説明

新規高分子有機化合物およびそれを用いたイオン交換体、電解質膜、触媒、膜電極接合体、燃料電池

【課題】スルホン酸基またはスルホン酸塩基を有する含窒素複素環を有する新規高分子有機化合物の提供、およびそれを用いたイオン交換体、電解質膜、触媒、膜電極接合体、燃料電池の提供。
【解決手段】(A)含窒素複素環を有するエーテルからなる構成単位と、(B)スルホン酸基又はスルホン酸塩基を含有する構成単位と、の両方を分子内に有する高分子有機化合物、およびそれを用いたイオン交換体、電解質膜、触媒、膜電極接合体、燃料電池。


(式中のHCyは含窒素複素環を表し、compoundは化合物を表す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規高分子有機化合物およびそれを用いたイオン交換体、電解質膜、触媒、膜電極接合体、燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
含窒素複素環、特にピリジン環を有する有機化合物は、天然物として多く存在し、また医薬的に重要な化合物が数多く存在する。例えば、含窒素複素環を持つβ−ピコリン酸は抗皮膚病ビタミンである。
また、ビタミンB6も含窒素複素環を持つ有機化合物である。
【0003】
ピリジンを始めとする含窒素複素環は電子欠乏性の芳香環であり、種々の求電子置換反応に対して不活性で、そのため化学的安定性が非常に高いことで知られる。例えば、ピリジンは様々な化学反応における溶媒として用いられるほどである。東京工業大学の辻らはベンゼン環に二つの水酸基を持つカテコールを、ピリジン溶媒下、銅触媒により開環反応を行っている。これはすなわち、ピリジンが反応過程で発生するラジカルとも反応せず、ベンゼン環に比べ格段に高いラジカル耐性を有することを意味している(非特許文献1)。
【0004】
また、ピリジンを始めとする含窒素複素環を有する化合物は、様々な有機金属に配位した化合物を作り、この化合物は高性能な触媒として広く用いられている。これら有機金属試薬を用いた反応においては反応中間体として反応性の高いラジカル種を発生することが多く、触媒には高い安定性が求められる。
例えば、Bartonらはシクロヘキサンや硫化水素の酸化反応において、ピコリン酸やピコリン酸−N−オキシドが鉄と配位した触媒により、高収率で目的物が得られるとしている(非特許文献2)。
また、Bianchiらもトルエンの過酸化水素による酸化反応において、ピリジン−2−カルボン酸やピラジンカルボン酸が鉄と配位した触媒を用い、目的物のフェノールを高収率で得ている(非特許文献3)。
これらから示されるように、含窒素複素環とりわけピリジン環を有する化合物はその安定性ゆえに、安定した触媒化合物を作ることができ、触媒としても有用である。
【0005】
また、主鎖が含窒素複素環から成る高分子、とりわけピリジン環のみから成る高分子すなわちポリピリジンは、他の芳香族系高分子と比べて非常に高い化学的安定性を示し、また耐熱性も高い。そのため、様々な用途での利用が期待される物質である。
【0006】
ピリジン誘導体およびポリピリジンを機能性材料として実用化するには、その用途に応じた機能を発現するための官能基を導入する、すなわちこれらを化学修飾することが必要となる。
しかし、先に述べたように、ピリジンおよびポリピリジンはほとんどの求電子置換反応に対して極めて活性が低いため、化学修飾は容易ではない。
【0007】
求電子置換反応の例としては、ニトロ化、スルホン化、ハロゲン化およびFriedel−Crafts反応などが挙げられるが、ピリジンの場合これらの反応は非常に激しい条件でのみ(Friedel−Crafts反応は反応が進行しない)行われることが知られている(非特許文献4)。
【0008】
ポリピリジンを始めとする、含窒素複素環から成る高分子に関しても同様で、構成要素であるピリジンなどの含窒素複素環が化学的に安定であり、スルホン化を始めとする多くの求電子置換反応に対し不活性であるのと同様、これらの高分子を直接化学修飾することは非常に困難である。
加えて、低分子とは違い、これらの高分子が汎用の有機溶媒に不溶なものが多く反応が進みづらいことも化学修飾を困難にしている一因である。そのため、ポリピリジンのスルホン化を例に取ると、我々がその方法を開発するまでは、調査した限り報告例は一例も存在しなかった(特許文献1)。
【0009】
スルホン酸基のような官能基を有するポリピリジンを合成するには、ポリピリジンを直接反応させる以外にも、目的の官能基を有するピリジン誘導体を合成し、これをモノマーとして重合させる方法がある。
しかしモノマー合成もピリジンの化学的安定性の高さから容易ではない。そのため、CASを用い化合物調査したところ、例えば、主鎖にエーテル基を有し、スルホン酸基をも有するピリジン高分子有機化合物の報告例は、我々が調査した限り、存在しなかった。
【0010】
ところで、近年、環境問題がクローズアップされ、高効率な触媒開発および、燃料電池の開発が注目されている。前者は、反応時、使用するエネルギーを抑えることで環境負荷を低減させ、後者は、高いエネルギー効率を生み出す電池として期待されている。
ここで燃料電池とは、水素やメタノールなどの燃料を酸素または空気を用いて電気化学的に酸化することにより、燃料の化学エネルギーを電気エネルギーに変換して取り出すものである。
【0011】
このような燃料電池は、用いる電解質の種類によって、固体高分子型、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型、アルカリ型などに分類される。
このうち、陽イオン交換膜を電解質として用いる固体高分子型燃料電池は、用いる電解質膜を薄くすることにより燃料電池内の内部抵抗を低減できるため高電流で操作でき、小型化が可能である。このような利点から固体高分子型燃料電池の研究が盛んである。
【0012】
ここで、固体高分子電解質膜のラジカルによる劣化について説明する。
図1および図2に示したように、従来の固体高分子型燃料電池(PEFC)の単セル11は、固体高分子電解質膜1(パーフルオロカーボンスルホン酸膜)をそれぞれカーボンブラック粒子に触媒物質[主として白金(Pt)あるいは白金族金属(Ru、Rh、Pd、Os、Ir)]を担持した空気極側触媒層2と燃料極側触媒層3とで挟持したセルの空気極側触媒層2と燃料極側触媒層3とをそれぞれ空気極側ガス拡散層4と燃料極側ガス拡散層5で挟持して空気極6および燃料極7を構成した膜電極接合体12を備えている。
そして、空気極側ガス拡散層4と燃料極側ガス拡散層5に面して反応ガス流通用のガス流路8を備え、相対する主面に冷却水流通用の冷却水流路9を備えた導電性でかつガス不透過性の材料よりなる一組のセパレータ10により挟持して単セル11が構成される。
そして、空気などの酸化剤を空気極6に供給し、水素を含む燃料ガスもしくは有機物燃料を燃料極7に供給して発電するようになっている。
【0013】
すなわち、燃料極7、空気極6のそれぞれに反応ガスが供給されると、下記の電気化学反応が生じ直流電力を発生する。
燃料極側:2H2 →4H+ +4e-
空気極側:O2 +4H+ +4e- →2H2
燃料極側では水素分子(H2 )の酸化反応が起こり、空気極側では酸素分子(O2 )の還元反応が起こることで、燃料極7側で生成されたH+ イオンは固体高分子電解質膜1中を空気極6側に向かって移動し、e- (電子)は外部の負荷を通って空気極6側に移動する。
一方、空気極6側では酸化剤ガスに含まれる酸素と、燃料極7側から移動してきたH+イオンおよびe- とが反応して水が生成される。かくして、固体高分子形燃料電池は、水素と酸素から直流電流を発生し、水を生成することになる。
【0014】
しかし、前記空気極側の還元反応(酸素分子(O2 )の4電子還元)は難しく、空気極側において副反応として下記の電気化学反応(酸素分子(O2 )の2電子還元)が生じて多くのH22 が発生する。そして不純物としてFe(II)などが存在するとその触媒作用でH22 が分解され、OH・(OHラジカル)とOH- が生成する。
【0015】
空気極側:O2 +2H+ +2e- →H22
22 +Fe(II)→OH・+OH- +Fe(III)
生成したOH・(OHラジカル)は酸化力が大きく、固体高分子電解質膜1を酸化し分解し劣化する。
【0016】
そのため、固体高分子型燃料電池に用いる電解質膜には、高い化学的安定性、特に高いラジカル耐性が要求される。高いラジカル耐性を有するプロトン伝導性高分子電解質膜材料としては、商品名Nafion(登録商標、デュポン社製)などのスルホン酸基含有フッ素樹脂が知られているが、近年これらの樹脂に対する問題点も指摘されている。
まず、合成経路が複雑であるため、原料・製造プロセスのコストが高い点である。また、スルホン酸基含有フッ素樹脂は、ガラス転移温度が低く、耐熱性が低いため、動作温度が80℃以下と低くなってしまうという問題点も抱えている。さらに、フッ素というハロゲン系の樹脂であるため、環境負荷が大きいという欠点がある。
【0017】
前記のような課題を克服するため、フッ素を含まないスルホン酸基を有する炭化水素系樹脂を原料とする、高温安定性の高い、プロトン伝導性高分子電解質膜が開発されてきているが、耐ラジカル性に劣っており、化学的安定性がスルホン酸基含有フッ素樹脂には及ばず、そのため、スルホン酸基のようなプロトン伝導性の官能基を備え、かつ耐ラジカル性・耐熱性に優れた炭化水素系材料の開発が急務となっている。
【非特許文献1】J.Tsuji,J.Am.Chem.Soc.,96,7349(1974)
【非特許文献2】D.H.R.Barton et al.,Chem.Commun.,557(1997)
【非特許文献3】D.Bianchi et al.,J. Mol.Catal.A:Chem.,204−205,419(2003)
【非特許文献4】モリソン・ボイド 有機化学 下巻
【特許文献1】特願2007−301841
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の第1の目的は、耐ラジカル性・耐熱性に優れ、高いイオン交換容量を有し、高いプロトン伝導度を有し、酸触媒としての活性が高いので、イオン交換体、電解質膜、触媒、膜電極接合体、燃料電池として有効に使用できる、スルホン酸基またはスルホン酸塩基を有する含窒素複素環を含む新規高分子有機化合物を提供することであり、
本発明の第2の目的は、スルホン酸基またはスルホン酸塩基を有する含窒素複素環を含む新規高分子有機化合物を用いた、イオン交換体、電解質膜、触媒、膜電極接合体、燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、(A)含窒素複素環を有するエーテルからなる構成単位と、(B)スルホン酸基又はスルホン酸塩基を含有する構成単位の両方を分子内に有することを特徴とする新規高分子有機化合物が、強酸基を有し、耐ラジカル性が高く、プロトン伝導性に優れ、高いイオン交換容量を有し、優れた耐熱性を有し、酸触媒としての活性が高いので、触媒、イオン交換体、電解質膜、膜電極接合体、燃料電池として使用できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0020】
本発明の請求項1の発明は、(A)含窒素複素環を有するエーテルからなる構成単位と、(B)スルホン酸基又はスルホン酸塩基を含有する構成単位との両方を分子内に有する下記一般式(1)で表される分子構造を、少なくとも有することを特徴とする高分子有機化合物である。
【0021】
【化7】

【0022】
(式(1)中のHCyはそれぞれ同じかあるいは異なる含窒素複素環を表し、compoundは化合物を表す。式(1)中のカッコで囲まれた部分は高分子有機化合物を構成する単位を示し、nは構成単位(A)の数を表す整数であり、mは構成単位(B)の数を表す整数であり、波線はスルホン酸基又はスルホン酸塩が直接compoundに結合してもあるいは介在基を介して間接的にcompoundに結合してもよいことを表し、X+は陽イオンを表す。)
【0023】
本発明の請求項2記載の発明は、請求項1記載の高分子有機化合物において、構成単位(B)のcompoundが含窒素複素環からなり、下記一般式(2)で表される分子構造を、少なくとも有することを特徴とする。
【0024】
【化8】

【0025】
(式(2)中のHCyはそれぞれ同じかあるいは異なる含窒素複素環を表す。式(2)中のカッコで囲まれた部分は高分子有機化合物を構成する単位を示し、nは構成単位(A)の数を表す整数であり、mは構成単位(B)の数を表す整数であり、波線はスルホン酸基又はスルホン酸塩が直接含窒素複素環に結合してもあるいは介在基を介して間接的に含窒素複素環に結合してもよいことを表し、X+ は陽イオンを表す。)
【0026】
本発明の請求項3記載の発明は、請求項2記載の高分子有機化合物において、構成単位(A)中の含窒素複素環がピリジン環もしくはピリジン環を含む複素環であることを特徴とする。
【0027】
本発明の請求項4記載の発明は、請求項2記載の高分子有機化合物において、構成単位(A)中の含窒素複素環がピリジン環であり、構成単位(B)のcompoundがピリジン環であり、下記一般式(3)で表される分子構造を、少なくとも有することを特徴とする。
【0028】
【化9】

【0029】
(式(3)中のカッコで囲まれた部分は高分子有機化合物を構成する単位を示し、nは構成単位(A)の数を表す整数であり、mは構成単位(B)の数を表す整数であり、波線はスルホン酸基又はスルホン酸塩が直接ピリジン環に結合してもあるいは介在基を介して間接的にピリジン環に結合してもよいことを表し、X+ は陽イオンを表す。)
【0030】
本発明の請求項5記載の発明は、請求項4記載の高分子有機化合物において、構成単位(B)が下記一般式(4)で表されることを特徴とする。
【0031】
【化10】

【0032】
(式(4)中のRはアルキレン基を表し、X+ は陽イオンを表す。)
【0033】
本発明の請求項6記載の発明は、請求項4記載の高分子有機化合物において、構成単位(B)が下記一般式(5)で表されることを特徴とする。
【0034】
【化11】

【0035】
(式(5)中のRはアルキレン基を表し、X+ は陽イオンを表す。)
【0036】
本発明の請求項7記載の発明は、請求項4記載の高分子有機化合物において、構成単位(B)が下記一般式(6)で表されることを特徴とする。
【0037】
【化12】

【0038】
(式(6)中のX+ は陽イオンを表す。)
【0039】
本発明の請求項8記載の発明は、請求項1から請求項7いずれか一項に記載の高分子有機化合物において、スルホン酸又はスルホン酸塩密度が、0.1〜5ミリ当量/gであることを特徴とする。
【0040】
本発明の請求項9記載の発明は、請求項5または請求項6に記載の高分子有機化合物において、前記アルキレン基が炭素数3または4のアルキレン基あるいはその水素の少なくとも一部をハロゲン元素で置換したアルキレン基であることを特徴とする。
【0041】
本発明の請求項10記載の発明は、請求項1から請求項9いずれか一項に記載の高分子有機化合物を用いて構成されることを特徴とするイオン交換体である。
【0042】
本発明の請求項11記載の発明は、請求項1から請求項9いずれか一項に記載の高分子有機化合物を用いて構成されることを特徴とする電解質膜である。
【0043】
本発明の請求項12記載の発明は、請求項1から請求項9いずれか一項に記載の高分子有機化合物を用いて構成されることを特徴とする触媒である。
【0044】
本発明の請求項13記載の発明は、請求項1から請求項9いずれか一項に記載の高分子有機化合物を用いて構成されることを特徴とする膜電極接合体である。
【0045】
本発明の請求項14記載の発明は、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の高分子有機化合物を用いて構成されることを特徴とする燃料電池である。
【発明の効果】
【0046】
本発明の請求項1の発明は、(A)含窒素複素環を有するエーテルからなる構成単位と、(B)スルホン酸基又はスルホン酸塩基を含有する構成単位と、の両方を分子内に有する前記一般式(1)で表される分子構造を、少なくとも有することを特徴とする高分子有機化合物であり、
合成が容易であり、高い耐ラジカル性を有し、かつ優れたプロトン伝導性、高いイオン交換容量を有し、酸触媒としての活性が高いので、触媒、イオン交換体、電解質膜、膜電極接合体、燃料電池として有効に使用できるという顕著な効果を奏する。
【0047】
本発明の請求項2記載の発明は、請求項1記載の高分子有機化合物において、構成単位(B)のcompoundが含窒素複素環からなり、前記一般式(2)で表される分子構造を、少なくとも有することを特徴とするものであり、
耐ラジカル性に富んだ構成単位を分子内に有し、かつ強酸基であるスルホン酸基も同時に有するので優れたプロトン伝導性、高いイオン交換容量を示し、高分子であるため製膜性も良く、加えて酸触媒としての活性が高いので、触媒、イオン交換体、電解質膜、膜電極接合体、燃料電池として有効に使用できるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0048】
本発明の請求項3記載の発明は、請求項2記載の高分子有機化合物において、構成単位(A)中の含窒素複素環がピリジン環もしくはピリジン環を含む複素環であることを特徴とするものであり、
優れた耐ラジカル性および耐熱性を示し、加えて高いイオン交換容量とプロトン伝導性を誇り、高分子であるため製膜姓も良く、加えて酸触媒としての活性が高いので、触媒、イオン交換体、電解質膜、膜電極接合体、燃料電池として有効に使用できるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0049】
本発明の請求項4記載の発明は、請求項2記載の高分子有機化合物において、構成単位(A)中の含窒素複素環がピリジン環であり、構成単位(B)のcompoundがピリジン環であり、前記一般式(3)で表される分子構造を、少なくとも有することを特徴とするものであり、得られる高分子有機化合物の主鎖が化学的安定性の高いピリジン環で構成されるため、耐ラジカル性、耐熱性に富んだものが得られるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0050】
本発明の請求項5記載の発明は、請求項4記載の高分子有機化合物において、構成単位(B)が前記一般式(4)で表されることを特徴とするものであり、その前駆体であるモノマーは簡便に合成でき、かつ高い耐ラジカル性を有することにより、得られる高分子有機化合物が、高い耐ラジカル性を有し、かつ優れたプロトン伝導性、高いイオン交換容量を有し、酸触媒としての活性が高いので、触媒、イオン交換体、電解質膜、膜電極接合体、燃料電池として有効に使用できるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0051】
本発明の請求項6記載の発明は、請求項4記載の高分子有機化合物において、構成単位(B)が前記一般式(5)で表されることを特徴とするものであり、その前駆体であるモノマーは合成が容易であり、高い耐ラジカル性を有することにより、得られる高分子有機化合物が、高い耐ラジカル性を有し、かつ優れたプロトン伝導性、高いイオン交換容量を有し、酸触媒としての活性が高いので、触媒、イオン交換体、電解質膜、膜電極接合体、燃料電池として有効に使用できるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0052】
本発明の請求項7記載の発明は、請求項4記載の高分子有機化合物において、構成単位(B)が前記一般式(6)で表されることを特徴とするものであり、その前駆体であるモノマーは合成が容易であり、高い耐ラジカル性を有することにより、得られる高分子有機化合物が、高い耐ラジカル性を有し、かつ優れたプロトン伝導性、高いイオン交換容量を有し、酸触媒としての活性が高いので、触媒、イオン交換体、電解質膜、膜電極接合体、燃料電池として有効に使用できるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0053】
本発明の請求項8記載の発明は、請求項1から請求項7いずれか一項に記載の高分子有機化合物において、スルホン酸又はスルホン酸塩密度が、0.1〜5ミリ当量/gであることを特徴とするものであり、スルホン酸又はスルホン酸塩密度(酸価)がこの範囲内であると優れた高いプロトン伝導性を確実に有するので燃料電池用に適するというさらなる顕著な効果を奏する。
【0054】
本発明の請求項9記載の発明は、請求項5または請求項6に記載の高分子有機化合物において、前記アルキレン基が炭素数3または4のアルキレン基あるいはその水素の少なくとも一部をハロゲン元素で置換したアルキレン基であることを特徴とするものであり、目的とする化合物の合成は、市販されている試薬を用いて簡便に合成でき、また得られた有機化合物のラジカル耐性も高いというさらなる顕著な効果を奏する。
【0055】
本発明の請求項10記載の発明は、請求項1から請求項9いずれか一項に記載の高分子有機化合物を用いて構成されることを特徴とするイオン交換体であり、高いプロトン伝導性を有するとともにイオン交換容量が大きい上、化学的安定性が高いという顕著な効果を奏する。
【0056】
本発明の請求項11記載の発明は、請求項1から請求項9いずれか一項に記載の高分子有機化合物を用いて構成されることを特徴とする電解質膜であり、高い耐ラジカル性と耐熱性を示し、同時に優れたプロトン伝導性を有するという顕著な効果を奏する。
【0057】
本発明の請求項12記載の発明は、請求項1から請求項9いずれか一項に記載の高分子有機化合物を用いて構成されることを特徴とする触媒であり、強酸基であるスルホン酸基を有するため酸触媒としての活性が高く、加えて化学的かつ熱的に安定であるという顕著な効果を奏する。
【0058】
本発明の請求項13記載の発明は、請求項1から請求項9いずれか一項に記載の高分子有機化合物を用いて構成されることを特徴とする膜電極接合体である。スルホン酸基含有フッ素樹脂やそれを用いた膜電極接合体は環境負荷が高く、次世代クリーンエネルギーとして使用される燃料電池の環境負荷が大きいことは問題であり、環境問題は全体として考えなければならない状況において、環境負荷の低減を達成できる本発明の膜電極接合体はその効果が大きく、さらに電解質膜として燃料電池用に適する高いプロトン伝導性を有するとともに耐ラジカル性および耐熱性に優れているという顕著な効果を奏する。
【0059】
本発明の請求項14記載の発明は、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の高分子有機化合物を用いて構成されることを特徴とする燃料電池である。スルホン酸基含有フッ素樹脂やそれを用いた膜電極接合体は環境負荷が高く、次世代クリーンエネルギーとして使用される燃料電池の環境負荷が大きいことは問題であり、環境問題は全体として考えなければならない状況において、環境負荷の低減を達成できる本発明の燃料電池の波及効果は大きく、さらに高いプロトン伝導性を有するとともに耐ラジカル性および耐熱性に優れている本発明の電解質膜を用いているので、発電効率が高く、かつ信頼性が高いという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0060】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の新規高分子有機化合物は、(A)含窒素複素環を有するエーテルからなる構成単位(以下、構成単位(A)と称す場合がある)と、(B)スルホン酸基又はスルホン酸塩の基を含有する構成単位(以下、構成単位(B)と称す場合がある)と、の両方を分子内に有する前記一般式(1)で表される分子構造を、少なくとも有することを特徴とする高分子有機化合物である。
【0061】
前記一般式(1)、(2)中のHCyおよびcompoundは、結合手の数がいずれも2つのものを示したが、HCyおよびcompoundの結合手の数は2つに限定されるものではなく、3つ以上あってもよい。HCyおよびcompoundの結合手の数は、本発明の新規な高分子有機化合物の特性、合成のし易さ、コストなどを考慮して決定されるものである。
【0062】
含窒素複素環とは、環を構成している元素のうち1個またはそれ以上が窒素原子である環状化合物であり、かつ芳香族性を有しているものを指す。
このようなものとしては、ピリジン環、ピロール環、チアゾール環、オキサゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環や、これらを一部に含有する多環式複素環(例えばインドール環、プリン環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キナゾリン環、キノキサリン環、フタラジン環、プテリジン環、アクリジン環、フェナジン環、フェナントロリン環など)などを例示できる。
【0063】
本発明におけるピリジン環を含む複素環とは、フェナントロリン環、キノリン環、ナフチリジン環、フェナンチリジン環、アクリジン環が例として挙げられる。これらをニトロ基やヒドロキシル基やカルボキシル基、ハロゲン基等で化学修飾したものも例示できる。本発明においては、これら含窒素複素環の中でも、ピリジン環は特に化学的安定性が高いので好ましく、ピリジン環を含む含窒素複素環はさらに化学的安定性が高いのでより好ましい。
【0064】
構成単位(A)とは、前記一般式(1)中、左側の括弧で囲まれた構成要素を指す。前記一般式(1)中のHCyは含窒素複素環を表す。
【0065】
構成単位(A)を高分子有機化合物内に有させるには、1つ以上のハロゲンが結合した含窒素複素環を2つ有するエーテルをモノマーとして用いることが特に良い方法である。これは後述するが、有機金属試薬を用いた脱ハロゲン化重縮合法により目的の高分子有機化合物を好適に得ることができるためである。
このようなモノマーを合成する方法の一つとして、水酸基とハロゲンの両方を分子内に有する含窒素複合環をソディウムハイドライトと反応させ、2つのハロゲンを有する含窒素複合環と反応させて得る方法が挙げられる。
含窒素複素環の中でもピリジン環は合成が簡便であり、耐久性も良く特に良い。
【0066】
構成単位(B)とは、前記一般式(1)中、右側の括弧で囲まれた構成要素を指す。前記一般式(1)中のcompoundは化合物を表し、|compound|m が、ポリマー骨格を形成していれば良い。
このようなcompoundとしては、エチレン、プロピレン、ブタジエン等の脂肪族炭化水素や、ベンゼン、ナフタレン等の芳香族炭化水素や、チオフェンやピリジン等の複素環、シリコーン等のケイ素化合物、またはこれらをフッ素元素等で化学修飾したり、これらを組み合わせたものが一例として挙げられる。
これらをニトロ基やヒドロキシル基やカルボキシル基、ハロゲン基等で化学修飾したものも例示できる。
これらのcompoundの中でも前記含窒素複素環が化学安定性の観点から良い。その中でもピリジン環を含むcompoundは同様の理由で特に良い。
【0067】
ピリジン環を含むcompoundからなるスルホン酸基又はスルホン酸塩基を含有する構成単位(B)の例としては、下記一般式(4)に示すようなO−アルキレンスルホン酸基またはO−アルキレンスルホン酸塩基を有するピリジン、下記一般式(5)に示すようなN−アルキレンスルホン酸基またはN−アルキレンスルホン酸塩基を有するピリジン、下記一般式(6)に示すようなスルホン化ピリジロキシ基またはスルホン酸塩化ピリジロキシ基を有するピリジンは特に、モノマーの合成が容易である上、高い化学安定性があるため、特に良い。
【0068】
【化13】

【0069】
(式(4)中のRはアルキレン基を表し、X+ は陽イオンを表す。)
【0070】
【化14】

【0071】
(式(5)中のRはアルキレン基を表し、X+ は陽イオンを表す。)
【0072】
【化15】

【0073】
(式(6)中のX+ は陽イオンを表す。)
【0074】
ここで、一般式(4)中のO−アルキレンスルホン酸基またはO−アルキレンスルホン酸塩基を有するピリジン、とはピリジンに−O−R−SO3-+ 基が1つないしそれ以上導入されたものを指す。また、−O−R−SO3-+ 以外にニトロ基、ヒドロキシル基、ハロゲン基、カルボニル基などの適当な官能基を備えていてもよい。
【0075】
すなわち前記一般式(4)においては、−O−R−SO3-+ 基を1つ有している例を示したが、−O−R−SO3-+ 基を2つ以上有していてもよく、また−O−R−SO3-+ 以外のニトロ基、ヒドロキシル基、ハロゲン基、カルボニル基などの官能基を有していてもよいということである。
【0076】
前記一般式(4)におけるアルキレン基の炭素鎖の長さは、得られる有機化合物の性能を損なわなければ特に限定されないが、炭素数が3のものと4のものは、安価に手に入るプロパンスルトンと1,4−ブタンスルトンをそれぞれ原料として用いることができ、かつ比較的温和な反応条件で目的物を得ることができるため好ましい。
またRが炭素数3または4のアルキレン基の水素の少なくとも一部をハロゲン元素で置換したアルキレン基、例えば、モノフルオロ、ジフルオロ、トリフルオロ、パーフルオロ、モノクロロ、ジクロロ、トリクロロ、パークロロなどのアルキレン基は好ましく、化学的耐久性が向上しやすい。
【0077】
一般式(5)におけるN−アルキレンスルホン酸基またはN−アルキレンスルホン酸塩基を有する含ピリジン、とはピリジンに−N−R−SO3-+ 基が1つないしそれ以上導入されたものを指す。また、−N−R−SO3-+ 以外にニトロ基、ヒドロキシル基、ハロゲン基、カルボニル基などの適当な官能基を備えていてもよい。
【0078】
−N−R−SO3-+ 基中のアミンには第二級アミン、第三級アミン、第四級アミンの3種類がある。第三級及び第四級アミンの場合は、−N−R−SO3-+ が含まれていれば良く、第二級アミンの場合は−NH−R−SO3-+ のみが存在する。
【0079】
すなわち、一般式(5)として−N−R−SO3-+ 基を1つ有しているものを例示したが、−N−R−SO3-+ 基を2つ以上有していてもよく、また環に−N−R−SO3-+ 以外にニトロ基、ヒドロキシル基、ハロゲン基、カルボニル基などの適当な官能基を有していてもよいということである。
【0080】
前記一般式(6)においては、スルホン化ピリジロキシ基またはスルホン酸塩を結合したピリジロキシ基を1つ有しているものを例示したが、これらの基は1以上4であってよく、ピリジンにはアルキル基、ニトロ基、ヒドロキシル基、ハロゲン基、カルボキシル基等の他の官能基があってもよい。
【0081】
本発明におけるX+ について説明する。
+ は陽イオンを表す。X+ は例えば、水素、第1族元素、第2族元素、アルミニウム、遷移金属、これらを含む金属錯体や金属酸化物等の化学種、または各種無機及び有機の化学種であり、これらは陽イオン性の状態となっている。
第1族元素とはLiからFrに至るまでのアルカリ金属であり、第2族元素とはBe、Mg及びCaからRaに至るアルカリ土類金属である。
遷移金属の例としては、Fe、Ni、Cu、Znである。
金属錯体や金属酸化物等の化学種の例として、具体的にはアルカリ金属のクラウンエーテル錯体やフェロセニウム、トリス(1,10−フェナントロリン)鉄(II)、UO2が挙げられる。
各種無機及び有機の化学種として、具体的にはアンモニウム(NH4 )や4級窒素化合物(R3456 N)(R3 、R4 、R5 、R6 はそれぞれアルキル基や芳香基、アルキル基とアルケニル基、アルキニル基やその他各種官能基を含むものでありであり、それらは全て同じでもその一部または全部が異なっていてもよい。)、その他以下に例示するような含窒素化合物、4級ホスホニウム化合物、4級アルソニウム化合物、トリフェニルメタン系化合物等がある。
4級窒素化合物の例として、具体的にはテトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラペンチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、テトラオクチルアンモニウム、フェニルトリメチルアンモニウム、ドデシルトリメチルアンモニウム、ジドデシルジメチルアンモニウム、コリン、アセチルコリンが挙げられる。
その他の含窒素化合物の例として、具体的にはピリジニウム、セチルピリジニウム、ビス(トリフェニルホスフィン)イミニウムが挙げられる。
4級ホスホニウム化合物の例としては、具体的にはテトラメチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、テトラフェニルホスホニウム、ブチルトリフェニルホスホニウム、ベンジルトリフェニルホスホニウムが挙げられ、4級アルソニウム化合物の例としてはテトラフェニルアルソニウムが挙げられる。
トリフェニルメタン系化合物の例としては、具体的にはクリスタルバイオレット、エチルバイオレット、マラカイトグリーンが挙げられる。
上に挙げた例の中でも、水素、第1族元素、第2族元素はコスト面で良く、その中でも水素、Li、Na、Kは特にコスト面で良く、使いやすい。
【0082】
前記一般式(1)で表される本発明の高分子有機化合物は、強酸基であるスルホン酸基を含むため、高いプロトン伝導度を有し、かつ優れた耐ラジカル性、耐熱性も併せ持つので、燃料電池用途に好適に使用できる。
【0083】
本発明でいう高分子有機化合物の質量平均分子量などで表される分子量はその用途により最適値が異なるので特に限定されないが、通常、1000〜1000万が好ましい。1000未満では機械的強度を要求される分野に不適となる恐れがあり、一方、1000万を越えると加工性などが劣る恐れがある。
【0084】
本発明の高分子有機化合物は、構成単位(A)と、構成単位(B)以外に、それ以外の構成単位(C)を含んでも良い。
高分子有機化合物に含まれる構成(C)としては、得られる高分子有機化合物の耐熱性や耐ラジカル性を損なわない化合物で構成されているのがよい。このような構成の例としては、芳香環を含むものが、例えば耐熱性がより高くなり、かつコストダウンになるので好ましい。
【0085】
ここで言う芳香環とは、ベンゼン環や、ベンゼン環が縮環したナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環や、ピロール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環などの含窒素複素環、チオフェン環のような含硫黄複素環、フラン環のような含酸素複素環、これらの複素環を一部または全部に含むインドール環、ベンゾチオフェン環、ベンゾフラン環、フェナントロリン環、プリン環などの縮環体を例示できる。
また、これらを化学修飾した芳香環も例示できる。また、さらにこの中から2種類以上の環から成る複合環や共重合体であってもよい。
【0086】
この中でも、含窒素複素環は化学的安定性に富むものが多く、さらにこの中でもピリジン環は特に高い耐ラジカル性を示す。そのため、ピリジン環のみで構成される高分子有機化合物は特に優れた化学的安定性を示すため好ましい。
【0087】
この場合、ピリジン環は無置換であってもよいし、得られる高分子有機化合物の特性を損なわないならば、ニトロ基、ヒドロキシル基、ハロゲン基、カルボニル基などの適当な官能基を有していてもよい。
また、隣接する構成単位との結合位置も特に限定されないし、結合位置の異なるピリジン環構成単位が2種類以上混在して共重合なされたものや複合環でもよい。また、3点以上の結合手を持つピリジン環であってもよい。
【0088】
本発明の高分子有機化合物は、前記一般式(1)で表される構成単位(A)と構成単位(B)を高分子主鎖に含んでいる。また、場合によっては、それに加え(C)それ以外の構成単位が結合していることもある。
この(A)で表される構成単位と(B)で表される構成単位、(C)それ以外の構成単位の順番は特に限定がなく、例えば、交互共重合体であっても、ブロック共重合体であっても、ランダム共重合体であっても、グラフト共重合体であっても良い。
【0089】
例えば、−(A)−(B)−(A)−(B)−(A)−(B)−、−(A)−(B)−(C)−(A)−(B)−(C)−、−(A)−(A)−(A)−(B)−(B)−(B)−(C)−(C)−、−(A)−(C)−(B)−(A)−(B)−(C)−、あるいは一般式(7)で表されるグラフト構造のものなどいずれでも良く、各構成単位の順番は限定されない。また、構成単位(A)、(B)、(C)の数の比も限定されない。隣接する構成単位との結合位置も特に限定されない。
【0090】
【化16】

【0091】
本発明の高分子有機化合物の中で(A)含窒素複素環を有するエーテルからなる構成単位と、(B)スルホン酸基又はスルホン酸塩基を含有する構成単位、(C)それ以外の構成単位、の数の比は特に限定されるものではないが、前記一般式(B)で表される構成単位の占める割合が大きくなると、水に可溶になる場合がある。そのため、用途に応じてその比を変えることが望ましい。
【0092】
本発明の高分子有機化合物を得るための合成法としては、酸化重合法や有機金属重縮合法などが例示でき、得られる高分子有機化合物の性能を損なわないならば、特に限定されるものではない。
この中でもハロゲンを2つ含む有機化合物をモノマーとして用いる有機金属試薬を用いた脱ハロゲン化重縮合法により目的の本発明の高分子有機化合物を好適に得ることができる。
【0093】
本発明の高分子有機化合物は、プロトン伝導性に優れ、また、イオン交換容量も高いことから、イオン交換体などとして利用することができる。
【0094】
また、分子内にスルホン酸基を有することから触媒としても使用できる。
【0095】
更に、本発明の高分子有機化合物を利用して電解質膜を作製し、これを用いて図1に示した構成を備えた膜電極接合体(MEA)やその膜電極接合体(MEA)を備えた図2に示した構成の燃料電池の単セルを作製することも可能である。
【0096】
本発明の高分子有機化合物を用いて電解質膜を製造するには、熱溶融することにより膜を形成するか、あるいは適当な溶媒に溶解させ、適当な基板や支持体に塗付した後乾燥させ膜を形成する、いわゆる溶液プロセスによる方法などが挙げられ、その形成法は特に限定されるものではない。
【0097】
前記のような溶液プロセスにより、本発明の高分子有機化合物を製膜する場合に使用する溶媒は、試料を溶解することができるなら特に限定されるものではないが、工業的に入手が容易で、かつ製膜および乾燥の際に留去しやすいものがより好ましく、クロロホルム、塩化メチレン、エーテル、ジオキサン、ヘキサン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、メタノール、エタノール、ギ酸などが例示でき、また、2種以上の溶媒の混合物であってもよい。
【0098】
本発明の高分子有機化合物を用いて、イオン交換体や触媒を製造する際にも前記のように熱溶融することにより形成することができ、また適当な溶媒に溶かした後、支持体に塗布・コーティングしたり、担持させたりすることにより形成でき、その形成法は特に限定されない。
【0099】
また、バインダーを用いてもよく、バインダーとしては、適当な樹脂を単独または二種類以上混合して使用することができる。また、これらの樹脂の変性体や共重合体を使用してもよく、例えば、これらの樹脂にスルホン酸基を導入して変性した変性体を用いることによりプロトン伝導性をさらに向上できるので好適に用いられる。
【0100】
ここでいう樹脂としては、具体的には、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、シリコーン樹脂、プロピレン樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ビニリデン樹脂、フラン樹脂、ウレタン樹脂、フェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、アミド樹脂、イミド樹脂、ビニル樹脂、カルボン酸樹脂、フッ素樹脂、ナイロン樹脂、スチロール樹脂、エンジニアリングプラスチックなどを例示できる。
また、前記のような有機樹脂だけでなく、有機無機ハイブリッド樹脂やシリケート樹脂、水ガラス、各種無機ポリマーなども使用できる。前記のようにこれらの樹脂にスルホン酸基や水酸基などを導入した変性体も好適に用いられる。
【0101】
膜電極接合体(MEA)を製造する方法の一例としては、以下の方法を示すことができる。
まず本発明の高分子有機化合物を用いて前述した製造法により、電解質膜を形成する。さらに必要に応じてその上へ保護フィルムを積層して保存する。そして使用時に、この支持体、保護フィルムを剥離させた後、電解質膜の両側に触媒層、ガス拡散層を含有する電極層を形成し、これにより図1に示した膜電極接合体(MEA)が得られる。この膜電極接合体(MEA)に図2に示したようにセパレータや図示しない補助的な装置(ガス供給装置、冷却装置など)を装着して組み立て、単一あるいは積層することにより燃料電池を作製することができる。
【0102】
また、本発明における高分子有機化合物によって形成された電解質膜の好適な厚さは、通常0.1〜500μm程度であるが、より好ましくは10μm〜150μmである。500μmを超えて厚過ぎるとプロトン伝導性が損なわれる恐れがあり、0.1μm未満で薄すぎると電解質膜の物理特性が損なわれる恐れがある。
【0103】
また、本発明の高分子有機化合物を電極層に用いる電解質として用い、図1に示した構成を備えた膜電極接合体(MEA)やその膜電極接合体(MEA)を備えた図2に示した構成の燃料電池の単セルを作製することも可能である。触媒層は少なくとも触媒と電解質を含む層であり、触媒層に含まれる電解質として本発明の高分子有機化合物を用いることができる。触媒層を形成するにあっては、少なくとも電解質と触媒を含む塗液を用い、電解質膜に直接塗布する方法、もしくは他の基材に塗液を塗布して塗膜を形成し該塗膜を電解質膜に転写する方法により、触媒層を電解質膜の両面に形成することができる。
【実施例】
【0104】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0105】
なお、以下の実施例で得られた化合物は、赤外吸収スペクトル、 1H−NMRスペクトル、元素分析によって同定した。それぞれは以下の装置を使って測定した。
[赤外吸収スペクトル]
少量の試料と臭化カリウムの混合物をペレット状に押し固めたものを測定に用いた。測定は日本分光製FT/IR−460型を用いた。
1H−NMRスペクトル]
試料を重溶媒に溶かしたものをNMR用サンプル管に入れ、日本電子製核磁気共鳴装置JNM−EX300により測定した。
[元素分析]
元素分析によるS量の分析:試料をYANACO社製YS−10にて計測し、S(硫黄)の重量%を得た。
【0106】
(実施例1)
〔(A)含窒素複素環を有するエーテルからなる構成単位がピリジンであり、(B)スルホン酸基又はスルホン酸塩基を含有する構成単位がピリジンからなる構造式(8)で表される高分子有機化合物の合成〕
【0107】
(実施例1)
〔(A)含窒素複素環を有するエーテルからなる構成単位がピリジンであり、(B)スルホン酸基又はスルホン酸塩基を含有する構成単位がピリジンからなる構造式(8)で表される高分子有機化合物の合成〕
1.0gのニッケル−1,5−シクロオクタジエン錯体[ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)、Ni(cod)2 ]にN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を加え撹拌した。
これに0.46mlの1,5−シクロオクタジエン、0.58gの2,2’−ビピリジルを加え、撹拌した。ここに、0.053gの式(9)で表される化合物と0.221gの式(10)で表される化合物と0.264gの2,5−ジブロモピリジンを含むN,N−ジメチルホルムアミド溶液を加え、反応させた。
反応粗生成物を回収し、精製、乾燥することで、構造式(8)で表されるスルホン酸基含有ポリピリジンを0.092g得た。
【0108】
【化17】

【0109】
(式(8)中カッコで囲まれた部分は高分子有機化合物を構成する単位を示し、l、m、nは各々の構成単位の数を表す整数である。)
【0110】
【化18】

【0111】
【化19】

【0112】
(実施例2)
〔(A)含窒素複素環を有するエーテルからなる構成単位がピリジンであり、(B)スルホン酸基又はスルホン酸塩基を含有する構成単位がピリジンからなる構造式(11)で表される高分子有機化合物の合成〕
0.78gのニッケル−1,5−シクロオクタジエン錯体[ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)、Ni(cod)2 ]にN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を加え撹拌した。
これに0.35mlの1,5−シクロオクタジエン、0.44gの2,2’−ビピリジルを加え、撹拌した。ここに、0.121gの式(9)で表される化合物と0.113gの式(10)で表される化合物を含むN,N−ジメチルホルムアミド溶液を加え、反応させた。
反応粗生成物を回収し、精製、乾燥することで、構造式(11)で表されるスルホン酸ナトリウム基含有ポリピリジン10を4mg得た。
【0113】
【化20】

【0114】
(式(11)中カッコで囲まれた部分は高分子有機化合物を構成する単位を示し、l、mは各々の構成単位の数を表す整数である。)
【0115】
実施例1で得られた構造式(8)で表される高分子有機化合物の赤外吸収スペクトルを測定した。測定結果を図3に示す。1030〜1050cm-1付近と、1170〜1200cm-1付近に2つの特徴的な強い吸収ピークが観測された。これらはそれぞれS=O基の対称振動および非対称振動によるものであり、スルホン酸基あるいはスルホン酸ナトリウム基に特有な吸収ピークであることから、構造式(8)で表される高分子有機化合物が、スルホン酸基あるいはスルホン酸ナトリウム基を有することが確認できた。
【0116】
(酸価)
実施例1で得られた構造式(8)で表される高分子有機化合物について、元素分析によりSの含有量を計測し、そこから酸価を算出した。
【0117】
元素分析の結果、構造式(8)で表される高分子有機化合物の酸価は1.6ミリ当量/gであった。
【0118】
(本発明の高分子有機化合物の製膜)
実施例1で得られた構造式(8)で表される高分子有機化合物を溶媒に溶解させ、塗布し、溶媒を除去することで、膜を得た。
【0119】
(耐ラジカル性の評価)
〔フェントン試験〕
実施例1で得られた構造式(8)で表される高分子有機化合物を用いて上記の方法で作製した膜を、フェントン試薬(15%H22 、20ppmFe2+)に入れ、60℃3時間条件で行い、膜の変化を目視で確認した。
この試験条件下では、通常の炭化水素系電解質膜ではラジカルによって分解してしまうが、構造式(8)で表される高分子有機化合物の膜はただれなかった。この結果から、本発明の高分子有機化合物は優れた耐ラジカル性を有していることがわかった。
一方、通常の炭化水素系電解質膜であるスルホン化ポリエーテルエーテルケトンでは、これよりもかなり弱い試験条件である60℃3時間、3%H22 、4ppmFe2+でも、ただれが観察された。
別の炭化水素系樹脂であるポリフェニレン樹脂でもただれが観察された。
【0120】
(耐熱性の評価)
〔熱重量分析〕
実施例2で合成した構造式(11)で表される高分子有機化合物の耐熱性を評価するため、島津製作所製熱重量分析装置TGA−50、および同社製温度アナライザーTA−50WSを用いて熱重量分析を行った。測定は試料を5mg程度秤量して白金器に乗せ、窒素雰囲気下で毎分10℃の速度で室温から900℃まで昇温し、その間の重量変化をプロットした。
【0121】
測定の結果、100℃まで約5%の重量減少が、観測された。これは構造式(11)で表される高分子有機化合物の分解ではなく、含まれる水の影響である。その後、300℃を越えるまで重量減少は観測されなかった。10%重量減少温度は370℃であった。300℃という高温でも分解せず、高い熱的安定性を有していることがわかった。
【0122】
以上の結果により、本発明によって得られる有機化合物あるいは高分子有機化合物は、製膜性にも優れ、かつ高い耐ラジカル性・耐熱性を併せ持つということがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明の新規高分子有機化合物は、従来の炭化水素系樹脂では得られなかった高い耐ラジカル性を有し、かつ優れたプロトン伝導性、高いイオン交換量を有し、酸触媒としての活性が高いので、イオン交換体、電解質膜、触媒、膜電極接合体、燃料電池として有効に使用できるという顕著な効果を奏し、
そして本発明の新規高分子有機化合物を用いて耐ラジカル性・耐熱性およびプロトン伝導性などに優れたイオン交換体、電解質膜、その電解質膜を備えた膜電極接合体、その膜電極接合体を備えた燃料電池、酸触媒活性の高い触媒を提供することができるので、産業上の利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】電解質膜の両面に電極触媒層を形成した膜電極結合体の一実施態様の断面説明図である。
【図2】図1に示した膜電極結合体を装着した燃料電池の単セルの構成を示す分解断面図である。
【図3】実施例1で得られた構造式(8)で表される高分子有機化合物の赤外吸収スペクトルを示す。
【符号の説明】
【0125】
1 電解質膜
2 空気極側電極触媒層
3 燃料極側電極触媒層
4 空気極側ガス拡散層
5 燃料極側ガス拡散層
6 空気極
7 燃料極
8 ガス流路
9 冷却水流路
10 セパレータ
11 単セル
12 膜電極結合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)含窒素複素環を有するエーテルからなる構成単位と、(B)スルホン酸基又はスルホン酸塩基を含有する構成単位との両方を分子内に有する下記一般式(1)で表される分子構造を、少なくとも有することを特徴とする高分子有機化合物。
【化1】

(式(1)中のHCyはそれぞれ同じかあるいは異なる含窒素複素環を表し、compoundは化合物を表す。式(1)中のカッコで囲まれた部分は高分子有機化合物を構成する単位を示し、nは構成単位(A)の数を表す整数であり、mは構成単位(B)の数を表す整数であり、波線はスルホン酸基又はスルホン酸塩が直接compoundに結合してもあるいは介在基を介して間接的にcompoundに結合してもよいことを表し、X+は陽イオンを表す。)
【請求項2】
構成単位(B)のcompoundが含窒素複素環からなり、下記一般式(2)で表される分子構造を、少なくとも有することを特徴とする請求項1記載の高分子有機化合物。
【化2】

(式(2)中のHCyはそれぞれ同じかあるいは異なる含窒素複素環を表す。式(2)中のカッコで囲まれた部分は高分子有機化合物を構成する単位を示し、nは構成単位(A)の数を表す整数であり、mは構成単位(B)の数を表す整数であり、波線はスルホン酸基又はスルホン酸塩が直接含窒素複素環に結合してもあるいは介在基を介して間接的に含窒素複素環に結合してもよいことを表し、X+ は陽イオンを表す。)
【請求項3】
構成単位(A)中の含窒素複素環がピリジン環もしくはピリジン環を含む複素環であることを特徴とする請求項2記載の高分子有機化合物。
【請求項4】
構成単位(A)中の含窒素複素環がピリジン環であり、構成単位(B)のcompoundがピリジン環であり、下記一般式(3)で表される分子構造を、少なくとも有することを特徴とする請求項2記載の高分子有機化合物。
【化3】

(式(3)中のカッコで囲まれた部分は高分子有機化合物を構成する単位を示し、nは構成単位(A)の数を表す整数であり、mは構成単位(B)の数を表す整数であり、波線はスルホン酸基又はスルホン酸塩が直接ピリジン環に結合してもあるいは介在基を介して間接的にピリジン環に結合してもよいことを表し、X+ は陽イオンを表す。)
【請求項5】
構成単位(B)が下記一般式(4)で表されることを特徴とする請求項4記載の高分子有機化合物。
【化4】

(式(4)中のRはアルキレン基を表し、X+ は陽イオンを表す。)
【請求項6】
構成単位(B)が下記一般式(5)で表されることを特徴とする請求項4記載の高分子有機化合物。
【化5】

(式(5)中のRはアルキレン基を表し、X+ は陽イオンを表す。)
【請求項7】
構成単位(B)が下記一般式(6)で表されることを特徴とする請求項4記載の高分子有機化合物。
【化6】

(式(6)中のX+ は陽イオンを表す。)
【請求項8】
スルホン酸又はスルホン酸塩密度が、0.1〜5ミリ当量/gであることを特徴とする請求項1から請求項7いずれか一項に記載の高分子有機化合物。
【請求項9】
前記アルキレン基が炭素数3または4のアルキレン基あるいはその水素の少なくとも一部をハロゲン元素で置換したアルキレン基であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の高分子有機化合物。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の高分子有機化合物を用いて構成されることを特徴とするイオン交換体。
【請求項11】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の高分子有機化合物を用いて構成されることを特徴とする電解質膜。
【請求項12】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の高分子有機化合物を用いて構成されることを特徴とする触媒。
【請求項13】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の高分子有機化合物を用いて構成されることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項14】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の高分子有機化合物を用いて構成されることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−90308(P2010−90308A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262946(P2008−262946)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】