説明

有機性廃棄物の処理方法及び装置

【課題】 メタン発酵に際して、プロピオン酸等の中間生成物の蓄積を防ぎ、有機性廃棄物を効率良くメタン発酵することが可能な有機性廃棄物の処理方法及び装置を提供する。
【解決手段】 有機性廃棄物10を嫌気性微生物によりメタン発酵させるメタン発酵槽12を備えた有機性廃棄物の処理装置において、前記メタン発酵槽12若しくは前記メタン発酵槽の上流側に、前記嫌気性微生物の必須栄養素のうち易イオン性無機物を添加する薬剤タンク13及び薬剤注入ポンプ14を設け、前記メタン発酵槽12内にて錯化剤を添加することなく必須栄養素をイオン化して前記嫌気性微生物に供給し、該嫌気性微生物の代謝機能を促進させる構成とし、好適には前記易イオン性無機物が、カリウム若しくはカルシウムの少なくとも何れか一方である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性廃棄物をメタン発酵する技術に関し、特に、有機性廃棄物に必須栄養素を添加し、嫌気性微生物の代謝機能を向上させてメタン発酵を促進させるようにした有機性廃棄物の処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、生ごみ、食品加工残渣、畜産廃棄物、又は下水処理等の水処理により発生する汚泥などの有機性廃棄物の処理方法として、環境負荷が小さく且つエネルギや資源を回収できるメタン発酵処理が広く用いられている。メタン発酵は、まず、有機性廃棄物を破砕・分別工程にて破砕し、プラスチック袋やトレーなどを分別した後に、嫌気性発酵工程でメタン発酵させ、発生したメタンガスを発電工程において電気或いは熱の形態として利用する一方で、メタン発酵させた後の消化液を液肥として利用したり、消化液を脱水工程で脱水した後、コンポスト化して肥料としたり、又は固形燃料、乾燥汚泥等として再利用可能とし、さらに脱水後の濾液は生物処理工程へ送給して生物処理していた。
【0003】
メタン発酵処理では、効率良く有機性廃棄物を分解してメタンガスを回収する必要があるため、メタン発酵槽内の発酵状態を最適に保持することが重要である。このようなメタン発酵槽内の発酵効率を向上させる方法として、嫌気性微生物の栄養素であるニッケル、鉄、コバルトといった微量金属を槽内に添加して、嫌気性微生物の増殖と活性向上を図ることによりメタン発酵処理の高効率化を図った方法が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1(特開平3−165895号公報)に記載のメタン発酵処理方法では、有機性廃水をメタン発酵処理する際に、嫌気性微生物の増殖に必要な栄養元素であるニッケル、鉄、コバルトを有機性廃棄物のBOD濃度に対して所定量以上となるように適宜添加して、嫌気性微生物の増殖活性を向上させて、BOD負荷が高くなってもBOD除去率の低下を防止している。
また、特許文献2(特開平11−28445号公報)には、有機性廃棄物を破砕した破砕物をメタン発酵処理する方法で、メタン発酵処理時の前記破砕物中の全蒸発残留物の濃度(TS濃度)が5%以上となる場合、鉄化合物、コバルト化合物及びニッケル化合物の少なくとも何れか一方を添加する方法が開示されている。
【0005】
ニッケル、コバルトは、嫌気性微生物の代謝に必要な金属として菌体内に存在する補酵素に含有されており、酢酸や水素、二酸化炭素等の基質からメタンを生成する際の代謝経路を速やかに進行させる働きがある。これらの栄養素がメタン発酵に有効に機能するには、まず、この栄養素がメタン菌に有効に取り込まれるために、夫々が金属イオンの状態であることが必要とされる。
しかし、特許文献1及び2に記載の方法では、メタン発酵の際に発生する炭酸ガスや硫化水素等により微量金属が硫化物化又は炭酸塩化して沈殿してしまい、微生物の生育が阻害される惧れがある。
【0006】
そこで、特許文献3(特開2000−61433号公報)では、有機性廃棄物に発酵微生物の必須発育因子である微量金属(Fe、Ni、Co、Mn等)と結合して錯イオンを形成する錯化剤を添加してメタン発酵する方法が開示されている。前記錯化剤としては、例えばシュウ酸やクエン酸等のオキシカルボン酸などが例示されており、この錯化剤を添加することにより有機性廃棄物中に含まれる微量金属、或いは添加された金属化合物が錯化剤により錯イオンを形成し、溶解状態となるため、微生物の取り込みやすい形態とすることができ、この錯イオンを発酵微生物が利用してメタン発酵効率が高まる。
【0007】
【特許文献1】特開平3−165895号公報
【特許文献2】特開平11−28445号公報
【特許文献3】特開2000−61433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記特許文献3に記載の方法では、微量金属に加えて錯化剤を添加する必要があり、この添加条件が複雑であるという問題があった。
また、特許文献3等に記載されるFe、Ni、Co、Mnは高温メタン発酵ではメタン発酵効率の向上が期待できるが、中温メタン発酵では効果が低いという問題もあった。
さらに、上記した微量金属を添加した場合には、酢酸分解によるメタン生成は効率化する場合もあるが、プロピオン酸分解速度は殆ど向上しない。このため酸敗等の不調に陥った状況を改善する方法としては利用できない。
【0009】
一般にメタン発酵プロセスは、まず、(I)炭水化物、タンパク質、脂肪等の生分解性高分子から糖、アミノ酸及び高級脂肪酸等の低分子有機物まで分解する過程、(II)低分子有機物からプロピオン酸等の有機酸まで分解する過程、(III)有機酸から酢酸と水素を生成する過程、(IV)酢酸からメタンと二酸化炭素を生成する過程、又は水素と二酸化炭素からメタンを生成する過程、とからなる。
メタン発酵槽では、反応律速となる有機酸の分解反応が順調に行なわれているかを測定することによってメタン発酵槽の運転状況を把握することができる。このうち、プロピオン酸からの水素生成、酢酸生成の反応式は以下の反応式(1)で表される(「嫌気性微生物の挙動」東北大学 李玉友、水質汚濁研究 Vol.13 No.9,(1990))。
CHCHCOO + 3H
⇒ CHCOO + H + HCO + 3H
(標準自由エネルギ変化:+76.1kJ/mol)
上記反応式(1)より、標準自由エネルギ変化が正(+76.1kJ/mol)であり、標準状態(1atm)下では、自発的に生じない反応であることがわかる。他の分解反応と比較しても、自由エネルギ変化が大きく、プロピオン酸は分解し難いことが分かる。
従って、メタン発酵槽の運転において、プロピオン酸の分解速度を適正に保つことが重要である。
【0010】
この中間生成物であるプロピオン酸がメタン発酵槽内に多く存在すると、pHの低下が起こり酸敗現象が発生し、メタンガスの生成に阻害を及ぼす。
そこで特許文献1、2及び3に記載されるように、メタン発酵においてFe、Ni、Co、Mnを添加することによりメタン発酵効率の向上が期待されるが、これらの微量金属では酢酸の分解は促進されるものの、プロピオン酸の分解速度は向上せず、プロピオン酸が蓄積してしまうという問題があった。
従って、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、メタン発酵に際して、プロピオン酸等の中間生成物の蓄積を防ぎ、有機性廃棄物を効率良くメタン発酵することが可能な有機性廃棄物の処理方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明はかかる課題を解決するために、有機性廃棄物をメタン発酵槽内で嫌気性微生物によりメタン発酵させる有機性廃棄物の処理方法において、
前記有機性廃棄物に対して、前記嫌気性微生物の必須栄養素のうち易イオン性無機物を添加してメタン発酵させ、錯化剤を添加することなく前記必須栄養素をイオン化して前記嫌気性微生物に供給して該嫌気性微生物の代謝機能を促進させることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、前記易イオン性無機物の添加によりメタン発酵運転が安定化する。これはメタン生成細菌やプロピオン酸分解細菌等の嫌気性微生物の必須栄養素を補充することで、細菌の代謝機能を回復させ、メタン生成やプロピオン酸分解を促進させることができるためである。この効果は特にプロピオン酸分解に有効であるため、中間生成物の蓄積を防ぐことができる。
また、前記必須栄養素は易イオン性無機物であるため廃棄物中で容易にイオン化され、嫌気性微生物に取り込まれやすく、メタン発酵効率の高効率化が達成できる。また、前記易イオン性無機物は従来のFe、Ni、Co、Mn等のように硫化物化若しくは炭酸塩化し難く、添加した無機物が効率良く消費されるため、添加量を削減することができるとともに添加薬剤の残留を低減することができる。
尚、前記嫌気性微生物とは、メタン発酵プロセスの少なくとも一部に関与する細菌であって、加水分解菌、発酵性細菌、プロピオン酸分解細菌、水素生産性酢酸生成細菌、水素資化性酢酸生成菌、メタン生成細菌、硫酸還元菌等が挙げられる。
【0013】
また、好適には前記易イオン性無機物が、カリウム若しくはカルシウムの少なくとも何れか一方である。
本発明者らはカリウム及びカルシウムを添加してメタン発酵試験を行なった結果、図2及び図3に示されるように、カリウム若しくはカルシウムの添加によってプロピオン酸の急速な減少が見られる。従って、カリウム、カルシウムは有効な易イオン性無機物であることがわかる。
このとき、前記易イオン性無機物としてカリウムを用いる場合には、該カリウムの添加量が10〜1000mg/Lの範囲内であることが好ましく、前記易イオン性無機物として前記カリウムに加えてカルシウムを添加する場合には、該カルシウムの添加量が1〜100mg/Lであることが好ましい。
【0014】
また、前記メタン発酵の後段にて生物処理を行なうことを特徴とする。
このように、メタン発酵の後段にて生物処理を行うことにより、前記メタン発酵にて除去しきれない窒素化合物及びBODを除去することが可能であり、また微生物の作用による分解反応であることから環境負荷の小さい処理システムとすることができる。
また、前記メタン発酵処理が、前記メタン発酵槽内を中温域に維持してメタン発酵を行なう中温メタン発酵であることを特徴とする。
一般に中温メタン発酵では高温発酵よりもアンモニア阻害が少ないため高濃度の有機性廃棄物の処理が可能であるが、従来利用されていたFe、Ni、Co、Mnでは中温メタン発酵においてプロピオン酸の分解を促進する効果は得られなかった。しかし本発明によれば、高濃度の有機性廃棄物を処理する中温メタン発酵においてもプロピオン酸の分解が促進されるため、高効率発酵が可能である。
【0015】
さらに、前記易イオン性無機物が、塩化物の形態で添加されることが好ましく、これにより易イオン性無機物の溶解性が向上し、より一層嫌気性微生物が栄養素を取り込みやすくなる。
さらにまた、前記メタン発酵槽内の有機酸濃度を測定し、該測定した濃度に基づき前記易イオン性無機物を添加することを特徴とする。
このように、プロピオン酸等の有機酸濃度を常時又は定期的に測定し、その濃度変化を把握することで、濃度変化に応じた易イオン性無機物の添加量を設定し、プロピオン酸濃度の低減を図ることで酸敗を未然防止する。これにより酸敗リスクの大幅な低減が可能となるとともに、易イオン性無機物の添加量の適正化が図れる。
【0016】
また、装置の発明として、有機性廃棄物を嫌気性微生物によりメタン発酵させるメタン発酵槽を備えた有機性廃棄物の処理装置において、
前記メタン発酵槽若しくは前記メタン発酵槽の上流側に、前記嫌気性微生物の必須栄養素のうち易イオン性無機物を添加する薬剤添加手段を設け、前記メタン発酵槽内にて錯化剤を添加することなく必須栄養素をイオン化して前記嫌気性微生物に供給し、該嫌気性微生物の代謝機能を促進させることを特徴とする。
このとき、好適には前記易イオン性無機物が、カリウム若しくはカルシウムの少なくとも何れか一方である。
また、前記メタン発酵槽の前段若しくは後段に、生物処理を行なう生物処理装置を設けたことを特徴とする。
また、前記メタン発酵槽内の有機酸濃度を測定する有機酸濃度測定手段と、該測定した濃度に基づき前記易イオン性無機物の添加量を制御する制御装置とを備えたことを特徴とする。
【0017】
さらに、前記易イオン性無機物がカルシウムを含む場合であって、
前記メタン発酵槽の後段に、メタン発酵後の消化液を固液分離する固液分離装置と、該固液分離した汚泥分を好気性発酵させてコンポスト化するコンポスト化装置とを備えたことを特徴とする。
本発明によれば、メタン発酵時に消費されずに消化液中に残留したカルシウムが、消化液中のリン酸イオンと結合してリン酸カルシウム等の不溶性塩となり汚泥側に移行する。このリン成分を含有する汚泥をコンポスト化することにより、肥効成分であるリン成分を十分に含有した良質なコンポストを製造することができる。
【0018】
さらにまた、前記易イオン性無機物がカリウムを含む場合であって、前記メタン発酵槽から排出する消化液を液肥として利用するようにしたことを特徴とする。
これは、メタン発酵時に消費されなかったカリウムが消化液中に残留して排出されるため、これを液肥として利用することにより肥効成分であるカリウムを十分に含有した良質な液肥を提供することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上記載のごとく本発明によれば、前記易イオン性無機物の添加によりメタン発酵運転が安定化する。特に、易イオン性無機物の添加はメタン発酵プロセスにおけるプロピオン酸分解を促進するため、中間生成物の蓄積を防ぐことができる。
また、前記必須栄養素は易イオン性無機物であるため廃棄物中で容易にイオン化され、嫌気性微生物に取り込まれやすくなる。これにより、メタン発酵効率の高効率化、及び薬剤添加量の削減、さらに添加薬剤の残留の低減が可能となる。
また、メタン発酵の後段にて生物処理を行うことにより、前記メタン発酵にて除去しきれない窒素化合物及びBODを除去することが可能である環境負荷の小さい処理システムを提供することができる。
【0020】
また、本発明は中温メタン発酵においてもプロピオン酸の分解促進効果を得ることができる。
さらに、前記易イオン性無機物を塩化物の形態で添加することにより、該易イオン性無機物の溶解性が向上し、より一層嫌気性微生物が栄養素を取り込みやすくなる。
さらにまた、前記メタン発酵槽内の有機酸濃度に基づき前記易イオン性無機物を添加することが好ましく、これにより酸敗リスクの大幅な低減が可能となるとともに、易イオン性無機物の添加量の適正化が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
本実施例において処理対象とされる有機性廃棄物は、例えば、生ごみ、食品加工残渣、畜産廃棄物、及び下水処理等の水処理により発生する汚泥などの有機性廃棄物が挙げられる。
図1は本発明の実施例1に係る処理装置の概略を示すフロー図、図2、図3は食品廃棄物を対象とした中温メタン発酵試験の結果であり、中間生成物(酢酸、プロピオン酸)の経日変化を示すグラフ、図4は本発明の実施例2に係る処理装置の概略を示すフロー図、図5は本発明の実施例3に係る処理装置の概略を示すフロー図である。
【実施例1】
【0022】
図1に示すように本実施例1に係る有機性廃棄物の処理装置は、ライン上流から下流に向かって、有機性廃棄物10を貯留して調整する調整槽11と、調整槽11から送給される有機性廃棄物10を嫌気性微生物によりメタン発酵させるメタン発酵槽12と、嫌気性微生物の必須栄養素のうち易イオン性無機物からなる薬剤が貯留される薬剤タンク13と、該薬剤タンク13に貯留された薬剤を適宜量ずつ前記メタン発酵槽12等に添加する注入ポンプ14と、を主要構成とする。
【0023】
前記調整槽11の前段側には、大径の有機性廃棄物を破砕する破砕手段(不図示)等を設けることが好ましい。
前記調整槽11は、有機性廃棄物10のpH、温度、水量、濃度等をメタン発酵に適した条件に調整する手段を有し、さらに撹拌手段を有すると良い。また、前記調整槽11では、前記有機性廃棄物10をメタン発酵に適した性状とするために可溶化処理を行うようにしても良い。
前記メタン発酵槽12は、槽内に嫌気性微生物が繁殖しており、嫌気性微生物が卓越して繁殖できる環境に温度、pH等の条件が維持されており、槽内で有機性廃棄物10中の有機物を主に加水分解段階、酸生成段階、酢酸化段階及びガス化段階を経て分解処理することによりメタンガスを生成させるようになっている。好適な槽内条件は、pH6.5〜8.2程度で、温度は常温〜60℃である。
本実施例では、前記メタン発酵槽12は中温メタン発酵処理槽及び高温発酵処理槽の何れを用いても良く、前記中温メタン発酵処理槽の場合には、槽内温度条件を約30〜40℃に維持し、前記高温発酵処理槽の場合には、槽内温度条件を約50〜60℃とする。本実施例において、最も好適なメタン発酵槽12は中温メタン発酵処理槽である。
【0024】
前記薬剤タンク13には、嫌気性微生物の必須栄養素のうち易イオン性無機物からなる薬剤が貯留されている。この易イオン性無機物としては、例えば、NH−N、PO−P、S、SO−S、HCO、Na、Ca、K、Se、W、Mo等が挙げられるが、特にK、Caが好ましく、これらを単独或いは2以上を併せて添加すると良い。
また、これらの易イオン性無機物は、単体又は化合物又は混合物の形態で添加する。化合物の場合には、溶解性の高い塩化物の形態で添加することが好ましい。
さらに、前記易イオン性無機物の状態は、粉体若しくは液体である。液体の場合には、アルカリ剤や凝集剤等の他の添加薬剤液、若しくはメタン発酵処理槽の消化液を水処理した後の処理水、若しくは雑排水などと混合して添加することもできる。
さらにまた、前記易イオン性無機物の添加は、前記メタン発酵槽12への添加ラインA、前記調整槽11と前記メタン発酵槽12の間に位置する廃棄物送給管への添加ラインB、前記調整槽11への添加ラインC、前記調整槽11の上流側の廃棄物送給管への添加ラインDのうち、少なくとも何れか一が挙げられる。勿論、複数箇所へ同時に添加するようにしても良い。
【0025】
以上の構成を有する処理装置について、その作用を処理方法とともに説明する。
まず、破砕処理等の前処理を行なった有機性廃棄物10を前記調整槽11に供給し、該調整槽11内にて廃棄物のpH、温度、水量調整、濃度調整等をメタン発酵処理に適した条件に調整する。前記有機性廃棄物10がメタン発酵槽12の処理限界以上の濃度である場合には、水を供給して濃度を調整する。このとき、前記薬剤タンク13から注入ポンプ14により、前記添加ラインD若しくは前記添加ラインCを介して易イオン性無機物を添加するようにしても良く、ここで添加することにより易イオン性無機物と有機性廃棄物の混合性が向上する。
【0026】
次に、前記前記調整槽11からメタン発酵槽12に有機性廃棄物10を送給し、該メタン発酵槽12内にて嫌気性微生物の作用により廃棄物をメタン発酵させ、メタンガスを生成させる。このとき、前記薬剤タンク13から注入ポンプ14により、前記添加ラインB若しくは前記添加ラインAを介して易イオン性無機物を添加するようにしても良く、ここで添加することにより添加直後に直ぐにメタン発酵効率を向上させることができる。
メタン発酵後の消化液15は、後段の水処理装置若しくはコンポスト化装置(不図示)等に送給される。
【0027】
ここで、本実施例に係る処理装置を用い、食品廃棄物を処理対象としてメタン発酵試験を行なった時の結果を図2及び図3に示す。図2、図3において、(a)は容積負荷の経日変化、(b)はメタンガス発生量の経日変化、(c)は中間生成物(酢酸、プロピオン酸)の経日変化を夫々示すグラフである。この試験において、メタン発酵槽12には中温メタン発酵槽を用い、易イオン性無機物の添加は、前記メタン発酵槽12内(添加ラインA)とした。
図2(a)に示されるような容積負荷を有するメタン発酵槽の場合、投入COD当りのガス発生量は(b)のようになり、このとき(c)に示されるように、0日目から20日目にかけて酢酸は急速に減少していく。これに対して、プロピオン酸は徐々に増加していく。17日目に易イオン性無機物としてCa:30mg/LとK:313mg/Lを添加すると、プロピオン酸は急速に減少する。この結果からも明らかなように、プロピオン酸の分解に対して易イオン性無機物の添加は有効であり、且つ即効性があることが分かる。
【0028】
また、比較例として鉄を添加した場合を図3に示す。図3では、中間生成物の測定を300日目以降で行った。図3(c)に示されるように、最大で350mg/LのFeを343日目から364日目までメタン発酵槽内に添加した。しかし、酢酸は僅かに減少したが、プロピオン酸の減少は全く見られなかった。次に、365日目に本実施例の易イオン性無機物としてCa:30mg/LとK:313mg/Lを添加すると、プロピオン酸は急速に減少した。
このように、Feの添加はプロピオン酸の分解には寄与しないが、易イオン性無機物であるCa及びKの添加はプロピオン酸の分解反応を促進し、延いてはメタン発酵の高効率化に有効であることが明らかである。
【0029】
さらに、上記した連続試験系の他に回分式試験を行なった結果、カリウムの添加量は10〜1000mg/Lの範囲内において同様にプロピオン酸が急速に減少するという結果が得られた。また、カルシウムの添加量は1〜100mg/Lの範囲内において同様の結果が得られた。従って、本実施例において好適なK、Caの添加量は、K:10〜1000mg/L、さらに好ましくは約100mg/L、及びCa:1〜100mg/L、さらに好ましくは約10mg/Lである。
尚、前記カリウム若しくは前記カルシウムを単独で添加しても効果があることは勿論である。
【0030】
本実施例をメタン発酵槽の安定運転時に適用した場合には、プロピオン酸がある一定水準以下になるように易イオン性無機物を添加すればよい。また立上運転時や酸敗の兆候を確認した場合など、有機酸濃度が増加している場合には、易イオン性無機物の添加により、添加前に比較し著しく分解速度を速めることが可能である。
このように本実施例によれば、易イオン性無機物の添加により、メタン発酵運転が安定化する。これはメタン生成細菌やプロピオン酸分解細菌の必須栄養素を補充することで、細菌の代謝機能を回復させ、メタン生成やプロピオン酸分解を促進させることができるためである。この効果は特にプロピオン酸分解に有効であり、模擬生ごみを対象とした中温メタン発酵連続試験においては、プロピオン酸濃度を一日当り300mg/L程度低減することが可能であった。
【実施例2】
【0031】
図4に本実施例2に係る有機性廃棄物の処理装置の概略フローを示す。以下、本実施例2及び実施例3において、前記実施例1と略同様の構成についてはその詳細な説明を省略する。
図4に示されるように本実施例2の処理装置は、ライン上流から下流に向かって、有機性廃棄物10を貯留して調整する調整槽11と、調整槽11から送給される有機性廃棄物10を嫌気性微生物によりメタン発酵させるメタン発酵槽12と、嫌気性微生物の必須栄養素のうち易イオン性無機物からなる薬剤が貯留される薬剤タンク13と、該薬剤タンク13に貯留された薬剤を適宜量ずつ前記メタン発酵槽12等に添加する注入ポンプ14と、メタン発酵槽12からの消化液中に含有される窒素化合物、BOD等を除去する生物処理装置16と、生物処理後の処理液を固液分離する固液分離装置17と、凝集剤の添加により溶解性汚濁物質を除去する凝集分離装置18と、前記固液分離装置16にて分離した有機性汚泥を好気性微生物の分解作用により発酵させてコンポスト23を製造するコンポスト化装置19と、を主要構成とする。
【0032】
前記生物処理装置16は、例えば活性汚泥処理を適用でき、メタン発酵後の消化液中に含有される窒素化合物、BODを微生物の働きにより分解する装置である。
前記固液分離装置17は、生物処理後の処理水から汚泥と処理水とを分離する装置であり、膜分離方式が好ましいが、その他の機械分離方式、重力沈降方式、若しくは浮上分離方式でもよい。
前記凝集分離装置18は、前記固液分離により固形分を分離した処理水に凝集剤を注入し、処理水中に含有されるリン酸イオン等の溶解性汚濁物質を凝集させ、沈降分離する装置である。前記凝集剤としては、無機凝集剤又は高分子凝集剤が好適に用いられる。
前記コンポスト化装置19は、空気供給しながら攪拌下にて好気性微生物により発酵処理を行い、コンポストを製造する装置である。
【0033】
このコンポスト化装置19により生成したコンポストは、環境及び生態系に害を与えることのない良質な堆肥となる。
また、易イオン性無機物としてカルシウムを添加した場合、メタン発酵時に消費されずに消化液中に残留したカルシウムが、消化液中のリン酸イオンと結合してリン酸カルシウム等の不溶性塩となり汚泥中に移行する。このリン成分を含有する汚泥をコンポスト化することにより、肥効成分であるリン成分を十分に含有した良質なコンポストを製造することができる。
【0034】
次に、上記した構成を有する処理装置について、その作用を処理方法とともに説明する。
まず、前処理を行なった有機性廃棄物10を前記調整槽11に供給し、該調整槽11内にて廃棄物のpH、温度、水量調整、濃度調整等をメタン発酵処理に適した条件に調整する。
次に、前記前記調整槽11からメタン発酵槽12に有機性廃棄物10を送給し、該メタン発酵槽12内にて嫌気性微生物の作用により廃棄物をメタン発酵させ、メタンガスを生成させる。前記薬剤タンク13からの易イオン性無機物の添加は、前記実施例と同様に、前記添加ラインA〜Dのうち少なくとも何れかから添加することができる。
【0035】
メタン発酵後の消化液は後段の生物処理装置16に供給され、該生物処理装置16にて硝化・脱窒反応により消化液中の窒素化合物が除去された後、固液分離装置17に送給される。このとき、前記薬剤タンク13から注入ポンプ14により、添加ラインEを介して前記生物処理装置16内に易イオン性無機物を添加するようにしても良い。これにより、生物処理の活性が向上する。また、前記易イオン性無機物を添加ラインFを介して前記生物処理装置16と前記固液分離装置17の間の廃棄物送給管に添加するようにしても良い。
【0036】
前記添加ラインE若しくはFによりカルシウムを添加した場合、汚泥側にリンが移行するため、後段のコンポスト化装置19にて良質なコンポストを製造できる。一方、液肥として利用する場合にはカリウムの添加により液肥の栄養バランスが良好となる。
また、前記生物処理装置16から排出される処理水の少なくとも一部を引き抜き、処理水返送ライン21を介して上流側工程に返送することが好ましい。処理水の返送位置は、例えば、メタン発酵槽12への返送ラインG、メタン発酵槽12と調整槽11の間の廃棄物送給配管への返送ラインH、調整槽11への返送ラインI、調整槽11の上流側の廃棄物送給配管への返送ラインJ等がある。このように、処理水を返送することにより、残留する易イオン性無機物を循環利用することができ、薬剤コストの削減が図れる。
【0037】
前記固液分離装置17では、生物処理後の処理水を、汚泥と処理水とに分離した後、該処理水は後段の凝集処理装置18に送給され、該凝集処理装置18にて凝集剤を添加されて処理水中に含有する溶解性汚濁物質が沈降分離され、その後必要に応じて高度水処理を施されて放流される。一方、前記固液分離装置17にて分離された汚泥はコンポスト化装置19に送給され、該コンポスト化装置19にて好気性微生物の存在下で発酵処理されてコンポスト23が製造される。
また、前記メタン発酵槽12から排出される消化液の他の処理ラインとして、該消化液を液肥24として利用することもできる。
【実施例3】
【0038】
図5に本実施例3に係る有機性廃棄物の処理装置の概略フローを示す。
図5に示されるように本実施例3の処理装置は、ライン上流から下流に向かって、有機性廃棄物10を貯留して調整する調整槽11と、調整槽11から送給される有機性廃棄物10を嫌気性微生物によりメタン発酵させるメタン発酵槽12と、嫌気性微生物の必須栄養素のうち易イオン性無機物からなる薬剤が貯留される薬剤タンク13と、該薬剤タンク13に貯留された薬剤を適宜量ずつ前記メタン発酵槽12等に添加する注入ポンプ14と、前記メタン発酵槽12内のプロピオン酸濃度を測定するプロピオン酸濃度測定装置25と、該プロピオン酸濃度測定装置25の測定値に基づき前記注入ポンプ14を制御して薬剤タンク13から薬剤を添加する注入ポンプ制御装置26と、を主要構成とする。
【0039】
前記プロピオン酸濃度測定装置25は、連続的又はバッチ的にメタン発酵槽12内のプロピオン酸濃度を測定する装置であって、例えば、電極式のプロピオン酸濃度測定装置であることが好ましい。さらに該プロピオン酸濃度測定装置25に、測定値に応じた易イオン性無機物添加条件を組込んだ前記注入ポンプ制御装置26を組み合わせることが好ましく、これにより本制御方法を自動化でき、プラント運転の省力化を図ることが可能となる。
前記注入ポンプ制御装置26は、前記プロピオン酸濃度測定装置14の測定値に基づき注入ポンプ14を制御する装置であって、例えば、予め設定したプロピオン酸濃度の上限値を超えた場合に前記注入ポンプ14を起動させ前記薬剤タンク13から易イオン性無機物を所定量だけ添加するように制御する。
【0040】
本実施例3に係る処理装置の作用は、まず、前処理を行なった有機性廃棄物10を前記調整槽11に供給し、該調整槽11内にて廃棄物のpH、温度、水量調整、濃度調整等をメタン発酵処理に適した条件に調整する。
次に、前記前記調整槽11からメタン発酵槽12に有機性廃棄物10を送給し、該メタン発酵槽12内にて嫌気性微生物の作用により廃棄物をメタン発酵し、メタンガスを生成する。
また、前記プロピオン酸濃度測定装置25によりメタン発酵槽12内のプロピオン酸濃度を測定し、該測定値に基づき前記注入ポンプ制御装置26により注入ポンプ14を制御し、前記薬剤タンク13から適宜所定量の易イオン性無機物をメタン発酵槽12内に添加する。この制御は、例えば前記プロピオン酸濃度測定装置25により測定したプロピオン酸濃度が予め設定した閾値(上限値)を越えた場合に、前記注入ポンプ制御装置26により注入ポンプ14を起動し、薬剤タンク13から適宜量の易イオン性無機物をメタン発酵槽内に添加する。
【0041】
このように、プロピオン酸を常時又は定期的に測定し、その濃度変化を把握することで濃度変化に応じた易イオン性無機物の添加量を設定し、プロピオン酸濃度の低減を図り、酸敗を未然防止する。これにより酸敗リスクの大幅な低減が可能となるとともに、易イオン性無機物の添加量の適正化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施例1に係る処理装置の概略を示すフロー図である。
【図2】食品廃棄物を対象とした中温メタン発酵試験の結果であり、(a)は容積負荷の経日変化、(b)はガス発生量の経日変化、(c)は中間生成物(酢酸、プロピオン酸)の経日変化を夫々示すグラフである。
【図3】図2とは別の中温メタン発酵試験の結果であり、(a)は容積負荷の経日変化、(b)はガス発生量の経日変化、(c)は中間生成物(酢酸、プロピオン酸)の経日変化を夫々示すグラフである。
【図4】本発明の実施例2に係る処理装置の概略を示すフロー図である。
【図5】本発明の実施例3に係る処理装置の概略を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0043】
10 有機性廃棄物
11 調整槽
12 メタン発酵槽
13 薬剤タンク
14 注入ポンプ
15 消化液
16 生物処理装置
17 固液分離装置
18 凝集分離装置
19 コンポスト化装置
20 易イオン金属添加ライン
21 処理水返送ライン
22 処理水
23 コンポスト
24 液肥
25 プロピオン酸濃度測定装置
26 注入ポンプ制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃棄物をメタン発酵槽内で嫌気性微生物によりメタン発酵させる有機性廃棄物の処理方法において、
前記有機性廃棄物に対して、前記嫌気性微生物の必須栄養素のうち易イオン性無機物を添加してメタン発酵させ、錯化剤を添加することなく前記必須栄養素をイオン化して前記嫌気性微生物に供給して該嫌気性微生物の代謝機能を促進させることを特徴とする有機性廃棄物の処理方法。
【請求項2】
前記易イオン性無機物が、カリウム若しくはカルシウムの少なくとも何れか一方であることを特徴とする請求項1記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項3】
前記メタン発酵の後段にて生物処理を行なうことを特徴とする請求項1若しくは2記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項4】
前記メタン発酵処理が、前記メタン発酵槽内を中温域に維持してメタン発酵を行なう中温メタン発酵であることを特徴とする請求項1若しくは2記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項5】
前記易イオン性無機物が、塩化物の形態で添加されることを特徴とする請求項1若しくは2記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項6】
前記メタン発酵槽内の有機酸濃度を測定し、該測定した濃度に基づき前記易イオン性無機物を添加することを特徴とする請求項1若しくは2記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項7】
前記易イオン性無機物がカリウムであり、該カリウムの添加量が10〜1000mg/Lの範囲内であることを特徴とする請求項1若しくは2記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項8】
前記易イオン性無機物として前記カリウムに加えてカルシウムを添加するようにし、該カルシウムの添加量が1〜100mg/Lの範囲内であることを特徴とする請求項7記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項9】
有機性廃棄物を嫌気性微生物によりメタン発酵させるメタン発酵槽を備えた有機性廃棄物の処理装置において、
前記メタン発酵槽若しくは前記メタン発酵槽の上流側に、前記嫌気性微生物の必須栄養素のうち易イオン性無機物を添加する薬剤添加手段を設け、前記メタン発酵槽内にて錯化剤を添加することなく必須栄養素をイオン化して前記嫌気性微生物に供給し、該嫌気性微生物の代謝機能を促進させることを特徴とする有機性廃棄物の処理装置。
【請求項10】
前記易イオン性無機物が、カリウム若しくはカルシウムの少なくとも何れか一方であることを特徴とする請求項9記載の有機性廃棄物の処理装置。
【請求項11】
前記メタン発酵槽の後段に、生物処理を行なう生物処理装置を設けたことを特徴とする請求項9若しくは10記載の有機性廃棄物の処理装置。
【請求項12】
前記メタン発酵槽内の有機酸濃度を測定する有機酸濃度測定手段と、該測定した濃度に基づき前記易イオン性無機物の添加量を制御する制御装置とを備えたことを特徴とする請求項9若しくは10記載の有機性廃棄物の処理装置。
【請求項13】
前記易イオン性無機物がカルシウムを含む場合であって、
前記メタン発酵槽の後段に、メタン発酵後の消化液を固液分離する固液分離装置と、該固液分離した汚泥分を好気性発酵させてコンポスト化するコンポスト化装置とを備えたことを特徴とする請求項9若しくは10記載の有機性廃棄物の処理装置。
【請求項14】
前記易イオン性無機物がカリウムであって、前記メタン発酵槽から排出する消化液を液肥として利用するようにしたことを特徴とする請求項9若しくは10記載の有機性廃棄物の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−218422(P2006−218422A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−35306(P2005−35306)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】