説明

有機物分解酵素を生産するシュードモナス属FK916菌株及びこれを用いる有機廃棄物の処理方法

本発明は有機物分解酵素を生産するシュードモナス属FK916菌株及びこれを用いる有機廃棄物の処理方法に関するものである。このシュードモナス属FK916菌株は下水から分離されたもので、有機物を分解及び消滅させる能力に優れ、15〜35℃の中温で分解作用をするので、悪臭が殆ど発生しなく、食べ物ゴミ及び工場から発生する有機廃棄物を処理する優れた効果がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機化合物の分解酵素を生産するジュードモナス属FK916(Pseudomonas sp. FK 916)及びこれを用いる有機廃棄物の処理方法に関する。より詳しくは、本発明は、下水から分離され、食べ物のゴミ及び有機廃棄物内の有機物を分解及び消滅する能力に優れており、悪臭の放出なしで食べ物のゴミを効果的に処理することができる有機物分解酵素を生産するシュードモナス属FK916菌株及びこれを用いる有機廃棄物の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
韓国で発生される食べ物ゴミの量は11,577トン/日(1999年基準)で、都市の固形廃棄物発生量のおよそ26.5%を占めているが、その64%は家庭から、36%は飲食店及び集団給食所などの外食分野から発生している。発生された食べ物ゴミの58.8%は埋立て、7.3%は焼却、33.9%は再活用で処理しているので、たいてい埋立てに依存している実情である。首都圏の場合、2005年1月から、首都圏埋立地への食べ物ゴミの直接埋立てを禁止しており、殆どの地方自治団体においても、埋立地の浸出水による環境汚染と、埋立地周辺に居住している住民の怨みが増加しているため、食べ物ゴミの処理問題が日増しに深刻になっている。また、焼却処理する場合、水分含量が高いため、可燃性ゴミに比べ、処理費用が高くかかり、焼却処理場の建設及び敷地の確保も住民の反対により非常に難しい実情である。したがって、このような問題を解決するためには、食べ物ゴミが発生する場所で直接微生物で食べ物ゴミを分解、消滅、又は減量化して排出するか、あるいは再活用割合を高めることができる経済的処理方法をさらに発展させる必要がある。
【0003】
食べ物ゴミは性状が一定でなく水分及び塩分の含量が高くて、その処理に大きな困りがあり、地域別、事業別に多様な処理方法を模索する必要がある。食べ物ゴミの処理及び再活用の方案として検討されている技術は、堆肥化、飼料化、嫌気性消化、下水併合処理があり、堆肥化技術は広域処理大型堆肥化技術と、一般の家庭又は小型店で使用可能な小型堆肥化技術との二つに大別できる。
【0004】
小型堆肥化装置は、食べ物ゴミ醗酵槽と乾燥器からなり、アパート団地、団体給食所、ホテル、レストランなどに設置されているが、いろいろの問題を抱えている。
【0005】
食べ物ゴミを高温で醗酵させて堆肥と飼料として再活用する従来の技術及び装置の問題点としては、一つ目、高温で醗酵又は腐敗が進むため、酷い悪臭が発生して、嫌悪施設として忌避され、韓国の食べ物が通常1〜5%の高濃度の食塩を含有しているため、肥料として使用することも適切でない。二つ目、微生物による醗酵分解速度を高めるため、高温性細菌及び放線菌を使用し、高温微生物の生育のための最適生育温度の維持、食べ物ゴミ醗酵産物の体積減量、及び水分の蒸発のため、装置内の温度を50〜60℃に維持させなければならないため、電気を多量消耗して運転費用を非常に上昇させる欠点がある。
【0006】
本発明者は前記のような問題点を解決するため、下水から食べ物ゴミ及び有機性廃棄物中の有機物を分解及び消滅する能力に優れ、中温で好気的分解作用をして悪臭を発生しない新規の菌株を分離、同定し、この菌株を食べ物ゴミの分解、消滅に用いることにより、本発明を完成した。
【発明の開示】
【0007】
したがって、本発明の目的は、食べ物ゴミ及び有機性廃棄物中の有機物を分解及び消滅する能力に優れた菌株を提供することにある。
【0008】
本発明のほかの目的は、本発明の菌株を用いる廃棄物処理方法を提供することにある。
【0009】
本発明によると、前記及びそのほかの目的はシュードモナス属FK916を提供することにより達成できる。
【0010】
下水から分離したシュードモナス属FK916は、15〜35℃、好ましくは25〜30℃の中温及び十分な酸素の存在下で好気的分解作用により、食べ物ゴミ中の炭水化物、脂肪などのような有機物を安定した低分子有機物に転換し、最終産物として、安定した物質であるCO2、H2Oなどを生成し、少しの熱を発生する。シュードモナス属微生物は、下記の反応式(I)
【0011】
【化1】

【0012】
に示すように、NO3、NO2、NOをN2に脱窒させ得るので、シュードモナス属FK916はほかの微生物と共に悪臭ガス成分の一つであるNH3をN2に変換する脱窒過程により、アンモニアの悪臭及び刺激性を除去することもできる。
【0013】
また、本発明の菌株は、悪臭成分のインドール、硫化水素、アセトインなどを生成しない特性を有する(表2)。
【0014】
本発明の菌株のシュードモナス属FK916を2002年1月7日付で国際寄託機関の韓国種菌協会(KCCM)に寄託番号KCCM−10350として寄託した。前記寄託された菌株のほかにも、ほかの特性に多少の変化がある前記菌株の突然変異株も、本発明の16S rRNA塩基配列及び脂肪酸組成、形態、培養、生化学的特性が同一である限り、本発明の範疇に含まれる。
【0015】
また、本発明は、シュードモナス属FK916菌株を用いて食べ物ゴミなどのような有機廃棄物を分解及び消滅する方法を提供する。
【0016】
前記方法は、シュードモナス属FK916菌株又は前記菌株を含む組成物を被処理物に添加することを特徴とする。前記菌株又はその組成物の処理方法としては、前記菌株の培養液を直接散布するか、あるいは菌株培養液を粗糠、鋸屑、木材チップ、のような天然有機物、ゼオライト、セラミックのような無機質粒子、プラスチック類などの空隙剤と混合して添加することができ、また、前記天然有機物、無機質粒子、プラスチックなどの空隙剤又は担体に吸着させ有機廃棄物に散布して処理するか、あるいは通常の微生物製剤の製造方法により製剤化して使用することができる。
【0017】
本発明において、“被処理物”とは、食べ物ゴミのほかに、活性下水汚泥、工場から発生する有機廃棄物のみならず下水廃棄物なども意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の前記及びそのほかの目的、特徴及び利点は添付図面に基づく以降の詳細な説明からより明らかに理解できるであろう。
【0019】
図1は本発明によるシュードモナス属FK916を蛋白質分解酵素探索寒天プレートに接種して蛋白質分解酵素の活性を確認した結果を示す。
【0020】
図2はシュードモナス属FK916を脂肪質分解酵素探索寒天培地プレートに接種して脂肪質分解酵素の活性を確認した結果を示す。
【0021】
図3はシュードモナス属FK916の走査電子顕微鏡写真である。
【0022】
図4はシュードモナス属FK916の培養液を食べ物ゴミに添加した後、分解時間による食べ物ゴミの減量率を示すグラフである。
【0023】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。これら実施例は本発明を具体的に説明するためのもので、本発明を限定するものではないことが当業者であれば分かる。
【実施例】
【0024】
〔実施例1:菌株の分離〕
本発明による菌株は韓国、全羅北道近傍の下水から採取した試料から分離した。この試料を生理食塩水で段階的に適宜希釈し、その一部をLB寒天培地(バクトトリプトン10g/L、バクト酵母抽出物5g/L、NaCl10g/L、寒天15g/L、pH7.0)に塗布し、25℃で培養するともに、出現するコロニーを分離した。
【0025】
前記分離された菌株を25℃の菌株増殖培地(LB液体培地)内で培養増殖した後、蛋白質分解酵素探索寒天培地(脱脂牛乳寒天培地:ペプトン5g/L、バクト酵母抽出物3g/L、スキムミルク1g/L、寒天15g/L、pH7.0)、脂肪質分解酵素探索寒天培地(トリブチリン寒天培地:ペプトン5g/L、バクト酵母抽出物3g/L、トリブチリン5mL/L、寒天15g/L、pH7.4)、澱粉分解酵素探索寒天培地(澱粉寒天培地:ペプトン5g/L、バクト酵母抽出物3g/L、可溶性澱粉2g/L、寒天15g/L、pH7.0)、セルロース探索寒天培地(セルロース1g/L、K2HPO41g/L、(NH42SO41g/L、MgSO4・7H2O0.2g/L、CaCl2・2H2O0.1g/L、FeCl30.02g/L、コンゴレッド0.075g/L、寒天15g/L、pH7.2)プレートに塗抹して、蛋白質分解酵素、脂肪質分解酵素、澱粉分解酵素、セルロース分解酵素の活性により生じる透明環の存在有無を確認して陽性菌株を探索し、これを分離した。
【0026】
実験結果、図1に示すように、蛋白質分解酵素探索寒天培地プレート(A)及び脂肪質分解酵素探索寒天培地プレート(B)にFK916菌株をそれぞれ接種した場合、透明環を形成して、前記菌株が蛋白質分解酵素と脂肪質分解酵素を形成することが分かった。しかし、澱粉分解酵素の活性は低く、セルロース分解酵素の活性は認められなかった。
【0027】
〔実施例2:菌株の同定〕
前記分離した菌株をHoltなどの方法(Holt J.G., et al., Bergey, s Manual of Determinative Bacteriology, 9th ed. (1994))とSherlockシステム及びclustal Wで同定して、シュードモナス属に属する菌株であることを発見し、これをシュードモナス属FK916と命名した。シュードモナス属FK916の脂肪酸及び16S rRNAはそれぞれシュードモナスクロロラフィス(Pseudomonas chlororaphis)の脂肪酸組成と80.2%、シュードモナスゲサルディー(Pseudomonas gessardii CIP 105469)の16S rRNAと99.8%の類似度を表した。
【0028】
図3の走査顕微鏡写真から分かるように、前記菌株の形態は桿菌で、グラム陰性菌であった。培養学的特性は、下記表1に示すように、最適生長温度は28〜30℃であり、NaClに対して6%の耐性を有することから、本発明の菌株が高塩分の食べ物ゴミを処理するのに適していることが分かった。
【0029】
【表1】

【0030】
APIキットで分析した生化学的特性は表2に、MIDI社で提示した方法によりガスクロマトグラフィで分析した全細胞の脂肪酸分析及びSherlockのシステムによる菌株同定結果は表3に示した。また、Verhilleなどの方法(Verhille, S., et al., International J. Systematic Bacteriol., 49, 1559, 1999)で16S rRNAを分離し塩基配列を分析した結果、1498個の塩基(配列1)からなることを発見し、遺伝子銀行で有意性の高い微生物を選別した後、シュードモナス属菌株間の16s rRNA塩基配列の類似度をclustal Wで分析した塩基配列間の相同性を比較した結果は表4に示した。De Leyの方法(De Ley, J., J. Bacteriol., 101, 738, 1970)で分析したG+C含量は61.5%であった。
【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
〔実施例3:食べ物ゴミの分解及び消滅試験:分解時間による食べ物ゴミの減量率〕
食べ物ゴミの減量化程度を試験するため、滅菌されたLB液体培地にシュードモナス属FK916を接種し38℃で1昼夜間振盪培養した。3Lビーカーにこの培養液と鋸屑(通気及び水分調節剤)100gを添加してよく混合し、W大学食堂から収集した食べ物ゴミ(水分含量およそ80%)1Kgを添加してよく混合した後、25℃培養器に入れ、経時による重量変化を秤量し、減量化率を計算し、毎日3〜4回よく攪拌した。
【0035】
図4に示すように、分解開始1日目から食べ物ゴミ特有の悪臭がなくなり、新たな悪臭も発生しないし、重量の減量が始まった。分解18日目に72.3%まで減量されて食べ物ゴミの分解及び消滅がなされ、培養液のみを添加した比較例1、LB培地と鋸屑を添加した比較例2に比べて早い減量化率を示した。このような結果は、鋸屑の添加により好気的条件が充足され、水分の調節により有機物の分解及び消滅が促進され、25℃でFK916菌株により有機物の分解及び消滅が促進されたことを示す。一方、このような結果は、攪拌により持続的に空気が供給される食べ物ゴミにおいて、さらによい結果が得られることを示す。
【0036】
〔比較例1:食べ物ゴミをシュードモナス属FK916培養液で処理した場合の分解率測定〕
滅菌されたLB液体培地にシュードモナス属FK916を接種し、28℃で1昼夜間振盪培養した。3Lビーカーにこの培養液200mLと収集した食べ物ゴミ(水分含量およそ80%)1Kgを添加し、よく混合した後、25℃培養器に入れ、経時による重量変化を秤量し、減量化率を計算し、毎日3〜4回よく攪拌した(図4)。
【0037】
〔比較例2:食べ物ゴミを鋸屑で処理した場合の分解率測定〕
3Lビーカーに滅菌されたLB培地200mLと鋸屑(水分調節剤)100gを添加してよく混合し、収集した食べ物ゴミ(水分含量およそ80%)1Kgを添加してよく混合した後、25℃で培養器に入れ、経時による重量変化を秤量し、減量化率を計算し、毎日3〜4回よく攪拌した(図4)。
【0038】
〔実施例4:食べ物ゴミ消滅器での分解及び消滅〕
Nambang E & B(株)で製作した消滅器(CLEANGATE-50 model、容量50Kg)に木材チップ(およそ5〜10mm)80Kg、実施例1の方法で培養したFK916培養液5L、飲食店で収集した食べ物ゴミ39Kgを添加し、28℃で攪拌速度3.2rpm、通気速度5.5m3/分で運転し、24時間後の重量を秤量して減量化率を計算した。分解開始1時間後から食べ物ゴミ固有の臭いが除去され始め、24時間後には76.9%まで減量され、悪臭は殆ど発生しなかった。2日目に食べ物ゴミ46Kgをさらに添加し、同一条件で運転し、24時間後に測定したときの減量化率は90.9%であり、29日間にかけて毎日27〜60Kgの食べ物ゴミを連続して添加し、同一条件で運転したとき、最終の累積減量化率は94.7%であった。
【0039】
前記実験結果、本発明の菌株のシュードモナス属FK916は、常温又は中温で1回投与のみでも長期間にわたって食べ物ゴミを分解及び消滅するので、食べ物ゴミなどのような有機廃棄物の分解及び消滅に用いられる優れた菌株であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0040】
前記実施例に基づいて説明したように、本発明のシュードモナス属FK916菌株は中温で悪臭を発生しないながら食べ物ゴミに対する分解及び消滅能に優れて、経済的で衛生的に食べ物ゴミを処理することができるので、環境産業で非常に有用な発明である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明によるシュードモナス属FK916を蛋白質分解酵素探索寒天プレートに接種して蛋白質分解酵素の活性を確認した結果を示す図である。
【図2】シュードモナス属FK916を脂肪質分解酵素探索寒天培地プレートに接種して脂肪質分解酵素の活性を確認した結果を示す図である。
【図3】シュードモナス属FK916の走査電子顕微鏡写真を示す図である。
【図4】シュードモナス属FK916の培養液を食べ物ゴミに添加した後、分解時間による食べ物ゴミの減量率を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水から分離され、15〜35℃の中温で悪臭を発生しないで食べ物ゴミの分解及び除去能力を有するシュードモナス属FK916(Pseudomonas sp. FK916、寄託番号KCCM 10350)。
【請求項2】
請求項1のシュードモナス属FK916菌株(KCCM 10350)を被処理物に添加することを特徴とする有機廃棄物及び下水処理方法。
【請求項3】
請求項2において、前記シュードモナス属FK916菌株を、天然有機物、無機質粒子、プラスチックなどの空隙剤から選択された1種と混合して添加する添加することを特徴とする有機廃棄物及び下水処理方法。
【請求項4】
請求項3において、前記天然有機物は、粗糠、鋸屑、木材チップの群から選択され、前記無機質粒子は、ゼオライト、セラミックの群から選択されることを特徴とする有機廃棄物及び下水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−501810(P2006−501810A)
【公表日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−566188(P2003−566188)
【出願日】平成15年2月8日(2003.2.8)
【国際出願番号】PCT/KR2003/000277
【国際公開番号】WO2003/066837
【国際公開日】平成15年8月14日(2003.8.14)
【出願人】(504299335)ナンバン エンバイアメント アンド バイオテック カンパニー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】