説明

有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法

【課題】発光特性の良好な有機EL素子を容易に製造可能な製造方法を提供する。
【解決手段】陽極と、該陽極上に設けられた第1の層と、発光材料を含有する第2の層と、陰極とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、陽極がパターン形成された基板を用意する工程と、前記陽極表面に存在する基又は原子に対する反応性基Xを有する化合物を含む溶液を、前記陽極表面に接触させて前記陽極上に未処理層を形成した後、該未処理層をUVオゾン処理により改質して平均膜厚が10nm以下の第1の層を形成する工程と、前記第2の層が形成される層形成領域に対応する形状を有する凸部12aを備え、当該凸部12aの表面部に複数本の凹溝12bが形成された凸版印刷版11を用いて、凸版印刷法により、前記発光材料を含むインキを前記層形成領域に供給し、第2の層を形成する工程と、陰極を形成する工程とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「エレクトロルミネッセンス」を「EL」という場合がある。)の製造方法、該製造方法を用いて得られた有機EL素子、並びに該素子を備える照明装置及び面状光源に関する。
【背景技術】
【0002】
有機物を発光材料に用いる有機EL素子が発光素子の1つとして注目されている。有機EL素子は、発光材料を含む発光層と、該発光層を挟持する一対の電極(陽極と陰極)とを含んで構成される。有機EL素子に電圧を印加すると、陽極から正孔が注入されるとともに、陰極から電子が注入され、注入された正孔と電子とが発光層で結合することによって発光する。一対の電極のうちの陽極には光透過性を示す電極が通常用いられおり、発光層から放射される光は、この陽極を通して外に出射する。
陽極の特性としては、電気抵抗が低く、かつ光透過率が高いことが当然に求められるが、これらに加えて正孔注入効率が高いことが求められている。これら陽極に求められる特性に適合する部材として、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide:略称ITO)から成る薄膜が一般的に用いられている。
また有機EL素子は通常、素子特性の改良を目的として発光層とは異なる層を電極間にさらに備える。例えば正孔注入効率の向上を目的として、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホン酸(以下、「PEDOT/PSS」という)から成る正孔注入層を陽極と発光層との間に設けた有機EL素子が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2000−514590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
PEDOT/PSSから成る正孔注入層は、PEDOT/PSSの水溶液を陽極上に塗布し、さらにこれを乾燥することにより形成することができるが、PEDOT/PSSは強酸性の水溶性化合物なので、作業性が悪く、有機EL素子の製造上問題であった。
また有機EL素子の発光層は、形成工程上、膜厚にムラが生じることがあるが、その膜厚は全体にわたって均一であることが好ましい。発光層の膜厚にムラがあると、膜厚の薄い部位に電流が集中して流れることによって、この薄い部位が優先的に劣化したり、輝度にムラが生じたりし、素子特性が低下するためである。
発光層は、例えば発光材料を含むインキを所定の塗布法によって薄膜化し、これを固化することによって形成することができる。しかしながら発光層のサイズによっては、インキを均一な膜厚で塗布することが困難なために、結果として発光層の膜厚にムラが生じることがある。インキの塗布は通常、塗布面積が大きくなるほど、均一な膜厚での塗布が困難になる。そのため発光層のサイズが大きくなるほど膜厚にムラが生じやすくなる。
【0005】
表示装置に用いられる有機EL素子のサイズは、求められる解像度に応じて決められるため、幅および長さは通常マイクロメートル(μm)オーダーである。このような極小型の有機EL素子では、インキを塗布する面積が小さいために、従来の凸版印刷法を用いたとしても、インキの濃度や印刷速度などを適宜調整することによって、均一な膜厚でインキを塗布することが比較的容易にでき、これを固化することによって均一な膜厚の発光層を得ることができる。
【0006】
他方、照明装置に用いられる有機EL素子は、幅および長さが通常センチメートル(cm)オーダーであり、表示装置用の有機EL素子と比べると、非常に大型である。表示装置用の有機EL素子と照明装置用の有機EL素子のサイズは、前者が100μm角程度であるのに対して、後者が1cm角程度以上なので、面積にして10000倍以上も異なる。すなわち照明装置用の有機EL素子を形成する際には、表示装置用の有機EL素子と比べると10000倍以上の広範囲にインキを塗布する必要がある。このような広範囲にインキを塗布する場合、均一な膜厚でのインキの塗布が格段に難しくなる。そのため表示装置用の有機EL素子を形成する際に用いられる凸版印刷法の技術を、そのまま転用して、照明装置用の有機EL素子の形成に用いたとしても、均一な膜厚でインキを塗布することができず、形成される発光層の膜厚にムラが生じることがある。特に有機EL素子のサイズが1cm角を超えると塗布ムラが顕著になる。
【0007】
そこで本発明は、PEDOT/PSSの代替材料として作業性に優れる材料を用いることにより有機EL素子の製造を容易にするとともに、均一な膜厚の発光層(第2の層)を形成することができる有機EL素子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、下記構成を採用した有機EL素子の製造方法、該方法を用いて得られた有機EL素子、該素子を備える照明装置及び面状光源を提供する。
【0009】
[1] 陽極と、該陽極上に設けられた第1の層と、発光材料を含有する第2の層と、陰極とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、陽極がパターン形成された基板を用意する工程と、前記陽極表面に存在する基又は原子に対する反応性基Xを有する化合物を含有する溶液を、前記陽極表面に接触させて前記陽極上に未処理層を形成した後、該未処理層をUVオゾン処理により改質して平均膜厚が10nm以下の第1の層を形成する第1の層形成工程と、前記第2の層が形成される層形成領域に対応する形状を有する凸部を備え、当該凸部の表面部に複数本の凹溝が形成された凸版印刷版を用いて、凸版印刷法により、前記発光材料を含むインキを前記層形成領域に供給し、第2の層を形成する工程と、陰極を形成する工程とを含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0010】
[2] 前記反応性基Xを有する化合物が、下記式(1)で表される化合物及びその部分加水分解縮合物、下記式(2)で表される1価の基を持つ化合物及びその部分加水分解縮合物、並びに下記式(3)で表される繰り返し単位からなる化合物及びその部分加水分解縮合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であることを特徴とする、上記[1]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
1(X)v1(Ra)u-v1 (1)
−M2(X)v2(Ra)u-v2-1 (2)
−[Si(X)w(Ra)2-w−O]− (3)
(式(1)中のM1は、周期表の4族、5族、6族、13族、14族、もしくは15族に属する金属原子、又は炭素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子、もしくは鉛原子を表す。式(2)中のM2は、周期表の4族、5族、6族、13族、14族又は15族に属する金属原子を表す。全式に共通するXは、陽極の表面に存在する基又は原子に対する反応性基(反応性を有する基又は原子)を表す。また、全式に共通するRaは、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、又はアリールアルキニル基を表す。Raで表される基は、置換基を有していてもよい。v1は、1以上u以下の整数である。v2は、1以上u−1以下の整数である。wは、1又は2である。uは、M1又はM2の原子価を表す。Xが複数存在する場合には、それらは同一であっても異なっていてもよい。Raが複数存在する場合には、それらは同一であっても異なっていてもよい。)
【0011】
[3] 前記反応性基Xを有する化合物が、前記式(2)で表され、Mがケイ素原子である1価の基を持つ化合物及びその部分加水分解縮合物、並びに前記式(3)で表される繰り返し単位からなる化合物及びその部分加水分解縮合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であることを特徴とする上記[2]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0012】
[4] 前記反応性基Xを有する化合物が、前記式(1)で表され、M1がチタン原子である化合物及びその部分加水分解縮合物、並びに前記式(2)で表され、M2がチタン原子である1価の基を持つ化合物及びその部分加水分解縮合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であることを特徴とする上記[2]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0013】
[5] 前記反応性基Xを有する化合物が、前記式(1)で表され、M1がケイ素原子である化合物及びその部分加水分解縮合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であることを特徴とする上記[2]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0014】
[6] 前記UVオゾン処理におけるUVの照射量が1J/cm以上であることを特徴とする、上記[1]〜[5]のいずれか一つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0015】
[7] 前記未処理層を形成する前に前記陽極をUVオゾン処理することを特徴とする、上記[1]〜[6]のいずれか一つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0016】
[8] 前記複数本の凹溝の長手方向の少なくとも一端が前記凸部の表面の側端に開放していることを特徴とする、上記[1]〜[7]のいずれか一つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0017】
[9] 前記層形成領域の寸法が1cm×1cm以上であることを特徴とする、上記[1]〜[8]のいずれか一つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0018】
[10] 上記[1]〜[9]のいずれか一つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法を用いて得られた有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0019】
[11] 上記[10]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする照明装置。
【0020】
[12] 上記[10]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする面状光源。
【発明の効果】
【0021】
本発明の有機EL素子の製造方法は、正孔注入効率の良好な材料として酸性度が低い材料を使用することにより、作業性(例えば、塗布・成膜等の製造プロセスにおける作業性、処理の簡便性)が優れるとともに、所定の凸版印刷法を用いることにより膜厚が均一な発光層を形成することができるので、発光特性に優れた有機EL素子を容易に製造することができる。本発明方法により得られる有機EL素子は、通常、長寿命であるため、照明等に用いられる平面状又は曲面状の面状光源、セグメント表示装置、ドットマトリックス表示装置等の表示装置、液晶表示装置等のバックライト等の製造に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、従来の有機EL素子の製造において層を形成するために用いられている凸版印刷版の凸部の表面構造を示す該凸部の断面構成図である。
【図2】図2は、本発明の有機EL素子の製造において層を形成するために用いられている凸版印刷版の凸部の表面構造を示す該凸部の断面構成図である。
【図3】図3は、図2に示した凸版印刷版の凸部表面の拡大断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[用語の説明]
以下、本明細書において共通して用いられる用語を説明する。本明細書において、「C
m〜Cn」(m、nはm<nを満たす正の整数である)という用語は、この用語とともに記
載された基の炭素数がm〜nであることを表す。
【0024】
(ハロゲン原子)
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が例示される。
【0025】
(アルキル基)
アルキル基は、非置換のアルキル基、及びハロゲン原子、アミノ基、メルカプト基等で置換されたアルキル基を意味し、直鎖状アルキル基及び環状アルキル基(シクロアルキル基)の両方を含む。アルキル基は分岐を有していてもよい。また、アルキル基の炭素数は、通常1〜20、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜10程度である。
かかるアルキル基として、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、3,7−ジメチルオクチル基、ラウリル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロオクチル基、トリフルオロプロピル基、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル基、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル基、アミノプロピル基、アミノオクチル基、アミノデシル基、メルカプトプロピル基、メルカプトオクチル基、メルカプトデシル基等が例示される。C1〜C12アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソアミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等が挙げられる。
【0026】
(アルコキシ基)
アルコキシ基は、非置換のアルコキシ基、及びハロゲン原子、アルコキシ基等で置換されたアルコキシ基を意味し、直鎖状アルコキシ基及び環状アルコキシ基(シクロアルコキシ基)の両方を含む。アルコキシ基は分岐を有していてもよい。また、アルコキシ基の炭素数は、通常1〜20、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜10程度である。
かかるアルコキシ基として、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、i−プロピルオキシ基、ブトキシ基、i−ブトキシ基、t−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、3,7−ジメチルオクチルオキシ基、ラウリルオキシ基、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、パーフルオロブトキシ基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロオクチル基、メトキシメチルオキシ基、2−メトキシエチルオキシ基等が例示される。C1〜C12アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、i−プロピルオキシ基、ブトキシ基、i−ブトキシ基、t−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、3,7−ジメチルオクチルオキシ基、ラウリルオキシ基等が挙げられる。
【0027】
(アルキルチオ基)
アルキルチオ基は、非置換のアルキルチオ基、及びハロゲン原子等で置換されたアルキルチオ基を意味し、直鎖状アルキルチオ基及び環状アルキルチオ基(シクロアルキルチオ基)の両方を含む。アルキルチオ基は分岐を有していてもよい。また、アルキルチオ基の炭素数は、通常1〜20、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜10程度である。
かかるアルキルチオ基として、具体的には、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、i−プロピルチオ基、ブチルチオ基、i−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、シクロヘキシルチオ基、ヘプチルチオ基、オクチルチオ基、2−エチルヘキシルチオ基、ノニルチオ基、デシルチオ基、3,7−ジメチルオクチルチオ基、ラウリルチオ基、トリフルオロメチルチオ基等が例示される。C1〜C12アルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、i−プロピルチオ基、ブチルチオ基、i−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、シクロヘキシルチオ基、ヘプチルチオ基、オクチルチオ基、2−エチルヘキシルチオ基、ノニルチオ基、デシルチオ基、3,7−ジメチルオクチルチオ基、ラウリルチオ基等が挙げられる。
【0028】
(アリール基)
アリール基は、芳香族炭化水素から芳香環を構成する炭素原子に結合した水素原子1個を除いた残りの原子団であり、非置換のアリール基、及びハロゲン原子、アルコキシ基、アルキル基等で置換されたアリール基を意味する。アリール基には、縮合環を持つもの、独立したベンゼン環又は縮合環2個以上が単結合又は2価の基、例えば、ビニレン基等のアルケニレン基を介して結合したものも含まれる。また、アリール基の炭素数は、通常6〜60、好ましくは7〜48、より好ましくは7〜30程度である。
かかるアリール基として、具体的には、フェニル基、C1〜C12アルコキシフェニル基、C1〜C12アルキルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アントラセニル基、2−アントラセニル基、9−アントラセニル基、ペンタフルオロフェニル基等が例示され、C1〜C12アルコキシフェニル基、C1〜C12アルキルフェニル基が好ましい。
【0029】
上記C1〜C12アルコキシフェニル基として、具体的には、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、プロピルオキシフェニル基、i−プロピルオキシフェニル基、ブトキシフェニル基、i−ブトキシフェニル基、t−ブトキシフェニル基、ペンチルオキシフェニル基、ヘキシルオキシフェニル基、シクロヘキシルオキシフェニル基、ヘプチルオキシフェニル基、オクチルオキシフェニル基、2−エチルヘキシルオキシフェニル基、ノニルオキシフェニル基、デシルオキシフェニル基、3,7−ジメチルオクチルオキシフェニル基、ラウリルオキシフェニル基等が例示される。
【0030】
上記C1〜C12アルキルフェニル基として、具体的には、メチルフェニル基、エチルフェニル基、ジメチルフェニル基、プロピルフェニル基、メシチル基、メチルエチルフェニル基、i−プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、i−ブチルフェニル基、t−ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、イソアミルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ドデシルフェニル基等が例示される。
【0031】
(アリールオキシ基)
アリールオキシ基は、非置換のアリールオキシ基、及びハロゲン原子、アルコキシ基、アルキル基等で置換されたアリールオキシ基を意味する。また、アリールオキシ基の炭素数は、通常6〜60、好ましくは7〜48、より好ましくは7〜30程度である。
かかるアリールオキシ基として、具体例には、フェノキシ基、C1〜C12アルコキシフェノキシ基、C1〜C12アルキルフェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基、ペンタフルオロフェニルオキシ基等が挙げられ、C1〜C12アルコキシフェノキシ基、C1〜C12アルキルフェノキシ基が好ましい。
【0032】
上記C1〜C12アルコキシフェノキシ基として、具体的には、メトキシフェノキシ基、エトキシフェノキシ基、プロピルオキシフェノキシ基、i−プロピルオキシフェノキシ基、ブトキシフェノキシ基、i−ブトキシフェノキシ基、t−ブトキシフェノキシ基、ペンチルオキシフェノキシ基、ヘキシルオキシフェノキシ基、シクロヘキシルオキシフェノキシ基、ヘプチルオキシフェノキシ基、オクチルオキシフェノキシ基、2−エチルヘキシルオキシフェノキシ基、ノニルオキシフェノキシ基、デシルオキシフェノキシ基、3,7−ジメチルオクチルオキシフェノキシ基、ラウリルオキシフェノキシ基等が例示される。
【0033】
上記C1〜C12アルキルフェノキシ基として、具体的には、メチルフェノキシ基、エチルフェノキシ基、ジメチルフェノキシ基、プロピルフェノキシ基、1,3,5−トリメチルフェノキシ基、メチルエチルフェノキシ基、i−プロピルフェノキシ基、ブチルフェノキシ基、i−ブチルフェノキシ基、t−ブチルフェノキシ基、ペンチルフェノキシ基、イソアミルフェノキシ基、ヘキシルフェノキシ基、ヘプチルフェノキシ基、オクチルフェノキシ基、ノニルフェノキシ基、デシルフェノキシ基、ドデシルフェノキシ基等が例示される。
【0034】
(アリールチオ基)
アリールチオ基は、非置換のアリールチオ基、及びハロゲン原子、アルコキシ基、アルキル基等で置換されたアリールチオ基を意味する。また、アリールチオ基の炭素数は、通常6〜60、好ましくは7〜48、より好ましくは7〜30程度である。
かかるアリールチオ基として、具体的には、フェニルチオ基、C1〜C12アルコキシフェニルチオ基、C1〜C12アルキルフェニルチオ基、1−ナフチルチオ基、2−ナフチルチオ基、ペンタフルオロフェニルチオ基等が例示される。
【0035】
(アリールアルキル基)
アリールアルキル基は、非置換のアリールアルキル基、及びハロゲン原子、アルコキシ基、アルキル基等で置換されたアリールアルキル基を意味する。また、アリールアルキル基の炭素数は、通常7〜60、好ましくは7〜48、より好ましくは7〜30程度である。
かかるアリールアルキル基として、具体的には、フェニル−C1〜C12アルキル基、C1〜C12アルコキシフェニル−C1〜C12アルキル基、C1〜C12アルキルフェニル−C1〜C12アルキル基、1−ナフチル−C1〜C12アルキル基、2−ナフチル−C1〜C12アルキル基等が例示される。
【0036】
(アリールアルコキシ基)
アリールアルコキシ基は、非置換のアリールアルコキシ基、及びハロゲン原子、アルコキシ基、アルキル基等で置換されたアリールアルコキシ基を意味する。また、アリールアルコキシ基の炭素数は、通常7〜60、好ましくは7〜48、より好ましくは7〜30程度である。
かかるアリールアルコキシ基として、具体的には、フェニル−C1〜C12アルコキシ基、C1〜C12アルコキシフェニル−C1〜C12アルコキシ基、C1〜C12アルキルフェニル−C1〜C12アルコキシ基、1−ナフチル−C1〜C12アルコキシ基、2−ナフチル−C1〜C12アルコキシ基等が例示される。
【0037】
(アリールアルキルチオ基)
アリールアルキルチオ基は、非置換のアリールアルキルチオ基、及びハロゲン原子、アルコキシ基、アルキル基等で置換されたアリールアルキルチオ基を意味する。また、アリールアルキルチオ基の炭素数は、通常7〜60、好ましくは7〜48、より好ましくは7〜30程度である。
かかるアリールアルキルチオ基として、具体的には、フェニル−C1〜C12アルキルチオ基、C1〜C12アルコキシフェニル−C1〜C12アルキルチオ基、C1〜C12アルキルフェニル−C1〜C12アルキルチオ基、1−ナフチル−C1〜C12アルキルチオ基、2−ナフチル−C1〜C12アルキルチオ基等が例示される。
【0038】
(アリールアルケニル基)
アリールアルケニル基は、非置換のアリールアルケニル基、及びハロゲン原子、アルコキシ基、アルキル基等で置換されたアリールアルケニル基を意味する。また、アリールアルケニル基の炭素数は、通常8〜60、好ましくは8〜48、より好ましくは8〜30程度である。
かかるアリールアルケニル基として、具体例には、フェニル−C2〜C12アルケニル基、C1〜C12アルコキシフェニル−C2〜C12アルケニル基、C1〜C12アルキルフェニル−C2〜C12アルケニル基、1−ナフチル−C2〜C12アルケニル基、2−ナフチル−C2〜C12アルケニル基等が挙げられ、C1〜C12アルコキシフェニル−C2〜C12アルケニル基、C2〜C12アルキルフェニル−C2〜C12アルケニル基が好ましい。
【0039】
上記C2〜C12アルケニル基としては、例えば、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、1−オクテニル基等が挙げられる。
【0040】
(アリールアルキニル基)
アリールアルキニル基は、非置換のアリールアルキニル基、及びハロゲン原子、アルコキシ基、アルキル基等で置換されたアリールアルキニル基を意味する。また、アリールアルキニル基の炭素数は、通常8〜60、好ましくは8〜48、より好ましくは8〜30程度である。
かかるアリールアルキニル基として、具体例には、フェニル−C2〜C12アルキニル基、C1〜C12アルコキシフェニル−C2〜C12アルキニル基、C1〜C12アルキルフェニル−C2〜C12アルキニル基、1−ナフチル−C2〜C12アルキニル基、2−ナフチル−C2〜C12アルキニル基等が挙げられ、C1〜C12アルコキシフェニル−C2〜C12アルキニル基、C1〜C12アルキルフェニル−C2〜C12アルキニル基が好ましい。
【0041】
上記C2〜C12アルキニル基としては、例えば、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基、1−ペンチニル基、2−ペンチニル基、1−ヘキシニル基、2−ヘキシニル基、1−オクチニル基等が挙げられる。
【0042】
(複素環チオ基)
複素環チオ基は、メルカプト基の水素原子が1価の複素環基で置換された基を意味する。複素環チオ基としては、例えば、ピリジルチオ基、ピリダジニルチオ基、ピリミジルチオ基、ピラジニルチオ基、トリアジニルチオ基等のヘテロアリールチオ基等が挙げられる。
【0043】
上記1価の複素環基とは、複素環式化合物から水素原子1個を除いた残りの原子団をいい、非置換の1価の複素環基及びアルキル基等の置換基で置換された1価の複素環基を意味する。1価の複素環基の炭素数は、置換基の炭素数を含めないで、通常4〜60、好ましくは4〜30、より好ましくは4〜20程度である。
上記複素環式化合物とは、環式構造をもつ有機化合物のうち、環を構成する元素として、炭素原子だけでなく、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子、ホウ素原子、ケイ素原子、セレン原子、テルル原子、ヒ素原子等のヘテロ原子を含むものをいう。
かかる1価の複素環基としては、例えば、チエニル基、C1〜C12アルキルチエニル基、ピロリル基、フリル基、ピリジル基、C1〜C12アルキルピリジル基、ピリダジニル基、ピリミジル基、ピラジニル基、トリアジニル基、ピロリジル基、ピペリジル基、キノリル基、イソキノリル基等が挙げられ、中でもチエニル基、C1〜C12アルキルチエニル基、ピリジル基、C1〜C12アルキルピリジル基が好ましい。
【0044】
(アミノ基)
アミノ基は、非置換のアミノ基、及びアルキル基、アリール基、アリールアルキル基及び1価の複素環基から選ばれる1又は2個の置換基で置換されたアミノ基(以下、置換アミノ基という。)を意味する。上記置換基は更に置換基(以下、二次置換基という場合がある。)を有していてもよい。また、置換アミノ基の炭素数は、二次置換基の炭素数を含めないで、通常1〜60、好ましくは2〜48、より好ましくは2〜40程度である。
上記置換アミノ基としては、例えば、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、プロピルアミノ基、ジプロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、s−ブチルアミノ基、t−ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基、ヘキシルアミノ基、ヘプチルアミノ基、オクチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基、ノニルアミノ基、デシルアミノ基、3,7−ジメチルオクチルアミノ基、ドデシルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、ジシクロペンチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、ジシクロヘキシルアミノ基、ジトリフルオロメチルアミノ基、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、C1〜C12アルコキシフェニルアミノ基、ジ(C1〜C12アルコキシフェニル)アミノ基、C1〜C12アルキルフェニルアミノ基、ジ(C1〜C12アルキルフェニル)アミノ基、1−ナフチルアミノ基、2−ナフチルアミノ基、ペンタフルオロフェニルアミノ基、ピリジルアミノ基、ピリダジニルアミノ基、ピリミジルアミノ基、ピラジニルアミノ基、トリアジニルアミノ基、フェニル−C1〜C12アルキルアミノ基、C1〜C12アルコキシフェニル−C1〜C12アルキルアミノ基、ジ(C1〜C12アルコキシフェニル−C1〜C12アルキル)アミノ基、C1〜C12アルキルフェニル−C1〜C12アルキルアミノ基、ジ(C1〜C12アルキルフェニル−C1〜C12アルキル)アミノ基、1−ナフチル−C1〜C12アルキルアミノ基、2−ナフチル−C1〜C12アルキルアミノ基等が挙げられる。
【0045】
(シリル基)
シリル基は、非置換のシリル基、及びアルキル基、アリール基、アリールアルキル基及び1価の複素環基から選ばれる1、2又は3個の置換基で置換されたシリル基(以下、置換シリル基という。)を意味する。置換基は二次置換基を有していてもよい。
上記置換シリル基の炭素数は、二次置換基の炭素数を含めないで、通常1〜60、好ましくは3〜48、より好ましくは3〜40程度である。
かかる置換シリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリプロピルシリル基、トリ−イソプロピルシリル基、ジメチル−イソプロピルシリル基、ジエチル−イソプロピルシリル基、t−ブチルシリルジメチルシリル基、ペンチルジメチルシリル基、ヘキシルジメチルシリル基、ヘプチルジメチルシリル基、オクチルジメチルシリル基、2−エチルヘキシル−ジメチルシリル基、ノニルジメチルシリル基、デシルジメチルシリル基、3,7−ジメチルオクチル−ジメチルシリル基、ドデシルジメチルシリル基、フェニル−C1〜C12アルキルシリル基、C1〜C12アルコキシフェニル−C1〜C12アルキルシリル基、C1〜C12アルキルフェニル−C1〜C12アルキルシリル基、1−ナフチル−C1〜C12アルキルシリル基、2−ナフチル−C1〜C12アルキルシリル基、フェニル−C1〜C12アルキルジメチルシリル基、トリフェニルシリル基、トリ−p−キシリルシリル基、トリベンジルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基、ジメチルフェニルシリル基等が挙げられる。
【0046】
(アシル基)
アシル基は、非置換のアシル基、及びハロゲン原子等で置換されたアシル基を意味する。また、アシル基の炭素数は、通常1〜20、好ましくは2〜18、より好ましくは2〜16程度である。
かかるアシル基としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、トリフルオロアセチル基、ペンタフルオロベンゾイル基等が挙げられる。
【0047】
(アシルオキシ基)
アシルオキシ基は、非置換のアシルオキシ基、及びハロゲン原子等で置換されたアシルオキシ基を意味する。また、アシルオキシ基の炭素数は、通常1〜20、好ましくは2〜18、より好ましくは2〜16程度である。
かかるアシルオキシ基としては、例えば、ホルミルオキシ基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、イソブチリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、トリフルオロアセチルオキシ基、ペンタフルオロベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
【0048】
(イミン残基)
イミン残基は、式:H−N=C<及び式:−N=CH−の少なくとも一方で表される構造を有するイミン化合物から、この構造中の水素原子1個を除いた残基を意味する。
このようなイミン化合物としては、例えば、アルジミン、ケチミン及びアルジミン中の窒素原子に結合した水素原子がアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基等で置換された化合物が挙げられる。
イミン残基の炭素数は、通常2〜20、好ましくは2〜18、より好ましくは2〜16程度である。かかるイミン残基としては、例えば、一般式:−CR'=N−R''又は一般式:−N=C(R'')2(式中、R'は水素原子、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基を表し、R''はそれぞれ独立に、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基を表し、ただし、R''が2個存在する場合、2個のR''は相互に結合し一体となって2価の基、例えば、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等の炭素数2〜18のアルキレン基として環を形成してもよい。)で表される基等が挙げられる。
イミン残基の具体例としては、以下の構造式で示される基等が挙げられる。
【0049】
【化1】

(式中、Meはメチル基を示す。)
【0050】
(アミド基)
アミド基は、非置換のアミド基、及びハロゲン原子等で置換されたアミド基を意味する。また、アミド基の炭素数は、通常2〜20、好ましくは2〜18、より好ましくは2〜16程度である。
かかるアミド基としては、例えば、ホルムアミド基、アセトアミド基、プロピオアミド基、ブチロアミド基、ベンズアミド基、トリフルオロアセトアミド基、ペンタフルオロベンズアミド基、ジホルムアミド基、ジアセトアミド基、ジプロピオアミド基、ジブチロアミド基、ジベンズアミド基、ジトリフルオロアセトアミド基、ジペンタフルオロベンズアミド基等が挙げられる。
【0051】
(酸イミド基)
酸イミド基は、酸イミドからその窒素原子に結合した水素原子を除いて得られる残基を意味する。酸イミド基の炭素数は、通常4〜20、好ましくは4〜18、より好ましくは4〜16程度である。酸イミド基としては、例えば、以下に示す基等が挙げられる。
【0052】
【化2】

(式中、Meはメチル基を示す。)
【0053】
(カルボキシル基)
カルボキシル基は、非置換のカルボキシル基、並びにアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、1価の複素環基等の置換基で置換されたカルボキシル基(以下、置換カルボキシル基という。)を意味する。置換基は二次置換基を有していてもよい。
上記置換カルボキシル基の炭素数は、二次置換基の炭素数を含めないで、通常1〜60、好ましくは2〜48、より好ましくは2〜45程度である。
かかる置換カルボキシル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、s−ブトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、ヘプチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、2−エチルヘキシルオキシカルボニル基、ノニルオキシカルボニル基、デシロキシカルボニル基、3,7−ジメチルオクチルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基、トリフルオロメトキシカルボニル基、ペンタフルオロエトキシカルボニル基、パーフルオロブトキシカルボニル基、パーフルオロヘキシルオキシカルボニル基、パーフルオロオクチルオキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基、ナフトキシカルボニル基、ピリジルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0054】
[有機EL素子]
本発明の有機EL素子は以下の製造方法によって、得られる。
本発明の有機EL素子の製造方法は、陽極と、該陽極上に設けられた第1の層と、発光材料を含有する第2の層と、陰極とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、陽極がパターン形成された基板を用意する工程と、前記陽極表面に存在する基又は原子に対する反応性基Xを有する化合物を含有する溶液を、前記陽極表面に接触させて前記陽極上に未処理層を形成した後、該未処理層をUVオゾン処理により改質して平均膜厚が10nm以下の第1の層を形成する第1の層形成工程と、前記第2の層が形成される層形成領域に対応する形状を有し、その表面部に複数本の凹溝が形成された凸部を備える凸版印刷版を用いて、凸版印刷法により、前記前記発光材料を含むインキを前記層形成領域に供給し、第2の層を形成する工程と、陰極を形成する工程とを含むことを特徴とする。
【0055】
本発明の有機EL素子は、陽極と、陰極と、電極間において陽極上に設けられる第1の層と、電極間に設けられる発光材料を有する第2の層を有する。本発明の有機EL素子の製造方法は、前記陽極と、発光材料を有する第2の層との間に、特定の材料を用いて特定の工程により第1の層を設けることと、陽極及び陰極間に設けられる第1の層、第2の層、その他の必要に応じて設けられる層の内の少なくとも第2の層(好ましくはすべての層)を特定の凸版印刷法により形成することに特徴がある。
【0056】
以下に本発明の有機EL素子の製造方法及び有機EL素子の一実施形態について詳しく説明する。なお本明細書中の説明において、基板の厚み方向の一方を上方(または上)といい、基板の厚み方向の他方を下方(または下)という場合がある。この上下関係は、説明の便宜上設定したもので、実際に有機EL素子が製造される工程および使用される状況に適用されるものでは必ずしもない。また本明細書では、「透明な基板」、「透明な電極」とは、入射した光の一部が透過する基板、電極をそれぞれ意味する。
【0057】
(基板)
有機EL素子が形成される基板は、有機EL素子を形成する工程において変化しないものが好ましく、リジッド基板でも、フレキシブル基板でもよい。例えばガラス板、プラスチック板、高分子フィルム、シリコン板、これらを積層したものなどを基板として用いることができる。不透明な基板が用いられる有機EL素子の場合には、該基板により近い電極とは反対側に位置する電極が透明であることが好ましい。
【0058】
(陽極)
有機EL素子は陽極又は陰極が透明であり、透明な電極を通して光が出射する。本実施の形態では陽極は、基板上において所定のパターン形状に形成される。陽極がパターン形成された基板は、基板上に陽極をパターン形成することにより用意してもよく、また陽極が予めパターン形成された陽極付き基板を購入することにより用意してもよい。
【0059】
陽極を透明な電極とする場合には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、IZO、金、白金、銀、銅等から成る薄膜が陽極として用いられ、ITO、IZO、酸化スズ等の導電性の無機酸化物から成る薄膜が好適に用いられる。また該陽極として、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体等の有機の透明導電膜を用いてもよい。
【0060】
陽極の膜厚は、光の透過性および電気伝導度などの求められる特性などを考慮して適宜決定され、例えば10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0061】
陽極の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等が挙げられる。
【0062】
前記陽極は、該陽極上に形成する第1の層を構成する化合物に含まれる反応性基Xとの反応性を向上させるために、第1の層を形成する前にUVオゾン処理することが好ましい。
【0063】
(陽極の表面に存在する基又は原子)
陽極には、導電性の無機酸化物や金属の薄膜が一般的に利用されるため、多くの場合その表面に水酸基を有している。
本発明において「陽極の表面に存在する基」とは、無機酸化物材料からなる陽極の場合、これらに含まれる酸素が水素と結合したOH等の分極を有する特性基を意味し、有機の導電膜材料からなる陽極の場合、有機導電膜材料に含まれる極性を有する官能基を意味し、主に上述の水酸基を意味するが、これに限定されるものではなく、陽極を形成する材料によっては他の基が陽極の表面に存在する場合もあり、その場合にはそれらの基を意味する。また「陽極の表面に存在する原子」とは、上記導電性の無機酸化物や金属を構成している原子を意味し、例えば酸素原子を意味する。
【0064】
(第1の層)
本発明における第1の層は、陽極の表面に存在する基又は原子に対する反応性基Xを有する化合物を含有する溶液から薄膜(未処理層とも記す場合がある)を形成し、該薄膜をUVオゾン処理により改質することにより、陽極上に設けられたものである。
【0065】
前記反応性基Xを有する化合物は、好ましくは、下記式(1)で表される化合物及びその部分加水分解縮合物、下記式(2)で表される1価の基を持つ化合物及びその部分加水分解縮合物、並びに下記式(3)で表される繰り返し単位からなる化合物及びその部分加水分解縮合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物である。
1(X)v1(Ra)u-v1 (1)
−M2(X)v2(Ra)u-v2-1 (2)
−[Si(X)w(Ra)2-w−O]− (3)
(式(1)中のM1は、周期表の4族、5族、6族、13族、14族もしくは15族に属する金属原子、又は炭素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子、もしくは鉛原子を表す。式(2)中のM2は、周期表の4族、5族、6族、13族、14族又は15族に属する金属原子を表す。全式に共通するXは、陽極の表面に存在する基又は原子に対する反応性基(反応性を有する基又は原子)を表す。また、全式に共通するRaは、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、又はアリールアルキニル基を表す。Raで表される基は、置換基を有していてもよい。v1は、1以上u以下の整数である。v2は、1以上u−1以下の整数である。wは、1又は2である。uは、M1又はM2の原子価を表す。Xが複数存在する場合には、それらは同一であっても異なっていてもよい。Raが複数存在する場合には、それらは同一であっても異なっていてもよい。)
【0066】
前記陽極の表面に存在する基又は原子に対する反応性基Xを有する化合物は、好ましくは、前記式(2)で表され、M2がケイ素原子である1価の基を持つ化合物及びその部分加水分解縮合物、並びに前記式(3)で表される繰り返し単位からなる化合物及びその部分加水分解縮合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物;前記式(1)で表され、M1がチタン原子である化合物及びその部分加水分解縮合物、並びに前記式(2)で表され、M2がチタン原子である1価の基を持つ化合物及びその部分加水分解縮合物;前記式(1)で表され、M1がケイ素原子である化合物及びその部分加水分解縮合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物である。
前記反応性基Xを有する化合物は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0067】
前記薄膜(未処理層)を形成するための溶液は、前記反応性基Xを有する化合物以外にも、正孔輸送能を有する化合物等を含有していてもよい。これらの任意成分は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0068】
上記反応性基Xを有する溶液の塗膜を乾燥することにより前記薄膜(未処理層)が形成されるが、この未処理層の厚さは、通常、0.1nm〜10nmであり、好ましくは1.0nm〜10nmである。この未処理層が後述のUVオゾン処理により改質されて第1の層となる。このUVオゾン処理により、正孔注入層として好適に機能する第1の層が得られるが、その改質のメカニズムは明らかでなく、以下のように推定される。
【0069】
未処理層を構成する分子は、未処理層を構成する分子の反応性基Xと陽極表面の分極との静電気的な結合によって、陽極表面に付着する。また未処理層を構成する分子に含まれる基のうちの反応性基X以外の基は、UVオゾン処理により主鎖から解離するものと考えられる。UVオゾン処理に伴って未処理層において前記反応が起こることにより未処理層が改質されて第1の層となると考えられる。改質された結果として、第1の層は正孔注入特性が良好になるものと考えられる。このような第1の層上に正孔輸送層、発光層などを積層することにより正孔注入特性に優れた有機EL素子が形成されるものと考えられる。また上述のUVオゾン処理の効果は、1分子層の第1の層が陽極上に形成される条件付近で最も顕著になるものと推定される。
【0070】
第1の層の平均膜厚は、10nm以下であるが、この第1の層が担う正孔注入性の観点、さらには正孔輸送性の観点から、好ましくは0.1〜10nmであり、より好ましくは1.0〜5.0nmである。第1の層の平均膜厚が10nmを超える場合、陽極から正孔注入が十分行われず、駆動電圧が上昇したり、耐久性が低下したりすることがある。
【0071】
前記式(1)中の反応性基Xは、陽極の表面に存在する基又は原子によって選択することができる。
前記陽極が金属又はその酸化物もしくは硫化物である場合には、反応性基Xとしては、水酸基、カルボキシル基、アシル基、アシルオキシ基、ハロカルボニル基(式:−C(O)−Y(式中、Yはハロゲン原子を表す。))で表される基を用いることができる。
これらの基は、より具体的には、式:−C(O)−Clで表される基及び式:−C(O)−Brで表される基が好ましい。)、ハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アリールアルコキシ基、リン酸基(式:(HO)2P(O)−O−で表される基)、リン酸エステル基(式:(R1O)2P(O)−O−又は式:(R1O)(HO)P(O)−O−(式中、R1は、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、又はアリールアルキニル基を表す。)で表される基)、亜リン酸基(式:(HO)2P−O−で表される基)、亜リン酸エステル基(式:(R1O)2P−O−又は式:(R1O)(HO)P−O−(式中、R1は前記のとおりである。)で表される基)、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アリールアルキルチオ基、複素環チオ基、アミノ基等が例示される。
【0072】
上記反応性基Xが陽極の表面に存在する基又は原子と反応することにより、前記式(1)で表される化合物及びその部分加水分解縮合物と陽極との間に、共有結合、配位結合、イオン結合等の結合が形成される。したがって、これら化合物を用いて形成される第1の層と陽極との接着性は大変強いものとなる。
【0073】
陽極には、先に述べたように、導電性の無機酸化物や金属の薄膜が一般的に利用されるため、その表面に水酸基を有している場合が多いので、反応性基Xは、水酸基と反応し得る基であることが好ましく、例えばハロゲン原子、アルコキシ基、リン酸基、アミノ基、水酸基等であることが好ましい。
【0074】
なお反応性基Xは、陽極の表面に存在する基又は原子と直接反応するものであってもよいが、他の物質を介して間接的に反応するものであってもよく、直接反応するものと間接的に反応するものを兼ね合わせていてもよい。
【0075】
また、第1の層を形成するための溶液に反応性基Xが複数存在する場合には、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0076】
前記式(1)中、M1は、周期表の4族、5族、6族、13族、14族もしくは15族に属する金属原子、又は炭素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子、もしくは鉛原子を表す。
かかるM1としては、具体的には、チタン原子、ジルコニウム原子、ハフニウム原子等の4族に属する金属原子;バナジウム原子、ニオブ原子、タンタル原子等の5族に属する金属原子;クロム原子、モリブデン原子、タングステン原子等の6族に属する金属原子;ホウ素原子、アルミニウム原子、ガリウム原子、インジウム原子、タリウム原子等の13族に属する金属原子;ケイ素原子、ゲルマニウム原子、錫原子、鉛原子等の14族に属する金属原子;リン原子、ヒ素原子、アンチモン原子、ビスマス原子等の15族に属する金属原子、ゲルマニウム原子、スズ原子、鉛原子等が挙げられるが、スズ原子、チタン原子、ジルコニウム原子、アルミニウム原子、ニオブ原子、ホウ素原子、リン原子が好ましく、ジルコニウム原子、アルミニウム原子、ホウ素原子、チタン原子、リン原子、ケイ素原子がより好ましく、チタン原子、リン原子、ケイ素原子がさらに好ましい。
【0077】
前記式(1)中、Raは、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、又はアリールアルキニル基を表すが、好ましくはアルキル基、アリール基、アリールアルキル基である。Raで表される基は、置換基を有していてもよい。Raが複数存在する場合には、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0078】
前記式(1)中、uは、M1又はM2の原子価を表す。M1又はM2が、例えば、ケイ素原子、チタン原子、ジルコニウム原子等である場合、uは4であり、M1又はM2が、ホウ素原子、アルミニウム原子等である場合、uは3である。
【0079】
前記式(1)中、v1は1以上u以下の整数であるが、好ましくは2以上の整数であり、より好ましくは3以上の整数である。
【0080】
本発明の好ましい実施形態では、前記陽極の表面には水酸基が存在しており、前記式(1)中のM1がチタン原子である。さらに、前記式(1)中の反応性基Xが、ハロゲン原子、アルコキシ基、リン酸基、又はアミノ基であることが好ましい。また、u−v≧1である場合、Raはアルキル基又はアリール基が好ましい。
【0081】
前記式(1)で表される化合物及びその部分加水分解縮合物としては、アセトキシプロピルトリクロロシラン、アセトキシプロピルトリメトキシシラン、アダマンチルエチルトリクロロシラン、アリルトリクロロシラン、アリルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリス(メトキシエトキシエトキシ)シラン、ベンジルトリクロロシラン、ベンジルトリエトキシシラン、ビス(トリメトキシシリル)エタン、3−ブロモプロピルトリクロロシラン、3−ブロモプロピルトリエトキシシラン、3−ブロモプロピルトリメトキシシラン、3−ブテニルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、2−クロロエチルトリクロロシラン、2−クロロエチルトリエトキシシラン、((クロロメチル)フェニルエチル)トリメトキシシラン、(p−クロロメチル)フェニルトリメトキシシラン、クロロフェニルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、(ジクロロメチル)ジメチルクロロシラン、(ジクロロメチル)メチルジクロロシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)メチルジメトキシシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリエトキシシラン、3−(ヘプタフルオロイソプロポキシ)プロピルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、n−オクタデシルトリクロロシラン、n−オクタデシルトリクロロシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、ペンタフルオロプロピルプロピルトリクロロシラン、ペンタフルオロプロピルプロピルトリメトキシシラン、フェネチルトリメトキシシラン、フェノキシトリクロロシラン、N−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラエトキシシラン、3−チオシアネートプロピルトリエトキシシラン、(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)トリエトキシシラン、(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)メチルジクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシチタン、オクチルトリメトキシチタン、アミノプロピルトリメトキシチタン、アミノデシルトリメトキシチタン、メルカプトプロピルトリメトキシチタン、メルカプトオクチルトリメトキシチタン、アミノプロピルトリエトキシチタン、メルカプトプロピルトリエトキシチタン、メルカプトデシルトリエトキシチタン、プロピルトリクロロチタン、オクチルトリクロロチタン、デシルトリクロロチタン、アミノプロピルトリクロロチタン、メルカプトプロピルトリクロロチタン、メルカプトオクチルトリクロロチタン、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシルトリエトキシチタン、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシルトリクロロチタン、チタンエトキサイド、チタンイソブトキサイド、チタンイソプロポキサイド、チタンメトキサイド等、及びこれらの部分加水分解縮合物等のチタンカップリング剤;ブチルクロロジヒドロキシスズ、ブチルトリクロロスズ、ジアリルジ-ブチルスズ、ジブチルジアセトキシスズ、ジブチルジクロロスズ、ジブチルジブロモスズ、ジブチルジメトキシスズ、ジメチルジクロロスズ、ジオクチルジクロロスズ、ジフェニルジクロロスズ、メチルトリクロロスズ、フェニルトリクロロスズ、アルミニウムエトキサイド、アルミニウムイソプロポキサイド、アルミニウムブトキサイド、テトラブトキシゲルマン、テトラエトキシゲルマン、テトラメトキシゲルマン、ハフニウムブトキサイド、ハフニウムエトキサイド、インジウムメトキシエトキサイド、ニオブブトキサイド、ニオブエトキサイド、ジルコニウムブトキサイド、ジルコニウムエトキサイド、ジルコニウムポロポキサイド等が挙げられる。
前記式(1)で表される化合物の部分加水分解縮合物の分子量は、通常、100〜1000000である。
【0082】
前記式(2)中、M2は、周期表の4族、5族、6族、13族、14族又は15族に属する金属原子を表す。
かかるM2としては、具体的には、チタン原子、ジルコニウム原子、ハフニウム原子等の4族に属する金属原子;バナジウム原子、ニオブ原子、タンタル原子等の5族に属する金属原子;クロム原子、モリブデン原子、タングステン原子等の6族に属する金属原子;ホウ素原子、アルミニウム原子、ガリウム原子、インジウム原子、タリウム原子等の13族に属する金属原子;ケイ素原子、ゲルマニウム原子、錫原子、鉛原子等の14族に属する金属原子;リン原子、ヒ素原子、アンチモン原子、ビスマス原子等の15族に属する金属原子が挙げられる。これらの中でも、ケイ素原子、錫原子、チタン原子、ジルコニウム原子、アルミニウム原子、ニオブ原子、ホウ素原子、リン原子が好ましく、ケイ素原子、ジルコニウム原子、アルミニウム原子、ホウ素原子、チタン原子、リン原子がより好ましく、ケイ素原子、チタン原子、リン原子が更に好ましい。
【0083】
前記式(2)中、X、Ra及びuは、前記と同じ意味を有する。
前記式(2)中、v2は1以上u−1以下の整数であるが、好ましくは2以上の整数である。
【0084】
前記式(2)で表される1価の基を持つ化合物及びその部分加水分解縮合物は、前記式(2)で表される1価の基を側鎖に有することが好ましい。前記式(2)で表される1価の基を持つ化合物及びその部分加水分解縮合物における前記式(2)で表される1価の基の個数は、1つでも2つ以上でもよい。
【0085】
前記式(2)で表される1価の基を持つ化合物及びその部分加水分解縮合物におけるM2の合計重量は、好ましくは10%以上であり、より好ましくは15%以上であり、さらに好ましくは20%以上である。
【0086】
前記式(2)で表される1価の基を持つ化合物及びその部分加水分解縮合物が、前記式(2)で表される1価の基を側鎖に有する場合、主鎖を構成する繰り返し単位としては、例えば、アルキレン基、アリーレン基、2価の複素環基、アミン残基が挙げられる。
また、前記式(2)で表される1価の基を側鎖に有する繰り返し単位と前記式(2)で表される1価の基を側鎖に有しない繰り返し単位との共重合体でもよく、前記式(2)で表される1価の基を側鎖に有する繰り返し単位の割合が、該共重合体中の全繰り返し単位の5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、20モル%以上であることがさらに好ましい。
【0087】
前記式(2)で表される1価の基を持つ化合物及びその部分加水分解縮合物の具体例としては、以下の構造が挙げられる。
【0088】
【化3】

(式中、nは重合度を表す。)
【0089】
前記式(2)で表される1価の基を持つ化合物及びその部分加水分解縮合物の分子量は、通常、100〜1000000である。
なお、前記式(2)で表される1価の基を持つ化合物及びその部分加水分解縮合物は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0090】
前記式(3)中、X及びRaは、前記式(1)、(2)での場合と同じ意味を有する。
前記式(3)中、wは1又は2である。また、前記式(3)で表される繰り返し単位からなる化合物の重合度nは通常、2〜100000の整数であり、好ましくは10〜10000の整数である。
【0091】
前記式(3)で表される繰り返し単位からなる化合物及びその部分加水分解縮合物としては、ポリジエトキシシロキサン、ポリジブトキシシロキサン、ポリジエチルチタネート、ポリジブチルチタネート、ジエトキシシロキサン−エチルチタネートコポリマーが挙げられる。
【0092】
前記式(3)で表される繰り返し単位からなる化合物及びその部分加水分解縮合物の分子量は、通常、100〜1000000である。
なお、前記式(3)で表される繰り返し単位からなる化合物及びその部分加水分解縮合物は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0093】
前記反応性基Xを有する化合物を含有する薄膜(未処理層)を形成する方法としては、反応性基Xを有する化合物を溶媒に溶解又は分散させ、得られた溶液に陽極を浸漬して該陽極の表面に存在する基と該化合物中の親水性基(反応性基X)とを反応させる方法が挙げられる。その後、陽極を溶液から取り出し、前記化合物を溶解可能な溶媒で陽極を洗浄することにより、未反応の前記化合物を陽極上から除去してもよい。
前記反応性基Xを有する化合物を溶媒に溶解又は分散する際に、前記化合物中の反応性基Xが溶媒と化学反応し、異なる基になった後、陽極と反応してもよい。このような反応としては、加水分解反応等が挙げられる。
【0094】
前記反応性基Xを有する化合物を溶解又は分散させる溶媒としては、クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等の塩素系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−へプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン等の脂肪族炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル系溶媒;エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジメトキシエタン、プロピレングリコール、ジエトキシメタン、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、グリセリン、1,2−ヘキサンジオール等の多価アルコール及びその誘導体;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、シクロヘキサノール等のアルコール系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;水等が例示される。
なお、前記溶媒は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
上記化合物の溶液は、PEDOT/PSSほど強酸性ではなく、弱アルカリ性ないしは弱酸性なので、作業性に優れ、陽極に損傷を与えるおそれが少なく、またプロセスに用いる装置への悪影響も少ない。
【0095】
前記反応性基Xを有する化合物を溶媒に溶解又は分散させて得られた溶液における前記化合物の濃度は、特に制限されない。
前記化合物の溶液を陽極上に塗布する方法として、浸漬法を用いる場合、濃度が低すぎると、前記化合物と陽極との反応に長時間必要となる場合があるので好ましくなく、濃度が高すぎると、前記化合物の分子同士の凝集により成膜性が低下する場合があるので好ましくない。したがって浸漬法を用いる場合、0.01〜100mモル/Lが好ましい。
また浸漬法の他に、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法、ノズルコート法、キャピラリコート法等の塗布法を用いて化合物の溶液を陽極上に塗布することもできる。適切な厚みの薄膜を形成するための溶液の濃度は、塗布法によって異なるため、適宜、調整する必要がある。
スピンコート法を用いる場合、濃度が低すぎると、均一な薄膜を得ることが難しいため好ましくなく、濃度が高すぎると、厚い膜を形成するため電荷の注入が困難になることがあるため好ましくない。したがってスピンコート法を用いる場合、0.001〜10mモル/Lが好ましい。
【0096】
上記いずれかの塗布法により形成した塗膜を乾燥することにより薄膜(未処理層)を得る。
【0097】
前記薄膜(未処理層)は、UVオゾン処理により第1の層に改質される。
【0098】
(UVオゾン処理)
UVオゾン処理とは、前記未処理層にUV(紫外線)を照射し、空気中の酸素をオゾンに変化させ、このオゾン及び紫外線により該未処理層を改質することを意味する。UV光源は、UV照射により酸素をオゾンに変化させることができれば、特に制限されない。UV光源としては、低圧水銀ランプが挙げられる。低圧水銀ランプは185nmと254nmのUV光を発生し、185nm線が酸素をオゾンに変化させることができる。UVとオゾンの相乗効果で生ずる強力な酸化力により、前記未処理層の表面を改質し、正孔注入を促進することができる。照射の際の照度は、用いる光源により異なるが、一般的に数十〜数百mW/cmのものが使用されている。また集光や拡散することで照度を変更することができる。照射時間は、ランプの照度及び前記未処理層の種類により異なるが、通常、1分〜24時間である。処理温度は、通常、10〜200℃である。また、UVの照射量(即ち、紫外線量)は、通常、1J/cm以上であり、好ましくは1〜100000J/cmであり、より好ましくは10〜100000J/cmであり、さらに好ましくは100〜100000J/cmであり、特に好ましくは1000〜100000J/cmある。
【0099】
第1の層上には、発光材料を含む第2の層を直接積層してもよく、また素子特性および工程数などを考慮して必要に応じて所定の層を積層してもよい。例えば第1の層上に正孔輸送層を積層させてもよい。
【0100】
(正孔輸送層)
正孔輸送層を構成する材料としては、例えばN,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)4,4’−ジアミノビフェニル(TPD)、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(NPB)等の芳香族アミン誘導体、ポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体、ポリアリールアミンもしくはその誘導体、ポリピロールもしくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)もしくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)もしくはその誘導体などが例示される。
【0101】
これらの中でも、正孔輸送層に用いる正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミン化合物基を有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体、ポリアリールアミンもしくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)もしくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)もしくはその誘導体等の高分子正孔輸送材料が好ましく、さらに好ましくはポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体である。低分子の正孔輸送材料の場合には、高分子バインダーに分散させて用いることが好ましい。
【0102】
正孔輸送層の成膜方法としては特に制限はないが、低分子の正孔輸送材料では、高分子バインダーと正孔輸送材料とを含む混合液からの成膜を挙げることができ、高分子の正孔輸送材料では、正孔輸送材料を含む溶液からの成膜を挙げることができる。
【0103】
溶液からの成膜に用いられる溶媒としては、正孔輸送材料を溶解させるものが好ましく、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒、および水を挙げることができる。
【0104】
溶液からの成膜方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法などの塗布法を挙げることができ、後述の特定の凸版印刷法を用いることが好ましい。
【0105】
混合する高分子バインダーとしては、正孔輸送を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収の弱いものが好適に用いられ、例えばポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサンなどを挙げることができる。
【0106】
正孔輸送層の厚みは、求められる特性および成膜の容易さなどを考慮して適宜設定され、1〜1000nm程度であることが好ましく、より好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0107】
(第2の層)
第2の層は、発光材料を含む溶液(インキ)からの成膜により得られる。なお発光材料は、一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
第2の層は、発光材料を含むため通常は発光層と呼ばれるが、正孔を輸送する機能、電子を輸送する機能、再結合の機能、発光する機能等を一種類の分子が有していても、二種類以上の分子が有してもよい。
【0108】
発光層は、主として蛍光及び/又はりん光を発光する有機物、または該有機物とこれを補助するドーパントとを含む。ドーパントは、例えば発光効率の向上や、発光波長を変化させるために加えられる。なお有機物は、低分子化合物でも高分子化合物でもよく、発光層は、ポリスチレン換算の数平均分子量が、10〜10である高分子化合物を含むことが好ましい。発光層を構成する発光材料としては、例えば以下の色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料、ドーパント材料を挙げることができる。
【0109】
なお本発明においてポリスチレン換算の「数平均分子量」及び「重量平均分子量」は、サイズエクスクルージョンクロマトグラフィー(SEC)(島津製作所製、商品名:LC−10Avp)を用いて求める。測定する試料は、約0.5重量%の濃度になるようにテトラヒドロフランに溶解させ、SECに50μL注入する。SECの移動相としてはテトラヒドロフランを用い、0.6mL/分の流速で流す。カラムとしては、TSKgel SuperHM−H(東ソー製)2本とTSKgel SuperH2000(東ソー製)1本を直列に繋げたものを用いる。検出器には示差屈折率検出器(島津製作所製、商品名:RID−10A)を用いる。
【0110】
(色素系材料)
色素系材料としては、例えばシクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマー、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体などを挙げることができる。
【0111】
(金属錯体系材料)
金属錯体系材料としては、例えばTb、Eu、Dyなどの希土類金属、またはAl、Zn、Be、Ir、Ptなどを中心金属に有し、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを配位子に有する金属錯体を挙げることができ、例えばイリジウム錯体、白金錯体などの三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミニウムキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、フェナントロリンユーロピウム錯体などを挙げることができる。
【0112】
(高分子系材料)
高分子系材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、上記色素系材料や金属錯体系発光材料を高分子化したものなどを挙げることができる。
【0113】
発光層としての第2の層上には、陰極を直接積層してもよく、また素子特性および工程数などを考慮して必要に応じて、第2の層と陰極との間に所定の層を設けてもよい。例えば第2の層と陰極との間には、電子輸送層、電子注入層および正孔ブロック層などが適宜設けられる。電子注入層と電子輸送層との両方の層が設けられる場合、陰極に接する層を電子注入層といい、陰極に接する電子注入層を除く層を電子輸送層という。
【0114】
電子注入層は、陰極からの電子注入効率を改善する機能を有する。電子輸送層は、陰極、電子注入層または陰極により近い電子輸送層からの電子注入を改善する機能を有する層である。正孔ブロック層は、正孔の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお電子注入層、及び/又は電子輸送層が正孔の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が正孔ブロック層を兼ねることがある。
【0115】
(電子輸送層)
電子輸送層を構成する電子輸送材料としては、公知のものを使用でき、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタンもしくはその誘導体、ベンゾキノンもしくはその誘導体、ナフトキノンもしくはその誘導体、アントラキノンもしくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタンもしくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレンもしくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、又は8−ヒドロキシキノリンもしくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリンもしくはその誘導体、ポリキノキサリンもしくはその誘導体、ポリフルオレンもしくはその誘導体などを挙げることができる。
【0116】
これらのうち、電子輸送材料としては、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノンもしくはその誘導体、アントラキノンもしくはその誘導体、又は8−ヒドロキシキノリンもしくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリンもしくはその誘導体、ポリキノキサリンもしくはその誘導体、ポリフルオレンもしくはその誘導体が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ベンゾキノン、アントラキノン、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ポリキノリンがさらに好ましい。
【0117】
電子輸送層の成膜法としては特に制限はないが、低分子の電子輸送材料では、粉末からの真空蒸着法、または溶液もしくは溶融状態からの成膜を挙げることができ、高分子の電子輸送材料では溶液または溶融状態からの成膜を挙げることができる。なお溶液または溶融状態からの成膜する場合には、高分子バインダーを併用してもよい。溶液から電子輸送層を成膜する方法としては、正孔輸送層の項で例示した塗布法を用いることができ、後述の特定の凸版印刷法を用いることが好ましい。電子輸送層の厚さは、通常1〜100nmであり、好ましくは1〜40nmである。
【0118】
(電子注入層)
電子注入層を構成する材料としては、発光層の種類に応じて最適な材料が適宜選択され、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のうちの1種類以上含む合金、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物、またはこれらの物質の混合物などを挙げることができる。アルカリ金属、アルカリ金属の酸化物、ハロゲン化物、および炭酸化物の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、酸化カリウム、フッ化カリウム、酸化ルビジウム、フッ化ルビジウム、酸化セシウム、フッ化セシウム、炭酸リチウムなどを挙げることができる。また、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属の酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、炭酸マグネシウムなどを挙げることができる。電子注入層は、2層以上を積層した積層体で構成されてもよく、例えばLiF/Caなどを挙げることができる。電子注入層は、蒸着法、スパッタリング法、印刷法などにより形成される。電子注入層の膜厚としては、1nm〜1μm程度が好ましい。
【0119】
[各層の形成方法]
本実施形態では、第1の層、第2の層、正孔輸送層、および電子輸送層などのうち、少なくとも第2の層を特定の塗布法により形成する。特に第2の層以外にも、塗布法によって形成することが可能な層を、全て特定の塗布法により形成することが好ましく、有機物を含む有機層を特定の塗布法により形成することが好ましい。発光材料を含んで構成される第2の層は、有機層に相当し、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層、および電子輸送層なども、有機物を含んでいれば有機層に相当する。特定の塗布方法により層を形成する工程とは、第2の層を一例として説明すると、第2の層が形成される層形成領域に対応する形状を有する凸部を備え、当該凸部の表面部に複数本の凹溝が形成された凸版印刷版を用いて、凸版印刷法により、前記前記発光材料を含むインキを前記層形成領域に供給し、第2の層を形成する工程である。
【0120】
上記特定の塗布方法により層を形成する工程(層形成工程)を以下に図を参照しつつ説明する。以下の説明においては、例として第2の層を形成する工程に沿って特定の塗布法を説明するが、第2の層以外の層であっても第2の層と同様にして特定の塗布法によって形成することができる。
【0121】
(層形成工程)
従来の有機EL素子の製造方法における層の形成工程では、図1に示すように、開放端(先端面)側の表面が平面状であって、第2の層の形成領域に対応する形状および寸法に形成された凸部2を有する凸版印刷板1を用い、この凸部2の先端面2aに発光材料を含むインキ(以下、有機発光インキという場合がある。)3を付着させ、この有機発光インキ3を前記第2の層が形成される領域に転写していた。
【0122】
これに対して本実施形態では、図2に示すように、第2の層の形成される層形成領域に対応する形状の凸部12を備え、当該凸部12の表面部に複数本の凹溝12bが形成された凸版印刷版11を用いて、有機発光材料と溶媒とを含む有機発光インキを前記層形成領域に塗布することで第2の層を形成する。複数本の凹溝12bは、前記凸部12の表面部においてそれぞれ短手方向に所定の間隔をあけて略平行に配置されることが好ましく、さらには前記所定の間隔が、一定の間隔であることが好ましい。ここで短手方向とは、凹溝の深さ方向、および凹溝の延伸する方向(長手方向)にそれぞれ垂直な方向である。以下、隣接して配置される凹溝12bと凹溝12bとの間の部位を凸条12aという。したがって凸条12aの幅とは、前記所定の間隔または前記一定の間隔に相当する。複数本の凹溝12bを短手方向に所定の間隔をあけて略平行に配置すると、表面部において凹溝12bと凸条12aとが交互に形成される。なお層形成領域に対応する形状とは、凸部12の表面の輪郭が、層形成領域の輪郭と略一致する形状である。このような凹溝12bが凸部12に形成された凸版印刷版11を用いて、凸部12に付着させた有機発光インキ3を層形成領域に転写することにより、膜厚が均一な塗布膜を形成することができ、ひいては膜厚が均一な第2の層を形成することができる。
【0123】
複数本の凹溝12bの長手方向の少なくとも一端は、前記凸部12の側面において開放していることが好ましい。すなわち複数本の凹溝12bの長手方向の少なくとも一端が、前記凸部12の側面にまで達するように凹溝12bが形成されていることが好ましく、さらには前記凸部12の表面部において、凹溝12bが、凸部12の両側面間にわたって形成されることが好ましい。有機発光インキがその表面に付着した凸部12を基板に押圧した後に、当該凸部12が層形成領域から引き離されるときには、凸部12と基板との間に介在する有機発光インキに負圧が生じる。しかしながら複数本の凹溝12bが凸部12に形成されているので、この凹溝12bに空気が流れ込みやすくなることによって、有機発光インキの転写時に生じる負圧を緩和することができ、その結果として、有機発光インキの塗膜の膜厚が均一になるものと推察される。特に凹溝12bの長手方向の少なくとも一端が開放されている場合には、凹溝12bの開放端から凹溝12bに空気がより流れ込みやすくなるため、転写された有機発光インキの塗膜の膜厚がより均一になるものと推察される。
【0124】
前記凸条12aの短手方向の寸法と凹溝12bの短手方向の寸法、すなわちラインアンドスペースの寸法の好適な範囲は、インキ濃度、粘度、溶媒蒸発速度等に応じて適宜設定される。図3を参照して説明すると、前記凸条12aの高さ寸法(凹溝12bの深さ)hとしては、5μm〜50μmが好ましく、凸条12aの幅寸法(ラインの幅寸法)としては10μm〜100μmが好ましく、凹溝12bの幅寸法(スペースの幅寸法、凹溝の短手方向の幅)としては10μm〜100μmが好ましい。
【0125】
前記凹溝12bの長手方向(ストライプの形成方向)は、凸版印刷の印刷方向に平行であることが好ましい。
【0126】
なお層形成領域の寸法は1cm×1cm以上であることが好ましい。このような広い面積であっても、有機発光インキを均一な膜厚に塗布することができるので、膜厚が均一な発光層を形成することができ、輝度ムラが抑制された広い発光面積を有する有機EL素子を塗布法で簡易に製造することができる。
【0127】
以上では第2の層を特定の凸版印刷法によって形成する方法を説明したが、第2の層以外にも、第1の層、正孔輸送層、電子輸送層等を、上述の特定の凸版印刷法を用いて形成することが好ましい。
【0128】
上記の溶液から成膜する凸版印刷法には、各層を構成する材料と、溶媒とを含むインキが用いられる。溶媒の種類は特に制限されないが、インキを構成する溶媒以外の成分を溶解又は均一に分散できるものが好ましい。溶媒としては、クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等の塩素系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−へプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン等の脂肪族炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル系溶媒;エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジメトキシエタン、プロピレングリコール、ジエトキシメタン、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、グリセリン、1,2−ヘキサンジオール等の多価アルコール及びその誘導体;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、シクロヘキサノール等のアルコール系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒が例示される。なお前記溶媒は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0129】
またインキにおける溶媒の割合は、好ましくは60重量%〜99.5重量%であり、さらに好ましくは80重量%〜99.0重量%である。
【0130】
(陰極)
陰極の材料としては、仕事関数が小さく、発光層(第2の層)への電子注入が容易な材料が好ましく、電気伝導度および可視光反射率の高い材料が好ましい。このような陰極材料としては、金属、金属酸化物、合金、グラファイトまたはグラファイト層間化合物、酸化亜鉛(ZnO)等の無機半導体などを挙げることができる。
【0131】
上記金属としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属や周期表13属金属等を用いることができる。これら金属の具体的例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウム等を挙げることができる。
【0132】
また合金としては、上記金属の少なくとも一種を含む合金を挙げることができ、具体的には、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金等を挙げることができる。
【0133】
陰極は、必要に応じて透明電極とされるが、それらの材料としては、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、IZOなどの導電性酸化物、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの導電性有機物を挙げることができる。
【0134】
なお陰極を2層以上の積層構造としてもよい。また電子注入層が陰極として用いられる場合もある。
【0135】
陰極の膜厚は、電気伝導度や耐久性などを考慮して適宜決定することができ、例えば10nm〜10μmであり、好ましくは、20nm〜1μmであり、さらに好ましくは、50nm〜500nmである。
【0136】
本実施形態の有機EL素子の層構成の例を以下に示す。なお以下の例において第1の層は正孔注入層に相当し、第2の層は発光層に相当する。
a)陽極/第1の層/第2の層/陰極
b)陽極/第1の層/第2の層/電子注入層/陰極
c)陽極/第1の層/第2の層/電子輸送層/陰極
d)陽極/第1の層/第2の層/電子輸送層/電子注入層/陰極
e)陽極/第1の層/正孔輸送層/第2の層/陰極
f)陽極/第1の層/正孔輸送層/第2の層/電子注入層/陰極
g)陽極/第1の層/正孔輸送層/第2の層/電子輸送層/陰極
h)陽極/第1の層/正孔輸送層/第2の層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(ここで、記号「/」は、記号「/」を挟む各層が隣接して積層されていることを示す。以下同じ。)
【0137】
また、本実施形態の有機EL素子は、2層以上の発光層を有していてもよく、2層の発光層を有する有機EL素子としては、以下のi)に示す層構成を挙げることができる。
i)陽極/第1の層/正孔輸送層/第2の層/電子輸送層/電荷注入層/電荷発生層/電荷注入層/正孔輸送層/第2の層/電子輸送層/電荷注入層/陰極
【0138】
また、3層以上の発光層を有する有機EL素子としては、具体的には、(電荷発生層/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層)を一つの繰り返し単位Yとして、以下のj)に示す前記繰り返し単位を2つ以上含む層構成を挙げることができる。
j)陽極/第1の層/正孔輸送層/第2の層/電子輸送層/電荷注入層/(繰り返し単位Y)/(繰り返し単位Y)/・・・/陰極
【0139】
上記層構成i)およびj)において、陽極、電極、陰極、発光層以外の各層は必要に応じて削除することができる。
【0140】
ここで、電荷発生層とは、電界を印加することにより、正孔と電子を発生する層である。電荷発生層としては、例えば酸化バナジウム、ITO、酸化モリブデンなどから成る薄膜を挙げることができる。
【0141】
本発明の有機EL素子において、層全体の厚さは、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧、発光効率、素子寿命が適度な値となるように適宜決定され、例えば30nm〜1μmであり、好ましくは40nm〜500nmであり、さらに好ましくは60nm〜400nmである。
【0142】
(保護層)
陰極作製後、該有機EL素子を保護する保護層を設けてもよい。
(隔壁および絶縁膜)
基板上に複数の有機EL素子を離散的に形成する場合、各有機EL素子を電気的に絶縁するための隔壁及び/又は絶縁膜を設けてもよい。例えば絶縁層及び/又は隔壁は、基板上において格子状に形成される。なお凸版印刷板などによって供給されるインキを収容する堰堤として隔壁を設けてもよい。隔壁、及び/又は絶縁膜は、例えば第1の層が形成される直前の工程、または直後の工程において形成される。
【0143】
[有機EL素子の用途]
本発明の有機EL素子は、面状光源、照明装置、液晶表示装置のバックライト等の光源として用いることができる。
【0144】
さらに、前記面状の発光素子は、自発光薄型であり、液晶表示装置のバックライト用の面状光源、あるいは面状の照明用光源として好適に用いることができる。また、フレキシブルな基板を用いれば、曲面状の光源や表示装置としても使用できる。
【実施例】
【0145】
以下、本発明をさらに詳細に説明するために作製例及び比較例を示すが、本発明はこれら作製例に限定されるものではない。
【0146】
[合成例1](高分子化合物Aの合成〜正孔輸送性高分子化合物〜)
ジムロートを接続したフラスコに、下記式:
【0147】
【化4】

で表される化合物A:5.25g(9.9mmol)、下記式:
【0148】
【化5】

で表される化合物B:4.55g(9.9mmol)、メチルトリオクチルアンモニウムクロライド(商品名:アリコート(Aliquat)336、アルドリッチ社製):0.91g、及びトルエン69mLを加えて、モノマー溶液を得た。窒素雰囲気下、モノマー溶液を加熱し、80℃で、酢酸パラジウム:2mg、及びトリス(2−メチルフェニル)ホスフィン:15mgを加えた。得られた溶液に、17.5重量%炭酸ナトリウム水溶液:9.8gを注加した後、110℃で19時間攪拌した。そこへ、トルエン1.6mLに溶解したフェニルホウ酸:121mgを加え、105℃で1時間攪拌した。
【0149】
得られた反応液の有機相を水相と分離した後、有機相にトルエン300mLを加えた。
得られた有機相を、3重量%酢酸水溶液40mL(2回)、イオン交換水100mL(1回)の順番で洗浄した。洗浄して得られた有機相に、N,N−ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム三水和物:0.44g、及びトルエン12mLを加え、65℃で4時間攪拌した。
【0150】
あらかじめトルエンを通液したシリカゲル/アルミナカラムに、得られた反応生成物のトルエン溶液を通液し、この溶液をメタノール1400mLに滴下し、ポリマーを沈殿させ、沈殿物を濾過後、乾燥し、固体を得た。この固体をトルエン400mLに溶解させ、得られた溶液をメタノール1400mLに滴下し、ポリマーを沈殿させ、沈殿物を濾過後乾燥し、高分子化合物A:6.33gを得た。高分子化合物Aのポリスチレン換算の数平均分子量Mnは8.8×104であり、重量平均分子量Mwは3.2×105であった。高分子化合物Aは、仕込み原料から、下記2つの式:
【0151】
【化6】

【0152】
【化7】

でそれぞれ表される2種の繰り返し単位を、1:1(モル比)で有してなるものと推測される。高分子化合物AのHOMOのエネルギーレベルは、5.4eVであった。
【0153】
(作製例1)
(陽極を有する基板の準備)
スパッタ法により150nmの厚みでITO膜(陽極)を付けたガラス基板をUVオゾン装置(テクノビジョン社製)を用いてUVオゾン処理を20分間行った。
【0154】
(陽極の表面の末端基又は原子と反応する反応性基Xを有する化合物の溶液の調製)
メタノール:水=95:5混合溶媒(重量比)に、式(1)で表される化合物として3−アミノプロピルトリメトキシシラン(アズマックス社製,式(1)においてMがSi,XがCH−O−,Rが3−アミノプロピルである。)を0.07重量%の濃度で溶解させた溶液Xsを調製した。この溶液のpHをpHメーターにより確認したところ10.41(弱アルカリ性)であった。
【0155】
(第1の層の形成)
上記基板上に、上記溶液Xsを用い、スピンコート法により2000rpmの速度で塗膜を形成した。塗膜を形成した基板を大気下、ホットプレート上で110℃、30分間加熱して、前記塗膜を乾燥し、薄膜(未処理層)を得た。
前記薄膜を形成した基板を室温まで冷却後、UVオゾン装置を用いて、前記薄膜(未処理層)にUVオゾン処理を20分間行い(UVの照射量:10J/cm2)、前記ITO膜を付けたガラス基板上に第1の層を形成した。この第一の層の平均膜厚を測定したところ、平均膜厚は10nm以下であった。
【0156】
(正孔輸送層の形成)
高分子化合物Aを固形分濃度が約0.5重量%になるように前記高分子化合物Aのキシレン溶液を調製し、このキシレン溶液を、上記第1の層上にスピンコート法により塗布し、約10nm以下の厚みの塗膜を得た。この塗膜を窒素雰囲気下で200℃、15分間加熱して乾燥し、正孔輸送層を得た。
【0157】
(第2の層の形成)
次に、前記正孔輸送層の上に、発光層(第2の層)を形成した。発光材料には「Lumation BP361」(商品名、Sumation社製)を用いた。「Lumation BP361」を固形分濃度が約1.2重量%となるように調製したキシレン溶液(発光材料インキ)を用い、スピンコート法により80nmの厚みで、正孔輸送層の上に成膜した。この塗膜を、窒素雰囲気下、130℃で20分乾燥して、発光層(第2の層)を得た。
【0158】
(陰極の形成)
上記発光層上に、バリウムを約5nm、次いでアルミニウムを約100nm蒸着することにより、陰極を形成した。なお、この陰極形成工程では、真空度が、1×10-4Pa以下に到達した後、金属の蒸着を開始した。
【0159】
(有機EL素子の評価)
上述のようにして得られた有機EL素子の陽極の材料のHOMOエネルギーレベルは、5.1eVであった。得られた有機EL素子に電圧を印加したところ、「Lumation BP361」由来のピーク波長470nmの青色の発光を示した。また、1cd/cm2となる発光開始電圧は2.9Vであり、最大発光効率は7.5cd/Aであった。さらに、この素子を電流密度35.25mA/cm一定で駆動したところ、初期輝度が2430cd/mであり、輝度が半減するまでの時間は約52時間であった。
【0160】
(比較例1)
作製例1と同様にして、3−アミノプロピルトリメトキシシランの成膜を行った後、基板を大気下、ホットプレート上で110℃、30分間加熱して、未処理層を得た。
次いで、室温まで冷却後、未処理層のUVオゾン処理を作製例1のようには行なわず、その代わりに、酸素プラズマ装置を用いて、プラズマ出力100W、圧力0.5Pa、酸素流量40sccmの条件の下、2分間、未処理層のプラズマ処理を行った。それ以外は、作製例1と同様にして、有機EL素子を作製した。
【0161】
(有機EL素子の評価)
得られた素子に電圧を印加したところ、「Lumation BP361」由来のピーク波長470nmの青色の発光を示した。また、1cd/cm2となる発光開始電圧は9.1Vであり、最大発光効率は0.07cd/Aであった。この素子を電流密度35.25mA/cm一定で駆動したところ、初期輝度が11cd/mであり、輝度が半減するまでの時間は約1時間であった。
【0162】
(比較例2)
(正孔注入層(第1の層)の作成)
スパッタ法により150nmの厚みでITO膜(陽極)を付けたガラス基板に、ポリ(3,4)エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(Bayer製、商品名「Baytron P CH8000」)の懸濁液を、スピンコートにより80nmの厚みで成膜し、ホットプレート上で200℃、10分間加熱して、正孔注入層(第1の層)を得た。「Baytron P CH8000」のpHをpHメーターにより確認したところ2.09(強酸性)であった。
【0163】
(正孔輸送層の作成)
室温に冷却した後、高分子化合物Aを固形分濃度が約0.5重量%になるように調製したキシレン溶液を用い、スピンコート法により約10nmの厚みで基板上に成膜した。その後、窒素雰囲気下で200℃、15分間加熱した。
【0164】
(発光層および陰極の形成)
次いで、作製例1と同様にして、発光層(第2の層)および陰極を形成し、有機EL素子を得た。
【0165】
(有機EL素子の評価)
得られた素子に電圧を印加したところ、「Lumation BP361」由来のピーク波長470nmの青色の発光を示した。また、1cd/cm2となる発光開始電圧は3.1Vであり、最大発光効率は7.9cd/Aであった。この素子を電流密度33.5mA/cm一定で駆動したところ、初期輝度が2400cd/mであり、輝度が半減するまでの時間は約41時間であった。
【0166】
(比較例3) (正孔注入層(第1の層)の作成)
スパッタ法により150nmの厚みでITO膜を付けたガラス基板をUVオゾン装置(テクノビジョン社製)を用いてUVオゾン処理を20分間行った。この基板上に、メタノール:水=95:5混合溶媒(重量比)に3−アミノプロピルトリメトキシシラン(アズマックス社製)を1.0重量%の濃度で溶解させて調製した溶液を用い、スピンコート法により1000rpmの速度で成膜した(第1の層)。第1の層の平均膜厚を測定したところ、平均膜厚は35nmであった。成膜後、基板を大気下、ホットプレート上で110℃、30分間加熱した。
【0167】
(正孔輸送層の作成)
室温まで冷却後、UVオゾン装置を用いて、UVオゾン処理を20分間行った(UVの照射量:10J/cm2)。この基板上に、高分子化合物Aを固形分濃度が約0.5重量%になるように調製したキシレン溶液を用い、スピンコート法により約10nm以下の厚みで基板上に成膜した後、窒素雰囲気下で200℃、15分間加熱した。
【0168】
(発光層および陰極の形成)
次いで、作製例1と同様にして、UVオゾン処理、発光層(第2の層)を形成し、有機EL素子を作製した。
【0169】
(有機EL素子の評価)
得られた素子に電圧を印加したところ、「Lumation BP361」由来のピーク波長470nmの青色の発光を示した。しかし、1cd/m2となる発光開始電圧は8.6Vであり、最大発光効率は0.43cd/Aであった。この素子を電流密度250mA/cm一定で駆動したところ、初期輝度が1820cd/mであり、輝度が半減するまでの時間は約2時間であった。
【0170】
(比較例4)
(正孔注入層(第1の層)の作成)
スパッタ法により150nmの厚みでITO膜を付けたガラス基板をUVオゾン装置(テクノビジョン社製)を用いてUVオゾン処理を20分間行った。この基板上に、メタノール:水=95:5混合溶媒(重量比)に3−アミノプロピルトリメトキシシラン(アズマックス社製)を5.0重量%の濃度で溶解させて調製した溶液を用い、スピンコート法により1000rpmの速度で成膜した(第1の層)。第1の層の平均膜厚を測定したところ、平均膜厚は130nmであった。成膜後、基板を大気下、ホットプレート上で110℃、30分間加熱した。
【0171】
(正孔輸送層の作成)
室温まで冷却後、UVオゾン装置を用いて、UVオゾン処理を20分間行った(UVの照射量:10J/cm2)。この基板上に、高分子化合物Aを固形分濃度が約0.5重量%になるように調製したキシレン溶液を用い、スピンコート法により約10nm以下の厚みで基板上に成膜した後、窒素雰囲気下で200℃、15分間加熱した。
【0172】
(発光層および陰極の形成)
次いで、作製例1と同様にして、発光層(第2の層)を形成し、有機EL素子を作製した。
【0173】
(有機EL素子の評価)
得られた素子に電圧を印加したが、15Vの電圧をかけても、この素子は1cd/m2に達しなかった。
【0174】
(作製例1と比較例1,2,3,4の比較検討)
作製例1では、有機EL素子における第1の層の作製に用いる溶液が弱酸性系であり、かつUVオゾン処理という簡便な方法により第1の層を形成することができるので、作業性が著しく優れていた。得られた素子の寿命(輝度半減寿命)は約52時間であり、長寿命であると認められた。
比較例1では、有機EL素子における第1の層の形成において、酸素プラズマ処理という煩雑な真空プロセスが必要であり、作業性が悪かった。得られた素子の寿命(輝度半減寿命)は約1時間であり、実用性には乏しい。
比較例2では、有機EL素子における第1の層の作製に用いる溶液が強酸性系であるので、作業性が悪かった。得られた素子の寿命(輝度半減寿命)は約41時間であり、作製例1の有機EL素子の寿命(輝度半減寿命)と比較して20%程度劣っていた。
比較例3では、第一の層の平均膜厚が35nmであり、所定の平均膜厚を満たしていない結果、得られた素子が1cd/m2となる発光開始電圧が5.7Vも高く、最大発光効率も1/10以下であり、寿命(輝度半減寿命)も約2時間と著しく短かった。
比較例4では、第一の層の平均膜厚が130nmであり、所定の平均膜厚を満たしていない結果、得られた素子は、15Vの電圧をかけても、ほとんど発光しなかった。
【0175】
以下の作製例2,3では、本発明の有機EL素子の製造方法における特徴の一つである発光層の形成方法による効果を確認するために、本発明で用いる特定形状の凸版印刷板、即ち印刷方向に対応する方向に延伸する凹溝が複数形成されている凸部を有する凸版印刷版を用いてガラス基板上に有機発光インキを塗布し、製膜特性を確認した。
【0176】
(作製例2)
印刷方向に対応する方向に延伸する凹溝が複数形成されている凸部を有する凸版印刷版を用いて、ガラス基板上に有機発光インキを塗布した。ガラス基板には、200mm(縦)×200mm(横)×0.7mm(厚み)の透明ガラス板を用いた。
またインキとして、アニソールとシクロへキシルベンゼンとを重量比1:1で混合した混合溶媒に、高分子発光材料(サメイション製、商品名「GP1300」)を溶解して有機発光インキを調整した。有機発光インキにおける高分子発光材料の濃度を1重量%とした。
【0177】
印刷に用いた印刷機は、日本写真印刷(株)製の「オングストローマーSDR−0023(商品名)、版ドラム直径:80mm」であった。印刷速度は50mm/秒とした。
版と基板とが接触する状態を印刷押し込み量0μmとして、その位置から版を50μm押し付けた状態(印刷押し込み量=50μm)で印刷した。
【0178】
印刷版としてポリエステル系樹脂製のフレキソ印刷版(凸版印刷版)を用いた。このフレキソ印刷版の表面部には、等間隔で配置された複数本の凹溝が形成されている。凸条の短手方向の幅(ライン)は、40μmであり、凹溝の短手方向の幅(スペース)は、40μmであった(ライン/スペース=40μm/40μm)。凸条の高さは15μmであった。
【0179】
(作製例3)
フレキソ印刷版のみを異ならせて、作製例2と同様にガラス基板上に有機発光インキを塗布した。
用いたフレキソ印刷版の表面部には、等間隔で配置された複数本の凹溝が形成されている。凸条の短手方向の幅(ライン)は、30μmであり、凹溝の短手方向の幅(スペース)は、50μmであった(ライン/スペース=30μm/50μm)。凸条の高さは15μmであった。
【0180】
(比較例5)
フレキソ印刷版のみを異ならせて、作製例2と同様にガラス基板上に有機発光インキを塗布した。フレキソ印刷版には、表面が平坦な版(ベタ版)を用いた。
【0181】
(比較例6〜10)
フレキソ印刷版のみを異ならせて、作製例2と同様にガラス基板上に有機発光インキを塗布した。比較例6〜10では、網版を用いた。比較例6、7、8、9、10では、それぞれ100/インチ、200/インチ、400/インチ、600/インチ、900/インチの網版を用いた。網点の高さは15μmであった。
【0182】
(評価)
紫外線を印刷物に当て、塗布膜からの蛍光(PL)の強度分布を光学顕微鏡で観察し、印刷膜厚分布(印刷ムラ)を評価した。この評価結果を(表1)に示す。
【0183】
【表1】

なお、(表1)において、記号「○」は、印刷ムラがなかったことを表し、記号「×」は、印刷ムラがあったことを表す。
【0184】
以上の結果から、凸版印刷版の凸部表面に複数本の凹溝を形成することにより、均一な膜厚で有機発光インキを塗布できることが確認された。
【符号の説明】
【0185】
3 有機発光インキ
11 凸版印刷版
12 凸部
12a 凸条
12b 凸溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、該陽極上に設けられた第1の層と、発光材料を含有する第2の層と、陰極とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
陽極がパターン形成された基板を用意する工程と、
前記陽極表面に存在する基又は原子に対する反応性基Xを有する化合物を含有する溶液を、前記陽極表面に接触させて前記陽極上に未処理層を形成した後、該未処理層をUVオゾン処理により改質して平均膜厚が10nm以下の第1の層を形成する第1の層形成工程と、
前記第2の層が形成される層形成領域に対応する形状を有する凸部を備え、当該凸部の表面部に複数本の凹溝が形成された凸版印刷版を用いて、凸版印刷法により、前記発光材料を含むインキを前記層形成領域に供給し、第2の層を形成する工程と、
陰極を形成する工程とを含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項2】
前記反応性基Xを有する化合物が、下記式(1)で表される化合物及びその部分加水分解縮合物、下記式(2)で表される1価の基を持つ化合物及びその部分加水分解縮合物、並びに下記式(3)で表される繰り返し単位からなる化合物及びその部分加水分解縮合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
1(X)v1(Ra)u-v1 (1)
−M2(X)v2(Ra)u-v2-1 (2)
−[Si(X)w(Ra)2-w−O]− (3)
(式(1)中のM1は、周期表の4族、5族、6族、13族、14族、もしくは15族に属する金属原子、又は炭素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子、もしくは鉛原子を表す。式(2)中のM2は、周期表の4族、5族、6族、13族、14族又は15族に属する金属原子を表す。全式に共通するXは、陽極の表面に存在する基又は原子に対する反応性基(反応性を有する基又は原子)を表す。また、全式に共通するRaは、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、又はアリールアルキニル基を表す。Raで表される基は、置換基を有していてもよい。v1は、1以上u以下の整数である。v2は、1以上u−1以下の整数である。wは、1又は2である。uは、M1又はM2の原子価を表す。Xが複数存在する場合には、それらは同一であっても異なっていてもよい。Raが複数存在する場合には、それらは同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項3】
前記反応性基Xを有する化合物が、前記式(2)で表され、Mがケイ素原子である1価の基を持つ化合物及びその部分加水分解縮合物、並びに前記式(3)で表される繰り返し単位からなる化合物及びその部分加水分解縮合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であることを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項4】
前記反応性基Xを有する化合物が、前記式(1)で表され、M1がチタン原子である化合物及びその部分加水分解縮合物、並びに前記式(2)で表され、M2がチタン原子である1価の基を持つ化合物及びその部分加水分解縮合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であることを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項5】
前記反応性基Xを有する化合物が、前記式(1)で表され、M1がケイ素原子である化合物及びその部分加水分解縮合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であることを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項6】
前記UVオゾン処理におけるUVの照射量が1J/cm以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項7】
前記未処理層を形成する前に前記陽極をUVオゾン処理することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項8】
前記複数本の凹溝の長手方向の少なくとも一端が前記凸部の表面の側端に開放していることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項9】
前記層形成領域の寸法が1cm×1cm以上であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法を用いて得られた有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
請求項10に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする照明装置。
【請求項12】
請求項10に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする面状光源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−277794(P2010−277794A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128185(P2009−128185)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】