説明

有機樹脂被覆鋼材及びこれを用いた建造物

【課題】クロメート処理を用いない化成処理皮膜により、クロメート処理と同等以上の密着性を有する有機樹脂被覆鋼材、及び、これを用いた海洋建造物を提供する。
【解決手段】有機樹脂防食層が被覆された鋼材であって、有機樹脂防食層と鋼材との間に形成されたリン酸アルミニウム化成処理皮膜層が2層から成り、鋼材側化成処理皮膜の平均膜厚が1〜7μm、有機樹脂側化成処理皮膜の平均膜厚が10〜40μmであり、かつ、平均元素組成比率が1000≦(Fe×Al)/(Fe×Al)≦5000を満足する有機樹脂被覆鋼材、及び、これを用いてなる建造物である。Feは鋼材側化成処理皮膜中の鉄元素の平均モル濃度であり、Feは有機樹脂側化成処理皮膜中の鉄元素の平均モル濃度であり、Alは鋼材側化成処理皮膜中のアルミニウム元素の平均モル濃度であり、Alは有機樹脂側化成処理皮膜中のアルミニウム元素の平均モル濃度である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロム元素を用いない化成処理を施した有機樹脂被覆鋼材及びこれを用いた建造物に関し、とりわけ、腐食の厳しい環境、例えば海浜近辺における鋼構造物の防食に適した防食技術を利用した有機樹脂被覆鋼材及びこれを用いた建造物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属(貴金属を除く)を防食する典型的な方法は塗覆装である。これは、金属表面に有機樹脂・無機樹脂を被覆するもので、被覆層が腐食要因の水、酸素、電解質を遮断するため、金属の腐食は起きないか、あるいは腐食が遅延又は低減する。通常、被覆層を厚くしたり、水・酸素・電解質の透過度の小さい有機樹脂を用いることにより、耐食性を高めることができる。もちろん、樹脂層に防錆剤・防錆顔料を添加してもよい。腐食環境が特に厳しい海浜環境等で行われる重防食用塗覆装の場合であれば、ジンクリッチペイント層あるいは有機樹脂プライマー層、中塗り層、上塗り層の多層構造とし、合計で0.5〜3mmの有機樹脂を被覆することがよく行われている。
【0003】
有機樹脂被覆鋼材の樹脂被覆の密着性をさらに高めるために、基材表面を化成処理することが広く行われている。化成処理には、3価、6価のクロムを含むクロメート処理が、安価で高性能であるため、一般に広く用いられている。しかし、環境負荷の点からクロム系化成処理は将来規制される可能性があり、代替処理が探索されている。
【0004】
この場合、代替化成処理には、従来のクロム系化成処理と同等以上の特性が望まれ、重防食用樹脂被覆鋼材であれば、耐食性、耐衝撃性、耐候性等は主に厚い有機樹脂被覆層が担うので、密着性が化成処理に対する主な要求特性である。
【0005】
例えば、特許文献1、2には、クロメートを含まない化成処理として、第一リン酸アルミニウム等にホウ酸等を添加した化成処理法、化成処理剤が開示されている。これらは耐食性向上を狙ったり、塗装密着性の向上を狙ったものである。
【0006】
【特許文献1】特開昭51−94437号公報
【特許文献2】特開2003−147543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、重防食被覆鋼材は、塗装と比較し、非常に厚い樹脂層を形成するのだが、樹脂が硬化する際、収縮応力が非常に大きくなり、塗装密着性に求められる密着性よりも一段と強い密着性が要求される。このような強い密着性は、特許文献1、2に開示された技術では、達成することはできない。
【0008】
また、クロメート処理材に匹敵する高い密着性、特に海洋中で使用する被覆鋼材では、常時、海水に接する環境における密着性(耐水密着性)に優れなければならない。
【0009】
そこで、本発明は、クロメート処理を用いない化成処理皮膜により、クロメート処理と同等以上の密着性を有する有機樹脂被覆鋼材、及び、これを用いた海洋建造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨とするところは、以下のとおりである。
(1) 有機樹脂防食層が被覆された鋼材であって、前記有機樹脂防食層と前記鋼材との間に形成されたリン酸アルミニウム化成処理皮膜層が、前記鋼材側に形成された鋼材側化成処理皮膜と、前記有機樹脂防食層側に形成された有機樹脂側化成処理皮膜の2層から成り、前記鋼材側化成処理皮膜の平均膜厚が1〜7μm、前記有機樹脂側化成処理皮膜の平均膜厚が10〜40μmであり、かつ、平均元素組成比率が下記(A)式を満足することを特徴とする、有機樹脂被覆鋼材。
1000≦(Fe×Al)/(Fe×Al)≦5000 ・・・(A)
Fe:鋼材側化成処理皮膜中の鉄元素の平均モル濃度
Fe:有機樹脂側化成処理皮膜中の鉄元素の平均モル濃度
Al:鋼材側化成処理皮膜中のアルミニウム元素の平均モル濃度
Al:有機樹脂側化成処理皮膜中のアルミニウム元素の平均モル濃度
(2) 海洋中の干満帯領域又はスプラッシュ領域の一方又は双方の構造部材として、少なくとも請求項1記載の有機樹脂被覆鋼材を用いてなる建造物。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、環境負荷を低減し、かつクロメート化成処理材と同等以上の耐(海)水密着性を有する樹脂被覆鋼材を提供することができる。また、この樹脂被覆鋼材を構造部材に用いると、樹脂被覆の寿命が長くなるため、鋼材の腐食速度が低減し、強度寿命を延ばすことができるため、海洋域での建造物自体の寿命が延びる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0013】
本発明で用いる鋼種としては、特に限定するものではなく、普通鋼、低合金鋼や、C、Si、Mn及び窒素、酸素を制御した鋼材、及び、Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、Ti、Al、Mg、V、Ca等の元素を添加した高合金鋼等が例示できるが、本発明では安価で汎用性の高い普通鋼でも十分な効果が得られる。
【0014】
また、鋼材の品種は、特に限定するものではないが、鋼管、形鋼、厚板、薄板等が例示でき、特に奨められる品種としては重防食被覆が適用される鋼管、鋼管杭、鋼管矢板、鋼矢板、H形鋼、線材等が例示できる。これらを構造部材に用いると、その建造物全体の寿命を延ばすことになる。
【0015】
本発明に使用する鋼材は、その表面のスケール、汚染物等を除去するため、アルカリ脱脂、酸洗、サンドブラスト処理、グリッドブラスト処理、ショットブラスト処理等の下地処理を必ず行ない、化成処理皮膜層が地鉄と接するようにしなくてはならない。下地処理を行わないと、酸化物層・汚れが地鉄と化成処理皮膜層とを接するのを妨害し、密着強度が低下する。
【0016】
本発明の有機樹脂被覆鋼材は、鋼材を化成処理した後、その上に有機樹脂防食層を10μm〜10mm形成するものであるが、代表的な形態の一つとして、重防食用樹脂被覆鋼材が例示できる。これは、鋼材表面に化成処理皮膜層、樹脂プライマー層、樹脂接着層、重防食用防食層を積層して成る。この時、樹脂プライマー層と樹脂接着層を兼ねてもよい。これら樹脂層は、塗装、ライニング、ラミネートのいずれの方法でも形成できる。トップ層の樹脂は、限定するものではないが、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン等の樹脂(いずれも変性物も含む)を0.5〜2mm形成したものが例示できる。もう一つの最良の形態は、重防食用塗装鋼材である。これは、鋼材表面に化成処理皮膜層を形成し、その上に一層あるいは多層の塗膜を合計で200〜1000μm形成する。塗膜のバインダー樹脂は、変性も含め、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フタル酸樹脂、塩化ゴム樹脂が例示でき、トップ層樹脂は、これにさらにフッ素樹脂、アクリル樹脂が加えて例示できる。
【0017】
いずれも、密着性を化成処理皮膜層に、耐食性を有機樹脂防食層に主に担わせるのが望ましい。
【0018】
本発明における化成処理皮膜層の特徴は、無機化合物層であり、密着性を向上させる官能基(水酸基、カルボニル基等)を有する樹脂・ポリマーを含有しない。これら官能基は加水分解を徐々に受ける場合があるので、恒久建造物に要求されるような超長期(30〜100年)における耐水性は、無機物質の方が優る傾向がある。しかし、無機系化成処理皮膜層の上に有機樹脂皮膜を積層する時、無機系化成処理層のポーラスな部分に有機樹脂は染み込み、その結果、有機樹脂物質を含んでいるように観察されることがあるが、この場合も、化成処理皮膜層は無機物質のみと言える。いずれの場合も、当該化成処理皮膜層は、無機系物質、即ち、イオン性物質でのみ構成されている(ここでは、シリカのSi−Oもイオン性結合とみなしている)。
【0019】
無機系化成処理で、本発明でのリン酸アルミニウム系化成処理は、密着性に優れたクロムフリー化成処理として注目され、5〜50mass%の第一リン酸アルミニウム水溶液で基材を処理するものである。
【0020】
処理液には、さらに、改質剤として酸化ホウ素、重合促進剤として酸化マグネシウムや酸化カルシウム等を添加してもよい。この場合、酸化ホウ素は、リン元素に対し、ホウ素元素換算で約4〜10mol%、また、酸化マグネシウム及び酸化カルシウムは、リン元素に対し、マグネシウム及びカルシウム元素換算で両者合計で20〜100mol%を好適に添加する。
【0021】
また、体質顔料として、チタニア、シリカ、ジルコニア等を、リン元素に対して、その金属元素換算で20〜60mol%添加してもよい。これら顔料の適切な種類と濃度は、化成処理皮膜を強靱にし、密着性をさらに高める。ここで言う、元素換算とは、当該物質の構成金属元素の存在量(mol)のことである。
【0022】
これらの場合、当該化成処理皮膜層は、化成処理液と同じ元素を含み、さらに、通常、基材も若干溶解するので、鉄も含む。水素も含まれるが、分析機による確認・測定は困難である。
【0023】
また、通常、積層した有機樹脂が無機化成処理層の細孔に染み込むため、化成処理皮膜層にも炭素、窒素等が含まれる。しかし、有機樹脂には、通常、リンあるいはアルミニウムは含まれていないため有機樹脂由来の層との判別は容易である。
【0024】
本発明では、化成処理皮膜層が、鋼材側に形成された鋼材側化成処理皮膜と、有機樹脂防食層側に形成された有機樹脂側化成処理皮膜の二層で構成され、鋼材/鋼材側化成処理皮膜の境界、鋼材側化成処理皮膜/有機樹脂側化成処理皮膜の境界は、その断面を、光学顕微鏡、電子顕微鏡で観察することにより容易に視認できるので、二層の見分けは容易である。境界が若干の幅を持つ場合、その境界幅より鋼材側が第一層目(鋼材側化成処理皮膜)、その境界幅より有機樹脂防食層側が第二層目の化成処理皮膜層(有機樹脂側化成処理皮膜)とみなす。境界が光学顕微鏡、電子顕微鏡のいずれでも認識できない場合は、一層とみなし、本発明外である。
【0025】
鋼材側化成処理皮膜の膜厚は1〜7μm、好ましくは、3〜5μmで、1μmより薄いと処理の効果が無くなる。この範囲の厚さの皮膜であれば、皮膜は緻密な層であるが、これより厚く形成すると、緻密さが減少し、剥離起点になるため、密着性が劣化する。
【0026】
有機樹脂側化成処理皮膜の膜厚は、10〜40μm、好ましくは、15〜25μmであり、この範囲外では、いずれも密着性が低下する。化成処理層の厚みから見ると、通常のリン酸塩処理とは大きく異なり、厚い。
【0027】
ここで、これらの化成処理皮膜の膜厚の測定方法としては、例えば、鋼材断面の表層部分を電子顕微鏡等で観察し、化成処理皮膜の厚みを測定し、ランダムに測定した5点以上の測定値の平均値を膜厚とすることができる。
【0028】
本化成処理皮膜層は、二層とも、少なくともリン、アルミニウム、鉄、酸素、水素から成る多結晶層であり、さらに添加物由来のホウ素、マグネシウム、カルシウム、チタン、ケイ素、ジルコニアを含んでもよい。有機樹脂側化成処理皮膜の方は厚いため、図1に模式的に示すように、結晶が連続せず、亀裂・細孔が生成していることも多い。
【0029】
単なるリン酸処理では、リン酸鉄が表面に生成するが、リン酸Al水溶液で処理した場合は、FeAl(PO(OH)を主成分とする複塩が生成する。この塩は、x、y、z、uのとり方により多数の種類が考えられるが、本発明では、この二層の化成処理層組成を、鉄とアルミニウムとの元素存在比を用いて規定した。
【0030】
これらの元素濃度比は、皮膜断面から得られる各元素のEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)等の元素存在量に比例するシグナルカウント数の比から計算することが可能である。本発明で規定した比率は、測定機器のセンサーの鉄元素、アルミニウム元素に対する固有の設定感度によらないため、測定が容易であり、測定誤差も小さい。
【0031】
鉄/アルミニウム比率が、生成する化成処理皮膜層の複塩の組成を決め、組成が決まると皮膜物性が決まり、皮膜物性が決まると密着性が決まるため、鉄/アルミニウム比率が物性を規定する良好なパラメータと成り得ると思われる。ただし、化成処理皮膜層は多結晶のため、数μmオーダーでは局所的偏りがあり、化成処理皮膜層の断面を、鋼材表面と水平方向に、最低でも20μm、好ましくは30μm以上、500μm以下の範囲について、3〜10点測定して、平均濃度とする必要がある。
【0032】
密着性が良好になる原因は定かではないが、いくつかの理由が推測できる。
【0033】
Fe/Alの大きい鋼材側化成処理皮膜層は、緻密で、鋼材との密着性に優れ、有機樹脂側化成処理皮膜層は、ポーラスなためアンカー効果(細孔に樹脂が染み込む)により樹脂密着性に優れ、両化成処理皮膜層同士は、類似した組成を有するため、密着性に優れているので、全体として強固な密着性が発現した可能性がある。
【0034】
もう少し定量的に考えることもできる。FeAl(PO(OH)は無機質で、リン酸鉄よりも耐水性・密着性に優れる。そして比率Fe/Alは大きいほど緻密な皮膜になり、小さいほどポーラスな皮膜になると推測される。そのため、鋼材側化成処理皮膜のFe/Alは大きいほど、化成処理皮膜と基材との密着性が高くなるが、あまり大きくなり過ぎると、FeAl(PO(OH)自身の生成量が低下し、リン酸鉄が多く生成していることを意味する。密着性は、リン酸鉄よりもFeAl(PO(OH)の方が高いため、比率Fe/Alが大きすぎると効果が低下する。
【0035】
また、比率Fe/Alは小さいほどポーラスな皮膜になるため、アンカー効果により樹脂との密着性に優れるが、小さ過ぎると、鉄濃度が小さいことになり、即ち、FeAl(PO(OH)自身の生成量の低下を意味し、同様に、密着性が低下するものと推察できる。
【0036】
以上の結果、比率(Fe×Al)/(Fe×Al)は、本発明の範囲外で、物性が低下するものと思われる。
【0037】
また、別の見地では、鉄濃度で見ると、基材、鋼材側の化成処理皮膜層、有機樹脂側の化成処理皮膜層、有機樹脂防食層の順に小さくなり、本発明の有機樹脂被覆鋼材全体では、鉄組成濃度の段階的傾斜材料となっている。これが、密着性を高める原因の一つとなっている可能性もある。
【0038】
化成処理方法は、限定するものではないが、化成処理を二工程で構成する方法が例示できる。第一工程は、鋼材側の化成処理皮膜層を形成する化成処理工程、第二工程は、有機樹脂防食層側の化成処理層を形成する工程である。
【0039】
第一工程は、基材をリン酸アルミニウム水溶液に一定時間浸漬する。この時、リン酸イオン濃度が高いほど、あるいは浸漬時間が長いほど、形成される化成処理皮膜層中の鉄濃度は、概して高くなる傾向にある。また、リン酸を、リン酸アルミニウムのリン酸イオンに対し1〜10mass%添加してリン酸濃度を高くすることにより、鉄基材との反応を促進してもよい。生成する鉄濃度の高い化成処理皮膜は不溶性であるので、さらに水洗し、水溶性の残部成分を除去してもよい。
【0040】
第二工程は、リン酸アルミニウム水溶液を基材表面に塗布・乾燥するが、処理液に、前述した体質顔料、触媒等を添加してもよい。化成処理第一層目の上に処理するため、処理液に鉄が含まれていなくても、第一層目から、あるいは第一層目の欠陥部から鉄が若干溶出する。これによる鉄濃度は、リン酸Al濃度が高いほど、あるいは、処理液が乾燥するまでの濡れ時間が長いほど増加する傾向にあるが、理論的にその濃度を予測する方法はなく、予め処理液濃度、処理液付着量に対する鉄/アルミニウム比の依存性を調べ、調整する。鉄濃度の小さい化成処理皮膜層は、水性成分も含んだものだが、これは、焼付けによって脱水して不溶性になり、耐水性が向上する。焼付け温度は、180℃以上、好ましくは200〜250℃である。
【0041】
いずれの化成処理も、第一リン酸アルミニウムの濃度は5〜25mass%水溶液が、好ましくは、25〜35mass%が望ましい。濃度が高過ぎると、粘性が高く作業性が悪く、濃度が低過ぎると、第一工程では所定の膜厚を得る浸漬時間が長くなり、また、第二工程では付着量が小さくなる。添加物の兼ね合いから、好適に調整する。
【0042】
処理方法は、第一工程が浸漬・水洗・乾燥、第二工程が塗布・乾燥が好適に例示できるが、化成処理皮膜が形成できるのであれば、これに限定するものではない。
【実施例】
【0043】
鋼材は、厚さ4mmの普通鋼を用い、表面をグリッドブラストで3aブラスト処理した。
【0044】
化成処理工程は、組成が異なる処理液を用いて2工程で行った。第一工程は、リン酸濃度が薄いと基材との反応性が悪くなるため、第一リン酸アルミニウム25mass%水溶液を用い、条件によっては、これに無水リン酸を所定量添加した。鋼材をこの40℃の処理液に一定時間浸漬後、水洗、乾燥した。
【0045】
第二工程は、第一リン酸アルミニウム水溶液を、所定の濃度に調製し、場合により、無水第一リン酸アルミニウム(Al(HPO)に対して、酸化ホウ素なら0.8mass%、チタニアあるいはシリカなら30mass%、酸化マグネシウムなら5mass%をそれぞれ添加した。これを塗布・乾燥した。
【0046】
第二工程の処理後、鋼材を炉に入れて、所定の焼付けを行った。鋼材の温度は熱電対で測定した。焼付け取り出し後は、自然冷却した。焼付温度は、最高到達温度200℃、保持時間0分とした。
【0047】
比較例のNo.3、4の化成処理は一工程、単層とした。比較例のNo.25は、第一工程で無水リン酸を多量に添加したところ、処理液が固化したため、処理を中止した。比較例のNo.1は化成処理無し、比較例のNo.2は塗布型クロメート処理で、付着量は350Cr−mg/mとした。
【0048】
これらの処理材に無溶剤型変性エポキシプライマーを60μm塗布・焼付硬化した。次に、変性ポリオレフィン接着剤を400μm塗布・焼付硬化した。最後に、厚さ2mmのポリエチレンシートを加熱・接着した。硬化温度、接着温度は、いずれも温度は200℃とした。
【0049】
耐水性密着性試験は、以下のようにして行った。まず、約7.5cm角のサンプルの一辺に沿って、1×7.5cmの被覆を剥いで鋼面を露出させた。裏面・側面はタールエポキシ塗装した。50℃、3%塩化ナトリウム水溶液を槽に入れ、サンプルの下から空気泡を吹き込み、その泡が評価面にかかるようにサンプルを浸漬した。1ヶ月後、サンプルを取り出し、被覆をはつり、被覆を剥いだ端面からの平均剥離距離を求めた。
【0050】
元素比は、樹脂被覆サンプルの断面を切り取り、樹脂に埋め込んで観察試料を作製し、これをSEM、EPMAで測定した。SEMで化成処理層の境界を確認した。EPMAを用いて、基材表面に垂直方向に50μm幅を走査して鉄とアルミニウムの信号強度を測定し、SEMで確定した各化成処理層間に相当する各層の鉄とアルミニウムの強度曲線の積分値(面積)から、(Fe×Al)/(Fe×Al)を求めた。これを5ヶ所で行って、平均の(Fe×Al)/(Fe×Al)を求めた。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に結果を示した。表1より、本発明がクロメート処理と同等以上の優れた密着性を示すことが判る。
【0053】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施形態に係る有機樹脂被覆鋼材の断面模式図である。
【符号の説明】
【0055】
1 鋼材
2 鋼材側化成処理層
3 樹脂被覆側化成処理層
4 樹脂被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機樹脂防食層が被覆された鋼材であって、
前記有機樹脂防食層と前記鋼材との間に形成されたリン酸アルミニウム化成処理皮膜層が、前記鋼材側に形成された鋼材側化成処理皮膜と、前記有機樹脂防食層側に形成された有機樹脂側化成処理皮膜の2層から成り、
前記鋼材側化成処理皮膜の平均膜厚が1〜7μm、前記有機樹脂側化成処理皮膜の平均膜厚が10〜40μmであり、かつ、平均元素組成比率が下記(A)式を満足することを特徴とする、有機樹脂被覆鋼材。
1000≦(Fe×Al)/(Fe×Al)≦5000 ・・・(A)
Fe:鋼材側化成処理皮膜中の鉄元素の平均モル濃度
Fe:有機樹脂側化成処理皮膜中の鉄元素の平均モル濃度
Al:鋼材側化成処理皮膜中のアルミニウム元素の平均モル濃度
Al:有機樹脂側化成処理皮膜中のアルミニウム元素の平均モル濃度
【請求項2】
海洋中の干満帯領域又はスプラッシュ領域の一方又は双方の構造部材として、少なくとも請求項1記載の有機樹脂被覆鋼材を用いてなる建造物。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−24211(P2009−24211A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−187658(P2007−187658)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】