説明

新規酵母遺伝子

【課題】
発酵能が低温感受性を示す変異を相補する遺伝子を不活性化して得られる冷蔵耐性酵母、該酵母を用いたパンおよびエタノールの製造方法を提供する。
【解決手段】
サッカロミセス属に属し、染色体上の、特定のアミノ酸配列からなるタンパク質、または該アミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつ発酵能の低温感受性を示す変異を相補するタンパク質をコードする遺伝子が不活性化されていることを特徴とする、発酵能が低温感受性を示す酵母、該酵母を含有する生地、該酵母を生地に添加することを特徴とするパンの製造法、該酵母を培地に培養し、培養物中にエタノールを蓄積させ、該培養物からエタノールを採取することを特徴とするエタノールの製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷蔵生地製パン法およびエタノール製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
製パン業界では、製造工程を省力化すること、多様な消費者のニーズへ対応することなどを目的として、冷蔵生地製パン法が普及してきている。冷蔵生地製パン法は、一部発酵させた生地を冷蔵庫などに入れて低温貯蔵した後、発酵、ホイロ、焼成を経てパンを製造する方法である。冷蔵生地製パン法において、生地中にて低温貯蔵されている間は発酵が抑制され、発酵およびホイロの温度帯では正常に発酵して生地を膨張する能力を有する酵母、いわゆる「冷蔵耐性酵母」が使用されている。
【0003】
冷蔵耐性酵母の育種方法としては、野生型の酵母に突然変異処理を行って該酵母に発酵能が低温感受性を示す変異を付与する方法が知られている(例えば特許文献1〜3および非特許文献1参照)。発酵能が低温感受性を示す変異を付与された酵母は、冷蔵耐性酵母として、あるいは冷蔵耐性酵母を育種するための親株として用いられている。
しかし、突然変異処理では変異がランダムに引き起こされることから、該処理を施された場合、酵母には低温感受性変異だけでなく、パン生地膨張力など、発酵の基本的な特性に関与する変異が付与される可能性がある。
【0004】
一方、パン酵母または醸造用酵母に、遺伝子操作技術を用いることにより、凝集性(非特許文献2参照)、香気生成(非特許文献3参照)等の有用な性質を付与する方法が知られている。
しかし、発酵能の低温感受性に関与する遺伝子および遺伝子操作技術を用いた冷蔵耐性酵母の育種方法は知られていない。
【0005】
エタノールは、炭素源として廃糖蜜などの糖質原料またはトウモロコシ、ジャガイモなどの澱粉質原料などから発酵法により製造される。発酵は通常30〜43℃で行われるが、発酵温度の上昇は酵母の死滅、増殖不良あるいは発酵力の低下を引き起こすことから、通常は30〜35℃の温度になるように冷却が行われる。しかし、夏場など気温の上昇する時期には冷却が不十分となり、アルコール発酵の途中で培養温度が35〜38℃程度まで上昇する場合がある。このため、アルコール発酵には通常発酵熱による温度上昇を抑えるために冷却が行われる。この冷却コストの削減などのために温度耐性を有する酵母が求められている。
【0006】
温度耐性を有する酵母の育種法としては、温度耐性に関与するミトコンドリアを導入する方法(非特許文献4参照)、ヒートショックタンパクHSP104を高発現させる方法(非特許文献5参照)などが報告されているが、アルコール発酵への応用については検討されていない。また、酵母を致死的でない温度で熱処理を行うと熱耐性が向上することが知られている(非特許文献6参照)が、この効果は一過性であり、アルコール発酵への応用は困難である。
【特許文献1】特公平7−71474号公報
【特許文献2】特開平7−213277号公報
【特許文献3】特開平7−79767号公報
【非特許文献1】アプライド・アンド・エンバイオロメンタル・マイクロバイオロジー(Appl. Environ. Microbiol.),61, 639-642(1995)
【非特許文献2】23回ヨーロピアン・ブリュワリー・コンベンション・プロシーディング(23rd Europran Brewry Conv., Proc.), 297-304 (1991)
【非特許文献3】カレント・ジェネティクス(Curr. Genet.), 20, 453-456 (1991)
【非特許文献4】Curr. Genet., 13, 461-469 (1988)
【非特許文献5】Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 5301-5306 (1996)
【非特許文献6】J. Bacteriol., 156, 1363 (1983)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、冷蔵生地製パン法およびエタノール製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質、または配列番号1に示すアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつ発酵能の低温感受性を示す変異を相補するタンパク質、および該タンパク質をコードする遺伝子、ならびに配列番号1に示す塩基配列からなるDNA、または配列番号1に示す塩基配列において1もしくは複数のDNAが付加、欠失もしくは置換されており、かつ発酵能が低温感受性を示す変異を相補するDNAからなる遺伝子に関する。また、本発明は、サッカロミセス(Saccharomyces)属に属し、染色体上の上記の遺伝子が不活性化されていることを特徴とする、発酵能が低温感受性を示す酵母、該酵母を含有する生地、該酵母を生地に添加することを特徴とするパンの製造法、該酵母を培地に培養し、培養物中にエタノールを蓄積させ、該培養物からエタノールを採取することを特徴とするエタノールの製造法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発酵能が低温感受性を示す変異を相補するタンパク質または遺伝子、該遺伝子を不活性化して得られる冷蔵耐性酵母、該酵母を用いたパンおよびエタノールの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、発酵能が低温感受性を示すとは、低温貯蔵の温度帯で実質的に発酵能を有さず、かつ低温貯蔵後、発酵またはホイロの温度帯で正常な発酵能を有する性質を示すことを意味する。例えば、パン酵母の場合は、5℃で実質的に生地膨張能を有さず、かつ5℃で1〜7日間の冷蔵貯蔵後、20〜40℃で正常な生地膨張能を有する性質を示すことを、アルコール酵母の場合は、5℃で実質的にアルコール発酵を示さず、かつ5℃で1〜7日間の冷蔵貯蔵後、20〜40℃で正常なアルコール発酵能を有する性質を示すことを意味する。
【0011】
発酵能が低温感受性を示す変異を相補する遺伝子を単離し、該遺伝子配列を決定し、該遺伝子を不活性化するために用いる、遺伝子工学または生物工学に関する基本的操作については、市販の実験書、例えば、遺伝子マニュアル 講談社、高木康敬編 遺伝子操作実験法 講談社、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning )コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory )(1982)、モレキュラー・クローニング第2版(Molecular Cloning, 2nd ed.)コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory )(1989)、メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology ), 194 (1991) 、実験医学別冊・酵母による遺伝子実験法 羊土社(1994)等に記載された方法に従って行うことができる。
【0012】
本発明の発酵能の低温感受性を示す変異を相補する遺伝子(以下、低温感受性を相補する遺伝子という)は、例えば特開平5-336872号公報に記載のサッカロミセス・セレビジェRZT-3(FERM BP-3871)株(以下、RZT-3株という)が有する発酵能の低温感受性を相補する遺伝子として単離することができる。すなわち、低温感受性を相補する遺伝子をもつ酵母のDNAライブラリーでRZT-3株を形質転換し、発酵能の低温感受性を示す変異を相補された株からDNAを取得することにより低温感受性を相補する遺伝子を単離することができる。
【0013】
低温感受性を相補する遺伝子を持つ酵母のDNAライブラリーは、野生型遺伝子を持つ酵母、例えばサッカロミセス・セレビジェX2180-1B株(以下、X2180-1B株という)の染色体DNAを制限酵素で切断し、得られたDNA断片を酵母中で保持することが可能なベクターと連結することによって作製することができる。 染色体DNAの切断に用いる制限酵素としては、染色体DNAを切断することができればいずれも用いることができるが、好ましくは20Kbp以下のDNA断片を生じさせる制限酵素を用いる。また、染色体DNAは、制限酵素によって完全に切断しても、部分的に切断しても構わない。
【0014】
酵母中で保持することが可能なベクターとしては、YCp型ベクター、YEp型ベクター、YRp型ベクター、YIp型ベクターおよびYAC(酵母人工染色体)ベクター等があげられる。
DNAライブラリーのRZT-3 株への形質転換は、スフェロプラスト法[例えばプロシーディングス・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンスUSA(Proc. Natl. Acad. Sci. USA), 75, 1929-1933 (1978)]、酢酸リチウム法[例えば、ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J. Bacteriol.),153, 163-168 (1983) ]、エレクトロポレーション法[例えばメソッズ・イン・エンザイモロジー, 194, 182-187 (1991)]等、遺伝子工学ないし生物工学の分野で慣用されている方法に従って行うことができる。
【0015】
発酵能が低温感受性を示す変異を相補したことは、形質転換した酵母を低温での増殖あるいは低温での発酵能を調べることによって確認することができる[アプライド・アンド・エンバイオロメンタル・マイクロバイオロジー, 61, 639-642 (1995)]。低温での発酵能を調べるには、例えば以下に示す色素寒天重層法等を用いることができる。評価したい株をYPG寒天培地(1%酵母エキス、2%ペプトン、3%グリセロール、2%寒天)にて30℃で培養してコロニーを形成させた後、培地上に色素寒天(0.5%酵母エキス、1%ペプトン、10% シュークロース、0.02% ブロムクレゾールパープル、1%寒天、pH7.5)を重層し、低温、例えば5℃に保持する。ブロムクレゾールパープルはpH指示薬であり、重層した直後は紫色を示しているが、酵母が発酵するとコロニーの周囲の培地のpHが低下し、コロニーの周辺の色調が黄色に変化する。従って、重層したプレートを低温に保持している間にコロニーの周辺の色調が黄色に変化した株を、低温での発酵性を示す株として選択することができる。
【0016】
酵母からプラスミドを回収する方法および回収したプラスミドを大腸菌に形質転換する方法としては、遺伝子工学の分野で慣用されている方法を用いることができる。酵母からプラスミドを回収する方法としては、例えば実験医学別冊・酵母による遺伝子実験法、羊土社(1994)に記載されている方法が、回収したプラスミドを大腸菌に形質転換する方法としては、例えばモレキュラー・クローニング第2版、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(1989)に記載されている方法があげられる。
【0017】
低温感受性を相補する遺伝子の塩基配列は、マクサム・ギルバート法、ジデオキシ法など、遺伝子工学の分野で慣用されている方法により決定することができる。
低温感受性を相補する遺伝子がコードするポリペプチドは、現在の分子遺伝学的知識を用いれば容易に求めることができる。必要があれば、各種コンピュータを用いた解析も可能である[例えば、細胞工学, 14, 577-588 (1995)]。低温感受性を相補する遺伝子にコードされるポリペプチドは、例えば発酵能が低温感受性を示す酵母において発酵能の低温感受性を抑制するものとして利用することが可能性である。
【0018】
本発明において、低温感受性を相補する遺伝子の塩基配列および該遺伝子のコードするポリペプチドのアミノ酸配列が明らかになったことにより、例えば低温感受性を相補する遺伝子の破壊、プロモーターの改変による低温感受性を相補する遺伝子の発現制御あるいは発現量の改変、低温感受性を相補する遺伝子のプロモーターを利用した各種遺伝子の発現、低温感受性を相補する遺伝子と各種遺伝子を融合した遺伝子および融合ポリペプチドの作製などを、例えばメソッズ・イン・エンザイモロジー, 194, 594-597 (1991) に記載の方法を用いて行うことができる。
【0019】
低温感受性を相補する遺伝子を酵母内で不活性化させる方法について、以下に説明する。
本発明において遺伝子の不活性化とは、遺伝子の破壊[例えば、メソッズ・イン・エンザイモロジー, 194, 281-301 (1991) ]、遺伝子への転移因子の導入[例えば、メソッズ・イン・エンザイモロジー, 194, 342-361 (1991) ]、遺伝子のアンチセンス遺伝子の導入・発現[例えば、特公平7-40943 、23回ヨーロピアン・ブリュワリー・コンベンション・プロシーディング(23rd European Brewery Conv. Proc.), 297-304 (1991)]、遺伝子の近傍へのサイレンシングに関与するDNAの導入[例えば、セル(Cell), 75, 531-541 (1993)]、遺伝子のコードするポリペプチドに対する抗体の処理[例えば、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(European J. Biochem.), 231, 329-336 (1995)]等、遺伝子工学的手法または生物工学的手法を用いて、遺伝子または該遺伝子のコードするポリペプチドが本来有する機能を低下または失活させることを意味する。
【0020】
低温感受性を相補する遺伝子の不活性化に用いられる酵母としては、サッカロミセス属に属する酵母、好ましくはサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に属する酵母であれば、パン酵母、清酒酵母、ワイン酵母、ビール酵母、味噌・醤油酵母、エタノール生産酵母などいずれを用いてもよい。
低温感受性を相補する遺伝子の破壊とは、低温感受性を相補する遺伝子と相同的な塩基配列を持つが付加、欠失、置換などの変異を起こして低温感受性を示す変異を相補する遺伝子として働き得ないDNAを、酵母の細胞中へ導入して相同的組換えを起こさせ、この変異をゲノム上の遺伝子に取込ませることをいう。
【0021】
遺伝子の破壊に用いるDNAの作製方法としては、例えば制限酵素等により低温感受性を相補する遺伝子を切断して、DNAを付加、欠失、置換等を行う方法または低温感受性を相補する遺伝子を細胞外で変異(インビトロ・ミュータジェネシス)させる方法などが用いられる。DNAを付加、置換する方法としては、マーカー遺伝子を挿入する方法などを用いてもよい。
【0022】
低温感受性を相補する遺伝子を破壊するには、低温感受性を相補する遺伝子のプロモーター部分、オープン・リーディング・フレーム部分、ターミネーター部分等いずれの部位を破壊してもよく、各部位を組み合わせて破壊してもよい。また、低温感受性を相補する遺伝子の全体を欠失させることによっても遺伝子を破壊することができる。
低温感受性を相補する遺伝子を破壊するには、例えば、酵母の低温感受性を相補する遺伝子を破壊するためのプラスミドあるいはプラスミドの断片を酵母に形質転換し、形質転換されたプラスミドあるいはプラスミドの断片に含まれるDNA断片が酵母のゲノム上の遺伝子と相同組換えを起こすことによって行うことができる。相同組換えを起こすDNA断片としては、低温感受性を相補する遺伝子の破壊用プラスミドまたはその断片と酵母のゲノム上の低温感受性を相補する遺伝子とが、相同組換えを起こせる程度に相同性を持っていればよい。相同組換えを起こすDNA断片であるかどうかは、該DNA断片を酵母に導入し、相同組換えを起こした株が分離できるかどうか、すなわち発酵能が低温感受性を示す株が分離できるかどうかで調べることができる。
【0023】
低温感受性を相補する遺伝子の破壊用プラスミドを作製するために用いるベクターとしては、酵母中で保持することが可能なベクターの他、大腸菌中で保持することが可能なベクター、例えばpUC19、pBR322、BluscriptII SK+など、いずれを用いてもよい。
マーカー遺伝子としては、酵母において用いることのできるマーカー遺伝子であれば、例えばURA3、TRP1、LEU2、HIS3等の栄養要求性変異を相補する遺伝子、G418、ヒグロマイシンB、セルレニン、パラフルオロフェニルアラニン等の化学物質に対する耐性遺伝子[例えば、ジャーナル・オブ・ファーメンテーション・アンド・バイオエンジニアリング(J. Ferment. Bioeng.), 76, 60-63 (1993)、エンザイム・アンド・マイクロバイアル・テクノロジー(Enzyme and Microb. Technol.), 15, 874-876 (1993)]等など、いずれを用いてもよい。
【0024】
酵母のゲノム上の低温感受性を相補する遺伝子の破壊は、低温感受性を相補する遺伝子の破壊用プラスミドで酵母を形質転換することによって行うことができる。
酵母の形質転換は、遺伝子工学ないし生物工学の分野で慣用されている方法、例えば上記のスフェロプラスト法、酢酸リチウム法、エレクトロポーレーション法等によって行うことができる。
【0025】
低温感受性を相補する遺伝子の破壊用プラスミドにマーカー遺伝子を導入しておくことにより、そのマーカーを指標にして、容易に形質転換体を分離することができる。また、酵母のゲノム上の低温感受性を相補する遺伝子が破壊されると発酵能が低温感受性を示すことを指標にして、形質転換体を分離することもできる。低温感受性を相補する遺伝子が破壊された株の低温感受性の確認は、当該酵母の低温での増殖あるいは発酵能を調べることによって行うことができる。
【0026】
上記方法によって作製された低温感受性を相補する遺伝子が不活性化されていることを特徴とする、発酵能が低温感受性を示す酵母としては、例えばサッカロミセス・セルビジェYHK1243株(以下、YHK1243株という)があげられる。本菌株は、ブダペスト条約に基づいて平成 7年12月 7日付で通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(茨城県つくば市東1丁目1番3号)にFERM BP-5327として寄託されている。
YHK1243株が、発酵能の低温感受性が低下していることを示す試験例を以下に示す。
【0027】
試験例1 発酵能の低温感受性試験
5mlのYPD培地(1%酵母エキス、2%ペプトン、2%グルコース)の入った試験管にYHK1243株を1白金耳植菌し、30℃で16時間培養した。培養後、その培養液の1mlを50mlのYPD培地の入った300mlの三角フラスコに移植し、30℃で24時間培養した。培養終了後、遠心分離によって集菌し、脱イオン水で2回洗浄した後、得られた湿菌体0.61gを50mlの発酵試験培地[イースト・ナイトロジェン・ベースW/Oアミノ酸(ディフコ社製)0.67% 、スクロース2%、コハク酸ナトリウム1%(濃塩酸によりpH4.5 に調整)]の入った内径22mm、高さ200mmの試験管に懸濁し、試験管の口にシリコンチューブを取り付けたシリコン栓で封をした後、5℃で24時間培養を行った。培養期間中に発生した気体をシリコンチューブを通して飽和食塩水中にて捕集して、気体の体積を測定し、菌体1g当たりの炭酸ガス発生量を算出した。YOY655株についてもYHK1243 株と同様な方法を用いて菌体1g当たりの炭酸ガス発生量を算出した。
【0028】
結果を第1表に示す。
【0029】
【表1】

YHK1243 株の5℃での炭酸ガス発生量は、YOY655株の炭酸ガス発生量の約1/9であった。
【0030】
試験例2 発酵能の低温感受性試験(2)
30mlのYPD培地の入った300mlの三角フラスコにYHK1243株を1白金耳植菌し、30℃で24時間培養した。培養後、その培養液全量を270mlの糖蜜培地(糖蜜3%、尿素0.193%、リン酸2水素カリウム0.046%、消泡剤2滴)の入った2リットルのバッフル付三角フラスコに移植し、30℃で24時間培養した。培養終了後、遠心分離によって集菌し、脱イオン水で2回洗浄した後、素焼製吸収板の上で水分を除去して菌体を取得した。YOY655株についてもYHK1243 株と同様な方法を用いて菌体を取得した。
【0031】
これらの菌体を用いて、以下に示す生地組成および工程により、YOY655株およびYHK1243 株をそれぞれ含有する生地を調製した。

生地組成: (重量:g)
強力粉 100
砂 糖 5
食 塩 2
酵母菌体(YHK1243 株またはYOY655株) 3
水 62
工程:
ミキシング(ナショナルコンプリートミキサーを用いて100rpmで2分間)

分割(全生地重量の5分の1ずつ;34.4g)

冷蔵保存(5℃の冷蔵庫中で7日間)

解冷(30℃、相対湿度85%で30分間)

30℃で2時間の炭酸ガス発生量をファーモグラフ(アトー社製)を用いて測定 得られた生地を冷蔵保存後、30℃での炭酸ガス発生量を測定し、生地の冷蔵耐性の評価を行った。
【0032】
結果を第2表に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
YHK1243 株を含有する生地は、YOY655株のそれに比べて冷蔵保存後、30℃での炭酸ガス発生量が高くなっていた。また、冷蔵保存期間中に、YOY655株を含有する生地では膨張が観察されたが、YHK1243 株を含有する生地では膨張は実質的に観察されなかった。
サッカロミセス属に属し、低温感受性を相補する遺伝子が不活性化されていることを特徴とする発酵能が低温感受性を示す酵母(以下、本発明の酵母という)を含有する生地について、以下に説明する。
【0035】
本発明の酵母を含有する生地とは、小麦粉、ライ麦粉等に本発明の酵母、食塩、水、さらに必要に応じて油脂、砂糖、ショートニング、バター、脱脂粉乳、イーストフード、卵等の副原料を加え、こね上げたものをいう。
本発明の酵母を含有する生地を冷蔵する条件としては、-5〜10℃、好ましくは0〜5℃で1〜10日間、好ましくは1〜7日間である。
【0036】
本発明の酵母を含有する生地の製造法および本発明の酵母を生地に添加することを特徴とするパンの製造法について、以下に説明する。
本発明の酵母を炭素源、窒素源、無機物、アミノ酸、ビタミン等を含有する通常の培地中、好気的条件下、温度27〜32℃に調節しつつ培養し、菌体を回収、洗浄を行うことによりパン製造に適した酵母菌体を得ることができる。
【0037】
培地中の炭素源としてはグルコース、シュークロース、澱粉加水分解物、糖蜜等が使用できるが、特に廃糖蜜が好適に用いられる。
窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、尿素、酵母エキス、コーン・スチープ・リカー等が用いられる。
無機物としては、リン酸マグネシウム、リン酸カリウム等が、アミノ酸としてはグルタミン酸等が、ビタミンとしては、パントテン酸、チアミン等が用いられる。
【0038】
培養は、流加培養が適当である。
培養終了後、本発明の酵母菌体を遠心分離等により回収し、これを食塩、水、さらに必要に応じて、油脂、砂糖、ショートニング、バター、脱脂粉乳、イーストフード、卵等と併せて小麦粉、ライ麦粉等に併せて加えて混ぜ合わせることにより、本発明の酵母を含有する生地を得る。
【0039】
得られた生地を用いて通常の製パン法を用いることにより、パンを製造することができる。代表的な食パン、菓子パン等の製パン法には直捏法と中種法があり、前者は、全原料を最初から混ぜ合わせておく方法であり、後者は、まず小麦粉の一部に酵母と水を加えて中種をつくり、発酵後に残りの原料を合わせる方法である。
直捏法では、全原料を混捏した後、25〜30℃で発酵し、分割、ベンチを行い、成型、型詰めする。ホイロ(35〜42℃) を経た後、焼成 (200 〜240 ℃) する。中種法では、全使用小麦粉の約7割、酵母、イースト・フード等に水を加え混捏し、25〜35℃で3〜5時間発酵させた後、残りの原料(小麦粉、食塩、水等)を追加し、混捏(本捏)、分割、ベンチを行い、成型、型詰めする。ホイロ(35〜42℃) を経た後、焼成(200〜240 ℃) する。
【0040】
デニッシュペストリー、クロワッサン等を製造する場合は、例えば次の様にして行う。
小麦粉、食塩、本発明の酵母、砂糖、ショートニング、卵、脱脂粉乳、水を加え、混捏し、生地とする。ついで、バター、マーガリン等の油脂を生地に包み、圧延、折りたたみを繰り返すことにより、生地と油脂の多層を作る。生地を調製する際に、油脂を折り込む作業をロールインという。ロールインとしては、捏上生地温度を15℃位に低くして捏上げ、目的とする層数まで冷却することなく行ってしまう方法および折り込み作業中に冷蔵庫または冷凍庫において冷却を数回行う方法、いわゆるリタード製法の2つの方法がある。
【0041】
得られた生地を圧延、分割、成型して型詰めする。ホイロ(30〜39℃) を経た後、焼成(190〜210 ℃) する。
本発明の酵母を培地に培養し、培養物中にエタノールを蓄積させ、該培養物からエタノールを採取することを特徴とするエタノールの製造法について、以下に説明する。
本発明の酵母によるエタノールの製造は、通常の酵母の培養に用いられる方法で行われる。このとき、本発明で用いられる微生物を、ゲル状担体、たとえば寒天、アルギン酸ソーダ、ポリアクリルアミドまたはカラギーナンなどに固定化して用いてもよい。
【0042】
本発明におけるエタノール製造用の培地は、炭素源、窒素源、無機物および必要に応じてその他の栄養素を適量含有する培地であれば、合成培地または天然培地のいずれでもよい。
炭素源としては、少なくともスクロースを含む発酵原料を用いるが、その他には本発明で用いられる微生物が資化できる炭素源、たとえばグルコース、フルクトース、ガラクトースまたはマルトースなどの糖類などいずれも用いることができる。スクロースを含む発酵原料としては、スクロースを含んでいれば合成原料または天然原料のいずれでもよいが、たとえばサトウキビの搾汁、サトウダイコン(ビート)の搾汁、またはこれらの搾汁を用いる製糖工程においてスクロース(砂糖)を晶出させた後に得られる廃糖蜜などが用いられる。
【0043】
窒素源としては、尿素、アンモニア、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどの有機または無機の窒素源、コーンスチープリカー、ペプトン、肉エキス、酵母エキスなどの天然窒素源などが用いられる。
無機塩としては、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン、硫酸第一鉄、塩化カリウム、塩化ナトリウムなどが用いられる。
【0044】
その他の栄養素としては、サイアミン塩酸塩、p-アミノ安息香酸、葉酸、リボフラビン、イノシトールなどのビタミン類などが用いられる。
培養は、通常振盪培養または通気攪拌培養などの好気条件下で行われる。温度は25〜50℃、好ましくは30〜43℃、培養のpHは3 〜7 、好ましくは4 〜6 に保持され、培養は通常1 〜10日で終了する。
【0045】
培養終了後、培養液から蒸留などの通常の方法を用いることによってエタノールを回収することができる。
【実施例1】
【0046】
低温感受性を相補する遺伝子のクローニング
1.RZT-3 株へのura3変異の付与
発酵能が低温感受性を示す酵母であるRZT-3株に、プラスミドを導入するためのマーカーとして、ボーク(Boeke)らの方法[モレキュラー・アンド・ゼネラル・ジェネティクス(Mol. Gen. Genet.), 197, 345-346 (1984) ]に従って、ura3変異を付与した。すなわち、RZT-3株をYPD培地に一白金耳植菌し、30℃で一晩振とう培養した。得られた培養液100μlをFOAプレート[0.67% イーストナイトロジェンベースW/Oアミノ酸(ディフコ社製) 、0.1% 5-フルオロオロチン酸、0.005%ウラシル、2%グルコース、2%寒天]に塗布し、30℃で3日間培養した。培養終了後、生じたコロニーのうち、ウラシル要求性であるが、URA3をマーカーとして持つプラスミドYCp50で形質転換した場合にウラシル要求性が相補され、かつ発酵能が低温感受性を示す1菌株を選抜し、サッカロミセス・セルビジェRZT-3u株(以下、RZT-3u株という)とした。
【0047】
2.クローニング
X2180-1B株(Yeast Genetic Stock Centerから入手)の染色体DNAをSau3AIで部分分解したDNA断片を、プラスミドYCp50のBamHI部位に挿入し、遺伝子ライブラリーを作製した。遺伝子ライブラリーを用いて、RZT-3u株を形質転換し、ウラシル非要求性で形質転換体を選抜した。得られた形質転換体を、YPG寒天培地上にて30℃で培養してコロニーを形成させた後、色素寒天を重層し、 5℃で 1〜 3日間培養した。 5℃での培養期間中にコロニーの周辺の色調が黄色に変化した株、すなわち 5℃において発酵が観察された株を、発酵能の低温感受性を示す変異が相補された株として分離し、その株から組換え体のプラスミドpHK162を抽出した。
【0048】
なお、プラスミドpHK162をエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)JM109 株に導入し、エシェリヒア・コリEHK162株を調製した。本菌株は、ブダペスト条約に基づいて平成7年12月7日付で通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM BP-5328として寄託されている。
【0049】
3.相補性試験
プラスミドpHK162には、Sau3AI/BamHI〜BamHIの約12KbpのDNA断片が挿入されていた。プラスミドpHK162を各種の制限酵素で切断し、得られたDNA断片を電気泳動により分離して分子量を測定し、第1図に示すとおり制限酵素地図を作成した。この制限酵素地図に基づき、Sau3AI/BamHI〜BamHIの約12KbpをSphI、BamHI、MluIおよびClaIで切断して得られるDNA断片をプラスミドYCp50に挿入した組換え体プラスミドを調製した。それぞれの組換え体プラスミドでRZT-3u株を形質転換した。
【0050】
得られた形質転換体について、発酵能の低温感受性を示す変異を相補するか否かを調べた。その結果は、第1図に示すとおり、プラスミドpHK162でRZT-3u株を形質転換した場合には発酵能の低温感受性を示す変異が相補されたが、その他の組換え体プラスミドでRZT-3u株を形質転換した場合には発酵能の低温感受性を示す変異は相補されなかった。
以上のことより、RZT-3u株の発酵能の低温感受性を示す変異を相補するためには、第1図におけるBamHI(A)(配列番号1の塩基配列の1291〜1296番目)〜SphI(B)(配列番号1の塩基配列の7675〜7680番目)の約6.5KbpのDNA断片の5'末端の上流域および3'末端の下流域にさらに長い配列をもつDNA断片が必要であることが示された。
【0051】
4.塩基配列の決定
プラスミドpHK162に挿入されている12KbpのDNA断片の塩基配列をダイデオキシ法及びDNAシーケンサー(ファルマシアLKB 社製、ALF DNA シークエンサー II )を用いて決定した。その結果、第1図のBamHI(A)およびSphI(B) で切断される約6.5Kbpの領域をオープン・リーディング・フレームに含む遺伝子が見いだされた。この遺伝子をCSF1遺伝子と命名した。配列番号1のアミノ酸配列に示されるように、決定された塩基配列より予想されるCSF1遺伝子のコードするポリペプチドは、2958アミノ酸残基、分子量338kDaからなるものであった。他の遺伝子とのDNAの相同性を調べた結果、CSF1遺伝子のオープン・リーディング・フレームのN末端側約140アミノ酸を含むCSF1遺伝子の上流側がサッカロミセス・セレビジェのGAA1遺伝子[ハンバーガーら(Hamburger, et al.)ジャーナル・オブ・セル・バイオロジー(J. Cell Biol.), 129, 629-639 (1995)]の塩基配列として報告されている配列の上流側(GAA1遺伝子のコードされる領域の外側)と一致した。しかし、ハンバーガーらの報告はGAA1遺伝子に関するものであり、GAA1遺伝子の上流側に別の遺伝子(CSF1遺伝子)が存在することに関しての記述は見られない。また、彼らの報告している塩基配列は配列番号1の塩基配列の198番目のTと199番目のGとの間に1塩基Tが挿入されており、CSF1遺伝子がコードするポリペプチドは彼らの報告している配列から推定することはできない。
【実施例2】
【0052】
発酵能の低温感受性を示す酵母の調製
1.遺伝子破壊用プラスミドの調製
約5μgのプラスミドpHK162を20μlのH緩衝液[50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5) 、10mM塩化マグネシウム、1mMジチオスレイトール、100mM塩化ナトリウム]に溶解し、10単位の制限酵素BamHIを加え、30℃で3時間反応させた。反応生成物を0.8%アガロースゲル電気泳動により分離し、第1図におけるBamHI(A)〜BamHI(C)の 約8kb のDNA断片を切り出し、GENECLEAN IIキット(バイオ101社製)を用いて抽出精製した。また、約5μgのプラスミドpHK162を約5μgのプラスミドpUC19に代える以外は同様な方法を用いて約2.8kbのDNA断片を抽出精製した。プラスミドpHK162由来のの約8kbのDNA断片1μgとプラスミドpUC19由来の約2.8kbのDNA断片0.1μgとをLigation Pack(ニッポンジーン社製)を用いて16℃で1晩連結反応を行った。
【0053】
反応終了後、反応液2μlを用いてコンピテント・ハイ E. coli JM109株(東洋紡社製)を形質転換した。得られた形質転換株を5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-ガラクトシド(以下、X-galという)アンピシリンLB寒天培地に塗布し、37℃で20時間培養を行った。なお、X-galアンピシリンLB寒天培地は、アンピシリンを50μg/ml含むLB寒天培地[1%バクトトリプトン(ディフコ社製) 、0.5%酵母エキス、1%塩化ナトリウム、1.5%寒天]に50μlの4% X-gal および25μlのイソプロピル-1-チオ-β-D-ガラクトシドを滴下し、スプレッダーで塗り広げ、軽く乾燥させて作製した。培養終了後、生じた白色コロニーを単離し、これを培養して得られたプラスミドDNAを抽出精製し、プラスミドpHK179を調製した。
【0054】
約5μgのプラスミドpHK179を20μlのH緩衝液に溶解し、10単位の制限酵素MluIおよび10単位の制限酵素SpeIを加え、37℃で3時間反応させた。反応生成物をDNA Blunting Kit(宝酒造社製)を用いて平滑末端処理を行った。処理物を0.8%アガロースゲル電気泳動により分離後、第1図におけるMluI(配列番号1の塩基配列の4388〜4393番目)〜SpeI(配列番号1の塩基配列の5027〜5032番目)の約0.6kbのDNA断片を除いた約10Kbpの断片を切り出し、GENECLEAN IIキットを用いて抽出精製した。また、ウラシル要求性変異を相補するマーカー遺伝子URA3をHindIII〜HindIIIに含むベクターであるプラスミドYEp24を、20μlのM緩衝液[10mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5) 、10mM塩化マグネシウム、1mMジチオスレイトール、50mM塩化ナトリウム]に約5μg溶解し、10単位の制限酵素HindIIIを加え、37℃で3時間反応させた。反応生成物をDNA Blunting Kit(宝酒造社製)を用いて平滑末端処理を行った。処理物を0.8%アガロースゲル電気泳動により分離後、URA3を含む約1.1kbの断片を切り出し、GENECLEAN IIキットを用いて抽出精製した。
【0055】
プラスミドpHK179由来の約10kbのDNA断片0.5μgとプラスミドYEp24由来の約1.1kbのDNA断片0.5μgとをLigation Packを用いて16℃で1晩連結反応を行った。反応終了後、反応液2μlを用いてコンピテント・ハイ E. coli JM109株を形質転換した。得られた形質転換株をアンピシリンを50μg/ml含むLB寒天培地に塗布し、37℃で20時間培養を行った。培養終了後、生じたコロニーを単離し、これを培養して得られたプラスミドDNAを抽出精製し、CSF1遺伝子の破壊用プラスミドpHK188を調製した。プラスミドpHK188が目的とするプラスミドであることは、制限酵素BamHIで切断する前後のプラスミドをそれぞれ0.8%アガロースゲル電気泳動により分離し、分子量を測定することにより確認した。
なお、CSF1遺伝子の破壊用プラスミドの作製工程の概略を、第2図に示す。
【0056】
2.CSF1遺伝子の破壊
プラスミドpHK188を用いてサッカロミセス・セルビジェの一倍体株であるYOY655u株の持つCSF1遺伝子の破壊を行った。YOY655u株は、サッカロミセス・セルビジェの一倍体株であるYOY655株にウラシル要求性(ura3)変異を導入した株で、発酵能等の性質はYOY655株と同じである。YOY655u株をYPD培地100mlの入った三角フラスコへ接種し、30℃で2〜4×107になるまで振とう培養した。培養終了後、遠心分離(2500rpm、5分)で集菌し、得られた菌体を酢酸リチウム法によりプラスミドpHK188に接触させた。CSF1遺伝子とプラスミドpHK188との相同組換えを促進するために、形質転換前にプラスミドpHK188をBamHIで完全に切断し、直線化してから用いた。プラスミドpHK188に接触させたYOY655u株を、SGlu寒天培地(0.67% イースト・ナイトロジェン・ベースW/Oアミノ酸、2%グルコース、 2%寒天)上に接種し、30℃で2〜5日間培養した。培養終了後、生じたコロニーのうちの1つから、YOY655u株のウラシル要求性が相補された形質転換株として、 YHK1243株を取得した。
【0057】
YHK1243株、YOY655u株およびRZT-3株をYPG寒天培地上に接種し、30℃で1〜2日間培養してコロニーを形成させた後、培地上に色素寒天を重層し、5℃で3日間培養した。YHK1243株およびRZT-3株のコロニー周辺の色調は、培養期間を通じて変化がみられなかったが、YOY655u株のはコロニー周辺の色調は培養1日目で黄色に変化した。
【実施例3】
【0058】
冷蔵生地製パン法
1.パン酵母の培養
30mlのYPD培地の入った300mlの三角フラスコにYOY655株およびYHK1243 株をそれぞれ1白金耳植菌し、30℃で24時間培養した。培養後、その培養液全量を270mlの糖蜜培地(糖蜜3%、尿素0.193%、リン酸2水素カリウム0.046%、消泡剤2滴)の入った2リットルのバッフル付三角フラスコに移植し、30℃で24時間培養した。培養終了後、遠心分離によって集菌し、脱イオン水で2回洗浄した後、素焼製吸収板の上で水分を除去して菌体を得た。得られた菌体を製パンに用いた。
【0059】
2.製パン
以下に示す生地組成および工程によりパンを得た。

生地組成: (重量:g)
強力粉 100
砂 糖 5
食 塩 2
酵母菌体 2
水 62
工程:
ミキシング(100rpm、2分)
分 割 (34.4g)
貯 蔵 (5℃、7日間)
ホイロ (40℃、90%RH、75分)
焼 成 (220 ℃、25分)

結果として、酵母菌体としてYHK1243 株を用いて得られたパンは、YOY655株を用いて得られたパンに比べて、大きな容積を有していた。
【実施例4】
【0060】
アルコール発酵
酵母の培養およびアルコール発酵
5ml のYPD 培地の入った試験管にYOY655株およびYHK1243 株をそれぞれ1白金耳ずつ植菌し、30℃で24時間培養した。培養終了後、培養液の2ml を20mlの糖蜜培地(糖蜜25% 、硫酸アンモニウム0.2%)の入った太型試験管に移植し、37℃で培養した。培養開始16時間後および40時間後、培養液を0.5ml サンプリングし、培養液中のエタノール濃度を測定した。
【0061】
結果を第3表に示す。
【0062】
【表3】

【0063】
第3表に示されるとおり、YHK1243 株を用いた場合、YOY655株を用いた場合にに比べて、37℃でのエタノール生産量は高かった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、発酵能が低温感受性を示す変異を相補するタンパク質または遺伝子、該遺伝子を不活性化して得られる冷蔵耐性酵母、該酵母を用いたパンおよびエタノールの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】第1図は、CSF1遺伝子を含むDNA断片の制限酵素地図、およびCSF1遺伝子の機能領域限定のために行ったサブクローニングと相補性試験の結果を示す図である。
【図2】第2図は、CSF1遺伝子の破壊用プラスミドの作製工程を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サッカロミセス属に属する酵母において、染色体に含まれる
(1)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、
(2)配列番号1に示すアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつ発酵能が低温感受性を示す変異を相補するタンパク質をコードする遺伝子、
(3)配列番号1に示す塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、または
(4)配列番号1に示す塩基配列において1もしくは複数のDNAが付加、欠失もしくは置換されており、かつ発酵能が低温感受性を示す変異を相補するDNAからなる遺伝子を不活性化することを特徴とする、発酵能が低温感受性を示す酵母の製造法。
【請求項2】
サッカロミセス属に属し、染色体に含まれる
(1)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、
(2)配列番号1に示すアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列からなりかつ発酵能が低温感受性を示す変異を相補するタンパク質をコードする遺伝子、
(3)配列番号1に示す塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、または
(4)配列番号1に示す塩基配列において1もしくは複数のDNAが付加、欠失もしくは置換されており、かつ発酵能が低温感受性を示す変異を相補するDNAからなる遺伝子が不活性化されていることを特徴とする、発酵能が低温感受性を示す酵母。
【請求項3】
サッカロミセス・セルビジェに属する請求項2記載の酵母。
【請求項4】
配列番号1に示す塩基配列の4388〜7885番目が遺伝子破壊されている請求項2または3記載の酵母。
【請求項5】
サッカロミセス・セルビジェYHK1243 (FERM BP-5327)株。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか1つに記載の酵母を含有する生地。
【請求項7】
請求項2〜5のいずれか1つに記載の酵母を生地に添加することを特徴とするパンの製造法。
【請求項8】
請求項2〜5のいずれか1つに記載の酵母を培地に培養し、培養物中にエタノールを蓄積させ、該培養物からエタノールを採取することを特徴とするエタノールの製造法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−101879(P2006−101879A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−316737(P2005−316737)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【分割の表示】特願平9−524202の分割
【原出願日】平成8年12月27日(1996.12.27)
【出願人】(505144588)協和発酵フーズ株式会社 (50)
【Fターム(参考)】