説明

曲管型ヒータ装置の製造方法

【課題】 ガラス管の曲成加工において、内部に収納した発熱体の酸化消耗を確実に抑制することができて、品質の低下やばらつきのないしかもどのような極率半径を有する曲管型ヒータ装置をも製造できる方法を提供するにある。
【解決手段】 内部に発熱体(1)が曲管状のガラス管(2)に収納され、両端に封止部(3)(4)が形成されている曲管型ヒータ装置(A)の製造方法であって、
直管型のガラス管(2a)内に発熱体(1)を収納した後、ガラス管(2a)内を不活性状態に保ったままガラス管(2a)を曲成し、然る後、必要に応じてガラス管(2a)内をウォッシングした後ガラス管(2)を封止することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱体であるカーボンファイバーやフィラメントを損なうことなく、ガラス管を自在に曲成することができる異形曲管型ヒータ装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、その高い遠赤外線効果により直管型石英ガラス管内にカーボンファイバーやフィラメントを収納して使用するヒータ装置が多用されている。一般的にヒータ装置は直管型のもののみならず、用途や設置場所により螺旋形や波形その他異形のものが必要とされている。しかしながら、この種のヒータ装置は両端封止後の直管ヒータの必要箇所を加熱・屈曲させて製造されるものしかなく、以下のような問題があった。
【0003】
(1) 石英ガラスを自在に屈曲させるには、石英ガラスの軟化温度まで加熱しなければならない。このような高温に石英ガラスを長時間曝しておくと、耐熱性に優れた石英ガラスといえども分解し、石英ガラス管内に酸素を放出する。石英ガラス管内には不活性ガスが充填されているが、この時点では石英ガラス管の両端が封止されているので、放出された酸素は逃げ場がない。その結果、この酸素は通電を繰り返している内に内部のカーボンファイバーヒータの一部を徐々に酸化消耗させてしまう。加えて、曲成加工によるカーボンファイバーヒータの酸化消耗は一定でなく、曲成加工製品の品質に大きなばらつきが生じるという量産上の問題もあった。
【0004】
(2) また、前述のように屈曲のために軟化させると内部の封入ガスが膨張し、大気圧以上になると軟化部分を膨らませる。逆に、内部が減圧状態の場合、大気圧によって石英ガラス管が押し潰され、綺麗な円筒状にならない。加えて、ガラス管(2)を屈曲させると図14のようにガラス管(1)の内側が圧縮され外側が引き伸ばされることになるから、屈曲部分(25)の外側が内側に近接するように潰れ、外観不良の原因となっていた。
【0005】
(3) その他、屈曲部分(25)の半径が図13のように極端に短い場合、屈曲部分(25)で発熱体(1)がつかえてしまって上手く屈曲部分(25)を回り込むことができず、曲管型ヒータ装置の製造が不可能という問題もあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる従来例の問題点に鑑みてなされたもので、曲成加工において、酸化消耗を確実に抑制することができて、品質の低下やばらつきがなく且つ外観も優れ、どのような極率半径が要求される曲管型ヒータ装置をも製造することができる方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
「請求項1」に記載の曲管型ヒータ装置(A)の製造方法は「内部に発熱体(1)が曲管状のガラス管(2)に収納され、両端に封止部(3)(4)が形成されている曲管型ヒータ装置(A)の製造方法であって、
直管型のガラス管(2a)内に発熱体(1)を収納した後、ガラス管(2a)内を不活性状態に保ったままガラス管(2a)をし、然る後、ガラス管(2)を封止する」ことを特徴とする。
【0008】
「請求項2、3」は請求項1に記載の曲管型ヒータ装置の製造方法の発熱体(1)に関し「発熱体(1)がカーボンファイバーヒータである」或いは「発熱体(1)がフィラメントである」ことを特徴とする。「発熱体(1)がフィラメントである」場合、封止された曲管状のガラス管(2)にハロゲンガスが封入され、曲管型ハロゲンランプとして使用してもよい。
【0009】
「請求項4」はガラス管(2a)に非酸化性雰囲気ガスを供給してガラス管(2a)内を非酸化性雰囲気に保つためのチップ管(8)がない場合で、「非酸化性雰囲気ガスはガラス管(2a)の一端から供給されるようになっている」ことを特徴とする。
【0010】
「請求項5」はガラス管(2a)に非酸化性雰囲気ガスを供給してガラス管(2a)内を非酸化性雰囲気に保つためのチップ管(8)がある場合で、「ガラス管(2a)に非酸化性雰囲気ガスを供給してガラス管(2a)内を非酸化性雰囲気に保つためのチップ管(8)がガラス管(2a)に設けられており、ガラス管(8)の両端を封止後、チップ管(8)が封切されるようになっている」ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、曲成加工時にはガラス管の少なくとも一方の端部が開放しているので、曲成加工時の高温加熱によってガラス管の極く一部が分解してガラス管内に酸素が入り込んだとしてもこれを封止前に放出させることができる。加えて、曲成加工時にはガラス管の少なくとも一方の端部が開放しているので、ガラス管内の圧力を適宜調整することで、加熱軟化している曲成部分が曲成加工時に膨らんだり、潰れたりせず、奇麗に曲げることが出来る。また、予め発熱体をガラス管内に収納した状態で曲成するので、どのような形状にも、そして、ガラス管を曲成し得る最小の極率半径にも発熱体を追従させて曲げることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施図面に従って説明する。ガラス管(2)は石英ガラスあるいはハードガラス製(図示せず)で、両端に封止部(3)(4)があり、給電部材(5)(6)が気密性を保って封止部(3)(4)に挿通されている。封止方法はチップ管を用いる方法と、用いない方法がある。発熱体(1)はカーボンファイバーの場合と、フィラメントの場合がある。以下に記載する第1実施例は、ガラス管(2)は石英ガラス、封止方法はチップ管を用いない方法、発熱体(1)はカーボンファイバーの場合について説明する。なお、それ以外の方法については第1実施例に記載を援用し、相違点のみを主に説明する。
【0013】
[第1実施例]ガラス管(2)は石英ガラスで、両端に封止部(3)(4)があり、給電部材(5)(6)の内側端部(10)(11)間に細いフェルト紐状のカーボンファイバーヒータ(1)が配設されており、カーボンファイバーヒータ(1)の端部に内側端部(10)(11)がカシメ(或いは巻着)固定されている。そして、ガラス管(2)は両端の封止部(3)(4)間の管部分が曲成されて螺旋形或いは波形その他任意の異形形状に形成されている(図6、12)。
【0014】
図の場合、ガラス管(2)が石英ガラスの場合、給電部材(5)(6)は外部リード線(75)(76)、モリブデン金属箔(85)(86)およびその先端に環状のカシメ固定用の内側端部(10)(11)が形成された内部リード線(95)(96)とで構成されており、モリブデン金属箔(85)(86)の端部に外部リード線(75)(76)および内部リード線(95)(96)とがスポット溶接されている。外部リード線(75)(76)には、例えばリング部(20)(21)のようなものが形成されており、組立時には図1又は7に示すように直管型ガラス管(2a)の内側に内接している。
【0015】
ガラス管(2)がハードガラスの場合には、外部リード線(1)がモリブデンの場合、その熱膨張率がほぼ等しいので、モリブデン金属箔(85)(86)を用いることなく、内外リード線が一体となったものを使用する(図示せず)。
【0016】
カーボンファイバーヒータ(1)は低密度の炭素繊維体、例えば不織布、厚みのあるマット状のもの、炭素繊維の織布など様々な形態のものがあるが、本実施例では不織布、厚みのあるマット状のものを切断して断面矩形の紐状のものを使用する。
【0017】
炭素繊維体は、細い炭素繊維の集合体でその種類は特に制限されないが、炭素繊維の例を挙げれば木綿のような天然繊維を原料とする天然繊維系炭素繊維、ポリアクリル系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、フラン系炭素繊維、ポリカルボジイミド系炭素繊維などのガラス状炭素繊維、異方性ピッチ、等方性ピッチ、合成ピッチ等のピッチ系炭素繊維、ポリビニルアルコール系炭素繊維、活性炭繊維、コイル状炭素繊維などが挙げられる。
【0018】
また、前記炭素材料の分子構造も特に限定されるものでなく、例えば黒鉛質系炭素、非晶質系炭素或いはこれらの中間的結晶構造を有する炭素などが挙げられる。炭素繊維の繊維径は所望の効果を得られる限り特に制限はないが、通常5〜20μm程度、好ましくは7〜15μm程度、より好ましくは7〜11μm程度である。
【0019】
カーボンファイバーヒータ(1)の密度も特に制限されないが、通常1.5g/cm3程度或いはそれ以下、好ましくは0.01〜0.6g/cm3、より好ましくは0.05〜0.25g/cm3が好ましい。このように密度の低い炭素材料は見かけの体積が大きいので、遠赤外線量が多くなり、より優れた発熱能を有する。
【0020】
つぎに、図1〜6に従って、本発明を製造方法の第1実施例について説明する。以下の実施例では、ガラス管(2)として石英ガラスを使用したものをその代表例として説明する。また、全実施例に共通するが、加工前のガラス管として直管型の石英ガラス(2a)と、カーボンファイバーヒータ(1)の両側に給電部材(5)(6)が装着されたヒータマウント(M)を用いる。
【0021】
まず、図1のように直管型ガラス管(2a)内にヒータマウント(M)を挿入し、外部リード線(75)(76)のリング部(20)(21)にてヒータマウント(M)を直管型ガラス管(2a)の所定の位置に固定する。続いて、図2(A)のようにガラス管(2a)の一端を不活性ガス供給台(30)に接続し、アルゴンガスや窒素ガスのような不活性ガス(F)を直管型ガラス管(2a)の一方から他方に通流させながらガラス管(2a)の他端を加熱して封止部(3)を形成し、当該端部に形成した封止部(3)に金属箔(85) (86)を埋設する(図3)。
【0022】
続いて、図4に示すように一端封止された直管型ガラス管(2a)のカーボンファイバーヒータ(1)が収納されているその対応部分全体或いは必要箇所をバーナー(50)で加熱して軟化させ、所定形状に曲成させる。内部のカーボンファイバーヒータ(1)はガラス管(2)の曲成に合わせて曲成される。この時、ガラス管内には曲成加工のための加熱による石英ガラスの酸化分解に起因する酸素が発生するが、ガラス管内には不活性ガスが充填されており、前記酸素によるカーボンファイバーヒータ(1)の酸化消耗をできる限り抑制するようにしている。また、ガラス管内に充填された不活性ガスによるガラス管の異常膨張を防ぐために、加熱時のガラス管内の圧力は外部圧力とほぼ等しくなるように不活性ガス供給台にて制御されている。
【0023】
曲成加工が終了すると、必要に応じて曲成加工されたガラス管を不活性ガス供給台に接続した状態で不活性ガスによるウォッシング(ウォッシングとは、清浄な不活性ガスによるガラス管内の浄化で、ガラス管内への清浄な不活性ガスの供給と、これの吸引・減圧を繰り返す方法である。)を繰り返し、ガラス管内部を清浄にした後、不活性ガス供給台側の端部を加熱して封止し、この封止部内にモリブデン金属箔を埋設する。最後に、両端封止曲成加工されたガラス管を不活性ガス供給台から外し、不要箇所を切除して完成品とする。
【0024】
図2(B)は第1実施例の他の例で、図2(A)の一端封止の代わりに閉塞蓋(7)を使用する場合である。この場合は不活性ガスを供給しつつ閉塞蓋(7)を嵌めてガラス管(2)の一端を閉塞した後、図4〜5に至る「曲成加工」→必要に応じて「ウォッシング」→「他端封止」を行い、最後に閉塞蓋(7)側の端部を前記と同様封止を行う。以上のように「ウォッシング」が必要な場合には最終封止の前に行われる。
【0025】
図7〜12はチップ管(8)を使用する場合で、基本的には、第1実施例と同じである。以下、相違点を中心に説明する。
【0026】
実施例1と同様、チップ管付き直管型ガラス管(2a)内にヒータマウント(M)を挿入し、外部リード線(75)(76)のリング部(20)(21)にてヒータマウント(M)を直管型ガラス管(2a)の所定の位置に固定する。続いて、図8のようにチップ管(8)に不活性ガス供給管(3)を接続し、アルゴンガスや窒素ガスのような不活性ガスをチップ管(8)に接続した不活性ガス供給管(32)から供給し、直管型ガラス管(2a)内を両端に向かって通流させる。この状態を継続しながらガラス管(2a)の一端を加熱して封止部(3)を形成し、当該端部に形成した封止部(3)に金属箔(85)を埋設する。
【0027】
続いて、図9に示すように一端封止された直管型ガラス管(2a)のカーボンファイバーヒータ(1)が収納されているその対応部分全体或いは必要箇所をバーナー加熱して軟化させ、所定形状に曲成させる。そして、それ以下の点(曲成加工→他端部の封止→必要に応じてのウォッシング→チップ管(8)の封切→曲管(2)両端の不要箇所の切除)は実施例1と同じであるので、その説明を援用する。
【0028】
前記の場合において、直管型ガラス管(2a)両端を同時に封止する場合は、両端封止後、曲成加工→必要に応じてのウォッシング→チップ管(8)の封切→曲管(2)両端の不要箇所の切除となる。
【0029】
また、発熱体(1)としてフィラメントを使用する場合、上記記載のカーボンファイバーヒータをフィラメントに読み替えるものとする他、必要に応じてウォッシングの後、最後の封止或いはチップオフの前に必要に応じて水素還元を行う。また、フィラメントを使用する場合は、必要に応じてフィラメントをガラス管(2)の中央に保持するためのサポート(26)がフィラメントに所定間隔で巻着されて使用されるのは周知の通りである。
【0030】
なお、本発明に係る曲管型ヒータ装置は加熱用として使用する事ができるだけでなく、明るい光も発するものであるから、光源として使用できるものであり、この場合は「ヒータ」の部分を「加熱」と読み替えるものとする。また、この場合、ハロゲンガスを封入し、曲管型ハロゲンランプとして使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る曲管型ヒータ装置の第1実施例の組み立て前の断面図
【図2】図1の一端封止時の断面図
【図3】図1の一端封止後の断面図
【図4】図1の曲成加工時の断面図
【図5】図1の他端封止時の断面図
【図6】図1の完成状態の断面図
【図7】本発明の第2実施例の組み立て前の断面図
【図8】図7の一端封止時の断面図
【図9】図7の一端封止後の断面図
【図10】図7の曲成加工時の断面図
【図11】図7の他端封止時の断面図
【図12】図7の完成状態の断面図
【図13】屈曲部分の半径が非常に小さい場合の曲管型ヒータ装置の断面図
【図14】屈曲部分が潰れた従来の曲管型ヒータ装置の断面図
【符号の説明】
【0032】
(A) …曲管型ヒータ装置
(1) …発熱体
(2) …曲管状のガラス管
(2a) …管型のガラス管内
(3)(4) …封止部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に発熱体が曲管状のガラス管に収納され、両端に封止部が形成されている曲管型ヒータ装置の製造方法に於いて、
直管型のガラス管内に発熱体を収納した後、ガラス管内を不活性状態に保ったままガラス管をし、然る後、ガラス管を封止することを特徴とする曲管型ヒータ装置の製造方法。
【請求項2】
発熱体がカーボンファイバーヒータであることを特徴とする請求項1に記載の曲管型ヒータ装置の製造方法。
【請求項3】
発熱体がフィラメントであることを特徴とする請求項1に記載の曲管型ヒータ装置の製造方法。
【請求項4】
非酸化性雰囲気ガスはガラス管の一端から供給されるようになっていることを特徴とする請求項1に記載の曲管型ヒータ装置の製造方法。
【請求項5】
ガラス管に非酸化性雰囲気ガスを供給してガラス管内を非酸化性雰囲気に保つためのチップ管がガラス管に設けられており、ガラス管の両端を封止後、チップ管が封切されるようになっていることを特徴とする請求項1に記載の曲管型ヒータ装置の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−172947(P2006−172947A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−364988(P2004−364988)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(500551769)ソーラム株式会社 (13)
【Fターム(参考)】