説明

方法

下記式(I):DαNbβγ−3−δ(式中、Dは、アルカリ金属(例えば、Li、Na、K、Rb、Csおよび/またはFr)、アルカリ土類金属(Ba、Ca、Mgおよび/またはSrなど)、Laおよび/またはBiであり、2種以上の金属の混合物として存在していてもよい;EはTa、Sbおよび/またはFeであり、αは正数であり、2種以上の金属の混合物として存在していてもよい;βは正数であり、γは0または正数であり、δは0≦δ≦0.5の数である;式(I)は、ペロブスカイト構造またはタングステンブロンズ構造を有する)のニオブ化合物を製造するための方法であり、金属(D)イオン、Nbイオンおよび存在する場合は金属(E)イオンを含む溶液、例えば水溶液を噴霧熱分解することを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニオブ酸アルカリ金属塩または混合ニオブ−タンタル酸化物固溶体の形態の強誘電体物質を製造するための新規の方法に関する。前記方法によるナノスケールのニオブ酸塩および混合ニオブ−タンタル酸化物生成物も本発明により包含される。電子機器、特に変換器、超音波診断装置、ガス点火装置、アクセロメータ、変位変換器および圧電トランス、アクチュエータ、センサーの製造への前記ナノスケールのニオブ酸アルカリ金属塩または混合ニオブ−タンタル酸化物固溶体の使用、ならびにそれにより得られる前記電気機器も同様である。
【背景技術】
【0002】
強誘電体物質には、電子工学および光学において、機能性材料としての重要な用途が多数ある。強誘電体セラミックスの多くは、誘電性、圧電性、焦電性および電気光学的性質などのような、強誘電性の二次的結果である性質を利用している。セラミックス加工技術や薄膜技術が発展するに連れて、新たな用途が多数生み出されている。強誘電体セラミックスの最大の用途は、コンデンサ用の誘電体セラミックス、不揮発性メモリ用の強誘電体薄膜、医療用超音波画像診断用およびアクチュエータ用の圧電材料、ならびに、データストレージ用およびディスプレイ用の電気光学材料などの領域にある。
【0003】
一般的に最もよく用いられる圧電材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(lead zirconate titanate、PZT)は化学式がPbZrTi1-x3であり、PbZrO3(斜方晶系)およびPbTiO3(正方晶ペロブスカイト)の二次固溶体である。PZTは、Bサイトをランダムに占めるTi4+イオンおよびZr4+イオンを有するペロブスカイト型構造を有する。
【0004】
その他の鉛系強誘電体化合物としては、タングステンブロンズ型構造を有するニオブ酸鉛(PbNb26)が挙げられる。タングステンブロンズ族は、ペロブスカイトと比較してより開放的な構造を有しており、強誘電性を損なうことなく広範囲のカチオン置換およびアニオン置換が可能である。しかし、室温への冷却時に安定な非強誘電体菱面体晶相が形成されるため、圧電性PbNb26型セラミックスを製造することは困難である。この問題は、焼結温度から急冷することで対処されてきた。しかし、キュリー点未満に冷却する際の相変態に起因する体積変化が大きいことから、セラミックスがクラッキングを生じるという、このタイプの材料につきものの更なる問題がある。
【0005】
ニオブ酸ビスマス鉛(PbBi2Nb29)は、(Bi222+層により隔てられた、頂点連結ペロブスカイト様シートからなる酸化ビスマス層型構造を有する。これら化合物の板状結晶構造によって、高い異方性強誘電性が生じる。しかし、分極効率が非常に低いので、圧電性はよくない。分極は、強誘電体セラミックスに圧電挙動を導入するために用いられる方法であり、その材料のキュリー点未満である高い温度で直流電場を印加して行う。外部場を印加した状態では、セラミックスの各ドメイン内の自発分極が印加した場の方向に配向して、分極方向に正味の極性が生じる。しかし、セラミックス中のドメインは、分極の配向が結晶構造の対称性によって制限されるので、分極軸に沿って完全に配列することはできない。例えば、斜方晶系ペロブスカイトでは、8つの[111]方向のうちの一つに沿って配向して分極している。可能な配向の数が多いほど、分極効率が良い。したがって、高い対称性を有する化合物は、分極効率がより良く、圧電性もより良いと期待され、例えば、正方晶構造あるいは斜方晶系構造は、単斜晶系構造よりも分極化効率が良いと期待される。
【0006】
酸化ビスマス層状型構造の圧電性は、加工工程中の粒子配向、例えばセラミックスのテープキャスティングまたはホットフォギングによって改善することが可能であった。酸化ビスマス層型強誘電体は、その安定性、作動温度(キュリー温度が550〜650℃の範囲)および作動周波数がより高いので、重要な圧電体セラミックスとなりうる。これらセラミックスは、主に、非常に安定した共鳴周波数を示すことが必要とされる圧電共鳴装置に有用である。
【0007】
J Am Ceram Soc 91、[8]の2766〜2768頁には、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3がコンデンサ誘電体および電気収縮アクチュエータの候補として開示されている。この化合物は、噴霧熱分解により作られる。
【0008】
一般的に最もよく用いられる圧電セラミックスは鉛系であるが、家電系廃棄物の毒性に関連した環境的な理由から、そのような圧電セラミックスの利用は段階的に減少しているため、非鉛圧電/強誘電体物質への関心が、近年高まっている。
【0009】
本発明者らは、PZTの代替として最も魅力的な材料はニオブ酸アルカリ金属塩であると考えている。K0.5Na0.5NbO3(KNN)、LiNa1-xNbO3(式中、x<0.2)およびKNN−LiNbO3ならびにそれらの複合材料および被ドープ誘導体が、例えば、SunらによりSci.Technol.Adv.Mater.,Vol.9,2008の1〜4頁の「BiFeO3をドープした(Na0.50.5)NbO3非鉛圧電体セラミックス」に説明されている。また、US2008/01355798にも非鉛圧電性K0.5Na0.5NbO3化合物が説明されているが、これら化合物は固体化学的手法により形成される。Materials Chemistry and Physics 77(2002)の571〜577頁では、スパッタリングまたは噴霧熱分解により、LiNbO3の薄膜をシリコン基材上に析出させている。
【0010】
アルカリニオブ酸およびアルカリ土類ニオブ酸の固溶体から成長させた強誘電体結晶は、レーザー変調、焦電検出器、ハイドロフォンおよび超音波応用に使用できる可能性がある。しかし、異種カチオンの酸化物を焼く従来のセラミックス粉体の合成経路では、非常に高い焼結温度を要する粗い粉体を生じる。これは、約1000℃を越える温度でアルカリ金属が揮発することに起因する特有の問題である。易焼結性に劣ることは、これら材料を開発する上で、主な障害となる。
【0011】
主な課題は、単相であり、微粒子化され、高密度であり、好ましくは強誘電性を改善するための優先配向度の高いセラミックスを提供することにある。高品質のセラミックス粉体は、粒経が小さく、粒経の分布が狭く、凝集度が低く、純度が高く、かつ、相純度が高いものと定義される。したがって、非鉛であり、圧電性かつ強誘電性である材料の開発において、これら成分のサブミクロン粉体は将来性が魅力的である。
【0012】
US2008/01355798に述べられているように、固相反応法を用いると、数百ナノメートルよりも大きい粒径となる。許容可能な大きさの粒子を製造するために、US2008/01355798の発明者らは粒子を微粉砕している。粉体を固相反応法で製造する場合、異種の酸化物を互いに反応させるために高い温度が必要となる。このような高い温度では、粒子は粗雑となり、大きくなる。それゆえ、そのような粒子を微粉砕することで、一次粒子または微結晶としても知られる粒子の大きさを減少させてより小さな粒子にしなければならない。これら一次粒子を破壊するには多くのエネルギーが必要であり、例えば500nm未満のようなサブミクロンレベルまで該粒子を破壊することには問題を伴う。本発明者らは、必要とされる小さな粒子または微結晶を直接製造する方法を見出した。
【0013】
本発明の合成経路は、上記材料を構築するための安定なカチオン溶液から始まる。水溶液からの小粒径化を達成するため、噴霧熱分解を用いて酸化物の粉体を直接製造する。
【0014】
噴霧熱分解を用いることで、高品質の粉体を大きなスケールで製造することができる。本発明の方法を応用して、ニオブ酸アルカリ金属塩あるいは混合ニオブ−タンタル酸化物固溶体を形成することができる。また、ドーパントの塩、例えば硝酸塩を溶液に添加することにより、少量の他の元素を組成物にドープすることもできる。
【発明の概要】
【0015】
本発明の一態様によれば、式(I):
αNbβγ3-δ (I)
(式中、
Dはアルカリ金属(例えば、Li、Na、K、Rb、Csおよび/またはFr)、アルカリ土類金属(Ba、Ca、Mgおよび/またはSrなど)、Laおよび/またはBiであり;
Eは、Ta、Sbおよび/またはFeであり;
αは、正数であり;
βは、正数であり;
γは、0または正数であり;
δは、0≦δ≦0.5の数であり;
式(I)の化合物は、ペロブスカイト構造あるいはタングステンブロンズ構造を有する。)
のニオブ化合物を製造するための方法であり、金属(D)イオン、Nbイオンおよび存在する場合は金属(E)イオンを含む溶液、例えば水溶液を噴霧熱分解することを含む方法が提供される。
【0016】
本発明の他の態様によれば、式(Ia):
1-2x-3wxwNb1-y-3/5z-uTayFezSbu3 (Ia)
(式中、
Aは、アルカリ金属、例えばLi、Na、K、Rb、Csおよび/またはFrであり;
Bは、Ba、Ca、Mgおよび/またはSrなどのアルカリ土類金属であり;
Cは、Laおよび/またはBiであり;
0≦z≦0.3;0≦u≦0.3;0≦w≦0.3;0≦x≦0.3、0≦y<1かつ0≦z≦0.3であり、
u、w、x、yおよびzの値は互いに独立であるが、y+3/5z+uの合計は1未満であって、3w+2xの合計は1未満であり;
Aは、2種以上のアルカリ金属の混合物として存在してもよく;
Bは、2種以上のアルカリ土類金属の混合物として存在してもよい。)
のアルカリ金属ニオブ酸化物を製造するための方法であり、アルカリ金属(A)イオン、Nbイオンおよび必要に応じてアルカリ土類金属イオン(B)および/またはTaイオンおよび/またはFeイオンおよび/またはSbイオンを含む溶液、例えば水溶液を噴霧熱分解することを含む方法が提供される。
【0017】
本発明の他の態様によれば、式(Ib):
1-2x-3wxwNb1-y-3/5zTayFez3 (Ib)
(式中、
Aは、アルカリ金属、例えばLi、Na、K、Rb、Csおよび/またはFrであり;
Bは、Ba、Ca、Mgおよび/またはSrなどのアルカリ土類金属であり;
Cは、Laおよび/またはBiであり;
0≦w≦0.3;0≦x≦0.3、0≦y<1かつ0≦z≦0.3であり、w、x、yおよびzの値は互いに独立であるが、y+3/5zの合計は1未満であって、3w+2xの合計は1未満であり;
Aは、2種以上のアルカリ金属の混合物として存在してもよく;
Bは、2種以上のアルカリ土類金属の混合物として存在してもよい。)
のアルカリ金属ニオブ酸化物を製造するための方法であり、アルカリ金属(A)イオン、Nbイオンおよび必要に応じてアルカリ土類金属イオン(B)および/またはTaイオンおよび/またはFeイオンを含む溶液、例えば水溶液を噴霧熱分解することを含む方法が提供される。
【0018】
本発明のさらなる他の態様によれば、式(Ic):
1-2xxNb1-yTay3 (Ic)
(式中、
Aは、アルカリ金属、例えばLi、Na、K、Rb、Csおよび/またはFrであり;
Bは、Ba、Ca、Mgおよび/またはSrなどのアルカリ土類金属であり;
0≦x≦0.3および0≦y<1であり、xおよびyの値は互いに独立であり;
Aは、2種以上のアルカリ金属の混合物として存在してもよく;
Bは、2種以上のアルカリ土類金属の混合物として存在してもよい。)
のアルカリ金属ニオブ酸化物を製造する方法であり、アルカリ金属(A)イオン、Nbイオンおよび必要に応じてアルカリ土類金属イオン(B)および/またはTaイオンを含む溶液、例えば水溶液を噴霧熱分解することを含む方法が提供される。
【0019】
本発明の他の態様によれば、ニオブ化合物、例えば上記のように定義される方法により製造されるアルカリ金属ニオブ酸化物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
一般式(I)は、化学量論化合物および非化学量論化合物の双方を含む。D、NbおよびEの合計原子価は、両端値を含む5+と6+との間であることが好ましい。カチオンとアニオンは、安定なペロブスカイト構造あるいはタングステンブロンズ構造が形成されるような割合で存在する必要があり、好ましくはペロブスカイト構造が形成されるような割合で存在する必要がある。
【0021】
αの値は、少なくとも0.5の正数、より好ましくは少なくとも0.8の正数、例えば少なくとも0.9の正数であることが好ましい。αの最大値は、好ましくは1である。
【0022】
βは、少なくとも0.8の正数、より好ましくは少なくとも0.9の正数であることがより好ましい。理想的には、βが1であり、好ましくはβの値は1を越えない。
【0023】
γは、0または0.3以下の正数であることが好ましい。
【0024】
δは、好ましくは0≦δ≦0.3の数であり、特には0≦δ≦0.1の数である。酸素OのサイトおよびカチオンDのサイトのいずれか一方あるいは両方は非化学量論的であってもよく、それゆえδとαの値は互いに独立である。αの値は、化学量論値(例えば1または2)に一致するか、あるいは、化学量論値の0.1未満までの数であることが好ましい。特に好ましくは、非化学量論性は酸素サイトに限定される、すなわち、αは化学量論値に一致する。
【0025】
Eは、2つ以上の金属の混合物として存在してもよく、あるいは、1つの金属として存在してもよい。好ましくは、EはTaであるか不在である。Dは、2つ以上の金属の混合物として存在してもよく、あるいは、1つの金属として存在してもよい。Dの定義は、Aの定義と一致することが好ましく、すなわち、アルカリ金属であることが好ましい。したがって、Dは、2つのアルカリ金属イオンの混合物として存在してもよい。
【0026】
本発明の化合物は、基本的には化学量論的であることが好ましい。したがって、本発明は、化学量論化合物を参照してさらに定義することもできる。しかし、式(Ia−c)に関連して下記に説明する好ましい態様が式(I)に一般的に適用されうることが理解されるであろう。式(I)に関連して説明される態様は、同様に式(Ia−c)に適用される。多数の好ましい態様を式(Ia)を参照してさらに説明するが、これら多数の好ましい特徴は、式(Ib−c)にも適用されることも理解されるであろう。
【0027】
本発明の好ましい態様は、本発明の方法により形成される式(Ia)の化合物がドープされていない態様であり、すなわち、xの値が0であり、かつ、wの値が0である態様である。ドーピングイオンBまたはCが存在する場合は、ドーピングイオンが1つだけ存在することが好ましい。すなわち、Bイオンが存在する場合はwが0であり、また、Cイオンが存在する場合はxが0であることが好ましい。
【0028】
3w+2xの合計は、0.5未満、より好ましくは0.3未満、特には0.1未満であることが好ましい。
【0029】
本発明の他の態様によれば、式(Ia)の化合物は、xが0〜1の値となるようにドープされていてもよい。理想的には、Xの値(0でない場合)は、0.001〜0.1の範囲にあり、好ましくは0.002〜0.08の範囲にあり、特には0.005〜0.05の範囲にある。好ましいドーピング金属イオン(B)は、Mg、CaまたはSrであり、特にはCaまたはSrである。これらドーピングアルカリ土類金属イオンは、明らかに2+の酸化状態にある。
【0030】
本発明の他の態様によれば、式(Ia)の化合物は、wの値が0〜0.1となるようにドープされていてもよい。理想的には、wの値(0でない場合)は0.001〜0.1の範囲、好ましくは0.002〜0.08の範囲、特には0.005〜0.05の範囲である。Cドーピングイオンは、明らかに3+の酸化状態にある。
【0031】
本発明の一態様においては、金属イオンAはどのようなアルカリ金属であってもよく、また、2種以上のアルカリ金属の混合物であってもよい。好ましくは、アルカリ金属はNaまたはKであるか、NaおよびKの混合物であり、最も好ましくはNa/Kの混合物である。2種のアルカリ金属が存在する場合は、各金属のモル比は、好ましくは0.4:0.6〜0.6:0.4の範囲であり、より好ましくは0.45:0.55〜0.55:0.45の範囲であり、最も好ましくは1:1である。非常に好ましくは、これらの比がNa/K混合ニオブ酸塩に適用される。したがって、非常に好ましい式(I)の化合物はNa0.50.5Nb1-yTa3である。
【0032】
yの値は0〜1未満の範囲、好ましくは0〜0.5の範囲で変化してもよい。酸化物がTaを含む場合は、Ta含有量すなわちyの値が、さらにより好ましくは0.05〜0.3であり、最も好ましくは0.075〜0.15である。
【0033】
本発明の化合物には、Taに替えてあるいはTaに加えてFeが任意にドープされていてもよい。しかし、Feが存在しないことが好ましい。Feが存在する場合は、Fe含有量すなわちzが0〜0.1の範囲、好ましくは0〜0.07の範囲にあることが好ましい。 本発明では、Feは、明らかに3+の酸化状態にある。
【0034】
本発明の化合物には、Ta/Feの替わりにあるいはTa/Feに加えてSbが任意にドープされていてもよい。しかし、Sbは存在しないことが好ましい。Sbが存在する場合は、Sb含有量すなわちuが0〜0.1の範囲、好ましくは0.01〜0.07の範囲にあることが好ましい。
【0035】
y+3/5z+uの合計が0.5未満、より好ましくは0.3未満、特に好ましくは0.1未満であることが好ましい。好ましい化合物は、FeおよびSbを含まない。非常に好ましい化合物は、TaあるいはFeのいずれも含まない、すなわちyが0でありかつzが0のものである。
【0036】
したがって、さらにより好ましい本発明の化合物は、式(II)の化合物である。
【0037】
1-2xNbO3 (II)
(式中、A、xおよびBは前記定義の通りである)。
【0038】
さらにより本発明の好ましい化合物は式(III)の化合物である。
【0039】
ANbO3 (III)
(式中、Aは前記定義の通りである)。
【0040】
さらにより好ましい本発明の化合物は、式(IV)の化合物である。
【0041】
Na1-xNbO3 (IV)
(式中、xは0と1との間であり、例えば0.5である)。
【0042】
本発明の製造方法により形成される化合物中のNbイオンまたはTaイオンは、いずれも5+の酸化状態にあることが理解されるであろう。
【0043】
式(I)または式(Ia)〜(Ic)の化合物は、ペロブスカイト型構造を有することが好ましい。
【0044】
噴霧熱分解法で形成される本発明の酸化ニオブは、非常に小さな粒経(以下、微結晶サイズともいう)、例えば、粒経または微結晶サイズが600nm未満、例えば500nm未満であることが特に好ましい。いくつかの特に好ましい態様では、粒経または微結晶サイズが250nm未満、特には100nm未満、例えば60nm未満である。ここに示した粒径は、平均粒径を表す。粒径は、表面積または電子顕微鏡観察により測定すればよい。
【0045】
本発明の好ましい特徴は、噴霧熱分解法により形成された一次粒子または微粒子が、既に、いかなる微粉砕処理をせずとも使用可能な大きさにあることである。しかし、噴霧熱分解中に形成される粒子の凝集体を破砕する必要があることもある。この破砕方法は、低エネルギー法であり、従来の高エネルギー微粉砕とは異なると考えられる。粒子の破砕は、典型的には、微粉砕機を用いて達成されるが、一次粒子の凝集体を破砕するのに必要なエネルギーは、大きな粒子を微粉砕するのに必要なエネルギーに比べて非常に小さい。
【0046】
本発明の方法は、所望の式(I)の化合物を形成するのに必要な全ての金属イオンを含む溶液を噴霧熱分解することを含む。したがって、本発明は、式(I)の酸化ニオブを形成するために必要な金属イオンの溶液を形成することに依存している。それゆえ、各反応金属イオンの溶解性の金属塩を提供する必要がある。
【0047】
いずれの金属イオンのためにも、溶解性である限り、従来の金属塩のいずれも使用できる。好ましい金属塩は、硝酸塩、シュウ酸塩および/または二シュウ酸塩、ならびに有機酸の塩、特には酢酸塩である。特に好ましいものは、硝酸塩、シュウ酸塩および/または二シュウ酸塩である。
【0048】
必要な溶液は、塩を同時にまたは連続的に溶媒に溶解することにより製造することができ、また、1以上の反応金属イオンを含む1以上の前駆体溶液を製造することを含んでもよい。当業者であれば、必要な溶液を作成する方法を考案できる。本発明では、好ましくは、Aイオンが固体塩を経由して(例えば、硝酸ナトリウムとして)加えられているNbイオンの前駆体溶液を用いる。そして、易溶性の塩は溶解する。
【0049】
溶解性のアルカリ金属(A)塩は、どのような適宜の(例えば、硝酸、塩化物、硫酸などの)カウンターイオンを用いても製造することができるし、錯化剤を適切な溶媒と用いても製造することができる。錯化剤としては、六座配位子、五座配位子、四座配位子、三座配位子または二座配位子が好適であり得るし、特に、アミノポリカルボン酸キレート剤が好適であり得る。適切な配位子としては、EDTA、シクロヘキサンジアミン四酢酸(CDTA)、DOTA、DTPAおよびエチレンジアミンが挙げられる。EDTAが好ましい。
【0050】
本発明の溶液では、好ましくは、溶媒水が用いられる。当業者であれば、金属イオンA、B、Nb、Fe、Sbおよび/またはTaの材料と共に用いるカウンターイオン/錯化剤が、存在するあらゆる他の金属イオンと不溶性の塩を形成しないことが必須であるものの、アルカリ金属塩が通常易溶性であるので、ここではあらゆる種類の塩が使用できることを理解するであろう。
【0051】
Nbの酸性度に起因して、可溶性のニオブ塩はあまり一般的ではないが、いずれの可溶性の塩も適宜使用できる。通常、Nbイオンの前駆体溶液が形成される。アルカリ金属イオンと混合されるために必要のあるNb前駆体溶液では、好ましくは溶媒として水を用いる。本発明の製造方法において、溶媒として用いるいずれの水も、pHが少なくとも4であることが好ましく、すなわち、酸性化剤、例えば硝酸が存在しないことが好ましい。好ましくは水だけを用い、特には蒸留水を用いる。酸はどうしても装置などに損傷を与えてしまうため、本発明の加工工程の間や噴霧工程の間は、酸性条件となるのを避けると有利である。
【0052】
Nb溶液を形成するための出発物質として、手頃に市販で入手できるものは、NH4NbO(C242である。Taイオンが存在する場合は、適宜これらイオンをNbに同時に導入する。シュウ酸タンタル溶液も市販のものが入手できる。
【0053】
その替わりに、NH4NbO(C242からは、シュウ酸Nb溶液を形成することはできない。NH4NbO(C242の溶液を、(例えば水酸化アンモニウムを用いて)例えば約pH11に塩基性化するとニオブ酸が形成されて沈殿する。NH4NbO(C242の塩基化溶液を、高温(例えば50〜100℃)で数時間(例えば6時間)熟成してもよく、次いで、アンモニア溶液などの塩基の存在下で材料を遠心分離する前に、約2倍の高温時間(例えば12時間)、室温で静置してもよい。熟成工程により、酸性の沈殿物の生成と粒子の凝集が生じると考えられる。塩基の存在下での遠心分離は、シュウ酸イオンを除去するために行う洗浄工程である。この洗浄工程は、シュウ酸塩が確実にすべて除去されるように、何度か繰り返してもよい。
【0054】
遠心分離機から分離された固体材料は、加えた塩基によりシュウ酸が除去されるので、シュウ酸を含んでおらず、酒石酸、クエン酸またはリンゴ酸などの多価カルボン酸(multicarboxylated acid)に再溶解してもよい。ここではリンゴ酸が好ましい。高温(例えば50〜100℃)で攪拌した後、Nbイオンの溶液が形成される。このように、Nbイオンは、リンゴ酸錯体の形態で溶液中に存在してもよいし、その他の多価カルボン酸の錯体の形態で溶液中に存在してもよい。
【0055】
本発明の製造方法で用いられるNb溶液のモル濃度は、好ましくは0.01〜0.5Mの範囲、例えば0.05〜0.25Mの範囲であり、特には0.1〜0.2Mの範囲である。ここで、均一性を確保するために、攪拌、超音波処理またはその他の混合技術を用いることができる。好ましくは、Nb塩および水の混合を、少なくとも6時間かけて行う。この攪拌工程中に、例えば100℃まで、幾分昇温することも好ましい。
【0056】
次いで、A(またはDまたはEなど)およびNbのイオンと、必要に応じてTaイオン、Feイオン、SbイオンおよびBイオンおよびCイオンとは、(例えば使用する各溶液のモル濃度や最終生成物の所望の化学量論量に応じて)適切な比で混合することができ、形成される溶液は噴霧熱分解することができる。溶液の均一性を確保するために、噴霧熱分解に先立って、攪拌、超音波処理または他の攪拌技術を再度用いることができる。好ましくは、混合は少なくとも6時間かけて行う。
【0057】
製造工程を通じて用いる溶媒は、水であることが非常に好ましい。
【0058】
噴霧熱分解工程中の圧力は、1〜2barの範囲であってもよい。これは、直径が0.5〜5mm、例えば2mmのノズルを用いることで達成できる。噴霧ガスは、反応材料に不活性であるガスのいずれでもよく、好ましくは空気である。
【0059】
噴霧は、500〜1000℃、好ましくは750〜950℃、より好ましくは800〜900℃、特に好ましくは810〜870℃、例えば840〜850℃の温度で、回転炉の中に行ってもよい。温度は、理想的には、800℃を越えるべきである。
【0060】
(例えば、約400℃〜550℃の温度で)炉に存在する粉体は、サイクロン内に収集することができる。この時点での微結晶サイズは、200nm未満、特には100nm未満であることが好ましい。
【0061】
噴霧分解された材料の採取には、形成した粒子を析出表面から擦り落とす、擦り落とし工程(scraping step)を伴うべきではない。粒子がそのような表面から擦れ落ちている場合は、粒子が擦れた表面に由来する材料で汚染されている可能性がある。擦れ落ちは、噴霧熱分解が適切に行われた場合には不要の工程を上記方法にさらに追加することにもなる。
【0062】
本発明の粒子は、析出面なくして形成することもできる。むしろ、表面上に噴霧熱分解して粒子形成を誘導する必要はない。本発明の粒子は、噴霧された滴から溶媒が揮発することにより形成され、好ましくは、後述の二相ノズルによって形成される。析出は、形成された粒子の析出面からの擦れ落ちを誘導し、該粒子の汚染を引き起こすことがあるので、実際には潜在的な問題を抱えている。表面への析出は、その表面上に材料の層の形成、すなわちフィルムの形成をも引き起こす。本発明は、主に、区別可能な粒子の形成に関するものであり、基材上の薄いフィルムに関するものではない。フィルムではなく自由流動粉体を上記のように形成する、サイクロン中の粒子を収集することが好ましい。
【0063】
よって、本発明の噴霧熱分解された粒子は、自由流動粉体を形成していることが好ましい。したがって、粒子を凝集させて無定形組成物としたり、基材状にフィルム層として形成させたりすべきではない。噴霧熱分解直後に自由流動粉体を形成することは、本発明のさらに好ましい特徴である。ひいては、噴霧熱分解直後に形成された粒子が好ましくはいかなる表面にも付着しないことが、本発明の特徴である。
【0064】
自由流動粉体を形成することによって、粒子の粒度分布がより良好になる。特に、本発明の粒子は、D(v,0.5)=1〜40μmに相当する(Malvern)粒度分布を有し、D(v,0.5)に対するD(v,0.9)−D(v,0.1)の比の値が1未満であることが好ましい。好ましくは、D(v,0.5)値が1〜20μmである。これらの値は、噴霧熱分解直後かつ続く処理工程の前に達成される。
【0065】
噴霧熱分解後に形成される粒子は、ペロブスカイト結晶構造またはタングステンブロンズ結晶構造を有する。
【0066】
粒径の制御は、本発明の重要な一面である。制御を最善なものとするために、本発明の噴霧熱分解法においては、好ましくは、噴霧熱分解技術または火炎熱分解技術を用いる。これら技術においては、噴霧、良好な粒径分布および良好な収率を確保するため、二相ノズル配置(two phase nozzle arrangement)を利用してもよい。超音波噴霧を噴霧熱分解に用いることもあるが、スケールアップの点と粒径制御の点から制限を受ける。超音波噴霧は、研究室では許容されうるが、数グラムを越える材料を製造する際に用いることは実用的ではない。したがって、本発明では、好ましくは、噴霧熱分解時には、二相ノズル配置を用いる。
【0067】
この配列では、粒子前駆体材料がエマルジョンまたは溶液の形態で提供され、二相ノズル中に噴霧されて、炎または炉などのホットゾーン(hot zone)を流れる。ホットゾーンでは、各滴が粒子へと変換され、溶媒/エマルジョン成分などがいずれも気体へと分解される。粒径は、滴の大きさを変えることで制御できる。滴の大きさは、ノズルの出口を操作することで、次々に制御される。Langmuir 2009,25,3402〜3406頁には、酸化イットリウム粒子の製造における火炎噴霧熱分解の使用について記載があり、当業者はこの文献からこの既知方法の詳細を得られる。
【0068】
特に、熱分解法では、溶液(例えば水溶液)と空気との流体混合物を生成するための混合手段を、非常に微細な滴の噴流を生成するノズルアッセンブリを提供するための噴霧ノズルと組合わせる。ノズルアッセンブリは、炉などのホットゾーンに接続して用いる。混合手段は、パイプを有しており、ホットゾーンの外側には、スペースを設けて離された、溶液用および空気用の注入口を有する。空気を加速させるために、直径が小さくなっていくノズルが、注入口間のパイプの穴の中に設置されている。
【0069】
空気は、溶液に接触し、乱流の状態でパイプの穴を流れて「気泡流」混合物として知られるものを生成する。該混合物は、ホットゾーン内のノズルに供される。ノズルは、注入口;流れを(好ましくは超音速まで)加速させて滴の大きさを減少させるために半径が減少する第一の収縮部;混合物が減速し、また、衝撃波を誘導できる、直径が大きくなっていく拡散部;第一の収縮部よりも混合物を加速させるように作用する第二の収縮部;および噴流または噴霧を生成するためのオリフィス出口を有する。ノズルアッセンブリは、1〜10μmの領域の滴を生成するように設計される。
【0070】
二相ノズル配置の使用は、当業者にはよく知られている。
【0071】
噴霧熱分解工程後に形成された粉体は強磁性材料として直接使用することもできうる。しかし、噴霧熱分解反応の生成物は、通常、燃焼しなかった有機材料や分解されなかった塩から生じた微量のアニオンを含んでいる。それらは、焼成(例えば500〜1000℃、好ましくは550℃〜850℃、例えば約600℃)により除去できる。驚くべきことに、最終的な粒径は焼成が行われる温度により制御でき、低温であるほどより小さな粒径となることを見出された(図5参照)。本発明の方法を実施中、一次粒子または微粒子は凝集して凝集物を形成し得る。焼成前において、これら凝集物はたいてい20ミクロン未満のオーダーであるので、依然自由流動粉体に相当するものである。焼成後において、凝集物は、直径が好ましくは25〜500nm、特には25〜200nmのより小さな一次粒子の凝集物にまで粉砕されている。
【0072】
また、焼成工程により、形成された粉体の結晶化度も改善される。したがって、アルカリ金属ニオブ酸化物が結晶性固体であることは、本発明の特徴である。
【0073】
さらに、焼成して必要に応じて低エネルギーで粉砕した後に形成された生成物は、強磁性材料として直接使用することができる。本発明の他の態様によれば、前述の噴霧熱分解法を行い焼成の後に得られるアルカリ金属ニオブ酸化物を提供できる。
【0074】
しかし、焼成後に形成された粉体は微粉砕して、典型的には、湿式粉砕してその体積を減少させることも可能である。これは必須ではないが、残留しているあらゆる凝集物を一次粒子または微粒子にまで粉砕することにより微粉砕を実施することで、より一貫性のある粒径分布を確保できる。微粉砕はエタノールの存在下でも達成できる。ジルコニアが、典型的な破砕媒体である。
【0075】
この方法によって形成された粉体は、単相であり、典型的にはサブミクロンの大きさであり、凝集していない。
【0076】
この噴霧熱分解法により形成されたニオブ酸または混合ニオブ−タンタル酸化物のドーピングは、溶解性ドーピング金属イオンの塩または錯体を適切量用いることで容易に達成される。溶解性ドーピング金属イオン化合物は、存在させたい所望のドーピング金属イオンの量に応じて、噴霧熱分解前のNbイオン前駆体溶液、あらゆる金属Aイオンの前駆体溶液または混合溶液に、適当量加えることができる。添加するドーピング金属イオン(B)および/または(C)の量を反映させるために、A溶液の量を減少させる必要があることは明白であろう。
【0077】
溶液にドーピング金属イオンを導入するための便利な方法は、ドーピング金属イオンの硝酸塩がたいてい水に溶解することから、ドーピング金属イオンの硝酸塩を経由する。したがって、カルシウムドーピング金属イオンの場合には、硝酸カルシウムの溶液または硝酸カルシウムの固体をNb溶液に加えればよい。
【0078】
反応のフロースキームを図1に示す。ここに示した金属化合物はいずれも、その結晶形中に、結晶水を有していてもよいことが理解されるであろう。
【0079】
本発明の方法により形成される化合物は、好ましくは強誘電体であり、好ましくは圧電体である。強誘電性は、外部電場の印加により反転できる、材料の自発電気極性である。圧電性は、加られた機械的負荷に応答して電位を発生する能力である。
【0080】
本発明の材料は、無鉛であり、環境的に許容可能な、圧電体として今日用いられている材料の代替物となる。
【0081】
したがって、本発明の他の態様によれば、強誘電性であり、好ましくは圧電性である、前述の通り定義した方法により形成される式(I)の化合物が提供される。本発明の他の態様によれば、前述の通り定義した方法により形成される式(I)の化合物を含み、強誘電性であり、好ましくは圧電性である組成物が提供される。好ましくは、本発明による強誘電体組成物は、式(I)の化合物を、10〜50wt%、より好ましくは15〜30wt%、最も好ましくは20〜25wt%含むであろう。
【0082】
本発明の更なる態様よれば、アルカリ金属(A)イオンおよびTaイオンを含む溶液、例えば水溶液を噴霧熱分解することを含む方法によって製造される式(V)の化合物:
ATaO3 (V)
(式中、
Aは、アルカリ金属、例えば、Li、Na、L、Rb、Csおよび/またはFrであり;
Aは、2種以上のアルカリ金属の混合物として存在してもよい。)
を含む圧電トランスが提供される。
【0083】
そのような強誘電体組成物を製造するためには、前記化合物を焼結する必要がある。プレスや焼結は、公知の条件を用いて行うことができる。例えば、プレスは、典型的には、室温において、あらゆる標準的な圧力で行われる。焼結温度は、組成物に非常に依存する。通常、焼結は固相線温度に非常に近い温度で行うべきである。したがって、焼結は、化合物の固相線温度以下の温度、例えば1200℃以下、例えば800〜1150℃、特には1140℃未満、より特には1100℃未満で行うことができる。焼結は、0〜20時間、例えば3〜15時間継続して行う。
【0084】
従来技術の化合物は、粒子径が大きい点から焼結することは難しいことが判明している。本発明により、その問題は解決され、アルカリ金属が揮発する温度(例えば1000℃)よりも低い温度で焼結することが可能となる。
【0085】
したがって、上述の通り、所望の物品の形成を完結させるために、本発明の粒子を好ましくは素地に変えてから焼結させる。素地は、プレス、キャスティングなどのような適宜の技術のうちのいずれによっても形成することができる。ある一態様によれば、素地は、テープキャスティングし、必要に応じてラミネ−ションおよびプレスを行うことにより製造される。
【0086】
本発明の粒子を一度形成し、次いで、本発明の粒子からスラリーや基材上のテープキャストを形成することができる。この方法をより詳しく説明すれば、次の通りである。形成されたテープは、必要に応じて切断される。切断片は、例えば100℃以下の温度に昇温して、圧力、例えば20〜40MPaの圧力をかけて、互いに積層される。
【0087】
しかし、素地が形成されるので、焼結は、好ましくは(空気と比べて)酸素リッチな雰囲気下で達成される。例えば、酸素含量は、少なくとも30vol%であってもよく、特には少なくとも50vol%であってもよい。純酸素も焼結雰囲気として用いることができる。焼結時に酸素リッチな雰囲気を用いることで、生成物の性質を改善できることが見出された。酸素中で焼結することにより、密度が高くなり、かつ、微細構造がより制御される。純粋な酸素中で焼結した材料の密度は、理論密度に近づけることができる(例えば、理論密度の少なくとも92%、好ましくは少なくとも94%など)。
【0088】
理論にとらわれずに言えば、焼結に酸素リッチな環境を用いることで、式(I)の化合物からのアルカリ酸化物の揮発が妨げられて、密度が非常に高く維持されるものと考えられる。
【0089】
したがって、非常に好ましい態様においては、本発明の焼結方法は、酸素リッチな雰囲気中で行う。すなわち、焼結ガスの酸素含量は空気中に自然に生じている酸素含量よりも多い。焼結雰囲気の酸素含量は、好ましくは酸素25vol%よりも多く、特には酸素30vol%よりも多く、例えば純酸素である。他に存在する気体はいずれも不活性であるべきであることは理解できるであろう。1〜10barに圧縮した純酸素中で焼結を行うことにより、更なる改善を達成できる。
【0090】
さらに、本発明の焼結方法は、焼結助剤の不存在下で行うことができる。
【0091】
これは、特に理論密度に対する密度が増加するように、酸素リッチな雰囲気で上述の通り定義された式(I)の化合物を焼結することを含む方法を提供する本発明の更なる態様を形成するものである。
【0092】
本発明の他の態様によれば、上述の通り定義され、酸素リッチな雰囲気で化合物を焼結して、例えば密度を理論密度に対して少なくとも92%とする方法により得られる、式(I)の化合物が提供される。
【0093】
したがって、本発明者らは、驚くべきことに、ナノメートルの範囲の粒径を有するアルカリ金属ニオブ酸化物の固溶体を製造できることを見出した。これら粒子は、容易に焼結するので、PZTの代替として期待でき、興味深い。予測されるペロブスカイト結晶構造は、分極効率を優れたものにまで向上させ、それにより圧電性を優れたものにまで向上させていると考えられる。
【0094】
よって、本発明は、超音波装置などの医療用診断装置を含む電子光学装置を製造するためおよび/または圧電トランスを製造するために本発明の化合物を使用することも含む。前記強誘電体組成物を含む前記装置も、本発明に包含される。好ましい装置は、特に、変換器、超音波診断装置、ガス点火装置、アクセロメータ、変異変換器、アクチュエータ、センサーおよび圧電トランスである。
【0095】
本発明の他の態様によれば、前記強誘電体組成物はさらにポリマーを含んでいてもよい。ポリマーは、強磁性体化合物よりも密度が低いものであるべきである。例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリ(フッ化ビニリデン)ヘキサフルオロプロピレン、または、エポキシポリマーが挙げられる。
【0096】
本発明者らは、ここでは高密度配向セラミックス(dense textured ceramics)と称する、よりさらに改善された圧電セラミックスを製造するさらなる方法を発明した。完全に密である多結晶セラミックスを得ることが難しいことや、相安定性が特に湿気の存在下で乏しいことなど、本発明の圧電体に関連した課題はまだ存在する。
【0097】
近年にテンプレート粒成長(TGG)技術により開発された配向セラミックスは、優れた異方性電気特性を示す。高配向セラミックスは、微粒子化されたマトリックス中の大きく配向した異方性の(高いアスペクト比を有する)粒子を選択的に成長させることにより製造される。この方法は、異方性粒子(テンプレート)およびサブミクロン粒子(マトリックス)(理想的には、標的材料と同じ組成である)を使用する必要がある。マトリックスの粒子は、テンプレートと同じ結晶方向に配向した粒として成長して、高配向粒状セラミックスが得られる。マトリックスの粒径は、セラミックスを配向粒成長させ、かつ、適切に緻密化するために、テンプレートよりも非常に小さくすべきである。
【0098】
したがって、本発明の他の態様によれば、
(I)前述の通り定義された式(I)または(Ia)の化合物のサブミクロン粒子を得ること(好ましくは前述の通り定義された噴霧熱分解法を用いて)、
(II)前記式(I)または(Ia)の化合物と同じ化合物の針状粒子を得て、それらを工程(I)の粒子と溶媒中で混合してスラリーを形成すること、
(III)前記スラリーを、テープキャスティングしてフィルムを形成すること、
(IV)前記フィルムを焼結すること
を含む方法が提供される。
【0099】
本発明の高密度配向セラミックスの好ましい製造手順の図式フローチャートを図12に示す。このスキームは、KNNセラミックス(K0.5Na0.5NbO3)の形成に関連するものであるが、その原理が式(I)または(Ia)のセラミックス全てにも適用されることは明らかである。
【0100】
マトリックス成分は、所望の最終化合物のサブミクロン粒子である。サブミクロン粒子は、先に詳述に議論したように、噴霧熱分解によって形成することができる。該粒子は、好ましくは焼結されるが、微粉砕はされない。図15bは好適な粒子を示す。サブミクロン粒子なる用語は、ここでは、直径が10ミクロン未満、好ましくは5ミクロン未満の粒子を指定するために用いる。理想的には、もちろん、粒子は1ミクロン未満の大きさである。
【0101】
さらに、針状テンプレート結晶が必要である。針状のものは、典型的には、溶融塩合成により、例えば、1000℃、6時間で製造する。例えば、化合物D2Nb411は、この技術により製造する。これら化合物は、好ましくは、ペロブスカイト構造またはタングステンブロンズ構造ではない。したがって、針状テンプレート結晶は、Dが前述の通り定義された式N2Nb411の化合物から製造することが好ましい。
【0102】
針状粒子は、溶融DCl中で、(例えば800℃で30分間)化学変換することにより、式(I)の化合物に変換することができる。化学変換により製造した針状テンプレートのSEM画像を図15a)に示す。
【0103】
好適な針状寸法は、厚さ0,5〜1μm、長さ15〜20μmである。したがって、これらテンプレート粒子は、好ましくは、それら厚さの少なくとも10倍の長さである。テンプレートは、斜方晶系結晶構造を有していてもよい。
【0104】
サブミクロンマトリックス粒子およびテンプレート粒子は、いかなる比率でも混合することができる。サブミクロン粒子が過剰であることが好ましい。理想的には、サブミクロン粒子は、混合物の少なくとも75wt%、好ましくは少なくとも80wt%を形成する。テンプレート粒子は、混合物の25wt%以下、例えば20wt%以下を形成することができる。これらwt%はマトリックス含量またはテンプレート含量のみに言及するものである。テンプレート粒子は少なくとも5wt%存在すべきである。サブミクロン粒子対テンプレート粒子は、重量比で約90:10であることが好ましい。
【0105】
高密度配向セラミックスは、テープキャスティングにより製造する。そのためには、粒子のスラリーを形成することが必要となる。粒子のスラリーは、適切な溶媒、典型的には水を用いて製造することができる。また、通常は、バインダーもスラリー中で使用する。好適なバインダーとしては、PVAが挙げられる。PEGなどの可塑剤やPPGなどの消泡剤も用いることができる。分散剤を用いることも有用となりうる。
【0106】
これら成分の量は変えることができる。必要なことは、均一で脱気された、テープキャストできるスラリーを形成することである。後述する実施例は、これら化合物の使用可能な量に関する指針となる。
【0107】
用いられるテープキャスティング法としては、非常に好ましい態様においては修正ドクターブレードを用いる修正法を用いるが、従来のものであってもよい。この修正ドクターブレードは、キャストフィルム中の粒子を配向することができる複数のニードルを運ぶために導入される。これらニードルは、好ましくは、キャスティング方向に対して垂直に設置され、一列に配列される。そして、該ニードルは、キャスティング方向に、形成されるフィルムの全体にわたって引きずられる。これを図14に示す。
【0108】
この修正ドクターブレードにより粒子が配向する。形成したフィルムは乾燥することができる。フィルムは、厚さが、典型的には、20〜100μm、例えば約50μmである。
【0109】
このフィルムは、焼成することもできるし、焼結することもできる。しかし、形成したフィルムは、その厚みに起因して、強くはない。フィルムを厚くするために、従来既知の方法のように、フィルムを切断し、切断片を積層してプレスすることが好ましい。積層は、典型的には、100℃以下の温度で、50MPa以下、例えば10〜40MPaの圧力でプレスして行う。得られた積層フィルムは、厚さ1〜2.5mm、例えば2mmとすることができる。このフィルムは焼成することができ(例えば700℃以下の温度で)、素地が形成される。
【0110】
最後に、フィルムは焼結することができる。前述の通り、酸素リッチの雰囲気中で焼結を行うことが非常に好ましい。焼結温度は、900℃〜1500℃、好ましくは1000℃〜1200℃である。
【0111】
この方法により形成される高密度配向セラミックスは、擬立方晶系方向に高度に配向した粒を形成するため、特に有利な性質を有する。本発明の配向因子(F)は、好ましくは少なくとも60%であり、より好ましくは少なくとも70%であり、特に好ましくは少なくとも90%である。
【0112】
針状テンプレートの配列は、強固な結晶配向とセラミックスの最終的な密度の双方のために、極めて重要である。これは、修正テープキャスティング方法によりテンプレートを整えることで達成された、より高い未焼密度に起因するものである。
【0113】
したがって、本発明の他の態様によれば、上記方法により製造された高密度配向セラミックスが提供される。特に、本発明によれば、配列テンプレートセラミックス、すなわち、マトリックス粒子とテンプレート粒子との混合物から形成され、修正ドクターブレードを用いてテープキャスティングされ、(理想的には純酸素中で)焼成されたセラミックスの形状である、上述の通り定義される式(I)の化合物が得られる。
【0114】
本発明のこの態様は、式(I)の化合物に関連して先に説明したが、同じ原理を式(Ia)の化合物に適用することができる。理想的には、このテンプレートマトリックスの態様において、Nbサイトが非ドープであり、βが1である。
【0115】
ここで、以下の実施例と図を参照しながら本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】図1は、噴霧熱分解によるK0.5Na0.5NbO3粉体を形成するためのフロースキームを示す。
【図2】図2は、焼成および微粉砕を行う前の、噴霧熱分解により製造したK0.5Na0.5NbO3粉体の前駆体のSEM画像を示す。
【図3】図3は、空気中での噴霧熱分解の生成物であるK0.5Na0.5NbO3粉体の前駆体の熱重量分析(TGA)の結果を示す。
【図4】図4は、噴霧熱分解により製造し、600℃で12時間焼成し、48時間ボールミル処理したK0.5Na0.5NbO3粉体のSEM画像を示す。
【図5】図5は、K0.5Na0.5NbO3粉体のX線回折パターンを示す:a)粉体前駆体;b)600℃で焼成した後;c)800℃で焼成した後;d)1000℃で焼成した後。
【図6】図6は、焼成温度の作用として、K0.5Na0.5NbO3粉体の微結晶サイズおよび粒径を示す。
【図7】図7は、600℃で焼成したK0.5Na0.5NbO3粉体の粉体固結物の膨張計による測定を示す。曲線は、約850℃で焼結が開始したことを示す。はめ込み図は、冷却中の寸法変化を示し、相変換温度が約400℃であることを示している。
【図8】図8は、KNbO3のSEM画像を示す:a)粉体前駆体;b)800℃で焼成し、48時間微粉砕した粉体。
【図9】図9は、KNbO3の投影型の理論的なX線回折パターン、ならびに、噴霧熱分解して800℃で焼成することにより製造したKNbO3粉体のX線回折パターンを示す。
【図10】図10は、NaNbO3のSEM画像を示す:a)粉体前駆体;b)800℃での焼成し、48時間微粉砕した粉体。
【図11】図11は、NaNbO3の投影型の理論的なX線回折パターン、および、800℃で焼成したNaNbO3粉体のX線回折パターンを示す。
【図12】図12は、高密度配向セラミックスを形成するためのフローチャートである。
【図13】図13は、積層してプレスし、純酸素中で焼結したテープで達成された、グリーンテープに対する粒子成長における改善を示す。サブミクロン粉体から製造したKNN材料について、(a)グリーンテープ;(b)70℃、30MPaで積層し、次いで、純酸素中、1100℃で14時間焼成した20個のテープのSEM画像を示す。
【図14】図14は、本発明の修正ドクターブレードを示す。
【図15】前駆体である(a)溶融塩中、830℃でトポタクチック変換したKNN針状粒子、(b)噴霧熱分解し、600℃で焼成したKNNサブミクロン粒子。
【図16】図16は、積層し、空気中または酸素雰囲気中で、1100℃で14時間焼成したKNNテープのXRDパターンを示す。余分な相である(Na,K)2Nb411に属する回折線は、*で示されている。
【図17】図17は、10wt%テンプレートを用いたKNNテープ(正面図)のSEM画像を示す。(a)および(d)はグリーンテープ、(b)および(e)は1100℃で3時間焼成したテープ、(c)および(f)は1100℃で14時間焼成したテープ積層体である。(a)、(b)および(c)における試料は、修正ドクターブレード法を用いることによりテンプレートを配列することで作成する。(d)、(e)および(f)は、標準ドクターブレード法により作成する。
【0117】
実施例1 噴霧熱分解により調製されるK0.5Na0.5NbO3ナノ粉体
図1は、前駆体溶液およびK0.5Na0.5NbO3粉体の調製手順のフローチャートを示す。手順は次の通りである。1molアンモニウムニオブジオキサレートオキシド5水和物((NH4)NbO(C242・5H2O)(H.C.Starck))を5リットルの水に溶解して、室温で10分間攪拌し、次いで、80℃で一晩(12時間)攪拌した。溶液の濃度は、熱重量分析により正確に測定した。Nb溶液の濃度に基いて、乾燥硝酸カリウムおよび乾燥硝酸ナトリウムを適当量加えた。溶液は、室温で一晩(12時間)攪拌し、均一なK0.5Na0.5Nb水溶液を得た。該水溶液は、自作のパイロット規模の装置を用いて噴霧熱分解した。1.5barの圧縮空気とともに二相ノズルを用いて、溶液を8リットル/時間の割合で噴霧した。ノズルの直径は1mmであった。溶液は、温度が840〜850℃の範囲に保たれた回転炉の中へ直接噴霧した。炉の出口温度は450〜500℃であった。生成物(粉体前駆体と称する)をサイクロン中で収集した。粒子形態を図2に示した。粉体前駆体の熱重量分析(TGA)を図3に示す。粉体前駆体の熱重量分析(TGA)は、有機残物が存在することに起因して、基本的には緩やかに重量が減少するが、約550℃を越えると揮発物は全て揮発して重量が安定することを示している。
【0118】
得られた非常に微細な粉体前駆体を、600℃で12時間焼成して、残留物を除去し、結晶化度を向上させた。粉体は5時間乾燥微粉砕して体積を減少させた。得られたK0.5Na0.5NbO3粉体は、さらに、粉砕媒体としてのジルコニアと共に、エタノール中で48時間、ボールミル処理した。得られた粉体は、単相のサブミクロン非凝集粉体であった。図4にSEM画像を示す。粉体の相純度は、図5に示すX線回折図から立証される。(サイクロンから収集したときの)粉体前駆体でさえも高い相純度を示す。但し、該粉体前駆体はナノサイズ化された微結晶に起因するブロードなピークを有している。粉体前駆体の粒径は、熱処理(焼成)により制御できるパラメータである。図6には、600℃、800℃および1000℃で焼成した粉体について、微結晶サイズおよび粒径をそれぞれ示す。X線回折図から測定された微結晶サイズは、約20〜60nmの範囲にある。N2吸着による表面積測定に基く平均値である粒径は、600℃で焼成した後の約65nmから1000℃で焼成した後には約130nmまで増加している。600℃で焼成して調製したK0.5Na0.5NbO3微粉体は、膨張計の結果を示す図7において約850℃で焼成が開始していることからわかるように、優れた焼成性を示す。
【0119】
実施例2 噴霧熱分解により製造されるKNbO3ナノ粉体
半モルの硝酸ナトリウムと硝酸カリウムに替えて1molの硝酸カリウムを加えた以外は実施例1と同様の方法で、前駆体水溶液を製造した。前駆体溶液を実施例1に記載したように噴霧熱分解し、得られた粉体前駆体を実施例1と同様に処理した。NbO3前駆体粉体の形態と、800℃で焼成し次いで48時間ボールミル処理した粉体の形態とを図8に示す。焼成および微粉砕の後の粉体は、サブミクロン粉体からなっている。図9のX線回折図は、粉体が単相であることを示している。高密度化の開始は、1000℃と記録されている。
【0120】
実施例3 噴霧熱分解により製造されるNaNbO3ナノ粉体
1モルの硝酸カリウムに替えて1molの硝酸ナトリウムを加えた以外は実施例2と同様の方法で、前駆体水溶液を製造した。前駆体溶液を実施例1に記載したように噴霧熱分解し、得られた粉体前駆体を実施例1と同様に処理した。NaNbO3前駆体粉体の形態と、800℃で焼成し次いで48時間ボールミル処理した粉体の形態とを図10に示す。焼成および微粉砕の後の粉体は、サブミクロン粉体からなっている。図11のX線回折図は、粉体が単相であることを示している。高密度化の開始は、1200℃と記録されている。
【0121】
実施例4 異方性KNN(K0.5Na0.5NbO3)の製造
異方性KNNのテンプレートの製造は、2つの工程を別途用いて行った。まず、高アスペクト比を有する非ペロブスカイト型K2Nb411化合物を、空気中、1000℃で6時間溶融塩合成して製造した。針状粒子を、800℃で30分間、溶融KCl中で化学変換することにより、KNNに変換した。化学変換により調製したKNNテンプレートのSEM画像を図15aに示す。テンプレートは、厚さ0,5〜1μm、長さ15〜20μmの寸法を有する針状形である。テンプレートは、格子パラメータがa=3,961Å、b=5,670Å、c=5,698Åであり、[001]方向に沿って高いアスペクト比を有する、斜方晶系結晶構造を有する。
【0122】
実施例5 スラリー形成
配向セラミックスは、テープキャスティングにより製造した。実施例1で得られたKNN粉体を含むスラリー(マトリックス成分を形成する)、蒸留水およびダーバン(Darvan)を混合し、得られたスラリーを約60rpmで5〜6時間分散粉砕処理した(ボールミル、YTZボール)。使用したバインダーは、15wt%PVA−蒸留水溶液であった。次いで、懸濁液に可塑剤および消泡剤を加えて、別途16〜24時間さらに微粉砕処理した。
【0123】
【表1】

実施例6 マトリックステープのキャスティングおよび焼結
実施例5bのスラリーを、超音波洗浄機を用いて30分間脱気し、10分間排気し、最後に、攪拌せずに30分間熟成させた.次いで、スラリーを、卓上キャスターTTC−1200(Mistler(c)、リチャード E.ミストラー社)テープキャスト装置を用い、キャリア速度約20cm/分で、Mylar(c)フィルム上にキャストした。ミストラードクターブレード(Mistler doctor blade)を使用した。
【0124】
テープを室温で12時間乾燥して、厚さが約50μmのシートを得た。テープを2×2cmの正方形に切断し、積層して、70℃で、30MPaの圧力で10分間ホットプレスして、2mm厚の圧縮粉を作成した。バインダーの燃焼は、空気中または純酸素中、加熱速度0.1℃/分で、600℃で2時間行った。試料を、純酸素中で、1050〜1100℃の範囲の温度まで200℃/時間の速度で加熱すると共に、3時間および14時間焼結した。
実施例7 テンプレート/マトリックスのキャスティングおよび焼結
実施例5aのスラリーを、超音波洗浄装置を用いて30分間脱気し、10分間排気し、最後に、攪拌せずに30分間熟成した。次いで、スラリーを、卓上キャスターTTC−1200(Mistler(c)、リチャード E.ミストラー社)テープキャスト装置を用い、キャリア速度約20cm/分で、Mylar(c)フィルム上にキャストした。
【0125】
2種のドクターブレードを使用した。Mistler(c)製の標準型(ランダム配向したテンプレートが得られる)と修正型(配列したテンプレートが得られる)である。修正ブレードは、流れ全体を多数の小さな流れに分割するため、およびキャスティング方向に沿ってそれらを配向させることができる粒子間のせん断力を増加させるための、0.5mmの距離で隔てられたニードルで作られた追加ゲートからなる。
【0126】
テープを室温で12時間乾燥して、厚さ約50μmのシートを得ることで、乾燥グリーンテープを形成させた。テープを2×2cmの正方形に切断し、積層して、70℃で、30MPaの圧力で10分間ホットプレスして、2mm厚の圧縮粉を作成した。バインダーの燃焼は、空気中または純酸素中、加熱速度0.1℃/分で、600℃で2時間行った。試料を、1050〜1100℃の範囲の温度まで200℃/時間の速度で加熱すると共に、純酸素中で3時間および14時間焼結した。
【0127】
結果を表2にまとめた。
【0128】
【表2】

Fは、X線回折により測定した配向因子−ロットゲーリングファクターである。
【0129】
図13bは、酸素中、1100℃で14時間焼結した、テンプレート粒子なしで形成したKNN材料を示す。図13aは、該材料を焼結していない材料と対比させるためのものである。
【0130】
テープキャスティングおよびホットラミネ−ションにより製造したKNN材料のSEM画像を図17に示す。図17a)、b)およびc)は、修正ドクターブレード法を用いてテープキャスティングにより製造した試料に対応し、テンプレートがテープキャスト方向に平行に配列していることが明らかである。図17d)、e)およびf)は、標準ドクターブレード法で製造した試料に対応する。この場合、テンプレートはテープキャスティング面に平行に配列しているが、テープキャスティング面内でランダム配向している。図17a)およびd)は、未加工の試料に対応し、サブミクロン粒子により囲まれたテンプレートを示す。図17b)およびe)は、1100℃で3時間焼結したセラミック圧縮粉に対応し、テンプレートとサブミクロン粒子双方の粒成長を説明するものである。特に、配列したテンプレートを用いた材料の場合は、マトリックス粒がテンプレートと同じ方向に成長していることが明らかである。1100℃で14時間焼結した材料は、図7c)およびf)に対応する。修正テープキャスティングにより製造した材料(図7c))は、テープキャスティングの方向に10〜15μmの範囲の長さに伸びた、針状型粒の規則正しいミクロ構造を示している。
実施例8 焼結雰囲気
純酸素焼結雰囲気の恩恵については、テンプレートではないKNNを、空気中または純酸素中で、1100℃で14時間焼成することにより調査した。図16は、空気中および純酸素中で焼結した試料のX線回折図を示す。酸素中での焼結では、相が純粋な材料が得られるが(図16a))、空気中で焼結した試料では、第二相(図16b)中では*で示した)が検出された。第二相は、K2Nb411の正方晶タングステン−ブロンズ(TTB)構造の指標とできる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
αNbβγ3-δ (I)
(式中、
Dは、アルカリ金属(例えば、Li、Na、K、Rb、Csおよび/またはFr)、アルカリ土類金属(Ba、Ca、Mgおよび/またはSrなど)、Laおよび/またはBiであり、2種以上の金属の混合物として存在してもよく;
EはTa、Sbおよび/またはFeであり、2種以上の金属の混合物として存在してもよく;
αは、正数であり、
βは、正数であり、
γは、0または正数であり、
δは、0≦δ≦0.5の数であり;
式(I)は、ペロブスカイト構造またはタングステンブロンズ構造を有する。)
のニオブ化合物を製造するための方法であり、金属(D)イオン、Nbイオンおよび存在する場合は金属(E)イオンを含む溶液、例えば水溶液を噴霧熱分解することを含む方法。
【請求項2】
式(Ia):
1-2x-3wNb1-y-3/5z-uTaFeSb3 (Ia)
(式中、
Aは、アルカリ金属、例えば、Li、Na、K、Rb、Csおよび/またはFrであり;
Bは、Ba、Ca、Mgおよび/またはSrなどのアルカリ土類金属であり;
CはLaおよび/またはBiであり;
0≦z≦0.3;0≦u≦0.3;0≦w≦0.3;0≦x≦0.3、0≦y<1かつ0≦z≦0.3であり、u、w、x、yおよびzの値は、互いに独立であり、但し、y+3/5z+uの合計は1未満であり、3w+2xの合計は1未満であり;
Aは、2種以上のアルカリ金属の混合物として存在していてもよく;
Bは、2種以上のアルカリ土類金属の混合物として存在していてもよい。)
のアルカリ金属ニオブ酸化物を製造するための方法であり、アルカリ金属(A)イオン、Nbイオンならびに必要に応じてアルカリ土類金属イオン(B)および/またはTaイオンおよび/またはFeイオンを含む溶液、例えば水溶液を噴霧熱分解することを含む方法。
【請求項3】
式(Ib):
1-2x-3wNb1-y-3/5zTaFe3 (Ib)
(式中、
Aは、アルカリ金属、例えば、Li、Na、K、Rb、Csおよび/またはFrであり;
Bは、Ba、Ca、Mgおよび/またはSrなどのアルカリ土類金属であり;
CはLaおよび/またはBiであり;
0≦w≦0.3;0≦x≦0.3、0≦y<1かつ0≦z≦0.3であり、w、x、yおよびzの値は、互いに独立であり、但し、y+3/5zの合計は1未満であり、3w+2xの合計は1未満であり;
Aは、2種以上のアルカリ金属の混合物として存在していてもよく;
Bは、2種以上のアルカリ土類金属の混合物として存在していてもよい。)
のアルカリ金属ニオブ酸化物を製造するための方法であり、アルカリ金属(A)イオン、Nbイオンならびに必要に応じてアルカリ土類金属イオン(B)および/またはTaイオンおよび/またはFeイオンを含む溶液、例えば水溶液を噴霧熱分解することを含む請求項2に記載された方法。
【請求項4】
式(Ic):
1-2xNb1-yTa3 (Ic)
(式中、
Aは、アルカリ金属、例えば、Li、Na、K、Rb、Csおよび/またはFrであり;
Bは、Ba、Ca、Mgおよび/またはSrなどのアルカリ土類金属であり;
0≦x≦0.3および0≦y<1であり、xおよびyの値は互いに独立であり、
Aは、2種以上のアルカリ金属の混合物として存在していてもよく;
Bは、2種以上のアルカリ土類金属の混合物として存在していてもよい。)
のアルカリ金属ニオブ酸化物を製造するための方法であり、アルカリ金属(A)イオン、Nbイオンならびに必要に応じてアルカリ土類金属イオン(B)および/またはTaイオンを含む溶液、例えば水溶液を噴霧熱分解することを含む請求項3に記載された方法。
【請求項5】
x=0である、請求項2〜4に記載の方法。
【請求項6】
w=0である、請求項2〜5に記載の方法。
【請求項7】
z=0である、請求項2〜6に記載の方法。
【請求項8】
y=0である、請求項2〜7に記載の方法。
【請求項9】
A/DがNaまたはKまたはそれらの混合物であり、特に前記化合物が下記式(IV)の化合物である、前記請求項のいずれかに記載の方法;
Na1-xNbO3 (IV)
(式中、xは0と1との間である)。
【請求項10】
y=0〜0.5である、請求項2〜9に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも800℃の温度での炉の中への前記溶液の噴霧により噴霧熱分解が行われる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記溶液が水溶液である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記水溶液が、アルカリ金属硝酸塩またはアルカリ金属シュウ酸塩のうちの少なくとも1つを含む水溶性前駆体から製造される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記前駆体が、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、アンモニウムニオブ二シュウ酸((NH4)NbO(C242)およびシュウ酸タンタルからなる群より選択される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記ニオブ化合物が噴霧熱分解直後に自由流動粉体を形成する、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記噴霧熱分解直後に形成されるニオブ化合物がいかなる表面にも付着しない、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
噴霧熱分解が、二相ノズル配置(two phase nozzle arrangement)を用いて行われる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記噴霧熱分解後に得られる粒子がペロブスカイト構造またはタングステンブロンズ構造を有する、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
さらに、噴霧熱分解された微粉体生成物をサイクロンにより収集し、500〜1000℃の温度範囲で焼成することを含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記焼成が550〜800℃の温度で行われる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
さらに、焼成された噴霧熱分解粒子から素地を形成し、該素地を焼結、好ましくは酸素リッチな雰囲気中で焼結することを含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
さらに、前記粉体を焼成後に微粉砕することを含む、請求項19または20に記載の方法。
【請求項23】
前記請求項のいずれかに記載の方法によって製造される、式(I)の金属ニオブ酸化物。
【請求項24】
請求項23に記載の化合物を含む強誘電体組成物。
【請求項25】
請求項23に記載の強誘電体組成物の、電気および/または光学装置の製造での使用。
【請求項26】
請求項23に記載の化合物を含む圧電トランス。
【請求項27】
請求項23に記載の化合物を含む医療用超音波装置。
【請求項28】
請求項1または2で定義された式(I)または(Ia)の化合物を、酸素リッチな雰囲気下で焼成することを含む方法。
【請求項29】
(I)前述の通り定義された式(I)または(Ia)の化合物のサブミクロン粒子を得ること(好ましくは前述の通り定義された噴霧熱分解法を用いて)、
(II)式(I)または(Ia)の化合物と同じ化合物の針状粒子を得て、それらを溶媒中で工程(I)の粒子と混合してスラリーを形成すること、
(III)前記スラリーをテープキャスティングしてフィルムを形成すること、
(IV)前記フィルムを焼成すること(好ましくは酸素リッチな雰囲気下で)
を含む方法。
【請求項30】
請求項29に記載の方法により製造される高密度配向セラミックス(dense textured ceramics)。
【請求項31】
配列テンプレートセラミックス、すなわち、マトリックス粒子とテンプレート粒子との混合物から形成され、修正ドクターブレードを用いてテープキャストされ、(理想的には純酸素中で)焼成されたセラミックスの形状である、請求項1または2で定義された式(I)または(Ia)の化合物。
【請求項32】
アルカリ金属(A)イオンおよびTaイオンを含む溶液、例えば水溶液を噴霧熱分解することを含む方法によって製造される下記式(V)の化合物:
ATaO3 (V)
(式中、
Aは、例えば、Li、Na、K、Rb、Csおよび/またはFrなどのアルカリ金属であり;
Aは、2種以上のアルカリ金属の混合物として存在していてもよい。)
を含む圧電トランス。


【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図11】
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【図16】
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【図2】
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【図4】
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【図8】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【公表番号】特表2012−522720(P2012−522720A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503882(P2012−503882)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際出願番号】PCT/EP2010/001359
【国際公開番号】WO2010/115493
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(512047298)
【Fターム(参考)】