説明

有機エレクトロルミネッセンス装置、有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法、および電子機器

【課題】高分子発光層に対して良好な電子注入性と、連続駆動安定性が実現できる陰極構造を備え、高品質な有機エレクトロルミネッセンス装置を提供する。
【解決手段】画素電極30と陰極60との間に有機発光層46を挟持した発光素子を備える有機エレクトロルミネッセンス装置1であって、有機発光層46の形成材料は、重合体の発光性高分子化合物を含み、有機発光層46と陰極60との間に有機発光層46と接して設けられた、アルカリ金属または仕事関数が2.9eV以下のアルカリ土類金属を含む金属含有層52と、金属含有層52と陰極60との間に金属含有層52と接して設けられた、重合による繰り返し構造を備えない電子輸送性の低分子化合物を形成材料とする電子輸送層54と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス装置、その製造方法、および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
情報機器の多様化等に伴い、消費電力が少なく軽量化された平面表示装置のニーズが高まっている。この様な平面表示装置の一つとして、有機発光層を備えた有機エレクトロルミネッセンス装置(以下「有機EL装置」という)が知られている。
【0003】
有機EL装置が備える有機発光層の形成材料としては、正孔および電子を注入することが可能であり、且つ、注入した正孔と電子が内部を移動し再結合して、HOMO(Highest Occupied Molecular Orbital:最高占有軌道)とLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital:最低非占有軌道)のエネルギーレベル差に応じた発光を行う事が可能であれば、低分子化合物(低分子材料)、高分子化合物(高分子材料)のいずれも用いることができる。ここで、本明細書中において「低分子」とは、構造中に重合による繰り返し部分を有さない分子であることを意味し、「高分子」とは、繰り返し分子構造を有する重合体のことを意味する。
【0004】
上記形成材料を比較すると、最初に発光現象が確認された有機材料が低分子材料であったこともあり、低分子材料を形成材料とした有機EL装置(低分子型有機EL装置)の方が、商品化可能なレベルにまで開発が先行している。しかし、低分子材料は剛直な骨格を有する分子が多く、有機溶媒に対する溶解性が低いものが多い。そのため、有機発光層の形成には、例えば真空蒸着法のような気相反応を用い、形成パターンに応じたマスクパターニングなどを行う必要がある。
【0005】
一方、高分子材料の発光材料は、有機溶媒に対する溶解性が比較的高いものが多く、液滴吐出法などの湿式塗布法を用いて所望の位置、形成パターンに作り分けた有機発光層を容易に形成することが可能である。この特長を活かし、低コストで高解像度・高品質な有機EL装置を実現することが期待されている。
【0006】
ところで、有機EL装置を良好に発光させて安定駆動させるためには、有機発光層への電子注入を行う陰極の構造が大きな影響を与えることが知られている。電子注入性の良否は、主に陰極と有機発光層とのエネルギーレベル差が大きい事(エネルギー障壁)に起因しており、電子注入性を向上させるために、様々な陰極構造の検討が成されている(例えば特許文献1から7参照)。
【特許文献1】特開2005−135624号公報
【特許文献2】特開昭60−165771号公報
【特許文献3】特開平04−212287号公報
【特許文献4】特開平05−121172号公報
【特許文献5】特開平09−32763号公報
【特許文献6】特開2005−203337号公報
【特許文献7】特許第2760347号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
有機発光層に高分子材料の形成材料を用いた有機EL装置(高分子型有機EL装置)では、有機発光層への電子注入性の確保、反応性が高い低仕事関数の金属の劣化抑制、低シート抵抗化などの多くの課題を抱えており、上記特許文献でもこれらの課題を解決するための技術を提案している。一方で、低分子型有機EL装置は開発が先行しており、陰極構造もほぼ確立している。そのため、高分子型有機EL装置に、開発が先行している低分子型有機EL装置の陰極構造を適用できれば、技術的に大きな飛躍が期待できる。
【0008】
高分子型有機EL装置と低分子型有機EL装置との、構造上の大きな違いとしては、陰極から有機発光層への電子注入を促進するための電子輸送層の存在が挙げられる。低分子型有機EL装置では、Alq(tris-(8-quinolinolato) aluminum)等の電子輸送性を有する低分子材料を用い、電子輸送層を設けることが多い。このような構成にすることで、有機発光層への電子注入を良好に行い、発光効率を高めている。しかしながら、そのような電子輸送層を高分子型有機EL装置に適用する技術は、上記特許文献1から7には示されていない。
【0009】
そのため発明者は、高分子型有機EL装置にも電子輸送層を設けることを着想したが、多くの導電性高分子材料は正孔が移動しやすいp型であり、電子が移動しやすいn型の導電性高分子は少ない。その上、電子輸送性の高分子材料を成膜するために湿式塗布法を用いると、電子輸送性の高分子材料を溶解する有機溶媒が有機発光層を溶解してしまうために明確な界面とならず、良好な層構造が形成できない。
【0010】
そこで発明者は、高分子材料の有機発光層に、低分子材料であるAlq層と陰極とを積層した有機EL装置を作成し発光状態を確認した。しかし、このような陰極構造の有機EL装置では、良好な発光が得られなかった。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、高分子発光層に対して良好な電子注入が可能であり、且つ、低分子発光層を用いた有機EL素子の陰極構造を適用することにより、良好な駆動安定性を備えた有機エレクトロルミネッセンス装置およびその製造方法を提供することを目的とする。更に、このような有機エレクトロルミネッセンス装置を備える電子機器を提供することを合わせて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者は様々な検討を重ねた結果、低分子材料を用いた電子輸送層と高分子材料を用いた有機発光層との界面における電子の移動(電子注入)を行うために、新たな層を設けるという発想に至った。
【0013】
即ち、上記の課題を解決するため、本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置は、陽極と陰極との間に有機発光層を挟持した発光素子を備える有機エレクトロルミネッセンス装置であって、前記有機発光層の形成材料は、重合体の発光性高分子化合物を含み、前記有機発光層と前記陰極との間に前記有機発光層と接して設けられた、アルカリ金属または仕事関数が2.9eV以下のアルカリ土類金属を含む金属含有層と、前記金属含有層と前記陰極との間に前記金属含有層と接して設けられた、重合による繰り返し構造を備えない電子輸送性の低分子化合物を形成材料とする電子輸送層と、を有することを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、電子輸送層と有機発光層との界面での電子注入を、低仕事関数の金属材料を含んで形成された金属含有層が促進し、陰極側からの良好な電子注入を行うことができる。そのため、良好な駆動安定性を確保した有機EL装置とすることができる。
【0015】
ここで、「アルカリ金属または仕事関数が2.9eV以下のアルカリ土類金属を含む」とは、各金属が金属塩ではなく金属材料として存在していることを示す。
【0016】
本発明においては、前記陰極の前記電子輸送層側に、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物またはフッ化物を形成材料とする電子注入層が設けられていることが望ましい。
この構成によれば、陰極から電子輸送層への電子注入が促進され、高効率の発光と安定な連続駆動を実現することができる。
【0017】
本発明においては、前記金属含有層には少なくともCsが含まれていることが望ましい。
この構成によれば、有機発光層に対して正孔注入能に優れた金属含有層とすることができ、有機EL装置の発光特性を優れたものとすることができる。
【0018】
本発明においては、前記有機エレクトロルミネッセンス装置は、前記有機発光層で発せられる光を前記陰極から外部に取り出すトップエミッション方式の発光方式であって、前記陽極は光透過性を有すると共に、前記陽極を挟んで前記有機発光層の反対側には光反射層が配置され、前記陰極は半透過反射性を有し、前記光反射層と前記陰極との間で、前記有機発光層から射出された光を共振させる光共振器構造が構成されており、前記電子輸送層の膜厚により、前記光共振器構造の光路長が制御されていることが望ましい。
この構成によれば、有機発光層から射出された光を共振させる光共振構造を構成することで、各々の有機EL素子からは光反射層と陰極との間の光学的距離に対応した共振波長の条件を満たす光のみが増幅されて取り出される。例えば、赤色(R),緑色(G),青色(B)の各色に対応する共振波長を有する有機EL素子を形成することで、フルカラー表示が可能な有機EL装置とすることができる。また、電子輸送層の厚みを制御することで、好適な光路長の光共振構造を構成することができる。そのため、高性能な有機EL装置を提供することができる。
【0019】
本発明においては、前記有機エレクトロルミネッセンス装置は、異なる波長の光を射出する2以上の前記発光素子を有し、前記電子輸送層は、射出する光の波長に応じて膜厚が設定されており、各々の前記発光素子において、前記光反射層の表面から前記金属含有層の前記電子輸送層側の表面までの合計膜厚が略等しく設定されていることが望ましい。
この構成によれば、射出する波長ごとに好適に制御された光路長とすることができ、良好な共振構造を構築することができる。そのため、各発光素子から射出される光の色純度を高め、高品質な発光が可能な有機EL装置とすることができる。
【0020】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法は、陽極と陰極との間に有機発光層を挟持した発光素子を備え、前記有機発光層と前記陰極との間に前記有機発光層と接する金属含有層が設けられた有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法であって、前記金属含有層は、アルカリ金属または仕事関数が2.9eV以下のアルカリ土類金属から選ばれる金属材料の金属塩を蒸着することにより形成することを特徴とする。
発明者の検討により、この方法によって形成される蒸着膜は金属塩のみで構成される膜ではなく、金属塩を構成する金属材料単体を含む膜(金属含有膜)となることが確かめられている。この方法によれば、大気中での取り扱いが難しい低仕事関数の金属材料を直接取り扱うことなく、所望の金属の蒸着膜を形成することができる。蒸着材料として用いる金属塩は大気中で安定であるために取り扱いが容易であり、作業性が向上する。
【0021】
本発明の電子機器は、上述の有機エレクトロルミネッセンス装置を備えることを特徴とする。
この構成によれば、発光効率が高く長寿命な有機EL装置を備え、信頼性に優れた電子機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
[第1実施形態]
以下、図1を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス装置(有機EL装置)について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の膜厚や寸法の比率などは適宜異ならせてある。
【0023】
図1は、有機EL装置1を模式的に示す断面図である。図に示すように、有機EL装置1は、基板本体10と、基板本体10上に形成された反射層(光反射層)20や不図示の駆動素子等を備える素子層11と、を備える基板10Aと、基板10A上に形成され光透過性を有する画素電極(陽極)30と、画素電極30と平面的に重なる開口部を備えた画素隔壁層12と、画素隔壁層12の上に形成された共通隔壁層14と、を備えている。
【0024】
共通隔壁層14に囲まれた領域には、共通隔壁層14の側壁に当接して発光部40が形成されており、発光部40の上面の全面を覆う共通電極(陰極)50が形成されている。画素電極30と発光部40と陰極60とで有機EL素子(発光素子)70を形成している。
【0025】
発光部40には、画素電極30からの正孔の注入を容易にする正孔注入層42と、正孔注入層42からの正孔の移動を促す正孔輸送層44と、有機発光層46とを備えており、画素電極30上にこの順に積層している。更に、有機発光層46上には、金属含有層52と電子輸送層54とが積層している。
【0026】
陰極60は、共通隔壁層14の頂面及び側壁を覆って電子輸送層54の上面の全面を覆う電子注入層62と、電子注入層62の表面全面を覆う陰極層64と、を備えている。
【0027】
本実施形態の有機EL装置1は、有機発光層46で生じる光Lが、画素電極30を介して外部へ射出されるボトムエミッション方式を採用している。以下、各構成要素について順に説明する。
【0028】
基板本体10は、光透過性を備える透明基板を用いることができる。このような透明基板としては、例えばガラス、石英ガラス、窒化ケイ素等の無機物や、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の有機高分子(樹脂)を用いることができる。また、光透過性を備えるならば、前記材料を積層または混合して形成された複合材料を用いることもできる。本実施形態では、基板本体10の材料としてガラスを用いる。
【0029】
素子層11は、有機EL装置1を駆動させるための各種配線や駆動素子、及び無機物または有機物の絶縁膜などを備えている。各種配線や駆動素子はフォトリソグラフィによりパターニングした後エッチングすることにより、また、絶縁膜は蒸着法やスパッタ法など通常知られた方法により適宜形成することができる。
【0030】
素子層11の上には、画素電極30が形成されている。画素電極30の形成材料には、光透過性を備え、仕事関数が5eV以上の材料を用いることができる。このような材料は、正孔注入効果が高いため画素電極30の形成材料として好ましい。このような材料としては、例えばITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)等の金属酸化物を挙げることができる。本実施形態ではITOを用いる。
【0031】
また、素子層11の上には、画素電極30の端部に一部が乗り上げるように、画素隔壁層12が形成されている。画素隔壁層12は画素電極30に対応する開口部を備えており、該開口部内に画素電極30が露出している。画素隔壁層12は、酸化シリコンや窒化シリコン等の無機絶縁材料で形成されており、開口部の位置に対応するマスクを介したエッチング等の公知の方法で形成することができる。
【0032】
画素隔壁層12上には、画素電極30の周囲を囲むように共通隔壁層14が形成されている。共通隔壁層14は、断面形状が順テーパ状に形成されている。そのため、共通隔壁層14で囲まれた空間は、下部よりも上部が広く開口している。共通隔壁層14は、例えば光硬化性のアクリル樹脂やポリイミド樹脂等で形成される。
【0033】
共通隔壁層14に囲まれた領域の底面に露出した面(ここでは画素電極30と画素隔壁層12の一部)には、共通隔壁層14の側壁に当接して、画素電極30からの正孔の注入を容易にする電荷移動層としての正孔注入層42が形成されている。正孔注入層42の形成材料は、通常知られた材料を用いる事ができる。本実施形態ではPEDOT/PSSを用いる。
【0034】
正孔注入層42の上には、共通隔壁層14の側壁に当接して正孔輸送層44が形成され、更に有機発光層46が形成されている。これらの層の形成材料としては、通常知られた材料を用いる事ができる。
【0035】
例えば、正孔輸送層44の形成材料としては、下記の化学式1で示されるADS259BE(American Dye Source社製、商品名)を用いることが出来る。また、有機発光層46の形成材料としては、化学式2で示される緑色発光高分子材料ADS109GE(同社製、商品名)、化学式3で示される赤色発光高分子材料ADS111RE(同社製、商品名)、化学式4で示される青色発光高分子材料ADS136BE(同社製、商品名)を用いることができる。
【0036】
【化1】

【0037】
【化2】

【0038】
【化3】

【0039】
【化4】

【0040】
有機発光層46の上には、共通隔壁層14の頂面および側壁を覆って表面全面に金属含有層52が形成されている。金属含有層52は、アルカリ金属または仕事関数が2.9eV以下のアルカリ土類金属(第1金属材料)の金属塩を蒸着材料として用い、真空蒸着することで形成する。第1金属材料としては、Li,Cs,Ca,Sr,Baを挙げることができる。本実施形態ではCsの炭酸塩であるCsCOを真空蒸着させ、Csを含む薄膜を成膜し金属含有層52を形成した。真空蒸着は、抵抗加熱方式の蒸着装置を用い、10−5Pa台の真空中にて蒸着速度0.5Å/secにて行った。
【0041】
ここで、Csを「含む薄膜」とは、少なくともCs塩を構成する金属材料であるCs単体を含む薄膜となっていることを意味しており、金属含有層52が蒸着材料である金属塩を含んでいても良い。発明者は、別途行った予備実験により以下に示すような現象を観察しており、真空蒸着した膜がCs塩のみからなる膜ではなく、Cs単体を含む膜となっていることを間接的に確かめている。
【0042】
CsCOを蒸着源として形成した蒸着膜にAlの蒸着膜を積層したものを大気に曝すと、Alの表面が激しく発砲し、表面に顕著な凹凸が生じることが確認された。蒸着膜としてCsCOが成膜されているならば、積層したAl膜に顕著な変化は起きないはずである。これは蒸着膜がCs単体を含むため大気暴露によって急激にCs単体部が酸化、吸湿したためであると考えられる。
【0043】
よって、蒸着で形成した本実施形態の金属含有層52は、Cs単体を含む膜となっていることが分かる。
【0044】
通常、Cs単体は非常に反応性が高いために劣化しやすく、また、融点が低い(28.5℃)ため非常に融解しやすい。このような性質のため、Cs単体は取り扱いが難しく、Cs単体を含む膜を成膜することは非常に困難である。しかし、本実施形態では、大気に安定で取り扱いが容易な金属塩を出発物質として用いる。そのため、Cs単体を含む膜を容易に成膜できる。金属含有層52の形成に用いる蒸着材料としては、炭酸塩の他にも、硫酸塩、硝酸塩、金属ハロゲン化物などの無機酸との金属塩や、有機酸との金属塩を用いることができる。
【0045】
また、このような構成の金属含有層52は、光反射性を有さない膜厚であることが望ましい。本実施形態の金属含有層52は、0.5nmの膜厚に成膜されている。この程度の膜厚であっても、有機発光層46と陰極60との間の電子注入を促進することができる。
【0046】
金属含有層52の上には、金属含有層52の表面全面を覆って電子輸送性を有する電子輸送層54が形成されている。電子輸送層54の形成材料としては、Alq、BCP(2,9-dimethyl-4,7-diphenyl-1,10- phenanthroline)等の低分子発光材料を用いた有機EL装置に用いられる通常知られた材料であれば用いることが可能である。本実施形態では、Alqを用い、20nmの膜厚に蒸着した。
【0047】
電子輸送層54の上には、電子輸送層54の表面全面を覆ってLiFを形成材料とする電子注入層62と、Alを形成材料とする陰極層64と、が積層した陰極60が形成されている。電子注入層62の形成材料としては、LiFの他にも、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物またはフッ化物であれば用いることができる。
【0048】
本実施形態の電子注入層62は、真空蒸着により0.5nmの膜厚に成膜されている。また、陰極層64は、200nmの膜厚に成膜されており、十分な光反射性と導電性とを備えている。陰極層64は、不図示の陰極取り出し端子へとつながる陰極コンタクト部へ接続されている。
【0049】
陰極60の上には、不図示のSiOなどの無機膜を形成し、更に無機膜の上にはエポキシ樹脂を介してガラス基板を貼り合わせる、所謂、固体封止構造を備えるものとすると良い。
【0050】
また、ガラス基板に凹部を設け乾燥剤を配置した封止缶部材を用い、ガラス基板の凹部側の面を陰極60に対向させて配置し、該ガラス基板と基板10Aとが平面的に重なる部分の周縁をエポキシ樹脂等で接着する、所謂、缶封止構造を備えるものとしても良い。
本実施形態の有機EL装置1は、以上のような構成となっている。
【0051】
以上のような構成の有機EL装置1によれば、電子輸送層54と有機発光層46との界面での電子注入を、低仕事関数の金属材料を含む金属含有層52が促進し、陰極側からの良好な電子注入を行うことができる。また、金属含有層52は、有機発光層46と陰極60との間のエネルギー障壁を緩和するために存在していれば良く、厚い膜である必要はない。したがって、薄膜として形成することで大幅に低仕事関数の金属材料の使用量を減らすことが可能であり、反応性の高い金属材料の劣化による不具合の発生を抑制することができる。そのため、良好な駆動安定性を確保した有機EL装置1とすることができる。
【0052】
また、本実施形態では、LiFを形成材料とする電子注入層62を設けることとしている。そのため、陰極層64から電子輸送層54への電子注入が促進され、高効率の発光と安定な連続駆動を実現することができる。
【0053】
また、本実施形態では、金属塩を出発材料として真空蒸着することにより、低仕事関数の金属含有層52を形成することとしている。そのため、大気中での取り扱いが難しい低仕事関数の金属材料を直接取り扱うことなく、所望の金属の蒸着膜を形成することができ、作業性が向上する。
【0054】
なお、本実施形態では、1つの有機EL素子70について説明したが、有機EL装置1は上述した有機EL素子70を複数備えることができる。その場合には、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の光を発する有機EL素子を設けることで、フルカラー表示が可能な有機EL装置とすることができる。このような有機EL装置では、上述した陰極構造が全ての有機EL素子に共通して設けられていることとすることができる。
【0055】
また、本実施形態では、電子注入層62を設けた有機EL素子70としたが、電子注入層62を備えない構造としても良い。
【0056】
[第2実施形態]
図2、3は、本発明の第2実施形態に係る有機EL装置2の説明図である。本実施形態の有機EL装置2は、第1実施形態の有機EL装置1と一部共通している。異なるのは、有機発光層46で生じる光が陰極60側へ射出されるトップエミッション方式を採用していることである。したがって、本実施形態において第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0057】
図2は、有機EL装置2を模式的に示す断面図である。図に示すように、素子層11内の基板本体10上には、画素電極30と平面的に重なって、反射層20が形成されている。反射層はAlNd合金を形成材料としており、マスクパターニングなど通常知られた方法で形成されている。本実施形態では、反射層20は基板本体10上に形成されることとしたが、素子層11中であっても良く、また、素子層11表面であっても良い。
【0058】
電子注入層62の上には、電子注入層62の表面全面を覆って陰極層65が形成されている。陰極層65は、3.5eV以上4.2eV未満の仕事関数を有する第2金属材料と、4.2eV以上の仕事関数を有する第3金属材料とを用い、真空共蒸着にて形成された合金層である。第2金属材料としては、Mg,Sc,Mn,In,Zr,Asを挙げることができ、第3金属材料としては、Al,Ag,Cu,Ni,Auを挙げることができる。陰極層65は、不図示の陰極取り出し端子へとつながる陰極コンタクト部へ接続されている。本実施形態では、第2金属材料としてMgを用い、第3金属材料としてAgを用いる。
【0059】
陰極層65は、第2金属材料と第3金属材料との合金層であることで、第3金属材料単体の場合よりも低い仕事関数と、第3金属材料の性質に由来する水分や酸素に対する高い安定性とを兼ね備える陰極層となっている。
【0060】
発明者が別途行った予備実験では、MgとAgとの蒸着比率が、体積比で1:10(Agの体積比率:91%)から40:1(Agの体積比率:2.4%)の範囲で成膜した第2陰極層が、いずれも水分や酸素に対して安定であることが確かめられている。そのため、第2金属材料と第3金属材料との蒸着比率は、体積比で1:10〜40:1が好適である。また、成膜のしやすさや再現性の確保のため、蒸着比率は5:1〜20:1がより好適である。本実施形態では、MgとAgとの共蒸着比率は、体積比で10:1とした。
【0061】
また、陰極層65の膜厚は、透明性の確保のため20nm以下であることが好ましい。また、良好な面方向の導電性の確保(低いシート抵抗値)を考慮すると、例えば5nm以上程度の膜厚を備えることが好ましい。本実施形態の陰極層65は、15nmの膜厚となっている。
【0062】
陰極層65の上には、第3金属材料を形成材料とする共振層68が設けられている。本実施形態ではAgを用いて形成する。共振層68は、有機発光層46から発せられた光の一部を反射する半透過膜である。陰極60は、共振層68を有することで全体として半透過膜となっている。また、第3金属材料で形成される共振層68は、陰極60のシート抵抗値を下げる機能も有している。本実施形態の共振層68は5nmの膜厚を有している。
【0063】
共振層68は、反射層20との間で光を共振させる光共振構造を構成しており、有機EL素子70からは、反射層20と共振層68との間の光学的距離に対応した共振波長の条件を満たす光のみが増幅されて取り出される構成となっている。
【0064】
光共振構造は、射出される光の波長に応じて適切な長さの光路を設定し、設定した光路間を光が往復する間に共振することで構築される。そのため、良好な共振を行うためには、反射層20と共振層68との間の長さ(光路長)を適切に設定することが必要となる。
【0065】
光路長の調整を、有機発光層46や陰極層65など、厚みを変えると発光量や安定駆動に影響がある構成では行うことは好ましくない。しかし、本実施形態の有機EL装置2は、有機発光層46に高分子材料を用いた通常の有機EL装置とは異なり、低分子材料を形成材料とする電子輸送層54を備えている。電子輸送層54の形成材料は、良好な透明性を備えているため、光路長の調整のために厚みを変更したとしても、射出される光を吸収・散乱することがなく影響を与えにくい。そのため、電子輸送層54の厚みを調整することで、良好に共振構造の光路長の制御を行うことができる。
【0066】
陰極60の上は、固体封止構造を備えるものとすると良い。本実施形態の有機EL装置2は、以上のような構成となっている。
【0067】
以上のような構成の有機EL装置2によれば、良好な光共振構造を備えたトップエミッション方式の有機EL装置とすることができ、射出される光の色純度を高めた高品質な有機EL装置とすることができる。
【0068】
なお、本実施形態においても、1つの有機EL素子70について説明したが複数備えた有機EL装置としても良い。図3は、本実施形態の有機EL装置の変形例を示す断面図である。
【0069】
有機EL装置3は2つ以上の有機EL素子を備えており、図にはそのうち2つの有機EL素子70a,70bを示している。有機EL素子70a,70bは、それぞれ異なる波長の光La,Lbを射出する有機発光層46a,46bを備えている。
【0070】
有機EL素子70aが備える電子輸送層54aと、有機EL素子70bが備える電子輸送層54bとは、それぞれの有機発光層から射出される光の波長に応じた適切な光路長d1,d2となるよう、異なった膜厚に設定されている。異なる膜厚の電子輸送層は、それぞれマスク蒸着などの通常知られた方法を用いて形成される。
【0071】
また、有機EL素子70a,70bの、その他の基板10Aから金属含有層52までの構成、および陰極60の構成については、互いに共通した構造となっている。そのため、これらの構造部分は、製造工程を共通化することができる。
【0072】
このような構成の有機EL装置3では、射出する波長ごとに好適に制御された光路長とすることができる。そのため、各発光素子から射出される光の色純度を高め、高品質なカラー表示が可能な有機EL装置とすることができる。
【0073】
[電子機器]
次に、本発明の電子機器の実施形態について説明する。図4は、本発明の有機EL装置を用いた電子機器の一例を示す斜視図である。図4に示す携帯電話(電子機器)1300は、本発明の有機EL装置を小サイズの表示部1301として備え、複数の操作ボタン1302、受話口1303、及び送話口1304を備えて構成されている。これにより、本発明の有機EL装置により構成された、発光効率に優れ信頼性に優れた表示部を具備した携帯電話1300を提供することができる。
【0074】
上記各実施の形態の有機EL装置は、上記携帯電話に限らず、電子ブック、プロジェクタ、パーソナルコンピュータ、ディジタルスチルカメラ、テレビジョン受像機、ビューファインダ型あるいはモニタ直視型のビデオテープレコーダ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルを備えた機器等々の画像表示手段として好適に用いることができる。かかる構成とすることで、表示品質が高く、信頼性に優れた表示部を備えた電子機器を提供できる。
【0075】
更には、上記各実施の形態の有機EL装置をラインヘッドとして用いることができ、該ラインヘッドを光源として備えた画像形成装置(光プリンタ)として好適に用いることができる。このようにすると、輝度ムラが無く信頼性に優れた光プリンタとすることができる。
【0076】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の第1実施形態に係る有機EL装置を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る有機EL装置を模式的に示す断面図である。
【図3】第2実施形態に係る有機EL装置の変形例を示す断面図である。
【図4】本発明に係る電子機器の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0078】
1,2,3…有機EL装置(有機エレクトロルミネッセンス装置)、20…反射層(光反射層)、30…陽極、46,46a,46b…有機発光層、52…金属含有層、54,54a,54b…電子輸送層、60…陰極、62…電子注入層、70,70a,70b…有機EL素子(発光素子)、1300…携帯電話(電子機器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極との間に有機発光層を挟持した発光素子を備える有機エレクトロルミネッセンス装置であって、
前記有機発光層の形成材料は、重合体の発光性高分子化合物を含み、
前記有機発光層と前記陰極との間に前記有機発光層と接して設けられた、アルカリ金属または仕事関数が2.9eV以下のアルカリ土類金属を含む金属含有層と、
前記金属含有層と前記陰極との間に前記金属含有層と接して設けられた、重合による繰り返し構造を備えない電子輸送性の低分子化合物を形成材料とする電子輸送層と、を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項2】
前記陰極の前記電子輸送層側に、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物またはフッ化物を形成材料とする電子注入層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項3】
前記金属含有層には、少なくともCsが含まれていることを特徴とする請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項4】
前記有機エレクトロルミネッセンス装置は、前記有機発光層で発せられる光を前記陰極から外部に取り出すトップエミッション方式の発光方式であって、
前記陽極は光透過性を有すると共に、前記陽極を挟んで前記有機発光層の反対側には光反射層が配置され、
前記陰極は半透過反射性を有し、
前記光反射層と前記陰極との間で、前記有機発光層から射出された光を共振させる光共振器構造が構成されており、
前記電子輸送層の膜厚により、前記光共振器構造の光路長が制御されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項5】
前記有機エレクトロルミネッセンス装置は、異なる波長の光を射出する2以上の前記発光素子を有し、
前記電子輸送層は、射出する光の波長に応じて膜厚が設定されており、
各々の前記発光素子において、前記光反射層の表面から前記金属含有層の前記電子輸送層側の表面までの合計膜厚が略等しく設定され、
各々の前記電子輸送層の膜厚により、各々の前記発光素子における前記光共振器構造の光路長が独立して制御されていることを特徴とする請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項6】
陽極と陰極との間に有機発光層を挟持した発光素子を備え、前記有機発光層と前記陰極との間に前記有機発光層と接する金属含有層が設けられた有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法であって、
前記金属含有層は、アルカリ金属または仕事関数が2.9eV以下のアルカリ土類金属から選ばれる金属材料の金属塩を蒸着することにより形成されることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−67718(P2010−67718A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231294(P2008−231294)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】