説明

新規化合物及びその製造方法並びにその利用

【課題】 キャリア輸送能の向上及び/又は光吸収能の改善がなされた、フタロシアニン骨格とチオフェン骨格とを有する新規化合物及びその製造方法並びにその利用を提供する。
【解決手段】 少なくともフタロシアニン骨格とオリゴチオフェン骨格とを有する化合物であって、上記フタロシアニン骨格と上記オリゴチオフェン骨格とが共役している化合物は、従来のフタロシアニン骨格とオリゴチオフェン骨格とを有する化合物に比べて、大幅にキャリア輸送能の向上及び/又は光吸収能の改善がなされた新規な化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電気的、光電子的、電気的、電子的装置・部品等に利用可能な有機半導体電子材料に用いられる新規化合物及びその製造方法並びにその利用に関し、特に、色素増感太陽電池材料、薄膜光電変換素子、液晶、有機薄膜トランジスタ、有機キャリア輸送層を有する発光デバイス等に利用可能な有機有機半導体電子材料に用いられる新規化合物及びその製造方法並びにその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機ELデバイス、有機FETデバイス、有機薄膜光電変換デバイスなどの有機半導体電子材料を用いた薄膜デバイスが注目されており、一部実用化も始まっている。また、酸化チタンと有機色素を組み合わせた色素増感太陽電池も活発に研究されており、これらのデバイス用途に適した特性を有する有機材料が精力的に探索されている。
【0003】
一般に、有機薄膜トランジスタなどの電気的及び電子的デバイスに利用可能な有機電子材料には、キャリア輸送能が求められる。また、その一方で、薄膜光電変換素子、色素増感太陽電池、有機ELデバイスなどの光電気的及び光電子的デバイスには、キャリア輸送能に加えて、光吸収や発光といった色素としての性質も必要とされる。さらに、実用的なデバイスへの応用という観点からは、有機材料の安定性も重要な性能の1つとなる。
【0004】
以上のような点を考慮し、従来から、安定な有機顔料、機能性色素として用いられてきたフタロシアニン骨格を有する化合物を用いることが検討されている。しかし、フタロシアニンをそのまま電子材料に使用する場合は、電子キャリア輸送性能が十分に得られない。また、フタロシアニンを光材料に使う場合、吸収波長が偏っており、幅広い吸収スペクトルを得られないという欠点がある。
【0005】
このため、フタロシアニン骨格と同じπ電子系のチオフェン骨格とを組み合わせて、新たな新規機能性材料を創製する試みがなされている。例えば、非特許文献1〜4には、フタロシアニン骨格およびチオフェン骨格を有する化合物が複数個開示されている。
【非特許文献1】Michael J. Cook and Ali Jafari-Fini, J. Mater. Chem., 1997, 7(1), p5-7
【非特許文献2】Douglas M. Knawby and Timothy M. Swager, Chem. Mater. 1997, 9, p535-538
【非特許文献3】Michael J. Cook and Ali Jafari-Fini, Tetrahedron 56 (2000) p4085-4094
【非特許文献4】M. Victoria Martinez-Diaz, et al., Tetrahedron Letters 44 (2003) p8475-8478
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記非特許文献1〜4に開示の化合物は、いずれもフタロシアニン骨格とチオフェン骨格とを有するため、キャリア輸送能及び光吸収能の面では若干の性能の向上が認められる。しかしながら、その性能は未だ十全とはいえない。
【0007】
このため、より一層のキャリア輸送能の向上又は光吸収能の改善が図られた新規化合物の創製が強く求められていた。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、キャリア輸送能の向上及び/又は光吸収能の改善がなされた、フタロシアニン骨格とチオフェン骨格とを有する新規化合物及びその製造方法並びにその利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、フタロシアニン骨格におけるπ電子系とチオフェン骨格とにおけるπ電子系とが共役した新規化合物を創製し、当該化合物の光吸収スペクトルを評価したところ、可視領域全体にわたって強い吸収が認められ、それゆえ、少なくとも薄膜光電変換素子、色素増感太陽電池などの光電子的デバイス材料として有用であるという知見を見出し、本願発明を完成させるに至った。本発明は、かかる新規知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を包含する。
【0010】
(1)少なくともフタロシアニン骨格とオリゴチオフェン骨格とを有する化合物であって、上記フタロシアニン骨格と上記オリゴチオフェン骨格とが共役している化合物。
【0011】
(2)下記一般式(I)で表される化合物であって、
【0012】
【化1】

【0013】
上記一般式(I)中、Arは下記一般式(II)で表され、
【0014】
【化2】

【0015】
上記一般式(I)、(II)中、R1〜R12、R、及びR’は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜18のアルキル基であって当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキル基、炭素数1〜18のアルキルオキシ基であって当該アルキルオキシ基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキルオキシ基、炭素数1〜18のアルキルチオ基であって当該アルキルチオ基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキルチオ基、又は、芳香族基である化合物。
【0016】
(3)下記一般式(III)で表される化合物であって、
【0017】
【化3】

【0018】
上記一般式(III)中、Arは下記一般式(II)で表され、
【0019】
【化4】

【0020】
上記一般式(II)、(III)中、R1〜R8、R、及びR’は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜18のアルキル基であって当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキル基、炭素数1〜18のアルキルオキシ基であって当該アルキルオキシ基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキルオキシ基、炭素数1〜18のアルキルチオ基であって当該アルキルチオ基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキルチオ基、又は、芳香族基である化合物。
【0021】
(4)下記一般式(IV)で表される化合物であって、
【0022】
【化5】

【0023】
上記一般式(IV)中、Arは下記一般式(II)で表され、
【0024】
【化6】

【0025】
上記一般式(II)、(IV)中、R1〜R4、R、及びR’は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜18のアルキル基であって当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキル基、炭素数1〜18のアルキルオキシ基であって当該アルキルオキシ基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキルオキシ基、炭素数1〜18のアルキルチオ基であって当該アルキルチオ基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキルチオ基、又は、芳香族基である化合物。
【0026】
(5)下記一般式(V)で表される化合物であって、
【0027】
【化7】

【0028】
上記一般式(V)中、Arは下記一般式(II)で表され、
【0029】
【化8】

【0030】
上記一般式(II)中、R及びR’は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜18のアルキル基であって当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキル基、炭素数1〜18のアルキルオキシ基であって当該アルキルオキシ基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキルオキシ基、炭素数1〜18のアルキルチオ基であって当該アルキルチオ基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキルチオ基、又は、芳香族基である化合物。
【0031】
(6)下記の化学式(VI)で表される化合物。
【0032】
【化9】

【0033】
(7)下記の化学式(VII)で表される化合物。
【0034】
【化10】

【0035】
(8)上記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の化合物において、フタロシアニン骨格が金属イオンと錯体を形成していることを特徴とする化合物。
【0036】
(9)下記一般式(VIII)で表される化合物であって、
【0037】
【化11】

【0038】
上記一般式(VIII)中、Arは、下記一般式(II)で表され、
【0039】
【化12】

【0040】
上記一般式(II)中、R及びR’は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜18のアルキル基であって当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキル基、炭素数1〜18のアルキルオキシ基であって当該アルキルオキシ基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキルオキシ基、炭素数1〜18のアルキルチオ基であって当該アルキルチオ基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキルチオ基、又は、芳香族基である化合物。
【0041】
(10)下記一般式(IX)で表される化合物であって、
【0042】
【化13】

【0043】
上記一般式(IX)中、Bはハロゲン原子である化合物。
【0044】
(11)上記一般式(IX)中、Bがヨウ素原子であることを特徴とする(10)に記載の化合物。
【0045】
(12)上記(10)に記載の化合物を製造する方法において、下記一般式(X)で表される化合物を、有機金属試薬と反応させる第1の工程と、上記第1の工程の後、ハロゲン化試薬と反応させる第2の工程と、を含む製造方法。
【0046】
【化14】

【0047】
(13)上記ハロゲン化試薬が、ヨウ素化試薬である(12)に記載の製造方法。
【0048】
(14)上記(1)〜(8)のいずれか1項に記載の化合物の製造方法であって、下記一般式(X)で表される化合物を、有機金属試薬と反応させる第1の工程と、上記第1の工程の後、ハロゲン化試薬と反応させる第2の工程と、を含む製造方法。
【0049】
【化15】

【0050】
(15)上記(1)〜(8)のいずれかに記載の化合物を含むデバイス。
【0051】
(16)上記デバイスは、光電変換素子、色素増感太陽電池素子、有機EL素子、液晶表示素子、有機薄膜トランジスタ素子、又は有機キャリア輸送層を有する発光素子である(15)に記載のデバイス。
【発明の効果】
【0052】
本発明に係る化合物は、従来から安定な有機顔料、機能性色素として用いられてきたフタロシアニン骨格に、光電子及び電子的機能性有機材料として注目されているオリゴチオフェン骨格を組み込んだフタロシアニン−オリゴチオフェン多元系の構成を有する新規化合物である。この新規化合物は、フタロシアニン骨格とチオフェン骨格におけるπ電子系が互いに共役している。それゆえ、従来のフタロシアニン骨格とチオフェン骨格とを有する化合物に比べて、キャリア輸送能と光吸収能が著しく向上しているという効果を有する。
【0053】
したがって、本発明に係る化合物は、例えば、薄膜光電変換素子、色素増感太陽電池などの光電子的デバイス材料として非常に有用である。
【0054】
なお、本発明には、上記化合物の製造方法のほか、上記化合物を製造する際の中間体化合物も含まれる。特に、本発明に係る中間体化合物は、上記化合物を製造するために用いられるだけでなく、例えば、チオフェン骨格を有する半導体材料の中間体としても非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
本発明は、光電子的デバイス材料等に利用可能な新規化合物、その中間体及びその製造方法、並びにその利用に関するものである。そこで、以下では、まず、新規化合物について説明し、次いで、その中間体及び製造方法、最後にその利用法について説明する。
【0056】
<1.本発明に係る化合物>
本発明に係る化合物は、少なくともフタロシアニン骨格とオリゴチオフェン骨格とを有する化合物であって、上記フタロシアニン骨格と上記オリゴチオフェン骨格とが共役している化合物であればよい。
【0057】
本明細書中、文言「オリゴチオフェン骨格」とは、複数(好ましくは2〜21)のチオフェン骨格が、そのπ電子系が共役した状態で結合しているものをいう。具体的には、例えば、上記一般式(II)で表されるものを挙げることができるが、この構造に限定されるものではない。
【0058】
また、文言「フタロシアニン骨格とチオフェン骨格とが共役している」とは、フタロシアニン骨格が有するπ電子系とオリゴチオフェン骨格が有するπ電子系とが、(例えば、単結合を通じて)相互作用しており、非局在化しているという意である。
【0059】
上記化合物としては、例えば、本発明に係る化合物は、上記一般式(I)、(III)、(IV)、及び(V)で表される化合物を挙げることができる。なお、上記一般式(I)、(III)、(IV)、及び(V)中、Arは、上記一般式(II)で示すオリゴチオフェンを表し、一般式(II)中、nは1〜20の整数である。また、上記一般式(I)〜(V)中、R1〜R12、R、及びR’は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜18のアルキル基であって当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキル基、炭素数1〜18のアルキルオキシ基であって当該アルキルオキシ基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキルオキシ基、炭素数1〜18のアルキルチオ基であって当該アルキルチオ基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキルチオ基、又は、芳香族基であればよい。
【0060】
より具体的には、例えば、上記化学式(VI)、化学式(VII)を挙げることができる。
【0061】
上記化合物は、フタロシアニン骨格とオリゴチオフェン骨格とが共役している化学構造を有するゆえに、フタロシアニン骨格のみを有する化合物やオリゴチオフェン骨格のみを有する化合物、さらに、フタロシアニン骨格とオリゴチオフェン骨格とが共役しない状態で結合している化合物と比べて、著しくその性質を異にする。
【0062】
具体的には、例えば、フタロシアニン骨格のみを有する化合物は、吸収スペクトルを測定すると、300nm〜400nm付近、及び650nm〜700nm付近に強い吸収帯を有することが知られているが、これらの波長領域以外の光は吸収できない(例えば、後述の実施例における図2(a)参照)。このため、幅広い波長の光を利用できないため、フタロシアニン骨格のみを有する化合物は、そのままでは太陽電池材料や光電変換素子材料としては不十分であった。また、オリゴチオフェン骨格のみを有する化合物は、フタロシアニン化合物の吸収帯を補うように、400nm〜600nm付近に吸収スペクトルのピークを有するが、それ以外の領域の光を吸収することはできない。
【0063】
また、フタロシアニン骨格とオリゴチオフェン骨格とが共役しない状態で結合している化合物の吸収スペクトルは、例えば、上記非特許文献4の“Figure 1”に示すように、フタロシアニン骨格のみを有する化合物に比べて、400nm〜500nmまでの位置において若干の吸収スペクトルの向上が認められるが、500nm〜700nmにかけての吸収スペクトルではほとんど変化しておらず、この領域の光は吸収できていないことを示している。
【0064】
その一方、本発明に係る化合物は、300nm〜800nmの幅広い可視領域において、まんべんなく吸収スペクトルが認められる。例えば、後述する実施例に示すように、フタロシアニン骨格と共役するオリゴチオフェン骨格が1つの化合物における400nm〜600nmの吸収スペクトルは、フタロシアニン骨格を有する化合物のそれに比べて、大幅に増加している。
【0065】
さらに、本発明に係る化合物における上記性質は、フタロシアニン骨格と共役するオリゴチオフェン骨格の数が増加するにつれ、より一層顕著なものとなる。つまり、吸収スペクトルは、フタロシアニン骨格と共役するオリゴチオフェン骨格が1つから4つに増加すると、予想以上に大きく、顕著に変化する。
【0066】
具体的には、例えば、後述する実施例に示すように、フタロシアニン骨格と共役するオリゴチオフェン骨格が1つの化合物(例えば、上記化学式(VI)で示す化合物)に比べて、フタロシアニン骨格と共役するオリゴチオフェン骨格が4つの化合物(例えば、上記化学式(VII)で示す化合物)は、吸収スペクトルのピークが長波長側(350nmのピークが420nm)にシフトし、500nm〜800nm付近までブロードに吸収スペクトルが認められるようになる。
【0067】
なお、上記性質は、フタロシアニン骨格とオリゴチオフェン骨格とが共役しているために認められるものであり、上記一般式(I)、(III)、(IV)、(V)についても同様のことがいえることは当業者にとって明確である。
【0068】
また、フタロシアニン骨格は金属イオンとともに安定な錯体を形成する性質を有するが、本発明に係る化合物のフタロシアニン骨格が金属イオンと錯体を形成している化合物も、本願発明に含まれることはいうまでもない。なお、データは示さないが、銅錯体が形成されることが確認されている。かかる金属イオンとしては、例えば、鉄、銅、ニッケル、コバルト等の従来公知のフタロシアニン錯体に用いられる金属イオンを好適に用いることができる。このような金属イオンと錯体を形成することにより、例えば、電気伝導性、磁性、半導体特性の性質を有するようになる。
【0069】
以上のように、本発明に係る化合物は、可視領域全体に幅広く、かつ強い吸収スペクトルが認められる。すなわち、従来知られていた化合物では、特定の波長領域の光しか吸収・利用できなかったが、本発明に係る化合物によれば、可視領域全般の光をまんべんなく吸収・利用できる。このため、本発明に係る化合物は、例えば、可視領域全般の光を幅広く利用可能な薄膜光電変換素子、色素増感太陽電池などの光電子的デバイス材料として非常に有用である。
【0070】
また、本発明に係る化合物は、フタロシアニン骨格及びオリゴチオフェン骨格を有するため、化学的にも安定であり、優れた有機材料である。
【0071】
さらに本発明に係る化合物は、溶液中の核磁気共鳴スペクトル測定において会合状態にあることが示唆されることから、凝集状態においても液晶相を持つ可能性が高い。それゆえ、液晶を用いた、例えば表示素子などの各種光電子デバイスや、液晶相の持つ自己会合性を利用した高配向性分子薄膜からなる有機半導体層等にも利用できる。
【0072】
<2.本発明に係る中間体及び本発明に係る製造方法>
上述の<1>欄で説明した化合物は、これまで合成の報告はなされていない全く新規な化合物である。上記化合物は、上記一般式(VIII)で表される化合物を得ることができなかったため、これまで合成することができなかった。また、この一般式(VIII)で表される化合物は、上記一般式(IX)で表される化合物を得ることができなかったため、合成することができなかった。
【0073】
すなわち、本発明は、上記一般式(IX)で表される化合物を得ることができたため、完成することができたといえる。
【0074】
したがって、上記一般式(VIII)で表される化合物及び上記一般式(IX)で表される化合物はともに、上述の<1>欄で説明した本発明に係る化合物を得る上で、有用な中間体であるといえる。このため、本発明には、上記中間体化合物も含まれる。また、かかる中間体は、オリゴチオフェン骨格を有する半導体材料を製造するためにも非常に有用である。
【0075】
また、上述の<1>欄で説明した本発明に係る化合物を得る方法として、上記一般式(VIII)で表される化合物及び上記一般式(IX)で表される化合物を経由する方法がある。このため、上記一般式(VIII)で表される化合物及び上記一般式(IX)で表される化合物を製造する方法は、上述の<1>欄で説明した本発明に係る化合物を製造する方法の1つの工程となり、非常に有用である。それゆえ、本発明には、上述の中間体の製造方法、及び中間体の製造方法を含む上述の<1>欄の化合物の製造方法も含まれる。
【0076】
上記製造方法は、少なくとも、上記一般式(X)で表される化合物を有機金属試薬と反応させる第1の工程と、上記第1の工程の後、ハロゲン化試薬と反応させる第2の工程と、を含む方法であればよく、その他の工程、反応条件、材料、触媒、製造機器・製造装置等については従来公知のものを好適に利用でき、特に限定されるものではない。つまり、本発明に係る製造方法は、上記第1の工程及び第2の工程を含んでいれば、その他にどのような工程を含んでいてもよく、特に限定されるものではないといえる。
【0077】
上記一般式(X)で表される化合物は、従来から知られている化合物であり、例えば、当業者であれば、文献(D. W. H. MacDowell and F. l. Ballas, J. Org. Chem., Vol.42 No.23, p3717-3721 1977)に開示の方法を用いて、容易に得ることができる。
【0078】
上記「有機金属試薬」は、上記一般式(X)で表される化合物から水素原子を引き抜くことができる試薬であればよく、特に、立体障害が大きく、かつ求核性が低く、強塩基性の物質であることが好ましい。有機金属試薬の求核性が高いと、上記一般式(X)で表されるチオフェン骨格のニトリル基と反応してしまうため、所望の生産物の収率が低下し好ましくない。また、有機金属試薬の立体障害が小さい場合も、同様に、チオフェン骨格のニトリル基と反応してしまうため、好ましくない。
【0079】
かかる有機金属試薬としては、例えば、後述する実施例でも使用しているLDA(リチウム ジイソプロピルアミド)、LiTMP(リチウム テトラメチルテトラメチルピペリジン)、及びLiHMDS(リチウム ヘキサメチルジシラザン)等を好適に用いることができるが、これらの試薬に限定されるものではない。
【0080】
また「ハロゲン化試薬」は、従来公知のハロゲン化試薬を用いることができ、その具体的な構成等については特に限定されるものではない。例えば、ハロゲンとしてヨウ素を用いる場合は、後述するCやの他、Iを用いることができる。
【0081】
つまり、上記製造方法において第1の工程は、上記一般式(X)で表される化合物から水素原子を引き抜き、アニオンを形成する工程であり、上記第2の工程は、当該アニオンの水素原子が引き抜かれた位置にハロゲン原子を導入する工程であるといえる。
【0082】
上記第1の工程及び第2の工程により、上記一般式(IX)で表される化合物を効率よく得ることができる。
【0083】
このように、今まで上記一般式(X)で表される化合物から上記一般式(IX)で表される化合物を得ることはできなかったが、本発明者らが鋭意努力した結果、初めて上記一般式(IX)で表される化合物を得ることができた。今回上記化合物を得ることに成功した理由としては、以下の理由が考えられる。
【0084】
通常、チオフェン骨格を有する化合物にハロゲン原子を導入する場合、チオフェンは電子リッチであるため、求電子的なハロゲン化試薬を加えるのが一般的である。しかし、この場合、チオフェン骨格が有するニトリル基(CN)が電子を吸引するため、ハロゲン化試薬とチオフェン骨格が有する水素原子とが反応せず、ニトリル基とハロゲン化試薬が優先して反応してしまっていた。
【0085】
そこで、本発明者らは、水素引き抜き試薬(有機金属試薬)によってチオフェン骨格の水素を一旦引き抜き、アニオンを形成した後、当該アニオンとハロゲン化試薬と反応させて所望の化合物を取得する手法を開発した。ただし、この場合でも、ニトリル基は、水素引き抜き試薬(有機金属試薬)と反応するため、反応温度等の条件を制御することが好ましい。
【0086】
例えば、本発明では、チオフェン骨格が有するニトリル基と水素引き抜き試薬(有機金属試薬)との反応を可能な限り抑制するような反応条件、例えば、低温環境下にて、上記第1の工程及び第2の工程を行うことが好ましい。例えば、後述する実施例に示すように、−106℃以下にて反応を行う方法を挙げることができる。後述の実施例では、反応を低温環境下にて行うために、液体窒素とエタノールとを混ぜてシャーベット状になったものを使用しており、「−106℃以下」とは、この液体窒素とエタノールとを混ぜてシャーベット状になった際の温度である。
【0087】
なお、−70℃以上の反応温度では、上記一般式(IX)で表される化合物を十分に得ることはできなかった。これは、反応温度が高いと、おそらく、ニトリル基と有機金属試薬とが反応してしまうため、著しく収率が悪化するためと考えられる。
【0088】
また、上述したように、上記一般式(IX)で表される化合物が得られれば、従来公知の有機化学的な合成方法により、上述の<1>欄の化合物を製造することができる。具体的には、例えば、後述する実施例に示すように、公知文献(D. W. MacDowellら、J. Org. Chem. 1977, 42, 3717、M. J. Cookら、J. Mater. Chem. 1997, 7, 5.、M. J. Cookら、Tetrahedoron. 2000, 56, 4085. 、D. M. Knawbyら、Chem. Mater. 1997, 9, 535. M. Victoria Martinez-Diazら、Tetrahedron Lett. 2003, 44, 8475. )等に基づき、遷移金属触媒下でのクロスカップリング反応を行うことにより、オリゴチオフェン化合物を得ることができる。さらに、このようにして得られたオリゴチオフェン化合物を複数用いて、Li(リチウム)存在下にて閉環させることにより、オリゴチオフェン骨格とフタロシアニン骨格とが共役している、所望の構造の化合物を得ることができる。
【0089】
さらに、用いるオリゴチオフェン化合物の種類と反応条件を適宜設定することにより、1つのフタロシアニン骨格に対して、1〜4のいずれかのオリゴチオフェン骨格を有する化合物を適宜製造することができる。具体的には、例えば、上記一般式(VIII)で表されるオリゴチオフェン骨格を有するジシアノ化合物とフタロニトリル誘導体とを任意の割合で混合し、上記のように閉環させることにより、1〜4のオリゴチオフェン骨格を有するフタロシアニン誘導体を製造できる。また、その混合比に応じて、複数の生成物の中で優先して得られるフタロシアニン誘導体のオリゴチオフェン骨格の数を調整できる。上述したように、フタロシアニン骨格に対する、オリゴチオフェン骨格の形状や数量によってその性質が変化する可能性があるため、多種多様なフタロシアニン骨格とオリゴチオフェン骨格とを有する化合物を簡便かつ効率的に製造することができる本発明に係る製造方法は、非常に有用である。
【0090】
<3.本発明に係る利用>
上述したように、本発明に係る化合物は、可視領域全体において強い光吸収スペクトルが認められるという特異な性質を有するものである。それゆえ、本発明に係る化合物は、光電変換素子、色素増感太陽電池素子、有機EL素子、液晶表示素子、有機薄膜トランジスタ素子、又は有機キャリア輸送層を有する発光素子等のデバイスや有機半導体電子材料に好適に利用することができる。本発明に係るデバイスは、上記化合物を用いていればよく、その他の具体的な構成、材料、大きさ、形状、用途等は特に限定されるものではない。
【0091】
本発明に係る化合物を、例えば、光電変換素子や太陽電池に用いる場合、幅広い領域の波長の光を吸収する光電変換能が優れた光電変換素子や太陽電池を製造することができ、効率的に電気エネルギーを得ることができる。特に、太陽エネルギーでは、約400nm〜1300nmの可視領域のエネルギーが大きいため、その利用が可能な光電変換素子や太陽電池の開発が強く望まれていた。したがって、これらの光エネルギーを効率よく電気エネルギーに変換することが可能な本発明に係るデバイスは、非常に有用であるといえる。
【0092】
特に、フタロシアニン骨格に対して、複数のオリゴチオフェン骨格を有する化合物は、幅広い光吸収スペクトルを示す。このため、幅広い領域の波長の光を利用可能な、非常に優れた光電変換能を有する素子を得ることができる。また、上述したように、本発明に係る化合物は、液晶としての性質を有する。このため、液晶を用いた、例えば表示素子などの各種光電子デバイスや、液晶相の持つ自己会合性を利用した高配向性分子薄膜からなる有機半導体層にも利用できる。
【0093】
さらに、オリゴチオフェン骨格及びフタロシアニン骨格のいずれも電子キャリア輸送能が優れているため、有用な電子材料として利用可能であることはいうまでもない。
【0094】
なお、本発明に係るデバイスの主題は、キャリア輸送能の向上及び/又は光吸収能の改善がなされた新規デバイスを提供することに存するのであって、本明細書中に具体的に記載した個々の具体例に存するのではない。したがって、上記具体的なデバイス以外の機器・部品等も本発明の範囲に属することに留意しなければならない。
【0095】
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0096】
図1に本発明に係る化合物の一例を製造する際の製造スキームを示す。各反応の詳細は、以下のとおりである。
【0097】
〔1〕2,3-Dicyanothiophene(図1中、“1”で示す化合物)
文献(D. W. MacDowellら、J. Org. Chem. 1977, 42, 3717)に従い、以下のように合成した。窒素雰囲気下、DMF(150ml)中に2,3-Dibromothiophene(2.8ml、24.8mmol)、第一シアン化銅(7.2g、80.4mmol)を加え、7時間還流した。冷却後、これをFeCl(28.6g)と2N塩酸(150ml)の混合溶液に加え、60〜70℃を保ち、窒素ガスを吹き込みながら1時間攪拌した。混合溶液を塩化メチレン(180ml×4)で抽出し、2N塩酸(200ml×3)、水(600ml)、炭酸水素ナトリウム飽和水溶液(200ml×2)、水(600ml)で順次洗浄した。無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で溶媒を留去した。カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、塩化メチレン:ヘキサン=3:1、Rf=0.4)で分取した後、クロロホルム:ヘキサン混合溶媒で再結晶を行い、無色の針状結晶として“1”の化合物を得た。(2.26g、68%);mp 116〜122℃(文献値115〜122°C)。H NMR(400MHz、CDCl、TMS)δ 7.83(d,1H、J=5.2Hz)、7.44(d,1H,J=5.2Hz)
〔2〕2,3-Dicyano-5-iodothiophene(図1中、“2”で示す化合物)
窒素雰囲気下、0.33MのLDA−THF溶液(9.6ml、3.1mmol)にTHF(30ml)を、反応容器を冷却しながら加え、−110℃以下に保ちながら2,3−ジシアノチオフェン(0.4g、3mmol)/THF溶液(8ml)を滴下した。さらに40分攪拌した後、1,2−ジヨードエタン(1.1g,4mmol)を加え、ゆっくり室温まで戻した。水(100ml)を加え、塩化メチレン(80ml×3)で抽出した。抽出液を水(150ml)、飽和食塩水(150ml)、水(150ml)で順次洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下で溶媒を留去した後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、塩化メチレン:ヘキサン=3:1、Rf=0.4)、再結晶(クロロホルム−ヘキサン)混合溶媒により精製し、淡黄色針状結晶として“2”の化合物を得た。(0.52g、67%);mp 115〜117°C
H NMR(60MHz、CDCl、TMS);δ 7.47(s,1H)
13C NMR(100MHz、CDCl、TMS);δ 138.09,123.00,120.24,109.99,109.46,82.77
元素分析:計算値CHINS:C,27.71;H,0.39;N,10.77.実測値:C,27.70;H,0.39;N,10.69.
〔3〕2,3-Dicyano-3’,3’’’’-dihexyl-5,5’2’,5’’;’2’’,5’’’;2’’’,5’’’’-quinquethiophene(図1中、“3”で示す化合物)
窒素雰囲気下、2,3-Dicyano-5-iodothiophene (図1中、“2”で示す化合物、206mg、0.79mmol)と2-tributylstanyl-4,3’’’-dihexyl-5,2’;5’2’’;5’’,2’’’-quaterthiophene(660mg,0.84mmol、T. Yamashiroら、Chem. Lett., 1999, 443. に従い合成)を無水トルエン(40ml)に溶解させ、30分間アルゴンガスを吹き込み脱気した後、Pd(PPh(70mg、60mmol)を加え18時間還流した。その後、セライトろ過を行い、溶媒を減圧下で留去した。カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、塩化メチレン:ヘキサン=5:3、Rf=0.4)により精製し、赤色固体“3”で示す化合物を得た。(270mg,54%);mp88〜93°C
MS(MALDI−TOF)m/z630.52(計算値.630.98)
H NMR(400MHz、CDCl、TMS)δ7.27(s,1H)、7.20(d,1H,J=5.1Hz),7.15(d,1H,J=3.9Hz),7.13(d,1H,J=3.9 Hz),7.15(s,1H),7.09(d,1H,J=3.8Hz),7.03(d,1H,J=3.8 Hz),6.95(d,1H,J=5.1Hz),2.78(t,2H,J=6.7Hz),2.79(t,2H,J=6.7Hz),1.87(m,12H),1.39(m,8H),1.26(m,8H),0.92(t,3H,J=7.2Hz),0.89(t,3H,J=7.2 Hz).
13C NMR(100MHz、CDCl、TMS)δ145.20,140.76,139.79,138.08,135.97,135.74,134.16,133.04,130.12,130.10,129.96,129.67,127.23,126.16,124.14,123.89,123.70,123.64,119.85,113.85,111.73,110.87,31.54,31.48,30.43,30.15,29.37,29.26,29.13,29.09,22.52,22.50,14.01(×2).
元素分析:計算値C343422:C,64.72;H,5.43;N,4.44.実測値:C,64.99;H,5.42;N,4.63.
〔4〕Tetrakis(3’,3’’’’-dihexyl-5,5’;2’,5’’;’2’’,5’’’;2’’’,5’’’’-quinquethiopheno) [2,3]porphyrazine(図1中、“4”で示す化合物)
窒素雰囲気下、“3”で示す化合物(250mg,0.4mmol)を80℃の1−ペンタノール(3ml)に溶解し、金属リチウム(120mg)を少量ずつ加え、110℃で19時間攪拌した。反応終了後、アセトン(50ml)を加えて30分攪拌し、不溶物を濾過しアセトンで洗浄した。濾液を20mlに濃縮して酢酸(100ml)を加え一晩攪拌した後、粗製の“4”の化合物を沈殿物として濾取した。さらに、濾液を濃縮後、水(50ml)で希釈し、塩化メチレン(50ml×3)で抽出した。抽出液を水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥、減圧下で濃縮し、先の生成物と合わせてカラムクラマトグラフィー(アルミナ クロロホルム)により、緑色の成分を分取後、ゲル浸透液体クロマトグラフィー(カラム:JAIGEL−3H,4H,V=250ml)を行い、緑色固体を得た(40mg,16%)。mp>300°C
MS(MALDI−TOF)m/z2528.83(calcd.2525.92).元素分析:計算値C13613820:C,64.67,H,5.51,N,4.44. 実測値:C,64.64,H,5.49,N,4.50.
〔5〕Hexakis(butoxymethyl)tribenzo[d,i,n]-5-(3,3’’-dihexyl-2,2’;5’,2’’;5’’,2’’’-quarterthiophene-5-yl)thiopheno[2,3-s]porphyrazine(図1中、“5”で示す化合物)
窒素雰囲気下、“3”で示す化合物(130mg,0.2mmol)と4,5-bis(n-butoxymethyl)phthalonitrule (371mg,1.24mmol)を80℃の1−ペンタノールに溶解し、金属リチウム(0.3g)を少しずつ加えて、110℃で16時間攪拌した。反応終了後、アセトン(30ml)を加えて30分攪拌し、沈殿を濾別しアセトンで洗浄した。濾液を濃縮して酢酸(20ml)を加え、1時間攪拌し、目的物を沈殿として濾取した。濾液を減圧下濃縮し、水(100ml)を加え、塩化メチレン(80ml×3)で抽出した。抽出液を水(200ml)で洗浄、硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下で濃縮し、先の粗生成物と合わせてカラムクラマトグラフィー(塩化メチレン:THF=100:1、Rf=0.3)により、“5”で示す化合物を緑色固体として得た(99mg,18%)。mp133〜141°C
H NMR(400MHz,CDCl,TMS);δ8.92(s,1H),8.85(s,1H),8.59(s,1H),8.49(s,1H),8.48(s,1H),8.37(s,1H),7.79(s,1H),7.20(d,1H,J=5.4Hz),7.15(s,1H),7.03(d,1H,J=3.7Hz),7.01(d,1H,J=3.7Hz),6.98(d,1H,J=3.7Hz),6.97(s,1H),6.97(d,1H,J=5.4 Hz),6.94(d,1H,J=3.7Hz),4.99(s,2H),4.98(s,2H),4.92(s,2H),4.88(s,2H),4.88(s,2H),4.81(s,2H),3.80(m,12H),2.80(t,2H,J=6.7Hz),2.65(t,2H,J=6.7Hz),1.87(d,12H,J=3.7Hz),1.63(m,24H),1.43(m,8H),1.36(m,8H),1.11(m,18H),1.01(t,3H,J=7.2Hz),0.95(t,3H,J=7.2Hz)
MS(MALDI−TOF)m/z1531.97(calcd.1534.18).
元素分析:計算値C88108:C,68.89;H,7.10;N,7.30 実測値:C,69.74,H,7.23,N,7.26.
なお、上述の説明において、特に言及していない場合は、関連文献(D. W. MacDowellら、J. Org. Chem. 1977, 42, 3717、M. J. Cookら、J. Mater. Chem. 1997, 7, 5. 、M. J. Cookら、Tetrahedoron. 2000, 56, 4085. 、D. M. Knawbyら、Chem. Mater. 1997, 9, 535. 、M. Victoria Martinez-Diazら、Tetrahedron Lett. 2003, 44, 8475.)に基づいて行った。
【0098】
次に、フタロシアニン骨格を有する化合物、上記“4”で示す化合物、及び上記“5”で示す化合物のそれぞれについて、吸収スペクトルを調べた。その結果を図2に示す。
【0099】
図2(a)に示すように、フタロシアニン骨格のみを有する化合物は、従来知られているとおり、300nm〜400nm、及び650nm〜700nm付近に強いピークが認められた。
【0100】
また、図2(b)に示すように、フタロシアニン骨格と4つのオリゴチオフェン骨格とが共役している上記化合物“4”は、400nm付近に強いピークが認められるとともに、300nm〜800nm付近まで幅広い吸収が認められた。
【0101】
また、図2(c)に示すように、フタロシアニン骨格と1つのオリゴチオフェン骨格とが共役している上記化合物“5”は、最も強い吸収ピークの位置は、フタロシアニン骨格のみを有する化合物と略同じであるが、さらに、フタロシアニン骨格のみを有する化合物に比べて、400nm〜600nmの吸収が強くなっていることがわかった。
【0102】
以上のように、フタロシアニン骨格とオリゴチオフェン骨格とが共役している化合物は、これまでにない特異な吸収スペクトルを示し、その性質は、フタロシアニン骨格と共役するオリゴチオフェン骨格の数が増加するにつれ、顕著になることがわかった。したがって、本化合物は、全く新規な性質を有する化合物であり、例えば、光電気的、光電子的、電気的、電子的部品等に使用可能な有機半導体電子材料として非常に有用であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明に係る化合物は、例えば、色素増感太陽電池材料、薄膜光電変換素子、液晶、有機薄膜トランジスタ、有機キャリア輸送層を有する発光デバイス等といった、光電気的、光電子的、電気的、電子的部品等に使用可能な有機半導体電子材料に用いることができるため、非常に有望な産業上の利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明に係る実施例に示す化合物の製造スキームの一例を示す図である。
【図2】(a)〜(c)は、本発明に係る実施例に示す化合物の吸収スペクトルを調べた結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともフタロシアニン骨格とオリゴチオフェン骨格とを有する化合物であって、
上記フタロシアニン骨格と上記オリゴチオフェン骨格とが共役していることを特徴とする化合物。
【請求項2】
下記一般式(I)で表される化合物であって、
【化1】

上記一般式(I)中、Arは下記一般式(II)で表され、
【化2】

上記一般式(I)、(II)中、R1〜R12、R、及びR’は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜18のアルキル基であって当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキル基、炭素数1〜18のアルキルオキシ基であって当該アルキルオキシ基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキルオキシ基、炭素数1〜18のアルキルチオ基であって当該アルキルチオ基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキルチオ基、又は、芳香族基であることを特徴とする化合物。
【請求項3】
下記一般式(III)で表される化合物であって、
【化3】

上記一般式(III)中、Arは下記一般式(II)で表され、
【化4】

上記一般式(II)、(III)中、R1〜R8、R、及びR’は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜18のアルキル基であって当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキル基、炭素数1〜18のアルキルオキシ基であって当該アルキルオキシ基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキルオキシ基、炭素数1〜18のアルキルチオ基であって当該アルキルチオ基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキルチオ基、又は、芳香族基であることを特徴とする化合物。
【請求項4】
下記一般式(IV)で表される化合物であって、
【化5】

上記一般式(IV)中、Arは下記一般式(II)で表され、
【化6】

上記一般式(II)、(IV)中、R1〜R4、R、及びR’は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜18のアルキル基であって当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキル基、炭素数1〜18のアルキルオキシ基であって当該アルキルオキシ基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキルオキシ基、炭素数1〜18のアルキルチオ基であって当該アルキルチオ基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキルチオ基、又は、芳香族基であることを特徴とする化合物。
【請求項5】
下記一般式(V)で表される化合物であって、
【化7】

上記一般式(V)中、Arは下記一般式(II)で表され、
【化8】

上記一般式(II)中、R及びR’は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜18のアルキル基であって当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキル基、炭素数1〜18のアルキルオキシ基であって当該アルキルオキシ基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキルオキシ基、炭素数1〜18のアルキルチオ基であって当該アルキルチオ基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキルチオ基、又は、芳香族基であることを特徴とする化合物。
【請求項6】
下記の化学式(VI)で表される化合物。
【化9】

【請求項7】
下記の化学式(VII)で表される化合物。
【化10】

【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の化合物において、フタロシアニン骨格が金属イオンと錯体を形成していることを特徴とする化合物。
【請求項9】
下記一般式(VIII)で表される化合物であって、
【化11】

上記一般式(VIII)中、Arは、下記一般式(II)で表され、
【化12】

上記一般式(II)中、R及びR’は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜18のアルキル基であって当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキル基、炭素数1〜18のアルキルオキシ基であって当該アルキルオキシ基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキルオキシ基、炭素数1〜18のアルキルチオ基であって当該アルキルチオ基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されていてもよいアルキルチオ基、又は、芳香族基であることを特徴とする化合物。
【請求項10】
下記一般式(IX)で表される化合物であって、
【化13】

上記一般式(IX)中、Bはハロゲン原子であることを特徴とする化合物。
【請求項11】
上記一般式(IX)中、Bがヨウ素原子であることを特徴とする請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
請求項10に記載の化合物を製造する方法において、
下記一般式(X)で表される化合物を、有機金属試薬と反応させる第1の工程と、
上記第1の工程の後、ハロゲン化試薬と反応させる第2の工程と、を含むことを特徴とする製造方法。
【化14】

【請求項13】
上記ハロゲン化試薬が、ヨウ素化試薬であることを特徴とする請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の化合物の製造方法であって、
下記一般式(X)で表される化合物を、有機金属試薬と反応させる第1の工程と、
上記第1の工程の後、ハロゲン化試薬と反応させる第2の工程と、を含むことを特徴とする製造方法。
【化15】

【請求項15】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の化合物を含むことを特徴とするデバイス。
【請求項16】
上記デバイスは、光電変換素子、色素増感太陽電池素子、有機EL素子、液晶表示素子、有機薄膜トランジスタ素子、又は有機キャリア輸送層を有する発光素子であることを特徴とする請求項15に記載のデバイス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−143680(P2006−143680A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−338043(P2004−338043)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】