説明

有機スズ触媒を用いたエステル交換反応物の製造方法

【課題】触媒活性に優れたエステル交換触媒を用いながらも、触媒活性を失活させることなく前記エステル交換触媒を簡便な方法で回収できることを特徴とするエステル交換物の製造方法を提供すること。
【解決手段】エステル交換反応において特定の構造のスタノキサン化合物をエステル交換触媒として用い、かつ、反応終了後において、粗反応生成物から該エステル交換触媒を、晶析させることにより、触媒活性を失活させることなく、高い回収率で該エステル交換触媒を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル交換反応触媒を用いたエステル交換反応物の製造方法に関し、特に不飽和カルボン酸エステル類などのエステル化合物をエステル交換反応により製造するために有用な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エステル化合物は、塗料樹脂、印刷インキ、UV硬化性樹脂、成形樹脂、フィルム、接着剤等の技術分野において有用な不飽和カルボン酸エステル類、または、ポリエステル系可塑剤などの用途において有用なポリエステルとして、工業的に使用されている。
かかるエステル化合物は、通常、無機酸の存在下、カルボン酸とポリオールとの直接エステル化法にて製造されている。しかし、かかる直接エステル化法による場合は、副反応が生じやすく、製品純度も低くなることが避けられないものであり、更に、過剰のカルボン酸、酸触媒を使用するため反応終了後の後処理が煩雑になるという問題があった。そこで、このような問題を回避するためエステル交換法によるエステル化合物の製造が検討され、近年、触媒活性に優れたエステル交換反応触媒として有機スズ化合物が注目されている。このような有機スズ化合物をエステル交換反応触媒として用いた例として、例えば、特許文献1には、触媒として二塩化ジメチルスズと酸化ジアルキルスズとを併用し、反応終了後にアルカリまたは酸で処理することにより、エステル交換生成物中に有害な有機スズ化合物の混入を防ぐ技術が開示され、特許文献2には、炭素原子数4以下のアルキル基を置換基として有するポリスタノキサン化合物を触媒として用い、かつ、反応終了後にアルカリまたは酸で処理することにより、エステル交換生成物中に有害な有機スズ化合物の混入を防ぎ、工業的規模での生産を可能にする技術が開示されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示された技術は、粗反応生成物をアルカリまたは酸で処理する工程を必要とし、これにより触媒を完全に分解させて反応生成物中への有機スズ化合物の混入を防止するものであって、触媒の回収・再利用は不可能であり生産コストの増大を招いていた。
【0004】
特許文献3には、エステル交換反応において、特定の有機スズ化合物に高い親和性を有するフッ素系不活性溶媒等の溶媒を用いて回収する方法が開示されており、特許文献4には、反応粗製物からスズ触媒を水で抽出し、回収する方法が開示されている。これらの技術は、反応終了後に溶媒による抽出工程を行う必要があり、製造工程上煩雑さを招いており、簡便で回収率高く触媒を回収できるエステル交換反応物の製造方法の開発が待たれていた。
【0005】
【特許文献1】特開平7−8277号公報
【特許文献2】特開平9−183751号公報
【特許文献3】特開2002‐371084公報
【特許文献4】特開2003‐190819公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、触媒活性に優れたエステル交換触媒を用いながらも、触媒活性を失活させることなく前記エステル交換触媒を簡便な方法で回収でき、反応生成物中の残存触媒量を著しく低減させることを可能とするエステル交換反応物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、エステル交換反応において特定構造のスタノキサン化合物をエステル交換触媒として用い、かつ、反応終了後において、粗反応生成物から該エステル交換触媒を晶析させることにより、触媒活性を失活させることなく、高い回収率で該エステル交換触媒を回収できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、カルボン酸エステルとアルコールとのエステル交換反応によりエステル交換反応物を製造する方法において、
(I)アルコールとカルボン酸エステルとを下記一般式(1)
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R1及びRは、それぞれ独立に、ベンゼン環を有してもよい炭素数7〜29の炭化水素基、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基、−X−は、
【0010】
【化2】

【0011】
を表す。)
で表されるスタノキサン触媒の存在下にエステル交換反応させて粗反応生成物を得る工程
(II)前記粗反応生成物から触媒を析出させる工程
(III)前記触媒を分離し、回収する工程
を含むことを特徴とするエステル交換反応物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、触媒活性に優れたエステル交換触媒であって、触媒活性を失活させることなくエステル交換触媒を簡便な方法により高い回収率で回収できることを特徴とするエステル交換反応物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明で用いるエステル交換触媒は、下記一般式(1)
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、R1及びRは、それぞれ独立に、ベンゼン環を有してもよい炭素数7〜29の炭化水素基、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基、−X−は、
【0016】
【化4】

【0017】
を表す。)
で表されるスタノキサン触媒であり、優れた触媒活性を発現するものである。本発明では、かかるスタノキサン触媒を用いることにより、エステル交換反応における収率が良好になると共に、優れた触媒活性を保持したまま、簡便な晶析法により、前記エステル交換触媒の回収が可能となる。
このような一般式(1)で示されるスタノキサン触媒として、R1及びRは、それぞれ独立に、ベンゼン環を有してもよい炭素数7から29の炭化水素基を表す。
また、R、R、R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1から4のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基を表すが、特にメチル基が好ましい。
【0018】
上記式(1)における−X−が、
【0019】
【化5】

【0020】
である場合には、一般式(1)で表される化合物のR1及びRは、炭素数7〜29であるアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数11〜17であるアルキル基である。炭素数が6以下であると、スタノキサン触媒の回収率が高くなく、好ましくない。また、R、R、R及びRは、全てメチル基である場合が特に好ましい。
【0021】
また、上記式(1)における−X−が、
【0022】
【化6】

【0023】
である場合には、一般式(1)で表される化合物のR1及びRは、ベンゼン環を有してもよい炭素数7〜29の炭化水素基が好ましく、より好ましくは炭素数7〜22である炭化水素基である。好ましい該炭化水素基としては、
【0024】
【化7】

【0025】
(式中、nは0〜15の整数を表わす。)である炭化水素基を挙げることができ、ベンゼン環の4位にアルキル置換基を有するものが好ましく、R、R、R及びRは、全てメチル基であるものが特に好ましい。
【0026】
これらのスタノキサン触媒は、通常公知の方法によって合成することができる。
本発明に使用されるスタノキサン触媒としては、例えば以下の化合物が挙げられるがこれらに限らない。
【0027】
15COOSn(CHOSn(CHOCOC15、C19COOSn(CHOSn(CHOCOC19、C1123COOSn(CHOSn(CHOCOC1123、C1327COOSn(CHOSn(CHOCOC1327、C1531COOSn(CHOSn(CHOCOC1531、C1735COOSn(CHOSn(CHOCOC1735、C1939COOSn(CHOSn(CHOCOC1939、C2143COOSn(CHOSn(CHOCOC2143、C2347COOSn(CHOSn(CHOCOC2347、C15COOSn(COSn(COCOC15、C19COOSn(COSn(COCOC19、C1123COOSn(COSn(COCOC1123、C1327COOSn(COSn(COCOC1327、C1531COOSn(COSn(COCOC1531、C1735COOSn(COSn(COCOC1735、C1939COOSn(COSn(COCOC1939、C2143COOSn(COSn(COCOC2143、C2347COOSn(COSn(COCOC2347、C15COOSn(COSn(COCOC15、C19COOSn(COSn(COCOC19、C1123COOSn(COSn(COCOC1123、C1327COOSn(COSn(COCOC1327、C1531COOSn(COSn(COCOC1531、C1735COOSn(COSn(COCOC1735、C1939COOSn(COSn(COCOC1939、C2143COOSn(COSn(COCOC2143、C2347COOSn(COSn(COCOC2347
CHSOOSn(CHOSn(CHOSOCH、CSOOSn(CHOSn(CHOSO、CSOOSn(CHOSn(CHOSO、C13SOOSn(CHOSn(CHOSO13、C17SOOSn(CHOSn(CHOSO17、C1225SOOSn(CHOSn(CHOSO1225、C13SOOSn(CHOSn(CHOSO13、C1225SOOSn(CHOSn(CHOSO1225、C2041SOOSn(CHOSn(CHOSO2041
【0028】
エステル交換反応に用いるアルコールとしては、目的とするエステル化合物の用途に応じ適宜選択すればよく、脂肪族アルコール、脂環族アルコール、芳香族アルコールまたはポリオールなどが挙げられる。また、これらのアルコールは飽和であっても不飽和であっても良く、該アルコールを構成する炭素原子数は、通常、1〜30である。
更に、前記アルコールは、前記した通り目的に併せて適宜選択し得るが、工業的には1価〜4価または6価のアルコールを用いることができる。
1価アルコールとしては、通常公知の1個の水酸基を有するアルキルアルコールを挙げることができる。
また、下記構造式(2)
【0029】
【化8】

【0030】
(式中、Rは炭素数2〜8のアルキレン基、Rは炭素数1〜18のアルキル基またはアリール基、nは1〜30の整数である。)
で示されるアルキレングリコールモノアルキルエーテル、及びフルフリルアルコール、テトラヒドロフリルアルコール、ベンジルアルコール、2−フェノキシエタノール、シクロヘキサノール、アリルアルコール、キシロース等、またヒドロキシルアミン類などの含窒素アルコール、及びヒドロキシアルキルピリジン、N−(ヒドロキシアルキル)ピペリジン、N−(ヒドロキシアルキル)ピペラジン等の窒素複素環含有ヒドロキシアルキル化合物が挙げられる。
【0031】
2価アルコールとしては、エチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、テトラデカンジオール、ヘキサデカンジオール、オクタデカンジオール、シクロヘキサンジオール、シクロデカンジオール、トリシクロデカンジオール、ブチンジオール、ブテンジオール、ヘキセンジオール、オクテンジオール、デセンジオール、ポリアルキレングリコールが挙げられる。
【0032】
3価アルコールとしては、ヘキサントリオール、オクタントリオール、デカントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、エチルオキシルトリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、グリセリンが挙げられる。
4価アルコールは、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、ヘキシトール、ソルビトール、マンニトール等が挙げられる。
6価のアルコールとしては、ジペンタエリスリトールが挙げられる。
【0033】
これらのなかでも、2価〜4価または6価のアルコールが多官能モノマー原料としてとりわけ有用である。即ち、このような多価のアルコールを、(メタ)アクリレートのような不飽和カルボン酸エステルとエステル交換反応させて得られるエステル化合物は、ポリマー架橋に有効な多官能モノマーとして極めて有用である。更に、前記ポリスタノキサンは、かかるエステル交換反応において優れた活性を示し、目的物を高収率、高純度で得られるという特徴を有する。
【0034】
次に、エステル交換反応において前記アルコールと反応させるカルボン酸アルキルエステルは、各種の飽和または不飽和のカルボン酸エステルを用いることができるが、多官能モノマーの原料として有効である点から、特に(メタ)アクリレートが好ましい。かかる(メタ)アクリレートとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレートが挙げられる。
【0035】
本発明におけるエステル交換反応は、溶媒の存在下或いは非存在下でも行うことができるが、エステル交換反応は、可逆反応ゆえに生成アルコールを系外に除去することが望ましく、そのため生成アルコールと共沸可能な有機溶媒を用いることが好ましい。
かかる溶媒の使用量は、特に制限されるものではないが、エステル交換反応の反応物に影響を与えない範囲、具体的には、出発原料の約5〜50質量%、なかでも10〜30質量%なる範囲が好ましい。
【0036】
ここで用いる有機溶媒は炭素原子数5〜10の脂肪族若しくは脂環式の炭化水素、またはその混合物が挙げられる。具体的には、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、クメンなどが挙げられる。これらの炭化水素系溶媒の中でも、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、トルエンなどが好ましい。これらの炭化水素系溶剤は共沸により回収され、さらに水でアルコールを抽出することにより回収できる。
【0037】
また、上記補助溶媒を使用するのみならず、不活性で且つ高沸点の溶媒を添加することにより反応速度を高めることができる。
エステル交換反応においては、前記した通り不飽和カルボン酸アルキルエステル、または不飽和アルコールを用いる場合であっても、単量体の自己重合を生じ難いという特徴を有するが、該重合を完全に抑制するため重合禁止剤を併用してもよい。
【0038】
ここで用いる重合禁止剤は、例えばベンゾキノン、ハイドロキノン、カテコール、ジフェニルベンゾキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ナフトキノン、t−ブチルカテコール、t−ブチルフェノール、ジメチル−t−ブチルフェノール、t−ブチルクレゾール、フェノチアジン等が挙げられる。
重合禁止剤の使用量は、反応生成物たるエステル化合物や、原料成分の量に依存するが、反応生成物に対して、通常、質量基準で5〜10000ppm、特に20〜7000ppmなる範囲であることが好ましい。
上記エステル交換反応は、大気圧で行うことができる。また、反応温度条件は用いる原料や反応溶媒によって適宜選択できるが、20〜150℃であることが好ましい。即ち、20℃以上の温度条件下ではエステル交換反応における反応速度が飛躍的に向上し、また、150℃以下の温度条件下では副反応を抑制できる。特に好ましい温度として、80〜150℃の範囲を挙げることができる。
【0039】
また、前記カルボン酸アルキルエステルとして(メタ)アクリレートを用いる場合には、エステル交換反応を、酸素含有気体雰囲気下で、或いは反応液面または反応液中に酸素含有気体を連続的に導入しながら行うことが、(メタ)アクリレートの重合を良好に抑制できる点から好ましい。ここで、酸素含有気体は、空気であっても構わないが、容積基準で酸素含有率が高くなると引火爆発の虞が生じる他、生成物の着色を招く虞も生じるため、酸素含有率5〜13体積%の気体であることが好ましい。かかる酸素含有率5〜13体積%の気体は、例えば、空気または酸素と、不活性ガスとを当該条件を満たすような割合で混合することにより調整できる。ここで、不活性ガスとしては窒素、アルゴン等が挙げられる。
【0040】
反応液面または反応液中に酸素含有気体を連続的に導入する際の流量は、原料(メタ)アクリレート1モルに対して0.1〜30mL/分である。
【0041】
また、反応液中に酸素含有気体を連続的に導入する場合は、反応液中になるべく微細な気泡となるように吹き込むと重合防止効果の効率が高くなる点で好ましい。
【0042】
更に、原料として(メタ)アクリレートを用いる場合は、生成物の着色防止の観点から反応系内に着色防止剤を加え、エステル交換反応を行うことが望ましい。かかる着色防止剤としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェートなどのトリアルキルエステル、ジブチルブチルホスホネートなどのホスホン酸有機エステル、ジブチル水素ホスファイトなどの亜リン酸の有機エステル、亜リン酸、ポリリン酸などの無機リン化合物、トリフェニルホスファイトが挙げられる。これらの中でも特に着色防止効果に優れる点から亜リン酸、または亜リン酸の有機エステルが好ましい。
かかる着色防止剤の使用量としては、エステル交換反応の目的物たるエステル化合物100質量部に対して0.01〜3質量部となる割合であることが望ましい。
【0043】
また、エステル交換反応において、アルコールとカルボン酸エステルとの使用割合は、特に制限されるものではないが、カルボン酸エステルのアルコールに対するモル比として、通常1以上であり、なかでも、カルボン酸エステルのアルコール類の水酸基に対するモル比で1.1:1から10:1の範囲であることが好ましい。
本発明における前記エステル交換反応は、具体的には以下の方法により行うことができる。
【0044】
即ち、先ず所定量のアルコールとカルボン酸エステルとを温度計、攪拌機、分留管及び乾燥空気の導入管を備えた反応器に仕込み、次に、適切な量の触媒、重合禁止剤、並びに必要に応じて溶媒及び着色防止剤を反応混合物中に添加し、反応混合物を攪拌しながら、上記した適切な温度範囲で、通常は反応系の還流温度まで加熱する方法が挙げられる。ここで、反応混合物を攪拌しながら、反応を完結させる為に、反応中にエステル交換反応により生じるアルコールを過剰のカルボン酸エステルまたは反応溶媒との共沸物として、分留管により除去することが望ましい。
【0045】
また、前記カルボン酸エステルとして(メタ)アクリレートを用いる場合には、(メタ)アクリレートを系内に加えながら反応を行うことが重合防止の点から好ましい。
エステル交換反応中は、反応混合物中の目的生成物の含量をガスクロマトグラフィー分析等により追跡し、目的物たるエステル化合物の含有率が90質量%以上になるまで反応を続けることが望ましい。反応時間は、特に制限されないが、通常2〜40時間である。
反応終了後、過剰の原料カルボン酸エステルまたは反応溶媒を反応器内から留去後、その残渣を粗反応生成物としてもよいし、或いは、過剰の原料カルボン酸エステルまたは反応溶媒を反応器内から留去した後、少量の不活性な溶剤、例えばトルエンやヘプタンを加えて粗反応生成物としてもよい。
【0046】
次に、本発明者らは、使用済スタノキサン触媒を失活させることなく、簡便に粗反応生成物から分離、回収する方法について詳細に検討を行った。
その結果、当該スタノキサン触媒は、温度によって、その構造が変化し、冷却した際の構造は、スタノキサン触媒が2分子会合した環状構造をとること、環状構造は鎖状スタノキサン触媒に比較して極性溶媒に対する溶解度が著しく低下することを見出した。下記に、上記式(1)における−X−が、
【0047】
【化9】

【0048】
である場合について示す。
【0049】
【化10】

【0050】
従って、本発明において、スタノキサン触媒の活性を失活させることなく、簡便に粗反応生成物から分離、回収するには、粗反応生成物を反応終了後に冷却し、極性溶媒を添加しないで析出した触媒を分離するか、極性溶媒を添加して析出した触媒を分離すればよい。
上記式(1)における−X−が、
【0051】
【化11】

【0052】
である場合についても同様である。
【0053】
ここで、反応後の冷却温度は、スタノキサン触媒が環状構造をとり、有機溶媒への溶解度が著しく低下する温度であれば、適宜選択して行うことが可能であるが、回収率を向上させるためには、−10〜30℃の範囲の温度が好ましく、特に20℃以下である該温度範囲が好ましい。30℃より高い温度であると、有機スズ触媒の回収率が低下し、エステル交換反応物中への混入が多くなり、好ましくない。また、‐10℃以下の冷却は、冷却時間の長時間化を招くことから製造工程上好ましくない。
スタノキサン触媒の析出の際には、極性溶媒を添加しても添加しなくてもよい。添加する極性溶媒は、スタノキサン触媒の回収率を向上させるために用いることができるものであれば、適宜選択して用いることができるが、好ましくは、非プロトン性極性溶媒を挙げることができ、具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−イミダゾリジン−2−オン、ジメチルスルホキシド等の溶媒を挙げることができる。
【0054】
析出したスタノキサン触媒を分離するには、析出した触媒のろ過を行えばよい。ろ過は通常公知の減圧ろ過法、加圧ろ過、遠心ろ過法等の方法を適宜選択して行うことができる。
【0055】
得られたスタノキサン触媒の回収率は、通常90から95%であり、95%以上の高い回収率の場合もある。また、エステル交換反応物中に残留する量は、使用される触媒により異なるが、通常300〜1000ppm程度である。しかしながら、本発明の製造方法以外の方法でエステル交換反応を行った場合には、反応終了後に効率的に触媒の回収を行うことができずに触媒がそのまま生成物中に残存するか、触媒を回収するためには分液等の操作を行うことが必要となる。
【0056】
ろ過により得られたスタノキサン触媒は、そのまま用いることができるが、極性溶媒を留去した後に使用しても良い。
このようにして回収されたエステル交換触媒は、殆ど触媒活性を失活することなく優れた活性を保持しており、再度、エステル交換反応の触媒として利用することができる。回収されたエステル交換触媒を用いてアルコールとカルボン酸エステルとをエステル交換反応させた場合であっても、目的物であるエステル化合物を収率よく得ることができる。また、回収されたエステル交換触媒を用いて2価〜4価のアルコール類と、(メタ)アクリレートとを反応させた場合にも優れた収率および選択率で、目的とするエステル化合物が得られる。本発明では、エステル交換触媒の回収効率が良好であることから、エステル交換触媒の回収、再利用により3回以上のエステル交換反応を行っても良好な収率及び選択率で目的とするエステル化合物が得られる。
【0057】
反応生成物であるエステル化合物は、特に前記カルボン酸アルキルエステルとして(メタ)アクリレートを用いた場合には、α、β−不飽和結合を有する脂肪族、脂環式族のエステル化合物となる。かかるエステル化合物は活性エネルギー線、熱、ラジカル重合開始剤などにより重合する、所謂、反応性モノマーとして有用であり、よって本発明はこのような反応性モノマーの製造に好ましく適用することができる。
【0058】
また、本発明のエステル交換触媒の回収方法は、反応性モノマーの製造のみならず、例えば、塗料樹脂、印刷インキ、UV硬化性樹脂、成形樹脂、フィルム、接着剤等の技術分野において有用な不飽和カルボン酸エステル類の製造、また、ポリエステル系可塑剤などの用途において有用なポリエステルの製造にも適用できる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
尚、以下の実施例及び比較例において用いた、ガスクロマトグラフィー(GC)による純度分析法は以下の通りである。
[ガスクロマトグラフィー装置:バリアン社製3800型GC,またはヒューレットパッカード社製6890型ガスクロマトグラフィー装置GCカラム:30mDB−1(メチルシリコンキャピラリカラム)、注入部温度:300℃、カラム温度:150〜300℃(昇温速度:15℃/分)、検出器:水素炎イオン化検出器、検出部温度:300℃、キャリアガス:N2ガス1.8mL/分。]
【0060】
(製造例1)スタノキサン触媒の合成−1
1.42gのステアリン酸(5mmol)と0.82gの酸化ジメチルスズ(5mmol)をトルエン中で混合し、60℃で3時間、攪拌反応した。減圧下にトルエンを留去して、白色結晶を得た。ヘキサンから再結晶後、乾燥して、2.00gの目的物を得た。(収率:90%)
1H-NMR(CDCl3、δ-TMS):0.72(6H)、0.76(3H)、1.20(28H)、1.70(2H)、2.28(2H)
13C-NMR(CDCl3、ppm-TMS):6.4、8.7、14.1、22.7、25.7、29.5、31.9
Sn-NMR(CDCl3、ppm-TMS):‐187、‐175
【0061】
(製造例2)スタノキサン触媒の合成−2
5.40gのCl(SnMe3O)2Cl(9.83mmol)と7.0gのステアリン酸カリウム(21.7mmol)を70gのN,N-ジメチルホルムアミドに混合し、100℃に加熱し、4時間攪拌反応した。反応液を90〜100℃でろ過し、ろ液を冷却、析出物を得た。析出物をヘキサンで再結晶した後、7.2gの目的物を得た。(収率:80%)
1H-NMR(CDCl3、δ-TMS):0.72(6H)、0.76(3H)、1.20(28H)、1.70(2H)、2.28(2H)
13C-NMR(CDCl3、ppm-TMS):6.4、8.7、14.1、22.7、25.7、29.5、31.9
Sn-NMR(CDCl3、ppm-TMS):‐187、‐175
(製造例3)スタノキサン触媒の合成−3
3.2gのドデシルベンゼンスルホン酸と1.6gの酸化ジメチルスズを用いた他は、製造例1と同様にして、4.3gの目的物を得た。(収率:90%)
(製造例4)スタノキサン触媒の合成−4
2.70gのCl(SnMe3O)2Clと3.4gの4−ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いた他は、製造例2と同様にして、5.0gの目的物を得た。(収率:90%)
(製造例5)スタノキサン触媒の合成−5
ドデシルベンゼンスルホン酸の替わりに、パラトルエンスルホン酸を用いた他は、製造例3と同様にして目的物を得た。(収率:90%)
【0062】
(実施例1)
250mLの4口フラスコに温度計、攪拌機、デカンター、ガラスチューブ(乾燥空気を30mL/分反応液に導入しうるもの)を装着し、アルコール、アクリル酸エチル、p-メトシキハイドロキノンを添加した。混合物を攪拌し、アルコールに対して5質量%の製造例1で得られたスタノキサン触媒を、一時に添加し、反応液を100℃に加熱を行い、生成するエタノールをアクリル酸エチルとともに留去した。反応液中のアクリル酸エチルの量が一定になるように、アクリル酸エチルを添加した。反応終了後、反応液に空気を注入しながら30℃まで冷却し、生成した析出物をろ過して、触媒の回収物を得た。目的物生成率(GC)、触媒の回収率(%)、生成物中のスズ含有率(ppm)の結果を以下の表−1に示す。
【0063】
(表−1)

【0064】
(実施例2)
250mLの4口フラスコに温度計、攪拌機、デカンター、ガラスチューブ(乾燥空気を30mL/分反応液に導入しうるもの)を装着し、アルコール、酪酸エチル、p-メトシキハイドロキノンを添加した。混合物を攪拌し、アルコールに対して5質量%の製造例1で得られたスタノキサン触媒を、一時に添加し、反応液を100℃に加熱を行い、生成するエタノールをアクリル酸エチルとともに留去した。反応液中の酪酸エチルの量が一定になるように、酪酸エチルを添加した。目的物生成率(GC)、触媒の回収率(%)、生成物中のスズ含有率(ppm)の結果を以下の表−2に示す。
【0065】
(表−2)

【0066】
(実施例3)
(実施例2)のアクリル酸エチルの替わりに酪酸エチルを用い、p-メトシキハイドロキノンを無添加である他は、(実施例2)と同様にして、反応及び分析を行った。目的物生成率(GC)、触媒の回収率(%)、生成物中のスズ含有率(ppm)の結果を以下の表−3に示す。
【0067】
(表‐3)

【0068】
(実施例4)
(実施例2)のアクリル酸エチルの替わりに安息香酸メチルを用い、且つ、p-メトシキハイドロキノンを無添加である他は、(実施例2)と同様にして、反応及び分析を行った。目的物生成率(GC)、触媒の回収率(%)、生成物中のスズ含有率(ppm)の結果を以下の表−4に示す。
【0069】
(表‐4)

【0070】
(実施例5)
ステアリン酸の替わりにオクタン酸0.72g(5mmol)を用いて、製造例1と同様にして、スタノキサン触媒を製造した。更に、得られた触媒を用いて、実施例1と同様にして反応を行った。反応終了後、反応液に空気を注入しながら30℃まで冷却し、生成した析出物をろ過して、触媒の回収物を得た。目的物生成率(GC)、触媒の回収率(%)、生成物中のスズ含有率(ppm)の結果を以下の表−5に示す。
(表−5)

【0071】
(実施例6)
製造例3で得られたスタノキサン触媒を用いて、実施例1と同様にして反応を行った。反応終了後、反応液に空気を注入しながら30℃まで冷却し、生成した析出物をろ過して、触媒の回収物を得た。目的物生成率(GC)、触媒の回収率(%)、生成物中のスズ含有率(ppm)の結果を以下の表−6に示す。
(表−6)

【0072】
(実施例7)触媒の再利用−1
アルコールとしてブタノールを用いて、(実施例2)と同様にして、反応を行った。
反応終了後、反応液を撹拌しながら20℃まで冷却し、空気をバブルした。析出した白色結晶ろ過し、再度反応に用いた。目的物生成率(GC)、触媒の回収率(%)、生成物中のスズ含有率(ppm)の結果を以下の表−7に示す。
【0073】
(表‐7)

【0074】
(実施例8)触媒の再利用−2
アルコールとしてブタノールを用いて、(実施例2)と同様にして、反応を行った。
反応終了後、反応液を撹拌しながら30℃まで冷却し、空気をバブルした。N,N-ジメチルホルムアミドを添加後、析出した白色結晶ろ過し、再度反応に用いた。目的物生成率(GC)、触媒の回収率(%)、生成物中のスズ含有率(ppm)の結果を以下の表−8に示す。
【0075】
(表‐8)

【0076】
(実施例9)
製造例5で得られたスタノキサン触媒を用いて、実施例1と同様にして反応を行った。
反応終了後、反応液に空気を注入しながら−5℃まで冷却し、生成した析出物をろ過して、触媒の回収物を得た。目的物生成率(GC)、触媒の回収率(%)、生成物中のスズ含有率(ppm)の結果を以下の表−9に示す。
(表−9)

【0077】
(比較例1)
ステアリン酸の替わりに酪酸0.44g(5mmol)を用いて、製造例1と同様にして、スタノキサン触媒を製造した。更に、得られた触媒を用いて、アルコールとしてヘキサノールを用い、実施例1と同様にして反応を行った。反応終了後、反応液に空気を注入しながら30℃まで冷却したが、触媒の析出物は得られず、触媒の回収はできなかった。
(比較例2)
実施例1において、冷却温度が40℃であった場合の触媒回収率(%)は、実施例1の略半分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸エステルとアルコールとのエステル交換反応によりエステル交換反応物を製造する方法において、
(I)アルコールとカルボン酸エステルとを下記一般式(1)
【化1】

(式中、R1及びRは、それぞれ独立にベンゼン環を有してもよい炭素数7〜29の炭化水素基、R、R、R及びRは、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基、
−X−は、
【化2】

を表す。)
で表されるスタノキサン触媒の存在下にエステル交換反応させて粗反応生成物を得る工程
(II)前記粗反応生成物から触媒を析出させる工程
(III)前記触媒を分離し、回収する工程
を含むことを特徴とするエステル交換反応物の製造方法。
【請求項2】
一般式(1)中、−X−が、
【化3】

である場合であって、R1及びRが、炭素数11〜17の直鎖アルキル基であり、
、R、R及びRが、それぞれ独立にメチル基及びエチル基からなる群から選ばれるアルキル基である請求項1に記載のエステル交換反応物の製造方法。
【請求項3】
一般式(1)中、−X−が、
【化5】

である場合であって、R1及びRが、
【化6】

(式中、nは0〜15の整数を表わす。)
で表される基であり、R、R、R及びRが、それぞれ独立にメチル基及びエチル基からなる群から選ばれるアルキル基である請求項1に記載のエステル交換反応物の製造方法。
【請求項4】
前記触媒を析出させる工程において、−10〜30℃の範囲で析出を行う請求項1〜3のいずれか一項に記載のエステル交換反応物の製造方法。
【請求項5】
前記触媒を析出させる工程において、極性溶媒を加える請求項1〜4のいずれか一項にエステル交換反応物の製造方法。
【請求項6】
前記極性溶媒が非プロトン性極性溶媒であることを特徴とする請求項5に記載のエステル交換反応物の製造方法。
【請求項7】
前記非プロトン性極性溶媒が、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−イミダゾリジン−2−オン、ジメチルスルホキシドである請求項6に記載のエステル交換反応物の製造方法。
【請求項8】
エステル交換反応が重合禁止剤の存在下に行われることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のエステル交換反応物の製造方法。
【請求項9】
アルコールが2価から4価のポリオールであり、カルボン酸エステルが(メタ)アクリル酸のメチルエステル、又はエチルエステルである請求項1〜8のいずれか一項に記載のエステル交換反応物の製造方法。

【公開番号】特開2010−126481(P2010−126481A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−302333(P2008−302333)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】