説明

有機無機ハイブリッド粒子

【課題】有機成分と無機成分が均一に分布し、良好な球形度を有しさらに粒子径の揃った有機無機ハイブリッド粒子を提供する。
【解決手段】アニオン性基を有する樹脂と、多価金属アルコキシドの反応ゲルを含有する有機無機ハイブリッド粒子であって,前記多価金属アルコキシドとして、(1)多価の金属に直接結合する官能基すべてが,炭素数1から8のアルコキシ基である多価金属アルコキシドまたはその重縮合物、及び(2)多価の金属に直接結合する官能基の少なくとも一つが,炭素数1から8のアルキル基、または(置換)フェニル基であり、かつ、多価の金属に直接結合する官能基の少なくとも一つが炭素数1から4のアルコキシ基である多価金属アルコキシドまたはその重縮合物を併用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機成分と無機成分が均一で,シャープな粒子径を有する有機無機ハイブリッド粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミック等の無機の粒子は増量、紫外線吸収、耐摩耗、光学・電磁気特性の付与等様々な用途で単独もしくは有機高分子等と複合して利用されている。一方、有機高分子粒子ではポリマーが持つ特性である柔軟性・密着性・加工性を利用して電子写真用トナーや艶消し、着色剤その他で利用されているが、無機粒子の前記特性や耐熱性、高弾性率、耐候性、耐溶剤性等の特性を得ることは難しい。通常、有機高分子と無機材料の優れた特性を有する材料得るために両者のコンパウンドが利用されるが、一般に無機化合物と有機高分子の相溶性は十分ではない。多価金属アルコキシドを用いて種々の試みが成されているが、そもそも均一な複合材料である有機無機ハイブリッド材料を形成することが容易ではなく、ましてそのような材料からなる粒子を実用化するのはさらに困難であった。
【0003】
有機無機ハイブリッド粒子の具体的な製造方法としては、例えば多価金属アルコキシドを含む膨潤溶媒でシード粒子を膨潤させた後、該多価金属アルコキシド中の不飽和二重結合により重合させ、次いで多価金属アルコキシドのアルコキシ基を加水分解及び縮合させる製造方法が用いられている(特許文献1参照)。しかし該製造方法において形成される粒子は、中心部分にシード粒子が配置されることになり、均一な内部構造を有するものではない。また膨潤処理やその後の重合等の操作、更には界面活性剤や分散剤の使用等製造工程が複雑で粒子径の制御は困難である。このため粒子は必ずしも球形とはならず、形状的にも物性的にも粒子に充分な均一性を持たせることは困難であった。また粒径も1μmより小さいものを製造するのは困難であった。
【特許文献1】特開平07−265686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記の有機無機ハイブリッド粒子に関する課題を解決するものである。
即ち本発明の目的は、有機成分と無機成分が均一に分布し、良好な球形度を有し、かつ粒子径の揃った有機無機ハイブリッド粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的は、以下の本発明によって達成される。
即ち、本発明は、アニオン性基を有する樹脂と、多価金属アルコキシドの反応ゲルを含有する有機無機ハイブリッド粒子であって,前記多価金属アルコキシドが、(I)多価の金属に直接結合する官能基すべてが,炭素数1から8のアルコキシ基である多価金属アルコキシドまたはその縮合生成物、及び(II)多価の金属に直接結合する官能基の少なくとも一つが,(a)炭素数1から8のアルキル基、または無置換もしくはアルキル基、アルキレン基、アルコキシ基、ハロゲン、及び水酸基からなる群の一つ以上の置換基で置換されたフェニル基であり、かつ、(b)多価の金属に直接結合する官能基の少なくとも一つが炭素数1から4のアルコキシ基である多価金属アルコキシドまたはその縮合生成物、を含有することを特徴とする有機無機ハイブリッド粒子を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のアニオン性基を有する樹脂と、金属アルコキシドの反応ゲルを含有する有機無機ハイブリッド粒子は、高い球形度と均一な粒子径を有し、分散安定性に優れた水性分散体を形成する。本発明の有機無機ハイブリッド粒子は、有機成分と無機成分が極めて微細な構造を有するドメインを形成して均一に分布しており、研磨用粒子としても使用しうる硬度の他に、耐摩耗性、耐熱性、高弾性率、耐候性、耐溶剤等従来の無機粒子の特徴と、柔軟性・密着性・加工性・造粒性等従来の有機粒子の特徴とを合わせ持っている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明における有機無機ハイブリッド粒子とは、有機高分子と無機材料とが同一粒子内に均一に分布した複合体粒子であって、耐摩耗性、耐熱性等、無機材料としての特性と、柔軟性等の有機高分子としての特性を併せ持つ粒子である。本発明のアニオン性基を有する樹脂と金属アルコキシドの反応ゲルを含有した複合粒子は、その金属アルコキシドの反応ゲルが極めて緻密で均一に複合粒子中に存在することが可能である。
また、本発明において金属アルコキシドの反応ゲルとは、金属アルコキシドの加水分解と重合によって生成するゾルに、さらにその反応を進行させて形成される金属酸化物を含む湿潤ゲルまたは乾燥ゲルのことである。
【0008】
本発明の樹脂のアニオン性基は、カルボキシル基、スルホン酸基、スルフィン酸基、リン酸基、フェノール性水酸基等であって特に限定されるものではないが、このうちカルボキシル基を含有する樹脂は一般的なものが使用可能であり、後述する製造方法による有機無機ハイブリッド粒子化が容易となるため好ましい。
アニオン性基を有する樹脂としては天然樹脂、合成樹脂等特に制限はないが、後述の製造方法に対して好適な樹脂として、塩基性化合物が存在しない状態で有機溶剤可溶の樹脂が好ましく、具体的にはアクリル酸樹脂、マレイン酸樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられ、これらは複合粒子形成後に、必要に応じて公知の方法で三次元架橋を行う事が可能である。アクリル酸樹脂としては、例えばスチレン、置換スチレン、(メタ)アクリル酸エステル、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一つのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体が、樹脂の粒子化と多価金属イオンによる架橋の点で好適である。
【0009】
具体的にはスチレン;α−メチルスチレン等の置換スチレン;アクリル酸メチルエステル、アクリル酸エチルエステル、アクリル酸ブチルエステル、アクリル酸2−エチルヘキシルエステル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチルエステル、メタクリル酸エチルエステル、メタクリル酸ブチルエステル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のメタクリル酸エステル;及びメタクリル酸2−ヒドロキシエチル等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる少なくとも一つ以上のモノマーと、アクリル酸、メタクリル酸から選ばれる少なくとも一つ以上のモノマーを含む(メタ)アクリル酸系共重合体が好ましい。
ここで置換スチレンとはα−メチルスチレン、β−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、α−エチルスチレン、α−ブチルスチレン、α−ヘキシルスチレン等のアルキルスチレン、4−クロロスチレン、3−クロロスチレン、3−ブロモスチレン等のハロゲン化スチレン、更に3−ニトロスチレン、4−メトキシスチレン、ビニルトルエン等を挙げることができるが、アルキルスチレンが好ましい。
【0010】
有機無機ハイブリッド粒子の硬度を高くする場合には、上記モノマーの組み合わせにおいて(メタ)アクリル酸エステルのようなガラス転移温度の低いモノマーを多量に使用することは好ましくなく、樹脂のガラス転移温度は室温以上、できれば50℃以上が好適である。
本発明の有機無機ハイブリッド粒子に用いる前記樹脂は、有機成分と無機成分のハイブリッド化によって強度の大きい粒子が得られるが、あらかじめ架橋性モノマーと開始剤又は触媒を有機無機ハイブリッド粒子に取り込み、粒子化後に架橋するか、好ましくは、有機無機ハイブリッド粒子化時に多価金属イオンを取り込んで、アニオン性基を有する樹脂のアニオン性基の一部を架橋させたいわゆるアイオノマー樹脂化をさせることによって、より強靱な有機無機ハイブリッド粒子とする事が出来る。
【0011】
また樹脂の分子量範囲についても特に制限はないが、1000以上10万以下の分子量のものがより好ましい。樹脂と全金属アルコキシドの比率は特に制限はないが、質量比で1:10〜10:1の範囲が好ましい。
アニオン性基を有する樹脂の酸価については特に限定されるものではないが、酸価が10未満では該樹脂の分散性が不足し易く、後述する製造方法における有機無機ハイブリッド粒子の水性分散体形成が不十分となる傾向がある。酸価が200を越えると、同じく後述する製造方法において樹脂が水に膨潤や溶解しやすく、目的とする有機無機ハイブリッド粒子の水性分散体が得にくくなる傾向がある。このためアニオン性基を有する樹脂の酸価は10〜200の範囲にあることが好ましい。特に50〜200の範囲にある自己水分散性樹脂の場合は、該樹脂のアニオン性基の一部が塩基により中和されることにより、水に対して良好な分散性あるいは溶解性を示すためより好ましい。
【0012】
本発明の多価金属アルコキシドは、(I)多価の金属に直接結合する官能基すべてが,炭素数1から8のアルコキシ基である多価金属アルコキシドまたはその縮合生成物(I群)と,(II)多価の金属に直接結合する官能基の少なくとも一つが,炭素数1から8のアルキル基,(置換)フェニル基であり,かつ,多価の金属に直接結合する官能基の少なくとも一つが,炭素数1から4のアルコキシ基である多価金属アルコキシドまたはその縮合生成物(II群)を併用する。ここで(置換)フェニルとは、無置換のフェニル基またはアルキル基、アルキレン基、アルコキシ基、ハロゲン、及び水酸基からなる群の一つ以上の置換基で置換されたフェニル基を表す。
(I群)と(II群)の含有比率は,(I群)100質量部に対して(II群)0.1〜100質量部の範囲が好ましい。研磨用途に使用する場合は(II群)の含有比率が高いと得られる有機無機ハイブリッド粒子の有機性が強まり研磨能力が低下することから、(I群)と(II群)の含有比率は,(I群)100質量部に対して(II群)0.1〜20質量部の範囲がより好ましい。
【0013】
多価金属アルコキシドの金属としては(I群)(II群)とも2価以上の多価金属で、ケイ素、チタニウム、ジルコニウム、セリウム、カルシウム、バリウム、マンガン、亜鉛、ニッケル、スズ、銅、鉄、コバルト、ホウ素、アルミニウム、タングステン、ビスマス、モリブデン、ニオブ、イットリウム、ストロンチウム、ガリウム、ゲルマニウムなどがあるがこれらに限定されるものではなく、少なくとも1種類以上含むことができる。(I群)においては特にケイ素,チタニウム,ジルコニウム,セリウムは粒子の硬度を高くすることができ、本発明で得られる有機無機ハイブリッド粒子の用途が研磨の場合に好ましい。(II群)においては特に入手のし易さ,安定性の点でケイ素が好ましい。
多価の金属に直接結合する官能基すべてが,炭素数1から8のアルコキシ基である多価金属アルコキシドまたはその縮合生成物(I群)としては,具体的には以下があるがこれらに限られたものではない。これらは,使用する用途やハイブリッド化の反応性・安定性を考慮して適宜選択すればよい。
【0014】
【化1】

【0015】
【化2】

【0016】
【化3】

【0017】
【化4】

【0018】
【化5】

【0019】
【化6】

【0020】
【化7】

【0021】
【化8】

【0022】
【化9】

【0023】
【化10】

【0024】
【化11】

【0025】
【化12】

【0026】
【化13】

【0027】
【化14】

【0028】
多価の金属に直接結合する官能基の少なくとも一つが,炭素数1〜8のアルキル基,(置換)フェニルであり,かつ,多価の金属に直接結合する官能基の少なくとも一つが,炭素数1から4のアルコキシ基である金属アルコキシドまたはその縮合生成物(II群)としては具体的に以下のものが入手しやすいがこれらに限られたものではない。これらは,使用する用途やハイブリッド化の反応性・安定性,組み合わせる樹脂の疎水性と親水性のバランスを考慮して適宜選択すればよい。
【0029】
【化15】

【0030】
【化16】

【0031】
【化17】

【0032】
【化18】

【0033】
【化19】

【0034】
【化20】

【0035】
【化21】

【0036】
【化22】

【0037】
【化23】

【0038】
【化24】

【0039】
【化25】

【0040】
本発明で使用する樹脂のようにアニオン性基を有する樹脂、特に前記アニオン性基の少なくとも一部が、一価の塩基と対イオンを形成した樹脂は、構造中に親水性部と疎水性部を有しており、疎水性の高い物質表面に配向または吸着して安定した乳化・粒子化を行う性質を有する。本発明で用いる多価金属アルコキシドの全てが、多価の金属に直接結合する官能基が全て炭素数1〜8のアルコキシ基であるI群の多価金属アルコキシドまたはその縮合生成物の場合、得られる反応ゲルの親水性が強く、疎水性部分と親水性部分とを有する樹脂と複合粒子を形成しにくい。これに対して(II)群の多価金属アルコキシドまたはその縮合生成物を併用することによって、疎水性官能基が反応ゲルに導入され,樹脂の疎水部との親和性が増すことにより、その多価金属アルコキシドの反応ゲルが極めて緻密で均一分布した有機高分子との複合粒子を形成することになる。
前記の疎水性基が導入された反応ゲルと樹脂の疎水性部分の親和性が増した結果,複合粒子の表面には樹脂の親水性部分が増加することになり、その結果,得られる有機無機ハイブリッド粒子の分散安定性が優れ、良好な水性分散体を形成することができる。
【0041】
本発明の有機無機ハイブリッド粒子を製造する方法としては、以下の方法で、有機無機ハイブリッド粒子の水性分散体として得ることが出来るが,これに限られたものではない。
(A)先ず、アニオン性基を有する樹脂と多価金属アルコキシドを含有する複合粒子を形成するために、(1)水混和性有機溶剤溶液にアニオン性基を有する樹脂を溶解し,次いで(I群)と(II群)の多価金属アルコキシドを混合する。(2)酸または塩基触媒,必要に応じて水を加え室温または加熱下で攪拌してエージングを行う。(3)乳化のための一価の塩基またはその水溶液を加え,引き続いて水を滴下して乳化を行う。(4)その後,さらに必要に応じて室温または加熱下で攪拌してエージングを行い,有機溶剤を留去して有機無機ハイブリッド粒子の水性分散体とする。
【0042】
さらに、乳化前の混合物を作製する他の方法を用いた有機無機ハイブリッド粒子の水性分散体の製造方法として以下があげられる。
(B)酸触媒または塩基触媒を含有する水または水混和性有機溶剤中に、多価金属アルコキシドまたはその加水分解縮合生成物を加えて混合物を作製し、適当な時間・温度で加水分解する。その後アニオン性基を有する樹脂または樹脂溶液を加えて溶解する。さらに一価の塩基と水を少しずつ加えて樹脂を乳化して、多価金属アルコキシド及びその加水分解縮合生成物を含む乳化液滴を作製し、該液的中の溶剤を留去して樹脂粒子中に多価金属アルコキシドの反応ゲルを有する有機無機ハイブリッド粒子の水性分散体を作製する。
いずれの方法においても多価金属アルコキシドとして前記、(I群)と(II群)にあげられていた多価金属アルコキシドを併用する。
【0043】
これら製造方法において、乳化を容易にするためには、前記樹脂中のアニオン性基の少なくとも一部が一価の塩基と対イオンを形成することにより粒子表面が親水性となることが好ましい。乳化のための一価の塩基としては、例えばリチウム・カリウム・ナトリウム等のアルカリ金属、アンモニア、有機アミン・アルコールアミン・モルホリン・ピリジン等の有機塩基等があるが、一般に塩基も金属アルコキシドに対して加水分解触媒として作用するので、金属アルコキシドの加水分解を抑制する効果を有するモノエタノールアミン・ジエタノールアミン・トリエタノールアミン等のアルコールアミンまたはアンモニアを用いる方が金属オキシドの急激な加水分解に伴うゲル粒子発生が抑制され、樹脂と金属オキシドがより均一に混じるようになるため好ましい。このように,塩基触媒は乳化のための一価の塩基と同一とすることができ、また同一であることが好ましい。
【0044】
本発明の有機無機ハイブリッド粒子を特に研磨剤として半導体等に使用する場合にはアルカリ金属イオン成分はなるべく少なくし、アルコールアミン,アンモニア等を用いた方が、金属イオンの残留による半導体特性への悪影響を排除できるので好ましい。
一価の塩基の使用量は、樹脂のアニオン性基の10%以上好ましくは50モル%以上に相当する量を用いるのがよく、使用目的によって必要であれば100モル%以上に相当する量の塩基を添加しておいても、遊離塩基量が増加し微粒径で安定した有機無機ハイブリッド粒子の水分散体が得られる。
一方、一価塩基の加える量を少なくすると、有機無機ハイブリッド粒子の粒子径をより大きくすることができる。このように一価塩基量の調節により粒子径が均一で、任意の粒子径の有機無機ハイブリッド粒子の水性分散体が得られる。
【0045】
本発明においては、別途用意された無機または有機粒子を製造時に添加し、これらをコアにして表面を本発明のハイブリッド体で被覆して粒子化をより容易に行わせたり、コストを下げたりすることもできる。
【0046】
前記したアルコールアミン(塩基)やアルコール(有機溶剤)以外の加水分解抑制剤として、例えば、アセチルアセトン・アセト酢酸エステル・ジアセト酢酸アルキルエステルの如きキレート化剤、アセトイン、ジエチレングリコール・ポリエチレングリコール等のポリオールが好適である。
【0047】
上記の製造方法の際に用いられるアニオン性基を有する樹脂を溶解するための水混和性有機溶剤としては、例えばアセトン、ジメチルケトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤、酢酸エチルエステル等のエステル系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤、アミド類等、樹脂を溶解して、単独あるいは他の有機溶剤との組合せで水混和性があるものであれば使用可能である。樹脂成分がアクリル系樹脂の場合にはケトン系溶剤とアルコール系から、それぞれ少なくとも1種類以上を選んで組み合わせて用いることにより良好な水性分散体を得ることができる。このように、乳化時に多価金属アルコキシドの加水分解を抑制し、樹脂と多価金属アルコキシドが均一に混じるようにするためにアルコールの併用は特に好ましい。
かかる有機溶剤の使用量は、本発明における効果を達成すれば特に規定されないが、樹脂/該有機溶剤の重量比が1/1〜1/20となるような量が好ましい。
【0048】
上記の製造方法において、多価金属アルコキシドの加水分解を進行させる酸触媒としては塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸、酢酸等のカルボン酸類等公知のものが使用可能であるがアニオン性基を有する樹脂も酸触媒として機能しうる。また塩基触媒としては公知のものが使用されるが、アニオン性基を有する樹脂を水性分散体とするための乳化用塩基の一部を塩基触媒としてもよい。
【0049】
上記製造方法に加え、乳化工程にこれらと全く異なる方法を用いた有機無機ハイブリッド粒子の製造方法として以下をあげることができる。
(C)アニオン性基を有する樹脂の、少なくとも一部のアニオン性基が一価の塩基で中和された樹脂を溶解した水溶液に多価金属アルコキシドを加え、必要に応じてアルコールを加えて混合物を作製し、該混合物中で、多価金属アルコキシドまたはその加水分解縮合生成物の加水分解、または加水分解と縮合を行う。必要に応じて水を加えて希釈し、その後該混合物中の樹脂の溶解度を低下させることにより、樹脂と多価金属アルコキシドの加水分解縮合生成物を含有する乳化液滴を作製する。樹脂の溶解度を低下させる具体的方法としては、予めアンモニア等の揮発性塩基を用いて該揮発性成分の少なくとも一部を留去するか、酸を加えてpHを低下する方法を用いることができる。
上記方法の中で(C)の製造方法は、有機溶剤の使用を大幅に低減もしくは削減できる点で、工業的な製造方法として好ましい。
【0050】
(C)の製造方法は以下に示すような各工程に書き下すことができる。
(1)少なくとも一部が塩基性化合物で中和されたアニオン性基を有する樹脂の樹脂水溶液中に、多価金属アルコキシドまたは多価金属アルコキシドの加水分解縮合生成物を溶解または懸濁させた混合物を製造する工程と、
(2)前記混合物中の多価金属アルコキシドまたは多価金属アルコキシドの加水分解縮合生成物を加水分解し、または加水分解し縮合させる工程と、
(3)前記混合物中の樹脂の溶解度を低下させて前記混合物を乳化または粒子化させる工程と、
(4)乳化または粒子化した前記混合物中の多価金属アルコキシドまたは多価金属アルコキシドの加水分解縮合物を、さらに加水分解重縮合させ、粒子内でゲル化させる工程
を有することを特徴とする有機無機ハイブリッド粒子の水性分散体の製造方法である。
本方法はより微粒子で、分散安定性に優れた有機無機ハイブリッド粒子を製造することが可能である
【0051】
本発明の有機無機ハイブリッド粒子を製造する際に(C)の製造方法を用いる場合は、(I群)と(II群)にあげられていた多価金属アルコキシドの使用のタイミングは、前記(1)の工程で(I群)と(II群)を同時に配合することができる。また前記(1)で(I群)のみを配合し、前記(2)の工程で(I群)の加水分解縮合を行う第1の加水分解工程に加え、その後に(II群)を加えて更に加水分解縮合を行う第2の加水分解工程を行うことが出来る。本発明の目的のためには逐次添加が好ましい。
【0052】
前記(C)の製造方法において一価の塩基、無機または有機粒子、加水分解抑制剤、加水分解を進行させる触媒は、前記(A)または(B)の製造方法におけると同様に選定することができる。
(C)の製造方法に於ける塩基性化合物の役割は,アニオン性基を有する樹脂中のアニオン性基の少なくとも一部が一価の塩基と対イオンを形成することにより、該樹脂を水溶性化もしくはエマルジョン化し,かつ多価金属アルコキシドに対して加水分解触媒として作用することである。また、(A)(B)の製造方法と同様に、一価の塩基の添加により加水分解縮合後に,得られる有機無機ハイブリッド粒子表面を親水性とする役割も有する。
【0053】
一価の塩基の使用量は、樹脂のアニオン性基の10%以上好ましくは50モル%以上に相当する量を用いるのがよく、使用目的によって必要であれば100モル%以上に相当する量の塩基を添加しておいても、遊離塩基量が増加し微粒径で安定した有機無機ハイブリッド粒子の水分散体が得られる。
一方、一価塩基の加える量を少なくすると、有機無機ハイブリッド粒子の粒子径をより大きくすることができる。このように一価塩基量の調節により粒子径が均一で、任意の粒子径の有機無機ハイブリッド粒子の水性分散体が得られる。
(C)の製造方法での一価の塩基量が多くなると樹脂による微粒子化と同時に多価金属アルコキシドの加水分解縮合に伴う粒子径増大の作用もあることから,目的とする粒子径に合わせた使用量に設定する必要がある。
【0054】
上記(A)〜(C)の製造方法によって得られた有機無機ハイブリッド粒子の水性分散体をさらに加熱し、ゲル化をさらに進行させてから液体成分を除去して有機無機ハイブリッド粒子を製造することもできる。
【0055】
前記製造方法で得られた有機無機ハイブリッド粒子の水性分散体は、そのまま分散体として利用することもできるが、水や有機溶剤等の液体成分を完全に除いて粉体として用いても良い。また粉体を更に数百度以上の温度で焼成したり、有機成分を湿式酸化したり、有機溶剤で可溶成分を除去することによって非常に多孔質で表面活性の大きい無機粒子が得られる。特に金属アルコキシドとは異なる元素の多価金属イオンで粒子がイオン架橋された有機無機ハイブリッド粒子の焼成は、異種金属が均一にドープされた多孔質の無機粒子を容易に得ることが可能になる。
【0056】
前記した製造方法に準じて得た有機無機ハイブリッド粒子からなる研磨用粒子を含む水性分散体は、これをそのまま水性の研磨剤スラリーとして用いる場合は出来るだけ乳化後に水より低い沸点を有する有機溶剤を除去する工程を導入して調製しておくことが望ましく、これによって研磨用粒子の溶解・膨潤がなくなり、優れた研磨能力と安定した水性分散体が得られる。
【0057】
本発明により得られる有機無機ハイブリッド粒子および有機無機ハイブリッド粒子から有機成分を除去して得られる無機粒子は、例えばスペーサー、液体クロマトグラフィー充填剤、化粧品、樹脂組成物、塗料、磁性材料、臨床診断薬,研磨剤等の幅広い分野で好適に使用され得る。
【実施例】
【0058】
次に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。尚、以下の実施例中における「部」は『質量部』を表わす。
【0059】
(実施例1)
アクリル酸樹脂(アクリル酸/メタアクリル酸/スチレン=10/13/77;酸価150;分子量5万)8部とアセチルアセトンアルミニウム塩1部をメチルエチルケトン20部,イソプロピルアルコール10部,アセチルアセトンに溶解する。得られた樹脂溶液に多価金属アルコキシド(I群)としてテトラエトキシシラン10部、多価金属アルコキシド(II群)としてフェニルトリエトキシシラン5部を加え、攪拌しながらトリエタノールアミン1部を更に加えて,60℃7時間撹拌,さらに室温で18時間攪拌してエージングを行う。
次にエージング後の溶液に10質量%のトリエタノールアミンを30部攪拌しながら滴下し,さらに純水30部を毎分5mlの速度で滴下し、分散液を得た。その後ロータリーエバポレーターを用いてメチルエチルケトンとイソプロピルアルコールとアセチルアセトンと未反応の多価金属アルコキシドを水の一部と共に留去して固形分10%の水分散体を得た後、遠心分離で粗大粒子を除去して有機無機ハイブリッド粒子脂粒子水性分散体とした。得られた有機無機ハイブリッド粒子は良好な球形度を有しており、体積平均粒径は0.3μmで粒径の均一性が良く、沈降物も少なく分散は安定であった。該水性分散体から液体成分を留去して有機無機ハイブリッド粒子を作製することができた。
【0060】
(実施例2)
アクリル酸樹脂(アクリル酸/メタアクリル酸/スチレン=10/13/77;酸価150;分子量5万)8部とアセチルアセトンアルミニウム塩1部をメチルエチルケトン20部,イソプロピルアルコール10部,アセチルアセトンに溶解する。得られた樹脂溶液に多価金属アルコキシド(I群)としてテトラエトキシシラン10部、テトラn−プロポキシジルコニウム1部,多価金属アルコキシド(II群)としてフェニルトリエトキシシラン1部を加え、攪拌しながらトリエタノールアミン1部を更に加えて,60℃3時間撹拌,さらに室温で18時間攪拌してエージングを行う。
次にエージング後の溶液に10質量%のトリエタノールアミンを30部攪拌しながら滴下し,さらに純水30部を毎分5mlの速度で滴下し、分散液を得た。その後ロータリーエバポレーターを用いてメチルエチルケトンとイソプロピルアルコールとアセチルアセトンと未反応の多価金属アルコキシドを水の一部と共に留去して固形分10%の水分散体を得た後、遠心分離で粗大粒子を除去して有機無機ハイブリッド粒子脂粒子水性分散体とした。得られた有機無機ハイブリッド粒子は良好な球形度を有しており、体積平均粒径は0.5μmで粒径の均一性が良く、沈降物も少なく分散は安定であった。該水性分散体から液体成分を留去して有機無機ハイブリッド粒子を作製することができた。
以上実施例に示したように、粒径の均一性に優れ分散性の良好な有機無機ハイブリッド粒子を作製することができた。
【0061】
(実施例3)
アクリル酸樹脂(アクリル酸/スチレン/アクリル酸2エチルへキシル=55/20/25;酸価160;分子量2万7千)のアンモニア水溶液(樹脂分20質量%、アンモニア水5%)0.5部、4%アンモニア水0.3部、水87.2部の混合溶液を撹拌しながら、多価金属アルコキシド(I群)としてSi(O−C10部、多価金属アルコキシド(II群)としてCHSi(OC2部を加え、80℃で5時間撹拌してpH8の分散液を得た。
得られた分散液に塩酸を加え、pH7としてロータリーエバポレーターを用いて(I)群と(II)群のアルコキシドから生じたエタノールとアンモニアと水の一部および残留アルコキシドを留去して固形分10%の水分散体を得た。遠心分離で粗大粒子を除去して有機無機ハイブリッド粒子脂粒子水性分散体とした。得られた有機無機ハイブリッド粒子の体積平均粒径は120nmで粒径の均一性が良く、分散は安定であった。
【0062】
(実施例4)
アクリル酸樹脂(メタアクリル酸/アクリル酸2エチルへキシル/メタアクリル酸メチル=21/59/20;酸価137;分子量1万8千)のアンモニア水溶液(樹脂分20質量%、アンモニア水5%)0.5部、4%アンモニア水0.3部、水87.2部の混合溶液を撹拌しながら、多価金属アルコキシド(I群)としてCHO−〔Si(OCH−O〕−CH10部を加え、80℃で3時間撹拌した後、多価金属アルコキシド(II群)として(CHSi(OC1部を更に加えて80℃で3時間撹拌してpH8の分散液を得た。
得られた分散液に塩酸を加え、pH7としてロータリーエバポレーターを用いて(I)群と(II)群のアルコキシドから生じたエタノールとアンモニアと水の一部および残留アルコキシドを留去して固形分10%の水分散体を得た。遠心分離で粗大粒子を除去して有機無機ハイブリッド粒子脂粒子水性分散体とした。得られた有機無機ハイブリッド粒子の体積平均粒径は150nmで粒径の均一性が良く、分散は安定であった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の有機無機ハイブリッド粒子は,その機械強度を利用する研磨剤・耐摩耗コーティング材あるいは成型物・接着剤,その光学的な性質を利用する各種光学フィルム・光通信材料,その電気特性や耐熱性を利用する半導体封止材等の電子材料やその他複合材料等,粒子単独あるいは塗料として様々な産業上の利用が可能である。
また,有機無機ハイブリッド粒子を焼成して得られる多孔質セラミックとして,センサー・太陽電池・光触媒等の電子材料分野,濾過材・吸着剤等の一般工業分野,バイオセラミックスとして医薬・医療分野等,様々な産業上の利用が可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性基を有する樹脂と、多価金属アルコキシドの反応ゲルを含有する有機無機ハイブリッド粒子であって,前記多価金属アルコキシドが、
(I)多価の金属に直接結合する官能基すべてが,炭素数1から8のアルコキシ基である多価金属アルコキシドまたはその縮合生成物、及び
(II)多価の金属に直接結合する官能基の少なくとも一つが,(a)炭素数1から8のアルキル基、または無置換もしくはアルキル基、アルキレン基、アルコキシ基、ハロゲン、及び水酸基からなる群の一つ以上の置換基で置換されたフェニル基であり、かつ、(b)多価の金属に直接結合する官能基の少なくとも一つが炭素数1から4のアルコキシ基である多価金属アルコキシドまたはその縮合生成物、
を含有することを特徴とする有機無機ハイブリッド粒子。
【請求項2】
前記(I)の多価金属アルコキシドの金属が、ケイ素、チタニウム、ジルコニウム、及びセリウムからなる群から選ばれた少なくとも一種類以上である請求項1に記載の有機無機ハイブリッド粒子。
【請求項3】
前記(II)の多価金属アルコキシドの金属が、ケイ素である請求項1または2に記載の有機無機ハイブリッド粒子。
【請求項4】
前記アニオン性基を有する樹脂中の該アニオン性基の少なくとも一部が、一価の塩基と対イオンを形成している請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機無機ハイブリッド粒子。
【請求項5】
前記アニオン性基を有する樹脂の酸価が、10から200である請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機無機ハイブリッド粒子。
【請求項6】
前記アニオン性基を有する樹脂の該アニオン性基が、カルボキシル基である請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機無機ハイブリッド粒子。
【請求項7】
前記アニオン性基を有する樹脂が、スチレン、置換スチレン、(メタ)アクリル酸エステル、及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一つのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体である請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機無機ハイブリッド粒子。
【請求項8】
アニオン性基を有する樹脂と、多価金属アルコキシドの反応ゲルを含有する有機無機ハイブリッド粒子の製造方法であって
(1)少なくとも一部が塩基性化合物で中和されたアニオン性基を有する樹脂の樹脂水溶液中に、多価金属アルコキシドを溶解または懸濁させた混合物を製造する混合工程と、
(2)前記混合物中の多価金属アルコキシドを加水分解、または加水分解し縮合させる加水分解工程と、
(3)前記混合物中の樹脂の溶解度を低下させて前記混合物を乳化または粒子化させる粒子化工程と、
(4)乳化または粒子化した前記混合物中の多価金属アルコキシドまたは多価金属アルコキシドの加水分解縮合物を、さらに加水分解重縮合させ、粒子内でゲル化させるゲル化工程
を有し、かつ前記多価金属アルコキシドは、
(I)多価の金属に直接結合する官能基すべてが,炭素数1から8のアルコキシ基である多価金属アルコキシドまたはその縮合生成物、及び
(II)多価の金属に直接結合する官能基の少なくとも一つが,(a)炭素数1から8のアルキル基、または無置換もしくはアルキル基、アルキレン基、アルコキシ基、ハロゲン、及び水酸基からなる群の一つ以上の置換基で置換されたフェニル基であり、かつ、(b)多価の金属に直接結合する官能基の少なくとも一つが炭素数1から4のアルコキシ基である多価金属アルコキシドまたはその縮合生成物、
を含有し、前記(I)及び(II)の多価金属アルコキシドを前記混合工程で同時に配合することを特徴とする有機無機無機ハイブリッド粒子の製造方法。
【請求項9】
アニオン性基を有する樹脂と、多価金属アルコキシドの反応ゲルを含有する有機無機ハイブリッド粒子の製造方法であって
(1)少なくとも一部が塩基性化合物で中和されたアニオン性基を有する樹脂の樹脂水溶液中に、多価金属アルコキシド(I)を溶解または懸濁させた混合物を製造する混合工程と、
(2)前記混合物中の多価金属アルコキシド(I)を加水分解、または加水分解し縮合させる第1の加水分解工程と、
(3)前記混合物中に多価金属アルコキシド(II)をさらに添加し、加水分解し縮合させる第2の加水分解工程と、
(4)前記混合物中の樹脂の溶解度を低下させて前記混合物を乳化または粒子化させる粒子化工程と、
(5)乳化または粒子化した前記混合物中の多価金属アルコキシドまたは多価金属アルコキシドの加水分解縮合物を、さらに加水分解重縮合させ、粒子内でゲル化させるゲル化工程
を有し、前記多価金属アルコキシド(I)は、
(I)多価の金属に直接結合する官能基すべてが,炭素数1から8のアルコキシ基である多価金属アルコキシドまたはその縮合生成物
を主成分として含有し、前記多価金属アルコキシド(II)は、
(II)多価の金属に直接結合する官能基の少なくとも一つが,(a)炭素数1から8のアルキル基、または無置換もしくはアルキル基、アルキレン基、アルコキシ基、ハロゲン、及び水酸基からなる群の一つ以上の置換基で置換されたフェニル基であり、かつ、(b)多価の金属に直接結合する官能基の少なくとも一つが炭素数1から4のアルコキシ基である多価金属アルコキシドまたはその縮合生成物
を主成分として含有することを特徴とする有機無機無機ハイブリッド粒子の製造方法。


【公開番号】特開2006−193700(P2006−193700A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−23206(P2005−23206)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】