説明

有機ケイ素化合物

【課題】シリコーンにフィラーを高充填することを可能とするシランカップリング剤(ウェッター)として作用する新規な有機ケイ素化合物を提供する。
【解決手段】一般式(1)
【化1】


[式中、Rは水素原子、または非置換もしくは置換の1価炭化水素基であり、R〜Rはおのおの、同一または異種の非置換もしくは置換の1価炭化水素基であり、Rは独立に水素原子、または非置換もしくは置換の1価炭化水素基であり、Rは同一または異種の非置換もしくは置換の1価有機基であり、mは0〜4の整数であり、nは2〜20の整数である。]で表される有機ケイ素化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンにフィラーを高充填することを可能とするシランカップリング剤(ウェッター)として作用する新規な有機ケイ素化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の多くは使用中に熱を発生させるので、その電子部品を適切に機能させるためには、その電子部品から熱を取り除くことが必要である。特にパーソナルコンピューターに使用されているCPU等の集積回路素子は、動作周波数の高速化により発熱量が増大しており、熱対策が重要な問題となっている。
【0003】
この熱を除去する手段として多くの方法が提案されている。特に発熱量の多い電子部品では、電子部品とヒートシンク等の部材との間に熱伝導性グリースや熱伝導性シートなどの熱伝導性材料を介在させて熱を逃がす方法が提案されている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
また、このような熱伝導性材料としては、シリコーンオイルをベースとし、酸化亜鉛やアルミナ粉末を配合した放熱グリースが知られている(特許文献3、特許文献4参照)。
【0005】
更に、熱伝導性を向上させるため、窒化アルミニウム粉末を用いた熱伝導性材料として、上記特許文献1には、液状オルガノシリコーンキャリアと、シリカファイバーと、デンドライト状酸化亜鉛、薄片状窒化アルミニウム、及び薄片状窒化ホウ素から選択される少なくとも1種とからなる揺変性熱伝導材料が開示されている。特許文献5には、特定のオルガノポリシロキサンに一定粒径範囲の球状六方晶系窒化アルミニウム粉末を配合して得たシリコーングリース組成物が開示されている。特許文献6には、粒径の細かい窒化アルミニウム粉末と粒径の粗い窒化アルミニウム粉末とを組み合わせた熱伝導性シリコーングリースが開示されている。特許文献7には、窒化アルミニウム粉末と酸化亜鉛粉末とを組み合わせた熱伝導性シリコーングリースが開示されている。特許文献8には、オルガノシランで表面処理した窒化アルミニウム粉末を用いた熱伝導性グリース組成物が開示されている。
【0006】
窒化アルミニウムの熱伝導率は70〜270W/(m・K)であり、ダイヤモンドの熱伝導性はこれより高く900〜2,000W/(m・K)である。特許文献9には、シリコーン樹脂、ダイヤモンド、酸化亜鉛および分散剤を含む熱伝導性シリコーン組成物が開示されている。
【0007】
また、金属は熱伝導率の高い材料であり、電子部品の絶縁を必要としない個所には使用可能である。特許文献10には、シリコーンオイル等の基油に金属アルミニウム粉末を混合して得た熱伝導性グリース組成物が開示されている。
【0008】
しかし、いずれの熱伝導性材料や熱伝導性グリースも、最近ではCPU等の集積回路素子の発熱量には不十分なものとなってきている。
【0009】
マクスウェルやブラッゲマンの理論式が示すように、シリコーンオイルに熱伝導性充填剤を配合して得た材料の熱伝導率は、熱伝導性充填剤の容積分率が0.6以下では該熱伝導性充填剤の熱伝導率にはほとんど依存しない。容積分率が0.6を超えて初めて熱伝導性充填剤の熱伝導率への影響が出てくる。つまり、熱伝導性グリースの熱伝導性を上げるには、まずはいかに熱伝導性充填剤を高充填するかが重要であり、高充填できるならばいかに熱伝導性の高い充填剤を用いることができるか重要である。しかし、ただ単に高充填しようとすると、伝導性グリースの流動性が著しく低下し、塗布性(ディスペンス性、スクリーンプリント性)等の作業性が悪くなり、さらには電子部品やヒートシンク表面の微細な凹凸に追従できなくなるという問題が生じる。そこで、この問題を解決するために、熱伝導性充填剤をシランカップリング剤(ウェッター)で表面処理してベースポリマーであるシリコーンに分散させ、熱伝導性グリースの流動性を保つという方法が提案されている。
【0010】
現在、頻繁に用いられるウェッターとして、アルコキシシラン(特許文献11、特許文献12)がある。このウェッターを用いると、熱伝導性グリースの初期粘度を非常に低くすることができるという利点がある。しかし、この成分は揮発していくため、熱伝導性グリース組成物に熱をかけ続けていくと経時で増粘してしまい、ひいては流動性を保てなくなるという問題がある。そこで、長期信頼性が重要視される場合は揮発し難いアルコキシ基含有オルガノポリシロキサン(特許文献13、特許文献14)が用いられる。しかし、アルコキシ基含有オルガノポリシロキサンは、同容量部のアルコキシシランと比較して非常に濡れ性が悪いため、アルコキシ基含有オルガノポリシロキサンをウェッターとして用いる熱伝導性グリース組成物には熱伝導性充填剤を高充填できないという問題が生じてしまっている。すなわち、アルコキシシランを使用した場合と同じ流動性を有する熱伝導性グリース組成物を得るためには、より大量のアルコキシ基含有オルガノポリシロキサンが必要となる。ある量のベースポリマーに熱伝導性充填剤を充填するのに大量のアルコキシ基含有オルガノポリシロキサンが必要になるということは、言い換えれば、その分だけ熱伝導性充填剤の充填率を低下させなくてはならないことを意味する。つまり、信頼性と引き換えに性能を落さざるを得ない状況が現在まで続いている。そこで、熱伝導性シリコーングリース組成物が加熱され続けても経時で該組成物の流動性を失わせることがなく、さらに少量でも該組成物の初期粘度を下げることができ、該組成物に熱伝導性充填剤を高充填できるウェッターの開発が望まれている。
【特許文献1】特開昭56−28264号公報
【特許文献2】特開昭61−157587号公報
【特許文献3】特公昭52−33272号公報
【特許文献4】特公昭59−52195号公報
【特許文献5】特開平2−153995号公報
【特許文献6】特開平3−14873号公報
【特許文献7】特開平10−110179号公報
【特許文献8】特開2000−63872号公報
【特許文献9】特開2002−30217号公報
【特許文献10】特開2000−63873号公報
【特許文献11】特許3290127号公報
【特許文献12】特許3372487号公報
【特許文献13】特開2004−262972号公報
【特許文献14】特開2005−162975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、シリコーンにフィラーを高充填することを可能とするシランカップリング剤(ウェッター)として作用する新規な有機ケイ素化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決する手段として、
一般式(1)
【0013】
【化1】


[式中、Rは水素原子、または非置換もしくは置換の1価炭化水素基であり、R〜Rはおのおの、同一または異種の非置換もしくは置換の1価炭化水素基であり、Rは独立に水素原子、または非置換もしくは置換の1価炭化水素基であり、Rは同一または異種の非置換もしくは置換の1価有機基であり、mは0〜4の整数であり、nは2〜20の整数である。]
で表される有機ケイ素化合物を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の有機ケイ素化合物は、シリコーンに対するフィラーの濡れ性を向上させるシランカップリング剤(ウェッター)として作用する。よって、本発明の有機ケイ素化合物を含むシリコーン組成物は、更にフィラーを含んでいても、粘度の上昇が抑えられ、流動性が保たれる。結果として、本発明の有機ケイ素化合物を含むシリコーン組成物にはフィラーを高充填することができる。また、この流動性は、該組成物を高温で長時間にわたり加熱した後でも保たれる。したがって、本発明の有機ケイ素化合物を含むシリコーン組成物にフィラーとして熱伝導性無機フィラーを高充填させると、高い熱伝導性を有し、かつ、高温条件下でも流動性を長時間にわたり維持することができる熱伝導性シリコーン組成物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において、「容量部」で表わされる量、粘度および動粘度は25℃における値である。また、「Me」はメチル基を表す。
【0016】
上記一般式(1)中、Rは、水素原子、または非置換もしくは置換の、炭素原子数が好ましくは6〜30、より好ましくは8〜20、更により好ましくは10〜16の1価炭化水素基である。Rが1価炭化水素基である場合、Rの炭素原子数がこの範囲内にあると、得られる有機ケイ素化合物は、シリコーンに対するフィラーの濡れ性を向上させる効果が十分となりやすく、また、低温(例えば、−40〜−20℃)でも固形化しにくいので扱いやすい。Rが1価炭化水素基である場合、その具体例としては、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ドデセニル基、テトラデセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、2−フェニルエチル基、2−メチル−2−フェニルエチル基等のアラルキル基;またはこれらの炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子等で置換した基、例えば、2−(ノナフルオロブチル)エチル基、2−(ヘプタデカフルオロオクチル)エチル基、p−クロロフェニル基などが挙げられる。
【0017】
上記一般式(1)中、Rは、同一または異種の非置換もしくは置換の、炭素原子数が好ましくは1〜8、より好ましくは1〜5、更により好ましくは1〜3の1価炭化水素基である。Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;またはこれらの炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子等で置換した基、例えば、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2−(ノナフルオロブチル)エチル基、p−クロロフェニル基などが挙げられ、中でも、本発明有機ケイ素化合物の合成のしやすさおよび経済性の観点から、特にメチル基及びエチル基が好ましい。
【0018】
上記一般式(1)中、RおよびRはおのおの、同一あるいは異種の非置換または置換の飽和もしくは不飽和の、炭素原子数が好ましくは1〜8、より好ましくは1〜5、更により好ましくは1〜3の1価炭化水素基である。RおよびRの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、2−フェニルエチル基等のアラルキル基;またはこれらの炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子等で置換した基、例えば、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2−(ノナフルオロブチル)エチル基、p−クロロフェニル基等のハロゲン化1価炭化水素基などが挙げられ、中でも、本発明有機ケイ素化合物の合成のしやすさおよび経済性の観点から、特にメチル基及びエチル基が好ましい。
【0019】
上記一般式(1)中、Rは独立に水素原子、または非置換もしくは置換の、炭素原子数が好ましくは1〜5、より好ましくは1〜3、更により好ましくは1〜2の1価炭化水素基である。Rが1価炭化水素基である場合、その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基等のアルキル基;シクロペンチル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基等のアルケニル基;またはこれらの炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子等で置換した基、例えば、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基などが挙げられ、中でも、本発明有機ケイ素化合物の合成のしやすさおよび経済性の観点から、Rは特に水素原子であることが好ましい。
【0020】
上記一般式(1)中、Rは、同一または異種の非置換もしくは置換の、炭素原子数が好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4、更により好ましくは1〜3の1価有機基である。より具体的には、Rは、例えば、独立に、非置換または置換の、炭素原子数が好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4、更により好ましくは1〜3の1価炭化水素基、アルコキシアルキル基、アシル基等である。Rが1価炭化水素基である場合、その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基等のアルケニル基;フェニル基;またはこれらの1価炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子等で置換した基、例えば、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2−(ノナフルオロブチル)エチル基、p−クロロフェニル基などが挙げられる。また、Rがアルコキシアルキル基である場合、その例としては、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、エトキシエチル基、ブトキシエチル基等のアルコキシアルキル基;またはこれらのアルコキシアルキル基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子等で置換した基が挙げられる。更に、Rがアシル基である場合、その例としては、アセチル基、プロピオニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等のアシル基;またはこれらのアシル基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子等で置換した基が挙げられる。これらの中でも、本発明有機ケイ素化合物の合成のしやすさおよび経済性の観点から、特にメチル基及びエチル基が好ましい。
【0021】
上記一般式(1)中、mは、通常、0〜4、好ましくは0〜3、より好ましくは0〜2の整数であるが、本発明有機ケイ素化合物の合成のしやすさおよび経済性の観点から、更により好ましくは0〜1の整数である。また、上記一般式(1)中、nは、通常、2〜20の整数であるが、本発明有機ケイ素化合物の合成のしやすさおよび経済性の観点から、好ましくは2である。
【0022】
一般式(1)で表される有機ケイ素化合物の具体例としては、下記の化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
【化2】

【0024】
一般式(1)で表される有機ケイ素化合物は、例えば、次のようにして製造される。
【0025】
第一に、下記反応式(A)で表される工程を有する方法で製造される。
反応式(A):
【0026】
【化3】


(式中、R〜R、Rおよびmは前記のとおりであり、Rは非置換もしくは置換の、炭素原子数が好ましくは4〜28、より好ましくは6〜18、更により好ましくは8〜14の1価炭化水素基であり、R10はR−CH−CH−で表される非置換もしくは置換の、炭素原子数が好ましくは6〜30、より好ましくは8〜20、更により好ましくは10〜16の1価炭化水素基であり、qは0または1である。)
【0027】
<A工程>
オルガノハイドロジェンシロキサン(2)とビニルシラン(3)とをヒドロシリル化触媒存在下で反応させると、片末端オルガノハイドロジェンシロキサン(4)が合成される。片末端オルガノハイドロジェンシロキサン(4)は、一般式(1)で表される本発明の有機ケイ素化合物においてRが水素原子である場合に相当する。
この反応は、溶媒の非存在下で行ってもよいし、トルエンなどの溶媒の存在下で行ってもよい。反応温度は、通常、70〜100℃、好ましくは70〜90℃である。反応時間は1〜3時間でよい。この反応において、ビニルシラン(3)の添加量は、オルガノハイドロジェンシロキサン(2)1モルに対して、好ましくは0.5〜1.0モル、より好ましくは0.5〜0.6モルである。
【0028】
<B工程>
得られた片末端オルガノハイドロジェンシロキサン(4)とアルケン(5)とをヒドロシリル化触媒存在下で反応させることにより有機ケイ素化合物(6)が得られる。有機ケイ素化合物(6)は、一般式(1)で表される本発明の有機ケイ素化合物においてRが1価炭化水素基である場合に相当する。
反応温度は、通常、70〜100℃、好ましくは70〜90℃である。反応時間は1〜3時間でよい。この反応において、アルケン(5)の添加量は、片末端オルガノハイドロジェンシロキサン(4)1モルに対して、好ましくは1.0〜2.0モル、より好ましくは1.0〜1.5モルである。
【0029】
なお、Rの具体例としては、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ドデセニル基、テトラデセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、2−フェニルエチル基、2−メチル−2−フェニルエチル基等のアラルキル基;またはこれらの炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子等で置換した基、例えば、2−(ノナフルオロブチル)エチル基、2−(ヘプタデカフルオロオクチル)エチル基、p−クロロフェニル基などが挙げられる。
【0030】
第二に、下記反応式(B)で表される工程を有する方法で製造される。
反応式(B):
【0031】
【化4】


(式中、R〜R、R10、Rおよびmは前記のとおりであり、rは0〜16の整数である。)
【0032】
<工程C>
オルガノハイドロジェンシロキサン(2)とアルケニルトリオルガノオキシシラン(7)とをヒドロシリル化触媒存在下で反応させると、片末端オルガノハイドロジェンシロキサン(8)が合成される。片末端オルガノハイドロジェンシロキサン(8)は、一般式(1)で表される本発明の有機ケイ素化合物においてRが水素原子である場合に相当する。
この反応は、溶媒の非存在下で行ってもよいし、トルエンなどの溶媒の存在下で行ってもよい。反応温度は、通常、70〜100℃、好ましくは70〜90℃である。反応時間は1〜3時間でよい。この反応において、アルケニルトリオルガノオキシシラン(7)の添加量は、オルガノハイドロジェンシロキサン(2)1モルに対して、好ましくは0.5〜1.0モル、より好ましくは0.5〜0.6モルである。
【0033】
<工程D>
得られた片末端オルガノハイドロジェンシロキサン(8)とアルケン(5)とをヒドロシリル化触媒存在下で反応させることにより有機ケイ素化合物(9)が得られる。有機ケイ素化合物(9)は、一般式(1)で表される本発明の有機ケイ素化合物においてRが1価炭化水素基である場合に相当する。
反応温度は、通常、70〜100℃、好ましくは70〜90℃である。反応時間は1〜3時間でよい。この反応において、アルケン(5)の添加量は、片末端オルガノハイドロジェンシロキサン(8)1モルに対して、好ましくは1.0〜2.0モル、より好ましくは1.0〜1.5モルである。
【0034】
なお、原料であるアルケニルトリオルガノオキシシラン(7)の製造方法としては、例えば、下記反応式(C)で表される工程を有する方法が挙げられる。
反応式(C):
【0035】
【化5】


(式中、R、Rおよびrは前記のとおりである。)
【0036】
<工程E>
ジエン(10)とトリオルガノオキシシラン(11)とをヒドロシリル化触媒存在下で反応させると、アルケニルトリオルガノオキシシラン(7)が合成される。この反応は、溶媒の非存在下で行ってもよいし、トルエンなどの溶媒の存在下で行ってもよい。反応温度は、通常、70〜100℃、好ましくは70〜90℃である。反応時間は1〜3時間でよい。この反応において、トリオルガノオキシシラン(11)の添加量は、ジエン(10)1モルに対して、好ましくは0.5〜1.0モル、より好ましくは0.5〜0.6モルである。
【0037】
<ヒドロシリル化触媒>
上記の各工程で使用されるヒドロシリル化触媒は、一方の原料化合物中の脂肪族不飽和基(アルケニル基、ジエン基等)と他方の原料化合物中のケイ素原子結合水素原子(即ち、SiH基)とを付加反応させる触媒である。該ヒドロシリル化触媒としては、例えば、白金族の金属単体やその化合物などの白金族金属系触媒が挙げられる。白金族金属系触媒としては従来公知のものが使用でき、その具体例としては、シリカ、アルミナ又はシリカゲルのような担体上に吸着させた微粒子状白金金属、塩化第二白金、塩化白金酸、塩化白金酸6水塩のアルコール溶液、パラジウム触媒、ロジウム触媒等が挙げられるが、白金族金属として白金を含むものが好ましい。ヒドロシリル化触媒は一種単独で使用しても二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
ヒドロシリル化触媒の添加量は、上記付加反応を促進できる有効量であればよく、通常、白金族金属量に換算して原料化合物の合計に対して1ppm(質量基準。以下、同様)〜1質量%の範囲であり、好ましくは10〜500ppmの範囲である。該添加量がこの範囲内にあると、付加反応が十分に促進されやすく、また、該添加量の増加に応じて付加反応の速度が向上しやすいので、経済的にも有利となりやすい。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例および比較例にて具体的に説明する。本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
1リットル丸形セパラブルフラスコに、四つ口セパラブルカバーを介して、攪拌機、温度計、蛇管冷却管、滴下ロートを備え付けた。このセパラブルフラスコに1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンを537.3 g(4.0 mol)入れ、70℃まで加熱した。加熱後、塩化白金酸2質量%2-エチルヘキサノール溶液1.0 gを添加し、得られた混合物を70℃で30分間撹拌した。その後、トリメトキシビニルシラン296.5g(2.0 mol)を70-80℃で2時間かけて滴下して反応を開始させた。滴下後も70-80℃に保って反応を続行させた。反応中は、未反応のトリメトキシビニルシランを還流させた。反応の進行はガスクロマトグラフィーにて追跡し、トリメトキシビニルシランのピークが消失した時点で反応が終了したものとして、加熱を終了させた。反応終了後、セパラブルフラスコ内を減圧して、残存する1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンを取り除き、溶液を得た。得られた溶液を蒸留して、目的物である1-トリメトキシシリルエチル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(12)を339.1 g(1.2 mol, 収率60%)得た。
【0041】
【化6】

【0042】
上述化合物は29Si-NMRと1H-NMRにより同定された。
29Si-NMR (C6D6) δ 10.19〜9.59ppm (CH2SiMe2O-),
-6.88〜-7.50ppm (HSiMe2O-),
-42.62〜-43.06ppm (Si(OMe)3);
1H-NMR (CDCl3) δ 4.66-4.59ppm (m, 1H, HSi),
3.52-3.48ppm (m, 9H, Si(OCH3)3),
1.04-0.48ppm (m, 4H, Si(CH2)2Si),
0.12-0.01ppm (m, 12H, Si(CH3)2O).
【0043】
[実施例2]
1リットル丸形セパラブルフラスコに、四つ口セパラブルカバーを介して、攪拌機、温度計、蛇管冷却管、滴下ロートを備え付けた。このセパラブルフラスコに1,1,3,3,5,5-ヘキサメチルトリシロキサンを250.0 g(1.2 mol)入れ、70℃まで加熱した。加熱後、塩化白金酸2質量%2-エチルヘキサノール溶液0.6 gを添加し、得られた混合物を70℃で30分間撹拌した。その後、トリメトキシビニルシラン88.9g(0.6 mol)を70-80℃で1時間かけて滴下して反応を開始させた。滴下後も70-80℃に保って反応を続行させた。反応中は、未反応のトリメトキシビニルシランを還流させた。反応の進行はガスクロマトグラフィーにて追跡し、トリメトキシビニルシランのピークが消失した時点で反応が終了したものとして、加熱を終了させた。反応終了後、セパラブルフラスコ内を減圧して、残存する1,1,3,3,5,5-ヘキサメチルトリシロキサンを取り除き、溶液を得た。得られた溶液を蒸留して、目的物である1-トリメトキシシリルエチル-1,1,3,3,5,5-ヘキサメチルトリシロキサン(13)を200.2 g(0.56 mol, 収率56%)得た。
【0044】
【化7】

【0045】
上述化合物は29Si-NMRと1H-NMRにより同定された。
29Si-NMR (C6D6) δ 8.33〜7.82ppm (CH2SiMe2O-),
-7.23〜-7.51ppm (HSiMe2O-),
-19.73〜-20.24ppm (-OSiMe2O-),
-42.56〜-42.97ppm (Si(OMe)3);
1H-NMR (CDCl3) δ 4.70-4.66ppm (m, 1H, HSi),
3.56ppm (s, 9H, Si(OCH3)3),
1.09-0.56ppm (m, 4H, Si(CH2)2Si),
0.17-0.02ppm (m, 18H, Si(CH3)2O).
【0046】
[実施例3]
1リットル丸形セパラブルフラスコに、四つ口セパラブルカバーを介して、攪拌機、温度計、蛇管冷却管、滴下ロートを備え付けた。このセパラブルフラスコに1-デセンを168.3 g(1.2 mol)入れ、70℃まで加熱した。加熱後、塩化白金酸2質量%2-エチルヘキサノール溶液0.6 gを添加し、得られた混合物を70℃で30分間撹拌した。その後、実施例1で得られた1-トリメトキシシリルエチル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン 282.6g(1.0 mol)を2時間かけて滴下して反応を開始させた。滴下後も70-80℃に保って反応を続行させた。反応中は、未反応の1-トリメトキシシリルエチル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンを還流させた。反応の進行はガスクロマトグラフィーにて追跡し、1-トリメトキシシリルエチル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンのピークが消失した時点で反応が終了したものとして、加熱を終了させた。反応終了後、セパラブルフラスコ内を減圧して、残存する1-デセンを除去し、油状物を得た。得られた油状物を活性炭で洗浄して、目的物である1-デカニル-3-トリメトキシシリルエチル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(14)を380.5 g(0.9 mol, 収率90%)得た。
【0047】
【化8】

【0048】
上述化合物は29Si-NMRと1H-NMRにより同定された。
29Si-NMR (C6D6) δ 7.86〜6.83ppm (CH2SiMe2OSiMe2CH2),
-42.50〜-42.82ppm (Si(OMe)3);
1H-NMR (CDCl3) δ 3.55ppm (s, 9H, Si(OCH3)3),
1.24-0.48ppm (m, 25H, Si(CH2)2Si, CH2, CH3),
0.08-0.01ppm (m, 12H, Si(CH3)2O).
【0049】
[実施例4]
1リットル丸形セパラブルフラスコに、四つ口セパラブルカバーを介して、攪拌機、温度計、蛇管冷却管、滴下ロートを備え付けた。このセパラブルフラスコに1-テトラデセンを235.6 g(1.2 mol)入れ、70℃まで加熱した。加熱後、塩化白金酸2質量%2-エチルヘキサノール溶液0.6 gを添加し、得られた混合物を70℃で30分間撹拌した。その後、実施例2で得られた1-トリメトキシシリルエチル-1,1,3,3,5,5-ヘキサメチルトリシロキサン 356.71g(1.0 mol)を2時間かけて滴下して反応を開始させた。滴下後も70-80℃に保って反応を続行させた。反応中は、未反応の1-トリメトキシシリルエチル-1,1,3,3,5,5-ヘキサメチルトリシロキサンを還流させた。反応の進行はガスクロマトグラフィーにて追跡し、1-トリメトキシシリルエチル-1,1,3,3,5,5-ヘキサメチルトリシロキサンのピークが消失した時点で反応が終了したものとして、加熱を終了させた。反応終了後、セパラブルフラスコ内を減圧して、残存する1-テトラデセンを除去し、油状物を得た。得られた油状物を活性炭で洗浄して、目的物である1-テトラデカニル-3-トリメトキシシリルエチル-1,1,3,3,5,5-ヘキサメチルトリシロキサン(15)を492.2 g(0.9 mol, 収率89%)得た。
【0050】
【化9】

【0051】
上述化合物は29Si-NMRと1H-NMRにより同定された。
29Si-NMR (C6D6) δ 7.95〜6.93ppm (CH2SiMe2, OSiMe2CH2),
-21.39〜-21.89ppm (-OSiMe2O-),
-42.53〜-42.90ppm (Si(OMe)3);
1H-NMR (CDCl3) δ 3.56ppm (s, 9H, Si(OCH3)3),
1.24-0.48ppm (m, 33H, Si(CH2)2Si, CH2, CH3),
0.13-0.00ppm (m, 18H, Si(CH3)2O).
【0052】
[応用例]
まず、本発明の組成物を形成する以下の各成分を用意した。
(A)オルガノポリシロキサン
A−1:下記式で表され、動粘度が500mm2/sのオルガノポリシロキサン
【0053】
【化10】


(B)ウェッター
B−1:下記式で表されるオルガノポリシロキサン
MeSiO(SiMeO)30Si(OMe)
B−2:下記式で表されるアルコキシシラン
1021Si(OCH
B−3:下記式で表される有機ケイ素化合物(実施例4で合成したもの)
【0054】
【化11】


(C)熱伝導性充填剤
C−1:アルミニウム粉末(平均粒径10.0μm、JIS Z 8801-1に規定の目開き32μmの篩下画分)
C−2:アルミニウム粉末(平均粒径1.5μm、同規格の目開き32μmの篩下画分)
C−3:酸化亜鉛粉末(平均粒径1.0μm、同規格の目開き32μmの篩下画分)
なお、(C)成分の平均粒径は、日機装株式会社製の粒度分析計であるマイクロトラックMT3300EXにより測定した体積基準の累積平均径である。
【0055】
[製造方法]
(A)〜(C)成分を以下のとおりに混合して実施例5〜6および比較例1〜2の組成物を得た。即ち、表1および表2に示す組成比(容量部)で5リットルプラネタリーミキサー(井上製作所株式会社製)に(A)〜(C)成分を量り取り、70℃で1時間混合した。得られた混合物を常温まで冷却した。
【0056】
[試験方法]
得られた組成物の特性を下記の試験方法で測定した。結果を表1および2に併記する。
【0057】
〔粘度測定〕
得られた組成物を25℃の恒温室に24時間放置後、粘度計(商品名:スパイラル粘度計PC−1TL、株式会社マルコム製)を使用して回転数10rpmでの粘度(初期粘度)を測定した。
初期粘度測定後の上記組成物を125℃で500時間放置した後、再度、該組成物の粘度を該粘度計により測定した。
【0058】
〔熱伝導率測定〕
得られた組成物を3cm厚の型に流し込み、その上にキッチン用ラップを被せて、京都電子工業株式会社製の熱伝導率計(商品名:QTM−500)で該組成物の熱伝導率を測定した。
【0059】
〔熱抵抗の測定〕
<試験片作製>
直径12.6mm、厚み1mmの円形アルミニウム板2枚で厚み75μmの組成物を挟み込み、0.15MPaの圧力を25℃で60分間掛けて試験片を作製した。
【0060】
<厚み測定>
試験片の厚みをマイクロメータ(株式会社ミツトヨ製)で測定し、予め測定してあったアルミニウム板2枚分の厚みを差し引いて、該組成物の厚みを算出した。
【0061】
<熱抵抗の測定>
上記試験片を用いて、該組成物の熱抵抗(単位:mm2・K/W)をレーザーフラッシュ法に基づく熱抵抗測定器(ネッチ社製、キセノンフラッシュアナライザー;LFA447 NanoFlash)により25℃において測定した。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】


*2)組成物はミキサーで攪拌混合してもペースト状にならなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】


[式中、Rは水素原子、または非置換もしくは置換の1価炭化水素基であり、R〜Rはおのおの、同一または異種の非置換もしくは置換の1価炭化水素基であり、Rは独立に水素原子、または非置換もしくは置換の1価炭化水素基であり、Rは同一または異種の非置換もしくは置換の1価有機基であり、mは0〜4の整数であり、nは2〜20の整数である。]
で表される有機ケイ素化合物。
【請求項2】
が独立に、非置換または置換の1価炭化水素基、アルコキシアルキル基、もしくはアシル基である請求項1に係る有機ケイ素化合物。
【請求項3】
が非置換または置換の1価炭化水素基である場合に、Rの炭素原子数が6〜30であり、
〜Rの炭素原子数が1〜8であり、
が非置換または置換の1価炭化水素基である場合に、Rの炭素原子数が1〜5であり、
の炭素原子数が1〜6である
ことを特徴とする請求項1または2に係る有機ケイ素化合物。

【公開番号】特開2007−332104(P2007−332104A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−167892(P2006−167892)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】