月形芯の製造方法及び月形芯の製造装置、並びにこれらを用いて製造される月形芯
【課題】漉き加工後の皮革についての充分な剛性や復元性を確保し得る月形芯の製造方法等を提供する。
【解決手段】鞣し革からなる皮革12と抄造された原紙に樹脂を含浸してなる含浸紙13とを貼り合わせることによってほぼ台形平板状に形成され、その含浸紙12側の面における周縁部11bがその端縁側へ向かって漸次薄肉となるような漉き加工がされる月形芯11の製造方法において、前記漉き加工の際に、前記周縁部11bを上下左右の4つの領域である第1〜第4スライス部15b〜18bに分けて、該各領域についてそれぞれ別々に漉き加工を行うことで、月形芯11の内側面に、前記各内隅部11dとこれに連続する尾根部11eを形成することが可能となり、これによって、漉き加工後の月形芯11について、いわゆる腰をもたせることができる。
【解決手段】鞣し革からなる皮革12と抄造された原紙に樹脂を含浸してなる含浸紙13とを貼り合わせることによってほぼ台形平板状に形成され、その含浸紙12側の面における周縁部11bがその端縁側へ向かって漸次薄肉となるような漉き加工がされる月形芯11の製造方法において、前記漉き加工の際に、前記周縁部11bを上下左右の4つの領域である第1〜第4スライス部15b〜18bに分けて、該各領域についてそれぞれ別々に漉き加工を行うことで、月形芯11の内側面に、前記各内隅部11dとこれに連続する尾根部11eを形成することが可能となり、これによって、漉き加工後の月形芯11について、いわゆる腰をもたせることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば革靴において靴後部の表革と裏革との間に介装される月形芯の製造方法等の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の月形芯としては例えば以下の特許文献1に記載されたものが知られており、この月形芯は、鞣し革からなる皮革と原紙に樹脂を含浸してなる含浸紙とを接着剤により貼り合わせたものである。そして、この月形芯は、主として、皮革を所定の形状に打ち抜いて裁断する裁断工程と、該裁断工程にて裁断した皮革と含浸紙とを接着して貼り合わせる貼着工程と、該貼着工程にて貼り合わせたものにつき含浸紙側の面の周縁部を漉き加工する漉き工程と、該漉き工程にて漉き加工したものを靴の踵部の形状に合わせて曲付けする曲付け工程と、からなる4つの工程を経て造られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平6−77523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、前記従来の月形芯の製造方法では、作業効率を向上させ製造コストを低減化する観点から、前記漉き工程において周縁部の漉き加工を1台のスライサで1度の加工によって行うようになっている。具体的には、月形芯の形状(漉き幅)に応じたモールド型を製作し、該モールド型を用いて月形芯をスライサに通すことで、当該月形芯の周縁部の漉き加工を1度で完了させるようになっている。
【0005】
しかしながら、前記漉き加工を1度で行った場合、生産性は向上するものの、漉き加工後の皮革には腰がなく、充分な剛性や復元性を確保することが困難であった。
【0006】
本発明は、かかる技術的課題に着目して案出されたものであり、漉き加工後の皮革についての充分な剛性や復元性を確保し得る月形芯の製造方法等を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、ほぼ台形平板状に形成され、その一側面の周縁部がその端縁側へ向かって漸次薄肉となるような漉き加工がされる月形芯の製造方法において、前記漉き加工の際、前記周縁部を上下左右の4つの領域に分け、該各領域についてそれぞれ別々に漉き加工を行うことを特徴としている。
【0008】
この発明によれば、前記漉き加工をした後に、当該漉き加工がされない中央部の周縁に月形芯の四隅に対応した隅部を形成することが可能となり、これによって漉き加工後の月形芯に腰をもたせることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、木材パルプを抄造した原紙に樹脂を含浸してなる含浸紙と鞣し革とを接着剤を介して貼り合わせることによって前記月形芯を構成し、前記含浸紙と前記鞣し革とを貼り合わせた後、前記含浸紙側の面の前記周縁部に漉き加工を施すことを特徴としている。
【0010】
この発明によれば、鞣し革と含浸紙とを貼り合わせる構成としたことにより、含浸紙の厚さ分だけ鞣し革の厚さを薄くすることが可能となり、この鞣し革の厚さが薄くなった分だけ、製靴工場における鞣し革の硬化作業、つまり月形芯を水に浸漬した後の乾燥に要する時間の短縮が図れる。これによって、1つの靴の製造に係る靴型の占有時間を短縮することが可能となり、月形芯の生産性の向上に供される。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記漉き加工後、前記月形芯のほぼ中央部に形成される厚肉部に、前記月形芯の各隅部に対応する隅部が残存するように前記漉き加工を行うことを特徴としている。
【0012】
この発明によれば、厚肉部の周縁に月形芯の四隅に対応する隅部が残存するようにしたことで、当該各隅部がいわゆるリブとしての働きをすることとなり、これによって漉き加工後の月形芯に腰をもたせることができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記漉き加工後、前記周縁部における前記月形芯の各隅部に対応する部分に、前記厚肉部の各隅部から前記月形芯の各隅部へ向かって延びる稜線が残存するように前記漉き加工を行うことを特徴としている。
【0014】
この発明によれば、月形芯の各隅部において稜線が残存するようにしたことで、該稜線が形成された部分がいわゆるリブとしての働きをすることとなり、これによって漉き加工後の月形芯に腰をもたせることができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、ほぼ台形平板状に形成された月形芯の一側面における周縁部を4つの領域に分け、該各領域について別々に漉き加工することで、前記周縁部につき、その端縁側が漸次薄肉となるようなテーパ状の漉き加工を行う月形芯の製造装置であって、ほぼ帯状に形成されると共に、少なくとも幅方向の一端部に長手方向へ連続する刃部を有し、所定の駆動力に基づき作業台上を水平移動するバンドナイフと、前記バンドナイフの刃部と平行に、かつ、当該バンドナイフの刃部の直下に回転自在に配置され、所定の駆動力に基づいて回転駆動される駆動ローラと、前記駆動ローラ上方に所定の隙間を介して対向配置され、前記駆動ローラの回転に伴い該駆動ローラと反対方向に回転することで、前記駆動ローラと協働して前記月形芯を前記バンドナイフの刃部に向かって送り出す従動ローラと、前記従動ローラの傾きを変更することによって、前記周縁部の漉き幅を調整する漉き幅調整手段と、を備えたことを特徴としている。
【0016】
この発明によれば、月形芯の周縁部を漉き加工するにあたり、各辺を別々に漉き加工する構成としたため、漉き加工を行わない中央部周縁に月形芯の四隅に対応した隅部を形成することが可能となり、これによって漉き加工後の月形芯に腰をもたせることができる。
【0017】
さらに、従動ローラの傾きを変更することによって漉き幅を調整する構成としたことから、型を交換することによって漉き幅の調整を行う従来技術に比べ、1つの従動ローラで型を用いることもなく漉き幅を調整することも可能となる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記ローラ支持機構に連係される一対の調整ロッドをそれぞれ独立して回転させて前記ローラ支持機構により支持される前記従動ローラの両端部側の支持高さの位置を相異させることによって当該従動ローラの傾きを変更するローラ傾度可変機構と、から構成されていることを特徴としている。
【0019】
この発明によれば、調整ロッドを回転させるのみで従動ローラの傾きを変更することができるため、漉き幅の調整作業を極力容易に行うことが可能となる。
【0020】
請求項7に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記漉き幅調整手段は、長手方向の両端側が前記作業台上に配設されたベース部材に弾性支持されると共に、下部に前記従動ローラを回転自在に支持するように構成されたローラ支持部材と、前記ローラ支持部材とほぼ平行となるように軸方向の一端側を突き合わせるようにしてほぼ同軸状に設けられ、他端側に雄ねじ部が形成された一対の調整ロッドと、前記各雄ねじ部に螺着されて前記各調整ロッドの軸方向に沿って進退移動を可能に設けられると共に、上下一側面がテーパ面によって構成され、他側面が前記ローラ支持部材の上下一側面に対し平行となる水平面によって構成された一対の調整ブロックと、前記各調整ブロックに対し前記ローラ支持部材とは反対側に回動自在に配設されると共に、前記各調整ブロックのテーパ面と常時当接する平坦状の当接面を有し、前記各調整ブロックの進退移動に伴って回動して該各調整ブロックを傾斜させることで前記ローラ支持部材の傾斜を可能にする一対の回動ブロックと、を備え、前記各調整ロッドを回転させることによって前記各調整ブロックを進退移動させ、該各調整ブロックの進退移動に基づき前記ローラ支持部材の傾きを変更することで、前記従動ローラの傾きを変更して前記周縁部の漉き幅を調整することを特徴としている。
【0021】
この発明によれば、調整ロッドを回転させるのみで従動ローラの傾きを変更することができるため、漉き幅の調整作業を極力容易に行うことが可能となる。
【0022】
請求項8に記載の発明は、踵の側部を包囲するように、靴後部における表革と裏革との間に介装され、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法を用いて製造された月形芯であって、前記介装時において内側となる長手方向一端側が外側となる長手方向他端側よりも長く延出するように構成したことを特徴としている。
【0023】
この発明によれば、比較的大きな接触面積をもって足と接触し得る靴の内側に配置される長手方向一端側を、靴の外側に配置される長手方向他端側よりも長く延出するように形成したことで、靴内における足の移動をより制限することが可能となる。
【0024】
請求項9に記載の発明は、踵の側部を包囲するように、靴後部における表革と裏革との間に介装され、請求項5〜7のいずれか一項に記載の製造装置を用いて製造された月形芯であって、前記介装時において内側となる長手方向一端側が外側となる長手方向他端側よりも長く延出するように構成したことを特徴としている。
【0025】
この発明によれば、比較的大きな接触面積をもって足と接触し得る靴の内側に配置される長手方向一端側を、靴の外側に配置される長手方向他端側よりも長く延出するように形成したことで、靴内における足の移動をより制限することが可能となる。
【0026】
請求項10に記載の発明は、請求項8又は9に記載の発明において、前記長手方向一端側を、踵から土踏まずよりも爪先側まで延出するように構成したことを特徴としている。
【0027】
この発明によれば、足の内側面について、少なくとも踵から土踏まずまでを包囲するようにしたため、靴内における足の移動をより効果的に規制することが可能となる。
【0028】
請求項11に記載の発明は、請求項8又は9に記載の発明において、前記長手方向他端側を、踵から土踏まずに対応する位置まで延出するように構成したことを特徴としている。
【0029】
この発明によれば、足の外側面に対しても、踵から土踏まずに相当する位置までを包囲するようにしたことで、靴の剛性が高くなり過ぎない限度において、靴内における足の移動を最大限に規制することが可能となる。
【0030】
請求項12に記載の発明は、請求項8〜11のいずれか一項に記載の発明において、表裏両面にそれぞれ熱硬化性接着剤を塗布し、該接着剤を乾燥してなることを特徴としている。
【0031】
この発明によれば、芯材に予め接着剤を塗布させておくことで、製靴工程において、製靴業者による接着剤塗布作業が不要となり、単にプレス機にかけて加熱成形作業を行うのみで、芯材を両革に固定することができる。
【発明の効果】
【0032】
請求項1に記載の発明によれば、漉き加工が行われない中央部に形成される月形芯の四隅に対応する隅部によって漉き加工後の月形芯に腰をもたせることが可能となるために、当該漉き加工後の月形芯において、充分な剛性と復元性を確保することができる。
【0033】
請求項2に記載の発明によれば、一つの月形芯の製造に係る靴型の占有時間が短縮されることにより、靴の生産性の向上に供される。
【0034】
請求項3に記載の発明によれば、残存させた前記各隅部によって漉き加工後の月形芯に腰をもたせることが可能となるために、当該漉き加工後の月形芯において、充分な剛性と復元性を確保することができる。
【0035】
請求項4に記載の発明によれば、前記各稜線が残存する前記各隅部によって漉き加工後の月形芯に腰をもたせることが可能となるために、当該漉き加工後の月形芯において、充分な剛性と復元性を確保することができる。
【0036】
請求項5に記載の発明によれば、漉き加工を行わない中央部周縁に形成される月形芯の四隅に対応する隅部によって漉き加工後の月形芯に腰をもたせることが可能となるために、当該漉き加工後の月形芯において、充分な剛性と復元性を確保することができる。
【0037】
さらに、1つの従動ローラで型を用いることもなく漉き幅を調整することが可能となるために、月形芯の製造管理の容易化が図れると共に、当該月形芯の製造コストの低廉化にも供される。
【0038】
請求項6に記載の発明によれば、漉き幅の調整作業を極力容易に行うことが可能となるため、当該調整工数の低減化に供され、月形芯の製造コストの低廉化に寄与することができる。
【0039】
請求項7に記載の発明によれば、漉き幅の調整作業を極力容易に行うことが可能となるため、当該調整工数の低減化に供され、月形芯の製造コストの低廉化に寄与することができる。
【0040】
請求項8に記載の発明によれば、芯材の長手方向一端側を延ばした分だけ、該長手方向一端側によって靴内での足の移動をさらに制限することができる。これにより、当該靴内における足の移動によって起こる足の疲労の軽減に供される。
【0041】
請求項9に記載の発明によれば、長手方向一端側を延ばした分だけ靴内での足の移動をさらに制限することが可能となるため、当該靴内における足の移動によって起こる足の疲労の軽減に供される。
【0042】
請求項10に記載の発明によれば、靴内における足の移動がより効果的に規制されるため、当該靴内における足の移動によって起こる足の疲労を一層効果的に軽減することができる。
【0043】
請求項11に記載の発明によれば、靴内における足の移動が最大限に規制されるため、当該靴内における足の移動によって起こる足の疲労を最小限に抑えることができる。
【0044】
請求項12に記載の発明によれば、製靴作業を簡素化することが可能となり、当該製靴作業の作業性の向上が図れる。この結果、靴の製造コストの低廉化に供される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1実施形態に係る月形芯の製造工程を示すブロック図である。
【図2】図1に示す裁断工程のうち皮革の裁断についての説明に供する略図である。
【図3】図1に示す裁断工程のうち含浸紙の裁断についての説明に供する略図である。
【図4】図1に示す接着工程の概略を表す略図である。
【図5】図1に示す漉き工程において使用する第1スライサの構成の説明に供する当該第1スライサの全体を示す図である。
【図6】図5に示す第1スライサに係るバンドナイフの構造の説明に供する要図である。
【図7】図5に示す漉き幅調整手段における第1ロータ傾斜可変機構の構造を表す要部拡大図である。
【図8】図5に示す漉き幅調整手段における第2ロータ傾斜可変機構の構造を表す要部拡大図である。
【図9】図5に示す漉き幅調整手段による漉き幅の調整の説明に供する略図である。
【図10】図5に示す漉き幅調整手段において従動ローラを左下がりに傾けた状態を表す図である。
【図11】図5に示す漉き幅調整手段において従動ローラを右下がりに傾けた状態を表す図である。
【図12】月形芯の左側縁部を漉き加工する場合の当該月形芯の図5に示す第1スライサへの投入状態を表す図である。
【図13】月形芯の右側縁部を漉き加工する場合の当該月形芯の図5に示す第1スライサへの投入状態を表す図である。
【図14】図1に示す漉き工程において使用する第2スライサの構成の説明に供する当該第2スライサの全体を表す図である。
【図15】図14のA方向からみた矢視図であって、図14に示す第2スライサに係る漉き幅調整手段の構造の説明に供する要図である。
【図16】図15に示す漉き幅調整手段による漉き幅の調整の説明に供する略図である。
【図17】月形芯の第3スライス部を形成する場合の当該月形芯の図14に示す第2スライサへの投入状態を表す斜視図である。
【図18】月形芯の第4スライス部を形成する場合の当該月形芯の図14に示す第2スライサへの投入状態を表す斜視図である。
【図19】図1に示す漉き工程の加工を終えた月形芯の漉き加工後の状態を表す平面図である。
【図20】図19に示す月形芯の要部拡大図である。
【図21】図19のB−B線断面図である。
【図22】図1に示す曲付け工程の加工を終えた月形芯の完成状態を表す斜視図である。
【図23】図22に示す月形芯を靴に装着した当該月形芯の使用状態を表す概略図である。
【図24】本発明の第1実施形態の変形例に係る図19のB−B線断面図である。
【図25】本発明の第2実施形態に係る月形芯を表す斜視図である。
【図26】図25に示す月形芯を靴に装着した当該月形芯の使用状態を表す概略図である。
【図27】本発明の第3実施形態に係る月形芯を表す斜視図である。
【図28】図27に示す月形芯を靴に装着した当該月形芯の使用状態を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明に係る月形芯等の各実施形態を図面に基づいて詳述する。なお、各実施形態では、当該月形芯を紳士用革靴に適用したものを示している。
【0047】
図1〜図23は、本発明に係る月形芯等の第1実施形態を示しており、当該実施形態に係る月形芯11は、図23に示すように、靴1の踵1bの側部を包囲するように靴後部における表革2と裏革3との間に介装されるものであって、図19に示すように、タンニン鞣し革等からなる皮革12と、パルプ木材を抄造した原紙に樹脂を含浸してなる含浸紙13と、を溶剤系の所定の接着剤14をもって貼り合わせてなり、その全体が、図22に示すように、含浸紙13が内側となるようにして前記踵1bの側部に沿うように湾曲形成されている。
【0048】
ここで、前記月形芯11は、図19に示すように、その厚さが約2.2mmに設定されていて、厚さ1.1mmずつにそれぞれ漉いた皮革12と含浸紙13とが貼り合わされている。これにより、本実施形態に係る月形芯11にあっては、厚さ2.2mmの皮革を単体で使用する従来の月形芯と比べて、皮革の重量が約半分となっており、また、含浸紙13は皮革に比べて十分軽量であるため、前記従来の月形芯よりも大幅な軽量化が図られている。
【0049】
そして、前記月形芯11は、図19及び図21に示すように、断面が先細り状となるように周縁部11b全体が漉き加工されていて、中央部11aのみに含浸紙13が配置されて、周縁部11bは、前記漉き加工により薄く漉かれた皮革12のみによって構成されている。さらに、この月形芯11は、その長手方向一端部15と他端部16の両端部において、当該両端部15,16の各辺15a,16aと、当該月形芯11の下側部である後記の長手方向他側部18の辺18aと、のなす角がそれぞれ鋭角となるように、つまり当該両端部15,16の各辺15a,16aが靴後部側へ向かって上り傾斜状となるように形成されている。
【0050】
また、前記含浸紙13は、木材パルプ単独を抄造した原紙、木材パルプと皮屑とを混抄した原紙、又は木材パルプ、皮屑及び合成繊維を混抄した原紙を、いわゆるSBR系合成ラテックス又はアクリル系樹脂が配合された樹脂剤に浸漬(ディッピング)することで、かかる樹脂を前記原紙に含浸させ、これを乾燥したものである。なお、当該含浸紙13の成分比としては、木材パルプ85%〜60%に対し、上記樹脂15%〜40%となっている。
【0051】
ここで、前記皮屑は、靴や鞄その他の皮材料を素材とする分野において端材として廃棄されたものを利用したシェービング屑であり、このシェービング屑を粉砕機で粉砕して繊維状に解繊したもの(いわゆるコラーゲン繊維)である。なお、この皮屑の混抄率は、対木材パルプ比10%〜90%の範囲内であればいくらでもよいが、望ましくは、対木材パルプ比50%が良好である。
【0052】
また、前記合成繊維についても、前記皮屑と同様に、端材として廃棄されたものを裂断し解繊して使用する。なお、この合成繊維の混抄率については、対木材パルプ及び皮屑比15%を上限とし、望ましくは、対木材パルプ及び皮屑比5%〜8%が良好である。
【0053】
以下、本発明に係る月形芯11の製造方法及び当該製造の際に後述する漉き工程にて使用される本発明に係る月形芯11の製造装置につき、図1〜図22に基づいて説明する。
【0054】
ここで、まず、前記月形芯11の製造方法について説明すれば、前記月形芯11は、図1に示すように、第1工程である裁断(抜き)工程S1と、第2工程である貼り合わせ(接着)工程S2と、第3工程である漉き(スライス)工程S3と、第4工程である曲付け(成型)工程S4と、の4つの工程を経て製造される。
【0055】
すなわち、第1工程である裁断工程S1では、図2、図3に示すように、生皮を鞣して得られた皮革12と、原紙に樹脂を含浸して得られた含浸紙13と、をそれぞれ同じ抜き型21をもって図外のクリッカーと称される油圧式の裁断機(型抜き機)を用いて裁断(打ち抜き加工)を行う。抜き型21には、少なくとも一端部の全周に刃部が設けられていて、この抜き型21の刃部を抜き対象たる皮革12や含浸紙13に当接させて、当該抜き型21を前記クリッカーによる押圧力をもって押し込むことにより、前記各抜き対象が当該抜き型21の形状に打ち抜かれるようになっている。ここで、この皮革12及び含浸紙13の裁断について個別具体的に説明すれば、まず、皮革12の裁断については、図2に示すように、背中から半分に裁断されて厚さ1.1mmに漉き加工された皮革12を前記クリッカーのテーブルに据え、傷のある部位を避けつつ月形芯11として使用可能な部位を見極めながら抜き型21を矢印の方向へと押し込むことによって1枚ずつ打ち抜き加工する。そして、この打ち抜かれた皮革12は、肩や腹など、部位によって相互に品質が異なることから、打ち抜いた皮革12を同じ品質のものに仕分けする。一方、含浸紙13の裁断については、図3に示すように、厚さ1.1mmの所定の大きさに規格化された原紙に前記樹脂を含浸した含浸紙13を5枚重ねて角を揃えた後に、その一角をホチキス22等で固定し、これに皮革12の場合と同様に抜き型21を矢印の方向へと押し込むことにより、所定の間隔毎に5枚ずつ打ち抜き加工する。このように、皮革12の裁断においては、1回の裁断につき1枚の皮革12が得られるのに対して、含浸紙13の裁断においては、1回の裁断につき5枚の含浸紙13が得られると共に、前記皮革12の裁断のように適当な部位の見極めや同じ品質のものに仕分けする作業等を行う必要がないことから、皮革12の裁断と比較して少なくとも5倍以上の効率で裁断を行うことができる。
【0056】
続いて、第2工程である貼り合わせ工程S2では、前記裁断した含浸紙13を1枚ずつ取り、これをグラビアコーターと称される塗工機にかけることにより、含浸紙13の皮革12との接合面である外側面13aに接着剤14を塗布する。そして、図4に示すように、この接着剤14が塗布された含浸紙13の上に前記同じ大きさに裁断された皮革12を載置することによって両者12,13を貼り合わせる。かかる作業を繰り返して、含浸紙13に皮革12を重合してなる月形芯11を所定の枚数だけ重ねた後、これらをプレス機にかけて約1t/cm2の荷重をもって接着剤14が乾燥するまで加圧することにより、各月形芯11について皮革12と含浸紙13とを圧着させる。
【0057】
次に、第3工程である漉き工程S3では、まず、前記接着工程で皮革12と含浸紙13とが貼り合わされてなる月形芯11を、バンドナイフと称される帯状の刃物を備えた後記の漉き機(スライサ)にかけることにより、図19に示すように、その中央部11aに含浸紙13が残るようにして、当該含浸紙13側の面に係る周縁部11bについて漉き加工を行うが、この際に、当該月形芯11の周縁部11bを長手方向の一端部15及び他端部16と長手方向の一側部17及び他側部18とからなる4つの領域に分け、これらの領域をそれぞれ別々に、当該月形芯11の周縁部11bを4回に分けて漉き加工する。すなわち、第1漉き加工として、当該月形芯11の長手方向一端部15を漉き加工することにより当該一端部15に第1スライス部15bを形成した後、第2漉き加工として、その反対側となる他端部16を漉き加工することにより当該他端部16に第2スライス部16bを形成し、その後、第3漉き加工として、さらに当該月形芯11の上側部である長手方向一側部17を漉き加工することにより当該一側部17に第3スライス部17bを形成した後に、第4漉き加工として、その反対側であって当該月形芯11の下側部である長手方向他側部18を漉き加工することにより当該他側部18に第4スライス部18bを形成する。
【0058】
このように、前記月形芯11の周縁部11bを長手方向各端部15,16と長手方向各側部17,18とからなる4つの領域に分けて別々に漉き加工することで、当該月形芯11には、図19、図20に示すように、長手方向各端部15,16における第1、第2スライス部15b,16bと、長手方向各側部17,18における第3、第4スライス部17b,18bと、が交差することにより、その中央部11aに、ほぼ台形状をなす当該月形芯11の4つの隅部である外隅部11cに対応する内隅部11dが形成されると共に、該各内隅部11dから前記各外隅部11cへ向かって連続する稜線である尾根部11eが形成されることとなる。そうすると、こうして漉き加工された月形芯11は、前記各内隅部11d及びこれに連続する尾根部11eが形成されることでいわゆる腰のあるものとなり、所望の剛性が確保されるようになっている。つまり、前記各内隅部11dとこれに連続する尾根部11eがいわゆる補強リブとしての役割を果たすことで、漉き加工後の月形芯11においてその剛性が確保され、これによって腰のある復元性に優れた月形芯11を得ることができる。
【0059】
なお、前記各漉き加工を行うに際し、第1、第2漉き加工においては、第3、第4漉き加工に対して漉き幅が比較的大きいことから、バンドナイフを備えた比較的大型の第1スライサ30を使用する一方で(図5参照)、第3、第4漉き加工においては、第3、第4漉き加工に対して漉き幅が比較的小さいことから、バンドナイフを備えた比較的小型のコバ漉き機と称される第2スライサ60を使用する(図14参照)。なお、これら両設備の構成については、後に詳細に説明する。
【0060】
最後に、第4工程である曲付け工程S4では、図19に示すような前記漉き加工を終えた月形芯11を、図外の所定の成形機にセットされた一対の雄型と雌型との間に挟み込み、この成形機によって約1t/cm2の荷重をもって加圧することにより、当該漉き加工が完了したものを図22に示すような湾曲状態となるように曲付け加工(成形)し、これによって月形芯11が完成する。
【0061】
そして、この製品化された月形芯11は、その後、製靴工場にて、水に浸漬されて所定時間おかれた後に、つまり前記硬化作業後に、靴底1eが未装着のいわゆるアッパー1aに挿入され、該アッパー1aの表革2及び裏革3と月形芯11との間に所定の接着剤が塗布されることで、当該接着剤を介して表革2及び裏革3に接着固定されることとなる(図23参照)。ここで、本実施形態に係る前記月形芯11によれば、含浸紙13の厚さ分だけ皮革12の厚さを薄くすることが可能となり、この皮革12の厚さが薄くなった分だけ、製靴工場にて当該月形芯11を水に浸漬した後の乾燥に要する時間、つまり当該月形芯11の硬化作業時間の短縮が図れる。これにより、1つの靴の製造に係る靴型の占有時間を短縮することが可能となり、靴の生産性の向上に供されることとなる。さらに、皮革12に含浸紙13を貼り合わせる構造としたことから、前記月形芯11の乾燥時には皮革12が含浸紙13に引っ張られることとなるため、皮革12が大きく縮んでしまうおそれもない。換言すれば、前記月形芯11の乾燥の際における皮革12の縮み具合のばらつきを低減することが可能となり、この結果、当該月形芯11の製品毎の品質をほぼ均一にすることも可能となる。
【0062】
以下、前記月形芯11の漉き加工に使用する第1、第2スライサ30,60について、図5〜図18に基づいて説明する。
【0063】
まず、本発明に係る月形芯の製造装置である第1スライサ30について説明すれば、この第1スライサ30は、図5〜図7に示すように、横断面ほぼ楕円状となるような環状に形成されると共に、少なくとも幅方向一端部に長手方向へ連続する刃部31aを有し、図外の電動機の駆動力に基づき作業台35上を水平移動するバンドナイフ31と、該バンドナイフ31の刃部31aと平行に、かつ、このバンドナイフ31の刃部31aの直下に回転自在に設けられ、図外の電動機の駆動力に基づいて回転駆動される駆動ローラ32と、該駆動ローラ32の上方に所定の隙間C1を介して対向配置され、この駆動ローラ32の回転に伴いこの駆動ローラ32と反対方向へ回転することで当該駆動ローラ32と協働して月形芯11をバンドナイフ31の刃部31aに押し付けながら送り出す従動ローラ33と、作業台35上に設けられ、従動ローラ33の傾きθ1を変更することによって月形芯11の周縁部11bにおける第1、第2スライス部15b,16bの各漉き幅W1,W2(図19参照)を調整する漉き幅調整手段34と、を備えている。
【0064】
前記バンドナイフ31は、図5、図6に示すように、作業台35の下に設けられるハウジング36の両側に配置されたサイドハウジング37a,37b内に回転自在に収容される2つのプーリ38a,38bに円弧状の両端部が巻回され、このプーリ38a,38bが前記電動機によって回転駆動されることで、前記円弧状の両端部間に対向して設けられる水平部31b,31bの一方が、作業台35の表面に沿うようにして図5のX軸方向へ連続的に移動するようになっている。そして、このバンドナイフ31には、その幅方向における図5のY軸方向手前側端部の全周に亘って刃部31aが設けられていて、月形芯11が前記両ローラ32,33により送り出されることで、刃部31aと対向する含浸紙13側の面における長手方向両端部15,16に、前記第1、第2スライス部15b,16bを形成するようになっている。
【0065】
前記駆動ローラ32は、図5〜図7に示すように、図5のY軸方向においてバンドナイフ31の刃部31aよりも手前側に、作業台35のほぼ中央に貫通形成された窓部35aを介して図5のZ軸方向において従動ローラ33と対向するように、かつ、バンドナイフ31の水平部31bとほぼ平行となるように配置されている。そして、この駆動ローラ32の外周面には、例えばゴム材料を貼り付けるなどして構成される図外の滑り止め手段が設けられていて、この滑り止め手段により月形芯11をバンドナイフ31側へより確実に送り出せるようになっている。
【0066】
前記従動ローラ33は、ほぼ均一の外径を有する中空円筒状をなし、作業台35上に配設される後記のローラ支持機構38によって回転自在に支持されており、図8〜図10に示すように、前記ローラ支持機構38を構成する後記のローラ支持部材40の傾きが変更されることによって、その傾きθ1が変更されるようになっている。ここで、この傾きθ1とは、図10に示すように、バンドナイフ31の水平部31bに平行な水平線Mに対する従動ローラ33の軸心Pの傾きを表している。そして、この従動ローラ33と駆動ローラ32の前記隙間C1は従動ローラ33の傾きθ1によって変化し、当該隙間C1のうち月形芯11の基本厚さ幅(2.2mm)より小さくなる範囲が前記各スライス部15b,16bの漉き幅W1,W2に相当し(図19参照)、当該範囲における隙間C1が漉き加工後の月形芯11の厚さ幅に設定される。このように、前記従動ローラ33は、前記各漉き幅W1,W2に相当する範囲において月形芯11を駆動ローラ32に押し付けることによって、この駆動ローラ32と協働して月形芯11をバンドナイフ31側へと送り出し、前記範囲において月形芯11をバンドナイフ31の刃部31aに押し付けることで、当該範囲において漉き加工が行われるようになっている。
【0067】
前記漉き幅調整手段34は、図5、図6に示すように、作業台35における図5のX軸方向の両端部に載置固定された一対のベース部材39,40に跨るように配置され、該両ベース部材39,40により支持されるローラ支持部材41を介して従動ローラ33を回転自在に支持するローラ支持機構38と、該ローラ支持機構38に連係される後記の一対の調整ロッド47,50を介して従動ローラ33の傾きθ1を変更する一対のローラ傾斜可変機構42と、を備えている。なお、前記一対のローラ傾斜可変機構42は、図5に示すように、対をなして構成され、ローラ支持部材41の長手方向一端部を図5のZ軸方向に沿って上下移動させる第1ローラ傾斜可変機構43と、ローラ支持部材41の他端部を上下移動させる第2ローラ傾斜可変機構44と、から構成されている。
【0068】
前記一対のベース部材39,40を構成する図5中の左側に配置された第1ベース部材39と同図中の右側に配置された第2ベース部材40とは左右対称に構成されていることから、以下では、便宜上、第1ベース部材39についてのみ説明する。すなわち、この第1ベース部材39は、図5〜図7に示すように、作業台35上に固定される台座部上に同図のZ軸方向へ向かって延設された逆さL字形状の支持部39aと、該支持部39aの端面に取り付けられる板状のカバー部材39bと、によって収容溝45を構成し、該収容溝45の溝底部に相当する天蓋部39cに固定される図外のばね部材によってローラ支持部材41の一端部41aを弾性的に支持している。
【0069】
前記ローラ支持部材41は、図5、図7に示すように、その各端部41a,41bに固定されて下方へと延出する第1、第2ブラケット46a,46bを介して従動ローラ33の軸方向各端部を回転自在に支持している。また、このローラ支持部材41には、前記各端部41a,41bの上面に、後記の各調整ブロック48,51の水平下面48b,51bに常時当接する平坦状の一端側水平面41c及び他端側水平面41dが形成されている。さらに、当該ローラ支持部材41の長手方向中間部には、円環状をなす一対のロッド支持部41e,41fが一体形成されており、該各ロッド支持部41e,41fにより後記の各調整ロッド47,50が回転自在に支持されるようになっている。
【0070】
前記第1ローラ傾斜可変機構43は、前記ローラ支持部材41の第1ロッド支持部41eを介して該ローラ支持部材41とほぼ平行となるように回転自在に配置された第1調整ロッド47と、該第1調整ロッドに連係され、この第1調整ロッド47の軸方向へ沿って進退移動可能に設けられた第1調整ブロック48と、該第1調整ブロック48と第1ベース部材39の天蓋部39cの内側面との間に介装され、回動することにより前記第1調整ブロック48の傾きを変更する第1回動ブロック49と、から主として構成されている。
【0071】
前記第1調整ロッド47は、その一端部に当該ロッド47を回転させるためのダイヤル部47aが設けられており、該ダイヤル部47aの外周面にはローレット加工等が施されて、滑りにくく回転させ易い構成となっている。そして、このダイヤル部47aは後記の第2調整ロッド50のダイヤル部50aと突き合わせ状態に設けられていて、当該両調整ロッド47,50同士がほぼ同軸状に配置されている。また、この第1調整ロッド47の他端側には雄ねじ部47bが設けられており、該雄ねじ部47bを介して第1調整ブロック48と連係するようになっている。
【0072】
前記第1調整ブロック48は、前記ローラ支持部材41と第1回動ブロック49との間に介装され、両者41,49に対し摺動可能となるように構成されている。具体的には、この第1調整ブロック48は、第1回動ブロック49と対向する上面が右下がりに傾斜するテーパ上面48aとして構成されていると共に、ローラ支持部材41の一端側水平面41cと対向する下面が平坦状の水平下面48bとして構成されている。そして、この第1調整ブロック48の内側面には、第1調整ロッド47の雄ねじ部47bに螺着可能な雌ねじ部48cが設けられていて、当該第1調整ブロック48は、第1調整ロッド47を回転させることで、該第1調整ロッド47の軸方向へ沿って図5のX軸方向へと移動するようになっている。すなわち、第1調整ロッド47を回転させることに伴い、第1調整ブロック48が図7中の右方向へと進出した場合は、当該第1調整ブロック48はその進出量に応じて同図中の上方へと前記テーパ上面48aの傾斜角θxに応じた変化量の分だけ上昇することとなる一方、第1調整ブロック48が同図中の左方向へと後退した場合には、当該第1調整ブロック48はその後退量に応じて同図中の下方へと前記テーパ上面48aの傾斜角θxに応じた変化量の分だけ下降することとなる。
【0073】
前記第1回動ブロック49は、ほぼ半月形状に形成されていて、その円弧部49aが第1ベース部材39の天蓋部39cの内側面に切欠形成された円弧溝39d内において摺動可能となっていると共に、当該円弧部49aの反対側に有する平坦面49bが第1調整ブロック48のテーパ上面48aにおいて摺動可能となっている。そして、かかる第1回動ブロック49は、第1ベース部材39によって回動自在に支持されており、第1調整ブロック48及びその反対側に配設される第2傾斜可変機構44の後記の第2調整ブロック51の移動に伴い後記の第2回動ブロック52に連係して回動することで、前記各調整ブロック48,51を傾斜させ、これによって、当該各調整ブロック48,51を介して連係するローラ支持部材41の傾斜を可能にしている。
【0074】
一方、前記第2傾斜可変機構44は、前記第1傾斜可変機構43に対し対称となるように構成されており、当該第1傾斜可変機構43と同様、図5、図8に示すように、前記ローラ支持部材41の第2ロッド支持部41fを介して該ローラ支持部材41とほぼ平行な状態で回転自在に配置された第2調整ロッド50と、該第2調整ロッド50に連係され、この第2調整ロッド50の軸方向へ沿って進退移動可能に設けられた第2調整ブロック51と、該第2調整ブロック51と第2ベース部材40の天蓋部40cの内側面との間に介装されて、回動することにより前記第2調整ブロック51の傾きを変更する第1回動ブロック52と、から主として構成されている。
【0075】
前記第2調整ロッド50は、その一端部に設けられた大径のダイヤル部50aを前記第1調整ロッド47のダイヤル部47aに突き合わせるようにして、該第1調整ロッド47に対してほぼ同軸となるように配設されている。そして、その他端側には雄ねじ部50bが設けられていて、該雄ねじ部50bを介して第2調整ブロック50と連係するようになっている。
【0076】
前記第2調整ブロック51は、前記ローラ支持部材41と第2回動ブロック52との間に介装され、第2回動ブロック52と対向する上面が左下がりに傾斜するテーパ上面52aとして構成されていると共に、ローラ支持部材41の他端側水平面41dと対向する下面が平坦状の水平下面52bとして構成されている。そして、この第2調整ブロック52の内側面には、第2調整ロッド50の雄ねじ部50bに螺着可能な雌ねじ部52cが設けられていて、当該第2調整ブロック51は、第1調整ブロック48と同様、第2調整ロッド50を回転させることで、該第2調整ロッド50の軸方向へ沿って図5のX軸方向へと移動するようになっている。
【0077】
前記第2回動ブロック52は、ほぼ半月形状に形成され、その円弧部52aが第2ベース部材40の天蓋部40cの内側面に切欠形成された円弧溝40d内において摺動可能となっていると共に、当該円弧部50aの反対側に有する平坦面50bが第2調整ブロック51のテーパ上面51aにおいて摺動可能に可能となっている。そして、かかる第2回動ブロック52は、第2ベース部材40により回動自在に支持されており、前記各調整ブロック48,51の移動に伴い第1回動ブロック48と連係して回動することで、前記各調整ブロック48,51を傾斜させ、これによって、ローラ支持部材41を傾斜可能にしている。
【0078】
以上のように構成された第1スライサ30を用いて行う月形芯11の周縁部11bにおける長手方向の一端部15及び他端部16の各領域に係る漉き加工の具体的な手順(方法)につき、図5〜図13に基づいて説明する。
【0079】
前記月形芯11の長手方向一端部15の領域について漉き加工を行う場合には、まず、第1調整ロッド47を時計方向に回転させることによって第1調整ブロック48を右方向へ進出移動させると共に、第2調整ロッド50を反時計方向に回転させることによって第2調整ブロック51を右方向へと後退移動させることで、ローラ支持部材41を図10に示すような左下がり傾斜としつつ、その傾きを調整することにより従動ローラ33の傾きθ1を調整し(図9参照)、その月形芯11の要する漉き幅、つまり第1スライス部15bの漉き幅W1を設定する(図19参照)。
【0080】
その後、前記月形芯11を、含浸紙13側の面を下にした状態で作業台35の投入スペース35aに載置し、図12に示すように、長手方向一端部15の辺15aを作業台35において図中左側に配設された第1ガイド53に突き当てた状態で、当該第1ガイド53に沿って月形芯11を前記各ローラ32,33の位置まで押し出す。すると、この月形芯11は、前記両ローラ32,33により引き込まれるようにしてバンドナイフ31側へと送り出され、この際に、従動ローラ33の一端部33aによってその一端部15がバンドナイフ31の刃部31aに押し付けられた状態で前記両ローラ32,33によって送り出されることで、当該月形芯11の一端部15に前記設定した漉き幅W1に応じた第1スライス部15bが形成されて、作業台35後方の排出スペース35bへと排出されることとなる。
【0081】
一方、月形芯11の長手方向他端部16の領域について漉き加工を行う場合には、まず、第1調整ロッド47を反時計方向に回転させることによって第1調整ブロック48を左方向へと後退移動させると共に、第2調整ロッド50を時計方向に回転させることによって第2調整ブロック51を左方向へ進出移動させることで、ローラ支持部材41を図11に示すような右下がり傾斜としつつ、その傾きを調整することによって従動ローラ33の傾きθ1を調整し(図9参照)、その月形芯11の要する漉き幅、つまり第2スライス部16bの漉き幅W2を設定する(図19参照)。
【0082】
その後、前記月形芯11を、含浸紙13側の面を下にした状態で作業台35の投入スペース35aに載置し、図13に示すように、長手方向他端部16の辺16aを作業台35において図中右側に配設された第2ガイド54に突き当てた状態でこれに沿って投入する。すると、この月形芯11は、従動ローラ33の他端部33bによってその他端部16がバンドナイフ31の刃部31aに押し付けられた状態で前記両ローラ32,33によって送り出されることから、当該月形芯11の他端部16に前記設定した漉き幅W2に応じた第2スライス部16bが形成されて、作業台35後方の排出スペース35bに排出されることとなる。
【0083】
次に、前記第2スライサ60について説明すれば、この第2スライサ60は、図14〜図18に示すように、少なくとも幅方向一端部(投入側端部)に長手方向へ連続する刃部61aを有すると共に、図外の電動機の駆動力に基づいて回転するほぼ環状のバンドナイフ61と、該バンドナイフ61の刃部61aに対し接線状に、かつ、このバンドナイフ61の刃部61aの直上に回転自在に設けられ、月形芯11を押し進めることに伴い回転することで当該月形芯11をバンドナイフ61の刃部61aに押し付けながら送り出す従動ローラ62と、該従動ローラ62の傾きθ2を変更することによって月形芯11の周縁部11bにおける前記第3、第4スライス部17b,18bの各漉き幅W3,W4を調整する漉き幅調整手段63と、を備えている。
【0084】
前記バンドナイフ61は、ハウジング64の内部に収容された図外のプーリを介して前記電動機によって回転駆動されることで、長手方向へ連続的に移動するようになっている。そして、このバンドナイフ61にも、その幅方向における図14のX軸方向手前側端部の全周に亘って刃部61aが設けられていて、図17、図18に示すように月形芯11を図14のX軸方向に沿って移動させることで、刃部61aと対向する含浸紙13側の面における長手方向両側部17,18に、前記第3、第4スライス部17b,18bを形成するようになっている。
【0085】
前記従動ローラ62は、軸方向中間部が括れた異径筒状をなし、ハウジング64の上方となる図14のZ軸方向へ逆さ凹字形状に延設されたアーム65の先端部に設けられたローラ支持機構66によって回転自在に支持されており、前記ローラ支持機構66を構成する後記のローラ支持部材67の傾きが変更されることによって、その傾きθ2が変更されるようになっている。ここで、この傾きθ2とは、図16に示すように、ハウジング64の水平上面64aと平行なバンドナイフ61の接線Nに対する従動ローラ62の軸心Qの傾きを表している。そして、この従動ローラ62とバンドナイフ61との間の隙間C2は従動ローラ62の傾きθ2によって変化し、当該隙間C2のうち月形芯11の前記基本厚さ幅よりも小さくなる範囲が前記各スライス部17b,18bに相当し、当該範囲における隙間C2が漉き加工後の月形芯11の厚さ幅に設定される。すなわち、この従動ローラ62は、前記各漉き幅W3,W4に相当する範囲において月形芯11をバンドナイフ61の刃部61aに押し付けることで、当該範囲において漉き加工が行われるようになっている。
【0086】
前記漉き幅調整手段63は、図14、図15に示すように、アーム65の先端部において回動自在に設けられたローラ支持部材67を介して従動ローラ62を回転自在に支持するローラ支持機構66と、該ローラ支持機構66に連係される後記の調整ロッド70を介して従動ローラ62の傾きθ2を変更するローラ傾斜可変機構68と、を備えている。
【0087】
前記ローラ支持部材67は、逆さ凹字形状に形成された支持部67aの対向する両先端部によって従動ローラ62の軸方向両端部を支持するように構成され、支持部67aに貫装された後記のピン部材69を介してアーム65の先端部に回動自在に支持されている。
【0088】
前記ローラ傾斜可変機構68は、ローラ支持部材67の支持部67aにおける長手方向一端部の角部に貫装されたピン部材69と、支持部67aの長手方向一端部から図15のZ軸方向に向かって延設された腕部67bと、アーム65の先端部側に図15のY軸方向に沿って螺着され、その先端によって腕部67bの一側面を図15のY軸負方向へ押圧することで該腕部67bを介してローラ支持部材67の傾きを変更する調整ロッド70と、アーム65の先端部側に前記腕部67bの他側面に弾接するように配設され、調整ロッド70の先端側となる図15のY軸正方向へ腕部67bを押圧する板ばね部材71と、から主として構成されていて、調整ロッド70を回転させて当該調整ロッド70の先端側の突出量Lを調整することで腕部67bの回転方向位置が変更されて、これによって、ローラ支持部材67を介して従動ローラ62の傾きθ2の変更が可能となっている。
【0089】
以上のように構成された第2スライサ60を用いて行う月形芯11の周縁部11bにおける長手方向の一側部17及び他側部18の各領域に係る漉き加工の具体的な手順(方法)につき、図17、図18に基づいて説明する。
【0090】
前記月形芯11の長手方向一側部17の領域について漉き加工を行う場合には、まず、前記調整ロッド70を回転させて先端側の突出量Lを調整することによって従動ローラ62の傾きθ2を調整し(図16参照)、その月形芯11の要する第3スライス部17bの漉き幅W3を設定する(図19参照)。
【0091】
その後、前記月形芯11を、含浸紙13側の面を下にした状態で、図17に示すように、長手方向一側部17の辺17aをハウジング64の水平上面64aに配設されたガイド72に沿わせて押し進める。すると、この月形芯11は、従動ローラ62が回転することにより、当該従動ローラ62の一端部62aによってその一側部17がバンドナイフ61の刃部61aに押し付けられた状態で送り出されて、当該月形芯11の一側部17全体に前記設定した漉き幅W3に応じた第3スライス部17bが形成されることとなる。
【0092】
月形芯11の長手方向他側部18の領域について漉き加工を行う場合にも、前記一側部17側の漉き加工と同様に、前記調整ロッド70を回転させて先端側の突出量Lを調整することにより従動ローラ62の傾きθ2を調整し(図16参照)、その月形芯11の要する第4スライス部18bの漉き幅W4を設定する(図19参照)。
【0093】
その後、前記月形芯11を、含浸紙13側の面を下にした状態で、図18に示すように、長手方向他側部18の辺18aを前記ガイド72に沿わせて押し進める。すると、この月形芯11は、従動ローラ62が回転することで、当該従動ローラ62の一端部62aによってその他側部18がバンドナイフ61の刃部61aに押し付けられた状態で送り出され、当該月形芯11の他側部18全体に前記設定した漉き幅W4に応じた第4スライス部18bが形成されることとなる。
【0094】
このように、前記各スライサ30,60を用いることで、月形芯11の周縁部11bにつき、前記各スライス部15b〜18bをそれぞれ別々に漉き加工することができるため、前記各内隅部11dとこれに連続する尾根部11eを形成することが可能となり、漉き加工後の月形芯11の剛性及び復元性を確保することに供される。
【0095】
特に、前記月形芯11の両端部15,16を漉き加工する場合は、第2スライサ60のような小型のスライサであるコバ漉き機では漉き幅が不足してしまうことから、第1スライサ30のような比較的大型のスライサを用いなければならないところ、当該大型のスライサは、前述のようにモールド型を用いて周縁部11b全周を1度に加工するように構成されているため、前記各スライス部15b〜18bについて別々に漉き加工することができない。しかしながら、本実施形態に係る前記第1スライサ30によれば、漉き幅調整機構34において、前記一対の傾斜可変機構43,44をそれぞれ独立に作動可能に構成し、ローラ支持部材41の傾斜を可能としたことで、月形芯11の前記両端部15,16を別々に漉き加工することに供されることとなる。
【0096】
なお、第1スライサ30のような大型のスライサを用いて月形芯11の前記両端部15,16の漉き加工を行うにあたり、第2スライサ60で用いている従動ローラ62のような軸方向中間部が括れたローラを使用することで、前記両端部15,16を別々に漉き加工することは可能となるが、この場合には、前記各スライス部15b,16bの漉き幅W1,W2に応じたローラが必要となるため、生産管理が煩雑になると共に、製造コストも増大してしまう。ところが、本実施形態に係る前記第1スライサ30によれば、従動ローラ33を傾斜させる構造として、当該従動ローラ33の傾きθ1によって前記各スライス部15b,16bの漉き幅W1,W2を設定するようになっているため、当該軸方向にほぼ均一の外径を有する従動ローラ33のみによってあらゆる漉き幅に係る漉き加工を行うことができる。すなわち、本実施形態に係る第1スライサ30によれば、漉き幅に応じた従動ローラを当該漉き幅の分の分だけ用意する必要がないことから、生産管理が容易になると共に、製造コストの低廉化にも供されることとなる。
【0097】
しかも、かかる第1スライサ30によれば、前記各調整ロッド47,50を回転させるのみで従動ローラ33の傾きθ1を変更することができるため、前記各スライス部15b,16bの漉き幅W1,W2の調整作業を極力容易に行うことが可能となり、当該調整作業工数の低減化に供される。これにより、月形芯11に係る製造コストのさらなる低廉化に寄与することができる。
【0098】
以上のように、本実施形態によれば、前記第1、第2スライサ30,60を用いることで本実施形態に係る漉き加工、すなわち前記各スライス部15b〜18bについて別々に漉き加工を行うことが可能となり、これによって、月形芯11の内側面に、前記各内隅部11dとこれに連続する尾根部11eを形成することが可能となる。この結果、漉き加工後の月形芯11について腰をもたせることが可能となり、当該漉き加工後の月形芯11において、充分な剛性と復元性を確保することができる。
【0099】
図24は、前記第1実施形態に係る月形芯11の変形例を示している。なお、本変形例に係る月形芯81についても、基本的な構成は前記第1実施形態に係る月形芯11と同様であるため、以下、説明の便宜上、前記第1実施形態に係る月形芯11と同じ構成については同一の符号を付してその説明を省略し、前記第1実施形態に係る月形芯11と異なる点についてのみ説明する。
【0100】
すなわち、本変形例に係る月形芯81は、前記実施形態に係る月形芯11の表裏両面に予め熱硬化性の接着剤82,82が塗布され、かつ、乾燥されたものであって、前記接着剤82,82を介して製靴工場においてアッパー1aに接着される、製靴工場における接着剤塗布作業を不要とするものである。
【0101】
そして、本実施形態に係る月形芯81を製造するにあたっては、前記第1〜第4工程を経て得られた前記第1実施形態に係る月形芯11に対し、第5工程である接着剤塗布工程において、その表裏両面に接着剤82,82を塗布した後、これを乾燥させることにより、当該月形芯81の製造が完了する。なお、この製品化された月形芯81は、その後、製靴工場において、前記アッパー1aの表革2と裏革3との間に挿入され、当該アッパー1aが足形状の金型に被嵌されて約70〜90℃の温度によって加熱及び加圧されることにより、前記接着剤82,82を介して前記両革2,3に接着固定される。
【0102】
このように、本実施形態に係る前記月形芯81によれば、金型を用いて加熱及び加圧することにより成形されることから、前記第1実施形態に係る月形芯11のように、水に浸漬した後に靴型に当てて乾燥させる、といった煩わしい前記硬化作業を行う必要がない。このため、当該月形芯81の場合には、前記第1実施形態に係る月形芯11と比べて、さらに短時間で製靴作業を行うことができる。すなわち、靴型の使用効率を大幅に向上させることが可能となり、靴の生産性のさらなる向上に供される。
【0103】
また、従来では、後工程である製靴工場にて手作業で接着剤を塗布することにより前記アッパー1aとの接着を行っていたが、本変形例に係る月形芯81の場合には、接着剤82,82が予め塗布されているため、当該月形芯81をアッパー1aの表革2と裏革3との間に挿入してそのまま加熱成形機にかけて加熱及び加圧するのみでアッパー1aとの接着を行うことができる。すなわち、本変形例に係る月形芯81によれば、製靴工程における従来の手作業が機械化されることとなり、靴の生産性のより一層の向上に供されるといったメリットもある。
【0104】
図25、図26は、本発明に係る月形芯の第2実施形態を示しており、前記第1実施形態に係る月形芯11の形状を変更したものである。なお、本実施形態についても、基本的な構成は前記第1実施形態と同様であるため、説明の便宜上、前記第1実施形態と同じ構成については同一の符号を付してその説明を省略し、前記第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。
【0105】
すなわち、本実施形態に係る月形芯111は、アッパー1aに装着された状態で、靴1の外側(外方)に配置される長手方向他端側16は、前記第1実施形態に係る月形芯11と同様に、踵1b近傍のみを包囲する程度に比較的短く設定されているのに対して、靴1の内側(内方)に配置される長手方向一端側15は、踵1bから土踏まず1cよりも爪先1d側まで延出するように比較的長く設定されていて、当該長手方向一端側15が、前記他端側16よりも長くなるように構成されている。かかる構成から、足の内側については、踵1bの近傍のみならず、踵1bから土踏まず1cよりも爪先1d側までが月形芯111によって包囲されるようになっている。
【0106】
このようにして構成された本実施形態に係る月形芯111によれば、靴1の外側に配置される長手方向他端側16と比較してより大きな面積をもって足と対向可能な靴1の内側に配置される長手方向一端側15を、前記他端側16よりも長く延出するように形成したことで、靴内において、足の移動をより効果的に制限することが可能となる。この結果、当該靴内での足の移動によって起こる足の疲労を一層効果的に軽減することができる。
【0107】
また、本実施形態のように、長手方向一端側15をより長く延出するように形成するにあたり、前記第1実施形態に係る月形芯11以上に高い剛性が必要となるため、前記従来のモールド型による漉き加工によっては当該実施形態に係る月形芯111の充分な剛性を確保することが困難であるが、前記第1実施形態に係る第1、第2スライサ30,60をもって、周縁部11bにつき、前記各スライス部15b〜18bに分けてそれぞれ別々に漉き加工することにより、当該実施形態に係る月形芯111においても充分な剛性を確保することが可能となり、靴内における足の移動の適切な規制に供される。
【0108】
図27、図28は、本発明に係る月形芯の第3実施形態を示しており、前記第2実施形態に係る月形芯111の形状を変更したものである。なお、本実施形態に係る月形芯211ついても、基本的な構成は前記第2実施形態に係る月形芯111と同様であるため、以下、説明の便宜上、前記第2実施形態に係る月形芯111と同じ構成については同一の符号を付してその説明を省略し、前記第2実施形態に係る月形芯111と異なる点についてのみ説明する。
【0109】
すなわち、本実施形態に係る月形芯211は、アッパー1aに装着された状態で、靴1の内側に配置される長手方向一端側15は、前記第2実施形態に係る月形芯111と同様に、踵1bから土踏まず1cよりも爪先1d側まで延出するように構成されている一方、靴1の外側に配置される前記長手方向他端側16も、前記一端側15とほぼ同じ長さ又は当該一端側15よりも1〜2cm程度短くなるように、比較的長く延出するように構成されている。換言すれば、当該月形芯211により、靴1を履いたときに、足の内側は、前記一端側15によって踵1bから土踏まず1cよりも爪先1d側までが包囲され、外側は、前記他端側16により踵1bから土踏まず1cに対応する位置近傍までが包囲されるようになっている。
【0110】
このようにして構成された本実施形態に係る月形芯211によれば、足の内側面のみならず、足の外側面に対しても、踵1bから土踏まず1cに対応する位置近傍までを包囲するようにしたことにより、前記第2実施形態に係る月形芯111と比べ、靴内における足の移動をさらに制限することが可能となっている。一方、当該月形芯211の長手方向他端側16の延出を踵1bから土踏まず1cに対応する位置近傍までに留めたことにより、靴1の剛性が必要以上に高まることによる履き心地の悪化を招来してしまうおそれもない。換言すれば、当該月形芯211によれば、靴1の剛性が高くなり過ぎない限度において、靴内における足の移動を最大限に規制することが可能となる。この結果、当該靴内における足の移動によって起こる足の疲労を最小限に抑えることができる。
【0111】
また、本実施形態のように、長手方向両端側15,16をより長く延出するように形成するにあたり、前記第2実施形態に係る月形芯111よりもさらに高い剛性が必要となるため、前記従来のモールド型による漉き加工によっては当該実施形態に係る月形芯211の充分な剛性を確保することができないが、前記第1実施形態に係る第1、第2スライサ30,60をもって、周縁部11bにつき、前記各スライス部15b〜18bに分けてそれぞれ別々に漉き加工することにより、当該実施形態に係る月形芯211においても充分な剛性を確保することが可能となり、靴内における足の移動の適切な規制に供される。
【0112】
本発明は前記各実施の形態の構成に限定されるものではなく、例えば本発明に係る月形芯は、紳士用革靴以外の靴に適用することも可能である。
【0113】
また、前記第1実施形態の変形例については、前記第1実施形態のみならず、前記第2実施形態あるいは前記第3実施形態のいずれの実施形態と組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0114】
11…月形芯
11b…周縁部
11d…内隅部
11e…尾根部
12…皮革(鞣し革)
13…含浸紙
15b…第1スライス部
16b…第2スライス部
17b…第3スライス部
18b…第4スライス部
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば革靴において靴後部の表革と裏革との間に介装される月形芯の製造方法等の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の月形芯としては例えば以下の特許文献1に記載されたものが知られており、この月形芯は、鞣し革からなる皮革と原紙に樹脂を含浸してなる含浸紙とを接着剤により貼り合わせたものである。そして、この月形芯は、主として、皮革を所定の形状に打ち抜いて裁断する裁断工程と、該裁断工程にて裁断した皮革と含浸紙とを接着して貼り合わせる貼着工程と、該貼着工程にて貼り合わせたものにつき含浸紙側の面の周縁部を漉き加工する漉き工程と、該漉き工程にて漉き加工したものを靴の踵部の形状に合わせて曲付けする曲付け工程と、からなる4つの工程を経て造られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平6−77523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、前記従来の月形芯の製造方法では、作業効率を向上させ製造コストを低減化する観点から、前記漉き工程において周縁部の漉き加工を1台のスライサで1度の加工によって行うようになっている。具体的には、月形芯の形状(漉き幅)に応じたモールド型を製作し、該モールド型を用いて月形芯をスライサに通すことで、当該月形芯の周縁部の漉き加工を1度で完了させるようになっている。
【0005】
しかしながら、前記漉き加工を1度で行った場合、生産性は向上するものの、漉き加工後の皮革には腰がなく、充分な剛性や復元性を確保することが困難であった。
【0006】
本発明は、かかる技術的課題に着目して案出されたものであり、漉き加工後の皮革についての充分な剛性や復元性を確保し得る月形芯の製造方法等を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、ほぼ台形平板状に形成され、その一側面の周縁部がその端縁側へ向かって漸次薄肉となるような漉き加工がされる月形芯の製造方法において、前記漉き加工の際、前記周縁部を上下左右の4つの領域に分け、該各領域についてそれぞれ別々に漉き加工を行うことを特徴としている。
【0008】
この発明によれば、前記漉き加工をした後に、当該漉き加工がされない中央部の周縁に月形芯の四隅に対応した隅部を形成することが可能となり、これによって漉き加工後の月形芯に腰をもたせることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、木材パルプを抄造した原紙に樹脂を含浸してなる含浸紙と鞣し革とを接着剤を介して貼り合わせることによって前記月形芯を構成し、前記含浸紙と前記鞣し革とを貼り合わせた後、前記含浸紙側の面の前記周縁部に漉き加工を施すことを特徴としている。
【0010】
この発明によれば、鞣し革と含浸紙とを貼り合わせる構成としたことにより、含浸紙の厚さ分だけ鞣し革の厚さを薄くすることが可能となり、この鞣し革の厚さが薄くなった分だけ、製靴工場における鞣し革の硬化作業、つまり月形芯を水に浸漬した後の乾燥に要する時間の短縮が図れる。これによって、1つの靴の製造に係る靴型の占有時間を短縮することが可能となり、月形芯の生産性の向上に供される。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記漉き加工後、前記月形芯のほぼ中央部に形成される厚肉部に、前記月形芯の各隅部に対応する隅部が残存するように前記漉き加工を行うことを特徴としている。
【0012】
この発明によれば、厚肉部の周縁に月形芯の四隅に対応する隅部が残存するようにしたことで、当該各隅部がいわゆるリブとしての働きをすることとなり、これによって漉き加工後の月形芯に腰をもたせることができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記漉き加工後、前記周縁部における前記月形芯の各隅部に対応する部分に、前記厚肉部の各隅部から前記月形芯の各隅部へ向かって延びる稜線が残存するように前記漉き加工を行うことを特徴としている。
【0014】
この発明によれば、月形芯の各隅部において稜線が残存するようにしたことで、該稜線が形成された部分がいわゆるリブとしての働きをすることとなり、これによって漉き加工後の月形芯に腰をもたせることができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、ほぼ台形平板状に形成された月形芯の一側面における周縁部を4つの領域に分け、該各領域について別々に漉き加工することで、前記周縁部につき、その端縁側が漸次薄肉となるようなテーパ状の漉き加工を行う月形芯の製造装置であって、ほぼ帯状に形成されると共に、少なくとも幅方向の一端部に長手方向へ連続する刃部を有し、所定の駆動力に基づき作業台上を水平移動するバンドナイフと、前記バンドナイフの刃部と平行に、かつ、当該バンドナイフの刃部の直下に回転自在に配置され、所定の駆動力に基づいて回転駆動される駆動ローラと、前記駆動ローラ上方に所定の隙間を介して対向配置され、前記駆動ローラの回転に伴い該駆動ローラと反対方向に回転することで、前記駆動ローラと協働して前記月形芯を前記バンドナイフの刃部に向かって送り出す従動ローラと、前記従動ローラの傾きを変更することによって、前記周縁部の漉き幅を調整する漉き幅調整手段と、を備えたことを特徴としている。
【0016】
この発明によれば、月形芯の周縁部を漉き加工するにあたり、各辺を別々に漉き加工する構成としたため、漉き加工を行わない中央部周縁に月形芯の四隅に対応した隅部を形成することが可能となり、これによって漉き加工後の月形芯に腰をもたせることができる。
【0017】
さらに、従動ローラの傾きを変更することによって漉き幅を調整する構成としたことから、型を交換することによって漉き幅の調整を行う従来技術に比べ、1つの従動ローラで型を用いることもなく漉き幅を調整することも可能となる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記ローラ支持機構に連係される一対の調整ロッドをそれぞれ独立して回転させて前記ローラ支持機構により支持される前記従動ローラの両端部側の支持高さの位置を相異させることによって当該従動ローラの傾きを変更するローラ傾度可変機構と、から構成されていることを特徴としている。
【0019】
この発明によれば、調整ロッドを回転させるのみで従動ローラの傾きを変更することができるため、漉き幅の調整作業を極力容易に行うことが可能となる。
【0020】
請求項7に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記漉き幅調整手段は、長手方向の両端側が前記作業台上に配設されたベース部材に弾性支持されると共に、下部に前記従動ローラを回転自在に支持するように構成されたローラ支持部材と、前記ローラ支持部材とほぼ平行となるように軸方向の一端側を突き合わせるようにしてほぼ同軸状に設けられ、他端側に雄ねじ部が形成された一対の調整ロッドと、前記各雄ねじ部に螺着されて前記各調整ロッドの軸方向に沿って進退移動を可能に設けられると共に、上下一側面がテーパ面によって構成され、他側面が前記ローラ支持部材の上下一側面に対し平行となる水平面によって構成された一対の調整ブロックと、前記各調整ブロックに対し前記ローラ支持部材とは反対側に回動自在に配設されると共に、前記各調整ブロックのテーパ面と常時当接する平坦状の当接面を有し、前記各調整ブロックの進退移動に伴って回動して該各調整ブロックを傾斜させることで前記ローラ支持部材の傾斜を可能にする一対の回動ブロックと、を備え、前記各調整ロッドを回転させることによって前記各調整ブロックを進退移動させ、該各調整ブロックの進退移動に基づき前記ローラ支持部材の傾きを変更することで、前記従動ローラの傾きを変更して前記周縁部の漉き幅を調整することを特徴としている。
【0021】
この発明によれば、調整ロッドを回転させるのみで従動ローラの傾きを変更することができるため、漉き幅の調整作業を極力容易に行うことが可能となる。
【0022】
請求項8に記載の発明は、踵の側部を包囲するように、靴後部における表革と裏革との間に介装され、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法を用いて製造された月形芯であって、前記介装時において内側となる長手方向一端側が外側となる長手方向他端側よりも長く延出するように構成したことを特徴としている。
【0023】
この発明によれば、比較的大きな接触面積をもって足と接触し得る靴の内側に配置される長手方向一端側を、靴の外側に配置される長手方向他端側よりも長く延出するように形成したことで、靴内における足の移動をより制限することが可能となる。
【0024】
請求項9に記載の発明は、踵の側部を包囲するように、靴後部における表革と裏革との間に介装され、請求項5〜7のいずれか一項に記載の製造装置を用いて製造された月形芯であって、前記介装時において内側となる長手方向一端側が外側となる長手方向他端側よりも長く延出するように構成したことを特徴としている。
【0025】
この発明によれば、比較的大きな接触面積をもって足と接触し得る靴の内側に配置される長手方向一端側を、靴の外側に配置される長手方向他端側よりも長く延出するように形成したことで、靴内における足の移動をより制限することが可能となる。
【0026】
請求項10に記載の発明は、請求項8又は9に記載の発明において、前記長手方向一端側を、踵から土踏まずよりも爪先側まで延出するように構成したことを特徴としている。
【0027】
この発明によれば、足の内側面について、少なくとも踵から土踏まずまでを包囲するようにしたため、靴内における足の移動をより効果的に規制することが可能となる。
【0028】
請求項11に記載の発明は、請求項8又は9に記載の発明において、前記長手方向他端側を、踵から土踏まずに対応する位置まで延出するように構成したことを特徴としている。
【0029】
この発明によれば、足の外側面に対しても、踵から土踏まずに相当する位置までを包囲するようにしたことで、靴の剛性が高くなり過ぎない限度において、靴内における足の移動を最大限に規制することが可能となる。
【0030】
請求項12に記載の発明は、請求項8〜11のいずれか一項に記載の発明において、表裏両面にそれぞれ熱硬化性接着剤を塗布し、該接着剤を乾燥してなることを特徴としている。
【0031】
この発明によれば、芯材に予め接着剤を塗布させておくことで、製靴工程において、製靴業者による接着剤塗布作業が不要となり、単にプレス機にかけて加熱成形作業を行うのみで、芯材を両革に固定することができる。
【発明の効果】
【0032】
請求項1に記載の発明によれば、漉き加工が行われない中央部に形成される月形芯の四隅に対応する隅部によって漉き加工後の月形芯に腰をもたせることが可能となるために、当該漉き加工後の月形芯において、充分な剛性と復元性を確保することができる。
【0033】
請求項2に記載の発明によれば、一つの月形芯の製造に係る靴型の占有時間が短縮されることにより、靴の生産性の向上に供される。
【0034】
請求項3に記載の発明によれば、残存させた前記各隅部によって漉き加工後の月形芯に腰をもたせることが可能となるために、当該漉き加工後の月形芯において、充分な剛性と復元性を確保することができる。
【0035】
請求項4に記載の発明によれば、前記各稜線が残存する前記各隅部によって漉き加工後の月形芯に腰をもたせることが可能となるために、当該漉き加工後の月形芯において、充分な剛性と復元性を確保することができる。
【0036】
請求項5に記載の発明によれば、漉き加工を行わない中央部周縁に形成される月形芯の四隅に対応する隅部によって漉き加工後の月形芯に腰をもたせることが可能となるために、当該漉き加工後の月形芯において、充分な剛性と復元性を確保することができる。
【0037】
さらに、1つの従動ローラで型を用いることもなく漉き幅を調整することが可能となるために、月形芯の製造管理の容易化が図れると共に、当該月形芯の製造コストの低廉化にも供される。
【0038】
請求項6に記載の発明によれば、漉き幅の調整作業を極力容易に行うことが可能となるため、当該調整工数の低減化に供され、月形芯の製造コストの低廉化に寄与することができる。
【0039】
請求項7に記載の発明によれば、漉き幅の調整作業を極力容易に行うことが可能となるため、当該調整工数の低減化に供され、月形芯の製造コストの低廉化に寄与することができる。
【0040】
請求項8に記載の発明によれば、芯材の長手方向一端側を延ばした分だけ、該長手方向一端側によって靴内での足の移動をさらに制限することができる。これにより、当該靴内における足の移動によって起こる足の疲労の軽減に供される。
【0041】
請求項9に記載の発明によれば、長手方向一端側を延ばした分だけ靴内での足の移動をさらに制限することが可能となるため、当該靴内における足の移動によって起こる足の疲労の軽減に供される。
【0042】
請求項10に記載の発明によれば、靴内における足の移動がより効果的に規制されるため、当該靴内における足の移動によって起こる足の疲労を一層効果的に軽減することができる。
【0043】
請求項11に記載の発明によれば、靴内における足の移動が最大限に規制されるため、当該靴内における足の移動によって起こる足の疲労を最小限に抑えることができる。
【0044】
請求項12に記載の発明によれば、製靴作業を簡素化することが可能となり、当該製靴作業の作業性の向上が図れる。この結果、靴の製造コストの低廉化に供される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1実施形態に係る月形芯の製造工程を示すブロック図である。
【図2】図1に示す裁断工程のうち皮革の裁断についての説明に供する略図である。
【図3】図1に示す裁断工程のうち含浸紙の裁断についての説明に供する略図である。
【図4】図1に示す接着工程の概略を表す略図である。
【図5】図1に示す漉き工程において使用する第1スライサの構成の説明に供する当該第1スライサの全体を示す図である。
【図6】図5に示す第1スライサに係るバンドナイフの構造の説明に供する要図である。
【図7】図5に示す漉き幅調整手段における第1ロータ傾斜可変機構の構造を表す要部拡大図である。
【図8】図5に示す漉き幅調整手段における第2ロータ傾斜可変機構の構造を表す要部拡大図である。
【図9】図5に示す漉き幅調整手段による漉き幅の調整の説明に供する略図である。
【図10】図5に示す漉き幅調整手段において従動ローラを左下がりに傾けた状態を表す図である。
【図11】図5に示す漉き幅調整手段において従動ローラを右下がりに傾けた状態を表す図である。
【図12】月形芯の左側縁部を漉き加工する場合の当該月形芯の図5に示す第1スライサへの投入状態を表す図である。
【図13】月形芯の右側縁部を漉き加工する場合の当該月形芯の図5に示す第1スライサへの投入状態を表す図である。
【図14】図1に示す漉き工程において使用する第2スライサの構成の説明に供する当該第2スライサの全体を表す図である。
【図15】図14のA方向からみた矢視図であって、図14に示す第2スライサに係る漉き幅調整手段の構造の説明に供する要図である。
【図16】図15に示す漉き幅調整手段による漉き幅の調整の説明に供する略図である。
【図17】月形芯の第3スライス部を形成する場合の当該月形芯の図14に示す第2スライサへの投入状態を表す斜視図である。
【図18】月形芯の第4スライス部を形成する場合の当該月形芯の図14に示す第2スライサへの投入状態を表す斜視図である。
【図19】図1に示す漉き工程の加工を終えた月形芯の漉き加工後の状態を表す平面図である。
【図20】図19に示す月形芯の要部拡大図である。
【図21】図19のB−B線断面図である。
【図22】図1に示す曲付け工程の加工を終えた月形芯の完成状態を表す斜視図である。
【図23】図22に示す月形芯を靴に装着した当該月形芯の使用状態を表す概略図である。
【図24】本発明の第1実施形態の変形例に係る図19のB−B線断面図である。
【図25】本発明の第2実施形態に係る月形芯を表す斜視図である。
【図26】図25に示す月形芯を靴に装着した当該月形芯の使用状態を表す概略図である。
【図27】本発明の第3実施形態に係る月形芯を表す斜視図である。
【図28】図27に示す月形芯を靴に装着した当該月形芯の使用状態を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明に係る月形芯等の各実施形態を図面に基づいて詳述する。なお、各実施形態では、当該月形芯を紳士用革靴に適用したものを示している。
【0047】
図1〜図23は、本発明に係る月形芯等の第1実施形態を示しており、当該実施形態に係る月形芯11は、図23に示すように、靴1の踵1bの側部を包囲するように靴後部における表革2と裏革3との間に介装されるものであって、図19に示すように、タンニン鞣し革等からなる皮革12と、パルプ木材を抄造した原紙に樹脂を含浸してなる含浸紙13と、を溶剤系の所定の接着剤14をもって貼り合わせてなり、その全体が、図22に示すように、含浸紙13が内側となるようにして前記踵1bの側部に沿うように湾曲形成されている。
【0048】
ここで、前記月形芯11は、図19に示すように、その厚さが約2.2mmに設定されていて、厚さ1.1mmずつにそれぞれ漉いた皮革12と含浸紙13とが貼り合わされている。これにより、本実施形態に係る月形芯11にあっては、厚さ2.2mmの皮革を単体で使用する従来の月形芯と比べて、皮革の重量が約半分となっており、また、含浸紙13は皮革に比べて十分軽量であるため、前記従来の月形芯よりも大幅な軽量化が図られている。
【0049】
そして、前記月形芯11は、図19及び図21に示すように、断面が先細り状となるように周縁部11b全体が漉き加工されていて、中央部11aのみに含浸紙13が配置されて、周縁部11bは、前記漉き加工により薄く漉かれた皮革12のみによって構成されている。さらに、この月形芯11は、その長手方向一端部15と他端部16の両端部において、当該両端部15,16の各辺15a,16aと、当該月形芯11の下側部である後記の長手方向他側部18の辺18aと、のなす角がそれぞれ鋭角となるように、つまり当該両端部15,16の各辺15a,16aが靴後部側へ向かって上り傾斜状となるように形成されている。
【0050】
また、前記含浸紙13は、木材パルプ単独を抄造した原紙、木材パルプと皮屑とを混抄した原紙、又は木材パルプ、皮屑及び合成繊維を混抄した原紙を、いわゆるSBR系合成ラテックス又はアクリル系樹脂が配合された樹脂剤に浸漬(ディッピング)することで、かかる樹脂を前記原紙に含浸させ、これを乾燥したものである。なお、当該含浸紙13の成分比としては、木材パルプ85%〜60%に対し、上記樹脂15%〜40%となっている。
【0051】
ここで、前記皮屑は、靴や鞄その他の皮材料を素材とする分野において端材として廃棄されたものを利用したシェービング屑であり、このシェービング屑を粉砕機で粉砕して繊維状に解繊したもの(いわゆるコラーゲン繊維)である。なお、この皮屑の混抄率は、対木材パルプ比10%〜90%の範囲内であればいくらでもよいが、望ましくは、対木材パルプ比50%が良好である。
【0052】
また、前記合成繊維についても、前記皮屑と同様に、端材として廃棄されたものを裂断し解繊して使用する。なお、この合成繊維の混抄率については、対木材パルプ及び皮屑比15%を上限とし、望ましくは、対木材パルプ及び皮屑比5%〜8%が良好である。
【0053】
以下、本発明に係る月形芯11の製造方法及び当該製造の際に後述する漉き工程にて使用される本発明に係る月形芯11の製造装置につき、図1〜図22に基づいて説明する。
【0054】
ここで、まず、前記月形芯11の製造方法について説明すれば、前記月形芯11は、図1に示すように、第1工程である裁断(抜き)工程S1と、第2工程である貼り合わせ(接着)工程S2と、第3工程である漉き(スライス)工程S3と、第4工程である曲付け(成型)工程S4と、の4つの工程を経て製造される。
【0055】
すなわち、第1工程である裁断工程S1では、図2、図3に示すように、生皮を鞣して得られた皮革12と、原紙に樹脂を含浸して得られた含浸紙13と、をそれぞれ同じ抜き型21をもって図外のクリッカーと称される油圧式の裁断機(型抜き機)を用いて裁断(打ち抜き加工)を行う。抜き型21には、少なくとも一端部の全周に刃部が設けられていて、この抜き型21の刃部を抜き対象たる皮革12や含浸紙13に当接させて、当該抜き型21を前記クリッカーによる押圧力をもって押し込むことにより、前記各抜き対象が当該抜き型21の形状に打ち抜かれるようになっている。ここで、この皮革12及び含浸紙13の裁断について個別具体的に説明すれば、まず、皮革12の裁断については、図2に示すように、背中から半分に裁断されて厚さ1.1mmに漉き加工された皮革12を前記クリッカーのテーブルに据え、傷のある部位を避けつつ月形芯11として使用可能な部位を見極めながら抜き型21を矢印の方向へと押し込むことによって1枚ずつ打ち抜き加工する。そして、この打ち抜かれた皮革12は、肩や腹など、部位によって相互に品質が異なることから、打ち抜いた皮革12を同じ品質のものに仕分けする。一方、含浸紙13の裁断については、図3に示すように、厚さ1.1mmの所定の大きさに規格化された原紙に前記樹脂を含浸した含浸紙13を5枚重ねて角を揃えた後に、その一角をホチキス22等で固定し、これに皮革12の場合と同様に抜き型21を矢印の方向へと押し込むことにより、所定の間隔毎に5枚ずつ打ち抜き加工する。このように、皮革12の裁断においては、1回の裁断につき1枚の皮革12が得られるのに対して、含浸紙13の裁断においては、1回の裁断につき5枚の含浸紙13が得られると共に、前記皮革12の裁断のように適当な部位の見極めや同じ品質のものに仕分けする作業等を行う必要がないことから、皮革12の裁断と比較して少なくとも5倍以上の効率で裁断を行うことができる。
【0056】
続いて、第2工程である貼り合わせ工程S2では、前記裁断した含浸紙13を1枚ずつ取り、これをグラビアコーターと称される塗工機にかけることにより、含浸紙13の皮革12との接合面である外側面13aに接着剤14を塗布する。そして、図4に示すように、この接着剤14が塗布された含浸紙13の上に前記同じ大きさに裁断された皮革12を載置することによって両者12,13を貼り合わせる。かかる作業を繰り返して、含浸紙13に皮革12を重合してなる月形芯11を所定の枚数だけ重ねた後、これらをプレス機にかけて約1t/cm2の荷重をもって接着剤14が乾燥するまで加圧することにより、各月形芯11について皮革12と含浸紙13とを圧着させる。
【0057】
次に、第3工程である漉き工程S3では、まず、前記接着工程で皮革12と含浸紙13とが貼り合わされてなる月形芯11を、バンドナイフと称される帯状の刃物を備えた後記の漉き機(スライサ)にかけることにより、図19に示すように、その中央部11aに含浸紙13が残るようにして、当該含浸紙13側の面に係る周縁部11bについて漉き加工を行うが、この際に、当該月形芯11の周縁部11bを長手方向の一端部15及び他端部16と長手方向の一側部17及び他側部18とからなる4つの領域に分け、これらの領域をそれぞれ別々に、当該月形芯11の周縁部11bを4回に分けて漉き加工する。すなわち、第1漉き加工として、当該月形芯11の長手方向一端部15を漉き加工することにより当該一端部15に第1スライス部15bを形成した後、第2漉き加工として、その反対側となる他端部16を漉き加工することにより当該他端部16に第2スライス部16bを形成し、その後、第3漉き加工として、さらに当該月形芯11の上側部である長手方向一側部17を漉き加工することにより当該一側部17に第3スライス部17bを形成した後に、第4漉き加工として、その反対側であって当該月形芯11の下側部である長手方向他側部18を漉き加工することにより当該他側部18に第4スライス部18bを形成する。
【0058】
このように、前記月形芯11の周縁部11bを長手方向各端部15,16と長手方向各側部17,18とからなる4つの領域に分けて別々に漉き加工することで、当該月形芯11には、図19、図20に示すように、長手方向各端部15,16における第1、第2スライス部15b,16bと、長手方向各側部17,18における第3、第4スライス部17b,18bと、が交差することにより、その中央部11aに、ほぼ台形状をなす当該月形芯11の4つの隅部である外隅部11cに対応する内隅部11dが形成されると共に、該各内隅部11dから前記各外隅部11cへ向かって連続する稜線である尾根部11eが形成されることとなる。そうすると、こうして漉き加工された月形芯11は、前記各内隅部11d及びこれに連続する尾根部11eが形成されることでいわゆる腰のあるものとなり、所望の剛性が確保されるようになっている。つまり、前記各内隅部11dとこれに連続する尾根部11eがいわゆる補強リブとしての役割を果たすことで、漉き加工後の月形芯11においてその剛性が確保され、これによって腰のある復元性に優れた月形芯11を得ることができる。
【0059】
なお、前記各漉き加工を行うに際し、第1、第2漉き加工においては、第3、第4漉き加工に対して漉き幅が比較的大きいことから、バンドナイフを備えた比較的大型の第1スライサ30を使用する一方で(図5参照)、第3、第4漉き加工においては、第3、第4漉き加工に対して漉き幅が比較的小さいことから、バンドナイフを備えた比較的小型のコバ漉き機と称される第2スライサ60を使用する(図14参照)。なお、これら両設備の構成については、後に詳細に説明する。
【0060】
最後に、第4工程である曲付け工程S4では、図19に示すような前記漉き加工を終えた月形芯11を、図外の所定の成形機にセットされた一対の雄型と雌型との間に挟み込み、この成形機によって約1t/cm2の荷重をもって加圧することにより、当該漉き加工が完了したものを図22に示すような湾曲状態となるように曲付け加工(成形)し、これによって月形芯11が完成する。
【0061】
そして、この製品化された月形芯11は、その後、製靴工場にて、水に浸漬されて所定時間おかれた後に、つまり前記硬化作業後に、靴底1eが未装着のいわゆるアッパー1aに挿入され、該アッパー1aの表革2及び裏革3と月形芯11との間に所定の接着剤が塗布されることで、当該接着剤を介して表革2及び裏革3に接着固定されることとなる(図23参照)。ここで、本実施形態に係る前記月形芯11によれば、含浸紙13の厚さ分だけ皮革12の厚さを薄くすることが可能となり、この皮革12の厚さが薄くなった分だけ、製靴工場にて当該月形芯11を水に浸漬した後の乾燥に要する時間、つまり当該月形芯11の硬化作業時間の短縮が図れる。これにより、1つの靴の製造に係る靴型の占有時間を短縮することが可能となり、靴の生産性の向上に供されることとなる。さらに、皮革12に含浸紙13を貼り合わせる構造としたことから、前記月形芯11の乾燥時には皮革12が含浸紙13に引っ張られることとなるため、皮革12が大きく縮んでしまうおそれもない。換言すれば、前記月形芯11の乾燥の際における皮革12の縮み具合のばらつきを低減することが可能となり、この結果、当該月形芯11の製品毎の品質をほぼ均一にすることも可能となる。
【0062】
以下、前記月形芯11の漉き加工に使用する第1、第2スライサ30,60について、図5〜図18に基づいて説明する。
【0063】
まず、本発明に係る月形芯の製造装置である第1スライサ30について説明すれば、この第1スライサ30は、図5〜図7に示すように、横断面ほぼ楕円状となるような環状に形成されると共に、少なくとも幅方向一端部に長手方向へ連続する刃部31aを有し、図外の電動機の駆動力に基づき作業台35上を水平移動するバンドナイフ31と、該バンドナイフ31の刃部31aと平行に、かつ、このバンドナイフ31の刃部31aの直下に回転自在に設けられ、図外の電動機の駆動力に基づいて回転駆動される駆動ローラ32と、該駆動ローラ32の上方に所定の隙間C1を介して対向配置され、この駆動ローラ32の回転に伴いこの駆動ローラ32と反対方向へ回転することで当該駆動ローラ32と協働して月形芯11をバンドナイフ31の刃部31aに押し付けながら送り出す従動ローラ33と、作業台35上に設けられ、従動ローラ33の傾きθ1を変更することによって月形芯11の周縁部11bにおける第1、第2スライス部15b,16bの各漉き幅W1,W2(図19参照)を調整する漉き幅調整手段34と、を備えている。
【0064】
前記バンドナイフ31は、図5、図6に示すように、作業台35の下に設けられるハウジング36の両側に配置されたサイドハウジング37a,37b内に回転自在に収容される2つのプーリ38a,38bに円弧状の両端部が巻回され、このプーリ38a,38bが前記電動機によって回転駆動されることで、前記円弧状の両端部間に対向して設けられる水平部31b,31bの一方が、作業台35の表面に沿うようにして図5のX軸方向へ連続的に移動するようになっている。そして、このバンドナイフ31には、その幅方向における図5のY軸方向手前側端部の全周に亘って刃部31aが設けられていて、月形芯11が前記両ローラ32,33により送り出されることで、刃部31aと対向する含浸紙13側の面における長手方向両端部15,16に、前記第1、第2スライス部15b,16bを形成するようになっている。
【0065】
前記駆動ローラ32は、図5〜図7に示すように、図5のY軸方向においてバンドナイフ31の刃部31aよりも手前側に、作業台35のほぼ中央に貫通形成された窓部35aを介して図5のZ軸方向において従動ローラ33と対向するように、かつ、バンドナイフ31の水平部31bとほぼ平行となるように配置されている。そして、この駆動ローラ32の外周面には、例えばゴム材料を貼り付けるなどして構成される図外の滑り止め手段が設けられていて、この滑り止め手段により月形芯11をバンドナイフ31側へより確実に送り出せるようになっている。
【0066】
前記従動ローラ33は、ほぼ均一の外径を有する中空円筒状をなし、作業台35上に配設される後記のローラ支持機構38によって回転自在に支持されており、図8〜図10に示すように、前記ローラ支持機構38を構成する後記のローラ支持部材40の傾きが変更されることによって、その傾きθ1が変更されるようになっている。ここで、この傾きθ1とは、図10に示すように、バンドナイフ31の水平部31bに平行な水平線Mに対する従動ローラ33の軸心Pの傾きを表している。そして、この従動ローラ33と駆動ローラ32の前記隙間C1は従動ローラ33の傾きθ1によって変化し、当該隙間C1のうち月形芯11の基本厚さ幅(2.2mm)より小さくなる範囲が前記各スライス部15b,16bの漉き幅W1,W2に相当し(図19参照)、当該範囲における隙間C1が漉き加工後の月形芯11の厚さ幅に設定される。このように、前記従動ローラ33は、前記各漉き幅W1,W2に相当する範囲において月形芯11を駆動ローラ32に押し付けることによって、この駆動ローラ32と協働して月形芯11をバンドナイフ31側へと送り出し、前記範囲において月形芯11をバンドナイフ31の刃部31aに押し付けることで、当該範囲において漉き加工が行われるようになっている。
【0067】
前記漉き幅調整手段34は、図5、図6に示すように、作業台35における図5のX軸方向の両端部に載置固定された一対のベース部材39,40に跨るように配置され、該両ベース部材39,40により支持されるローラ支持部材41を介して従動ローラ33を回転自在に支持するローラ支持機構38と、該ローラ支持機構38に連係される後記の一対の調整ロッド47,50を介して従動ローラ33の傾きθ1を変更する一対のローラ傾斜可変機構42と、を備えている。なお、前記一対のローラ傾斜可変機構42は、図5に示すように、対をなして構成され、ローラ支持部材41の長手方向一端部を図5のZ軸方向に沿って上下移動させる第1ローラ傾斜可変機構43と、ローラ支持部材41の他端部を上下移動させる第2ローラ傾斜可変機構44と、から構成されている。
【0068】
前記一対のベース部材39,40を構成する図5中の左側に配置された第1ベース部材39と同図中の右側に配置された第2ベース部材40とは左右対称に構成されていることから、以下では、便宜上、第1ベース部材39についてのみ説明する。すなわち、この第1ベース部材39は、図5〜図7に示すように、作業台35上に固定される台座部上に同図のZ軸方向へ向かって延設された逆さL字形状の支持部39aと、該支持部39aの端面に取り付けられる板状のカバー部材39bと、によって収容溝45を構成し、該収容溝45の溝底部に相当する天蓋部39cに固定される図外のばね部材によってローラ支持部材41の一端部41aを弾性的に支持している。
【0069】
前記ローラ支持部材41は、図5、図7に示すように、その各端部41a,41bに固定されて下方へと延出する第1、第2ブラケット46a,46bを介して従動ローラ33の軸方向各端部を回転自在に支持している。また、このローラ支持部材41には、前記各端部41a,41bの上面に、後記の各調整ブロック48,51の水平下面48b,51bに常時当接する平坦状の一端側水平面41c及び他端側水平面41dが形成されている。さらに、当該ローラ支持部材41の長手方向中間部には、円環状をなす一対のロッド支持部41e,41fが一体形成されており、該各ロッド支持部41e,41fにより後記の各調整ロッド47,50が回転自在に支持されるようになっている。
【0070】
前記第1ローラ傾斜可変機構43は、前記ローラ支持部材41の第1ロッド支持部41eを介して該ローラ支持部材41とほぼ平行となるように回転自在に配置された第1調整ロッド47と、該第1調整ロッドに連係され、この第1調整ロッド47の軸方向へ沿って進退移動可能に設けられた第1調整ブロック48と、該第1調整ブロック48と第1ベース部材39の天蓋部39cの内側面との間に介装され、回動することにより前記第1調整ブロック48の傾きを変更する第1回動ブロック49と、から主として構成されている。
【0071】
前記第1調整ロッド47は、その一端部に当該ロッド47を回転させるためのダイヤル部47aが設けられており、該ダイヤル部47aの外周面にはローレット加工等が施されて、滑りにくく回転させ易い構成となっている。そして、このダイヤル部47aは後記の第2調整ロッド50のダイヤル部50aと突き合わせ状態に設けられていて、当該両調整ロッド47,50同士がほぼ同軸状に配置されている。また、この第1調整ロッド47の他端側には雄ねじ部47bが設けられており、該雄ねじ部47bを介して第1調整ブロック48と連係するようになっている。
【0072】
前記第1調整ブロック48は、前記ローラ支持部材41と第1回動ブロック49との間に介装され、両者41,49に対し摺動可能となるように構成されている。具体的には、この第1調整ブロック48は、第1回動ブロック49と対向する上面が右下がりに傾斜するテーパ上面48aとして構成されていると共に、ローラ支持部材41の一端側水平面41cと対向する下面が平坦状の水平下面48bとして構成されている。そして、この第1調整ブロック48の内側面には、第1調整ロッド47の雄ねじ部47bに螺着可能な雌ねじ部48cが設けられていて、当該第1調整ブロック48は、第1調整ロッド47を回転させることで、該第1調整ロッド47の軸方向へ沿って図5のX軸方向へと移動するようになっている。すなわち、第1調整ロッド47を回転させることに伴い、第1調整ブロック48が図7中の右方向へと進出した場合は、当該第1調整ブロック48はその進出量に応じて同図中の上方へと前記テーパ上面48aの傾斜角θxに応じた変化量の分だけ上昇することとなる一方、第1調整ブロック48が同図中の左方向へと後退した場合には、当該第1調整ブロック48はその後退量に応じて同図中の下方へと前記テーパ上面48aの傾斜角θxに応じた変化量の分だけ下降することとなる。
【0073】
前記第1回動ブロック49は、ほぼ半月形状に形成されていて、その円弧部49aが第1ベース部材39の天蓋部39cの内側面に切欠形成された円弧溝39d内において摺動可能となっていると共に、当該円弧部49aの反対側に有する平坦面49bが第1調整ブロック48のテーパ上面48aにおいて摺動可能となっている。そして、かかる第1回動ブロック49は、第1ベース部材39によって回動自在に支持されており、第1調整ブロック48及びその反対側に配設される第2傾斜可変機構44の後記の第2調整ブロック51の移動に伴い後記の第2回動ブロック52に連係して回動することで、前記各調整ブロック48,51を傾斜させ、これによって、当該各調整ブロック48,51を介して連係するローラ支持部材41の傾斜を可能にしている。
【0074】
一方、前記第2傾斜可変機構44は、前記第1傾斜可変機構43に対し対称となるように構成されており、当該第1傾斜可変機構43と同様、図5、図8に示すように、前記ローラ支持部材41の第2ロッド支持部41fを介して該ローラ支持部材41とほぼ平行な状態で回転自在に配置された第2調整ロッド50と、該第2調整ロッド50に連係され、この第2調整ロッド50の軸方向へ沿って進退移動可能に設けられた第2調整ブロック51と、該第2調整ブロック51と第2ベース部材40の天蓋部40cの内側面との間に介装されて、回動することにより前記第2調整ブロック51の傾きを変更する第1回動ブロック52と、から主として構成されている。
【0075】
前記第2調整ロッド50は、その一端部に設けられた大径のダイヤル部50aを前記第1調整ロッド47のダイヤル部47aに突き合わせるようにして、該第1調整ロッド47に対してほぼ同軸となるように配設されている。そして、その他端側には雄ねじ部50bが設けられていて、該雄ねじ部50bを介して第2調整ブロック50と連係するようになっている。
【0076】
前記第2調整ブロック51は、前記ローラ支持部材41と第2回動ブロック52との間に介装され、第2回動ブロック52と対向する上面が左下がりに傾斜するテーパ上面52aとして構成されていると共に、ローラ支持部材41の他端側水平面41dと対向する下面が平坦状の水平下面52bとして構成されている。そして、この第2調整ブロック52の内側面には、第2調整ロッド50の雄ねじ部50bに螺着可能な雌ねじ部52cが設けられていて、当該第2調整ブロック51は、第1調整ブロック48と同様、第2調整ロッド50を回転させることで、該第2調整ロッド50の軸方向へ沿って図5のX軸方向へと移動するようになっている。
【0077】
前記第2回動ブロック52は、ほぼ半月形状に形成され、その円弧部52aが第2ベース部材40の天蓋部40cの内側面に切欠形成された円弧溝40d内において摺動可能となっていると共に、当該円弧部50aの反対側に有する平坦面50bが第2調整ブロック51のテーパ上面51aにおいて摺動可能に可能となっている。そして、かかる第2回動ブロック52は、第2ベース部材40により回動自在に支持されており、前記各調整ブロック48,51の移動に伴い第1回動ブロック48と連係して回動することで、前記各調整ブロック48,51を傾斜させ、これによって、ローラ支持部材41を傾斜可能にしている。
【0078】
以上のように構成された第1スライサ30を用いて行う月形芯11の周縁部11bにおける長手方向の一端部15及び他端部16の各領域に係る漉き加工の具体的な手順(方法)につき、図5〜図13に基づいて説明する。
【0079】
前記月形芯11の長手方向一端部15の領域について漉き加工を行う場合には、まず、第1調整ロッド47を時計方向に回転させることによって第1調整ブロック48を右方向へ進出移動させると共に、第2調整ロッド50を反時計方向に回転させることによって第2調整ブロック51を右方向へと後退移動させることで、ローラ支持部材41を図10に示すような左下がり傾斜としつつ、その傾きを調整することにより従動ローラ33の傾きθ1を調整し(図9参照)、その月形芯11の要する漉き幅、つまり第1スライス部15bの漉き幅W1を設定する(図19参照)。
【0080】
その後、前記月形芯11を、含浸紙13側の面を下にした状態で作業台35の投入スペース35aに載置し、図12に示すように、長手方向一端部15の辺15aを作業台35において図中左側に配設された第1ガイド53に突き当てた状態で、当該第1ガイド53に沿って月形芯11を前記各ローラ32,33の位置まで押し出す。すると、この月形芯11は、前記両ローラ32,33により引き込まれるようにしてバンドナイフ31側へと送り出され、この際に、従動ローラ33の一端部33aによってその一端部15がバンドナイフ31の刃部31aに押し付けられた状態で前記両ローラ32,33によって送り出されることで、当該月形芯11の一端部15に前記設定した漉き幅W1に応じた第1スライス部15bが形成されて、作業台35後方の排出スペース35bへと排出されることとなる。
【0081】
一方、月形芯11の長手方向他端部16の領域について漉き加工を行う場合には、まず、第1調整ロッド47を反時計方向に回転させることによって第1調整ブロック48を左方向へと後退移動させると共に、第2調整ロッド50を時計方向に回転させることによって第2調整ブロック51を左方向へ進出移動させることで、ローラ支持部材41を図11に示すような右下がり傾斜としつつ、その傾きを調整することによって従動ローラ33の傾きθ1を調整し(図9参照)、その月形芯11の要する漉き幅、つまり第2スライス部16bの漉き幅W2を設定する(図19参照)。
【0082】
その後、前記月形芯11を、含浸紙13側の面を下にした状態で作業台35の投入スペース35aに載置し、図13に示すように、長手方向他端部16の辺16aを作業台35において図中右側に配設された第2ガイド54に突き当てた状態でこれに沿って投入する。すると、この月形芯11は、従動ローラ33の他端部33bによってその他端部16がバンドナイフ31の刃部31aに押し付けられた状態で前記両ローラ32,33によって送り出されることから、当該月形芯11の他端部16に前記設定した漉き幅W2に応じた第2スライス部16bが形成されて、作業台35後方の排出スペース35bに排出されることとなる。
【0083】
次に、前記第2スライサ60について説明すれば、この第2スライサ60は、図14〜図18に示すように、少なくとも幅方向一端部(投入側端部)に長手方向へ連続する刃部61aを有すると共に、図外の電動機の駆動力に基づいて回転するほぼ環状のバンドナイフ61と、該バンドナイフ61の刃部61aに対し接線状に、かつ、このバンドナイフ61の刃部61aの直上に回転自在に設けられ、月形芯11を押し進めることに伴い回転することで当該月形芯11をバンドナイフ61の刃部61aに押し付けながら送り出す従動ローラ62と、該従動ローラ62の傾きθ2を変更することによって月形芯11の周縁部11bにおける前記第3、第4スライス部17b,18bの各漉き幅W3,W4を調整する漉き幅調整手段63と、を備えている。
【0084】
前記バンドナイフ61は、ハウジング64の内部に収容された図外のプーリを介して前記電動機によって回転駆動されることで、長手方向へ連続的に移動するようになっている。そして、このバンドナイフ61にも、その幅方向における図14のX軸方向手前側端部の全周に亘って刃部61aが設けられていて、図17、図18に示すように月形芯11を図14のX軸方向に沿って移動させることで、刃部61aと対向する含浸紙13側の面における長手方向両側部17,18に、前記第3、第4スライス部17b,18bを形成するようになっている。
【0085】
前記従動ローラ62は、軸方向中間部が括れた異径筒状をなし、ハウジング64の上方となる図14のZ軸方向へ逆さ凹字形状に延設されたアーム65の先端部に設けられたローラ支持機構66によって回転自在に支持されており、前記ローラ支持機構66を構成する後記のローラ支持部材67の傾きが変更されることによって、その傾きθ2が変更されるようになっている。ここで、この傾きθ2とは、図16に示すように、ハウジング64の水平上面64aと平行なバンドナイフ61の接線Nに対する従動ローラ62の軸心Qの傾きを表している。そして、この従動ローラ62とバンドナイフ61との間の隙間C2は従動ローラ62の傾きθ2によって変化し、当該隙間C2のうち月形芯11の前記基本厚さ幅よりも小さくなる範囲が前記各スライス部17b,18bに相当し、当該範囲における隙間C2が漉き加工後の月形芯11の厚さ幅に設定される。すなわち、この従動ローラ62は、前記各漉き幅W3,W4に相当する範囲において月形芯11をバンドナイフ61の刃部61aに押し付けることで、当該範囲において漉き加工が行われるようになっている。
【0086】
前記漉き幅調整手段63は、図14、図15に示すように、アーム65の先端部において回動自在に設けられたローラ支持部材67を介して従動ローラ62を回転自在に支持するローラ支持機構66と、該ローラ支持機構66に連係される後記の調整ロッド70を介して従動ローラ62の傾きθ2を変更するローラ傾斜可変機構68と、を備えている。
【0087】
前記ローラ支持部材67は、逆さ凹字形状に形成された支持部67aの対向する両先端部によって従動ローラ62の軸方向両端部を支持するように構成され、支持部67aに貫装された後記のピン部材69を介してアーム65の先端部に回動自在に支持されている。
【0088】
前記ローラ傾斜可変機構68は、ローラ支持部材67の支持部67aにおける長手方向一端部の角部に貫装されたピン部材69と、支持部67aの長手方向一端部から図15のZ軸方向に向かって延設された腕部67bと、アーム65の先端部側に図15のY軸方向に沿って螺着され、その先端によって腕部67bの一側面を図15のY軸負方向へ押圧することで該腕部67bを介してローラ支持部材67の傾きを変更する調整ロッド70と、アーム65の先端部側に前記腕部67bの他側面に弾接するように配設され、調整ロッド70の先端側となる図15のY軸正方向へ腕部67bを押圧する板ばね部材71と、から主として構成されていて、調整ロッド70を回転させて当該調整ロッド70の先端側の突出量Lを調整することで腕部67bの回転方向位置が変更されて、これによって、ローラ支持部材67を介して従動ローラ62の傾きθ2の変更が可能となっている。
【0089】
以上のように構成された第2スライサ60を用いて行う月形芯11の周縁部11bにおける長手方向の一側部17及び他側部18の各領域に係る漉き加工の具体的な手順(方法)につき、図17、図18に基づいて説明する。
【0090】
前記月形芯11の長手方向一側部17の領域について漉き加工を行う場合には、まず、前記調整ロッド70を回転させて先端側の突出量Lを調整することによって従動ローラ62の傾きθ2を調整し(図16参照)、その月形芯11の要する第3スライス部17bの漉き幅W3を設定する(図19参照)。
【0091】
その後、前記月形芯11を、含浸紙13側の面を下にした状態で、図17に示すように、長手方向一側部17の辺17aをハウジング64の水平上面64aに配設されたガイド72に沿わせて押し進める。すると、この月形芯11は、従動ローラ62が回転することにより、当該従動ローラ62の一端部62aによってその一側部17がバンドナイフ61の刃部61aに押し付けられた状態で送り出されて、当該月形芯11の一側部17全体に前記設定した漉き幅W3に応じた第3スライス部17bが形成されることとなる。
【0092】
月形芯11の長手方向他側部18の領域について漉き加工を行う場合にも、前記一側部17側の漉き加工と同様に、前記調整ロッド70を回転させて先端側の突出量Lを調整することにより従動ローラ62の傾きθ2を調整し(図16参照)、その月形芯11の要する第4スライス部18bの漉き幅W4を設定する(図19参照)。
【0093】
その後、前記月形芯11を、含浸紙13側の面を下にした状態で、図18に示すように、長手方向他側部18の辺18aを前記ガイド72に沿わせて押し進める。すると、この月形芯11は、従動ローラ62が回転することで、当該従動ローラ62の一端部62aによってその他側部18がバンドナイフ61の刃部61aに押し付けられた状態で送り出され、当該月形芯11の他側部18全体に前記設定した漉き幅W4に応じた第4スライス部18bが形成されることとなる。
【0094】
このように、前記各スライサ30,60を用いることで、月形芯11の周縁部11bにつき、前記各スライス部15b〜18bをそれぞれ別々に漉き加工することができるため、前記各内隅部11dとこれに連続する尾根部11eを形成することが可能となり、漉き加工後の月形芯11の剛性及び復元性を確保することに供される。
【0095】
特に、前記月形芯11の両端部15,16を漉き加工する場合は、第2スライサ60のような小型のスライサであるコバ漉き機では漉き幅が不足してしまうことから、第1スライサ30のような比較的大型のスライサを用いなければならないところ、当該大型のスライサは、前述のようにモールド型を用いて周縁部11b全周を1度に加工するように構成されているため、前記各スライス部15b〜18bについて別々に漉き加工することができない。しかしながら、本実施形態に係る前記第1スライサ30によれば、漉き幅調整機構34において、前記一対の傾斜可変機構43,44をそれぞれ独立に作動可能に構成し、ローラ支持部材41の傾斜を可能としたことで、月形芯11の前記両端部15,16を別々に漉き加工することに供されることとなる。
【0096】
なお、第1スライサ30のような大型のスライサを用いて月形芯11の前記両端部15,16の漉き加工を行うにあたり、第2スライサ60で用いている従動ローラ62のような軸方向中間部が括れたローラを使用することで、前記両端部15,16を別々に漉き加工することは可能となるが、この場合には、前記各スライス部15b,16bの漉き幅W1,W2に応じたローラが必要となるため、生産管理が煩雑になると共に、製造コストも増大してしまう。ところが、本実施形態に係る前記第1スライサ30によれば、従動ローラ33を傾斜させる構造として、当該従動ローラ33の傾きθ1によって前記各スライス部15b,16bの漉き幅W1,W2を設定するようになっているため、当該軸方向にほぼ均一の外径を有する従動ローラ33のみによってあらゆる漉き幅に係る漉き加工を行うことができる。すなわち、本実施形態に係る第1スライサ30によれば、漉き幅に応じた従動ローラを当該漉き幅の分の分だけ用意する必要がないことから、生産管理が容易になると共に、製造コストの低廉化にも供されることとなる。
【0097】
しかも、かかる第1スライサ30によれば、前記各調整ロッド47,50を回転させるのみで従動ローラ33の傾きθ1を変更することができるため、前記各スライス部15b,16bの漉き幅W1,W2の調整作業を極力容易に行うことが可能となり、当該調整作業工数の低減化に供される。これにより、月形芯11に係る製造コストのさらなる低廉化に寄与することができる。
【0098】
以上のように、本実施形態によれば、前記第1、第2スライサ30,60を用いることで本実施形態に係る漉き加工、すなわち前記各スライス部15b〜18bについて別々に漉き加工を行うことが可能となり、これによって、月形芯11の内側面に、前記各内隅部11dとこれに連続する尾根部11eを形成することが可能となる。この結果、漉き加工後の月形芯11について腰をもたせることが可能となり、当該漉き加工後の月形芯11において、充分な剛性と復元性を確保することができる。
【0099】
図24は、前記第1実施形態に係る月形芯11の変形例を示している。なお、本変形例に係る月形芯81についても、基本的な構成は前記第1実施形態に係る月形芯11と同様であるため、以下、説明の便宜上、前記第1実施形態に係る月形芯11と同じ構成については同一の符号を付してその説明を省略し、前記第1実施形態に係る月形芯11と異なる点についてのみ説明する。
【0100】
すなわち、本変形例に係る月形芯81は、前記実施形態に係る月形芯11の表裏両面に予め熱硬化性の接着剤82,82が塗布され、かつ、乾燥されたものであって、前記接着剤82,82を介して製靴工場においてアッパー1aに接着される、製靴工場における接着剤塗布作業を不要とするものである。
【0101】
そして、本実施形態に係る月形芯81を製造するにあたっては、前記第1〜第4工程を経て得られた前記第1実施形態に係る月形芯11に対し、第5工程である接着剤塗布工程において、その表裏両面に接着剤82,82を塗布した後、これを乾燥させることにより、当該月形芯81の製造が完了する。なお、この製品化された月形芯81は、その後、製靴工場において、前記アッパー1aの表革2と裏革3との間に挿入され、当該アッパー1aが足形状の金型に被嵌されて約70〜90℃の温度によって加熱及び加圧されることにより、前記接着剤82,82を介して前記両革2,3に接着固定される。
【0102】
このように、本実施形態に係る前記月形芯81によれば、金型を用いて加熱及び加圧することにより成形されることから、前記第1実施形態に係る月形芯11のように、水に浸漬した後に靴型に当てて乾燥させる、といった煩わしい前記硬化作業を行う必要がない。このため、当該月形芯81の場合には、前記第1実施形態に係る月形芯11と比べて、さらに短時間で製靴作業を行うことができる。すなわち、靴型の使用効率を大幅に向上させることが可能となり、靴の生産性のさらなる向上に供される。
【0103】
また、従来では、後工程である製靴工場にて手作業で接着剤を塗布することにより前記アッパー1aとの接着を行っていたが、本変形例に係る月形芯81の場合には、接着剤82,82が予め塗布されているため、当該月形芯81をアッパー1aの表革2と裏革3との間に挿入してそのまま加熱成形機にかけて加熱及び加圧するのみでアッパー1aとの接着を行うことができる。すなわち、本変形例に係る月形芯81によれば、製靴工程における従来の手作業が機械化されることとなり、靴の生産性のより一層の向上に供されるといったメリットもある。
【0104】
図25、図26は、本発明に係る月形芯の第2実施形態を示しており、前記第1実施形態に係る月形芯11の形状を変更したものである。なお、本実施形態についても、基本的な構成は前記第1実施形態と同様であるため、説明の便宜上、前記第1実施形態と同じ構成については同一の符号を付してその説明を省略し、前記第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。
【0105】
すなわち、本実施形態に係る月形芯111は、アッパー1aに装着された状態で、靴1の外側(外方)に配置される長手方向他端側16は、前記第1実施形態に係る月形芯11と同様に、踵1b近傍のみを包囲する程度に比較的短く設定されているのに対して、靴1の内側(内方)に配置される長手方向一端側15は、踵1bから土踏まず1cよりも爪先1d側まで延出するように比較的長く設定されていて、当該長手方向一端側15が、前記他端側16よりも長くなるように構成されている。かかる構成から、足の内側については、踵1bの近傍のみならず、踵1bから土踏まず1cよりも爪先1d側までが月形芯111によって包囲されるようになっている。
【0106】
このようにして構成された本実施形態に係る月形芯111によれば、靴1の外側に配置される長手方向他端側16と比較してより大きな面積をもって足と対向可能な靴1の内側に配置される長手方向一端側15を、前記他端側16よりも長く延出するように形成したことで、靴内において、足の移動をより効果的に制限することが可能となる。この結果、当該靴内での足の移動によって起こる足の疲労を一層効果的に軽減することができる。
【0107】
また、本実施形態のように、長手方向一端側15をより長く延出するように形成するにあたり、前記第1実施形態に係る月形芯11以上に高い剛性が必要となるため、前記従来のモールド型による漉き加工によっては当該実施形態に係る月形芯111の充分な剛性を確保することが困難であるが、前記第1実施形態に係る第1、第2スライサ30,60をもって、周縁部11bにつき、前記各スライス部15b〜18bに分けてそれぞれ別々に漉き加工することにより、当該実施形態に係る月形芯111においても充分な剛性を確保することが可能となり、靴内における足の移動の適切な規制に供される。
【0108】
図27、図28は、本発明に係る月形芯の第3実施形態を示しており、前記第2実施形態に係る月形芯111の形状を変更したものである。なお、本実施形態に係る月形芯211ついても、基本的な構成は前記第2実施形態に係る月形芯111と同様であるため、以下、説明の便宜上、前記第2実施形態に係る月形芯111と同じ構成については同一の符号を付してその説明を省略し、前記第2実施形態に係る月形芯111と異なる点についてのみ説明する。
【0109】
すなわち、本実施形態に係る月形芯211は、アッパー1aに装着された状態で、靴1の内側に配置される長手方向一端側15は、前記第2実施形態に係る月形芯111と同様に、踵1bから土踏まず1cよりも爪先1d側まで延出するように構成されている一方、靴1の外側に配置される前記長手方向他端側16も、前記一端側15とほぼ同じ長さ又は当該一端側15よりも1〜2cm程度短くなるように、比較的長く延出するように構成されている。換言すれば、当該月形芯211により、靴1を履いたときに、足の内側は、前記一端側15によって踵1bから土踏まず1cよりも爪先1d側までが包囲され、外側は、前記他端側16により踵1bから土踏まず1cに対応する位置近傍までが包囲されるようになっている。
【0110】
このようにして構成された本実施形態に係る月形芯211によれば、足の内側面のみならず、足の外側面に対しても、踵1bから土踏まず1cに対応する位置近傍までを包囲するようにしたことにより、前記第2実施形態に係る月形芯111と比べ、靴内における足の移動をさらに制限することが可能となっている。一方、当該月形芯211の長手方向他端側16の延出を踵1bから土踏まず1cに対応する位置近傍までに留めたことにより、靴1の剛性が必要以上に高まることによる履き心地の悪化を招来してしまうおそれもない。換言すれば、当該月形芯211によれば、靴1の剛性が高くなり過ぎない限度において、靴内における足の移動を最大限に規制することが可能となる。この結果、当該靴内における足の移動によって起こる足の疲労を最小限に抑えることができる。
【0111】
また、本実施形態のように、長手方向両端側15,16をより長く延出するように形成するにあたり、前記第2実施形態に係る月形芯111よりもさらに高い剛性が必要となるため、前記従来のモールド型による漉き加工によっては当該実施形態に係る月形芯211の充分な剛性を確保することができないが、前記第1実施形態に係る第1、第2スライサ30,60をもって、周縁部11bにつき、前記各スライス部15b〜18bに分けてそれぞれ別々に漉き加工することにより、当該実施形態に係る月形芯211においても充分な剛性を確保することが可能となり、靴内における足の移動の適切な規制に供される。
【0112】
本発明は前記各実施の形態の構成に限定されるものではなく、例えば本発明に係る月形芯は、紳士用革靴以外の靴に適用することも可能である。
【0113】
また、前記第1実施形態の変形例については、前記第1実施形態のみならず、前記第2実施形態あるいは前記第3実施形態のいずれの実施形態と組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0114】
11…月形芯
11b…周縁部
11d…内隅部
11e…尾根部
12…皮革(鞣し革)
13…含浸紙
15b…第1スライス部
16b…第2スライス部
17b…第3スライス部
18b…第4スライス部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ほぼ台形平板状に形成され、その一側面の周縁部がその端縁側へ向かって漸次薄肉となるような漉き加工がされる月形芯の製造方法において、
前記漉き加工の際、前記周縁部を上下左右の4つの領域に分け、該各領域についてそれぞれ別々に漉き加工を行うことを特徴とする月形芯の製造方法。
【請求項2】
木材パルプを抄造した原紙に樹脂を含浸してなる含浸紙と鞣し革とを接着剤を介して貼り合わせることによって前記月形芯を構成し、
前記含浸紙と前記鞣し革とを貼り合わせた後、前記含浸紙側の面の前記周縁部に漉き加工を施すことを特徴とする請求項1に記載の月形芯の製造方法。
【請求項3】
前記漉き加工後、前記月形芯のほぼ中央部に形成される厚肉部に、前記月形芯の各隅部に対応する隅部が残存するように前記漉き加工を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の月形芯の製造方法。
【請求項4】
前記漉き加工後、前記周縁部における前記月形芯の各隅部に対応する部分に、前記厚肉部の各隅部から前記月形芯の各隅部へ向かって延びる稜線が残存するように前記漉き加工を行うことを特徴とする請求項3に記載の月形芯の製造方法。
【請求項5】
ほぼ台形平板状に形成された月形芯の一側面における周縁部を4つの領域に分け、該各領域について別々に漉き加工することで、前記周縁部につき、その端縁側が漸次薄肉となるようなテーパ状の漉き加工を行う月形芯の製造装置であって、
ほぼ帯状に形成されると共に、少なくとも幅方向の一端部に長手方向へ連続する刃部を有し、所定の駆動力に基づき作業台上を水平移動するバンドナイフと、
前記バンドナイフの刃部と平行に、かつ、当該バンドナイフの刃部の直下に回転自在に配置され、所定の駆動力に基づいて回転駆動される駆動ローラと、
前記駆動ローラ上方に所定の隙間を介して対向配置され、前記駆動ローラの回転に伴い該駆動ローラと反対方向に回転することで、前記駆動ローラと協働して前記月形芯を前記バンドナイフの刃部に向かって送り出す従動ローラと、
前記従動ローラの傾きを変更することによって、前記周縁部の漉き幅を調整する漉き幅調整手段と、を備えたことを特徴とする月形芯の製造装置。
【請求項6】
前記漉き幅調整手段は、
前記作業台上に配設され、前記従動ローラの両端部側を回転自在に支持するローラ支持機構と、
前記ローラ支持機構に連係される一対の調整ロッドをそれぞれ独立して回転させて前記ローラ支持機構により支持される前記従動ローラの両端部側の支持高さの位置を相異させることによって当該従動ローラの傾きを変更するローラ傾度可変機構と、から構成されていることを特徴とする請求項5に記載の月形芯の製造装置。
【請求項7】
前記漉き幅調整手段は、
長手方向の両端側が前記作業台上に配設されたベース部材に弾性支持されると共に、下部に前記従動ローラを回転自在に支持するように構成されたローラ支持部材と、
前記ローラ支持部材とほぼ平行となるように軸方向の一端側を突き合わせるようにしてほぼ同軸状に設けられ、他端側に雄ねじ部が形成された一対の調整ロッドと、
前記各雄ねじ部に螺着されて前記各調整ロッドの軸方向に沿って進退移動を可能に設けられると共に、上下一側面がテーパ面によって構成され、他側面が前記ローラ支持部材の上下一側面に対し平行となる水平面によって構成された一対の調整ブロックと、
前記各調整ブロックに対し前記ローラ支持部材とは反対側に回動自在に配設されると共に、前記各調整ブロックのテーパ面と常時当接する平坦状の当接面を有し、前記各調整ブロックの進退移動に伴って回動して該各調整ブロックを傾斜させることで前記ローラ支持部材の傾斜を可能にする一対の回動ブロックと、を備え、
前記各調整ロッドを回転させることによって前記各調整ブロックを進退移動させ、該各調整ブロックの進退移動に基づき前記ローラ支持部材の傾きを変更することで、前記従動ローラの傾きを変更して前記周縁部の漉き幅を調整することを特徴とする請求項5に記載の月形芯の製造装置。
【請求項8】
踵の側部を包囲するように、靴後部における表革と裏革との間に介装され、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法を用いて製造された月形芯であって、
前記介装時において内側となる長手方向一端側が外側となる長手方向他端側よりも長く延出するように構成したことを特徴とする月形芯。
【請求項9】
踵の側部を包囲するように、靴後部における表革と裏革との間に介装され、請求項5〜7のいずれか一項に記載の製造装置を用いて製造された月形芯であって、
前記介装時において内側となる長手方向一端側が外側となる長手方向他端側よりも長く延出するように構成したことを特徴とする月形芯。
【請求項10】
前記長手方向一端側を、踵から土踏まずよりも爪先側まで延出するように構成したことを特徴とする請求項8又は9に記載の月形芯。
【請求項11】
前記長手方向他端側を、踵から土踏まずに対応する位置まで延出するように構成したことを特徴とする請求項8又は9に記載の月形芯。
【請求項12】
表裏両面にそれぞれ熱硬化性接着剤を塗布し、該接着剤を乾燥してなることを特徴とする請求項8〜11のいずれか一項に記載の月形芯。
【請求項1】
ほぼ台形平板状に形成され、その一側面の周縁部がその端縁側へ向かって漸次薄肉となるような漉き加工がされる月形芯の製造方法において、
前記漉き加工の際、前記周縁部を上下左右の4つの領域に分け、該各領域についてそれぞれ別々に漉き加工を行うことを特徴とする月形芯の製造方法。
【請求項2】
木材パルプを抄造した原紙に樹脂を含浸してなる含浸紙と鞣し革とを接着剤を介して貼り合わせることによって前記月形芯を構成し、
前記含浸紙と前記鞣し革とを貼り合わせた後、前記含浸紙側の面の前記周縁部に漉き加工を施すことを特徴とする請求項1に記載の月形芯の製造方法。
【請求項3】
前記漉き加工後、前記月形芯のほぼ中央部に形成される厚肉部に、前記月形芯の各隅部に対応する隅部が残存するように前記漉き加工を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の月形芯の製造方法。
【請求項4】
前記漉き加工後、前記周縁部における前記月形芯の各隅部に対応する部分に、前記厚肉部の各隅部から前記月形芯の各隅部へ向かって延びる稜線が残存するように前記漉き加工を行うことを特徴とする請求項3に記載の月形芯の製造方法。
【請求項5】
ほぼ台形平板状に形成された月形芯の一側面における周縁部を4つの領域に分け、該各領域について別々に漉き加工することで、前記周縁部につき、その端縁側が漸次薄肉となるようなテーパ状の漉き加工を行う月形芯の製造装置であって、
ほぼ帯状に形成されると共に、少なくとも幅方向の一端部に長手方向へ連続する刃部を有し、所定の駆動力に基づき作業台上を水平移動するバンドナイフと、
前記バンドナイフの刃部と平行に、かつ、当該バンドナイフの刃部の直下に回転自在に配置され、所定の駆動力に基づいて回転駆動される駆動ローラと、
前記駆動ローラ上方に所定の隙間を介して対向配置され、前記駆動ローラの回転に伴い該駆動ローラと反対方向に回転することで、前記駆動ローラと協働して前記月形芯を前記バンドナイフの刃部に向かって送り出す従動ローラと、
前記従動ローラの傾きを変更することによって、前記周縁部の漉き幅を調整する漉き幅調整手段と、を備えたことを特徴とする月形芯の製造装置。
【請求項6】
前記漉き幅調整手段は、
前記作業台上に配設され、前記従動ローラの両端部側を回転自在に支持するローラ支持機構と、
前記ローラ支持機構に連係される一対の調整ロッドをそれぞれ独立して回転させて前記ローラ支持機構により支持される前記従動ローラの両端部側の支持高さの位置を相異させることによって当該従動ローラの傾きを変更するローラ傾度可変機構と、から構成されていることを特徴とする請求項5に記載の月形芯の製造装置。
【請求項7】
前記漉き幅調整手段は、
長手方向の両端側が前記作業台上に配設されたベース部材に弾性支持されると共に、下部に前記従動ローラを回転自在に支持するように構成されたローラ支持部材と、
前記ローラ支持部材とほぼ平行となるように軸方向の一端側を突き合わせるようにしてほぼ同軸状に設けられ、他端側に雄ねじ部が形成された一対の調整ロッドと、
前記各雄ねじ部に螺着されて前記各調整ロッドの軸方向に沿って進退移動を可能に設けられると共に、上下一側面がテーパ面によって構成され、他側面が前記ローラ支持部材の上下一側面に対し平行となる水平面によって構成された一対の調整ブロックと、
前記各調整ブロックに対し前記ローラ支持部材とは反対側に回動自在に配設されると共に、前記各調整ブロックのテーパ面と常時当接する平坦状の当接面を有し、前記各調整ブロックの進退移動に伴って回動して該各調整ブロックを傾斜させることで前記ローラ支持部材の傾斜を可能にする一対の回動ブロックと、を備え、
前記各調整ロッドを回転させることによって前記各調整ブロックを進退移動させ、該各調整ブロックの進退移動に基づき前記ローラ支持部材の傾きを変更することで、前記従動ローラの傾きを変更して前記周縁部の漉き幅を調整することを特徴とする請求項5に記載の月形芯の製造装置。
【請求項8】
踵の側部を包囲するように、靴後部における表革と裏革との間に介装され、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法を用いて製造された月形芯であって、
前記介装時において内側となる長手方向一端側が外側となる長手方向他端側よりも長く延出するように構成したことを特徴とする月形芯。
【請求項9】
踵の側部を包囲するように、靴後部における表革と裏革との間に介装され、請求項5〜7のいずれか一項に記載の製造装置を用いて製造された月形芯であって、
前記介装時において内側となる長手方向一端側が外側となる長手方向他端側よりも長く延出するように構成したことを特徴とする月形芯。
【請求項10】
前記長手方向一端側を、踵から土踏まずよりも爪先側まで延出するように構成したことを特徴とする請求項8又は9に記載の月形芯。
【請求項11】
前記長手方向他端側を、踵から土踏まずに対応する位置まで延出するように構成したことを特徴とする請求項8又は9に記載の月形芯。
【請求項12】
表裏両面にそれぞれ熱硬化性接着剤を塗布し、該接着剤を乾燥してなることを特徴とする請求項8〜11のいずれか一項に記載の月形芯。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
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【図6】
【図7】
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【図11】
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【図13】
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【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
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【図23】
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【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【公開番号】特開2011−67306(P2011−67306A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219927(P2009−219927)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【特許番号】特許第4585604号(P4585604)
【特許公報発行日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(308023033)株式会社上沼 (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【特許番号】特許第4585604号(P4585604)
【特許公報発行日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(308023033)株式会社上沼 (4)
【Fターム(参考)】
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