説明

既成コンクリート杭

【課題】コンクリート破砕・鉄筋はつり出し作業を簡略化できる既成コンクリート杭を提供する。
【解決手段】コンクリートにより杭本体部12を成形し、杭本体部12の一端部に除去予定コンクリート部13を連続的に形成する。杭本体部12の外周面に外殻鋼管14を設け、除去予定コンクリート部13の外周面には、外殻鋼管14のないコンクリート露出部15を成型する。杭本体部12から除去予定コンクリート部13にわたって、それらの内部に複数の軸方向鉄筋16を円筒状に配置して埋込む。軸方向鉄筋16のうち除去予定コンクリート部13に対応する部分には、軸方向鉄筋16と除去予定コンクリート部13との結合を阻止する管17をそれぞれ被嵌する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭本体部の頭部内に複数の軸方向鉄筋が埋込まれた既成コンクリート杭に関する。
【背景技術】
【0002】
既成コンクリート杭(PHC杭・SC杭)の埋設後、杭とフーチングとの結合を行なう場合、図7(a)から(b)に示されるようにSC杭(外殻鋼管コンクリート合成杭)1の頭頂部の外殻鋼管2に切れ目3,4を入れて、その杭頭頂部の外殻鋼管2のみを剥ぎ取り、図7(b)から(c)に示されるように杭本体のコンクリート5を壊して、杭製造時に予めコンクリート5内に埋め込んだ補強鉄筋6をはつり出し、図7(d)に示されるようにこれらの補強鉄筋6を介してSC杭1とフーチング7との結合を行なう施工方法が用いられている。
【0003】
このように、SC杭1の外殻鋼管2を剥す作業は、この外殻鋼管2の切断作業を伴なうため、多くの時間と労力を必要とし、さらに、外殻鋼管2は平板を巻いて溶接し成形されているため残留応力があり、外殻鋼管2の切断作業において外殻鋼管2に切り込みを入れた段階で、拘束されていた外殻鋼管2が弾けるおそれが有る。
【0004】
これに対し、コンクリート筒状体をその端面から所定の長さにわたって露出させてコンクリート筒状体の残余の部分を外殻鋼管にて被覆するSC杭がある。このSC杭は、複数のアンカー鉄筋を露出させるに際し、被覆された外殻鋼管を溶断して除去する作業上の手間を省略できる利点がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−18675号公報(第2−3頁、図4−5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような外殻鋼管の一部を省略したSC杭や、外殻鋼管を有さないPHC杭(プレストレスト高強度コンクリート杭)であっても、それらの杭頭頂部のコンクリートを壊し、補強鉄筋をはつり出す作業は必要であり、それらの作業に時間と労力がかかるため、コスト負担が増大する問題があり、コンクリート破砕時に内部の補強鉄筋を損傷するおそれもある。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、コンクリート破砕・鉄筋はつり出し作業を簡略化できる既成コンクリート杭を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載された発明は、コンクリートにより成形された杭本体部と、この杭本体部の一端部に連続的に形成された除去予定コンクリート部と、杭本体部から除去予定コンクリート部にわたってそれらの内部に埋込まれた複数の軸方向鉄筋と、これらの軸方向鉄筋のうち除去予定コンクリート部に対応する部分にそれぞれ被嵌されて軸方向鉄筋と除去予定コンクリート部との結合を阻止する管とを具備した既成コンクリート杭である。
【0009】
請求項2に記載された発明は、請求項1記載の既成コンクリート杭において、杭本体部の外周面に設けられた外殻鋼管と、除去予定コンクリート部の外周面に成型された外殻鋼管のないコンクリート露出部とを具備した既成コンクリート杭である。
【0010】
請求項3に記載された発明は、請求項1または2記載の既成コンクリート杭において、各軸方向鉄筋の外端部にそれぞれ設けられた座板嵌着部と、これらの座板嵌着部に嵌着されたリング状の座板と、この座板を締着する各軸方向鉄筋の外端部にそれぞれ形成されたネジおよびこれらのネジと螺合するナットとを具備した既成コンクリート杭である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の発明によれば、コンクリートにより成形された杭本体部から、この杭本体部の一端部に連続的に形成された除去予定コンクリート部にわたって、それらの内部に複数の軸方向鉄筋を埋込み、これらの軸方向鉄筋のうち除去予定コンクリート部に対応する部分にそれぞれ管を被嵌して軸方向鉄筋と除去予定コンクリート部との結合を阻止するので、これらの管により軸方向鉄筋との結合を阻止された除去予定コンクリート部のみを容易に抜出すことができ、コンクリートの破砕・軸方向鉄筋のはつり出し作業を簡略化でき、これらの作業に要する時間、負担および費用を削減できる。
【0012】
請求項2記載の発明によれば、部分的に外殻鋼管を無くし、除去予定コンクリート部の外周面に外殻鋼管のないコンクリート露出部を成型したので、コンクリートを露出させるために外殻鋼管の一部を剥取る作業を省略でき、鋼管剥取り作業時に生じる種々の問題を取除くことができる。
【0013】
請求項3記載の発明によれば、除去予定コンクリート部と対応する外殻鋼管を無くし、除去予定コンクリート部と対応する軸方向鉄筋の周りを管で覆ってコンクリートとの付着を無くした杭構造は、工場内移動時および施工時における既成コンクリート杭の荷扱いで、除去予定コンクリート部にひび割れを生じさせて製品価値を低下させるおそれも有しているが、各軸方向鉄筋の外端部にそれぞれ設けられた座板嵌着部にリング状の座板を嵌着し、各軸方向鉄筋の外端部にそれぞれ形成されたネジおよびこれらのネジと螺合するナットにより座板を除去予定コンクリート部に締着するので、ナットによる締付固定を解除するまでは、リング状の座板による押圧作用により除去予定コンクリート部を杭本体部に一体化でき、除去予定コンクリート部のひび割れなどの製品価値の低下を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)は本発明に係る既成コンクリート杭の一実施の形態を示す断面図、(b)は(a)のb部を拡大した断面図、(c)は(a)のc部を拡大した断面図、(d)は(a)のd部を拡大した断面図である。
【図2】同上杭の平面図である。
【図3】図1(a)のIII−III線断面図である。
【図4】図1(a)のIV−IV線断面図である。
【図5】図1(a)のV−V線断面図である。
【図6】同上杭の施工例を示す説明図であり、(a)は同上杭の斜視図、(b)は同上杭の除去予定コンクリート部を取外す工程の斜視図、(c)は同上杭の除去予定コンクリート部を取外した後の斜視図である。
【図7】従来の外殻鋼管コンクリート合成杭の施工例を示す説明図であり、(a)は同上杭の外殻鋼管に切れ目を入れた状態の斜視図、(b)は同上杭の外殻鋼管の一部を剥取った状態を示す斜視図、(c)は同上杭の補強鉄筋をはつり出した状態を示す斜視図、(d)は同上杭とフーチングとの結合状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を、図1乃至図6に示された一実施の形態に基いて詳細に説明する。
【0016】
図1は、既成コンクリート杭としての外殻鋼管コンクリート合成杭(以下、SC杭という)11を示し、コンクリートにより杭本体部12が成形され、この杭本体部12の一端部に除去予定コンクリート部13が連続的に形成されている。これらの杭本体部12および除去予定コンクリート部13は、共通の遠心成型枠内で遠心成型される。
【0017】
図1、図3および図5に示されるように、杭本体部12の外周面には外殻鋼管14が設けられ、除去予定コンクリート部13の外周面には、外殻鋼管14のないコンクリート露出部15が成型されている。
【0018】
図1(a)に示されるように杭本体部12から除去予定コンクリート部13にわたって、それらの内部に複数の軸方向鉄筋16が、図2乃至図5に示されるように円筒状に配置されて埋込まれている。
【0019】
図1(a),(b),(c)および図3に示されるように、これらの軸方向鉄筋16のうち除去予定コンクリート部13に対応する部分には、軸方向鉄筋16と除去予定コンクリート部13との結合を阻止する管17がそれぞれ被嵌されている。
【0020】
図1(b)に示されるように、各軸方向鉄筋16の外端部には座板嵌着部20がそれぞれ設けられ、これらの座板嵌着部20に、図6(b)に示されるように軸方向鉄筋位置に通孔21を有するリング状の座板22が嵌着され、各軸方向鉄筋16の外端部にネジ23がそれぞれ形成され、図1(a),(b)および図2に示されるように、これらのネジ23と螺合するナット24により座板22が締着されている。
【0021】
図1(a),(c),(d)および図4に示されるように、杭本体部12の上端および下端には、外殻鋼管14の上端および下端に溶接されたリング状の仕切座板25および底側座板26が配置されている。
【0022】
図1(a)に示されるように、円筒状に配置された複数の軸方向鉄筋16の内周側には、杭本体部12内に配筋された異形筋内リング27が設けられ、また、円筒状に配置された複数の管17の外周側には、除去予定コンクリート部13内に配筋された異形筋外リング28が設けられている。
【0023】
次に、図1および図6などを参照しながら上記実施の形態の作用効果を説明する。
【0024】
図1および図6(a)に示されるように、外殻鋼管14のうち、杭頭頂部の切断・剥がし作業を行なう部分の外殻鋼管を無くした状態のSC杭11を工場の遠心成型機により製造する。
【0025】
このSC杭11は、円筒状に配置された複数の軸方向鉄筋16が、杭本体部12の上端部から円筒状の除去予定コンクリート部13の内部を貫通して、各軸方向鉄筋16の先端部が除去予定コンクリート部13の上端面よりそれぞれ突出しており、それらの各先端部にネジ加工がそれぞれ施されているので、図1(b)に示されるように、それらの各ネジ23に、軸方向鉄筋位置に通孔21を有するリング状の座板22を嵌着して、各ネジ23に螺合したナット24でそれぞれ締付けて固定することで、荷扱い時に杭本体部12および除去予定コンクリート部13にひび割れなどが生じるおそれを防ぎ、製品としての機能を損なわないようにする。
【0026】
除去予定コンクリート部13は、従来のコンクリートを破砕して鉄筋はつり出し作業を行なう部分に相当するが、この除去予定コンクリート部13の内部に複数の軸方向鉄筋16を円周状に配置し、それらの各軸方向鉄筋16の周りをそれぞれ管17で覆って杭を製造することによって、これらの管17により除去予定コンクリート部13のコンクリートが各軸方向鉄筋16に直接付着することを無くし、除去予定コンクリート部13のコンクリートを破砕せずとも、図6(b)に示されるように、クレーン等の重機により除去予定コンクリート部13を吊り上げることで、杭本体部12から除去予定コンクリート部13を分離させ、除去予定コンクリート部13のみを各軸方向鉄筋16から引抜くことができ、図6(c)に示されるように円筒状に配置された軸方向鉄筋16を現すことが可能となる。
【0027】
このように、コンクリートにより成形された杭本体部12から、この杭本体部12の一端部に連続的に形成された除去予定コンクリート部13にわたって、それらの内部に複数の軸方向鉄筋16を埋込み、これらの軸方向鉄筋16のうち除去予定コンクリート部13に対応する部分にそれぞれ管17を被嵌して軸方向鉄筋16と除去予定コンクリート部13との結合を阻止するので、これらの管17により軸方向鉄筋16との結合を阻止された除去予定コンクリート部13のみを容易に抜出すことができ、コンクリートの破砕・軸方向鉄筋16のはつり出し作業を簡略化でき、これらの作業に要する時間、負担および費用を削減できる。はつり出し作業で各軸方向鉄筋16を損傷するおそれも防止できる。
【0028】
また、部分的に外殻鋼管14を無くし、除去予定コンクリート部13の外周面に外殻鋼管14のないコンクリート露出部15を成型したので、コンクリートを露出させるために外殻鋼管14の一部を剥取る作業を省略でき、鋼管剥取り作業時に生じる種々の問題を取除くことができる。要するに、部分的に外殻鋼管14を無くすことによって、外殻鋼管14の剥がし作業時に起きる問題を取除くとともに、外殻鋼管14および外殻鋼管取外し工程の削除によって、費用低減効果も得られる。
【0029】
さらに、除去予定コンクリート部13と対応する外殻鋼管14を無くし、除去予定コンクリート部13と対応する軸方向鉄筋16の周りを管17で覆ってコンクリートとの付着を無くした杭構造は、工場内移動時および施工時における既成コンクリート杭の荷扱いで、除去予定コンクリート部13にひび割れを生じさせて製品価値を低下させるおそれも有しているが、各軸方向鉄筋16の外端部にそれぞれ設けられた座板嵌着部20にリング状の座板22を嵌着し、各軸方向鉄筋16の外端部にそれぞれ形成されたネジ23およびこれらのネジ23と螺合するナット24により座板22を除去予定コンクリート部13に締着するので、ナット24による締付固定を解除するまでは、リング状の座板22による押圧作用により除去予定コンクリート部13を杭本体部12に一体化でき、除去予定コンクリート部13のひび割れなどの製品価値の低下を防止できる。
【0030】
すなわち、工場製造時に外殻鋼管14を無くし、杭体内の軸方向鉄筋16の周りを管17で覆い、コンクリートとの付着を無くした状態の杭構造には、工場内移動時および施工時における既成コンクリート杭の荷扱いで、杭の両端の空洞部に吊り具を掛けるか、軸方向の2箇所にワイヤロープを巻いて吊ることが多いので、除去予定コンクリート部13にひび割れが出て製品の品質を低下させるおそれも有るが、各軸方向鉄筋16の外端部にそれぞれ設けられた座板嵌着部20にリング状の座板22を嵌着し、各軸方向鉄筋16の外端部にそれぞれ形成されたネジ23およびこれらのネジ23と螺合するナット24により座板22を除去予定コンクリート部13に締着するので、この除去予定コンクリート部13に対しリング状の座板22から圧縮力を作用させるように締付けて固定することで、除去予定コンクリート部13でのひび割れなどの製品の品質低下を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、SC杭11だけでなく、プレストレスト高強度コンクリート杭(PHC杭)にも利用できる。
【符号の説明】
【0032】
11 既成コンクリート杭としての外殻鋼管コンクリート合成杭(SC杭)
12 杭本体部
13 除去予定コンクリート部
14 外殻鋼管
15 コンクリート露出部
16 軸方向鉄筋
17 管
20 座板嵌着部
22 座板
23 ネジ
24 ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートにより成形された杭本体部と、
この杭本体部の一端部に連続的に形成された除去予定コンクリート部と、
杭本体部から除去予定コンクリート部にわたってそれらの内部に埋込まれた複数の軸方向鉄筋と、
これらの軸方向鉄筋のうち除去予定コンクリート部に対応する部分にそれぞれ被嵌されて軸方向鉄筋と除去予定コンクリート部との結合を阻止する管と
を具備したことを特徴とする既成コンクリート杭。
【請求項2】
杭本体部の外周面に設けられた外殻鋼管と、
除去予定コンクリート部の外周面に成型された外殻鋼管のないコンクリート露出部と
を具備したことを特徴とする請求項1記載の既成コンクリート杭。
【請求項3】
各軸方向鉄筋の外端部にそれぞれ設けられた座板嵌着部と、
これらの座板嵌着部に嵌着されたリング状の座板と、
この座板を締着する各軸方向鉄筋の外端部にそれぞれ形成されたネジおよびこれらのネジと螺合するナットと
を具備したことを特徴とする請求項1または2記載の既成コンクリート杭。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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