説明

新規ビスホスフィノイル化合物、その製造方法及びそれを有効成分とした医薬

【課題】 癌細胞増殖抑制作用を有する新規ビスホスフィノイル化合物及びそれを有効成分として含有する新規医薬を提供する。
【解決手段】 一般式
【化1】


(Aは二価の炭化水素基、炭化水素ジオキシ基、ヘテロアリーレン基、フェロセニレン基又はシリレンジオキシ基、R1は炭化水素基、R2は炭化水素基、ヘテロアリール基、フェロセニル基又はシリル基、R3は水素原子、炭化水素基、ヘテロアリール基、フェロセニル基又はシリル基)
で表わされるビスホスフィノイル化合物であって、このビスホスフィノイル化合物を有効成分として含有した医薬とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌細胞増殖抑制作用を有する新規ビスホスフィノイル化合物、その製造方法、及びそれを有効成分として含有する新規な医薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2個のホスフィンオキシド基をもつ化合物は、各種反応触媒の配位子の製造原料、酵素の活性抑制剤、発光素子などとして有用であり、これまでにもいくつか知られ、その製造方法もいくつか提案されている。
【0003】
例えば、一般式
【化1】

又は
【化2】

(式中のRは水素原子又はアルキル基のような置換基、R´は炭化水素基、Aは二価の架橋基)
で表わされるビス(アルケニルホスフィンオキシド)化合物の製造方法(特許文献1〜5参照)が、また
【化3】

(式中のRは水素原子又はアルキル基のような置換基、Arはアリール基、Aは連結基)
で表わされるホスフィンオキシド基で置換された芳香族化合物を含む発光素子(特許文献6参照)が、これまでに提案されている。
【0004】
しかしながら、直接ホスフィノイル基を介して架橋基により連結しているビスホスフィノイル化合物や、これを有効成分として含む医薬はこれまで知られていなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平9−241276号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献2】特開平9−295993号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献3】特開2002−241386号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献4】特開2004−26655号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献5】特開2004−43492号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献6】特開2004−95221号公報(特許請求の範囲その他)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、癌細胞増殖抑制作用を有する新規ビスホスフィノイル化合物及びそれを有効成分として含有する新規医薬を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ホスフィンオキシド基を介して2個の有機基が架橋結合したビスホスフィノイル化合物、特に1分子のジホスフィンオキシド化合物と、2分子のアセチレン化合物との反応により得られる2個のエチレン結合をもつビスホスフィノイル化合物が癌細胞増殖抑制作用を有することを見出し、この知見に基づいて、本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、一般式
【化4】

(式中のAは二価の炭化水素基、炭化水素ジオキシ基、ヘテロアリーレン基、フェロセニレン基又はシリレンジオキシ基、R1は炭化水素基、R2は炭化水素基、ヘテロアリール基、フェロセニル基又はシリル基、R3は水素原子、炭化水素基、ヘテロアリール基、フェロセニル基又はシリル基である)
で表わされるビスホスフィノイル化合物、一般式
【化5】

(式中のA及びR1は前記と同じ意味をもつ)
で表わされるジホスフィンオキシド化合物と、一般式
2−C≡C−R3 (III)
(式中のR2及びR3は前記と同じ意味をもつ)
で表わされるアセチレン化合物とを反応させることを特徴とする、一般式
【化6】

(式中のA、R1、R2及びR3は前記と同じ意味をもつ)
で表わされるビスホスフィノイル化合物の製造方法、及び上記のビスホスフィノイル化合物を有効成分として含有することを特徴とする医薬を提供するものである。
【0009】
本発明のビスホスフィノイル化合物は、上記一般式(I)で示される化学構造を有するが、このような化合物は文献未載の新規化合物である。
上記一般式(I)中のAは、2個のホスフィノイル基を連結する有機基であり、これは二価の炭化水素基、炭化水素ジオキシ基、ヘテロアリーレン基、フェロセニレン基又はシリレンジオキシ基のいずれかである。
【0010】
この二価の炭化水素基は、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基のいずれでもよく、脂肪族炭化水素基及び脂環族炭化水素基は不飽和結合を有するものであってもよい。
【0011】
脂肪族炭化水素基としては、炭素数1〜18、好ましくは2〜10の直鎖状又は枝分れ状の炭化水素基、例えばメチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、2‐メチルヘキセン(1,6)基、オクタン‐1,7‐ジエニル(1,8)基などの飽和アルキレン基又は不飽和アルキレン基を挙げることができる。
【0012】
また、脂環族炭化水素基としては、例えばシクロペンテン(1,2)基、シクロへキセン(1,4)基、ビシクロデセン(1,8)基のようなシクロアルキレン基や、これらのメチル置換体などを挙げることができる。
【0013】
芳香族炭化水素基としては、例えばフェニレン基、トリレン基、ナフチレン基などのアリーレン基を挙げることができる。
【0014】
炭化水素ジオキシ基としては、例えば1,2‐エタンジオキシ基、1,4‐ブタンジオキシ基、1,6‐ヘキセンジオキシ基、1,4‐シクロヘキサン‐ジオキシ基、フェニレンジオキシ基のようなアルキレンジオキシ基やシクロアルキレンジオキシ基、アリーレンジオキシ基を挙げることができる。
【0015】
また、上記のヘテロアリーレン基は、ヘテロ原子を含み、芳香族性を有する二価の複素環基を意味し、例えばフラン、チオフェン、ピロール、ピリジン、チアゾール、イミダゾール、ピリミジンなどの複素環から誘導された二価の残基を挙げることができる。
この二価の有機基のAとしては、そのほかフェロセニレン基やシリレンジオキシ基を挙げることができる。
【0016】
次に、一般式(I)中のR1の炭化水素基は、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基の中から任意に選ぶことができる。この脂肪族炭化水素基は、飽和、不飽和のいずれでもよく、また直鎖状、枝分れ状のいずれでもよい。
【0017】
このような炭化水素基の例としては、炭素数1〜18、好ましくは2〜10のアルキル基例えばメチル基、エチル基、n‐プロピル基、イソプロピル基、n‐ブチル基、sec‐ブチル基、tert‐ブチル基、n‐ペンチル基、イソペンチル基、2‐メチルブチル基、3‐メチルブチル基、n‐ヘキシル基、イソヘキシル基、2‐エチルブチル基、3‐エチルブチル基、直鎖状又は枝分れ状のヘプチル、オクチル、ノニル又はドデシル基、炭素数2〜18、好ましくは2〜10のアルケニル基、例えば、エテニル基、アルリル基、3‐ブテニル基、炭素数5〜18、好ましくは6〜12のシクロアルキル基、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、炭素数6〜14、好ましくは6〜10のアリール基、例えばフェニル基、クメニル基、メシチル基、トリル基、ナフチル基、キシリル基、炭素数7〜12、好ましくは7〜10のアラルキル基、例えばベンジル基、フェネチル基など挙げることができる。
このアリール基及びアラルキル基については、その芳香環にヒドロキシル基、ハロゲン原子、アルキコシ基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基などの置換基を有することができる。
【0018】
2の炭化水素基の例としては、R1の例として挙げたものと同じものを挙げることができる。また、ヘテロアリール基としては、ヘテロ原子として硫黄原子、窒素原子、酸素原子をもつ芳香族性複素環基、例えばフリル基、テニル基、ピロリル基、ピリジル基、ピリミジル基、ピリダジル基、ピラゾニル基、ピラニル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、イミダゾリジル基などを挙げることができる。このR2としては、このほかフェロセニル基、シリル基を挙げることができる。
【0019】
このシリル基としては、SiH3、SiR3(ただしRは、炭化水素基又は炭化水素オキシ基)例えばトリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリフェニルシリル基、フェニルジメチルシリル基、トリメトキシシリル、t‐ブチルジメチルシリル基がある。
【0020】
これらの複素環基には、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基などの置換基を有することができる。
【0021】
本発明によれば、この一般式(I)のビスホスフィノイル化合物は、前記一般式(II)で表わされるジホスフィンオキシド化合物2分子を、前記一般式(III)で表わされるアセチレン化合物1分子に対し、付加反応させることによって製造する。アセチレン結合に対する付加反応によりエチレン結合を形成させる場合は、シス型の付加化合物が得られるので、上記の方法により一般式(I)のビスホスフィノイル化合物を製造すると、以下に示す3種のシス型異性体を生じる。
【0022】
【化7】

【0023】
これらの異性体は、所望ならば精留、再結晶、溶媒抽出、クロマトグラフィーなど異性体分離に慣用されている手段を用いて、分離することができるが、本発明の医薬の有効成分として用いる場合には、特に分離せずに異性体混合物のまま用いることができる。
【0024】
この一般式(II)で表わされるジホスフィンオキシドと一般式(III)で表わされるアセチレンの反応は、金属触媒の存在下で行うのが好ましい。この金属触媒としては、周期表第10族の金属、例えばパラジウム、ロジウム又はニッケルなどの金属の錯体が用いられる。この錯体は、従来、各種化学反応の触媒として慣用されているものの中から任意に選んで用いることができるが、金属が低原子価(0〜2価)であり、配位子として第三級ホスフィン又は第三級ホスファイトを有するものが好ましい。また、反応系中で容易に低原子価に変換し得る高原子価の前駆体を用いることもできる。
【0025】
また、別の配位子をもつ金属錯体を用い、反応系中で、第三級ホスフィンや第三級ホスファイトと混合し、第三級ホスフィン又は第三級ホスファイトを配位子とする低原子価錯体を形成させるイン・サイチュ(in situ)法も有利な方法である。
【0026】
この触媒として用いる金属錯体の配位子となる第三級ホスフィン又は第三級ホスファイトとしては、例えば、トリフェニルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、フェニルジメチルホスフィン、1,4‐ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,3‐ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,2‐ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,1´‐ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、トリメチルホスファイト、トリフェニルホスファイトなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらの配位子は、同種のもののみであってもよいし、2種以上の組み合せであってもよい。
【0027】
一方、イン・サイチュ法で用いられる第三級ホスフィンや第三級ホスファイトを配位子として有しない金属錯体の例としては、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、ビス(1,5‐シクロオクタジエン)ニッケル、アセチルアセトンビスエチレンロジウム、クロロビスエチレンロジウム、ジカルボニルアセチルアセトナトロジウム、ヘキサロジウムヘキサデカカルボニル、クロロ(1,5‐シクロオクタジエン)ロジウム、クロロノルボルナジエンロジウムなどがあるが、これらに限定されるものではない。
また、イン・サイチュ法においては、塩化パラジウム、酢酸パラジウムのような錯体以外の化合物も用いることができる。
【0028】
前記一般式(II)で表わされるジホスフィンオキシド化合物と一般式(III)で表わされるアセチレン化合物との反応で好適に用いられる金属錯体としては、例えば、ジメチルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ジメチルビス(ジフェニルメチルホスフィン)パラジウム、ジメチルビス(ジメチルフェニルホスフィン)パラジウム、ジメチルビス(トリエチルホスフィン)パラジウム、(エチレン)ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムなどのパラジウム錯体、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル、テトラキス(ジフェニルメチルホスフィン)ニッケル、テトラキス(ジメチルフェニルホスフィン)ニッケル、テトラキス(トリエチルホスフィン)ニッケルなどのニッケル錯体、クロロカルボニルビストリフェニルホスフィンロジウム、ヒドリドカルボニルトリストリフェニルホスフィンロジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウムなどのロジウム錯体が挙げられる。
【0029】
これらの触媒の使用量はいわゆる触媒量でよく、一般的にアセチレン化合物に対して20モル%以下で十分であり、好ましくは0.01〜5モル%である。アセチレン化合物と次亜リン酸との使用比率は、一般的にモル比で1:1が好ましいが、これより大きくても小さくても、反応の生起を阻害するものではない。
【0030】
反応は特に溶媒を用いなくてもよいが、必要に応じて溶媒中で実施することもできる。溶媒としては、炭化水素類、ハロゲン炭化水素類、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、エステル類など種々のものが使用できる。また、これらは単独若しくは2種以上の混合物として使用される。
【0031】
反応温度は、あまりに低温では反応が有利な速度で進行せず、あまりに高温では触媒が分解するので、一般的には、零下20℃ないし150℃の範囲から選ばれ、好ましくは室温ないし100℃の範囲で実施される。
【0032】
本反応に用いられる触媒は、酸素に敏感であり、反応の実施は、窒素やアルゴン、メタンなどの不活性ガス雰囲気で行うのが好ましい。
【0033】
前記一般式(II)で表わされるジホスフィンオキシド化合物と、一般式(III)で表わされるアセチレン化合物との反応は、さらに一般式
【化8】

(式中のR4は炭化水素基である)
で表わされるホスフィン酸の存在下で行うと、反応の選択性が著しく向上するので好ましい。
【0034】
この一般式(IV)の中のR4は、脂肪族、脂環族又は芳香族炭化水素基であり、脂肪族炭化水素基としては、炭素数1〜6のアルキル基、脂環族炭化水素基としては5〜7員環のシクロアルキル基、芳香族炭化水素基としては、フェニル基又はそのアルキル置換体が好ましい。
【0035】
好ましいホスフィン酸は、ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸などであるが、これらに限定されない。その使用量としては、原料として用いるジホスフィンオキシド化合物に対し、同量以下、好ましくは0.1〜10モル%の範囲で選ばれる。
【0036】
本発明のビスホスフィノイル化合物の中で、特に好ましいのは、一般式
【化9】

(式中のArはアリーレン基、Phはフェニル基、R2は炭化水素基、ヘテロアリール基、フェロセニル基又はシリル基、R3は水素原子、炭化水素基、ヘテロアリール基、フェロセニル基又はシリル基である)
である。
【0037】
このようにして得られる本発明のビスホスフィノイル化合物は、固形癌及びリンパ腫、特に皮膚癌、膀胱癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、大腸癌、膵癌、腎癌、胃癌などの癌細胞の増殖を抑制する作用を有し、癌の予防薬又は治療薬として用いることができる。
【0038】
本発明の化合物を医薬として用いる場合は、これを通常の製剤に際して使用されている賦形剤と混合し、注射液、経鼻投与剤、散剤、錠剤、糖衣錠、舌下錠、カプセル剤、トローチ剤、坐薬、クリーム剤、軟膏剤、皮膚適用ゲル剤、液剤などに製剤する。
【0039】
この際用いられる賦形剤としては、例えば生理塩水、水、ブドウ糖液、エタノール、ジメチルスルホキシドなどの液状賦形剤、乳糖、ブドウ糖、亜硫酸ナトリウム、リン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、炭酸水素ナトリウム、カオリン、タルク、酸化亜鉛、デンプン、ゼラチン、ヨウ化カリウム、塩化ナトリウム、ホウ酸などの固体賦形剤を挙げることができる。
【0040】
本発明化合物を医薬として投与する場合の投与量は、経口投与の場合、1日の投与量は、体重当り約0.001から50mg/kg、好ましくは0.01から30mg/kgが適当である。静脈投与される場合、1日の投与量は、体重当り約0.0001から50mg/kg、好ましくは、約0.001から10mg/kgが適当であり、これを1日1回乃至複数回に分けて投与するか、持続的に点滴投与することが好ましい。投与頻度、投与量、点滴投与時間などは、症状、年令、性別などを考慮して個々の場合に応じて適宜決定される。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、癌細胞増殖抑制作用を有し、抗瘍剤のような医薬として有用な新規ビスホスフィノイル化合物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
次に実施例により本発明を実施するための最良の形態を説明するが、これにより本発明はなんら限定されるものではない。
【実施例1】
【0043】
以下に示す化合物7a、7b又は7c 1mmolと表1に示すアセチレン化合物とを、以下に示す条件I、II又はIIIで反応させることにより、以下の式8a、8a´、8b、8b´、9a、9a´、9b、9b´、10a、10a´、10b及び10b´で示されるビスホスフィノイル化合物を製造した。
【0044】
原料化合物
【化10】

【0045】
反応条件I;原料化合物7a、7b又は7c 1mmolとアセチレン化合物2mmolとを、ジクロロメタン6ml中に溶解し、原料化合物に基づき1.5mol%のRhBr(PPh33を添加し、22時間還流させた。
反応条件II;原料化合物7a、7b又は7c 1mmolとアセチレン化合物2mmolとをテトラヒドロフラン3ml中に溶解し、原料化合物に基づき、PdMe2(PPhMe22 5mol%及びPh2P(O)OH 10mol%を加え、18時間還流させた。
反応条件III;原料化合物7a、7b又は7c 1mmolとアセチレン化合物2mmolとを、テトラヒドロフラン3ml中に溶解し、原料化合物に基づき、Ni(PPhMe24 5mol%及びPh2P(O)OH 10mol%を加え、18時間還流させた。
【0046】
生成物
【化11】

【0047】
【表1】

【0048】
このようにして得られた生成物の同定データを以下に示す。
8a:1H NMR δ 0.85−0.89(6H,br m),1.26−1.31(12H,br m),1.43(4H,br quint.,J=7.3Hz),2.30(4H,br q,J=6.7Hz),6.21(2H,dd,JHP=25.3,JHH=17.1Hz),6.71−6.81(2H,m),7.47(4H,br t,J=7.5Hz),7.54(2H,br t,J=6.9Hz),7.68(4H,dd,J=12.2,7.3Hz),7.75−7.79(4H,m);31P NMR δ 23.0. HRMS 計算値 C344422:546.2817(M+).測定値:546.2829.元素分析.計算値 C344422:C,74.70;H,8.11.測定値:C,74.64;H,8.14.
8a´:1H NMR δ 0.81−0.87(6H,m),1.15−1.28(12H,m),1.44−1.48(4H,m),2.27−2.33(4H,m),5.66(2H,d,JHP=21.3Hz),5.99(2H,d,JHP=43.8Hz),7.49−7.51(4H,m),7.55−7.59(2H,m),7.68−7.72(4H,m),7.80−7.83(4H,m);31P NMR δ 31.2.HRMS 計算値 C344422:546.2817(M+).測定値:546.2811.元素分析.計算値 C344422:C,74.70;H,8.11.測定値:C,74.32;H,8.24.
8b:1H NMR δ 5.60(2H,d,JHP=19.8Hz),6.26(2H,d,JHP=40.8Hz),7.24(6H,br m),7.40−7.41(4H,br m),7.44−7.47(4H,m),7.53−7.56(2H,m),7.69(4H,dd,J=10.9,7.0Hz),7.75−7.80(4H,m);31P NMR δ 29.3.HRMS 計算値 C342822:530.1565(M+).測定値:546.1582.元素分析.計算値C342822:C,76.97;H,5.32.測定値:C,76.57;H,5.15.
8b´:1H NMR δ 6.82(2H,dd,JHP=22.9,JHH=17.4Hz),7.37−7.41(3H,m),7.47−7.58(6H,m),7.72−7.77(2H,m),7.85−7.88(2H,m);31P NMR δ 23.9.HRMS 計算値 C342822:530.1565(M+).測定値:546.1639.元素分析.計算値 C342822:C,76.97;H,5.32.測定値:C,76.63;H,5.21.
9a:1H NMR δ 0.79(6H,t,J=6.5Hz),1.20(12H,br s),1.37(4H,hept.,J=6.6Hz),2.17−2.23(4H,m),6.12(2H,ddd,JHP=25.3Hz,JHH=17.0,9.5Hz),6.60−6.72(2H,m),7.33−7.38(4H,m),7.43(2H,t,J=6.7Hz),7.48(1H,t,J=7.6Hz),7.53−7.59(4H,m),7.77−7.81(2H,m),7.86(1H,q,J=11.3Hz);31P NMR δ 23.0.HRMS 計算値 C344422:546.2817(M+).測定値:546.2743.
9a´:1H NMR δ 0.83(6H,dt,J=7.3,1.5Hz),1.17−1.28(12H,m),1.35−1.46(4H,m),2.23(4H,quint.,J=8.2Hz),5.58(2H,dd,JHP=20.9Hz,JHH=3.6Hz),5.92(dd,JHP=43.8Hz,JHH=6.9Hz,7.43−7.47(4H,m),7.51−7.56(3H,m),7.61−7.65(4H,m),7.81(1H,td,J=11.2,6.4Hz),7.94−7.98(2H,m);31P NMR δ 31.1.HRMS 計算値 C344422:546.2817(M+).測定値:546.2747.
9b:1H NMR δ 6.80(ddd,JHP=23.2Hz,JHH=17.4,8.5Hz),7.34−7.37(6H,m),7.41−7.55(12H,m),7.60−7.63(1H,m),7.68−7.73(4H,m),7.96(2H,dd,J=11.2,8.2Hz),8.05(1H,t,J=11.7Hz);31P NMR δ 23.9.HRMS 計算値 C342822:530.1565(M+).測定値:530.1553.
9b´:1H NMR δ 5.59(2H,dd,JHP=24.7Hz,JHH=20.1Hz),6.19(2H,dd,JHP=40.9Hz,JHH=15.0Hz),7.17−7.28(6H,m),7.37−7.60(15H,m),7.77(1H,quint.,J=11.2Hz),7.91−7.99(2H,m);31P NMR δ 29.5.HRMS 計算値 C342822:530.1565(M+).測定値:530.1585.
10a:1H NMR δ 0.85−0.89(6H,m),1.26−1.35(12H,m),1.47(4H,sext.,J=8.0Hz),2.29(4H,quint.,J=7.8Hz),6.21(2H,ddd,JHP=26.5Hz,JHH=17.1,9.1Hz),6.73−6.84(2H,m),7.46−7.50(6H,m),7.53−7.58(2H,m),7.71−7.76(4H,m);31P NMR δ 16.1.HRMS 計算値 C324222S:552.2381(M+).測定値:552.2398.
10a´:1H NMR δ 0.84(6H,q,J=6.6Hz),1.16−1.30(12H,m),1.42−1.48(4H,m),2.30(4H,quint.,J=8.1Hz),5.77(2H,dd,JHP=22.3Hz,JHH=10.1Hz),5.96(dd,JHP=45.2Hz,JHH=10.1Hz),7.47−7.60(8H,m),7.72−7.78(4H,m);31P NMR δ 24.0.HRMS 計算値 C324222S:552.2381(M+).測定値:552.2280.
10b:1H NMR δ 6.81(2H,ddd,JHP=24.1Hz,JHH=17.4,5.5Hz),7.38(6H,t,J=3.0Hz),7.49−7.59(14H,m),7.79−7.83(4H,m);31P NMR δ 16.9.HRMS 計算値 C322622S:536.1129(M+).測定値:536.1162.
10b´:1H NMR δ 5.87(2H,dd,JHP=21.0Hz,JHH=4.7Hz),6.22(2H,dd,JHP=42.0Hz,JHH=3.9Hz),7.23−7.27(2H,m),7.35−7.56(14H,m),7.70−7.79(6H,m);31P NMR δ 22.3.HRMS 計算値 C322622S:536.1129(M+).測定値:536.1086.
【実施例2】
【0049】
この例においては、ヒト白血病U937、ヒト結腸癌HT29、マウス筋繊維癌S180及びマウス正常線維芽細胞株NIH3T3細胞を用いて癌細胞増殖抑制効果を試験した。
【0050】
U937細胞は、10%ウシ胎児血清、グルタミン2mMを含むRPMI1640培地にて、105cells/mlになるよう細胞を調製し、96穴マイクロプレート(Falcon社製)に200μl/wellずつ播種し、37℃、5%CO2条件で培養した。翌日、エタノールで段階希釈した各被検化合物溶液2μlを添加し、培養を72時間行った。対照サンプルとして、被検化合物を加えない、エタノール2μl添加サンプルも作製した。同条件下で72時間培養を行い、CellTiterアッセイ(Promega社製)により細胞増殖活性を評価した。被検化合物溶液を加えていない対照群の細胞増殖量を100%としたときに各処理群の細胞増殖量の割合を求め、残存細胞量を対照の50%に抑制するのに必要な化合物濃度(IC50)値を算出した。
【0051】
HT−29細胞は10%ウシ胎児血清、グルタミン2mMを含むMcCoy’s 5a培地にて、105cells/mlになるよう細胞を調製し、96穴マイクロプレート(Falcon社製)に100μl/wellずつ播種し、37℃、5%CO2条件で培養した。二日後、エタノールで段階希釈した各被検化合物溶液2μlを添加し、培養を72時間行った。対照サンプルとして、被検化合物を加えない、エタノール2μl添加サンプルも作製した。同条件下で培養を行い、CellTiterアッセイ(Promega社製)により細胞増殖活性を評価した。被検化合物溶液を加えていない対照群の細胞増殖量を100%としたときに各処理群の細胞増殖量の割合を求め、残存細胞量を対照の50%に抑制するのに必要な化合物濃度(IC50)値を算出した。被検化合物溶液を加えていない対照群のタンパク質量を100%としたときに各処理群の残存タンパク質量の割合を求め、残存細胞量を対照の50%に抑制するのに必要な化合物濃度(IC50)値を算出した。
【0052】
S180とNIH3T3細胞は10%ウシ胎児血清、グルタミン2mMを含むEagle’s MEMにて、105cells/mlになるよう細胞を調製し、96穴マイクロプレート(Falcon社製)に100μl/wellずつ播種し、37℃、5%CO2条件で培養した。翌日、エタノールで段階希釈した各被検化合物溶液2μlを添加し、培養を72時間行った。対照サンプルとして、被検化合物を加えない、エタノール2μl添加サンプルも作製した。同条件下で72時間培養を行い、CellTiterアッセイ(Promega)により細胞増殖活性を評価した。被検化合物溶液を加えていない対照群の細胞増殖量を100%としたときに各処理群の細胞増殖量の割合を求め、残存細胞量を対照の50%に抑制するのに必要な化合物濃度(IC50)値を算出した。被検化合物溶液を加えていない対照群のタンパク質量を100%としたときに各処理群の残存タンパク質量の割合を求め、残存細胞量を対照の50%に抑制するのに必要な化合物濃度(IC50)値を算出した。
【0053】
また、既存抗がん剤との比較実験として、シスプラチン(シグマ社製)を用いた。
これらの結果を表2に示した。
【0054】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の新規なビスホスフィノイル化合物は、癌細胞に選択的に作用し、良好な癌細胞増殖抑制活性を示すので、癌治療剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
【化1】

(式中のAは二価の炭化水素基、炭化水素ジオキシ基、ヘテロアリーレン基、フェロセニレン基又はシリレンジオキシ基、R1は炭化水素基、R2は炭化水素基、ヘテロアリール基、フェロセニル基又はシリル基、R3は水素原子、炭化水素基、ヘテロアリール基、フェロセニル基又はシリル基である)
で表わされるビスホスフィノイル化合物。
【請求項2】
一般式
【化2】

(式中のArはアリーレン基、Phはフェニル基、R2は炭化水素基、ヘテロアリール基、フェロセニル基又はシリル基、R3は水素原子、炭化水素基、ヘテロアリール基、フェロセニル基又はシリル基である)
で表わされる請求項1記載のビスホスフィノイル化合物。
【請求項3】
一般式
【化3】

(式中のAは二価の炭化水素基、炭化水素ジオキシ基、ヘテロアリーレン基、フェロセニレン基又はシリレンジオキシ基、R1は炭化水素基である)
で表わされるジホスフィンオキシド化合物と、一般式
2−C≡C−R3
(式中のR2は炭化水素基、ヘテロアリール基、フェロセニル基又はシリル基、R3は水素原子、炭化水素基、ヘテロアリール基、フェロセニル基又はシリル基である)
で表わされるアセチレン化合物とを反応させることを特徴とする、一般式
【化4】

(式中のA、R1、R2及びR3は前記と同じ意味をもつ)
で表わされるビスホスフィノイル化合物の製造方法。
【請求項4】
金属触媒の存在下で反応させる請求項3記載のビスホスフィノイル化合物の製造方法。
【請求項5】
金属触媒がパラジウム、ロジウム及びニッケルの中から選ばれる金属の錯体である請求項4記載のビスホスフィノイル化合物の製造方法。
【請求項6】
一般式
【化5】

(式中のR4は炭化水素基である)
で表わされるホスフィン酸の存在下で反応させる請求項3ないし5のいずれかに記載のビスホスフィノイル化合物の製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2記載のビスホスフィノイル化合物を有効成分として含有することを特徴とする医薬。
【請求項8】
癌細胞の増殖を抑制するために用いる請求項7記載の医薬。
【請求項9】
癌細胞が固形癌又はリンパ腫の細胞である請求項8記載の医薬。
【請求項10】
癌細胞が皮膚癌、膀胱癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、大腸癌、膵癌、腎癌、胃癌のいずれかの癌細胞である請求項9記載の医薬。

【公開番号】特開2007−63168(P2007−63168A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−249617(P2005−249617)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度新エネルギー・産業技術総合開発機構、産業技術研究助成事業「ホスホロイル基の高分子骨格へ直接導入による有機材料の耐熱化」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】