説明

旋回制御装置

【課題】スムーズで安定した制動を実現して操作性を向上し得、且つブレーキディスク、ブレーキクランプ、及び制動アクチュエータ等を不要として部品点数の削減並びにメンテナンス作業の簡素化を図り得る旋回制御装置を提供する。
【解決手段】オペレータ15による足踏スイッチ18の足踏み操作に応じたブレーキ指令信号18aに基づいてモータ6の回転を減速制御するためのモータ減速制御信号19cをインバータ制御器17へ出力すると共に該インバータ制御器17に対してコントロールレバー16からの旋回指令信号16aをカットするための旋回指令遮断信号19bを出力するブレーキ制御器19を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンやパワーショベル等に用いられる上部旋回体を有する旋回制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、クレーンやパワーショベル等の建設・荷役機械においては、走行式或いは固定設置式の下部基体上に上部旋回体が旋回可能に配置されており、該上部旋回体の起動から停止までの旋回動作は、オペレータがコントロールレバーを操作することによって行われるが、旋回速度の調整並びに停止位置の位置決めには、足踏スイッチを併用することが多い。
【0003】
図4は従来における旋回制御装置の一例を示す概要構成図であって、下部基体1上に固定配置された円環部材2に、上部旋回体3の下面に一体化された旋回輪4が軸受5を介して旋回自在に載置され、前記上部旋回体3に旋回駆動用のモータ6及び減速機7が設けられ、該減速機7の出力軸8に嵌着されたピニオン9が、前記円環部材2の内周面に刻設されたリングギア10に噛合される一方、前記モータ6の回転軸11に旋回制動用のブレーキディスク12が取り付けられ、油圧や空圧式或いは電動式の制動アクチュエータ13の作動にて前記ブレーキディスク12を把持するように押圧することにより制動を行うブレーキクランプ14が配設されており、更に、オペレータ15によって手動操作されるコントロールレバー16と、該オペレータ15によるコントロールレバー16の手動操作に応じた旋回指令信号16aに基づいて前記モータ6の回転数をインバータ制御するための旋回制御信号17aを出力するインバータ制御器17と、オペレータ15によって足踏み操作される足踏スイッチ18と、該オペレータ15による足踏スイッチ18の足踏み操作に応じたブレーキ指令信号18aに基づいて前記制動アクチュエータ13の作動を制御するためのブレーキ制御信号19aを出力すると共に前記インバータ制御器17に対して前記旋回指令信号16aをカットするための旋回指令遮断信号19bを出力するブレーキ制御器19とが設けられている。
【0004】
図4に示される従来の旋回制御装置においては、オペレータ15がコントロールレバー16を手動操作すると、該オペレータ15によるコントロールレバー16の手動操作に応じた旋回指令信号16aがインバータ制御器17へ出力され、該インバータ制御器17から前記旋回指令信号16aに基づいて旋回制御信号17aがモータ6へ出力され、該モータ6の回転数がインバータ制御され、減速機7を介してピニオン9が回転駆動され、該ピニオン9が自転しつつリングギア10周りに公転し、この公転により上部旋回体3が下部基体1の垂直軸線周りに旋回駆動される。
【0005】
一方、オペレータ15が足踏スイッチ18を足踏み操作すると、該オペレータ15による足踏スイッチ18の足踏み操作に応じたブレーキ指令信号18aがブレーキ制御器19へ出力され、該ブレーキ制御器19から前記ブレーキ指令信号18aに基づいてブレーキ制御信号19aが制動アクチュエータ13へ出力され、該制動アクチュエータ13が作動してブレーキクランプ14がブレーキディスク12を把持するように押圧することにより制動が行われる。尚、前記ブレーキ制御器19からは前記インバータ制御器17に対して前記旋回指令信号16aをカットするための旋回指令遮断信号19bが出力されるため、オペレータ15が足踏スイッチ18を足踏み操作した際に、仮にコントロールレバー16が誤って操作されたとしても、前記旋回指令遮断信号19bによって前記旋回指令信号16aはカットされ、前記モータ6の回転数が無理に上げられるような心配はない。
【0006】
尚、図4に示されるような構造と類似する旋回制御装置の一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【特許文献1】特開平9−142787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述の如き従来の旋回制御装置においては、オペレータ15が足踏スイッチ18を足踏み操作した際、旋回指令遮断信号19bによって旋回指令信号16aがカットされるようになっているものの、慣性により回転を継続しようとしているブレーキディスク12をブレーキクランプ14が把持するように押圧するため、機械的な衝撃が避けられず、スムーズな制動が困難で操作性が悪く、しかも、モータ6に対してブレーキディスクを取り付けると共にブレーキクランプ及び制動アクチュエータ等を設けなければならず、ブレーキクランプ14のパッドが摩耗しやすく、該ブレーキクランプ14や制動アクチュエータ13等のメンテナンス作業も欠かせないという問題を有していた。
【0008】
本発明は、斯かる実情に鑑み、スムーズで安定した制動を実現して操作性を向上し得、且つブレーキディスク、ブレーキクランプ、及び制動アクチュエータ等を不要として部品点数の削減並びにメンテナンス作業の簡素化を図り得る旋回制御装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下部基体上に旋回自在に配設された上部旋回体をモータによって駆動するようにした旋回制御装置において、
オペレータによって手動操作されるコントロールレバーと、
該オペレータによるコントロールレバーの手動操作に応じた旋回指令信号に基づいて前記モータの回転数をインバータ制御するための旋回制御信号を出力するインバータ制御器と、
オペレータによって足踏み操作される足踏スイッチと、
該オペレータによる足踏スイッチの足踏み操作に応じたブレーキ指令信号に基づいて前記モータの回転を減速制御するためのモータ減速制御信号を前記インバータ制御器へ出力すると共に該インバータ制御器に対して前記旋回指令信号をカットするための旋回指令遮断信号を出力するブレーキ制御器と
を備えたことを特徴とする旋回制御装置にかかるものである。
【0010】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0011】
オペレータがコントロールレバーを手動操作すると、該オペレータによるコントロールレバーの手動操作に応じた旋回指令信号がインバータ制御器へ出力され、該インバータ制御器から前記旋回指令信号に基づいて旋回制御信号がモータへ出力され、該モータの回転数がインバータ制御され、上部旋回体が下部基体の垂直軸線周りに旋回駆動されるが、この状態から、オペレータが足踏スイッチを足踏み操作すると、該オペレータによる足踏スイッチの足踏み操作に応じたブレーキ指令信号に基づいてモータの回転を減速制御するためのモータ減速制御信号がブレーキ制御器からインバータ制御器へ出力されると共に該インバータ制御器に対して旋回指令信号をカットするための旋回指令遮断信号が出力されるため、従来のように、慣性により回転を継続しようとしているブレーキディスクをブレーキクランプが把持するように押圧するのとは異なり、モータ自体がインバータ制御によって減速される形となる。
【0012】
この結果、旋回運転の制動時に機械的な衝撃が発生せず、スムーズな制動が可能で操作性が良好となり、しかも、モータに対してブレーキディスクを取り付けたりブレーキクランプ及び制動アクチュエータ等を設けなくて済み、ブレーキクランプのパッドが摩耗するといった不具合が避けられ、該ブレーキクランプや制動アクチュエータ等のメンテナンス作業も行う必要がなくなる。
【0013】
前記旋回制御装置においては、前記足踏スイッチの踏込みによりモータ回転数が直線的に減少する減速度一定制御を行うよう構成することができる。
【0014】
又、前記旋回制御装置においては、前記足踏スイッチの踏込みによりモータ回転数が曲線的に減少する減速度可変制御を行うよう構成することもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の旋回制御装置によれば、スムーズで安定した制動を実現して操作性を向上し得、且つブレーキディスク、ブレーキクランプ、及び制動アクチュエータ等を不要として部品点数の削減並びにメンテナンス作業の簡素化を図り得るという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0017】
図1〜図3は本発明を実施する形態の一例であって、図中、図4と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図に示す従来のものと同様であるが、本図示例の特徴とするところは、図1に示す如く、下部基体1上に旋回自在に配設された上部旋回体3をモータ6によって駆動するようにした旋回制御装置において、オペレータ15によって手動操作されるコントロールレバー16と、該オペレータ15によるコントロールレバー16の手動操作に応じた旋回指令信号16aに基づいて前記モータ6の回転数nをインバータ制御するための旋回制御信号17aを出力するインバータ制御器17と、オペレータ15によって足踏み操作される足踏スイッチ18と、該オペレータ15による足踏スイッチ18の足踏み操作に応じたブレーキ指令信号18aに基づいて前記モータ6の回転を減速制御するためのモータ減速制御信号19cを前記インバータ制御器17へ出力すると共に該インバータ制御器17に対して前記旋回指令信号16aをカットするための旋回指令遮断信号19bを出力するブレーキ制御器19とを備えるようにした点にある。
【0018】
尚、前記モータ6の回転数n[rpm]は、周波数をf[Hz]、モータ6の極数をPとした場合、
n=120×f/P
で表され、ここで、モータ6への供給電流をI[A]、供給電圧をE[V]とすると、電力W[kW]は、
W=I×E
となり、更に、モータ6のトルクT[N・m]は、
T=9550×W/n
で表され、前記インバータ制御によるモータ6の減速制御は、前記周波数fを低下させ、前記トルクTを減速トルクとして利用し、前記モータ6の回転数nを落とすことによって行われるようになっている。
【0019】
次に、上記図示例の作用を説明する。
【0020】
オペレータ15がコントロールレバー16を手動操作すると、該オペレータ15によるコントロールレバー16の手動操作に応じた旋回指令信号16aがインバータ制御器17へ出力され、該インバータ制御器17から前記旋回指令信号16aに基づいて旋回制御信号17aがモータ6へ出力され、該モータ6の回転数nがインバータ制御され、減速機7を介してピニオン9が回転駆動され、該ピニオン9が自転しつつリングギア10周りに公転し、この公転により上部旋回体3が下部基体1の垂直軸線周りに旋回駆動されるが、この状態から、オペレータ15が足踏スイッチ18を足踏み操作すると、該オペレータ15による足踏スイッチ18の足踏み操作に応じたブレーキ指令信号18aに基づいてモータ6の回転を減速制御するためのモータ減速制御信号19cがインバータ制御器17へ出力されると共に該インバータ制御器17に対して旋回指令信号16aをカットするための旋回指令遮断信号19bが出力されるため、従来のように、慣性により回転を継続しようとしているブレーキディスク12をブレーキクランプ14が把持するように押圧する(図4参照)のとは異なり、モータ6自体がインバータ制御によって減速される形となる。
【0021】
この結果、旋回運転の制動時に機械的な衝撃が発生せず、スムーズな制動が可能で操作性が良好となり、しかも、モータ6に対してブレーキディスク12を取り付けたりブレーキクランプ14及び制動アクチュエータ13等を設けなくて済み、ブレーキクランプ14のパッドが摩耗するといった不具合が避けられ、該ブレーキクランプ14や制動アクチュエータ13等のメンテナンス作業も行う必要がなくなる。
【0022】
そして、例えば、図2(a)に示す如く、コントロールレバー16の手動操作によりモータ6の回転数nを加速させて等速とする形で上部旋回体3を旋回させた状態から、足踏スイッチ18の足踏み操作による制動を行って旋回を停止させる運転は勿論のこと、図2(b)に示す如く、コントロールレバー16の手動操作による旋回と足踏スイッチ18の足踏み操作による制動とを交互に行って旋回を停止させる運転も行うことができ、クレーンにおける吊荷の振れ止めを必要とする微妙な操作が要求されるような場合にも対処することが可能となる。
【0023】
一方、モータ6自体をインバータ制御によって減速させる形式を採用しているため、例えば、図3(a)に示す如く、前記足踏スイッチ18の踏込みによりモータ6の回転数nが直線的に減少する減速度一定制御を行うよう構成することができ、その直線の傾き即ち減速度は、仮想線で示すように大きくしたり必要に応じて選定すれば良い。尚、この場合、前記足踏スイッチ18を踏込んでから所要の踏込み量に達するまでを不感帯域とし、それ以上の踏込みにより制動がONとなるように設定することも可能となる。
【0024】
又、図3(b)に示す如く、前記足踏スイッチ18の踏込みによりモータ6の回転数nが曲線的に減少する減速度可変制御を行うよう構成することもできる。因みに、図3(b)の実線で示す曲線では、踏込み開始当初の減速度を低く設定し、該減速度が徐々に高くなって行くように設定したものであるが、図3(b)の仮想線で示す曲線のように、踏込み開始当初の減速度を高く設定し、該減速度が徐々に低くなって行くように設定しても良い。尚、減速度可変制御を行う場合も、前述と同様に、足踏スイッチ18を踏込んでから所要の踏込み量に達するまでを不感帯域とし、それ以上の踏込みにより制動がONとなるように設定しても良い。
【0025】
こうして、スムーズで安定した制動を実現して操作性を向上し得、且つブレーキディスク12、ブレーキクランプ14、及び制動アクチュエータ13等を不要として部品点数の削減並びにメンテナンス作業の簡素化を図り得る。
【0026】
尚、本発明の旋回制御装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す概要構成図である。
【図2】本発明を実施する形態の一例における運転パターンの具体例を示す線図である。
【図3】本発明を実施する形態の一例において設定される減速度制御の具体例を示す線図である。
【図4】従来における旋回制御装置の一例を示す概要構成図である。
【符号の説明】
【0028】
1 下部基体
3 上部旋回体
6 モータ
7 減速機
8 出力軸
9 ピニオン
10 リングギア
15 オペレータ
16 コントロールレバー
16a 旋回指令信号
17 インバータ制御器
17a 旋回制御信号
18 足踏スイッチ
18a ブレーキ指令信号
19 ブレーキ制御器
19b 旋回指令遮断信号
19c モータ減速制御信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部基体上に旋回自在に配設された上部旋回体をモータによって駆動するようにした旋回制御装置において、
オペレータによって手動操作されるコントロールレバーと、
該オペレータによるコントロールレバーの手動操作に応じた旋回指令信号に基づいて前記モータの回転数をインバータ制御するための旋回制御信号を出力するインバータ制御器と、
オペレータによって足踏み操作される足踏スイッチと、
該オペレータによる足踏スイッチの足踏み操作に応じたブレーキ指令信号に基づいて前記モータの回転を減速制御するためのモータ減速制御信号を前記インバータ制御器へ出力すると共に該インバータ制御器に対して前記旋回指令信号をカットするための旋回指令遮断信号を出力するブレーキ制御器と
を備えたことを特徴とする旋回制御装置。
【請求項2】
前記足踏スイッチの踏込みによりモータ回転数が直線的に減少する減速度一定制御を行うよう構成した請求項1記載の旋回制御装置。
【請求項3】
前記足踏スイッチの踏込みによりモータ回転数が曲線的に減少する減速度可変制御を行うよう構成した請求項1記載の旋回制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−184306(P2008−184306A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−21232(P2007−21232)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000198363)石川島運搬機械株式会社 (292)
【Fターム(参考)】