説明

既設伸縮継手部の部分切断装置および部分切断方法

【課題】伸縮継手両側に形成する溝の幅および深さが小さくて済み,プーリ設置数が低減された切断装置を提供すること。
【解決手段】 本発明の切断装置1は,駆動プーリ9と,回転面が路面に対して起立した状態で回動自在に配設される一対のユニバーサルプーリ11と,駆動プーリ9および一対のユニバーサルプーリ11に懸架される無端の切断ワイヤ12と,駆動プーリ9を回転駆動させるプーリ駆動部とを有するワイヤ切断機構と;少なくとも一対のユニバーサルプーリ11を伸縮継手20の長手方向に移動させる移動手段2,3と;を備える。かかる切断装置1は,切断加工時には,切断ワイヤ12を周回動作させながら,一対のユニバーサルプーリ11を伸縮継手20の長手方向に移動させることによって,一対のユニバーサルプーリ11間に張架された切断ワイヤ12を用いて,伸縮継手20の路面14側を部分的にスライス切断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,高架橋,橋梁等の構築物において既設の伸縮継手を部分的に切断する切断装置および切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高架橋や橋梁等には,温度変化や地震時の橋軸方向の伸縮等を吸収するため,主桁の所定間隔毎に伸縮継手が設けられている。従来タイプの伸縮継手の代表的なものとして,図9に示すようなくし形ジョイント20(フィンガージョイント)と呼ばれるものがある。このくし形ジョイント20は,主桁の遊間部における前後の床版21の端部コンクリートに鋼製の継手本体20を埋め込み,路面14上に両主桁から突出する鋼製のくし形片20aを互い違いに噛み合わせて構成される。
【0003】
しかし,この鋼製の従来タイプの伸縮継手20は,時間の経過とともに前後の主桁高さに段差が生じたり,継手が破損したりした場合には,交通への影響や車両事故(パンク等)の可能性があり,緊急に取り替えを行うときがある。また,この種の伸縮継手は,車両の通行時の衝撃音や振動が大きく,周辺住民からクレームが寄せられ,低騒音・低振動タイプの伸縮継手への取り替えが必要とされている。さらには,鋼製であるがために車両のタイヤが滑りやすく,事故防止の観点からも埋設型継手への取り替えが近吃な問題となっている。
【0004】
伸縮継手を取り替えるためには,既設の伸縮継手20を切断・撤去する必要がある。従来における既設伸縮継手20の切断撤去作業は,伸縮継手本体回りの床版コンクリートをブレーカーではつり,伸縮継手をガス溶断して撤去する手法で行われていた。
【0005】
しかし,既設の伸縮継手20は,主桁端部の床版21に鋼製の継手本体が埋め込まれているため,コンクリートのはつり作業および切断撤去作業が容易ではない。つまり,既設伸縮継手20を部分的に撤去するには,既設伸縮継手20の背面のはつりが非常に困難であり,また既設伸縮継手20のガス溶断が困難であるため,非常に時間を要することになり,極めて作業効率が悪い。また,床版コンクリートのはつり作業では,ブレーカーによる騒音,振動,粉塵等が発生するため作業環境面で問題がある。さらには,既設伸縮継手20の取り替え作業は交通量の少ない深夜間に行うことが多いが,都市部では,騒音・振動が大きいため,周辺住民からのクレームが多く,なかなか実施できないのが現状である。
【0006】
そこで,本願発明者らは,低騒音,低振動で切断作業ができ,しかも伸縮継手の必要部分のみを所定の形状で正確かつ部分的に切断撤去できる手法として,ワイヤ切断機構を用いた切断手法を検討した。しかし,従来のワイヤ切断方法を既設の伸縮継手の切断に適用する場合には,以下のような問題があった。
【0007】
即ち,(1)従来のワイヤ切断方法は,一般的には,突起した柱状の切断対象に周回駆動される切断ワイヤを巻きつけて切断を行うものであり(例えば,特許文献1参照),路面下の所定深さ位置で,伸縮継手の長手方向に平行に切断する場合には適用が難しいという問題があった。(2)また,予め路面に切断ワイヤを通す溝を設けて切断作業を行っても,切断深さの正確な保持ができないという問題があった。特に,硬質な鋼材と軟質なコンクリートとが複合されたくし形ジョイントでは,切断抵抗の小さいコンクリート側に切断ワイヤが移動しやすい。(3)さらに,鋼材部分を切断する箇所で,切断ワイヤの巻きつけ角度が鋭角となるため,切断ワイヤに負担がかかり破損しやすいという問題があった。
【0008】
そこで,本願発明者らは,特許文献2に示すように,複数のプーリに懸架された切断ワイヤを有するワイヤ切断機構と,切断装置本体を伸縮継手の長手方向に移動させる移動手段とを備えた切断装置を開発した。この切断装置は,伸縮継手の両側に形成された溝内に一対の方向変換プーリおよび一対のガイドプーリを配し,切断ワイヤに一定の張力を持たせて高速回転させつつ,切断装置本体を走行させることによって,上記一対のガイドプーリにより位置保持された切断ワイヤによって,鋼製の伸縮継手を周辺コンクリートとともにスライス切断する構成である。これにより,伸縮継手を所定の切断深さで正確に部分切断できるとともに,切断時における切断ワイヤの負担を軽減して破損を抑止できるので,容易かつ迅速に既設伸縮継手部の切断・撤去作業を行うことができる。
【0009】
【特許文献1】特開平9−250248号公報
【特許文献2】特開2003−27420号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしなら,上記従来のワイヤ切断機構を備えた切断装置では,伸縮継手両側に形成された溝内には,路面に対し水平に回転するガイドプーリが設置されるため,少なくともこのガイドプーリの径よりも広い溝幅が必要であった。また,当該溝の底面は,伸縮継手の切断深さよりも,少なくとも当該ガイドプーリの厚さ半分の分だけ深くなければならない。このため,切断作業に先立ち,ロードカッタやブレーカー等を用いて,広くて深い溝を形成しておかなければならず,かかる溝形成作業に手間と時間がかかるという問題があった。
【0011】
また,上記溝内に,ガイドプーリと方向変換プーリという2種類のプーリを配置する構成であるため,プーリ設置数が多く,ワイヤ切断機構が複雑であるという問題もあった。
【0012】
そこで,本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり,本発明の目的とするところは,上記伸縮継手の両側に形成される溝の幅及び深さが小さくて済み,当該溝の形成作業を容易かつ迅速に実施できるとともに,プーリ設置数を低減してワイヤ切断機構を簡素化することが可能な,新規かつ改良された切断装置およびこれを用いた切断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために,本発明のある観点によれば,既設の伸縮継手の路面側を部分的にスライス切断する切断装置が提供される。この切断装置は,駆動プーリと,回転面が路面に対して起立した状態で回動自在に配設される一対のユニバーサルプーリと,少なくとも駆動プーリおよび一対のユニバーサルプーリに懸架される無端の切断ワイヤと,駆動プーリを回転駆動させるプーリ駆動部とを有するワイヤ切断機構と;少なくとも一対のユニバーサルプーリを伸縮継手の長手方向に移動させる移動手段と;を備える。かかる切断装置は,切断加工時には,プーリ駆動部によって切断ワイヤを周回動作させながら,移動手段によって一対のユニバーサルプーリを伸縮継手の長手方向に移動させることによって,一対のユニバーサルプーリ間に張架された切断ワイヤを用いて,伸縮継手の路面側を部分的にスライス切断する。なお,ユニバーサルプーリとは,所定方向に回動自在(回転面の向きを変更自在)に配設されるプーリである。
【0014】
かかる構成により,切断加工時に,上記一対のユニバーサルプーリは,伸縮継手の長手方向に沿って伸縮継手の両側に形成された溝内に夫々は配置され,切断ワイヤの移動方向を垂直方向から水平方向,あるいはその逆方向に変換するとともに,伸縮継手の両側で切断ワイヤの両端を所定の切断深さで位置保持する。このため,かかる一対のユニバーサルプーリにより両端が位置保持された切断ワイヤによって,鋼製の伸縮継手を周辺コンクリートとともに水平にスライス切断できる。従って,伸縮継手を所定の切断深さおよび形状で正確に部分切断できるとともに,ユニバーサルプーリ間に張架された切断ワイヤが,局所的に鋭角に屈曲することなく,大きな曲率半径で湾曲した状態で切断箇所に作用するので,切断時における切断ワイヤの負担を軽減して切断ワイヤの破損を防止できる。
【0015】
さらに,伸縮継手の長手方向に沿って伸縮継手の両側に形成される各溝には,切断ワイヤを所定の切断深さで位置保持するプーリとして,上記回転面が垂直に起立した状態で回動自在なユニバーサルプーリがそれぞれ配設される。このため,切断加工時には,ユニバーサルプーリは,その回転面が溝の長手方向と平行となる方向に回動するため,ユニバーサルプーリの径より狭い幅の溝内を移動して,切断加工を進行させることができる。また,ユニバーサルプーリが縦型であるため,溝の底面間際で切断加工できるので,上記溝の深さが浅くて済む。このように,本発明では,従来の切断装置のように水平型で固定型のプーリを溝内に配置する場合と比べて,上記溝の幅および深さが小さくて済むので,当該溝の形成作業を迅速かつ用意に実行できるようになる。
【0016】
加えて,溝内にはユニバーサルプーリのみを配置しても好適に切断加工を実行できるので,切断装置におけるプーリ設置数を低減して,ワイヤ切断機構の構成を簡略化できる。
【0017】
また,上記ワイヤ切断機構は,路面上に設置される切断装置本体に設けられ,上記移動手段は,切断装置本体を伸縮継手の長手方向に移動させるようにしてもよい。かかる構成により,切断加工時には,切断ワイヤを周回動作させながら,上記一対のユニバーサルプーリが取り付けられた切断装置本体を伸縮継手の長手方向に移動させることによって,一対のユニバーサルプーリ間に張架された切断ワイヤを用いて,伸縮継手の路面側を部分的にスライス切断することができる。
【0018】
また,上記ワイヤ切断機構は,駆動プーリと各ユニバーサルプーリとの間に張架される切断ワイヤが,各ユニバーサルプーリ側で路面に対して略垂直方向に延びるように,切断ワイヤをガイドする1または2以上のガイドプーリをさらに有し,上記各ユニバーサルプーリは,略垂直方向に延びる切断ワイヤを中心として回動自在に配設されるようにしてもよい。これにより,各ユニバーサルプーリが円滑に回動できるとともに,切断ワイヤがユニバーサルプーリから外れにくくすることができる。
【0019】
また,上記課題を解決するために,本発明の別の観点によれば,上記のような切断装置を用いて,既設の伸縮継手の路面側を部分的にスライス切断する切断方法が提供される。この切断方法は,伸縮継手の長手方向に沿って,伸縮継手の両側に溝を形成する工程と;前記伸縮継手の両側の溝をつなぐように前記伸縮継手を横断する横断溝を形成する工程と;切断装置が備える一対のユニバーサルプーリを,伸縮継手の両側の溝内にそれぞれ配置する工程と;一対のユニバーサルプーリ間に張架された切断ワイヤを横断溝内の所定深さに配置する工程と;切断ワイヤを周回動作させながら,一対のユニバーサルプーリを伸縮継手の長手方向に移動させることによって,一対のユニバーサルプーリ間に張架された切断ワイヤを用いて,伸縮継手の路面側を部分的にスライス切断する工程と;を含むことを特徴とする。かかる切断方法によって,上記切断装置を用いて,伸縮継手の切断・撤去作業を好適に実現できるようになる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように本発明によれば,切断ワイヤを所定の切断深さで位置保持するプーリとして,略垂直に起立し回動自在なユニバーサルプーリを使用しているため,既設伸縮継手の両側に形成される溝の幅及び厚さが小さくて済む。従って,上記溝の形成作業を容易かつ迅速に実行できる。
【0021】
さらに,本発明の切断装置では,従来の切断装置において溝内に配置されていた2つのプーリ(ガイドプーリおよび方向変換プーリ)を,1つのユニバーサルプーリで代替できる。従って,切断装置におけるプーリ設置数を低減して,ワイヤ切断機構を簡素化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書及び図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0023】
(第1の実施形態)
以下,本発明の第1の実施形態にかかる既設伸縮継手の切断装置および切断方法について詳細に説明する。
【0024】
まず,図1に基づき,本実施形態にかかる既設伸縮継手の切断装置1の全体構成について説明する。なお,図1は,本実施形態にかかる切断装置1を示す正面図(a)および側面図(b)である。
【0025】
図1に示すように,本実施形態にかかる切断装置1は,伸縮継手20が設けられた路面14上に設置される切断装置本体7と,切断装置本体7を伸縮継手20の長手方向に移動させる移動手段とを備える。
【0026】
切断装置本体7は,路面14に対して略垂直方向(以下,単に「垂直方向」という。)に延びる駆動機支柱4と,路面14に対して略水平方向(以下,単に「垂直方向」という。)に延びるアーム支持枠5と,アーム支持枠5の両側に取り付けられた一対のアーム6と,ワイヤ切断機構とを備える。このワイヤ切断機構は,プーリ駆動部8と,駆動プーリ9と,一対のユニバーサルプーリ11と,一対のガイドプーリ13と,これらのプーリに懸架される切断ワイヤ12とから構成される。
【0027】
移動手段は,切断装置本体7の下部に設けられる走行駆動部2と,路面14上に固定されるガイドレール3とから構成される。走行駆動部2は,例えば断面T字状のガイドレール3のフランジ部を上下から把持するようにしてガイドレール3と組み合わされており,走行速度を調整しながらガイドレール3上を走行できるようになっている。また,ガイドレール3は,伸縮継手20の長手方向に延設される走行レール3aと,この走行レール3a上に設けられ,上記走行駆動部2の駆動ギア(図示せず。)と係合する走行ラック3bとからなる。このような走行駆動部2とガイドレール3とからなる移動手段は,切断加工時に,切断装置本体7を伸縮継手20の長手方向に平行移動させて,切断を進行させる。
【0028】
また,上記走行駆動部2から直立する駆動機支柱4には,駆動プーリ9と,この駆動プーリ9を回転駆動させるプーリ駆動部(例えば,モータ等の電動機)8とが取り付けられている。駆動機支柱4に対する駆動プーリ9およびプーリ駆動部8の取付高さは,駆動機支柱4に設けられたラック4aとプーリ駆動部8内の歯車(図示せず。)との噛み合わせにより調整可能となっている。
【0029】
また,アーム支持枠5,アーム6およびプーリ軸支具15,16は,一対のユニバーサルプーリ11および一対のガイドプーリ13を支持するプーリ支持部として機能する。
【0030】
具体的には,アーム支持枠5は,駆動機支柱4に直交しかつ路面14に対して水平となるように,駆動機支柱4に取り付けられている。このアーム支持枠5の両側には,駆動機支柱4を隔てて一対のアーム6が,アーム取付具10によってそれぞれ取り付けられている。このアーム6は,例えば断面略円形若しくは略矩形のパイプ状の中空棒状部材で構成されており,アーム支持枠5と直交する垂直方向に延設されている。アーム支持枠5に対する各アーム6の取付位置(水平位置および垂直位置)は,各アーム取付具10を締結/弛緩することで調整可能である。
【0031】
かかる各アーム6の上端には,ガイドプーリ軸支具15を介してガイドプーリ13が配設され,一方,各アーム6の下端には,ユニバーサルプーリ支治具16を介してユニバーサルプーリ11が配設されている。ガイドプーリ軸支具15は,アーム6の上端に回動自在に接合されており,ガイドプーリ13を回転面が垂直となるように軸支している。また,ユニバーサルプーリ軸支具16は,アーム6の下端に回動自在に接合されており,ユニバーサルプーリ11を回転面が垂直となるように軸支している。このようなプーリ軸支具15,16により,ガイドプーリ13およびユニバーサルプーリ11は,回転面が垂直に起立した状態で,水平面内で回動自在に配設されることになる。
【0032】
そして,上記のような駆動プーリ9,ガイドプーリ13およびユニバーサルプーリ11に,無端の切断ワイヤ12が掛け渡されている。これらのプーリ9,13,11に懸架された切断ワイヤ12の張力は,駆動プーリ9およびプーリ駆動部8の取付高さにより調整可能となっている。即ち,上述したような駆動プーリ9およびプーリ駆動部8の取付高さ調節機構は,切断ワイヤ12の張力を調整する張力調整手段として機能する。
【0033】
図2は,本実施形態にかかる無端の切断ワイヤ12を示す部分拡大図である。この切断ワイヤ12は,例えばダイヤモンドワイヤーなどで構成される。具合的には,図2に示すように,切断ワイヤ12は,鋼製またはステンレス製のワイヤ121に,リング外周にダイヤモンドを電着して構成されるダイヤモンドビーズ122と,スペーサ123とを交互に通し,さらに,ワイヤ121の両端部を接続スリーブ124で連結して構成される。
【0034】
また,図1に示す上記各ガイドプーリ13は,駆動プーリ9と各ユニバーサルプーリ11との間に張架される切断ワイヤ12をガイドする機能を有する。このガイドプーリ13は,例えば,ユニバーサルプーリ11の上方に配置されており,また,上記アーム6およびプーリ軸支具15,16は,中空である。このため,各ガイドプーリ13と各ユニバーサルプーリ11との間に張架される切断ワイヤ12は,ガイドプーリ軸支具15の内部,アーム6の内部およびユニバーサルプーリ軸支具16の内部を通過して,略垂直方向に直線状に延びる。
【0035】
また,上記各ユニバーサルプーリ11は,本実施形態における特徴的構成要素である。このユニバーサルプーリ11は,上記ユニバーサルプーリ軸支具16によって,路面14に対して垂直面上で回転するように軸支され,かつ,路面14に対して水平面上で回動自在(即ち,回転面の向きを変更自在)に配設される。
【0036】
このユニバーサルプーリ11は,伸縮継手20の両側に形成された例えば断面略コの字型の溝26の底部付近にそれぞれ配置される。この溝26は,切断加工前に予め,伸縮継手20の長手方向に沿って伸縮継手20の両側に形成されたものである。各ユニバーサルプーリ11は,この各溝26内に,伸縮継手20を挟んで対称な位置及び高さにそれぞれ配置される。このため,双方のユニバーサルプーリ11を結ぶ仮想水平線と伸縮継手20の長手方向とは略直交する。
【0037】
次に,図3に基づいて,上記切断装置1のワイヤ切断機構における切断ワイヤ12の周回状態について詳細に説明する。図3は,本実施形態にかかるワイヤ切断機構における各プーリ9,13,11間に懸架された切断ワイヤ12の周回状態を概念的に示す斜視図である。
【0038】
図3に示すように,本実施形態にかかるワイヤ切断機構では,切断ワイヤ12には,各プーリ9,13,11間で弛みがないように,上記張力調整手段により所定の張力がかけられている。この切断ワイヤ12は,プーリ駆動部8の駆動力により駆動プーリ9が回転することによって,各プーリ9,13,11に懸架された状態で周回動作する。
【0039】
かかる切断ワイヤ12は,路面14より上側においては,駆動プーリ9およびガイドプーリ13の回転面に沿って移動する。一方,路面14より下側では,上記各溝26内に配置された一対のユニバーサルプーリ11により,切断ワイヤ12の軌道が垂直方向から水平方向に変更される。この結果,切断ワイヤ12は,この一対のユニバーサルプーリ11間において,伸縮継手20の切断深さLで路面14に対して略平行に移動する。
【0040】
そして,このような一対のユニバーサルプーリ11間に水平に張架された切断ワイヤ12aによって,当該一対のユニバーサルプーリ11間に位置する既設の伸縮継手20およびコンクリート製の床版21(図3では図示を省略する。)の上部を,伸縮継手20の長手方向にスライス切断するようになっている。なお,この切断時には,図3の破線で示すように,切断抵抗によって,当該一対のユニバーサルプーリ11間に張架された切断ワイヤ12aは,切断方向と反対側に膨らんだ略曲線状となり,これに伴い,切断ワイヤ12aの両端を位置保持する各ユニバーサルプーリ11は,切断方向とは反対方向に回動して,その回転面が伸縮継手20の長手方向に対して傾斜した状態となる。
【0041】
ここで,図4及び図5に基づいて,本実施形態にかかるユニバーサルプーリ11の取付機構およびその作用について詳細に説明する。なお,図4は,本実施形態にかかるユニバーサルプーリ11の取付機構を示す縦断面図(a),側面図(b)および底面図(c)であり,図5は,本実施形態にかかるユニバーサルプーリ11が水平方向に回動する態様を示す平面図である。
【0042】
図4に示すように,ユニバーサルプーリ11は,その回転面が路面14に対して垂直に起立した状態で回転するように,上記ユニバーサルプーリ軸支具16によって軸支されている。詳細には,ユニバーサルプーリ11の中心には,軸受けシャフト111が水平方向に貫通しており,この軸受けシャフト111の両端は,上記ユニバーサルプーリ軸支具16の下部に連結されている。ユニバーサルプーリ11は,その中心に配されたボールベアリング112を介して上記軸受けシャフト111と接合されている。また,ユニバーサルプーリ11の両側には,ベアリング押さえ用スペーサ113が設けられており,ユニバーサルプーリ11が水平方向にずれないようになっている。かかる構成により,ユニバーサルプーリ11は,上記軸受けシャフト111を回転中心軸として,路面14に対して垂直面上で回転することができる。
【0043】
また,図4に示すように,ユニバーサルプーリ11は,上記ユニバーサルプーリ軸支具16によって,路面14に対して水平方向に回動自在に配設されている。詳細には,上記ユニバーサルプーリ軸支具16は,上記アーム6の下端部に対して,スラストベアリング161を介して回動自在に接合されている。このスラストベアリング161は,ユニバーサルプーリ軸支具16の上部の内周面と,アーム6の下部の外周面との間に介在している。従って,このユニバーサルプーリ軸支具16は,アーム6の軸芯を中心として回動可能自在である。
【0044】
かかる取付機構により,図5に示すように,ユニバーサルプーリ11は,上記のようなユニバーサルプーリ軸支具16の回動に伴って,所定の設置高さを維持しながら,路面14に対して水平方向に回動自在である。さらに,この回動時には,ユニバーサルプーリ11は,上記ガイドプーリ13とユニバーサルプーリ11との間に張架された路面14に対して垂直方向に延びる切断ワイヤ12b(図3参照)を中心(即ち,上記垂直方向に延びるアーム6の軸芯を中心)として回動する。このように,垂直方向に延びる切断ワイヤ12bを中心としてユニバーサルプーリ11を回動させることで,切断加工時に,ユニバーサルプーリ11が円滑に回動できるとともに,切断ワイヤ12がユニバーサルプーリ11から外れにくくなる。
【0045】
以上のようにユニバーサルプーリ11を回動型の垂直プーリとすることで,図6に示すように,切断加工時に,一対のユニバーサルプーリ11間に張架された切断ワイヤ12aが,伸縮継手20および床版21から切断抵抗を受けて湾曲形状となったときに,この湾曲度合いに応じてユニバーサルプーリ11も好適に回動できる。このため,一対のユニバーサルプーリ11は,湾曲した当該切断ワイヤ12aを円滑かつ安定して送り出す/引き込むことができる。従って,当該切断ワイヤ12aが各ユニバーサルプーリ11から外れることがない。
【0046】
さらに,切断加工時には,かかる一対のユニバーサルプーリ11によって,切断ワイヤ12aの両端を所定の切断深さLで位置保持できる。このため,一対のユニバーサルプーリ11間の切断ワイヤ12aを切断箇所(伸縮継手20およびその両側の床版21)に押圧して,所定の切断深さLで正確に切断することができる。加えて,当該一対のユニバーサルプーリ11によって,湾曲する切断ワイヤ12aの両端位置を規定することで,当該切断ワイヤ12aが極力大きな曲率半径で湾曲するようになる。
【0047】
以上のように,ユニバーサルプーリ11は,(1)周回される無端切断ワイヤ12の移動方向を垂直方向から水平方向に,或いは水平方向から垂直方向に変換する機能(方向変換プーリとしての機能)と,(2)溝26内の所定の切断深さLで切断ワイヤ12を正確に位置保持する機能(ガイドプーリとしての機能)とを有する。このように,本実施形態にかかるユニバーサルプーリ11は,上述した特許文献2に記載された従来の切断装置における方向変換プーリおよびガイドプーリの双方の機能を併せ持っている。かかるユニバーサルプーリ11を設置することにより,切断装置におけるプーリ設置数を低減して,ワイヤ切断機構を簡素化することができる。
【0048】
また,各ユニバーサルプーリ11の垂直方向の設置位置(高さ)は,上記アーム支持枠5に対するアーム6の取付位置を上下することで調整可能であり,これにより,伸縮継手20の切断深さLを調整可能である。また,各ユニバーサルプーリ11の水位方向の設置位置(高さ)は,上記アーム支持枠5に対するアーム6の取付位置を左右することで調整可能である。これにより,伸縮継手20の種類に応じて,一対のユニバーサルプーリ11相互の間隔を変えて,切断幅を調整できる。
【0049】
なお,上記ガイドプーリ13の取付機構にも,上述したようなユニバーサルプーリ11の取付機構と同様に,アーム6に対して回動自在なガイドプーリ軸支具15が使用されている。これにより,各ガイドプーリ13も,回転面が垂直であり,かつ,回転面の向きを水平方向に回動可能となっている。このようにガイドプーリ13を回動可能に配設することにより,伸縮継手20の種類に応じて切断幅を変更した場合に,ガイドプーリ13は切断位置(溝26の位置)に応じて自身の配置を変更(図1Aで切断ワイヤ12の右側に位置したり左側に位置したり)できる。従って,切断位置が変わる度に,ガイドプーリ13の取付位置を変えなくて済むという利点がある。
【0050】
以上,本実施形態にかかる切断装置1の構成について説明した。本実施形態にかかる切断装置1は,上記特許文献1に記載の従来工法のように撤去部分に切断ワイヤを巻きつけるのではなく,図6に示したように,一対のユニバーサルプーリ11で位置保持した切断ワイヤ12に所定の張力を持たせて高速で周回させつつ,移動手段によって切断装置本体7を伸縮継手20の長手方向に走行させて,鋼製の伸縮継手20の上部をスライス切断する。したがって,伸縮継手20を路面14下の所定深さLで正確に,かつ簡易に切断することができる。
【0051】
さらに,切断加工時には,上記一対のユニバーサルプーリ11によって,切断ワイヤ12aの曲率半径が極力大きくなるよう維持することができるので,鋼材部分を切断する箇所で切断ワイヤ12aが屈曲して鋭角となることがない。従って,切断ワイヤ12に対して局部的な負担がかからず,切断ワイヤ12の破損を防止できるので,円滑かつ迅速に切断作業を実行できる。
【0052】
次に,図7及び図8に基づいて,上述したような構成の切断装置1を用いて,既設伸縮継手20(例えばくし形ジョイント)の路面14側を部分的にスライス切断する切断方法について説明する。なお,図7は,本実施形態にかかる既設伸縮継手20の切断方法を示すフローチャートであり,図8は,本実施形態にかかる既設伸縮継手20の切断方法の工程説明図である。
【0053】
図7に示すように,まず,工程S10では,伸縮継手20の短手方向の両側に,伸縮継手20の長手方向に沿って,上記一対のユニバーサルプーリ11を移動させるための2本の溝26を形成する(溝形成工程S10)。
【0054】
この溝26の形成工程の具体的について説明する。図8(a)に示すように,まず,ロードカッタ等を用いて,伸縮継手20の両側の舗装材212(アスファルトや樹脂モルタル等)およびコンクリート製等の床版21の部分に,溝26の形成位置の適宜間隔毎に,伸縮継手20の切断深さLよりもやや深目に複数の切断線26aを入れる。次いで,この切断線26aに沿って,タガネや電動チッパー等で舗装材212および床版21を細かく砕いた上で,溝26からガラ27を取出し,溝26の底面の成形を行う。これによって,図8(b)に示すような,断面略コの字形の溝26が形成される。この2本の溝26は,相互の間隔が伸縮継手20の撤去幅(例えば数十cm)となる位置に形成される。また,溝26の幅Pは,回動した状態のユニバーサルプーリ11を挿入可能な幅であれば,ユニバーサルプーリ11の外径よりも小さくすることも可能である。さらに,溝26の深さQは,切断深さLより若干深い程度であってもよい。
【0055】
次いで,工程S12では,上記伸縮継手20の両側の溝26をつなぐように伸縮継手20を横断する横断溝28を形成する(横断溝形成工程S12)。
【0056】
具体的には,図8(a)および図1(b)に示すように,伸縮継手20の切断深さLに切断ワイヤ12を配置するために,切断ワイヤ12のワイヤ径より幅広の横断溝28を,少なくとも1ヶ所穿設する。この横断溝28は,上記伸縮継手20を短手方向に横断して上記両側の溝26をつなぐようにして形成され,伸縮継手20および床版21のコンクリートを,略垂直方向に少なくとも伸縮継手20の切断深さLまで分断する。
【0057】
さらに,工程S14では,切断装置1を伸縮継手20の路面14上に設置して,一対のユニバーサルプーリ11を上記伸縮継手20の両側の溝26内にそれぞれ配置する(切断装置設置工程S14)。
【0058】
具体的には,まず,図1及び図6等に示したように,路面14上(例えば伸縮継手20の上面)に,ガイドレール3を伸縮継手20長手方向に沿って固設する。このガイドレール3の固定方法としては,例えば,伸縮継手20にガイドレール支持用ボルト3dを溶接し,このガイドレール支持用ボルト3c上に取り付けたガイドレール支持具3cによりガイドレール3を固定する方法(図1参照)や,路面14上に適宜間隔毎にアンカーを挿入してガイドレール支持具を保持する方法(図示を省略する)などがある。次いで,上記固定されたガイドレール3上に切断装置本体7を設置し,ガイドレール3と走行駆動部2とを係合させ,上記一対のユニバーサルプーリ11をそれぞれ上記各溝26内に配置する。なお,この切断装置本体7の設置前若しくは設置後に,切断深さおよび切断幅に応じて各ユニバーサルプーリ11の取付位置を調整して,溝26内の好適な位置に収まるようにしてもよい。
【0059】
また,上記手法とは異なり,予めガイドレール3と走行駆動部2とが係合した状態の切断装置本体7を現場に搬入し,当該ガイドレール3を路面14上に固定することで,切断装置1を路面14上に設置することもできる。
【0060】
その後,工程S16では,一対のユニバーサルプーリ11間に張架された切断ワイヤ12aを,上記横断溝28内の所定深さLに配置する(切断ワイヤ配置工程S16)。
【0061】
具体的には,例えば,まず,上記のように設置された切断装置本体7を位置調整して,横断溝28の切削方向前方に位置付ける。次いで,かかる切断装置本体7と横断溝28との位置関係に応じて,切断ワイヤ12の長さを調整する。さらに,この長さ調整された切断ワイヤ12を上記切断装置1の各プーリに懸架して,上記一対のユニバーサルプーリ11間に張架される切断ワイヤ12aを,上記横断溝28内の所定の切断深さLの位置に配置する。その後,駆動プーリ9およびプーリ駆動部8の取付高さを調節して,切断ワイヤ12に所定の張力を与える。
【0062】
なお,上記のように,切断装置1の設置(S14)後に,切断装置1の各プーリに切断ワイヤ12を懸架する(S16)ことにより,実際の施工現場における伸縮継手20の種類および状態に応じて切断ワイヤ12の長さを調整した上で,切断ワイヤ12を懸架して横断溝28内に配置できるという利点がある。しかし,かかる例に限定されず,設置前に予め切断ワイヤ12が懸架された状態の切断装置1を現場に搬入し,横断溝28内に切断ワイヤ12が張架されるように切断装置本体7の位置調整しながら,切断装置1を路面14上に設置するようにしてもよい。
【0063】
次いで,工程S18では,伸縮継手20の路面14側を部分的にスライス切断する(切断工程S18)。
【0064】
具体的には,図6に示したように,プーリ駆動部8を動作させて切断ワイヤ12を周回動作させながら,移動手段によって,切断装置本体7を伸縮継手20の長手方向に移動させる。これによって,一対のユニバーサルプーリ11間に張架された切断ワイヤ12aを用いて,伸縮継手20の上部を床版21のコンクリートごと,路面14に対して略平行にスライス切断する。この切断時には,ユニバーサルプーリ11間の切断ワイヤ12aは,切断される伸縮継手20及び床版21から受ける切断抵抗に応じて切断方向後方に向かって湾曲し,これに伴い,各ユニバーサルプーリ11が水平方向に回動する。このとき,切断ワイヤ12aの両端が各ユニバーサルプーリ11によって位置保持されているため,当該切断ワイヤ12aは,大きな曲率半径で左右略均等な弓なりに湾曲するだけで,鋼材部分で局部的に鋭角に屈曲することがない。このため,切断ワイヤ12が破損せずに円滑に周回動作でき,比較的硬質な鋼材等からなる伸縮継手20と比較的軟質なコンクリート等からなる床版21とを,同時に好適にスライス切断できる。
【0065】
なお,上記スライス切断の切断距離は,例えば数m程度である。また,切断加工時には,切断ワイヤ12および加工点を冷却し,粉塵発生を防止するため,ホース等の冷却水供給手段により,加工点付近に冷却水が供給される。
【0066】
その後,工程S20では,図8(c)に示すように,切断された伸縮継手20が撤去される(撤去工程S20)。具体的には,切断装置1を撤去した後,切断された部分の伸縮継手20に吊り冶具を取り付けて,当該切断された伸縮継手20をクレーン・ユニック車等により吊り出して搬出する。
【0067】
以上,本実施形態にかかる既設の伸縮継手20の切断装置1,およびこれを用いた切断方法について詳細に説明した。かかる切断装置1および切断方法によれば,高架橋,橋梁等に既設の伸縮継手20を,例えば,埋設型伸縮継手に取り替えるため,既設の伸縮継手20の上部を床版21とともに部分的に好適に切断・撤去できる。このとき,路面14の上で切断装置1を用いて既設の伸縮継手20を切断するため,従来のように作業員が床版21下から回りこんで既設の伸縮継手20を切断する必要がなく,伸縮継手交換時の作業効率が大幅に向上する。
【0068】
また,既設の伸縮継手20を切断ワイヤ12により切断し,ブレーカー等を使用しないため,騒音,振動,粉塵などといった環境面での問題はほとんど生じない。さらには,騒音,振動が小さいため,深夜間でも工事が可能である。
【0069】
さらに,本実施形態にかかる切断装置1では,ユニバーサルプーリ11で位置保持された切断ワイヤ12に所定の張力を持たせて高速回転させつつ,切断装置本体7を走行させて,周辺のコンクリート製の床版21とともに,鋼製の伸縮継手20の上部を長手方向に平行にスライス切断する。このため,鋼製伸縮継手20を所定の深さL及び形状(例えば直方体)で正確かつ迅速に切断できる。また,ユニバーサルプーリ11間の切断ワイヤ12aが大きな曲率半径で略均等に湾曲した状態で切断が進行するため,切断ワイヤ12への負担が少なく,切断ワイヤ12の破損等のトラブルを抑制できる。従って,既設伸縮継手20の切断・撤去を容易かつ迅速に行うことができるとともに,埋設型伸縮継手への交換作業を円滑に行うことができる。
【0070】
さらに,上記各ユニバーサルプーリ11を採用することによって,切断加工前に予め形成される溝26の幅Pが狭くて済み,さらに,溝26の深さQも浅くて済むという利点がある。
【0071】
つまり,上記各ユニバーサルプーリ11は,上述したように,その回転面が路面14に対して略垂直で,かつ路面14に対して水平方向に回動可能に配設されている。このユニバーサルプーリ11は,切断加工時には,図6に示したように,切断抵抗を受ける切断ワイヤ12aが湾曲するに伴い,溝26の長手方向に対して略平行となる方向に回動し,この結果,当該ユニバーサルプーリ11の回転面と溝26の長手方向との成す角度が,鋭角(例えば45度)となる。このため,溝26の溝幅Pがユニバーサルプーリ11の外径よりも小さくても,切断加工時には,ユニバーサルプーリ11が溝26内を移動して,切断加工を好適に実行できる。特に,ユニバーサルプーリ11が溝26の長手方向と略平行となるまで回動して切断が行われる場合には,溝26の溝幅Pは,ユニバーサルプーリ11の厚さより若干大きい程度で済む。
【0072】
また,縦型のユニバーサルプーリ11を採用することによって,従来の水平型のプーリよりも,溝26の深さQが浅くて済む。つまり,上記特許文献2に記載の従来の切断装置では,回転面が水平なガイドプーリ(以下,水平プーリ)を用いて切断ワイヤを送り出す/引き込んでいたが,かかる水平プーリを溝26内に設置するためには,切断深さLに加えて,少なくとも水平プーリの厚さの約半分の与堀が必要であった。これに対し,本実施形態にかかる切断装置1では,回転面が垂直であるユニバーサルプーリ11によって切断ワイヤ12aを送り出す/引き込むことにより,溝26の底面際で切断加工することができる。従って,上記溝26の深さQが切断深さLとほぼ同程度であっても,切断が加工であり,上記従来の与堀分が不要となる。
【0073】
このように,本実施形態にかかる切断装置1ではユニバーサルプーリ11を採用することで,上記特許文献2に記載の従来の切断装置のように溝26内に水平プーリを設置する場合と比べて,上記溝26の幅Pおよび深さQを小さくすることが可能になる。従って,切断加工に先立ち,ロードカッタやブレーカー等を用いて溝26を形成する作業を容易かつ迅速に実行できるようになり,作業効率を向上させることができる。
【0074】
さらに,特許文献2に記載の従来の切断装置では,少なくとも10個以上のプーリを設置する必要があり,プーリ設置数が多く,このため,ワイヤ切断機構の構成も複雑であった。これに対して,本実施形態にかかる切断装置1では,上記ユニバーサルプーリ11によって,従来の切断装置における水平型のガイドプーリおよび方向変換プーリを代替できる。従って,プーリ設置数を大幅に低減でき,ワイヤ切断機構の構造を簡素化することができる。
【0075】
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0076】
例えば,上記実施形態では,切断装置1の移動手段は,走行駆動部2とガイドレール2の組合せで構成されたが,かかる例に限定されず,切断装置7本体に,複数の車輪,クローラ機構等の移動手段を設けて移動可能に構成してもよい。また,移動手段は,少なくとも一対のユニバーサルプーリ11を移動させることができる構成であればよく,必ずしも,上記実施形態のように,切断装置本体7を移動させるものでなくてもよい。
【0077】
また,上記実施形態では,各ユニバーサルプーリ11に対応して1つのガイドプーリ13を設置したが,本発明はかかる例に限定されない。例えば,各ユニバーサルプーリ11に対応して複数のガイドプーリ13を設置して,これら複数のガイドプーリ13によって駆動プーリ9からの切断ワイヤ12を各ユニバーサルプーリ11まで案内するようにしてもよい。また,ガイドプーリ13は,回動不能に配設されてもよい。
【0078】
また,上記実施形態にかかる切断装置1では,プーリ設置数は,1個の駆動プーリ9,2個のユニバーサルプーリ11,2個のガイドプーリ13の計5個であったが,かかる例に限定されず,ガイドプーリ13を省略すれば,プーリ設置数を3個にすることも可能である。
【0079】
また,上記実施形態にかかる切断装置本体7では,鉛直に起立した駆動機支持柱4に駆動プーリ9,プーリ駆動部8,張力調整手段および移動手段等を配設したが,かかる例に限定されず,切断装置本体7の構成は多様に設計変更可能である。例えば,駆動機支持柱4を水平方向に延びるように配設してもよい。また,切断装置本体7を移動基台と固定基台とに分離して,移動基台にユニバーサルプーリ11および移動手段などを設け,固定基台駆動プーリ9,ガイドプーリ13,プーリ駆動部8および張力調整手段などを設けてもよい。これにより,固定基台を路面に固定して移動基台のみを移動させて,上述したスライス切断加工を実行することで,各装置を小型化して持ち運び便利にするとともに,移動手段の駆動機を小型化かつ安価にできる。
【0080】
また,上記実施形態では,高架橋,橋梁等に既設の伸縮継手20を部分的に切断・除去する場合について説明したが,本発明はかかる例に限定されない。例えば,上記切断装置1および切断方法は,既設の縦目地部を切断・撤去する場合にも適用できる。この既設の縦目地部は,例えば,高速道路のインターチェンジを増設した場合や既設高架橋を拡幅した場合などに,平行する高架橋間の橋軸方向の接合部路面に設置されるものである。かかる既設の縦目地部を切断・撤去して,例えば埋設型伸縮継手等に交換する場合も,上記実施形態とほぼ同様の工程で実行できる
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は,高架橋,橋梁等の構築物に既設の伸縮継手を部分的に切断する切断装置および切断方法に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1A】本発明の第1の実施形態にかかる切断装置を示す正面図である。
【図1B】本発明の第1の実施形態にかかる切断装置を示す側面図である。
【図2】同実施形態にかかる無端切断ワイヤを示す部分拡大図である。
【図3】同実施形態にかかるワイヤ切断機構における各プーリ間に懸架された切断ワイヤの周回状態を概念的に示す斜視図である。
【図4】同実施形態にかかるユニバーサルプーリの取付機構を示す縦断面図(a),側面図(b)および底面図(c)である。
【図5】同実施形態にかかるユニバーサルプーリ11が回動する態様を示す平面図である。
【図6】同実施形態にかかる切断動作を行う切断装置を示す平面図である。
【図7】同実施形態にかかる既設伸縮継手の切断方法を示すフローチャートである。
【図8】同実施形態にかかる既設伸縮継手の切断方法の工程説明図である。
【図9】従来タイプの伸縮継手(くし形ジョイント)の構造を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0083】
1 切断装置
2 走行駆動部
3 ガイドレール
4 駆動機支柱
5 アーム支持枠
6 アーム
7 切断装置本体
8 プーリ駆動部
9 駆動プーリ
10 アーム取付具
11 ユニバーサルプーリ
12 切断ワイヤ
12a 一対のユニバーサルプーリ間に張架された切断ワイヤ
12b 各ガイドプーリと各ユニバーサルプーリの間に張架された切断ワイヤ
13 ガイドプーリ
14 路面
15 ガイドプーリ軸支具
16 ユニバーサルプーリ軸支具
20 伸縮継手(くし形ジョイント)
20a くし形片
21 床版(コンクリート)
26 溝
26a 切断線
27 ガラ
28 横断溝
29 伸縮継手補強材
L 伸縮継手の切断深さ
P 溝の幅
Q 溝の深さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設の伸縮継手の路面側を部分的にスライス切断する切断装置であって:
駆動プーリと,回転面が前記路面に対して起立した状態で回動自在に配設される一対のユニバーサルプーリと,少なくとも前記駆動プーリおよび前記一対のユニバーサルプーリに懸架される無端の切断ワイヤと,前記駆動プーリを回転駆動させるプーリ駆動部とを有するワイヤ切断機構と;
少なくとも前記一対のユニバーサルプーリを前記伸縮継手の長手方向に移動させる移動手段と;
を備え,
切断加工時には,前記プーリ駆動部によって前記切断ワイヤを周回動作させながら,前記移動手段によって前記一対のユニバーサルプーリを前記伸縮継手の長手方向に移動させることによって,前記一対のユニバーサルプーリ間に張架された前記切断ワイヤを用いて,前記伸縮継手の路面側を部分的にスライス切断することを特徴とする,切断装置。
【請求項2】
前記ワイヤ切断機構は,前記路面上に設置される切断装置本体に設けられ,
前記移動手段は,前記切断装置本体を前記伸縮継手の長手方向に移動させることを特徴とする,請求項1に記載の切断装置。
【請求項3】
前記ワイヤ切断機構は,前記駆動プーリと前記各ユニバーサルプーリとの間に張架される前記切断ワイヤが,前記各ユニバーサルプーリ側で前記路面に対して略垂直方向に延びるように,前記切断ワイヤをガイドする1または2以上のガイドプーリをさらに有し,
前記各ユニバーサルプーリは,前記略垂直方向に延びる前記切断ワイヤを中心として回動自在に配設されることを特徴とする,請求項1または2のいずれかに記載の切断装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の切断装置を用いて,既設の伸縮継手の路面側を部分的にスライス切断する切断方法であって:
前記伸縮継手の長手方向に沿って,前記伸縮継手の両側に溝を形成する工程と;
前記伸縮継手の両側の溝をつなぐように前記伸縮継手を横断する少なくとも1つの横断溝を形成する工程と;
前記切断装置が備える一対のユニバーサルプーリを,前記伸縮継手の両側の溝内にそれぞれ配置する工程と;
前記一対のユニバーサルプーリ間に張架された切断ワイヤを前記横断溝内の所定深さに配置する工程と;
前記切断ワイヤを周回動作させながら,前記一対のユニバーサルプーリを前記伸縮継手の長手方向に移動させることによって,前記一対のユニバーサルプーリ間に張架された前記切断ワイヤを用いて,前記伸縮継手の路面側を部分的にスライス切断する工程と;
を含むことを特徴とする,切断方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−299753(P2006−299753A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−126998(P2005−126998)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(501177551)株式会社日本コンクリートカッティング工業大阪 (1)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100095957
【弁理士】
【氏名又は名称】亀谷 美明
【Fターム(参考)】