説明

易接着ポリエステルフィルム

【課題】ポリエステルフィルム表面の易接着層表面上に粘着剤層を設けたとき紫外線照射を行うことによって粘着剤層と接着している被接着体との剥離を容易にする、ポリエステルフィルム表面に易接着層が設けられた透明性、帯電防止性に優れる易接着ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】ポリエステルフィルム表面に易接着層が設けられ、かつ前記易接着層の表面上に気体発生剤と光硬化型樹脂とを含む粘着剤層を設けて使用される易接着ポリエステルフィルムであって、前記易接着層がビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロック(A)と共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(B)とからなるブロック共重合体またはその部分水素添加物であり、前記ブロック共重合体またはその部分水素添加物は前記共役ジエンの炭素−炭素二重結合がエポキシ化されたエポキシ変性ブロック共重合体で構成され、前記易接着層が導電性酸化金属微粒子とアクリル・スチレン共重合体とを含有し、前記ポリエステルフィルムは厚さが25〜250μmであり、かつ易接着層の表面に最大高さSt値が前記ポリエステルフィルムの厚さの0.10〜0.30倍で分布数が1〜5個/mmの凸部を有することを特徴とする易接着ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルフィルム表面に易接着層が設けられた易接着ポリエステルフィルムに関する。詳しくは、易接着層表面上に気体発生剤と光硬化型樹脂とを含む粘着剤層を設けて使用される易接着ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造時において、高純度半導体単結晶等をスライスして得られたウエハは、フォトレジストによりウエハ表面に所定の回路パターンが形成された後、ウエハ表面にバックグラインドテープとよばれる粘着材料を貼り付けて固定される。バックグラインドテープにより固定されたウエハは、その裏面を研磨機により厚さ50〜600μm程度もしくはそれ以下まで研磨された後(バックグラインド工程)、個々に切断(ダイシング工程)されることにより半導体集積回路(ICチップ)として製造される。
【0003】
研磨時に用いられるバックグラインドテープは、ウエハ表面に形成された回路パターン面を外傷から保護する他、表面回路の破損防止や研磨加工時にウエハを支持・固定するために使用される。
【0004】
一般にバックグラインドテープの粘着剤層を構成する成分は、基材となるポリエステルフィルムに対する密着性が低いため、バックグラインドテープの粘着剤層は表面処理を施したポリエステルフィルム表面上に積層して用いられる。表面処理の方法としては、コロナ処理等の物理的処理が知られているが、これらの処理では紫外線硬化型樹脂を含む粘着剤層との密着性は不十分である。
【0005】
基材となるポリエステルフィルムと粘着剤層との密着性を向上させる方法として、ポリエステルフィルム表面上にビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロック(A)と、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(B)とからなるブロック共重合体もしくはその部分水素添加物であって、共役ジエンの炭素−炭素二重結合がエポキシ化されたエポキシ変性ブロック共重合体を易接着層として形成しておき、この易接着層上に目的とする粘着剤層を積層する方法がある(特許文献1)。
【0006】
一方、ウエハ表面にバックグラインドテープを貼り付けてウエハ裏面を研磨加工した後は、バックグラインドテープをウエハ表面から剥離する必要がある。ところが、ウエハ裏面を研磨加工する際の衝撃に耐えられるようにバックグラインドテープはウエハ表面と強固に接着されているため、研磨加工後にウエハ表面から容易にバックグラインドテープを剥離させるのは困難となる。上記問題を解決する方法としては、ポリエステルフィルムを基材層とし、これに光硬化型の粘着剤層を積層したバックグラインドテープを用いる方法が知られている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2000−191989号公報
【特許文献2】特開2003−171623号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法で、基材のポリエステルフィルム表面上に積層した易接着層に紫外線硬化型の粘着剤層を積層した場合、易接着層に発生する静電気により、易接着層への粘着剤のコーティングが困難となるおそれや、半導体に欠陥を生じる可能性もあることからその改良が求められていた。発生する静電気を防止する方法として、易接着層成分に導電性酸化金属微粒子を配合する方法が挙げられる。ところが、特許文献1に記載の易接着層成分に導電性金属微粒子を配合した場合、易接着層に導電性を付与することは可能となるが、導電性酸化金属微粒子と易接着層成分との相溶性が低下するため易接着層が白濁してしまう問題があった。
【0008】
また、特許文献2に記載の方法は、ウエハ表面にバックグラインドテープを貼り付けた後、外部からの光や熱などの刺激によりバックグラインドテープの粘着剤層から発生する気体をウエハ表面との接着面に介在させウエハ表面と粘着剤層との密着性を弱めることによって剥離させるものである。しかし、上記方法によるバックグラインドテープの粘着剤層から発生する気体は、被接着体であるウエハ表面との接着面全体に拡散せず、局所的に介在することとなるため、強固に貼り付けられたウエハ表面とバックグラインドテープとを容易に剥離することは困難であった。
【0009】
本発明の課題は、ポリエステルフィルム表面の易接着層表面上に粘着剤層を設けたとき紫外線照射を行うことによって粘着剤層と接着している被接着体との剥離を容易にする、ポリエステルフィルム表面に易接着層が設けられた透明性、帯電防止性に優れる易接着ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、基材のポリエステルフィルム表面上の易接着層をエポキシ変性ブロック共重合体、導電性酸化金属微粒子、アクリル・スチレン共重合体で構成することにより、透明性、帯電防止性を付与することができ、また表面に凸部を形成させることで易接着層表面上に粘着剤層を設けたとき、紫外線照射によって粘着剤層と接着した被接着体との剥離を容易にすることができる易接着ポリエステルフィルムが得られることを見出し本発明に到達した。
【0011】
すなわち本発明は、
(1)ポリエステルフィルム表面に易接着層が設けられ、かつ前記易接着層の表面上に気体発生剤と光硬化型樹脂とを含む粘着剤層を設けて使用される易接着ポリエステルフィルムであって、前記易接着層がビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロック(A)と共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(B)とからなるブロック共重合体またはその部分水素添加物であり、前記ブロック共重合体またはその部分水素添加物は前記共役ジエンの炭素−炭素二重結合がエポキシ化されたエポキシ変性ブロック共重合体で構成され、前記易接着層が導電性酸化金属微粒子とアクリル・スチレン共重合体とを含有し、前記ポリエステルフィルムは厚さが25〜250μmであり、かつ易接着層の表面に最大高さSt値が前記ポリエステルフィルムの厚さの0.10〜0.30倍で分布数が1〜5個/mmの凸部を有することを特徴とする易接着ポリエステルフィルム、
(2)易接着層の厚さが0.3〜3.0μmであることを特徴とする(1)に記載の易接着ポリエステルフィルム、
(3)(1)または(2)に記載の易接着ポリエステルフィルムの易接着層の上に気体発生剤と光硬化型樹脂とを含む粘着剤層を設けてなるウエハ加工用バックグラインドテープ、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の易接着ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルム表面の易接着層表面上に粘着剤層を設けたとき、紫外線照射を行うことによって粘着剤層と接着している被接着体との剥離を容易にするほか、帯電防止性、易滑性、透明性にも優れていることから、半導体ウエハ加工用のバックグラインドテープの粘着剤層を易接着させる基材フィルムとして使用でき、その工業的価値は高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の易接着ポリエステルフィルムは、基材であるポリエステルフィルム表面に易接着層が設けられ、かつ前記易接着層の表面上に気体発生剤と光硬化型樹脂とを含む粘着剤層を設けて使用される易接着ポリエステルフィルムであって、前記易接着層がビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロック(A)と共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(B)とからなるブロック共重合体またはその部分水素添加物であり、前記ブロック共重合体またはその部分水素添加物は前記共役ジエンの炭素−炭素二重結合がエポキシ化されたエポキシ変性ブロック共重合体で構成され、前記易接着層が導電性酸化金属微粒子とアクリル・スチレン共重合体とを含有し、前記ポリエステルフィルムは厚さが25〜250μmであり、かつ易接着層の表面に最大高さSt値が前記ポリエステルフィルムの厚さの0.10〜0.30倍で分布数が1〜5個/mmの凸部を有することが必要である。
【0015】
本発明の易接着ポリエステルフィルムは、半導体ウエハ加工時にウエハ回路表面を接着して固定する際に用いるバックグラインドテープの粘着剤層を易接着させる基材フィルムとして使用することができる。具体的には、本発明の易接着ポリエステルフィルムは、易接着層表面上に気体発生剤と光硬化型樹脂とを含む粘着剤層を設け、当該粘着剤層に例えばウエハ回路表面を接着させて使用する。
【0016】
本発明の易接着ポリエステルフィルムは、基材となるポリエステルフィルム表面上に易接着層を有することが必要である。
【0017】
本発明の易接着ポリエステルフィルムの基材に用いるポリエステルとは、芳香族二塩基酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体とから重縮合して得られる線状飽和ポリエステルである。
【0018】
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6ナフタレンジカルボキシレート等が挙げられ、これらの共重合体またはこれらと他の樹脂とを少量の割合で混合したブレンド物等が挙げられる。
【0019】
ポリエステルのフィルム製造は、従来から知られている方法により行うことができる。例えば、二軸延伸ポリエステルフィルムは、ポリエステルを乾燥後、Tm〜(Tm+70)℃の温度(Tm:ポリエステルの融点)で押出機にて溶融し、ダイ(例えばT−ダイ、I−ダイ等)から回転冷却ドラム上に押出し、40〜90℃で急冷して未延伸フィルムを製造し、ついで該未延伸フィルムを(Tg−10)〜(Tg+70)℃の温度(Tg:ポリエステルのガラス転移温度)で縦方向に2.5〜8.0倍の倍率で延伸し、横方向に2.5〜8.0倍の倍率で延伸し、必要に応じて180〜250℃の温度で1〜60秒間熱固定することにより製造することができる。
【0020】
ポリエステルフィルムの厚さは25〜250μmの範囲であることが必要である。ポリエステルフィルムの厚さが25μm未満であると、ポリエステルフィルム表面上に易接着層を構成する溶液をコーティングした後、溶液に含まれる溶媒を乾燥により揮発させる際フィルムが熱収縮することから高温域での耐変形性(寸法安定性)に劣る。一方、ポリエステルフィルムの厚さが250μmを超えると剛性が高くなりすぎるため、フィルムとしての柔軟性を有さないという問題がある。
【0021】
本発明の易接着ポリエステルフィルムには、必要により適当なフィラーを含有させることができる。このフィラーとしては、従来ポリエステルフィルムの滑り性付与剤として知られているものが挙げられ、その具体例としては、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、シリカ、カオリン、酸化珪素、酸化亜鉛、カーボンブラック、炭化珪素、酸化錫、架橋アクリル樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子等が挙げられる。さらにポリエステル中には、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、有機滑剤、触媒なども適宜添加することができる。
【0022】
本発明の易接着ポリエステルフィルムの易接着層は、エポキシ変性ブロック共重合体で構成され、導電性酸化金属微粒子とアクリル・スチレン共重合体とを含むことが必要である。エポキシ変性ブロック共重合体を用いることにより、易接着層と基材ポリエステルフィルムとの密着性に優れた易接着ポリエステルフィルムが得られる。
【0023】
本発明におけるブロック共重合体は、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロック(A)と共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(B)とで構成される。また、本発明において、エポキシ変性ブロック共重合体とは、上記ブロック共重合体またはその部分水素添加物の上記共役ジエンの炭素−炭素二重結合がエポキシ化されたものである。重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)との共重合比は、重合体ブロック(A)/重合体ブロック(B)=5/95〜70/30(共重合比)が好ましく、特に重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)との共重合比は、10/90〜60/40(共重合比)が好ましい。共重合比がこの範囲を超えるとポリエステルフィルム表面上にコーティングして得られる易接着層が固くてもろくなり、易接着層の耐久性が低下することがある。
【0024】
重合体ブロック(A)を構成するビニル芳香族化合物としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−第3級ブチルスチレン、ジビニルベンゼン、p−メチルスチレン、1,1−ジフェニルスチレン等のうちから1種または2種以上が選択できるが、その中でもスチレンが好ましい。
【0025】
重合体ブロック(B)を構成する共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、ピペリレン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、フェニル−1,3−ブタジエン等のうちから1種、または2種以上が選ばれるが、その中でもブタジエン、イソプレン及びこれらの組み合わせが好ましい。
【0026】
ブロック共重合体の数平均分子量は5000〜600000、好ましくは10000〜500000の範囲であり、分子量分布(重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn))は10以下であることが好ましい。数平均分子量が5000より小さいとポリエステルフィルム表面上にコーティングして得られる易接着層がもろくなり、また易接着層にタックが生じる可能性がある。一方、数平均分子量が600000を超えるとポリエステルフィルム表面上にコーティングする塗剤の粘度が高くなりレベリングが悪化しやすくなる。また、分子量分布が10を超えると、ポリエステルフィルム表面上にコーティングして得られる易接着層にタックが生じ、またブロッキングが生じる問題が起こる。
【0027】
ブロック共重合体の配列は、直鎖状、分岐状、放射状あるいはこれらを任意に組み合わせたいずれのものであってもよい。例えば、重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)との配列は、A−B−A、B−A−B−A、(A−B)4Si、A−B−A−B−A等の構造が挙げられる。
【0028】
上記ブロック共重合体は、共役ジエンの炭素−炭素二重結合が部分的に水素添加されてもよい。水素添加することによって、酸化しやすい二重結合部位の炭素が水素と結合し安定化することから、紫外線による光酸化反応が抑制されるため耐光性が向上するという効果が得られる。
【0029】
ブロック共重合体の製造方法としては、上記した構造を有するものが製造できればどのような製造方法であってもよい。例えば、特公昭40−23798号公報、特公昭47−3252号公報、特公昭48−2423号公報、特公昭58−10413号公報、特開昭51−103113号公報、特公昭46−32415号公報、特開昭59−166518号公報、特公昭49−36957号公報、特公昭43−17979号公報、特公昭46−32415号公報、特公昭56−28925号公報に記載された方法により、リチウム触媒等を用いて不活性溶媒中でビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体を合成することができる。
【0030】
さらにブロック共重合体を部分水素添加する方法として、特公昭42−8704号公報、特公昭43−6636号公報、あるいは特開昭59−133203号公報に記載された方法により、不活性溶媒中で水素添加触媒の存在下に水素添加する方法が挙げられる。
【0031】
本発明におけるエポキシ変性ブロック共重合体は、上記のブロック共重合体またはその部分水素添加物を、不活性溶媒中で過酸類、ハイドロパ−オキサイド類などのエポキシ化剤と反応させることにより得ることができる。過酸類としては過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、トリフルオロ過酢酸などが挙げられる。このうち、過酢酸は工業的に大量に製造されており、安価に入手でき、安定度も高いので好ましい。ハイドロパーオキサイド類としては過酸化水素、ターシャリブチルハイドロパーオキサイド、クメンパーオキサイド等が挙げられる。
【0032】
不活性溶媒は、原料粘度の低下、エポキシ化剤の希釈による安定化などの目的で使用され、過酢酸の場合であれば芳香族化合物、エーテル類、エステル類などが用いられる。特に好ましい溶媒は、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、ベンゼン、酢酸エチル、四塩化炭素、クロロホルムである。
【0033】
エポキシ化剤の量には厳密な規制がなく、それぞれの場合における最適量は、使用する個々のエポキシ化剤、所望するエポキシ化度、使用する個々のブロック共重合体等の可変要因によって決めることができる。
【0034】
エポキシ化の際には必要に応じて触媒を用いることができる。例えば、過酸の場合は、炭酸ソーダ等のアルカリや硫酸などの酸を触媒として用いることができる。また、ハイドロパーオキサイド類の場合は、例えばタングステン酸と苛性ソーダとの混合物を過酸化水素と、あるいは有機酸を過酸化水素と、あるいはモリブデンヘキサカルボニルをターシャリブチルハイドロパーオキサイドと併用して触媒効果を得ることができる。
【0035】
エポキシ化反応条件には厳密な規制はない。また、用いるエポキシ化剤の反応性によってエポキシ化の際に使用できる反応温度域が定まる。例えば、過酢酸の反応温度域は0〜70℃が好ましく、0℃未満では反応が遅く、70℃を超えると過酢酸の分解が起こる。又、ハイドロパーオキサイドの一例であるターシャリブチルハイドロパーオキサイド/モリブデン二酸化物ジアセチルアセトナート系では同じ理由で反応温度域は20〜150℃が好ましい。エポキシ化反応時に反応混合物を特別に操作する必要はなく、例えば反応混合物を2〜10時間攪拌すればよい。得られたエポキシ変性ブロック共重合体の単離は適当な方法、例えば貧溶媒でエポキシ変性ブロック共重合体を沈殿させる方法、エポキシ変性ブロック共重合体を熱水中に攪拌の下で投入し溶媒を蒸留除去する方法、直接脱溶媒法などによって行うことができる。
【0036】
易接着層がエポキシ変性ブロック共重合体のみで構成された場合には、基材のポリエステルフィルムをコーティングして得られる易接着層にタックが生じるため、巻き取り時のフィルム滑り不良や、巻き取り時にブロッキング等が生じるため使用が困難となる。また、エポキシ変性ブロック共重合体は一般的に絶縁性が高いため静電気が発生しやすいことから、半導体製造等に静電気発生が製品の品質に重大な影響を及ぼす場合には問題となる。本発明では、これらの問題を解決するために導電性酸化金属微粒子を帯電防止剤・ブロッキング防止剤として易接着層に配合することを必須としている。
【0037】
本発明の易接着ポリエステルフィルムの易接着層に含まれる導電性酸化金属微粒子の種類は特に制限されるものではないが、例えば、錫ドープ酸化インジウム、アンチモンドープ酸化錫、酸化錫、アンチモン酸亜鉛、酸化インジウム、五酸化アンチモン、酸化亜鉛等の1種または2種以上の組み合わせが挙げられる。これらの導電性酸化金属微粒子のうち、優れた導電性および透明性が容易に得られることから、アンチモンドープ酸化錫を使用することがより好ましい。
【0038】
導電性酸化金属微粒子の平均粒径は、0.005〜2μmであることが好ましく、0.01〜1μmであることがさらに好ましい。平均粒径が0.005μm未満であると、所望の表面抵抗率を得るために導電性酸化金属微粒子の含有量を多くする必要があり、その結果、得られる易接着層と基材のポリエステルフィルムとの密着性能が低下する場合がある。一方、平均粒径が2μmを超えると、導電性酸化金属微粒子の沈降等が生じやすくなって、取り扱いが困難となったり、あるいは、得られる易接着ポリエステルフィルムの透明性が低下したりする場合がある。特にアンチモンドープ酸化錫を使用する場合、その平均粒径は、0.1〜0.5μmの範囲であることがさらに好ましい。
【0039】
導電性酸化金属微粒子の含有量は、エポキシ変性ブロック共重合体100質量部に対して、50〜400質量部、さらに80〜200質量部であることが好ましい。導電性酸化金属微粒子の含有量が50質量部未満であると、易接着ポリエステルフィルムに所望の帯電防止性能を付与することができず、また隣接する導電性酸化金属微粒子間の電気抵抗が高くなり、結果として表面固有抵抗値が高くなる場合がある。一方、導電性酸化金属微粒の含有量が400質量部を超えると、得られる易接着層と基材のポリエステルフィルムとの密着性能、透明性が低下する場合がある。
【0040】
表面固有抵抗値は、1011Ω/□以下が好ましい。表面固有抵抗値が1011Ω/□を超えると、帯電防止性が悪くなるため易接着層に静電気が生じやすくなり、易接着ポリエステルフィルムとしての使用に適さなくなる。また、易接着ポリエステルフィルムの易接着層上に粘着剤を積層することにより、得られるフィルムの表面固有抵抗値が高くなるため帯電防止性が悪くなる。このことから、易接着ポリエステルフィルムの易接着層上に粘着剤を積層する際には、帯電防止性の悪化を見越して易接着層を設けたポリエステルフィルムの表面固有抵抗値は10Ω/□未満としておくことがより好ましい。
【0041】
また、導電性酸化金属微粒子の体積抵抗(粉体抵抗)値は1000Ωcm以下であることが好ましい。導電性酸化金属微粒子の体積抵抗が1000Ωcmを超えると、隣接する導電性酸化金属微粒子間の電気抵抗が高くなり、結果として、表面抵抗率の値が大きくなる場合があり、また、所定の表面抵抗率を得るために、多量に添加しなければならずその結果、全光線透過率が低下する場合がある。
【0042】
本発明において、易接着層は上記エポキシ変性ブロック共重合体と導電性酸化金属微粒子とに加え、アクリル・スチレン共重合体を含有することが必要である。一般的に極性の低いエポキシ変性ブロック共重合体と、極性の高い導電性酸化金属微粒子を混合すると、これらは相溶しないために、これらからなる易接着層溶液をポリエステルフィルムにコーティングした際に塗布面が白濁し、著しく透明性を損ねることがある。本発明においてはこの問題を解決するために、アクリル・スチレン共重合体を相溶化剤として易接着層に配合し透明性を改良している。
【0043】
本発明で用いるアクリル・スチレン系樹脂とは、スチレンモノマーとアクリル酸系モノマーを重合することにより得られる樹脂である。
【0044】
スチレンモノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−t−ブチルトルエン、クロロスチレンなどが挙げられる。
【0045】
アクリル酸系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸や、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸エステル単量体、(メタ)アクリル酸グリシジル等のエチレン性不飽和酸のグリシジルエステルなどが挙げられる。なお、本明細書において(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを意味する。これらの重合性単量体を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0046】
アクリル・スチレン共重合体の含有量は、エポキシ変性ブロック共重合体100質量部に対して、30〜200質量部、さらに50〜150質量部であることが好ましい。アクリル・スチレン共重合体の含有量が30質量部未満の場合に得られる易接着層は、粘着剤層に対する相溶性が良好ではないため、易接着層表面上に粘着剤層を設けたとき粘着剤層との密着性が低下する。さらに導電性酸化金属微粒子とエポキシ変性ブロック共重合体との相溶性も良好でないため、易接着層が白濁することがある。一方、アクリル・スチレン共重合体の含有量が200質量部を超えると、得られる易接着層と基材のポリエステルフィルムとの密着性が低下するため、易接着層表面上に粘着剤層を設けたとき、紫外線照射により粘着剤層に含まれる光硬化型樹脂が硬化した後に基材のポリエステルフィルムと易接着層とが剥離することがある。
【0047】
アクリル・スチレン系樹脂の重量平均分子量は500〜500000の範囲にあることが好ましい。重量平均分子量が500未満であると、ポリエステルフィルム表面に設けられた易接着層に含まれるアクリル・スチレン系樹脂が易接着層表面へ移行しやすくなる。そのため、易接着層表面上に粘着剤層を設けたとき、易接着層表面上の移行成分により易接着層と粘着剤層との密着性が低下する可能性がある。一方、重量平均分子量が500000を超えると、易接着層を得るためにポリエステルフィルム表面上にコーティングする塗剤の粘度が高くなるため取り扱いが難しくなる。また、エポキシ変性ブロック共重合体との相溶性や、あるいは導電性金属微粒子の分散性が悪化するため、ポリエステルフィルム表面に設けられた易接着層と基材のポリエステルフィルムとの密着性が低下し、また易接着層の帯電防止性能が低下する可能性がある。
【0048】
本発明において、基材に用いるポリエステルフィルムの片面もしくは両面に易接着層を形成する方法としては、エポキシ変性ブロック共重合体と導電性酸化金属微粒子とアクリル・スチレン共重合体とを含有する溶液をポリエステルフィルム表面上にコーティングする方法が挙げられる。易接着層を構成する上記成分を溶解する溶媒としては、メチルエチルケトン(以下、MEKと記す)、トルエン等が挙げられる。溶液の固形分濃度は5〜20質量%が好ましい。固形分濃度が5質量%未満であると、溶媒の気化ムラによる外観不良や帯電防止性能の低下を起こしやすくなる。一方、固形分濃度が20質量%を超えると塗工スジ、グラビア版目跡など、塗工外観の不良を起こしやすくなる。ポリエステルフィルム表面上へ溶液をコーティングする方法としては、ダイレクトグラビア方式、マイヤーバー方式、スピンコーティング方式、キスグラビア方式、コーティングダイ方式などが挙げられる。ポリエステルフィルム表面上にコーティングした後、コーティング溶液中の溶媒を除去する方法としては、熱風乾燥機、赤外線ヒーターなどにより、110〜150℃で、10〜30秒間加熱する方法が挙げられる。
【0049】
本発明の易接着フィルム表面上に気体発生剤と光硬化型樹脂とを含む粘着剤層を設けてバックグラインドテープとして使用する場合には、バックグラインドテープのウエハを固定する面と反対側の面をガラスなどの材料から形成された台(ステージ)に固定するのが一般的である。台へ固定するためには、バックグラインドテープの裏面に適当な粘着剤を使用する。使用する粘着剤は台に固定ができるものであれば特に限定されず、例えば紫外線硬化型、熱硬化型などが挙げられる。台に固定する粘着剤層をバックグラインドテープの裏面に設ける際には、粘着剤層と基材のポリエステルフィルムとの密着性の観点から基材のポリエステルフィルム表面上に易接着層を設けることが好ましいが、この場合の易接着層に用いる成分は、本発明で規定する易接着層成分と同じであっても異なっていてもよい。
【0050】
基材のポリエステルフィルム表面上に形成される易接着層の厚さは0.3〜3.0μmであることが好ましい。易接着層の厚さが3.0μmを超えると易接着層の透明性が低下し、易接着層の厚さが0.3μm未満であると表面固有抵抗値が上昇し、易接着層表面上に粘着剤層を設けたとき粘着剤層との密着性が低下することがある。
【0051】
本発明の易接着ポリエステルフィルムは、表面に凸部を有することが必要である。易接着ポリエステルフィルム表面に凸部を形成させる方法としては、易接着層が設けられたポリエステルフィルムをエンボスロールと加圧ロール間に挿入し、前記両ロール間で押圧してエンボスロール表面と接する側の表面に凸部を形成させる方法、およびエンボス加工により表面に凸部を形成したポリエステルフィルムをコーティングして易接着層を形成させる方法が挙げられる。このとき、凸部の高さの調整は、エンボス加工時における加圧の調整により適宜行うことができる。
【0052】
エンボス加工して得られる本発明の易接着ポリエステルフィルム表面の凸部の最大高さSt値は、ポリエステルフィルムの厚さ(25〜250μm)の0.10〜0.30倍で、凸部の分布数が1〜5個/mmであることが必要である。凸部の最大高さSt値がポリエステルフィルムの厚さ(25〜250μm)の0.10倍未満であると、粘着剤層を積層する際の熱処理過程で、易接着ポリエステルフィルムが熱変形を起こして表面に形成された凸部が消失する可能性がある。そのため、紫外線照射により後述する粘着剤層から発生する気体を粘着剤層表面全体へ拡散することができなくなるとともに、紫外線照射を行っても粘着剤層に後述する硬化収縮ムラが生じなくなるため、粘着剤層と被接着体との接着面の密着力を弱めることができなくなる。その結果、粘着剤層と被接着体とが容易に剥離しなくなる。一方、凸部の最大高さSt値がポリエステルフィルムの厚さ(25〜250μm)の0.30倍を越えると、易接着ポリエステルフィルムの厚みが薄い場合はフィルム自体のコシが弱くなるため、フィルムの巻き取り時に凸部が潰れる可能性がある。
【0053】
また、凸部の分布数が1個/mm未満では、紫外線照射により後述する粘着剤層から発生する気体が粘着剤層表面全体に拡散しなくなるとともに、紫外線照射を行っても粘着剤層に後述する硬化収縮ムラが生じなくなるため、粘着剤層と被接着体との接着面の密着力を弱めることができなくなる。一方、凸部の分布数が5個/mmを超えると、凸部形成の加工が困難になる。
【0054】
本発明の易接着ポリエステルフィルムは、易接着層表面上に気体発生剤と光硬化型樹脂とを含む粘着剤層を設けて使用されることが必要である。このとき設けられる粘着剤層は、刺激を与えることにより気体を発生する気体発生剤とアクリル系粘着樹脂を主成分とする光硬化型樹脂とを含むことが必要である。
【0055】
易接着層表面上の粘着剤層は、凸部が覆われる程度設ける必要があるが、その量は特に限定されない。粘着剤層の量は、易接着層の厚みや凸部の高さにも依るが、易接着ポリエステルフィルム表面上に粘着剤層を設けた後のフィルム総厚みが、基材ポリエステルフィルムの厚みに対して1.3倍以上であることが好ましい。粘着剤層の厚みの上限は特にないが、ある程度の量を塗布すると粘着剤層の効果が飽和し、多量に設けることは経済性に劣るため、粘着剤層形成後のフィルム総厚みが、基材ポリステルフィルム厚みの6倍以下とすることが好ましい。
【0056】
粘着剤層に用いられる光硬化型樹脂は特に規定されないが、汎用性、取り扱い性の点で紫外線硬化型樹脂、さらには紫外線硬化型ラジカル重合型樹脂であることが望ましい。紫外線硬化型樹脂としては、例えばウレタン−アクリレート系、エポキシアクリレート系、ポリエステル−アクリレート系などが挙げられる。特に、粘着剤層がハードコート用途でありながら伸縮性を要求する場合には、紫外線硬化型樹脂の分子鎖中にソフトセグメントとしてウレタン成分を有するウレタン−アクリレート系の紫外線硬化型樹脂を用いることが好ましい。
【0057】
また、粘着剤層の耐摩耗性の向上と紫外線照射により粘着剤層が硬化する際の体積収縮率減少のために、粘着剤層に無機微粒子を含めることが望ましい。粘着剤層中の無機微粒子の含有量は光硬化型樹脂100質量部に対して20〜60質量部が好ましく、無機微粒子の平均粒径は100nm以下のものが好ましい。また、粘着剤層のハードコート性向上のために、無機微粒子表面に光重合反応性を有する感光性基を導入したものが好ましい。感光性基としては単官能性または多官能性アクリレートが好ましい。無機微粒子の含有量が光硬化型樹脂100質量部に対して20質量部未満であると耐摩耗性不良および紫外線照射による硬化時の体積収縮率が高くなり紫外線照射後のフィルムにカールが発生する。一方、無機微粒子の含有量が60質量部を超えると、粘着剤層中の光硬化型樹脂が伸縮性不良を生じ、屈曲によるクラックが入りやすくなる。使用される無機微粒子としては、シリカまたはチタン等の金属酸化物よりなる微粒子が好ましい。
【0058】
粘着剤層を構成する気体発生剤としては特に限定されないが、例えば、アゾ化合物、アジド化合物が好適に用いられる。アゾ化合物、アジド化合物は、光、熱等による刺激により窒素ガスを発生するが、アジド化合物は衝撃によってもガスを発生するため、取り扱いが困難となる。そのため、気体発生剤としてはアゾ化合物を用いることがより好ましい。
【0059】
アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビス−(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾイリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾイリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾイリン−2−イル)プロパン]ジサルフェイトジハイドロレート、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラハイドロピリミジン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾイリン−2−イル]プロパン}ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾイリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミダイン)ハイドロクロライド、2,2’−アゾビス(2−アミノプロパン)ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシアシル)−2−メチル−プロピオンアミダイン]、2,2’−アゾビス{2−[N−(2−カルボキシエチル)アミダイン]プロパン}、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミドオキシム)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート、4,4’−アゾビス(4−シアンカルボニックアシッド)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタノイックアシッド)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)等が挙げられる。なかでも2,2’−アゾビス−(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)が好適である。これらのアゾ化合物は、光、熱等による刺激により窒素ガスを発生する。
【0060】
気体発生剤は粘着剤層中に分散されていてもよいが、被接着体との接着面に存在することが好ましい。より好ましくは被接着体と粘着剤層との接着面における気体発生剤の濃度が、基材と粘着剤層との接着面における気体発生剤の濃度よりも高いことであり、更に好ましくは気体発生剤が被接着体と接着する粘着剤層表面に存在し、基材と粘着剤層との接着する粘着剤層側には存在しないことである。このため、上記要件を満足する粘着剤層を得るためには、粘着剤層は、少なくとも2層以上の層からなる多層構造を有し、気体発生剤は粘着剤層を構成する複数層のうち被接着体と接する層に含まれ、易接着層と接する層には含まれないことが好ましい。例えば、易接着層上に気体発生剤を含有しない粘着剤層を形成し、その上に気体発生剤を含有する粘着剤層を形成させることで、好ましい構成の粘着剤層を得ることができる。
【0061】
紫外線照射により粘着剤層に含まれる気体発生剤から発生した気体は、粘着剤層表面から大気中へ放出される。本発明の易接着ポリエステルフィルムは表面に凸部が形成されており、この凸部によって易接着ポリエステルフィルムの易接着層表面上に設けられた粘着剤層から発生する気体が、粘着剤層表面全体に拡散される。すなわち、凸部が紫外線照射により発生した気体を粘着剤層と被接着体との接着面全体に均一に介在させるため、接着面の密着力が弱まり被接着体から粘着剤層を容易に剥離することが可能となる。
【0062】
また、紫外線照射を行うことによって易接着層表面上に設けられた粘着剤層は硬化収縮するが、このとき本発明の易接着ポリエステルフィルムに形成されている凸部は、硬化収縮する粘着剤層に硬化収縮ムラを生じさせる。これにより、粘着剤層と被接着体との接着面における密着力が弱まるため、粘着剤層と接着している被接着体を容易に剥離することが可能となる。
【0063】
すなわち、本発明の易接着ポリエステルフィルムは、易接着層面に粘着剤層を設けて使用されるが、従来の基材フィルムと異なり易接着ポリエステルフィルム面が凸部を有しているため、紫外線照射によって発生する気体が被接着体との接着面全体へ均一に拡散するとともに、粘着剤層が紫外線照射によって硬化収縮する際に被接着体との接着面に硬化収縮ムラが生じるため、紫外線照射により発生する気体を粘着剤層と被接着体との間に介在させて単に密着力を低下させる従来の方法に比べて顕著な剥離効果を有する。
【実施例】
【0064】
以下、実施例、比較例により本発明を説明するがこの内容に限定されるものではない。尚、実施の際には、基材として用いるポリエステルフィルムに下記溶液をコーティングすることによって易接着層を設けた。
A液:エポキシ基含有スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(重量平均分子量=30000、エポキシ当量=1000g/equiv.)の固形分30質量%溶液(溶媒:トルエン)
B1液:アクリル−スチレン共重合体(重量平均分子量=8000)の固形分30質量%溶液(溶媒:トルエン/MEK(1/1(体積比))
B2液:アクリル−スチレン共重合体(重量平均分子量=16000、水酸基価=94mg−KOH/g)の固形分30%溶液(溶媒:トルエン/MEK(1/1(体積比))
C液:アンチモンドープ酸化錫微粒子分散体(平均粒径=110nm)の33質量%溶液(溶媒:MEK)
【0065】
ポリエステルフィルムの物性測定法を以下に示す。なお、原理が同じであれば以下に示す測定に用いる機械、装置等は異なっていてもよい。また、以下において(1)〜(4)の測定は、ポリエステルフィルムに易接着層を設けた後、凸部を形成する前の状態で行った。
【0066】
(1)耐ブロッキング性
ポリエステルフィルムをA4版にカットし、易接着層同士を貼り合わせたフィルムを10枚重ねた後、一定温度、湿度、一定荷重下で一週間室温に放置した。貼り合わせたフィルムを剥離する際、ブロッキングが生じていない場合を○、ブロッキングしている場合を×とした。
【0067】
(2)基材ポリエステルフィルムと易接着層との密着性
JIS K5400 8.5.2に記載の方法に準じて、ポリエステルフィルムの易接着層を1mm間隔でクロスカットし、100マスの切り込みを入れ碁盤目面を得た。切り込みを入れた易接着層の碁盤目面に粘着テープを貼り付け、粘着テープをひき剥がし、引き剥がした粘着テープに付着せず、基材のポリエステルフィルムと密着している易接着層の100マス中に残っている碁盤目数で評価した。「n/100」は、試験後に100個の碁盤目中のn個が剥離せず残っていることを示し、nが大きいほど基材ポリエステルフィルムと易接着層との密着性が高いことを示す。
【0068】
(3)透明性
ポリエステルフィルムの表面を目視で確認し、易接着層が透明であるものを○、白化して不透明になっているものを×とした。
【0069】
(4)表面固有抵抗値
JIS−K6911に準拠し、ダイアインスツルメンツ社製高抵抗計ハイレスタIP、MCP−HT260を用いて、ポリエステルフィルムの表面固有抵抗値を23℃×50%RHの環境下で測定した。
【0070】
(5)凸部の最大高さSt値
テーラーホブソン社製タリサーフCCI6000(非接触式表面粗度測定装置)を使用して、スライドガラス上に固定した易接着ポリエステルフィルムを対物レンズ20倍で実態計測し、最大高さSt値を求めた。n=5で測定を行い、その平均値を採用した。
【0071】
(6)剥離性
剥離性は、易接着ポリエステルフィルムの易接着層面に下記方法にて作成したバックグラインドテープを貼りつけ、易接着ポリエステルフィルム側から超高圧水銀灯を用いて、365nmの紫外線をフィルム表面への照射強度が40mW/cmとなるよう照度を調節して2分間照射した。紫外線照射前後のバックグラインドテープの他方面に貼り付けたPETフィルム表面を目視で確認し、PETフィルムが浮いたものを○、PETフィルムが浮かなかったものを×とした。
【0072】
剥離性を評価する際に用いたバックグラインドテープは以下の方法により作成した。易接着ポリエステルフィルムの易接着層に下記組成で調製される粘着剤層(I)を積層した後、更にその上に別途作成した紫外線照射により気体を発生させる下記組成で調製される粘着剤層(II)を積層した。具体的な作成法を以下に示す。
【0073】
粘着剤層(I)の調製液
下記(a)〜(f)の化合物を酢酸エチルに溶解させた後、紫外線を照射して重合を行い、重量平均分子量70万のアクリル共重合体を得た。得られたアクリル共重合体を含む酢酸エチル溶液の樹脂固形分100重量部に対して、メタクリル酸2−イソシアネートエチル3.5重量部を加えて反応させ、更に、反応後の酢酸エチル溶液の樹脂固形分100重量部に対して、ペンタエリスリトールトリアクリレート20重量部、ベンゾフェノン0.5重量部、ポリイソシアネート0.3重量部を混合し、粘着剤層(I)の調製液を作成した。
(a)ブチルアクリレート 79重量部
(b)エチルアクリレート 15重量部
(c)アクリル酸 1重量部
(d)2ーヒドロキシエチルアクリレート 5重量部
(e)光重合開始剤 0.2重量部(イルガキュア651、50%酢酸エチル溶液)
(f)ラウリルメルカプタン 0.01重量部
【0074】
粘着剤層(II)の調製液
粘着剤層(I)の調製液に含まれる樹脂固形分100重量部に対して、気体発生剤として2,2’−アゾビス−(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)100重量部を混合し、気体発生剤を含有する粘着剤層(II)の調製液を作成した。
【0075】
粘着剤層(I)の調製液を、表面に凸部が形成された厚さ51μmの易接着ポリエステルフィルムにドクターナイフでコーティングし、乾燥により溶剤を揮発させて粘着剤層(I)を得た。乾燥後の粘着剤層(I)は乾燥状態で粘着性を示した。乾燥後のフィルム全体の厚さは71μmであった。
【0076】
粘着剤層(II)の調製液を、表面に離型処理が施された厚さ38μmのPETフィルム(離型フィルム)に、バーコーターを用いて乾燥後の厚さが5μmとなるようにコーティングし、乾燥により溶剤を揮発させて粘着剤層(II)を得た。
【0077】
次に、表面に凸部が形成された易接着ポリエステルフィルムに積層した粘着剤層(I)と、離型処理が施されたPETフィルム上に積層された粘着剤層(II)とを互いに貼り合わせた後、3日間40℃で養生することによりバックグラインドテープを得た。これにより、気体発生剤が粘着剤層と被接着体であるPETフィルムとの接着面に存在し、易接着層と粘着剤層との接着面には存在しないバックグラインドテープが得られた。このバックグラインドテープの厚さは、前記厚さ38μmのPETフィルムを除くと、76μmであった。
【0078】
実施例1
<易接着ポリエステルフィルムの作製>
A液10g、B1液10g、およびC液30gを混合した後、ポリエステルフィルム(ユニチカ社製エンブレットS−50:フィルム厚さ50μm)のコロナ処理面にバーコーターで塗布後、120℃で15秒間乾燥し、易接着層の厚みが1.0μmの易接着ポリエステルフィルムを得た。得られた易接着ポリエステルフィルムを130℃に加熱したエンボスロールと加圧ロール間に挿入し、前記両ロール間で押圧してエンボスロール表面と接する側の表面に最大高さSt値が6μmの凸部を有する易接着ポリエステルフィルムを得た。このときエンボス版としては、ダイニック社製SSDR型版(40メッシュ)を用いた。得られた易接着ポリエステルフィルムを用いて実施した結果を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
実施例2
易接着層を設けるために使用したアクリル・スチレン共重合体溶液をB1液に代えてB2液にした以外は実施例1と同様にして易接着ポリエステルフィルムを得た。表1に結果を示す。
【0081】
実施例3
易接着ポリエステルフィルム表面に有する凸部の最大高さSt値を10μmにした以外は実施例1と同様にして易接着ポリエステルフィルムを得た。表1に結果を示す。
【0082】
比較例1
易接着ポリエステルフィルム表面に有する凸部の最大高さSt値を2μmにした以外は実施例1と同様にして易接着ポリエステルフィルムを得た。表1に結果を示す。
【0083】
比較例2
易接着ポリエステルフィルム表面に有する凸部の最大高さSt値を4μmにした以外は実施例1と同様にして易接着ポリエステルフィルムを得た。表1に結果を示す。
【0084】
比較例3
B1液20gにC液30g混合したのち、ポリエステルフィルム(ユニチカ社製エンブレットS−50)のコロナ面にバーコーターで塗布後、120℃で15秒間乾燥し、易接着層の厚さが1.0μmの易接着ポリエステルフィルムを得た。得られた易接着ポリエステルフィルムを130℃に加熱したエンボスロールと加圧ロール間に挿入し、前記両ロール間で押圧してエンボスロール表面と接する側の表面に6μmの凸部を有する易接着ポリエステルフィルムを得た。表1に結果を示す。
【0085】
比較例4
A液10gおよびB1液10gを混合したのち、ポリエステルフィルム(ユニチカ社製エンブレットS−50)のコロナ処理面にバーコーターで塗布後、120℃で15秒間乾燥し、易接着層の厚みが0.4μm易接着ポリエステルフィルムを得た。得られた易接着ポリエステルフィルムを130℃に加熱したエンボスロールと加圧ロール間に挿入し、前記両ロール間で押圧してエンボスロール表面と接する側の表面に最大高さSt値が10μmの凸部を有する易接着ポリエステルフィルムを得た。表1に結果を示す。
【0086】
比較例5
A液20gおよびC液30gを混合したのち、ポリエステルフィルム(ユニチカ社製エンブレットS−50)のコロナ処理面にバーコーターで塗布後、120℃で15秒間乾燥し、易接着層の厚みが1.0μm易接着ポリエステルフィルムを得た。得られた易接着ポリエステルフィルムを130℃に加熱したエンボスロールと加圧ロール間に挿入し、前記両ロール間で押圧してエンボスロール表面と接する側の表面に最大高さSt値が6μmの凸部を有する易接着ポリエステルフィルムを得た。表1に結果を示す。
【0087】
比較例6
実施例1において、易接着ポリエステルフィルム表面に有する凸部の最大高さSt値を20μmとなるようにエンボス加工時の加圧条件を変更したところ、フィルムに破れが発生し、製品が得られなかった。このため以後の評価を行うことができなかった。
【0088】
実施例1〜3では、本発明の構成要件を満たしていたため、易接着層上に粘着剤層を設けたとき、紫外線照射することによって粘着剤層と接着しているPETフィルムが容易に剥離した。また、得られた易接着ポリエステルフィルムは透明性、ブロッキング性、表面固有抵抗値にも優れていた。
【0089】
比較例1、2では、凸部の最大高さSt値がそれぞれ、ポリエステルフィルムの厚さの0.04倍、0.08倍であったため、本発明の構成要件である凸部の最大高さSt値がポリエステルフィルムの厚さの0.10倍〜0.30倍を満たしていなかった。そのため、凸部の分布数が本発明の構成要件を満たしていたにも関わらず、易接着層に粘着剤層を設けたとき、紫外線照射を行っても粘着剤層と接着しているPETフィルムは容易に剥離しなかった。
【0090】
比較例3では、易接着層がエポキシ変性ブロック共重合体を含有していなかったため、得られた易接着層と基材ポリエステルフィルムとの密着性が悪かった。そのため、易接着層表面上に粘着剤層を設けて行う評価を実施しなかった。
【0091】
比較例4では、易接着層が導電性酸化金属微粒子を含んでいなかったため、易接着ポリエステルフィルムを巻き取る際に易接着層がフィルム背面と接着しブロッキングが生じた。また、表面固有抵抗値が1013Ω/□以上と高く、帯電しやすくなったため使用に耐えないフィルムが得られた。
【0092】
比較例5では、易接着層がアクリル・スチレン共重合体を含んでいなかったため、易接着層が白化して不透明となり、商品価値に劣るものであった。また、実施例1〜3に比べて表面固有抵抗値が高く、帯電防止性能が悪かった。
【0093】
比較例6では、易接着層を設けたポリエステルフィルムのエンボス加工時にフィルム破れが発生したため性能評価を行うことができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルム表面に易接着層が設けられ、かつ前記易接着層の表面上に気体発生剤と光硬化型樹脂とを含む粘着剤層を設けて使用される易接着ポリエステルフィルムであって、前記易接着層がビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロック(A)と共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(B)とからなるブロック共重合体またはその部分水素添加物であり、前記ブロック共重合体またはその部分水素添加物は前記共役ジエンの炭素−炭素二重結合がエポキシ化されたエポキシ変性ブロック共重合体で構成され、前記易接着層が導電性酸化金属微粒子とアクリル・スチレン共重合体とを含有し、前記ポリエステルフィルムは厚さが25〜250μmであり、かつ易接着層の表面に最大高さSt値が前記ポリエステルフィルムの厚さの0.10〜0.30倍で分布数が1〜5個/mmの凸部を有することを特徴とする易接着ポリエステルフィルム。
【請求項2】
易接着層の厚さが0.3〜3.0μmであることを特徴とする請求項1に記載の易接着ポリエステルフィルム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の易接着ポリエステルフィルムの易接着層の上に気体発生剤と光硬化型樹脂とを含む粘着剤層を設けてなるウエハ加工用バックグラインドテープ。

【公開番号】特開2010−83934(P2010−83934A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252260(P2008−252260)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】