塩を使用することを特徴とする、該ポリペプチド又はその塩に対するアゴニストをスクリーニングする方法である。
(15)本発明の第16の態様は、上記(8)に記載されたポリペプチド又はその塩を使用することを特徴とする、該ポリペプチド又はその塩に対するアンタゴニストをスクリーニングする方法である。
(16)本発明の第17の態様は、被検者のナルコレプシーへの易罹患性を判定する方法であって、以下の工程:
(a)前記被検者から染色体DNAを含有する生体試料を採取する工程、
(b)ヒト第21番染色体の22.3位の45242528位置の塩基または ヒト第21番染色体の22.3位の45238073位置の塩基の種類を決定する工程、
(c)工程(b)において得られた結果に基づいて、当該被検者のナルコレプシーへの易罹患性を判定する工程、
を含むことを特徴とする方法である。
(17)本発明の第18の態様は、被検者のナルコレプシーへの易罹患性を判定する方法であって、以下の工程:
(a)前記被検者から染色体DNAを含有する生体試料を採取する工程、
(b)染色体DNA中の配列番号21で表される配列中の第877〜879番目に位置するDNA配列を決定する工程、
(c)工程(b)において得られた結果に基づいて、当該被検者のナルコレプシーへの易罹患性を判定する工程、
を含むことを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る新規遺伝子の機能をより詳細に解明することにより、ナルコレプシーの発症機序の解明が期待でき、さらには、ナルコレプシーの新たな治療方法、治療薬あるいは睡眠導入剤の開発を促進することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
1.本発明のポリヌクレオチド
本発明のポリヌクレオチドには、配列番号8(NLC1−A)または11(NLC1−C)で表される塩基配列からなるDNAのみならず、配列番号8または11で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ、ナルコレプシー抵抗性をもたらす活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなるものも含まれる。また、本発明のポリヌクレオチドには、本発明の「遺伝子」も含まれる。本発明の遺伝子とは、cDNAおよびゲノムDNAも含まれ、該遺伝子のエクソン、イントロンのみならず、プロモーター、エンハンサーなどの転写調節領域も含まれる。本発明のポリヌクレオチドとしては、DNA、RNAが含まれ、二本鎖であっても一本鎖であってもよい、二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNAまたはDNAとRNAとのハイブリッドでもよい。
【0009】
配列番号8または12で表わされる塩基配列を含有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNAとしては、配列番号8または12で表わされる塩基配列と好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%,81%,82%,83%,84%,85%,86%,87%,88%,89%,90%,91%,92%,93%,94%,95%,96%,97%,98%,最も好ましくは約99%のポリヌクレオチド配列相同性を有する塩基配列を含有するDNA等が挙げられる。
【0010】
ここで、ストリンジェントな条件とは、当業者によって容易に決定されるハイブリダイゼーション条件のことで、一般的にプローブ長、洗浄温度、及び塩濃度に依存する経験的な計算である。一般に、プローブが長くなると適切なアニーリングのための温度が高くなり、プローブが短くなると温度は低くなる。ハイブリッド形成は、一般的に、相補的鎖がその融点に近いがそれより低い環境に存在する場合における変性DNAの再アニールする能力に依存する。
具体的には、例えば、低ストリンジェントな条件として、ハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄段階において、37℃〜42℃の温度条件下、0.1×SSC、0.1%SDS溶液中で洗浄することなどが上げられる。また、高ストリンジェントな条件として、例えば、洗浄段階において、65℃、5×SSCおよび0.1%SDS中で洗浄することなどが挙げられる。ストリンジェントな条件をより高くすることにより、相同性の高いポリヌクレオチドを得ることができる。
【0011】
本発明に係るナルコレプシー関連遺伝子は、マイクロサテライトマーカー及びSNPsマーカーを用いた遺伝子マッピングによっても同定した。即ち、ナルコレプシー患者と健常人の2つのグループに分け、検査対象とした対立遺伝子の頻度における有意な差異の有無に基づいて同定した。特定の対立遺伝子頻度に差異がない場合は、ナルコレプシー関連遺伝子はその対立遺伝子の近くには存在していないと考えられ、特定の対立遺伝子頻度に差異がある場合は、ナルコレプシー関連遺伝子はその対立遺伝子の近くに存在していると考えられる。
【0012】
一般に、遺伝子マッピングを行なう場合の遺伝子多型マーカーとしては、SNPs(single nucleotide polymoruphisms)マーカーとマイクロサテライトマーカーが知られている。マイクロサテライトマーカーは、対立遺伝子数が多いためナルコレプシー関連遺伝子からある程度離れた位置に設定されたマーカーであっても相関を示す特徴があるため、ゲノムワイドな分析において検索領域の絞込みを行なう上で極めて有効である。一方、SNPsマーカーは、ある程度絞り込まれた領域内において関連遺伝子を詳細に特定する際に有効なマーカーである。本発明に係るナルコレプシー関連遺伝子は、マイクロサテライトマーカーおよびSNPsマーカーの両方を使用することで特定することができた。
【0013】
マイクロサテライトを用いた遺伝子マッピング方法に関しては、例えばWO01/79482号パンフレットに詳細に記載されているが、以下に簡単に説明する。
遺伝子多型とは、対象遺伝子座に冠する対立遺伝子の種類が2種類以上存在し、主要な対立遺伝子の頻度が99%以下であることを意味する。また遺伝子座とはゲノム上の領域であればどの領域であってもよく、遺伝子が発現している領域に限定されない。マイクロサテライトとは、2塩基から6塩基が繰り返した配列のことを意味し、この繰り返しの回数は個人間で異なる場合があり、繰り返しのばらつきがSTR(Short Tandem Repeat)と呼ばれる多型を形成している。この繰り返し数がマイクロサテライト多型を決定している。典型的なマイクロサテライトはCAリピートである。
【0014】
まず、比較的多型性に富むマイクロサテライトマーカーをゲノムワイドに適当な密度で、例えば、50kb〜150kb、好ましくは、80kb〜120kb、より好ましくは、90〜110kbに1個の割合で設定することができる。マイクロサテライトマーカーは対立遺伝子数(アリル数)が多いほどヘテロ接合度が高く、解析における情報量が増大する。各マイクロサテライト座におけるアリル頻度の分布およびハーディーワインベルグ平衡からの偏差に関し、統計解析を行い関連分析を行なうことで、強い関連を示すマイクロサテライトマーカーを検索することができる。関連性の強いマイクロサテライトマーカーの近傍により高密度にマーカーを設定しさらに関連分析を行なうことでナルコレプシー関連遺伝子のマッピングをより正確に行なうことができる。
【0015】
マイクロサテライトの多型検出には、例えば、マイクロサテライトマーカー領域を増幅し得るようなPCR用プライマーセットを使用することができる。PCRを用いた多型検出法としては、RFLP(restriction fragment length polymorphism)法の他にも、SSCP(single strand conformation polymorphism)法、SSOP(sequence specific oligonucleotide probe)法、RNアーゼプロテクション法、RDA(representational difference analysis)法、RAPD(random amplified polymorphic DNA)法、AFLP(amplified fragment length polymorphism)法などを用いることができる。
【0016】
マイクロサテライトマーカーによる遺伝子マッピングによってナルコレプシー関連遺伝子が存在すると思われる候補領域をある程度狭めた後に、適当な間隔でSNPマーカーを設定し、さらに関連分析を進める。SNPはゲノム上において300〜500塩基対に1つの割合で存在し、マイクロサテライトマーカーの出現頻度よりも〜100倍高いことからある程度狭められた領域においてナルコレプシー関連遺伝子の候補領域を特定する上で非常に有効な手段である。
【0017】
マイクロサテライトマーカーで解析を行った後、ナルコレプシー関連遺伝子が存在すると予想される候補領域をさらに狭めるため、例えば、SNPデータベースなどを利用し、適当な間隔でSNPマーカーを設定して関連分析を行い、有意な関連が認められたSNPの近傍について連鎖不平衡を解析することでナルコレプシー関連遺伝子候補を同定することが可能となる。
【0018】
遺伝子マッピング法を用いてナルコレプシー関連遺伝子が特定されると、該遺伝子疾患の検査、疾患の予防及び治療に利用することができる。該遺伝子のクローニングは当該技術分野における通常知識に基づいて行うことができる。該遺伝子は、発現している細胞よりcDNAライブラリーを調製し、本発明のナルコレプシー関連遺伝子またはその一部をプローブとして使用してスクリーニングにより取得することができる。あるいは、該遺伝子が発現している細胞よりRNAを調製し、逆転写酵素によりcDNAを合成した後、該遺伝子配列に基づいてPCR用プライマーを調製してcDNAを増幅させることにより該cDNAを取得してもよい。
【0019】
本発明のポリヌクレオチドの取得に使用可能な細胞は、該ポリペプチドのmRNAが発現している細胞であれば如何なる細胞も使用可能であるが、例えば、NLC1−Aの場合、脾臓、肺、腎臓、骨格筋、脳(全脳)、視床下部など、また、NLC1−Cの場合、脾臓、膵臓、肺、脳(全脳)、視床下部などの組織に由来する細胞を用いるのが好ましい。また、前記細胞が由来する動物は、本発明の遺伝子を有するものであれば如何なる動物(例えば、ヒト、チンパンジーなど)であってもよい。
ここで開示されたナルコレプシー関連遺伝子のDNA配列が確定されると、当該分野における技術常識に基づいて、該遺伝子又は該遺伝子のオルソログは、例えば、使用可能な動物組織、限定はしないが、ヒト、チンパンジーなどの組織から調製されたcDNA又はcDNAライブラリーから、上述の方法により、容易に取得することができる(例えば、Sambrook, J. 1989. Molecular cloning 2nd eds: a laboratory manual. Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor.を参照のこと)。
【0020】
本発明のポリヌクレオチドを取得するためのmRNAの調製、cDNAの調製には、mRNA Purification Kit(Pharmasia社)、AMV Reverse Transcriptase First−strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業社)、などの市販のキットを用いてもよい。
【0021】
2.本発明のポリペプチド及びその部分ペプチド
本発明のポリペプチドは、配列番号18(NLC1−A,long)、配列番号19(NLC1−A,short)又は配列番号20(NLC1−C)で表されるアミノ酸配列と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を含むポリペプチドである。ここで、「実質的に同一のアミノ酸配列を含むポリペプチド」とは、配列番号18、配列番号19又は配列番号20で表わされるアミノ酸配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%,81%,82%,83%,84%,85%,86%,87%, 88%,89%,90%,91%,92%,93%,94%,95%,96%,97%,98%,最も好ましくは約99%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつナルコレプシー抵抗性をもたらす活性を有するポリペプチドである。ここでナルコレプシー抵抗性をもたらす活性とは、ナルコレプシーの諸症状、限定はしないが、例えば、「日中繰り返す耐え難い眠気」の抑制、カタプレキシー(脱力症)の抑制をもたらすための、生物学的活性(例えば、生化学的活性、生理学的活性など)である。
【0022】
あるいは、本発明のポリペプチドには、配列番号18、配列番号19又は配列番号20で表わされるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む。実質的に同一のアミノ酸配列を含むポリペプチドとしては、配列番号18、配列番号19又は配列番号20で表わされるアミノ酸配列中の1又は数個(好ましくは、1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列であって、かつナルコレプシー抵抗性をもたらす活性を有するポリペプチドが含まれる。
上記アミノ酸の欠失、付加及び置換は、単離した天然ポリペプチドに存在していてもよく、また、本発明のポリペプチドをコードする遺伝子を、当該技術分野で公知の手法によって改変することによって新たに導入したものでもよい。例えば、特定のアミノ酸残基の置換は、市販のキット(例えば、MutanTM−G(TAKARA社)、MutanTM−K(TAKARA社))等を使用し、Guppedduplex法やKunkel法等の公知の方法あるいはそれらに準じる方法により塩基の置換を行なうことによって達成することができる。
【0023】
また、本発明のポリペプチドのC末端は、通常カルボキシル基(−COOH)又はカルボキシレート(−COO)であるが、当該カルボキシル基は、アミド(−CONH)やエステル(−COOR)等に化学修飾されていてもよい。ここで、エステル中のRとしては、C1−6アルキル基(例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル)、C3−8シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル)、C1−6アリール基(例えば、フェニル、α−ナフチル)、フェニル−C1−2アルキル基(例えば、ベンジル、フェネチル)、α−ナフチル−C1−2アルキル基(例えば、α−ナフチルメチル)等が挙げられる。その他、経口用エステルとして汎用されているピバロイルオキシメチルエステルとすることも可能である。本発明のポリペプチドがC末端以外にもそのポリペプチド鎖中にカルボキシル基を有する場合には、当該カルボキシル基がアミド化又はエステル化されているものも本発明のポリペプチドに含まれる。この場合のエステルとしては上記の各エステルが挙げられる。同様に、本発明のポリペプチドのN末端は、通常アミノ基(−NH)であるが、当該アミノ基は、ホルミル基、アセチル基等のC1−6アシル基等で化学修飾されていてもよい。その他、N端側が生体内で切断され生成したグルタミル基がピログルタミン酸化したものや、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば、−OH、−SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な官能基(例えば、ホルミル基、アセチル等)で化学修飾されているものや糖鎖の結合しているものも本発明のポリペプチドに含まれる。
【0024】
本発明に係る上記いずれかのポリペプチド中の部分アミノ酸配列を含むペプチド(部分ペプチドともいう)も本発明の範囲に含まれる。すなわち、本発明の部分ペプチドは、配列番号18、配列番号19又は配列番号20で表されるアミノ酸配列と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列の一部のアミノ酸配列を含むものである限り、如何なるものであってもよい。
本発明の部分ペプチドを構成するアミノ酸数は、少なくとも10個以上、好ましくは30個以上、より好ましくは80個以上である。通常、本発明の部分ペプチドのC末端はカルボキシル基(−COOH)、N末端はアミノ基(−NH)であるが、化学修飾されていてもよい。
【0025】
本発明のポリペプチド又はその部分ペプチドは、必要に応じて塩の形態、好ましくは生理学的に許容される酸付加塩の形態で提供され得る。そのような塩としては、無機酸、限定はしないが、例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸などの塩、有機酸、限定はしないが、例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸などの塩等が挙げられる。また、無機塩基、限定はしないが、例えば、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属などとの塩、有機塩基、限定はしないが、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどとの塩が挙げられる。
【0026】
本発明のポリペプチド又はその塩は、本発明のポリペプチドを発現しているヒトや動物(例えば、チンパンジーなど)由来の培養細胞又は組織から、当該分野における通常の技術により抽出・分離することができ、あるいは後述のように本発明のポリペプチドをコードするDNAを発現可能な状態で含む形質転換体を培養することにより、該培養物から抽出・分離することによっても調製することができる。ヒトや動物の組織又は細胞から調製する場合、ヒトや動物の組織または細胞をホモジナイズ後、酸等で抽出を行ない、得られた抽出液を疎水クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィーを組み合わせることにより単離精製することができる。
【0027】
また、本発明の部分ペプチドまたはその塩は、公知のペプチド合成法又は本発明のポリペプチドを適当なペプチダーゼ(例えば、トリプシン、キモトリプシン、アルギニルエンドペプチダーゼ)で切断することによって製造することができる。ペプチド合成法としては、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれによってもよい。すなわち、本発明のポリペプチドを構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合させ、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的のペプチドを製造することができる(例えば、Bondanszky等, 1996;Schroeder等, 1965を参照のこと)。合成反応後は通常の精製法、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、再結晶などを組み合わせて本発明の部分ペプチドを単離精製することができる。
上記の方法で得られる本発明のポリペプチド又はその部分ペプチドが遊離体である場合は、公知の方法によって適当な塩に変換することができる、塩で得られた場合は、公知の方法によって遊離体に変換することができる。
【0028】
3.組換えベクター及び形質転換体の作製
3−1.組換えベクターの作製
本発明の組換えベクターは、適当なベクターに本発明のポリペプチド(本発明のポリペプチドと実質的に同一なポリペプチド及びそれらの部分ペプチドも含む、以下同様)をコードするDNAを連結することにより得ることができる。本発明のポリペプチドをコードするDNA配列を挿入するためのベクターは、クローニング用に供される場合には、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されない。また、本発明のポリペプチドを発現するためのベクターとしては、宿主中で複製可能なものであって、該ポリペプチドをコードするDNA断片を発現させることができるプロモーターなどを有するものが使用可能である。
【0029】
使用可能なベクターとしては、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA等が挙げられる。プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pCBD−C等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5、pC194等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、YEp24、YCp50、YIp30等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ等が挙げられる。さらに、レトロウイルス、ワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルス、トガウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
【0030】
本発明で用いられるプロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであれば特に限定されない。
例えば、動物細胞を宿主として用いる場合は、SRαプロモーター、CMVプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、HSV−TKプロモーター、EF−1αプロモーター等が挙げられる。
宿主が大腸菌である場合には、tacプロモーター、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター等が、宿主が枯草菌である場合には、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーター等が挙げられる。
宿主が酵母である場合には、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター等が挙げられる。
宿主が昆虫細胞である場合は、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーターなどが好ましい。
【0031】
本発明の組換えベクターには本発明のポリペプチドコード化配列、プロモーター配列以外にも、選択マーカー、ターミネーター、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、SV40複製起点(SV40ori)などを連結することができる。
選択マーカーとしては、限定はしないが、ハイグロマイシン耐性マーカー(Hyg)、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(dhfr)、アンピシリン耐性遺伝子(Amp)、カナマイシン耐性遺伝子(Kan)、ネオマイシン耐性遺伝子(Neo, G418)などが利用可能である。
また、組換えタンパク質の単離・精製を容易にするなどの目的で、本発明のポリペプチドのN末端側に適当なシグナル配列を付加してもよい。
宿主が大腸菌である場合にはアルカリホスファターゼシグナル、OmpAシグナルなどが利用可能であり、宿主が枯草菌である場合にはα−アミラーゼシグナル配列、ズブチリスシグナル配列などが利用可能であり、宿主が酵母である場合には、α因子シグナル配列、インベルターゼシグナル配列などが利用可能であり、宿主が動物細胞である場合には、例えば、インシュリンシグナル配列、α−インターフェロンシグナル配列、抗体分子シグナル配列などが利用可能である。
【0032】
上述のベクターに対して本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを挿入することは、クローニングされた本発明のポリペプチドをコードするDNAをそのまま、又は所望により制限酵素で消化して、リンカーを付加し、ベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入することにより行うことができる。連結するDNAはその5’末端側に翻訳開始コドンとしてのATGを有し、また3’末端側には翻訳終止コドンとしてのTAA、TGA又はTAGを有していてもよい。これらの翻訳開始コドンや翻訳終止コドンは、適当な合成DNAアダプターを用いて付加することもできる。連結するDNAは、当該DNA中にコードされている本発明のポリペプチドが宿主細胞中で発現されるようにベクターに組み込まれることが必要である。
以上の方法により、本発明のポリペプチドをコードするDNA配列を含むベクターを構築することができる。
【0033】
3−2.形質転換体の作製
本発明の形質転換体は、本発明の組換え発現ベクターを、ナルコレプシー関連遺伝子が発現し得るように宿主中に導入することにより得ることができる。ここで、宿主としては、本発明のDNAを発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、大腸菌(Escherichia coli)等のエシェリシア属、枯草菌(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、リゾビウム・メリロティ(Rhizobium meliloti)等のリゾビウム属に属する細菌、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)等の酵母、サル細胞COS−7、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、あるいはSf9、Sf21等の昆虫細胞が挙げられる。
【0034】
大腸菌への組換えベクターの導入方法としては、カルシウムイオンを用いる方法(Cohen等, 1972)、エレクトロポレーション法(Shigekawa及びDower, 1988)等が利用可能である。酵母への組換えベクターの導入方法としては、エレクトロポレーション法(Becker等, 1990)、スフェロプラスト法(Hinnen等, 1978)、酢酸リチウム法(Itoh等, 1983)等が利用可能である。動物細胞又は動物細胞への組換えベクターの導入方法としては、DEAEデキストラン法(Lopata等, 1984)、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法(Chen及びOkayama, 1988)、カチオン性脂質による方法(Elroy-Stein及びMoss, 1990)等が挙げられる。
以上のようにして、本発明のポリペプチドをコードするDNAが挿入された発現ベクターを含む形質転換体を得ることができる。
【0035】
4.本発明のポリペプチド及びその部分ペプチドの製造
本発明のポリペプチドは、ナルコレプシー関連遺伝子の発現ベクターを導入した形質転換体を培養し、該遺伝子から本発明のポリペプチドを発現させ、培養物から該ポリペプチドを単離することにより製造することができる。「培養物」とは、培養上清、あるいは培養細胞若しくは培養菌体又は細胞若しくは菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。本発明の形質転換体を培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。
【0036】
大腸菌や酵母菌等の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。炭素源としては、グルコース、フルクトース、スクロース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類が用いられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩又はその他の含窒素化合物のほか、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー等が用いられる。無機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が用いられる。
【0037】
培養は、宿主細胞に適した条件下で行う。例えば、大腸菌を培養する際の培地としては、LB培地、M9培地等が好ましい。所望によりプロモーターを効率よく働かせるために、イソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトシド、3β−インドリルアクリル酸のような薬剤を加えることができる。大腸菌の場合、培養は通常約15〜37℃で約3〜24時間行い、必要により、通気や撹拌を加えることもできる。宿主が枯草菌の場合、培養は通常約30〜40℃で約6〜24時間行い、必要に応じて通気や撹拌を加えることもできる。
【0038】
酵母を培養するための培地としては、SD培地、YPD培地があげられる。培地のpHは約5〜8に調整するのが好ましい。培養は通常約20〜35℃で約24〜72時間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。宿主が昆虫細胞または昆虫である形質転換体を培養する際、培地としては、ウシ血清を含むグレース昆虫培地等が挙げられる。培地のpHは約6.2〜6.4に調整するのが好ましい。培養は通常約27℃で約3〜5日間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。
【0039】
宿主が動物細胞である形質転換体を培養する際、培地としては、例えば、約5〜20%のウシ胎児血清を含むMEM培地、DMEM培地、RPMI1640培地等が用いられる。pHは約6〜8であるのが好ましい。培養は通常約30〜40℃で約15〜60時間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。以上のようにして、形質転換体に本発明のポリペプチドを生成させることができる。上記培養物から本発明のポリペプチドを分離精製するには、例えば、下記の方法により行うことができる。
【0040】
本発明のポリペプチドを培養菌体あるいは細胞から抽出するに際しては、培養後、公知の方法で菌体あるいは細胞を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチーム及び/又は凍結融解などによって菌体あるいは細胞を破壊したのち、遠心分離や濾過により本発明のポリペプチドの粗抽出液を得る方法などが適宜用いられる。緩衝液の中に尿素や塩酸グアニジン等のタンパク質変性剤や、トリトンX−100などの界面活性剤が含まれていてもよい。培養液中に本発明のポリペプチドが分泌される場合には、培養終了後、それ自体公知の方法で菌体あるいは細胞と上清とを分離し、上清を集める。このようにして得られた培養上清又は抽出液中に含まれる本発明のポリペプチドの精製は、公知の分離・精製法を適切に組み合わせて行うことができる。これらの公知の分離、精製法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、及びSDS−PAGE等の主として分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーなどの電荷の差を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法などが用いられる。
【0041】
5.本発明のポリペプチドをコードする遺伝子の機能を阻害する核酸
本発明のポリペプチドをコードする遺伝子の機能を阻害する核酸は、本発明のポリペプチドをコードする遺伝子の機能を喪失させることにより、睡眠導入効果をもたらすことができると思われる。遺伝子の機能を阻害する核酸としては、例えば、アンチセンスRNA又はDNAなどの一本鎖核酸およびその誘導体、該遺伝子領域の一部と相補的配列を有する短い二本鎖RNAなどを挙げることができる。
アンチセンスは、RNA又はDNAまたはそれらの誘導体であってよく、本発明のポリペプチドをコードする遺伝子の発現に関する有効な阻害因子として作用する。アンチセンスRNAは、例えば、インビボにおいてmRNAとハイブリダイズし、mRNAからGZF1タンパク質への翻訳を阻害するようにデザインされる(Okano等, 1991)。また、DNAオリゴヌクレオチドは、例えば、本発明のナルコレプシー関連遺伝子の転写開始領域に対して相補的となるようにデザインされ、その結果、該遺伝子の発現を阻害する(Cohen, 1989)。
これらのアンチセンスRNA又はDNAが本発明の遺伝子又はポリペプチドの発現を阻害するようにインビボにおいて機能し得るように細胞へ導入することができる。アンチセンスDNAが用いられる場合には、例えば、標的遺伝子配列の約−10と+10の間の位置に結合するオリゴヌクレオチドであることが望ましい。
また、本発明の遺伝子と相補的な配列を有する二本鎖RNAはRNAi(RNA干渉)に用いることもできる。RNAiは、目的のmRNA(例えば、ナルコレプシー関連遺伝子のmRNA)が、目的のmRNAと相補的な配列を持つ二本鎖RNAにより分解される現象のことである。この現象を利用して人工的に二本鎖RNAを導入することにより、目的の遺伝子の発現を抑制することができる。
【0042】
6.本発明のポリペプチドに対する抗体
本発明のポリペプチドに対する抗体は、本発明のポリペプチドの機能を阻害することにより、睡眠導入効果をもたらすことが、あるいは、本発明のポリペプチドの機能を促進することでナルコレプシー易罹患性を抑制することができる。
本発明は、本発明のポリペプチドと特異的に結合する抗体、及びそのFab又はF(ab’)などの抗体断片を含む。
ここでの「抗体」(本発明のポリペプチドの活性を促進する抗体、本発明のポリペプチドの活性を阻害する抗体の両方を含む)には、本発明のポリペプチドに対するモノエピトープ特異抗体、ポリエピトープ特異抗体、単一鎖抗体、及びこれらの断片が含まれる。これらの抗体には、例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト化抗体などが含まれる。
6−1.ポリクローナル抗体
ポリクローナル抗体は、例えば、哺乳類宿主動物に対して、免疫原及びアジュバントの混合物をインジェクトすることにより調製することができる。通常は、免疫原及び/又はアジュバントを宿主動物の皮下又は腹腔内へ複数回インジェクトする。免疫原には本発明のポリペプチド及びその異種ポリペプチドとの融合体又はこれらの断片が含まれる。アジュバントの例には、完全フロイト及びモノホスホリル脂質A合成−トレハロースジコリノミコレート(MPL−TDM)が含まれる。特に、本発明のポリペプチドの部分ペプチドを免疫原とする場合は、免疫応答を増強するために、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、血清アルブミン、ウシサイログロブリン及び大豆トリプシンインヒビターなどの免疫原性を有するタンパク質と該免疫原とを結合させたのち、インジェクトしてもよい。
あるいは、IgY分子を産生するニワトリを用いて調製してもよい(Schade等, 1996)。
抗体産生方法の詳細については、例えば、Ausubel等, 1987又はHarlow及びLane, 1988を参照されたい。
【0043】
6−2.モノクローナル抗体
モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法を用いて調製することができる(Milstein及びCuello, 1983)。
この方法には以下に示す4つの工程が含まれる:(i)宿主動物または、宿主動物由来のリンパ球を免疫する、(ii)モノクローナル抗体分泌性(又は潜在的に分泌性)のリンパ球を回収する、(iii)リンパ球を不死化細胞に融合させる、(iv)所望のモノクローナル抗体を分泌する細胞を選択する。
マウス、ラット、モルモット、ハムスター、又は他の適当な宿主動物が、免疫動物として選択され免疫原がインジェクトされる。或いは、免疫動物から取得したリンパ球をインビトロで免疫化してもよい。ヒト細胞が望ましい場合には、末梢血リンパ球(PBLs)が一般に使用される。しかしながら、他の哺乳類由来の脾臓細胞又はリンパ球がより一般的で好ましい。免疫原には、本発明のポリペプチド及びその異種ポリペプチドとの融合体又はこれらの断片も含まれる。
【0044】
免疫後、宿主動物から得られたリンパ球はハイブリドーマ細胞を樹立するために、ポリエチレングリコールなどの融合剤を用いて不死化細胞株と融合される(Goding, 1996)。融合細胞としては、トランスフォーメーションによって不死化されたげっ歯類、ウシ、又はヒトのミエローマ細胞が使用されるか、ラットもしくはマウスのミエローマ細胞株が使用される。細胞融合を行った後、融合しなかったリンパ球及び不死化細胞株の成長又は生存を阻害する一又は複数の基質を含む適切な培地中で細胞を生育させる。通常の技術では、酵素のヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT又はHPRT)を欠く親細胞を使用する。この場合、ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンがHGPRT欠損細胞の成長を阻害し、ハイブリドーマの成長を許容する培地(HAT培地)に添加される。
【0045】
モノクローナル抗体の調製にあたり、好ましい不死化細胞株はマウスミエローマ株で、アメリカンタイプカルチャーコレクション(Manassas, VA)より入手可能である。ヒトミエローマ及びマウス−ヒトヘテロミエローマ細胞株による、ヒトモノクローナル抗体産生に関しては、Kozbor等, 1984;Schook, 1987を参照のこと。
ハイブリドーマ細胞は細胞外に抗体を分泌するため、目的のモノクローナル抗体の産生の有無を培養液を用いて確認することができる。産生されたモノクローナル抗体の結合特異性は、ラジオイムノアッセイ(RIA)又は酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)などの免疫沈降又はインビトロでの結合アッセイにより評価することができる(Harlow及びLane, 1988;Harlow及びLane, 1999)。
モノクローナル抗体分泌性ハイブリドーマ細胞は、限界希釈法及びサブカルチャーにより単一クローンとして単離することができる(Goding, 1996)。適切な培地にはダルベッコ改変イーグル培地、RPMI−1640、場合によっては、タンパク質を含まない培地若しくは無血清培地などが含まれる。また、ハイブリドーマ細胞は、適切な宿主動物の腹水中で増殖させてもよい。
【0046】
モノクローナル抗体は、培地又は腹水からプロテインAセファロース、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、硫安沈殿又はアフィニティークロマトグラフィー(Harlow及びLane, 1988;Harlow及びLane, 1999)などの当業者にとって周知の方法によって単離、精製される。
また、モノクローナル抗体は遺伝子組換え技術によっても作製することができる(米国特許第4166452号, 1979)。目的の抗体を分泌するハイブリドーマ細胞株から目的のモノクローナル抗体ポリペプチドをコードする遺伝子を同定するのに、例えば、マウスの重鎖及び軽鎖抗体遺伝子と特異的に結合するオリゴヌクレオチドプローブを用いてもよい。その結果、抗体重鎖及び軽鎖遺伝子が取得された場合は、その遺伝子の配列を決定することにより目的の抗体遺伝子を同定することができる。単離されたDNA断片は、モノクローナル抗体を発現させるために、適当な発現ベクターに抗体遺伝子を導入し、該ベクターを他の免疫グロブリンタンパク質を生産しないsimian COS−7細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又はミエローマ細胞などのホスト細胞中へトランスフェクトする。単離されたDNA断片は、例えば、ヒト重鎖及び軽鎖定常ドメインに対するコード化配列を相同なマウス配列と置換することにより(米国特許第4816567号, 1989;Morrison等, 1987)、又は非免疫グロブリンポリペプチドをコードする配列の全て又は一部と免疫グロブリンコード化配列を融合することにより、修飾することができる。そのような非免疫グロブリンポリペプチドは、キメラ二価抗体を調製するために、抗体の定常ドメインと置換することが可能であり、又は一抗原結合部位の定常ドメインと置換することができる。
【0047】
6―3.ヒト化及びヒト抗体
本発明のポリペプチド抗体には、ヒト化又はヒト抗体が含まれる。非ヒト抗体のヒト化型は、非ヒト免疫グロブリン由来の最小配列を含むキメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖又はその断片(Fv,Fab,Fab’,F(ab’)又は他の抗体の抗原結合領域など)である。
一般に、ヒト化抗体は非ヒト由来の免疫グロブリンから導入された一又は複数のアミノ酸残基を持つ。これらの非ヒトアミノ酸残基は、多くの場合、可変ドメインから選ばれる。ヒト化抗体は、例えばマウスのCDRs又はCDR(相補性決定領域)配列と対応するヒト抗体配列とを置換することにより作製することができる(Jones等, 1986;Riechmann等, 1988;Verhoeyen等, 1988)。つまり、ヒト化抗体とは、ヒト由来の特定のCDR中のある残基と、該残基に相当するマウス、ラット又はウサギなどの非ヒト種のCDR中の残基と置換されているヒト抗体のことである。また、非ヒト由来の残基によって、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基が置換される場合もある(Jones等, 1986;Presta, 1992;Riechmann等, 1988)。
【0048】
7.本発明のポリペプチドに対するアゴニストおよびアンタゴニスト
本発明における「アゴニスト」とは、本発明のポリペプチドまたはそのレセプター、相互作用因子(結合パートナー)に特異的に結合して、本発明のポリペプチドの生物学的活性を促進するものを意味し、上述の抗体の一部も「アゴニスト」に含まれる。抗体以外のアゴストとしては、限定はしないが、ポリペプチドまたはその断片、核酸、その他低分子化合物などを挙げることができる。 また、本発明における「アンタゴニスト」とは、本発明のポリペプチドまたはそのレセプター、相互作用因子(結合パートナー)に特異的に結合して、本発明のポリペプチドの生物学的活性を抑制するものを意味し、上述の抗体の一部も「アンタゴニスト」に含まれる。
【0049】
8.医薬的組成物
本発明のポリヌクレオチド、ポリペプチド又は抗体は、ナルコレプシーの予防又は治療等において効果を発揮することが期待できる。
本発明のポリヌクレオチド、ポリペプチド又は抗体は、生体に対して悪影響を及ぼさない医薬組成物の形態で治療薬として使用することができる。通常、そのような組成物には、核酸分子、タンパク質又は抗体及び薬剤的に受容可能な担体が含まれる。
「薬剤的に受容可能な担体」は、溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌及び抗真菌剤、アイソトニックに作用して吸着を遅らせる薬剤及びその類似物を含み、薬剤的投与に適するもののことである(Gennaro, 2000)。該担体及び該担体を希釈するために好ましいものの例には、限定はしないが、水、生理食塩水、フィンガー溶液、デキストロース溶液、及びヒト血清アルブミンなどが含まれる。また、リポソーム及び不揮発性油などの非水溶性媒体も用いられる。さらに、本発明のポリヌクレオチド、ポリペプチド又は抗体の活性を保護又は促進するような特定の化合物が、該組成物中に包含されていてもよい。
【0050】
本発明に係る医薬組成物は、静脈内、皮内、皮下、経口(例えば、吸入なども含む)、経皮及び経粘膜への投与を含み、治療上適切な投与経路に適合するように製剤化される。非経口、皮内、又は皮下への適用に使用される溶液又は懸濁液には、限定はしないが、注射用の水などの滅菌的希釈液、生理食塩水溶液、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、又は他の合成溶媒、ベンジルアルコール又は他のメチルパラベンなどの保存剤、アスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなどの無痛化剤、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)などのキレート剤、酢酸塩、クエン酸塩、又はリン酸塩などの緩衝剤、塩化ナトリウム又はデキストロースなど浸透圧調製のための薬剤を含んでもよい。
pHは塩酸又は水酸化ナトリウムなどの酸又は塩基で調製することができる。非経口的標品はアンプル、ガラスもしくはプラスチック製の使い捨てシリンジ又は複数回投与用バイアル中に収納される。
【0051】
8−1.注射可能な製剤
注射に適する医薬組成物には、滅菌された注射可能な溶液又は分散媒を、使用時に調製するための滅菌水溶液(水溶性の)又は分散媒及び滅菌されたパウダーが含まれる。静脈内の投与に関し、適切な担体には生理食塩水、静菌水、CREMOPHOR ELTM(BASF, Parsippany, N.J.)、又はリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)が含まれる。注射剤として使用する場合、組成物は滅菌的でなくてはならず、また、シリンジを用いて投与されるために十分な流動性を保持していなくてはならない。該組成物は、調剤及び保存の間、化学変化及び腐食等に対して安定でなくてはならず、細菌及び真菌などの微生物由来のコンタミネーションを防止する必要がある。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、及び適切な混合物を含む溶媒又は分散媒培地を使用することができる。例えば、レクチンなどのコーティング剤を用い、分散媒においては必要とされる粒子サイズを維持し、界面活性剤を用いることにより適度な流動性が維持される。種々の抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、及びチメロサールなどは、微生物のコンタミネーションの防止に対して使用可能である。また、糖、マンニトール、ソルビトールなどのポリアルコール及び塩化ナトリウムのような等張性を保つ薬剤が組成物中に含まれてもよい。吸着を遅らせることができる組成物には、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなどの薬剤が含まれる。
【0052】
滅菌的な注射可能溶液は、必要な成分を単独で、又は他の成分と組み合わせた後に、適切な溶媒中に必要量の活性化合物(例えば、本発明のポリヌクレオチド、ポリペプチド、抗体など)を加え、滅菌することで調製される。一般に、分散媒は、基本的な分散培地及び上述したその他の必要成分を含む滅菌的媒体中に活性化合物を取り込むことにより調製される。滅菌的な注射可能な溶液の調製のための滅菌的なパウダーの調製方法には、活性な成分及び滅菌溶液に由来する何れかの所望な成分を含むパウダーを調製する真空乾燥及び凍結乾燥が含まれる。
【0053】
8−2.経口組成物
通常、経口組成物には、不活性な希釈剤又は体内に取り込んでも害を及ぼさない担体が含まれる。経口組成物には、例えば、ゼラチンのカプセル剤に包含されるか、加圧されて錠剤化される。経口的治療のためには、活性化合物は賦形剤と共に取り込まれ、錠剤、トローチ又はカプセル剤の形態で使用される。また、経口組成物は、流動性担体を用いて調製することも可能であり、流動性担体中の該組成物は経口的に適用される。さらに、薬剤的に適合する結合剤、及び/又はアジュバント物質などが包含されてもよい。
錠剤、丸薬、カプセル剤、トローチ及びその類似物は以下の成分又は類似の性質を持つ化合物の何れかを含み得る:微結晶性セルロースのような賦形剤、アラビアゴム、トラガント又はゼラチンなどの結合剤;スターチ又はラクトースなどの、アルギン酸、PRIMOGEL、又はコーンスターチなどの膨化剤;ステアリン酸マグネシウム又はSTRROTESなどの潤滑剤;コロイド性シリコン二酸化物などの滑剤;スクロース又はサッカリンなどの甘味剤;又はペパーミント、メチルサリチル酸又はオレンジフレイバーなどの香料添加剤。
【0054】
8−3.担体
本発明のポリヌクレオチド、ポリペプチド及び抗体は、植込錠及びマイクロカプセルに封入された送達システムなどの徐放性製剤として、体内から即時に除去されることを防ぎ得る担体を用いて調製することができる。エチレンビニル酢酸塩、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などの、生物分解性、生物適合性ポリマーを用いることができる。このような材料は、ALZA Corporation(Mountain View, CA)及びNOVA Pharmaceuticals, Inc.(Lake Elsinore, CA)などから入手することが可能で、また、当業者によって容易に調製することもできる。また、リポソームの懸濁液も薬剤的に受容可能な坦体として使用することができる。有用なリポソームは、限定はしないが、ホスファチジルコリン、コレステロール及びPEG誘導ホスファチジルエタノール(PEG−PE)を含む脂質組成物として、使用に適するサイズになるように、適当なポアサイズのフィルターを通して調製され、逆相蒸発法によって精製される。例えば、抗体のFab’断片などは、ジスルフィド交換反応を介して、リポソームに結合させてもよい(Martin及びPapahadjopoulos, 1982)。
【0055】
8−4.投与量
本発明のポリペプチド又は該ポリペプチドをコードする遺伝子等による特定の疾患の治療又は予防において、適切な投与量レベルは、投与される患者の状態、投与方法等に依存するが、当業者であれば、容易に最適化することが可能である。
注射投与の場合は、例えば、一日に患者の体重あたり約0.1μg/kgから約500mg/kgを投与するのが好ましく、一般に一回又は複数回に分けて投与され得るであろう。好ましくは、投与量レベルは、一日に約0.1μg/kgから約250mg/kgであり、より好ましくは一日に約0.5〜約100mg/kgである。
経口投与の場合は、組成物は、好ましくは1.0から1000mgの活性成分を含む錠剤の形態で提供され、好ましくは活性成分が1.0,5.0,10.0,15.0,20.0,25.0,50.0,75.0,100.0,150.0,200.0,250.0,300.0,400.0,500.0,600.0,750.0,800.0,900.0及び1000.0mgである。化合物は一日に1〜4回の投与計画で、好ましくは一日に一回又は二回投与される。
【0056】
8−5.単位投与量
医薬組成物又は製剤は、一定の投与量を保障すべく、均一単位投与量により構成されなくてはならない。単位投与量は、患者の治療に有効な一回の投与量を含み、薬剤的に受容可能な担体と共に製剤化された一単位のことである。本発明の単位投与量を決定する場合には、製剤化される化合物の物理的、化学的特徴、期待される治療上の効果、及び該化合物に特有な製剤化における留意事項等により影響を受ける。
【0057】
8−6.遺伝子治療組成物
本発明において開示される核酸分子(例えば、本発明のポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドが挿入されたベクター、本発明のナルコレプシー関連遺伝子に対するアンチセンス核酸も含む)を患者の細胞に導入する方法には、主としてインビボ又はエキソビボの2つの方法がある。インビボ送達においては、治療が必要とされる患者の部位に直接注入される。エキソビボ処理では、患者の治療が意図される部位の細胞を単離し、単離された細胞に製剤化した核酸分子を導入し、導入された細胞を患者に直接又は、例えば、患者に埋め込まれる多孔性膜にカプセル化して投与することができる(米国特許第4,892,538号及び第5,283,187号参照)。核酸分子を生細胞に導入するために利用可能な技術は、培養細胞等にインビトロで導入されるか、又は患者にインビボで導入するかに依存して選択される。哺乳動物細胞にインビトロで核酸分子を導入するのに適した技術としては、リポソーム、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、トランスフェクション、細胞融合、DEAE−デキストラン法、リン酸カルシウム沈降法などが挙げられる。トランスフェクションには、組換えウイルス(好ましくはレトロウイルス)粒子の細胞レセプターとの結合、次いで粒子に含まれる核酸分子の細胞への導入が含まれる。遺伝子のエキソビボ送達に通常用いられるベクターはレトロウイルスである。
【0058】
現在、インビボ核酸移入技術で好ましいのは、ウイルス又は非ウイルスベクター(アデノウイルス、レンチウイルス、単純ヘルペスIウイルス、又はアデノ関連ウイルス(AAV))、及びカチオン性脂質ベースの系(遺伝子の脂質媒介移入に有用な脂質は、例えば、DOTMA、DOPE、及びDC−Cho1である;例えば、Tonkinson等, Cancer Investigation, 14(1):54-65 (1996) 参照)を利用した系が含まれる。遺伝子治療で使用するために最も好ましいベクターはウイルスでありその中でも、最も好ましくはアデノウイルス、AAV、レンチウイルス又はレトロウイルスである。レトロウイルスベクター等のウイルスベクターには、少なくとも1つの転写プロモーター/エンハンサー又は位置決定因子などが含まれる。さらに、レトロウイルスベクター等のウイルスベクターは、例えば、ナルコレプシー関連遺伝子を含んだ状態で転写される場合、該コード化遺伝子の翻訳を可能とするシスエレメント、即ち翻訳開始配列として機能する核酸配列を含む。このようなベクター構築物は、用いるウイルスに適したパッケージングシグナル、末端反復配列(LTR)又はその一部を含む。さらに、これらのベクターには、通常、該ベクターを含む宿主細胞から発現ポリペプチドを分泌させるシグナル配列が含まれる。好ましくは、この目的のためのシグナル配列は哺乳動物シグナル配列である。場合によっては、ベクター構築物は、ポリアデニル化並びに翻訳終結配列も含む。例えば、5’LTR、tRNA結合部位、パッケージングシグナル、DNA合成の開始点、及び3’LTR又はその一部を含む。非ウイルス性の他のベクターは、例えばカチオン性脂質、ポリリジン、及びデンドリマーを用いることもできる。
場合によっては、治療に用いる核酸を目的の細胞にターゲティングする試薬、例えば、細胞表面膜タンパク質に特異的な抗体、又は標的細胞上のレセプターのリガンドなどと共に提供するのが望ましい。現在知られている遺伝子標識化及び遺伝子治療プロトコールの概説については、Anderson等, Science, 256:808-813 (1992)などを参照のこと。
【0059】
9.医薬組成物に関するキット
医薬組成物はキット、容器、パック中に投与の説明書と共に含めることができる。本発明に係る医薬組成物がキットとして供給される場合、該医薬組成物のうち異なる構成成分が別々の容器中に包装され、使用直前に混合される。このように構成成分を別々に包装するのは、活性構成成分の機能を失うことなく長期間の貯蔵を可能にするためである。
8−1.容器
キット中に含まれる試薬は、構成成分が活性を長期間有効に持続し、容器の材質によって吸着されず、変質を受けないような何れかの種類の容器中に供給される。例えば、封着されたガラスアンプルは、窒素ガスのような中性で不反応性ガスの下において包装されたバッファーを含む。アンプルは、ガラス、ポリカーボネート、ポリスチレンなどの有機ポリマー、セラミック、金属、又は試薬を保持するために通常用いられる他の何れかの適切な材料などから構成される。他の適切な容器の例には、アンプルなどの類似物質から作られる簡単なボトル、及び内部がアルミニウム又は合金などのホイルで裏打ちされた包装材が含まれる。他の容器には、試験管、バイアル、フラスコ、ボトル、シリンジ、又はその類似物が含まれる。容器は、皮下用注射針で貫通可能なストッパーを有するボトルなどの無菌のアクセスポートを有する。
9−2.使用説明書
また、キットには使用説明書も添付される。当該医薬組成物からな成るキットの使用説明は、紙又は他の材質上に印刷され、及び/又はフロッピー(登録商標)ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、Zipディスク、ビデオテープ、オーディオテープなどの電気的又は電磁的に読み取り可能な媒体として供給されてもよい。詳細な使用説明は、キット内に実際に添付されていてもよく、あるいは、キットの製造者又は分配者によって指定され又は電子メール等で通知されるウェブサイトに掲載されていてもよい。
【0060】
10.本発明のポリペプチドに対するアゴニストおよびアンタゴニストのスクリーニング等、その他の医学薬学的応用
本発明のポリペプチドはホモロジー検索により膜タンパク質である可能性が示唆されている。従って、本発明のポリペプチドおよびその部分ペプチドまたはそれらの塩等に対するアゴニストまたはアンタゴニストの決定は、ナルコレプシーの治療剤、睡眠導入剤との開発に大いに役立つことが期待される。
本発明のポリペプチドおよびその部分ペプチドまたはそれらの塩、ならびにそれらをコードするポリヌクレオチドは、(i)NLC1−AまたはNLC1−Cポリペプチドに対するアゴニストまたはアンタゴニストの決定、(ii)ナルコレプシーの予防および/または治療剤、(iii)睡眠導入剤、(iv)遺伝子診断剤、(v)NLC1−AまたはNLC1−Cポリペプチドに対するアンタゴニストまたはアンタゴニストの定量、(vi)NLC1−AまたはNLC1−Cポリペプチドとアゴニストまたはアンタゴニストとの結合性を変化させる化合物のスクリーニング、(vii)NLC1−AまたはNLC1−Cポリペプチドとアゴニストまたはアンタゴニストとの結合性を変化させる化合物を含有する疾病の予防および/または治療剤、(viii)NLC1−AまたはNLC1−Cポリペプチドまたはその部分ペプチドの定量、(ix)NLC1−AまたはNLC1−Cポリペプチドとアンタゴニストまたはその部分ペプチドに対する抗体による中和、(x)NLC1−AまたはNLC1−Cポリペプチドをコードする遺伝子を有するかまたは欠失する非ヒト動物の作成などに用いることができる。
【0061】
具体的には、本発明のポリペプチドもしくはその部分ペプチド、またはそれらの塩は、本発明のポリペプチドに対するアゴニストまたはアンタゴニストをスクリーニングし、または同定するための試薬として有用である。これらの試薬は、本発明のポリペプチドに対するアゴニストまたはアンタゴニストの結合性を変化させる物質のスクリーニング用キットの構成要素とすることが可能である。
以上のように、本発明は、本発明のポリペプチドもしくはその部分ペプチド、またはそれらの塩と、試験物質とを接触させることを特徴とするNLC1−AまたはNLC1−Cポリペプチドに対するアゴニストまたはアンタゴニストの決定方法を提供する。試験物質としては、ヒトまたは哺乳動物(例えば、チンパンジーなど)の組織抽出物、細胞培養上清、人工的に合成した化合物等が挙げられる。
【0062】
本発明のNLC1−AまたはNLC1−Cポリペプチドに対するアゴニストまたはアンタゴニストの決定方法を実施するためには、適当なNLC1−AまたはNLC1−Cポリペプチド画分と、標識(放射性標識、蛍光色素標識など)した試験物質が用いられる。NLC1−AまたはNLC1−Cポリペプチド画分としては、天然のNLC1−AまたはNLC1−Cポリペプチド画分、またはそれと同等の活性を有する組換型NLC1−AまたはNLC1−Cポリペプチド画分等が好ましい、例えば、NLC1−AまたはNLC1−Cポリペプチドまたはその塩に対するアゴニストまたはアンタゴニストの決定を行うには、まずNLC1−AまたはNLC1−Cポリペプチドを含有する細胞または細胞の膜画分を、決定方法に適したバッファーに懸濁することによりNLC1−AまたはNLC1−Cポリペプチド標品を調製する。バッファーとしては、リン酸バッファー、トリス−塩酸バッファーなどのポリペプチドとアゴニストまたはアンタゴニストとの結合を阻害しないバッファーであればいずれでもよい。また、非特異的結合を低減させる目的で、CHAPS、Tween−80、デオキシコレートなどの界面活性剤や、ウシ血清アルブミンやゼラチン等のタンパク質をバッファーに加えることもできる。NLC1−AまたはNLC1−Cポリペプチドを含む溶液に、一定量の標識(放射性標識、蛍光色素標識など)した試験物質を共存させる。非特異的結合量を知るために大過剰の未標識の試験化合物を加えた反応チューブも用意する。反応は約4〜50℃、好ましくは約4℃〜37℃で、約10分〜24時間、望ましくは約30分〜3時間行う。反応後、ろ過し、適量の同バッファーで洗浄した後、ろ紙に残存する標識試験物質を液体シンチレーションカウンター等、標識物質の検出に適した方法で計測する。全結合量から非特異的結合量を引いたカウントが0を越える試験物質を本発明のアゴニストまたはアンタゴニストとして選択することができる。
【0063】
10.診断
本発明の遺伝子の発現、該遺伝子がコードするポリペプチドの活性に異常が認められる場合には、ナルコレプシーを発症しているか、又は発症する危険性が高いものと判断することができる。この場合、本発明のナルコレプシー関連遺伝子(エクソン領域のみならずイントロン領域、およびプロモーター領域も含む)又は該遺伝子によってコードされるポリペプチドの変異(例えば、点突然変異、欠失など)、該遺伝子の発現制御領域の変異の有無を調べることによって、ナルコレプシー発症およびその発症の危険性を予測することができる。特に、本発明において開示されるNA3.Lマイクロサテライト多型、およびC−7SNPは、NLC1−A遺伝子の発現制御に影響を与え、ナルコレプシー発症に重要な影響を与えていることが予想される。
【0064】
本発明のポリペプチドの発現量を調べるには、該ポリペプチドに特異的な抗体を利用することができる。例えば、ナルコレプシー患者またはナルコレプシーの発症が疑われる患者から被検試料を取得し、該被検試料に前記抗体を接触させ、該被検試料と該抗体との結合の有無を検出することで、ナルコレプシー発症または発症の可能性を調べることができる。被検試料と抗体との結合の有無は、抗体を用いた免疫沈降法、ウェスタンブロッティング法、免役組織化学法、ELISA法などにより確認することができる。確認の結果、本発明のポリペプチドが全く検出されないか、または著しく少ない生体内存在量であると判断される場合には、ナルコレプシー発症が疑われる。
【0065】
本発明の遺伝子の異常を確認するには、該遺伝子のcDNA配列、ゲノムDNA配列(転写制御領域、イントロン領域なども含む)またはこれらの相補鎖とアニールすることができるプライマー、プローブなどを利用することができる。利用可能なプライマーとしては、一般に、15bp〜100bpであり、好ましくは、17bp〜30bpの長さを有し、本発明の遺伝子のコード領域、非コード領域(転写制御領域、イントロン領域などを含む)の少なくとも部分領域を増幅することができるものであれば如何なるものであっても利用可能である。
【0066】
利用可能なプローブとしては、一般に、15bp以上の長さを有し、本発明の遺伝子のコード領域、非コード領域(転写制御領域、イントロン領域などを含む)の少なくとも部分領域とハイブリダイズすることができるものであれば如何なるものであっても利用可能である。また、プローブが目的のDNA領域にハイブリダイズすることを確認するために、該プローブは蛍光色素、放射標識などにより検出可能な状態で利用することができる。
【0067】
本発明の遺伝子の異常を確認する他の方法には、例えば、ナルコレプシー患者またはナルコレプシーの発症が疑われる患者から被検試料を取得し、該被検試料から調製したナルコレプシー関連遺伝子のmRNA、または該mRNAから調製したcDNAなどに前記プローブ、プライマーなどを接触させ、本発明の遺伝子のコード領域、非コード領域(転写制御領域、イントロン領域などを含む)の少なくとも部分領域との結合を検出する工程、または該部分領域を増幅する工程が含まれる。検出の結果、本発明の遺伝子の発現量等を健常者由来の試料と比較して異常が認められる場合には、ナルコレプシー発症又はナルコレプシー発症の危険性を予測することができる。
【0068】
また、ナルコレプシーの検査は、本発明のナルコレプシー関連遺伝子における変異または多型を検出することによって行うこともできる。該遺伝子のコード領域、非コード領域(転写制御領域、イントロン領域などを含む)における変異または多型を検出する方法としては、塩基配列を直接決定する方法の他に、RFLP(restriction fragment length polymorphism)法のほかにもSSCP(single strand conformation polymorphism)法、SSOP(sequence specific oligonucleotide probe)法、RNアーゼプロテクション法、RDA(representational difference analysis)法、RAPD(random amplified polymorphic DNA)法、AFLP(amplified fragment length polymorphism)法などを挙げることができる。これらの方法においては、上記プライマーを利用することができる。
上記方法による検査は、例えば、被検者から採取した試料から染色体DNAを定法に従い抽出し、該染色体DNAに対し、配列番号2および配列番号3で表される配列を持つプライマーセットを用いて、配列番号1に示されるマイクロサテライトNA3.Lの配列を調べることにより、また、配列番号4および配列番号5で表される配列を持つプライマーセットを用いてヒト第21番染色体の22.3位の45242528位置のSNPを検出することにより、あるいは、配列番号6および配列番号7で表される配列を持つプライマーセットを用いてヒト第21番染色体の22.3位の45238073位置のSNPを検出することにより実施することができる(SNPの位置はNetAffxTM Analysis CenterのUCSC Genomic QueryTool May 2004 versionによる、本明細書において同様)。
【0069】
以下に実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0070】
1.新規ナルコレプシー関連遺伝子探索に関する予備的検討:
220名のインフォームドコンセントを得ている日本人ナルコレプシー患者より得た末梢血よりゲノムDNAを抽出し、サイバーグリーン(PicoGreen、Molecular probes社)を用いて二本鎖DNAの濃度を正確に測定した。それぞれ110名分を等量ずつ混合してプールしたpooled DNAを2セット作成し、それぞれ1stセット、2ndセットとした。同様に、420名の対照健常者より得たゲノムDNAより、それぞれ210名分を等量ずつプールしたpooled DNAを2セット作成した。1stセットpooled DNAは1次スクリーニングのため、また、2ndセットは偽陽性を取り除くための2次スクリーニングに用いた。pooled DNAを鋳型に用いた増幅産物の解析はGeneScanソフトウェア(Applied Biosystems社)による自動シークエンサーによりおこなった。
【0071】
2.6番染色体上におけるマイクロサテライトマーカーによる関連分析:
HLA遺伝子群が位置する6番染色体上の全域をカバーする1,265個のマイクロサテライトマーカー(平均間隙125.7kb)を用いた関連解析を行った。患者1stセットおよび対照者1stセットを対象とした一次スクリーニングの結果、202種のマーカーで2×2フィッシャー検定法を用いた統計解析法により有意差が観察された。それら202マーカーを対象として2ndセットを対象とした2次スクリーニングを行ったところ、42種のマーカーにおいて依然として有意差が見られ、また、期待通りHLA−DR−DQ 遺伝子近傍マーカーについて一次、二次スクリーニングとも強い関連が見出された(p<10−34)。HLA領域をより詳細に解析するため、高密度に設定したマイクロサテライトマーカーを用いて解析したところ、5.5メガベースをカバーする30マーカーのうち22マーカーで有意差を示し、HLAクラスIあるいはクラスIII領域に位置するHLA−A,B,C4A遺伝子近傍マーカーにおいても有意差が見られた(p<10−6,p<10−9,p<10−24)。以上の結果より、およそ100kb毎に設定したマイクロサテライトマーカーを用いた関連分析によって、疾患感受性候補領域を検出することが可能であると考えられた。一方、HLA領域以外に極めて強い関連を示すマーカーは6番染色体上で検出されなかった。
【0072】
3.ゲノムワイドに分布するマイクロサテライトマーカーによる関連分析:
ゲノムワイドに分布した23,381マイクロサテライトマーカー(平均間隙130.3kb)(表1)を対象とした関連分析を行い、強い関連が確認されたマイクロサテライトマーカーについては近傍の高密度マーカーを用いた関連分析を行うことにより候補領域を狭めた。
【0073】
【表1】

【0074】
図1に示すように、1stセットを用いた一次スクリーニングによって、約3,000種のマーカーに関して少なくとも1つの統計分析によって有意差が観察された。これらのマーカーと2ndセットを用いて2次スクリーニングを行った結果、300種余りのマーカーについて再び有意差が認められた。
pooled DNAを使用した一次、二次のゲノムワイド関連分析で検出された有意さを確認するため、一次、二次のマイクロサテライトピークパターンに高い再現性が認められた91種のマーカーについて、患者95名、対照者95名の個別試料をタイピングした。この解析により、14種のマーカーについて再び有意差が確認された。これらについて全ての個別試料のタイピングを行ったところ、3種のマイクロサテライトマーカーについて特に低いp値が観察された(p<0.001)。
【0075】
さらに、これら3領域の高密度マッピングを行うため、各々のマーカーの周辺500−700kbにおいて新規のマイクロサテライトマーカー多型をスクリーニングしたところ、平均約40kbの間隔でマイクロサテライトマーカーを設定することができた。これらを用いて関連分析を行ったところ、スクリーニングにおいて関連が認められた3マーカーのごく近傍に位置するマーカーについても有意差が観察された。特に、NA3.4マーカーから70bk離れたマーカー(NA3.L)(配列番号1)は、NA3.4マーカーよりも強い関連を示した(p=0.00045)。NA3.Lのアリル頻度を患者、健常者について、表2に示した。この結果から、NA3.Lマイクロサテライトマーカーを調べることにより、ナルコレプシーへの易罹患性を判定し得ることが分かった。
【0076】
【表2】

【0077】
以上の解析によって、NA3.4周辺70kbを疾患関連候補領域とすることができた。NA3.4周辺領域については、さらにこれらの候補領域を狭めるため、SNPデータベースに基づいて平均10kb間隔でSNPマーカーを設定して関連分析を行い、有意な関連が認められたSNPの近傍については、患者および健常者各8名の試料について新たなSNPのスクリーニングを行った。これらのSNPについて患者190名、対照者190名の個別試料を用いて関連分析を行ったところ、8種の有意差を示すSNPを見出した(図2)。特に強い関連を示したNA3.Lマーカー近傍の2つのSNPについて全ての試料を用いた解析を行った結果、図3に示すようにマイクロサテライトマーカーと同等あるいはより強い関連を示した(p=0.0002,;p<0.0001)。さらにこれらの多型について連鎖不平衡を解析したところ、NA3.Lと2個のSNPsは1つの連鎖不平衡ブロックに入ることが分かった(図4)。これら2つのSNPは、C/T多型(C−4、)、A/G多型(C−7)であり、各々ヒト第21番染色体の22.3位の45242528位置の塩基または ヒト第21番染色体の22.3位の45238073位置に存在する。各SNPの表現型頻度およびアリル頻度を患者、健常者について、表3及び表4に示した。この結果から、前記2カ所のSNPsを調べることにより、ナルコレプシーへの易罹患性を判定し得ることが分かった。
【0078】
【表3】

【0079】
【表4】

【0080】
したがって、このブロックの中に何らかのナルコレプシー感受性遺伝子(多型)が存在する可能性が示唆された。このブロックの中には既知の遺伝子は存在せず、同じ位置に複数のESTやmRNAがデータベースに報告されていることから、3つの新規遺伝子の存在が示唆された。当該新規遺伝子をNLC1−A、NLC1−BおよびNLC1−Cと命名した。これらの遺伝子のうちNLC1−Aの、mRNAのロングフォームおよびショートフォームを各々配列番号10および配列番号11として示した。さらに、NLC1−CのmRNAを配列番号13として示した。また、NLC1−Aの予測されるORF配列を配列番号8(long form)及び9(short form)に、NLC1−Cの予測されるORF配列を配列番号12に示す。さらに、NLC1−AとNLC1−Cが脳および視床下部で発現していることを確認した(図5)。
【0081】
Clontech社から購入したヒト臓器poly A RNAサンプルに対して、配列番号14および配列番号15の配列からなるプライマーセットを用いてRT−PCRを行ったところ、NLC1−Aの予測される長さのORF(図5A)に一致する増幅産物のバンドを確認することができた(図5B)。同様に、配列番号16および配列番号17(の配列からなるプライマーセットを用いてRT−PCRを行ったところ、NLC1−Cの予測される長さのORF(図5A)に一致する増幅産物のバンドを確認することができた(図5B)。
【0082】
さらに、配列番号18および配列番号19にNLC1−Aのロングフォームとショートフォームの予測されるアミノ酸配列を、配列番号20にNLC1−Cの予測されるアミノ酸配列を示した。
配列番号18に示すNLC1−Aのロングフォームのアミノ酸配列上の特徴および特定のモチーフの有無を検討したところ、少なくとも1つの膜貫通領域を有し、NLC1−Aのロングフォームを構成するほとんどの領域が膜外の存在
することが予想された。表5には、NLC1−Aのロングフォームの予測される構造上の特徴を示す。また、NLC1−Aのロングフォームには、ヒトに見出されるトランスポーターのスーパーファミリーの一員である結合タンパク質依存的トランスポート系の内膜コンポーネントドメイン(binding-protein-dependent transport systems inner membrane component domain)に特徴的なモチーフ構造に類似する領域が見出された。
【0083】
【表5】

【0084】
上記NA3.Lマイクロサテライト多型およびC−7SNP多型は、各々、プロモーター領域およびイントロン領域に存在するものであることから、NLC1遺伝子によってコードされるポリペプチドそのものというよりは、NLC1遺伝子の転写制御等に影響を及ぼす可能性がある。そこで、これら2つの多型がプロモーター活性におよぼす影響について検討した。
アッセイ系として、DUAL-Luciferase Reporter Assay System(Promega社)を用い、キットに添付のプロトコールに従って実験を行った。
まず、C−7SNP多型を含むイントロン領域(297bp)およびNA3.Lマイクロサテライト多型を含むプロモーター領域(907bp)をKpnI−SacIで切り出し、pGL3−control vectorのマルチクローニングサイト(KpnI−SacIサイト)に、T4 DNAリガーゼを用いて試験用のベクターを調製した。調製したベクターを用いて大腸菌(TOP10株)を形質転換し、コロニーPCR法により試験用ベクターを含有する大腸菌クローンを選択し、目的のクローンを選択できたかどうかアガロース電気泳動とダイレクトシークエンシングにより確認を行った。得られたクローンから、定法にしたがい試験用ベクターを単離した。次に、単離した試験用ベクターと内部標準として用いるコントロール用のベクター(pRL−SV40 vector)をEffectene(QIAGEN社)を用いてNB−1細胞、またはHeLa細胞に形質導入した。得られた形質導入株のホタルルシフェラーゼ活性およびウミシイタケルシフェラーゼ活性をルミノメータで測定し、その測定値に基づいて各多型のプロモーター活性への影響を調べた(図6)。
【0085】
図6A、Bは各々NB−1細胞およびHeLa細胞を用いた各多型のプロモーター活性への影響を示す。図に示す値は、何も挿入していない試験用ベクター(null vector)の値を1として示している。
C−7SNPにおいてgアリルの場合には、aアリルに比べてプロモーター活性が低下していることが分かった。また、NA3.Lマイクロサテライト多型においては、疾患と強い関連が認められた(AC)10(配列番号22)アリルで、他のアリル((AC)12(配列番号26)、(AC)(配列番号24)、(AC)(配列番号23))の活性と比べてプロモーター活性が、0.5−0.6程度まで低下することが分かった。実験は独立の3回行い、同様の結果を得た。
【0086】
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【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】マイクロサテライトマーカーを用いたゲノムワイドの関連解析によって得られたp値の分布を示すグラフである。
【図2】マイクロサテライトによるマッピングで絞り込んだ領域におけるSNPマーカーによる関連分析によって得られたp値、並びに有意差の見られたSNPsにおけるオッズ値を示すグラフである。
【図3】マイクロサテライトマーカー及びSNPsを用いた関連分析により狭められた領域を示す。
【図4】NLC1領域の多型解析を行って検出された多型を用いて行った関連解析の結果(p値)を示す。
【図5】脳におけるNLC1−A及びNLC1−Cの発現を示す図である。
【図6】C−7SNP多型およびNA3.Lマイクロサテライト多型のプロモーター活性に対する影響を示す。縦軸は各多型のアリル名を示し、横軸はnull vectorとの活性比を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)又は(b)のDNAからなる単離されたポリヌクレオチドおよびその相補鎖:
(a)配列番号8で表される塩基配列からなるDNA、
(b)(a)の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ、ナルコレプシー抵抗性をもたらす活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
【請求項2】
以下の(a)又は(b)のDNAからなる単離されたポリヌクレオチドおよびその相補鎖:
(a)配列番号9で表される塩基配列からなるDNA、
(b)(a)の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ、ナルコレプシー抵抗性をもたらす活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリヌクレオチドの塩基配列を含有するポリヌクレオチド。
【請求項4】
配列番号10又は11で表される塩基配列からなる請求項2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
以下の(a)又は(b)のDNAからなる単離されたポリヌクレオチドおよびその相補鎖:
(a)配列番号12で表される塩基配列からなるDNA、
(b)(a)の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ、ナルコレプシー抵抗性をもたらす活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
【請求項6】
請求項5に記載のポリヌクレオチドの塩基配列を含有するポリヌクレオチド。
【請求項7】
配列番号13で表される塩基配列からなる請求項6に記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含有する組換えベクター。
【請求項10】
請求項8に記載のポリペプチドに対するアゴニスト。
【請求項11】
請求項8に記載のポリペプチドに対するアンタゴニスト。
【請求項12】
請求項8に記載のポリペプチドに対する抗体
【請求項13】
請求項9に記載のベクター又は請求項10に記載のアゴニストを有効成分として含んでなり、ナルコレプシーの治療に供される医薬組成物。
【請求項14】
請求項8に記載のポリペプチド又はその塩を使用することを特徴とする、該ポリペプチド又はその塩に対するアゴニストをスクリーニングする方法。
【請求項15】
請求項8に記載されたポリペプチド又はその塩を使用することを特徴とする、該ポリペプチド又はその塩に対するアンタゴニストをスクリーニングする方法。
【請求項16】
被検者のナルコレプシーへの易罹患性を判定する方法であって、以下の工程
(a)前記被検者から染色体DNAを含有する生体試料を採取する工程、
(b)ヒト第21番染色体の22.3位の45242528位置の塩基または ヒト第21番染色体の22.3位の45238073位置の塩基の種類を決定する工程、
(c)工程(b)において得られた結果に基づいて、当該被検者のナルコレプシーへの易罹患性を判定する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
被検者のナルコレプシーへの易罹患性を判定する方法であって、以下の工程
(a)前記被検者から染色体DNAを含有する生体試料を採取する工程、
(b)染色体DNA中の配列番号21で表される配列中の第565〜584番目に位置するDNA配列を決定する工程、
(c)工程(b)において得られた結果に基づいて、当該被検者のナルコレプシーへの易罹患性を判定する工程、
を含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−217888(P2006−217888A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−36126(P2005−36126)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】