新規CXCケモカインアンタゴニスト
新規なCXCケモカイン結合タンパク質をクリイロコイタマダニ(Rhipicephalus sanguineus)の唾液腺からクローン化する。本発明に従い調製された化合物は、抗炎症又は免疫調節化合物化合物として、或いはCXCケモカイン関連疾病の治療及び予防に使用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はCXCケモカインの新規なアンタゴニスト、特にCXCL8及び関連CXCケモカインのアンタゴニストに関するとともに、それらの使用、特に抗炎症又は免疫調節化合物としての使用、及び、CXCケモカイン関連疾病の治療又は予防における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ケモカインは、小型の分泌性、炎症促進性タンパク質であり、血液から損傷部位への白血球の指向性遊走を媒介する。ケモカイン系統群は、この系統群のタンパク質を特徴づける保存システインの位置に応じて、C、CC、CXC、CX3Cケモカインに構造上類別することができ、これらは一連の膜受容体に結合する(Baggiolini M. 等 (1997))。これらの膜受容体(何れも七重螺旋状G−タンパク質共役受容体)によって、ケモカインが標的細胞に生理活性を発揮することが可能となる。かかる細胞はその状態及び/又は種類に応じて、特定の受容体の組み合わせを発現し得るからである。ケモカインの生理効果は、併起的な相互作用が複雑に統合された系の結果として生ずる。かかる受容体はリガンド特異性が重複するため、単一の受容体が異なるケモカインに結合し得る。同様に、単一のケモカインが異なる受容体に結合し得る。
【0003】
構造と活性との関係に関する研究は、ケモカインがその受容体と相互作用する主要な部位を2箇所(即ち、可動性アミノ末端領域と、第2システインに続く高次構造的に硬直したループ)有することを示している。ケモカインはそのループ領域によって受容体にドッキングするものと考えられ、この接触によって、受容体の活性化を生じさせるアミノ末端領域の結合が起こり易くなるものと考えられる。
【0004】
通常、ケモカインは損傷部位で産生され、白血球の遊走及び活性化をひき起し、炎症、免疫、恒常性維持、造血、及び脈管形成の過程に基本的役割を演じる。従ってこれらの分子は、かかる過程に関連する疾患に治療介入する上で、好ましい対象候補であると考えられる。ケモカイン又はそれらの受容体を阻害によることによって、白血球の成熟、動員、及び活性化、並びに脈管形成又は動脈硬化に関係する他の病理学的過程を低減することができる(Baggiolini M.(2001))。
【0005】
突然変異を阻害するケモカイン、抗体、及びペプチドと、受容体をブロックする小分子阻害薬とに加えて、効果的なケモカインアンタゴニストの探索は、ヒト又は哺乳動物の宿主と接触するとその宿主に影響を及ぼす強力な免疫調節活性を示す、一連のウィルスや他の生物体にも拡大されている。
【0006】
サイトカイン、ケモカイン、及びそれらの受容体のウィルスによる模倣は、治療薬開発における免疫調節の方策を示している。最近、吸血性節足動物(蚊、ブユ、及びダニなど)が発現する免疫調節因子が再検討されている(Gillespie, RD等(2001))。
【0007】
具体的には、ダニの唾液腺は、特に抗炎症、抗血液凝固、及び抗免疫活性を有する生理活性分子の複雑な混合物を産生する。これらの中には、ヒスタミンを調節し、免疫グロブリンに結合し、或いは別の補体カスケード又は他のプロテアーゼを阻害する生理活性タンパク質が含まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
大量の文献があるにもかかわらず、様々なダニの組織及び/又は種から作製されたライブラリーのランダム配列決定及びディファレンシャルスクリーニングによって同定されたcDNA配列を列挙しているのは、僅かな論文のみに過ぎない。しかし、これら配列の大部分は生化学的又は機能的な特性決定がなされておらず、基本的な細胞機能に関与する既知のタンパク質(例えば、過去にダニ唾液腺において酵素活性又は抗体反応誘発に関する特性決定がなされたもの)との配列類似性のみに基づいて、多くの注釈が書き入れられている。特に、CXCケモカイン結合タンパク質として作用し、CXCケモカインアンタゴニストとして機能するダニタンパク質については、何ら示されていない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
驚くべきことに、クリイロコイタマダニ(Rhipicephalus sanguineus)の唾液に含まれるEvasin−3という新規なタンパク質が、CXCケモカインに結合してそれらの活性を阻害することが見出された。Evasin−3はクリイロコイタマダニのcDNAライブラリーからクローン化され、哺乳動物及びE. coli(大腸菌)の細胞で発現された。このタンパク質、並びにその誘導体、フラグメント、又は模倣剤は、例えば哺乳動物生体内におけるCXCケモカインのアンタゴニストとして、或いは、予防接種用の標的やダニ又はダニ媒介病原体の駆除用の標的として治療に用いることができる。
【0010】
即ち、本発明の第1の態様は、Evasin−3、或いはそのフラグメント又は類似体のアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドに関する。本発明の好ましいポリペプチドは、CXCケモカインに結合し、その生物学的活性を阻害する。かかるポリペプチドの特定の例は、Evasin−3又はそのフラグメントである。
【0011】
本発明の第2の態様は、上記定義のポリペプチドをコード化する核酸分子に関する。かかる核酸には、それらから分離されるオリゴヌクレオチドや、前記分子を含有するベクター、具体的には発現ベクターが含まれる。
【0012】
本発明の第3の態様は、上記定義のポリペプチドに選択的に結合する抗体に存する。
【0013】
本発明の第4の態様は、上記定義のポリペプチドを発現させる宿主細胞及びトランスジェニック非ヒト動物、並びに、かかる細胞及びトランスジェニック非ヒト動物を産生する方法に関する。
【0014】
本発明の第5の態様は、上記定義のポリペプチドを、典型的には組み換え技術を用いて調製する方法である。
【0015】
本発明の第6の態様は、上記定義のポリペプチド又は核酸分子と、医薬的に許容し得る担体又はビヒクルとを含んでなる医薬(例えばワクチン又は免疫原性)組成物である。
【0016】
本発明の第7の態様は、上記定義のポリペプチド又は核酸分子の薬剤としての使用、特に、哺乳動物中の免疫反応又は炎症反応を調節するための使用、並びに、対応する治療方法に関する。
【0017】
本発明の他の特徴及び利点は、下記の詳細な説明から明らかになるはずである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、ケモカイン活性を調節するための新規な組成物及び方法に関する。より具体的には、本発明は、CXCケモカイン結合特性を有し、ケモカイン作用の阻害に使用し得る新規なタンパク質を開示する。実施例は、ダニの唾液から得られるこのタンパク質が、組み換え型として発現及び精製可能であるとともに、CXCケモカインに有効に結合することにより、その作用(例えば、CXCケモカインによって誘導される細胞の特異的走化性応答)を阻害し得ることを示している。
【0019】
従って、本発明の第1の態様は、Evasin−3ポリペプチド、即ちEvasin−3のアミノ酸配列、或いはそのフラグメント又は類似体のアミノ酸配列を含んでなる任意のポリペプチドに存する。本発明の好ましいポリペプチドはCXCケモカイン、具体的にはCXCL8(IL−8とも呼ばれる)に結合して前記ケモカインの活性を阻害する。本発明の特定のポリペプチドは、
a)Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号5)を含んでなるタンパク質と、
b)成熟Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号6)又は成熟Met−Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号26)を含んでなるタンパク質と、
c)Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号17)を含んでなるタンパク質と、
d)成熟Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号18)を含んでなるタンパク質と、
e)タンパク質a)、b)、c)、又はd)をコード化する核酸配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸分子によりコード化されるタンパク質であって、上記核酸分子は、CXCケモカインに結合して上記ケモカインの活性を阻害するタンパク質をコード化する、タンパク質と、
f)アミノ酸配列がタンパク質a)、b)、c)、又はd)と少なくとも約70%同一であるとともに、CXCケモカインに結合して前記ケモカインの活性を阻害するタンパク質と、
g)タンパク質a)、b)、c)、d)、e)、又はf)のフラグメントを含んでなるタンパク質であって、そのフラグメントがCXCケモカインに結合して前記ケモカインの活性を阻害する能力を保持する、タンパク質と、
h)タンパク質a)、b)、c)、d)、e)、又はf)のフラグメントを含んでなり、そのフラグメントが免疫調節活性を有するタンパク質と
からなる群より選択される。
【0020】
好ましい実施形態によれば、このタンパク質は、
a)Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号5)を有するタンパク質と、
b)成熟Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号6)又は成熟Met−Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号26)を有するタンパク質と、
c)Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号17)を有するタンパク質と、
d)成熟Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号18)を有するタンパク質と、
e)タンパク質a)、b)、c)、又はd)のフラグメントを含んでなり、そのフラグメントがCXCケモカインに結合し、そのケモカインの活性を阻害するタンパク質と、
f)タンパク質a)、b)、c)、又はd)のフラグメントを含んでなり、そのフラグメントが免疫調節活性を有するタンパク質と
からなる群より選択される。
【0021】
別の態様によれば、本発明は、上記定義のタンパク質の活性突然変異体であって、その突然変異体において1又は複数個のアミノ酸残基が付加、欠失、又は置換されており、且つこの突然変異体がCXCケモカインに結合して前記ケモカインの活性を阻害する、突然変異体に関する。
【0022】
本発明のポリペプチドは、1又は2以上の翻訳後修飾(例えば、グリコシル化、リン酸化、シグナルペプチドを除去するためのエンド/エキソペプチダーゼによる修飾)の結果として得られる、或いは異種配列(検出及び/又は精製を改善するタグ又はドメインなど)をコード化する配列のインフレーム付加の結果として得られる、成熟型であってもよい。例えばEvasin−3は、哺乳動物及び昆虫の両細胞系において、完全型(配列番号17)及び成熟型(配列番号18)の組み換えヒスチジンタグ付加タンパク質として発現させることができる。
【0023】
本発明のポリペプチド、又はその対応する核酸は、組み換え又は合成のポリペプチド及び核酸等の単離型(例えば、その自然環境にない状態)であってもよい。
【0024】
実施例は、Evasin−3ポリペプチドが、CCL2、CCL5、CCL11、又はCCL17等のCCケモカインではなく、CXCケモカイン、特にCXCL8(別名IL−8)やCXCL1(別名Gro−α)に結合すること、また、それらの活性を阻害(例えば低下)し得ることを示している。この特性決定は、放射性CXCケモカインの使用を含む、一連の生化学的アッセイを利用して行なった。実施例で示すように、Evasin−3ポリペプチドは、CXCケモカイン、特にCXCL8/IL−8に結合する。かかる活性によって、本発明のEvasin−3ポリペプチドは、以下に考察するように、治療上広範な実用性を有する。
【0025】
本発明との関係において、ポリペプチドのフラグメントとは、そのポリペプチド配列の少なくとも5個、6個、7個、8個、9個、又は10個の連続したアミノ酸残基を含んでなる任意のフラグメントを意味する。本発明の特定のフラグメントは、本明細書に開示するように、Evasin−3タンパク質の15個、20個、25個、又はそれ以上のアミノ酸残基を含んでなる。好ましいフラグメントは、完全長のタンパク質の少なくとも1つの生理活性、例えば免疫原性活性又は免疫調節活性を保持する。
【0026】
これに関して、本発明との関係において「免疫調節活性」とは、インビトロ又はインビボで検出される任意の活性であって、免疫反応に正又は負の何れかの影響を及ぼす活性を意味する。かかる活性の例としては、免疫活性、免疫抑制活性、抗炎症活性、前/抗アポプトーシス活性、又は抗腫瘍活性が挙げられる。
【0027】
或いは、このフラグメントは、哺乳動物に投与した場合に免疫活性を与えるものとして特定することもできる。これらのフラグメントは、必要な場合には、免疫反応(例えばダニ又はダニ媒介病原体に対する)を高めるための適切な抗原特性、免疫原特性を有するべきである。かかる機能配列を候補ワクチン抗原として同定する方法や、更にはアジュバントと一緒に投与し、及び/又は、担体に架橋する方法に関して、文献には多くの例が示されている(Mulenga A.他(2000)の国際公開第01/80881号、第03/030931号、第01/87270号)。Evasin−3において同定された特定の抗原又は抗原群は、動物における外寄生虫の感染又は疾患の予防又は低減に使用することができる。動物がその外寄生虫に自然暴露されることによって、その外寄生虫に対する動物の免疫が増強される(国際公開第95/22603号)。最後に、そのフラグメントは、スクリーニング又は診断用途において、完全タンパク質に対する抗体を産生するために使用することもできる。
【0028】
上記定義のEvasin−3の特性について、本明細書ではこの配列の組み換え変種を用いて示したが、活性突然変異体によれば、かかる特性を維持し、更には強化することも可能である。この種の分子としては、上記配列の天然又は合成の類似体であって、1又は複数個のアミノ酸残基が付加、欠失、又は置換されたものが挙げられる。但し、後述の実施例に記載の手段によって測定した場合に、本発明の特徴となる生理活性と同じ生理活性を、同等か又はより高レベルで示すことを条件とする。
【0029】
具体的に、「活性」という語は、かかる代替化合物において、Evasin−3のCXCケモカイン結合及び免疫調節特性が維持され、更には強化されることを意味する。
【0030】
活性突然変異分子は、部位特異的突然変異誘発法、コード化DNA配列(DNAシャフリング、ファージディスプレイ/選択など)のレベルでのコンビナトリアル法、又はコンピューター支援設計での検討によって、或いは適切な他の任意の周知の手法によって生成することができ、これらの手法によって、実質的に対応する突然変異型又は短縮型のペプチド又はポリペプチドの有限の組が得られる。当業者であればこれらの代替分子を、従来技術や後述の実施例における教示に基づいて、定型的な手法で取得及び試験することができる。
【0031】
本発明によれば、これらの活性突然変異体における好ましい変化は、一般に「保存的」又は「安全」置換として知られる、重要でない残基における置換である。保存的アミノ酸置換は、その分子の構造及び生物学的機能が保存される程度に、十分に類似した化学的性質を有するアミノ酸による置換である。当然ながら、上記定義の配列は、その機能が変更されない限りにおいて、アミノ酸の挿入及び欠失を有していてもよい。具体的には、かかる挿入又は欠失が数個(例えば10個未満、好ましくは3個未満)のアミノ酸しか伴わず、また、タンパク質又はペプチドの機能的高次構造にとって重大なアミノ酸を除去又は置換しない場合である。
【0032】
天然のタンパク質の配列及び/又は構造に関する統計的及び物理化学的な検討に基づいた保存的アミノ酸置換の選択を可能とするモデルが、文献には多数示されている(Rogov SI.及びNekrasov AN.(2001))。タンパク質設計実験によれば、アミノ酸の特定のサブセットを用いて、折り畳み式の活性タンパク質を生成することができること、更にはこれが、タンパク質構造内により容易に収容可能であり、且つ、機能的及び構造的なEvasin−3のホモログ及びパラログの検出に使用可能な、アミノ酸「同義」置換の分類に有用であることが示されている(Murphy LR.等(2000))。置換用の同義アミノ酸基、並びに、より好ましい同義アミノ酸基は、表Iに定義されるものである。
【0033】
但し、Evasin−3配列との関係においては、特定の残基がとりわけ重要である。例えば、Evasin−3は、有意な相同性を示す既知のタンパク質を有しないものの、成熟タンパク質中に(具体的には、成熟Evasin−3中の22、26、33、37、39、及び50番に当る位置に)、対応する数個のシステイン残基を含有する。更に、Evasin−3は、成熟Evasin−3中のアスパラギン25及び56番に当る位置に、潜在的なグリコシル化部位を含有する。これらの残基は、正確な折り畳み及び/又は活性に重要である可能性があるので、代替ポリペプチドの対応する位置に保存されることが好ましい。或いは、欠失又は置換されたシステイン又はグリコシル化部位を、タンパク質内の異なる位置に再建してもよい。
【0034】
或いは、Evasin−3の活性突然変異体は、哺乳動物に投与した場合に上記CXCケモカイン結合タンパク質の免疫原性を低減するような配列変更から得ることもできる。かかる目的や、治療用タンパク質の安全且つ効果的な投与を可能にする他の機能最適化のために設計及び導入し得る配列変更の例は、特に非ヒト、非哺乳動物、又は非天然のタンパク質の場合について、文献に多数示されている(Schellekens H.(2002))。これらの分子を得るための技術的アプローチの例としては、定方向進化(Vasserot AP.等(2003))、合理的設計(Marshall SA(2003))、バイオインフォマティクス(Gendel SM.(2002))、CD4+T細胞エピトープの同定及び中和(国際公開第03/104263号、第03/006047号、第02/98454号、第98/52976号、第01/40281号)、他のタンパク質配列との融合(国際公開第02/79415号、第94/11028号)、他の化合物との結合(国際公開第96/40792号)等が挙げられる。
【0035】
活性Evasin−3由来配列は、天然のEvasin−3の類似体又はオルソログであってもよい。これらは特に、他のダニ種、具体的にはマダニ(Ixodidae)科、より具体的にはクリイロコイタマダニが属するRhipicephalinae亜科に属するもの、更にはマダニ亜科(例えばマダニ(Ixodes scapularis)及びタネガタマダニ(Ixodes ricinus))やAmblyomminae亜科(例えばAmblyomma variegatum及びAmblyomma americanum)等の他の亜科から分離することができる。或いは、ヒト及びマウス等の哺乳動物でも、オルソログを同定することができる。
【0036】
吸血性節足動物のゲノム及びトランスクリプトームについて入手可能な情報は限られており、その大部分はリボソーム及びミトコンドリアの配列に関連するものである。これらは、その保存に基づく系統発生関係の決定のために研究されたものである(Murrell A.等(2001))。ダニのゲノムデータは部分的且つ暫定的な形式でしか入手できない(Ullmann AJ.等(2002))が、マダニ類から抽出したゲノムDNAを用いれば、CXCケモカイン結合タンパク質をコード化するダニ遺伝子について、更なる分析を行なうことが可能である。かかるゲノムDNAは、特定の方法及び条件を適用することにより(Hill CA.及びGutierrez, JA.(2003))、具体的には、既に実証されているように、唾液腺タンパク質における重要な多型の存在を検出するための方法及び条件を適用することにより(Wang H.等(1999))、抽出することができる。これらの生物におけるゲノム及びタンパク質の配列は、その生理学及び生物学的理解にとって重要であり、宿主と寄生虫と寄生虫媒介病原体との関係に本発明のタンパク質が果たす役割を理解する上で、有用な情報を提供する(Valenzuela JG.(2002b))。
【0037】
本発明においてEvasin−3と相同のタンパク質について記載した、CXCケモカイン結合活性の生化学的及び生理学的な特徴決定は、ダニ及びダニ媒介病原体の研究のために近年改良された技術の何れかを適用することによって行なうことができる。かかる技術としては、2次元ゲル電気泳動(Madden RD.等(2004))やRNA干渉(Aljamali MN.等(2003))等が挙げられる。また、更なる検討によって、これらのタンパク質上におけるCXCケモカイン認識部位及びCXCケモカイン拮抗作用機序のマッピング(Seet BT.等(2001)、Beck CG等(2001)、Burns JM. 等(2002)、Webb LM. 等(2004))や、関連する翻訳後修飾の同定(Alarcon-Chaidez FJ.等(2003))を行なうことも可能である。
【0038】
本発明の別の態様は、異種ドメインと作動式に連結された上記定義のEvasin−3ポリペプチドを含んでなる融合タンパク質である。異種ドメインとしては、例えば、膜結合タンパク質の細胞外ドメイン、免疫グロブリン定常部(Fc部)、多量体化ドメイン、搬出シグナル、及びタグ配列(アフィニティーによる精製を補助するもの、即ち、HAタグ、ヒスチジンタグ、GST、FLAAGペプチド、又はMBPなど)の中から選択し得る1又は2以上のアミノ酸配列が挙げられる。
【0039】
融合タンパク質との関係において、「作動式に連結した」という表現は、Evasin−3ポリペプチドと付加アミノ酸の配列とがペプチド結合により直接、或いはスペーサー残基(例えばリンカー)を介して結合していることを示す。このようにすれば、融合タンパク質をコード化する核酸分子を宿主細胞で直接発現させることにより、組み換え法での融合タンパク質の産生が可能となる(これについては後に論じる)。また、必要であれば、産生/精製過程の最後に、又はインビボで、融合タンパク質に含まれる余分なアミノ酸配列を、例えば適切なエンドペプチダーゼ/エキソペプチダーゼによって除去することもできる(これについても後に論じる)。この異種部分を作動式に連結させるのは、Evasin−3ポリペプチドのN末端部でもC末端部でもよい。
【0040】
かかる部分及び/又はリンカーの設計、並びに融合タンパク質の作製、精製、検出、熟成、及び使用の方法及び方策については、文献において広く論じられている(Nilsson J.等の論文(1997)「Application of chimeric genes and hybrid proteins」、Methods Enzymol. Vol.326-328, Academic Press, 2000)。一般に、異種配列は、元のタンパク質の治療活性(例えばCXCケモカイン結合)を実質的に損なうことなく、更なる特性を付与することを意図している。かかる更なる特性の例としては、精製手順の容易化、体液中での半減期の延長、結合部分の付与、細胞内タンパク質分解消化作用による成熟化、組み換え産生時の安定性、又は細胞外局在化が挙げられる。この最後の特徴は、上記定義に含まれる特定の融合又はキメラタンパク質群を規定する上で、とりわけ重要である。かかる特徴によって、ポリペプチドを容易に分離及び精製できる空間であって、CXCケモカインが通常活性な状態である空間に、ポリペプチドを局在化させることが可能となるからである。
【0041】
Evasin−3ポリペプチドに融合されるこれらの配列のうち、1又は2以上の配列の選択は、上記タンパク質の組み換えタンパク質としての具体的な用途及び/又は精製プロトコルに応じて異なる。例えば、実施例ではEvasin−3の活性を試験するために、Evasin−3の検出及び精製を共に容易にするヒスチジンタグ配列を含有する融合タンパク質を用いた。これらの配列は、以下の3種類の基本的な異種配列群から選択することができる。
【0042】
かかる配列の第1の群は、シグナルペプチド及び搬出シグナル等の組み換えDNA技術を用いたタンパク質の分泌及び精製を補助する配列(Rapoport TA.等(1996))、或いは、アフィニティーによる精製を補助するタグ配列(HAタグ、ヒスチジンタグ、GST、FLAG、又はMBP)からなる。
【0043】
異種配列の第2の群は、タンパク質の安定性及び生理活性の向上を可能とする配列に代表されるものである。
【0044】
タンパク質の半減期の延長を可能にする方策の典型的な例としては、ヒト血清アルブミンとの融合や、循環ヒト血清アルブミンとの結合を可能にするペプチド及び他の修飾配列(例えばミリストイル化による)との融合が挙げられる(Chuang VT.等(2002)、Graslund T.等(1997)、国際公開第01/77137号)。或いは、この付加的な配列によって、脳内など特定部位への局在化のためのターゲッティングを補助することもできる(国際公開第03/32913号)。
【0045】
被験体に投与した場合の組み換えタンパク質の安定性を向上させる別の方法は、他のタンパク質から分離された、二量体、三量体等の形成を可能にするドメインを融合することによって、そのタンパク質の多量体を作製することである。本発明のポリペプチドの多量体化を可能にするタンパク質配列の例としては、hCG(国際公開第97/30161号)、コラーゲンX(国際公開第04/33486号)、C4BP(国際公開第04/20639号)、Erbタンパク質(国際公開第98/02540号)、又はコイルドコイルペプチド(国際公開第01/00814号)等のタンパク質から分離されたドメインが挙げられる。
【0046】
かかる融合タンパク質のよく知られた例としては、ヒト免疫グロブリンタンパク質の定常/Fc部に代表されるものが挙げられる。これは、ヒト免疫グロブリンによく見られる二量体化を可能にするものである。治療に役立つタンパク質及び免疫グロブリンフラグメントを含んでなる融合タンパク質を作製するための方策が、文献には種々開示されている(国際公開第91/08298号、第96/08570、第93/22332号、第04/085478、第01/03737号、第02/66514号)。例えば、成熟Evasin−3をコード化する核酸配列のクローン化は、その5′末端に元のEvasin−3シグナル配列(又は任意の他の適切なシグナル/搬出配列)をコード化する核酸配列を融合させ、且つ、その3′末端にヒト免疫グロブリンλ重鎖IgG1(国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)受託番号CAA75302、区分246−477)をコード化する核酸配列を融合させた発現ベクターにより行なうことができる。得られたベクターを用いてCHO又はHEK293宿主細胞株を形質転換した上で、N末端にEvasin−3、C末端にIgG1配列を有する組み換え融合タンパク質を安定的に発現させ、分泌させるクローンを選択すればよい。続いてこのクローンを、産生の大規模化や、培養液からの組み換え融合タンパク質の精製に用いることができる。或いは、ヒト免疫グロブリンλ重鎖IgG1の定常部及びEvasin−3をコード化する核酸の位置を逆にしてもよく、得られるタンパク質を、Evasin−3の元のシグナル配列又は任意の他の適切なシグナル/搬出配列を用いて発現させ、分泌させることもできる。また、この技術を用いて、あるEvasin−3−Fc融合タンパク質と、別の異なるFc系融合タンパク質(例えば別のCXCケモカインアンタゴニスト)とを発現する、2種類の異なるコンストラクトを同一の宿主細胞中で共発現させれば、ヘテロ二量体を産生することもできる(国際公開第00/18932号)。
【0047】
異種配列の更なる群は、Evasin−3が示す機能的活性に相乗作用を与え、又はこれを増幅し得る、更なる機能的活性を加える配列に代表されるものである。これらの配列は、膜結合タンパク質(例えばCXCケモカイン受容体)の細胞外ドメインから分離され、或いは分泌タンパク質中に存在するものと推測されるが、CXCケモカインアンタゴニストと同様に活性である可能性があり、一般に免疫調節活性を有するはずである。
【0048】
上記のように、これら融合タンパク質に含まれる更なる配列は、必要であれば、例えば産生又は精製過程の終りに、又はインビボで、例えば適切なエンドペプチダーゼ/エキソペプチダーゼによって除去してもよい。例えば、所望のタンパク質を異種配列からインビボ又はインビトロで酵素分離するのに使用可能なエンドペプチダーゼ(カスパーゼなど)の認識部位を、組み換えタンパク質に含まれるリンカー配列によって提示してもよい。或いは、発現されるタンパク質配列が開始メチオニンを有しない場合(例えばその配列が、シグナルペプチドのないタンパク質の成熟配列のみをコード化する場合)、本発明のタンパク質を宿主細胞内で、開始メチオニンを用いて正確に発現させることができる。その後、この更なるアミノ酸を、得られた組み換えタンパク質中に保持しておいてもよく、文献に開示の方法に従って、メチオニンアミノペプチダーゼ等のエキソペプチダーゼで除去してもよい(Van Valkenburgh HA.及びKahn RA.(2002)、Ben-Bassat A(1991))。
【0049】
本発明のポリペプチドの更なる変種又は類似体は、ペプチド模倣体(別名ペプチドミメティクス)の形態で得られる。これは、ペプチド又はポリペプチドの性質が、アミノ酸側鎖、アミノ酸キラリティ、及び/又はペプチド骨格のレベルで化学修飾されたものである。これらの変更は、精製、効能、及び/又は薬物動態の特徴が改善されたアンタゴニストを提供することを意図している。例えば、被験体への注入後にペプチドがペプチダーゼ開裂の影響を受け易いという問題がある場合、特に敏感なペプチド結合を非開裂性ペプチド模倣体で置換することにより、治療薬としてより安定な、ひいてはより有用なペプチドを提供することができる。同様に、L−アミノ酸残基の置換は、タンパク質分解に対するペプチドの感受性を低減し、最終的にはペプチドよりも他の有機化合物に類似したものにする標準的な方法である。また、アミノ末端保護基、例えばt−ブチルオキシカルボニル、アセチル、テイル(theyl)、スクシニル、メトキシスクシニル、スベリル、アジピル、アゼライル、ダンシル、ベンジルオキシカルボニル、フルオレニルメトキシカルボニル、メトキシアゼライル、メトキシアジピル、メトキシスベリル、及び2,4−ジニトロフェニル等も有用である。更に、効能の増強、活性の長期化、精製の容易化、及び/又は半減期の延長を可能にする他の修飾が、本技術分野では多数知られている(国際公開第02/10195号、Villain M.他(2001))。ペプチド模倣体に含まれるアミノ酸誘導体用の好ましい代替「同義」基としては、表IIに規定するものが挙げられる。「アミノ酸誘導体」とは、遺伝的にコード化される20種の天然アミノ酸の何れとも異なるアミノ酸又はアミノ酸様化学物質を意味する。具体的には、このアミノ酸誘導体は、置換又は非置換のアルキル部分(直鎖状、分枝鎖状、又は環状の何れでもよい)を有していてもよく、また、1又は2以上のヘテロ原子を有していてもよい。アミノ酸誘導体は新規に作製したものでもよく、また、商業的供給源から調達したものでもよい(Calbiochem-Novabiochem AG, Switzerland、Bachem, USA)。ペプチド模倣体(並びに非ペプチド模倣体)の合成及び開発の手法は、本技術分野では周知である(Hruby VJ.及びBalse PM.(2000)、Golebiowski A.等(2001))。タンパク質の構造及び機能を探索及び/又は改良するべく、インビボ及びインビトロ双方の翻訳系を用いてタンパク質に非天然のアミノ酸を導入するための方法論についても、文献に種々開示されている(Dougherty DA.(2000))。
【0050】
下記で考察することにするが、本発明のポリペプチドは、組み換え技術及び化学合成技術を含む、本技術分野で周知の任意の手順によって調製することができる。
【0051】
更なる態様によれば、本発明は、上記定義のポリペプチド、即ちEvasin−3のアミノ酸配列又はそのフラグメント或いは類似体をコード化する核酸分子にある。本発明の特定の核酸分子は、
a)Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号5)を含んでなるタンパク質をコード化する核酸分子と、
b)成熟Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号6)又は成熟Met−Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号26)を含んでなるタンパク質をコード化する核酸分子と、
c)Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号17)を含んでなるタンパク質をコード化する核酸分子と、
d)成熟Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号18)を含んでなるタンパク質をコード化する核酸分子と、
e)ストリンジェントな条件下でa)、b)、c)、又はd)の核酸分子とハイブリダイズする能力があり、且つCXCケモカインに結合するタンパク質をコード化する、核酸分子と、
f)アミノ酸配列がa)、b)、c)、又はd)のタンパク質と少なくとも約70%同一であり、且つCXCケモカインに結合するタンパク質をコード化する、核酸分子と、
g)a)、b)、c)、d)、e)、又はf)の核酸分子によってコード化されるタンパク質のフラグメントを含んでなるタンパク質をコード化する核酸分子であって、そのフラグメントがCXCケモカインに結合するタンパク質をコード化する、核酸分子と、
h)a)、b)、c)、d)、e)、f)、又はg)の核酸分子の縮退変種と
からなる群より選択される。
【0052】
具体的には、この核酸分子は、
a)Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号5)を有するタンパク質と、
b)成熟Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号6)又は成熟Met−Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号26)を有するタンパク質と、
c)Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号17)を有するタンパク質と、
d)成熟Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号18)を有するタンパク質と、
e)a)、b)、c)、又はd)のタンパク質のフラグメントを含んでなり、そのフラグメントがCXCケモカインに結合するタンパク質と、
f)a)、b)、c)、又はd)のタンパク質のフラグメントを含んでなり、そのフラグメントが免疫調節活性を有するタンパク質と、
g)a)、b)、c)、又はd)のタンパク質の活性な突然変異体であって、その変異体において1又は複数個のアミノ酸残基が付加、欠失、又は置換されており、且つCXCケモカインに結合する、突然変異体と、
h)膜結合タンパク質の細胞外ドメイン、免疫グロブリンの定常部、多量体化ドメイン、シグナルペプチド、搬出シグナル、及びタグ配列の中から選択される1又は複数個のアミノ酸配列と作動式に連結したa)、b)、c)、d)、e)、f)、又はg)のタンパク質を含んでなる融合タンパク質と
からなる群より選択されるタンパク質をコード化する。
【0053】
本発明との関連において「縮退変種」とは、遺伝子コードの縮退に起因する核酸配列であって、基準となる核酸と同じアミノ酸配列をコード化する全ての核酸配列を指す。
【0054】
更に用語「核酸分子」は、制限なしにデオキシリボ核酸(例えばDNA、cDNA、gDNA、合成DNA等)、リボ核酸(例えばRNA、mRNA等)、及びペプチド核酸(PNA)を含めた全ての異なる種類の核酸を包含する。好ましい実施形態では核酸分子は、二重鎖DNA分子等のDNA分子、典型的にはcDNAである。
【0055】
主要な態様のうち、実施例に開示したEvasin−3のDNA及びタンパク質の配列を対象とする態様の具体的な実施形態としては、一連のEvasin−3関連配列が挙げられる。例としては、中程度にストリンジェントな条件下(5×SSC、0.5%SDS、1.0mM EDTA(pH8.0)の予洗浄液、及び50℃、5×SSC、一晩のハイブリダイゼーション条件)において、Evasin−3をコード化するDNA配列とハイブリダイズする能力があり、且つCXCケモカイン結合タンパク質をコード化する、DNA又はRNA配列等が挙げられる。
【0056】
例えば、本発明は、Evasin−3を発現するクリイロコイタマダニのcDNAの配列(配列番号3)、関連するオープンリーディングフレーム(ORF、配列番号4)、Evasin−3をヒスチジンタグと融合させた組み換えタンパク質として、哺乳動物又は昆虫の宿主細胞において発現させることを可能にする、修飾cDNA配列(配列番号15)を提供する。
【0057】
他の好ましい実施形態によれば、Evasin−3配列は、Evasin−3と少なくとも約70%、好ましくは80%、最も好ましくは90%のアミノ酸配列が同一のタンパク質をコード化するDNA分子である。この値は、任意の専用プログラム、例えばFASTA(Pearson WR.(2000))によって計算することができる。また、フラグメント又は部分配列の場合には、フラグメント内に存在するEvasin−3部分に関して、その値を計算する。
【0058】
別の好ましい実施形態として、上記定義の核酸分子の配列のフラグメントを含んでなる、或いはかかる配列の一領域と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドがある。かかるオリゴヌクレオチドは通常、そのヌクレオチド長が5個から100個の間であり、例えば、ヌクレオチド長が少なくとも約20個のオリゴヌクレオチド、ヌクレオチド長が少なくとも約30個のオリゴヌクレオチド、及び、ヌクレオチド長が少なくとも約50個のオリゴヌクレオチドからなる群より選択し得る。これらのオリゴヌクレオチドは、Evasin−3コード化転写物中の非コーディング/コーディング配列及び試料中の関連配列を(例えばPCR又はサザンブロット法で)検出するために、或いは、Evasin−3の組み換え変種を作製し、サブクローン化するために使用することができる。これを示すのが、Evasin−3コード化配列をヒスチジンタグ化変種としてサブクローン化及び修飾するために使用されるプライマーの3′末端に関する実施例である(Evasin−3 PCR順方向及び逆方向(forward and reverse)、配列番号7及び8)。
【0059】
更なる態様では、上記定義の核酸分子を、クローニングベクター又は発現ベクターに含入させてもよい。これに関連して、本発明の特定の実施形態は、上記定義の核酸分子と作動式に結合したプロモーター、具体的には組織特異的な構成プロモーター、又は調節性(例えば誘発性)プロモーターを含んでなる発現ベクターに存する。このベクターは、更なる任意の調節エレメント、例えばターミネーター、エンハンサー、複製起点、選択マーカー等を含んでいてもよい。このベクターは、プラスミド、ファージミド、コスミド、ウィルスベクター、ファージ、人工染色体等の何れであってもよい。
【0060】
特定の実施形態によれば、このベクターは、
a)本発明のDNAと、
b)発現カセットと
を含んでなるものでもよい。
ここで、上記DNA(a)は、配列(b)に含まれる組織特異的、構成的、又は誘発性プロモーターと作動式に結合する。
【0061】
任意により、コーディング核酸(即ち配列(a))が開始メチオニンのコドンを含有しない場合(例えばその配列が、タンパク質の成熟配列のみを(シグナルペプチド抜きで)コード化する場合)、そのベクター又は発現カセットが、開始メチオニンを適切に発現し得るよう、かかる配列の5′にクローン化されたATG配列を含有していてもよい。その後、この更なるアミノ酸は、得られた組み換えタンパク質内に残存させておいてもよく、文献に開示の方法に従ってメチオニンアミノペプチダーゼ等の酵素を用いて除去してもよい(Van Valkenburgh HA.及びKahn RA.(2002)、Ben-Bassat A.(1991))。
【0062】
このベクターによれば、実験又は治療の何れの理由でも、組織培養の条件下のみならずインビボでも、本発明のタンパク質の発現が可能となる。例えば、本発明のタンパク質を過剰発現する細胞を動物モデルにトランスフェクトして(例えば封入して)、そのタンパク質の常時投与の生理学的効果を確認してから、最終的にその細胞をヒトに適用することが可能となる。或いは、レトロウィルス媒介遺伝子移入のために、或いは動物におけるベクター又は単離DNAコーディング配列の導入及び発現を内因性プロモーターの制御下で可能にする任意の他の技術のために、このベクターを使用することができる。この手法によれば、本発明のタンパク質が構成的に、又は調節下で(例えば特定の細胞内で、及び/又は、特定の化合物による誘導に引き続いて)発現されるトランスジェニック非ヒト動物の産生が可能となる。同様の手法は、様々な発生的及び病理学的効果を示す他の非哺乳動物のケモカイン結合タンパク質に応用されてきた(Jensen KK.等(2003)、Pyo R.等(2004)、Bursill CA.等(2004))。
【0063】
本発明の別の態様は、上記に示したクローニング又は発現ベクターにより形質転換された、又はそれをトランスフェクトされた宿主細胞である。これらのベクターは、本発明のポリペプチドの調製過程において使用することができる。この点に関して、本発明の一態様は、上述のEvasin−3ポリペプチドの調製方法であって、上記定義の組み換え細胞を、発現を可能とし、或いは促進する条件下で培養することと、上記定義のEvasin−3ポリペプチドを回収することとを含んでなる方法である。ベクターがこのポリペプチドを細胞外空間分泌タンパク質として発現する場合、更なる処理を考慮して、このタンパク質をより容易に培養細胞から回収し、精製することができる。
【0064】
ベクターや原核又は真核の宿主細胞を用いた組み換えタンパク質のクローン化及び産生に関し、多数の著書や概説が教示を与えている。例としては、Oxford University Pressにより出版されたシリーズ「A Practical Approach」の中の幾つかの表題(「DNA Cloning 2: Expression Systems」(1995)、「DNA Cloning 4: Mammalian Systems」(1996)、「Protein Expression」(1999)、「Protein Purification Techniques」(2001))が挙げられる。具体的に、これらの例は、クリイロコイタマダニcDNAライブラリーのスクリーニングによってEvasin−3をコード化するDNA配列が同定された後、対応する組み換えタンパク質を得るためにORFを適合させ、修飾し、更には発現ベクターに挿入する方法を示している。
【0065】
一般に、これらのベクターはエピソーム型ベクターでも、非相同/相同組込み型ベクターでもよく、任意の適切な手段(形質転換、トランスフェクション、結合、プロトプラスト融合、電気穿孔、リン酸カルシウム沈殿法、直接マイクロインジェクション等)によって、適切な宿主細胞内に導入し、宿主細胞を形質転換することができる。具体的なプラスミド、ウィルス、又はレトロウィルスベクターを選択する上で重要な因子としては、ベクター含有受容細胞をベクター非含有受容細胞から識別・選択する際の容易さ、特定の宿主におけるベクターの所望のコピー数、及び、様々な種の宿主細胞間でベクターを「往復させる(shuttle)」能力を所望するか否か等が挙げられる。これらベクターは、本発明の分離タンパク質又はそれらを含んでなる融合タンパク質が、原核又は真核の宿主細胞内で、適切な転写開始/停止調節配列の制御下において発現することを許容するものである必要がある。かかる調節配列としては、前記細胞内で構成的に活性であるか、誘導可能であるものが選択される。次いで、かかる細胞群内で実質的に濃縮された細胞株を分離することにより、(HEK293及びTN5細胞株を用いた実施例で示すように)安定な細胞株を得ることができる。
【0066】
真核生物の宿主細胞(例えば酵母、昆虫、又は哺乳動物の細胞)の場合、その宿主の性質に応じて様々な転写及び翻訳調節配列を使用することができる。それらは、調節シグナルが高レベル発現性の特定の遺伝子と関連している、アデノウィルス、ウシ乳頭腫ウィルス、サルウィルス等のウィルス源から得られたものでもよい。例としては、ヘルペスウィルスのTKプロモーター、SV40初期プロモーター、酵母gal4遺伝子プロモーター等が挙げられる。遺伝子の発現を調節できるように、抑制及び活性化を可能にする転写開始調節シグナルを選択してもよい。導入されたDNAによって安定的に形質転換される細胞は、発現ベクターを含有する宿主細胞の選択を可能にする1又は2以上のマーカーの導入によっても選択することができる。また、このマーカーによって、栄養要求性宿主に対する光合成能の提供や、殺生物剤(例えば抗生物質や、銅等の重金属)に対する抵抗性等の提供も可能である。選択マーカー遺伝子は、発現するDNA遺伝子に直接連結してもよく、コトランスフェクションによって同一の細胞内に導入してもよい。また、本発明のタンパク質の最適合成にとって、付加的な要素が必要な場合もある。
【0067】
組み換え産生用の宿主細胞は、原核生物と真核生物の何れの細胞であってもよい。特に好適な原核生物細胞には、組み換えによるバクテリオファージ、プラスミド、又はコスミドDNA発現ベクターを用いて形質転換された細菌(枯草菌(Bacillus subtillis)や大腸菌(E. coli)など)が挙げられる。真核生物の宿主細胞、例えばヒト、サル、マウス、及びチャイニーズハムスターの卵巣(CHO)の細胞等の哺乳動物の細胞は、適切な折り畳みや適切な部位でのグリコシル化等、タンパク質分子に対する翻訳後修飾を可能にするという点で好ましい。別の真核生物の宿主細胞としては、酵母発現ベクターを用いて形質転換した酵母細胞が挙げられる。酵母細胞によっても、グリコシル化等の翻訳後ペプチド修飾を行なうことができる。強力なプロモーター配列と高コピー数のプラスミドとを用いた、酵母内で所望のタンパク質の産生に利用可能な組み換えDNA戦略が種々存在する。酵母は、クローン化された哺乳動物遺伝子産物中のリーダー配列を認識し、リーダー配列(即ちプレペプチド)を有するペプチドを分泌する。
【0068】
組み換えポリペプチドを長期間、高収量で産生させるには、安定した発現が好ましい。例えば、関心のあるポリペプチドを安定的に発現する細胞株を、ウィルスの複製起点及び/又は内因性発現エレメントを含有し得る発現ベクターと、同一又は別のベクター上の選択マーカー遺伝子とを用いて形質転換すればよい。ベクターの導入後、選択培地に切り替えるに先立って細胞を富化培地中で1〜2日間成長させてもよい。選択マーカーの目的は、選択に対する抵抗性を付与することであり、その存在によって、導入された配列を首尾よく発現させる細胞の成長及び回収が可能になる。安定的に形質転換された細胞の耐性クローンを、その細胞型に適した組織培養技術を用いて増殖させればよい。その後、かかる細胞群において実質的に濃縮された細胞株を分離すれば、安定な細胞株を得ることができる。
【0069】
本発明の組み換えポリペプチドの高収量生産の特に好ましい方法は、米国特許第4,889,803号に記載のようにメトトレキセートのレベルを連続的に増加させるステップの使用によって、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)欠損CHO細胞中でのDHFRの増幅を用いることによるものである。得られたポリペプチドは、グリコシル化された形態であってもよい。
【0070】
発現用の宿主として利用可能な哺乳動物細胞株は本技術分野で公知であり、例えば米国基準菌株保有機構(ATTC)から多数の不死化細胞株が入手可能である。例としては、これらに限定されるものではないが、チャイニーズハムスターの卵巣(CHO)、Hela、幼児ハムスターの腎臓(BHK)、サルの腎臓(COS)、C127、3T3、HEK293、ボーズ(Bowes)黒色腫及びヒト肝細胞性癌腫(例えばHep G2)細胞、並びに幾つかの他の細胞株が挙げられる。バキュロウィルス系ではバキュロウィルス/昆虫細胞発現系用の物質が、特にInvitrogenからキットの形態で市販されている。
【0071】
或いは、本発明のポリペプチドは、人工合成によって調製することもできる。これに関して、化学合成技術の例としては、固相合成と液相合成とが挙げられる。固相合成としては、例えば、合成対象となるペプチドのカルボキシ末端に当たるアミノ酸を有機溶媒に不溶性の保持体に結合させるとともに、2つの反応(即ち、アミノ基を有するとともに、適切な保護基で保護された側鎖官能基を有するアミノ酸を、カルボキシ末端からアミノ末端へと1つずつ順に縮合させる反応、並びに、樹脂に結合しているアミノ酸や、ペプチドのアミノ基の保護基に結合しているアミノ酸を遊離させる反応)を交互に反復することにより、ペプチド鎖を伸長させる方法が挙げられる。固相合成法は、使用する保護基の種類に応じて、tBoc法とFmoc法とに大別される。一般に使用される保護基には、アミノ基についてはtBoc(t−ブトキシカルボニル)、Cl−Z(2−クロロベンジルオキシカルボニル)、Br−Z(2−ブロモベンジルオキシカルボニル)、Bzl(ベンジル)、Fmoc(9−フルオレニルメトキシカルボニル)、Mbh(4,4′−ジメトキシジベンズヒドリル)、Mtr(4−メトキシ−2,3,6−トリメチルベンゼンスルホニル)、Trt(トリチル)、Tos(トシル)、Z(ベンジルオキシカルボニル)、及びCl2−Bzl(2,6−ジクロロベンジル)、またグアニジノ基についてはNO2(ニトロ)及びPmc(2,2,5,7,8−ペンタメチルクロマン−6−スルホニル)、また、水酸基についてはtBu(t−ブチル)が挙げられる。所望のポリペプチドの合成後、これを脱保護反応に供し、固体保持体から分離する。かかるペプチド切断反応は、Boc法の場合はフッ化水素又はトリフルオロメタンスルホン酸、またFmoc法の場合はTFAを用いて行なうことができる。Evasin−3と同等のサイズの完全合成タンパク質が、文献に開示されている(Brown A.等(1996))。
【0072】
本発明のポリペプチドは、所望の使用及び/又は製法によって、他の好ましい代替形態として生産し、処方し、投与し、又は一般的に使用することができる。本発明のタンパク質に対して、例えば実施例に示すグリコシル化等、翻訳後修飾を行なってもよい。
【0073】
一般的に、本発明のタンパク質は、活性な画分、前駆体、塩、誘導体、抱合体、又は複合体の形態で得ることができる。
【0074】
上述したように、「活性な」又は「生物学的に活性な」という語は、かかる代替化合物がEvasin−3のCXCケモカイン結合特性及び/又は免疫調節特性を維持し、更には強化し得ることを意味する。
【0075】
「画分」という語は、化合物自体のポリペプチド鎖の任意のフラグメントを単独で、或いは関連分子や前記化合物に結合する残基(例えば糖又はリン酸の残基)との組み合わせで指す。また、かかる分子は、合成時及び/又は更なる加工段階において、一次配列を通常は変更しない他の修飾、例えばインビトロでのペプチドの化学的誘導体化(アセチル化又はカルボキシル化)によって、またタンパク質の翻訳後修飾、例えばリン酸化(ホスホチロシン、ホスホセリン、又はホスホトレオニン残基の導入)によって、或いは(グリコシル化に影響を及ぼす酵素、例えば哺乳動物のグリコシル化酵素又は脱グリコシル化酵素に、ペプチドを曝すことによる)グリコシル化の結果として得られたものでもよい。特に、Evasin−3はダニの唾液でも、また本明細書中で開示した二つの組み換え形態の何れにおいても、程度の差はあれ多量にグリコシル化されることを特徴とした。この修飾は、適切な修飾用酵素を使用することによってインビボで行なうこともでき、組み換え産生用の適切な宿主細胞を選択することによってインビトロで行なうこともできる。
【0076】
「前駆体」とは、細胞又は身体への投与前又は投与後の代謝的及び酵素的プロセシングによって、本発明の化合物に変換され得る化合物である。
【0077】
本明細書において「塩」という語は、本発明のペプチド、ポリペプチド、又はそれらの類似体のカルボキシル基の塩及びアミノ基の酸付加塩の両方を指す。カルボキシル基の塩は、本技術分野で公知の手段で形成することができ、例としては、ナトリウム、カルシウム、アンモニウム、鉄(III)、又は亜鉛の塩等の無機塩と、トリエタノールアミン、アルギニン又はリシン、ピペリジン、プロカイン等のアミン等の有機塩基により形成される塩とが挙げられる。酸付加塩の例としては、塩酸や硫酸等の鉱酸による塩と、酢酸やシュウ酸等の有機酸による塩とが挙げられる。かかる塩は何れも、本発明のペプチド及びポリペプチド又はそれらの類似体と実質上同様の活性を有することが望まれる。
【0078】
本明細書で用いられる「誘導体」という語は、そのアミノ酸部分の側鎖上に存在する、或いはアミノ末端基やカルボキシ末端基上に存在する官能基から、周知の方法により調製し得る誘導体を指す。かかる誘導体には、例えばカルボキシル基のエステル又は脂肪族アミドと、遊離アミノ基のN−アシル誘導体又は遊離水酸基のO−アシル誘導体とが挙げられ、例えばアルカノイル又はアロイル基等のアシル基によって形成される。
【0079】
本発明のタンパク質は、放射性標識、ビオチン、蛍光標識、細胞毒性薬、及び薬物送達物質の中から選択される分子を含んでなる活性な抱合体又は複合体の形態であってもよい。有用な抱合体又は複合体は、本技術分野で公知の分子及び方法を用いて、様々な理由において作製することができる。かかる理由としては、例えば、CXCケモカインや他のタンパク質(放射性又は蛍光標識、ビオチン)との相互作用、治療効果(細胞毒性薬)の検出を可能にする、或いは、薬物送達効果の点からポリエチレングリコール及び他の天然又は合成ポリマー等の薬品を改良する等が挙げられる(Harris JM.及びChess RB.(2003)、Greenwald RB.等(2003)、Pillai O.及びPanchagnula R.(2001))。これに関して本発明は、本明細書に開示するように、化学的に修飾されたポリペプチド及びタンパク質、即ちポリマーと連結されたポリペプチド又はタンパク質を意図している。このポリマーは通常、抱合体が生理的環境等の水性環境中で沈殿しないように、水溶性である。好適なポリマーの例としては、単一の反応性基(例えばアシル化用の活性エステルや、アルキル化用のアルデヒド)を有するように修飾されたものが挙げられる。これによって、重合度を制御することができる。反応性アルデヒドの例としては、ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒド、又はモノ−(C1〜C10)アルコキシ、又はそれらのアリールオキシ誘導体が挙げられる(例えば、米国特許第5,252,714号参照)。このポリマーは分枝していてもよく、非分枝でもよい。更に、ポリマー混合物を用いて抱合体を作製することもできる。治療に使用される抱合体は、医薬的に許容し得る水溶性ポリマー部分を含んでなるものでもよい。好適な水溶性ポリマーとしては、ポリエチレングリコール(PEG)、モノメトキシ−PEG、モノ−(C1〜C10)アルコキシ−PEG、アリールオキシ−PEG、ポリ−(N−ビニルピロリドン)PEG、トレシルモノメトキシPEG、PEGプロピオンアルデヒド、ビス−スクシンイミジルカーボナートPEG、プロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例えばグリセロール)、ポリビニルアルコール、デキストラン、セルロース、又は他の炭水化物系ポリマーが挙げられる。好適なPEGの分子量としては、約600から約60,000の間、例えば5,000、12,000、20,000、及び25,000党が挙げられる。また、抱合体は、かかる水溶性ポリマーの混合物を含んでなるものでもよい。実例として、本発明のEvasin−3ポリペプチド又は変種を、PEGにより修飾することができる。これは「PEG化」として知られる手法である(例えば、欧州特許第0 154 316号参照)。例えば、PEG化は、反応性ポリエチレングリコール分子とのアシル化反応又はアルキル化反応によって行なうことができる。別の手法として、活性化PEGの縮合、即ち、PEGの末端水酸基又はアミノ基を活性化リンカーで置換することによって、抱合体を形成することもできる(例えば、米国特許第5,382,657号参照)。このPEGは直鎖状でも分枝鎖状でもよい。これによってタンパク質の安定化、半減期の延長、或いは生理活性の向上を達成し得る。
【0080】
これらのEvasin−3由来化合物の作製は、内部又は末端に位置する適切な残基の部位特異的修飾に続いて行なうこともできる。ポリマー結合には、かかる結合を受容し易い側鎖(即ち、リシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、システイン、ヒスチジン等の、官能基を有するアミノ酸側鎖)を有する残基を用いることができる。或いは、ポリマーが結合される側鎖を有する別のアミノ酸で、これらの部位の残基を置換してもよい。
【0081】
例えば、直接のPEG化を可能にするべく、組み換えDNA技術により、或いは酵素の働きにより、付加的なシステインを成熟タンパク質配列のN又はC末端に付加してもよい。或いは、グリコシル化部位に相当する残基の置換によって、システインをタンパク質中に導入することもできる。
【0082】
別の態様によれば、本発明は、本発明のタンパク質と選択的に結合する抗体に関する。
【0083】
本明細書で用いられる「抗体」という語は、以下で更に説明するように、モノクローナル及びポリクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体、二重特異性又は多重特異性抗体、並びに単鎖抗体(scFv)又はドメイン抗体等の抗体フラグメントをも包含する。
【0084】
本発明との関連において「選択的」結合という語は、抗体が標的のポリペプチド又はエピトープに対して優先的に(即ち、他の何れの抗原又はエピトープとの何れの結合よりも高い親和力で)結合することを指す。換言すれば、標的ポリペプチドとの結合は、他の抗原との非特異的結合と区別することが可能である。本発明に係る抗体は、標的ポリペプチド又はエピトープに対して106M-1以上、好ましくは107M-1以上、より好ましくは108M-1以上、最も好ましくは109M-1以上の結合親和力(Ka)を示す。抗体の結合親和力は、当業者であれば、例えばスキャッチャード分析(Scatchard G.(1949))によって容易に求めることができる。
【0085】
本発明の抗体はモノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよく、或いは実質的に同じ抗原特異性を有するそれらのフラグメント又は誘導体であってもよい。
【0086】
齧歯類、霊長類、及びウマ類を含む様々な種からポリクローナル抗体を調製する方法が、例えばVaitukaitis等(1971)において報告されている。ポリクローナル抗体は、例えば、免疫剤(及び所望によりアジュバント)を哺乳動物に1回又は複数回注入することにより、産生することができる。通常、この免疫剤及び/又はアジュバントは、複数回の皮下又は腹膜内注射により哺乳動物に注入されることになる。免疫剤としては、前述した配列番号5、6、17、18のポリペプチド又は変種、或いはそれらの融合タンパク質が挙げられる。その免疫剤を、免疫されるその哺乳動物において免疫原性があることが知られているタンパク質と結合させることが有用な場合もある。かかる免疫原性タンパク質の例としては、これらに限定されるものではないが、スカシ貝(keyhole limpet)ヘモシアニン、血清アルブミン、ウシのチログロブリン、及びダイズトリプシン阻害薬が挙げられる。使用し得るアジュバントの例としては、フロイント完全アジュバントやMPL−TDMアジュバント(モノホスホリルリピドA、合成トレハロースジコリノミコラート)が挙げられる。注射を繰り返し行なってもよい。血液試料を回収し、免疫グロブリン又は血清を分離する。
【0087】
或いは、抗体はモノクローナル抗体であってもよい。本明細書で用いられる「モノクローナル抗体」という語は、実質上均一な抗体集団(即ち、集団を構成する個々の抗体が、自然発生し得る少量の突然変異体を除いて同一である集団)から得られる抗体を意味する。モノクローナル抗体は極めて特異性が高く、単一の抗原部位を対象とする。その修飾語である「モノクローナル」とは、実質的に均一な抗体集団から得られる抗体の性質を指すものであって、何れか特定の方法によって抗体を産生する必要があるものと解釈すべきではない。
【0088】
モノクローナル抗体を産生する方法は、例えばKohler等(Nature 256(1975)495)に開示されている。これは援用により本明細書内に組み込まれる。
【0089】
ハイブリドーマ法では、マウス、ハムスター、又は他の適切な宿主動物を、一般には免疫剤(この免疫剤は通常、先に述べた配列番号5、6、17、18のポリペプチド又は変種、或いはそれらの融合タンパク質、或いは上記タンパク質のコード配列を含有する発現ベクターを含むことになる)で免疫化して、この免疫剤と特異的に結合するであろう抗体を産生するか、又は産生し得るリンパ球を引き出す。或いは、このリンパ球をインビトロで免疫化してもよい。一般に、ヒト起源の細胞が望ましい場合は、末梢血のリンパ球(「PBL」)を使用し、非ヒト哺乳動物源が望ましい場合は、脾臓細胞又はリンパ節細胞を使用する。次いで、ポリエチレングリコール等の適切な融合剤を用い、リンパ球を不死化細胞株と融合させてハイブリドーマ細胞を形成する(Goding(1986))。これら不死化細胞株は、一般的には形質転換された哺乳動物細胞、特に齧歯類、ウシ、及びヒト起源の骨髄腫細胞である。通常はラット又はマウスの骨髄腫細胞株が使用される。このハイブリドーマ細胞を適切な培地中で培養すればよいが、かかる培地は、融合されていない不死化細胞の成長又は生存を阻害する1又は2以上の物質を含有することが好ましい。例えば、親細胞が酵素、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT又はHPRT)を欠く場合、ハイブリドーマ用の培地は通常、ヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジンを含有する培地(「HAT培地」)であり、これらの物質がHGPRT欠損細胞の成長を妨げることになる。好ましい不死化細胞株は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による抗体の安定した高レベルの発現を支え、且つHAT培地等の培地に対して感受性を有するものである。より好ましい不死化細胞株はネズミの骨髄腫株であり、例えばカリフォルニア州サンディエゴのSalk Institute Cell Distribution Center、及び、バージニア州マナサスのAmerican Type Culture Collectionから得ることができる。ヒト骨髄腫及びマウス−ヒト異型骨髄腫の細胞株もまた、ヒトモノクローナル抗体産生用に記述されている。
【0090】
次いで、ハイブリドーマ細胞が培養されている培地に、免疫ペプチドに対するモノクローナル抗体が存在するかどうかをアッセイすればよい。ハイブリドーマ細胞によって産生されたモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降法によって、或いはラジオイムノアッセイ(RIA)や酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)等のインビトロ結合アッセイによって定量することが好ましい。かかる技術やアッセイは、本技術分野では公知である。
【0091】
所望のハイブリドーマ細胞が同定されたら、そのクローンを限界希釈法によりサブクローン化し、標準的な方法により成長させる(Goding、上記)。この目的に適した培地としては、例えばダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)及びRPMI−1640培地が挙げられる。或いは、ハイブリドーマ細胞をインビボで、哺乳動物の腹水で成長させてもよい。
【0092】
サブクローンによって分泌されたモノクローナル抗体は、例えばプロテインA−セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、又はアフィニティークロマトグラフィー等の通常の免疫グロブリン精製手順によって、培地又は腹水から分離又は精製することができる。
【0093】
また、組み換えDNA法、例えば米国特許第4,816,567号に記載の方法によって、モノクローナル抗体を作製することもできる。本発明のモノクローナル抗体をコード化するDNAは、通常の手順を用いて(例えば、ネズミ抗体の重鎖及び軽鎖をコード化する遺伝子と特異的に結合し得るオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)容易に分離し、配列決定することができる。本発明のハイブリドーマ細胞は、かかるDNAの好適な供給源となる。分離後のDNAを発現ベクターに導入してもよい。次いでこの発現ベクターを、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又は通常は免疫グロブリンタンパク質を産生しない骨髄腫等の宿主細胞にトランスフェクトさせ、その組み換え宿主細胞中でモノクローナル抗体の合成物を得る。
【0094】
また、「モノクローナル抗体」は、Clackson等(1991)及びMarks等(1991)に記載の技術を用いて、ファージ抗体ライブラリーから分離することもできる。
【0095】
これら抗体は一価抗体であってもよい。一価抗体を調製するための方法は、本技術分野では周知である。例えば、一つの方法としては、免疫グロブリンの軽鎖と修飾重鎖の組み換え発現を伴うものが挙げられる。この重鎖は一般にFc領域内の任意の点で切断され、これにより重鎖の架橋が防止される。或いは、架橋を防ぐために関連したシステイン残基を別のアミノ酸残基で置換するか、又は欠失させる。
【0096】
インビトロ法も一価抗体の調製に適している。抗体のフラグメント、特にFabフラグメントを産生させるための抗体の消化は、本技術分野で周知の定型的な技術を用いて達成することができる。
【0097】
また、例えばWard等(1989)に開示のように、免疫グロブリンのコンビナトリアルライブラリーの選択によって抗体を作製してもよい。
【0098】
更に、本発明の抗体は、ヒト化抗体又はヒト抗体を含んでいてもよい。非ヒト(例えばネズミ)抗体のヒト化形態としては、キメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、又は非ヒト免疫グロブリンから得られる最小の配列を含有するそれらのフラグメント(Fv、Fab、Fab′、F(ab′)2、又は抗体の他の抗原結合サブ配列)が挙げられる。ヒト化抗体としては、受容体の相補性決定領域(CDR)由来の残基を、望ましい特異性、親和性、及び能力を有するマウス、ラット、又はウサギ等の非ヒトの種(ドナー抗体)のCDR由来の残基によって置換したヒト免疫グロブリン(受容抗体)が挙げられる。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基が、対応する非ヒトの残基によって置換される。
【0099】
非ヒト抗体をヒト化するための方法は、本技術分野では周知である。ヒト化は基本的に、Winter及び共同研究者の方法(Jones等、Nature, 321:522-525 (1986))に則って、齧歯動物のCDR又はCDR配列でヒト抗体の対応する配列を置換することにより行なうことができる。従って、かかる「ヒト化」抗体はキメラ抗体であり(米国特許第4,816,567号)、無傷のヒト可変ドメインは実質的には少しも非ヒトの種由来の対応する配列によって置き換えられていない。
【0100】
また、ヒト抗体は、本技術分野で公知の様々な技術を用いて作製することもできる。例えばファージディスプレイライブラリーが挙げられる(Hoogenboom及びWinter(1991))。同様に、ヒト抗体は、内因性免疫グロブリン遺伝子が部分的又は完全に不活性化されているトランスジェニック動物(例えばマウス)に、ヒト免疫グロブリン座を導入することによって作製することができる。抗原暴露に伴いヒト抗体の産生が観察され、それは遺伝子の再配列、作製、及び抗体レパトアを含め、あらゆる点でヒトに見られるものに酷似している。この手法は、例えば米国特許第5,545,807号、第5,545,806号、第5,569,825号、第5,625,126号、第5,633,425号、第5,661,016号に記載されている。
【0101】
また、本発明は、異種部分と連結された抗体を含んでなる免疫抱合体に関する。異種部分としては、細胞毒性薬、標識、薬物、又は他の治療薬が挙げられ、これらは共有結合か否かによらず、直接又はカップリング剤やリンカー等の使用により連結される。細胞毒性薬としては、化学療法剤、毒素(例えば、細菌、真菌、植物、又は動物起源の酵素的に活性な毒素、又はそれらのフラグメント)、或いは放射性同位元素(即ち放射性抱合体)が挙げられる。
【0102】
使用可能な酵素的に活性な毒素及びそれらのフラグメントとしては、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合性の活性フラグメント、エキソトキシンA鎖(緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデクシンA鎖、α−サルシン、シナアブラギリ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンチン(dianthin)タンパク質、ヨウシュヤマゴボウ(Phytolaca americana)タンパク質(PAPI、PAPII、及びPAP−S)、ツルレイシ(momordica charantia)阻害薬、クルシン(curcin)、クロチン(crotin)、サボンソウ(saponaria officinalis)阻害薬、ゲロニン(gelonin)、ミトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン(restrictocin)、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)、及びトリコセセンス(tricothecenes)が挙げられる。様々な放射性核種が、放射性抱合抗体の産生に利用できる。例としては、212Bi、131I、131In、90Y、及び186Reが挙げられる。
【0103】
別の実施形態によれば、この抗体を「受容体」(ストレプタビジン等)と結合させて、腫瘍プレターゲティングに利用してもよい。この場合、抗体−受容体抱合体を患者に投与し、続いて除去薬(clearing agent)を用いて非結合抱合体を循環から除去し、次いで細胞毒性薬(例えば放射性ヌクレオチド)に結合した「リガンド」(例えばアビジン)を投与する。
【0104】
更に、本発明の抗体又は抗体フラグメントを、本技術分野で方法の手法や本明細書に記載の方法を用いてPEG化することもできる。また、本明細書に開示の抗体を、イムノリポソームとして製剤してもよい。循環時間の改善されたリポソームが、米国特許第5,013,556号に開示されている。
【0105】
また、本発明は、無傷の抗体の一部分、好ましくは無傷の抗体の抗原結合領域又は可変部を含んでなる「抗体フラグメント」に関する。抗体フラグメントの例としては、Fab、Fab′、F(ab′)2、及びFvフラグメント;ダイアボディー;線状抗体;単鎖抗体分子;モノボディー;ダイアボディー;ラクダ化(camelized)モノボディー;抗体フラグメントから形成されるドメイン抗体及び多重特異的抗体が挙げられる。
【0106】
「Fv」は、完全な抗原認識及び結合部位を含有する最小の抗体フラグメントである。この領域は、非共有結合により強固に結合した1個の重鎖及び1個の軽鎖可変ドメインの二量体からなる。この配置により、各可変ドメインの3個のCDRが相互に作用して、VH−VL二量体表面の抗原結合部位を規定することになる。これら6個のCDRが全体として、抗体に抗原結合特異性を付与することになる。但し、単一の可変ドメイン(即ち、抗原特異的な3個のCDRのみを含んでなるFvの半分)であっても、抗原を認識し、結合する能力を有する。
【0107】
また、Fabフラグメントは、軽鎖の定常ドメイン及び重鎖の第1定常ドメイン(CH1)を含有する。FabフラグメントがFab′フラグメントと異なる点は、重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端に数個の残基が追加されている点であり、かかる残基には抗体ヒンジ領域由来の1又は2以上のシステインが含まれる。本明細書においてFab′−SHとは、定常ドメインのシステイン残基が遊離チオール基を有するFab′の呼称である。F(ab′)2抗体フラグメントは元来、ヒンジシステインで連結されたFab′フラグメント対として産生された。その他の抗体フラグメントの化学的結合も知られている。任意の脊椎動物種由来の抗体(免疫グロブリン)の「軽鎖」は、定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、明確に区別される2つの型(κ及びλと呼ばれる)の何れかに分類される。
【0108】
「単鎖抗体分子」は、抗体のVH及びVLドメインを含んでなり、それらのドメインが単一のポリペプチド鎖に存在する抗体フラグメントである。Fvポリペプチドは更に、単鎖抗体分子が抗原結合に望ましい構造を形成し得るよう、VHドメインとVLドメインとの間にポリペプチドリンカーを有することが好ましい。
【0109】
「ダイアボディー」という語は、2つの抗原結合部位を有する小型の抗体フラグメントを指す。このフラグメントは、軽鎖可変ドメイン(VL)に連結した重鎖可変ドメイン(VH)を、同一のポリペプチド鎖(VH−VL)内に含んでなる。同一鎖上にあるこれら2つのドメインが対合しないよう、十分に短いリンカーを使用することによって、これらのドメインを別の鎖の相補ドメインと強制的に対合させ、2つの抗原結合部位を生じさせる。ダイアボディーについては、例えば欧州特許第404,097号、国際公開第93/11161号に、より詳しく記載されている。
【0110】
本明細書で用いられる「モノボディー」という語は、重鎖可変ドメインを有し、軽鎖可変ドメインのない抗原結合分子を意味する。モノボディーは、軽鎖の不在下でも抗原と結合することができ、通常はCDRH1、CDRH2、及びCDRH3と名付けられた3個のCDR領域を有する。重鎖IgGモノボディーは、ジスルフィド結合によって連結された2つの重鎖抗原結合分子を有する。この重鎖可変ドメインは、1又は2以上のCDR領域、好ましくはCDRH3領域を含んでなる。
【0111】
「ラクダ化モノボディー」は、ラクダ科の動物源から得られるモノボディー又はその抗原結合部分を指す。ラクダ科に含まれる動物は、2つの蹄と革状の足底とを有する脚を有する。ラクダ科の動物としては、ラクダ類、ラマ類、及びアルパカ類が挙げられる。ラクダ類(ヒトコブラクダ(Camelus dromedaries)及びフタコブラクダ(Camelus bactrianus))の血清由来のIgG様物質を分析すると、しばしば可変軽鎖ドメインの欠落が見られることが報告されている。これは、VHドメイン(3つのCDRループ)単独でも、十分な抗体特異性及び親和性が得られることを示唆している。
【0112】
本発明には単一ドメイン抗体も含まれる。単一ドメイン抗体(別名ドメイン抗体又はdAbs)は、ヒト抗体の重鎖(VH)又は軽鎖(VL)の何れかの可変部に対応する抗体の最小の機能的結合単位である。ドメイン抗体は分子量約13kDa、即ち完全抗体の十分の一未満の大きさである。通常の抗体とは対照的に、ドメイン抗体は、細菌、酵母、及び哺乳動物の細胞系でも十分に発現する。更に、ドメイン抗体の多くは安定性が高く、広範な医薬品の調合条件及び製造工程に従わせるための凍結乾燥又は熱変性等の過酷な条件に曝された後でも、活性を保持する。
【0113】
本発明のタンパク質は、程度の差こそあれ、精製した形態で提供してもよい。実施例では、組み換えEvasin−3を発現させるのに必要な核酸をクローン化する方法、CXCケモカインに対する親和性及びクロマトグラフ技術を用いて組み換え又は天然Evasin−3を精製する方法、また、CXCケモカイン結合活性(特にCXCL8結合活性)を検出するためのアッセイによってこのタンパク質を適切に発現する細胞を選択する方法を示す。
【0114】
具体的に、本発明の天然、合成、又は組み換えアンタゴニストの精製は、この目的のために知られている方法の何れか(即ち、抽出、沈殿、クロマトグラフィー、電気泳動等を伴う任意の従来法)によって行なうことができる。本発明のタンパク質の精製に優先的に使用し得る更なる精製手順としては、標的タンパク質に結合するモノクローナル抗体又は親和性基を用いたアフィニティークロマトグラフィーが挙げられる。かかるモノクローナル抗体又は親和性基は、カラム内のゲルマトリックス上に形成、固定化される。タンパク質を含有する不純調製物をカラムに通過させる。タンパク質はヘパリンによって、或いは特異的抗体によってカラムと結合するのに対し、不純物はそのまま通過する。洗浄後、pH又はイオン強度を変えることによって、タンパク質をゲルから溶出させる。或いは、HPLC(高性能液体クロマトグラフィー)を用いてもよい。溶離は、タンパク質精製用に一般に使用される水−アセトニトリル系溶媒を用いて行なうことができる。本発明のタンパク質の精製済み調製物とは、本明細書で用いる場合、上記タンパク質が(乾燥重量で)少なくとも1%、好ましくは少なくとも5%の調製物を意味する。
【0115】
本発明の別の態様は、上記定義のEvasin−3ポリペプチドを(タンパク質の形態で、或いは上述した他の形態で)活性成分として含んでなるとともに、適切な希釈剤又は担体を含んでなる医薬組成物である。
【0116】
本発明の別の態様は、上記定義のEvasin−3ポリペプチドをコード化する核酸分子、或いは対応するベクター又は組み換え宿主細胞と、適切な希釈剤又は担体とを含んでなる医薬組成物である。
【0117】
本発明の更なる態様は、被験体における免疫反応の調節用薬剤の製造における、上記定義のEvasin−3ポリペプチド、或いはそれをコード化する核酸の使用に関する。
【0118】
これらの組成物は薬剤、特に哺乳動物における免疫又は炎症反応を調節するための薬剤、より具体的には抗炎症性化合物として使用することができる。
【0119】
一般的に、CXCケモカインが多数のヒト及び獣医学の疾病に関与していることを考慮すると、本発明のCXCケモカイン結合タンパク質は、動物におけるCXCケモカイン関連疾病の治療及び予防用のCXCケモカインのアンタゴニストとして使用し得る。CXCケモカイン関連疾病の非網羅的なリストには、炎症性疾患、自己免疫疾患、免疫病、感染症、アレルギー性疾患、心血管疾患、代謝性疾患、胃腸疾患、神経系疾患、敗血症、移植による拒絶反応に関連する疾患、又は線維性症候群が含まれる。これら疾患の例としては、限定されるものではないが、関節炎、慢性関節リウマチ(RA)、乾癬性関節炎、乾癬、慢性関節リウマチ、再狭窄、敗血症、変形性関節症、全身性エリテマトーデス(SLE)、全身性硬化症、強皮症、多発性筋炎、糸状体腎炎、線維症、アレルギー性又は過敏性症候群、皮膚炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、線維腫、潰瘍性大腸炎、多発性硬化症、敗血性ショック、ウィルス感染、癌、子宮内膜症、移植、移植片対宿主病(GVHD)、心臓及び腎臓再潅流傷害、及びアテローム性動脈硬化症が挙げられる。
【0120】
特に、本発明のCXCケモカイン結合タンパク質は、乾癬の治療及び予防に使用することができる。
【0121】
本発明のタンパク質又は特異的フラグメントは、哺乳動物における免疫又は炎症反応を調節するための医薬組成物、例えば抗炎症性組成物の製造において、活性成分として使用することができる。或いは、本発明のタンパク質又は特異的フラグメントは、寄生虫、ウィルス、又は細菌に対する哺乳動物の予防接種用の医薬組成物の製造において、活性成分として使用することができる。かかる医薬組成物を調製するための工程は、Evasin−3を医薬的に許容し得る希釈剤又は担体と混合するステップを含んでなる。
【0122】
本発明のタンパク質を活性成分として含有する医薬組成物を用いれば、インビボでCXCケモカインを結合させ、対応する細胞表面の受容体とCXCケモカインとの結合を遮断し、その結果として抗炎症効果等の潜在的な治療効果を生じさせることが可能となる。また、本発明のタンパク質を活性成分として含有する医薬組成物を用いれば、ウィルス、細菌、又は寄生虫に存在するCXCケモカイン類似体を結合することにより、これらのウィルス、細菌、又は寄生虫が細胞内に侵入するのを阻止することもできる。ウィルス、細菌、又は寄生虫に対する哺乳動物の予防接種用の医薬組成物は、活性成分として本発明のタンパク質のフラグメントを含んでいてもよい。上に示した組成物は、更に追加の免疫抑制剤又は抗炎症性物質を含んでいてもよい。
【0123】
医薬組成物は、活性成分としての本発明のタンパク質に加えて、医薬的に許容し得る適切な希釈剤、担体、生物学的適合性ビヒクル、並びに動物への投与に適した添加剤(例えば生理的塩類溶液)を含んでいてもよい。また、最終的には、活性化合物の医薬的に使用可能な調製剤への加工を容易にする補助剤(ビヒクル、安定剤、又はアジュバント等)を含んでなる。医薬組成物の製剤は、投与方式の要請を満たす任意の許容し得る方法で処方し得る。例えば、薬物送達用の生体適合材料及び他のポリマーの使用、並びに特定の投与方式を有効にする様々な方法及びモデルが、文献に開示されている(Luo B.及びPreswich GD.(2001)、Cleland JL.等(2001))。
【0124】
「医薬的に許容し得る」とは、活性成分の生物学的活性の有効性を妨げず、且つ、投与される宿主にとって有毒でない任意の担体を包含する意味である。例えば、非経口投与の場合、塩類溶液、デキストロース溶液、血清アルブミン、及びリンガー液等のビヒクルに活性成分を溶解させた注射用の単位剤形に処方することができる。また、担体は、デンプン、セルロース、タルク、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、コメ、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノール、及び石油、動物、植物、又は合成起源の油を含めた様々な油(落花生油、大豆油、鉱油、ゴマ油)から選択することができる。
【0125】
所望の活性成分の血中濃度を達成するために、当業者であれば、容認される何れの投与方式を使用及び決定してもよい。例えば投与は、皮下、静脈内、皮内、筋肉内、腹膜内、鼻腔内、経皮的、直腸、経口、又は頬内経路等の様々な非経口経路によって行なうことができる。また、本発明の医薬組成物は、ポリペプチドを所定の速度で長時間投与するために、蓄積注射、浸透流ポンプ等の持続又は制御放出剤形で投与してもよいが、正確な用量での単回投与に適した単位剤形で投与することが好ましい。
【0126】
非経口投与は、ボーラス投与で行なってもよく、時間をかけて徐放灌流により行なってもよい。非経口投与用の製剤としては、滅菌した水性又は非水性溶液、懸濁液、及び乳化液が挙げられる。これらは本技術分野で周知の補助剤又はビヒクルを含有していてもよく、また、定型的な方法に従って調製することができる。加えて、活性化合物の懸濁液を適切な油性注射用懸濁液として投与することもできる。好適な親油性溶媒又はビヒクルとしては、脂肪油類、例えばゴマ油や、合成脂肪酸エステル類、例えばゴマ油の合成脂肪酸エステルや、合成脂肪酸エステル類、例えばオレイン酸エチル又はトリグリセリド類が挙げられる。水性注射用懸濁液は、懸濁液の粘度を増加させる物質(例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、及び/又はデキストラン)を含有していてもよい。また、懸濁液は任意により、安定剤を含有していてもよい。医薬組成物には注射による投与に適した溶液が含まれ、かかる溶液は約0.01から99.99パーセント、好ましくは約20から75パーセントの活性化合物を、ビヒクルと共に含有する。
【0127】
当然ながら、投与される用量は、受容者の年齢、性別、健康状態、及び体重、併用治療を行なう場合はその種類、治療の頻度、更には所望する効果の性質に依存することになる。その用量は(当業者であれば理解し、決定し得るように)個々の被験体に合わせて決定される。各治療に必要な総用量は、多回投与で与えてもよく、単回投与で与えてもよい。本発明の医薬組成物は単独で投与してもよいが、対象となる病状(又は対象となる病状に関連する他の症状)に対する他の治療薬と組み合わせて投与してもよい。活性成分の1日投与量は通常、1日当たり体重1キログラム当たり0.01から100ミリグラムの範囲である。普通は1日当たり1キログラム当たり1から40ミリグラムを分割量又は持続放出形態で投与するのが、所望の結果を得る上で効果的である。二回目以降の投与における用量は、同一個体に投与された最初又は以前の用量と比べて、同一でもよく、少なくてもよく、多くてもよい。
【0128】
本発明の別の態様は、本発明のDNAによってコード化されるタンパク質の薬剤としての使用、具体的には哺乳動物の免疫又は炎症反応の調節用の組成物の調製における使用である。
【0129】
本発明の更なる態様は、動物を吸血性の外寄生虫に対して免疫化する方法、又は免疫又は炎症反応の調節が必要な動物においてかかる調節を行なう方法であって、前記動物に本発明のタンパク質を、免疫反応を調節するのに十分な期間及び条件の下で投与することを含んでなる方法である。
【0130】
本発明の別の態様は、CXCケモカイン関連疾患を治療又は予防する方法であって、本発明の化合物の有効量の投与を含んでなる方法である。
【0131】
「有効量」とは、その疾患の経過及び重症度に影響を及ぼし、かかる病状の縮小又は寛解をもたらすのに十分な活性成分量を意味する。有効量は、投与経路及び患者の状態に応じて異なる。
【0132】
「CXCケモカイン関連疾患」という表現は、過剰又は非制御のCXCケモカインの産生に起因し、大量の単核細胞/マクロファージ/好中球/T細胞浸潤を伴う疾患であって、Evasin−3の投与によって有益な効果が得られ得る任意の疾患を指す。かかる慢性、急性、又は遺伝性疾患の非網羅的なリストは上に示されている。
【0133】
本発明のCXCケモカインアンタゴニスト及び関連する試薬の治療用途は、哺乳動物の細胞、組織、及びモデルを利用したインビボ又はインビトロアッセイによって評価(安全性、薬物動態、及び有効性の見地から)し得る(Coleman R.等(2001)、Li A.(2001)、Methods Mol. Biol vol.138「Chemokines Protocols」(Proudfoot A.等編、Human Press Inc.,2000)、Methods Enzymol, vol.287及び288(Academic Press,1997))。アッセイ法の非限定的なリストには、カルシウム動員、脱顆粒、炎症促進性サイトカインの上方調節、プロテアーゼの上方調節、インビボ又はインビトロでの細胞動員の阻害が含まれる。
【0134】
本発明の更なる態様は、本発明のCXCケモカイン結合タンパク質に関連して開示された化合物の何れかを含有する試験キットである。例えば、検出試薬と、本発明のCXCケモカイン結合タンパク質に由来する
a)核酸分子(例えばDNA)、
b)オリゴヌクレオチド、
c)タンパク質、及び
d)抗体
からなる群より選択される少なくとも1種類の化合物とを含んでなる、CXCケモカイン又は類似体、或いはCXCケモカイン結合タンパク質又は受容体、或いはCXCケモカインとCXCケモカイン結合タンパク質との相互作用、或いは上記相互作用のアンタゴニスト又はアゴニストを検出するためのキットである。
【0135】
これらのキットは、インビトロ又はインビボに適用可能な方法に使用することができる。この場合、試料を上記化合物の何れかと接触させる。かかる化合物は標識してもよく、固体支持体に固定化してもよい。
【0136】
特定の実施形態を参照しながら本発明を説明したが、この説明の内容は、当業者が特許請求の範囲の意味及び目的を越えることなく行ない得る、あらゆる修正及び置換を含んでなる。
【0137】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、これらは何ら本発明を限定するものと解してはならない。実施例では以下に指定される図を参照する。
【実施例】
【0138】
実施例1:CXCケモカイン結合活性に関するクリイロコイタマダニcDNAライブラリーのスクリーニング及びEvasin−3のクローニング
【0139】
材料及び方法
b.クリイロコイタマダニcDNAライブラリーの作製及びvCCIを発現させる制御プラスミドの作製
【0140】
100匹の成虫のダニ(クリイロコイタマダニ)から唾液腺を採取し、直ちに氷冷RNAlater(商標)溶液(Ambion)に入れ、使用するまで保存した。TRIzol(商標)法(Invitrogen)を用い、メーカーの使用説明書に従って全RNAを抽出した。SMART cDNAライブラリー作製キット(Clontech)を用いて、ファージミドベクターλTripIEX2中でcDNAライブラリーを構築した。このcDNAを、ベクターとの連結反応に先立って、ChromaSpin 400カラム(Clontech)により、メーカーの使用説明書に従ってサイズ分画した。ライブラリー中のクローン化cDNA挿入断片のサイズは約0.6kbから1.5kbの範囲であり、挿入断片の頻度は約80%であった。
【0141】
pTripIEX2中のクリイロコイタマダニ唾液腺cDNAライブラリー由来のcDNA挿入断片を制限酵素SfiIで切除し、哺乳動物細胞発現ベクターpEXP−lib(Clontech)中にサブクローン化した。このpEXP−libベクターは、ヒトサイトメガロウィルス(CMV)の主要な極初期プロモーター/エンハンサーとそれに続くマルチクローニング部位、脳心筋ウィルス(ECMV)のリボソームエントリー部位(IRES)、ピューロマイシン耐性をコード化する遺伝子(ピューロマイシン−N−アセチルトランスフェラーゼ)、及びウシ成長ホルモンのポリアデニル化シグナルを含んでなる発現カセットを含有する。このマルチクローニング部位は、2つの別個のSfi I部位(インターパリンドローム配列が異なるSfi IA及びSfi IB)を含有する。これによって、pTripIEX2ベクターからpEXPIIへのcDNA挿入断片の定方向サブクローン化が可能となる。
【0142】
この制御タンパク質vCCI(国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)受託番号CAC05575、配列番号1)を、タンパク質(NCBI受託番号AJ277111、配列番号2)コード化cDNAを上記のようにpEXP−lib中にクローン化することにより発現させて、pEXP−lib vCCIを産生した。
【0143】
c.HEK293細胞上清を用いたライブラリーのスクリーニング
【0144】
ヒト胎児腎臓細胞293(HEK293細胞、米国基準菌株保有機構(ATCC)カタログ番号CRC−1573)を、DMEM−F12 Nut Mix、熱不活性化10%ウシ胎児血清、2mMのL−グルタミン、100単位/mlのペニシリン−スプレプトマイシンの溶液中に維持した。
【0145】
クリイロコイタマダニcDNAライブラリーを発現するpEXP−libプラスミドを複数のプールに分割し、GenePorter2トランスフェクションキット(Gene Therapy Systems)を使用して、メーカーのプロトコルに従ってHEK293細胞にトランスフェクトさせた。制御タンパク質vCCIを発現するpEXP−libプラスミドを、同様にHEK293にトランスフェクトさせた。
【0146】
トランスフェクトされたHEK293細胞由来の培地を、完全培地で生育させた成長させた細胞から、3日間の培養後に採取した。条件培地を遠心分離して細胞デブリを除去し、上清を架橋アッセイに使用した。
【0147】
架橋実験については、条件培地試料を96ウェルプレート(Costar)に移した。上清試料各50μlに、放射線標識したCCケモカイン(125I−CXCL8/IL−8)を加えて最終濃度0.23nMとし、振盪しながら室温で1時間インキュベートした。次いで各ウェルからのアリコート25μlを、25mM BS3(架橋試薬)5μlを含有する新しいウェルに移し、振盪しながら更に1時間インキュベートした。この時間の後、10×試料緩衝液(10%SDS、5mM EDTA、20%グリセロール、0.2%(w/w)ブロモフェノールブルー、1MのDTTを含有する125mMトリス塩基(pH6.8))5μlを各ウェルに加えて架橋反応を停止した。次いで、これら試料を5分間煮沸し、10%Bis−Tris SDS−ポリアクリルアミドゲル(Invitrogen NuPAGE、カタログ番号NP0301BOX)を用いて電気泳動した。電気泳動後、ゲルをサランラップ(商標)で密閉し、K型ストレージホスホイメージングスクリーン(storage phosphoimaging screen)(Biorad)に3〜16時間暴露した。イメージングスクリーンの走査は、Biorad Personal FX phosphoimagerを用いて100μmの分解能で行なった。
【0148】
結果
ダニクリイロコイタマダニの唾液は、IgG及びサイトカイン産生の抑制(Matsumoto K.等(2003))又はT細胞の増殖(Ferreira BR.及びSilva JS.(1998))等の免疫調節活性を有することが示されたが、CC又はCXCケモカインに対する特異的な活性は見られなかった。しかし、他のダニ種の唾液ではケモカイン結合活性が検出されている(Hajnicka等(2005))。
【0149】
クリイロコイタマダニのCXCケモカイン結合活性をDNA/タンパク質配列レベルで検出するために、クリイロコイタマダニの唾液腺からcDNAライブラリーを作製した。このライブラリーからのcDNAのプールを用いて、哺乳動物細胞(HEK293)にトランスフェクトさせた。
【0150】
この系において、分泌タンパク質をコード化するcDNAをHEK293細胞に発現させ、培地中に分泌させた。上清の試験は直接、放射線標識CXCケモカイン(125I−CXCL8/IL−8)を用いた架橋アッセイで行なうことができる。放射線標識CXCケモカイン/CXCケモカイン結合タンパク質に架橋試薬を加えると、これら二つの分子が共有結合で連結され、タンパク質複合体が安定化する。得られた複合体は、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)及びその後のオートラジオグラフィーによって、本来のケモカインの分子量から複合体の分子量へのバンドシフトに基づいて同定することができる。この架橋法は極めて感度が高く、ナノグラムの量のタンパク質を検出可能である。
【0151】
陽性対照として、vCCIをトランスフェクトされたHEK細胞由来の条件培地を並行して試験した。陰性対照として偽トランスフェクトされたHEK293細胞由来の条件培地を使用した。架橋アッセイで陽性シグナルを生じさせたcDNAプールを、CXCケモカイン結合活性の原因である単一のトランスフェクトされたcDNAが同定できるようになるまで、スクリーニング及び逆重畳の周回を繰り返し実施した。得られたcDNAをEvasin−3と呼ぶ(図1)。
【0152】
Evasin−3をコード化するcDNA(配列番号3)は、アミノ酸92個のタンパク質(配列番号5)をコード化するオープンリーディングフレーム(ORF、配列番号4)を含有する。このタンパク質配列はシグナルペプチド配列(残基1〜26個)を含有し、これを切断するとアミノ酸66個の成熟タンパク質(配列番号6)が産生されると予想される。Evasin−3は、他のどの既知のタンパク質とも有意な相同性を有しない。
【0153】
Evasin−3の更なる特徴は、2つの潜在的なグリコシル化部位(完全タンパク質の付番によれば51及び82番アスパラギン)、及び、対合してジスルフィド架橋を形成し得る一連のシステイン(完全タンパク質の付番によれば48、52、59、63、65、及び76番残基)である。
【0154】
実施例2:HEK293 EBNA細胞培養上清中に6Hisタグ化組み換えタンパク質として発現されたEvasin−3の精製及び特性決定
【0155】
材料及び方法
a.Gateway(商標)クローニング過程を用いた発現ベクターpDEST8及びpEAK12d中へのEvasin−3 cDNAのサブクローン化
【0156】
Gatewayクローニング過程の第1段階は、2ステップPCR反応(PCR1及びPCR2)を伴う。これによって、attB1組み換え部位及びKozak配列が5′末端に隣接し、インフレームの6ヒスチジン(6His)タグをコード化する配列と、停止コドンと、attB2組み換え部位とが3′末端に隣接したEvasin−3のORFが生成される(Gateway適合性cDNA、図2)。PCR1反応物(最終体積50μl中)は、2μl(50ng)のpEXP−Lib−Evasin−3、3μlのdNTPs(5mM)、5μlの10×Pfxポリメラーゼ緩衝液、1μlのMgSO4(50mM)、各1.5μlの遺伝子特異的プライマー(10μM)(Evasin−3 PCR1F(配列番号7)及びEvasin−3 PCR1R(配列番号8))、及び0.5μlのPlatinum Pfx DNAポリメラーゼ(Invitrogen)を含有する。第1PCR反応は、初回変性ステップを95℃で2分間行なった後、94℃で30秒、48℃で30秒、及び68℃で1分30秒のサイクルを10回行ない、最後に4℃の保持サイクルを行った。この増幅産物を、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)を用いて直接精製した。このPCR産物をメーカーの使用説明書に従って、50μlのEB緩衝液(10mMトリスHCl、pH8.5)中に溶出した。
【0157】
第2PCR反応物(最終体積50μl中の)は、10μlの精製PCR1産物、3μlのdNTPs(5mM)、10μlの10×Pfxポリメラーゼ緩衝液、1μlのMgSO4(50mM)、各1.5μlのGateway変換プライマー(10μM)(Evasin−3 PCR2F(配列番号9)及びEvasin−3 PCR2R(配列番号10))、及び0.5μlのPlatinum Pfx DNAポリメラーゼを含有する。第2PCR反応の条件は、95℃で1分間の後、94℃で15秒、50℃で30秒、及び68℃で2分のサイクルを4回、次いで94℃で15秒、55℃で30秒、及び68℃で1分のサイクルを20回、最後に4℃の保持サイクルとした。得られたPCR産物を、1×TAE緩衝液(Invitrogen)中1.5%アガロースゲル上で可視化し、予想分子質量(430bp)まで泳動したバンドを、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて、メーカーの使用説明書に従ってゲルから精製し、50μlのEB緩衝液中に溶出した。
【0158】
Gatewayクローニング過程の第2段階は、Gateway修飾PCR産物のGatewayエントリーベクターpDONR221へのサブクローン化を伴う。5μlの精製PCR2産物を、1.5μlのpDONR221ベクター(0.1μg/μl)、2μlのBP緩衝液、及び1.5μlのBP clonase酵素混合物(Invitrogen)と混合し、最終体積を10μlとして、室温で1時間インキュベートした。1μl(2μg/μl)のプロテイナーゼKを加えて反応を停止させ、37℃で更に10分間インキュベートした。この反応物のアリコート(1μl)を用いて、以下の手順で電気穿孔することにより、大腸菌(E.Coli)DH10B細胞に形質転換した。即ち、DH10B electrocompetent細胞(Invitrogen)の20μlアリコートを氷上で解凍し、BP反応混合物1μlを加えた。この混合物を、冷却した0.1cm電気穿孔キュベットに移し、それら細胞に対して、BioRad Gene-Pulser(商標)を用いてメーカーのプロトコルに従って電気穿孔した。電気穿孔後、直ちに、予め室温まで温めたSOC培地(1ml)を加えた。この混合物を15mlスナップキャップ管に移し、振盪(220rpm)しながら37℃で1時間インキュベートした。次いでこの形質転換混合物のアリコート(10μl及び100μl)を、カナマイシン(40μg/ml)を含有するL−ブイヨン(LB)プレート上に塗布し、37℃で一晩インキュベートした。
【0159】
この得られた4つのカナマイシン耐性コロニー由来の培養物5mlからQiaprep Turbo 9600ロボットシステム(Qiagen)を用いてプラスミドミニプレップ(mini-prep)DNAを調製した。プラスミドDNA(200〜500ng)について、BigDye Terminator system(Applied Biosystemsカタログ番号4336919)を用い、メーカーの使用説明書に従って、21M13及びM13RevプライマーとともにDNAシークエンシングにかけた。配列決定反応物を、Montage SEQ 96 クリーンアッププレート(Milliporeカタログ番号LSKS09624)を用いて精製し、次いでApplied Biosystems 3700 DNAシークエンサーで分析した。
【0160】
次いで、適切な配列(pDONR221 Evasin−3−HIS、図3A)を含有する1つのクローンから得られたプラスミド溶出液(1.5μl又は約100ng)を用いて、pDEST8ベクター又はpEAK12dベクターの何れか1.5μl(0.1μg/μl)、LR緩衝液2μl、及びLR clonase(Invitrogen)1.5μlを含有する最終体積10μlの組み換え反応物を調製した。これら混合物を室温で1時間インキュベートした。プロテイナーゼK(2μg)を加えて反応を停止し、37℃で更に10分間インキュベートした。各反応物のアリコート(1μl)を用いて、以下の手順で電気穿孔を行なうことにより、大腸菌DH10B細胞に形質転換した。即ち、DH10B electrocompetent細胞(Invitrogen)のアリコート20μlを氷上で解凍し、このLR反応混合物1μlを加えた。この混合物を、冷却した0.1cm電気穿孔キュベットに移し、それら細胞をBioRad Gene-Pulser(商標)を用いて、メーカーが推奨するプロトコルに従って電気穿孔した。電気穿孔後直ちに、予め室温まで温めたSOC培地(1ml)を加えた。この混合物を15mlスナップキャップ管に移し、振盪(220rpm)しながら37℃で1時間インキュベートした。次いで、この形質転換混合物のアリコート(10μl及び100μl)を、アンピシリン(100μg/ml)を含有するL−ブイヨン(LB)プレート上に塗布し、37℃で一晩インキュベートした。
【0161】
この得られた6つのアンピリシン耐性コロニーを接種した培養物5mlからプラスミドミニプレップ(mini-prep)DNAを調製し、Qiaprep BioRobot 8000(Qiagen)を用いて各ベクター中にサブクローン化した。このpEAK12dベクター中のプラスミドDNA(200〜500ng)をpEAK12F(配列番号11)及びpEAK12R(配列番号12)プライマーによるDNAシークエンシングにかけた。同様に、pDEST8ベクター中のプラスミドDNA(200〜500ng)を上記のpDEST8F(配列番号13)及びpDEST8R(配列番号14)プライマーによるDNAシークエンシングにかけた。
【0162】
配列確認済クローン(pEAK12d Evasin−3−HIS及びpDEST8 Evasin−3−HIS)(それぞれ図3C及び3B)の培養物500mlから、Qiagen Plasmid MEGA Kit(QIAGEN)を用いて、メーカーの使用説明書に従ってプラスミドマキシプレップ(maxi-prep)DNAを調製した。プラスミドDNAを滅菌水(又は10mMトリスHCl、pH8.5)に濃度1μg/μlとなるよう再懸濁し、−20℃で保存した。
【0163】
様々なサブクローニング/クローニングのステップで使用したプライマー配列を表IIIに纏めて示す。
【0164】
b.QuikChamge II Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)を用いたpEXPII−Evasin3プラスミドのORF配列のC末端への6Hisタグの挿入
【0165】
部位特異的突然変異誘発過程の第1段階は、インフレームの6ヒスチジン(6His)タグコード化配列が3′末端に隣接したEvasin−3のORFによって、突然変異プラスミドを産生するPCR反応を伴う。このPCR反応物(最終体積50μl)は、メーカーの使用説明書に従い、1μl(50ng)のプラスミドpEXP−Lib−Evasin−3、1μlのdNTP混合物、5μlの10×反応緩衝液、各2μlの遺伝子特異的プライマー(62.5μM)(Evasin−3−6HisF及びEvasin−3−6HisR、配列番号19及び配列番号20)、及び1μlのPfu Ultra HF DNAポリメラーゼを含有する。PCR反応は、95℃で30秒間の初回変性ステップを行なった後、95℃で30秒、55℃で1分、及び68℃で5分30秒のサイクルを18回行ない、最後に4℃の保持サイクルを行った。
【0166】
部位特異的突然変異誘発過程の第2段階は、メチル化及びヘミメチル化DNAに特異的なDpn1エンドヌクレアーゼでPCR産物を処理して、親のメチル化プラスミドDNAを消化し、突然変異を含有する新規合成DNAを選択することを伴う。PCR産物を、メーカーの使用説明書に従って、Dpn1制限酵素1μl(10U/μl)と共に37℃で1時間インキュベートした。
【0167】
Dpn1制限消化反応物のアリコート(1μl)を用いて、下記手順に従い、熱ショックによって大腸菌XL−1 blue細胞に形質転換した。即ちXL−1 blue コンピテント細胞(Stratagene)のアリコート50μlを氷上で解凍し、このDpn1反応混合物1μlを加えた。この混合物を氷上で30分間インキュベートし、細胞を氷浴に移して2分後、細胞に42℃で45秒間熱ショックを与えた。次いで、予め42℃まで温めたNZY培地(0.5ml)を加えた。この混合物を15mlスナップキャップ管に移し、振盪(220rpm)しながら37℃で1時間インキュベートした。次いで、この形質転換混合物のアリコート(250μl)を、アンピシリン(100μg/ml)を含有するL−ブイヨン(LB)プレート上に塗布し、37℃で一晩インキュベートした。
【0168】
得られた4つのコロニー由来の各培養物5mlから、Qiaprep Turbo 9600ロボットシステム(Qiagen)を用いてプラスミドミニプレップ(mini-rep)DNAを調製した。プラスミドDNA(200〜500ng)を、BigDye Terminator system(Applied Biosystemsカタログ番号4336919)を用いて、メーカーの使用説明書に従って、T7プライマー(配列番号16)によるDNAシークエンシングにかけた。これら配列決定反応物をMontage SEQ 96クリーンアッププレート(Milliporeカタログ番号LSKS09624)を用いて精製し、次いでApplied Biosystems 3700 DNAシークエンサー上で分析した。
【0169】
配列の検証されたクローン(pEXPII Evasin−3−HIS)(図3D)の培養物500mlから、Qiagen Plasmid MEGA Kit(QIAGEN)を用いてメーカーの使用説明書に従ってプラスミドマキシプレップ(maxi-prep)DNAを調製した。プラスミドDNAを滅菌水(又は10mMトリスHCl、pH8.5)中に、濃度1μg/μlとなるように再懸濁し、−20℃で保存した。
【0170】
様々なサブクローニング/クローニングのステップで使用したプライマー配列は表IIIに纏めて示す。
【0171】
c.HEK293細胞において発現された組み換えEvasin−3−HISの精製
【0172】
HEK293−EBNA細胞由来の細胞培養上清450ml又は250mlを、pEAK12d−Evasin−3−HIS又はpEXPII−Evasin−3−HISの何れかによる形質転換の6日後に採取し、0.6M NaCl及び8.7%(vol/vol)グリセロールを含有する2倍量の50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)で希釈した。この試料を0.22μmメンブランフィルターを通して濾過し、次いで、Vision Workstation system(PerSeptive Biosystem)により、Ni2+イオンを充填した4mlの金属キレートアフィニティーカラムPORUS 20 MC(PerSeptive Biosystem)に、100mM Ni(II)SO4(Fluka番号72280)溶液を用いて、4℃で20ml/分でローディングした。このカラムを、0.6M NaCl、8.7%グリセロール(Fulkaカタログ番号49781)、及び20mMイミダゾール(Fulka番号56749)を含有する28カラム体積(CV)の50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)により20ml/分で洗浄することにより、非特異的に結合した物質を除去した。カラムは、0.6M NaCl、8.7%グリセロール、及び400mMイミダゾール(Fulkaカタログ番号56749)を含有する5.5CVの50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)により2.0ml/分で2.7mlの各画分中に溶出した。この溶出タンパク質のピークを、20mlのSephadex G-25カラム(Pharmacia)を用いたサイズ排除クロマトグラフィーによって脱塩し、20%グリセロール含有PBS1CVを用いて、各2.7mlの画分に溶出した。
【0173】
Evasin−3−HISを含有する画分をプールし、5lの50mM重炭酸アンモニウム(pH8.0)で16時間透析し、次いでFreeze-dryer mobile 12EL(Virtis)を用いて凍結乾燥し、100μlの滅菌水中に再懸濁させた。この濃縮プールを精製の第2ステップとしてサイズ排除クロマトグラフィーにかけた。最初に50mM重炭酸アンモニウム中で平衡化したSX200 10/300 GLカラム(カラム体積25mL、Amersham Biosciencesカタログ番号17-5175-01)に、1倍量の50mM重炭酸アンモニウムで希釈した200μlのEvasin−3を注入した。タンパク質は、2.5ml/分で各0.5mlの画分中に溶出された。これらEvasin−3−HISタンパク質を含有する画分をプールし、凍結乾燥し、等分し、−80℃で保存した。
【0174】
d.組み換えEvasin−3−HISのウェスタンブロット、SDS−PAGE架橋、及びサイズ排除クロマトグラフィー分析
【0175】
ウェスタンブロット分析については、カラム溶出液を3×試料緩衝液(20%グリセロール、10%SDS、5mM EDTA、及び100mM DTTを含有する125mMトリスHCl(pH6.8)と組み合わせたブロモフェノールブルー)で1:3に希釈し、95℃で5分間煮沸した。これら試料及びHISタグ化分子量標準(Invitrogenカタログ番号LC5606)を、MES緩衝液中10%Bis−Trisゲル流路により、200Vで35分間電気泳動した。この電気泳動タンパク質に、トランスファー緩衝液(39mMグリシン、48mMトリス塩基、及び20%メタノール(pH8.3))中で290mAの定電流をかけ、室温で1時間かけて、0.45μmニトロセルロース膜(Invitrogenカタログ番号LC2001)上へエレクトロトランスファーした。この膜を、ロッカープラットホーム上で、20mlブロッキング溶液(0.1%Tween20及び5%粉乳含有PBS)中、室温で1時間インキュベートしてブロックした。次いでこの膜を、一次抗ヒスチジンタグ抗体を含有する溶液(0.1%Tween20及び2.5%粉乳含有PBSで1:1000に希釈)15ml中で振盪しながら室温で2時間インキュベートした。使用した一次抗体はHisプローブH−15(sc-803、Santa Cruz Biotechnology)又はHisプローブG−18(sc-804、Santa Cruz Biotechnology)である。この膜を洗浄緩衝液(PBSに溶かした0.1%Tween20)で洗い流し、洗浄緩衝液を3回交換して洗浄(各10分間)した。次いでこの膜を、HRP結合二次抗体(0.1%Tween20、2.5%粉乳含有PBSで1:3000に希釈)中で振盪しながら室温で2時間インキュベートした。この膜を上述と同様にして再洗浄した。最後にこの膜をブロット乾燥し、抗体の染色をECL(商標)Western Blotting Detection Reagents kit(Amersham Pharmaciaカタログ番号RPN2106)を用いて、メーカーの使用説明書に従って可視化した。
【0176】
SDS−PAGE分析についてはカラム溶出液を、100mM DTTを含有する2×試料緩衝液(Invitrogen)で1:1に希釈し、5分間煮沸した。これら試料及び分子量標準(Invitrogen、Benchmark Protein Ladder)を、MES緩衝液中10%Bis−Trisゲル流路を用いて、200Vで35分間電気泳動した。この電気泳動後のタンパク質を、Simply Blue SafeStain(Invitrogen)を用いて、メーカーの使用説明書に従って染色し、このゲルを蒸留水で5分間、3回洗い流し、室温で1時間染色し、水で1時間洗浄した。
【0177】
架橋実験については、HEK293細胞にpEAK12d−Evasin−3−6Hisをトランスフェクトした。6時間後、培養上清50μlを96ウェルプレート(Costar)に移した。125I−CCケモカイン(125I−CCL5/RANTES、125I−CCL11/エオタキシン、CCL2/125I−MCP−1、125I−CCL17/TARC、又は125I−CCL27/CTACK)、125I−CXCケモカイン(125I−CXCL8/IL−8、125I−CXCL1/Gro−α、又は125I−CXCL10/IP−10)、或いはサイトカイン(125I−IL−1又は125I−IL−2)の何れかを加えて、最終濃度を0.23nMとし、振盪しながら室温で1時間インキュベートした。次いで、各ウェルからのアリコート25μlを、25mM BS3(架橋試薬)を5μl含有する新しいウェルに移し、振盪しながら更に1時間インキュベートし、10×試料緩衝液(10%SDS、5mM EDTA、20%グリセロール、0.2%(w/w)ブロモフェノールブルー、1M DTTを含有する125mMトリス塩基、pH6.8)5μlを加えることによって反応を失活させた。次いで試料を5分間煮沸し、10%Bis−Tris SDS−ポリアクリルアミドゲル(Invitrogen NuPAGE、カタログ番号NP0301BOX)で電気泳動した。電気泳動後、ゲルをサランラップ(商標)中に密閉し、K型ストレージホスホイメージングスクリーン(Biorad)に3〜16時間暴露した。イメージングスクリーンの走査は、Biorad Personal FX phosphoimagerを用いて、100μmの分解能で行なった。
【0178】
競合アッセイについては、500倍過剰量の非標識CXCL8/IL−8又はCXCL1/Gro−αを加えた125I−CXCL8/IL−8を用い、上記架橋実験の場合と同じプロトコルを用いた。
【0179】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、組み換えEvasin−3−6His及びCXCL8/IL−8をPBSに1mg/mlで懸濁させて行なった。Evasin−3−6Hisを100μg(100μl)のCXCL8/IL−8と1:1の比率で混合し、室温で1時間インキュベートして、複合体Evasin−3−6His−CXCL8/IL−8を形成させた。次いで200μg(200μl)のCXCL8/IL−8、200μg(200μl)の組み換えEvasin−3−6His、又は200μg(200μl)の複合体の何れかを、予め1×PBS1.5CVで平衡化したSuperdex 75 10/300 GLカラム(容積23.56ml、Invitrogen)に加えた。このカラムは、ブルーデキストラン(2000kDa)、チログロブリン(669kDa)、フェリチン(440kDa)、BSA(67kDa)、オボアルブミン(43kDa)、リボヌクレアーゼA(13.7kDa)、及びシトクロムC(13.6kDa)で予め較正した。このカラムを1×PBS1.5CVを用いて溶出し、そのピークに一致する画分を、銀染色を用いたSDS−PAGEで分析した。SDS−PAGE分析においては、100mM DTT含有4×試料緩衝液(Invitrogen)で試料を3:1に希釈し、5分間煮沸した。これら試料及び分子量標準(Invitrogen、Benchmark Protein Ladder)を、MES緩衝液中10%Bis−Trisゲル流路を用いて、200Vで35分間電気泳動した。この電気泳動にかけたタンパク質を、SilverQuest kit(Invitrogen)を用いてメーカーの使用説明書に従って染色した。このゲルを40%エタノール及び10%酢酸の溶液で固定し、30%エタノール溶液で洗浄し、30%エタノール及び10%増感剤の溶液で感度を上げ、水で2回洗浄し、1%染色剤溶液で染色し、水で洗浄し、10%顕色剤溶液で顕色させ、10%停止剤を加えて停止させた。
【0180】
結果
組み換えEvasin−3を産生するために、ORFを、3′末端に6HISタグ配列を有する状態、又は有しない状態で、Gatewayクローニングシステムを用いて、哺乳動物細胞発現ベクターpEAK12d又は昆虫細胞発現ベクター(pDEST12.2)にサブクローン化した。更に、原pEXP lib evasin−3コンストラクトを部位特異的突然変異誘発法によって突然変異させ、HEK293細胞における発現用ORFの3′末端に6HISタグ配列を導入した。組み換えEvasin−3−Hisの精製は、HEK293 EBNA細胞上清又はpEXPII−Evasin−3−6Hisトランスフェクト済HEK293 EBNA細胞上清の何れかから、Ni2+アフィニティークロマトグラフィー、続いてサイズ排除クロマトグラフィーを用いて行なった。精製タンパク質を装填したSDS−PAGEゲルのクーマシーブルー染色は、Evasin−3−6Hisが、様々な翻訳後修飾形態の混合物として発現され、精製されたことを示唆している。かかる修飾はおそらく、昆虫細胞で発現させた別のダニタンパク質について示されているように(Alarcon-Chaidez FJ.等(2003))、グリコシル化によるものと思われる。実際にこのタンパク質は、HEK293において発現された組み換えタンパク質の場合、約20〜30Kdの平均分子量を有するスメアなバンドとして現れる(図4)。
【0181】
HEK293からの種々の精製ステップにおいて組み換えEvasin−3−6Hisが存在する場合、引き続いて一次抗体としての抗ヒスチジンタグによるウェスタンブロットを行なった。精製した成熟配列のN末端を配列決定したところ、S及びT残基上でグリコシル化されている成熟タンパク質の80%のN末端が、配列LVSTIESRTSからなり、グリコシル化の存在しない成熟タンパク質の20%のN末端が、配列VSTIESRTSAからなることが確認された。
【0182】
クリイロコイタマダニ由来のダニ唾液における活性の特徴を明らかにするために、最初に用いた架橋アッセイを使用して、精製したEvasin−3−6HisのCXCケモカイン結合活性を、陽性対照(ウィルスCCケモカイン結合タンパク質vCCI)を用いて観察された活性と比較した。
【0183】
SDS−PAGE分析では、遊離の125I標識CXCケモカインCXCL8/IL−8が、8kDaのバンドとして泳動される(図4、レーン2)。架橋剤を加えた場合、放射能の一部が、組み換えEvasin−3含有試料の分子量28〜40kDaのタンパク質複合体に保持される(図4、レーン3)。タンパク質vCCIと、架橋実験用の対照として用いたタンパク質125I−CCL2/MCP−1との間に形成される複合体に対応するバンドは、約45kDaに移動する(図4、レーン1)。成熟Evasin−3ポリペプチド(アミノ酸66個)の分子量が7005Daであることを考慮すると、この組み換えタンパク質は、翻訳後修飾の生じる真核生物の宿主細胞で発現された場合に活性であるように見える。この修飾は最大20〜30kDaを占める可能性があり(図6のクーマシー染色も同様のことを示唆している)、おそらくは主に選択的グリコシル化によるものと考えられる。
【0184】
組み換えEvasin−3の選択性を、まず、125I−CXCL8/IL−8との架橋による競合アッセイで試験した。非標識CXCL8/IL−8及びCXCL1/Gro−αの何れによっても、放射線標識複合体が消滅したことから(図5、矢印により示す)、組み換えEvasin−3とCXCL1/Gro−αとの結合が確認された。試験されたその他のケモカインは何れも、放射線標識複合体の消滅を生じなかった(図5)。
【0185】
精製された組み換えEvasin−1を使用して、様々な125I−CCケモカイン、CXCケモカイン、及びサイトカインを用いた架橋アッセイによって、更に選択性の検証を行なった(図7)。上述の架橋については、その複合体に一致する28〜40kDaの間のバンド(矢印で示す)は、125I−CXCL8/IL−8を加えると可視化される(図7、レーン7)。また、サイズが同一で強度がより低いバンド(矢印の移動で示す)も、125I−CXCL1/Gro−αと架橋させると可視化されることから、組み換えEvasin−3がこのCXCケモカインとも複合体を形成し得ることが分かる(図7、レーン2)。試験した他の125I−タンパク質の場合、ゲルで可視化された複合体形成は存在しなかった。更に、125I−MCP−1と一緒にインキュベートしたvCCIを陽性対照として使用した(図7、レーン1、矢印で示す)。
【0186】
従って、Evasin−3はCXCケモカイン結合特性を有し、それによりケモカインの作用を阻害する、新規なタンパク質であると結論することができる。
【0187】
実施例3:大腸菌(Escherichia coli)で発現させたEvasin−3の精製及び確認
【0188】
材料及び方法
a.Evasin−3 cDNAの発現ベクターpET30aへのサブクローン化
【0189】
クローニング過程の第1段階はPCR反応を伴う。これは、開始メチオニン及びNdel制限部位が5′末端に隣接し、2つの停止コドン(TAA TAA)及びXhol制限部位が3′末端に隣接する、シグナルペプチド非含有Evasin−3のORFを生成するものである(図8)。このPCR反応物(最終体積50μlの)は、1μl(100ng)のプラスミドpEXP−Lib−Evasin−3、3.0μlのdNTPs(5mM)、10μlの10×Pfxポリメラーゼ緩衝液、1μlのMgSO4(50mM)、それぞれ1.5μlの遺伝子特異的プライマー(10μM)(5′Ndel−eva3 ecoli(配列番号21)、3′Xhol−eva3 ecoli(配列番号22))(表IV)、及び0.5μlのPlatinum Pfx DNAポリメラーゼ(Invitrogen)を含有する。PCR反応では、95℃で4分間の初回変性ステップを行なった後、94℃で30秒、55℃で30秒、及び68℃で1分のサイクルを30回行ない、更に4℃の保持サイクルを行なった。得られたPCR産物を、1×TAE緩衝液(Invitrogen)中1.5%アガロースゲル上で可視化し、予想分子質量(321bp)まで泳動したバンドをWizard PCR Preps DNA Purification System(Promega)を用いてゲルから精製し、メーカーの使用説明書に従って50μlの滅菌水中で溶出した。
【0190】
クローニング過程の第2段階は、制限酵素Ndel及びXholを用いた修飾PCR産物の消化、続いてpET30aベクターへの連結反応を伴う。PCRからの精製産物5μlを、1.0μlのNdel(50’000u/ml、BioLabs)、1μlのXhol(50’000u/ml、BioLabs)、6μlの100×NED2緩衝液(BioLab)、及び0.6μlの100×BSA(BioLab)と混合し、最終体積60μlとして、37℃で16時間インキュベートした。この反応混合物を、1×TAE緩衝液(Invitrogen)中1.5%アガロースゲル流路を用いて可視化し、予想分子質量(320bp)まで泳動したバンドをWizard PCR Preps DNA Purification System(Promega)を用いてゲルから精製し、メーカーの使用説明書に従って50μlの滅菌水中で溶出した。この精製済み挿入断片を、予め脱リン酸化し、Ndel及びXhol制限酵素で消化したベクターpET30a中に次の通り結合させた。即ち15μlの消化由来の精製済み産物を3μlのpET30aベクター(150ng)、1μlのT4リガーゼT4(400’000u/ml、BioLabs)、及び2.2μlのT4緩衝液10×(BioLabs)と混合して最終体積22μlとし、室温で4時間インキュベートした。
【0191】
この反応物のアリコート(1μl)を用いて大腸菌DH10B細胞を電気穿孔により次の通り形質転換した。即ちDH10Bエレクトロコンピテント細胞(Invitrogen)の25μlアリコートを氷上で解凍し、BP反応混合物1μlを加えた。この混合物を冷却した0.1cm電気穿孔キュベットに移し、細胞をBioRad Gene-Pulser(商標)を用いてメーカーのプロトコルに従って電気穿孔した。電気穿孔後直ちに、予め室温まで温めたSOC培地(0.5ml)を加えた。この混合物を15mlスナップキャップ管に移し、振盪(220rpm)しながら37℃で1時間インキュベートした。次いでこの形質転換混合物のアリコート(10μl及び50μl)を、カナマイシン(40μg/ml)を含有するL−ブイヨン(LB)プレート上に塗布し、37℃で一晩インキュベートした。
【0192】
得られた6つのコロニー由来の培養物5mlからQiaprep Turbo 9600ロボットシステム(Qiagen)を用いてプラスミドミニプレップ(mini-rep)DNAを調製した。プラスミドDNA(150〜200ng)を、BigDye Terminator system(Applied Biosystemsカタログ番号4336919)を用いてメーカーの使用説明書に従ってT7(配列番号23)プライマー及びpRSET−R(配列番号24)プライマー(表IV)によるDNAシークエンシングにかけた。これら配列決定反応物をMontage SEQ 96クリーンアッププレート(Milliporeカタログ番号LSKS09624)を用いて精製し、次いでApplied Biosystems 3700シークエンサー上で分析した。
【0193】
次いで、適切な配列(pET30a−Evasin−3)を含有する1つのクローンに由来するプラスミドDNA(1μl又は100ng)を用いて、以下の手順に従い、大腸菌BL21D3細胞を熱ショックにより形質転換した。即ち、BL21DE3細胞(Novagen)の20μ1アリコートを氷上で解凍して1.5mlエッペンドルフ管に入れ、プラスミド1μlを加え、混合物を氷上で5分間インキュベートした。次いでこの細胞に42℃の水浴中で30秒間熱ショックを与え、氷上で2分間放置した。室温のSOC培地80μlを加えた後、細胞を振盪しながら37℃で1時間インキュベートし、次いでこの形質転換混合物のアリコート(20μl及び80μl)を、カナマイシン(40μg/ml)を含有するL−ブイヨン(LB)プレート上に塗布し、37℃で一晩インキュベートした。1つのカナマイシン耐性コロニーをEvasin−3の発現用に選択した。形質転換E. coli株におけるタンパク質発現の検証は、単一のカナマイシン耐性コロニーを、50mlのLB(Luria-Bertani)ブイヨン及び40μg/mlのカナマイシンの入ったエルレンマイヤーフラスコに接種して行なった。培養物のO.D.が0.6単位に達した時、0.5mM IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトシド)を加え、更に3時間インキュベートした。次いで、IPTG誘発後に最良の発現レベルが得られたクローンを用いて培養物100mlを作製し、次いでこれを、炭素供給源であるグリセロール、窒素供給源である硫酸アンモニウム、酵母抽出液、リン酸塩、塩類、オリゴエレメント、消泡剤、及び40μg/lのカナマイシンを含有するpH7の培地を含んでなる5リットル発酵槽に接種し、37℃で発酵させた。空気流量を2.5l/分で一定とし、O2流量を0〜5l/分の間で変動させ、撹拌速度を1000〜1200rpmとし、CO2を30%に維持した。OD20〜30において、1mM IPTGによりタンパク質発現を誘発した。誘発3時間後に細胞を30〜40のODで採取した。得られた湿潤細胞重量は200〜300gであり、これは乾燥細胞重量10〜20g/lに相当した。
【0194】
b.大腸菌で発現された組み換えEvasin−3の精製
【0195】
大腸菌のペレット(250g)をIPTGによる誘発後3時間で5リットル発酵槽から採取した。このペレットを1.25lの細胞切断緩衝液(2mM MgCl2、EDTA非含有コンプリートカクテルプロテアーゼ阻害剤(1錠/緩衝液50ml、Roche)、及び20mg/lのDNアーゼを含有する50mMトリスHCl、pH8.5)中に懸濁させた。細胞をFrench Press(Constant Cell Distribution System)に1.7kPaで1回通過させて破壊し、その溶液を27’500×g(13’000rpm)で2時間遠心分離した。
【0196】
この可溶性細胞質画分のpHを、酢酸によってpH4.5に調整し、100’000×g(35’000rpm)で1時間遠心分離した。0.22μmメンブランフィルターを通して濾過した後、その上清中のタンパク質を定量した。定量には、標準としてアルブミンを用いたクマシープラス・タンパク質アッセイ試薬(Coomassie Plus Protein Assay Reagent:PIERCE)による比色アッセイと、VERSAmax マイクロプレートリーダー(Molecular Devices)を用いた780nmでのOD測定とによって定量した。この上清を、Akta purifier system(Amersham Biosciences)を用いて、予め50mM CH3COONa(pH4.5)で平衡化したFractogel SO3-のカチオン交換カラム(Amersham)に、4℃で3.5ml/分でローディングした。このカラムを5カラム体積(CV)の50mM CH3COONa(pH4.5)により5ml/分で洗浄し、非特異的に結合した物質を除去した。17.5カラム体積(CV)の同じ緩衝液を用い、0〜0.7M NaClの直線的濃度勾配によって、タンパク質を各5mlの画分中に溶出した。
【0197】
Evasin−3を含有する画分をプールし、3.5kDaのカットオフを有する遠心濾過装置(Amicon、Millipore)を用いて10倍に濃縮した。この濃縮したプールを、精製の第2ステップとしてサイズ排除クロマトグラフィーにかけた。2mlの濃縮Evasin−3溶液を、予めPBS(リン酸緩衝塩類液)中で平衡化したSX75 16/60カラム(カラム体積120ml、Amersham Biosciences)上へローディングした。このタンパク質は2ml/分で2mlの各画分中に溶出した。Evasin−3を含有する画分をプールし、等分し、−80℃で保存した。
【0198】
d.組み換えEvasin−3のSDS−PAGE及び架橋分析
【0199】
このカラム溶出液を、100mM DTTを含有する2×試料緩衝液(Invitrogen)で1:1に希釈し、5分間煮沸した。この試料を分子量標準(Invitrogen、Benchmark Protein Ladder)とともに、MES緩衝液中10%Bis−Trisゲル流路を用いて、200Vで35分間電気泳動した。この電気泳動後のタンパク質を、Simply Blue SafeStain(Invitrogen)を用いて、メーカーの使用説明書に従って染色した。即ちゲルを蒸留水で3回、5分間洗い流し、室温で1時間染色し、水で1時間洗浄した。
【0200】
結果
Evasin−3をコード化するORFを、大腸菌での高レベル産生を可能にする発現ベクターにサブクローン化した。
【0201】
Evasin−3の完全長cDNAを含有するプラスミド(pEXP−Lib Evasin−3)をPCRの鋳型として用ることにより、Evasin−3の成熟タンパク質コード配列(予想シグナルペプチド配列除去後)からなるとともに、N末端に開始メチオニンを保持するEvasin−3 ORFを作製した。Met−Evasin−3のORF(配列番号25)は、アミノ酸67個の配列(配列番号26)をコード化する。ベクターpET30a−Evasin−3を図9に示す。
【0202】
組み換えEvasin−3は大腸菌から精製した。様々な精製ステップ時に組み換えEvasin−3が存在する場合、その後にSimply Blue SafeStainで染色したゲルを用いたSDS−PAGEを行なった。Evasin−3は、SDS−PAGE後のクーマシー染色で確認されたように、分子質量7kDaまで泳動した(図10)。
【0203】
SDS−PAGE分析では、125I標識CXCケモカインCXCL8/IL−8が8kDaのバンドとして移動する。架橋剤BS3を加えた場合、放射能の一部は、14kDaに泳動したタンパク質複合体中に検出されるが、これは組み換えEvasin−3とIL−8との間に形成される複合体によるものである(図11)。
【0204】
大腸菌中で産生される組み換えタンパク質は一般にグリコシル化されないので、Evasin−3の翻訳後グリコシル化は、IL−8との結合にとって必須ではないと考えられる。
【0205】
MALDI−TOFによる質量分析による組み換えタンパク質の分析の結果、質量は7,131.42Daであることが分かった。これは開始メチオニンを含んでなる組み換えタンパク質の予想質量に一致する。その活性は、開始メチオニンの存在によって影響をイ受けないように思われる。
【0206】
実施例4.CXCケモカインに及ぼす組み換えEvasin−3−6His及びEvasin−3の阻害活性の特性決定
【0207】
材料及び方法
受容体結合アッセイ
【0208】
平衡競合受容体結合アッセイ(equilibrium competition receptor binding assay)を用いて、ケモカイン/ケモカイン受容体相互作用に対するEvasin−3の阻害特性を求めた。結合実験は、ヒトIL−8受容体CXCR1(CHO/CXCR1)を安定的に発現するCHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞)を用いて行なった。細胞を、10%FCS(ウシ胎児血清、TerraCellカタログ番号CS-C08-1000-A)、2mM L−グルタミン(Invitrogenカタログ番号25030-024)、0.6mg/mlのジェネテシン(Geneticin:Invitrogenカタログ番号11811-031)、及び1%ペニシリン−ストレプトマイシン(Invitrogenカタログ番号15140-148)を補充したD−MEM F12培地(ダルベッコ変法イーグル培地、Invitrogenカタログ番号41965039)中で維持した。この細胞を230×gで5分間遠心分離して採取し、1mM CaCl2、5mM MgCl2、及び0.5%BSAを含有する50mMトリス/HCl(pH7.5)緩衝液に、4×106細胞/mlの細胞密度で再懸濁させた。HEK293又は大腸菌細胞からそれぞれ精製した組み換えEvasin−3−6His又はEvasin−3を、同一培地中に0.01mg/mlで懸濁させ、MultiScreen HTS 96ウェル濾過システム(Millipore)中で11回の4倍連続希釈液を調製した。CHO/CXCR1細胞(1×105細胞)、0.1nM[125I]IL−8(Amershamカタログ番号IM249)、及び組み換えEvasin−3−6His又はEvasin−3の連続希釈液25μlをプレートの各ウェル内に入れて最終体積100μlとし、組み換えタンパク質の最終濃度を350μMから0.08pMの範囲とした。次いで、この混合物を振盪しながら室温で4時間インキュベートした。次いで、この細胞を、1mM CaCl2、5mM MgCl2、0.5%BSA、及び2M NaClを含有する50mMトリス/HCl(pH7.5)緩衝液で3回洗浄した。シンチレーション液(50μl)(PerkinElmer)を各ウェルに加え、放射能をβ−シンチレーション計数管(Wallac)を用いて測定した。結果及び図12を参照されたい。
【0209】
b.CXCケモカインに誘発される化学走性
【0210】
化学走性実験は、University of Geneva Hospitalから得たヒト血液から精製した好中球を用いて行なった。ヒト好中球は天然でCXCR1及びCXCR2を発現する。ヒト好中球を実験の当日、次の通り精製した。即ち、ヒト軟膜由来の血液を滅菌したPBSで2×希釈し、50mlを円錐形ポリプロピレンチューブに入れた。デキストラン500(Amersham Biosciencesカタログ番号17-0320-02)をこの血液に加え(3ml/血液20ml)、赤血球を室温で1時間沈降させた。上清を新鮮なチューブ中にデカントし、230×gで5分間遠心分離した。細胞ペレットを、2%FCSを補充したRPMI1640培地(Invitrogenカタログ番号31870-025)10mlに懸濁させた。この細胞溶液上にFicoll-Plaque(10ml)を慎重に積層し、345×gで4℃で30分間遠心分離機(制動なし)にかけた。この細胞ペレットをRPMI培地で1回洗浄し、10mlの0.2%NaClを加えて20秒間の低張性ショックをかけ、残存する赤血球を破壊した。10mlの1.6%NaCl溶液を加え、迅速に等張性を回復させた。この懸濁液を230×gで5分間遠心分離し、慎重に上清を廃棄し、細胞ペレットを培地で2回洗浄した。この精製好中球を、化学走性培地(2%FCS補充、フェノールレッド指示薬非含有RPMI1640培地(Invitrogenカタログ番号32404-014)に、2×106細胞/mlの濃度で懸濁させた。
【0211】
Evasin−3−6Hisを、化学走性培地中に1.25×10-2mg/mlで懸濁させ、1nM CXCL8/IL−8又はCXCL1/Gro−αを含有する培地を用いて11回の3倍連続希釈液を調製した。この連続希釈したケモカイン溶液又はケモカイン−Evasin−3−6His溶液のアリコート(32μl)を化学走性槽の下側の室に三重に加え、この下側の室の上部に8μm孔径フィルターユニット(Neuroprobe ChemoTx Systemカタログ番号101-8)を慎重に置いた。好中球細胞懸濁液(20μl)を化学走性槽の上側の室(フィルターユニット)に加え、このアッセンブリーを給湿型5%CO2インキュベーター中で37℃で2時間インキュベートした。
【0212】
次いで2時間後、化学走性槽の蓋を慎重に取り除き廃棄した。96ウェル漏斗板(Neuroprobe ChemoTx Systemカタログ番号FP1)を化学走性槽の下側室の上部に上下逆にして載置した。次いで、ブラックマトリックスプレート(black-matrix plate)(Vitarisカタログ番号3915)をこの漏斗板の上部に上下逆にして載置し、この化学走性槽/漏斗板/ブラックマトリックスプレートのアッセンブリーを上下逆にした。次いで、化学走性槽の下側室内の培地を、700×gで2分間の遠心分離によってブラックマトリックスプレートに移した。移動した細胞を含有するブラックマトリックスプレートを密封し、−80℃で2時間冷凍保存した。化学走性槽の下側室に移動した細胞の数を、CyQUANT細胞増殖アッセイキット(Molecular Probesカタログ番号C7026)を用いて次の通り直接測定した。即ち、ブラックプレートを解凍し、細胞を迅速且つ完全に、このキットで準備されている染料を含有する細胞溶解緩衝液200μl中に、メーカーの使用説明書に従って懸濁させた。蛍光の測定は、Wallac Victorプレート読取装置を用いて、480nm/520nmの励起/発光波長で行なった。結果及び図13を参照されたい。
【0213】
c.表面プラズモン共鳴(SPR)による結合分析
【0214】
表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて、Evasin−3−6His又はEvasin−3によるCXCケモカイン結合の親和力及び反応速度を直接測定した。Evasin−3−6His又はEvasin−3を、それぞれpH4.5又はpH4の10mM酢酸ナトリウム緩衝液(Biacore)中に20μg/mlとなるように懸濁させ、Biacore Amine coupling kit(Biacore)による標準的なアミン結合化学によって、Biacore3000 systemを用いてCM4チップ(Biacore)上に直接固定化し、200〜300応答単位(RU)のレベルとした。付加的なタンパク質を全く含まない化学結合を有する対照としてブランク細胞を調製した。実験は、HBS−Pランニングバッファー(running buffer)(0.01M HEPES(pH7.4)、0.15M NaCl、及び0.005%界面活性剤P20)(Biacore)を用いて、25℃、30μl/分で行なった。全ての結合実験について、ケモカインはランニングバッファー中に0.5μg/mlで懸濁させ、0.22μmフィルターを通して濾過した。3分間の注入時間、続いて注入後2.5分間の解離時間がある。このチップを50mMグリシン緩衝液(pH2)を用いて30秒間再生させた。各実験についてケモカインは、ランダムな順序で三重に注入された。反応速度実験についてはランニングバッファーに溶かした0.1μg/mlから6ng/mlまでのCXCL1/Gro−α、CXCL8/IL−8、ネズミCXCL1/KC、及びネズミCXCL2/MIP−2の6種類の希釈液を調製し、0.22μmフィルターを通して濾過し、実験及びブランクのフロー細胞を覆って注入した。3分間の注入時間、その後に15分間の解離時間が続く。このチップを50mMグリシン(pH2)緩衝液を用いて30秒間再生させた。更に各ケモカイン希釈液をランダムな順序で三重に注入した。この分析の場合、ランニングバッファーのみで得られたセンソグラムの外にブランク細胞由来のセンソグラムを結合から減じて系のノイズを除去した。反応速度については、結合(Ka)及び解離(Kb)の値は、ラングミュア・フィッティングモデルに従ってセンソグラムをケモカイン濃度の全範囲に対して全体的に当てはめることによって同時に求めた。見掛けの平衡解離定数(Kd)は、等式Kd=Kb/Kaによる平均反応速度値から求めた。結果及び図14、15、及び16を参照されたい。
【0215】
d.インビボでのケモカインが介在する好中球の動員の阻害
【0216】
C57B16マウスの右膝関節への30ngのKC(ネズミCXCL1)投与の45分前に、マウスにEvasin−3又はビヒクル(塩類液)を0.01から100μg/マウスの範囲の用量で皮下(s.c.)に与えた。4時間後にマウスを屠殺し、浸潤白血球の総数(好中球がこれら細胞の95%超を構成する)をNeubauerチャンバー上で数えた。それらの分画は染色したサイトスピンスライド上で行なった。各実験群の動物は3〜4頭とした。結果及び図17を参照されたい。
【0217】
結果
Evasin−3−6His及びEvasin−3のCXCケモカイン結合特性を、受容体結合アッセイ、CXCケモカイン誘発細胞移動アッセイ、及び表面プラズモン共鳴法により検討した。
【0218】
受容体結合アッセイは、6Hisタグを付けたタンパク質としての哺乳動物細胞(HEK293細胞)中又は原核生物発現系(大腸菌)中の何れかにおいて発現させたEvasin−3が、ヨウ素化IL−8とその受容体CXCR1との結合を、それぞれ1及び20nMのIC50値で阻害し得ることを実証した(図12)。
【0219】
Evasin−3(HEK細胞中で産生したEvasin−3−6His)もまた、IL−8及びGro−αに誘発される好中球化学走性を、それぞれ16及び20nMのIC50値で阻害することができた(図13)。
【0220】
SPR分析は、哺乳動物細胞中又はE.coli中で産生したEvasin−3が、CXCL8/IL−8、CXCL1/Gro−α、ネズミCXCL1/KC、及びネズミCXCL2/MIP−2の結合に対して高度に選択的であることを示した。組み換えタンパク質は何れも、その他の試験されたケモカイン、CCL5/RANTES、CX3CL1/フラクタルカイン、CCL11/エオタキシン、CCL3/MIP−1−α、CCL4/MIP−1−β、CCL18/PARC、CCL2/MCP−1、及びCXCL12/SDF−1−αと結合することができなかった(図14)。Evasin−3−6His及びEvasin−3に対するSPRによって求められた親和力(Kd)及び反応速度パラメーター(図15及び16)を表Vに示す。
【0221】
Evasin−1の阻害活性は更に、0.01〜100μg/マウスの用量のネズミ好中球化学誘引物質KCの投与により、好中球動員の阻害能力が誘発されることによって実証された(図17)。
【0222】
従って、Evasin−3は、好中球動員を標的とし得る新規なCXCケモカイン結合タンパク質であると結論付けることができる。このタンパク質は、ダニ媒介性感染物質を含むダニ寄生作用に関連する医学的及び獣医学的適応症の問題のみならず、抗炎症化合物としてヒトの薬剤に有効に利用できる可能性がある。本発明のタンパク質に基づく分子であって、かかるタンパク質の機能と干渉する分子は、ダニの生活環を中断し、外寄生虫やその病原体を抑制し、或いはダニの疾患原因生物伝播能力を低下させる可能性がある。
【0223】
【表1】
【0224】
【表2】
【0225】
【表3】
【0226】
【表4】
【0227】
【表5】
【0228】
参考文献
【表6】
【0229】
【表7】
【図面の簡単な説明】
【0230】
【図1】Evasin−3 cDNA配列のヌクレオチド配列、及びオープンリーディングフレーム(ORF)の翻訳。SIGNALPアルゴリズムによって予測されるシグナル配列(残基1〜26番)は下線で示す。予測されるポリアデニル化部位は囲み線で示す。成熟タンパク質中に存在するシステイン残基は強調して示す。予測されるN型グリコシル化部位は太字で示す。
【図2】連続2周回のPCRにより生成した5′及び3′フランキングattB部位を有するGateway適合Evasin−3 cDNAのヌクレオチド配列及び翻訳。矢印は関連PCRプライマー(プライマー配列は表IIIに示す)の位置及び方向を示す。開始及び停止コドンは太字で示す。予測されるシグナル配列は下線で示す。
【図3】(A)pDONR221 Evasin−3−6HIS Gatewayエントリーベクターのマップ。(B)TN5(昆虫)細胞における発現用のpDEST8 Evasin−3−6HIS Gateway発現ベクターのマップ。(C)ヒト胎児腎臓細胞HEK293/EBNA細胞における発現用のpEAK12d Evasin−3−6HIS Gateway発現ベクターのマップ。(D)HEK293/EBNA細胞における発現用のpEXPII Evasin−3−6HIS発現ベクターのマップ。
【図4】組み換えEvasin−3をトランスフェクトされたHEK293細胞由来の上清と、125I標識CXCケモカインCXCL8(IL−8)とのクロスリンカーBS3を用いた架橋により形成される複合体を示すSDS−PAGEゲルのオートラジオグラフ。レーン1では、ウィルスCCケモカイン結合タンパク質(p35)が、陽性対照である125I標識エオタキシンと架橋されている。レーン2では、ウィルスCCケモカイン結合タンパク質(p35)が、BS3の非存在下で125I−エオタキシンと共インキュベートされている。レーンで3は、プール69.19由来のHEK293細胞培養物の上清が、125I−CXCL8/IL−8及びBS3と共インキュベートされている。
【図5】125I−CXCL8/IL−8との複合体形成における、未標識CXCL8/IL−8とCXCL1/Gro−αとの競合を示す、SDS−PAGEゲルのオートラジオグラフ。未標識タンパク質を架橋剤(BS3)の存在下、放射能標識CXCケモカイン(125I−CXCL8/IL−8)に加えた。分子量基準(M)(単位Kd)をゲルの左側に示す。レーン1は、125I−CXCL8/IL−8と架橋した組み換えEvasin−3を発現するHEK293細胞上清、レーン2〜11は、1μgの未標識CCL3/MIP−1α(レーン2)、CXCL8/IL−8(レーン3)、CXCL1/Gro−α(レーン4)、CXCL4/PF4(レーン5)、CXCL7/NAP−2(レーン6)、CXCL9/Mig(レーン7)、CXCL10/IP−10(レーン8)、CXCL11/I−TAC(レーン9)、CXCL12/SDF−1α(レーン10)、又はCXCL13/BCA−1(レーン11)の存在下で、125I−CXCL8/IL−8と架橋した組み換えEvasin−3を発現するHEK293細胞上清。
【図6】Ni2+アフィニティークロマトグラフィーを用いてHEK293細胞から精製したEvasin−3−HISを示す、クーマシーブルー染色10%SDS−ポリアクリルアミドゲル(SDS−PAGE)。レーン1は分子量マーカー、レーン2はNi2+アフィニティーカラムから溶離した後の組み換えEvasin−3−6HISプール。
【図7】125I標識ケモカインを、精製した組み換えEvasin−3−6Hisと架橋させて形成した複合体を示すSDS−PAGEゲルのオートラジオグラフ。レーン1は、MCP−1と架橋した40ngのウィルスCCケモカイン結合タンパク質(p35)(陽性対照)、レーン2〜11は、Gro−α/CXCL1(レーン2)、エオタキシン/CCL11(レーン3)、RANTES/CCL5(レーン4)、TARC/CCL17(レーン5)、MCP−1/CCL2(レーン6)、IL−8/CXCL8(レーン7)、IP−10/CXCL10(レーン8)、CTACK/CCL27(レーン9)、IL−2(レーン10)、IL−1α(レーン11)と架橋した10ngのEvasin−3−6His。Evasin−3−6HIS複合体は矢印で示す。
【図8】PCRによって生成したプライマー5′Ndel及び3′Xhol制限部位を含有するEvasin−3 cDNAのアラインメント。矢印は関連PCRプライマーの位置及び方向を示す(表IVに要約する)。開始コドンは太字体、停止コドンはイタリック体で示す。
【図9】大腸菌(Escherichia Coli)での発現に用いられるpET30a−Evasin−3ベクターのマップ。
【図10】E. coliから精製したEvasin−3を示すクーマシーブルー染色SDS−PAGEゲル。分子量基準を左側に示す(MR)。
【図11】HEK293で発現された組み換えEvasin−3−6His又はE. coliにおいて発現されたEvasin−3と、125I標識CXCケモカインCXCL8/IL−8とを架橋させて形成された複合体を示す、SDS−PAGEゲルのオートラジオグラフ。分子量基準(Kd)を左側に示し(Mk)、複合体及びヨウ素化CXCL8/IL−8を矢印で示す。
【図12】(A)HEK293細胞から精製された組み換えEvasin−3−6Hisによる、125I−IL−8のCXCR1に対する結合の阻害(IC50値は1nM)。(B)E. coli中に産生された組み換えEvasin−3による、125I−IL−8のCXCR1に対する結合の阻害(IC50値は20nM)。
【図13】IL−8(A)及びGro−α(B)により誘導されるヒト好中球の化学走性に対するEvasin−3−6Hisの阻害効果。Y軸上の任意単位は、遊走した細胞の数に比例する。IC50値は、IL−8については16nM、Gro−αについては20nMである。
【図14】CM4チップ上に固定化された(A)Evasin−3−6His又は(B)Evasin−3に結合するCXCケモカインのSPR分析。CXCL8/IL−8(黒色)、Gro−α/CXCL1(灰色)、ネズミCXCL1/KC(点線)、及びネズミCXCL2/MIP−2(淡い灰色)は陽性結合を示したのに対し、その他の試験されたケモカイン、即ちCCL5/RANTES、CX3CL1/フラクタルカイン、CCL11/エオタキシン、CCL3/MIP−1−α、CCL4/MIP−1−β、CCL18/PARC、CCL2/MCP−1、及びCXC12/SDF−1−αは陰性結合であった。
【図15A−C】Evasin−3−6Hisに結合するCXCケモカインのSPR反応速度分析。典型的な滴定実験を、ケモカイン(A)CXCL8/IL−8、(B)Gro−α/CXCL1、及び(C)ネズミCXCL1/KCについて示す。ラングミュア・フィッティングモデルを用いて実験曲線を大域フィッティングし、表2に示す反応速度パラメーターを決定した。
【図15D】Evasin−3−6Hisに結合するCXCケモカインのSPR反応速度分析。典型的な滴定実験を、ケモカイン(D)ネズミCXCL2/MIP−2について示す。ラングミュア・フィッティングモデルを用いて実験曲線を大域フィッティングし、表2に示す反応速度パラメーターを決定した。
【図16A−C】Evasin−3に結合する(A)CXCL8/IL−8、(B)Gro−α/CXCL1、及び(C)ネズミCXCL1/KCのSPR反応速度分析。ラングミュア・フィッティングモデルを用いて実験曲線を大域フィッティングし、表2に示す反応速度パラメーターを決定する。
【図16D】Evasin−3に結合する(D)ネズミCXCL2/MIP−2のSPR反応速度分析。ラングミュア・フィッティングモデルを用いて実験曲線を大域フィッティングし、表2に示す反応速度パラメーターを決定する。
【図17】好中球動員の阻害。KC投与の45分前にEvasin−1をマウスの膝関節に投与した。
【技術分野】
【0001】
本発明はCXCケモカインの新規なアンタゴニスト、特にCXCL8及び関連CXCケモカインのアンタゴニストに関するとともに、それらの使用、特に抗炎症又は免疫調節化合物としての使用、及び、CXCケモカイン関連疾病の治療又は予防における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ケモカインは、小型の分泌性、炎症促進性タンパク質であり、血液から損傷部位への白血球の指向性遊走を媒介する。ケモカイン系統群は、この系統群のタンパク質を特徴づける保存システインの位置に応じて、C、CC、CXC、CX3Cケモカインに構造上類別することができ、これらは一連の膜受容体に結合する(Baggiolini M. 等 (1997))。これらの膜受容体(何れも七重螺旋状G−タンパク質共役受容体)によって、ケモカインが標的細胞に生理活性を発揮することが可能となる。かかる細胞はその状態及び/又は種類に応じて、特定の受容体の組み合わせを発現し得るからである。ケモカインの生理効果は、併起的な相互作用が複雑に統合された系の結果として生ずる。かかる受容体はリガンド特異性が重複するため、単一の受容体が異なるケモカインに結合し得る。同様に、単一のケモカインが異なる受容体に結合し得る。
【0003】
構造と活性との関係に関する研究は、ケモカインがその受容体と相互作用する主要な部位を2箇所(即ち、可動性アミノ末端領域と、第2システインに続く高次構造的に硬直したループ)有することを示している。ケモカインはそのループ領域によって受容体にドッキングするものと考えられ、この接触によって、受容体の活性化を生じさせるアミノ末端領域の結合が起こり易くなるものと考えられる。
【0004】
通常、ケモカインは損傷部位で産生され、白血球の遊走及び活性化をひき起し、炎症、免疫、恒常性維持、造血、及び脈管形成の過程に基本的役割を演じる。従ってこれらの分子は、かかる過程に関連する疾患に治療介入する上で、好ましい対象候補であると考えられる。ケモカイン又はそれらの受容体を阻害によることによって、白血球の成熟、動員、及び活性化、並びに脈管形成又は動脈硬化に関係する他の病理学的過程を低減することができる(Baggiolini M.(2001))。
【0005】
突然変異を阻害するケモカイン、抗体、及びペプチドと、受容体をブロックする小分子阻害薬とに加えて、効果的なケモカインアンタゴニストの探索は、ヒト又は哺乳動物の宿主と接触するとその宿主に影響を及ぼす強力な免疫調節活性を示す、一連のウィルスや他の生物体にも拡大されている。
【0006】
サイトカイン、ケモカイン、及びそれらの受容体のウィルスによる模倣は、治療薬開発における免疫調節の方策を示している。最近、吸血性節足動物(蚊、ブユ、及びダニなど)が発現する免疫調節因子が再検討されている(Gillespie, RD等(2001))。
【0007】
具体的には、ダニの唾液腺は、特に抗炎症、抗血液凝固、及び抗免疫活性を有する生理活性分子の複雑な混合物を産生する。これらの中には、ヒスタミンを調節し、免疫グロブリンに結合し、或いは別の補体カスケード又は他のプロテアーゼを阻害する生理活性タンパク質が含まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
大量の文献があるにもかかわらず、様々なダニの組織及び/又は種から作製されたライブラリーのランダム配列決定及びディファレンシャルスクリーニングによって同定されたcDNA配列を列挙しているのは、僅かな論文のみに過ぎない。しかし、これら配列の大部分は生化学的又は機能的な特性決定がなされておらず、基本的な細胞機能に関与する既知のタンパク質(例えば、過去にダニ唾液腺において酵素活性又は抗体反応誘発に関する特性決定がなされたもの)との配列類似性のみに基づいて、多くの注釈が書き入れられている。特に、CXCケモカイン結合タンパク質として作用し、CXCケモカインアンタゴニストとして機能するダニタンパク質については、何ら示されていない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
驚くべきことに、クリイロコイタマダニ(Rhipicephalus sanguineus)の唾液に含まれるEvasin−3という新規なタンパク質が、CXCケモカインに結合してそれらの活性を阻害することが見出された。Evasin−3はクリイロコイタマダニのcDNAライブラリーからクローン化され、哺乳動物及びE. coli(大腸菌)の細胞で発現された。このタンパク質、並びにその誘導体、フラグメント、又は模倣剤は、例えば哺乳動物生体内におけるCXCケモカインのアンタゴニストとして、或いは、予防接種用の標的やダニ又はダニ媒介病原体の駆除用の標的として治療に用いることができる。
【0010】
即ち、本発明の第1の態様は、Evasin−3、或いはそのフラグメント又は類似体のアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドに関する。本発明の好ましいポリペプチドは、CXCケモカインに結合し、その生物学的活性を阻害する。かかるポリペプチドの特定の例は、Evasin−3又はそのフラグメントである。
【0011】
本発明の第2の態様は、上記定義のポリペプチドをコード化する核酸分子に関する。かかる核酸には、それらから分離されるオリゴヌクレオチドや、前記分子を含有するベクター、具体的には発現ベクターが含まれる。
【0012】
本発明の第3の態様は、上記定義のポリペプチドに選択的に結合する抗体に存する。
【0013】
本発明の第4の態様は、上記定義のポリペプチドを発現させる宿主細胞及びトランスジェニック非ヒト動物、並びに、かかる細胞及びトランスジェニック非ヒト動物を産生する方法に関する。
【0014】
本発明の第5の態様は、上記定義のポリペプチドを、典型的には組み換え技術を用いて調製する方法である。
【0015】
本発明の第6の態様は、上記定義のポリペプチド又は核酸分子と、医薬的に許容し得る担体又はビヒクルとを含んでなる医薬(例えばワクチン又は免疫原性)組成物である。
【0016】
本発明の第7の態様は、上記定義のポリペプチド又は核酸分子の薬剤としての使用、特に、哺乳動物中の免疫反応又は炎症反応を調節するための使用、並びに、対応する治療方法に関する。
【0017】
本発明の他の特徴及び利点は、下記の詳細な説明から明らかになるはずである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、ケモカイン活性を調節するための新規な組成物及び方法に関する。より具体的には、本発明は、CXCケモカイン結合特性を有し、ケモカイン作用の阻害に使用し得る新規なタンパク質を開示する。実施例は、ダニの唾液から得られるこのタンパク質が、組み換え型として発現及び精製可能であるとともに、CXCケモカインに有効に結合することにより、その作用(例えば、CXCケモカインによって誘導される細胞の特異的走化性応答)を阻害し得ることを示している。
【0019】
従って、本発明の第1の態様は、Evasin−3ポリペプチド、即ちEvasin−3のアミノ酸配列、或いはそのフラグメント又は類似体のアミノ酸配列を含んでなる任意のポリペプチドに存する。本発明の好ましいポリペプチドはCXCケモカイン、具体的にはCXCL8(IL−8とも呼ばれる)に結合して前記ケモカインの活性を阻害する。本発明の特定のポリペプチドは、
a)Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号5)を含んでなるタンパク質と、
b)成熟Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号6)又は成熟Met−Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号26)を含んでなるタンパク質と、
c)Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号17)を含んでなるタンパク質と、
d)成熟Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号18)を含んでなるタンパク質と、
e)タンパク質a)、b)、c)、又はd)をコード化する核酸配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸分子によりコード化されるタンパク質であって、上記核酸分子は、CXCケモカインに結合して上記ケモカインの活性を阻害するタンパク質をコード化する、タンパク質と、
f)アミノ酸配列がタンパク質a)、b)、c)、又はd)と少なくとも約70%同一であるとともに、CXCケモカインに結合して前記ケモカインの活性を阻害するタンパク質と、
g)タンパク質a)、b)、c)、d)、e)、又はf)のフラグメントを含んでなるタンパク質であって、そのフラグメントがCXCケモカインに結合して前記ケモカインの活性を阻害する能力を保持する、タンパク質と、
h)タンパク質a)、b)、c)、d)、e)、又はf)のフラグメントを含んでなり、そのフラグメントが免疫調節活性を有するタンパク質と
からなる群より選択される。
【0020】
好ましい実施形態によれば、このタンパク質は、
a)Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号5)を有するタンパク質と、
b)成熟Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号6)又は成熟Met−Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号26)を有するタンパク質と、
c)Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号17)を有するタンパク質と、
d)成熟Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号18)を有するタンパク質と、
e)タンパク質a)、b)、c)、又はd)のフラグメントを含んでなり、そのフラグメントがCXCケモカインに結合し、そのケモカインの活性を阻害するタンパク質と、
f)タンパク質a)、b)、c)、又はd)のフラグメントを含んでなり、そのフラグメントが免疫調節活性を有するタンパク質と
からなる群より選択される。
【0021】
別の態様によれば、本発明は、上記定義のタンパク質の活性突然変異体であって、その突然変異体において1又は複数個のアミノ酸残基が付加、欠失、又は置換されており、且つこの突然変異体がCXCケモカインに結合して前記ケモカインの活性を阻害する、突然変異体に関する。
【0022】
本発明のポリペプチドは、1又は2以上の翻訳後修飾(例えば、グリコシル化、リン酸化、シグナルペプチドを除去するためのエンド/エキソペプチダーゼによる修飾)の結果として得られる、或いは異種配列(検出及び/又は精製を改善するタグ又はドメインなど)をコード化する配列のインフレーム付加の結果として得られる、成熟型であってもよい。例えばEvasin−3は、哺乳動物及び昆虫の両細胞系において、完全型(配列番号17)及び成熟型(配列番号18)の組み換えヒスチジンタグ付加タンパク質として発現させることができる。
【0023】
本発明のポリペプチド、又はその対応する核酸は、組み換え又は合成のポリペプチド及び核酸等の単離型(例えば、その自然環境にない状態)であってもよい。
【0024】
実施例は、Evasin−3ポリペプチドが、CCL2、CCL5、CCL11、又はCCL17等のCCケモカインではなく、CXCケモカイン、特にCXCL8(別名IL−8)やCXCL1(別名Gro−α)に結合すること、また、それらの活性を阻害(例えば低下)し得ることを示している。この特性決定は、放射性CXCケモカインの使用を含む、一連の生化学的アッセイを利用して行なった。実施例で示すように、Evasin−3ポリペプチドは、CXCケモカイン、特にCXCL8/IL−8に結合する。かかる活性によって、本発明のEvasin−3ポリペプチドは、以下に考察するように、治療上広範な実用性を有する。
【0025】
本発明との関係において、ポリペプチドのフラグメントとは、そのポリペプチド配列の少なくとも5個、6個、7個、8個、9個、又は10個の連続したアミノ酸残基を含んでなる任意のフラグメントを意味する。本発明の特定のフラグメントは、本明細書に開示するように、Evasin−3タンパク質の15個、20個、25個、又はそれ以上のアミノ酸残基を含んでなる。好ましいフラグメントは、完全長のタンパク質の少なくとも1つの生理活性、例えば免疫原性活性又は免疫調節活性を保持する。
【0026】
これに関して、本発明との関係において「免疫調節活性」とは、インビトロ又はインビボで検出される任意の活性であって、免疫反応に正又は負の何れかの影響を及ぼす活性を意味する。かかる活性の例としては、免疫活性、免疫抑制活性、抗炎症活性、前/抗アポプトーシス活性、又は抗腫瘍活性が挙げられる。
【0027】
或いは、このフラグメントは、哺乳動物に投与した場合に免疫活性を与えるものとして特定することもできる。これらのフラグメントは、必要な場合には、免疫反応(例えばダニ又はダニ媒介病原体に対する)を高めるための適切な抗原特性、免疫原特性を有するべきである。かかる機能配列を候補ワクチン抗原として同定する方法や、更にはアジュバントと一緒に投与し、及び/又は、担体に架橋する方法に関して、文献には多くの例が示されている(Mulenga A.他(2000)の国際公開第01/80881号、第03/030931号、第01/87270号)。Evasin−3において同定された特定の抗原又は抗原群は、動物における外寄生虫の感染又は疾患の予防又は低減に使用することができる。動物がその外寄生虫に自然暴露されることによって、その外寄生虫に対する動物の免疫が増強される(国際公開第95/22603号)。最後に、そのフラグメントは、スクリーニング又は診断用途において、完全タンパク質に対する抗体を産生するために使用することもできる。
【0028】
上記定義のEvasin−3の特性について、本明細書ではこの配列の組み換え変種を用いて示したが、活性突然変異体によれば、かかる特性を維持し、更には強化することも可能である。この種の分子としては、上記配列の天然又は合成の類似体であって、1又は複数個のアミノ酸残基が付加、欠失、又は置換されたものが挙げられる。但し、後述の実施例に記載の手段によって測定した場合に、本発明の特徴となる生理活性と同じ生理活性を、同等か又はより高レベルで示すことを条件とする。
【0029】
具体的に、「活性」という語は、かかる代替化合物において、Evasin−3のCXCケモカイン結合及び免疫調節特性が維持され、更には強化されることを意味する。
【0030】
活性突然変異分子は、部位特異的突然変異誘発法、コード化DNA配列(DNAシャフリング、ファージディスプレイ/選択など)のレベルでのコンビナトリアル法、又はコンピューター支援設計での検討によって、或いは適切な他の任意の周知の手法によって生成することができ、これらの手法によって、実質的に対応する突然変異型又は短縮型のペプチド又はポリペプチドの有限の組が得られる。当業者であればこれらの代替分子を、従来技術や後述の実施例における教示に基づいて、定型的な手法で取得及び試験することができる。
【0031】
本発明によれば、これらの活性突然変異体における好ましい変化は、一般に「保存的」又は「安全」置換として知られる、重要でない残基における置換である。保存的アミノ酸置換は、その分子の構造及び生物学的機能が保存される程度に、十分に類似した化学的性質を有するアミノ酸による置換である。当然ながら、上記定義の配列は、その機能が変更されない限りにおいて、アミノ酸の挿入及び欠失を有していてもよい。具体的には、かかる挿入又は欠失が数個(例えば10個未満、好ましくは3個未満)のアミノ酸しか伴わず、また、タンパク質又はペプチドの機能的高次構造にとって重大なアミノ酸を除去又は置換しない場合である。
【0032】
天然のタンパク質の配列及び/又は構造に関する統計的及び物理化学的な検討に基づいた保存的アミノ酸置換の選択を可能とするモデルが、文献には多数示されている(Rogov SI.及びNekrasov AN.(2001))。タンパク質設計実験によれば、アミノ酸の特定のサブセットを用いて、折り畳み式の活性タンパク質を生成することができること、更にはこれが、タンパク質構造内により容易に収容可能であり、且つ、機能的及び構造的なEvasin−3のホモログ及びパラログの検出に使用可能な、アミノ酸「同義」置換の分類に有用であることが示されている(Murphy LR.等(2000))。置換用の同義アミノ酸基、並びに、より好ましい同義アミノ酸基は、表Iに定義されるものである。
【0033】
但し、Evasin−3配列との関係においては、特定の残基がとりわけ重要である。例えば、Evasin−3は、有意な相同性を示す既知のタンパク質を有しないものの、成熟タンパク質中に(具体的には、成熟Evasin−3中の22、26、33、37、39、及び50番に当る位置に)、対応する数個のシステイン残基を含有する。更に、Evasin−3は、成熟Evasin−3中のアスパラギン25及び56番に当る位置に、潜在的なグリコシル化部位を含有する。これらの残基は、正確な折り畳み及び/又は活性に重要である可能性があるので、代替ポリペプチドの対応する位置に保存されることが好ましい。或いは、欠失又は置換されたシステイン又はグリコシル化部位を、タンパク質内の異なる位置に再建してもよい。
【0034】
或いは、Evasin−3の活性突然変異体は、哺乳動物に投与した場合に上記CXCケモカイン結合タンパク質の免疫原性を低減するような配列変更から得ることもできる。かかる目的や、治療用タンパク質の安全且つ効果的な投与を可能にする他の機能最適化のために設計及び導入し得る配列変更の例は、特に非ヒト、非哺乳動物、又は非天然のタンパク質の場合について、文献に多数示されている(Schellekens H.(2002))。これらの分子を得るための技術的アプローチの例としては、定方向進化(Vasserot AP.等(2003))、合理的設計(Marshall SA(2003))、バイオインフォマティクス(Gendel SM.(2002))、CD4+T細胞エピトープの同定及び中和(国際公開第03/104263号、第03/006047号、第02/98454号、第98/52976号、第01/40281号)、他のタンパク質配列との融合(国際公開第02/79415号、第94/11028号)、他の化合物との結合(国際公開第96/40792号)等が挙げられる。
【0035】
活性Evasin−3由来配列は、天然のEvasin−3の類似体又はオルソログであってもよい。これらは特に、他のダニ種、具体的にはマダニ(Ixodidae)科、より具体的にはクリイロコイタマダニが属するRhipicephalinae亜科に属するもの、更にはマダニ亜科(例えばマダニ(Ixodes scapularis)及びタネガタマダニ(Ixodes ricinus))やAmblyomminae亜科(例えばAmblyomma variegatum及びAmblyomma americanum)等の他の亜科から分離することができる。或いは、ヒト及びマウス等の哺乳動物でも、オルソログを同定することができる。
【0036】
吸血性節足動物のゲノム及びトランスクリプトームについて入手可能な情報は限られており、その大部分はリボソーム及びミトコンドリアの配列に関連するものである。これらは、その保存に基づく系統発生関係の決定のために研究されたものである(Murrell A.等(2001))。ダニのゲノムデータは部分的且つ暫定的な形式でしか入手できない(Ullmann AJ.等(2002))が、マダニ類から抽出したゲノムDNAを用いれば、CXCケモカイン結合タンパク質をコード化するダニ遺伝子について、更なる分析を行なうことが可能である。かかるゲノムDNAは、特定の方法及び条件を適用することにより(Hill CA.及びGutierrez, JA.(2003))、具体的には、既に実証されているように、唾液腺タンパク質における重要な多型の存在を検出するための方法及び条件を適用することにより(Wang H.等(1999))、抽出することができる。これらの生物におけるゲノム及びタンパク質の配列は、その生理学及び生物学的理解にとって重要であり、宿主と寄生虫と寄生虫媒介病原体との関係に本発明のタンパク質が果たす役割を理解する上で、有用な情報を提供する(Valenzuela JG.(2002b))。
【0037】
本発明においてEvasin−3と相同のタンパク質について記載した、CXCケモカイン結合活性の生化学的及び生理学的な特徴決定は、ダニ及びダニ媒介病原体の研究のために近年改良された技術の何れかを適用することによって行なうことができる。かかる技術としては、2次元ゲル電気泳動(Madden RD.等(2004))やRNA干渉(Aljamali MN.等(2003))等が挙げられる。また、更なる検討によって、これらのタンパク質上におけるCXCケモカイン認識部位及びCXCケモカイン拮抗作用機序のマッピング(Seet BT.等(2001)、Beck CG等(2001)、Burns JM. 等(2002)、Webb LM. 等(2004))や、関連する翻訳後修飾の同定(Alarcon-Chaidez FJ.等(2003))を行なうことも可能である。
【0038】
本発明の別の態様は、異種ドメインと作動式に連結された上記定義のEvasin−3ポリペプチドを含んでなる融合タンパク質である。異種ドメインとしては、例えば、膜結合タンパク質の細胞外ドメイン、免疫グロブリン定常部(Fc部)、多量体化ドメイン、搬出シグナル、及びタグ配列(アフィニティーによる精製を補助するもの、即ち、HAタグ、ヒスチジンタグ、GST、FLAAGペプチド、又はMBPなど)の中から選択し得る1又は2以上のアミノ酸配列が挙げられる。
【0039】
融合タンパク質との関係において、「作動式に連結した」という表現は、Evasin−3ポリペプチドと付加アミノ酸の配列とがペプチド結合により直接、或いはスペーサー残基(例えばリンカー)を介して結合していることを示す。このようにすれば、融合タンパク質をコード化する核酸分子を宿主細胞で直接発現させることにより、組み換え法での融合タンパク質の産生が可能となる(これについては後に論じる)。また、必要であれば、産生/精製過程の最後に、又はインビボで、融合タンパク質に含まれる余分なアミノ酸配列を、例えば適切なエンドペプチダーゼ/エキソペプチダーゼによって除去することもできる(これについても後に論じる)。この異種部分を作動式に連結させるのは、Evasin−3ポリペプチドのN末端部でもC末端部でもよい。
【0040】
かかる部分及び/又はリンカーの設計、並びに融合タンパク質の作製、精製、検出、熟成、及び使用の方法及び方策については、文献において広く論じられている(Nilsson J.等の論文(1997)「Application of chimeric genes and hybrid proteins」、Methods Enzymol. Vol.326-328, Academic Press, 2000)。一般に、異種配列は、元のタンパク質の治療活性(例えばCXCケモカイン結合)を実質的に損なうことなく、更なる特性を付与することを意図している。かかる更なる特性の例としては、精製手順の容易化、体液中での半減期の延長、結合部分の付与、細胞内タンパク質分解消化作用による成熟化、組み換え産生時の安定性、又は細胞外局在化が挙げられる。この最後の特徴は、上記定義に含まれる特定の融合又はキメラタンパク質群を規定する上で、とりわけ重要である。かかる特徴によって、ポリペプチドを容易に分離及び精製できる空間であって、CXCケモカインが通常活性な状態である空間に、ポリペプチドを局在化させることが可能となるからである。
【0041】
Evasin−3ポリペプチドに融合されるこれらの配列のうち、1又は2以上の配列の選択は、上記タンパク質の組み換えタンパク質としての具体的な用途及び/又は精製プロトコルに応じて異なる。例えば、実施例ではEvasin−3の活性を試験するために、Evasin−3の検出及び精製を共に容易にするヒスチジンタグ配列を含有する融合タンパク質を用いた。これらの配列は、以下の3種類の基本的な異種配列群から選択することができる。
【0042】
かかる配列の第1の群は、シグナルペプチド及び搬出シグナル等の組み換えDNA技術を用いたタンパク質の分泌及び精製を補助する配列(Rapoport TA.等(1996))、或いは、アフィニティーによる精製を補助するタグ配列(HAタグ、ヒスチジンタグ、GST、FLAG、又はMBP)からなる。
【0043】
異種配列の第2の群は、タンパク質の安定性及び生理活性の向上を可能とする配列に代表されるものである。
【0044】
タンパク質の半減期の延長を可能にする方策の典型的な例としては、ヒト血清アルブミンとの融合や、循環ヒト血清アルブミンとの結合を可能にするペプチド及び他の修飾配列(例えばミリストイル化による)との融合が挙げられる(Chuang VT.等(2002)、Graslund T.等(1997)、国際公開第01/77137号)。或いは、この付加的な配列によって、脳内など特定部位への局在化のためのターゲッティングを補助することもできる(国際公開第03/32913号)。
【0045】
被験体に投与した場合の組み換えタンパク質の安定性を向上させる別の方法は、他のタンパク質から分離された、二量体、三量体等の形成を可能にするドメインを融合することによって、そのタンパク質の多量体を作製することである。本発明のポリペプチドの多量体化を可能にするタンパク質配列の例としては、hCG(国際公開第97/30161号)、コラーゲンX(国際公開第04/33486号)、C4BP(国際公開第04/20639号)、Erbタンパク質(国際公開第98/02540号)、又はコイルドコイルペプチド(国際公開第01/00814号)等のタンパク質から分離されたドメインが挙げられる。
【0046】
かかる融合タンパク質のよく知られた例としては、ヒト免疫グロブリンタンパク質の定常/Fc部に代表されるものが挙げられる。これは、ヒト免疫グロブリンによく見られる二量体化を可能にするものである。治療に役立つタンパク質及び免疫グロブリンフラグメントを含んでなる融合タンパク質を作製するための方策が、文献には種々開示されている(国際公開第91/08298号、第96/08570、第93/22332号、第04/085478、第01/03737号、第02/66514号)。例えば、成熟Evasin−3をコード化する核酸配列のクローン化は、その5′末端に元のEvasin−3シグナル配列(又は任意の他の適切なシグナル/搬出配列)をコード化する核酸配列を融合させ、且つ、その3′末端にヒト免疫グロブリンλ重鎖IgG1(国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)受託番号CAA75302、区分246−477)をコード化する核酸配列を融合させた発現ベクターにより行なうことができる。得られたベクターを用いてCHO又はHEK293宿主細胞株を形質転換した上で、N末端にEvasin−3、C末端にIgG1配列を有する組み換え融合タンパク質を安定的に発現させ、分泌させるクローンを選択すればよい。続いてこのクローンを、産生の大規模化や、培養液からの組み換え融合タンパク質の精製に用いることができる。或いは、ヒト免疫グロブリンλ重鎖IgG1の定常部及びEvasin−3をコード化する核酸の位置を逆にしてもよく、得られるタンパク質を、Evasin−3の元のシグナル配列又は任意の他の適切なシグナル/搬出配列を用いて発現させ、分泌させることもできる。また、この技術を用いて、あるEvasin−3−Fc融合タンパク質と、別の異なるFc系融合タンパク質(例えば別のCXCケモカインアンタゴニスト)とを発現する、2種類の異なるコンストラクトを同一の宿主細胞中で共発現させれば、ヘテロ二量体を産生することもできる(国際公開第00/18932号)。
【0047】
異種配列の更なる群は、Evasin−3が示す機能的活性に相乗作用を与え、又はこれを増幅し得る、更なる機能的活性を加える配列に代表されるものである。これらの配列は、膜結合タンパク質(例えばCXCケモカイン受容体)の細胞外ドメインから分離され、或いは分泌タンパク質中に存在するものと推測されるが、CXCケモカインアンタゴニストと同様に活性である可能性があり、一般に免疫調節活性を有するはずである。
【0048】
上記のように、これら融合タンパク質に含まれる更なる配列は、必要であれば、例えば産生又は精製過程の終りに、又はインビボで、例えば適切なエンドペプチダーゼ/エキソペプチダーゼによって除去してもよい。例えば、所望のタンパク質を異種配列からインビボ又はインビトロで酵素分離するのに使用可能なエンドペプチダーゼ(カスパーゼなど)の認識部位を、組み換えタンパク質に含まれるリンカー配列によって提示してもよい。或いは、発現されるタンパク質配列が開始メチオニンを有しない場合(例えばその配列が、シグナルペプチドのないタンパク質の成熟配列のみをコード化する場合)、本発明のタンパク質を宿主細胞内で、開始メチオニンを用いて正確に発現させることができる。その後、この更なるアミノ酸を、得られた組み換えタンパク質中に保持しておいてもよく、文献に開示の方法に従って、メチオニンアミノペプチダーゼ等のエキソペプチダーゼで除去してもよい(Van Valkenburgh HA.及びKahn RA.(2002)、Ben-Bassat A(1991))。
【0049】
本発明のポリペプチドの更なる変種又は類似体は、ペプチド模倣体(別名ペプチドミメティクス)の形態で得られる。これは、ペプチド又はポリペプチドの性質が、アミノ酸側鎖、アミノ酸キラリティ、及び/又はペプチド骨格のレベルで化学修飾されたものである。これらの変更は、精製、効能、及び/又は薬物動態の特徴が改善されたアンタゴニストを提供することを意図している。例えば、被験体への注入後にペプチドがペプチダーゼ開裂の影響を受け易いという問題がある場合、特に敏感なペプチド結合を非開裂性ペプチド模倣体で置換することにより、治療薬としてより安定な、ひいてはより有用なペプチドを提供することができる。同様に、L−アミノ酸残基の置換は、タンパク質分解に対するペプチドの感受性を低減し、最終的にはペプチドよりも他の有機化合物に類似したものにする標準的な方法である。また、アミノ末端保護基、例えばt−ブチルオキシカルボニル、アセチル、テイル(theyl)、スクシニル、メトキシスクシニル、スベリル、アジピル、アゼライル、ダンシル、ベンジルオキシカルボニル、フルオレニルメトキシカルボニル、メトキシアゼライル、メトキシアジピル、メトキシスベリル、及び2,4−ジニトロフェニル等も有用である。更に、効能の増強、活性の長期化、精製の容易化、及び/又は半減期の延長を可能にする他の修飾が、本技術分野では多数知られている(国際公開第02/10195号、Villain M.他(2001))。ペプチド模倣体に含まれるアミノ酸誘導体用の好ましい代替「同義」基としては、表IIに規定するものが挙げられる。「アミノ酸誘導体」とは、遺伝的にコード化される20種の天然アミノ酸の何れとも異なるアミノ酸又はアミノ酸様化学物質を意味する。具体的には、このアミノ酸誘導体は、置換又は非置換のアルキル部分(直鎖状、分枝鎖状、又は環状の何れでもよい)を有していてもよく、また、1又は2以上のヘテロ原子を有していてもよい。アミノ酸誘導体は新規に作製したものでもよく、また、商業的供給源から調達したものでもよい(Calbiochem-Novabiochem AG, Switzerland、Bachem, USA)。ペプチド模倣体(並びに非ペプチド模倣体)の合成及び開発の手法は、本技術分野では周知である(Hruby VJ.及びBalse PM.(2000)、Golebiowski A.等(2001))。タンパク質の構造及び機能を探索及び/又は改良するべく、インビボ及びインビトロ双方の翻訳系を用いてタンパク質に非天然のアミノ酸を導入するための方法論についても、文献に種々開示されている(Dougherty DA.(2000))。
【0050】
下記で考察することにするが、本発明のポリペプチドは、組み換え技術及び化学合成技術を含む、本技術分野で周知の任意の手順によって調製することができる。
【0051】
更なる態様によれば、本発明は、上記定義のポリペプチド、即ちEvasin−3のアミノ酸配列又はそのフラグメント或いは類似体をコード化する核酸分子にある。本発明の特定の核酸分子は、
a)Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号5)を含んでなるタンパク質をコード化する核酸分子と、
b)成熟Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号6)又は成熟Met−Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号26)を含んでなるタンパク質をコード化する核酸分子と、
c)Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号17)を含んでなるタンパク質をコード化する核酸分子と、
d)成熟Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号18)を含んでなるタンパク質をコード化する核酸分子と、
e)ストリンジェントな条件下でa)、b)、c)、又はd)の核酸分子とハイブリダイズする能力があり、且つCXCケモカインに結合するタンパク質をコード化する、核酸分子と、
f)アミノ酸配列がa)、b)、c)、又はd)のタンパク質と少なくとも約70%同一であり、且つCXCケモカインに結合するタンパク質をコード化する、核酸分子と、
g)a)、b)、c)、d)、e)、又はf)の核酸分子によってコード化されるタンパク質のフラグメントを含んでなるタンパク質をコード化する核酸分子であって、そのフラグメントがCXCケモカインに結合するタンパク質をコード化する、核酸分子と、
h)a)、b)、c)、d)、e)、f)、又はg)の核酸分子の縮退変種と
からなる群より選択される。
【0052】
具体的には、この核酸分子は、
a)Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号5)を有するタンパク質と、
b)成熟Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号6)又は成熟Met−Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号26)を有するタンパク質と、
c)Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号17)を有するタンパク質と、
d)成熟Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号18)を有するタンパク質と、
e)a)、b)、c)、又はd)のタンパク質のフラグメントを含んでなり、そのフラグメントがCXCケモカインに結合するタンパク質と、
f)a)、b)、c)、又はd)のタンパク質のフラグメントを含んでなり、そのフラグメントが免疫調節活性を有するタンパク質と、
g)a)、b)、c)、又はd)のタンパク質の活性な突然変異体であって、その変異体において1又は複数個のアミノ酸残基が付加、欠失、又は置換されており、且つCXCケモカインに結合する、突然変異体と、
h)膜結合タンパク質の細胞外ドメイン、免疫グロブリンの定常部、多量体化ドメイン、シグナルペプチド、搬出シグナル、及びタグ配列の中から選択される1又は複数個のアミノ酸配列と作動式に連結したa)、b)、c)、d)、e)、f)、又はg)のタンパク質を含んでなる融合タンパク質と
からなる群より選択されるタンパク質をコード化する。
【0053】
本発明との関連において「縮退変種」とは、遺伝子コードの縮退に起因する核酸配列であって、基準となる核酸と同じアミノ酸配列をコード化する全ての核酸配列を指す。
【0054】
更に用語「核酸分子」は、制限なしにデオキシリボ核酸(例えばDNA、cDNA、gDNA、合成DNA等)、リボ核酸(例えばRNA、mRNA等)、及びペプチド核酸(PNA)を含めた全ての異なる種類の核酸を包含する。好ましい実施形態では核酸分子は、二重鎖DNA分子等のDNA分子、典型的にはcDNAである。
【0055】
主要な態様のうち、実施例に開示したEvasin−3のDNA及びタンパク質の配列を対象とする態様の具体的な実施形態としては、一連のEvasin−3関連配列が挙げられる。例としては、中程度にストリンジェントな条件下(5×SSC、0.5%SDS、1.0mM EDTA(pH8.0)の予洗浄液、及び50℃、5×SSC、一晩のハイブリダイゼーション条件)において、Evasin−3をコード化するDNA配列とハイブリダイズする能力があり、且つCXCケモカイン結合タンパク質をコード化する、DNA又はRNA配列等が挙げられる。
【0056】
例えば、本発明は、Evasin−3を発現するクリイロコイタマダニのcDNAの配列(配列番号3)、関連するオープンリーディングフレーム(ORF、配列番号4)、Evasin−3をヒスチジンタグと融合させた組み換えタンパク質として、哺乳動物又は昆虫の宿主細胞において発現させることを可能にする、修飾cDNA配列(配列番号15)を提供する。
【0057】
他の好ましい実施形態によれば、Evasin−3配列は、Evasin−3と少なくとも約70%、好ましくは80%、最も好ましくは90%のアミノ酸配列が同一のタンパク質をコード化するDNA分子である。この値は、任意の専用プログラム、例えばFASTA(Pearson WR.(2000))によって計算することができる。また、フラグメント又は部分配列の場合には、フラグメント内に存在するEvasin−3部分に関して、その値を計算する。
【0058】
別の好ましい実施形態として、上記定義の核酸分子の配列のフラグメントを含んでなる、或いはかかる配列の一領域と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドがある。かかるオリゴヌクレオチドは通常、そのヌクレオチド長が5個から100個の間であり、例えば、ヌクレオチド長が少なくとも約20個のオリゴヌクレオチド、ヌクレオチド長が少なくとも約30個のオリゴヌクレオチド、及び、ヌクレオチド長が少なくとも約50個のオリゴヌクレオチドからなる群より選択し得る。これらのオリゴヌクレオチドは、Evasin−3コード化転写物中の非コーディング/コーディング配列及び試料中の関連配列を(例えばPCR又はサザンブロット法で)検出するために、或いは、Evasin−3の組み換え変種を作製し、サブクローン化するために使用することができる。これを示すのが、Evasin−3コード化配列をヒスチジンタグ化変種としてサブクローン化及び修飾するために使用されるプライマーの3′末端に関する実施例である(Evasin−3 PCR順方向及び逆方向(forward and reverse)、配列番号7及び8)。
【0059】
更なる態様では、上記定義の核酸分子を、クローニングベクター又は発現ベクターに含入させてもよい。これに関連して、本発明の特定の実施形態は、上記定義の核酸分子と作動式に結合したプロモーター、具体的には組織特異的な構成プロモーター、又は調節性(例えば誘発性)プロモーターを含んでなる発現ベクターに存する。このベクターは、更なる任意の調節エレメント、例えばターミネーター、エンハンサー、複製起点、選択マーカー等を含んでいてもよい。このベクターは、プラスミド、ファージミド、コスミド、ウィルスベクター、ファージ、人工染色体等の何れであってもよい。
【0060】
特定の実施形態によれば、このベクターは、
a)本発明のDNAと、
b)発現カセットと
を含んでなるものでもよい。
ここで、上記DNA(a)は、配列(b)に含まれる組織特異的、構成的、又は誘発性プロモーターと作動式に結合する。
【0061】
任意により、コーディング核酸(即ち配列(a))が開始メチオニンのコドンを含有しない場合(例えばその配列が、タンパク質の成熟配列のみを(シグナルペプチド抜きで)コード化する場合)、そのベクター又は発現カセットが、開始メチオニンを適切に発現し得るよう、かかる配列の5′にクローン化されたATG配列を含有していてもよい。その後、この更なるアミノ酸は、得られた組み換えタンパク質内に残存させておいてもよく、文献に開示の方法に従ってメチオニンアミノペプチダーゼ等の酵素を用いて除去してもよい(Van Valkenburgh HA.及びKahn RA.(2002)、Ben-Bassat A.(1991))。
【0062】
このベクターによれば、実験又は治療の何れの理由でも、組織培養の条件下のみならずインビボでも、本発明のタンパク質の発現が可能となる。例えば、本発明のタンパク質を過剰発現する細胞を動物モデルにトランスフェクトして(例えば封入して)、そのタンパク質の常時投与の生理学的効果を確認してから、最終的にその細胞をヒトに適用することが可能となる。或いは、レトロウィルス媒介遺伝子移入のために、或いは動物におけるベクター又は単離DNAコーディング配列の導入及び発現を内因性プロモーターの制御下で可能にする任意の他の技術のために、このベクターを使用することができる。この手法によれば、本発明のタンパク質が構成的に、又は調節下で(例えば特定の細胞内で、及び/又は、特定の化合物による誘導に引き続いて)発現されるトランスジェニック非ヒト動物の産生が可能となる。同様の手法は、様々な発生的及び病理学的効果を示す他の非哺乳動物のケモカイン結合タンパク質に応用されてきた(Jensen KK.等(2003)、Pyo R.等(2004)、Bursill CA.等(2004))。
【0063】
本発明の別の態様は、上記に示したクローニング又は発現ベクターにより形質転換された、又はそれをトランスフェクトされた宿主細胞である。これらのベクターは、本発明のポリペプチドの調製過程において使用することができる。この点に関して、本発明の一態様は、上述のEvasin−3ポリペプチドの調製方法であって、上記定義の組み換え細胞を、発現を可能とし、或いは促進する条件下で培養することと、上記定義のEvasin−3ポリペプチドを回収することとを含んでなる方法である。ベクターがこのポリペプチドを細胞外空間分泌タンパク質として発現する場合、更なる処理を考慮して、このタンパク質をより容易に培養細胞から回収し、精製することができる。
【0064】
ベクターや原核又は真核の宿主細胞を用いた組み換えタンパク質のクローン化及び産生に関し、多数の著書や概説が教示を与えている。例としては、Oxford University Pressにより出版されたシリーズ「A Practical Approach」の中の幾つかの表題(「DNA Cloning 2: Expression Systems」(1995)、「DNA Cloning 4: Mammalian Systems」(1996)、「Protein Expression」(1999)、「Protein Purification Techniques」(2001))が挙げられる。具体的に、これらの例は、クリイロコイタマダニcDNAライブラリーのスクリーニングによってEvasin−3をコード化するDNA配列が同定された後、対応する組み換えタンパク質を得るためにORFを適合させ、修飾し、更には発現ベクターに挿入する方法を示している。
【0065】
一般に、これらのベクターはエピソーム型ベクターでも、非相同/相同組込み型ベクターでもよく、任意の適切な手段(形質転換、トランスフェクション、結合、プロトプラスト融合、電気穿孔、リン酸カルシウム沈殿法、直接マイクロインジェクション等)によって、適切な宿主細胞内に導入し、宿主細胞を形質転換することができる。具体的なプラスミド、ウィルス、又はレトロウィルスベクターを選択する上で重要な因子としては、ベクター含有受容細胞をベクター非含有受容細胞から識別・選択する際の容易さ、特定の宿主におけるベクターの所望のコピー数、及び、様々な種の宿主細胞間でベクターを「往復させる(shuttle)」能力を所望するか否か等が挙げられる。これらベクターは、本発明の分離タンパク質又はそれらを含んでなる融合タンパク質が、原核又は真核の宿主細胞内で、適切な転写開始/停止調節配列の制御下において発現することを許容するものである必要がある。かかる調節配列としては、前記細胞内で構成的に活性であるか、誘導可能であるものが選択される。次いで、かかる細胞群内で実質的に濃縮された細胞株を分離することにより、(HEK293及びTN5細胞株を用いた実施例で示すように)安定な細胞株を得ることができる。
【0066】
真核生物の宿主細胞(例えば酵母、昆虫、又は哺乳動物の細胞)の場合、その宿主の性質に応じて様々な転写及び翻訳調節配列を使用することができる。それらは、調節シグナルが高レベル発現性の特定の遺伝子と関連している、アデノウィルス、ウシ乳頭腫ウィルス、サルウィルス等のウィルス源から得られたものでもよい。例としては、ヘルペスウィルスのTKプロモーター、SV40初期プロモーター、酵母gal4遺伝子プロモーター等が挙げられる。遺伝子の発現を調節できるように、抑制及び活性化を可能にする転写開始調節シグナルを選択してもよい。導入されたDNAによって安定的に形質転換される細胞は、発現ベクターを含有する宿主細胞の選択を可能にする1又は2以上のマーカーの導入によっても選択することができる。また、このマーカーによって、栄養要求性宿主に対する光合成能の提供や、殺生物剤(例えば抗生物質や、銅等の重金属)に対する抵抗性等の提供も可能である。選択マーカー遺伝子は、発現するDNA遺伝子に直接連結してもよく、コトランスフェクションによって同一の細胞内に導入してもよい。また、本発明のタンパク質の最適合成にとって、付加的な要素が必要な場合もある。
【0067】
組み換え産生用の宿主細胞は、原核生物と真核生物の何れの細胞であってもよい。特に好適な原核生物細胞には、組み換えによるバクテリオファージ、プラスミド、又はコスミドDNA発現ベクターを用いて形質転換された細菌(枯草菌(Bacillus subtillis)や大腸菌(E. coli)など)が挙げられる。真核生物の宿主細胞、例えばヒト、サル、マウス、及びチャイニーズハムスターの卵巣(CHO)の細胞等の哺乳動物の細胞は、適切な折り畳みや適切な部位でのグリコシル化等、タンパク質分子に対する翻訳後修飾を可能にするという点で好ましい。別の真核生物の宿主細胞としては、酵母発現ベクターを用いて形質転換した酵母細胞が挙げられる。酵母細胞によっても、グリコシル化等の翻訳後ペプチド修飾を行なうことができる。強力なプロモーター配列と高コピー数のプラスミドとを用いた、酵母内で所望のタンパク質の産生に利用可能な組み換えDNA戦略が種々存在する。酵母は、クローン化された哺乳動物遺伝子産物中のリーダー配列を認識し、リーダー配列(即ちプレペプチド)を有するペプチドを分泌する。
【0068】
組み換えポリペプチドを長期間、高収量で産生させるには、安定した発現が好ましい。例えば、関心のあるポリペプチドを安定的に発現する細胞株を、ウィルスの複製起点及び/又は内因性発現エレメントを含有し得る発現ベクターと、同一又は別のベクター上の選択マーカー遺伝子とを用いて形質転換すればよい。ベクターの導入後、選択培地に切り替えるに先立って細胞を富化培地中で1〜2日間成長させてもよい。選択マーカーの目的は、選択に対する抵抗性を付与することであり、その存在によって、導入された配列を首尾よく発現させる細胞の成長及び回収が可能になる。安定的に形質転換された細胞の耐性クローンを、その細胞型に適した組織培養技術を用いて増殖させればよい。その後、かかる細胞群において実質的に濃縮された細胞株を分離すれば、安定な細胞株を得ることができる。
【0069】
本発明の組み換えポリペプチドの高収量生産の特に好ましい方法は、米国特許第4,889,803号に記載のようにメトトレキセートのレベルを連続的に増加させるステップの使用によって、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)欠損CHO細胞中でのDHFRの増幅を用いることによるものである。得られたポリペプチドは、グリコシル化された形態であってもよい。
【0070】
発現用の宿主として利用可能な哺乳動物細胞株は本技術分野で公知であり、例えば米国基準菌株保有機構(ATTC)から多数の不死化細胞株が入手可能である。例としては、これらに限定されるものではないが、チャイニーズハムスターの卵巣(CHO)、Hela、幼児ハムスターの腎臓(BHK)、サルの腎臓(COS)、C127、3T3、HEK293、ボーズ(Bowes)黒色腫及びヒト肝細胞性癌腫(例えばHep G2)細胞、並びに幾つかの他の細胞株が挙げられる。バキュロウィルス系ではバキュロウィルス/昆虫細胞発現系用の物質が、特にInvitrogenからキットの形態で市販されている。
【0071】
或いは、本発明のポリペプチドは、人工合成によって調製することもできる。これに関して、化学合成技術の例としては、固相合成と液相合成とが挙げられる。固相合成としては、例えば、合成対象となるペプチドのカルボキシ末端に当たるアミノ酸を有機溶媒に不溶性の保持体に結合させるとともに、2つの反応(即ち、アミノ基を有するとともに、適切な保護基で保護された側鎖官能基を有するアミノ酸を、カルボキシ末端からアミノ末端へと1つずつ順に縮合させる反応、並びに、樹脂に結合しているアミノ酸や、ペプチドのアミノ基の保護基に結合しているアミノ酸を遊離させる反応)を交互に反復することにより、ペプチド鎖を伸長させる方法が挙げられる。固相合成法は、使用する保護基の種類に応じて、tBoc法とFmoc法とに大別される。一般に使用される保護基には、アミノ基についてはtBoc(t−ブトキシカルボニル)、Cl−Z(2−クロロベンジルオキシカルボニル)、Br−Z(2−ブロモベンジルオキシカルボニル)、Bzl(ベンジル)、Fmoc(9−フルオレニルメトキシカルボニル)、Mbh(4,4′−ジメトキシジベンズヒドリル)、Mtr(4−メトキシ−2,3,6−トリメチルベンゼンスルホニル)、Trt(トリチル)、Tos(トシル)、Z(ベンジルオキシカルボニル)、及びCl2−Bzl(2,6−ジクロロベンジル)、またグアニジノ基についてはNO2(ニトロ)及びPmc(2,2,5,7,8−ペンタメチルクロマン−6−スルホニル)、また、水酸基についてはtBu(t−ブチル)が挙げられる。所望のポリペプチドの合成後、これを脱保護反応に供し、固体保持体から分離する。かかるペプチド切断反応は、Boc法の場合はフッ化水素又はトリフルオロメタンスルホン酸、またFmoc法の場合はTFAを用いて行なうことができる。Evasin−3と同等のサイズの完全合成タンパク質が、文献に開示されている(Brown A.等(1996))。
【0072】
本発明のポリペプチドは、所望の使用及び/又は製法によって、他の好ましい代替形態として生産し、処方し、投与し、又は一般的に使用することができる。本発明のタンパク質に対して、例えば実施例に示すグリコシル化等、翻訳後修飾を行なってもよい。
【0073】
一般的に、本発明のタンパク質は、活性な画分、前駆体、塩、誘導体、抱合体、又は複合体の形態で得ることができる。
【0074】
上述したように、「活性な」又は「生物学的に活性な」という語は、かかる代替化合物がEvasin−3のCXCケモカイン結合特性及び/又は免疫調節特性を維持し、更には強化し得ることを意味する。
【0075】
「画分」という語は、化合物自体のポリペプチド鎖の任意のフラグメントを単独で、或いは関連分子や前記化合物に結合する残基(例えば糖又はリン酸の残基)との組み合わせで指す。また、かかる分子は、合成時及び/又は更なる加工段階において、一次配列を通常は変更しない他の修飾、例えばインビトロでのペプチドの化学的誘導体化(アセチル化又はカルボキシル化)によって、またタンパク質の翻訳後修飾、例えばリン酸化(ホスホチロシン、ホスホセリン、又はホスホトレオニン残基の導入)によって、或いは(グリコシル化に影響を及ぼす酵素、例えば哺乳動物のグリコシル化酵素又は脱グリコシル化酵素に、ペプチドを曝すことによる)グリコシル化の結果として得られたものでもよい。特に、Evasin−3はダニの唾液でも、また本明細書中で開示した二つの組み換え形態の何れにおいても、程度の差はあれ多量にグリコシル化されることを特徴とした。この修飾は、適切な修飾用酵素を使用することによってインビボで行なうこともでき、組み換え産生用の適切な宿主細胞を選択することによってインビトロで行なうこともできる。
【0076】
「前駆体」とは、細胞又は身体への投与前又は投与後の代謝的及び酵素的プロセシングによって、本発明の化合物に変換され得る化合物である。
【0077】
本明細書において「塩」という語は、本発明のペプチド、ポリペプチド、又はそれらの類似体のカルボキシル基の塩及びアミノ基の酸付加塩の両方を指す。カルボキシル基の塩は、本技術分野で公知の手段で形成することができ、例としては、ナトリウム、カルシウム、アンモニウム、鉄(III)、又は亜鉛の塩等の無機塩と、トリエタノールアミン、アルギニン又はリシン、ピペリジン、プロカイン等のアミン等の有機塩基により形成される塩とが挙げられる。酸付加塩の例としては、塩酸や硫酸等の鉱酸による塩と、酢酸やシュウ酸等の有機酸による塩とが挙げられる。かかる塩は何れも、本発明のペプチド及びポリペプチド又はそれらの類似体と実質上同様の活性を有することが望まれる。
【0078】
本明細書で用いられる「誘導体」という語は、そのアミノ酸部分の側鎖上に存在する、或いはアミノ末端基やカルボキシ末端基上に存在する官能基から、周知の方法により調製し得る誘導体を指す。かかる誘導体には、例えばカルボキシル基のエステル又は脂肪族アミドと、遊離アミノ基のN−アシル誘導体又は遊離水酸基のO−アシル誘導体とが挙げられ、例えばアルカノイル又はアロイル基等のアシル基によって形成される。
【0079】
本発明のタンパク質は、放射性標識、ビオチン、蛍光標識、細胞毒性薬、及び薬物送達物質の中から選択される分子を含んでなる活性な抱合体又は複合体の形態であってもよい。有用な抱合体又は複合体は、本技術分野で公知の分子及び方法を用いて、様々な理由において作製することができる。かかる理由としては、例えば、CXCケモカインや他のタンパク質(放射性又は蛍光標識、ビオチン)との相互作用、治療効果(細胞毒性薬)の検出を可能にする、或いは、薬物送達効果の点からポリエチレングリコール及び他の天然又は合成ポリマー等の薬品を改良する等が挙げられる(Harris JM.及びChess RB.(2003)、Greenwald RB.等(2003)、Pillai O.及びPanchagnula R.(2001))。これに関して本発明は、本明細書に開示するように、化学的に修飾されたポリペプチド及びタンパク質、即ちポリマーと連結されたポリペプチド又はタンパク質を意図している。このポリマーは通常、抱合体が生理的環境等の水性環境中で沈殿しないように、水溶性である。好適なポリマーの例としては、単一の反応性基(例えばアシル化用の活性エステルや、アルキル化用のアルデヒド)を有するように修飾されたものが挙げられる。これによって、重合度を制御することができる。反応性アルデヒドの例としては、ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒド、又はモノ−(C1〜C10)アルコキシ、又はそれらのアリールオキシ誘導体が挙げられる(例えば、米国特許第5,252,714号参照)。このポリマーは分枝していてもよく、非分枝でもよい。更に、ポリマー混合物を用いて抱合体を作製することもできる。治療に使用される抱合体は、医薬的に許容し得る水溶性ポリマー部分を含んでなるものでもよい。好適な水溶性ポリマーとしては、ポリエチレングリコール(PEG)、モノメトキシ−PEG、モノ−(C1〜C10)アルコキシ−PEG、アリールオキシ−PEG、ポリ−(N−ビニルピロリドン)PEG、トレシルモノメトキシPEG、PEGプロピオンアルデヒド、ビス−スクシンイミジルカーボナートPEG、プロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例えばグリセロール)、ポリビニルアルコール、デキストラン、セルロース、又は他の炭水化物系ポリマーが挙げられる。好適なPEGの分子量としては、約600から約60,000の間、例えば5,000、12,000、20,000、及び25,000党が挙げられる。また、抱合体は、かかる水溶性ポリマーの混合物を含んでなるものでもよい。実例として、本発明のEvasin−3ポリペプチド又は変種を、PEGにより修飾することができる。これは「PEG化」として知られる手法である(例えば、欧州特許第0 154 316号参照)。例えば、PEG化は、反応性ポリエチレングリコール分子とのアシル化反応又はアルキル化反応によって行なうことができる。別の手法として、活性化PEGの縮合、即ち、PEGの末端水酸基又はアミノ基を活性化リンカーで置換することによって、抱合体を形成することもできる(例えば、米国特許第5,382,657号参照)。このPEGは直鎖状でも分枝鎖状でもよい。これによってタンパク質の安定化、半減期の延長、或いは生理活性の向上を達成し得る。
【0080】
これらのEvasin−3由来化合物の作製は、内部又は末端に位置する適切な残基の部位特異的修飾に続いて行なうこともできる。ポリマー結合には、かかる結合を受容し易い側鎖(即ち、リシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、システイン、ヒスチジン等の、官能基を有するアミノ酸側鎖)を有する残基を用いることができる。或いは、ポリマーが結合される側鎖を有する別のアミノ酸で、これらの部位の残基を置換してもよい。
【0081】
例えば、直接のPEG化を可能にするべく、組み換えDNA技術により、或いは酵素の働きにより、付加的なシステインを成熟タンパク質配列のN又はC末端に付加してもよい。或いは、グリコシル化部位に相当する残基の置換によって、システインをタンパク質中に導入することもできる。
【0082】
別の態様によれば、本発明は、本発明のタンパク質と選択的に結合する抗体に関する。
【0083】
本明細書で用いられる「抗体」という語は、以下で更に説明するように、モノクローナル及びポリクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体、二重特異性又は多重特異性抗体、並びに単鎖抗体(scFv)又はドメイン抗体等の抗体フラグメントをも包含する。
【0084】
本発明との関連において「選択的」結合という語は、抗体が標的のポリペプチド又はエピトープに対して優先的に(即ち、他の何れの抗原又はエピトープとの何れの結合よりも高い親和力で)結合することを指す。換言すれば、標的ポリペプチドとの結合は、他の抗原との非特異的結合と区別することが可能である。本発明に係る抗体は、標的ポリペプチド又はエピトープに対して106M-1以上、好ましくは107M-1以上、より好ましくは108M-1以上、最も好ましくは109M-1以上の結合親和力(Ka)を示す。抗体の結合親和力は、当業者であれば、例えばスキャッチャード分析(Scatchard G.(1949))によって容易に求めることができる。
【0085】
本発明の抗体はモノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよく、或いは実質的に同じ抗原特異性を有するそれらのフラグメント又は誘導体であってもよい。
【0086】
齧歯類、霊長類、及びウマ類を含む様々な種からポリクローナル抗体を調製する方法が、例えばVaitukaitis等(1971)において報告されている。ポリクローナル抗体は、例えば、免疫剤(及び所望によりアジュバント)を哺乳動物に1回又は複数回注入することにより、産生することができる。通常、この免疫剤及び/又はアジュバントは、複数回の皮下又は腹膜内注射により哺乳動物に注入されることになる。免疫剤としては、前述した配列番号5、6、17、18のポリペプチド又は変種、或いはそれらの融合タンパク質が挙げられる。その免疫剤を、免疫されるその哺乳動物において免疫原性があることが知られているタンパク質と結合させることが有用な場合もある。かかる免疫原性タンパク質の例としては、これらに限定されるものではないが、スカシ貝(keyhole limpet)ヘモシアニン、血清アルブミン、ウシのチログロブリン、及びダイズトリプシン阻害薬が挙げられる。使用し得るアジュバントの例としては、フロイント完全アジュバントやMPL−TDMアジュバント(モノホスホリルリピドA、合成トレハロースジコリノミコラート)が挙げられる。注射を繰り返し行なってもよい。血液試料を回収し、免疫グロブリン又は血清を分離する。
【0087】
或いは、抗体はモノクローナル抗体であってもよい。本明細書で用いられる「モノクローナル抗体」という語は、実質上均一な抗体集団(即ち、集団を構成する個々の抗体が、自然発生し得る少量の突然変異体を除いて同一である集団)から得られる抗体を意味する。モノクローナル抗体は極めて特異性が高く、単一の抗原部位を対象とする。その修飾語である「モノクローナル」とは、実質的に均一な抗体集団から得られる抗体の性質を指すものであって、何れか特定の方法によって抗体を産生する必要があるものと解釈すべきではない。
【0088】
モノクローナル抗体を産生する方法は、例えばKohler等(Nature 256(1975)495)に開示されている。これは援用により本明細書内に組み込まれる。
【0089】
ハイブリドーマ法では、マウス、ハムスター、又は他の適切な宿主動物を、一般には免疫剤(この免疫剤は通常、先に述べた配列番号5、6、17、18のポリペプチド又は変種、或いはそれらの融合タンパク質、或いは上記タンパク質のコード配列を含有する発現ベクターを含むことになる)で免疫化して、この免疫剤と特異的に結合するであろう抗体を産生するか、又は産生し得るリンパ球を引き出す。或いは、このリンパ球をインビトロで免疫化してもよい。一般に、ヒト起源の細胞が望ましい場合は、末梢血のリンパ球(「PBL」)を使用し、非ヒト哺乳動物源が望ましい場合は、脾臓細胞又はリンパ節細胞を使用する。次いで、ポリエチレングリコール等の適切な融合剤を用い、リンパ球を不死化細胞株と融合させてハイブリドーマ細胞を形成する(Goding(1986))。これら不死化細胞株は、一般的には形質転換された哺乳動物細胞、特に齧歯類、ウシ、及びヒト起源の骨髄腫細胞である。通常はラット又はマウスの骨髄腫細胞株が使用される。このハイブリドーマ細胞を適切な培地中で培養すればよいが、かかる培地は、融合されていない不死化細胞の成長又は生存を阻害する1又は2以上の物質を含有することが好ましい。例えば、親細胞が酵素、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT又はHPRT)を欠く場合、ハイブリドーマ用の培地は通常、ヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジンを含有する培地(「HAT培地」)であり、これらの物質がHGPRT欠損細胞の成長を妨げることになる。好ましい不死化細胞株は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による抗体の安定した高レベルの発現を支え、且つHAT培地等の培地に対して感受性を有するものである。より好ましい不死化細胞株はネズミの骨髄腫株であり、例えばカリフォルニア州サンディエゴのSalk Institute Cell Distribution Center、及び、バージニア州マナサスのAmerican Type Culture Collectionから得ることができる。ヒト骨髄腫及びマウス−ヒト異型骨髄腫の細胞株もまた、ヒトモノクローナル抗体産生用に記述されている。
【0090】
次いで、ハイブリドーマ細胞が培養されている培地に、免疫ペプチドに対するモノクローナル抗体が存在するかどうかをアッセイすればよい。ハイブリドーマ細胞によって産生されたモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降法によって、或いはラジオイムノアッセイ(RIA)や酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)等のインビトロ結合アッセイによって定量することが好ましい。かかる技術やアッセイは、本技術分野では公知である。
【0091】
所望のハイブリドーマ細胞が同定されたら、そのクローンを限界希釈法によりサブクローン化し、標準的な方法により成長させる(Goding、上記)。この目的に適した培地としては、例えばダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)及びRPMI−1640培地が挙げられる。或いは、ハイブリドーマ細胞をインビボで、哺乳動物の腹水で成長させてもよい。
【0092】
サブクローンによって分泌されたモノクローナル抗体は、例えばプロテインA−セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、又はアフィニティークロマトグラフィー等の通常の免疫グロブリン精製手順によって、培地又は腹水から分離又は精製することができる。
【0093】
また、組み換えDNA法、例えば米国特許第4,816,567号に記載の方法によって、モノクローナル抗体を作製することもできる。本発明のモノクローナル抗体をコード化するDNAは、通常の手順を用いて(例えば、ネズミ抗体の重鎖及び軽鎖をコード化する遺伝子と特異的に結合し得るオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)容易に分離し、配列決定することができる。本発明のハイブリドーマ細胞は、かかるDNAの好適な供給源となる。分離後のDNAを発現ベクターに導入してもよい。次いでこの発現ベクターを、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又は通常は免疫グロブリンタンパク質を産生しない骨髄腫等の宿主細胞にトランスフェクトさせ、その組み換え宿主細胞中でモノクローナル抗体の合成物を得る。
【0094】
また、「モノクローナル抗体」は、Clackson等(1991)及びMarks等(1991)に記載の技術を用いて、ファージ抗体ライブラリーから分離することもできる。
【0095】
これら抗体は一価抗体であってもよい。一価抗体を調製するための方法は、本技術分野では周知である。例えば、一つの方法としては、免疫グロブリンの軽鎖と修飾重鎖の組み換え発現を伴うものが挙げられる。この重鎖は一般にFc領域内の任意の点で切断され、これにより重鎖の架橋が防止される。或いは、架橋を防ぐために関連したシステイン残基を別のアミノ酸残基で置換するか、又は欠失させる。
【0096】
インビトロ法も一価抗体の調製に適している。抗体のフラグメント、特にFabフラグメントを産生させるための抗体の消化は、本技術分野で周知の定型的な技術を用いて達成することができる。
【0097】
また、例えばWard等(1989)に開示のように、免疫グロブリンのコンビナトリアルライブラリーの選択によって抗体を作製してもよい。
【0098】
更に、本発明の抗体は、ヒト化抗体又はヒト抗体を含んでいてもよい。非ヒト(例えばネズミ)抗体のヒト化形態としては、キメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、又は非ヒト免疫グロブリンから得られる最小の配列を含有するそれらのフラグメント(Fv、Fab、Fab′、F(ab′)2、又は抗体の他の抗原結合サブ配列)が挙げられる。ヒト化抗体としては、受容体の相補性決定領域(CDR)由来の残基を、望ましい特異性、親和性、及び能力を有するマウス、ラット、又はウサギ等の非ヒトの種(ドナー抗体)のCDR由来の残基によって置換したヒト免疫グロブリン(受容抗体)が挙げられる。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基が、対応する非ヒトの残基によって置換される。
【0099】
非ヒト抗体をヒト化するための方法は、本技術分野では周知である。ヒト化は基本的に、Winter及び共同研究者の方法(Jones等、Nature, 321:522-525 (1986))に則って、齧歯動物のCDR又はCDR配列でヒト抗体の対応する配列を置換することにより行なうことができる。従って、かかる「ヒト化」抗体はキメラ抗体であり(米国特許第4,816,567号)、無傷のヒト可変ドメインは実質的には少しも非ヒトの種由来の対応する配列によって置き換えられていない。
【0100】
また、ヒト抗体は、本技術分野で公知の様々な技術を用いて作製することもできる。例えばファージディスプレイライブラリーが挙げられる(Hoogenboom及びWinter(1991))。同様に、ヒト抗体は、内因性免疫グロブリン遺伝子が部分的又は完全に不活性化されているトランスジェニック動物(例えばマウス)に、ヒト免疫グロブリン座を導入することによって作製することができる。抗原暴露に伴いヒト抗体の産生が観察され、それは遺伝子の再配列、作製、及び抗体レパトアを含め、あらゆる点でヒトに見られるものに酷似している。この手法は、例えば米国特許第5,545,807号、第5,545,806号、第5,569,825号、第5,625,126号、第5,633,425号、第5,661,016号に記載されている。
【0101】
また、本発明は、異種部分と連結された抗体を含んでなる免疫抱合体に関する。異種部分としては、細胞毒性薬、標識、薬物、又は他の治療薬が挙げられ、これらは共有結合か否かによらず、直接又はカップリング剤やリンカー等の使用により連結される。細胞毒性薬としては、化学療法剤、毒素(例えば、細菌、真菌、植物、又は動物起源の酵素的に活性な毒素、又はそれらのフラグメント)、或いは放射性同位元素(即ち放射性抱合体)が挙げられる。
【0102】
使用可能な酵素的に活性な毒素及びそれらのフラグメントとしては、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合性の活性フラグメント、エキソトキシンA鎖(緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデクシンA鎖、α−サルシン、シナアブラギリ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンチン(dianthin)タンパク質、ヨウシュヤマゴボウ(Phytolaca americana)タンパク質(PAPI、PAPII、及びPAP−S)、ツルレイシ(momordica charantia)阻害薬、クルシン(curcin)、クロチン(crotin)、サボンソウ(saponaria officinalis)阻害薬、ゲロニン(gelonin)、ミトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン(restrictocin)、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)、及びトリコセセンス(tricothecenes)が挙げられる。様々な放射性核種が、放射性抱合抗体の産生に利用できる。例としては、212Bi、131I、131In、90Y、及び186Reが挙げられる。
【0103】
別の実施形態によれば、この抗体を「受容体」(ストレプタビジン等)と結合させて、腫瘍プレターゲティングに利用してもよい。この場合、抗体−受容体抱合体を患者に投与し、続いて除去薬(clearing agent)を用いて非結合抱合体を循環から除去し、次いで細胞毒性薬(例えば放射性ヌクレオチド)に結合した「リガンド」(例えばアビジン)を投与する。
【0104】
更に、本発明の抗体又は抗体フラグメントを、本技術分野で方法の手法や本明細書に記載の方法を用いてPEG化することもできる。また、本明細書に開示の抗体を、イムノリポソームとして製剤してもよい。循環時間の改善されたリポソームが、米国特許第5,013,556号に開示されている。
【0105】
また、本発明は、無傷の抗体の一部分、好ましくは無傷の抗体の抗原結合領域又は可変部を含んでなる「抗体フラグメント」に関する。抗体フラグメントの例としては、Fab、Fab′、F(ab′)2、及びFvフラグメント;ダイアボディー;線状抗体;単鎖抗体分子;モノボディー;ダイアボディー;ラクダ化(camelized)モノボディー;抗体フラグメントから形成されるドメイン抗体及び多重特異的抗体が挙げられる。
【0106】
「Fv」は、完全な抗原認識及び結合部位を含有する最小の抗体フラグメントである。この領域は、非共有結合により強固に結合した1個の重鎖及び1個の軽鎖可変ドメインの二量体からなる。この配置により、各可変ドメインの3個のCDRが相互に作用して、VH−VL二量体表面の抗原結合部位を規定することになる。これら6個のCDRが全体として、抗体に抗原結合特異性を付与することになる。但し、単一の可変ドメイン(即ち、抗原特異的な3個のCDRのみを含んでなるFvの半分)であっても、抗原を認識し、結合する能力を有する。
【0107】
また、Fabフラグメントは、軽鎖の定常ドメイン及び重鎖の第1定常ドメイン(CH1)を含有する。FabフラグメントがFab′フラグメントと異なる点は、重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端に数個の残基が追加されている点であり、かかる残基には抗体ヒンジ領域由来の1又は2以上のシステインが含まれる。本明細書においてFab′−SHとは、定常ドメインのシステイン残基が遊離チオール基を有するFab′の呼称である。F(ab′)2抗体フラグメントは元来、ヒンジシステインで連結されたFab′フラグメント対として産生された。その他の抗体フラグメントの化学的結合も知られている。任意の脊椎動物種由来の抗体(免疫グロブリン)の「軽鎖」は、定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、明確に区別される2つの型(κ及びλと呼ばれる)の何れかに分類される。
【0108】
「単鎖抗体分子」は、抗体のVH及びVLドメインを含んでなり、それらのドメインが単一のポリペプチド鎖に存在する抗体フラグメントである。Fvポリペプチドは更に、単鎖抗体分子が抗原結合に望ましい構造を形成し得るよう、VHドメインとVLドメインとの間にポリペプチドリンカーを有することが好ましい。
【0109】
「ダイアボディー」という語は、2つの抗原結合部位を有する小型の抗体フラグメントを指す。このフラグメントは、軽鎖可変ドメイン(VL)に連結した重鎖可変ドメイン(VH)を、同一のポリペプチド鎖(VH−VL)内に含んでなる。同一鎖上にあるこれら2つのドメインが対合しないよう、十分に短いリンカーを使用することによって、これらのドメインを別の鎖の相補ドメインと強制的に対合させ、2つの抗原結合部位を生じさせる。ダイアボディーについては、例えば欧州特許第404,097号、国際公開第93/11161号に、より詳しく記載されている。
【0110】
本明細書で用いられる「モノボディー」という語は、重鎖可変ドメインを有し、軽鎖可変ドメインのない抗原結合分子を意味する。モノボディーは、軽鎖の不在下でも抗原と結合することができ、通常はCDRH1、CDRH2、及びCDRH3と名付けられた3個のCDR領域を有する。重鎖IgGモノボディーは、ジスルフィド結合によって連結された2つの重鎖抗原結合分子を有する。この重鎖可変ドメインは、1又は2以上のCDR領域、好ましくはCDRH3領域を含んでなる。
【0111】
「ラクダ化モノボディー」は、ラクダ科の動物源から得られるモノボディー又はその抗原結合部分を指す。ラクダ科に含まれる動物は、2つの蹄と革状の足底とを有する脚を有する。ラクダ科の動物としては、ラクダ類、ラマ類、及びアルパカ類が挙げられる。ラクダ類(ヒトコブラクダ(Camelus dromedaries)及びフタコブラクダ(Camelus bactrianus))の血清由来のIgG様物質を分析すると、しばしば可変軽鎖ドメインの欠落が見られることが報告されている。これは、VHドメイン(3つのCDRループ)単独でも、十分な抗体特異性及び親和性が得られることを示唆している。
【0112】
本発明には単一ドメイン抗体も含まれる。単一ドメイン抗体(別名ドメイン抗体又はdAbs)は、ヒト抗体の重鎖(VH)又は軽鎖(VL)の何れかの可変部に対応する抗体の最小の機能的結合単位である。ドメイン抗体は分子量約13kDa、即ち完全抗体の十分の一未満の大きさである。通常の抗体とは対照的に、ドメイン抗体は、細菌、酵母、及び哺乳動物の細胞系でも十分に発現する。更に、ドメイン抗体の多くは安定性が高く、広範な医薬品の調合条件及び製造工程に従わせるための凍結乾燥又は熱変性等の過酷な条件に曝された後でも、活性を保持する。
【0113】
本発明のタンパク質は、程度の差こそあれ、精製した形態で提供してもよい。実施例では、組み換えEvasin−3を発現させるのに必要な核酸をクローン化する方法、CXCケモカインに対する親和性及びクロマトグラフ技術を用いて組み換え又は天然Evasin−3を精製する方法、また、CXCケモカイン結合活性(特にCXCL8結合活性)を検出するためのアッセイによってこのタンパク質を適切に発現する細胞を選択する方法を示す。
【0114】
具体的に、本発明の天然、合成、又は組み換えアンタゴニストの精製は、この目的のために知られている方法の何れか(即ち、抽出、沈殿、クロマトグラフィー、電気泳動等を伴う任意の従来法)によって行なうことができる。本発明のタンパク質の精製に優先的に使用し得る更なる精製手順としては、標的タンパク質に結合するモノクローナル抗体又は親和性基を用いたアフィニティークロマトグラフィーが挙げられる。かかるモノクローナル抗体又は親和性基は、カラム内のゲルマトリックス上に形成、固定化される。タンパク質を含有する不純調製物をカラムに通過させる。タンパク質はヘパリンによって、或いは特異的抗体によってカラムと結合するのに対し、不純物はそのまま通過する。洗浄後、pH又はイオン強度を変えることによって、タンパク質をゲルから溶出させる。或いは、HPLC(高性能液体クロマトグラフィー)を用いてもよい。溶離は、タンパク質精製用に一般に使用される水−アセトニトリル系溶媒を用いて行なうことができる。本発明のタンパク質の精製済み調製物とは、本明細書で用いる場合、上記タンパク質が(乾燥重量で)少なくとも1%、好ましくは少なくとも5%の調製物を意味する。
【0115】
本発明の別の態様は、上記定義のEvasin−3ポリペプチドを(タンパク質の形態で、或いは上述した他の形態で)活性成分として含んでなるとともに、適切な希釈剤又は担体を含んでなる医薬組成物である。
【0116】
本発明の別の態様は、上記定義のEvasin−3ポリペプチドをコード化する核酸分子、或いは対応するベクター又は組み換え宿主細胞と、適切な希釈剤又は担体とを含んでなる医薬組成物である。
【0117】
本発明の更なる態様は、被験体における免疫反応の調節用薬剤の製造における、上記定義のEvasin−3ポリペプチド、或いはそれをコード化する核酸の使用に関する。
【0118】
これらの組成物は薬剤、特に哺乳動物における免疫又は炎症反応を調節するための薬剤、より具体的には抗炎症性化合物として使用することができる。
【0119】
一般的に、CXCケモカインが多数のヒト及び獣医学の疾病に関与していることを考慮すると、本発明のCXCケモカイン結合タンパク質は、動物におけるCXCケモカイン関連疾病の治療及び予防用のCXCケモカインのアンタゴニストとして使用し得る。CXCケモカイン関連疾病の非網羅的なリストには、炎症性疾患、自己免疫疾患、免疫病、感染症、アレルギー性疾患、心血管疾患、代謝性疾患、胃腸疾患、神経系疾患、敗血症、移植による拒絶反応に関連する疾患、又は線維性症候群が含まれる。これら疾患の例としては、限定されるものではないが、関節炎、慢性関節リウマチ(RA)、乾癬性関節炎、乾癬、慢性関節リウマチ、再狭窄、敗血症、変形性関節症、全身性エリテマトーデス(SLE)、全身性硬化症、強皮症、多発性筋炎、糸状体腎炎、線維症、アレルギー性又は過敏性症候群、皮膚炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、線維腫、潰瘍性大腸炎、多発性硬化症、敗血性ショック、ウィルス感染、癌、子宮内膜症、移植、移植片対宿主病(GVHD)、心臓及び腎臓再潅流傷害、及びアテローム性動脈硬化症が挙げられる。
【0120】
特に、本発明のCXCケモカイン結合タンパク質は、乾癬の治療及び予防に使用することができる。
【0121】
本発明のタンパク質又は特異的フラグメントは、哺乳動物における免疫又は炎症反応を調節するための医薬組成物、例えば抗炎症性組成物の製造において、活性成分として使用することができる。或いは、本発明のタンパク質又は特異的フラグメントは、寄生虫、ウィルス、又は細菌に対する哺乳動物の予防接種用の医薬組成物の製造において、活性成分として使用することができる。かかる医薬組成物を調製するための工程は、Evasin−3を医薬的に許容し得る希釈剤又は担体と混合するステップを含んでなる。
【0122】
本発明のタンパク質を活性成分として含有する医薬組成物を用いれば、インビボでCXCケモカインを結合させ、対応する細胞表面の受容体とCXCケモカインとの結合を遮断し、その結果として抗炎症効果等の潜在的な治療効果を生じさせることが可能となる。また、本発明のタンパク質を活性成分として含有する医薬組成物を用いれば、ウィルス、細菌、又は寄生虫に存在するCXCケモカイン類似体を結合することにより、これらのウィルス、細菌、又は寄生虫が細胞内に侵入するのを阻止することもできる。ウィルス、細菌、又は寄生虫に対する哺乳動物の予防接種用の医薬組成物は、活性成分として本発明のタンパク質のフラグメントを含んでいてもよい。上に示した組成物は、更に追加の免疫抑制剤又は抗炎症性物質を含んでいてもよい。
【0123】
医薬組成物は、活性成分としての本発明のタンパク質に加えて、医薬的に許容し得る適切な希釈剤、担体、生物学的適合性ビヒクル、並びに動物への投与に適した添加剤(例えば生理的塩類溶液)を含んでいてもよい。また、最終的には、活性化合物の医薬的に使用可能な調製剤への加工を容易にする補助剤(ビヒクル、安定剤、又はアジュバント等)を含んでなる。医薬組成物の製剤は、投与方式の要請を満たす任意の許容し得る方法で処方し得る。例えば、薬物送達用の生体適合材料及び他のポリマーの使用、並びに特定の投与方式を有効にする様々な方法及びモデルが、文献に開示されている(Luo B.及びPreswich GD.(2001)、Cleland JL.等(2001))。
【0124】
「医薬的に許容し得る」とは、活性成分の生物学的活性の有効性を妨げず、且つ、投与される宿主にとって有毒でない任意の担体を包含する意味である。例えば、非経口投与の場合、塩類溶液、デキストロース溶液、血清アルブミン、及びリンガー液等のビヒクルに活性成分を溶解させた注射用の単位剤形に処方することができる。また、担体は、デンプン、セルロース、タルク、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、コメ、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノール、及び石油、動物、植物、又は合成起源の油を含めた様々な油(落花生油、大豆油、鉱油、ゴマ油)から選択することができる。
【0125】
所望の活性成分の血中濃度を達成するために、当業者であれば、容認される何れの投与方式を使用及び決定してもよい。例えば投与は、皮下、静脈内、皮内、筋肉内、腹膜内、鼻腔内、経皮的、直腸、経口、又は頬内経路等の様々な非経口経路によって行なうことができる。また、本発明の医薬組成物は、ポリペプチドを所定の速度で長時間投与するために、蓄積注射、浸透流ポンプ等の持続又は制御放出剤形で投与してもよいが、正確な用量での単回投与に適した単位剤形で投与することが好ましい。
【0126】
非経口投与は、ボーラス投与で行なってもよく、時間をかけて徐放灌流により行なってもよい。非経口投与用の製剤としては、滅菌した水性又は非水性溶液、懸濁液、及び乳化液が挙げられる。これらは本技術分野で周知の補助剤又はビヒクルを含有していてもよく、また、定型的な方法に従って調製することができる。加えて、活性化合物の懸濁液を適切な油性注射用懸濁液として投与することもできる。好適な親油性溶媒又はビヒクルとしては、脂肪油類、例えばゴマ油や、合成脂肪酸エステル類、例えばゴマ油の合成脂肪酸エステルや、合成脂肪酸エステル類、例えばオレイン酸エチル又はトリグリセリド類が挙げられる。水性注射用懸濁液は、懸濁液の粘度を増加させる物質(例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、及び/又はデキストラン)を含有していてもよい。また、懸濁液は任意により、安定剤を含有していてもよい。医薬組成物には注射による投与に適した溶液が含まれ、かかる溶液は約0.01から99.99パーセント、好ましくは約20から75パーセントの活性化合物を、ビヒクルと共に含有する。
【0127】
当然ながら、投与される用量は、受容者の年齢、性別、健康状態、及び体重、併用治療を行なう場合はその種類、治療の頻度、更には所望する効果の性質に依存することになる。その用量は(当業者であれば理解し、決定し得るように)個々の被験体に合わせて決定される。各治療に必要な総用量は、多回投与で与えてもよく、単回投与で与えてもよい。本発明の医薬組成物は単独で投与してもよいが、対象となる病状(又は対象となる病状に関連する他の症状)に対する他の治療薬と組み合わせて投与してもよい。活性成分の1日投与量は通常、1日当たり体重1キログラム当たり0.01から100ミリグラムの範囲である。普通は1日当たり1キログラム当たり1から40ミリグラムを分割量又は持続放出形態で投与するのが、所望の結果を得る上で効果的である。二回目以降の投与における用量は、同一個体に投与された最初又は以前の用量と比べて、同一でもよく、少なくてもよく、多くてもよい。
【0128】
本発明の別の態様は、本発明のDNAによってコード化されるタンパク質の薬剤としての使用、具体的には哺乳動物の免疫又は炎症反応の調節用の組成物の調製における使用である。
【0129】
本発明の更なる態様は、動物を吸血性の外寄生虫に対して免疫化する方法、又は免疫又は炎症反応の調節が必要な動物においてかかる調節を行なう方法であって、前記動物に本発明のタンパク質を、免疫反応を調節するのに十分な期間及び条件の下で投与することを含んでなる方法である。
【0130】
本発明の別の態様は、CXCケモカイン関連疾患を治療又は予防する方法であって、本発明の化合物の有効量の投与を含んでなる方法である。
【0131】
「有効量」とは、その疾患の経過及び重症度に影響を及ぼし、かかる病状の縮小又は寛解をもたらすのに十分な活性成分量を意味する。有効量は、投与経路及び患者の状態に応じて異なる。
【0132】
「CXCケモカイン関連疾患」という表現は、過剰又は非制御のCXCケモカインの産生に起因し、大量の単核細胞/マクロファージ/好中球/T細胞浸潤を伴う疾患であって、Evasin−3の投与によって有益な効果が得られ得る任意の疾患を指す。かかる慢性、急性、又は遺伝性疾患の非網羅的なリストは上に示されている。
【0133】
本発明のCXCケモカインアンタゴニスト及び関連する試薬の治療用途は、哺乳動物の細胞、組織、及びモデルを利用したインビボ又はインビトロアッセイによって評価(安全性、薬物動態、及び有効性の見地から)し得る(Coleman R.等(2001)、Li A.(2001)、Methods Mol. Biol vol.138「Chemokines Protocols」(Proudfoot A.等編、Human Press Inc.,2000)、Methods Enzymol, vol.287及び288(Academic Press,1997))。アッセイ法の非限定的なリストには、カルシウム動員、脱顆粒、炎症促進性サイトカインの上方調節、プロテアーゼの上方調節、インビボ又はインビトロでの細胞動員の阻害が含まれる。
【0134】
本発明の更なる態様は、本発明のCXCケモカイン結合タンパク質に関連して開示された化合物の何れかを含有する試験キットである。例えば、検出試薬と、本発明のCXCケモカイン結合タンパク質に由来する
a)核酸分子(例えばDNA)、
b)オリゴヌクレオチド、
c)タンパク質、及び
d)抗体
からなる群より選択される少なくとも1種類の化合物とを含んでなる、CXCケモカイン又は類似体、或いはCXCケモカイン結合タンパク質又は受容体、或いはCXCケモカインとCXCケモカイン結合タンパク質との相互作用、或いは上記相互作用のアンタゴニスト又はアゴニストを検出するためのキットである。
【0135】
これらのキットは、インビトロ又はインビボに適用可能な方法に使用することができる。この場合、試料を上記化合物の何れかと接触させる。かかる化合物は標識してもよく、固体支持体に固定化してもよい。
【0136】
特定の実施形態を参照しながら本発明を説明したが、この説明の内容は、当業者が特許請求の範囲の意味及び目的を越えることなく行ない得る、あらゆる修正及び置換を含んでなる。
【0137】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、これらは何ら本発明を限定するものと解してはならない。実施例では以下に指定される図を参照する。
【実施例】
【0138】
実施例1:CXCケモカイン結合活性に関するクリイロコイタマダニcDNAライブラリーのスクリーニング及びEvasin−3のクローニング
【0139】
材料及び方法
b.クリイロコイタマダニcDNAライブラリーの作製及びvCCIを発現させる制御プラスミドの作製
【0140】
100匹の成虫のダニ(クリイロコイタマダニ)から唾液腺を採取し、直ちに氷冷RNAlater(商標)溶液(Ambion)に入れ、使用するまで保存した。TRIzol(商標)法(Invitrogen)を用い、メーカーの使用説明書に従って全RNAを抽出した。SMART cDNAライブラリー作製キット(Clontech)を用いて、ファージミドベクターλTripIEX2中でcDNAライブラリーを構築した。このcDNAを、ベクターとの連結反応に先立って、ChromaSpin 400カラム(Clontech)により、メーカーの使用説明書に従ってサイズ分画した。ライブラリー中のクローン化cDNA挿入断片のサイズは約0.6kbから1.5kbの範囲であり、挿入断片の頻度は約80%であった。
【0141】
pTripIEX2中のクリイロコイタマダニ唾液腺cDNAライブラリー由来のcDNA挿入断片を制限酵素SfiIで切除し、哺乳動物細胞発現ベクターpEXP−lib(Clontech)中にサブクローン化した。このpEXP−libベクターは、ヒトサイトメガロウィルス(CMV)の主要な極初期プロモーター/エンハンサーとそれに続くマルチクローニング部位、脳心筋ウィルス(ECMV)のリボソームエントリー部位(IRES)、ピューロマイシン耐性をコード化する遺伝子(ピューロマイシン−N−アセチルトランスフェラーゼ)、及びウシ成長ホルモンのポリアデニル化シグナルを含んでなる発現カセットを含有する。このマルチクローニング部位は、2つの別個のSfi I部位(インターパリンドローム配列が異なるSfi IA及びSfi IB)を含有する。これによって、pTripIEX2ベクターからpEXPIIへのcDNA挿入断片の定方向サブクローン化が可能となる。
【0142】
この制御タンパク質vCCI(国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)受託番号CAC05575、配列番号1)を、タンパク質(NCBI受託番号AJ277111、配列番号2)コード化cDNAを上記のようにpEXP−lib中にクローン化することにより発現させて、pEXP−lib vCCIを産生した。
【0143】
c.HEK293細胞上清を用いたライブラリーのスクリーニング
【0144】
ヒト胎児腎臓細胞293(HEK293細胞、米国基準菌株保有機構(ATCC)カタログ番号CRC−1573)を、DMEM−F12 Nut Mix、熱不活性化10%ウシ胎児血清、2mMのL−グルタミン、100単位/mlのペニシリン−スプレプトマイシンの溶液中に維持した。
【0145】
クリイロコイタマダニcDNAライブラリーを発現するpEXP−libプラスミドを複数のプールに分割し、GenePorter2トランスフェクションキット(Gene Therapy Systems)を使用して、メーカーのプロトコルに従ってHEK293細胞にトランスフェクトさせた。制御タンパク質vCCIを発現するpEXP−libプラスミドを、同様にHEK293にトランスフェクトさせた。
【0146】
トランスフェクトされたHEK293細胞由来の培地を、完全培地で生育させた成長させた細胞から、3日間の培養後に採取した。条件培地を遠心分離して細胞デブリを除去し、上清を架橋アッセイに使用した。
【0147】
架橋実験については、条件培地試料を96ウェルプレート(Costar)に移した。上清試料各50μlに、放射線標識したCCケモカイン(125I−CXCL8/IL−8)を加えて最終濃度0.23nMとし、振盪しながら室温で1時間インキュベートした。次いで各ウェルからのアリコート25μlを、25mM BS3(架橋試薬)5μlを含有する新しいウェルに移し、振盪しながら更に1時間インキュベートした。この時間の後、10×試料緩衝液(10%SDS、5mM EDTA、20%グリセロール、0.2%(w/w)ブロモフェノールブルー、1MのDTTを含有する125mMトリス塩基(pH6.8))5μlを各ウェルに加えて架橋反応を停止した。次いで、これら試料を5分間煮沸し、10%Bis−Tris SDS−ポリアクリルアミドゲル(Invitrogen NuPAGE、カタログ番号NP0301BOX)を用いて電気泳動した。電気泳動後、ゲルをサランラップ(商標)で密閉し、K型ストレージホスホイメージングスクリーン(storage phosphoimaging screen)(Biorad)に3〜16時間暴露した。イメージングスクリーンの走査は、Biorad Personal FX phosphoimagerを用いて100μmの分解能で行なった。
【0148】
結果
ダニクリイロコイタマダニの唾液は、IgG及びサイトカイン産生の抑制(Matsumoto K.等(2003))又はT細胞の増殖(Ferreira BR.及びSilva JS.(1998))等の免疫調節活性を有することが示されたが、CC又はCXCケモカインに対する特異的な活性は見られなかった。しかし、他のダニ種の唾液ではケモカイン結合活性が検出されている(Hajnicka等(2005))。
【0149】
クリイロコイタマダニのCXCケモカイン結合活性をDNA/タンパク質配列レベルで検出するために、クリイロコイタマダニの唾液腺からcDNAライブラリーを作製した。このライブラリーからのcDNAのプールを用いて、哺乳動物細胞(HEK293)にトランスフェクトさせた。
【0150】
この系において、分泌タンパク質をコード化するcDNAをHEK293細胞に発現させ、培地中に分泌させた。上清の試験は直接、放射線標識CXCケモカイン(125I−CXCL8/IL−8)を用いた架橋アッセイで行なうことができる。放射線標識CXCケモカイン/CXCケモカイン結合タンパク質に架橋試薬を加えると、これら二つの分子が共有結合で連結され、タンパク質複合体が安定化する。得られた複合体は、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)及びその後のオートラジオグラフィーによって、本来のケモカインの分子量から複合体の分子量へのバンドシフトに基づいて同定することができる。この架橋法は極めて感度が高く、ナノグラムの量のタンパク質を検出可能である。
【0151】
陽性対照として、vCCIをトランスフェクトされたHEK細胞由来の条件培地を並行して試験した。陰性対照として偽トランスフェクトされたHEK293細胞由来の条件培地を使用した。架橋アッセイで陽性シグナルを生じさせたcDNAプールを、CXCケモカイン結合活性の原因である単一のトランスフェクトされたcDNAが同定できるようになるまで、スクリーニング及び逆重畳の周回を繰り返し実施した。得られたcDNAをEvasin−3と呼ぶ(図1)。
【0152】
Evasin−3をコード化するcDNA(配列番号3)は、アミノ酸92個のタンパク質(配列番号5)をコード化するオープンリーディングフレーム(ORF、配列番号4)を含有する。このタンパク質配列はシグナルペプチド配列(残基1〜26個)を含有し、これを切断するとアミノ酸66個の成熟タンパク質(配列番号6)が産生されると予想される。Evasin−3は、他のどの既知のタンパク質とも有意な相同性を有しない。
【0153】
Evasin−3の更なる特徴は、2つの潜在的なグリコシル化部位(完全タンパク質の付番によれば51及び82番アスパラギン)、及び、対合してジスルフィド架橋を形成し得る一連のシステイン(完全タンパク質の付番によれば48、52、59、63、65、及び76番残基)である。
【0154】
実施例2:HEK293 EBNA細胞培養上清中に6Hisタグ化組み換えタンパク質として発現されたEvasin−3の精製及び特性決定
【0155】
材料及び方法
a.Gateway(商標)クローニング過程を用いた発現ベクターpDEST8及びpEAK12d中へのEvasin−3 cDNAのサブクローン化
【0156】
Gatewayクローニング過程の第1段階は、2ステップPCR反応(PCR1及びPCR2)を伴う。これによって、attB1組み換え部位及びKozak配列が5′末端に隣接し、インフレームの6ヒスチジン(6His)タグをコード化する配列と、停止コドンと、attB2組み換え部位とが3′末端に隣接したEvasin−3のORFが生成される(Gateway適合性cDNA、図2)。PCR1反応物(最終体積50μl中)は、2μl(50ng)のpEXP−Lib−Evasin−3、3μlのdNTPs(5mM)、5μlの10×Pfxポリメラーゼ緩衝液、1μlのMgSO4(50mM)、各1.5μlの遺伝子特異的プライマー(10μM)(Evasin−3 PCR1F(配列番号7)及びEvasin−3 PCR1R(配列番号8))、及び0.5μlのPlatinum Pfx DNAポリメラーゼ(Invitrogen)を含有する。第1PCR反応は、初回変性ステップを95℃で2分間行なった後、94℃で30秒、48℃で30秒、及び68℃で1分30秒のサイクルを10回行ない、最後に4℃の保持サイクルを行った。この増幅産物を、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)を用いて直接精製した。このPCR産物をメーカーの使用説明書に従って、50μlのEB緩衝液(10mMトリスHCl、pH8.5)中に溶出した。
【0157】
第2PCR反応物(最終体積50μl中の)は、10μlの精製PCR1産物、3μlのdNTPs(5mM)、10μlの10×Pfxポリメラーゼ緩衝液、1μlのMgSO4(50mM)、各1.5μlのGateway変換プライマー(10μM)(Evasin−3 PCR2F(配列番号9)及びEvasin−3 PCR2R(配列番号10))、及び0.5μlのPlatinum Pfx DNAポリメラーゼを含有する。第2PCR反応の条件は、95℃で1分間の後、94℃で15秒、50℃で30秒、及び68℃で2分のサイクルを4回、次いで94℃で15秒、55℃で30秒、及び68℃で1分のサイクルを20回、最後に4℃の保持サイクルとした。得られたPCR産物を、1×TAE緩衝液(Invitrogen)中1.5%アガロースゲル上で可視化し、予想分子質量(430bp)まで泳動したバンドを、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて、メーカーの使用説明書に従ってゲルから精製し、50μlのEB緩衝液中に溶出した。
【0158】
Gatewayクローニング過程の第2段階は、Gateway修飾PCR産物のGatewayエントリーベクターpDONR221へのサブクローン化を伴う。5μlの精製PCR2産物を、1.5μlのpDONR221ベクター(0.1μg/μl)、2μlのBP緩衝液、及び1.5μlのBP clonase酵素混合物(Invitrogen)と混合し、最終体積を10μlとして、室温で1時間インキュベートした。1μl(2μg/μl)のプロテイナーゼKを加えて反応を停止させ、37℃で更に10分間インキュベートした。この反応物のアリコート(1μl)を用いて、以下の手順で電気穿孔することにより、大腸菌(E.Coli)DH10B細胞に形質転換した。即ち、DH10B electrocompetent細胞(Invitrogen)の20μlアリコートを氷上で解凍し、BP反応混合物1μlを加えた。この混合物を、冷却した0.1cm電気穿孔キュベットに移し、それら細胞に対して、BioRad Gene-Pulser(商標)を用いてメーカーのプロトコルに従って電気穿孔した。電気穿孔後、直ちに、予め室温まで温めたSOC培地(1ml)を加えた。この混合物を15mlスナップキャップ管に移し、振盪(220rpm)しながら37℃で1時間インキュベートした。次いでこの形質転換混合物のアリコート(10μl及び100μl)を、カナマイシン(40μg/ml)を含有するL−ブイヨン(LB)プレート上に塗布し、37℃で一晩インキュベートした。
【0159】
この得られた4つのカナマイシン耐性コロニー由来の培養物5mlからQiaprep Turbo 9600ロボットシステム(Qiagen)を用いてプラスミドミニプレップ(mini-prep)DNAを調製した。プラスミドDNA(200〜500ng)について、BigDye Terminator system(Applied Biosystemsカタログ番号4336919)を用い、メーカーの使用説明書に従って、21M13及びM13RevプライマーとともにDNAシークエンシングにかけた。配列決定反応物を、Montage SEQ 96 クリーンアッププレート(Milliporeカタログ番号LSKS09624)を用いて精製し、次いでApplied Biosystems 3700 DNAシークエンサーで分析した。
【0160】
次いで、適切な配列(pDONR221 Evasin−3−HIS、図3A)を含有する1つのクローンから得られたプラスミド溶出液(1.5μl又は約100ng)を用いて、pDEST8ベクター又はpEAK12dベクターの何れか1.5μl(0.1μg/μl)、LR緩衝液2μl、及びLR clonase(Invitrogen)1.5μlを含有する最終体積10μlの組み換え反応物を調製した。これら混合物を室温で1時間インキュベートした。プロテイナーゼK(2μg)を加えて反応を停止し、37℃で更に10分間インキュベートした。各反応物のアリコート(1μl)を用いて、以下の手順で電気穿孔を行なうことにより、大腸菌DH10B細胞に形質転換した。即ち、DH10B electrocompetent細胞(Invitrogen)のアリコート20μlを氷上で解凍し、このLR反応混合物1μlを加えた。この混合物を、冷却した0.1cm電気穿孔キュベットに移し、それら細胞をBioRad Gene-Pulser(商標)を用いて、メーカーが推奨するプロトコルに従って電気穿孔した。電気穿孔後直ちに、予め室温まで温めたSOC培地(1ml)を加えた。この混合物を15mlスナップキャップ管に移し、振盪(220rpm)しながら37℃で1時間インキュベートした。次いで、この形質転換混合物のアリコート(10μl及び100μl)を、アンピシリン(100μg/ml)を含有するL−ブイヨン(LB)プレート上に塗布し、37℃で一晩インキュベートした。
【0161】
この得られた6つのアンピリシン耐性コロニーを接種した培養物5mlからプラスミドミニプレップ(mini-prep)DNAを調製し、Qiaprep BioRobot 8000(Qiagen)を用いて各ベクター中にサブクローン化した。このpEAK12dベクター中のプラスミドDNA(200〜500ng)をpEAK12F(配列番号11)及びpEAK12R(配列番号12)プライマーによるDNAシークエンシングにかけた。同様に、pDEST8ベクター中のプラスミドDNA(200〜500ng)を上記のpDEST8F(配列番号13)及びpDEST8R(配列番号14)プライマーによるDNAシークエンシングにかけた。
【0162】
配列確認済クローン(pEAK12d Evasin−3−HIS及びpDEST8 Evasin−3−HIS)(それぞれ図3C及び3B)の培養物500mlから、Qiagen Plasmid MEGA Kit(QIAGEN)を用いて、メーカーの使用説明書に従ってプラスミドマキシプレップ(maxi-prep)DNAを調製した。プラスミドDNAを滅菌水(又は10mMトリスHCl、pH8.5)に濃度1μg/μlとなるよう再懸濁し、−20℃で保存した。
【0163】
様々なサブクローニング/クローニングのステップで使用したプライマー配列を表IIIに纏めて示す。
【0164】
b.QuikChamge II Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)を用いたpEXPII−Evasin3プラスミドのORF配列のC末端への6Hisタグの挿入
【0165】
部位特異的突然変異誘発過程の第1段階は、インフレームの6ヒスチジン(6His)タグコード化配列が3′末端に隣接したEvasin−3のORFによって、突然変異プラスミドを産生するPCR反応を伴う。このPCR反応物(最終体積50μl)は、メーカーの使用説明書に従い、1μl(50ng)のプラスミドpEXP−Lib−Evasin−3、1μlのdNTP混合物、5μlの10×反応緩衝液、各2μlの遺伝子特異的プライマー(62.5μM)(Evasin−3−6HisF及びEvasin−3−6HisR、配列番号19及び配列番号20)、及び1μlのPfu Ultra HF DNAポリメラーゼを含有する。PCR反応は、95℃で30秒間の初回変性ステップを行なった後、95℃で30秒、55℃で1分、及び68℃で5分30秒のサイクルを18回行ない、最後に4℃の保持サイクルを行った。
【0166】
部位特異的突然変異誘発過程の第2段階は、メチル化及びヘミメチル化DNAに特異的なDpn1エンドヌクレアーゼでPCR産物を処理して、親のメチル化プラスミドDNAを消化し、突然変異を含有する新規合成DNAを選択することを伴う。PCR産物を、メーカーの使用説明書に従って、Dpn1制限酵素1μl(10U/μl)と共に37℃で1時間インキュベートした。
【0167】
Dpn1制限消化反応物のアリコート(1μl)を用いて、下記手順に従い、熱ショックによって大腸菌XL−1 blue細胞に形質転換した。即ちXL−1 blue コンピテント細胞(Stratagene)のアリコート50μlを氷上で解凍し、このDpn1反応混合物1μlを加えた。この混合物を氷上で30分間インキュベートし、細胞を氷浴に移して2分後、細胞に42℃で45秒間熱ショックを与えた。次いで、予め42℃まで温めたNZY培地(0.5ml)を加えた。この混合物を15mlスナップキャップ管に移し、振盪(220rpm)しながら37℃で1時間インキュベートした。次いで、この形質転換混合物のアリコート(250μl)を、アンピシリン(100μg/ml)を含有するL−ブイヨン(LB)プレート上に塗布し、37℃で一晩インキュベートした。
【0168】
得られた4つのコロニー由来の各培養物5mlから、Qiaprep Turbo 9600ロボットシステム(Qiagen)を用いてプラスミドミニプレップ(mini-rep)DNAを調製した。プラスミドDNA(200〜500ng)を、BigDye Terminator system(Applied Biosystemsカタログ番号4336919)を用いて、メーカーの使用説明書に従って、T7プライマー(配列番号16)によるDNAシークエンシングにかけた。これら配列決定反応物をMontage SEQ 96クリーンアッププレート(Milliporeカタログ番号LSKS09624)を用いて精製し、次いでApplied Biosystems 3700 DNAシークエンサー上で分析した。
【0169】
配列の検証されたクローン(pEXPII Evasin−3−HIS)(図3D)の培養物500mlから、Qiagen Plasmid MEGA Kit(QIAGEN)を用いてメーカーの使用説明書に従ってプラスミドマキシプレップ(maxi-prep)DNAを調製した。プラスミドDNAを滅菌水(又は10mMトリスHCl、pH8.5)中に、濃度1μg/μlとなるように再懸濁し、−20℃で保存した。
【0170】
様々なサブクローニング/クローニングのステップで使用したプライマー配列は表IIIに纏めて示す。
【0171】
c.HEK293細胞において発現された組み換えEvasin−3−HISの精製
【0172】
HEK293−EBNA細胞由来の細胞培養上清450ml又は250mlを、pEAK12d−Evasin−3−HIS又はpEXPII−Evasin−3−HISの何れかによる形質転換の6日後に採取し、0.6M NaCl及び8.7%(vol/vol)グリセロールを含有する2倍量の50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)で希釈した。この試料を0.22μmメンブランフィルターを通して濾過し、次いで、Vision Workstation system(PerSeptive Biosystem)により、Ni2+イオンを充填した4mlの金属キレートアフィニティーカラムPORUS 20 MC(PerSeptive Biosystem)に、100mM Ni(II)SO4(Fluka番号72280)溶液を用いて、4℃で20ml/分でローディングした。このカラムを、0.6M NaCl、8.7%グリセロール(Fulkaカタログ番号49781)、及び20mMイミダゾール(Fulka番号56749)を含有する28カラム体積(CV)の50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)により20ml/分で洗浄することにより、非特異的に結合した物質を除去した。カラムは、0.6M NaCl、8.7%グリセロール、及び400mMイミダゾール(Fulkaカタログ番号56749)を含有する5.5CVの50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)により2.0ml/分で2.7mlの各画分中に溶出した。この溶出タンパク質のピークを、20mlのSephadex G-25カラム(Pharmacia)を用いたサイズ排除クロマトグラフィーによって脱塩し、20%グリセロール含有PBS1CVを用いて、各2.7mlの画分に溶出した。
【0173】
Evasin−3−HISを含有する画分をプールし、5lの50mM重炭酸アンモニウム(pH8.0)で16時間透析し、次いでFreeze-dryer mobile 12EL(Virtis)を用いて凍結乾燥し、100μlの滅菌水中に再懸濁させた。この濃縮プールを精製の第2ステップとしてサイズ排除クロマトグラフィーにかけた。最初に50mM重炭酸アンモニウム中で平衡化したSX200 10/300 GLカラム(カラム体積25mL、Amersham Biosciencesカタログ番号17-5175-01)に、1倍量の50mM重炭酸アンモニウムで希釈した200μlのEvasin−3を注入した。タンパク質は、2.5ml/分で各0.5mlの画分中に溶出された。これらEvasin−3−HISタンパク質を含有する画分をプールし、凍結乾燥し、等分し、−80℃で保存した。
【0174】
d.組み換えEvasin−3−HISのウェスタンブロット、SDS−PAGE架橋、及びサイズ排除クロマトグラフィー分析
【0175】
ウェスタンブロット分析については、カラム溶出液を3×試料緩衝液(20%グリセロール、10%SDS、5mM EDTA、及び100mM DTTを含有する125mMトリスHCl(pH6.8)と組み合わせたブロモフェノールブルー)で1:3に希釈し、95℃で5分間煮沸した。これら試料及びHISタグ化分子量標準(Invitrogenカタログ番号LC5606)を、MES緩衝液中10%Bis−Trisゲル流路により、200Vで35分間電気泳動した。この電気泳動タンパク質に、トランスファー緩衝液(39mMグリシン、48mMトリス塩基、及び20%メタノール(pH8.3))中で290mAの定電流をかけ、室温で1時間かけて、0.45μmニトロセルロース膜(Invitrogenカタログ番号LC2001)上へエレクトロトランスファーした。この膜を、ロッカープラットホーム上で、20mlブロッキング溶液(0.1%Tween20及び5%粉乳含有PBS)中、室温で1時間インキュベートしてブロックした。次いでこの膜を、一次抗ヒスチジンタグ抗体を含有する溶液(0.1%Tween20及び2.5%粉乳含有PBSで1:1000に希釈)15ml中で振盪しながら室温で2時間インキュベートした。使用した一次抗体はHisプローブH−15(sc-803、Santa Cruz Biotechnology)又はHisプローブG−18(sc-804、Santa Cruz Biotechnology)である。この膜を洗浄緩衝液(PBSに溶かした0.1%Tween20)で洗い流し、洗浄緩衝液を3回交換して洗浄(各10分間)した。次いでこの膜を、HRP結合二次抗体(0.1%Tween20、2.5%粉乳含有PBSで1:3000に希釈)中で振盪しながら室温で2時間インキュベートした。この膜を上述と同様にして再洗浄した。最後にこの膜をブロット乾燥し、抗体の染色をECL(商標)Western Blotting Detection Reagents kit(Amersham Pharmaciaカタログ番号RPN2106)を用いて、メーカーの使用説明書に従って可視化した。
【0176】
SDS−PAGE分析についてはカラム溶出液を、100mM DTTを含有する2×試料緩衝液(Invitrogen)で1:1に希釈し、5分間煮沸した。これら試料及び分子量標準(Invitrogen、Benchmark Protein Ladder)を、MES緩衝液中10%Bis−Trisゲル流路を用いて、200Vで35分間電気泳動した。この電気泳動後のタンパク質を、Simply Blue SafeStain(Invitrogen)を用いて、メーカーの使用説明書に従って染色し、このゲルを蒸留水で5分間、3回洗い流し、室温で1時間染色し、水で1時間洗浄した。
【0177】
架橋実験については、HEK293細胞にpEAK12d−Evasin−3−6Hisをトランスフェクトした。6時間後、培養上清50μlを96ウェルプレート(Costar)に移した。125I−CCケモカイン(125I−CCL5/RANTES、125I−CCL11/エオタキシン、CCL2/125I−MCP−1、125I−CCL17/TARC、又は125I−CCL27/CTACK)、125I−CXCケモカイン(125I−CXCL8/IL−8、125I−CXCL1/Gro−α、又は125I−CXCL10/IP−10)、或いはサイトカイン(125I−IL−1又は125I−IL−2)の何れかを加えて、最終濃度を0.23nMとし、振盪しながら室温で1時間インキュベートした。次いで、各ウェルからのアリコート25μlを、25mM BS3(架橋試薬)を5μl含有する新しいウェルに移し、振盪しながら更に1時間インキュベートし、10×試料緩衝液(10%SDS、5mM EDTA、20%グリセロール、0.2%(w/w)ブロモフェノールブルー、1M DTTを含有する125mMトリス塩基、pH6.8)5μlを加えることによって反応を失活させた。次いで試料を5分間煮沸し、10%Bis−Tris SDS−ポリアクリルアミドゲル(Invitrogen NuPAGE、カタログ番号NP0301BOX)で電気泳動した。電気泳動後、ゲルをサランラップ(商標)中に密閉し、K型ストレージホスホイメージングスクリーン(Biorad)に3〜16時間暴露した。イメージングスクリーンの走査は、Biorad Personal FX phosphoimagerを用いて、100μmの分解能で行なった。
【0178】
競合アッセイについては、500倍過剰量の非標識CXCL8/IL−8又はCXCL1/Gro−αを加えた125I−CXCL8/IL−8を用い、上記架橋実験の場合と同じプロトコルを用いた。
【0179】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、組み換えEvasin−3−6His及びCXCL8/IL−8をPBSに1mg/mlで懸濁させて行なった。Evasin−3−6Hisを100μg(100μl)のCXCL8/IL−8と1:1の比率で混合し、室温で1時間インキュベートして、複合体Evasin−3−6His−CXCL8/IL−8を形成させた。次いで200μg(200μl)のCXCL8/IL−8、200μg(200μl)の組み換えEvasin−3−6His、又は200μg(200μl)の複合体の何れかを、予め1×PBS1.5CVで平衡化したSuperdex 75 10/300 GLカラム(容積23.56ml、Invitrogen)に加えた。このカラムは、ブルーデキストラン(2000kDa)、チログロブリン(669kDa)、フェリチン(440kDa)、BSA(67kDa)、オボアルブミン(43kDa)、リボヌクレアーゼA(13.7kDa)、及びシトクロムC(13.6kDa)で予め較正した。このカラムを1×PBS1.5CVを用いて溶出し、そのピークに一致する画分を、銀染色を用いたSDS−PAGEで分析した。SDS−PAGE分析においては、100mM DTT含有4×試料緩衝液(Invitrogen)で試料を3:1に希釈し、5分間煮沸した。これら試料及び分子量標準(Invitrogen、Benchmark Protein Ladder)を、MES緩衝液中10%Bis−Trisゲル流路を用いて、200Vで35分間電気泳動した。この電気泳動にかけたタンパク質を、SilverQuest kit(Invitrogen)を用いてメーカーの使用説明書に従って染色した。このゲルを40%エタノール及び10%酢酸の溶液で固定し、30%エタノール溶液で洗浄し、30%エタノール及び10%増感剤の溶液で感度を上げ、水で2回洗浄し、1%染色剤溶液で染色し、水で洗浄し、10%顕色剤溶液で顕色させ、10%停止剤を加えて停止させた。
【0180】
結果
組み換えEvasin−3を産生するために、ORFを、3′末端に6HISタグ配列を有する状態、又は有しない状態で、Gatewayクローニングシステムを用いて、哺乳動物細胞発現ベクターpEAK12d又は昆虫細胞発現ベクター(pDEST12.2)にサブクローン化した。更に、原pEXP lib evasin−3コンストラクトを部位特異的突然変異誘発法によって突然変異させ、HEK293細胞における発現用ORFの3′末端に6HISタグ配列を導入した。組み換えEvasin−3−Hisの精製は、HEK293 EBNA細胞上清又はpEXPII−Evasin−3−6Hisトランスフェクト済HEK293 EBNA細胞上清の何れかから、Ni2+アフィニティークロマトグラフィー、続いてサイズ排除クロマトグラフィーを用いて行なった。精製タンパク質を装填したSDS−PAGEゲルのクーマシーブルー染色は、Evasin−3−6Hisが、様々な翻訳後修飾形態の混合物として発現され、精製されたことを示唆している。かかる修飾はおそらく、昆虫細胞で発現させた別のダニタンパク質について示されているように(Alarcon-Chaidez FJ.等(2003))、グリコシル化によるものと思われる。実際にこのタンパク質は、HEK293において発現された組み換えタンパク質の場合、約20〜30Kdの平均分子量を有するスメアなバンドとして現れる(図4)。
【0181】
HEK293からの種々の精製ステップにおいて組み換えEvasin−3−6Hisが存在する場合、引き続いて一次抗体としての抗ヒスチジンタグによるウェスタンブロットを行なった。精製した成熟配列のN末端を配列決定したところ、S及びT残基上でグリコシル化されている成熟タンパク質の80%のN末端が、配列LVSTIESRTSからなり、グリコシル化の存在しない成熟タンパク質の20%のN末端が、配列VSTIESRTSAからなることが確認された。
【0182】
クリイロコイタマダニ由来のダニ唾液における活性の特徴を明らかにするために、最初に用いた架橋アッセイを使用して、精製したEvasin−3−6HisのCXCケモカイン結合活性を、陽性対照(ウィルスCCケモカイン結合タンパク質vCCI)を用いて観察された活性と比較した。
【0183】
SDS−PAGE分析では、遊離の125I標識CXCケモカインCXCL8/IL−8が、8kDaのバンドとして泳動される(図4、レーン2)。架橋剤を加えた場合、放射能の一部が、組み換えEvasin−3含有試料の分子量28〜40kDaのタンパク質複合体に保持される(図4、レーン3)。タンパク質vCCIと、架橋実験用の対照として用いたタンパク質125I−CCL2/MCP−1との間に形成される複合体に対応するバンドは、約45kDaに移動する(図4、レーン1)。成熟Evasin−3ポリペプチド(アミノ酸66個)の分子量が7005Daであることを考慮すると、この組み換えタンパク質は、翻訳後修飾の生じる真核生物の宿主細胞で発現された場合に活性であるように見える。この修飾は最大20〜30kDaを占める可能性があり(図6のクーマシー染色も同様のことを示唆している)、おそらくは主に選択的グリコシル化によるものと考えられる。
【0184】
組み換えEvasin−3の選択性を、まず、125I−CXCL8/IL−8との架橋による競合アッセイで試験した。非標識CXCL8/IL−8及びCXCL1/Gro−αの何れによっても、放射線標識複合体が消滅したことから(図5、矢印により示す)、組み換えEvasin−3とCXCL1/Gro−αとの結合が確認された。試験されたその他のケモカインは何れも、放射線標識複合体の消滅を生じなかった(図5)。
【0185】
精製された組み換えEvasin−1を使用して、様々な125I−CCケモカイン、CXCケモカイン、及びサイトカインを用いた架橋アッセイによって、更に選択性の検証を行なった(図7)。上述の架橋については、その複合体に一致する28〜40kDaの間のバンド(矢印で示す)は、125I−CXCL8/IL−8を加えると可視化される(図7、レーン7)。また、サイズが同一で強度がより低いバンド(矢印の移動で示す)も、125I−CXCL1/Gro−αと架橋させると可視化されることから、組み換えEvasin−3がこのCXCケモカインとも複合体を形成し得ることが分かる(図7、レーン2)。試験した他の125I−タンパク質の場合、ゲルで可視化された複合体形成は存在しなかった。更に、125I−MCP−1と一緒にインキュベートしたvCCIを陽性対照として使用した(図7、レーン1、矢印で示す)。
【0186】
従って、Evasin−3はCXCケモカイン結合特性を有し、それによりケモカインの作用を阻害する、新規なタンパク質であると結論することができる。
【0187】
実施例3:大腸菌(Escherichia coli)で発現させたEvasin−3の精製及び確認
【0188】
材料及び方法
a.Evasin−3 cDNAの発現ベクターpET30aへのサブクローン化
【0189】
クローニング過程の第1段階はPCR反応を伴う。これは、開始メチオニン及びNdel制限部位が5′末端に隣接し、2つの停止コドン(TAA TAA)及びXhol制限部位が3′末端に隣接する、シグナルペプチド非含有Evasin−3のORFを生成するものである(図8)。このPCR反応物(最終体積50μlの)は、1μl(100ng)のプラスミドpEXP−Lib−Evasin−3、3.0μlのdNTPs(5mM)、10μlの10×Pfxポリメラーゼ緩衝液、1μlのMgSO4(50mM)、それぞれ1.5μlの遺伝子特異的プライマー(10μM)(5′Ndel−eva3 ecoli(配列番号21)、3′Xhol−eva3 ecoli(配列番号22))(表IV)、及び0.5μlのPlatinum Pfx DNAポリメラーゼ(Invitrogen)を含有する。PCR反応では、95℃で4分間の初回変性ステップを行なった後、94℃で30秒、55℃で30秒、及び68℃で1分のサイクルを30回行ない、更に4℃の保持サイクルを行なった。得られたPCR産物を、1×TAE緩衝液(Invitrogen)中1.5%アガロースゲル上で可視化し、予想分子質量(321bp)まで泳動したバンドをWizard PCR Preps DNA Purification System(Promega)を用いてゲルから精製し、メーカーの使用説明書に従って50μlの滅菌水中で溶出した。
【0190】
クローニング過程の第2段階は、制限酵素Ndel及びXholを用いた修飾PCR産物の消化、続いてpET30aベクターへの連結反応を伴う。PCRからの精製産物5μlを、1.0μlのNdel(50’000u/ml、BioLabs)、1μlのXhol(50’000u/ml、BioLabs)、6μlの100×NED2緩衝液(BioLab)、及び0.6μlの100×BSA(BioLab)と混合し、最終体積60μlとして、37℃で16時間インキュベートした。この反応混合物を、1×TAE緩衝液(Invitrogen)中1.5%アガロースゲル流路を用いて可視化し、予想分子質量(320bp)まで泳動したバンドをWizard PCR Preps DNA Purification System(Promega)を用いてゲルから精製し、メーカーの使用説明書に従って50μlの滅菌水中で溶出した。この精製済み挿入断片を、予め脱リン酸化し、Ndel及びXhol制限酵素で消化したベクターpET30a中に次の通り結合させた。即ち15μlの消化由来の精製済み産物を3μlのpET30aベクター(150ng)、1μlのT4リガーゼT4(400’000u/ml、BioLabs)、及び2.2μlのT4緩衝液10×(BioLabs)と混合して最終体積22μlとし、室温で4時間インキュベートした。
【0191】
この反応物のアリコート(1μl)を用いて大腸菌DH10B細胞を電気穿孔により次の通り形質転換した。即ちDH10Bエレクトロコンピテント細胞(Invitrogen)の25μlアリコートを氷上で解凍し、BP反応混合物1μlを加えた。この混合物を冷却した0.1cm電気穿孔キュベットに移し、細胞をBioRad Gene-Pulser(商標)を用いてメーカーのプロトコルに従って電気穿孔した。電気穿孔後直ちに、予め室温まで温めたSOC培地(0.5ml)を加えた。この混合物を15mlスナップキャップ管に移し、振盪(220rpm)しながら37℃で1時間インキュベートした。次いでこの形質転換混合物のアリコート(10μl及び50μl)を、カナマイシン(40μg/ml)を含有するL−ブイヨン(LB)プレート上に塗布し、37℃で一晩インキュベートした。
【0192】
得られた6つのコロニー由来の培養物5mlからQiaprep Turbo 9600ロボットシステム(Qiagen)を用いてプラスミドミニプレップ(mini-rep)DNAを調製した。プラスミドDNA(150〜200ng)を、BigDye Terminator system(Applied Biosystemsカタログ番号4336919)を用いてメーカーの使用説明書に従ってT7(配列番号23)プライマー及びpRSET−R(配列番号24)プライマー(表IV)によるDNAシークエンシングにかけた。これら配列決定反応物をMontage SEQ 96クリーンアッププレート(Milliporeカタログ番号LSKS09624)を用いて精製し、次いでApplied Biosystems 3700シークエンサー上で分析した。
【0193】
次いで、適切な配列(pET30a−Evasin−3)を含有する1つのクローンに由来するプラスミドDNA(1μl又は100ng)を用いて、以下の手順に従い、大腸菌BL21D3細胞を熱ショックにより形質転換した。即ち、BL21DE3細胞(Novagen)の20μ1アリコートを氷上で解凍して1.5mlエッペンドルフ管に入れ、プラスミド1μlを加え、混合物を氷上で5分間インキュベートした。次いでこの細胞に42℃の水浴中で30秒間熱ショックを与え、氷上で2分間放置した。室温のSOC培地80μlを加えた後、細胞を振盪しながら37℃で1時間インキュベートし、次いでこの形質転換混合物のアリコート(20μl及び80μl)を、カナマイシン(40μg/ml)を含有するL−ブイヨン(LB)プレート上に塗布し、37℃で一晩インキュベートした。1つのカナマイシン耐性コロニーをEvasin−3の発現用に選択した。形質転換E. coli株におけるタンパク質発現の検証は、単一のカナマイシン耐性コロニーを、50mlのLB(Luria-Bertani)ブイヨン及び40μg/mlのカナマイシンの入ったエルレンマイヤーフラスコに接種して行なった。培養物のO.D.が0.6単位に達した時、0.5mM IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトシド)を加え、更に3時間インキュベートした。次いで、IPTG誘発後に最良の発現レベルが得られたクローンを用いて培養物100mlを作製し、次いでこれを、炭素供給源であるグリセロール、窒素供給源である硫酸アンモニウム、酵母抽出液、リン酸塩、塩類、オリゴエレメント、消泡剤、及び40μg/lのカナマイシンを含有するpH7の培地を含んでなる5リットル発酵槽に接種し、37℃で発酵させた。空気流量を2.5l/分で一定とし、O2流量を0〜5l/分の間で変動させ、撹拌速度を1000〜1200rpmとし、CO2を30%に維持した。OD20〜30において、1mM IPTGによりタンパク質発現を誘発した。誘発3時間後に細胞を30〜40のODで採取した。得られた湿潤細胞重量は200〜300gであり、これは乾燥細胞重量10〜20g/lに相当した。
【0194】
b.大腸菌で発現された組み換えEvasin−3の精製
【0195】
大腸菌のペレット(250g)をIPTGによる誘発後3時間で5リットル発酵槽から採取した。このペレットを1.25lの細胞切断緩衝液(2mM MgCl2、EDTA非含有コンプリートカクテルプロテアーゼ阻害剤(1錠/緩衝液50ml、Roche)、及び20mg/lのDNアーゼを含有する50mMトリスHCl、pH8.5)中に懸濁させた。細胞をFrench Press(Constant Cell Distribution System)に1.7kPaで1回通過させて破壊し、その溶液を27’500×g(13’000rpm)で2時間遠心分離した。
【0196】
この可溶性細胞質画分のpHを、酢酸によってpH4.5に調整し、100’000×g(35’000rpm)で1時間遠心分離した。0.22μmメンブランフィルターを通して濾過した後、その上清中のタンパク質を定量した。定量には、標準としてアルブミンを用いたクマシープラス・タンパク質アッセイ試薬(Coomassie Plus Protein Assay Reagent:PIERCE)による比色アッセイと、VERSAmax マイクロプレートリーダー(Molecular Devices)を用いた780nmでのOD測定とによって定量した。この上清を、Akta purifier system(Amersham Biosciences)を用いて、予め50mM CH3COONa(pH4.5)で平衡化したFractogel SO3-のカチオン交換カラム(Amersham)に、4℃で3.5ml/分でローディングした。このカラムを5カラム体積(CV)の50mM CH3COONa(pH4.5)により5ml/分で洗浄し、非特異的に結合した物質を除去した。17.5カラム体積(CV)の同じ緩衝液を用い、0〜0.7M NaClの直線的濃度勾配によって、タンパク質を各5mlの画分中に溶出した。
【0197】
Evasin−3を含有する画分をプールし、3.5kDaのカットオフを有する遠心濾過装置(Amicon、Millipore)を用いて10倍に濃縮した。この濃縮したプールを、精製の第2ステップとしてサイズ排除クロマトグラフィーにかけた。2mlの濃縮Evasin−3溶液を、予めPBS(リン酸緩衝塩類液)中で平衡化したSX75 16/60カラム(カラム体積120ml、Amersham Biosciences)上へローディングした。このタンパク質は2ml/分で2mlの各画分中に溶出した。Evasin−3を含有する画分をプールし、等分し、−80℃で保存した。
【0198】
d.組み換えEvasin−3のSDS−PAGE及び架橋分析
【0199】
このカラム溶出液を、100mM DTTを含有する2×試料緩衝液(Invitrogen)で1:1に希釈し、5分間煮沸した。この試料を分子量標準(Invitrogen、Benchmark Protein Ladder)とともに、MES緩衝液中10%Bis−Trisゲル流路を用いて、200Vで35分間電気泳動した。この電気泳動後のタンパク質を、Simply Blue SafeStain(Invitrogen)を用いて、メーカーの使用説明書に従って染色した。即ちゲルを蒸留水で3回、5分間洗い流し、室温で1時間染色し、水で1時間洗浄した。
【0200】
結果
Evasin−3をコード化するORFを、大腸菌での高レベル産生を可能にする発現ベクターにサブクローン化した。
【0201】
Evasin−3の完全長cDNAを含有するプラスミド(pEXP−Lib Evasin−3)をPCRの鋳型として用ることにより、Evasin−3の成熟タンパク質コード配列(予想シグナルペプチド配列除去後)からなるとともに、N末端に開始メチオニンを保持するEvasin−3 ORFを作製した。Met−Evasin−3のORF(配列番号25)は、アミノ酸67個の配列(配列番号26)をコード化する。ベクターpET30a−Evasin−3を図9に示す。
【0202】
組み換えEvasin−3は大腸菌から精製した。様々な精製ステップ時に組み換えEvasin−3が存在する場合、その後にSimply Blue SafeStainで染色したゲルを用いたSDS−PAGEを行なった。Evasin−3は、SDS−PAGE後のクーマシー染色で確認されたように、分子質量7kDaまで泳動した(図10)。
【0203】
SDS−PAGE分析では、125I標識CXCケモカインCXCL8/IL−8が8kDaのバンドとして移動する。架橋剤BS3を加えた場合、放射能の一部は、14kDaに泳動したタンパク質複合体中に検出されるが、これは組み換えEvasin−3とIL−8との間に形成される複合体によるものである(図11)。
【0204】
大腸菌中で産生される組み換えタンパク質は一般にグリコシル化されないので、Evasin−3の翻訳後グリコシル化は、IL−8との結合にとって必須ではないと考えられる。
【0205】
MALDI−TOFによる質量分析による組み換えタンパク質の分析の結果、質量は7,131.42Daであることが分かった。これは開始メチオニンを含んでなる組み換えタンパク質の予想質量に一致する。その活性は、開始メチオニンの存在によって影響をイ受けないように思われる。
【0206】
実施例4.CXCケモカインに及ぼす組み換えEvasin−3−6His及びEvasin−3の阻害活性の特性決定
【0207】
材料及び方法
受容体結合アッセイ
【0208】
平衡競合受容体結合アッセイ(equilibrium competition receptor binding assay)を用いて、ケモカイン/ケモカイン受容体相互作用に対するEvasin−3の阻害特性を求めた。結合実験は、ヒトIL−8受容体CXCR1(CHO/CXCR1)を安定的に発現するCHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞)を用いて行なった。細胞を、10%FCS(ウシ胎児血清、TerraCellカタログ番号CS-C08-1000-A)、2mM L−グルタミン(Invitrogenカタログ番号25030-024)、0.6mg/mlのジェネテシン(Geneticin:Invitrogenカタログ番号11811-031)、及び1%ペニシリン−ストレプトマイシン(Invitrogenカタログ番号15140-148)を補充したD−MEM F12培地(ダルベッコ変法イーグル培地、Invitrogenカタログ番号41965039)中で維持した。この細胞を230×gで5分間遠心分離して採取し、1mM CaCl2、5mM MgCl2、及び0.5%BSAを含有する50mMトリス/HCl(pH7.5)緩衝液に、4×106細胞/mlの細胞密度で再懸濁させた。HEK293又は大腸菌細胞からそれぞれ精製した組み換えEvasin−3−6His又はEvasin−3を、同一培地中に0.01mg/mlで懸濁させ、MultiScreen HTS 96ウェル濾過システム(Millipore)中で11回の4倍連続希釈液を調製した。CHO/CXCR1細胞(1×105細胞)、0.1nM[125I]IL−8(Amershamカタログ番号IM249)、及び組み換えEvasin−3−6His又はEvasin−3の連続希釈液25μlをプレートの各ウェル内に入れて最終体積100μlとし、組み換えタンパク質の最終濃度を350μMから0.08pMの範囲とした。次いで、この混合物を振盪しながら室温で4時間インキュベートした。次いで、この細胞を、1mM CaCl2、5mM MgCl2、0.5%BSA、及び2M NaClを含有する50mMトリス/HCl(pH7.5)緩衝液で3回洗浄した。シンチレーション液(50μl)(PerkinElmer)を各ウェルに加え、放射能をβ−シンチレーション計数管(Wallac)を用いて測定した。結果及び図12を参照されたい。
【0209】
b.CXCケモカインに誘発される化学走性
【0210】
化学走性実験は、University of Geneva Hospitalから得たヒト血液から精製した好中球を用いて行なった。ヒト好中球は天然でCXCR1及びCXCR2を発現する。ヒト好中球を実験の当日、次の通り精製した。即ち、ヒト軟膜由来の血液を滅菌したPBSで2×希釈し、50mlを円錐形ポリプロピレンチューブに入れた。デキストラン500(Amersham Biosciencesカタログ番号17-0320-02)をこの血液に加え(3ml/血液20ml)、赤血球を室温で1時間沈降させた。上清を新鮮なチューブ中にデカントし、230×gで5分間遠心分離した。細胞ペレットを、2%FCSを補充したRPMI1640培地(Invitrogenカタログ番号31870-025)10mlに懸濁させた。この細胞溶液上にFicoll-Plaque(10ml)を慎重に積層し、345×gで4℃で30分間遠心分離機(制動なし)にかけた。この細胞ペレットをRPMI培地で1回洗浄し、10mlの0.2%NaClを加えて20秒間の低張性ショックをかけ、残存する赤血球を破壊した。10mlの1.6%NaCl溶液を加え、迅速に等張性を回復させた。この懸濁液を230×gで5分間遠心分離し、慎重に上清を廃棄し、細胞ペレットを培地で2回洗浄した。この精製好中球を、化学走性培地(2%FCS補充、フェノールレッド指示薬非含有RPMI1640培地(Invitrogenカタログ番号32404-014)に、2×106細胞/mlの濃度で懸濁させた。
【0211】
Evasin−3−6Hisを、化学走性培地中に1.25×10-2mg/mlで懸濁させ、1nM CXCL8/IL−8又はCXCL1/Gro−αを含有する培地を用いて11回の3倍連続希釈液を調製した。この連続希釈したケモカイン溶液又はケモカイン−Evasin−3−6His溶液のアリコート(32μl)を化学走性槽の下側の室に三重に加え、この下側の室の上部に8μm孔径フィルターユニット(Neuroprobe ChemoTx Systemカタログ番号101-8)を慎重に置いた。好中球細胞懸濁液(20μl)を化学走性槽の上側の室(フィルターユニット)に加え、このアッセンブリーを給湿型5%CO2インキュベーター中で37℃で2時間インキュベートした。
【0212】
次いで2時間後、化学走性槽の蓋を慎重に取り除き廃棄した。96ウェル漏斗板(Neuroprobe ChemoTx Systemカタログ番号FP1)を化学走性槽の下側室の上部に上下逆にして載置した。次いで、ブラックマトリックスプレート(black-matrix plate)(Vitarisカタログ番号3915)をこの漏斗板の上部に上下逆にして載置し、この化学走性槽/漏斗板/ブラックマトリックスプレートのアッセンブリーを上下逆にした。次いで、化学走性槽の下側室内の培地を、700×gで2分間の遠心分離によってブラックマトリックスプレートに移した。移動した細胞を含有するブラックマトリックスプレートを密封し、−80℃で2時間冷凍保存した。化学走性槽の下側室に移動した細胞の数を、CyQUANT細胞増殖アッセイキット(Molecular Probesカタログ番号C7026)を用いて次の通り直接測定した。即ち、ブラックプレートを解凍し、細胞を迅速且つ完全に、このキットで準備されている染料を含有する細胞溶解緩衝液200μl中に、メーカーの使用説明書に従って懸濁させた。蛍光の測定は、Wallac Victorプレート読取装置を用いて、480nm/520nmの励起/発光波長で行なった。結果及び図13を参照されたい。
【0213】
c.表面プラズモン共鳴(SPR)による結合分析
【0214】
表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて、Evasin−3−6His又はEvasin−3によるCXCケモカイン結合の親和力及び反応速度を直接測定した。Evasin−3−6His又はEvasin−3を、それぞれpH4.5又はpH4の10mM酢酸ナトリウム緩衝液(Biacore)中に20μg/mlとなるように懸濁させ、Biacore Amine coupling kit(Biacore)による標準的なアミン結合化学によって、Biacore3000 systemを用いてCM4チップ(Biacore)上に直接固定化し、200〜300応答単位(RU)のレベルとした。付加的なタンパク質を全く含まない化学結合を有する対照としてブランク細胞を調製した。実験は、HBS−Pランニングバッファー(running buffer)(0.01M HEPES(pH7.4)、0.15M NaCl、及び0.005%界面活性剤P20)(Biacore)を用いて、25℃、30μl/分で行なった。全ての結合実験について、ケモカインはランニングバッファー中に0.5μg/mlで懸濁させ、0.22μmフィルターを通して濾過した。3分間の注入時間、続いて注入後2.5分間の解離時間がある。このチップを50mMグリシン緩衝液(pH2)を用いて30秒間再生させた。各実験についてケモカインは、ランダムな順序で三重に注入された。反応速度実験についてはランニングバッファーに溶かした0.1μg/mlから6ng/mlまでのCXCL1/Gro−α、CXCL8/IL−8、ネズミCXCL1/KC、及びネズミCXCL2/MIP−2の6種類の希釈液を調製し、0.22μmフィルターを通して濾過し、実験及びブランクのフロー細胞を覆って注入した。3分間の注入時間、その後に15分間の解離時間が続く。このチップを50mMグリシン(pH2)緩衝液を用いて30秒間再生させた。更に各ケモカイン希釈液をランダムな順序で三重に注入した。この分析の場合、ランニングバッファーのみで得られたセンソグラムの外にブランク細胞由来のセンソグラムを結合から減じて系のノイズを除去した。反応速度については、結合(Ka)及び解離(Kb)の値は、ラングミュア・フィッティングモデルに従ってセンソグラムをケモカイン濃度の全範囲に対して全体的に当てはめることによって同時に求めた。見掛けの平衡解離定数(Kd)は、等式Kd=Kb/Kaによる平均反応速度値から求めた。結果及び図14、15、及び16を参照されたい。
【0215】
d.インビボでのケモカインが介在する好中球の動員の阻害
【0216】
C57B16マウスの右膝関節への30ngのKC(ネズミCXCL1)投与の45分前に、マウスにEvasin−3又はビヒクル(塩類液)を0.01から100μg/マウスの範囲の用量で皮下(s.c.)に与えた。4時間後にマウスを屠殺し、浸潤白血球の総数(好中球がこれら細胞の95%超を構成する)をNeubauerチャンバー上で数えた。それらの分画は染色したサイトスピンスライド上で行なった。各実験群の動物は3〜4頭とした。結果及び図17を参照されたい。
【0217】
結果
Evasin−3−6His及びEvasin−3のCXCケモカイン結合特性を、受容体結合アッセイ、CXCケモカイン誘発細胞移動アッセイ、及び表面プラズモン共鳴法により検討した。
【0218】
受容体結合アッセイは、6Hisタグを付けたタンパク質としての哺乳動物細胞(HEK293細胞)中又は原核生物発現系(大腸菌)中の何れかにおいて発現させたEvasin−3が、ヨウ素化IL−8とその受容体CXCR1との結合を、それぞれ1及び20nMのIC50値で阻害し得ることを実証した(図12)。
【0219】
Evasin−3(HEK細胞中で産生したEvasin−3−6His)もまた、IL−8及びGro−αに誘発される好中球化学走性を、それぞれ16及び20nMのIC50値で阻害することができた(図13)。
【0220】
SPR分析は、哺乳動物細胞中又はE.coli中で産生したEvasin−3が、CXCL8/IL−8、CXCL1/Gro−α、ネズミCXCL1/KC、及びネズミCXCL2/MIP−2の結合に対して高度に選択的であることを示した。組み換えタンパク質は何れも、その他の試験されたケモカイン、CCL5/RANTES、CX3CL1/フラクタルカイン、CCL11/エオタキシン、CCL3/MIP−1−α、CCL4/MIP−1−β、CCL18/PARC、CCL2/MCP−1、及びCXCL12/SDF−1−αと結合することができなかった(図14)。Evasin−3−6His及びEvasin−3に対するSPRによって求められた親和力(Kd)及び反応速度パラメーター(図15及び16)を表Vに示す。
【0221】
Evasin−1の阻害活性は更に、0.01〜100μg/マウスの用量のネズミ好中球化学誘引物質KCの投与により、好中球動員の阻害能力が誘発されることによって実証された(図17)。
【0222】
従って、Evasin−3は、好中球動員を標的とし得る新規なCXCケモカイン結合タンパク質であると結論付けることができる。このタンパク質は、ダニ媒介性感染物質を含むダニ寄生作用に関連する医学的及び獣医学的適応症の問題のみならず、抗炎症化合物としてヒトの薬剤に有効に利用できる可能性がある。本発明のタンパク質に基づく分子であって、かかるタンパク質の機能と干渉する分子は、ダニの生活環を中断し、外寄生虫やその病原体を抑制し、或いはダニの疾患原因生物伝播能力を低下させる可能性がある。
【0223】
【表1】
【0224】
【表2】
【0225】
【表3】
【0226】
【表4】
【0227】
【表5】
【0228】
参考文献
【表6】
【0229】
【表7】
【図面の簡単な説明】
【0230】
【図1】Evasin−3 cDNA配列のヌクレオチド配列、及びオープンリーディングフレーム(ORF)の翻訳。SIGNALPアルゴリズムによって予測されるシグナル配列(残基1〜26番)は下線で示す。予測されるポリアデニル化部位は囲み線で示す。成熟タンパク質中に存在するシステイン残基は強調して示す。予測されるN型グリコシル化部位は太字で示す。
【図2】連続2周回のPCRにより生成した5′及び3′フランキングattB部位を有するGateway適合Evasin−3 cDNAのヌクレオチド配列及び翻訳。矢印は関連PCRプライマー(プライマー配列は表IIIに示す)の位置及び方向を示す。開始及び停止コドンは太字で示す。予測されるシグナル配列は下線で示す。
【図3】(A)pDONR221 Evasin−3−6HIS Gatewayエントリーベクターのマップ。(B)TN5(昆虫)細胞における発現用のpDEST8 Evasin−3−6HIS Gateway発現ベクターのマップ。(C)ヒト胎児腎臓細胞HEK293/EBNA細胞における発現用のpEAK12d Evasin−3−6HIS Gateway発現ベクターのマップ。(D)HEK293/EBNA細胞における発現用のpEXPII Evasin−3−6HIS発現ベクターのマップ。
【図4】組み換えEvasin−3をトランスフェクトされたHEK293細胞由来の上清と、125I標識CXCケモカインCXCL8(IL−8)とのクロスリンカーBS3を用いた架橋により形成される複合体を示すSDS−PAGEゲルのオートラジオグラフ。レーン1では、ウィルスCCケモカイン結合タンパク質(p35)が、陽性対照である125I標識エオタキシンと架橋されている。レーン2では、ウィルスCCケモカイン結合タンパク質(p35)が、BS3の非存在下で125I−エオタキシンと共インキュベートされている。レーンで3は、プール69.19由来のHEK293細胞培養物の上清が、125I−CXCL8/IL−8及びBS3と共インキュベートされている。
【図5】125I−CXCL8/IL−8との複合体形成における、未標識CXCL8/IL−8とCXCL1/Gro−αとの競合を示す、SDS−PAGEゲルのオートラジオグラフ。未標識タンパク質を架橋剤(BS3)の存在下、放射能標識CXCケモカイン(125I−CXCL8/IL−8)に加えた。分子量基準(M)(単位Kd)をゲルの左側に示す。レーン1は、125I−CXCL8/IL−8と架橋した組み換えEvasin−3を発現するHEK293細胞上清、レーン2〜11は、1μgの未標識CCL3/MIP−1α(レーン2)、CXCL8/IL−8(レーン3)、CXCL1/Gro−α(レーン4)、CXCL4/PF4(レーン5)、CXCL7/NAP−2(レーン6)、CXCL9/Mig(レーン7)、CXCL10/IP−10(レーン8)、CXCL11/I−TAC(レーン9)、CXCL12/SDF−1α(レーン10)、又はCXCL13/BCA−1(レーン11)の存在下で、125I−CXCL8/IL−8と架橋した組み換えEvasin−3を発現するHEK293細胞上清。
【図6】Ni2+アフィニティークロマトグラフィーを用いてHEK293細胞から精製したEvasin−3−HISを示す、クーマシーブルー染色10%SDS−ポリアクリルアミドゲル(SDS−PAGE)。レーン1は分子量マーカー、レーン2はNi2+アフィニティーカラムから溶離した後の組み換えEvasin−3−6HISプール。
【図7】125I標識ケモカインを、精製した組み換えEvasin−3−6Hisと架橋させて形成した複合体を示すSDS−PAGEゲルのオートラジオグラフ。レーン1は、MCP−1と架橋した40ngのウィルスCCケモカイン結合タンパク質(p35)(陽性対照)、レーン2〜11は、Gro−α/CXCL1(レーン2)、エオタキシン/CCL11(レーン3)、RANTES/CCL5(レーン4)、TARC/CCL17(レーン5)、MCP−1/CCL2(レーン6)、IL−8/CXCL8(レーン7)、IP−10/CXCL10(レーン8)、CTACK/CCL27(レーン9)、IL−2(レーン10)、IL−1α(レーン11)と架橋した10ngのEvasin−3−6His。Evasin−3−6HIS複合体は矢印で示す。
【図8】PCRによって生成したプライマー5′Ndel及び3′Xhol制限部位を含有するEvasin−3 cDNAのアラインメント。矢印は関連PCRプライマーの位置及び方向を示す(表IVに要約する)。開始コドンは太字体、停止コドンはイタリック体で示す。
【図9】大腸菌(Escherichia Coli)での発現に用いられるpET30a−Evasin−3ベクターのマップ。
【図10】E. coliから精製したEvasin−3を示すクーマシーブルー染色SDS−PAGEゲル。分子量基準を左側に示す(MR)。
【図11】HEK293で発現された組み換えEvasin−3−6His又はE. coliにおいて発現されたEvasin−3と、125I標識CXCケモカインCXCL8/IL−8とを架橋させて形成された複合体を示す、SDS−PAGEゲルのオートラジオグラフ。分子量基準(Kd)を左側に示し(Mk)、複合体及びヨウ素化CXCL8/IL−8を矢印で示す。
【図12】(A)HEK293細胞から精製された組み換えEvasin−3−6Hisによる、125I−IL−8のCXCR1に対する結合の阻害(IC50値は1nM)。(B)E. coli中に産生された組み換えEvasin−3による、125I−IL−8のCXCR1に対する結合の阻害(IC50値は20nM)。
【図13】IL−8(A)及びGro−α(B)により誘導されるヒト好中球の化学走性に対するEvasin−3−6Hisの阻害効果。Y軸上の任意単位は、遊走した細胞の数に比例する。IC50値は、IL−8については16nM、Gro−αについては20nMである。
【図14】CM4チップ上に固定化された(A)Evasin−3−6His又は(B)Evasin−3に結合するCXCケモカインのSPR分析。CXCL8/IL−8(黒色)、Gro−α/CXCL1(灰色)、ネズミCXCL1/KC(点線)、及びネズミCXCL2/MIP−2(淡い灰色)は陽性結合を示したのに対し、その他の試験されたケモカイン、即ちCCL5/RANTES、CX3CL1/フラクタルカイン、CCL11/エオタキシン、CCL3/MIP−1−α、CCL4/MIP−1−β、CCL18/PARC、CCL2/MCP−1、及びCXC12/SDF−1−αは陰性結合であった。
【図15A−C】Evasin−3−6Hisに結合するCXCケモカインのSPR反応速度分析。典型的な滴定実験を、ケモカイン(A)CXCL8/IL−8、(B)Gro−α/CXCL1、及び(C)ネズミCXCL1/KCについて示す。ラングミュア・フィッティングモデルを用いて実験曲線を大域フィッティングし、表2に示す反応速度パラメーターを決定した。
【図15D】Evasin−3−6Hisに結合するCXCケモカインのSPR反応速度分析。典型的な滴定実験を、ケモカイン(D)ネズミCXCL2/MIP−2について示す。ラングミュア・フィッティングモデルを用いて実験曲線を大域フィッティングし、表2に示す反応速度パラメーターを決定した。
【図16A−C】Evasin−3に結合する(A)CXCL8/IL−8、(B)Gro−α/CXCL1、及び(C)ネズミCXCL1/KCのSPR反応速度分析。ラングミュア・フィッティングモデルを用いて実験曲線を大域フィッティングし、表2に示す反応速度パラメーターを決定する。
【図16D】Evasin−3に結合する(D)ネズミCXCL2/MIP−2のSPR反応速度分析。ラングミュア・フィッティングモデルを用いて実験曲線を大域フィッティングし、表2に示す反応速度パラメーターを決定する。
【図17】好中球動員の阻害。KC投与の45分前にEvasin−1をマウスの膝関節に投与した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号5)を含んでなるタンパク質と、
b)成熟Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号6)又は成熟Met−Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号26)を含んでなるタンパク質と、
c)Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号17)を含んでなるタンパク質と、
d)成熟Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号18)を含んでなるタンパク質と、
e)a)、b)、c)、又はd)のタンパク質をコード化する核酸配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸分子によりコード化されるタンパク質であって、前記核酸分子がCXCケモカインに結合するタンパク質をコード化する、タンパク質と、
f)アミノ酸配列がa)、b)、c)、又はd)のタンパク質と少なくとも約70%同一であり、且つCXCケモカインに結合するタンパク質と、
g)a)、b)、c)、d)、e)、又はf)のタンパク質のフラグメントを含んでなるタンパク質であって、そのフラグメントがCXCケモカインに結合する、タンパク質と、
h)a)、b)、c)、d)、e)、又はf)のタンパク質のフラグメントを含んでなるタンパク質であって、そのフラグメント又はタンパク質が免疫調節活性を有する、タンパク質と
からなる群より選択されるポリペプチド。
【請求項2】
a)Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号5)を有するタンパク質と、
b)成熟Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号6)又は成熟Met−Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号26)を有するタンパク質と、
c)Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号17)を有するタンパク質と、
d)成熟Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号18)を有するタンパク質と、
e)a)、b)、c)、又はd)のタンパク質のフラグメントを含んでなるタンパク質であって、そのフラグメントがCXCケモカインに結合する、タンパク質と、
f)a)、b)、c)、又はd)のタンパク質のフラグメントを含んでなるタンパク質であって、そのフラグメントが免疫調節活性を有する、タンパク質と
からなる群より選択される、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項3】
請求項1記載のタンパク質の活性突然変異体であって、その突然変異体において1又は複数個のアミノ酸残基が付加、欠失、又は置換されており、且つその突然変異体がCXCケモカインに結合する、活性突然変異体。
【請求項4】
前記突然変異体が、
a)配列番号5によるEvasin−3の残基48、52、59、63、65、76番に相当する位置におけるシステイン残基と、
配列番号5によるEvasin−3のアスパラギン51及び82番に相当する位置におけるグリコシル化部位と
を含有することを特徴とする、請求項3に記載のタンパク質の活性突然変異体。
【請求項5】
哺乳動物に投与された場合、前記アミノ酸の付加物、欠失物、又は置換物が前記ポリペプチドの免疫原性を低下させる、請求項3又は請求項4に記載のタンパク質の活性突然変異体。
【請求項6】
膜結合タンパク質の細胞外ドメイン、免疫グロブリン定常部、多量体化ドメイン、ヘテロ二量体タンパク質ホルモン、シグナルペプチド、搬出シグナル、及びタグ配列の中から選択される1又は複数個のアミノ酸配列と作動式に連結した、請求項1から5の何れか一項に記載のタンパク質を含んでなる融合タンパク質。
【請求項7】
前記ポリペプチドが翻訳後に修飾されることを特徴とする、請求項1から6の何れか一項に記載のタンパク質。
【請求項8】
前記タンパク質がグリコシル化されることを特徴とする、請求項7記載のタンパク質。
【請求項9】
前記タンパク質が、活性フラクション、前駆体、塩、誘導体、抱合体、複合体の形態であるか、又はPEG化されることを特徴とする、請求項1から8の何れか一項に記載のタンパク質。
【請求項10】
請求項1から8の何れか一項に記載のポリペプチドをコード化する核酸分子。
【請求項11】
a)Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号5)を含んでなるタンパク質をコード化する核酸分子と、
b)成熟Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号6)又は成熟Met−Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号26)を含んでなるタンパク質をコード化する核酸分子と、
c)Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号17)を含んでなるタンパク質をコード化する核酸分子と、
d)成熟Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号18)を含んでなるタンパク質をコード化する核酸分子と、
e)ストリンジェントな条件下でa)、b)、c)、又はd)の核酸分子とハイブリダイズする能力があり、且つCXCケモカインに結合するタンパク質をコード化する核酸分子と、
f)アミノ酸配列がa)、b)、c)、又はd)のタンパク質と少なくとも約70%同一であり、且つCXCケモカインに結合するタンパク質をコード化する核酸分子と、
g)a)、b)、c)、d)、e)、又はf)の核酸分子によってコード化されるタンパク質のフラグメントを含んでなるタンパク質をコード化する核酸分子であって、そのフラグメントがCXCケモカインに結合する、核酸分子と、
h)a)、b)、c)、d)、e)、f)、又はg)の核酸分子の縮退変種と
からなる群より選択される、請求項10記載の核酸分子。
【請求項12】
前記核酸分子が、
a)Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号5)を有するタンパク質と、
b)成熟Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号6)又は成熟Met−Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号26)を有するタンパク質と、
c)Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号17)を有するタンパク質と、
d)成熟Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号18)を有するタンパク質と、
e)a)、b)、c)、又はd)のタンパク質のフラグメントを含んでなるタンパク質であって、そのフラグメントがCXCケモカインに結合する、タンパク質と、
f)a)、b)、c)、又はd)のタンパク質のフラグメントを含んでなるタンパク質であって、そのフラグメントが免疫調節活性を有する、タンパク質と、
g)a)、b)、c)、又はd)のタンパク質の活性突然変異体であって、その突然変異体において1又は複数個のアミノ酸残基が付加、欠失、又は置換されており、且つその突然変異体がCXCケモカインに結合する、活性突然変異体と、
h)膜結合タンパク質の細胞外ドメイン、免疫グロブリン定常部、多量体化ドメイン、ヘテロ二量体タンパク質ホルモン、シグナルペプチド、搬出シグナル、及びタグ配列の中から選択される1又は複数個のアミノ酸配列と作動式に連結した、a)、b)、c)、d)、e)、f)、又はg)のタンパク質を含んでなる融合タンパク質と
からなる群より選択されるタンパク質をコード化する、請求項11記載の核酸分子。
【請求項13】
前記CXCケモカインがCXCL8/IL−8であることを特徴とする、請求項10から12の何れか一項に記載の核酸分子。
【請求項14】
前記分子がDNA分子、特にcDNA分子である、請求項10から13の何れか一項に記載の核酸分子。
【請求項15】
前記分子が、配列番号3又は15のDNA配列を含んでなるか、或いは配列番号3又は15のDNA配列である、請求項10記載の核酸分子。
【請求項16】
前記分子が、配列番号4又は25のDNA配列を含んでなるか、或いは配列番号4又は25のDNA配列である、請求項10記載の核酸分子。
【請求項17】
長さが少なくとも約20ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド、長さが少なくとも約30ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド、及び長さが少なくとも約50ヌクレオチドのオリゴヌクレオチドからなる群より選択される、請求項11又は請求項12に記載の核酸のフラグメントを含んでなるオリゴヌクレオチド。
【請求項18】
請求項10から16の何れか一項に記載の核酸分子を含んでなる、クローニング又は発現ベクター。
【請求項19】
前記核酸分子と作動式に結合するプロモーター、特に組織特異的、構成的、又は誘導性プロモーターを更に含んでなる、請求項18記載の発現ベクター。
【請求項20】
請求項18又は請求項19に記載の発現ベクターにより形質転換された、又は前記発現ベクターをトランスフェクトされた宿主細胞。
【請求項21】
請求項1から8の何れか一項に記載のタンパク質を産生するように遺伝子改変された細胞。
【請求項22】
発現を可能にする又は促進させる条件下で請求項20又は請求項21に記載の宿主細胞を培養することを含んでなる、ポリペプチドを調製するための方法。
【請求項23】
前記タンパク質を精製することを更に含んでなる、請求項22記載の方法。
【請求項24】
ヒト投与用に前記タンパク質を調合することを更に含んでなる、請求項22又は請求項23に記載の方法。
【請求項25】
CXCケモカイン結合タンパク質を発現させるトランスジェニック非ヒト動物であって、前記動物の細胞が、請求項10から16の何れか一項に記載の分離又は組み換え核酸分子、或いは請求項18又は19に記載の発現ベクターを含有することを特徴とする、トランスジェニック非ヒト動物。
【請求項26】
請求項1から9の何れか一項に記載のポリペプチドに選択的に結合する抗体。
【請求項27】
モノクローナル抗体である、請求項26記載の抗体。
【請求項28】
キメラ、ヒト化、又はヒト抗体であるか、或いはFab、F(ab)2、scFv、又はドメイン抗体等の抗体フラグメントである請求項26又は請求項27に記載の抗体。
【請求項29】
請求項1から9の何れか一項に記載のポリペプチド、或いは請求項10から19の何れか一項に記載の核酸、或いは請求項20又は請求項21に記載の細胞と、医薬的に許容し得る希釈剤又は担体とを含んでなる医薬組成物。
【請求項30】
薬剤用である、請求項1から9の何れか一項に記載のポリペプチド又は請求項29記載の組成物。
【請求項31】
哺乳動物における免疫又は炎症反応の調節用である、請求項1から9の何れか一項に記載のポリペプチド又は請求項29に記載の組成物。
【請求項32】
動物におけるCXCケモカイン関連疾病の治療又は予防用である、請求項1から9の何れか一項に記載のポリペプチド又は請求項29に記載の組成物。
【請求項33】
請求項1から9の何れか一項に記載のポリペプチドの使用であって、哺乳動物における免疫又は炎症反応の調節用の医薬組成物の製造における活性成分としての使用。
【請求項34】
前記免疫又は炎症反応がCXCL8/IL8に起因することを特徴とする、請求項33記載の使用。
【請求項35】
前記免疫性又は炎症性疾患が、自己免疫疾患、感染症、アレルギー性疾患、心血管疾患、代謝性疾患、胃腸疾患、神経系疾患、敗血症、移植による拒絶反応に関連する疾患、又は線維性疾患であることを特徴とする、請求項33又は請求項34に記載の使用。
【請求項36】
請求項1から9の何れか一項に記載のポリペプチドの使用であって、寄生虫、ウィルス、又は細菌に対する哺乳動物の予防接種用の医薬組成物の調製における使用。
【請求項37】
請求項10から16の何れか一項に記載の核酸分子によってコード化されるタンパク質の薬剤としての使用。
【請求項38】
請求項10記載の核酸分子の使用であって、哺乳動物における免疫又は炎症反応の調節用の医薬組成物の調製における使用。
【請求項39】
吸血性の外寄生虫に対して動物を免疫化するための方法であって、請求項1から9の何れか一項に記載のポリペプチドを前記動物に投与することを含んでなる方法。
【請求項40】
免疫又は炎症反応の調節を、それを必要とする動物において行なう方法であって、治療有効量の請求項1から9の何れか一項に記載のポリペプチドを前記動物に投与することを含んでなる方法。
【請求項41】
CXCケモカイン関連疾患を治療又は予防するための方法であって、治療有効量の請求項1から9の何れか一項に記載のポリペプチドを、それを必要とする被験体に投与することを含んでなる方法。
【請求項42】
CXCケモカイン又は類似体、CXCケモカイン結合タンパク質又は受容体、CXCケモカインとCXCケモカイン結合タンパク質との相互作用、或いは前記相互作用のアンタゴニスト又はアゴニストを検出するためのキットであって、検出試薬と、
a)請求項10記載の核酸分子、
b)請求項17記載のオリゴヌクレオチド、
c)請求項1から9の何れか一項に記載のポリペプチド、及び
d)請求項26、27、又は28に記載の抗体
からなる群より選択される少なくとも1種類の化合物とを含んでなる、キット。
【請求項43】
CXCケモカイン又は類似体、CXCケモカイン結合タンパク質又は受容体、CXCケモカインとCXCケモカイン結合タンパク質との相互作用、或いは前記相互作用のアンタゴニスト又はアゴニストをインビトロ(in vitro)又はインビボ(in vivo)で検出するための方法であって、試料を、
a)請求項10に記載の核酸分子、
b)請求項17に記載のオリゴヌクレオチド、
c)請求項1から9の何れか一項に記載のポリペプチド、及び
d)請求項26、27、又は28に記載の抗体
からなる群より選択される化合物と接触させることを含んでなる方法。
【請求項1】
a)Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号5)を含んでなるタンパク質と、
b)成熟Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号6)又は成熟Met−Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号26)を含んでなるタンパク質と、
c)Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号17)を含んでなるタンパク質と、
d)成熟Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号18)を含んでなるタンパク質と、
e)a)、b)、c)、又はd)のタンパク質をコード化する核酸配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸分子によりコード化されるタンパク質であって、前記核酸分子がCXCケモカインに結合するタンパク質をコード化する、タンパク質と、
f)アミノ酸配列がa)、b)、c)、又はd)のタンパク質と少なくとも約70%同一であり、且つCXCケモカインに結合するタンパク質と、
g)a)、b)、c)、d)、e)、又はf)のタンパク質のフラグメントを含んでなるタンパク質であって、そのフラグメントがCXCケモカインに結合する、タンパク質と、
h)a)、b)、c)、d)、e)、又はf)のタンパク質のフラグメントを含んでなるタンパク質であって、そのフラグメント又はタンパク質が免疫調節活性を有する、タンパク質と
からなる群より選択されるポリペプチド。
【請求項2】
a)Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号5)を有するタンパク質と、
b)成熟Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号6)又は成熟Met−Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号26)を有するタンパク質と、
c)Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号17)を有するタンパク質と、
d)成熟Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号18)を有するタンパク質と、
e)a)、b)、c)、又はd)のタンパク質のフラグメントを含んでなるタンパク質であって、そのフラグメントがCXCケモカインに結合する、タンパク質と、
f)a)、b)、c)、又はd)のタンパク質のフラグメントを含んでなるタンパク質であって、そのフラグメントが免疫調節活性を有する、タンパク質と
からなる群より選択される、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項3】
請求項1記載のタンパク質の活性突然変異体であって、その突然変異体において1又は複数個のアミノ酸残基が付加、欠失、又は置換されており、且つその突然変異体がCXCケモカインに結合する、活性突然変異体。
【請求項4】
前記突然変異体が、
a)配列番号5によるEvasin−3の残基48、52、59、63、65、76番に相当する位置におけるシステイン残基と、
配列番号5によるEvasin−3のアスパラギン51及び82番に相当する位置におけるグリコシル化部位と
を含有することを特徴とする、請求項3に記載のタンパク質の活性突然変異体。
【請求項5】
哺乳動物に投与された場合、前記アミノ酸の付加物、欠失物、又は置換物が前記ポリペプチドの免疫原性を低下させる、請求項3又は請求項4に記載のタンパク質の活性突然変異体。
【請求項6】
膜結合タンパク質の細胞外ドメイン、免疫グロブリン定常部、多量体化ドメイン、ヘテロ二量体タンパク質ホルモン、シグナルペプチド、搬出シグナル、及びタグ配列の中から選択される1又は複数個のアミノ酸配列と作動式に連結した、請求項1から5の何れか一項に記載のタンパク質を含んでなる融合タンパク質。
【請求項7】
前記ポリペプチドが翻訳後に修飾されることを特徴とする、請求項1から6の何れか一項に記載のタンパク質。
【請求項8】
前記タンパク質がグリコシル化されることを特徴とする、請求項7記載のタンパク質。
【請求項9】
前記タンパク質が、活性フラクション、前駆体、塩、誘導体、抱合体、複合体の形態であるか、又はPEG化されることを特徴とする、請求項1から8の何れか一項に記載のタンパク質。
【請求項10】
請求項1から8の何れか一項に記載のポリペプチドをコード化する核酸分子。
【請求項11】
a)Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号5)を含んでなるタンパク質をコード化する核酸分子と、
b)成熟Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号6)又は成熟Met−Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号26)を含んでなるタンパク質をコード化する核酸分子と、
c)Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号17)を含んでなるタンパク質をコード化する核酸分子と、
d)成熟Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号18)を含んでなるタンパク質をコード化する核酸分子と、
e)ストリンジェントな条件下でa)、b)、c)、又はd)の核酸分子とハイブリダイズする能力があり、且つCXCケモカインに結合するタンパク質をコード化する核酸分子と、
f)アミノ酸配列がa)、b)、c)、又はd)のタンパク質と少なくとも約70%同一であり、且つCXCケモカインに結合するタンパク質をコード化する核酸分子と、
g)a)、b)、c)、d)、e)、又はf)の核酸分子によってコード化されるタンパク質のフラグメントを含んでなるタンパク質をコード化する核酸分子であって、そのフラグメントがCXCケモカインに結合する、核酸分子と、
h)a)、b)、c)、d)、e)、f)、又はg)の核酸分子の縮退変種と
からなる群より選択される、請求項10記載の核酸分子。
【請求項12】
前記核酸分子が、
a)Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号5)を有するタンパク質と、
b)成熟Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号6)又は成熟Met−Evasin−3のアミノ酸配列(配列番号26)を有するタンパク質と、
c)Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号17)を有するタンパク質と、
d)成熟Evasin−3−HISのアミノ酸配列(配列番号18)を有するタンパク質と、
e)a)、b)、c)、又はd)のタンパク質のフラグメントを含んでなるタンパク質であって、そのフラグメントがCXCケモカインに結合する、タンパク質と、
f)a)、b)、c)、又はd)のタンパク質のフラグメントを含んでなるタンパク質であって、そのフラグメントが免疫調節活性を有する、タンパク質と、
g)a)、b)、c)、又はd)のタンパク質の活性突然変異体であって、その突然変異体において1又は複数個のアミノ酸残基が付加、欠失、又は置換されており、且つその突然変異体がCXCケモカインに結合する、活性突然変異体と、
h)膜結合タンパク質の細胞外ドメイン、免疫グロブリン定常部、多量体化ドメイン、ヘテロ二量体タンパク質ホルモン、シグナルペプチド、搬出シグナル、及びタグ配列の中から選択される1又は複数個のアミノ酸配列と作動式に連結した、a)、b)、c)、d)、e)、f)、又はg)のタンパク質を含んでなる融合タンパク質と
からなる群より選択されるタンパク質をコード化する、請求項11記載の核酸分子。
【請求項13】
前記CXCケモカインがCXCL8/IL−8であることを特徴とする、請求項10から12の何れか一項に記載の核酸分子。
【請求項14】
前記分子がDNA分子、特にcDNA分子である、請求項10から13の何れか一項に記載の核酸分子。
【請求項15】
前記分子が、配列番号3又は15のDNA配列を含んでなるか、或いは配列番号3又は15のDNA配列である、請求項10記載の核酸分子。
【請求項16】
前記分子が、配列番号4又は25のDNA配列を含んでなるか、或いは配列番号4又は25のDNA配列である、請求項10記載の核酸分子。
【請求項17】
長さが少なくとも約20ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド、長さが少なくとも約30ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド、及び長さが少なくとも約50ヌクレオチドのオリゴヌクレオチドからなる群より選択される、請求項11又は請求項12に記載の核酸のフラグメントを含んでなるオリゴヌクレオチド。
【請求項18】
請求項10から16の何れか一項に記載の核酸分子を含んでなる、クローニング又は発現ベクター。
【請求項19】
前記核酸分子と作動式に結合するプロモーター、特に組織特異的、構成的、又は誘導性プロモーターを更に含んでなる、請求項18記載の発現ベクター。
【請求項20】
請求項18又は請求項19に記載の発現ベクターにより形質転換された、又は前記発現ベクターをトランスフェクトされた宿主細胞。
【請求項21】
請求項1から8の何れか一項に記載のタンパク質を産生するように遺伝子改変された細胞。
【請求項22】
発現を可能にする又は促進させる条件下で請求項20又は請求項21に記載の宿主細胞を培養することを含んでなる、ポリペプチドを調製するための方法。
【請求項23】
前記タンパク質を精製することを更に含んでなる、請求項22記載の方法。
【請求項24】
ヒト投与用に前記タンパク質を調合することを更に含んでなる、請求項22又は請求項23に記載の方法。
【請求項25】
CXCケモカイン結合タンパク質を発現させるトランスジェニック非ヒト動物であって、前記動物の細胞が、請求項10から16の何れか一項に記載の分離又は組み換え核酸分子、或いは請求項18又は19に記載の発現ベクターを含有することを特徴とする、トランスジェニック非ヒト動物。
【請求項26】
請求項1から9の何れか一項に記載のポリペプチドに選択的に結合する抗体。
【請求項27】
モノクローナル抗体である、請求項26記載の抗体。
【請求項28】
キメラ、ヒト化、又はヒト抗体であるか、或いはFab、F(ab)2、scFv、又はドメイン抗体等の抗体フラグメントである請求項26又は請求項27に記載の抗体。
【請求項29】
請求項1から9の何れか一項に記載のポリペプチド、或いは請求項10から19の何れか一項に記載の核酸、或いは請求項20又は請求項21に記載の細胞と、医薬的に許容し得る希釈剤又は担体とを含んでなる医薬組成物。
【請求項30】
薬剤用である、請求項1から9の何れか一項に記載のポリペプチド又は請求項29記載の組成物。
【請求項31】
哺乳動物における免疫又は炎症反応の調節用である、請求項1から9の何れか一項に記載のポリペプチド又は請求項29に記載の組成物。
【請求項32】
動物におけるCXCケモカイン関連疾病の治療又は予防用である、請求項1から9の何れか一項に記載のポリペプチド又は請求項29に記載の組成物。
【請求項33】
請求項1から9の何れか一項に記載のポリペプチドの使用であって、哺乳動物における免疫又は炎症反応の調節用の医薬組成物の製造における活性成分としての使用。
【請求項34】
前記免疫又は炎症反応がCXCL8/IL8に起因することを特徴とする、請求項33記載の使用。
【請求項35】
前記免疫性又は炎症性疾患が、自己免疫疾患、感染症、アレルギー性疾患、心血管疾患、代謝性疾患、胃腸疾患、神経系疾患、敗血症、移植による拒絶反応に関連する疾患、又は線維性疾患であることを特徴とする、請求項33又は請求項34に記載の使用。
【請求項36】
請求項1から9の何れか一項に記載のポリペプチドの使用であって、寄生虫、ウィルス、又は細菌に対する哺乳動物の予防接種用の医薬組成物の調製における使用。
【請求項37】
請求項10から16の何れか一項に記載の核酸分子によってコード化されるタンパク質の薬剤としての使用。
【請求項38】
請求項10記載の核酸分子の使用であって、哺乳動物における免疫又は炎症反応の調節用の医薬組成物の調製における使用。
【請求項39】
吸血性の外寄生虫に対して動物を免疫化するための方法であって、請求項1から9の何れか一項に記載のポリペプチドを前記動物に投与することを含んでなる方法。
【請求項40】
免疫又は炎症反応の調節を、それを必要とする動物において行なう方法であって、治療有効量の請求項1から9の何れか一項に記載のポリペプチドを前記動物に投与することを含んでなる方法。
【請求項41】
CXCケモカイン関連疾患を治療又は予防するための方法であって、治療有効量の請求項1から9の何れか一項に記載のポリペプチドを、それを必要とする被験体に投与することを含んでなる方法。
【請求項42】
CXCケモカイン又は類似体、CXCケモカイン結合タンパク質又は受容体、CXCケモカインとCXCケモカイン結合タンパク質との相互作用、或いは前記相互作用のアンタゴニスト又はアゴニストを検出するためのキットであって、検出試薬と、
a)請求項10記載の核酸分子、
b)請求項17記載のオリゴヌクレオチド、
c)請求項1から9の何れか一項に記載のポリペプチド、及び
d)請求項26、27、又は28に記載の抗体
からなる群より選択される少なくとも1種類の化合物とを含んでなる、キット。
【請求項43】
CXCケモカイン又は類似体、CXCケモカイン結合タンパク質又は受容体、CXCケモカインとCXCケモカイン結合タンパク質との相互作用、或いは前記相互作用のアンタゴニスト又はアゴニストをインビトロ(in vitro)又はインビボ(in vivo)で検出するための方法であって、試料を、
a)請求項10に記載の核酸分子、
b)請求項17に記載のオリゴヌクレオチド、
c)請求項1から9の何れか一項に記載のポリペプチド、及び
d)請求項26、27、又は28に記載の抗体
からなる群より選択される化合物と接触させることを含んでなる方法。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A−C】
【図15D】
【図16A−C】
【図16D】
【図17】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A−C】
【図15D】
【図16A−C】
【図16D】
【図17】
【公表番号】特表2009−513124(P2009−513124A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−537119(P2008−537119)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【国際出願番号】PCT/EP2006/067939
【国際公開番号】WO2007/051781
【国際公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(507348713)ラボラトワール セローノ ソシエテ アノニム (29)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【国際出願番号】PCT/EP2006/067939
【国際公開番号】WO2007/051781
【国際公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(507348713)ラボラトワール セローノ ソシエテ アノニム (29)
【Fターム(参考)】
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