説明

既設構造物用制振装置設置方法、及び、該方法に用いる制振装置

【課題】 移動式クレーンを用いた制振装置構成部材の現場投入作業を軽減する。
【解決手段】 分離させた状態の基礎フレーム1と固定フレーム2と可動フレーム7、及び、空の鋼製枠9と鋼製のウェイトを、移動式クレーンを用いて既設ビル19の制振装置設置現場へ投入する。既設ビル19の屋上部に、基礎フレーム1と固定フレーム2と可動フレーム5を介して鋼製枠9を水平面内で直交する二軸方向に往復移動可能に設置する。鋼製枠9にウェイトを収納し、その後、モルタル10を充填して、鋼製枠9とウェイトとモルタル10からなる所要質量の可動マス8を現地製作することで、この可動マス8を水平面内で直交する二軸方向に往復移動可能に具備してなる制振装置Iを形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設のビル等、既設の地上構造物に制振装置を設置するために用いる既設構造物用制振装置設置方法、及び、該方法に用いる制振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビル等の地上構造物が風荷重や地震により揺れを生じたときに、その振幅、振動を速やかに減衰させるための制振装置として従来提案されているものの一つに、マス・ダンパ形式の制振装置がある。
【0003】
上記マス・ダンパ形式の制振装置は、上記各種地上構造物の上部に、所要質量の可動マス(振動体)を、制振を望む方向に沿って往復移動可能に設けてなる構成として、該可動マスを、制振対象構造物の揺れに応じて往復移動させることにより該制振対象構造物の制振を行うようにしてあるものであり、上記可動マスの往復移動を、制振対象構造物との力学的バランスを利用して自然に行わせるようにしてある受動型(パッシブ式)のものと、外部からの供給エネルギーを利用して可動マスを往復駆動する能動型(アクティブ式)のものがある。更には、上記受動型と能動形を組み合わせたハイブリッド型のものも開発されてきている。
【0004】
更に、上記マス・ダンパ形式の制振装置としては、一台で制振対象構造物のいかなる方位の振動も抑制できるようにするために、制振対象構造物の上部に、上下二段の制振体を、互いに直交する方向に往復移動可能に備えると共に、上記下部と上部の各制振体に、駆動用モータと、ボールねじやラック・ピニオン等を用いた動力伝達機構をそれぞれ備えた構成の制振装置を、制振対象構造物上に設置し、制振対象構造物に、水平面内で直交する2つの軸方向のうちの一方の軸方向の振動が発生した場合は、90度位相をずらして下部制振体を該方向に往復移動させ、上記水平面内で直交する2つの軸方向のうちの他方の軸方向の振動が発生した場合は、90度位相をずらして上部制振体を往復移動させることにより、制振対象構造物の2軸方向の振動を抑制させるようにしたものも提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0005】
ところで、上記マス・ダンパ形式の制振装置をビル等の制振対象構造物に設置する場合、通常は、制振対象とするビルを新設する際に、ビル建設現場にて、該ビルの建設作業に組み込んで上記マス・ダンパ形式の制振装置の設置作業を行うようにしてある。
【0006】
すなわち、ビルを建設する場合、ビルそのものが大きな重量のもので構成されているため、ビルの建設現場には、一般に、10〜15トン程度のものをビルの全範囲に吊り込めるようなクレーンが備えられている。このため、新設のビルに上記マス・ダンパ形式の制振装置を設置する場合は、該ビルの建築スケジュールで上記ビル本体の工事用クレーンが空いているときに、該ビル本体工事用クレーンを用いて、上記マス・ダンパ形式の制振装置を、上記ビル本体工事用クレーンの吊上げ能力に応じた重量に収まるように適宜分割した状態で据付け現場へ搬入し、現地で組み立てるようにしていた。
【0007】
ところで、上記アクティブ方式、パッシブ方式のいずれのマス・ダンパ形式の制振装置においても、通常、可動マスの質量は、制振対象構造物の一般化質量の0.5%〜1%程度に設定するようにしてあるため、ビルの規模にもよるが、上記マス・ダンパ形式の制振装置における可動マスの質量は数十トンとなる。
【0008】
なお、上記可動マスの容積(サイズ)は、小さければ小さいほど、制振装置の設置に要するスペースの削減化に有利なため、従来のマス・ダンパ形式の制振装置では、通常、全体が鋼製の可動マスを用いるようにしている。
【0009】
上記マス・ダンパ形式の制振装置の全体を鋼製としてある可動マスを設置する場合、従来は、ビル建設現場に備えられているクレーンの能力に応じて、1枚当り10〜15トン程度の厚肉に形成した矩形の鋼製プレートを、新設ビルにおける上記マス・ダンパ形式の制振装置の据付け現場に搬入し、該鋼製ブロックを積層して互いに溶接することにより、所望の質量の一体物の可動マスを現場で製作するようにしていた。
【0010】
【特許文献1】特開平3−33525号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、マス・ダンパ形式の制振装置を、既設のビルに後から据付けようとする場合には、以下のような様々な問題が生じてしまうのが実状である。
【0012】
すなわち、既設のビルでは、マス・ダンパ形式の制振装置の構成部材の据付け現場への投入作業を行うためのクレーンとして、トラッククレーンのような移動式クレーンを用いる必要が生じるため、ビル建設現場でビル本体の工事用に用いられるクレーンに比して吊荷の重量制限を受ける。たとえば、吊荷の重量が2〜3トン程度に制限されてしまう。そのために、ビル新設時に建設現場でビル本体工事用のクレーンを用いてマス・ダンパ形式の制振装置の構成部材を据付け現場への投入する場合よりも、上記マス・ダンパ形式の制振装置を、軽量な構成部材に分割する必要がある。特に、可動マスは、数十トンの質量を有していることから、多数のブロックに分割する必要が生じる。
【0013】
一方、該移動式クレーンの空き状況や、賃料、更に、制振装置の設置対象となるビルが街中にある場合は、移動式クレーンを配置するために該ビル周辺の道路交通規制を行う必要が生じることから、上記移動式クレーンを用いて行うマス・ダンパ形式の制振装置の構成部材の据付け現場への投入作業は、できるだけ短い時間で行うことが要求される。特に、高層ビルの屋上に制振装置の構成部材を投入できるような大型の移動式クレーンは、台数が限られるため、空いている日が少なく、又、賃料も非常に高価であることから、上記制振装置のすべての構成部材の据付け現場への投入を、一日で完了させなくてはならないことも多い。よって、上記マス・ダンパ形式の制振装置の構成部材の数や、可動マスの分割したブロック数はできるだけ少ない方が望ましい。
【0014】
このように、マス・ダンパ形式の制振装置を、既設のビルに後から据付ける場合は、上記したような相反する要求を満足させなければならず、したがって、マス・ダンパ形式の制振装置を、既設のビルに効率よく据付ける手法は従来提案されていないというのが実状である。
【0015】
更に、可動マスを多数の鋼製ブロックに分割して制振装置の据付け現場へ投入した場合には、現地で上記多数のブロックを溶接して一体物としての可動マスを形成する必要があるため、現場での組立、調整に工数が嵩むという問題が生じてしまう。しかも、上記鋼製ブロック同士の溶接に伴って焼けた部分の補修塗装が必要になるため、このことによっても現場での工数が嵩んでしまい、更には、上記補修塗装部分について、経年劣化のメンテナンスが必要とされるという問題も生じてしまう。
【0016】
そこで、本発明は、マス・ダンパ形式の制振装置を、既設のビルに後から据付ける場合に、移動式クレーンの吊荷の重量制限の範囲内となるように可動マスを分割するときの分割数を削減することができて、移動式クレーンを用いた該可動マスの構成部材の現場投入作業を軽減できると共に、制振装置据付け現場で一体物の可動マスを製作するために要する工数を削減することができるようにするための既設構造物用制振装置設置方法、及び、該方法に用いる制振装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、既設構造物の上部所要個所の制振装置据付け現場に、上端側が開口するボックス構造の鋼製枠を、該既設構造物の揺れ方向に往復移動可能に設けた後、該鋼製枠にモルタル又はコンクリートを充填して、上記鋼製枠と該鋼製枠に充填されたモルタル又はコンクリートからなる可動マスを現地で形成して、上記制振装置据付け現場に、該可動マスを上記既設構造物の揺れ方向に往復移動可能に具備してなるマス・ダンパ形式の制振装置を設けるようにする既設構造物用制振装置設置方法とする。
【0018】
又、請求項2に対応して、既設構造物の上部所要個所の制振装置据付け現場に、上端側が開口するボックス構造の鋼製枠を、水平面内の任意の方位へ往復移動可能に設けた後、該鋼製枠にモルタル又はコンクリートを充填して、上記鋼製枠と該鋼製枠に充填されたモルタル又はコンクリートからなる可動マスを現地で形成して、制振装置据付け現場に、該可動マスを水平面内の任意の方位へ往復移動可能に具備してなるマス・ダンパ形式の制振装置を設けるようにする既設構造物用制振装置設置方法とする。
【0019】
更に、上記各構成において、既設構造物の制振装置据付け現場に設けた鋼製枠に、制振装置の構成部材の投入に使用する移動式クレーンの吊荷の重量制限の範囲内となる所要重量の鋼製のウェイトを収納した後、上記鋼製枠にモルタル又はコンクリートを充填して可動マスを形成するようにする。
【0020】
同様に、上記各構成において、既設構造物の制振装置据付け現場に設けた鋼製枠に、高比重の塊状物と、モルタル又はコンクリートとを、同時にあるいは所要の順序で充填して可動マスを形成するようにする。
【0021】
更に、上記構成において、既設構造物の制振装置据付け現場に設けた鋼製枠に充填する高比重の塊状物として、重晶石又はスラグを用いるようにする。
【0022】
又、請求項6に対応して、可動マスを、制振対象構造物の揺れに応じて往復移動させることにより該制振対象構造物の制振を行うようにしてある制振装置において、上端側が開口するボックス構造の空の鋼製枠を、制振対象構造物となる既設構造物の上部所要個所の制振装置据付け現場に、該既設構造物の揺れ方向に往復移動可能に設け、更に、該鋼製枠にモルタル又はコンクリートを充填して可動マスを形成してなる構成を有する制振装置とする。
【0023】
更に、請求項7に対応して、可動マスを、制振対象構造物の揺れに応じて往復移動させることにより該制振対象構造物の制振を行うようにしてある制振装置において、上端側が開口するボックス構造の空の鋼製枠を、制振対象構造物となる既設構造物の上部所要個所の制振装置据付け現場に、水平面内の任意の方位へ往復移動可能に設け、更に、該鋼製枠にモルタル又はコンクリートを充填して可動マスを形成してなる構成を有する制振装置とする。
【0024】
上記各制振装置の構成において、可動マスを、既設構造物に設けた空の鋼製枠に、制振装置の構成部材の投入に使用する移動式クレーンの吊荷の重量制限の範囲内となる所要重量の鋼製のウェイトを収納し、更に、上記鋼製枠にモルタル又はコンクリートを充填してなる構成とする。
【0025】
同様に、上記各制振装置の構成において、可動マスを、既設構造物に設けた空の鋼製枠に、所要量の高比重の塊状物と、モルタル又はコンクリートとを充填してなる構成とする。
【0026】
更に、上記制振装置の構成において、既設構造物に設けた空の鋼製枠に充填する高比重の塊状物を、重晶石又はスラグとした構成とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)既設構造物の上部所要個所の制振装置据付け現場に、上端側が開口するボックス構造の鋼製枠を、該既設構造物の揺れ方向に往復移動可能に設けた後、該鋼製枠にモルタル又はコンクリートを充填して、上記鋼製枠と該鋼製枠に充填されたモルタル又はコンクリートからなる可動マスを現地で形成して、上記制振装置据付け現場に、該可動マスを上記既設構造物の揺れ方向に往復移動可能に具備してなるマス・ダンパ形式の制振装置を設けるようにする既設構造物用制振装置設置方法、及び、可動マスを、制振対象構造物の揺れに応じて往復移動させることにより該制振対象構造物の制振を行うようにしてある制振装置において、上端側が開口するボックス構造の空の鋼製枠を、制振対象構造物となる既設構造物の上部所要個所の制振装置据付け現場に、該既設構造物の揺れ方向に往復移動可能に設け、更に、該鋼製枠にモルタル又はコンクリートを充填して可動マスを形成してなる構成を有する制振装置、又は、既設構造物の上部所要個所の制振装置据付け現場に、上端側が開口するボックス構造の鋼製枠を、水平面内の任意の方位へ往復移動可能に設けた後、該鋼製枠にモルタル又はコンクリートを充填して、上記鋼製枠と該鋼製枠に充填されたモルタル又はコンクリートからなる可動マスを現地で形成して、制振装置据付け現場に、該可動マスを水平面内の任意の方位へ往復移動可能に具備してなるマス・ダンパ形式の制振装置を設けるようにする既設構造物用制振装置設置方法、及び、可動マスを、制振対象構造物の揺れに応じて往復移動させることにより該制振対象構造物の制振を行うようにしてある制振装置において、上端側が開口するボックス構造の空の鋼製枠を、制振対象構造物となる既設構造物の上部所要個所の制振装置据付け現場に、水平面内の任意の方位へ往復移動可能に設け、更に、該鋼製枠にモルタル又はコンクリートを充填して可動マスを形成してなる構成を有する制振装置としてあるので、既設構造物の制振装置据付け現場に、制振装置において大きな質量を有する可動マスを設けるために、該制振装置据付け現場へ搬入するのは、空の鋼製枠とモルタルでよいため、所要質量の可動マスを既設ビルへ制振装置の構成部材の投入を行うために用いる移動式クレーンの吊荷の重量制限以内の重量となるように分割する際の分割数を、全体を鋼製とする同質量の可動マスを上記移動式クレーンの吊荷の重量制限以内の重量の鋼製のブロックに分割する場合に比して削減することができる。よって、上記移動式クレーンを用いた既設ビルへの可動マスの構成部材の現場投入回数を削減できて、制振装置の構成部材の現場投入作業を軽減させることができる。(2)又、鋼製枠にモルタル又はコンクリートを充填するのみで、何ら溶接作業を要することなく、一体構造の可動マスを形成することができるため、鋼製のブロック同士を溶接して全体が鋼製の同質量の可動マスを形成する場合に比して、制振装置据付け現場で一体物の可動マスを製作するために要する工数を大幅に削減することができる。したがって、鋼製ブロック同士を溶接して可動マスを構成する場合に必要とされる溶接で焼ける部分の補修塗装の手間が大幅に減るため、このことによっても工数の削減化を図ることができ、更には、この補修塗装部分のメンテナンス作業を不要にできるという効果も期待できる。(3)既設構造物の制振装置据付け現場に設けた鋼製枠に、制振装置の構成部材の投入に使用する移動式クレーンの吊荷の重量制限の範囲内となる所要重量の鋼製のウェイトを収納した後、上記鋼製枠にモルタル又はコンクリートを充填して可動マスを形成するようにするようにすることにより、可動マスの単位体積当りの平均質量を増加させることができるため、可動マスの容積の削減に有利なものとすることができる。
(4)既設構造物の制振装置据付け現場に設けた鋼製枠に、高比重の塊状物と、モルタル又はコンクリートとを、同時にあるいは所要の順序で充填して可動マスを形成するようにすることによっても、可動マスの単位体積当りの平均質量を増加させることができるため、可動マスの容積の削減に有利なものとすることができる。
(5)既設構造物の制振装置据付け現場に設けた鋼製枠に充填する高比重の塊状物として、重晶石又はスラグを用いるようにすることにより、上記(4)の単位体積当りの平均質量を増加させてなる可動マスを容易に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照して説明する。
【0029】
図1乃至図5は本発明の既設構造物用制振装置設置方法に用いる制振装置の実施の一形態を示すもので、以下のようにしてある。
【0030】
すなわち、高さ寸法調整機能を備えた4台の基礎フレーム1上に、水平面内で互いに直交する2つの軸方向のうちの一方の軸方向(以下、x軸方向と云う)に所要寸法延びる固定フレーム2を、防振ゴムの如き図示しない防振用部材を介在させた状態で取り付ける。上記固定フレーム2の上側には、上記固定フレーム2の長手方向となるx軸方向に延びる下段リニアガイド3と、可動部4aをx軸方向に沿わせて往復駆動できるようにしてある下段アクチュエータ4を設ける。
【0031】
上記下段リニアガイド3のスライダ3aの上側に、上記水平面内で互いに直交する2つの軸方向のうちの他方の軸方向(以下、y軸方向と云う)に所要寸法延びる可動フレーム5を取り付けると共に、該可動フレーム5の所要個所に、上記下段アクチュエータ4の可動部4aを連結する。
【0032】
上記可動フレーム5の上側には、該可動フレーム5の長手方向となるy軸方向に延びる上段リニアガイド6と、可動部7aをy軸方向に沿わせて往復駆動できるようにしてある上段アクチュエータ7を設ける。
【0033】
更に、上記上段リニアガイド6のスライダ6aの上側に、上端側が開口するボックス構造の鋼製枠9を取り付けると共に、該鋼製枠9の所要個所に上記上段アクチュエータ7の可動部7aを連結し、更に、上記鋼製枠9に無収縮性のモルタル10を充填して、該鋼製枠9とモルタル10からなる可動マス8を備えたマス・ダンパ形式の既設構造物設置用の制振装置Iを構成する。
【0034】
詳述すると、上記固定フレーム2上には、長手方向(x軸方向)と直交する幅方向の両端部に、x軸方向に延びる下段リニアガイド3がそれぞれ設置してある。又、該各下段リニアガイド3は、それぞれ2台ずつのスライダ3aを備えてなる構成としてある。
【0035】
又、上記下段アクチュエータ4は、駆動モータ4bと、その出力軸に連結したねじ軸4cと、該ねじ軸4cに螺号させた上記可動部4aとしてのナット部材4aとを具備して、上記駆動モータ4bによる上記ねじ軸4cの正逆転駆動により、上記ナット部材4aを上記ねじ軸4cの軸心方向に沿って往復移動させることができるようにしたボールねじ形式のアクチュエータとしてあり、上記固定フレーム2の幅方向中央部に、x軸方向に沿わせて配置した2基の下段アクチュエータ4が並列に設置してある。
【0036】
上記固定フレーム2上に設けてある各下段リニアガイド3の2台ずつのスライダ3aと、上記各下段アクチュエータ4におけるナット部材4aの上側には、上記可動フレーム5を載置すると共に、該可動フレーム5の下面におけるそれぞれ対応する個所に、上記各スライダ3a及び各ナット部材4aがボルト止めにより連結してある。これにより、上記下段アクチュエータ4により、上記固定フレーム2上にて、可動フレーム5をx軸方向に沿って往復駆動できるようにしてある。
【0037】
上記可動フレーム5上には、長手方向(y軸方向)と直交する幅方向の両端部に、y軸方向に延びる上段リニアガイド6がそれぞれ設置してある。又、該各上段リニアガイド6は、それぞれ2台ずつのスライダ6aを備えてなる構成としてある。
【0038】
上記上段アクチュエータ7は、上記下段アクチュエータ4と同様に、駆動モータ7bとねじ軸7cと可動部7aとしてのナット部材7aを具備したボールねじ形式のアクチュエータとしてあり、上記可動フレーム5の幅方向中央部に、該上段アクチュエータ7がy軸方向に沿って延びるように設置してある。
【0039】
上記可動フレーム5上に設けた各上段リニアガイド6の各スライダ6aの上側には、上記可動マス8の鋼製枠9の下面の4角部に設けたブラケット11を載置してボルト止めにより連結してある。又、可動フレーム5上の上記上段アクチュエータ7のナット部材7aの上端部を、上記鋼製枠9の中央部の下面にボルト止めにより連結した構成としてある。これにより、上記上段アクチュエータ7により、可動フレーム5上にて、上記可動マス8の鋼製枠9をy軸方向に沿って往復駆動できるようにしてある。
【0040】
上記可動マス8は、鋼製枠9の質量と、その内側に充填するモルタル10の質量の和によって制振対象構造物の制振を行うマス・ダンパ形式の制振装置Iにおける可動マス8としての所定の質量を得るようにするものであるが、該所定の質量を有する可動マス8の容積の低減化が望まれる場合は、上記鋼製枠9の内側に、モルタル10よりも比重の大きい鋼製のウェイト12を予め収納した状態でモルタル10を充填して、単位体積当りの平均質量がより大きくなる可動マス8を形成するようにしてもよい。
【0041】
具体的には、図4に示すように、上記鋼製枠9を、予め内底部の所要個所にウェイト仮止用ボルト13を螺着させるためのナット部材14を設けると共に、該鋼製枠9の内底面に、上記ナット部材14の上端よりもやや高い位置まで立ち上がるスペーサ15を設けた構成としておく。上記スペーサ15の所要個所には、通り穴16のようなモルタル10が流通する空間部を設けておくようにする。なお、上記通り穴16は上記鋼製枠9の吊り環と兼用させるようにしてもよい。
【0042】
更に、上記鋼製枠9の平面形状よりも一回り小さい矩形板状とし、且つ後述するように既設のビルの上部におけるマス・ダンパ形式の制振装置Iの据付け位置へ該制振装置Iの構成部材の投入作業を行うためのトラッククレーンのような移動式クレーンの吊荷の重量制限以内の所要重量とした鋼製のウェイト12を予め用意して、上記鋼製枠9の内側中央部におけるスペーサ15の上に上記ウェイト12を所要枚数、たとえば、6枚載置し、更に、該各ウェイト12の所要個所に設けてある貫通孔を上方から挿通させたウェイト仮止用ボルト13を、上記鋼製枠9の内底部のナット部材14に螺着させることで、該各ウェイト12を仮固定した状態にて、上記鋼製枠9の内側に上記各ウェイト12が埋没するようにモルタル10を充填して可動マス8を形成するようにしてある。更に、上記可動マス8の質量の更なる増加を図るために、上記鋼製枠9の内底部に設けてあるスペーサ15やナット部材と干渉しない位置に、鋼製のウェイト12aを更に収納させてなる構成としてもよい。
【0043】
17は固定フレーム2の長手方向両端部に内向きに設けたストッパであり、該各ストッパ17により、該固定フレーム2上にて上記可動フレーム5の振幅が過大になる虞を防止できるようにしてある。又、18は可動フレーム5の長手方向両端部に内向きに設けたストッパであり、該各ストッパ18により、該可動フレーム5上にて上記可動マス8の振幅が過大になる虞を防止できるようにしてある。
【0044】
以上の構成としてある既設構造物設置用の制振装置Iを、既設構造物の上部所要個所、たとえば、図5に示す如き既設のビル19の屋上部に設置する場合は、予め、上記制振装置Iを、投入作業を行うために用いるトラッククレーンのような移動式クレーンの吊荷の重量制限以内の重量の構成部材に分割しておく。
【0045】
具体的には、4台の各基礎フレーム1と、下段リニアガイド3及び下段アクチュエータ4を取り付けた固定フレーム2と、上段リニアガイド6及び上段アクチュエータ7を取り付けた可動フレーム5に分割し、更に、可動マス8については、モルタル10充填前の空の鋼製枠9と、ウェイト12,12aとを分離した状態としておく。
【0046】
次に、上記のように分割された4台の基礎フレーム1と、下段リニアガイド3及び下段アクチュエータ4を取り付けた固定フレーム2と、上段リニアガイド6及び上段アクチュエータ7を取り付けた可動フレーム5と、モルタル10充填前の鋼製枠9と、ウェイト12を、図示しない移動式クレーンを用いて上記既設ビル19の屋上部に投入する。
【0047】
次いで、上記既設ビル19の屋上部にて、制振装置据付け個所の上方に設けた図示しない仮設の架構に取り付けたチェーンブロックや、ハンドフォークリフト等の所要の搬送機器を用いて、先ず、上記既設ビル19の屋上部における制振装置据付け位置に、上記4台の基礎フレーム1を設置して、すべての基礎フレーム1の上端位置が水平方向に揃うように該各基礎フレーム1の高さ寸法を調整した後、該各基礎フレーム1上に、上記固定フレーム2を取り付ける。
【0048】
上記のようにして固定フレーム2の設置を行った後は、該固定フレーム2上に設置してある各下段リニアガイド3のスライダ3aと、下段アクチュエータ4のナット部材7aの上側に、上記可動フレーム5を載置すると共にボルト止めして連結する。
【0049】
その後、上記可動フレーム2上に設置してある各上段リニアガイド6のスライダ6aと、上段アクチュエータ7のナット部材7aの上側に、上記空の鋼製枠9を載置してボルト止めして連結する。
【0050】
以上のようにして、上記空の鋼製枠9の上段リニアガイド6及び上段アクチュエータ7、可動フレーム5、下段リニアガイド3及び下段アクチュエータ4、固定フレーム2、並びに、基礎フレーム1を介した上記既設ビル19の屋上部への設置が終了すると、上記鋼製枠9内へ、図4に示した如きウェイト12,12aの搬入を開始して、該ウェイト12,12aを、上記鋼製枠9内の所定個所に配置して、仮止めする。
【0051】
しかる後、上記鋼製枠9の内側に、モルタル10を充填して、上記鋼製枠9内に配置してある上記ウェイト12,12aを該モルタル10に埋没させ、この状態で上記鋼製枠9に充填したモルタル10を固化させて可動マス8を形成することにより、上記既設ビル19への制振装置Iの設置を完了する。
【0052】
なお、図5に示したものでは、既設ビル19の屋上部に、2基の制振装置Iを対角方向に設置した状態が示してあるが、このように、複数基の制振装置Iの設置を行う場合であっても、予め移動式クレーンの吊荷の重量制限以内の重量となるようにしてある2基分の制振装置Iの構成要素を、図示しない移動式クレーンを用いて上記既設ビル19の屋上部に一度に投入し、その後、各制振装置Iのそれぞれ所定の据付個所にて、上記したと同様の手順により、1基ずつ制振装置Iを組み立てて設置するようにすればよい。
【0053】
このように、本発明の既設構造物用制振装置設置方法、及び、該方法に用いる制振装置によれば、制振装置Iの可動マス8を、鋼製枠9と、その内側へ充填するモルタル10と、ウェイト12,12aとからなる構成とすることで、制振装置Iにおいて数十トンもの大きな質量を有することが求められる可動マス8を、既設ビル19へ制振装置Iの構成部材の投入を行うために用いる図示しない移動式クレーンの吊荷の重量制限以内の重量となるように分割する際の分割数を、全体を鋼製とする同質量の可動マスを上記移動式クレーンの吊荷の重量制限以内の重量の鋼製のブロックに分割する場合に比して削減することができる。よって、上記図示しない移動式クレーンを用いた既設ビル19への可動マス8の構成部材の現場投入回数を削減できて、該可動マス8の構成部材の現場投入作業を軽減させることができる。又、上記鋼製枠9内の所定個所にウェイト12,12aを搬入して仮固定した後は、上記鋼製枠9内に、上記ウェイト12,12aが埋没するようにモルタル10を充填するのみで、何ら溶接作業を要することなく、一体構造の可動マス8を形成することができる。又、上記各ウェイト12,12aは、モルタル10に埋没させることで外気との接触を遮断することができる。
【0054】
したがって、図示しない移動式クレーンの吊荷の重量制限以内の重量となるように分割してある鋼製のブロック同士を溶接して全体が鋼製の同質量の可動マスを形成する場合に比して、制振装置据付け現場で一体物の可動マス8を製作するために要する工数を削減することができる。
【0055】
又、上記のように鋼製のブロック同士を溶接して可動マスを形成する場合は、個々の鋼製ブロックが予め防錆処理されている場合であっても、該各鋼製ブロック同士を溶接作業後には、防錆処理として溶接部分の補修塗装作業が必要になると共に、各ブロック同士の隙間を鉄パテ等で埋める作業が必要とされるが、上記本発明の既設構造物用制振装置設置方法、及び、該方法に用いる制振装置では、制振装置据付け現場で一体物の可動マス8を製作した後、これらの作業は全く必要なく、このことによっても、制振装置据付け現場での工数を削減することができる。しかも、上記補修塗装部分のメンテナンス作業を不要にできるという効果も期待できる。
【0056】
更に、図5に示したように、既設ビル19の屋上部における対角方向の2個所に、上記可動マス8を水平面内で、x軸方向及びy軸方向の二軸方向に駆動できるようにしてある制振装置Iを設置するようにすると、上記既設ビル19の水平面内での全方位への揺れを速やかに減衰させることができることに加えて、該既設ビル19に捩じり方向に作用する振動をも効果的に減衰させることが可能になる。
【0057】
次いで、図6及び図7は本発明の実施の他の形態として、図1乃至図5の実施の形態と同様の構成としてある制振装置Iの可動マス8の別の例を示すもので、図1乃至図5の実施の形態と同様の構成において、可動マス8を、鋼製枠9と、その内側へ充填するモルタル10と、ウェイト12,12aからなる構成とすることに代えて、鋼製枠9の内側に、高比重の塊状物としての重晶石20と、モルタル10を充填してなる構成の可動マス8としたものである。
【0058】
詳述すると、上記重晶石20は、硫酸バリウムの結晶であって、その比重が約4.1と、一般のコンクリート用骨材に比して高比重を有している。したがって、上記重晶石20とモルタル10を混合したものは、モルタル10の単体や、一般的なコンクリートに比して同体積で大きな質量を得ることができる。
【0059】
よって、上記の点に鑑みて、本実施の形態では、本発明の制振装置Iに必要とされる所定の質量を有する可動マス8を、鋼製枠9に、上記重晶石20とモルタル10とを詰めてなる構成とし、これにより、鋼製枠9にモルタル10のみを充填する場合に比して、該所定の質量を有する可動マス8の容積の低減化を図ることができるようにしてある。
【0060】
その他の構成は図1乃至図5に示したものと同様であり、同一のものには同一の符号が付してある。
【0061】
以上の構成としてある本実施の形態の既設構造物設置用の制振装置Iを、既設構造物の上部所要個所に設置する場合は、図1乃至図5の実施の形態と同様の手順により、空の鋼製枠9を、上段リニアガイド6及び上段アクチュエータ7、可動フレーム5、下段リニアガイド3及び下段アクチュエータ4、固定フレーム2、並びに、基礎フレーム1を介して既設ビル19の屋上部への設置を行った後、図7に示す如く、上記空の鋼製枠9内へ、ばら状態の重晶石20を投入して詰める。次いで、図7に二点鎖線で示す如く、上記鋼製枠9の内側に、モルタル10を充填して、上記鋼製枠9内に詰めてある上記重晶石20同士の隙間を上記モルタル10で埋めると共に該重晶石20を該モルタル10に埋没させ、この状態で上記鋼製枠9に充填したモルタル10を固化させることで可動マス8を形成させて、上記既設ビル19への制振装置Iの設置を完了するようにする。
【0062】
このように、本実施の形態によれば、制振装置Iの可動マス8を、鋼製枠9と、その内側へ充填するモルタル10と、重晶石20とからなる構成とすることで、制振装置Iにおいて数十トンもの大きな質量を有することが求められる可動マス8を、既設ビル19へ制振装置Iの構成部材の投入を行うために用いる図示しない移動式クレーンの吊荷の重量制限以内の重量となるように分割する際の分割数を、全体を鋼製とする同質量の可動マスを上記移動式クレーンの吊荷の重量制限以内の重量の鋼製のブロックに分割する場合に比して削減することができる。よって、本実施の形態によっても、上記図示しない移動式クレーンを用いた既設ビル19への可動マス8の構成部材の現場投入回数を削減できて、該可動マス8の構成部材の現場投入作業を軽減させることができる。
【0063】
したがって、本実施の形態によっても、上記実施の形態と同様効果を得ることができる。
【0064】
更に、本実施の形態にて鋼製枠9に詰める重晶石20は、高比重であるという点を利用して可動マス8に所定の質量を与えるためのものであると共に、該可動マス8の形状は鋼製枠9により保持させるようにしてあるため、該鋼製枠9内に充填された上記重晶石20とモルタル10の混合物には強度が求められることはなく、上記モルタル10は、鋼製枠9に充填された重晶石20同士の隙間を埋めて、鋼製枠9の内面が風雨等に曝露されることがないようにすると共に、上記重晶石20の位置固定ができるようにしてあればよい。したがって、上記鋼製枠9内における上記重晶石20とモルタル10の分布は均等である必要はなく、上記重晶石20が、モルタル10との比重差によって鋼製枠9の底部寄りに偏在していても何ら問題はない。よって、上記可動マス8を形成する際には、該鋼製枠9内に上記重晶石20と上記モルタル10をそれぞれ充填すればよく、重晶石20を骨材とする重量コンクリートを製造する場合のような重晶石20とモルタル10との均一な混合作業や、上記重晶石20とモルタル10との比重差に起因する偏在を防止するための処理や添加材は全く必要としない。したがって、上記重晶石20のハンドリングを容易なものとすることができて、上記容積の低減化を図った可動マス8を容易に形成することができる。更には、上記重晶石20は、何ら加工を施すことなく、ばらのまま用いることができ、しかも、鋼製枠9内に投入した重晶石20をモルタル10充填前に予め固定する作業は不要にできることから、上記可動マス8の形成に要する手間を削減することが可能になる。
【0065】
更に又、上記重晶石20は鉄に比べて安価であり、加工コストも不要なため、本実施の形態の既設構造物設置用の制振装置Iのコストを引き下げる効果も期待できる。
【0066】
上記図6及び図7の実施の形態においては、可動マス8を形成させる際、鋼製枠9に、重晶石20を詰めてからモルタル10を充填するものとして示したが、図8に示す如く、上記鋼製枠9に予め所要量のモルタル10を注入した後、図8に二点鎖線で示すように、該鋼製枠9内へ重晶石20を投入して、該重晶石20をモルタル10との比重差に基いて上記鋼製枠9内のモルタル10へ埋没させるようにしてもよい。更には、上記鋼製枠9へのモルタル10の注入と、重晶石20の投入とを、複数回に分けて交互に行うことで、上記鋼製枠9に重晶石20とモルタル10を充填させるようにしてもよい。
【0067】
この場合にも、ばらで取り扱うことが可能な重晶石20を用いて、既設構造物設置用の制振装置Iの可動マス8を、容積の低減化を図った状態で容易に形成することが可能となる。
【0068】
更に、上記重晶石20とモルタル10を予め混合した状態で、同時に上記鋼製枠9に充填させるようにしてもよい。
【0069】
なお、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、図1及び図3に二点鎖線で示すように、制振装置Iの可動フレーム5に、付加マス21を搭載して、y軸方向には、上記可動フレーム5上にて、可動マス8の質量を往復移動させる一方、x軸方向には、上記可動マス8の質量と、上記可動フレーム5に搭載した付加マス21の質量との和の質量を往復移動させることができるようにしてもよい。このようにすれば、既設ビル19が、平面形状のアスペクト比が大きくて、平面形状の長手方向に比して、該長手方向に直交する方向に揺れ易い構造物である場合に、該既設ビル19に、平面形状の長手方向に上記制振装置Iのy軸方向を沿わせるようにして該既設ビル19に対する制振装置Iの設置を行うことで、既設ビル19の平面形状の長手方向に直交する方向への揺れを、効率よく減衰させることが可能となる。なお、上記可動フレーム5に付加マス21を搭載する場合、該付加マス21は、上端側が開口するボックス構造の鋼製枠に、制振装置据付け現場でモルタルを充填して形成する構成とするか、又は、該付加マス21の質量が比較的小さくて、既設ビル19へ制振装置Iの構成部材の投入を行うために用いる図示しない移動式クレーンの吊荷の重量制限以内の重量に収まるように分割するときの分割数が少なくてすむ場合は、上記付加マス21を、上記図示しない移動式クレーンの吊荷の重量制限以内の重量の鋼製ブロック同士を溶接により接合して形成する構成とすればよい。
【0070】
図1乃至図5の実施の形態において、可動マス8の鋼製枠9内に収納してモルタル10に埋没させるウェイト12,12aの数は、可動マス8に必要とされる質量に応じて適宜増減してもよい、又、鋼製枠9に収納するウェイト12,12aは、必ずしもすべてモルタル10に埋没していなくてもよい。
【0071】
又、図5及び図7の実施の形態において、可動マス8の鋼製枠9内に収納してモルタル10に埋没させる重晶石20の量は、可動マス8に必要とされる質量に応じて適宜増減してもよい、又、鋼製枠9に詰めた重晶石20の一部がモルタル10の表面に凹凸として露出されていてもよい。更に、鋼製枠9における重晶石20の充填率を高めることが望まれる場合は、該重晶石20をある程度破砕して粒径を小さくして用いるようにしてもよい。更に又、通常のコンクリート用骨材よりも高比重の塊状物であれば、たとえば、灰溶融炉で生成されるスラグ等、重晶石20以外の高比重の塊状物を鋼製枠9に詰めて用いるようにしてもよい。
【0072】
可動マス8は、鋼製枠9に、図1乃至図5の実施の形態におけるウェイト12,12aと、図5及び図7の実施の形態における重晶石20を所要の割合で収納した後、モルタル10を充填して形成させた構成としてもよい。又、可動マス8は、鋼製枠9にモルタル10のみを充填した構成としてもよい。更には、鋼製枠9に充填するものとしてモルタル10に代えてコンクリートを用いて可動マス8を形成させるようにしてもよい。
【0073】
既設ビル19の制振装置据付け個所に水平面が形成してあれば、基礎フレーム1を省略して、上記制振装置据付け個所に、防振ゴム等の防振用部材を介在させた状態で固定フレーム2を直接設置するようにしてもよい。
【0074】
固定フレーム2上で可動フレーム5をx軸方向に沿って往復駆動できるようにしてあれば、下段リニアガイド3と下段アクチュエータ4の数や配置を変更してもよい。又、上記下段アクチュエータ4は、ラックを可動部とするピニオンラック形式のアクチュエータ、作動ロッドを可動部とする電動や流体圧シリンダ形式のアクチュエータ等、ボールねじ形式のアクチュエータ以外のいかなる形式のアクチュエータを採用してもよい。
【0075】
可動フレーム5上で可動マス8をy軸方向に沿って往復駆動できるようにしてあれば、上段リニアガイド6と上段アクチュエータ7の数や配置を変更してもよい。又、上記上段アクチュエータ7は、上記下段アクチュエータ4と同様に、ボールねじ形式のアクチュエータ以外のいかなる形式のアクチュエータを採用してもよい。
【0076】
制振装置Iは、固定フレーム2と可動フレーム5との間、及び、可動フレーム5と可動マス8との間に、それぞれ下段アクチュエータ4、及び、上段アクチュエータ7に代えて、所要のばね要素及びダンパ要素を介在させてなるパッシブ形式の制振装置としてもよく、又、固定フレーム2と可動フレーム5との間、及び、可動フレーム5と可動マス8との間に、それぞれ下段アクチュエータ4、及び、上段アクチュエータ7に加えて、所要のばね要素及びダンパ要素を介在させてなるハイブリッド形式の制振装置としてもよい。
【0077】
更に、制振装置Iは、可動マス8を一軸方向にのみ往復移動させる形式の制振装置としてもよい。
【0078】
既設の構造物であれば、既設ビル19以外のいかなる構造物にも適用できること、その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の既設構造物用制振装置設置方法、及び、該方法の実施に用いる制振装置の実施の一形態を示す概略正面図である。
【図2】図1の制振装置の概略側面図である。
【図3】図1の制振装置の概略平面図である。
【図4】図1の制振装置における可動マスを拡大して示す切断正面図である。
【図5】既設ビルに図1の制振装置を設置した状態を示す概要図である。
【図6】本発明の実施の他の形態として、本発明の既設構造物用制振装置設置方法の実施に用いる制振装置の可動マスの別の例を示す図4に対応する図である。
【図7】図6の制振装置の可動マスを形成する手順を説明するための図で、鋼製枠に重晶石を詰めた状態を示す切断正面図である。
【図8】図6の制振装置の可動マスを形成する別の手順を説明するための図で、鋼製枠にモルタルを注入した状態を示す切断正面図である。
【符号の説明】
【0080】
I 制振装置
8 可動マス
9 鋼製枠
10 モルタル
12,12a ウェイト
19 既設ビル(既設構造物)
20 重晶石(高比重の塊状物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設構造物の上部所要個所の制振装置据付け現場に、上端側が開口するボックス構造の鋼製枠を、該既設構造物の揺れ方向に往復移動可能に設けた後、該鋼製枠にモルタル又はコンクリートを充填して、上記鋼製枠と該鋼製枠に充填されたモルタル又はコンクリートからなる可動マスを現地で形成して、上記制振装置据付け現場に、該可動マスを上記既設構造物の揺れ方向に往復移動可能に具備してなるマス・ダンパ形式の制振装置を設けるようにすることを特徴とする既設構造物用制振装置設置方法。
【請求項2】
既設構造物の上部所要個所の制振装置据付け現場に、上端側が開口するボックス構造の鋼製枠を、水平面内の任意の方位へ往復移動可能に設けた後、該鋼製枠にモルタル又はコンクリートを充填して、上記鋼製枠と該鋼製枠に充填されたモルタル又はコンクリートからなる可動マスを現地で形成して、制振装置据付け現場に、該可動マスを水平面内の任意の方位へ往復移動可能に具備してなるマス・ダンパ形式の制振装置を設けるようにすることを特徴とする既設構造物用制振装置設置方法。
【請求項3】
既設構造物の制振装置据付け現場に設けた鋼製枠に、制振装置の構成部材の投入に使用する移動式クレーンの吊荷の重量制限の範囲内となる所要重量の鋼製のウェイトを収納した後、上記鋼製枠にモルタル又はコンクリートを充填して可動マスを形成するようにする請求項1又は2記載の既設構造物用制振装置設置方法。
【請求項4】
既設構造物の制振装置据付け現場に設けた鋼製枠に、高比重の塊状物と、モルタル又はコンクリートとを、同時にあるいは所要の順序で充填して可動マスを形成するようにする請求項1又は2記載の既設構造物用制振装置設置方法。
【請求項5】
既設構造物の制振装置据付け現場に設けた鋼製枠に充填する高比重の塊状物として、重晶石又はスラグを用いるようにする請求項4記載の既設構造物用制振装置設置方法。
【請求項6】
可動マスを、制振対象構造物の揺れに応じて往復移動させることにより該制振対象構造物の制振を行うようにしてある制振装置において、上端側が開口するボックス構造の空の鋼製枠を、制振対象構造物となる既設構造物の上部所要個所の制振装置据付け現場に、該既設構造物の揺れ方向に往復移動可能に設け、更に、該鋼製枠にモルタル又はコンクリートを充填して可動マスを形成してなる構成を有することを特徴とする制振装置。
【請求項7】
可動マスを、制振対象構造物の揺れに応じて往復移動させることにより該制振対象構造物の制振を行うようにしてある制振装置において、上端側が開口するボックス構造の空の鋼製枠を、制振対象構造物となる既設構造物の上部所要個所の制振装置据付け現場に、水平面内の任意の方位へ往復移動可能に設け、更に、該鋼製枠にモルタル又はコンクリートを充填して可動マスを形成してなる構成を有することを特徴とする制振装置。
【請求項8】
可動マスを、既設構造物に設けた空の鋼製枠に、制振装置の構成部材の投入に使用する移動式クレーンの吊荷の重量制限の範囲内となる所要重量の鋼製のウェイトを収納し、更に、上記鋼製枠にモルタル又はコンクリートを充填してなる構成とした請求項6又は7記載の制振装置。
【請求項9】
可動マスを、既設構造物に設けた空の鋼製枠に、所要量の高比重の塊状物と、モルタル又はコンクリートとを充填してなる構成とした請求項6又は7記載の制振装置。
【請求項10】
既設構造物に設けた空の鋼製枠に充填する高比重の塊状物を、重晶石又はスラグとした請求項9記載の制振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−243255(P2009−243255A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318513(P2008−318513)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】