説明

有機エレクトロルミネッセント素子及びその製造方法

【課題】大光量を得るための電荷の注入に伴う発熱を防ぐため電極の厚膜化は極めて有用な手段であるが、従来の蒸着法やスパッタ法等の高真空薄膜形成技術では、成膜レートが低く生産コストが高くなるという課題を有していた。また、大光量を得るためには発光効率が低く、駆動電圧が高いことから寿命が短いという課題を有していた。
【解決手段】透明電極と対向電極の間に少なくとも1層以上の有機物からなる発光層5を有する有機エレクトロルミネッセント素子1であって、有機層上に固体平板状態で接触配置され、加熱及び加圧形成される対向電極の有機層側に、予め設けられた電子注入層6を有し、電子注入層6が金属酸化物により構成されたものであり、対向電極を固定平板状態での加熱軟化接合が可能となり、有機エレクトロルミネッセント素子1を安価で容易に製造することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機エレクトロルミネッセント素子及びその有機デバイスの製造方法で、特に有機エレクトロルミネッセント素子を光源に用いた表示装置及び電子機器に用いられ低輝度から光源用途等の高輝度まで幅広い輝度範囲で駆動される電界発光素子である有機エレクトロルミネッセント素子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレクトロルミネッセント素子は固体蛍光性物質の電界発光を利用した発光デバイスで、無機系材料を発光体として用いた無機エレクトロルミネッセント素子が実用化され、現在では液晶ディスプレイのバックライトやフラットディスプレイ(FPD)等への応用展開がなされている。しかし無機エレクトロルミネッセント素子は発光に必要な電圧が100V以上と高い、また青色発光が困難なため、RGBの三原色によるフルカラー化が困難である等多くの課題を有している。
【0003】
一方、有機材料を用いたエレクトロルミネッセント素子に関する研究も古くから注目され様々な検討が行われてきたが、発光効率が非常に悪いことから本格的な実用化研究は進展しなかった。しかし1987年にコダック社のC.W.Tang氏らにより、発光層を構成する有機材料を正孔輸送層と発光層の2層に分けた機能分離型の積層構造を有する有機EL素子が提案され、10V以下の低電圧にもかかわらず1000cd/m2以上の高い発光輝度が得られることが明らかとなった(非特許文献1参照)。
【0004】
これ以降、有機エレクトロルミネッセント素子については現在も同様な機能分離型の積層構造を有する有機エレクトロルミネッセント素子についての研究が盛んに行われており、特に有機エレクトロルミネッセント素子実用化のためには不可欠である高効率化・長寿命化についても十分成果がでており、近年有機エレクトロルミネッセント素子を用いたディスプレイ等が実現されるようになった。
【0005】
図4は従来の有機エレクトロルミネッセント素子の構造を示す断面図である。以降、従来の一般的な有機エレクトロルミネッセント素子の構造について図4を用いて説明する。
【0006】
図4に示すように有機エレクトロルミネッセント素子11は、例えばガラス基板12上にスパッタ法や抵抗加熱蒸着法等により形成されたITO等の透明な導電性膜からなる陽極13と、陽極13上に同じく抵抗加熱蒸着法等により形成されたN,N´−ジフェニル
−N,N´−ビス(3−メチルフェニル)−1、1´−ジフェニル−4,4´−ジアミン
(以下、TPDと略称する。)等からなる正孔輸送層14と、正孔輸送層14上に抵抗加熱蒸着法等により形成された8−Hydroxyquinoline Aluminum(以下Alq3と略称する)等からなる有機材料層15と、有機材料層15上に抵抗加熱蒸着法等により形成された100〜300nm程度の厚みの金属膜からなる陰極17とを備えている。
【0007】
尚、正孔輸送層14と有機材料層15は便宜上一括して単に発光層16と呼称される。この場合、発光層16には正孔輸送層14、有機材料層15の他に図示しない正孔注入層、電子注入層、電子輸送層、電子ブロック層(ともに図示せず)等が含まれていてもよい。
【0008】
更に、前記構造のEL素子は水分等の影響に因る劣化を防止するため、18は例えばバスタブ形状を有するガラスによって構成される封止部で有機エレクトロルミネッセント素子11の全面を覆うように設けられ、その外周部はガラス基板12等に接着剤を用いて接着されている。以下の説明についてもこの例に倣う。
【0009】
しかしながら、有機エレクトロルミネッセント素子11に代表される有機デバイスは、多くは蒸着法やスパッタ法等の高真空薄膜形成技術が用いられてきたが、近年はプロセスの簡素化を実現するべく、スピンコート法やインクジェット法、更にスクリーン印刷やフレキソ印刷等印刷法による正孔注入層や有機材料層の塗布プロセスが開発され実現している。しかし、製造プロセスにおいて、電極形成は依然として高真空の蒸着やスパッタ法に替わる工法が無く、生産性向上を妨げている。
【0010】
一方、(特許文献1)には、有機エレクトロルミネッセントデバイス及び有機デバイスにおいて、融点が100〜250℃の電極材料を溶融させ、溶融した電極材料を有機層に接触させ溶融接着することで、生産性、コストを改善することが提案されている。
【0011】
しかし、この方法では予め陰極金属を溶融状態で有機層に直接接触させて成膜する必要から、溶融状態を保つために電極材料や有機層の温度を制御すること自体が難しかった。
更に、電気抵抗値を十分に小さくして電流密度を均一にするため、形成した電極の厚みを大きくすると、電極は溶融状態では液体の分子間に作用する分子間力等により凝集が発生して、厚みの不均一化が発生する恐れがあった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】タン(C.W.Tang)、ヴァンスリク(S.A.Vanslyke),「アプライドフィジックスレター(Appl.Phys.Lett.)」(米国),第51巻,1987年,p.913
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−277340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、蒸着法やスパッタ法等の高真空薄膜形成技術によらず、簡略化された有機デバイスの製造方法を提供、及び、それにより作製された有機エレクトロルミネッセント素子、及びそれらを光源に用いた電子機器を提供することである。
【0015】
特に、有機エレクトロルミネッセント素子は、面発光を実現するための構造や製造工程がシンプルなため、有機エレクトロルミネッセント素子を搭載した発光装置、主に自発光型ディスプレイや液晶ディスプレイ用のバックライトや面発光型の照明や、更には有機エレクトロルミネッセント素子を光源として応用した露光装置等のアプリケーションは低コスト化に有利だと言われている。
【0016】
しかし、大きな光量を得るためには大きな電荷の注入が必要であることから、電荷の移動に伴う発熱が有機材料の劣化を加速し寿命を低減させることも課題であった。
【0017】
このため、電極を厚くすることは極めて有用な手段であるが、従来の蒸着法やスパッタ法等の高真空薄膜形成技術では、成膜レートが低く生産コストが高くなるという課題を有していた。また、大きな光量を得るためには、発光効率が低く、駆動電圧が高いことから寿命が短いという課題を有していた。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、透明電極と対向する電極の間に少なくとも1層以上の有機物からなる発光層を有する有機エレクトロルミネッセント素子であって、有機層上に固体平板状態で接触配置され、加熱及び加圧形成される対向電極の有機層側に、予め設けられた電子注入層を有し、前記電子注入層が金属酸化物により構成されたものである。
【0019】
この構成により、対向電極を固定平板状態で加熱軟化し接合することが可能となり、有機エレクトロルミネッセント素子を安価で容易に製造することが可能となる。
【0020】
この時、必要に応じ固体平板電極材料を保持する保持板を用いることにより、電極配置の位置合わせ精度を容易に上げることが出来る。
【0021】
また、保持板に剛性の高い材料を用いて加圧することで、有機層側に複雑な形状の段差を含む形状であっても、接合不良を発生させることが無い製造方法及び有機エレクトロルミネッセント素子を提供することが可能となる。
【0022】
更に、電子注入層を設けたことにより、有機層への電子注入が容易になり、有機エレクトロルミネッセント素子の発光効率を向上することが可能となる。また、陰極から有機層への電子注入が容易になることから、駆動電圧が低下し、消費電力の低減が可能となる。
【0023】
また、有機エレクトロルミネッセント素子面内における陰極から有機層へ電子注入の均一性が向上することから、面内での発光ムラを抑制することが可能となり、均一な発光を得ることが可能となる。
【0024】
また、電子注入層が金属酸化物より構成されることから、酸素、水分等に対して不活性であり、つまり有機エレクトロルミネッセント素子内外部の反応性物質の影響を低減でき長期的な電子注入特性を得ることが可能となり、対向電極が有機層と接合する前に、電子注入層を予め、抵抗電極表面に形成でき、電子注入層形成による有機層への劣化要因となるダメージを防ぐことが可能となり、これらの結果として長寿命な有機エレクトロルミネッセント素子の提供が可能となる。
【0025】
また、本発明は前記記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、前記金属酸化物が酸化亜鉛(ZnO)及び、酸化チタン(TiO2)であることを含む。
【0026】
この構成により、有機層への固体平板状対向電極のみの電子注入特性を上回る電子注入特性を電極に付与することが可能となり、有機エレクトロルミネッセント素子の発光効率を向上させることが可能となる。
【0027】
また、これらの金属酸化物は、酸化物でありながら比抵抗が小さいため、電圧降下を招くことなく、両電極間に印加される電界がそのまま発光層にかかり、高輝度特性を得ることが可能となる。
【0028】
また、これらの金属酸化物は電子注入機能、電子輸送機能、正孔ブロック機能をもつため、良好な電子注入を実現することができ、有機層中での正孔と電子が再結合する領域である発光領域を制御することができる。
【0029】
従って、例えば、従来は容易ではなかった、発光領域を発光層の中心となるように制御することにより、素子効率が向上し、更には素子寿命の向上が可能となる。
【0030】
また、安定な材料であることから特別な設備を必要とせず、デバイス作製時の取り扱いが容易であり、酸化物半導体材料としては一般的な材料であることから安価な有機エレクトロルミネッセント素子の提供が可能となる。
【0031】
また、本発明は前記記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、前記固体平板状態の対向電極の厚みが5μm以上であることを含む。
【0032】
この構成により、電極材料の軟化による変形を大きくすることが可能となり、有機層表面の凹凸に対する追従性を確保できるばかりでなく、電極としての抵抗値を小さくできるので、電荷移動に伴う発熱を大幅に低下させ、発熱による有機層へのダメージを大幅に低減できる。
【0033】
また、電荷移動にともなう発熱を大幅に低減でき、尚且つ電極の体積が増加することにより放熱性も向上したことから、本発明の電極よりも薄い電極を有する、例えば、厚さ数100nmの電極を有する有機エレクトロルミネッセント素子に比較して、大電流を素子内部に印加することができ、発光輝度を高くすることが可能となる。
【0034】
更に、外部ガスのバリア性能が飛躍的に向上することから、有機デバイスの保護特性も大幅に向上する。
【0035】
また、本発明は前記記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、前記電子注入層の膜厚が10Å〜200Åであることを含む。
【0036】
この構成により、有機層への電子注入特性を電極に付与することが可能となり、発光効率を向上させることが可能となる。
【0037】
また、当該電子注入層を有した固体平板状の対向電極を有機層上に加熱軟化接着する際の接着強度を保つことが可能となる。電子注入層の膜厚が10Å以下では、電子注入機能を有する材料が少なく、対向電極に十分な電子注入特性を付与することができない。
【0038】
一方、膜厚が200Å以上では電子注入層が厚すぎることにより、固体平板状の対向電極の有機層への接着を妨げてしまう。
【0039】
また、電子注入層の透明性が損なわれてしまう。
【0040】
また、本発明は前記記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、前記電子注入層の膜厚が60Å〜100Åであることを含む。
【0041】
この構成により、有機層への電子注入特性を電極に付与することが可能となり、発光効率を向上させることが可能となる。
【0042】
また、当該電子注入層を有した固体平板状の対向電極を有機層に加熱軟化接着する際の接着強度を保つことが可能となる。これらの作用に加えてこの膜厚の範囲内であると更なる発光効率の向上が得られる。
【0043】
また、電子注入が素子面内に均一の行われることから、発光の面内分布が均一化され、より均一な発光が得られ、結果的に長寿命な有機エレクトロルミネッセント素子の提供が可能となる。
【0044】
また、本発明は前記記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、前記電子注入層の前記有機層から放射される光、及び有機層を通過する光に対する透過率が80%以上であることを含む。
【0045】
この構成により、有機層中で放射された光及び有機層中を通過して電子注入層へ到達した光が電子注入層で吸収されず、対向電極に到達し、更に対向電極により反射され、再び、電子注入層、有機層、透明電極、基板を経て有機エレクトロルミネッセント素子の外部へ放射されることが可能となり、有機層から放射された発光の減少を抑制することが可能となる。
【0046】
また、本発明は前記記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、前記電子注入層の比抵抗が10000Ωm以下であることを含む。
【0047】
この構成により、金属酸化物からなる電子注入層そのものに起因する電圧降下は小さくなり、高輝度の発光が可能となる。
【0048】
また、本発明は前記記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、前記電子注入層の仕事関数が4.0eV〜6.0eVであることを含む。
【0049】
この構成により、良好なオミックコンタクトを形成することができる。仕事関数が4.0eVに満たない場合、電子注入層材料の反応性の高くなる傾向にあり、本発明の特徴である反応性物質の影響を低減することが難しく、良好な発光が得られなくなり、6.0eVを越えると対向電極である陰極との仕事関数差が大きくなるため、良好な発光が得られなくなる。
【0050】
また、本発明は前記記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、前記対向電極の電子注入層が設けられる面の平均表面粗さRaが前記電子注入層の膜厚よりも大きいことを含む。
【0051】
この構成により、対向電極の表面の凹凸が電子注入層の材料である金属酸化物によりすべて被覆されることがなくなり、有機層と対向電極との接着強度の低下を防ぐことが可能となり、対向電極の長期的な信頼性を確保することが可能となる。
【0052】
また、本発明は前記記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、前記対向電極の電子注入層が設けられる面の平均表面粗さRaが対向する二つの電極間に存在する有機層の膜厚の総和よりも小さいことを含む。
【0053】
この構成により、固体平板状態の対向電極を有機層上に接触させた際に、有機層へのダメージを低減するとともに、電極間の短絡を発生させることなく電極を形成することが可能となる。
【0054】
また、有機層の膜厚の均一性を電極形成時に損なうことが無くなり、電界集中が起こるのを防ぎ均一な発光が得られる。
【0055】
また、本発明は前記記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、前記対向電極の電子注入層が設けられる面の平均表面粗さRaが20nm〜300nmであることを含む。
【0056】
この構成により、対向電極と有機層との接着強度の低下を抑制することが可能となり、かつ電極間の短絡を防止することが可能となる。対向電極の平均表面粗さRaが20nm以下である場合、電子注入層を形成した際に、対向電極の表面が電子注入材料に完全に被覆されてしまい、有機層との接着強度が低下してしまう。
【0057】
一方、対向電極の平均表面粗さRaが300nm以上である場合、対向電極を有機層に接触した際に有機層を貫き、電極間が短絡する可能性がある。
【0058】
また、本発明は前記記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、少なくとも1層以上の有機層が導電性高分子材料によりなる層を有することを含む。導電性高分子材料は長い分子鎖が複雑に絡み合っており、一般的な有機エレクトロルミネッセント素子に使用される低分子材料に比べ高温環境に晒されても結晶化が進まないため、耐熱性が優れている。
【0059】
この構成により、対向電極を固定平板状態で有機層へ接触し、加熱軟化した際に熱による有機層の劣化を低減することが可能となり、熱に対する信頼性を向上することが可能となる。
【0060】
また、耐熱性に優れているため対抗電極の加熱軟化工程において加熱条件の制限の緩和が可能となる。また、固体平板状の対向電極を接触させた際にバインダの役割を担うことで電極間の短絡を防ぐことが可能となる。
【0061】
また、本発明は前記記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、少なくとも1層以上の有機層が塗布工法により成膜されたことを含む。
【0062】
この構成により、大面積かつ安価な有機デバイス素子を容易に製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0063】
電極を固定平板状態で有機物層上に接触配置することにより、電極部が固体で形状が固定されているので、取り扱いが容易であるばかりでなく、必要な部分のみに成型することも可能となり任意の複雑な形状を作成することが容易となる。
【0064】
また、加温軟化させることにより、電極や絶縁層等凹凸を有する対向電極上に形成された有機層との接合にも優れ、適度の加重を加えることにより接合精度を向上させることが可能である。
【0065】
また、本発明によれば、電極材料が固体であるので、予め電極の膜厚を制御することが可能であり、電流密度を均一にするため、必要に応じて不均一な、膜厚の部分的に異なる電極を作成することもでき、バックライトや光源等大面積でも高い輝度で均一な発光を実現することが出来る。
【0066】
また、本発明によれば、電極を溶融状態にしないので、流動性が高い場合に発生する分子間力による凝集の発生が無く、極めて厚い電極を容易に、短時間で作成することが出来る。
【0067】
更に、電極の膜厚を厚くすると有機層に対する被覆効果が高まり、有機層等の外部からの水分や酸素等ダメージを受ける材料に対するバリア性が発現し、被覆形状を工夫することにより、封止層としての効果を付与することも可能である。
【0068】
また、電極が固体であることにより、電極材料の組成を部分的に変化させ、有機層との電荷移動度が大きく接合性が高い部分と、電荷の導通性が高い部分を設けることにより、有機デバイスとしての効率を飛躍的に向上させることが可能となる。この時、電界密度のバラつきを発生させない範囲で、電極の表面積を増加させることにより電荷注入の効率を高めることも出来る。
【0069】
また、有機層と陰極との間に無機酸化物層を配したもので、有機層への電子注入が容易になり、有機エレクトロルミネッセント素子の発光効率の向上、駆動電圧の低下、消費電力の低減が可能となる。酸素、水分等に対して不活性であり、反応性物質の影響を低減でき長期的な電子注入特性を得ることが可能となり、有機層へダメージを与えることなく電子注入層を形成可能となり、これらの結果として長寿命な有機エレクトロルミネッセント素子の提供が可能となる。
【0070】
また、キャリアバランスを調整することができ、例えば発光層の中心で発光が実現し、界面の破壊を抑制することができ、また、励起子の熱失活を抑制するようにすることができ、安定に動作し、かつ寿命特性に優れたものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施の形態に係る有機エレクトロルミネッセント素子の構造を示す断面図
【図2】本発明の実施例に係る有機エレクトロルミネッセント素子の発光効率の電子注入層膜厚依存性の説明図
【図3】本発明の実施例に係る有機エレクトロルミネッセント素子の発光面と発光断面図を示す図
【図4】従来の有機エレクトロルミネッセント素子の構造を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0072】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0073】
図1に本発明の実施の形態に係る有機エレクトロルミネッセント素子の構造を示す断面図を示す。
【0074】
1は有機エレクトロルミネッセント素子であり、透光性のガラス材料からなるガラス基板2と、このガラス基板2上に形成された陽極3としてのITO(インジウム錫酸化物)、更にこの上層に形成された正孔注入層4としてポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)層と、高分子材料からなる発光層5と、金属酸化物により形成された電子注入層6及び金属材料で形成された陰極7とで構成される。
【0075】
有機エレクトロルミネッセント素子1の陽極3をプラス極として、また陰極7をマイナス極として直流電圧または直流電流を印加すると、発光層5には、陽極3から正孔注入層4を介してホールが注入されるとともに陰極7から電子注入層6を介して電子が注入される。発光層5では、このようにして注入されたホールと電子とが再結合し、これに伴って生成される励起子が励起状態から基底状態へ移行する際に発光現象が起るというわけである。
【0076】
本実施の形態の有機エレクトロルミネッセント素子1によれば、高分子材料の特徴として大面積の発光層を形成することができ、均一な発光特性を得ることができ、更に通常は蒸着法で行われる陰極の形成を、高真空プロセスを用いずに形成できるので、製造プロセスを簡素化することができる。この時、市販されている透明電極を用いると高真空プロセスを必要としない製造プロセスの構成が可能である。
【0077】
次に、本発明の有機エレクトロルミネッセント素子1の製造工程について説明する。
【0078】
まず、支持基板として用いる無アルカリガラス基板2上に、スパッタリング法により膜厚150nmのITO膜を形成した後、ITO膜上にレジスト材をスピンコート法により塗布して厚さ10μmのレジスト膜を形成し、マスク露光、現像してレジスト膜を所定の形状にパターン形成した。
【0079】
次に、このガラス基板2を60℃で50%の塩酸中に浸漬して、レジスト膜が形成されていない部分のITO膜をエッチングした後、レジスト膜も除去し、陽極3を形成する。
【0080】
次に、続いて正孔注入層4を形成する。基板面にPEDOTを0.45μmのフィルターを通して滴下し、スピンコート法によって均一に塗布した。これを200℃のクリーンオーブン中で30分間加熱することで正孔注入層4を形成する。
【0081】
次に、高分子からなる発光材料を溶解したキシレン溶液をスピンコートによって塗布し、加熱処理し、所定の膜厚の発光層5を形成した。
【0082】
次に、ガラス基板2上の陽極3、正孔注入層4、発光層5の積層体とは別に、予め、固体平板状の材料である陰極材料の表面上に電子注入層6として、例えば酸化亜鉛からなる金属酸化物層を形成しておく。
【0083】
そして、最後に電子注入層6を有する固体平板状の陰極材料を用い、有機層上に前記陰極材料を配置後に加熱軟化させ陰極7を有機層へ接合することにより、本発明の有機エレクトロルミネッセント素子1を形成する。
【0084】
固体平板状の電極材料には低い温度で軟化させることが可能な電気抵抗率が小さい金属材料が適しており、より低い温度での加熱による軟化形成が有機材料へのダメージ低減となる。
【0085】
この時、陰極材料を配置する際に、図1には記載されていない補助の基板を用い、前記基板上に陰極材料をパターニングして配置しておくことにより、接触時の傷を発生させること無く、陽極3と高い位置精度で配置することが可能となる。
【0086】
配置後はズレが発生しないように、固定用治具へ挿入しクランプにより固定を行った。また、陰極材料を所定の温度で加熱軟化させる際に、前記記載の補助基板に加重を加えることにより、発光層5と凹凸に係わらず良好な接合を得ることができる。
【0087】
この補助の基板は陰極7の形成後に除去しても良いが、配置したままであっても良い。更に、封止部8を形成することにより、有機エレクトロルミネッセント素子1の信頼性を高めることができる。封止部は前記の補助基板を接着材等により、周辺部をガラス基板2に張り付けても良いが、バスタブ状に削りだしたケースを接着剤で接着し、前記接着剤やケース内の空間に、乾燥剤を配置することにより更に信頼性を高めることができる。
【実施例1】
【0088】
以下、図1を用いて有機エレクトロルミネッセント素子の構造を詳細に説明する。
【0089】
(1)基板
図1のガラス基板2としては、機械的、熱的強度を有し、有機エレクトロルミネッセント素子を保持できる強度があればよく、有機層からの発光の取り出し面として用いる場合は透明または半透明等の光を有効に透過する機能を有していればよい。
【0090】
また、ガラス基板2は絶縁性であることが好ましいが、特に限定されるものではなく、有機エレクトロルミネッセント素子1の動作を妨げない範囲、或いは用途によって導電性を有していても良い。
【0091】
ガラス基板2は第一の基板として無色透明な基板である。ガラス基板2としては、例えば透明または半透明のソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英ガラス等の、無機酸化物ガラス、無機フッ化物ガラス等の無機ガラスを用いることができる。
【0092】
その他の材料をガラス基板2として採用することも可能であり、例えば透明または半透明のポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルスルフォン、ポリフッ化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアクリレート、非晶質ポリオレフィン、フッ素系樹脂ポリシロキサン、ポリシラン等のポリマー材料を用いた高分子フィルム等、或いは透明または半透明のAs23、As4010、S40Ge10等のカルコゲノイドガラス、ZnO、Nb2O、Ta25、SiO、Si34、HfO2、TiO2等の金属酸化物及び窒化物等の材料、或いは発光領域から出射される光を、基板を介さずに取り出す場合には、不透明のシリコン、ゲルマニウム、炭化シリコン、ガリウム砒素、窒化ガリウム等の半導体材料、或いは顔料等を含んだ前述の透明基板材料、表面に絶縁処理を施した金属材料等から適宜選択して用いることができ、複数の基板材料を積層した積層基板を用いることもできる。また、用途によっては特定波長のみを透過する材料、光−光変換機能を持った特定の波長の光へ変換する材料等であってもよい。
【0093】
(2)陽極
上記材料の中より選択したガラス基板2上に、透明な陽極3としてインジウムスズ酸化物(ITO)、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)等の金属酸化物、或いは、SnO:Sb(アンチモン)、ZnO:Al(アルミニウム)、IZO(In23:ZnO)といった混合物からなる透明導電膜や、或いは透明度を損なわない程度の厚さのAl(アルミニウム)、Cu(銅)、Ti(チタン)、Ag(銀)といった金属薄膜や、これらの金属の混合薄膜、積層薄膜といった金属薄膜や、或いはポリピロール等の導電性高分子等を用いることができる。
【0094】
また、比較的高抵抗のインジウム化合物を主成分とする、塗膜を塗布形成した後、焼成する塗布型ITO、更にはポリチオフェン(poly(ethylenedioxy)tiophene、以下、PEDOTと略する)、ポリフェニレンビニレン(以下、PPVと略する)、ポリフルオレン等の導電性高分子化合物等を用いることもできる。十分な透明性を持たせるために500nm以下の厚さにすることが望ましい。一般的には抵抗値が小さいことが望ましいことから、スパッタ法や抵抗加熱蒸着法等により形成されたITO等の透明な導電性膜からなる陽極が用いられる。
【0095】
(3)正孔注入層
図1の正孔注入層4としては、正孔移動度が高く製膜性の良いものが好ましく、例えば、N,N´−ジフェニル−N,N´−ビス(3−メチルフェニル)−1、1´−ジフェニル−4,4´−ジアミン、ポルフィン、テトラフェニルポルフィン銅、フタロシアニン、銅フタロシアニン、チタニウムフタロシアニンオキサイド等のポリフィリン化合物や、1,1−ビス{4−(ジ−P−トリルアミノ)フェニル}シクロヘキサン、4,4´,4´´−トリメチルトリフェニルアミン、N,N,N´,N´−テトラキス(P−トリル)−P−フェニレンジアミン、1−(N,N−ジ−P−トリルアミノ)ナフタレン、4,4´−ビス(ジメチルアミノ)−2−2´−ジメチルトリフェニルメタン、N,N,N´,N´−テトラフェニル−4,4´−ジアミノビフェニル、N、N´−ジフェニル−N、N´−ジ−m−トリル−4、4´−ジアミノビフェニル、N−フェニルカルバゾ−ル等の芳香族第三級アミンや、4−ジ−P−トリルアミノスチルベン、4−(ジ−P−トリルアミノ)−4´−〔4−(ジ−P−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン等のスチルベン化合物や、トリアゾール誘導体や、オキサジザゾール誘導体や、イミダゾール誘導体や、ポリアリールアルカン誘導体や、ピラゾリン誘導体や、ピラゾロン誘導体や、フェニレンジアミン誘導体や、アニールアミン誘導体や、アミノ置換カルコン誘導体や、オキサゾール誘導体や、スチリルアントラセン誘導体や、フルオレノン誘導体や、ヒドラゾン誘導体や、シラザン誘導体や、ポリシラン系アニリン系共重合体や、高分子オリゴマーや、スチリルアミン化合物や、芳香族ジメチリディン系化合物や、ポリ−3,4エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、テトラジヘクシルフルオレニルビフェニル(TFB)或いはポリ3−メチルチオフェン(PMeT)といったポリチオフェン誘導体等の有機材料が用いられる。
【0096】
また、ポリカーボネート等の高分子中に低分子の正孔輸送層用の有機材料を分散させた、高分子分散系の正孔輸送層も用いられる。
【0097】
また、MoO3、V25、WO3、TiO2、SiO、MgO等の無機酸化物を用いることもある。成膜方法としては、スピンコート法やスリットコート法、インクジェット法等のウェットプロセスや真空蒸着法等のドライプロセスが使用できる。
【0098】
(4)発光層
本実施例では、発光層5として後述の高分子有機エレクトロルミネッセント材料を用い、工程がシンプルで低コスト化が可能な湿式プロセスの1つであるスピンコート法を採用して発光層5を塗布によって形成している。
【0099】
一般に、高分子有機エレクトロルミネッセント材料とはスピンコート法等の湿式プロセスにて製膜される有機エレクトロルミネッセント材料を指し、低分子有機エレクトロルミネッセント材料とは真空蒸着法等の乾式プロセスにて製膜される有機エレクトロルミネッセント材料を指すものとされるが、厳密には真空蒸着法等の乾式プロセスを適用できないものを高分子有機エレクトロルミネッセント材料という。
【0100】
尚、高分子有機エレクトロルミネッセント材料に真空蒸着法が適用できないのは、高分子有機エレクトロルミネッセント材料は気化する前に自己分子運動が生じ、主鎖が切断されてしまうからである。
【0101】
即ち、これによって低分子化が起こり、材料本来の能力が低下するのである。
【0102】
スピンコート法により高分子材料からなる発光層5を塗布形成するにあたり、実施例では高分子有機エレクトロルミネッセント材料としてトルエンに溶解したMEH−PPVを用い、膜厚は120nmとしている。MEH−PPVは高分子有機エレクトロルミネッセント材料として一般的であり、例えば、日本シーベルヘグナー社にて購入可能である。高分子有機エレクトロルミネッセント材料としてはこの他にスチレン系共役デンドリマー等を用いることが可能である。
【0103】
発光層5を上述のスピンコート法によって塗布した場合、高分子有機エレクトロルミネッセント材料は発光層5を形成する以前にガラス基板2に形成された全ての構造物の上に塗布されることとなる。高分子有機エレクトロルミネッセント材料は、水分等の透過性が大きく不要な部分に存在すると水分等の浸入経路となり、有機エレクトロルミネッセント素子1の大きな劣化原因となることから、このような場合は後述する陰極7を形成する前に、例えばトルエンやキシレンといった溶剤を再塗布し、溶融した高分子有機エレクトロルミネッセント材料とともに回収する製造設備によって所定の領域のみ拭き取ることが望ましい。この拭き取り工程は、例えばレーザアブレーション法によって行なうことも可能である。
【0104】
また、インクジェット技術を用いたフラッドプリント法のごとき所定の領域にのみ高分子有機エレクトロルミネッセント材料を塗布した場合は、上述の拭き取り工程は不要となる。
【0105】
この拭き取り工程の後に、発光素子基板を約130℃の環境下に約1時間おき、高分子有機エレクトロルミネッセント材料を溶解した溶媒であるトルエンやキシレンといった有機溶媒を十分に揮発除去する(ベイク工程)。以降、ベイク工程における温度をベイク温度と呼称する。
【0106】
次に、高分子有機エレクトロルミネッセント材料の特性について、従来の低分子有機エレクトロルミネッセント材料との比較を通じ詳細に説明する。
【0107】
有機エレクトロルミネッセント素子1を構成する発光材料のうち、従来多用されてきた低分子有機エレクトロルミネッセント材料は、一般にその有機化合物群が真空蒸着によって製膜されアモルファス薄膜になっているために高温環境に弱いことが知られ、その耐熱温度は高々百数十℃とされている。
【0108】
これは高温環境に晒されたときに低分子有機化合物の結晶化が進行してしまい、発光材料としての特性が劣化するからである。
【0109】
これに対し、高分子有機エレクトロルミネッセント材料は長い分子鎖を複雑に絡み合わせることで薄膜を構成しており、明確な結晶化温度は存在せず、ガラス転移点という軟化開始温度とも言うべき指標が存在するのみである。
【0110】
更に、多くの高分子有機エレクトロルミネッセント材料では明確なガラス転移点すら観察されないことがある。
【0111】
つまり、高分子有機エレクトロルミネッセント材料は分子が絡み合った構成上、自由に動いて結晶化することができないのである。
【0112】
このような高分子有機エレクトロルミネッセント材料の特徴は、高分子有機エレクトロルミネッセント材料が有機エレクトロルミネッセント素子1に応用されるときに、高耐熱性という大きな優位性となって現れる。この耐熱温度は既に説明したHEM−PPVも含め200℃を十分超えるものである。
【0113】
この高い耐熱性という大きな特徴を有する高分子有機エレクトロルミネッセント材料によって構成された発光層5は、製造工程で加えられる熱ストレスによっても発光特性が劣化することがなく、製造プロセス設計を容易なものにする。
【0114】
但し、真空蒸着法等の乾式プロセスを用いて製膜される低分子有機エレクトロルミネッセント材料であっても、分子量が大きくガラス点移転が比較的高いオリゴマー、より具体的にはPPVオリゴマー等は例外的に高い耐熱性を有するとともに湿式プロセスを容易に適用でき、これらを高分子有機エレクトロルミネッセント材料の代替として本発明の発光材料に用いることが可能である。
【0115】
本実施例では、発光層5をMEH−PPVからなる単層膜としたが、これはいくつかの材料からなる積層膜であってもよい。例えば、MEH−PPV層内に注入された電荷を閉じ込め再結合効率を向上させるために、電子ブロック機能やホールブロック機能をもった材料からなる層を追加するのは素子の特性向上につながり望ましい。
【0116】
具体的には、発光層5を陽極3の側から順に正孔輸送層/電子ブロック層/上述した有機発光材料(ともに図示せず)の3層構造としてもよいし、発光層5を陰極7の側から順に電子輸送層/有機発光材料(ともに図示せず)の2層構造、或いは陽極3の側から順に正孔輸送層/有機発光材料の2層構造(ともに図示せず)、或いは陽極3の側から順に正孔輸送層/電子ブロック層/有機発光層/正孔ブロック層/電子輸送層のごとく5層構造(ともに図示せず)としてもよい。
【0117】
このように、本実施例において発光層5と呼称する場合は、発光層5が正孔輸送層、電子ブロック層、電子輸送層等の機能層を有する多層構造である場合も含んでいる。
【0118】
また、発光層5に含まれる正孔輸送層としては、正孔移動度が高く透明で製膜性の良いものが好ましく、背景技術において説明したTPDの他に、ポルフィン、テトラフェニルポルフィン銅、フタロシアニン、銅フタロシアニン、チタニウムフタロシアニンオキサイド等のポリフィリン化合物や、1,1−ビス{4−(ジ−P−トリルアミノ)フェニル}シクロヘキサン、4,4´,4´´−トリメチルトリフェニルアミン、N,N,N´,N
´−テトラキス(P−トリル)−P−フェニレンジアミン、1−(N,N−ジ−P−トリ
ルアミノ)ナフタレン、4,4´−ビス(ジメチルアミノ)−2−2´−ジメチルトリフ
ェニルメタン、N,N,N´,N´−テトラフェニル−4,4´−ジアミノビフェニル、
N、N´−ジフェニル−N、N´−ジ−m−トリル−4、4´−ジアミノビフェニル、N
−フェニルカルバゾ−ル等の芳香族第三級アミンや、4−ジ−P−トリルアミノスチルベン、4−(ジ−P−トリルアミノ)−4´−〔4−(ジ−P−トリルアミノ)スチリル〕
スチルベン等のスチルベン化合物や、トリアゾール誘導体や、オキサジザゾール誘導体や、イミダゾール誘導体や、ポリアリールアルカン誘導体や、ピラゾリン誘導体や、ピラゾロン誘導体や、フェニレンジアミン誘導体や、アニールアミン誘導体や、アミノ置換カルコン誘導体や、オキサゾール誘導体や、スチリルアントラセン誘導体や、フルオレノン誘導体や、ヒドラゾン誘導体や、シラザン誘導体や、ポリシラン系アニリン系共重合体や、高分子オリゴマーや、スチリルアミン化合物や、芳香族ジメチリディン系化合物や、ポリ−3,4エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、テトラジヘクシルフルオレニルビフェニル(TFB)或いはポリ3−メチルチオフェン(PMeT)といったポリチオフェン誘導体等の有機材料が用いられる。
【0119】
また、ポリカーボネート等の高分子中に低分子の正孔輸送層用の有機材料を分散させた、高分子分散系の正孔輸送層も用いられる。
【0120】
また、これらの正孔輸送材料は電子ブロック材料として用いることもできる。
【0121】
更に、上述した発光層5における電子輸送層としては、1,3−ビス(4−tert−ブチルフェニル−1,3,4−オキサジアゾリル)フェニレン(OXD−7)等のオキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、シロール誘導体からなるポリマー材料等、或いは、ビス(2−メチル−8−キノリノレート)−(パラ−フェニルフェノレート)Al(BAlq)、バソクプロイン(BCP)等が用いられる。
【0122】
また、これらの電子輸送層を構成可能な材料は正孔ブロック材料として用いることもできる。
【0123】
以上、本実施例における発光層5について詳細に説明したが、発光層5を構成する高分子有機エレクトロルミネッセント材料としては、上述したMEH−PPVに限定されるものではなく、可視領域で蛍光または燐光特性を有しかつ製膜性の良いものが選択可能であり、例えば、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)、ポリフルオレン等のポリマー発光材料等を用いることができる。
【0124】
更に、現在様々な特性と発光色を持った高分子系有機エレクトロルミネッセント材料が提案されており、これらの中から適宜選択して発光層5を構成することができる。
【0125】
(5)電子注入層
図1の電子注入層6としては、有機層に電子を注入する機能を有した酸化亜鉛(ZnO)及び、酸化チタン(TiO2)であることを含む金属酸化物から構成されており、本実施例では酸化亜鉛を電子注入層に用いた。
【0126】
また、電子注入層の成膜方法として、本実施例ではスパッタリング法を用いたが、その他に抵抗加熱蒸着法、EB蒸着法やMOD法、CVD法等のドライプロセスやめっき技術を用いた電界析出法、ゾルゲル法、LB法、スピンコート法やスリットコート法、インクジェット法等のウェットプロセス等が使用できる。
【0127】
固体平板状態である対向電極の表面をUVオゾン処理により清浄化後、基板フォルダーへ対向電極の清浄面がでるように固定する。対向電極を固定した基板フォルダーをアネルバ製SPF332スパッタ装置へ導入し、RFスパッタリングにより酸化亜鉛の層を対向電極上へ形成した。この時使用したターゲットは高純度化学研究所の酸化亜鉛ターゲットを使用した。導入ガスにはアルゴンを使用したが、少量の酸素を加えた混合ガスを使用してもよい。製膜速度は1Å/secにて成膜を行った。成膜時の対向電極付近の温度が対向電極材料の液相温度を超えないように製膜しなければならない。
【0128】
また、スパッタリング法に限らず、その他のドライプロセス及びウェットプロセスにおいて、電子注入層を対向電極上へ製膜する工程で熱処理を加える場合は、対向電極の処理温度が対向電極材料の液相温度を超えてはならない。
【0129】
上記の工程により、成膜が終了した電子注入層を有する対向電極が有機層と加熱接合され、本発明の有機エレクトロルミネッセント素子は形成される。
【0130】
次に、本発明の実施例における電子注入層材料である酸化亜鉛の膜厚に対する実際の有機エレクトロルミネッセント素子の発光効率について説明する。
【0131】
図2は本発明の実施例に係る有機エレクトロルミネッセント素子の発光効率の電子注入層膜厚依存性の説明図である。
【0132】
図2の結果より、電子注入層の膜厚としては10Å〜200Åの範囲内で発光効率の向上が確認でき、更に60Å〜100Åの範囲内で更なる発光効率の向上した有機エレクトロルミネッセント素子1が得られた。
【0133】
図3は本発明の実施例に係る有機エレクトロルミネッセント素子の発光面と発光断面図を示す図である。図3では本実施例における有機エレクトロルミネッセント素子の発光部の発光時の発光面の写真(上図)と発光断面図(下図)を示した。
【0134】
図3の左の発光面の写真と発光断面図は、本発明の有機エレクトロルミネッセント素子1における電子注入層を設けていない素子、つまり本発明の有機エレクトロルミネッセント素子1における電子注入層の膜厚が0Åのものであり、図2の結果より発光効率も低いが、発光面も均一でなく、発光断面の均一性は大きく乱れており、有機層への電子注入が効率良く均一に行われていないことが判る。
【0135】
一方、図3の中央の発光面の写真と発光断面図は、本発明の有機エレクトロルミネッセント素子1における電子注入層の膜厚が60Åのものであり、図2の結果より発光効率も向上し、発光面の均一性も向上し、発光断面はほぼ均一と言え、有機層への電子注入が効率良く、均一に行われていることが判る。
【0136】
また、図3の右の発光面の写真と発光断面図は本発明の有機エレクトロルミネッセント素子1における電子注入層の膜厚が150Åのものであり、図2の結果より発光効率は低下し、発光面や発光断面の均一性も損なわれ、有機層への電子注入が、均一に行われなくなることが判る。
【0137】
この結果より、最も均一な発光面が得られる膜厚は60Åであり、150Åでは発光面の均一性が損なわれるという結果が得られた。
【0138】
(6)陰極
本実施例では、有機層上に前記電子注入層を成膜しておいた前記材料を配置後に軟化させて陰極7を形成する。陰極材料には低い温度で軟化させることが可能な電気抵抗率が小さい金属材料が適しており、本実施例では、千住金属工業株式会社製のエコソルダーM716を用いた。
【0139】
本実施例に記載の電極材料として上述のエコソルダーM716に限定されるものではない。発光層5上に陰極7を形成するにあたり、陰極に必要な形状にしておくが、本実施例では0.05mmの平板材を用い、図1には記載されていない補助の基板を用い、前記基板上に陰極材料をパターニングして配置しておく。
【0140】
補助の基板に陰極材料が固定されているので、ガラス基板2と、補助の基板に位置合わせマーカーを両方に基板に設け、目視、またはCCDカメラ等を用い、高精度に調整することにより、接触時の傷を発生させること無く、陽極3と高い位置精度で配置することが可能となる。配置後はズレが発生しないように、固定用冶具への挿入やクランプ等により固定する。
【0141】
次に、固体平板電極材料を、加熱して軟化させ発光層5と接合を行う。この時、固体の電極材料を完全に溶解状態にすると、凝集の発生による電極形状の変形や、補助の基板等を介し加重を加えた場合は、流出が発し陰極の形成ができないので、溶解温度以下で接合を行う。
【0142】
本実施例では、エコソルダーの液相温度214℃より低いピーク温度206℃で接合を行った。加熱接合の際の設定温度は、接合状態を良くするために、固体電極の軟化温度以上である事が望ましいが、併せてこの時、加熱による接合を行う際の加熱時間は、溶解状態による電極材料の流出を発生させないために加える熱容量を、固体電極が完全に溶解する熱容量より小さくするように設定することが必要であり、本実施例では20分とした。
【0143】
また、陰極材料を加熱軟化させる際に、前記記載の補助基板に加重を加えることにより、発光層5の凹凸に係わらず良好な接合を得ることができる。この補助の基板は陰極7の形成後に除去しても良いが、配置したままであっても良い。
【0144】
本実施例では、ガラス基板2と同じ基板を用いたが、補助の基板は透明である必要は無く、耐熱性樹脂や金属や金属酸化物や焼結体等加熱時に変形しにくいものであれば材質は問わない。
【0145】
また、本実施例では電子注入層を形成した固体平板電極を有機層に加熱接合する際に加熱炉を用いているが、その時にロータリーポンプを用いて加熱炉内の雰囲気の気体分圧を低減させることにより、固体電極の接合時における有機層と電極界面に気泡の残留を防ぐことが可能となり、有機と電極界面の均一な接合により有機層への電荷注入も均一になり、発光の均一性が向上する。また、接合の均一性が向上することにより、容易に大面積の電極形成が可能となる。
【0146】
また、本発明では上記の固体平板状電極材料の他にも固体平板電極材料に錫が50%以上含まれていればよい。
【0147】
この構成により、固体平板電極の硬度を大幅に低下させるので、電極の成型が容易となるほか、有機層への傷の発生も低減させることができる。
【0148】
更に、銀或いはインジウム、ビスマス、亜鉛、銅、アルミニウムの何れか一種類以上が含まれていればよい。この構成によれば、電極の軟化温度を低減させ、合金の硬度を低減させる。
【0149】
更に、インジウム、亜鉛は電荷注入特性が高く注入効率を高める。また、銀とマグネシウムが含まれていることが好ましい。この構成によれば、マグネシウムを銀との合金であることからマグネシウムを比較的安定に取扱うことができ、電荷注入特性を高めることができる。
【0150】
また、固体平板電極が電極材料の熱変形温度が250℃以下である金属材料からなる層と電気抵抗値が低い金属材料からなる層の二層により構成されていても良い。
【0151】
例えば、低融点金属材料である錫を多く含む低温熱変形金属材料からなる層と、銀や銅、金、アルミニウム等からなる層であって、電極としての電気抵抗値を小さくすることができるので、大面積に均一な電荷を供給することが可能となる。
【0152】
(7)封止部
封止部8を形成することにより、有機エレクトロルミネッセント素子1の信頼性を高めるためことができる。封止部8は前記の補助基板を接着材等により、周辺部をガラス基板2に張り付けても良いが、バスタブ状に削りだしたケースを接着剤で接着し、前記接着剤やケース内の空間に、乾燥剤を配置することにより更に信頼性を高めることができる。また、絶縁性の樹脂を直接電極上に塗布・硬化させて封止することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明は有機エレクトロルミネッセント素子及びその製造方法や、2つ以上の電極と有機層を有する構成で作成される有機デバイスであり、特に有機エレクトロルミネッセント素子を光源に用いた表示装置及び電子機器に用いられる。
【符号の説明】
【0154】
1 有機エレクトロルミネッセント素子
2 ガラス基板
3 陽極
4 正孔注入層
5 発光層
6 電子注入層
7 陰極
8 封止部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明電極と対向する電極の間に少なくとも1層以上の有機物からなる発光層を有する有機エレクトロルミネッセント素子であって、有機層上に固体平板状態で接触配置され、加熱及び加圧形成される対向電極の有機層側に、予め設けられた電子注入層を有し、前記電子注入層が金属酸化物であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項2】
請求項1記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、前記金属酸化物が酸化亜鉛(ZnO)および、酸化チタン(TiO2)であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項3】
請求項1、2記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、前記固体平板状態の対向電極の厚みが5μm以上であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項4】
請求項1、2記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、前記電子注入層の膜厚が10Åから200Åであることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項5】
請求項4記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、前記電子注入層の膜厚が60Åから100Åであることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項6】
請求項1記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、前記電子注入層の前記有機層から放射される光、および有機層を通過する光に対する透過率が80%以上であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項7】
請求項1記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、前記電子注入層の比抵抗が10000Ωm以下であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項8】
請求項1記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、前記電子注入層の仕事関数が4.0eVから6.0eVであることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項9】
請求項1記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、前記対向電極の電子注入層が設けられる面の平均表面粗さRaが前記電子注入層の膜厚よりも大きいことを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項10】
請求項1記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、前記対向電極の電子注入層が設けられる面の平均表面粗さRaが対向する電極間に存在する有機層の膜厚の総和よりも小さいことを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項11】
請求項1記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、前記対向電極の電子注入層が設けられる面の平均表面粗さRaが20nm〜300nmであることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項12】
請求項1記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、少なくとも1層以上の有機層が導電性高分子材料によりなる層を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項13】
請求項1記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、少なくとも1層以上の有機層が塗布工法により成膜されたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項14】
前記請求項1から13に記載の透明電極が基板上に形成され、発光部を駆動するTFTで構成された駆動回路に接続されて、発光を制御されることを特徴とする表示装置。
【請求項15】
前記請求項1から13に記載の透明電極および対向電極に、電流および電圧を外部の制御回路に接続された導電体を通じ供給されることにより発光の制御を行うことを特徴とする表示装置。
【請求項16】
前記請求項1から13に記載の透明電極および対向電極に、電流および電圧を外部の制御回路に接続された導電体を通じ供給されることにより発光の制御を行うことを特徴とする発光デバイス。
【請求項17】
前記請求項14から16に記載の発光デバイスおよび表示装置を光源とし、バックライトとして用いたことを特徴とする表示装置。
【請求項18】
前記請求項14から17に記載の発光デバイスおよび表示装置を光源して用いた表示部を有することを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−251401(P2010−251401A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96856(P2009−96856)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】