説明

有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法

【課題】焼付きを生じにくい有機EL装置の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、陽極と陰極との間に有機発光層を有する複数の有機EL素子を備えた有機EL装置の製造方法である。基板上に陽極と陰極との間に有機発光層を有する複数の有機EL素子を形成する形成工程S2と、複数の有機EL素子を初期劣化させ、初期劣化後の複数の有機EL素子における発光輝度の時間変化量を初期劣化前に比べて小さくするエイジング工程S31と、エイジング工程S31の後に、所定期間において有機EL素子に所定電圧を印加するとともに、有機EL素子に流れる電流値、又は有機EL素子の発光輝度を測定し、この測定値が所定電圧の印加開始からの時間に対して減少する有機EL素子を不良品として選別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELと称す)を用いた発光素子として、有機EL素子が知られている。有機EL素子は、正孔を供給する陽極と電子を供給する陰極との間に、有機EL材料からなる有機発光層を含んだ有機機能層を有するものである。供給された正孔と電子とが有機発光層内で結合して、光を生じるようになっている。有機EL素子は、画像表示装置や画像形成装置等への適用が考えられている。
【0003】
有機EL素子にあっては、駆動時間が長くなるにつれて発光輝度が低下することが知られている。複数の有機EL素子で駆動時間が異なると発光輝度の低下が異なることにより輝度ムラを生じ、画像表示装置や画像形成装置において画像の品質が低下してしまうことがある。また、固定パターンの画像を長期間にわたって表示又は形成すると、この固定パターンに対応して焼付きを生じてしまうこともある。これらは、有機EL素子の劣化に起因すると考えられており、特許文献1、2には輝度ムラや焼付きを防止する技術が開示されている。
【0004】
特許文献1では、表示動作時に発光させる有機EL素子に所定の駆動電圧を印加するとともに発光させない有機EL素子にも駆動電圧と異なる波形のダミー電圧を印加するようにしている。発光させる有機EL素子と発光させない有機EL素子とで劣化の程度を均一にすることにより、輝度ムラが防止される。
特許文献2では、静止画表示モードや待機モードにおいて、有機EL素子に供給する電流量を制限するようにしている。また、非表示期間に陽極と陰極との間に逆バイアスを印加するようにしている。これにより、有機EL素子に蓄積される電荷を抑制することができ、焼付きが防止される。
【特許文献1】特開2001−92411号公報
【特許文献2】特開2002−169509号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2の技術を用いれば、輝度ムラや焼付きを低減することが可能であると考えられるが、駆動系の複雑化、発光させない有機EL素子に電流を流すことや逆バイアスを印加することによる消費電力の増加や有機EL素子の短寿命化等の不都合を生じるおそれがある。
本発明は、前記事情に鑑み成されたものであって、駆動系の複雑化や消費電力の増加を生じることなく、輝度ムラや焼付きを防止可能な有機EL装置が得られる製造方法を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法は、陽極と陰極との間に有機発光層を有する複数の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法であって、基板上に陽極と陰極との間に有機発光層を有する複数の有機エレクトロルミネッセンス素子を形成する形成工程と、前記複数の有機エレクトロルミネッセンス素子を初期劣化させ、初期劣化後の前記複数の有機エレクトロルミネッセンス素子における発光輝度の時間変化量を初期劣化前に比べて小さくするエイジング工程と、前記エイジング工程の後に、所定期間において前記有機エレクトロルミネッセンス素子に所定電圧を印加するとともに、該有機エレクトロルミネッセンス素子に流れる電流値、又は該有機エレクトロルミネッセンス素子の発光輝度を測定し、この測定値が前記所定電圧の印加開始からの時間に対して減少する有機エレクトロルミネッセンス素子を不良品として選別する選別工程と、を有していることを特徴とする。
【0007】
複数の有機エレクトロルミネッセンス素子を選択的に発光させると、発光させた有機エレクトロルミネッセンス素子が発熱し、その熱が発光させない有機エレクトロルミネッセンス素子に伝わりこれを加熱する。加熱された有機エレクトロルミネッセンス素子は、キャリアの移動度が高くなることにより、所定電圧に対する発光輝度が増加すると考えられる。したがって、選別工程において測定値(例えば発光輝度)が減少する有機エレクトロルミネッセンス素子は、その周囲に加熱よって発光輝度が増加した有機エレクトロルミネッセンス素子があると、これら有機エレクトロルミネッセンス素子の間で発光輝度の差が大きくなる。
【0008】
このような発光輝度の差は焼付きとして視認されてしまうが、選別工程で発光輝度が減少する有機エレクトロルミネッセンス素子を不良品として選別することができる。したがって、不良品の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた有機エレクトロルミネッセンス装置を除くことにより、焼付きを生じ難い有機エレクトロルミネッセンス装置を製造することができる。なお、有機エレクトロルミネッセンス素子に流れる電流値が大きくなるほど有機エレクトロルミネッセンス素子の発光輝度が大きくなるので、選別工程で電流値を測定しその測定値に基づいて選別を行った場合にも同様の効果が得られる。
【0009】
一般に、有機エレクトロルミネッセンス素子の形成直後にこれを駆動すると、有機エレクトロルミネッセンス素子の初期劣化によりその発光輝度が急激に低下する。本発明においては、エイジング処理を行った後に測定処理を行うので、測定結果に初期劣化による影響が反映されなくなる。したがって、使用時の輝度変化と近い状態で測定処理を行うことができ、使用時の状態に基づいて有機エレクトロルミネッセンス装置を選別することができる。
【0010】
また、 前記選別工程では、前記所定期間を、前記有機エレクトロルミネッセンス素子に前記所定電圧を印加することにより前記有機エレクトロルミネッセンス素子の温度が飽和する期間よりも短くすることもできる。
有機エレクトロルミネッセンス素子の温度が飽和するまで加熱すれば、有機エレクトロルミネッセンス素子におけるキャリアの移動度が飽和するので、その発光輝度が理論上は最大値となる。このような状態で発光輝度が低下する有機エレクトロルミネッセンス素子は不良品でありさらに測定を行う必要がないので、所定期間としては有機エレクトロルミネッセンス素子の温度が飽和するよりも短い期間を選択すればよい。
【0011】
また、前記選別工程では、前記所定期間の開始時における前記測定値である開始値と、前記所定期間の終了時における前記測定値である終了値とを比較して、前記所定電圧の印加開始からの時間に対する前記測定値の減少を判定することもできる。
このようにすれば、使用時に連続して発光させる時間を前記所定期間と対応させることにより、使用時の状態に基づいて選別を行うことができる。また、所定期間のうちの少なくとも開始時と終了時とに測定を行えばよいので、測定を簡略化することや、連続的に測定を行った場合に比べて測定値の解析に要する労力を軽減することができる。
【0012】
また、前記選別工程では、前記所定電圧を印加する有機エレクトロルミネッセンス素子と前記所定電圧を印加しない有機エレクトロルミネッセンス素子とが隣り合って配置されるように、前記複数の有機エレクトロルミネッセンス素子に選択的に電圧を印加することもできる。
このようにすれば、所定電圧を印加した有機エレクトロルミネッセンス素子の発熱により、これに隣り合って配置され所定電圧を印加しない有機エレクトロルミネッセンス素子が加熱される。したがって、焼付きを生じやすい条件における測定結果を得ることができ、焼付きを生じる確率が極めて低い有機エレクトロルミネッセンス装置を選別することができる。
【0013】
また、前記形成工程では、前記陰極と前記有機発光層との間に電子輸送層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子を形成し、前記形成工程よりも前に、互いに前記電子輸送層の膜厚が異なる複数の試験用有機エレクトロルミネッセンス素子を形成する試験形成工程と、前記複数の試験用有機エレクトロルミネッセンス素子を初期劣化させ、初期劣化後の前記複数の試験用有機エレクトロルミネッセンス素子における発光輝度の時間変化量を初期劣化前に比べて小さくする試験エイジング工程と、前記試験エイジング工程の後に、所定期間において前記複数の試験用有機エレクトロルミネッセンス素子に所定電圧を印加するとともに、該複数の試験用有機エレクトロルミネッセンス素子に流れる電流値、又は該複数の試験用有機エレクトロルミネッセンス素子の発光輝度を測定し、この測定値が前記所定電圧の印加開始からの時間に対して減少する有機エレクトロルミネッセンス素子を不良品として選別し、この選別結果に基づいて前記電子輸送層の膜厚を規定する試験工程と、を有し、前記形成工程では、前記試験工程で規定した膜厚の前記電子輸送層を形成することが好ましい。
【0014】
本発明者は、所定電圧が印加された有機エレクトロルミネッセンス素子の発光輝度が印加時間にともなって減少する原因について鋭意研究した。その結果、陰極成分が有機発光層まで拡散していると、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光輝度が減少することが分かった。このことから、電子注入輸送層を陰極成分の拡散防止層として機能させ得る程度に厚くすれば、焼付きが低減されることを思いつくに至ったのである。前記のようにすれば、試験工程において電子輸送層の膜厚が異なる複数の試験用有機エレクトロルミネッセンス素子を選別することにより、焼付きを低減可能な電子注入輸送層の膜厚を規定することができる。この膜厚の電子注入輸送層を有する有機エレクトロルミネッセンス装置を製造することにより、製造数における良品の占める割合が増加し、良好な有機エレクトロルミネッセンス装置を良好な歩留りで製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本実施形態の有機EL装置100の配線構造を示す模式図である。図1に示すように、有機EL装置100は、互いが平行して延びる複数の走査線11と、走査線11に直交して延びる複数の信号線21と、信号線21と平行に延びる複数の電源線41と、を有している。信号線21は、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン及びアナログスイッチ等を有する信号線駆動回路20と電気的に接続されている。また、走査線11は、シフトレジスタ及びレベルシフタを有する走査線駆動回路10と電気的に接続されている。
【0016】
走査線11及び信号線21により区画される領域の各々がサブ画素になっている。各サブ画素には、発光素子として機能する有機EL素子50や、有機EL素子50に供給される電気信号をスイッチングするスイッチング素子等が設けられている。各有機EL素子50は、画素電極(陽極)51と共通電極(陰極)53との間に有機発光層を含んだ有機機能層52を有している。前記スイッチング素子として、第1スイッチング素子31と第2スイッチング素子32とが設けられており、第1スイッチング素子31によりスイッチングされた電気信号を保持する保持容量34が設けられている。
【0017】
第1スイッチング素子31のソース電極は、信号線21から分岐されたものであり、第1スイッチング素子31のドレイン電極は、第2スイッチング素子32のゲート電極に電気的に接続されている。また、第1スイッチング素子31の能動層は、ゲート絶縁膜を介して信号線21と重なり合うように設けられており、重なり合う部分の信号線21がゲート電極として機能するようになっている。
【0018】
第2スイッチング素子32のソース電極は、電源線41から分岐されたものであり、第2スイッチング素子32のドレイン電極は、有機EL素子50の画素電極51と電気的に接続されている。保持容量34は、その一端が第1スイッチング素子31のドレイン電極と第2スイッチング素子32のゲート電極との間に電気的に接続されているともに、他端が電源線41に電気的に接続されている。第2スイッチング素子32のゲート電極に印加された電圧を保持容量34に所定期間保持することができるようになっている。
【0019】
図2(a)は、有機EL装置100における画素の構成を概略して示す平面図であり、図2(b)は図2(a)のB−B線に沿う断面図である。図2(a)に示すように、有機EL装置100は、行列状に整列配置された多数のサブ画素Pr、Pg、Pbを有している。サブ画素Pr、Pg、Pbはいずれも同様の構成となっているが、有機発光層の形成材料の違いにより、それぞれ赤色光、緑色光、青色光を射出するようになっている。サブ画素Pr、Pg、Pbの各々は、隔壁54によって区画された領域の各々と対応している。
【0020】
図2(b)に示すように、本例の隔壁54は、無機隔壁541と無機隔壁541上に設けられた有機隔壁542とからなっている。隔壁54によって区画された領域には、有機EL素子50が設けられている。有機EL素子50は、素子基板(基板)100A上に設けられた画素電極51、有機機能層52、共通電極53を有している。素子基板100Aには、図1に示した走査線11、信号線21、電源線41等の各種配線、走査線駆動回路10、信号線駆動回路20等の各種駆動回路、第1スイッチング素子31、第2スイッチング素子32等が設けられている。
【0021】
画素電極51は、仕事関数が高い(例えば5eV以上)導電材料、ここではインジウム錫酸化物(ITO)からなっている。
共通電極53は、仕事関数が低い(例えば5eV以下)材料からなっている。仕事関数が低い材料としては、カルシウムやマグネシウム、ナトリウム、リチウム金属、又はこれらの金属化合物であるフッ化カルシウム等の金属フッ化物や酸化リチウム等の金属酸化物、アセチルアセトナトカルシウム等の有機金属錯体等が挙げられる。本例の共通電極53は、有機機能層52上に設けられたフッ化リチウム層531と、フッ化リチウム層531上に設けられたアルミニウム層532とからなっている。フッ化リチウム層531は、有機機能層52に電子を注入する電子注入層として機能する。アルミニウム層532は、共通電極53を低抵抗化するとともに有機機能層52から発せられた光を画素電極51側に反射させる反射層としても機能するようになっている。
【0022】
有機機能層52は、画素電極51と共通電極53との間に有機発光層523を有するものである。本例の有機機能層52は、画素電極51側から順に設けられた正孔注入層521、正孔輸送層522、有機発光層523、電子輸送層524を有している。電子輸送層524の膜厚は、後述する試験工程において規定されている。これにより、電子輸送層524は、共通電極53の成分(ここではフッ化リチウム)の有機発光層523への拡散を防止する拡散防止層としても機能するようになっている。
【0023】
有機機能層の形成材料としては公知のものを用いることができ、例えば以下のようなものが挙げられる。
正孔注入層521の形成材料として、ポリチオフェン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体等が挙げられる。
正孔輸送層522の形成材料としては、TAPC、TPD、α‐NPD、m‐MTDATA、2‐TNATA、TCTA、スピロ‐TAD、(DTP)DPPD、HTM1、TPTE1、NTPA、TFLTF、ポリフルオレン誘導体(PF)やポリパラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)等のポリシラン系有機高分子材料等が挙げられる。
有機発光層523の形成材料としては、ペニレン系色素や、クマリン系色素、ローダミン系色素などの有機高分子材料、あるいはこれら有機高分子材料に低分子有機材料をドープしたもの、CBP(4.4.‐ジカルバゾール‐4,4‐ビフェニル)誘導体、PtOEP(白金ポルフィリン錯体)誘導体、Ir(ppy)3(イリジウム錯体)誘導体、FIrpic(イリジウム錯体)誘導体等の燐光材料等が挙げられる。
電子輸送層524の形成材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、フェナンソロリン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン誘導体、ジフェノキノン誘導体、ヒドロキシキノリン誘導体等が挙げられる。
【0024】
以上のような構成により、電源線41に電圧が印加された状態で有機EL素子50に電気信号が伝達されると、画素電極51と共通電極53との間に所定の電圧が印加される。これにより、画素電極51側から有機発光層523に正孔が供給されるとともに、共通電極53側から有機発光層523に電子が供給される。すると、供給された正孔と電子とが有機発光層523で結合して励起エネルギーを生じ、これが光エネルギーとなることにより電気信号に応じた光を発する。画素電極51側に発せられた光が素子基板100A側から取り出されるとともに、共通電極53側に発せられた光もアルミニウム層532で反射して素子基板100A側から取り出される。3つのサブ画素から発せられた赤色光、緑色光、青色光が混じり合って視認されることにより、フルカラー表示の最小単位である1画素が構成される。
【0025】
なお、本例はボトムエミッション型の有機EL装置であるが、トップエミッション型の有機EL装置を採用してもよい。また、本例の有機EL装置は発光波長が異なる3種類の有機EL素子によりフルカラー表示を行うものであるが、カラーフィルタを用いてフルカラー表示を行うものであってもよいし、単色表示を行うもの等であってもよい。いずれの型を採用する場合であっても、次に説明する本発明の有機EL装置の製造方法を適用することにより、本発明の効果を得ることができる。
【0026】
次に、図3、図4(a)〜(c)、図5を参照しつつ本発明の有機EL装置の製造方法の一実施形態を説明する。図3は、本実施形態の有機EL装置の製造方法を示すフローチャート、図4(a)〜(c)は試験用有機EL素子の形成方法を示す工程図、図5は発光輝度の時間変化の比較を示すグラフである。
【0027】
図3に示すように本実施形態では、ステップS11〜S14で、有機EL素子を構成する電子輸送層の膜厚を規定し、ステップS2で、基板上に規定した膜厚の電子輸送層を有する複数の有機EL素子を形成する。ステップS31〜S33で、複数の有機EL素子を選別し、不良品を備えたものを除くことにより有機EL装置を製造する。以下、各ステップについて詳しく説明する。
【0028】
本実施形態のステップS11では、電子輸送層の膜厚が異なる複数の試験用有機EL素子を備えた試験片を形成する。この他にも試験用有機EL素子を備えた複数の試験片を形成し、試験片ごとに電子輸送層の膜厚を均一にするとともに、複数の試験片で電子輸送層の膜厚を異ならせるようにしてもよい。試験用有機EL素子の形成には公知の形成材料や形成方法を用いることができ、ここでは液滴吐出法を用いて有機EL素子を形成する。
【0029】
まず、図4(a)に示すように、素子基板100Aを用意し、素子基板100A上に島状の画素電極51を形成するとともに、画素電極51の間に無機隔壁541と有機隔壁542とからなる隔壁54を形成する。そして、親液処理や撥液処理を適宜行うことにより無機隔壁541を有機機能層52の形成に用いる液状の形成材料に対して親液性とし、有機隔壁542を液状の形成材料に対して撥液性にしておく。
【0030】
次いで、図4(b)に示すように液滴吐出法を用いて有機機能層52を形成する。具体的には、有機機能層52を構成する層ごとにその形成材料を含んだ溶液を用意し、隔壁54間の画素電極51上に、正孔注入層521の形成材料を含んだ溶液の液滴を液滴吐出ヘッド300から吐出する。そして、配置された溶液を乾燥・焼成等により固化して正孔注入層521を形成する。同様にして正孔輸送層522を形成し、上層側を順に形成することにより、図4(c)に示すような正孔注入層521、正孔輸送層522、有機発光層523、電子輸送層524をからなる有機機能層52を形成する。
【0031】
液滴吐出ヘッド300から吐出する溶液の量(吐出量)を制御することにより、各層を所定の膜厚に形成する。例えば、正孔注入層521の膜厚を30nm程度、正孔輸送層522の膜厚を15nm程度、有機発光層523の膜厚を50nm程度にする。電子輸送層524としては、互いに膜厚が異なる複数種のものを形成する。例えば、複数の有機EL素子50が配置される領域を複数のブロックに分割し、ブロックによって電子輸送層524の形成材料を含んだ溶液の吐出量を異ならせることにより、ブロックごとの電子輸送層524の膜厚を異ならせる。ここでは、膜厚が10nm程度のものと膜厚が20nm程度のものを形成する。
【0032】
次いで、電子輸送層524上に、公知の形成方法等を用いて共通電極53を形成する。ここでは、電子輸送層524上に蒸着法を用いてフッ化リチウム、アルミニウムを順に成膜し、フッ化リチウム層531及びアルミニウム層532からなる共通電極53を形成する。以上のようにして、電子輸送層524の膜厚が異なる複数の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた試験片が得られる。
【0033】
次いで、試験片の有機EL素子50に熱処理や通電を行って、有機EL素子50を初期劣化させてエイジング処理を行う(ステップS12)。一般に、有機EL素子を発光させると、発光開始からの時間経過とともに発光輝度が低くなる。発光輝度の低下は、発光開始直後に顕著であり長時間経過後に緩やかである。形成直後の有機EL素子をそのまま出荷すると、使用時に顕著な発光輝度の低下が生じることや、使用状態によって発光輝度の低下が複数の有機EL素子でばらついてしまうこと等の不都合を生じてしまう。エイジング処理を行えば、処理後の発光輝度の低下を緩やかにするとともに複数の有機EL素子で均一にすることができる。エイジング処理については、公知の方法を用いることができ、ここでは基板温度40〜85℃程度で有機EL素子50を4〜24時間程度加熱する熱処理を行った後に、有機EL素子50に10〜100mA/cm程度の電流を流す通電処理を行う。これにより、長時間(例えば100時間)の表示動作に伴う発光輝度の変化が緩やか(例えば数%程度)になる。
【0034】
次いで、前記試験片の各々の有機EL素子50のうちの適宜選択されるものに所定電圧を印加して発光させて、有機EL素子50の発光輝度、有機EL素子50に流れる電流値を測定する(ステップS13)。発光輝度と電流値との間には相関関係があるので、これらのうち一方を計測すればその測定値に基づいて後述する方法により有機EL素子50を選別することができる。本実施形態では、行列状に配置された有機EL素子50(図2(a)参照)のうち、有機EL素子50が行方向に7個並ぶとともに列方向7個に並ぶ合計49個の有機EL素子50が配置された領域を一つの検査領域とする。また、所定電圧を印加する有機EL素子50として検査領域に配置された2行目、4行目、6行目の各々において、2列目、4列目、6列目に配置された合計9個を選択する。これにより、所定電圧を印加する有機EL素子50と所定電圧を印加しない有機EL素子50とが交互に配置される。ここでは、選択した有機EL素子50に60秒間の発光と60秒間の消灯とを交互に複数回数行わせるとともに、測定を行う。測定を行う時間(期間)としては、所定電圧を印加された有機EL素子の温度が飽和する時間よりも短くすればよい。その理由については後述する。
【0035】
次いで、ステップS13で得られた測定結果に基づいて、試験片の有機EL素子50を選別する(ステップS14)。
図5は、有機EL素子50ごとの発光輝度の時間変化を示すグラフである。図5において、横軸は有機EL素子50の発光開始からの時間を示し、縦軸は発光開始時の発光輝度である初期輝度に対する発光輝度(輝度変化率)を示している。また、試料Aは電子輸送層524の膜厚が10nm程度の有機EL素子50、試料Bは電子輸送層524の膜厚が20nm程度の有機EL素子50をそれぞれ示している。
【0036】
本発明者は、図5に示すように、発光直後において時間経過とともに輝度変化率が減少する有機EL素子(試料A)と、輝度変化率が増加する有機EL素子(試料B)とがあることを見出した。このような有機EL素子の特性の違いは、以下の理由により有機EL装置における焼付きの生じやすさと密接な関係性があると考えられる。前記のように長時間(例えば100時間)の表示動作における発光輝度は、有機EL素子の劣化に起因して緩やかに低下するが、短時間(例えば60秒)の表示動作における発光輝度は、昇温によるキャリアの移動度の変化に起因して上昇する。つまり、電子(キャリア)や正孔(キャリア)の移動度は温度上昇とともに高くなるので、有機EL素子が昇温するほど有機機能層中を移動する電子や正孔の数が多くなる。有機EL素子は、電子と正孔とが結合することにより生じる励起エネルギーを光として取り出すものであるから、有機EL素子の温度が高くなるにつれてその発光輝度が高くなると考えられる。有機EL素子を連続発光させると、時間経過とともに発熱量と放熱量とが釣り合うことにより、有機EL素子の温度はある程度まで上昇した後にほとんど変化しなくなる(飽和する)。温度が飽和した後に、長時間(例えば100時間)にわたって連続発光させると、有機EL素子の劣化に伴って発光輝度が緩やかに低下していく。図5に示した試料Bは、発光直後において有機EL素子の劣化による発光輝度の低下よりも発熱による発光輝度の上昇が卓越したことにより、輝度変化率が増加したと考えられる。有機EL素子の温度がほとんど変化しなくなると、発光輝度が上昇しなくなるので、前記のように有機EL素子の温度が変化しなくなるまで所定電圧を印加し測定すればよい。
【0037】
このような発光による熱は、発光させた有機EL素子の周辺部に伝わり、周辺部に配置された有機EL素子を加熱する。加熱された有機EL素子を発光させると、加熱されていない場合よりも発光輝度が増加する。試料Aにあっては、選択された有機EL素子の発光輝度が減少し、その周辺部に配置された(ここでは隣り合って配置された)有機EL素子の発光輝度が増加する。したがって、選択された有機EL素子とその周辺部に配置された有機EL素子とを一括して発光させると、その発光輝度の差が大きくなっているので焼付きとして視認されてしまう。一方、試料Bにあっては、選択された有機EL素子とその周辺部に配置された有機EL素子とで、発光輝度がともに増加する。したがって、一括して発光させた場合の発光輝度の差が試料Aよりも小さくなり、これが焼付きとして視認されにくくなる。すなわち、発光直後において、発光開始からの時間経過とともに輝度変化率が減少する有機EL素子を備えた有機EL装置を不良品とし、輝度変化率が増加する有機EL装置を良品とすれば、使用時において焼付きを生じ難い有機EL装置を良品として選別することが可能になる。
【0038】
図5から分かるように、発光直後において輝度変化率が低下した有機EL素子を消灯の後に再度発光させると、輝度変化率が消灯前よりも回復(上昇)していること、有機EL素子の劣化による発光輝度に比べて時間に対する輝度変化率が大きいこと等から、このような輝度変化率の低下は、長期的な有機EL素子の劣化とは異なる現象に起因すると考えられる。試料Aと試料Bとで異なる点は、電子輸送層524の膜厚のみであることから、試料Aと試料Bとの特性の違いは電子輸送層524の膜厚に起因すると考えられる。その一因として以下のようなメカニズムが考えられる。共通電極53の成分(ここではフッ化リチウム)は、エイジング処理の熱処理や有機EL素子の発光によって電子輸送層524側に熱拡散する。熱拡散により有機発光層523に到達したフッ化リチウムは、有機発光層523の成分と電荷移動錯体(分子間化合物)を形成する。これにより、電子と正孔との結合が阻害され有機発光層523における励起エネルギーの合計が低くなることや、励起エネルギーが電荷移動錯体の分解に使われて励起エネルギーが光エネルギーに変換されなくなること等により、発光輝度が低下する。試料Bでは試料Aよりも電子輸送層524の膜厚を厚くしているので、電子輸送層524がフッ化リチウムの拡散防止層として機能し、有機発光層523に到達したフッ化リチウムが少なくなることにより電荷移動錯体の形成による発光輝度の減少よりも昇温による発光輝度の増加が卓越したと考えられる。
【0039】
以上のような原理に基づいて、電子輸送層524の膜厚が異なる複数の有機EL素子50について、発光開始からの時間経過に対する発光輝度の変化を測定し、発光輝度の時間変化が減少しない試料を選別することにより、焼付きを生じ難い電子輸送層524の膜厚を規定することができる。
【0040】
次いで、素子基板100A上に、ステップS14で規定した電子輸送層524の膜厚の有機EL素子を形成する。有機EL素子50は、前記した試験用有機EL素子の形成(ステップS11)と同様にして、形成することができる。
次いで、素子基板100A上に形成された有機EL素子50を選別する。ステップS12、S13と同様の選別方法により、有機EL素子50を選別することができる。具体的には、ステップS12と同様にして有機EL素子50を初期劣化させ、ステップS13と同様にして有機EL素子の発光輝度、有機EL素子50に流れる電流値の少なくとも一方を測定する。そして、得られた測定値(発光輝度又は電流値)が発光開始からの時間経過に対して減少する有機EL素子50を不良品とし、これが形成された素子基板100Aを除くことより、良品の有機EL素子50を備えた有機EL装置100が得られる。
【0041】
以上のような製造方法によれば、ステップS11〜S14で電子輸送層524の膜厚を規定しており、これに基づいて有機EL素子50を形成しているので、形成総数に対する良品の割合が格段に高くなる。また、良品の有機EL素子50は、不良品よりも複数の有機EL素子50を選択的に発光させた後において選択された有機EL素子50と選択されなかった有機EL素子50とで発光輝度の差が小さくなる。したがって、良品の有機EL素子50を備えた有機EL装置100にあっては、焼付きがほとんど生じなくなる。
以上のように、本発明の有機EL装置の製造方法によれば、焼付きを生じにくい有機EL装置を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明により得られる有機EL装置の配線構造を示す模式図である。
【図2】(a)は有機EL装置の概略平面図、(b)はB−B線に沿う断面図である。
【図3】本発明の有機EL装置の製造方法を示すフローチャートである。
【図4】(a)〜(c)は、有機EL装置の形成方法の一例を示す工程図である。
【図5】発光輝度の時間変化の比較を示すグラフである。
【符号の説明】
【0043】
有機EL素子・・・50、100・・・有機EL装置、51・・・画素電極(陽極)、52・・・有機機能層、523・・・有機発光層、524・・・電子輸送層、53・・・共通電極(陰極)、S11・・・試験形成工程、S12・・・試験エイジング工程、S13、S14・・・試験工程、S2・・・形成工程、S31・・・エイジング工程、S32、S33・・・選別工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極との間に有機発光層を有する複数の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法であって
基板上に陽極と陰極との間に有機発光層を有する複数の有機エレクトロルミネッセンス素子を形成する形成工程と、
前記複数の有機エレクトロルミネッセンス素子を初期劣化させ、初期劣化後の前記複数の有機エレクトロルミネッセンス素子における発光輝度の時間変化量を初期劣化前に比べて小さくするエイジング工程と、
前記エイジング工程の後に、所定期間において前記有機エレクトロルミネッセンス素子に所定電圧を印加するとともに、該有機エレクトロルミネッセンス素子に流れる電流値、又は該有機エレクトロルミネッセンス素子の発光輝度を測定し、この測定値が前記所定電圧の印加開始からの時間に対して減少する有機エレクトロルミネッセンス素子を不良品として選別する選別工程と、を有していることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項2】
前記選別工程では、前記所定期間を、前記有機エレクトロルミネッセンス素子に前記所定電圧を印加することにより前記有機エレクトロルミネッセンス素子の温度が飽和する期間よりも短くすることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項3】
前記選別工程では、前記所定期間の開始時における前記測定値である開始値と、前記所定期間の終了時における前記測定値である終了値とを比較して、前記所定電圧の印加開始からの時間に対する前記測定値の減少を判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項4】
前記選別工程では、前記所定電圧を印加する有機エレクトロルミネッセンス素子と前記所定電圧を印加しない有機エレクトロルミネッセンス素子とが隣り合って配置されるように、前記複数の有機エレクトロルミネッセンス素子に選択的に電圧を印加することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項5】
前記形成工程では、前記陰極と前記有機発光層との間に電子輸送層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子を形成し、
前記形成工程よりも前に、互いに前記電子輸送層の膜厚が異なる複数の試験用有機エレクトロルミネッセンス素子を形成する試験形成工程と、
前記複数の試験用有機エレクトロルミネッセンス素子を初期劣化させ、初期劣化後の前記複数の試験用有機エレクトロルミネッセンス素子における発光輝度の時間変化量を初期劣化前に比べて小さくする試験エイジング工程と、
前記試験エイジング工程の後に、所定期間において前記複数の試験用有機エレクトロルミネッセンス素子に所定電圧を印加するとともに、該複数の試験用有機エレクトロルミネッセンス素子に流れる電流値、又は該複数の試験用有機エレクトロルミネッセンス素子の発光輝度を測定し、この測定値が前記所定電圧の印加開始からの時間に対して減少する有機エレクトロルミネッセンス素子を不良品として選別し、この選別結果に基づいて前記電子輸送層の膜厚を規定する試験工程と、を有し、
前記形成工程では、前記試験工程で規定した膜厚の前記電子輸送層を形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−20950(P2010−20950A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−178720(P2008−178720)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】