説明

曲がり形状パイプの製造方法

【課題】 曲がり部の内外での肉厚差が少ない曲がり形状パイプを製造する方法を提供する。
【解決手段】 断面における円周方向の一部が次第に厚くなった偏肉厚パイプ1Aを準備する過程と、この偏肉厚パイプ1Aを、厚肉側を外側、薄肉側を内側として曲げ加工して曲がり形状パイプ1とする過程とを含む。偏肉厚パイプ1Aを準備する過程は、例えば、全周に均等な均等肉厚パイプ1Bを準備する過程と、この均等肉厚パイプ1Bを塑性加工して円周方向の一部が次第に厚くなった偏肉厚パイプ1Aとする過程とでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建築構造物や、流体配管、配線用配管等として用いられる曲がり形状パイプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
曲がり形状のパイプは、建築構造物の骨組として、あるいは流体配管、配線用配管等として広く用いられている。曲がり形状のパイプは、鋳造品もあるが、鋼管等の直線状の素管を、パイプベンダを用いて曲げられる場合が多い。曲がり状態で製品として販売されている曲がり形状パイプも、直線状の素管を曲げ加工して製品とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−255166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般の曲がり形状パイプは、図3に示すように、全周に渡って均等な肉厚の直管状の素管10Bを、ベンダ等で冷間で曲げ加工し、曲がり形状パイプ10とされる。しかし、均等な肉厚の素間10Bを曲げ加工した場合、曲がりの外側部分10aでは内側部分10bに対して長さが長くなる。その結果、塑性流動により、素管10Bの肉厚tに比べて肉厚to と薄くなる。内側部分10bでは長さが短くなり、結果として肉厚ti が増す。
【0005】
このように曲がりの外側部分10aと内側部分10bとで肉厚がto ,ti と異なるため、曲がり部分では、素管10Bに比べて外側部分10aの強度が低下し、内側部分10bでは強度が過剰となる。このような強度差は、曲がり形状パイプを建築構造物の骨組として使用する場合、局部的な強度不足部分となり、強度確保のためには厚肉の素管10Bを用いることが必要となって、コスト増となる。また、流体配管等として用いる場合も、曲がり部分の内外の肉厚差は耐久性に影響し、曲がりの外側部分10aの耐久性が不十分となる恐れがある。
【0006】
この発明の目的は、曲がりの内外での肉厚差が少ない曲がり形状パイプを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の曲がり形状パイプの製造方法は、断面における円周方向の一部が次第に厚くなった偏肉厚パイプを準備する過程と、この偏肉厚パイプを、厚肉側を外側、薄肉側を内側として曲げ加工する過程とを含む方法である。
この方法によると、偏肉厚パイプを、厚肉側を外側、薄肉側を内側として曲げ加工するため、曲げによって長くなる曲がりの外側部分では、厚肉であった肉厚が薄くなり、曲げによって短くなる内側部分では、薄肉であった肉厚が厚くなり、外側部分と内側部分の肉厚が均等化する。そのため、曲がりの内外での肉厚差が少ない曲がり形状パイプを製造することができる。
【0008】
前記偏肉厚パイプを準備する過程は、例えば、全周に均等な均等肉厚パイプを準備する過程と、この均等肉厚パイプを塑性加工して円周方向の一部が次第に厚くなった偏肉厚パイプとでなる。
鋼管等のパイプの場合、偏肉厚パイプは市場に供給されておらず、均等肉厚パイプを素材として用いることになる。その場合、熱間で塑性加工を行うことにより、円周方向の一部が次第に厚くなった偏肉厚パイプを得ることができる。このように準備した偏肉厚パイプを用いることで、曲がりの内外での肉厚差が少ない曲がり形状パイプを容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0009】
この発明の曲がり形状パイプの製造方法は、断面における円周方向の一部が次第に厚くなった偏肉厚パイプを準備する過程と、この偏肉厚パイプを、厚肉側を外側、薄肉側を内側として曲げ加工する過程とを含む方法であるため、曲がりの内外での肉厚差が少ない曲がり形状パイプを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の一実施形態に係る曲がり形状パイプの製造方法の製造過程を示す工程説明図である。
【図2】(A),(B)は、それぞれ偏肉厚パイプの各例の断面図である。
【図3】従来の曲がり形状パイプの製造方法およびその問題を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
この曲がり形状パイプ1の製造方法は、図1(B)のように、断面における円周方向の一部が次第に厚くなった偏肉厚パイプ1Aを準備する過程と、この偏肉厚パイプ1Aを、図1(C)のように、厚肉側を外側、薄肉側を内側として円弧状に曲げ加工して曲がり形状パイプ1とする過程とを含む。曲がり形状パイプ1の管径に対する曲率半径の関係は、任意の範囲に設計できる。曲がり形状パイプ1は、円弧状の曲がり部分(図のA−B間)のみからなるパイプであっても良く、また直管部分の一部に曲がり部があるL形等のパイプであっても良い。
【0012】
偏肉厚パイプ1Aを準備する過程は、例えば、図1(A)のように全周に均等な素管である均等肉厚パイプ1Bを準備する過程と、この均等肉厚パイプ1Bを塑性加工して図1(B)のように円周方向の一部1aが次第に厚くなった偏肉厚パイプ1Aとする過程とでなる。
偏肉厚パイプ1Aを準備する過程は、均等肉厚パイプ1Bから得る方法の他に、素材からパイプ形状とする過程で、直接に偏肉厚パイプ1Aとしても良い。
【0013】
曲がり形状パイプ1の材質は、鋼製、樹脂性、その他種々の材質が用いられるが、鋼製の場合、図1(A)から(B)のように、均等肉厚パイプ1Bを偏肉厚パイプ1Aとする過程では、均等肉厚パイプ1Bを加熱し、金型(図示せず)を用いて縮径させることで、塑性流動により金型形状に応じた偏肉形状の偏肉厚パイプ1Aとすることができる。前記金型として、パイプ内周に入れて内周面形状を成形する内側金型と、パイプ外周面の形状を成形する外側金型とを用いる。曲げ加工する過程は、パイプベンダ等を用いて冷間で行っても、また熱間や温間で行っても良い。
【0014】
偏肉厚パイプ1Aの肉厚を厚する一部1aの円周方向範囲Wは、例えば、全周に対する1/3〜1/4程度の範囲とする。偏肉厚パイプ1Aの残りの円周方向の範囲は、均等肉厚とする。偏肉厚パイプ1Aの最厚部の厚さtmax の、均等肉厚部分である最薄部tmin 対する比は、例えば2倍程度であっても良く、曲率半径、管径、材質等に応じて適宜設計される。なお、前記の一部1aは、略全周に渡っていても良い。すなわち、略全周に渡って次第に肉厚が変化する形状であっても良い。
【0015】
この曲がり形状パイプの製造方法によると、偏肉厚パイプ1Aを、厚肉側を外側、薄肉側を内側として曲げ加工するため、曲げによって長くなる曲がりの外側部分1aでは、厚肉であった肉厚tmax がto と薄くなり、曲げによって短くなる内側部分1bでは、薄肉であった肉厚tmin がti と厚くなり、外側部分1aと内側部分1bの肉厚to ,ti が均等化する。そのため、曲がりの内外部分1a,1bでの肉厚差(to −ti )が少ない曲がり形状パイプ1を製造することができる。
【0016】
偏肉厚パイプ1Aは、市場に供給されていないが、前述のように、均等肉厚パイプ1Bを素材として用い、熱間で縮径させる塑性加工を行うことにより、円周方向の一部が次第に厚くなった偏肉厚パイプ1Aを得ることができる。このように準備した偏肉厚パイプ1Aを用いることで、曲がりの内側部分1aと外側部分1bとの肉厚差が少ない曲がり形状パイプを容易に製造することができる。
【0017】
このように製造した曲がり形状パイプ1は、例えば建築構造物の骨組みとなる鉄骨材として、あるいは流体配管、配線用配管等として用ることができる。建築構造物の鉄骨材として用いる場合は、曲がりの内側部分1aと外側部分1bとの肉厚差が少ないため、使用鋼材量に対して強度上で優れたものとなる。また、流体配管や配線用配管に用いた場合も、使用鋼材量に対して強度上で優れ、腐食等に対する耐久性についても、内外部分で均等化され、優れた耐久性を得ることができる。
【符号の説明】
【0018】
1…曲がり形状パイプ
1A…偏肉厚パイプ
1B…均等肉厚パイプ
1a…外側部分
1b…内側部分


【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面における円周方向の一部が次第に厚くなった偏肉厚パイプを準備する過程と、この偏肉厚パイプを、厚肉側を外側、薄肉側を内側として曲げ加工する過程とを含む曲がり形状パイプの製造方法。
【請求項2】
請求項1おいて、前記偏肉厚パイプを準備する過程は、全周に均等な均等肉厚パイプを準備する過程と、この均等肉厚パイプを塑性加工して円周方向の一部が次第に厚くなった偏肉厚パイプとする過程とでなる曲がり形状パイプの製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−115855(P2012−115855A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265996(P2010−265996)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(596180869)株式会社山水 (9)
【Fターム(参考)】