説明

有機性廃棄物の処理方法及び処理装置

【課題】 透過流束が高く、かつ、長期間安定してメタン発酵液の膜分離処理を行い得る有機性廃棄物の処理方法及び処理装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 メタン発酵槽からメタン発酵液の一部を取り出し、メタン発酵液の循環ラインを備える加圧型膜分離装置によって膜分離処理を行い、濃縮メタン発酵液をメタン発酵槽へと返送する。このような構成とすることにより、膜分離装置の膜がつまりにくく、バイオガスによるブロアも不要となり、装置をコンパクトにできる。さらに、加圧型膜分離装置の膜透過液量に応じて、濃縮メタン発酵液の返送ラインの弁開度を変更し、加圧型膜分離装置内の膜面差圧を調整することにより、所定の膜透過液量を維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生ゴミや食品廃棄物等の有機性廃棄物のメタン発酵による処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
屎尿、生ゴミ、食品廃棄物、浄化槽汚泥等の高濃度有機性廃棄物を処理する方法として、メタン菌等の嫌気性微生物を用いて有機物を生物学的に分解する嫌気性消化法がある。このメタン発酵法では、発酵槽内に高濃度有機性廃棄物を投入し、メタン菌による発酵によって有機性廃棄物を分解し、生成する発酵汚泥をメタン発酵槽外へ引き抜いており、発酵汚泥の引抜量は、投入汚泥量に等しくするのが一般的である。そして、メタンを主成分とするガスを燃料として利用することも可能である(特許文献1、2)。
【0003】
ここで、メタン発酵槽から発酵汚泥を引き抜くと、発酵汚泥と共にメタン菌も槽外に流出するため、メタン発酵槽内のメタン菌濃度を高濃度に維持することが困難であった。この問題を解決する方法として、閉鎖領域を形成する発酵槽と膜分離槽の間で発酵汚泥を循環し、膜分離槽に浸漬した膜分離装置(浸漬型膜分離装置)によって発酵汚泥を固液分離(濃縮)し、膜分離装置の膜透過液を系外に取り出すことにより発酵槽内のメタン菌濃度を維持すると共に、発酵槽の底部から余剰な発酵汚泥を引き抜くメタン発酵方法が、特許文献3に開示されている。
【特許文献1】特開平11−28445号公報
【特許文献2】特開平11−300323号公報
【特許文献3】特開平2000−24661号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献3に開示されている方法では、膜間差圧が30〜40kPa程度である浸漬型膜分離装置によって発酵液を濃縮するため、発酵液の透過流束が小さい。このため、大面積の膜が必要になり、膜分離装置が大型化せざるを得ない。
【0005】
また、膜面の洗浄は発酵液を嫌気性状態に保つために、メタン発酵槽から発生するバイオガス(メタンを主成分とする嫌気性ガス)を膜分離装置内でブローすることにより行っているため、気泡が膜面に付着して透過流束がさらに低下しやすいという問題もあった。また、透過流束が低いため、大型の膜分離装置が必要であった。
【0006】
本発明は、透過流束が高く、かつ、長期間安定してメタン発酵液の膜分離処理を行い得る有機性廃棄物の処理方法及び処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、メタン発酵液の濃縮手段として、発酵液循環ラインを備えた加圧型膜分離装置を用いることにより、高い透過流束を長期間維持することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
具体的に、本発明は、メタン発酵槽で有機性廃棄物をメタン発酵によって分解する方法であって、メタン発酵槽内の発酵液の一部を、発酵液を循環させる発酵液循環ラインを備える加圧型膜分離装置によって濃縮し、膜透過液を系外に排出すると共に、濃縮された発酵液をメタン発酵槽へと返送することにより、メタン発酵槽内の発酵液の固形物濃度を、メタン発酵の適値に維持することを特徴とする有機性廃棄物の処理方法である(請求項1)。
【0009】
また、本発明は、有機性廃棄物をメタン発酵させるメタン発酵槽と、
メタン発酵槽内の発酵液の一部を吸引手段によって取り出す発酵液取出ラインと、
前記発酵液取出ラインが接続し、前記発酵液取出ラインからの発酵液を加圧手段によって循環させる発酵液循環ラインを備える加圧型膜分離装置と、
前記発酵液循環ラインに接続し、前記発酵液循環ライン内を循環する濃縮された発酵液を、メタン発酵槽へと返送する濃縮発酵液返送ラインと
を備えることを特徴とする有機性廃棄物の処理装置である(請求項7)。
【0010】
本発明の有機性廃棄物の処理方法及び処理装置は、メタン発酵液の濃縮に加圧型膜分離装置を用いるため、浸漬型膜分離装置を用いる場合と比較して、膜間差圧が大きいため透過流束が高く、処理時間が短い。また、大きな膜面積を要しないため、膜分離装置がコンパクトである。
【0011】
また、本発明の有機性廃棄物の処理方法及び処理装置は、加圧型膜分離装置がメタン発酵液を循環させる発酵液循環ラインを備えることにより、メタン発酵液の循環流によって膜面を洗浄することができる。このため、発酵液循環ラインを備えない通常の加圧型膜分離装置を用いる場合と比較して、膜に固形分が付着しにくく、透過液量を長時間、高く維持することが可能となる。また、通常の加圧型膜分離装置よりも装置をコンパクト化することが可能となる。さらに、バイオガスによるブローが必要ないため、膜表面に気泡が付着し、有効透過面積が減少することもない。
【0012】
前記加圧型膜分離装置における発酵液の膜面流速は、0.6m/秒以上であることが好ましい(請求項2、8)。膜面流速0.6m/秒未満では、加圧型膜分離装置の膜面へ固形物が付着しやすくなったり、膜分離装置内の膜と膜との間に固形物が堆積し、発酵液の流路を閉塞するおそれがあるので好ましくない。
【0013】
前記加圧型膜分離装置における膜面差圧は、50kPa以上200kPa以下であることが好ましい(請求項3、9)。加圧型膜分離装置の膜間差圧を上記範囲とすることにより、膜間圧力が通常30〜40kPa程度である浸漬型膜分離装置と比較して、循環ポンプの消費電力を過大にしないで、メタン発酵液の迅速な濃縮が可能となる。
【0014】
加圧型膜分離装置から系外に排出される膜透過液の排出量を、膜透過液の排出ラインに設けた計測手段によって計測し、
膜透過液量が基準値よりも減少した場合、制御手段が濃縮発酵液返送ラインに設けた弁を絞るように調整することによって、前記加圧型膜分離装置内の膜面差圧を上昇させ、一方、膜透過液量が基準値よりも増加した場合、制御手段が濃縮発酵液返送ラインに設けた弁を開くように調整することによって、前記加圧型膜分離装置内の膜面差圧を減少させることができる(請求項4,10)。このような構成とすることにより、(1)メタン発酵液の有機物質濃度、粘度等が増加してメタン発酵液の膜処理効率が低下した場合に、メタン発酵槽への濃縮汚泥返送ラインに設けられた弁を絞ることによって、膜間差圧が増大して膜透過量を増加させ、(2)メタン発酵液の有機物質濃度、粘度等が減少してメタン発酵液の膜処理効率が上昇した場合に、メタン発酵槽への濃縮汚泥返送ラインに設けられた弁を開くことによって、膜間差圧が減少して膜透過量を減少させることが可能となる。
【0015】
独立した酸発酵槽を設け、メタン発酵処理の前に、有機性廃棄物を酸発酵槽内で酸発酵により分解する二相式の嫌気性分解処理としてもよい(請求項5,11)。
【0016】
硝化脱窒槽を設け、メタン発酵処理の後に、前記膜透過液をさらに硝化脱窒処理してもよい(請求項6,12)。
【発明の効果】
【0017】
本発明の有機性廃棄物の処理方法及び処理装置は、従来技術の問題点を解消し、長期間、メタン発酵液を迅速、かつ、安定して濃縮することが可能であり、しかも、メタン発酵液の膜分離装置のメインテナンスも少なくて済む。また、メタン発酵液の膜分離装置の小型化も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しながら説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
まず、生ゴミ等の固形物を含む有機性廃棄物をメタン発酵処理する場合、一軸破砕機等の粗破砕機を用いて粗破砕(粒径20〜100mm)した後、圧縮破砕機等を用いて圧縮破砕してペースト状有機性廃棄物とした上で、発酵処理を行う。
【0020】
屎尿や浄化槽汚泥等の固形物濃度の低い有機性廃棄物をメタン発酵処理する場合は、沈殿処理やろ過処理によって固形分を濃縮して、濃縮物について発酵処理を行う。また、固形物濃度が低く、かつ、可溶性有機物濃度が高い有機性廃液については、固形物の濃縮を行うことなく、発酵処理を行ってもよい。
【0021】
図1は、本発明の有機性廃棄物の処理方法におけるフローを示す図である。上述したような前処理(ステップS1)を行った有機性廃棄物は、攪拌しながら所定時間酸発酵を行い、有機物を酸生成菌の働きにより酢酸、酪酸、プロピオン酸等の有機酸へと分解される(ステップS2)。
【0022】
次に、酸発酵液を適宜濃度調整及び温度調整し、嫌気性条件下でメタン発酵処理する(ステップS3)。このとき、酸発酵液中の有機酸は、メタン菌の働きによりメタンや二酸化炭素等へと分解される。メタン発酵槽内の温度は、高温メタン発酵の場合は、50〜60℃、中温メタン発酵の場合は、30〜40℃に調整する。
【0023】
次に、メタン発酵液の一部を取り出し、メタン発酵液の循環ラインを備える加圧型膜分離装置によって膜分離処理する(ステップS5)。メタン発酵液の膜分離処理により、メタン発酵槽内の汚泥濃度が上昇すると同時に、有機酸、アンモニア態窒素等のメタン発酵液に溶解している物質が膜透過液として加圧型膜分離装置から排出される。なお、汚泥濃度が上昇しすぎるのを防ぐため、メタン発酵液の一部は、適宜メタン発酵槽から引き抜き廃棄する(ステップS4)。
【0024】
次に、濃縮されたメタン発酵液を、メタン発酵槽へと返送する(ステップS6)。このとき、加圧型膜分離装置の膜透過液は、排水処理工程へと送られる。
【0025】
図1のフローでは、酸発酵槽とメタン発酵槽を別個に設けて、酸発酵処理とメタン発酵処理を順に行う二相式消化処理方法の例を示したが、単一嫌気性消化処理方法として、酸発酵とメタン発酵を単一槽内で同時に行ってもよい。すなわち、ステップS2とステップS3を一つの槽内で同時進行させてもよい。ただし、酸発酵とメタン発酵は、至適な有機物濃度、反応温度等が異なるため、単一嫌気性消化処理方法を採用する場合には、二相式消化処理方法と比較して消化効率が低下し、また、滞留時間を長くする必要があるために、大型の消化槽が必要となる。このため、省スペースと消化効率の観点からは、二相式消化処理方法を採用することが好ましい。
【0026】
以上、図1を参照しつつ、本発明の有機性廃棄物処理方法の概念を説明した。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
次に、本発明の実施例1として、有機性廃棄物処理装置の一部構成を、従来の有機性廃棄物処理装置の対応部分と比較しつつ、さらに説明する。なお、本実施例は、単一嫌気性消化処理装置の例である。
【0028】
まず、図2は、従来の有機性廃棄物処理装置のメタン発酵槽及び膜分離装置の一部構成を示す図である。従来の有機性廃棄物処理装置においては、適宜、前処理を行った有機性廃棄物1をメタン発酵槽2に投入し、酸発酵及びメタン発酵を行う。そして、メタン発酵槽2内の汚泥を、底部から引抜汚泥3として、適宜取り出して廃棄する。
【0029】
メタン発酵槽2内の発酵液5の一部は、ポンプ6によって浸漬型膜分離装置8へと送られる。浸漬型膜分離装置8によって濃縮された発酵液15は、メタン発酵槽2へと返送される。
【0030】
浸漬型膜分離装置8は、複数の浸漬膜9を適当な間隔で平行に収納しており、膜モジュール下部に、メタン発酵槽2から発生するバイオガス4を散気するためのブロア13及び散気装置14を備える。そして、散気装置14からバイオガス4を散気することにより、浸漬膜9の表面を嫌気的に洗浄する。
【0031】
しかし、浸漬膜9の表面に、バイオガス4の気泡が付着するため、浸漬膜9を洗浄しても有効透過面積が少なくなる欠点がある。また、引抜ポンプ10によって得られる浸漬型膜分離装置8の膜間差圧は、通常30〜40kPaであるため、発酵液の迅速な濃縮は困難である。
【0032】
次に、図3は、本実施例の有機性廃棄物処理装置のメタン発酵槽、及び膜分離装置の一部構成を示す図である。本実施例の有機性廃棄物処理装置は、メタン発酵槽2からメタン発酵液5の一部を、発酵液循環ライン17を備える加圧型膜分離装置20へと送り、メタン発酵液5の濃縮を行うことを特徴とする。
【0033】
ここで、加圧型膜分離装置20の具体的な構造を、図6及び7に示す。加圧型膜分離装置20は、ABS製の支持板の両面にポリエチレン製の処理水スペーサーと平膜とが、1枚ずつ重ね合わされ外周部がシールされて形成された封筒状平膜エレメント62が、スペーサー61を挟んで多層に積層されて構成されている。
スペーサー61は、封筒状平膜エレメント62から洗浄廃水が漏れ出るのを防止するためのものである。そして、このように封筒状平膜エレメント62が多層に積層されたものが、図6に示すように一対の半割体63、半割体63からなる平膜エレメント挟持体64内に収容され、さらに図7に示すように、圧力容器65内に収容されて構成されている。
【0034】
圧力容器65は、一端にメタン発酵液を導入する入口部66が形成され、もう一端には濃縮メタン発酵液の出口部67が形成されている。平膜エレメント挟持体64の内部であって、多層に積層された封筒状平膜エレメント62の側方には、透過液排出経路68が形成されている。そして、多層に積層された封筒状平膜エレメント62には貫通孔69が穿設され、該貫通孔69が透過液排出路68に連通状態とされている。
【0035】
貫通孔69には、封筒状平膜エレメント62を透過した透過液を、透過液排出路68に供給するパイプ70が挿入されている。なお、符号71は、入口部66側の近辺に設けられた整流板を示す。
【0036】
加圧型膜分離装置の別の形態としては、図8に示すような矩形管状の圧力容器内に収容された構成のものも使用可能である。ここで、図8(a)は、膜分離装置の概略断面図を示し、図8(b)は図8(a)のB−B線矢視断面の概略断面図を示し、図8(c)は図8(a)のC−C線矢視断面の概略断面図を示す。なお、図8中、図6及び7と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0037】
この加圧型膜分離装置は、矩形管状の圧力容器80、圧力容器内80内に設けられた平板状の平膜エレメント挟持体82、及び一対の集水部82に挟持して保持された二つの平膜エレメント群81等を用いて構成されている。また、平膜エレメント群81は、複数の封筒状平膜エレメント62と、各封筒状平膜エレメント62に設けられたスペーサー61とを積層して構成されている。
【0038】
そして、図8(a)に示すように、膜分離装置本体部分は、一対の平膜エレメント挟持体82間に平膜エレメント群81を挟持し、締付バンド83を用いて集水部82及び平膜エレメント群81の固定が行われている。集水部82は、図8(c)に示すように、平膜エレメント群81と略同様の幅寸法を有し、締付バンド83は、集水部82及び平膜エレメント群81の端部に接するようにして、一対の平膜エレメント挟持体82間の平膜エレメント群81を挟持している。
【0039】
ここで、加圧型膜分離装置の小型テスト機(膜面積32cm2、材質 ポリエーテルスルホン、分子分画量50,000の限外ろ過膜を使用)を用いて、メタン発酵液を膜処理する場合の膜間差圧(kPa)と透過液量(フラックス:m3/m2/日)を測定した結果を、図4に示す。膜間差圧が20kPaの場合、透過液量は0.016m3/m2/日であり、膜間差圧を5倍の100kPaとした場合には、透過液量も約5倍の0.075 m3/m2/日となった。加圧型膜分離装置の膜間差圧は、通常100kPa以上であるため、同じ材質の膜を用いた同一膜面積の浸漬型膜分離装置と比較すると、加圧型膜分離装置は透過液量が多く、メタン発酵液の濃縮処理速度が高いことは、図4から明らかである。
【0040】
【表1】

次に、うどん主体の麺廃棄物を、発酵容積:2m3のメタン発酵槽を用いて単一嫌気性消化処理し、メタン発酵槽内のメタン発酵液を膜分離処理しない場合と加圧型膜分離装置を使用して膜分離処理する場合について、限界CODcr容積負荷、SS除去率、COD除去率を比較した結果を、表1に示す。ここで、CODcr及びSSは、それぞれJISに定めるクロム酸カリウム法による化学的酸素要求量及び固形分を表し、それらの除去率とは、メタン発酵前後の測定値の差を、メタン発酵前の測定値で除し、100を乗じて算出した数値である。また、限界CODcr容積負荷は、1日にメタン発酵槽1m3当たりに処理可能な有機性廃棄物量を表す。なお、有機性廃棄物の処理量は、膜分離なしで運転する場合30kg/日、加圧型膜分離装置(株式会社神鋼環境ソリューション製:商品名「UFキューブ」(膜面積0.17m2))を運転する場合、90kg/日という条件でメタン発酵処理を行った。
【0041】
SS除去率及びCODcr除去率は、加圧型膜分離装置を使用してメタン発酵液を濃縮処理し、濃縮されたメタン発酵液をメタン発酵槽に返送した場合、膜処理を行わない場合と比較して、それぞれ2.1%及び7.5%上昇した。一方、限界CODcr負荷については、3倍にまで増大し、膜分離処理を行うことによって、メタン発酵処理の迅速化が図れることが示された。
【0042】
しかし、図2の浸漬型膜分離装置8を、単に加圧型膜分離装置20に置換しただけでは、メタン発酵液5中の固形分によって膜19がすぐにつまり、実用性に欠けるおそれがあるという問題が生じる。
【0043】
そこで、本実施例の有機性廃棄物処理装置においては、図3に示すように、加圧型膜分離装置にメタン発酵液を循環させる発酵液循環ライン17を設置し、発酵液循環ライン17内でメタン発酵液を絶えず循環させることにより、膜19のつまりを防止する。
【0044】
まず、加圧ポンプ6によってメタン発酵槽2から取り出されたメタン発酵液5は、所定の圧力まで加圧されて発酵液循環ライン17へと送られる。メタン発酵液は、循環ポンプ18によって発酵液循環ライン17及び加圧型膜分離装置20の内部を循環し、平行に並べられた複数の膜19の間を通過し、膜処理によって濃縮される。このように、膜19の透過方向とメタン発酵液の流れる方向を垂直とすることにより、メタン発酵液中の固形分による膜19のつまりが起こりにくい。なお、循環ポンプ18には、加圧型膜分離装置20内の膜面流速を高める機能と、発酵液循環ライン17及び加圧型膜分離装置20での圧力損失を補う機能がある。
【0045】
平膜19の種類としては、限外濾過膜又は精密ろ過膜が用いられる。また、平膜19の材質としては、ポリエチレン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル等の高分子膜が好ましく、メタン生成菌の長さが0.5μm以上であることから、平均孔径は0.5μm以下であることが好ましい。
【0046】
メタン発酵液5の迅速処理の観点からは、発酵液循環ライン17内の圧力(加圧型膜分離装置20内の圧力に等しい)を50kPa以上にすることが好ましく、この圧力が膜間差圧となってメタン発酵液5が膜処理される。圧力を高めるほどメタン発酵液の透過液量(透過流束)が増加するが、加圧ポンプ6の消費電力も増大する。また、図4に示したように、膜間圧力が200kPaを超えると膜透過量の増加は頭打ちとなる。このため、加圧型膜分離装置20内の圧力は、50kPa以上200kPa以下にすることが実用的であり、高い透過液量を得る観点からは、100kPa以上200kPa以下とするのがより実用的である。なお、加圧型膜分離装置20内の膜面差圧は、圧力計25により測定することができる。
【0047】
ここで、膜19のつまりを防止するためには、加圧型膜分離装置20内の発酵液の膜面流速を0.6m/秒以上とすることが重要である。加圧型膜分離装置20内におけるメタン発酵液の膜面流速が0.6m/秒未満であれば、膜19のつまりを防止することが困難である。一方、膜面流速を0.6m/秒 よりも高くすればつまり防止効果が向上し、メタン発酵液の透過液量(透過流束)もさらに増加するが、1.2m/秒を超えると透過液量の増加が頭打ちとなる。このため、加圧型膜分離装置20におけるメタン発酵液の膜面流速は、好ましくは0.6 m/秒以上1.2 m/秒以下、より好ましくは0.8 m/秒以上1.0 m/秒以下である。なお、加圧型膜分離装置20内のメタン発酵液の膜面流速は、流量計26により測定することができる。
【0048】
次に、発酵液循環ライン17内のメタン発酵液は、膜19によって膜処理され、揮発性有機酸等の可溶性物質が膜透過液11として加圧型膜分離装置20から取り出される。そして、このような物質を含む膜透過液11は排水処理工程へと送られ、濃縮されたメタン発酵液15は、発酵液循環ライン17に接続された濃縮発酵液返送ライン16を経て、メタン発酵槽2へと返送される。
【0049】
メタン発酵液の有機物質濃度が高くなった、又は粘度が高くなった場合には、膜透過液量が減少し、メタン発酵液の膜分離効率が低下する。このような場合、濃縮メタン発酵液返送ライン16に設けられた弁21を閉じることによって、加圧型膜分離装置20内の膜面差圧を上昇させれば、膜透過液量を増大させることが可能となる。
【0050】
図3に示した例では、加圧型膜分離装置20の膜透過液量は、膜透過液排出ライン22に設置された計測装置23によって計測され、計測量は弁開閉制御装置24へと伝えられる。弁開閉制御装置24は、予め入力された基準値よりも膜透過液量が減少した場合、弁を閉じる信号を弁21に送る。そして、弁21が閉じることにより、発酵液循環ライン17及び加圧型膜分離装置20内の膜面差圧が上昇し、膜透過液量を増大させることが可能となる。
【0051】
その後、メタン発酵液の有機物質濃度が低くなった、又は粘度が低くなった場合には、膜透過液量が必要以上に増大することになる。そこで、弁開閉制御装置23に予め入力された基準値よりも膜透過液量が増加した場合には、弁開閉制御装置24は、弁21に弁を開く信号を送る。この制御により、発酵液循環ライン17及び加圧型膜分離装置20内の膜面差圧が減少し、膜透過液量を減少させることが可能となる。
【0052】
メタン発酵槽2に返送される濃縮されたメタン発酵液15には、メタン発酵菌が残存しており、メタン発酵槽2内のメタン発酵菌濃度を維持することができる。また、メタン発酵槽2内の有機物濃度をメタン発酵に好ましい濃度(懸濁物質濃度として5000〜20000 mg/L)に維持することもできる。
(実施例2)
次に、本発明の実施例2として、実施例1とは別の有機性廃棄物処理装置の全体構成を、図5に示す。メタン発酵槽及び加圧型膜分離装置の構成及び作用効果は、図3に示した有機性廃棄物処理装置の一部構成と同様である。なお、本実施例は、二相式嫌気性消化処理装置の例である。
【0053】
まず、有機性廃棄物31は、前処理装置32によって分別、破砕、稀釈等される。有機物スラリー33となった有機性廃棄物は、酸発酵槽34へ送られて酸発酵処理される。酸発酵槽は、55〜65℃程度の温度で嫌気性雰囲気を保ったまま、所定時間滞留させる。
【0054】
次に、酸発酵液35がメタン発酵槽36へと送られ、メタン発酵処理される。メタン発酵槽は、30〜60℃程度の温度で嫌気性雰囲気を保ったまま、所定時間滞留させる。具体的には、高温メタン発酵の場合は、50〜60℃で、10〜20日程度、中温メタン発酵の場合は、30〜40℃で、20〜40日程度滞留させる。
【0055】
メタン発酵液38を、メタン発酵液循環ライン(図示せず)を備える加圧型膜分離装置39によって膜分離処理し、濃縮メタン発酵液40をメタン発酵槽36へと返送することは、図3に示した装置と同じである。
【0056】
加圧型膜分離装置39から排出される膜透過液41は、脱窒槽45へと送られる。脱窒槽45と硝化槽46において、膜透過液41のアンモニア態窒素が生物学的に硝化脱窒処理され、窒素ガス48等へと分解される。硝化脱窒処理後の処理水49は、さらに高度排水処理へと付される。
【0057】
一方、メタン発酵槽36の底部から引き抜かれた引抜汚泥42は、遠心分離装置等の固液分離装置43によって固液分離され、脱離液50(液体成分)は、脱窒槽45へと送り、膜透過液41と同じく脱窒処理することができるが、酸発酵槽34へと返送して有機物濃度を上昇させ、酸発酵を促進させることもできる。固形物残渣44は、適宜、別途処理される。
【0058】
以上、説明したように、本発明の有機性廃棄物処理方法及び処理装置は、メタン発酵液の迅速な膜分離処理を長期間維持することができる。また、二相式嫌気性消化処理方法を採用することにより、酸発酵及びメタン発酵を、それぞれ最適な条件で行うことができ、有機性廃棄物の処理効率が向上する。さらに、硝化脱窒処理と組み合わせることにより、メタン発酵液及びメタン発酵槽の引抜汚泥からの脱離液を脱窒処理し、排水処理の負担をも軽減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の有機性廃棄物の処理方法及び処理装置は、生ゴミや食品廃棄物等の有機性廃棄物の効率的な処理方法及び処理装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の有機性廃棄物処理方法のフローを示す図である。
【図2】従来の有機性廃棄物処理装置の構成の一部を示す図である。
【図3】本発明の実施例1に係る、有機性廃棄物処理装置の構成の一部を示す図である。
【図4】加圧型膜分離装置の小型テスト機における膜間差圧と透過液量の関係を示す図である。
【図5】本発明の実施例2に係る、有機性廃棄物処理装置の構成の全体を示す図である。
【図6】加圧型膜分離装置の平膜エレメント挟持体の構造を示す図である。
【図7】加圧型膜分離装置の圧力容器の一例について、その構造を示す図である。
【図8】加圧型膜分離装置の圧力容器の別の一例について、その構造を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
1,31:有機性廃棄物
2,36:メタン発酵槽
3,42:引抜汚泥
4,37:バイオガス
5,38:メタン発酵液
6:ポンプ
7:メタン発酵液取出ライン
8:浸漬型膜分離装置
9:浸漬膜
10:引抜ポンプ
11,41:膜透過液
12:ブロア用バイオガスライン
13:ブロア
14:散気装置
15,40:濃縮メタン発酵液
16:濃縮メタン発酵液返送ライン
17:発酵液循環ライン
18:循環ポンプ
19:平膜
20:加圧型膜分離装置
21:弁
22:膜透過液排出ライン
23:膜透過液量計測装置
24:弁開閉制御装置
32:前処理装置
33:廃棄物スラリー
34:酸発酵槽
35:酸発酵液
43:固液分離装置
44:固形物残渣
45:脱窒槽
46:硝化槽
47:硝化処理液
48:窒素ガス
49:処理水
50:脱離液
61:スペーサー
62:封筒状膜型エレメント
63:半割体
64:平膜エレメント挟持体
65:圧力容器
66:入口部
67:濃縮メタン発酵液出口部
68:透過液排出部
69:貫通孔
70:パイプ
71:整流板
80:矩形管状の圧力容器
81:平膜エレメント群
82:集水部
83:締付バンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタン発酵槽で有機性廃棄物をメタン発酵によって分解する方法であって、メタン発酵槽内の発酵液の一部を、発酵液を循環させる発酵液循環ラインを備える加圧型膜分離装置によって濃縮し、膜透過液を系外に排出すると共に、濃縮された発酵液をメタン発酵槽へと返送することにより、メタン発酵槽内の発酵液の固形物濃度を、メタン発酵の適値に維持することを特徴とする有機性廃棄物の処理方法。
【請求項2】
前記加圧型膜分離装置における発酵液の膜面流速が0.6m/秒以上であることを特徴とする請求項1に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項3】
前記加圧型膜分離装置における膜面差圧が50kPa以上200kPa以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項4】
系外に排出される膜透過液の排出量を計測し、
膜透過液量が基準値以下に減少した場合には、前記発酵液循環ラインからメタン発酵槽への返送ラインの弁を絞り、前記加圧型膜分離装置内の膜面差圧を上昇させ、
膜透過液量が基準値以上に増加した場合には、前記発酵液循環ラインからメタン発酵槽への返送ラインの弁を開き、前記加圧型膜分離装置内の膜面差圧を減少させるように制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項5】
メタン発酵の前に、有機性廃棄物を酸発酵槽で酸発酵により分解することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項6】
メタン発酵の後に、前記膜透過液をさらに硝化脱窒処理することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項7】
有機性廃棄物をメタン発酵させるメタン発酵槽と、
メタン発酵槽内の発酵液の一部を吸引手段によって取り出す発酵液取出ラインと、
前記発酵液取出ラインが接続し、前記発酵液取出ラインからの発酵液を加圧手段によって循環させる発酵液循環ラインを備える加圧型膜分離装置と、
前記発酵液循環ラインに接続し、前記発酵液循環ライン内を循環する濃縮された発酵液を、メタン発酵槽へと返送する濃縮発酵液返送ラインとを備えることを特徴とする有機性廃棄物の処理装置。
【請求項8】
発酵液の膜分離操作時における前記加圧型膜分離装置内の発酵液の膜面流速が0.6m/秒以上であることを特徴とする請求項7に記載の有機性廃棄物の処理装置。
【請求項9】
発酵液の膜分離操作時における前記加圧型膜分離装置内の膜面差圧が50kPa以上200kPa以下であることを特徴とする請求項7又は8に記載の有機性廃棄物の処理装置。
【請求項10】
前記加圧型膜分離装置から膜透過液を排出する膜透過液排出ラインと、
前記膜透過液排出ラインに設けられた膜透過液量計測手段と、
前記濃縮発酵液返送ラインに設けられた弁と、
前記弁の開度を調節する制御手段とを備え、
前記計測手段が計測した膜透過液排出量が基準値以下に減少した場合、前記制御手段が前記弁を絞るように開度を調整して、前記発酵液循環ラインにおける膜面差圧を上昇させるように制御し、
前記計測手段が計測した膜透過液排出量が基準値以上に増加した場合、前記制御手段が前記弁を開くように開度を調整して、前記発酵液循環ラインにおける膜面差圧を減少させるように制御することを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載の有機性廃棄物の処理装置。
【請求項11】
有機性廃棄物をメタン発酵に先立ち酸発酵により分解するための酸発酵槽をさらに備えることを特徴とする請求項7乃至10のいずれか1項に記載の有機性廃棄物の処理装置。
【請求項12】
メタン発酵の後に、前記膜透過液を硝化脱窒処理するための硝化脱窒槽をさらに備えることを特徴とする請求項7乃至11のいずれか1項に記載の有機性廃棄物の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−326534(P2006−326534A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−156096(P2005−156096)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】