説明

有機−無機ハイブリッドディスクの製造方法及びその方法に用いる構造物

【課題】 ハイドロキシアパタイトの効果的な製造方法の提供
【解決手段】 多数の開口部が設けられており、これらの開口部にヒドロゲル形成性の有機ポリマーのゲルが充填されている金属製の薄板を用意する工程、及び前記薄板を前記ゲル中にハイドロキシアパタイトが形成されるのに十分な条件下でカルシウムイオン含有液とリン酸イオン含有液に交互浸漬することによりハイドロキシアパタイトを形成する工程を含んでなる、ハイドロキシアパタイトを含有する有機−無機ハイブリッドディスクの製造方法の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロキシアパタイトを含有する有機−無機ハイブリッドディスクの製造方法、特に、量産方法に関し、また前記方法に使用するための構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
架橋ポリビニールゲルから製作した直径10mmの円形ディスクを遊離した状態で基体として用い、カルシウムイオン含有溶液とリン酸イオン含有溶液への前記基体の交互浸漬法により基体中にハイドロキシアパタイトを生成せしめる方法が公表されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、こうして生成されたハイドロキシアパタイトは、例えば、基体から基体を構成する材料(例えば、架橋ポリビニール)を高温で焼結することを介して回収されており、回収されたハイドロキシアパタイトは人工組織への応用が可能であることも記載されている。また、基体としてアガロース等の生体適合性ポリマー製のディスクを遊離した状態で用い、上記のような交互浸漬法でそのポリマーマトリックス中にハイドロキシアパタイトを生成せしめた複合材料が止血用組成物として有用であることも知られている(例えば、特許文献2参照)。この複合材料はアガロースのような多糖類を含んでいることから柔軟なゲル状にすることができ、例えば、抜歯窩中へ蜜に充填することができる。こうして抜歯窩における出血を効果的に止め、しかも、歯茎における緻密骨を再生できることも知られている。
【0003】
特許文献2に記載された複合材料は、そこに記載された方法または特許文献1に記載された方法に従い製造することができる。簡潔に述べると、ディスク状に作製したヒドロゲル状のポリマー基体それら自体を、カルシウムイオンを含み、かつ実質的にリン酸イオンを含まない第1の水溶液と、リン酸イオン含み、かつ実質的にカルシウムウオンを含まない第2の水溶液とに、交互に浸漬させて、ポリマーマトリックスの少なくとも表面にまたはマトリックス内にハイドロキシアパタイトを生成させる交互浸漬工程を、目的に応じて数回から数十回、さらに必要により数百回、数千回行うことにより、所望の粒径のハイドロキシアパタイト粒子をポリマーマトリックス中に含む有機−無機ハイブリッドである複合体を製造することができる。
【0004】
【特許文献1】国際公開第99/58447号パンフレット
【特許文献2】特開2004−81739号公報
【発明の開示】
【0005】
上記の特許文献1及び2に記載の方法も目的とする複合体を効果的に製造することができるが、可能であるなら、多量生産に適しさらに効果的な前記複合体の製造方法を提供できると産業上意味があるであろう。
【0006】
多角的に検討した結果、複合体を生成するための多糖類由来のヒドロゲルは、柔軟なゲルであるにかかわらず、前記ゲルを特定の薄板の特定の開口部に充填した状態で上記の多数回の交互浸漬法に供しても、ゲルが実質的に薄板から脱離することなく処理できることが本発明者等により見出された。さらに、特定の開口部(薄板の壁に接触したまま)でゲルを処理するにもかかわらずゲル全体にわたりほぼ均一にハイドロキシアパタイトを生成することができることも確認された。さらに、こうして生成したハイドロキシアパタイトを含有する有機−無機ハイブリッドである複合体は特許文献2に記載された複合材料と実質的に同一の特性を有していることも確認された。
【0007】
また、この方法は、ゲルが柔軟であるにもかかわらず容易に取り扱うことができる等の
理由から、特に、多糖類に都合よく用いられるが、多糖類に代え、特許文献1及び特許文献2等に記載された多糖類以外のヒドロゲル形成性有機ポリマーのゲルにも適用できる。
【0008】
したがって、本発明によれば、多数の開口部が設けられており、これらの開口部にヒドロゲル形成性の有機ポリマーのゲルが充填されている金属製の薄板を用意する工程、前記薄板を前記ゲル中にハイドロキシアパタイトが生成されるのに十分な条件下でカルシウムイオン含有液とリン酸イオン含有液に交互浸漬することによりハイドロキシアパタイトを生成する工程及びゲル中にハイドロキシアパタイトが生成されたハイドロキシアパタイトを含有する有機−無機ハイブリッドディスクを回収する工程を含んでなる、ハイドロキシアパタイトを含有する有機−無機ハイブリッドディスクの製造方法が提供される。本製造方法は、さらに、必要により、前記回収工程の前または後に乾燥工程を含んでいてもよい。
【0009】
また、本発明によれば、多数の開口部が設けられており、これらの開口部にヒドロゲル形成性の有機ポリマーのゲルが充填されているハイドロキシアパタイトを生成するための金属製の薄板構造物も提供される。
【0010】
かような製造方法及び構造物における各要素としては、下記のものが採用される。
【0011】
ヒドロゲル形成性の有機ポリマーとは、水を分散媒としてゲルを形成できる天然ポリマー、合成ポリマーを意味する。換言すれば、水を吸収して膨潤した網目状構造をとりうる有機ポリマーであり、本発明の目的に沿う、すなわち、該ポリマーが形成するゲルの分散媒である水中でハイドロキシアパタイトを形成できる有機ポリマーであれば、本発明で使用できる。このような有機ポリマーを用いて生成されたハイドロキシアパタイトを含有する有機‐無機ハイブリッドは、それらを高温で焼結してハイドロキシアパタイトを回収するのにも役立つので、有機ポリマーの生物学的な性質を問わないが、有機‐無機ハイブリッドをそのまま、特に生体に、用いる場合には、有機ポリマーは生体適合性であることが好ましい。このような有機ポリマーとしては、限定されるものではないが、アガロース、アルギン酸、プルラン、ペクチン、デンプン、α化デンプン、ヒアルロン酸、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、マンナン、キトサン、キチン、キトサン−キチン共重合体、デキストランおよびデキストラン硫酸からなる群より選ばれる1種をベースとするか、もしくは2種以上の多糖類、またはポリアスパラテート、コラーゲン、ゼラチン、ポリγ−グルタミン酸、ポリリジンおよびカゼイン等からなる群より選ばれる1種をベースとするか、もしくは2種以上のタンパク質またはポリペプチド、またはポリ乳酸、ポリグリコール酸およびポリ乳酸‐グリコール酸の共重合体からなる群より選ばれる性分解性ポリマー、またはリグニン、ポリオルチニン、ポリロタキサン、ポリエチレンサクシネート、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドンおよびポリ(ヒドロキシエチル)(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる生体適合性ポリマー、が挙げられ、これらのポリマーは、物理的(例えば、水素結合または疎水性結合を介する)または化学的(ポリマーの官能基、例えば、ヒドロキシル基を介する当該技術分野で既知の架橋剤を用いて)に架橋されていてもよい。上記において、ベースとするとは、記載されたポリマーを約60重量%以上含むことを意味し、好ましくは、約90重量%以上、または100重量%含み、その他は上記に挙げられた他の少量ポリマーを含むか、またはヒドロゲルを形成するのに悪影響を与えない上記以外のさらなるポリマーを含む化合物を含むことができることを意味する。限定されるものでないが、アガロースを例にすると、約70重量%のアガロースとその他がアガロペクチンからなる寒天も本発明にいうヒドロゲル形成性の有機ポリマーに包含される。また、アガロースについて、架橋が施されたものの例示としては、アガロースゲル顆粒(Pharmacia Biotech社)およびバイオゲル(商標)A(Bio
Rad Laboratories)等を挙げることができる。
【0012】
前記金属としては、鉄、銅、真鍮、チタン、アルミニウム、アルマイト、金、白金、銀及びステンレス鋼が挙げられる。また、前記開口部は直径5mm乃至20mmの円に相当する面積を有する形状である。開口部は、薄板の平面に対し垂直の壁を有するように設けられるのが好ましい。さらに、前記薄板の厚さは、0.6mm乃至6mm、好ましくは2mmまで、より好ましくは約1.4mmまでになるように選ばれる。
【0013】
<発明のさらなる説明>
「多数の開口部が設けられており」とは、20個以上、好ましくは60個以上の孔が存在し、理論的には上限は規定できないが、操作の容易性を考慮すると、1枚の板に2,000,000個まで、好ましくは500,000個まで、より好ましくは50,000個までの開口部を有することを意味する。これらの開口部は、該当する金属板から如何なる方法により作製されたものでもよいが、パンチングマシン(例えば、SETPRESS SP−30、アマダ社製)を用いて金属板を打ち抜く方法で作製したものがよい。作製された開口部は表面仕上げをしていてもしていなくてもよいが、開口部の表面仕上げをしないものをそのまま用いるのがよい。このように打ち抜いて作製した開口部が円形で、例えば、直径が約12mmであり、前記薄板の厚さが0.8乃至1.2mmであり(1枚の板中に127個の開口部を有する板)、かつ、金属としてアルミニウムまたはアルマイト製のものの開口部に前記ヒドロゲルを充填して上記の交互浸漬を数サイクル行う場合には、全開口部に充填されたゲルのうち数乃至十数パーセントが脱離するだけである。他方、前記薄板の金属をアルミニウムまたはアルマイトに代えステンレス鋼を用いると、交互浸漬を十数サイクル以上実施しても、開口部に充填されたゲルは全くもしくは殆ど脱離しない。ちなみに、前記薄板が強化プラスチック製等であるときは、上記の脱離の割合が高く用いることができない。したがって、取得しょうとする、ハイドロキシアパタイトを含有する有機−無機ハイブリッドディスクは、アルミニウムまたはアルマイト製の薄板を用いてもある程度効率よく製造できるが、より簡易に、経済的に、かつ、より収率よく前記ハイブリッドディスクを製造するにはステンレス鋼製であって、多数の開口部が設けられた金属製の薄板を用いるのがよい。ステンレス鋼の銘柄または特性は、本発明の目的に沿うものである限り如何なるものを用いてもよい。限定されるものでないが、オースナイト系、例えば、SUS304、SUS316、等、フェライト系、例えば、SUS430、等、マルテンサイト系、例えば、SUS410等を用いることができるが、SUS316を好ましく用いることができる。
【0014】
薄板は、平板であって、その厚さは数センチ以上であってもよいが、ハイドロキシアパタイトの生成効率を考慮すると、上述した、約0.6mm乃至約6mmになるように選ばれ、好ましくは約0.6mm乃至約2mmまで,より好ましくは約0.8mm乃至約1.4mmであることができ、薄板の全体にわたり均一であることができるが、操作上必要がある等の理由で部分的に凹凸を設けてもよい。前記の厚さが、約6mmを越える場合には前記有機−無機ハイブリッドディスクの製造効率が低下し、逆に、約0.6mm未満では交互浸漬処理中に開口部に充填されたゲルの脱離の割合が高くなる傾向がある。
【0015】
本発明にいう「開口部が直径5mm乃至20mmの円に相当する形状であり」とは、直径約約5mm乃至約20mmの円が有する面積に相当する面積を有する形状であって、本発明の目的の一つ、すなわち、効果的な前記有機−無機ハイブリッドディスクを製造できるものであるなら、円形に限定されることなく、多角形、例えば、正四乃至十数角形、または楕円形であることができることを意味する。しかし、実質的に円形であることが操作上も、ハイドロキシアパタイトを均質に生成する上でも好ましく、また、直径は約6mm乃至約18mmであるのが好ましく、約8mm乃至約16mmであるのがより好ましく、約15mmにあるのが特に好ましい。かような直径が、約20mmを越えると交互浸漬処
理中に開口部に充填されたゲルの脱離の割合が高くなる傾向があり、逆に、約5mm未満では、開口部へポリマー溶液の充填中に生じた気泡の除去が困難となり、均一な前記有機−無機ハイブリッドディスクの製造効率が低下する傾向がある。
【0016】
かような薄板の開口部へのヒドロゲルの充填は、使用するポリマーを粉末状またの水溶液といて開口部に入れた後にヒドロゲルを生成せしめるか、予めポリマーのヒドロゲルを生成した後に該ゲルを開口部へ充填してもよい。充填は、開口部の体積が、ゲルにより必ずしも100%満たされている場合のみを意味するのではなく、少なくとも70%満たされているか、他方、100%を越えて、例えば140%または120%満たされている場合も包含される概念として用いている。
【0017】
「ハイドロキシアパタイトが形成されるのに十分な条件下」とは、上記特許文献1または特許文献2に記載された条件であることができる。限定されるものでないが、カルシウムイオン含有液は、カルシウムイオンを含み、かつ、実質的にリン酸イオンを含まない水溶液であり、塩化カルシウム、酢酸カルシウム等の水溶液であることができる。一方、リン酸イオン含有液は、リン酸イオンを含み、かつ、カルシウムイオンを含まない、リン酸水素ナトリウム水溶液、リン酸二水素ナトリウムアンモニウム水溶液、またはこれらの緩衝化(例えば、トリス緩衝液を用いる)され水溶液であることができる。これらのイオンの濃度またはpH値等は、特許文献1にしたがって、選べばよい。
【0018】
本発明では、前記多数の開口部が設けられており、これらの開口部にヒドロゲル形成性の有機ポリマーのゲルが充填されている金属製の薄板が、上記のカルシウムイオン含有液とリン酸イオン含有液に交互に浸漬せしめられる。この交互浸漬の順序は、まず、カルシウムイオン含有液に前記薄板を浸漬し、次に浸漬後の薄板をリン酸イオン含有液に浸漬するか、これらの逆の順序で浸漬を行ってもよい。各浸漬処理の間に、浸漬処理済みの薄板(薄板構造物)を、浸漬後の薄板を水洗する目的で水(好ましくは脱イオン水または超純水)に浸漬し、必要があれば、薄板中のヒドロゲル上または金属表面に付着した水を拭い去るかもしくは簡易な乾燥処理をした後、次の浸漬に供する。本発明では、特に、ステンレス鋼製の薄板を用いた場合には、かような交互浸漬処理を数サイクル乃至数十サイクル、さらには数百サイクル安定に実施することができる。また、かような交互浸漬サイクルは各溶液への前記薄板の浸漬時間及び温度により最適値は変動するが、当業者であれば、特許文献1及び特許文献2を参照し、小実験を行うことで、容易に最適条件を決定することができる。交互浸漬サイクルの終了後には、必要により、前記薄板の開口部にハイドロキシアパタイトを含有する有機−無機ハイブリッドディスクが保持された状態で、または該ディスクを前記孔から採集した状態で風乾処理し、目的の製品を回収することができる。風乾は、送風口が加工された送風機により実施でき、さらに製品回収後、局方ふるい(例えば、12号(1400μm)乃至26号(600μm))を用い、軟膏ヘラ等で圧迫篩過し、または乳鉢および乳鉢棒等を用いてペースト状として、注射用シリンジ様の容器に適量(例えば、0.5g乃至1.0g)を充填し、シリコンキャップ等で密栓後、クリーンガスバリア袋ならびにラミネート袋で二重包装し、必要があれば、滅菌処理を電子線もしくは放射線(例えば、γ線)の照射により行うことができる。
【0019】
前記薄板は、図1に示されるような多数の開口部を設けた薄板であることができるが、この様な薄板の開口部に前記有機ポリマーのゲルを充填した後、浸漬すべき液を入れたバス中に浸漬するか、ゲルを充填した後の薄板を設置したバス中に前記液を入れることにより浸漬を行ってもよい。浸漬すべき液を入れたバス中に浸漬する場合、通常、ゲルを充填した後の薄板(薄板構造物)を、その平面をほぼ鉛直線に沿ってまたはその平面を浸漬すべき液面に対してほぼ薄ほぼ垂直に保持した状態で投入し、そして取り出すことが、前記開口部からゲルの脱離を避ける上で好ましい。ほぼ鉛直線またはほぼ垂直とは、鉛直線から約15°までの角度を有してもよいことを意味する。しかし、前記平面が鉛直線から最
大でも3°の勾配を有するような状態で前記浸漬を行うのがよい。かような状態での浸漬を行うには、図2に示されるような前記板を複数枚並列保持できるような手段を用い、複数枚同時に浸漬処理に供するのが便利である。かような手段も上記金属製であるか、強化樹脂複合材製であることができる。上記浸漬または水洗処理は、室温下で実施できるが、特に、良質なハイドロキシアパタイト(平均粒子径約200nm)の製造条件は、浸漬液または水洗用水の温度は5±2℃が好ましい。浸漬処理時間を短縮しょうとする場合には、用いるポリマーに応じて限定されるものではないが、50℃程度までの加温下で実施してもよい。
【0020】
以上の方法により製造される前記有機−無機ハイブリッドディスクは、例えば、特許文献2の実施例に記載された複合材料(アガロースのポリマーマトリックス中にハイドロキシアパタイト微粒子(平均粒子径約200nm)が担持された複合体に匹敵する特性を有する。
【0021】
また、前記ヒドロゲル形成性の有機ポリマーのゲルが充填されている開口部を有する金属製の薄板は、上述したように開口部に前記ポリマー水溶液またはポリマーのヒドロゲルをどのように充填して作製してもよい。しかし、かような充填は、好ましくはまたは便宜には、密封性のプラスチック製バッグ中で前記金属製の薄板と前記有機ポリマーの水溶液またはヒドロゲルを接触処理して行うのがよい。より具体的には、密封性のプラスチック製バッグ中に前記ポリマー溶液またはヒドロゲルと金属製薄板を前後して、または同時に入れ、その後順次、バキュームシーラー(空気を抜きながらバッグを密封する装置)で余分な空気をバッグから除去した後に該バッグを密封し、前記開口部に空隙または気泡が残存する場合には、バッグの外側からヘラ等(例えば、ゴム製、プラスチック製等のヘラ)を用いて圧をかけながら前記ポリマー溶液またはゲルを伸展して、存在する場合には、残存する空隙または気泡を取り除き、こうして開口部に前記ポリマー溶液またはゲルを充填し、ポリマー溶液の場合には該溶液をゲル化し、そしてバッグから前記ゲルが充填されている金属製の薄板を調製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を、特定の実施例を挙げて、具体的に説明するが、これらの例に本発明を限定することを意図するものでない。
【実施例1】
【0023】
(a)アガロース(Bio Products製)の15gを熱水(500mL)で溶解させた。幅30cm×長さ45cmのポリエチレン袋に図1に示されるような、形状をした径15mmの孔86個を備えた厚さ1.0mmのステンレス鋼(SUS316)を投入した。次いで水に溶解したアガロース溶液約50mLを注ぎ入れ、ホットプレート(EC−1200N、アズワン社製)上で加温しながらバキュームシーラー(SQ−202、シャープ社製)で脱気密封し、ヘラ等で開口部等から気泡を取り除きながら前記溶液を伸展し、全ての開口部に充填した後、室温に冷却しアガロースをゲル化させ、前記板の両面上のゲルを除去することにより、前記孔の全てに前記ゲルが充填された薄板構造物を得た。
【0024】
こうして得た薄板構造物8枚を図2に示されるような保持手段に並列保持し、前記保持手段とともに交互浸漬法に供した。
【0025】
交互浸漬法を実施するためのカルシウムイオン含有液及び洗浄液を、それぞれ下記のように用意した。
(b) CaCl(177.6g)を超純水8Lに溶解し、濃度200mM CaCl溶液を調製し、8.6L容積のバスに入れた。
(c) NaHPO・12HO(334g)を超純水8Lに溶解し、濃度120mM NaHPO溶液を調製し、8.6L容積のバスに入れた。
(d) 超純水8Lを8.6L容積のバスに入れた。
【0026】
(a)で用意した保持手段に並列保持した薄板構造物を(b)のCaCl溶液を入れたバス中に前記構造物の平面がほほ鉛直線に沿う状態で投入し2時間浸漬した。浸漬後、ほぼ鉛直線に沿って引き上げた前記構造物を水切りして、また同様に(d)の超純水のバットにほぼ鉛直線に沿って投入し、1分間洗浄した後、ほぼ鉛直線に沿って引き上げ、水切りし、5分間風乾した。次いで(c)のNaHPO溶液を入れたバス中にほぼ鉛直線に沿って投入し、2時間浸漬し、また、上記と同様に、超純水による洗浄処理を行った。このような両浸漬、洗浄工程を12回繰り返すことにより、ハイドロキシアパタイトを含有する有機−無機ハイブリッドディスクを得た。これらのディスクは、特許文献1に記載されているように顕微鏡で観察したところ、ディスク全般に均一なハイドロアパタイト微粒子が分布しており、特許文献2における実施例で調製したアガロースのポリマーマトリックス中にハイドロキシアパタイト粒子(平均粒子径約200nm)が担持された複合体と実質的に同一の物理学的性質を有し、また、カニクイザルの抜歯窩に適用したとき、効果的な止血作用と歯周組織の歯槽骨の骨再生作用を有していた。
【0027】
上記では、3重量%のアガロースゲルが用いられたが、4重量%、5重量%、8重量%のアガロースゲルを用いて場合も、同様に目的のハイドロキシアパタイトを含有する有機−無機ハイブリッドディスクが得られた。
【0028】
さらに、これらの交互浸漬法を実施した12サイクル中には、前記薄板構造物中の開口部のどれからもゲルディスクの脱落は全く観察されなかった。参考までに、前記有機−無機ハイブリッドディスクが製造された状態を示す図に代わる写真を図3に示す。
【実施例2】
【0029】
実施例1における薄型構造物を構成するステンレス鋼に代え、アルミニウムもしくはアルマイト製の薄板を用いたこと以外、実施例1と同じ交互浸漬法を2サイクル実施した。これらの方法でも、ハイドロキシアパタイト粒子の形成が確認できた。しかし、前記有機−無機ハイブリッドディスクが製造された状態を示す図に代わる写真である図4に示されるように、前記薄板構造物中の開口部から若干のゲルディスクの脱落が観察された。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に従う、ヒドロゲル形成性の有機ポリマーのゲルを充填すべき多数の開口部を設けた薄板の概念図である。開口部の直径は12mmであり、また、薄板の厚さは1.0mmである。
【図2】ヒドロゲル形成性の有機ポリマーのゲルが充填された多数の開口部を有する薄板を並列保持するための保持手段
【図3】実施例1により、ハイドロキシアパタイトを含有する有機−無機ハイブリッドディスクが製造された状態を示す図に代わる写真である。
【図4】実施例2により、ハイドロキシアパタイトを含有する有機−無機ハイブリッドディスクが製造された状態を示す図に代わる写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の開口部が設けられており、これらの開口部にヒドロゲル形成性の有機ポリマーのゲルが充填されている金属製の薄板を用意する工程、
前記薄板を前記ゲル中にハイドロキシアパタイトが生成されるのに十分な条件下でカルシウムイオン含有液とリン酸イオン含有液に交互浸漬することによりハイドロキシアパタイトを生成する工程、及び
ゲル中にハイドロキシアパタイトが生成されたハイドロキシアパタイトを含有する有機−無機ハイブリッドディスクを回収する工程、
を含んでおり、かつ、
前記金属が鉄、銅、真鍮、チタン、アルミニウム、アルマイト、金、白金、銀及びステンレス鋼からなる群より選ばれ、
前記開口部が直径5mm乃至20mmの円に相当する面積を有する形状であり、
前記薄板の厚さが0.6mm乃至6mmである
ことを特徴とするハイドロキシアパタイトを含有する有機−無機ハイブリッドディスクの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法であって、前記有機ポリマーが、物理的または化学的に架橋されていてもよい、アガロース、アルギン酸、プルラン、ペクチン、デンプン、α化デンプン、ヒアルロン酸、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、マンナン、キトサン、キチン、キトサン−キチン共重合体、デキストランおよびデキストラン硫酸からなる群より選ばれる1種をベースとするものか、または2種以上の多糖類である、上記の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の製造方法であって、前記有機ポリマーがアガロースまたは寒天である、上記の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の製造方法であって、前記薄板の平面をほぼ鉛直線に沿って保持した状態で交互浸漬が行われる、上記の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の方法であって、各浸漬の間に前記薄板の水中への浸漬による洗浄工程が実施され、交互浸漬が5回サイクル以上行われる、上記の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の方法であって、前記有機ポリマーがアガロースであり、前記金属がステンレス鋼であり、前記開口部が直径6mm乃至18mmの円形であり、前記薄版の厚さが0.8mm乃至2mmである、上記の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の方法であって、薄板中の開口部がパンチングマシンで打ち抜く方法で作製されたものである、上記の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の方法であって、前記ヒドロゲル形成性の有機ポリマーのゲルが充填されている金属製の薄板が、密封性のプラスチック製バッグ中で前記金属製の薄板と前記有機ポリマーの水溶液またはヒドロゲルを接触処理して調製されたものである、上記の製造方法。
【請求項9】
多数の開口部が設けられており、これらの開口部にヒドロゲル形成性の有機ポリマーのゲルが充填されているハイドロキシアパタイトを形成するための金属製の薄板構造物であって、
前記金属が鉄、銅、真鍮、チタン、アルミニウム、アルマイト、金、白金、銀及びステ
ンレス鋼からなる群より選ばれ、
前記有機ポリマーが、物理的または化学的に架橋されていてもよい、アガロース、アルギン酸、プルラン、ペクチン、デンプン、α化デンプン、ヒアルロン酸、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、マンナン、キトサン、キチン、キトサン−キチン共重合体、デキストランおよびデキストラン硫酸からなる群より選ばれる1種をベースとするものか、または2種以上の多糖類でありアガロースをベースとするものであり、
前記孔が直径5mm乃至20mmの円に相当する形状であり、かつ、
前記薄板の厚さが0.6mm乃至6mmである
ことを特徴とする、上記の薄板構造物。
【請求項10】
請求項9記載の構造物であって、前記有機ポリマーがアガロースまたは寒天であり、前記金属製の薄板の金属がステンレス鋼であり、前記孔が直径6乃至18mmの円形であり、前記薄版の厚さが0.8mm乃至2mmである、上記の構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−261582(P2009−261582A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114072(P2008−114072)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【特許番号】特許第4164119号(P4164119)
【特許公報発行日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(502078804)株式会社ビーエムティーハイブリッド (3)
【Fターム(参考)】