既設コンクリート構造物の補強方法
【課題】コンクリート構造物の補強が必要な場合には打ち継ぎ面でずれることを抑制する補強を行うのか、または、コンクリート構造物の曲げによる破壊を抑制する補強を行うのかを決める既設コンクリート構造物の補強方法を提供する。
【解決手段】
想定する地震時の想定せん断力Pdと想定する地震時の想定曲げモーメントMdとを算出し、既設コンクリート構造物の実際の打ち継ぎ面の現有せん断伝達耐力Puと既設コンクリート構造物の実際の現有曲げ耐力Muとを算出し、想定せん断力Pdと現有せん断伝達耐力Puとを比較するとともに想定曲げモーメントMdと現有曲げ耐力Muとを比較し、想定せん断力Pdが現有せん断伝達耐力Pu以上であれば、鋼材による補強を行い、想定曲げモーメントMdが現有曲げ耐力Mu以上であれば、既設コンクリート構造物にプレストレスを導入する補強を行う。
【解決手段】
想定する地震時の想定せん断力Pdと想定する地震時の想定曲げモーメントMdとを算出し、既設コンクリート構造物の実際の打ち継ぎ面の現有せん断伝達耐力Puと既設コンクリート構造物の実際の現有曲げ耐力Muとを算出し、想定せん断力Pdと現有せん断伝達耐力Puとを比較するとともに想定曲げモーメントMdと現有曲げ耐力Muとを比較し、想定せん断力Pdが現有せん断伝達耐力Pu以上であれば、鋼材による補強を行い、想定曲げモーメントMdが現有曲げ耐力Mu以上であれば、既設コンクリート構造物にプレストレスを導入する補強を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐震のための既設コンクリート構造物の補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基礎の上面に対して略垂直に複数穿孔された所定深さの孔と、これら孔内に挿入された棒状の補強部材と、これら孔内に充填された自己硬化型充填材とを備えたコンクリート構造物が知られている(例えば、特許文献1,2など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−247302号公報
【特許文献2】特開2007−239440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したコンクリート構造物では、補強が必要である場合、地震荷重により打ち継ぎ面でずれることを抑制する補強を行うのが適しているのか、それとも、コンクリート構造物の曲げによる破壊を抑制する補強をするのが良いのかを決めることができないという問題があった。
本発明は、コンクリート構造物の補強の要否を判定するとともに、補強が必要な場合には打ち継ぎ面でずれることを抑制する補強を行うのか、または、コンクリート構造物の曲げによる破壊を抑制する補強を行うのかを決める既設コンクリート構造物の補強方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
想定する地震時の想定せん断力と想定する地震時の想定曲げモーメントとを算出し、既設コンクリート構造物の実際の打ち継ぎ面の現有せん断伝達耐力と既設コンクリート構造物の実際の現有曲げ耐力とを算出し、想定せん断力と現有せん断伝達耐力とを比較するとともに想定曲げモーメントと現有曲げ耐力とを比較し、想定せん断力が現有せん断伝達耐力未満であるとともに想定曲げモーメントが現有曲げ耐力未満であれば補強を行わず、想定せん断力が現有せん断伝達耐力以上であれば、鋼材による補強を行い、想定曲げモーメントが現有曲げ耐力以上であれば、既設コンクリート構造物にプレストレスを導入する補強を行うので、補強が必要な場合には打ち継ぎ面でずれることを抑制する補強を行うのか、または、既設コンクリート構造物の曲げによる破壊を抑制する補強を行うのかを決めることができる。
また、もう一つの発明によれば、想定する地震時の想定せん断力を算出し、既設コンクリート構造物の実際の打ち継ぎ面の現有せん断伝達耐力を算出し、想定せん断力と現有せん断伝達耐力とを比較し、想定せん断力が現有せん断伝達耐力未満であれば補強を行わず、想定せん断力が現有せん断伝達耐力以上であれば、鋼材による補強を行うので、地震により打ち継ぎ面でずれる既設コンクリート構造物の補強の要否を決めることができる。また、既設コンクリート構造物が地震荷重により打ち継ぎ面でずれることを防ぐことができる。
また、もう一つの発明によれば、想定する地震時の想定曲げモーメントを算出し、既設コンクリート構造物の実際の現有曲げ耐力を算出し、想定曲げモーメントと現有曲げ耐力とを比較し、想定曲げモーメントが現有曲げ耐力未満であれば補強を行わず、想定曲げモーメントが現有曲げ耐力以上であれば、既設コンクリート構造物にプレストレスを導入する補強を行うので、地震荷重に対して既設コンクリート構造物にじん性、曲げ耐力を向上させる補強を行うことができる。
また、もう一つの発明によれば、想定する地震時の想定せん断力と想定する地震時の想定曲げモーメントとを算出し、既設コンクリート構造物の実際の打ち継ぎ面の現有せん断伝達耐力と既設コンクリート構造物の実際の現有曲げ耐力とを算出し、想定せん断力と現有せん断伝達耐力とを比較するとともに想定曲げモーメントと現有曲げ耐力とを比較し、想定せん断力が現有せん断伝達耐力未満であるとともに想定曲げモーメントが現有曲げ耐力未満であれば補強を行わず、想定せん断力が現有せん断伝達耐力以上であれば、鋼材による補強を行い、想定曲げモーメントが現有曲げ耐力以上であれば、既設コンクリート構造物に鋼管による補強を行うので、コンクリート構造物の曲げに対する補強を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】打ち継ぎ面を備えた既設橋脚の断面図(実施形態1)。
【図2】コンクリート層が地震荷重により打ち継ぎ面でずれる状態を示す既設橋脚の断面図(実施形態1)。
【図3】既設橋脚が地震荷重によって曲がる状態を示す既設橋脚の断面図(実施形態1)。
【図4】既設橋脚の地震荷重と変位量との関係を表す特性図(実施形態1)。
【図5】既設橋脚の補強要否判定方法のフローチャート(実施形態1)。
【図6】打ち継ぎ面のずれを抑制する補強を行った既設橋脚の断面図(実施形態1)。
【図7】既設橋脚の曲げ破壊を抑制する補強を行った既設橋脚の断面図(実施形態1)。
【図8】緊張材をアンボンド鋼材とした既設橋脚の断面図(実施形態1)。
【図9】既設橋脚の補強方法のフローチャート(実施形態2)。
【図10】既設橋脚の補強方法のフローチャート(実施形態3)。
【図11】補強体として鋼管を用いた場合の橋脚を示す断面図(実施形態4)。
【図12】補強体として鋼管を用いた場合の橋脚を示す断面図(実施形態5)。
【図13】補強体として鋼管を用いた場合の橋脚を示す断面図(実施形態4)。
【図14】補強体として鋼管を用いた場合の橋脚の施工方法を示す図(実施形態5)。
【図15】補強体として鋼管を用いた場合の橋脚の施工方法を示す図(実施形態6)。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施形態1
図1に示すように、既設コンクリート構造物としての既設橋脚1は、基礎部2と橋脚本体3とにより形成される。
基礎部2は例えばフーチング基礎であり、地盤10に設けられる。
橋脚本体3は、基礎部2上に、コンクリートを複数回に分けて打ち継いで形成される。橋脚本体3の高さは例えば2〜3m以上である。
基礎部2及び橋脚本体3は、コンクリートを複数回に分けて打ち継いで形成された打ち継ぎコンクリート構造体14を構成する。打ち継ぎコンクリート構造体14は、鉄筋コンクリート構造、または、無筋コンクリート構造である。当該打ち継ぎコンクリート構造体14は、水平断面形状が、例えば、円形状または矩形状または多角形状に形成される。
上述の既設橋脚1が地震荷重に対する補強が必要である場合、地震荷重により打ち継ぎ面でずれることを抑制する鋼材による補強を行うのが適しているのか、それとも、コンクリート構造物の曲げによる破壊を抑制する既設コンクリート構造物に圧縮力を加える補強を行うのかを判別して、既設橋脚1の補強を行う。
【0008】
図1に基づいて具体的に説明する。
橋脚本体3は、例えば、コンクリートを3回に分けて打ち継いで形成される。まず、基礎部2の上面8にコンクリートを打ち継いで所定高さの第1コンクリート層11を形成した後に1日以上放置してから第1コンクリート層11の上に同様に第2コンクリート層12を形成する。以後同様に、第2コンクリート層12の上に第3コンクリート層13を形成する。つまり、水平方向に延長する打ち継ぎ面21;21,22;22が、上下方向に所定の間隔を隔てて3箇所に設けられる。
第1コンクリート層〜第3コンクリート層11;12;13同士、または、基礎部2と橋脚本体3とが一体化されていない既設橋脚1(1A)の場合、地震が発生し、打ち継ぎ面21;21,22;22同士のせん断伝達耐力(以後、現有せん断伝達耐力Puという)よりも大きなせん断力を受けると、打ち継ぎ面21;21,22;22の上部に設置された第1コンクリート層11〜第3コンクリート層13が打ち継ぎ面21;21,22;22でずれることがある。例えば、図2の破線で示すように、地震荷重Pとしてのせん断力が打ち継ぎ面21;21の現有せん断伝達耐力Puよりも大きい場合には、打ち継ぎ面21;21の上部に設置された第1コンクリート層11及び第2コンクリート層12とが打ち継ぎ面21;21に沿ってずれることがある。また、第1コンクリート層〜第3コンクリート層11;12;13同士、または、基礎部2と橋脚本体3とが一体化するようにコンクリートが打ち継がれて形成された既設橋脚1(1B)、または、第1コンクリート層〜第3コンクリート層11;12;13同士、または、基礎部2と橋脚本体3とが一体化するようにコンクリートが打ち継がれて形成されたと仮定する既設橋脚1(1B)の場合、図3の破線で示すように、地震が発生して、既設橋脚1の弾性耐力(以後現有曲げ耐力Muという)よりも大きな曲げモーメントを受けると既設橋脚1が破壊されることがある。
実施形態1では、どちらの既設橋脚1(1A,1B)であっても補強の要否を判定する。つまり、当該打ち継ぎ面21;21,22;22のずれを抑制するために、想定する地震時のせん断力(以下、想定せん断力Pdという)を算出し、既設橋脚1の補強要否の判定を行うとともに、既設橋脚1の破壊を防ぐために、想定する地震時の既設橋脚1の曲げモーメント(以後、想定曲げモーメントMdという)を算出し既設橋脚1の補強要否の判定を行う。
【0009】
既設橋脚1の補強要否を判定する方法を説明する。
図4に示すように、想定せん断力Pdが既設橋脚1の打ち継ぎ面21;21,22;22の現有せん断伝達耐力Puより大きい、または、想定曲げモーメントMdが既設橋脚1の現有曲げ耐力Muより大きければ既設橋脚1の補強を行う。また、想定せん断力Pdが既設橋脚1の打ち継ぎ面21;21,22;22の現有せん断伝達耐力Pu未満であるとともに、想定曲げモーメントMdが既設橋脚1の現有曲げ耐力Mu未満であれば補強を行わない。尚、現有曲げ耐力Muは既設橋脚の降伏点My、後述の数式3、数式4により算出する。
尚、打ち継ぎ面21;21,22;22の現有せん断伝達耐力Puは打ち継ぎ面21;21,22;22の上部に設置されたコンクリート層の自重と打ち継ぎ面21;21,22;22の摩擦係数μとを乗算した値により求められる。例えば、図2;図3に示すように、打ち継ぎ面21b;21bの現有せん断伝達耐力Puは、打ち継ぎ面21b;21bの摩擦係数μと、第1コンクリート層11と第2コンクリート層12との自重の和とを乗算した値により求められる。
尚、摩擦係数μの固体接触に関する平均値は0.45である。打ち継ぎ面21;21,22;22の不確実性を考慮してもμ=0.45/2程度は確保できると推測し、安全率を考慮して摩擦係数μは0.20を用いる。
【0010】
次に、既設橋脚1の補強要否判定方法を図5のフローチャートに基づいて詳説する。
まず、想定せん断力Pdと想定曲げモーメントMdとを算定する(ステップS1)。次に、既設橋脚1の現有耐力の算定を行う。すなわち、既設橋脚1の打ち継ぎ面21;21,22;22の現有せん断伝達耐力Puの算定を行う(ステップS2)。そして、既設橋脚の現有曲げ耐力Muの算定を行う(ステップS3)。次に、現有せん断伝達耐力Puと想定せん断力Pdとを比較するとともに、現有曲げ耐力Muと想定曲げモーメントMdとを比較する(ステップS4)。現有せん断伝達耐力Puが想定せん断力Pd以上であるとともに、現有曲げ耐力Muが想定曲げモーメントMd以上であれば、既設橋脚1に補強を行わない(ステップS4のYes)。次に、現有せん断伝達耐力Puが想定せん断力Pd未満、もしくは、現有曲げ耐力Muが想定曲げモーメントMd未満の場合には、既設橋脚1に補強を行う。現有せん断伝達耐力Puが想定せん断力Pd未満の場合、想定せん断力Pdを超える現有せん断伝達耐力Puとして必要せん断耐力Pudを算定する。また、現有曲げ耐力Muが想定曲げモーメントMd未満の場合、想定曲げモーメントMdを超える現有曲げ耐力Muとして必要曲げ耐力Mudを算定する(ステップS5)。次に、現有せん断伝達耐力Puと想定せん断力Pdとを比較する(ステップS6)。現有せん断伝達耐力Puが想定せん断力Pd未満の場合(ステップS6のNo)、既設橋脚1を打ち継ぎ面21;21,22;22でずれる既設橋脚1Aとして、必要せん断耐力Pudを満たす既設橋脚1Aの補強のための設計を行う。この既設橋脚1Aの補強のための設計は、例えば、補強材としての鋼材の断面積の設定、鋼材の設置箇所の設定、鋼材の設置本数の設定等により行われる(ステップS7)。尚、ステップS6で現有せん断伝達耐力Puが想定せん断力Pdより大きい場合、既設橋脚1を打ち継ぎ面21;21,22;22でずれることのない既設橋脚1Bであると想定する。この既設橋脚1BはステップS4のNoを経由しており、当該既設橋脚1Bの現有曲げ耐力Muが想定曲げモーメントMd未満である。このため、既設橋脚1Bに想定曲げモーメントMdを超える必要曲げ耐力Mudを満たす補強のための設計を行う。この既設橋脚1Bの補強の設計は、例えば、既設橋脚1Bに圧縮力を与える補強材としての緊張材に加える圧縮力、緊張材の断面積の設定、緊張材の設置箇所の設定、緊張材の設置本数の設定等により行われる(ステップS8)。次に、鋼材周辺のコンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdの算定、または、既設橋脚1Bに圧縮力を加えるための挿入緊張材周辺のコンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdの算定を行う。尚、コンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdの算定は後述の数式により求められる(ステップS9)。次に、押し抜きせん断耐力Vpcdと想定せん断力Pdとを比較する(ステップS10)。既設橋脚1Aの補強である鋼材周辺のコンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdが想定せん断力Pd未満であれば、(ステップS7を経由したステップS10がNo)鋼材周辺のコンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdを満たすように既設橋脚1Aの補強のための設計をやり直す(ステップ7に戻る)。また、既設橋脚1Bの補強のための緊張材周辺の押し抜きせん断耐力Vpcdが想定せん断力Pd未満であれば、(ステップS8を経由したステップS10がNo)緊張材周辺のコンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdを満たすように既設橋脚1Bの補強のための設計をやり直す(ステップ8に戻る)。鋼材周辺のコンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdが想定せん断力Pd以上の場合、既設橋脚1Aが地震荷重により打ち継ぎ面21;21,22;22でずれることを抑制する補強を行うことができる。または、緊張材周辺のコンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdが想定せん断力Pd以上の場合、既設橋脚1Bが地震荷重による打ち継ぎコンクリート構造体14の曲げによる破壊を抑制する補強を行うことができる(ステップS10のYES)。
【0011】
補強体(鋼材,緊張材)の押し抜きせん断耐力Vpcdは次の数式1により算定する。
【0012】
【数1】
【0013】
ここで、
τα1:コンクリートの許容押し抜きせん断応力度で0.8〜1.1
γb:部材係数で1.3
Aτ:せん断抵抗面積
とする。
せん断抵抗面積Aτは次の数式2により算定する。
【0014】
【数2】
【0015】
ここで、
n:鋼棒(鋼材)本数
d:鋼棒(鋼材)中心から外縁までの距離
φ:鋼棒(鋼材)の直径
L:鋼棒(鋼材)の純間隔(=鋼棒芯間隔−φ)
とする。
緊張材周辺のコンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdの算定は、前述の数式の説明で用いられた「鋼棒(鋼材)」を「緊張材」と読み替えて求めればよい。
【0016】
現有曲げ耐力Muは次の数式3,数式4に算定する。尚、数式4は簡易式である。
【0017】
【数3】
【0018】
【数4】
【0019】
ここで、
As:鋼棒(鋼材)の断面積(mm2)
fpud:アンボンド鋼棒(緊張材)の設計引張強度(N/mm2)
fpyd:アンボンド鋼棒(緊張材)の設計引張降伏強度(N/mm2)
d:有効高さ(mm)
pt:引張鋼材比(鉄筋)
f’cd:コンクリートの設計圧縮強度(N/mm2)
とする。
【0020】
既設橋脚1Aの補強について説明する。
図6に示すように、既設橋脚1Aの補強は、孔4と補強体5と、充填材6とにより形成される。
【0021】
孔4は、打ち継ぎコンクリート構造体14の外面に開口した有底孔である。例えば、孔4は、打ち継ぎコンクリート構造体14の上端面7から基礎部2に延長するように形成され、橋脚本体3中に形成された1つ以上の打ち継ぎ面21;21及び基礎部2の上面8と橋脚本体3との境界である打ち継ぎ面22;22を貫通するように設けられた一端有底で他端開口の有底孔により形成される。
補強体5は、すべての打ち継ぎ面21;21,22;22を貫通するように孔4内に設置される。補強体5としては、鋼材(鋼棒50)、その他の棒材などが用いられる。
充填材6は、打ち継ぎコンクリート構造体14の打ち継ぎ面21;21,22;22を貫通するように孔4内に設置された補強体5と孔4の内壁9との間に充填される。充填材6としては、高流動性、不分離性、無収縮性を有したモルタルやセメントミルクなどを用いる。
【0022】
図6に基づいて具体的に説明する。
孔4の形成場所は施工条件により決め、孔4の個数は設計に基づき決めればよい。例えば、孔4は、橋脚本体3の上端面7から下方に鉛直に延長し、3箇所の打ち継ぎ面21;21,22;22を貫通するように形成される。
そして、補強体5を一端側から孔4内に挿入し、補強体5の一端を孔4の孔底20に接触させて補強体5の他端部を孔4の他端開口41より孔4外に突出させた状態、または、他端部を他端開口41より孔4内に挿入した状態、または、他端部を打ち継ぎコンクリート構造体14の上端面7と面一となるような状態に設置させる。そして、当該補強体5が挿入された孔4内に充填材6を充填する。充填材6は、孔4の内壁9と孔4内に設置された補強体5の外周面との間に充填される。つまり、充填材6は、補強体5が挿入された孔4内全体に充填される。尚、孔4内への充填材6の充填は実施形態4で説明する充填装置42を用いて行えばよい。孔4を打ち継ぎコンクリート構造体14の上端面7に開口した有底孔により形成したので、孔4の形成が容易となり、また、孔4及び補強体5を鉛直または鉛直に近い状態に設置できるようになるので、地震力に対するせん断耐力や曲げ耐力、じん性がより向上する橋脚100を形成することができる。さらに、補強体5が挿入された孔4内全体に充填材6を容易に充填することができるようになり、作業性を向上できる。
また、補強体5が挿入された孔4内全体に充填材を充填したので、地震力が加わった場合、孔4内に空間がある場合に比べて補強体5のずれ防止効果が向上する。
【0023】
次に、既設橋脚1Bの補強について説明する。図7に示すように、既設橋脚1Bの補強は既設橋脚1Bにプレストレスを導入する補強であって、孔4と補強体5と、充填材6と、定着部材56とにより形成される。
補強体5としては、緊張材が用いられる。緊張材としては、PC鋼材、炭素繊維により形成された緊張材等が用いられる。PC鋼材としては、例えば、PC鋼棒(直径10mm以上の高強度鋼)、PC鋼より線(直径8mm以下の高強度鋼であるPC鋼線をより合わせたもの)などが用いられる。
定着部材56は、補強体5の一端部に取付けられる一端側定着部材57と、補強体5の他端部に取付けられる他端側定着部材58とにより構成される。一端側定着部材57は、補強体5の一端部の周面より突出する突出体により形成される。突出体は、例えば補強体5の一端部の周面に形成された図外のねじ部に螺着されて当該補強体5の一端部に固定されるナット部材により形成される。他端側定着部材58は、孔4の他端開口41を覆うように打ち継ぎコンクリート構造体14の上端面7に設置されるプレート58aと、プレート58aの中央に形成された貫通孔58bを貫通する補強体5の他端部の周面に形成された図外のねじ部に螺着されて当該補強体5の一端部に固定されるナット部材58cとにより形成される。
【0024】
補強体5の設置された孔4内に充填材6を充填して、孔4外に突出する補強体5の他端部にプレート58aの貫通孔58bを通すとともにナット部材58cを螺着し、充填材6が固化した後に補強体5の他端を図外の引張装置により引張った状態でナット部材58cをプレート58aに締結することにより、既設橋脚1に圧縮力を加える。すなわち、打ち継ぎコンクリート構造体14のコンクリートは、予め圧縮力が加えられて打ち継ぎ面21;21,22;22同士の摩擦力が増加したプレストレスコンクリートに形成される。
【0025】
図7に基づいて具体的に説明する。
一端側定着部材57を取付けた補強体5を一端側から孔4内に挿入し、補強体5の一端を孔4の孔底20に接触させて補強体5の他端部を孔4の他端開口41より孔4外に突出させた状態で、当該補強体5が挿入された孔4内に充填材6を充填する。充填材6は、孔4の内壁9と孔4内に設置された補強体5及び一端側定着部材57の外周面との間に充填される。つまり、充填材6は、一端側定着部材57を取付けた補強体5が挿入された孔4内全体に充填される。尚、孔4内への充填材6の充填は実施形態4で説明する充填装置42を用いて行えばよい。そして、孔4外に突出する補強体5の他端部にプレート58aの貫通孔58bを通すとともにナット部材58cを螺着する。充填材6が固化した後に、補強体5の他端部に図外の引張装置を取付けて補強体5を引張った状態でナット部材58cをプレート58aに締結する。これにより、充填材6が補強体5の一端部に取付けられた一端側定着部材57によって圧縮され、この圧縮力が充填材6と孔4の内壁9との付着部を介して打ち継ぎコンクリート構造体14のコンクリートに伝達される。よって、打ち継ぎコンクリート構造体14は、上記圧縮力が加えられて打ち継ぎ面21;21,22;22同士の摩擦力が増加したプレストレスコンクリートに形成されることになる。
【0026】
既設橋脚1Bの補強によれば、プレストレスの導入により打ち継ぎコンクリート構造体14の打継ぎ面21;21,22;22同士の摩擦力が大きくなり、打ち継ぎコンクリート構造体14の打ち継ぎ面のずれ防止効果が高い橋脚100となる。
また、一端側定着部材57を取付けた補強体5が挿入された孔4内全体に充填材6を充填したので、補強体5の定着が安定する。
【0027】
図8に示すように、既設橋脚1Bの緊張材としてアンボンド鋼材69を用いてもよい。アンボンド鋼材69としてはアンボンド鋼棒、アンボンド鋼より線等が用いられる。
アンボンド鋼材69は、PC棒体70と、被覆部75とを備える。被覆部75はPC棒体70の周面76に塗布した塗布材、あるいは、PC棒体70の周面76に被覆した被覆材によって形成される。塗布材は、例えば、アスファルト系ポリマーが用いられる。被覆材は、防錆材とポリプロピレンとポリエチレンシース等が用いられる。被覆材はPC棒体70の周面に巻きつけられる。
【0028】
アンボンド鋼材69を用いることによって、緊張材を用いる効果に加えて、以下の効果が得られる。アンボンド鋼材69を用いた場合、被覆部75によってPC棒体70と充填材6とが縁切りされるので、PC棒体70の中間部が充填材6に付着せず、図外の引張装置でPC棒体70を容易に引張ることができるので、容易にPC棒体70に緊張力を加えることができる。また、硬化した充填材6とPC棒体70との付着を防止できるので、PC棒体70を引張って緊張させる場合において、硬化した充填材6が破壊されにくくなり、品質の良い橋脚100となる。
【0029】
尚、既設橋脚1Aと既設橋脚1Bとの補強に際して、後述するスペーサ兼吊り部23と同様の図外のスペーサを補強体5の外周面に溶接などで取り付けておけば、孔4内に補強体5を設置した場合に補強体5の中心軸と孔4の中心軸とを一致させることができ、補強体5が傾いて孔4内に設置されることを防止できて好ましい。図外のスペーサは、少なくとも、補強体5の一端部の外周面と補強体5の他端部の外周面とに設けておけば、補強体5が傾いて孔4内に設置されることを効果的に防止できて好ましい。
【0030】
実施形態1によれば、想定する地震時の想定せん断力Pdと既設橋脚の打ち継ぎ面21;21,22;22の現有せん断伝達耐力Puとを算定するとともに、想定する地震時の想定曲げモーメントMdと既設橋脚の現有曲げ耐力Muとを算定する。また、想定せん断力Pdと打ち継ぎ面21;21,22;22の現有せん断伝達耐力Puとを比較するとともに、想定曲げモーメントMdと現有曲げ耐力Muとを比較する。これにより、既設橋脚1Aまたは既設橋脚1Bに地震荷重Pに耐えるための補強が必要かどうかを判別することができる。また、地震荷重Pに対して適した補強の設計を決めることができる。つまり、既設橋脚1にずれ対策の補強を行うか、破壊防止のための曲げ抑制の補強を行うかを決めることができる。また、必要せん断耐力Pudを算定することにより既設橋脚1に想定せん断力Pdに耐える補強を行うことができ、必要曲げ耐力Mudを算定することにより、既設橋脚1に想定曲げモーメントMdに耐える補強を行える。尚、コンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdを算定し、コンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdと想定せん断力Pdとを比較をしたので、補強体5が打ち継ぎコンクリート構造体14に挿入された補強体5の周辺のコンクリートにひび割れを発生させる押し抜き破壊の発生を防止できる。
【0031】
実施形態2
実施形態1では、既設橋脚1A,1Bの両方について補強の要否を判定したが、実施形態2では、打ち継ぎ面21;21,22;22のずれを抑制するために、想定せん断力Pdを算出し、既設橋脚1Aの補強要否の判定を行う。この場合は、図9のフローチャートに従えばよい。
【0032】
既設橋脚1Aの補強の要否を判定する方法を説明する。
想定せん断力Pdが既設橋脚1Aの打ち継ぎ面21;21,22;22の実際の現有せん断伝達耐力Puより大きければ既設橋脚1Aの補強を行うと判定する。また、想定せん断力Pdが既設橋脚1Aの打ち継ぎ面21;21,22;22の現有せん断伝達耐力Pu未満であれば補強を行わないと判定する。
【0033】
次に、図9のフローチャートに基づいて詳説する。
まず、想定せん断力Pdを算定する(ステップS21)。次に、既設橋脚1Aの現有耐力の算定を行う。すなわち、既設橋脚1Aの現有せん断伝達耐力Puの算定を行う(ステップS22)。次に、現有せん断伝達耐力Puと想定せん断力Pdとを比較する(ステップS23)。現有せん断伝達耐力Puが想定せん断力Pd以上であれば、既設橋脚1の補強を行わない(ステップS23のYes)。次に、現有せん断伝達耐力Puが想定せん断力Pd未満の場合には、既設橋脚1Aの補強を行う。そして、想定せん断力Pdを超える現有せん断伝達耐力Puとして必要せん断耐力Pudを算定する(ステップS24)。次に、必要せん断耐力Pudを満たす既設橋脚1Aの補強の設計を行う(ステップS25)。次に、鋼材周辺のコンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdの算定を行う。尚、コンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdの算定は前述の数式1、数式2とにより求められる(ステップS26)。次に、押し抜きせん断耐力Vpcdと想定せん断力Pdとを比較する(ステップS27)。押し抜きせん断耐力Vpcdが想定せん断力Pd未満であれば(ステップS27のNo)、押し抜きせん断耐力Vpcdを満たすような補強ができるように設計しなおす(ステップS25に戻る)。鋼材周辺のコンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdが想定せん断力Pd以上の場合、既設橋脚1Aが地震荷重Pにより打ち継ぎ面21;21,22;22でずれることを抑制する補強を行うことができる(ステップS27のYES)。
【0034】
実施形態2によれば、想定する地震時の想定せん断力Pdと既設橋脚の打ち継ぎ面21;21,22;22の現有せん断伝達耐力Puとを算定して、想定せん断力Pdと打ち継ぎ面21;21,22;22の現有せん断伝達耐力Puとを比較するので、既設橋脚1Aに地震荷重Pに耐えるための補強が必要かどうかを判別することができる。また、必要せん断耐力Pudを算定することにより、既設橋脚1Aは、想定せん断力Pdに耐える補強を行える。また、コンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdを算定し、コンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdと想定せん断力Pdとを比較したので、補強体5が地震時の想定せん断力Pdによって打ち継ぎコンクリート構造体14に挿入さされた補強体5の周辺のコンクリートににひび割れを発生させる押し抜き破壊の発生を防止できる。
【0035】
実施形態3
実施形態1では、既設橋脚1A,1Bの両方について補強の要否を判定したが、実施形態3では、既設橋脚1の現有曲げ耐力Muよりも大きな地震による曲げモーメントを受けることによる既設橋脚1の破壊を防ぐために、想定曲げモーメントMdを算出し、既設橋脚1Bの補強要否の判定を行う。この場合は、図10のフローチャートに従えばよい。
【0036】
既設橋脚1Bの補強の要否を判定する方法を説明する。
想定曲げモーメントMdが既設橋脚1の実際の現有曲げ耐力Muより大きければ既設橋脚1Bの補強を行うと判定する。また、想定曲げモーメントMdが既設橋脚1Bの現有曲げ耐力Mu未満であれば補強を行わないと判定する。
【0037】
次に、図10のフローチャートに基づいて詳説する。
まず、想定曲げモーメントMdを算定する(ステップS31)。次に、既設橋脚1Bの現有耐力の算定を行う。すなわち、既設橋脚1Bの現有曲げ耐力Muの算定を行う(ステップS32)。次に、現有曲げ耐力Muと想定曲げモーメントMdとを比較する(ステップS33)。現有曲げ耐力Muが想定曲げモーメントMd以上であれば、既設橋脚1Bの補強を行わない(ステップS33のYes)。次に、現有曲げ耐力Muが想定曲げモーメントMd未満の場合には、既設橋脚1Bの補強を行う。つまり、想定曲げモーメントMdを超える必要曲げ耐力Mudを算定する(ステップS34)。次に、必要曲げ耐力Mudを満たすための既設橋脚1Bの補強のための設計を行う(ステップS35)。
【0038】
実施形態3によれば、想定曲げモーメントMdと既設橋脚1Bの現有曲げ耐力Muとを算定して、想定曲げモーメントMdと既設橋脚1Bの現有曲げ耐力Muとを比較するので、既設橋脚1に地震荷重Pに耐えるための補強が必要かどうかを判別することができる。尚、必要曲げ耐力Mudを算定することにより、既設橋脚1Bに想定曲げモーメントMdに耐えうる補強を行うことができる。つまり、既設橋脚1Bにじん性、曲げ耐力を向上させる補強を行うことができる。
【0039】
実施形態4
図11に示すように、想定する地震時の想定せん断力Pdと想定する地震時の想定曲げモーメントMdとを算出し、打ち継ぎコンクリート構造体14の実際の打ち継ぎ面21;21,22;22の現有せん断伝達耐力Puと打ち継ぎコンクリート構造体14の実際の現有曲げ耐力Muとを算出し、想定せん断力Pdと現有せん断伝達耐力Puとを比較するとともに想定曲げモーメントMdと現有曲げ耐力Muとを比較し、想定せん断力Pdが現有せん断伝達耐力Pu未満であるとともに想定曲げモーメントMdが現有曲げ耐力Mu未満であれば補強を行わず、想定せん断力Pdが現有せん断伝達耐力Pu以上であれば、鋼材による補強を行い、想定曲げモーメントMdが現有曲げ耐力Mu以上であれば、打ち継ぎコンクリート構造体14に鋼管15による補強を行う。つまり、補強体5としての管体を用いる。管体として鋼管15を用いる場合は、打ち継ぎコンクリート構造体14にプレストレスを導入しない。鋼管15は、孔4の径よりも外径が小さく、かつ、孔4の長さよりも短い全長の鋼管15を用いる。鋼管15の外周面には、孔4内に鋼管15を設置した場合に鋼管15の中心軸と孔の中心軸とを一致させるためのスペーサ兼吊り部23が溶接されて設けられる。このスペーサ兼吊り部23は、少なくとも、鋼管15の一端部の外周面と鋼管15の他端部の外周面とに設けておけば、鋼管15が傾いて孔4内に設置されることを効果的に防止できて好ましい。また、鋼管15を用いることにより打ち継ぎコンクリート構造体14の曲げに対する補強を行うことができる。
【0040】
実施形態4の既設橋脚1を施工する方法は打ち継ぎコンクリート構造体14を形成した後に、図13(a)に示すように、橋脚本体3の上端面7に鋼管支持台25を設け、鋼管支持台25より吊るした吊り具26を孔4内に設置される鋼管15のスペーサ兼吊り部23に取付けることで鋼管15を孔4内に吊るす。すなわち、鋼管15の下端16が孔底20から離れた状態に維持される。そして、充填装置42を用いて孔4内に充填材6を充填する。充填装置42は、注入管24、第1連結管17、開閉弁装置27、第2連結管18、ポンプ28、第3連結管19、充填材貯蔵部29を備える。
【0041】
充填装置42を用いた充填方法について説明する。鋼管15内に可撓性を有した注入管24の一端側を挿入し、注入管24の下端16を孔底20から離れた状態に維持させ、注入管24の他端は孔4の一端開口41より上方に突出させた状態とする。第1連結管17の一端が注入管24の他端に着脱可能に繋げられ、第1連結管17の他端が開閉弁装置27の出口に繋げられる。第2連結管18の一端が開閉弁装置27の入口に繋げられ、第2連結管18の他端がポンプ28の吐出し口に繋げられる。第3連結管19の一端がポンプ28の吸込み口に繋げられ、第3連結管19の他端が充填材貯蔵部29の出口に繋げられる。開閉弁装置27の開閉弁を開いてポンプ28を駆動することで、充填材6が、充填材貯蔵部29から第3;2;1連結管19;18;17及び注入管24を経由して注入管24の下端開口30から鋼管15の外周面と孔4の内壁9との間に充填される。充填材6が橋脚本体3の上端面7まで到達したら、図13(b)に示すように、第1連結管17の一端を注入管24よりはずし、孔4の一端開口41より上方に突出させた注入管24の他端を切断する。以上により、充填材6が、孔4の内壁9と鋼管15の外周面との間、及び、鋼管15の管内に充填された橋脚100が完成する(図11;図13(c)参照)。
【0042】
実施形態4の既設橋脚1によれば、孔4を打ち継ぎコンクリート構造体14の上端面7に開口した有底孔により形成したので、孔4の形成が容易となり、また、孔4及び補強体5を鉛直または鉛直に近い状態に設置できるようになるので、地震力に対するせん断耐力や曲げ耐力、じん性がより向上する橋脚100となる。
さらに、鋼管15の管内経由で孔4内全体に充填材6を速く容易に充填することができるようになり、作業性を向上できる。
【0043】
実施形態5
図12に示すように、補強体5として下端側の周壁に管の充填材排出口31を備えた管体を用いた橋脚100とした。管体としては、鋼管35を用いる。鋼管35は、充填材排出口31を備える他は上記鋼管15と同じである。充填材排出口31は、例えば、図14(c)に示すように、鋼管35の下端部における周壁の一部を除去することにより形成される。
実施形態5の既設橋脚1を施工する方法は、まず、図14(a)に示すように、既設橋脚1の上端面7から孔4内に鋼管35を挿入し、鋼管35の下端36を孔底20に突き付ける。そして、上述した充填装置42を用いて孔4内に充填材6を充填することにより、充填材6が、鋼管35の管内及び充填材排出口31を経由して孔4の内壁9と鋼管35の外周面との間に充填される。よって、鋼管35の管内及び孔4の内壁9と鋼管35の外周面との間に充填材が充填された橋脚100が完成する(図12;図14(b)参照)。
【0044】
実施形態5によれば、実施形態4の効果に加えて、吊り具26が不要となるので、作業性が向上する。
尚、鋼管35の外周面に上述と同様のスペーサを設けておけば、孔4内に鋼管35を設置した場合に鋼管35の中心軸と孔4の中心軸とを一致させることができ、鋼管35が傾いて孔4内に設置されることを効果的に防止できて好ましい。
【0045】
充填材排出口31は、鋼管35の下端の周壁に管の内外に貫通する貫通孔により形成してもよい。また、充填材排出口31は、鋼管35の下端部に鋼管35の下端より突出する突出部を設けることによって突出部の下端を鋼管35の下端36として孔底20に突き付ける場合には、鋼管35の下端(突出部の下端)36と孔底20との間に形成される空間により形成される。
【0046】
実施形態6
上述したように、鋼管15;35を用いる場合は、図15に示すように短尺な鋼管15aや図外の鋼棒を継ぎ足していくようにしてもよい。
実施形態6によれば、実施形態3の効果に加えて、鋼管15aや図外の鋼棒を孔4内に挿入する作業が容易となる。
【0047】
補強体5として孔4の長さと同程度の全長の鋼管を用いてもよい。当該鋼管を用いる場合には、鋼管の下端(一端)36を孔底20に突き付けて鋼管を孔4内に設置する。そして、孔4内に設置された補強体5と孔4の内壁9との間と、鋼管の管内とに充填材6を充填させればよい。
【0048】
尚、本発明は、複数回のコンクリートの打継ぎにより施工されるコンクリート構造物に適用でき、橋脚以外に、橋台、擁壁のようなコンクリート構造物にも適用できる。
【0049】
既設橋脚1は打ち継ぎ面21;21,22;22の無い橋脚としてもよい。すなわち、既設橋脚1は、連続したコンクリートの打設(例えば1回)で打ち継ぎコンクリート構造体14を形成する。
【符号の説明】
【0050】
1 既設コンクリート構造物(既設橋脚)、21;22 打ち継ぎ面、
Mu 現有曲げ耐力、Md 想定曲げモーメント、Pd 想定せん断力、
Pu 現有せん断伝達耐力。
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐震のための既設コンクリート構造物の補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基礎の上面に対して略垂直に複数穿孔された所定深さの孔と、これら孔内に挿入された棒状の補強部材と、これら孔内に充填された自己硬化型充填材とを備えたコンクリート構造物が知られている(例えば、特許文献1,2など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−247302号公報
【特許文献2】特開2007−239440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したコンクリート構造物では、補強が必要である場合、地震荷重により打ち継ぎ面でずれることを抑制する補強を行うのが適しているのか、それとも、コンクリート構造物の曲げによる破壊を抑制する補強をするのが良いのかを決めることができないという問題があった。
本発明は、コンクリート構造物の補強の要否を判定するとともに、補強が必要な場合には打ち継ぎ面でずれることを抑制する補強を行うのか、または、コンクリート構造物の曲げによる破壊を抑制する補強を行うのかを決める既設コンクリート構造物の補強方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
想定する地震時の想定せん断力と想定する地震時の想定曲げモーメントとを算出し、既設コンクリート構造物の実際の打ち継ぎ面の現有せん断伝達耐力と既設コンクリート構造物の実際の現有曲げ耐力とを算出し、想定せん断力と現有せん断伝達耐力とを比較するとともに想定曲げモーメントと現有曲げ耐力とを比較し、想定せん断力が現有せん断伝達耐力未満であるとともに想定曲げモーメントが現有曲げ耐力未満であれば補強を行わず、想定せん断力が現有せん断伝達耐力以上であれば、鋼材による補強を行い、想定曲げモーメントが現有曲げ耐力以上であれば、既設コンクリート構造物にプレストレスを導入する補強を行うので、補強が必要な場合には打ち継ぎ面でずれることを抑制する補強を行うのか、または、既設コンクリート構造物の曲げによる破壊を抑制する補強を行うのかを決めることができる。
また、もう一つの発明によれば、想定する地震時の想定せん断力を算出し、既設コンクリート構造物の実際の打ち継ぎ面の現有せん断伝達耐力を算出し、想定せん断力と現有せん断伝達耐力とを比較し、想定せん断力が現有せん断伝達耐力未満であれば補強を行わず、想定せん断力が現有せん断伝達耐力以上であれば、鋼材による補強を行うので、地震により打ち継ぎ面でずれる既設コンクリート構造物の補強の要否を決めることができる。また、既設コンクリート構造物が地震荷重により打ち継ぎ面でずれることを防ぐことができる。
また、もう一つの発明によれば、想定する地震時の想定曲げモーメントを算出し、既設コンクリート構造物の実際の現有曲げ耐力を算出し、想定曲げモーメントと現有曲げ耐力とを比較し、想定曲げモーメントが現有曲げ耐力未満であれば補強を行わず、想定曲げモーメントが現有曲げ耐力以上であれば、既設コンクリート構造物にプレストレスを導入する補強を行うので、地震荷重に対して既設コンクリート構造物にじん性、曲げ耐力を向上させる補強を行うことができる。
また、もう一つの発明によれば、想定する地震時の想定せん断力と想定する地震時の想定曲げモーメントとを算出し、既設コンクリート構造物の実際の打ち継ぎ面の現有せん断伝達耐力と既設コンクリート構造物の実際の現有曲げ耐力とを算出し、想定せん断力と現有せん断伝達耐力とを比較するとともに想定曲げモーメントと現有曲げ耐力とを比較し、想定せん断力が現有せん断伝達耐力未満であるとともに想定曲げモーメントが現有曲げ耐力未満であれば補強を行わず、想定せん断力が現有せん断伝達耐力以上であれば、鋼材による補強を行い、想定曲げモーメントが現有曲げ耐力以上であれば、既設コンクリート構造物に鋼管による補強を行うので、コンクリート構造物の曲げに対する補強を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】打ち継ぎ面を備えた既設橋脚の断面図(実施形態1)。
【図2】コンクリート層が地震荷重により打ち継ぎ面でずれる状態を示す既設橋脚の断面図(実施形態1)。
【図3】既設橋脚が地震荷重によって曲がる状態を示す既設橋脚の断面図(実施形態1)。
【図4】既設橋脚の地震荷重と変位量との関係を表す特性図(実施形態1)。
【図5】既設橋脚の補強要否判定方法のフローチャート(実施形態1)。
【図6】打ち継ぎ面のずれを抑制する補強を行った既設橋脚の断面図(実施形態1)。
【図7】既設橋脚の曲げ破壊を抑制する補強を行った既設橋脚の断面図(実施形態1)。
【図8】緊張材をアンボンド鋼材とした既設橋脚の断面図(実施形態1)。
【図9】既設橋脚の補強方法のフローチャート(実施形態2)。
【図10】既設橋脚の補強方法のフローチャート(実施形態3)。
【図11】補強体として鋼管を用いた場合の橋脚を示す断面図(実施形態4)。
【図12】補強体として鋼管を用いた場合の橋脚を示す断面図(実施形態5)。
【図13】補強体として鋼管を用いた場合の橋脚を示す断面図(実施形態4)。
【図14】補強体として鋼管を用いた場合の橋脚の施工方法を示す図(実施形態5)。
【図15】補強体として鋼管を用いた場合の橋脚の施工方法を示す図(実施形態6)。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施形態1
図1に示すように、既設コンクリート構造物としての既設橋脚1は、基礎部2と橋脚本体3とにより形成される。
基礎部2は例えばフーチング基礎であり、地盤10に設けられる。
橋脚本体3は、基礎部2上に、コンクリートを複数回に分けて打ち継いで形成される。橋脚本体3の高さは例えば2〜3m以上である。
基礎部2及び橋脚本体3は、コンクリートを複数回に分けて打ち継いで形成された打ち継ぎコンクリート構造体14を構成する。打ち継ぎコンクリート構造体14は、鉄筋コンクリート構造、または、無筋コンクリート構造である。当該打ち継ぎコンクリート構造体14は、水平断面形状が、例えば、円形状または矩形状または多角形状に形成される。
上述の既設橋脚1が地震荷重に対する補強が必要である場合、地震荷重により打ち継ぎ面でずれることを抑制する鋼材による補強を行うのが適しているのか、それとも、コンクリート構造物の曲げによる破壊を抑制する既設コンクリート構造物に圧縮力を加える補強を行うのかを判別して、既設橋脚1の補強を行う。
【0008】
図1に基づいて具体的に説明する。
橋脚本体3は、例えば、コンクリートを3回に分けて打ち継いで形成される。まず、基礎部2の上面8にコンクリートを打ち継いで所定高さの第1コンクリート層11を形成した後に1日以上放置してから第1コンクリート層11の上に同様に第2コンクリート層12を形成する。以後同様に、第2コンクリート層12の上に第3コンクリート層13を形成する。つまり、水平方向に延長する打ち継ぎ面21;21,22;22が、上下方向に所定の間隔を隔てて3箇所に設けられる。
第1コンクリート層〜第3コンクリート層11;12;13同士、または、基礎部2と橋脚本体3とが一体化されていない既設橋脚1(1A)の場合、地震が発生し、打ち継ぎ面21;21,22;22同士のせん断伝達耐力(以後、現有せん断伝達耐力Puという)よりも大きなせん断力を受けると、打ち継ぎ面21;21,22;22の上部に設置された第1コンクリート層11〜第3コンクリート層13が打ち継ぎ面21;21,22;22でずれることがある。例えば、図2の破線で示すように、地震荷重Pとしてのせん断力が打ち継ぎ面21;21の現有せん断伝達耐力Puよりも大きい場合には、打ち継ぎ面21;21の上部に設置された第1コンクリート層11及び第2コンクリート層12とが打ち継ぎ面21;21に沿ってずれることがある。また、第1コンクリート層〜第3コンクリート層11;12;13同士、または、基礎部2と橋脚本体3とが一体化するようにコンクリートが打ち継がれて形成された既設橋脚1(1B)、または、第1コンクリート層〜第3コンクリート層11;12;13同士、または、基礎部2と橋脚本体3とが一体化するようにコンクリートが打ち継がれて形成されたと仮定する既設橋脚1(1B)の場合、図3の破線で示すように、地震が発生して、既設橋脚1の弾性耐力(以後現有曲げ耐力Muという)よりも大きな曲げモーメントを受けると既設橋脚1が破壊されることがある。
実施形態1では、どちらの既設橋脚1(1A,1B)であっても補強の要否を判定する。つまり、当該打ち継ぎ面21;21,22;22のずれを抑制するために、想定する地震時のせん断力(以下、想定せん断力Pdという)を算出し、既設橋脚1の補強要否の判定を行うとともに、既設橋脚1の破壊を防ぐために、想定する地震時の既設橋脚1の曲げモーメント(以後、想定曲げモーメントMdという)を算出し既設橋脚1の補強要否の判定を行う。
【0009】
既設橋脚1の補強要否を判定する方法を説明する。
図4に示すように、想定せん断力Pdが既設橋脚1の打ち継ぎ面21;21,22;22の現有せん断伝達耐力Puより大きい、または、想定曲げモーメントMdが既設橋脚1の現有曲げ耐力Muより大きければ既設橋脚1の補強を行う。また、想定せん断力Pdが既設橋脚1の打ち継ぎ面21;21,22;22の現有せん断伝達耐力Pu未満であるとともに、想定曲げモーメントMdが既設橋脚1の現有曲げ耐力Mu未満であれば補強を行わない。尚、現有曲げ耐力Muは既設橋脚の降伏点My、後述の数式3、数式4により算出する。
尚、打ち継ぎ面21;21,22;22の現有せん断伝達耐力Puは打ち継ぎ面21;21,22;22の上部に設置されたコンクリート層の自重と打ち継ぎ面21;21,22;22の摩擦係数μとを乗算した値により求められる。例えば、図2;図3に示すように、打ち継ぎ面21b;21bの現有せん断伝達耐力Puは、打ち継ぎ面21b;21bの摩擦係数μと、第1コンクリート層11と第2コンクリート層12との自重の和とを乗算した値により求められる。
尚、摩擦係数μの固体接触に関する平均値は0.45である。打ち継ぎ面21;21,22;22の不確実性を考慮してもμ=0.45/2程度は確保できると推測し、安全率を考慮して摩擦係数μは0.20を用いる。
【0010】
次に、既設橋脚1の補強要否判定方法を図5のフローチャートに基づいて詳説する。
まず、想定せん断力Pdと想定曲げモーメントMdとを算定する(ステップS1)。次に、既設橋脚1の現有耐力の算定を行う。すなわち、既設橋脚1の打ち継ぎ面21;21,22;22の現有せん断伝達耐力Puの算定を行う(ステップS2)。そして、既設橋脚の現有曲げ耐力Muの算定を行う(ステップS3)。次に、現有せん断伝達耐力Puと想定せん断力Pdとを比較するとともに、現有曲げ耐力Muと想定曲げモーメントMdとを比較する(ステップS4)。現有せん断伝達耐力Puが想定せん断力Pd以上であるとともに、現有曲げ耐力Muが想定曲げモーメントMd以上であれば、既設橋脚1に補強を行わない(ステップS4のYes)。次に、現有せん断伝達耐力Puが想定せん断力Pd未満、もしくは、現有曲げ耐力Muが想定曲げモーメントMd未満の場合には、既設橋脚1に補強を行う。現有せん断伝達耐力Puが想定せん断力Pd未満の場合、想定せん断力Pdを超える現有せん断伝達耐力Puとして必要せん断耐力Pudを算定する。また、現有曲げ耐力Muが想定曲げモーメントMd未満の場合、想定曲げモーメントMdを超える現有曲げ耐力Muとして必要曲げ耐力Mudを算定する(ステップS5)。次に、現有せん断伝達耐力Puと想定せん断力Pdとを比較する(ステップS6)。現有せん断伝達耐力Puが想定せん断力Pd未満の場合(ステップS6のNo)、既設橋脚1を打ち継ぎ面21;21,22;22でずれる既設橋脚1Aとして、必要せん断耐力Pudを満たす既設橋脚1Aの補強のための設計を行う。この既設橋脚1Aの補強のための設計は、例えば、補強材としての鋼材の断面積の設定、鋼材の設置箇所の設定、鋼材の設置本数の設定等により行われる(ステップS7)。尚、ステップS6で現有せん断伝達耐力Puが想定せん断力Pdより大きい場合、既設橋脚1を打ち継ぎ面21;21,22;22でずれることのない既設橋脚1Bであると想定する。この既設橋脚1BはステップS4のNoを経由しており、当該既設橋脚1Bの現有曲げ耐力Muが想定曲げモーメントMd未満である。このため、既設橋脚1Bに想定曲げモーメントMdを超える必要曲げ耐力Mudを満たす補強のための設計を行う。この既設橋脚1Bの補強の設計は、例えば、既設橋脚1Bに圧縮力を与える補強材としての緊張材に加える圧縮力、緊張材の断面積の設定、緊張材の設置箇所の設定、緊張材の設置本数の設定等により行われる(ステップS8)。次に、鋼材周辺のコンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdの算定、または、既設橋脚1Bに圧縮力を加えるための挿入緊張材周辺のコンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdの算定を行う。尚、コンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdの算定は後述の数式により求められる(ステップS9)。次に、押し抜きせん断耐力Vpcdと想定せん断力Pdとを比較する(ステップS10)。既設橋脚1Aの補強である鋼材周辺のコンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdが想定せん断力Pd未満であれば、(ステップS7を経由したステップS10がNo)鋼材周辺のコンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdを満たすように既設橋脚1Aの補強のための設計をやり直す(ステップ7に戻る)。また、既設橋脚1Bの補強のための緊張材周辺の押し抜きせん断耐力Vpcdが想定せん断力Pd未満であれば、(ステップS8を経由したステップS10がNo)緊張材周辺のコンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdを満たすように既設橋脚1Bの補強のための設計をやり直す(ステップ8に戻る)。鋼材周辺のコンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdが想定せん断力Pd以上の場合、既設橋脚1Aが地震荷重により打ち継ぎ面21;21,22;22でずれることを抑制する補強を行うことができる。または、緊張材周辺のコンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdが想定せん断力Pd以上の場合、既設橋脚1Bが地震荷重による打ち継ぎコンクリート構造体14の曲げによる破壊を抑制する補強を行うことができる(ステップS10のYES)。
【0011】
補強体(鋼材,緊張材)の押し抜きせん断耐力Vpcdは次の数式1により算定する。
【0012】
【数1】
【0013】
ここで、
τα1:コンクリートの許容押し抜きせん断応力度で0.8〜1.1
γb:部材係数で1.3
Aτ:せん断抵抗面積
とする。
せん断抵抗面積Aτは次の数式2により算定する。
【0014】
【数2】
【0015】
ここで、
n:鋼棒(鋼材)本数
d:鋼棒(鋼材)中心から外縁までの距離
φ:鋼棒(鋼材)の直径
L:鋼棒(鋼材)の純間隔(=鋼棒芯間隔−φ)
とする。
緊張材周辺のコンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdの算定は、前述の数式の説明で用いられた「鋼棒(鋼材)」を「緊張材」と読み替えて求めればよい。
【0016】
現有曲げ耐力Muは次の数式3,数式4に算定する。尚、数式4は簡易式である。
【0017】
【数3】
【0018】
【数4】
【0019】
ここで、
As:鋼棒(鋼材)の断面積(mm2)
fpud:アンボンド鋼棒(緊張材)の設計引張強度(N/mm2)
fpyd:アンボンド鋼棒(緊張材)の設計引張降伏強度(N/mm2)
d:有効高さ(mm)
pt:引張鋼材比(鉄筋)
f’cd:コンクリートの設計圧縮強度(N/mm2)
とする。
【0020】
既設橋脚1Aの補強について説明する。
図6に示すように、既設橋脚1Aの補強は、孔4と補強体5と、充填材6とにより形成される。
【0021】
孔4は、打ち継ぎコンクリート構造体14の外面に開口した有底孔である。例えば、孔4は、打ち継ぎコンクリート構造体14の上端面7から基礎部2に延長するように形成され、橋脚本体3中に形成された1つ以上の打ち継ぎ面21;21及び基礎部2の上面8と橋脚本体3との境界である打ち継ぎ面22;22を貫通するように設けられた一端有底で他端開口の有底孔により形成される。
補強体5は、すべての打ち継ぎ面21;21,22;22を貫通するように孔4内に設置される。補強体5としては、鋼材(鋼棒50)、その他の棒材などが用いられる。
充填材6は、打ち継ぎコンクリート構造体14の打ち継ぎ面21;21,22;22を貫通するように孔4内に設置された補強体5と孔4の内壁9との間に充填される。充填材6としては、高流動性、不分離性、無収縮性を有したモルタルやセメントミルクなどを用いる。
【0022】
図6に基づいて具体的に説明する。
孔4の形成場所は施工条件により決め、孔4の個数は設計に基づき決めればよい。例えば、孔4は、橋脚本体3の上端面7から下方に鉛直に延長し、3箇所の打ち継ぎ面21;21,22;22を貫通するように形成される。
そして、補強体5を一端側から孔4内に挿入し、補強体5の一端を孔4の孔底20に接触させて補強体5の他端部を孔4の他端開口41より孔4外に突出させた状態、または、他端部を他端開口41より孔4内に挿入した状態、または、他端部を打ち継ぎコンクリート構造体14の上端面7と面一となるような状態に設置させる。そして、当該補強体5が挿入された孔4内に充填材6を充填する。充填材6は、孔4の内壁9と孔4内に設置された補強体5の外周面との間に充填される。つまり、充填材6は、補強体5が挿入された孔4内全体に充填される。尚、孔4内への充填材6の充填は実施形態4で説明する充填装置42を用いて行えばよい。孔4を打ち継ぎコンクリート構造体14の上端面7に開口した有底孔により形成したので、孔4の形成が容易となり、また、孔4及び補強体5を鉛直または鉛直に近い状態に設置できるようになるので、地震力に対するせん断耐力や曲げ耐力、じん性がより向上する橋脚100を形成することができる。さらに、補強体5が挿入された孔4内全体に充填材6を容易に充填することができるようになり、作業性を向上できる。
また、補強体5が挿入された孔4内全体に充填材を充填したので、地震力が加わった場合、孔4内に空間がある場合に比べて補強体5のずれ防止効果が向上する。
【0023】
次に、既設橋脚1Bの補強について説明する。図7に示すように、既設橋脚1Bの補強は既設橋脚1Bにプレストレスを導入する補強であって、孔4と補強体5と、充填材6と、定着部材56とにより形成される。
補強体5としては、緊張材が用いられる。緊張材としては、PC鋼材、炭素繊維により形成された緊張材等が用いられる。PC鋼材としては、例えば、PC鋼棒(直径10mm以上の高強度鋼)、PC鋼より線(直径8mm以下の高強度鋼であるPC鋼線をより合わせたもの)などが用いられる。
定着部材56は、補強体5の一端部に取付けられる一端側定着部材57と、補強体5の他端部に取付けられる他端側定着部材58とにより構成される。一端側定着部材57は、補強体5の一端部の周面より突出する突出体により形成される。突出体は、例えば補強体5の一端部の周面に形成された図外のねじ部に螺着されて当該補強体5の一端部に固定されるナット部材により形成される。他端側定着部材58は、孔4の他端開口41を覆うように打ち継ぎコンクリート構造体14の上端面7に設置されるプレート58aと、プレート58aの中央に形成された貫通孔58bを貫通する補強体5の他端部の周面に形成された図外のねじ部に螺着されて当該補強体5の一端部に固定されるナット部材58cとにより形成される。
【0024】
補強体5の設置された孔4内に充填材6を充填して、孔4外に突出する補強体5の他端部にプレート58aの貫通孔58bを通すとともにナット部材58cを螺着し、充填材6が固化した後に補強体5の他端を図外の引張装置により引張った状態でナット部材58cをプレート58aに締結することにより、既設橋脚1に圧縮力を加える。すなわち、打ち継ぎコンクリート構造体14のコンクリートは、予め圧縮力が加えられて打ち継ぎ面21;21,22;22同士の摩擦力が増加したプレストレスコンクリートに形成される。
【0025】
図7に基づいて具体的に説明する。
一端側定着部材57を取付けた補強体5を一端側から孔4内に挿入し、補強体5の一端を孔4の孔底20に接触させて補強体5の他端部を孔4の他端開口41より孔4外に突出させた状態で、当該補強体5が挿入された孔4内に充填材6を充填する。充填材6は、孔4の内壁9と孔4内に設置された補強体5及び一端側定着部材57の外周面との間に充填される。つまり、充填材6は、一端側定着部材57を取付けた補強体5が挿入された孔4内全体に充填される。尚、孔4内への充填材6の充填は実施形態4で説明する充填装置42を用いて行えばよい。そして、孔4外に突出する補強体5の他端部にプレート58aの貫通孔58bを通すとともにナット部材58cを螺着する。充填材6が固化した後に、補強体5の他端部に図外の引張装置を取付けて補強体5を引張った状態でナット部材58cをプレート58aに締結する。これにより、充填材6が補強体5の一端部に取付けられた一端側定着部材57によって圧縮され、この圧縮力が充填材6と孔4の内壁9との付着部を介して打ち継ぎコンクリート構造体14のコンクリートに伝達される。よって、打ち継ぎコンクリート構造体14は、上記圧縮力が加えられて打ち継ぎ面21;21,22;22同士の摩擦力が増加したプレストレスコンクリートに形成されることになる。
【0026】
既設橋脚1Bの補強によれば、プレストレスの導入により打ち継ぎコンクリート構造体14の打継ぎ面21;21,22;22同士の摩擦力が大きくなり、打ち継ぎコンクリート構造体14の打ち継ぎ面のずれ防止効果が高い橋脚100となる。
また、一端側定着部材57を取付けた補強体5が挿入された孔4内全体に充填材6を充填したので、補強体5の定着が安定する。
【0027】
図8に示すように、既設橋脚1Bの緊張材としてアンボンド鋼材69を用いてもよい。アンボンド鋼材69としてはアンボンド鋼棒、アンボンド鋼より線等が用いられる。
アンボンド鋼材69は、PC棒体70と、被覆部75とを備える。被覆部75はPC棒体70の周面76に塗布した塗布材、あるいは、PC棒体70の周面76に被覆した被覆材によって形成される。塗布材は、例えば、アスファルト系ポリマーが用いられる。被覆材は、防錆材とポリプロピレンとポリエチレンシース等が用いられる。被覆材はPC棒体70の周面に巻きつけられる。
【0028】
アンボンド鋼材69を用いることによって、緊張材を用いる効果に加えて、以下の効果が得られる。アンボンド鋼材69を用いた場合、被覆部75によってPC棒体70と充填材6とが縁切りされるので、PC棒体70の中間部が充填材6に付着せず、図外の引張装置でPC棒体70を容易に引張ることができるので、容易にPC棒体70に緊張力を加えることができる。また、硬化した充填材6とPC棒体70との付着を防止できるので、PC棒体70を引張って緊張させる場合において、硬化した充填材6が破壊されにくくなり、品質の良い橋脚100となる。
【0029】
尚、既設橋脚1Aと既設橋脚1Bとの補強に際して、後述するスペーサ兼吊り部23と同様の図外のスペーサを補強体5の外周面に溶接などで取り付けておけば、孔4内に補強体5を設置した場合に補強体5の中心軸と孔4の中心軸とを一致させることができ、補強体5が傾いて孔4内に設置されることを防止できて好ましい。図外のスペーサは、少なくとも、補強体5の一端部の外周面と補強体5の他端部の外周面とに設けておけば、補強体5が傾いて孔4内に設置されることを効果的に防止できて好ましい。
【0030】
実施形態1によれば、想定する地震時の想定せん断力Pdと既設橋脚の打ち継ぎ面21;21,22;22の現有せん断伝達耐力Puとを算定するとともに、想定する地震時の想定曲げモーメントMdと既設橋脚の現有曲げ耐力Muとを算定する。また、想定せん断力Pdと打ち継ぎ面21;21,22;22の現有せん断伝達耐力Puとを比較するとともに、想定曲げモーメントMdと現有曲げ耐力Muとを比較する。これにより、既設橋脚1Aまたは既設橋脚1Bに地震荷重Pに耐えるための補強が必要かどうかを判別することができる。また、地震荷重Pに対して適した補強の設計を決めることができる。つまり、既設橋脚1にずれ対策の補強を行うか、破壊防止のための曲げ抑制の補強を行うかを決めることができる。また、必要せん断耐力Pudを算定することにより既設橋脚1に想定せん断力Pdに耐える補強を行うことができ、必要曲げ耐力Mudを算定することにより、既設橋脚1に想定曲げモーメントMdに耐える補強を行える。尚、コンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdを算定し、コンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdと想定せん断力Pdとを比較をしたので、補強体5が打ち継ぎコンクリート構造体14に挿入された補強体5の周辺のコンクリートにひび割れを発生させる押し抜き破壊の発生を防止できる。
【0031】
実施形態2
実施形態1では、既設橋脚1A,1Bの両方について補強の要否を判定したが、実施形態2では、打ち継ぎ面21;21,22;22のずれを抑制するために、想定せん断力Pdを算出し、既設橋脚1Aの補強要否の判定を行う。この場合は、図9のフローチャートに従えばよい。
【0032】
既設橋脚1Aの補強の要否を判定する方法を説明する。
想定せん断力Pdが既設橋脚1Aの打ち継ぎ面21;21,22;22の実際の現有せん断伝達耐力Puより大きければ既設橋脚1Aの補強を行うと判定する。また、想定せん断力Pdが既設橋脚1Aの打ち継ぎ面21;21,22;22の現有せん断伝達耐力Pu未満であれば補強を行わないと判定する。
【0033】
次に、図9のフローチャートに基づいて詳説する。
まず、想定せん断力Pdを算定する(ステップS21)。次に、既設橋脚1Aの現有耐力の算定を行う。すなわち、既設橋脚1Aの現有せん断伝達耐力Puの算定を行う(ステップS22)。次に、現有せん断伝達耐力Puと想定せん断力Pdとを比較する(ステップS23)。現有せん断伝達耐力Puが想定せん断力Pd以上であれば、既設橋脚1の補強を行わない(ステップS23のYes)。次に、現有せん断伝達耐力Puが想定せん断力Pd未満の場合には、既設橋脚1Aの補強を行う。そして、想定せん断力Pdを超える現有せん断伝達耐力Puとして必要せん断耐力Pudを算定する(ステップS24)。次に、必要せん断耐力Pudを満たす既設橋脚1Aの補強の設計を行う(ステップS25)。次に、鋼材周辺のコンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdの算定を行う。尚、コンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdの算定は前述の数式1、数式2とにより求められる(ステップS26)。次に、押し抜きせん断耐力Vpcdと想定せん断力Pdとを比較する(ステップS27)。押し抜きせん断耐力Vpcdが想定せん断力Pd未満であれば(ステップS27のNo)、押し抜きせん断耐力Vpcdを満たすような補強ができるように設計しなおす(ステップS25に戻る)。鋼材周辺のコンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdが想定せん断力Pd以上の場合、既設橋脚1Aが地震荷重Pにより打ち継ぎ面21;21,22;22でずれることを抑制する補強を行うことができる(ステップS27のYES)。
【0034】
実施形態2によれば、想定する地震時の想定せん断力Pdと既設橋脚の打ち継ぎ面21;21,22;22の現有せん断伝達耐力Puとを算定して、想定せん断力Pdと打ち継ぎ面21;21,22;22の現有せん断伝達耐力Puとを比較するので、既設橋脚1Aに地震荷重Pに耐えるための補強が必要かどうかを判別することができる。また、必要せん断耐力Pudを算定することにより、既設橋脚1Aは、想定せん断力Pdに耐える補強を行える。また、コンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdを算定し、コンクリートの押し抜きせん断耐力Vpcdと想定せん断力Pdとを比較したので、補強体5が地震時の想定せん断力Pdによって打ち継ぎコンクリート構造体14に挿入さされた補強体5の周辺のコンクリートににひび割れを発生させる押し抜き破壊の発生を防止できる。
【0035】
実施形態3
実施形態1では、既設橋脚1A,1Bの両方について補強の要否を判定したが、実施形態3では、既設橋脚1の現有曲げ耐力Muよりも大きな地震による曲げモーメントを受けることによる既設橋脚1の破壊を防ぐために、想定曲げモーメントMdを算出し、既設橋脚1Bの補強要否の判定を行う。この場合は、図10のフローチャートに従えばよい。
【0036】
既設橋脚1Bの補強の要否を判定する方法を説明する。
想定曲げモーメントMdが既設橋脚1の実際の現有曲げ耐力Muより大きければ既設橋脚1Bの補強を行うと判定する。また、想定曲げモーメントMdが既設橋脚1Bの現有曲げ耐力Mu未満であれば補強を行わないと判定する。
【0037】
次に、図10のフローチャートに基づいて詳説する。
まず、想定曲げモーメントMdを算定する(ステップS31)。次に、既設橋脚1Bの現有耐力の算定を行う。すなわち、既設橋脚1Bの現有曲げ耐力Muの算定を行う(ステップS32)。次に、現有曲げ耐力Muと想定曲げモーメントMdとを比較する(ステップS33)。現有曲げ耐力Muが想定曲げモーメントMd以上であれば、既設橋脚1Bの補強を行わない(ステップS33のYes)。次に、現有曲げ耐力Muが想定曲げモーメントMd未満の場合には、既設橋脚1Bの補強を行う。つまり、想定曲げモーメントMdを超える必要曲げ耐力Mudを算定する(ステップS34)。次に、必要曲げ耐力Mudを満たすための既設橋脚1Bの補強のための設計を行う(ステップS35)。
【0038】
実施形態3によれば、想定曲げモーメントMdと既設橋脚1Bの現有曲げ耐力Muとを算定して、想定曲げモーメントMdと既設橋脚1Bの現有曲げ耐力Muとを比較するので、既設橋脚1に地震荷重Pに耐えるための補強が必要かどうかを判別することができる。尚、必要曲げ耐力Mudを算定することにより、既設橋脚1Bに想定曲げモーメントMdに耐えうる補強を行うことができる。つまり、既設橋脚1Bにじん性、曲げ耐力を向上させる補強を行うことができる。
【0039】
実施形態4
図11に示すように、想定する地震時の想定せん断力Pdと想定する地震時の想定曲げモーメントMdとを算出し、打ち継ぎコンクリート構造体14の実際の打ち継ぎ面21;21,22;22の現有せん断伝達耐力Puと打ち継ぎコンクリート構造体14の実際の現有曲げ耐力Muとを算出し、想定せん断力Pdと現有せん断伝達耐力Puとを比較するとともに想定曲げモーメントMdと現有曲げ耐力Muとを比較し、想定せん断力Pdが現有せん断伝達耐力Pu未満であるとともに想定曲げモーメントMdが現有曲げ耐力Mu未満であれば補強を行わず、想定せん断力Pdが現有せん断伝達耐力Pu以上であれば、鋼材による補強を行い、想定曲げモーメントMdが現有曲げ耐力Mu以上であれば、打ち継ぎコンクリート構造体14に鋼管15による補強を行う。つまり、補強体5としての管体を用いる。管体として鋼管15を用いる場合は、打ち継ぎコンクリート構造体14にプレストレスを導入しない。鋼管15は、孔4の径よりも外径が小さく、かつ、孔4の長さよりも短い全長の鋼管15を用いる。鋼管15の外周面には、孔4内に鋼管15を設置した場合に鋼管15の中心軸と孔の中心軸とを一致させるためのスペーサ兼吊り部23が溶接されて設けられる。このスペーサ兼吊り部23は、少なくとも、鋼管15の一端部の外周面と鋼管15の他端部の外周面とに設けておけば、鋼管15が傾いて孔4内に設置されることを効果的に防止できて好ましい。また、鋼管15を用いることにより打ち継ぎコンクリート構造体14の曲げに対する補強を行うことができる。
【0040】
実施形態4の既設橋脚1を施工する方法は打ち継ぎコンクリート構造体14を形成した後に、図13(a)に示すように、橋脚本体3の上端面7に鋼管支持台25を設け、鋼管支持台25より吊るした吊り具26を孔4内に設置される鋼管15のスペーサ兼吊り部23に取付けることで鋼管15を孔4内に吊るす。すなわち、鋼管15の下端16が孔底20から離れた状態に維持される。そして、充填装置42を用いて孔4内に充填材6を充填する。充填装置42は、注入管24、第1連結管17、開閉弁装置27、第2連結管18、ポンプ28、第3連結管19、充填材貯蔵部29を備える。
【0041】
充填装置42を用いた充填方法について説明する。鋼管15内に可撓性を有した注入管24の一端側を挿入し、注入管24の下端16を孔底20から離れた状態に維持させ、注入管24の他端は孔4の一端開口41より上方に突出させた状態とする。第1連結管17の一端が注入管24の他端に着脱可能に繋げられ、第1連結管17の他端が開閉弁装置27の出口に繋げられる。第2連結管18の一端が開閉弁装置27の入口に繋げられ、第2連結管18の他端がポンプ28の吐出し口に繋げられる。第3連結管19の一端がポンプ28の吸込み口に繋げられ、第3連結管19の他端が充填材貯蔵部29の出口に繋げられる。開閉弁装置27の開閉弁を開いてポンプ28を駆動することで、充填材6が、充填材貯蔵部29から第3;2;1連結管19;18;17及び注入管24を経由して注入管24の下端開口30から鋼管15の外周面と孔4の内壁9との間に充填される。充填材6が橋脚本体3の上端面7まで到達したら、図13(b)に示すように、第1連結管17の一端を注入管24よりはずし、孔4の一端開口41より上方に突出させた注入管24の他端を切断する。以上により、充填材6が、孔4の内壁9と鋼管15の外周面との間、及び、鋼管15の管内に充填された橋脚100が完成する(図11;図13(c)参照)。
【0042】
実施形態4の既設橋脚1によれば、孔4を打ち継ぎコンクリート構造体14の上端面7に開口した有底孔により形成したので、孔4の形成が容易となり、また、孔4及び補強体5を鉛直または鉛直に近い状態に設置できるようになるので、地震力に対するせん断耐力や曲げ耐力、じん性がより向上する橋脚100となる。
さらに、鋼管15の管内経由で孔4内全体に充填材6を速く容易に充填することができるようになり、作業性を向上できる。
【0043】
実施形態5
図12に示すように、補強体5として下端側の周壁に管の充填材排出口31を備えた管体を用いた橋脚100とした。管体としては、鋼管35を用いる。鋼管35は、充填材排出口31を備える他は上記鋼管15と同じである。充填材排出口31は、例えば、図14(c)に示すように、鋼管35の下端部における周壁の一部を除去することにより形成される。
実施形態5の既設橋脚1を施工する方法は、まず、図14(a)に示すように、既設橋脚1の上端面7から孔4内に鋼管35を挿入し、鋼管35の下端36を孔底20に突き付ける。そして、上述した充填装置42を用いて孔4内に充填材6を充填することにより、充填材6が、鋼管35の管内及び充填材排出口31を経由して孔4の内壁9と鋼管35の外周面との間に充填される。よって、鋼管35の管内及び孔4の内壁9と鋼管35の外周面との間に充填材が充填された橋脚100が完成する(図12;図14(b)参照)。
【0044】
実施形態5によれば、実施形態4の効果に加えて、吊り具26が不要となるので、作業性が向上する。
尚、鋼管35の外周面に上述と同様のスペーサを設けておけば、孔4内に鋼管35を設置した場合に鋼管35の中心軸と孔4の中心軸とを一致させることができ、鋼管35が傾いて孔4内に設置されることを効果的に防止できて好ましい。
【0045】
充填材排出口31は、鋼管35の下端の周壁に管の内外に貫通する貫通孔により形成してもよい。また、充填材排出口31は、鋼管35の下端部に鋼管35の下端より突出する突出部を設けることによって突出部の下端を鋼管35の下端36として孔底20に突き付ける場合には、鋼管35の下端(突出部の下端)36と孔底20との間に形成される空間により形成される。
【0046】
実施形態6
上述したように、鋼管15;35を用いる場合は、図15に示すように短尺な鋼管15aや図外の鋼棒を継ぎ足していくようにしてもよい。
実施形態6によれば、実施形態3の効果に加えて、鋼管15aや図外の鋼棒を孔4内に挿入する作業が容易となる。
【0047】
補強体5として孔4の長さと同程度の全長の鋼管を用いてもよい。当該鋼管を用いる場合には、鋼管の下端(一端)36を孔底20に突き付けて鋼管を孔4内に設置する。そして、孔4内に設置された補強体5と孔4の内壁9との間と、鋼管の管内とに充填材6を充填させればよい。
【0048】
尚、本発明は、複数回のコンクリートの打継ぎにより施工されるコンクリート構造物に適用でき、橋脚以外に、橋台、擁壁のようなコンクリート構造物にも適用できる。
【0049】
既設橋脚1は打ち継ぎ面21;21,22;22の無い橋脚としてもよい。すなわち、既設橋脚1は、連続したコンクリートの打設(例えば1回)で打ち継ぎコンクリート構造体14を形成する。
【符号の説明】
【0050】
1 既設コンクリート構造物(既設橋脚)、21;22 打ち継ぎ面、
Mu 現有曲げ耐力、Md 想定曲げモーメント、Pd 想定せん断力、
Pu 現有せん断伝達耐力。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
想定する地震時の想定せん断力と想定する地震時の想定曲げモーメントとを算出し、既設コンクリート構造物の実際の打ち継ぎ面の現有せん断伝達耐力と既設コンクリート構造物の実際の現有曲げ耐力とを算出し、想定せん断力と現有せん断伝達耐力とを比較するとともに想定曲げモーメントと現有曲げ耐力とを比較し、想定せん断力が現有せん断伝達耐力未満であるとともに想定曲げモーメントが現有曲げ耐力未満であれば補強を行わず、想定せん断力が現有せん断伝達耐力以上であれば、鋼材による補強を行い、想定曲げモーメントが現有曲げ耐力以上であれば、既設コンクリート構造物にプレストレスを導入する補強を行うことを特徴とした既設コンクリート構造物の補強方法。
【請求項2】
想定する地震時の想定せん断力を算出し、既設コンクリート構造物の実際の打ち継ぎ面の現有せん断伝達耐力を算出し、想定せん断力と現有せん断伝達耐力とを比較し、想定せん断力が現有せん断伝達耐力未満であれば補強を行わず、想定せん断力が現有せん断伝達耐力以上であれば、鋼材による補強を行うことを特徴とした既設コンクリート構造物の補強方法。
【請求項3】
想定する地震時の想定曲げモーメントを算出し、既設コンクリート構造物の実際の現有曲げ耐力を算出し、想定曲げモーメントと現有曲げ耐力とを比較し、想定曲げモーメントが現有曲げ耐力未満であれば補強を行わず、想定曲げモーメントが現有曲げ耐力以上であれば、既設コンクリート構造物にプレストレスを導入する補強を行うことを特徴とした既設コンクリート構造物の補強方法。
【請求項4】
想定する地震時の想定せん断力と想定する地震時の想定曲げモーメントとを算出し、既設コンクリート構造物の実際の打ち継ぎ面の現有せん断伝達耐力と既設コンクリート構造物の実際の現有曲げ耐力とを算出し、想定せん断力と現有せん断伝達耐力とを比較するとともに想定曲げモーメントと現有曲げ耐力とを比較し、想定せん断力が現有せん断伝達耐力未満であるとともに想定曲げモーメントが現有曲げ耐力未満であれば補強を行わず、想定せん断力が現有せん断伝達耐力以上であれば、鋼材による補強を行い、想定曲げモーメントが現有曲げ耐力以上であれば、既設コンクリート構造物に鋼管による補強を行うことを特徴とした既設コンクリート構造物の補強方法。
【請求項1】
想定する地震時の想定せん断力と想定する地震時の想定曲げモーメントとを算出し、既設コンクリート構造物の実際の打ち継ぎ面の現有せん断伝達耐力と既設コンクリート構造物の実際の現有曲げ耐力とを算出し、想定せん断力と現有せん断伝達耐力とを比較するとともに想定曲げモーメントと現有曲げ耐力とを比較し、想定せん断力が現有せん断伝達耐力未満であるとともに想定曲げモーメントが現有曲げ耐力未満であれば補強を行わず、想定せん断力が現有せん断伝達耐力以上であれば、鋼材による補強を行い、想定曲げモーメントが現有曲げ耐力以上であれば、既設コンクリート構造物にプレストレスを導入する補強を行うことを特徴とした既設コンクリート構造物の補強方法。
【請求項2】
想定する地震時の想定せん断力を算出し、既設コンクリート構造物の実際の打ち継ぎ面の現有せん断伝達耐力を算出し、想定せん断力と現有せん断伝達耐力とを比較し、想定せん断力が現有せん断伝達耐力未満であれば補強を行わず、想定せん断力が現有せん断伝達耐力以上であれば、鋼材による補強を行うことを特徴とした既設コンクリート構造物の補強方法。
【請求項3】
想定する地震時の想定曲げモーメントを算出し、既設コンクリート構造物の実際の現有曲げ耐力を算出し、想定曲げモーメントと現有曲げ耐力とを比較し、想定曲げモーメントが現有曲げ耐力未満であれば補強を行わず、想定曲げモーメントが現有曲げ耐力以上であれば、既設コンクリート構造物にプレストレスを導入する補強を行うことを特徴とした既設コンクリート構造物の補強方法。
【請求項4】
想定する地震時の想定せん断力と想定する地震時の想定曲げモーメントとを算出し、既設コンクリート構造物の実際の打ち継ぎ面の現有せん断伝達耐力と既設コンクリート構造物の実際の現有曲げ耐力とを算出し、想定せん断力と現有せん断伝達耐力とを比較するとともに想定曲げモーメントと現有曲げ耐力とを比較し、想定せん断力が現有せん断伝達耐力未満であるとともに想定曲げモーメントが現有曲げ耐力未満であれば補強を行わず、想定せん断力が現有せん断伝達耐力以上であれば、鋼材による補強を行い、想定曲げモーメントが現有曲げ耐力以上であれば、既設コンクリート構造物に鋼管による補強を行うことを特徴とした既設コンクリート構造物の補強方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−80239(P2011−80239A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232898(P2009−232898)
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ▲1▼ 刊行物名 第64回年次学術講演会講演概要集 ▲2▼ 発行日 平成21年8月3日 ▲3▼ 発行所 社団法人土木学会 ▲4▼ 該当ページ 第965頁〜第966頁 ▲5▼ 公開者 徳永 光宏、田所 敏弥、谷村 幸裕、西村 昭彦、星 秀朋、村田 義行、大本 晋士郎 ▲6▼ 公開の内容 「鋼棒挿入による無筋コンクリート橋脚打継部の耐震補強効果」
【出願人】(503119111)株式会社ジェイアール総研エンジニアリング (12)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(390029089)高周波熱錬株式会社 (288)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ▲1▼ 刊行物名 第64回年次学術講演会講演概要集 ▲2▼ 発行日 平成21年8月3日 ▲3▼ 発行所 社団法人土木学会 ▲4▼ 該当ページ 第965頁〜第966頁 ▲5▼ 公開者 徳永 光宏、田所 敏弥、谷村 幸裕、西村 昭彦、星 秀朋、村田 義行、大本 晋士郎 ▲6▼ 公開の内容 「鋼棒挿入による無筋コンクリート橋脚打継部の耐震補強効果」
【出願人】(503119111)株式会社ジェイアール総研エンジニアリング (12)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(390029089)高周波熱錬株式会社 (288)
【Fターム(参考)】
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