説明

暗視野画像を得る方法、暗視野画像撮影装置、及び角度分析板

【課題】高い空間解像度が得られる暗視野画像を得る方法、暗視野画像撮影装置及び、角度分析板を提供する。
【解決手段】厚さが2cm以上、原子面の回折に係る指数が220又は440のシリコン単結晶の角度分析板12を用いて、平行な状態で被検体Saに照射され、該被検体を透過したビームXを、前方回折ビームFDと回折ビームDとに分離し、分離された前方回折ビームFD及び回折ビームDの両方または少なくとも一方により、被検体Saの暗視野画像を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、暗視野画像を得る方法、暗視野画像撮影装置、及び角度分析板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、あるエネルギー強度EをもつX線が、厚さt[cm]をもつ物質に入射し、これを透過したとき、その物質の線吸収係数をμ[cm−1]とすると、透過X線強度Eは、
E=E×exp(−μt)
で表わされる。
【0003】
通常はμt=0.1〜μt=1の範囲、すなわちE=E×exp(−μt)が0.9〜0.14の範囲で実験が行なわれている。透過X線強度Eがあまり減少しない物質厚さに対して実験する結果である。代表的な物質厚さを見ると、例えば、E=35keVのエネルギーをもつX線が、シリコン単結晶を透過した場合、シリコン単結晶のμ[cm−1]は、2.49[cm−1]であるので、μt=0.1〜1にするtは0.04[cm]〜0.4[cm]程度になる。
【0004】
一方、X線暗視野(DFI、Dark-Field Imaging)法は、被写体による屈折X線を特定厚さに指定したシリコン単結晶薄板から作製されるアナライザ透過型角度分析板LAA(Laue angle analyzer:以後LAAという)により弁別することで、低密度の物質から構成される被写体に対しても、被写体を吸収コントラストに比べ格段に高いコントラストでの撮像を可能にするものである。これは屈折原理を用いることにより通常の吸収コントラストに比して各段に高いコントラストを得るものである。
【0005】
これまでのX線暗視野法におけるシリコン単結晶からなるLAAの厚さtは0.15cm程度であるので、上式、E=E×exp(−μt)を用いるとE/E=0.69であり、X線暗視野法においてはシリコン単結晶LAAに対するX線入力強度の69%が透過することになり、低密度の物質で構成される被写体からのX線像の強度をそこなうことがないことを意味する。すなわちシリコン単結晶からなるLAAの厚さtは上で見た範囲内の厚さであることが分かる。
【0006】
これをX線画像の空間解像度の観点で考察する。X線がLAAに入射すると、入射X線は、LAA内にできる透過方向のX線(FD:forward diffraction)と回折方向のX線(D:diffraction)によって形成されるBorrmann fanと呼ばれる三角形内に広がると考えられる。図6は、入射したX線がLAA内において広がる状態を示す図である。
【0007】
図示するように、三角形頂点に到達するX線の角度広がりを0.05秒とする。これは35keVに対するシリコン単結晶440回折幅を表わしている。三角形に入ったX線は三角形全体に広がる。すなわち三角形の頂点にあたるX線の入り口CでX線束の幅がゼロであっても0.05秒の角度広がりをもっている場合LAAの出口では三角形の底辺の幅(AB)にX線束が広がると考えられる。
【0008】
入射ビームの角度広がりが0.05秒程度であるから、像のボケ10μmから20μmの値になる。この値10μmから20μmは、臨床診断における50μmから100μmを凌ぐので、屈折型X線画像が臨床応用に用いられる段階を迎えたとして問題点はない。
【0009】
しかし、生きた生物や病理標本を観察する場合、光学顕微鏡の解像度は100nm程度で、それ以上は導電性物質で表面を処理しなければならない電子顕微鏡でなければ見ることが出来なかった。なぜなら、数μmよりも小さな構造や物の像を得る必要があるからである。
【0010】
空間解像度を改善できる一つの方法として従来は、LAAを薄くしてABを小さくする方法である。本発明者らは空間解像度を数μm程度にするためのLAAの厚さは、少なくとも上記t=1436μm(0.1436cm)の1/10の、t=143.6μm(0.01436cm)程度、すなわち、100μmオーダであることが必要と考えられる。しかし、これでは、技術的に広い面積の結晶板の研磨が困難なこと、実際に広い面積の結晶板をその構造が歪まないようにして使用することはきわめて困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−329617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
100μmオーダの厚さのLAAの製造は容易ではなく、また装置に組み込む場合も扱いが容易ではない。
そこで、本発明は、高い空間解像度が得られ且つ製造及び扱いが容易な角度分析板、それを用いて暗視野画像を得る方法、及びそれを用いた暗視野画像撮影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らはLAAを薄くすることなく解像度を上げることについて鋭意検討し、LAAを厚くすることにより散乱が抑制されて解像度が向上し、また、特定の結晶構造のLAAの場合、LAAを厚くしても透過率の減少が許容範囲となり、数μmよりも小さな構造や物の像を得ることができることを見いだした。
【0014】
本発明は、厚さtが2cm以上、原子面が(220)面又は(440)面のシリコン単結晶の角度分析板を用いて、平行な状態で被検体に照射され、該被検体を透過又は該被検体において回折されたビームを、前方回折ビームと回折ビームとに分離し、分離された前記前方回折ビーム及び前記回折ビームの少なくとも一方により、被検体の暗視野画像を得る方法を提供する。
また、本発明は、平行な状態で被検体に照射され、該被検体を透過又は該被検体において回折されたビームを、前方回折ビームと回折ビームとに分離する角度分析板を備え、分離された前記前方回折ビーム及び前記回折ビームの両方または少なくとも一方により、被検体の暗視野画像を得る暗視野画像撮影装置において、前記角度分析板は、厚さtが2cm以上、原子面が(220)面又は(440)面のシリコン単結晶であること、を特徴とする暗視野画像撮影装置を提供する。
さらに、本発明は、その構造が歪まないので使用しやすい厚さtが2cm以上、原子面が(220)面又は(440)面のシリコン単結晶で製造されたこと、を特徴とする角度分析板を提供する。
【0015】
このような厚さtが2cm以上の角度分析板は、従来において透過率が減少して実用的ではないと考えられていた厚さである。しかし、本発明者らは、厚くしても原子面が(220)面又は(440)面のシリコン単結晶の場合、従来、考えられていたほど透過率の減少が生じないことを見出した。そして、厚くなると散乱が抑制され、微細構造を検出できるという効果があることを見出した。
このように、厚さtが2cm以上、原子面が(220)面又は(440)面のシリコン単結晶で製造された角度分析板を用いると、高い空間解像度が得られる。さらに、厚みがあることにより、緩い勾配の厚みムラを問題としないため製造及び扱いが容易となる。
【0016】
本発明は、厚さtと吸収係数μとを乗じた値μtが5以上、原子面が(220)面又は(440)面のシリコン単結晶の角度分析板を用いて、平行な状態で被検体に照射され、該被検体を透過又は該被検体において回折されたビームを、前方回折ビームと回折ビームとに分離し、分離された前記前方回折ビーム及び前記回折ビームの両方または少なくとも一方により、被検体の暗視野画像を得る方法を提供する。
また、本発明は平行な状態で被検体に照射され、該被検体を透過又は該被検体において回折されたビームを、前方回折ビームと回折ビームとに分離する角度分析板を備え、分離された前記前方回折ビーム及び前記回折ビームの両方または少なくとも一方により、被検体の暗視野画像を得る暗視野画像撮影装置において、前記角度分析板は、厚さtと吸収係数μとを乗じた値μtが、5以上、原子面が(220)面又は(440)面のシリコン単結晶であること、を特徴とする暗視野画像撮影装置を提供する。
さらに、本発明は、厚さtと吸収係数μとを乗じた値μtが5以上、原子面が(220)面又は(440)面のシリコン単結晶で製造されたこと、を特徴とする角度分析板を提供する。
【0017】
本発明によると、厚さtと吸収係数μとを乗じた値μtが、5以上、原子面が(220)面又は(440)面のシリコン単結晶で製造された角度分析板を用いて、暗視野画像を得る。本発明は、このようなμtの角度分析板を用いるので、高い空間解像度が得られる。また、そのような角度分析板は、ある程度の厚みとなるため、緩い勾配の厚みムラを問題とせず、製造及び扱いが容易である。
【0018】
さらに、前記ビームはX線で、シリコン単結晶を選択した場合、10keVから35keVであることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、生きた生物や病理標本を観察するうえで必要な10nm程度の解像度を得ることが出来、光学顕微鏡の解像度は100nmを遙かに凌ぐ事が出来る。さらに、導電性物質で表面を処理しなければならない電子顕微鏡では生きた生物や組織を観察することが出来なかったが、この方法で在れば、可能となった。
本発明によれば、高い空間解像度が得られ且つ製造及び扱いが容易な角度分析板を用いて暗視野画像を得る方法、暗視野画像撮影装置、及び角度分析板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】暗視野法を用いた画像撮影装置の概略図である。
【図2】本発明の透過現象を説明する図である。
【図3】X線エネルギー35keVのときの、角度分布と反射率との関係を示すグラフであり、(a)はt=0.1436cm、(b)はt=0.402cm(μt=1)、(c)t=0.804cm、(d)はt=2.01cm、(e)はt=3.02cm)、(d)はt=4.02cm(μt=10)をそれぞれ示す。
【図4】LAAから出る2つのプロファイルFD,Dを示す図である。
【図5】LAA回折によって空間解像度を上げる他の方式を説明する図である。
【図6】入射したX線がLAA内において広がる状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、X線の暗視野(DFI、Dark-Field Imaging)法を用いた本発明の実施形態について説明する。暗視野法は、被検体に照射され、被検体を透過したX線のうちの屈折X線を角度分析板により抽出するものである。被検体からの屈折X線をこのように分離することで、関節軟骨や乳房の癌巣等、その辺縁部においてX線を僅かに屈折させる部位を観察することが可能となる。
【0022】
なお、被写体に照射する平行ビームとして本実施形態ではX線を用いるが、波の性質を有し、回折するビームであればX線に限定されず、可視光等のその他の電磁波、中性子線であってもよい。
【0023】
図1は、暗視野法を用いた画像撮影装置1の概略図である。画像撮影装置1は、撮像のための光学系10と演算装置20とを備える。光学系10は、非対称ブラッグケース結晶Si(440)面であるコリメータ11と、対称ラウエケース結晶Si(440)面である透過型角度分析板(LAA)12と、それらに対してX線の進む方向に配置されたCCDカメラ13と、被検体Saを回転させる回転ステージ15とを備える。演算装置20は、CCDカメラ13に接続され、CCDカメラ13から得られたX線の情報に基づき演算を行い、被検体Saの画像を合成する。なお、結晶の指数440は一例であって、これに限定されず、他の指数、例えば220等、110の偶数倍であればよい。
【0024】
次に、画像撮影装置1の動作について説明する。
まず、被検体Saは、コリメータ11とLAA12との間に配置された回転ステージ15上に配置する。本実施形態では、入射するX線(図1中矢印Xで表す)のエネルギーは35keVとする。X線は、コリメータ11により反射されることで、平面波に近くなり視野が拡大される。X線は、次に回転ステージ15上の被検体Saに入射し、被検体Saで吸収及び屈折され、LAA12に運ばれる。ここで前方回折波FDと回折波Dに分かれる。ホン実施形態のCCDカメラ13は前方回折波FDを検出する。なお、これに限定されず、CCDカメラは回折波Dを検出するものであってもよい。そして、CCDカメラ13により検出された画像は、複数枚撮影されてそれぞれ合成され被検体の屈折X線画像が得られる。
【0025】
次に、LAA12の厚さについて説明する。
ナノメータ(nm)、数マイクロメータ(μm)のオーダの空間解像度を得るために、LAA12の厚さtを薄くする場合、上述のようにtは100μmオーダにする必要がある。たとえば、LAA12の厚さを0.1436mm(143.6μm)とすると、μt=2.49×0.01436(cm)=0.965である。このとき、LAA12を通過するX線の率はexp(−μt)=exp(−0.0358)=0.965となる。
【0026】
このように、LAAを100μmオーダにすると、高い解像度が得られ且つ透過率も高く、測定時間も短くてよい。しかし、このような100μmよりも薄いLAAを製造することは、特に視野を大きくすればするほど容易ではなく、また装置に組み込む際の取り扱いも困難である。
【0027】
これに対して、LAAを厚くする場合について説明する。例えば、35keVエネルギーX線に対してシリコン単結晶の回折440を考える。この場合、通常、μは2.49cm−1である。たとえばt=4cmに対して透過X線の強度はexp(−μt)=exp(−10)=0.0000454となる。つまり100万のパワーの入力があっても透過X線強度は高々45に過ぎないことになる。
【0028】
しかし、物質の完全性がシリコン単結晶のように高くなると、特定の回折指数に対しては、異常透過現象が発生し、その透過X線強度は、通常の吸収係数μを用いたexp(−μt)ではなく、異常吸収係数μ’を用いたexp(−μ’t)で表わされると考えられる。この場合、透過するX線は平面波となる。
【0029】
この透過現象が起きる場合、μ=2.49は440反射FDに対してはμ’=0.48となる。すなわちexp(−μt)=exp(−10)=0.0000454であったものが、exp(−μ’t)=exp(−1.93)=0.15となり、15%の透過率が期待できる。これは回折に関係する原子面(110)面に沿うX線のみが透過すると解釈できる。図2はこの異常透過現象を説明する図であり、t=4cm(μt=10)の場合である。μ’は反射指数とFDないしDに対してそれぞれ異なる吸収係数をもつと考えた方が良いと思われる。なぜならFDとDでは透過率が異なるからである。例えば440反射FDに対しては透過率が15%、Dに対しては11%である。μ’に対してFDとDを識別するためにサフィックスFDないしをつけることにする。その上でμ’FD=0.48、exp(−μ’FDt)=exp(−1.93)=0.15。μ’=0.48、exp(−μ’FDt)=exp(−2.2)=0.11。
【0030】
通常の透過現象の場合、Cから入射した光は、図2におけるABの範囲に広がり、その場合の透過率は、0.00454%となる。しかし、実際には異常透過現象が起きているので、Borrmann fanの広がりは、図中点bの付近の狭い広がりとなる。
【0031】
そこで、本実施形態では、この異常透過が支配的となる厚さのLAA12を用いる。
図3は、X線のエネルギーが35keV、μ=2.49cm−1のときの、LAA12の厚さを変更していった場合における、横軸角度分布、縦軸反射率を示すグラフである。
ちなみにX線エネルギーが35keVとするとシリコン単結晶(220)面ではX線透過率は25%、(440)面では12%、(660)面では6%である。これは異常透過が起きないとした場合の透過率4.5x10(−5)に比して数千倍透過率が高くなることを意味する。
【0032】
図3(a)は、LAA12の厚さt=0.1436cm(μt=0.358)、図3(b)は、LAA12の厚さt=0.402cm(μt=1)、図3(c)は、LAA12の厚さt=0.804cm(μt=2)、図3(d)は、LAA12の厚さt=2.01cm(μt=5)、図3(e)は、LAA12の厚さt=3.02cm(μt=7.5)、図3(d)は、LAA12の厚さt=4.02cm(μt=10)をそれぞれ示す。
【0033】
図示するように、LAA12の厚さtが図3(a)の0.1436cmから図3(f)の4.02cm(μtが0.358から10)まで増加するにつれ、平均70〜80%であった反射率ピークは、徐々に下がる。そして、ピークを挟んだ周囲の反射率は、ピークに比べて急激に下がることが明瞭である。このように、ピークを挟んだ周囲の反射率が下がることは、Borrmann fan内のX線束の広がりが、LAA12を厚くすると急速に小さくなることを意味している。
【0034】
すなわち、図2に記すようにX線束はLAA12を厚くしていくと急速に原子面に沿う流れに収れんする。これは、LAA12を厚くすると原子面に沿うX線のみが出口に向かうことを意味する。この結果、空間解像度が高くなる。
【0035】
例えば、図3(f)に示すLAA12の厚さが4.02cm(μt=10)の場合について数値を求める。図3(f)の場合に、角度広がりが0.05秒のX線がLAA12を通過すると、出口側でのX線束の広がりは10nm程度である。このように10nmのオーダに空間解像度を改善することができる。
【0036】
LAA12の厚さtの範囲について検討する。図3(a),(b),(c)においては、異常現象よりも通常の透過現象の影響が大きく、透過X線におけるBorrmann fanによるX線束の広がりの影響が大きい。
しかし、図3(d)で示すLAA12の厚さt=2.01cm程度になると、グラフにおいてピークがかなり明瞭に現れる。すなわち、異常現象によるX線の透過の影響がかなり支配的となっているものと考えられ、解像度の向上も見られる。
したがって、異常現象によるX線透過を用いて高解像度の画像を得るために、本実施形態では、LAA12の厚さtとして、2cm以上、μtとしては5以上を用いる。
【0037】
しかし、LAA12が厚くなると、透過率も減少する。上述のように、t=4.02cmの透過率は15%であり、この程度の透過率であれば実用的と考えられるが、tがさらに厚くなると透過率の減少も著しい。したがって、tの値の上限は、透過後のX線のエネルギーE=Eexp(−μ’t)として実用的な値を得られる範囲である。ここで、実用的な範囲とは、観察可能な程度の画像を、通常のCTデータ収集時間を1.5時間程度と設定しているのでせいぜいこの値の10倍以下程度の露光時間、すなわち15時間程度であれば、検出器の感度を上げることで時間の短縮ができると考えられる。
【0038】
なお、表1は、X線のエネルギーが17.5keVから35keVの場合における、異常透過μt=10を達成するシリコン単結晶LAA12の厚さtを示すものである。
表1に示すように、X線のエネルギーが35keVのときはLAA12の厚さt=4.016のときにμt=10となる。また、X線のエネルギーが17.5keVのときはLAA12の厚さt=5.797のときにμt=10となる。X線のエネルギーが17.9keVのときはLAA12の厚さt=6.191のときにμt=10となる。
【表1】

【0039】
また、図4は、LAAから出る2つのプロファイルFD,Dが得られることを示す図である。2つのプロファイルFD,Dは、ほぼ同じピーク値とプロファイルをもっている。これらは少し離れているのでこれを利用して純粋屈折成分を1回の撮影で抽出することができる可能性がある。
図5は、LAA回折によって空間解像度を上げる他の方式である。入射面(入射X線と回折X線でなす平面)内の空間解像度を上げる方式について述べた。この場合、入射面に垂直方向の空間解像度は幾何学的に求められる空間解像度になる。図5は、通常の近似度を上げて2波近似から3波近似にすることを表わしたものである。その他にBorrmann fan三角形に垂直成分は光源大きさの垂直成分と光源から試料までの距離、試料から検出器までの距離の関数であるところから、Borrmann fan三角形面内成分に匹敵するBorrmann fan三角形に垂直成分の値にするためには光源の垂直成分を限りなく小さくする必要がある。このために非対称反射を用いてみかけの垂直成分を小さくすることが考えられる。
【0040】
以上、本実施形態によると、厚さtが2cm以上のLAA12を用いて被検体の画像を得る。このような厚さtが2cm以上の角度分析板は、従来において透過率が減少して実用的ではないと考えられていた厚さである。
また、本実施形態では、μtが5以上のLAA12を用いて被検体の画像を得る。従来の実験ではμt=1以下で実験が行われている。それは、μt=1の場合、exp(−μt)=exp(−1)=0.38となり、入射強度が1/3になり、それ以下では強度が不十分と考えられているからである。一般的にはX線暗視野法において、これまでμt=0.38、exp(−0.38)=0.68程度で実験が行われている。
しかし、本発明者らは、原子面が(220)面又は(440)面のシリコン単結晶において、LAAを2cm以上、またはμtを5以上にしても、従来考えられていたほど透過率の減少が生じないことを見出した。さらに、LAAを2cm以上、またはμtを5以上とすると、散乱が抑制され、高い空間解像度が得られることを見出した。これにより、高解像度を得るためのLAAの製造において、緩い勾配の厚みムラが問題とならず、製造及び扱いが容易となる。
【符号の説明】
【0041】
1:画像撮影装置、11:コリメータ、12:LAA、12,14:CCDカメラ、20:演算装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さtが2cm以上、原子面が(220)面又は(440)面のシリコン単結晶の角度分析板を用いて、平行な状態で被検体に照射され、該被検体を透過又は該被検体において回折されたビームを、前方回折ビームと回折ビームとに分離し、分離された前記前方回折ビーム及び前記回折ビームの両方または少なくとも一方により、被検体の暗視野画像を得る方法。
【請求項2】
厚さtと吸収係数μとを乗じた値μtが5以上、原子面が(220)面又は(440)面のシリコン単結晶の角度分析板を用いて、平行な状態で被検体に照射され、該被検体を透過又は該被検体において回折されたビームを、前方回折ビームと回折ビームとに分離し、分離された前記前方回折ビーム及び前記回折ビームの両方または少なくとも一方により、被検体の暗視野画像を得る方法。
【請求項3】
平行な状態で被検体に照射され、該被検体を透過又は該被検体において回折されたビームを、前方回折ビームと回折ビームとに分離する角度分析板を備え、
分離された前記前方回折ビーム及び前記回折ビームの両方または少なくとも一方により、被検体の暗視野画像を得る暗視野画像撮影装置において、
前記角度分析板は、厚さtが2cm以上、原子面が(220)面又は(440)面のシリコン単結晶であること、
を特徴とする暗視野画像撮影装置。
【請求項4】
平行な状態で被検体に照射され、該被検体を透過又は該被検体において回折されたビームを、前方回折ビームと回折ビームとに分離する角度分析板を備え、
分離された前記前方回折ビーム及び前記回折ビームの両方または少なくとも一方により、被検体の暗視野画像を得る暗視野画像撮影装置において、
前記角度分析板は、厚さtと吸収係数μとを乗じた値μtが、5以上、原子面が(220)面又は(440)面のシリコン単結晶であること、
を特徴とする暗視野画像撮影装置。
【請求項5】
前記ビームはX線で、10keVから35keVであること、
を特徴とする請求項3または4に記載の暗視野画像撮影装置。
【請求項6】
厚さtが2cm以上、原子面が(220)面又は(440)面のシリコン単結晶で製造されたこと、を特徴とする角度分析板。
【請求項7】
厚さtと吸収係数μとを乗じた値μtが5以上、原子面が(220)面又は(440)面のシリコン単結晶で製造されたこと、を特徴とする角度分析板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−251834(P2012−251834A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123700(P2011−123700)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】