説明

有機ケイ素化合物

【課題】オルガノポリシロキサンの末端アルコキシシリル化剤等として有用な新規有機ケイ素化合物を提供する。
【解決手段】 下記式:
−Si(R2−(CH)n−Si(Ra(X)3-a
(式中、Rはケイ素原子に直接結合する窒素原子を有する有機基、Rは独立に1価の置換もしくは非置換の炭素原子数1〜10の有機基、Xは加水分解性基、nは1〜6の整数、そしてaは0、1または2の整数である。)
で表される有機ケイ素化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規有機ケイ素化合物に関するものであり、特にアルコキシシリル化剤、硬化剤、アルコールスカベンジャーなどの保存安定性付与剤等として有用な新規有機ケイ素化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
α,ω-ジヒドロキシポリジメチルシロキサン等のオルガノシロキサンの末端にアルコキシ基を導入する末端アルコキシシリル化剤としては、種々のアルコキシシラン類、例えばメトキシシラン類、エトキシシラン等、含窒素シリル化剤としては特許文献1に例示されているものが挙げられる。しかし、これらのアルコキシシリル化剤は反応性が低く満足しがたいものであった。そこで、より反応性に富むアルコキシシリル化剤が望まれている。
【特許文献1】特開平5−345888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明の目的は、オルガノポリシロキサンの末端アルコキシシリル化剤等として有用な新規有機ケイ素化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、この目的を達成する手段として、下記式(1):
−Si(R2−(CH)n−Si(Ra(X)3-a (1)
(式中、Rはケイ素原子に直接結合する窒素原子を有する有機基、RおよびRはおのおの独立に1価の置換もしくは非置換の炭素原子数1〜10の有機基、Xは加水分解性基、nは1〜6の整数、そしてaは0、1または2の整数である。)
で表される有機ケイ素化合物が提供される。
【発明の効果】
【0005】
本発明の新規有機ケイ素化合物は、アルコール・シラノール類と効率的に反応し、工業的に有用なα,ω-ジヒドロキシポリジメチルシロキサン等のオルガノポリシロキサンの末端アルコキシシリル化剤、アルコール等のスカベンジャーとして働くので脱アルコール型室温硬化性シリコーンゴム(RTV)組成物の保存安定性付与剤として好適に用いることができる。
【0006】
また、この有機ケイ素化合物は一分子中に3個のメトキシ基を有する3官能性アルコキシシラン化合物として調製することができ、その場合には該有機ケイ素化合物は脱アルコール型RTV組成物の硬化剤としても有用である。
【0007】
また、従来はジビニルポリジメチルシロキサンと取り扱いに制限があるトリアルコキシシランの付加反応によりシルエチレン結合介在型オルガノポリシロキサンが調製されていたが、本発明の式(1)においてn=2である場合の有機ケイ素化合物は、ジヒドロキシポリジメチルシロキサンと直接反応してシルエチレン結合を導入させることにも有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の有機ケイ素化合物について詳細に説明する。
【0009】
前記一般式(1)において、Rは、窒素原子を有する有機基であってそのケイ素原子によりケイ素原子に直接結合するものである。かかるRの好ましい例としては、下記の式(2)、式(3)で表されるアミノ基を挙げることができる。
【0010】
【化1】

(2)
【0011】
【化2】

(3)
【0012】
(これらの式において、Rは独立に水素原子または置換もしくは非置換の1価の有機基である。)
が例示され、式(2)で表される基が特に好ましい。
【0013】
上記の式(2)および式(3)において、Rで表されうる置換もしくは非置換の1価の有機基は、その構造が直鎖状、環状または分岐状でもよいし、炭素原子および水素原子以外に窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含んでもよい。置換もしくは非置換の1価の有機基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アミル基、ヘキシル基等の直鎖状アルキル基、イソプロピル等の分岐状アルキル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、アリル基等の脂肪族不飽和基、ジメチルアミノ基等のヘテロ原子を含む有機基などが挙げられ、水素原子及び炭素原子数1〜10の一価炭化水素基が好ましく、中でも水素原子および炭素原子数1〜10のアルキル基が好ましく、特に水素原子および炭素原子数1〜6のアルキル基が好ましい。
【0014】
一般式(1)においてRおよびRはおのおの1価の置換もしくは非置換の炭素原子数1〜10の有機基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素原子1〜6の、特に1〜4のアルキル基、ビニル基、アリル等の炭素原子数2〜4の、特に2〜3のアルケニル基、フェニル基、トリル基等の炭素原子数6〜10の、特に6〜8のアリール基等が挙げられ、メチル基、エチル基、フェニル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0015】
nは、1〜6の整数で、2および3が好ましく、特に2が好ましい。
【0016】
Xは加水分解性基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素原子数1〜4の、特に1〜2のアルコキシ基、メチルエチルケトオキシム基等のケトオキシム基、イソプロペノキシ基等の炭素原子数2〜4のアルケニルオキシ基、アセトキシ基等のアシロキシ基、ジメチルアミノキシ基等のジアルキルアミノキシ基等が挙げられ、好ましくは炭素原子数1〜4のアルコキシ基であり、特に好ましくはメトキシ基およびエトキシ基である。
【0017】
また、aは0、1または2の整数であり、2または3が好ましく、3が特に好ましい。
【0018】
かかる一般式(1)で表される本発明の有機ケイ素化合物は、これに含まれるN−Si結合は結合エネルギーが比較的小さいために、アルコール類、シラノール類と効率よく反応するものと推定される。
【0019】
一般式(1)の化合物の中でも好ましい例として、式(1A):
−Si(R2−(CH)n−Si(Ra(X)3-a (1A)
〔ただし、
が式:
【0020】
【化3】

【0021】
(ここで、R4AおよびR4Bは独立に炭素原子数1〜10、特に1〜6のアルキル基、または水素原子であるが、R4AとR4Bとは同時に水素原子ではない。)
であり、
は炭素原子1〜6、特に1〜4のアルキル基であり、
nは2または3、特に3であり、
は炭素原子1〜6、特に1〜4のアルキル基であり、
Xは炭素原子1〜4、特に1または2のアルコキシ基である。〕
で表される有機ケイ素化合物が挙げられる。
【0022】
−製造方法−
本発明の有機ケイ素化合物は、例えば、式(4):
−H (4)
(ここで、Rは前記の通り)
で表されるアミン(第一アミンまたは第二アミン)と、式(5):
Cl−Si(R2−(CH)n−Si(Ra(X)3-a (5)
(ここで、R、R、X、n、およびaは前記の通りである。)
で表されるクロロシラン化合物とを、トリエチルアミン等の3級アミン存在下で脱塩酸反応をさせることにより合成することができる。
【0023】
上記の反応は窒素原子のケイ素原子に対する求核反応であり、3級アミンは反応により副生する塩化水素のトラップ剤として作用する。該反応は、無触媒・無溶媒かつ室温で容易に行うことができる。副生する中性塩は濾過により容易に取り除くことができ、減圧蒸留することで目的化合物を精製することができる。
【0024】
上記の合成に用いられる式(4)で表されるアミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、アミルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン等の脂肪族1級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族2級アミン、アリルアミン、ジアリルアミン等の脂肪族不飽和アミン、シクロプロピルアミン、シクロブチルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン等の脂環式アミン、アニリン、メチルアニリン等の芳香族アミンが例示され、脂肪族1級アミン、脂肪族2級アミン、脂肪族不飽和アミン、脂環式アミンが好ましく、特にこれらの中で、室温で液状であるものが好ましい。具体的には、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、アミルアミン、ヘキシルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、シクロプロピルアミン、シクロブチルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン等の窒素原子に結合した置換基が水素原子、及び/又は炭素原子数1〜6のアルキル基であるアミンが好ましく、特にイソプロピルアミン、n−ブチルアミンが好ましい。
【0025】
また、式(5)で表される式:
Cl−Si(R2−H
(ここで、Rは前記の通り)
で表されるクロロハイドロジェンシランと、式:
CH=CH−(CH)−Si(Ra(X)3-a
(ここで、R3およびXは前記の通りであり、mは0〜4の整数である)
アルケニルシラン化合物とを白金触媒の存在下で公知のヒドロシリル化反応を行わせることにより容易に製造することができる。
【実施例】
【0026】
[実施例1]
(1)原料であるクロロシランの合成:
攪拌機、ドライアイストラップ、温度計、滴下ロートを備えた500mlの四つ口フラスコに、トリメトキシビニルシラン148.2g(1mol)と塩化白金酸(H2PtCl6・6H2O)0.75gを入れ、加熱攪拌しながら70℃に昇温する。この状態で、ジメチルクロロシラン104.1g(1.1mol)を滴下反応させる。滴下中、発熱が確認され、系中は70℃から90℃となったが、さらに80℃において30分間攪拌を続けた。反応終了後、低沸点分を100℃/7mmHgの条件で1時間留去を行って濃縮し、式:
Cl−Si(CH2−(CH)−Si(OCH
で表されるクロロシランを得た。得られたクロロシランは精製することなく、次工程に用いた。
【0027】
(2)有機ケイ素化合物の合成:
攪拌機、還流冷却管、温度計、滴下ロートを備えた1000mlの四つ口フラスコに、工程(1)で得られたクロロシラン、トルエン600g、トリエチルアミン101.2g(1.1mol)を入れ、イソプロピルアミン59.1g(1.1mol)を室温にて滴下反応させた。滴下終了後、50℃から60℃で3時間攪拌した後、得られた塩をろ過し、減圧蒸留により沸点93〜95/7〜8mmHgに127.7g(全収率48%)の留分を得た。ガスクロマトグラフィー分析と1H-NMR、13C-NMR、29Si-NMR解析により、この留分は下記の式で表される目的化合物(A−1)を92%含んでいることを確認した。
【0028】
【化4】

【0029】
同定資料:
・沸点:93〜95/7〜8mmHg
1H-NMR、13C-NMR、および29Si-NMRの測定結果:それぞれのチャートを図1、図2および図3として示す。
【0030】
[実施例2]
実施例1の工程(2)において、イソプロピルアミンの代わりにn−ブチルアミン80.2g(1.1molを用いた以外は該工程(2)と同様にして有機ケイ素化合物の合成を行った。沸点100-110℃/7mmHgにおいて111.8g(全収率40%)の留分を得た。ガスクロマトグラフィー分析と1H-NMR、13C-NMR、29Si-NMR解析により、この留分は下記の式で表される目的化合物(A−2)を95%含んでいることを確認した。
【0031】
【化5】

【0032】
同定資料:
・沸点:100-110℃/7mmHg
1H-NMR、13C-NMR、および29Si-NMRの測定結果:それぞれのチャートを図4、図5および図6として示す。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例1で得られた有機ケイ素化合物の1H-NMRのチャートを示す。
【図2】実施例1で得られた有機ケイ素化合物の13C-NMRのチャートを示す。
【図3】実施例1で得られた有機ケイ素化合物の29Si-NMRのチャートを示す。
【図4】実施例2で得られた有機ケイ素化合物の1H-NMRのチャートを示す。
【図5】実施例2で得られた有機ケイ素化合物の13C-NMRのチャートを示す。
【図6】実施例2で得られた有機ケイ素化合物のSi-NMRのチャートを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
−Si(R2−(CH)n−Si(Ra(X)3-a (1)
(式中、Rはケイ素原子に直接結合する窒素原子を有する有機基、RおよびRはおのおの独立に1価の置換もしくは非置換の炭素原子数1〜10の有機基、Xは加水分解性基、nは1〜6の整数、そしてaは0、1または2の整数である。)
で表される有機ケイ素化合物。
【請求項2】
で表される窒素原子を有する有機基が、式(2):
【化1】


(式中、Rは独立に水素原子または置換もしくは非置換の1価の有機基)で表される請求項1に係る有機ケイ素化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−263237(P2009−263237A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−110910(P2008−110910)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】