説明

新規酵母およびそれを用いた飲料・食品・家畜飼料

【課題】
20%エタノール存在下で生育可能でありかつエタノール生成能および高級アルコールを多く生成する新規酵母およびそれを用いた飲料・食品・家畜飼料の提供
【解決手段】
「さくら酵母1449」に由来し、20%エタノール存在下で生育可能であり、かつ親株よりエタノール生産能が高級アルコールを多く生成するSakura-2 NITE P−756株を用いることを特徴とする飲料・食品・家畜飼料法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エタノールを高生産する新規酵母およびそれを用いた飲料・食品・家畜飼料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、秋田県総合食品研究所が平成10年に桜の花から分離した酵母「桜酵母1449」を用いたビールやワイン、食酢などが製造販売されているが、高級アルコールの生産量が少なく、香気成分の特徴が弱い。
【0003】
清酒製造では、清酒の高品質化を目的として積極的に優良酵母の分離・改良・育種が広く行われており、実用化の開発が進められている。特にアルコール飲料では、高級アルコール生産量の高い酵母の研究開発が精力的に行われており、高香気生成酵母として「新規酵母及びその用途」(特許文献1参照)、変異酵母(特許文献2参照)、「酵母変異株およびそれを用いた酒類の製造方法」(特許文献3参照)などの多くの研究例があり実用化に至っている。
【0004】
近年の酵母開発例として、薬剤耐性や変異処理により、特定の香気成分を多く生産する酵母研究例があるが、ややもすれば、酵母が本来有している優良な性質が損なわれるケースも少なくない。例えば、アルコール発酵能の低下による清酒製造へのデメリット、高濃度アルコール存在下での酵母の死滅による雑味、オフフレーバーの発生、または、有機酸生成能の低下などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-173147号公報
【特許文献2】特開平8-023954号公報
【特許文献3】特開平7-203951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アルコール飲料において、優れた酵母の有する性質としては、エタノール生成能が優れていることは勿論のこと、有機酸、アミノ酸、香気成分を適当量にバランスよく生産する能力を有していることが必須である。
そこで本発明では、「さくら酵母1449」を高濃度のエタノール存在下に馴養し、その中で生育した酵母から取得し、親株よりも高級アルコールを適度に多く生成する酵母の選抜・育種を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、高濃度のエタノール存在下で増殖能が高くさらに親株に比べてエタノール耐性が高く高級アルコールを高生産する酵母を取得するに至った。また、この方法で取得した酵母を使用することにより香りの豊かな飲料・食品・家畜飼料を生産できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0008】
すなわち、請求項1に記載の本発明は、「さくら酵母1449」を親株とし、20%エタノール存在下で生育可能であり、かつ親株よりもエステル生産能が優れているサッカロマイセス セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(NITE P−756)である。請求項2記載の本発明は、サッカロマイセス セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)を用いることを特徴とする、飲料である。請求項3記載の本発明は、請求項1記載のサッカロマイセス セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)を用いることを特徴とする食品法。請求項4の本発明は、請求項1記載のサッカロマイセス セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)を用いることを特徴とする家畜飼料。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、エタノール耐性に優れ、親株の優良な性質が維持され、かつ、高級アルコール生産量が約1.3倍高く、発酵能が維持された酵母を提供することが出来る。本酵母を使用することにより高級アルコールの高い飲料・食品・家畜飼料の製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】親株の酵母とSakura−2株の酵母のエタノール生産の経時変化を表すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発明を詳細に説明する。
本発明に係る酵母は、ビールの製造、発泡酒の製造、リキュールの製造、ウイスキー、ブランディー、焼酎などの蒸留酒の製造、清酒の製造、ワインの製造、酢の製造、低濃度アルコールを含む清涼飲料水や栄養ドリンクなどの発酵を介する飲料または、パン、味噌、醤油、漬物などの酵母による作用を介する食品。さらに、酵母の発酵を利用した家畜飼料に用いられるもので、この酵母は以下に示す方法によって取得することができる。
【0012】
まず、秋田県総合食品研究所に保存されているサッカロマイセス セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae) 「さくら酵母1449」を親株とし、当該親株の培養酵母を20%エタノールを含むYPD培地(グルコース5%、ポリペプトン2%、酵母エキス1%、エタノール20%)に接種し、28℃で7〜10日間振盪培養を行った後、酵母をYPD寒天培地(グルコース5%、ポリペプトン2%、酵母エキス1%、寒天2%)プレートに塗布し、この培地で増殖した酵母をエタノール耐性株として取得する。
【0013】
次に上記で選抜した酵母についてYPD液体培地(グルコース10%、ポリペプトン2%、酵母エキス1%)でエタノール生産試験を行い、親株よりもエタノール生産能が高い酵母を選抜する。
【0014】
次にエタノール生産能の高い酵母をYPD液体培地(グルコース20%、ポリペプトン2%、酵母エキス1%)で発酵試験を行い、エステル生成能の高い酵母を選抜する。
【0015】
このようにして、目的とする酵母を選抜し、これをサッカロマイセス セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)Sakura-2と命名した。本菌株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物帰宅センターに寄託されており、その受託番号はNITE P−756である。
【0016】
本発明のエタノール高生産酵母を用いる飲料・食品・家畜飼料の製造は、基本的には通常の各種製造方法に従えばよい。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
(エタノール高生産酵母の作出)
親株のサッカロマイセス セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)「さくら酵母1449」からエタノール生産耐性株を分離した。すなわち、サッカロマイセス セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の活性スラントより菌体を1白菌耳とり、これを3mlのYPD液体培地(グルコース2%、ポリペプトン2%、酵母エキス1%)に植菌した後、28℃で1日間培養した。次いで、培養液を遠心分離し(3,000rpm、5分)して酵母菌体を得たのち、20%エタノール溶液(グルコース5%、ポリペプトン2%、酵母エキス1%、エタノール20%)に接種し、28℃で7〜10日間振盪培養を行った。その後、当該エタノール溶液を殺菌水で適宜に希釈(通常1〜10万倍)した後、YPD寒天培地(グルコース5%、ポリペプトン2%、酵母エキス1%、寒天2%)プレートに塗布し、28℃で3日間培養して、この培地で増殖した酵母をエタノール耐性株として取得した。その結果、エタノール生産能の高い1株(Sakura-2)NITE P−756を選抜することができた。
【実施例2】
【0019】
親株とエタノール耐性株1株をそれぞれ発酵用液体培地(グルコース10%、ポリペプトン2%、酵母エキス1%)に植菌し、11℃、80rpmで振盪培養を行なった。図1にエタノール生産の経時変化を示した。明らかにSakura-2 NITE P−756株が親株よりグルコースの取り込み速度が速くエタノールの生産量および発酵速度が速かった。(図1)
【実施例3】
【0020】
親株とSakura-2 NITE P−756株をそれぞれ発酵用液体培地(グルコース20%、ポリペプトン2%、酵母エキス1%)に植菌し、28℃、80rpmで振盪培養を行なった。表1に低沸点揮発成分を示した。明らかにSakura-2株が親株より高級アルコール生成能が高かった。
【0021】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
サッカロマイセス セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae) 「さくら酵母」1449に由来し、20%エタノール存在下で生育可能であり、かつ親株より高級アルコール生産能が高いサッカロマイセス セルビシエ NITEP−756。
【請求項2】
請求項1記載のサッカロマイセス セルビシエを用いることを特徴とする飲料。
【請求項3】
請求項1記載のサッカロマイセス セルビシエを用いることを特徴とする食品。
【請求項4】
請求項1記載のサッカロマイセス セルビシエを用いることを特徴とする家畜飼料。

【図1】
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【公開番号】特開2010−284081(P2010−284081A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137803(P2009−137803)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(591108178)秋田県 (126)
【Fターム(参考)】