説明

既存建物の制震改修構造および制震改修方法

【課題】建物周囲に十分な空間的余裕がなくても、居ながらにして施工することが可能な既存建物の制震改修構造および制震改修方法を提供する。
【解決手段】建物頂部12aに設置された質量体16と、建物外周12bに設置され、質量体16の重量を支える柱14とを備え、質量体16と建物頂部12aとの間に剛性機構18および減衰機構20を介装するようにする。この場合、質量体16の重量を建物12重量の10%程度としてもよく、質量体16を倉庫、居室または屋上緑化構造を含むように構成してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存建物の制震改修構造および制震改修方法に関し、特に、居ながらにして改修することが可能な既存建物の制震改修構造および制震改修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、耐震性能が十分ではない既存不適格建物の改修では、ブレースや耐震壁の増設による耐力の増加、あるいはRC柱への鋼板巻き立てによる靭性の向上を図るのが一般的である。また、近年では、制震ダンパーの増設による振動減衰性能の向上を図る場合もある。
【0003】
しかし、上記いずれの改修にしても既存建物の内部工事が必要なため、日常の営業や執務といった建物機能を制限しなければ施工することは困難であった。
【0004】
これに対して、使用中の既存建物の外部から建物周囲に耐震部材を設置する、いわゆる“居ながら改修構法”がいくつか提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、既存建物の制震改修方法として、既存建物の頂部にエネルギー吸収部を備える上部構造を増築する方法や(例えば、特許文献2参照)、既存建物の周囲に外部フレームを設置するとともに、建物頂部に弾性体を介して付加質量体を設ける方法(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−145162号公報
【特許文献2】特開2005−171624号公報
【特許文献3】特開平11−247461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、建物周囲に相応の空間的余裕がなければ、上記の従来の特許文献1等の改修方法による工事を行うことは困難である。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、建物周囲に十分な空間的余裕がなくても、居ながらにして施工することが可能な既存建物の制震改修構造および制震改修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係る既存建物の制震改修構造は、建物頂部に設置された質量体と、前記建物外周に設置され、前記質量体の重量を支える柱とを備え、前記質量体と前記建物頂部との間に剛性機構および減衰機構を介装したことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る既存建物の制震改修構造は、上述した請求項1において、前記質量体の重量が前記建物重量の10%程度であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項3に係る既存建物の制震改修構造は、上述した請求項1または2において、前記質量体を、倉庫、居室または屋上緑化構造を含むように構成したことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項4に係る既存建物の制震改修構造は、上述した請求項1〜3のいずれか一つにおいて、前記柱を前記建物本体にローラまたはピン支持したことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項5に係る既存建物の制震改修方法は、建物頂部に質量体を設置する一方で、前記質量体の重量を支える柱を前記建物外周に設置し、前記質量体と前記建物頂部との間に剛性機構および減衰機構を設置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、建物頂部に設置された質量体と、前記建物外周に設置され、前記質量体の重量を支える柱とを備え、前記質量体と前記建物頂部との間に剛性機構および減衰機構を介装したので、建物に作用する地震力の一部は剛性機構および減衰機構を介して建物頂部の質量体に伝わり、この質量体の振動によって建物本体の振動は減衰制御される。ここで、建物外周には、質量体の重量を支える柱を設置する空間があれば足り、建物内部での工事を必要としない。したがって、建物周囲に十分な空間的余裕がなくても、居ながらにして施工することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明に係る既存建物の制震改修構造の実施例を示す正面図である。
【図2】図2は、改修前の既存建物を示す正面図である。
【図3】図3は、本発明に係る既存建物の制震改修構造の解析対象の建物を示す平面図である。
【図4】図4は、本発明に係る既存建物の制震改修構造の解析モデル化を説明する図であり、(a)は解析対象の建物を示す正面図、(b)は解析モデルを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係る既存建物の制震改修構造および制震改修方法の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0017】
図1および図2に示すように、本発明に係る既存建物の制震改修構造10は、高層の既存建物12の外周に増設した柱14と、建物12の建物頂部12a(屋上)に付加した質量体16と、この質量体16と建物頂部12aとの間に介装した剛性機構としての複数の積層ゴム支承18と、減衰機構としてのオイルダンパー20とを備える。
【0018】
このように、質量体16と建物頂部12aとの間に積層ゴム支承18およびオイルダンパー20を設置することで、TMD(同調減衰器:Tuned Mass Damper)を構成し、地震時の建物応答の改善を図っている。
【0019】
質量体16は、建物12の重量の10%程度の大重量のものである。質量体16は、倉庫、居室、休憩室、展望室または屋上緑化等の設備構造を含むように構成することができる。
【0020】
柱14は、質量体16の重量を支持するためのものであり、建物12の両側部12bを沿うように鉛直方向にそれぞれ延在している。柱14の下方は地盤2に支持され、上方は建物頂部12aを跨ぐトラス構造の架台22に接続してある。架台22上には、複数の積層ゴム支承18とオイルダンパー20とを介して質量体16が設置してある。柱14は、座屈を防止するために、適宜、建物12本体との間に設けた複数のローラ支承24により建物12に支持される。ローラ支承24の代わりにピン支承を用いてもよい。
【0021】
オイルダンパー20は、質量体16の下面中央に配置してあり、その一端は質量体16の下面に接続され、他端は架台22の上面に接続してある。
【0022】
このように、本発明の既存建物の制震改修構造10および制震改修方法では、建物側部12b周辺の外部工事は柱14の増設だけである。そして、この増設柱14が建物屋上12aに追加した質量体16の重量を支える。増設柱14には、従来の特許文献3のように特別な耐震要素を設ける必要がないので、建物12周辺の外部工事に必要な空間的余裕は少なくて済む。
【0023】
TMDは、建物12(主架構)の固有振動数と質量体16(付加系)の固有振動数とを適切に同調させることで、建物12(主架構)の応答の低減を図る同調減衰器である。質量体16による付加質量はある程度大きいほうが望ましいが、あまり大き過ぎると建物12の荷重負担が大きくなるため、通常は、建物12の有効質量の1%程度とするのが望ましい。しかし、上記の増設柱14を備える構成であれば、建物12に1%以上の質量を付加させることが可能であり、例えば、建物12の有効質量の10%程度の質量を付加させた場合には更なる応答低減を図ることができる。
【0024】
次に、本発明による制震効果について例証した数値解析について説明する。
【0025】
数値解析対象の建物の規模は、図3に示すように、平面32m×19.2mの10階建ての鉄骨造りとした。この建物の均し質量を0.8t/m2、階質量を492tと仮定すると、建物の全質量は4920tとなる。建物の有効質量を2/3と仮定して、3280tの一質点系としてモデル化する。そして、図4(a)に示す本発明の既存建物の制震改修構造10を、図4(b)に示すように、主系および付加系からなる質点系としてモデル化する。
【0026】
建物の固有周期は1秒、1次振動モードに対する減衰定数は2%とする。また、付加系の付加質量は、主系有効質量の1%(質量比μ=0.01)、10%(質量比μ=0.1)の2通りとする。
【0027】
表1に解析諸元を示す。表1には、比較対象としての主系のみ(ダンパ無し)で構成した場合と、本発明の実施の形態に相当する付加系(μ=0.01および0.1)を備える場合のそれぞれについて、解析諸元としての質量m(kg)、剛性係数k(N/m)および減衰係数c(N/m/s)が示してある。
【0028】
【表1】

【0029】
入力地震動は、財団法人日本建築センター模擬波(BCJ2)、エルセントロNS波、タフトEW波、八戸NS波の4波とする(後者3波は50kine相当である)。解析は弾性解析とする。
【0030】
表2に、解析結果(応答最大値)を示す。表2には、各構成における最大応答水平変位Umax(mm)、最大応答せん断力Qmax(×107N)、ベースシア係数(Base Shear)が示してある。
【0031】
【表2】

【0032】
表3に、付加系を備える場合の最大応答水平変位を「主系のみ(ダンパ無し)」の場合の最大応答水平変位で割った応答低減率を示す。表4に、平均的な層間変形角を示す。この層間変形角は、応答変位値を建物の等価高さ(建物高さ40mの2/3)で割った値で示してある。
【0033】
【表3】


【表4】

【0034】
表2〜表4に示すように、いずれの入力地震動の場合も、本発明に相当する構成(付加系(μ=0.01および0.1)を備える場合)は、「主系のみ(ダンパ無し)」の場合に比べて建物の振動応答が低減することがわかる。特に、質量比が10%(μ=0.1)の場合は、1%(μ=0.01)の場合に比べて、応答がより低減することがわかる。
【0035】
このように、本発明の既存建物の制震改修構造および制震改修方法によれば、建物外周空間が比較的手狭な場合であっても、建物内部工事を必要としない制震改修を施工することが可能である。また、本発明によれば、10%程度の大きな質量比の質量体を用いることが可能であることから、従来(例えば質量比1%)よりも顕著な振動応答低減を実現することができる。
【0036】
以上説明したように、本発明によれば、建物頂部に設置された質量体と、前記建物外周に設置され、前記質量体の重量を支える柱とを備え、前記質量体と前記建物頂部との間に剛性機構および減衰機構を介装したので、建物に作用する地震力の一部は剛性機構および減衰機構を介して建物頂部の質量体に伝わり、この質量体の振動によって建物本体の振動は減衰制御される。ここで、建物外周には、質量体の重量を支える柱を設置する空間があれば足り、建物内部での工事を必要としない。したがって、建物周囲に十分な空間的余裕がなくても、居ながらにして施工することができるという効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上のように、本発明に係る既存建物の制震改修構造および制震改修方法は、耐震性能が十分ではない既存不適格建物の改修に有用であり、特に、建物外周空間が比較的手狭な建物の改修を、居ながらにして施工する場合に適している。
【符号の説明】
【0038】
2 地盤
10 既存建物の制震改修構造
12 既存建物
12a 建物頂部
12b 建物側部
14 柱
16 質量体
18 積層ゴム支承(剛性機構)
20 オイルダンパー(減衰機構)
22 架台
24 ローラ支承

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物頂部に設置された質量体と、前記建物外周に設置され、前記質量体の重量を支える柱とを備え、前記質量体と前記建物頂部との間に剛性機構および減衰機構を介装したことを特徴とする既存建物の制震改修構造。
【請求項2】
前記質量体の重量が前記建物重量の10%程度であることを特徴とする請求項1に記載の既存建物の制震改修構造。
【請求項3】
前記質量体を、倉庫、居室または屋上緑化構造を含むように構成したことを特徴とする請求項1または2に記載の既存建物の制震改修構造。
【請求項4】
前記柱を前記建物本体にローラまたはピン支持したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の既存建物の制震改修構造。
【請求項5】
建物頂部に質量体を設置する一方で、前記質量体の重量を支える柱を前記建物外周に設置し、前記質量体と前記建物頂部との間に剛性機構および減衰機構を設置することを特徴とする既存建物の制震改修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−242449(P2010−242449A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95028(P2009−95028)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】