説明

新規生理活性物質PF1270A、BおよびC物質

本発明は、下記の式(1)で表される新規なPF1270A物質、PF1270B物質およびPF1270C物質またはそれらの薬理学的に許容される塩、およびそれらの製造法ならびにそれらの少なくとも1つを有効成分として含有する医薬組成物を提供する。本発明のPF1270物質群はヒスタミンH受容体に高い親和性を示し、医薬として有用な新規ヒスタミンH受容体リガンドとして期待される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は新規生理活性物質PF1270A、BおよびC物質またはそれらの塩、それらの製造法ならびにそれらを有効成分とする医薬組成物に関するものである。本発明の化合物はヒスタミンH受容体に対して高い結合親和性を示す。従って、本発明の化合物はヒスタミンH受容体に関連する疾病の治療あるいは予防に有用である。
【背景技術】
ヒスタミンは、生体組織に広く分布している生体アミンの一つである。その薬理作用は細胞表面に存在するヒスタミン受容体を介して細胞内に伝達される。これまでにヒスタミン受容体として、ヒスタミンH、HおよびH受容体が知られていた[AshおよびSchild、Br.J.Pharmac.Chemother.、27巻、427−439頁、1966年、Blackら、Nature、236巻、385−390頁、1972年、Arrangら、Nature、302巻、832−837頁、1983年]。また、近年になりH受容体の発見が報告され[Odaら、J.Biol.Chem、275巻、36781−36786頁、2000年]、現在もヒスタミン受容体およびそのリガンドに関して様々な研究が行われている。
このうち、ヒスタミンH受容体は自己受容体としてヒスタミンの合成や遊離を調節していることが明らかになっており[Arragら、Neuroscience、15巻、533−562頁、1985年、Arragら、Neuroscience、23巻、149−157頁、1987年]、選択的アゴニストとして(R)−アルファ−メチルヒスタミン、アンタゴニストとしてチオペラミドが知られている[Arrangら、Nature、327巻、117−123頁、1987年]。さらにヒスタミンH受容体は、脳内においてセロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンなど様々な神経伝達物質の遊離をコントロールするヘテロ受容体としての機能を有していることが報告されている[Schlickerら、Naunyn−Schmiedeberg’s Arch.Pharmacol.、337巻、588−590頁、1988年、Schlickerら、Naunyn−Schmiedeberg’s Arch.Pharmacol.、340巻、633−638頁、1989年、Schlickerら、J.Neural Transm.、93巻、1−10頁、1993年]。また、ヒスタミンH受容体は心筋の虚血時などにおけるノルエピネフリンやカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)の遊離にも関与していることが報告されている[Imamuraら、Circ.Res.、78巻、475−481頁、1996年、Imamuraら、Circ.Res.、78巻、863−869頁、1996年]。
これまでにヒスタミンH受容体リガンドとしていくつかの化合物が見出され、医薬への応用が試みられている。例えば、ヒスタミンH受容体アンタゴニストであるGT−2331では、注意欠陥多動性障害(ADHD)を適応症とする臨床試験が行われている[TozerおよびKalindjian、Exp.Opin.Ther.Patents、10巻、1045−1055頁、2000年]。また、ヒスタミンH受容体アゴニストであるBP−2.94は、喘息を適応疾患として臨床試験中である[Fozard、Curr.Opin.Investig.Drugs、1巻、86−89頁、2000年]。
この他に、特開平6−87742号公報ではヒスタミンH受容体アンタゴニストが偏頭痛剤、催眠剤、麻酔剤、精神安定剤、鎮静剤、抗不安剤、抗喘息剤、抗気管支炎剤、皮膚または目の抗炎症剤または胃の抗潰瘍剤などとして利用できることが期待されると記載されている。また国際公開WO20016865号、国際公開WO9905115号、国際公開WO9905141号、国際公開WO9905141号などでは肥満、II型糖尿病、てんかん、睡眠障害、うつ、アルツハイマー病などの治療薬としてヒスタミンH受容体リガンドが使用できる可能性があると記載されている。
これまでにヒスタミンH受容体リガンドを天然物から探索した例として、海綿から単離されたVerongamineが報告されている[Mierzwaら、J.Nat.Prod.、57巻、175−177頁、1994年]。Verongamineも含め、従来のヒスタミンH受容体リガンドの多くはヒスタミンの母核であるイミダゾール骨格を有している。しかし、本願発明のPF1270A、BおよびC物質は、イミダゾール骨格を有さない、新規なヒスタミンH受容体リガンドである。なお、本発明化合物と構造的に関連ある微生物産物としては、寄生虫病の治療および予防に有用なものとして報告されたMarcfortine Aなどが知られている[Polonskyら、J.Chem.Soc.Chem.Commun.、601−602頁、1980年、米国特許第4,866,060号]。しかしながら、本願発明の化合物は、これまで報告された既知の化合物とは構造が異なる新規物質である。
本発明の目的は、ヒスタミンH受容体が関与する各種疾病の治療あるいは予防に有用な新規ヒスタミンH受容体リガンドを提供することにある。
【発明の開示】
本発明者らは、上記の考えに基づき、より有効で且つ安全な新規ヒスタミンH受容体リガンドを見出すべく、微生物産物から新規化合物を探索した。そして本発明者らが土壌より新たに分離したPF1270株と命名したペニシリウム属の一菌株(Penicillium waksmanii PF1270)の培養物中にヒスタミンH受容体リガンドが生産、蓄積されることを見出した。さらにこれらの活性物質が下記の式(1)で表される化学構造を有することを見出し、新規な物質であることを確認して、本物質をPF1270A物質、PF1270B物質およびPF1270C物質と命名した。これらの知見に基づいて、本発明を完成した。
すなわち、本発明は下記の新規生理活性物質PF1270A物質、PF1270B物質およびPF1270C物質またはそれらの薬理学的に許容される塩を提供するものである。
式(1)

[式中、Rは、メチル基、エチル基またはプロピル基を表す。]
で表される化合物または薬理学的に許容されるその塩。
式(2)

で表されるPF1270A物質または薬理学的に許容されるその塩。
式(3)

で表されるPF1270B物質または薬理学的に許容されるその塩。
式(4)

で表されるPF1270C物質または薬理学的に許容されるその塩。
また、本発明は、ペニシリウム属に属し、PF1270A物質、PF1270B物質およびPF1270C物質を生産する能力を有する菌を培養し、その培養物よりPF1270A、BおよびC物質を採取することを特徴とするPF1270A、BおよびC物質の製造法。
さらに、PF1270A物質、PF1270B物質およびPF1270C物質を生産する特性を有し、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、受託番号FERM BP−08610として寄託されたPF1270株およびその変異株、およびPF1270A、BおよびC物質ならびにそれらの薬理学的に許容される塩の少なくとも1つを有効成分とする医薬組成物。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の第1の要旨とするところは、式(2)で表され、下記の理化学的性状を有する新規ヒスタミンH受容体リガンド、PF1270A物質にある。
1.PF1270A物質の理化学的性状
(1)色および性状:黄白色粉末
(2)分子式:C3243
(3)マススペクトル(HRFAB−MS):実測値 566.3224(M+H)
計算値 566.3230
(4)融点:173〜175℃
(5)比旋光度:[α]25=+75.0°(с1.0,CHCN)
(6)紫外線吸収スペクトル[λmaxnm(ε)]:
CHCN溶液 202(25200),228(18800),246(24600),334(9030)
CHCN−1N HCl溶液(10:1)201(24800),227(19000),245(24100),330(8970)
CHCN−1N NaOH溶液(10:1)204(25900),228(18500),246(24000),331(8830)
(7)赤外線吸収スペクトル[νmaxcm−1(KBr)]:
3384,2934,1721,1674,1601,1445,1381,1254,1184,1090,1069,764
(8)H−NMRスペクトル(400MHz,CDCl
δ(ppm):0.98(3H,t,J=7.3Hz),1.14(3H,s),1.14(3H,d,J=6.6Hz),1.20(1H,m),1.26(3H,s),1.50(1H,br t,J=12.9Hz),1.61(3H,s),1.67(1H,sext,J=7.3Hz),1.67(1H,m),1.85(1H,m),1.85(1H,m),1.98(1H,d,J=13.4Hz),2.00(1H,m),2.13(1H,d,J=13.4Hz),2.25(3H,s),2.30(2H,td,J=7.3,3.1Hz),2.34(1H,d,J=11.2Hz),2.49(1H,dd,J=13.7,2.9Hz),2.79(1H,br t,J=9.8Hz),3.01(1H,d,J=11.2Hz),3.07(1H,br t,J=6.3Hz),4.05(1H,s),5.10(1H,br t,J=2.4Hz),7.16(1H,t,J=7.6Hz),7.76(1H,d,J=7.6Hz),7.94(1H,d,J=7.6Hz),9.35(1H,s),9.64(1H,br s)
(9)13C−NMRスペクトル(100MHz,CDCl
δ(ppm):201.9,194.7,182.1,173.1,143.0,134.5,134.2,127.4,121.8,117.2,68.0,64.2,62.7,61.5(x2),58.7,56.7,53.9,50.6,47.0,44.8,37.8,36.8,35.5,30.5,29.2,24.3,18.6,18.4,17.9,13.7,13.2
(10)溶解性:クロロホルム、メタノールに可溶、水に難溶。
本発明の第2の要旨とするところは、式(3)で表され、下記の理化学的性状を有する新規ヒスタミンH受容体リガンド、PF1270B物質にある。
2.PF1270B物質の理化学的性状
(1)色および性状:黄白色粉末
(2)分子式:C3141
(3)マススペクトル(HRFAB−MS):実測値 552.3077(M+H)
計算値 552.3073
(4)融点:176〜178℃
(5)比旋光度:[α]25=+82.8°(c1.0,CHCN)
(6)紫外線吸収スペクトル[λmaxnm(ε)]:
CHCN溶液 201(23800),228(17200),246(22400),334(8110)
CHCN−1N HCl溶液(10:1)201(23800),227(17400),245(21800),331(8060)
CHCN−1N NaOH溶液(10:1)205(26100),228(17100),245(21800),331(8010)
(7)赤外線吸収スペクトル[νmaxcm−1(KBr)]:
3411,2942,1728,1673,1603,1450,1381,1255,1188,1092,1069,762
(8)H−NMRスペクトル(400MHz,CDCl
δ(ppm):1.13(3H,d,J=6.8Hz),1.15(3H,s),1.15(3H,t,J=7.6Hz),1.21(1H,m),1.25(3H,s),1.50(1H,br t,J=13.0Hz),1.60(3H,s),1.66(1H,m),1.85(1H,m),1.85(1H,m),1.97(1H,d,J=13.4Hz),1.99(1H,m),2.13(1H,d,J=13.4Hz),2.25(3H,s),2.34(2H,qd,J=7.3,2.7Hz),2.34(1H,d,J=11.2Hz),2.49(1H,dd,J=13.7,3.4Hz),2.81(1H,br t,J=9.3Hz),3.00(1H,d,J=11.2Hz),3.06(1H,br t,J=6.4Hz),4.05(1H,s),5.08(1H,br t,J=2.9Hz),7.16(1H,t,J=7.8Hz),7.76(1H,d,J=7.8Hz),7.94(1H,d,J=7.8Hz),9.33(1H,s),9.65(1H,br s)
(9)13C−NMRスペクトル(100MHz,CDCl
δ(ppm):201.9,194.7,182.1,173.9,143.0,134.5,134.2,127.4,121.8,117.2,68.2,64.2,62.7,61.5(x2),58.7,56.7,53.9,50.5,47.0,44.8,37.8,35.4,30.5,29.2,28.1,24.3,18.6,17.9,13.2,9.1
(10)溶解性:クロロホルム、メタノールに可溶、水に難溶。
本発明の第3の要旨とするところは、式(4)で表され、下記の理化学的性状を有する新規ヒスタミンH受容体リガンド、PF1270C物質にある。
3.PF1270C物質の理化学的性状
(1)色および性状:黄白色粉末
(2)分子式:C3039
(3)マススペクトル(HRFAB−MS):実測値 538.2917(M+H)
計算値 538.2917
(4)融点:187〜189℃
(5)比旋光度:[α]25=+79.6°(c1.0,CHCN)
(6)紫外線吸収スペクトル[λmaxnm(ε)]:
CHCN溶液 199(20700),228(13300),247(17700),334(6380)
CHCN−1N HCl溶液(10:1)199(21600),228(13400),245(17200),331(6350)
CHCN−1N NaOH溶液(10:1)203(24400),228(13300),246(17300),331(6330)
(7)赤外線吸収スペクトル[νmaxcm−1(KBr)]:
3382,2964,1732,1676,1605,1453,1381,1250,1190,1103,1069,758
(8)H−NMRスペクトル(400MHz,CDCl
δ(ppm):1.14(3H,d,J=6.8Hz),1.14(3H,s),1.21(1H,m),1.26(3H,s),1.50(1H,br t,J=12.7Hz),1.61(3H,s),1.67(1H,m),1.88(1H,m),1.88(1H,m),1.96(1H,d,J=13.4Hz),1.98(1H,m),2.07(3H,s),2.13(1H,d,J=13.4Hz),2.25(3H,s),2.34(1H,d,J=11.0Hz),2.49(1H,dd,J=13.4,2.9Hz),2.82(1H,br t,J=9.5Hz),3.00(1H,d,J=11.0Hz),3.06(1H,br t,J=6.1Hz),4.05(1H,s),5.07(1H,s),7.16(1H,t,J=7.6Hz),7.76(1H,d,J=7.6Hz),7.94(1H,d,J=7.6Hz),9.34(1H,s),9.64(1H,br s)
(9)13C−NMRスペクトル(100MHz,CDCl
δ(ppm):201.9,194.7,182.1,170.6,143.0,134.5,134.3,127.4,121.8,117.2,68.4,64.2,62.7,61.5(x2),58.7,56.7,53.9,50.5,47.0,44.7,37.8,35.3,30.5,29.2,24.3,21.5,18.6,17.9,13.1
(10)溶解性:クロロホルム、メタノールに可溶、水に難溶。
本発明化合物は、塩として存在することができ、そのような塩としては例えば塩酸、硫酸、硝酸、燐酸などの無機酸との塩あるいは酢酸、クエン酸、安息香酸、マレイン酸などの有機酸との塩などが挙げられる。
本発明の第4の要旨とするところは、ペニシリウム属に属して且つ前記の式(2)に示されるPF1270A物質、式(3)に示されるPF1270B物質および式(4)に示されるPF1270C物質を生産する菌を培養し、その培養物からPF1270A、BおよびC物質を採取することを特徴とする、PF1270A、BおよびC物質の製造法である。
上記のPF1270A、BおよびC物質の生産菌としては、例えば本発明者らが新たに分離したPF1270株が挙げられる。なお、本発明で用いられるPF1270A、BおよびC物質の生産菌は、本明細書に記載の特定の微生物に限定されるものではなく、PF1270A、BおよびC物質を生産する能力を有している菌であればPF1270A、BおよびC物質生産菌としていずれを用いてもよい。使用できる微生物の好適な例としては、PF1270株、あるいはこれらの菌株の継代培養株、人工変異株ならびに自然変異株、遺伝子組換え株などが挙げられる。PF1270株の菌学的性状は以下の通りである。
4.PF1270株の菌学的性状
(1)各種培地上での性状
ツアペック酵母エキス寒天培地上での生育は良好で、25℃、7日間で18〜26mmのコロニーとなる。灰緑色、ビロード状、平坦、厚く密な菌糸層からなり、分生子を豊富に形成する。裏面は濃黄色となる。麦芽エキス寒天培地上での生育はやや抑制的で、25℃、7日間で17〜19mmのコロニーとなる。灰緑色、ビロード状、平坦、緩やかな菌糸層からなり、分生子を豊富に形成する。裏面は濃黄色となる。37℃の培養ではどの培地でも生育しない。
(2)形態的性状
ペニシリは単輪生もしくは複輪生、フィアライドはアンプル型、6〜8x1.5〜2μmである。分生子は球形〜亜球形、2〜3μm、表面は滑面となる。
以上の菌学的性状より本菌株をPenicillium waksmaniiと同定した。同定のための参考文献としてThe genus Penicillium and its teleomorphic states Eupenicillium and Talaromyces(John I.Pitt著、Academic Press社、London、1979年)を使用した。なお、本菌株は以下のように独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにFERM BP−08610として寄託されている。
▲1▼寄託機関:国際寄託機関、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター
住所: 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305−8566)
▲2▼寄託日: 原寄託日:2003年2月24日
移管請求日:2004年2月3日(2002年2月24日に寄託されたFERM P−19225号より移管)
▲3▼寄託番号:FERM BP−08610
5.PF1270A、BおよびC物質生産菌の培養法
本発明の方法では、ペニシリウム属に属するPF1270株を、通常の微生物が利用し得る栄養物を含有する培地で培養する。
栄養源としては、従来カビの培養に利用されている公知のものが使用できる。例えば、炭素源としては、グルコース、シュクロース、水飴、デキストリン、澱粉、グリセロール、糖蜜、動植物油などを使用し得る。また、窒素源としては、大豆粉、大豆粕、小麦胚芽、コーン・スティープ・リカー、綿実粕、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、尿素などを使用し得る。その他必要に応じてナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、コバルト、塩素、燐酸、硫酸およびその他のイオンを生成することができる無機塩類を添加することは有効である。また、菌の発育を助け、PF1270A、BおよびC物質の生産を促進するような有機および無機物を適当に添加することができる。
培養法としては、好気的条件での培養法、特に静置培養法が最も適している。培養に適当な温度は20〜30℃であるが、多くの場合25℃付近で培養する。PF1270A、BおよびC物質の生産は、培地や培養条件によって異なるが、静置培養、振盪培養、ジャー(Jar)培養のいずれにおいても、通常2〜20日間でその蓄積が最高に達する。培養物中のPF1270A、BおよびC物質の蓄積が最高になった時に培養を停止し、培養物から目的物質を単離、精製する。
6.PF1270A、BおよびC物質の精製法
本発明によって得られるPF1270A、BおよびC物質は、上記の理化学的性状を有するので、その性状に従って培養物から精製することが可能である。例えば、有機溶媒を用いて培養物よりPF1270A、BおよびC物質を抽出した後、吸着剤を用いた吸脱着法、ゲル濾過剤を用いた分子分配法、適当な溶剤からの再結晶法などを用いて精製することが可能である。
例えば、活性成分を含む培養物を吸着剤DIAION HP20(三菱化学社製)で処理して、活性成分を吸着させる。ついで、アセトン、水などの溶媒で溶出し、溶出液を減圧濃縮することで溶媒を留去し、水溶液とする。この水溶液を酢酸エチルにより抽出し、抽出液を減圧濃縮し、抽出物を少量のクロロホルム、メタノールなどの有機溶媒に溶解してシリカゲルカラムに付し、クロロホルム/メタノール、ヘキサン/酢酸エチルなどの溶媒系でカラムクロマトグラフィーを行う。その後、アセトニトリル/燐酸などの溶媒系で分取HPLCを行い、さらにクロロホルム/メタノール、ヘキサン/酢酸エチルなどの溶媒系で分取薄層クロマトグラフィーを行うことにより、PF1270A、BおよびC物質を単離、精製することができる。さらに、ヘキサン、クロロホルム、酢酸エチル、アセトン、メタノール、水などの溶剤を単一、もしくは適宜組み合わせて用いることで再結晶化することが可能である。
本発明のPF1270A、BおよびC物質は、後記の試験例に示すようにヒスタミンH受容体リガンドであり、ヒトを含む動物に医薬として投与することが有用である。本発明の化合物であるPF1270A、BおよびC物質は、ヒスタミンH受容体に対して高い結合親和性を有することから、抗痴呆薬、抗ADHD(Attention−Deficit/Hyperactivity Disorder、注意欠陥移動性障害)薬、抗てんかん薬、抗不安薬、抗統合性失調症薬、抗うつ薬、睡眠障害改善薬、鎮痛薬、偏頭痛治療薬、抗喘息薬、抗炎症薬、抗潰瘍薬、抗肥満薬、心筋梗塞予後改善薬、催眠剤、麻酔剤、II型糖尿病治療薬等の治療剤あるいは予防剤として有用である。
本発明のPF1270A、BおよびC物質を医薬として投与する場合、種々の投与形態または使用形態に合わせて、常法に従い製剤化する。
経口投与のための製剤としては、錠剤、丸剤、顆粒剤、カプセル剤、散剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤、舌下剤などが挙げられる。また非経口投与のための製剤としては、注射剤、経皮吸収剤、吸入剤、座剤などが挙げられる。製剤化に際しては、界面活性剤、賦形剤、安定化剤、湿潤剤、崩壊剤、溶解補助剤、等張剤、緩衝剤、着色剤、着香料などの医薬用添加剤を適宜使用する。
医薬としての投与量は、患者の年齢、体重、疾病の種類や程度、投与経路により異なるが、ヒトに経口投与する場合には、成人一人当たり一日に0.02〜200mg/kg、静脈内投与の場合には同じく0.01〜100mg/kgの範囲内で投与する。
【実施例】
以下に本発明の実施例および試験例を示すが、本発明はこれに限定されるものではなく、ここに示さなかった変法あるいは修飾手段の全てを包括する。
【実施例1】
1.PF1270A、BおよびC物質生産菌の培養
種培地として、でんぷん2.0%、ブドウ糖1.0%、ポリペプトン0.5%、小麦胚芽0.6%、酵母エキス0.3%、大豆粕0.2%および炭酸カルシウム0.2%の組成からなる培地(殺菌前pH7.0)を用いた。また、生産培地としては、充分吸水した米に大豆粕2.5%を添加した固形培地を用いた。
前記の種培地20mLを分注した100mL容三角フラスコを120℃で15分間殺菌し、これにPF1270株(FERM P−19225)の斜面寒天培養の1白金耳を植菌後、25℃で3日間振とう培養した。次いで、生産培地100gを分注した500mL容三角フラスコを120℃で15分間殺菌し、これに上記種培養液を3mLずつ植菌し、よく撹拌後、25℃で14日間静置培養した。得られた培養物10kgを67%アセトン水20Lで抽出し、抽出液を減圧濃縮してアセトンを留去した。
2.PF1270A、BおよびC物質の精製
得られた水溶液6.5Lを1N水酸化ナトリウム溶液でpH7に調整後、吸着剤DIAION HP20(三菱化学社製)のカラム(内径60mm×200mm)を通過させ、活性成分を吸着させた後、水3Lおよび50%アセトン水3Lで洗浄後、アセトン3Lで活性成分を溶出した。そこに水3Lを加え、減圧濃縮によりアセトンを留去した水溶液を1N水酸化ナトリウム溶液でpH9に調整後、酢酸エチル3Lで抽出した。酢酸エチル層を減圧濃縮して3.7gの粗抽出物を得た。得られた粗抽出物をメタノール50mLに溶解し、18gのシリカゲル(ワコーゲルC−300、和光純薬社製)を加えた後、減圧下でメタノールを留去し、粗抽出物をシリカゲルに均一に吸着させた。これをグラスフィルター上のシリカゲル(ワコーゲルC−300、和光純薬社製)37gに重層してヘキサン/酢酸エチル溶液(酢酸エチル濃度が10、50、70、100%をそれぞれ500mL)で溶出し、活性成分を含む画分を集めて減圧濃縮し、PF1270A、BおよびC物質を含む残渣を1.2g得た。
得られた残渣をメタノール20mLに溶解し、6.0gのシリカゲル(ワコーゲルC−300、和光純薬社製)を加えた後、減圧下でメタノールを留去し、粗抽出物をシリカゲル(ワコーゲルC−300、和光純薬社製)に均一に吸着させた。これをグラスフィルター上のシリカゲル(ワコーゲルC−300、和光純薬社製)12gに重層し、ヘキサン/酢酸エチル溶液(酢酸エチル濃度が10、20、30、40、50、60、70%をそれぞれ300mL)で溶出し、活性成分を含む画分を集めて減圧濃縮し、PF1270A、BおよびC物質を含む残渣1.0gを得た。
得られた残渣をクロロホルム/メタノール=50/1の溶液で充填したシリカゲルカラム(ワコーゲルC−300、内径40mm×160mm、和光純薬社製)に付し、クロロホルム/メタノール=50/1で溶出し、活性成分を含む画分を集めて減圧濃縮し、少量のメタノールを加えた。その際、PF1270A物質を含むメタノール可溶分154.0mgとPF1270A、BおよびC物質を含む析出物128.0mgを得た。
PF1270A物質を含むメタノール可溶分を用い、ヘキサン/酢酸エチル(1:10)溶液を展開溶媒とする分取薄層クロマトグラフィー(キーゼルゲル60、0.5mm、メルク社製)を行い、黄白色粉末状のPF1270A物質72.3mgを得た。
PF1270A、BおよびC物質を含む析出物を少量のアセトニトリルに溶解し、アセトニトリル/0.005%燐酸=22/78の溶液で充填したHPLC(カラム:イナートシルODS−2、内径20mm×250mm、ジーエルサイエンス社製)に注入し、アセトニトリル/0.005%燐酸=22/78の溶液で溶出した。活性成分を含む画分を集めてアセトニトリルを減圧下留去し、1N水酸化ナトリウム溶液でpH9に調整後、酢酸エチルで抽出し、減圧濃縮して黄白色粉末状のPF1270A物質70.2mg、PF1270B物質を含む残渣22.1mgおよびPF1270C物質を含む残渣10.6mgを得た。
PF1270B物質を含む残渣を用い、ヘキサン/酢酸エチル(1:5)溶液を展開溶媒とする分取薄層クロマトグラフィー(キーゼルゲル60、0.5mm、メルク社製)を行い、黄白色粉末状のPF1270B物質17.0mgを得た。
PF1270C物質を含む残渣を用い、ヘキサン/酢酸エチル(1:5)溶液を展開溶媒とする分取薄層クロマトグラフィー(キーゼルゲル60、0.5mm、メルク社製)を行い、黄白色粉末状のPF1270C物質6.0mgを得た。
本発明により得られるPF1270A、BおよびC物質はヒスタミンH受容体に対し、親和性を有する。PF1270A、BおよびC物質のヒスタミンH受容体に対する親和性をヒスタミンH受容体リガンドであるNα−メチルヒスタミンの結合阻害試験により調べた。
試験例 Nα−メチルヒスタミン結合阻害活性
ラット前脳を10倍量の0.32Mシュクロース液中でテフロン−ガラスホモジナイザーを用いてホモジナイズし、得られたホモジネートを1000xgで10分間遠心分離した。上清を39000xgで20分間遠心分離し、沈査を得た。この沈査をアッセイ緩衝液(50mMトリス(pH7.4),5mM EDTA)にて遠心洗浄した。この操作をさらに2回行い、最終的に得られた膜画分をヒスタミンH受容体膜画分とした。
結合阻害実験は、得られた膜画分と放射性のリガンドである[H]Nα−メチルヒスタミン(パーキンエルマーライフサイエンス社製)を用いて行った。PF1270A、BあるいはC物質存在下、アッセイ緩衝液150μL中に膜画分(タンパク量55μg)と終濃度1nMの[H]Nα−メチルヒスタミン(82.0Ci/mmol)を加えて、室温で60分間インキュベーションした。0.3%ポリエチレンイミンでコートしたユニフィルターGF/Bフィルター(パーキンエルマー社製)で濾過し、200μLのアッセイ緩衝液で3回洗浄した。50℃で1時間乾燥後、シンチレーターとしてマイクロシンチ−20(パーキンエルマー社製)を30μLを添加し、放射活性をトップカウント(パーキンエルマー社製)を用いて計測した。非特異的結合は、大過剰のチオペラミド(終濃度10μM)を加えることにより決定した。PF1270A、BあるいはC物質存在下でのNα−メチルヒスタミンの結合阻害率は以下の式によって算出した。

上記の方法により、PF1270A、BおよびC物質のNα−メチルヒスタミン結合阻害率を測定し、50%阻害する濃度(IC50)をNα−メチルヒスタミン結合阻害活性とした結果を表1に示す。

本発明のPF1270A、BおよびC物質は、表1に示したようにヒスタミンH受容体に対して強い親和性を有し、ヒスタミンH受容体リガンドであることが示された。
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2003年3月31日出願の日本特許出願(特願2003−093595)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
本発明のPF1270A、BおよびC物質は、試験例に示したように、ヒスタミンH受容体親和性を有しており、これらを有効成分とする薬剤はヒスタミンH受容体が関与する各種疾病の治療あるいは予防に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)

[式中、Rは、メチル基、エチル基またはプロピル基を表す。]
で表される化合物または薬理学的に許容されるその塩。
【請求項2】
式(2)

で表されるPF1270A物質または薬理学的に許容されるその塩。
【請求項3】
式(3)

で表されるPF1270B物質または薬理学的に許容されるその塩。
【請求項4】
式(4)

で表されるPF1270C物質または薬理学的に許容されるその塩。
【請求項5】
ペニシリウム属に属するPF1270A物質、PF1270B物質およびPF1270C物質を生産する能力を有する菌を培養し、その培養物よりPF1270A、BおよびC物質を採取することを特徴とする請求項1記載のPF1270A、BおよびC物質の製造法。
【請求項6】
請求項1記載のPF1270A物質、PF1270B物質およびPF1270C物質を生産する特性を有し、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、受託番号FERM BP−08610として寄託されたペニシリウム属に属するPF1270株およびその変異株。
【請求項7】
請求項1記載のPF1270A物質、PF1270B物質およびPF1270C物質ならびにそれらの薬理学的に許容される塩の少なくとも1つを有効成分とする医薬組成物。

【国際公開番号】WO2004/087938
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【発行日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504221(P2005−504221)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004416
【国際出願日】平成16年3月29日(2004.3.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
テフロン
【出願人】(000006091)明治製菓株式会社 (180)
【Fターム(参考)】