説明

有機性排水の処理方法

【課題】有機性排水を活性汚泥法で処理するに当たり、余剰汚泥の一部を嫌気性消化処理してエネルギーとして有用なメタンガスを発生させる方法において、処理水の水質を高く維持した上でメタンガスの回収効率を高める事ができる有機性排水を提供する。
【解決手段】有機性排水を返送汚泥と混合して曝気槽1内で曝気処理した後固液分離する。分離汚泥の一部を返送汚泥とし、他の一部は嫌気性処理槽3で嫌気性消化処理する。返送汚泥の一部は再曝気槽4で曝気処理した後曝気槽1に返送し、残部はそのまま曝気槽1に返送する。曝気槽1におけるSRTを3日以内に短くすることにより、曝気槽1内における有機物分解率は低くなる一方で菌体の増殖率が高くすることができる。また、曝気処理を経た返送汚泥により、有機物の分解率を高め、SRTを短くすることによる処理水の低下を防止することができる。メタンガスを多量に発生させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機性排水の処理方法に係り、特に有機性排水を活性汚泥法で処理するに当たり、余剰汚泥の一部を嫌気性消化処理してエネルギーとして有用なメタンガスを発生させる方法において、処理水の水質を高く維持した上でメタンガスの回収効率を高める方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、し尿、産業排水、下水などの有機性排水の処理方法として、有機性排水を返送汚泥と混合して曝気槽内で曝気し、曝気処理液を固液分離し、分離汚泥の一部を返送汚泥として曝気槽へ返送する活性汚泥法がある。活性汚泥法は、有機性排水中の有機物を好気性微生物の作用で分解して無機化する方法であり、この方法において、曝気槽における有機物の分解効率を高めるために、返送汚泥を再曝気して活性化した後曝気槽に返送する方法や、有機性排水の曝気に先立ち嫌気性処理を行って排水中の溶解性の難分解性有機物を易生物分解性に変換する方法も提案されている(特公昭62−49118号公報)。
【0003】
このような活性汚泥法では、有機物の分解に伴って増殖する菌体が余剰汚泥として大量に排出される。この余剰汚泥を減容化するために、分離汚泥の一部を嫌気性消化処理することも行われている。汚泥の嫌気性消化では、汚泥中の有機物や菌体が分解されてメタンガスが発生するため、これを回収してエネルギーとして有効利用することができるという利点もある。
【特許文献1】特公昭62−49118号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
活性汚泥処理の余剰汚泥を嫌気性消化処理する場合、メタンガスをより多く発生させるためには、嫌気性処理槽に送給される余剰汚泥中に未分解の有機物や菌体が多く含まれていることが必要となる。このためには、曝気槽の汚泥滞留時間(SRT)を短くして曝気槽における有機物の分解率を下げることが考えられるが、この場合には、処理水の水質が悪化することになる。曝気槽に返送される汚泥を再曝気して活性化させた後曝気槽に戻すことにより、処理水の水質を高めることができるが、この場合には、返送汚泥が活性化されるために、曝気槽での有機物の分解率が高くなり、結果として嫌気性処理槽に導入される汚泥の有機物濃度は低くなり、メタンガス発生量は少なくなる。
【0005】
本発明は、有機性排水を活性汚泥法で処理するに当たり、余剰汚泥の一部を嫌気性消化処理してエネルギーとして有用なメタンガスを発生させる方法において、処理水の水質を高く維持した上でメタンガスの回収効率を高めることができる有機性排水の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明(請求項1)の有機性排水の処理方法は、有機性排水を返送汚泥と混合して曝気槽内で曝気処理し、曝気処理液を固液分離し、分離汚泥の一部を返送汚泥として前記曝気槽返送へすると共に、分離汚泥の他の一部は、嫌気性消化処理する有機性排水の処理方法において、前記返送汚泥の一部を曝気処理した後前記曝気槽に返送すると共に、前記曝気槽における汚泥滞留時間を3日以内とすることを特徴とする。
【0007】
請求項2の有機性排水の処理方法は、前記有機性排水を前記曝気槽内で曝気するに先立ち、該有機性排水を前記返送汚泥の一部と混合して嫌気性処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の有機性排水の処理方法によれば、有機性排水を活性汚泥法で処理するに当たり、余剰汚泥の一部を嫌気性消化処理してエネルギーとして有用なメタンガスを発生させる方法において、処理水の水質を高く維持した上でメタンガスの回収効率を高めることができる。
【0009】
即ち、本発明では、曝気槽のSRTを3日以内と短くするため、曝気槽内における有機物分解率は低くなる一方で菌体の増殖率が高くなる。
【0010】
このようにSRTを短くした曝気槽に、曝気処理して活性化した汚泥のみを返送すると、菌体の有機物分解能が高いことにより、分離汚泥中の有機物量は低減し、メタンガス発生量を多くすることはできず、逆に曝気処理していない汚泥のみを返送すると曝気槽において十分に有機物を分解することができないことから、処理水の水質が悪化するが、本発明では、曝気処理して活性化した汚泥と、曝気処理していない汚泥とを返送することにより、曝気処理を経た汚泥により、有機物の分解率を高め、SRTを短くすることによる処理水の低下を防止することができると共に、返送汚泥の全量を曝気処理する場合に比べて曝気槽内における活性化汚泥の割合が少ないことにより、有機物を分解せずに吸着ないしは菌体内に蓄積した状態で曝気槽から流出する菌体の割合を増加させることができる。
【0011】
本発明では、このように曝気槽内において、有機物を適度に分解することにより処理水の水質は維持した上で、未分解の有機物を汚泥に吸着ないし蓄積させ、更には曝気槽内における菌体の増殖を高めることにより、嫌気性処理槽に送給される汚泥中の有機物濃度及び菌体量を増加させ、これを嫌気性処理槽で分解することによりメタンガスを多量に発生させることが可能となる。
【0012】
請求項2の方法によれば、曝気槽における曝気処理に先立ち嫌気性処理を行うことにより、有機性排水中の溶解性の難分解性の有機物を、易生物分解性に変換し、これを曝気槽又は嫌気性処理槽内で分解することにより、より一層処理水の水質を高めると共に、メタンガスの回収効率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に図面を参照して本発明の有機性排水の処理方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0014】
図1,2は、本発明の有機性排水の処理方法の実施の形態を示す系統図である。
【0015】
図1において、原水(有機性排水)は、配管11より曝気槽1に導入されて曝気処理され、曝気処理液は配管12より固液分離手段2に送給される。この固液分離手段2としては、沈殿槽、膜分離装置等を用いることができる。
【0016】
固液分離手段2の分離液は配管13より処理水として系外へ排出され、分離汚泥は配管14より抜き出され、一部が配管15より嫌気性処理槽3に導入されて嫌気性消化処理される。嫌気性処理槽3の嫌気処理水は配管16より排出され、嫌気性消化で発生したメタンガスは配管17より抜き出され、回収、再利用される。嫌気処理水は、原水と共に処理されるか、或いは、別途処理された後放流される。この嫌気性処理槽3からは無機物の蓄積を防止するために必要に応じて余剰汚泥が排出される。
【0017】
分離汚泥の残部のうちの一部は、配管18,19,20を経てそのまま曝気槽1に返送され、残部は配管18,21を経て再曝気槽4に送給され、この再曝気槽4で再曝気処理された後、配管22,20を経て曝気槽1に返送される。
【0018】
本発明において、曝気槽1におけるSRTは3日(72時間)以内とする。このSRTが3日を超えると曝気槽1における有機物分解率が高くなって嫌気性処理槽3におけるメタンガス発生量を多くすることができない。曝気槽1のSRTは短いほどメタンガス発生量を多くすることができるが、過度に短いと処理水の水質が悪くなることから、12〜72hr、特に24〜48hrとすることが好ましい。なお、この曝気槽1の曝気処理条件は固液分離性の観点から、HRT(水滞留時間)を1〜6hr、好ましくは2〜4hrとし、MLSSを2000〜8000mg/L程度とすることが好ましい。
【0019】
また、本発明では返送汚泥のうちの一部を再曝気槽4に送給して再曝気処理し、残部はそのまま曝気槽1に返送するが、この再曝気処理する汚泥量が多過ぎるとメタンガス回収効率を十分に高めることができず、逆に少な過ぎると処理水の水質が低下するため、この再曝気槽4に送給する汚泥量は、目標とする処理水の水質や必要なメタンガスの回収効率等に応じて適宜決定されるが、通常の場合、一日当たりの汚泥発生量の5〜20%、好ましくは10〜15%を曝気槽1に返送することが好ましい。
【0020】
なお、再曝気槽4における曝気処理条件には特に制限はないが、再曝気槽4のSRTが長過ぎると曝気エネルギーを多く消費するとともに汚泥が分解されメタンガス回収率が低下し、短か過ぎると十分に汚泥を活性化し得ない。従って、再曝気槽4のSRTは全返送汚泥のうちの再曝気槽4に導入される汚泥量や曝気槽1のSRTによっても異なるが、4〜10日程度とすることが好ましい。
【0021】
図2の方法は、図1の方法において、曝気槽1の前段に嫌気槽5を設け、原水と返送汚泥をこの嫌気槽5に導入して嫌気性処理した後曝気槽1で処理するようにしたものであり、その他の処理は図1と同様にして行うことができる。この方法では、曝気槽1における曝気処理に先立ち嫌気性処理を行うことにより、原水中の溶解性の難分解性の有機物を、易生物分解性に変換することができる。このため曝気槽1又は嫌気性処理槽3内での有機物の分解効率が高められ、より一層処理水の水質を高めると共に、メタンガスの回収効率を高めることができる。
【実施例】
【0022】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0023】
実施例1
図1に示す方法で、下記水質の厨房排水を原水として4.16L/hrの処理量で処理を行った。
[原水水質]
BOD:300mg/L
SS:350mg/L
PO−P:20mg/L
【0024】
曝気槽1、固液分離手段2、嫌気性処理槽3及び再曝気槽4の仕様及び運転条件は次の通りである。
[曝気槽1]
SRT:24hr
槽容量:8.3L
[固液分離手段2]
加圧浮上分離装置
[嫌気性処理槽3]
温度:35℃
槽容量:40L
[再曝気槽4]
SRT:240hr
槽容量:3.0L
【0025】
固液分離手段2では、分離汚泥4.16L/hrを分離すると共に、処理水4.16L/hrを排出した。分離汚泥のうちの一部0.083L/hrは嫌気性処理槽2に送給し、残る一部0.008L/hrは直接曝気槽1に返送し、残部4.07L/hrは再曝気槽4を経て曝気槽1に返送した。
【0026】
このときの処理水の水質と、嫌気性処理槽2のメタンガス発生量を表1に示した。
【0027】
実施例2
実施例1において、図2に示す如く、曝気槽1の前段に嫌気槽5を設置して処理したこと以外は同様の条件で処理を行った。この嫌気槽5の仕様及び運転条件は次の通りである。
[嫌気槽5]
槽容量:2.0L
このときの処理水の水質と、嫌気性処理槽3のメタンガス発生量を表1に示した。
【0028】
比較例1
実施例1において、返送汚泥の全量を下記仕様及び運転条件の再曝気槽4で曝気処理した後曝気槽1に返送したこと以外は同様の条件で処理を行った。
[再曝気槽4]
槽容量:3L
SRT/HRT:0.2hr
このときの処理水の水質と、嫌気性処理槽2のメタンガス発生量を表1に示した。
【0029】
比較例2
実施例1において、曝気槽1のSRTを192hrとしたこと以外は同様にして処理を行った。
このときの処理水の水質と、嫌気性処理槽3のメタンガス発生量を表1に示した。
【0030】
【表1】

【0031】
表1より、本発明によれば、有機性排水の処理において、メタンガスを効率的に回収すると共に、高水質の処理水を得ることができることが分かる。
【0032】
これに対して、返送汚泥の全量を曝気処理した比較例1では、処理水の水質は良好であるもののメタンガス発生量は格段に少ないものとなる。また、返送汚泥の一部のみを曝気した場合であっても、曝気槽のSRTを3日よりも長くした比較例2でも、メタンガスの発生量は格段に少ないものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の有機性排水の処理方法の実施の形態を示す系統図である。
【図2】本発明の有機性排水の処理方法の他の実施の形態を示す系統図である。
【符号の説明】
【0034】
1 曝気槽
2 固液分離手段
3 嫌気性処理槽
4 再曝気槽
5 嫌気槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性排水を返送汚泥と混合して曝気槽内で曝気処理し、曝気処理液を固液分離し、分離汚泥の一部を返送汚泥として前記曝気槽へ返送すると共に、分離汚泥の他の一部は、嫌気性消化処理する有機性排水の処理方法において、
前記返送汚泥の一部を曝気処理した後前記曝気槽に返送すると共に、
前記曝気槽における汚泥滞留時間を3日以内とすることを特徴とする有機性排水の処理方法。
【請求項2】
前記有機性排水を前記曝気槽内で曝気するに先立ち、該有機性排水を前記返送汚泥の一部と混合して嫌気性処理することを特徴とする請求項1に記載の有機性排水の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−88014(P2006−88014A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−275419(P2004−275419)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】