説明

方向性電磁鋼板の製造方法

【課題】2回以上の冷延を利用して製造する方向性電磁鋼板において、オーステナイト−フェライト変態を利用して二次再結晶後に優れた磁気特性を発現させる。
【解決手段】所定の成分組成になる鋼スラブを素材とし、2回以上の冷延を利用して方向性電磁鋼板を製造するに際し、最終冷間圧延を除くいずれかの冷間圧延に先立って、500℃以上750℃以下の温度範囲で、10分以上480時間以下の熱処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶粒を、{110}<001>方位に集積させた、いわゆる方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、二次再結晶焼鈍を施して、結晶粒を{110}<001>方位(以降、ゴス方位という)に集積させることで、優れた磁気特性を示すことが知られている(例えば、特許文献1参照)。そして、磁気特性の指標としては、磁場の強さ:800A/mにおける磁束密度Bや、励磁周波数:50Hzの交流磁場で1.7Tまで磁化した際の鋼板1kgあたりの鉄損W17/50が主に用いられている。
【0003】
方向性電磁鋼板における低鉄損化の手段の一つとして、二次再結晶焼鈍後の結晶粒をゴス方位に高度に集積させることが挙げられる。また、二次再結晶焼鈍後に、ゴス方位の集積度を高めるためには、先鋭なゴス方位粒のみが優先的に成長するように、予め、一次再結晶板の集合組織を所定の組織に形成させることが重要である。ここに、先鋭なゴス方位粒のみが優先成長できる所定の組織としては、{111}<112>方位(以降、M方位)、{12 4 1}<014>方位(以降、S方位)の粒が知られている。これらの方位粒を、一次再結晶板のマトリックス中にバランス良くかつ高度に集積させることによって、二次再結晶焼鈍後のゴス方位の結晶粒(以下、ゴス方位粒という)を高度に集積させることができる。
【0004】
例えば、特許文献2には、一次再結晶焼鈍板において、鋼板の表層近傍の集合組織が、Bungeのオイラー角表示で、φ=0°、Φ=15°、φ=0°の方位から10°以内、またはφ=5°、Φ=20°、φ=70°の方位から10°以内に極大方位を有し、かつ鋼板の中心層の集合組織が、同じくBungeのオイラー角表示で、φ=90°、Φ=60°、φ=45°の方位から5°以内に極大方位を有する場合に、安定して優れた磁気特性を示す二次再結晶焼鈍板が開示されている。
【0005】
また、一次再結晶焼鈍板の集合組織を制御する方法の一つとして、最終冷間圧延の圧下率を制御することが挙げられる。例えば、特許文献3には、最終冷間圧延の圧下率を70%以上91%以下の範囲とし、この範囲の中で、一般的な冷間圧延方法を用いて方向性電磁鋼板を製造すると、安定して優れた磁気特性を有する方向性電磁鋼板が得られることが開示されている。
【0006】
近年、省エネルギー化志向の高まりと共に、低鉄損値を示す方向性電磁鋼板の需要が急激に拡大している。鉄損値を決める一因である渦電流損は、非特許文献1において、板厚の二乗に比例して劣化することが示されている。つまり、鋼板の板厚を薄くすれば、鉄損が大幅に改善されるということである。すなわち、方向性電磁鋼板の低鉄損化を図ることは、薄物材の安定生産を達成することであると言える。しかしながら、方向性電磁鋼板用の珪素鋼はSiを多量に含むことから熱間脆性が生じやすく、熱間圧延で薄物を製造するのには限界がある。
このような背景から、最終冷間圧延の圧下率を、前掲特許文献3に記載の好適範囲とする手法として、冷延2回法が採用されている。
【0007】
冷延2回法によって方向性電磁鋼板を製造する場合に、先鋭なゴス方位粒のみを優先的に成長させるよう一次再結晶板集合組織を形成する技術は、これまでも多数開発されている。例えば、特許文献4には、中間焼鈍後の冷却を制御することで最終冷間圧延前の炭化物の析出形態を制御し、それによって優れた一次再結晶板集合組織を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭40−15644号公報
【特許文献2】特開2001−60505号公報
【特許文献3】特許第4123653号公報
【特許文献4】特開昭63−259024号公報
【特許文献5】特許第2648424号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Inst.Elec.Engrs.95[II](1948年) 38頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、発明者らは、前述したM方位とS方位とはバランス良く、かつ高度に集積することが望ましいところ、特許文献4に記載された冷延2回法では、一次再結晶板の集合組織において、前述したM方位のみが高度に集積する傾向にあり、S方位強度が弱くなるという問題があることを見出した。
というのは、通常、最終冷間圧延前における鋼板の結晶粒径は微細であり、また、M方位の再結晶核生成サイトは冷間圧延前の結晶粒界に存在するため、結晶粒径が微細になればなるほど、M方位の再結晶核生成サイトが増えるという傾向があるからである。
【0011】
また、再結晶粒径は、圧延における蓄積ひずみ量の増大および不均一なひずみの導入などによって、微細化することが知られている。そのため、圧延−再結晶を繰り返すことで再結晶粒の微細化が進行していく。特に、熱延組織の改善を目的として、オーステナイト−フェライト変態を用いる高C珪素鋼においては、二相(フェライト+パーライト)組織であるために、圧延時に不均一なひずみが多量に導入され易く、再結晶粒はより微細かつ不均質となる傾向にある。
【0012】
ここに、最終冷間圧延前の炭化物の析出形態を制御するものとして、例えば、特許文献5には、熱延板焼鈍を未再結晶域で行いかつ冷却において炭化物析出処理を施すという技術が開示されている。しかし、この技術は、主に高密度のひずみを蓄積させることで、{100}繊維組織を破壊することを目的としているため、逆に再結晶粒が微細になってしまう。
【0013】
そこで、発明者らは、上記した課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、従来注目されていなかった最終冷間圧延前における鋼板の粒径を制御する、すなわち、鋼板組織の第二相であるパーライト組織中にラメラー状に析出した炭化物を球状化させること(パーライト組織の球状炭化物化)で、圧延工程での不均一なひずみ量を減少させつつ、最終冷間圧延前の粒径を粗大化させ、一次再結晶板における集合組織の主方位であるS方位強度比率を高めて、一次再結晶板の集合組織を制御することができることを見出した。
【0014】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、冷延2回法を施す方向性電磁鋼板の製造方法において、最終冷間圧延を除くいずれかの冷間圧延に先立って、所定の熱処理を行うことにより、二次再結晶後に優れた磁気特性を発現するオーステナイト−フェライト変態利用型の方向性電磁鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で、C:0.020%以上0.15%以下、Si:2.5%以上7.0%以下、Mn:0.005%以上0.3%以下、酸可溶性Al:0.01%以上0.05%以下およびN:0.002%以上0.012%以下を含有し、かつSおよびSeのうちから選んだ1種または2種を合計で0.05%以下含み、残部はFeおよび不可避不純物からなる鋼スラブを、スラブ加熱後、熱間圧延し、ついで熱延板焼鈍を施すかまたは施さず、中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施すことによって最終板厚とした後、一次再結晶焼鈍を施し、さらに二次再結晶焼鈍を施す一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、最終冷間圧延を除くいずれかの冷間圧延に先立って、500℃以上750℃以下の温度範囲で、10分以上480時間以下の熱処理を行うことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【0016】
2.前記一次再結晶焼鈍における500〜700℃の温度域の昇温速度が50℃/s以上であることを特徴とする前記1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【0017】
3.前記最終冷間圧延以降の段階において、磁区細分化処理を施すことを特徴とする前記1または2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【0018】
4.前記磁区細分化処理が、前記二次再結晶焼鈍後の鋼板への電子ビーム照射によるものであることを特徴とする前記3に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【0019】
5.前記磁区細分化処理が、前記二次再結晶焼鈍後の鋼板への連続レーザー照射によるものであることを特徴とする前記3に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【0020】
6.前記鋼スラブが、質量%でさらに、Ni:0.005%以上1.5%以下、Sn:0.005%以上0.50%以下、Sb:0.005%以上0.50%以下、Cu:0.005%以上1.5%以下およびP:0.005%以上0.50%以下のうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする前記1〜5のいずれかに記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明に従う方向性電磁鋼板によれば、ゴス方位に強く集積するように一次再結晶板の集合組織が形成されるため、二次再結晶焼鈍後に、従来にも増して優れた磁気特性を有する方向性電磁鋼板を製造することが可能となる。特に、製造が困難な板厚:0.23mmのような薄い鋼板であっても、二次再結晶焼鈍後の鉄損W17/50が0.85W/kg以下という優れた鉄損特性を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】鋼板に熱処理を施した際の、均熱時間と鉄損との関係を示したグラフである。
【図2】熱処理の均熱温度と鉄損との関係を示したグラフである。
【図3】熱処理の均熱時間および温度と鉄損との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について具体的に説明する。なお、鋼板成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
C:0.020%以上0.15%以下
Cは、熱延および熱延板焼鈍の均熱時にオーステナイト−フェライト変態を利用することで、熱延組織の改善を図るために必要な元素であるが、C含有量が0.15%を超えると、脱炭処理の負荷が増大するばかりでなく、脱炭自体が不完全となり、製品板において磁気時効を起こす原因ともなる。一方、C含有量が0.020%に満たないと、熱延組織の改善効果が小さく、所望の一次再結晶板集合組織を得ることが困難となる。そのため、Cは0.020%以上0.15%以下とした。
【0024】
Si:2.5%以上7.0%以下
Siは、鋼の電気抵抗を増大させ、鉄損の一部を構成する渦電流損を低減するのに極めて有効な元素である。鋼板に、Siを添加していった場合、含有量が11%までは、電気抵抗が単調に増加するものの、含有量が7.0%を超えたところで、加工性が著しく低下する。一方、含有量が2.5%未満では、電気抵抗が小さくなり良好な鉄損特性を得ることができない。そのため、Siは2.5%以上7.0%以下とした。
【0025】
Mn:0.005%以上0.3%以下
Mnは、二次再結晶焼鈍の昇温過程において、MnSおよびMnSeが正常粒成長を抑制するインヒビターの働きをするため、方向性電磁鋼板においては重要な元素である。しかし、Mn含有量が0.005%に満たないと、インヒビターの絶対量が不足するために、正常粒成長の抑制力不足となる。一方、Mn含有量が0.3%を超えると、熱延前のスラブ加熱過程で、Mnを完全固溶させるためには高温のスラブ加熱が必要となる。また、インヒビターが粗大析出してしまうために、正常粒成長の抑制力が不足する。そのため、Mnは0.005%以上0.3%以下とした。
【0026】
酸可溶性Al:0.01%以上0.05%以下
酸可溶性Alは、二次再結晶焼鈍の昇温過程において、AlNが正常粒成長を抑制するインヒビターの働きをするため、方向性電磁鋼板においては重要な元素である。しかし、酸可溶性Alの含有量が0.01%に満たないと、インヒビターの絶対量が不足するために、正常粒成長の抑制力不足となる。一方、酸可溶性Alの含有量が0.05%を超えるとAlNが粗大析出してしまうために、やはり正常粒成長の抑制力が不足する。そのため、酸可溶性Alは0.01%以上0.05%以下とした。
【0027】
N:0.002%以上0.012%以下
Nは、Alと結合してインヒビターを形成するが、含有量が0.002%未満では、インヒビターの絶対量が不足し、正常粒成長の抑制力不足となる。一方、含有量が0.012%を超えると、冷間圧延時にブリスターと呼ばれる空孔を生じ、鋼板の外観が劣化する。そのため、Nは0.002%以上0.012%以下とした。
【0028】
SおよびSeのうちから選んだ1種または2種の合計:0.05%以下
SおよびSeは、Mnと結合してインヒビターを形成するが、含有量が0.05%を超えると、二次再結晶焼鈍において、脱S、脱Seが不完全となるため、鉄損劣化を引き起こす。そのため、SおよびSeのうちから選んだ1種または2種は、合計量で0.05%以下とした。なお、これらの元素の含有は必須ではなく、その下限に特に制限はないが、その添加効果を発揮するためには0.01%程度が好ましい。
【0029】
本発明における基本成分は、上記したとおりであり、残部はFeおよび不可避不純物である。かかる不可避不純物としては、原料、製造設備等から不可避的に混入する不純物が挙げられる。
【0030】
以上、本発明の基本成分について説明したが、本発明では、その他にも必要に応じて、以下に示す元素を適宜含有させることができる。
Ni:0.005%以上1.5%以下
Niは、オーステナイト生成元素であるため、オーステナイト変態を利用することで熱延板組織を改善し、磁気特性を向上させるために有用な元素である。しかしながら、含有量が0.005%未満では、磁気特性の向上効果が小さく、一方、含有量が1.5%超では、加工性が低下するため通板性が悪くなるほか、二次再結晶が不安定になり磁気特性が劣化する。従って、Niは0.005〜1.5%の範囲とした。
【0031】
Sn:0.005%以上0.50%以下、Sb:0.005%以上0.50%以下、Cu:0.005%以上1.5%以下およびP:0.005%以上0.50%以下
Sn、Sb、CuおよびPは、磁気特性向上に有用な元素であるが、それぞれ含有量が上記範囲の下限値に満たないと、磁気特性の改善効果が乏しく、一方、それぞれ含有量が上記範囲の上限値を超えると、二次再結晶が不安定になり磁気特性が劣化する。従って、Sn:0.005%以上0.50%以下、Sb:0.005%以上0.50%以下、Cu:0.005%以上1.5%以下およびP:0.005%以上0.50%以下の範囲でそれぞれ含有することができる。
【0032】
上記の組成を有する鋼スラブを、スラブ加熱後、熱間圧延を行い、必要であれば、熱延板焼鈍することで熱延板組織の改善を行う。この時の熱延板焼鈍は、均熱温度:800℃以上1200℃以下で、均熱時間:2s以上300s以下の条件で行うことが好ましい。
熱延板焼鈍の均熱温度が800℃未満では、熱延板組織の改善が完全ではなく、未再結晶部が残存するため、所望の組織を得ることができないおそれがある。一方、均熱温度が1200℃超では、AlN、MnSeおよびMnSの再溶解やオストワルド成長が進行し、二次再結晶過程でインヒビターの抑制力が不足して、二次再結晶しなくなった結果、磁気特性の劣化を引き起こすこととなる。そのため、熱延板焼鈍の均熱温度は800℃以上1200℃以下とすることが好ましい。
【0033】
また、均熱時間を2s未満とすると、高温保持時間が短いために、未再結晶部が残存し、所望の組織を得ることができなくなるおそれがある。一方、均熱時間を300s超とすると、AlN、MnSeおよびMnSの再溶解やオストワルド成長が進行し、二次再結晶過程でインヒビターの抑制力が不足して、二次再結晶しなくなった結果、磁気特性の劣化を引き起こすこととなる。従って、熱延板焼鈍の均熱時間は2s以上300s以下とすることが好ましい。
なお、上記の熱延板焼鈍は、通常行われるような連続焼鈍で行うことが好ましい。
【0034】
熱延板焼鈍後または熱延板焼鈍を行わず、鋼板を中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延によって最終仕上厚まで圧延することで、本発明に従う方向性電磁鋼板を得ることができる。
ここで、本発明の大きな特徴は、最終冷間圧延を除くいずれかの冷間圧延に先立って、500℃以上750℃以下の温度範囲で、10分以上480時間以下の熱処理を施すことである。
【0035】
まず、本発明に従う熱処理を施す際の、均熱時間の範囲を確認する実験を行った。
本発明の成分組成になるスラブを、1350℃の温度で加熱した後、2.2mmの厚みまで熱間圧延した。その後、1050℃、40sの熱延板焼鈍を施した。ついで、1回目の冷間圧延に先立って、乾燥窒素雰囲気において図1に示すような条件で熱処理を施した。その後、1.5mmの厚みまで冷間圧延し、1080℃、80sの中間焼鈍を施した。さらに、0.23mmの厚みまで冷間圧延し、800℃で120sの、脱炭焼鈍を兼ねた一次再結晶焼鈍を施した。その後、鋼板表面にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、1150℃で50時間の純化焼鈍を兼ねた二次再結晶焼鈍を行い、それぞれの条件下での試験片を得た。
図1に、上記試験片の磁気特性について測定した結果を示す。
【0036】
1回目の冷間圧延前の熱処理における均熱温度:700℃の実験例では、概ね低鉄損化を達成できる結果となっているが、均熱時間が10分未満の場合、鉄損が改善されなかった。これは、均熱時間が10分未満では、パーライト組織の球状炭化物化が進行せず、1回目の冷間圧延で、鋼板に、不均一なひずみが多量に蓄積したため、中間焼鈍板の粒径、すなわち最終冷間圧延前の粒径の粗大化が起こらなかったためである。
【0037】
また、図1中、1回目の冷間圧延前の熱処理における均熱温度が400℃の試験片では軒並み鉄損が改善されなかった。これは、パーライト組織の球状炭化物化が進行せず、1回目の冷間圧延で、鋼板に、不均一なひずみが多量に蓄積することで、中間焼鈍板の粒径、すなわち最終冷間圧延前の粒径の粗大化が起こらなかったためである。
【0038】
さらに、図1中、1回目の冷間圧延前の熱処理における均熱温度が800℃の実験例でも軒並み鉄損が改善されなかった。これは、均熱温度がA変態温度を超えたため、一部パーライト組織がオーステナイト相へ相変態をしてしまい、Cの拡散が進行しなくなったために、冷却過程で再びパーライト組織が出現し、1回目の冷間圧延で、鋼板に不均一なひずみが多量に蓄積し、中間焼鈍板の粒径、すなわち最終冷間圧延前の粒径の粗大化が起こらなかったためである。
【0039】
従って、1回目の冷間圧延前の均熱温度が700℃の場合、均熱時間が10分以上の熱処理を施すことで、中間焼鈍板の粒径、すなわち最終冷間圧延前の粒径を粗大化させ、所望の一次再結晶板集合組織を得ることができる。その結果、優れた磁気特性が得られることが分かった。
【0040】
次に、本発明に従う熱処理を施す際の、均熱時間の範囲を確認する実験を行った。
本発明の成分組成になるスラブを、1350℃の温度で加熱した後、2.0mmの厚みまで熱間圧延し、1000℃、40sの熱延板焼鈍を施した。ついで、1回目の冷間圧延に先立って、乾燥窒素雰囲気において図2に示すような条件で熱処理を施した。その後、1.3mmの厚みまで冷間圧延し、1100℃、80sの中間焼鈍を施した。さらに、0.23mmの厚みまで冷間圧延し、800℃で120sの脱炭焼鈍を兼ねた一次再結晶焼鈍を施した。その後、鋼板表面にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、1150℃で50時間の純化焼鈍を兼ねた二次再結晶焼鈍を行って、それぞれの条件下での試験片を得た。
図2に、上記試験片の磁気特性について測定した結果を示す。
【0041】
同図より、1回目の冷間圧延前の熱処理における均熱時間:24時間の試験片では、均熱温度が500℃以上750℃以下の範囲において、鋼板の鉄損が改善していることが分かる。すなわち、均熱温度を500℃以上750℃以下とした場合には、十分な均熱時間を確保することで、パーライト組織中のラメラー状炭化物の球状化を十分に進行させることができ、また、粒内に固溶したCは粒界まで拡散し、粒界で粗大な球状炭化物として析出することができる。従って、上記鋼板は、フェライト単相に近い組織となっているために、圧延時に生じる不均一なひずみ量が減少し、中間焼鈍板の粒径である最終冷間圧延前の粒径を、粗大化させることができる。その結果、所望の一次再結晶板集合組織が得られるのである。
【0042】
一方、均熱時間が5分の試験片では、図2中に示した好適温度の範囲で熱処理を施しても、鉄損改善効果は得られなかった。つまり、本発明における熱処理には、先にも述べたようにパーライト組織中のラメラー状炭化物の球状化と粒内固溶Cの球状炭化物への拡散のために、ある程度の時間を必要とすることが分かる。
【0043】
従って、1回目の冷間圧延前に均熱温度を500℃以上750℃以下とし、均熱時間24時間の熱処理を施すことで、中間焼鈍板の粒径、すなわち、最終冷間圧延前の粒径を粗大化させて、所望の一次再結晶板集合組織を得られることが分かる。
【0044】
さらに、上記した熱処理の温度および時間の範囲を確認する実験を行った。
C:0.04%、Si:3.1%、Mn:0.13%、酸可溶性Al:0.01%、N:0.007%、S:0.003%およびSe:0.03%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなるスラブを、1350℃の温度で加熱し、2.0mmの厚みまで熱間圧延を施した。
【0045】
ついで、1000℃、40sの焼鈍を施した後、1回目の冷間圧延に先立って、乾燥窒素雰囲気において種々の温度、時間で熱処理を施し、炉冷した。その後、1.5mmの厚みまで冷間圧延し、1080℃、80sの中間焼鈍を施した。ついで、0.23mmの厚みまで冷間圧延し、800℃で120sの脱炭焼鈍を兼ねた一次再結晶焼鈍を施した。その後、鋼板表面にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、1150℃で50時間の純化焼鈍を兼ねた二次再結晶焼鈍を施して方向性電磁鋼板を得た。この方向性電磁鋼板の鉄損値W17/50について調べた結果を、1回目の冷間圧延に先立って行った熱処理の均熱温度と均熱時間との関係で図3に示す。
【0046】
同図から明らかなように、1回目の冷間圧延前の熱処理を、均熱温度:500℃以上750℃以下で、均熱時間:10分以上の範囲として行うことで、二次再結晶板の鉄損W17/50が0.85W/kg以下である優れた鉄損値を示すことが分かる。また、同図より、均熱時間について、480時間までは優れた鉄損値が発現することが確認できる。従って、本発明では、生産性やコスト等の観点から、均熱時間の上限を480時間としている。
また、低鉄損を示した上記条件においては、二次再結晶焼鈍板の磁束密度Bについても優れた値を示している。従って、上記した熱処理を施すことにより、二次再結晶板におけるゴス方位粒の集積度が高まっていると推定される。
【0047】
図1〜3に示した実験結果から、本発明の成分組成になる鋼板に、所定の熱処理を施すことで、二次再結晶板の鉄損値は、0.85W/kg以下となり、優れた鉄損値を示す鋼板が得られることが分かる。
また、上記の熱処理とは、最終冷間圧延を除くいずれかの冷間圧延に先立って、500℃以上750℃以下の温度範囲で、10分以上480時間以下の範囲で行うものであることが分かる。
なお、前記した実験では、1回目の冷間圧延に先立つ熱処理について示したが、最終冷間圧延を除くいずれかの冷間圧延の前であれば、上記した磁気特性の結果と同様の効果を有していることを確認している。また、上記熱処理は上記の処理時間を確保する観点から、バッチ焼鈍で行うことが好ましい。
【0048】
本発明において、中間焼鈍にかかる条件は従来公知の条件に従えばよいが、均熱温度:800℃以上1200℃以下、均熱時間:2s以上300s以下とし、中間焼鈍後の冷却過程においては、800〜400℃の区間での冷却速度を10℃/s以上200℃/s以下の急冷処理とすることが好ましい。
【0049】
ここに、上記した均熱温度が800℃未満では、未再結晶組織が残存するため、一次再結晶板組織において整粒組織を得ることが難しくなり、所望の二次再結晶粒成長ができずに、磁気特性の劣化を引き起こすおそれがある。一方、均熱温度が1200℃超では、AlN、MnSeおよびMnSの再溶解やオストワルド成長が進行し、二次再結晶過程でインヒビターの抑制力が不足することになり、二次再結晶しなくなるため、磁気特性の劣化を引き起こすおそれがある。
従って、最終冷間圧延前の中間焼鈍の均熱温度は、800℃以上1200℃以下とすることが好ましい。
【0050】
また、均熱時間を2s未満とすると、高温保持時間が短いので、未再結晶部が残存するため、所望の組織ができにくくなる。一方、均熱時間を300s超とすると、AlN、MnSeおよびMnSの再溶解やオストワルド成長が進行し、二次再結晶過程でインヒビターの抑制力が不足して、二次再結晶しなくなるため、磁気特性の劣化を引き起こすおそれがある。
従って、最終冷間圧延前の中間焼鈍の均熱時間は、2s以上300s以下とすることが好ましい。
【0051】
さらに、最終冷間圧延前の中間焼鈍後の冷却過程において、800〜400℃での冷却速度を10℃/s未満とすると、カーバイドの粗大化が進行しやすくなり、その後の冷間圧延から一次再結晶焼鈍間での集合組織の改善効果が弱まり、磁気特性が劣化しやすくなる。一方、800〜400℃での冷却速度を200℃/s超とすると、硬質のマルテンサイト相が生成しやすくなり、一次再結晶板組織において所望の組織を得ることができず、磁気特性の劣化を引き起こすおそれがある。
従って、最終冷間圧延前の中間焼鈍後の冷却過程における800〜400℃の範囲での冷却速度は、10℃/s以上200℃/s以下とすることが好ましい。
なお、前記した実験では、1回目の冷間圧延に先立つ熱処理について示したが、最終冷間圧延を除くいずれかの冷間圧延前であれば、上記した磁気特性の結果と同様の効果を有していることを確認している。
【0052】
最終冷間圧延における圧下率は、特に限定されるものではないが、最終冷間圧延における圧下率を60%以上92%以下の範囲とすると、良好な一次再結晶板集合組織を得ることができるために好ましい。
【0053】
最終冷間圧延で最終板厚まで圧延された鋼板に、好ましくは、均熱温度:700℃以上1000℃以下で一次再結晶焼鈍を施す。また、一次再結晶焼鈍は、例えば湿水素雰囲気中で行えば、鋼板の脱炭も兼ねて行うこともできる。
ここに、一次再結晶焼鈍における均熱温度が700℃未満では、未再結晶部が残存し、所望の組織を得ることができないおそれがある。一方、均熱温度が1000℃超では、ゴス方位粒の二次再結晶が起こってしまう可能性がある。
従って、一次再結晶焼鈍は700℃以上1000℃以下とすることが好ましい。
【0054】
上記均熱条件を満足する一次再結晶焼鈍を施すことが、上述したような集合組織改善効果を得るためには好ましいが、本発明においては、むしろ、一次再結晶焼鈍の昇温段階がより重要である。
すなわち、一次再結晶焼鈍における500〜700℃の温度域の昇温速度を、50℃/s以上とすることによって、より一層、一次再結晶板集合組織のS方位強度比率およびゴス方位強度比率を高めることができる。その結果、二次再結晶後の磁束密度を高めつつ二次再結晶粒径を微細化して、鉄損特性を改善することが可能となる。
【0055】
本発明は、最終冷間圧延を除くいずれかの冷間圧延に先立って所定の熱処理を施すことで最終冷間圧延前の粒径を粗大化させ、一次再結晶板集合組織のS方位強度比率を高める技術であるが、上述したように、一次再結晶焼鈍の昇温過程において当該温度範囲の昇温速度を50℃/s以上とした場合には、一次再結晶板集合組織におけるM方位強度比率を効果的に低くしながら、S方位強度比率、さらにはゴス方位強度比率も高めることが可能となる。
従って、本発明は、二次再結晶方位のゴス方位への先鋭性を高めるS方位強度比率が高まると共に、二次再結晶粒の核となるゴス方位強度比率も高まるため、最終的な製品の磁束密度を高度に維持することができる。と同時に、本発明は、二次再結晶粒が細粒となることで、優れた鉄損特性を得ることが可能となる。
【0056】
昇温速度を制御する温度域については、冷間圧延後の組織の回復に相当する温度域を急熱し、再結晶させることが目的であるため、組織の回復に相当する500〜700℃における昇温速度が重要となる。
ここで、昇温速度が50℃/s未満の場合、上記温度域での組織の回復を十分に抑制することが困難である。従って、本発明では、上記温度域の昇温速度を50℃/s以上とすることが好ましい。なお、この昇温速度に上限の規定は特に設ける必要はないが、あまりに過剰な昇温速度とすると設備の大型化などが必要になるので、400℃/s以下程度が好ましい。
【0057】
なお、一次再結晶焼鈍は、一般に脱炭焼鈍を兼ねることが多く、その焼鈍時の雰囲気は、脱炭に有利な酸化性雰囲気(例えばPH2O/PH2>0.1)で実施することが好ましい。しかしながら、高い昇温速度が求められる500〜700℃の温度域については、設備などの制約により酸化性雰囲気の導入が困難な場合が考えられるものの、脱炭の観点からは主に800℃近傍での酸化性雰囲気が重要であるため、500〜700℃の温度域は、雰囲気がPH2O/PH2≦0.1の範囲であっても構わない。なお、一次再結晶焼鈍とは別に、脱炭焼鈍を実施することもできる。
【0058】
本発明では、一次再結晶焼鈍後から二次再結晶焼鈍開始までの間で、鋼中にNを150〜250ppmの範囲で含有させる窒化処理を施すこともできる。このために、一次再結晶焼鈍後、NH雰囲気中で熱処理を行ったり、窒化物を焼鈍分離剤中に含有させたり、二次再結晶焼鈍雰囲気を窒化雰囲気にしたりといった公知の技術がいずれも適用できる。
【0059】
その後、必要であれば鋼板表面にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布した後、二次再結晶焼鈍を行う。この二次再結晶焼鈍の焼鈍条件についても、特に制限はなく、従来公知の焼鈍条件で行えば良い。なお、この時の焼鈍雰囲気を、水素雰囲気とすると、純化焼鈍も兼ねて行うことができる。その後、絶縁被膜塗布工程および平坦化焼鈍工程を経て、所望の方向性電磁鋼板を得る。上記絶縁被膜塗布工程および平坦化焼鈍工程の製造条件に、特別の規定はなく、常法に従えば良い。
【0060】
以上の方法により製造された方向性電磁鋼板は、二次再結晶後に極めて高い磁束密度を有し、併せて低い鉄損値を有する。ここで、高い磁束密度を有するということは二次再結晶過程においてゴス方位のごく近傍の方位となる結晶粒のみが優先成長したことを示している。すなわち、結晶粒がゴス方位に近くなればなるほど、二次再結晶粒の成長速度は増大することが知られていることから、高磁束密度化するということは潜在的に二次再結晶粒径が粗大化することを示していて、ヒステリシス損低減の観点からは有利であるものの、渦電流損低減の観点からは不利となる。
【0061】
そこで、本発明では、より鉄損低減効果を高めるために、磁区細分化処理を施すことができる。本発明に適切な磁区細分化処理を施すことによって、二次再結晶粒径が粗大化して不利となった渦電流損を低減することができ、本発明の主たる効果であるヒステリシス損の低減と併せて、さらに優れた鉄損特性を得ることができる。
【0062】
本発明では、前記最終冷間圧延以降の段階において公知の全ての耐熱型または非耐熱型の磁区細分化処理が適用できるが、二次再結晶後の鋼板表面に電子ビームもしくは連続レーザーの照射を施せば、鋼板板厚内部まで磁区細分化効果を浸透させることができ、エッチング法などの他の磁区細分化処理よりもさらに優れた鉄損特性を得ることができる。
【実施例】
【0063】
〔実施例1〕
C:0.06%、Si:3.2%、Mn:0.12%、酸可溶性Al:0.01%、N:0.005%、S:0.0030%およびSe:0.03%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなるスラブを、1350℃の温度で加熱した後、2.2mmの厚みまで熱間圧延した。その後、1050℃、40sの熱延板焼鈍を施した。ついで、1回目の冷間圧延に先立って、乾燥窒素雰囲気において表1に示すような条件で熱処理を施した。その後、1.5mmの厚みまで冷間圧延し、1080℃、80sの中間焼鈍を施した。さらに、0.23mmの厚みまで冷間圧延し、800℃で120sの脱炭焼鈍を兼ねた一次再結晶焼鈍を施した。ここで、一次再結晶焼鈍における500〜700℃間の昇温速度を20℃/sとした。その後、鋼板表面にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、1150℃で50時間の純化焼鈍を兼ねた二次再結晶焼鈍を行って、それぞれの条件下での試験片を得た。表1に、上記試験片の鉄損の測定結果を併記する。
【0064】
【表1】

【0065】
表1に示したとおり、1回目の冷間圧延前に、均熱温度:700℃、均熱時間:10分以上の熱処理を施すことで、優れた磁気特性を有する方向性電磁鋼板を得られることが分かる。
【0066】
〔実施例2〕
C:0.10%、Si:3.4%、Mn:0.10%、酸可溶性Al:0.02%、N:0.008%、S:0.0030%およびSe:0.005%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなるスラブを、1350℃の温度で加熱した後、2.0mmの厚みまで熱間圧延した。その後、1000℃、40sの熱延板焼鈍を施した。ついで、1回目の冷間圧延に先立って、乾燥窒素雰囲気において表2に示すような条件で熱処理を施した。その後、1.3mmの厚みまで冷間圧延し、1100℃、80sの中間焼鈍を施した。さらに、0.23mmの厚みまで冷間圧延し、800℃で120sの脱炭焼鈍を兼ねた一次再結晶焼鈍を施した。ここで、一次再結晶焼鈍における500〜700℃間の昇温速度を20℃/sとした。その後、鋼板表面にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、1150℃で50時間の純化焼鈍を兼ねた二次再結晶焼鈍を行って、それぞれの条件下での試験片を得た。表2に、上記試験片の鉄損の測定結果を併記する。
【0067】
【表2】

【0068】
表2に示したとおり、1回目の冷間圧延前に、均熱温度が500〜750℃の範囲で、均熱時間:24時間の熱処理を施すことで、優れた磁気特性を有する方向性電磁鋼板を得られることが分かる。
【0069】
〔実施例3〕
表3に記載の成分と、Si:3.4%、N:0.008%、S:0.0030%およびSe:0.02%とを含有し、残部Feおよび不可避不純物からなるスラブを、1350℃の温度で加熱して、2.0mmの厚みまで熱間圧延した。ついで、1000℃、40sの熱延板焼鈍を施した。さらに、1回目の冷間圧延に先立って、乾燥窒素雰囲気で、均熱温度:700℃、均熱時間:24時間の熱処理を施した。その後、1.3mm厚みまで冷間圧延し、1080℃、80sの中間焼鈍を施して、0.23mm厚みまで冷間圧延し、820℃で120sの脱炭焼鈍を兼ねた一次再結晶焼鈍を施した。ここで、一次再結晶焼鈍における500〜700℃間の昇温速度を20℃/sでとした。さらに、鋼板表面にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布した後、1150℃で50時間の純化焼鈍を兼ねた二次再結晶焼鈍を行った。表3に、磁気特性の測定結果を併記する。
【0070】
【表3】

【0071】
表3に示したように、No.1〜5において、C含有量のみを変化させた場合、本発明に従う成分組成になるNo.2〜4が良好な磁気特性を示していることが分かる。
【0072】
また、No.6〜24は、C含有量を0.05%で一定とし、Al、Mn、Ni、Sn、Sb、CuおよびP含有量をそれぞれ変更したものである。表3に示したとおり、本発明の成分組成の範囲内では、いずれも優れた磁気特性を得ることができた。
【0073】
一方、C含有量が、本発明の範囲を外れているNo.1およびNo.5は磁気特性が劣化した。この原因は、C含有量が少ないNo.1の場合、オーステナイト−フェライト変態が起こらず、一次再結晶板集合組織の改善効果が弱かったためである。また、C含有量が多いNo.5の場合、高温でのオーステナイト相分率が増加することで1回目の冷間圧延での不均一変形量が増大し、中間焼鈍板の粒径が微細化したために、一次再結晶板集合組織のM方位強度比率が増加し、さらに一次再結晶焼鈍での脱炭が不完全となったためである。
【0074】
〔実施例4〕
実施例1のNo.11およびNo.14に従う条件で、0.23mmの厚みまで冷間圧延した試料を用いて、表4に示す条件で、一次再結晶焼鈍における500℃〜700℃の温度域の昇温速度および磁区細分化処理の手段を、それぞれ種々に変更する試験を実施した。
ここで、エッチング溝による磁区細分化処理は、0.23mmの厚みまで冷間圧延した鋼板の片面について、幅:150μm、深さ:15μm、圧延方向間隔:5mmの溝を圧延直角方向に形成することによって行った。
電子ビームによる磁区細分化処理は、仕上焼鈍後の鋼板の片面について、加速電圧:100kV、照射間隔:5mm、ビーム電流3mAの各条件で圧延直角方向に連続照射することによって行った。
レーザーによる磁区細分化処理は、仕上焼鈍後の鋼板の片面について、ビーム径:0.3mm、出力:200W、走査速度:100m/s、照射間隔:5mmの各条件で圧延直角方向に連続照射することによって行った。
表4に、磁気特性の測定結果を併記する。
【0075】
【表4】

【0076】
表4に示したように、熱延板焼鈍後、1回目の冷間圧延に先立って乾燥窒素雰囲気において本発明範囲の熱処理を施した条件では、一次再結晶焼鈍における500〜700℃の温度域の昇温速度を増加させるにつれて、良好な鉄損特性を示すことが分かる。また、全ての昇温速度について、磁区細分化処理を施すことで極めて良好な鉄損特性を示すことが分かる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.020%以上0.15%以下、Si:2.5%以上7.0%以下、Mn:0.005%以上0.3%以下、酸可溶性Al:0.01%以上0.05%以下およびN:0.002%以上0.012%以下を含有し、かつSおよびSeのうちから選んだ1種または2種を合計で0.05%以下含み、残部はFeおよび不可避不純物からなる鋼スラブを、スラブ加熱後、熱間圧延し、ついで熱延板焼鈍を施すかまたは施さず、中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施すことによって最終板厚とした後、一次再結晶焼鈍を施し、さらに二次再結晶焼鈍を施す一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、最終冷間圧延を除くいずれかの冷間圧延に先立って、500℃以上750℃以下の温度範囲で、10分以上480時間以下の熱処理を行うことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記一次再結晶焼鈍における500〜700℃の温度域の昇温速度が50℃/s以上であることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記最終冷間圧延以降の段階において、磁区細分化処理を施すことを特徴とする請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記磁区細分化処理が、前記二次再結晶焼鈍後の鋼板への電子ビーム照射によるものであることを特徴とする請求項3に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記磁区細分化処理が、前記二次再結晶焼鈍後の鋼板への連続レーザー照射によるものであることを特徴とする請求項3に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記鋼スラブが、質量%でさらに、Ni:0.005%以上1.5%以下、Sn:0.005%以上0.50%以下、Sb:0.005%以上0.50%以下、Cu:0.005%以上1.5%以下およびP:0.005%以上0.50%以下のうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方向性電磁鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−21229(P2012−21229A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134923(P2011−134923)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】