説明

有機発光素子およびその製造方法

【課題】長寿命な有機発光素子を低コストで製造すること。
【解決手段】陽極と陰極間に、第1の発光層と第2の発光層を含む積層された複数の有機化合物層を有し、前記第1の発光層が、第1の電荷輸送性化合物および第1の発光性化合物を含み、前記第2の発光層が、第2の電荷輸送性化合物および第2の発光性化合物を含み、前記第1の発光性化合物は発光スペクトルにおいて440〜500nmの波長範囲に発光極大波長を有し、前記第2の発光性化合物は発光スペクトルにおいて510〜650nmの波長範囲に発光極大波長を有し、前記第1の電荷輸送性化合物中に含まれる、特定の不純物に由来する塩素原子等の濃度が50ppm未満であり、前記第2の電荷輸送性化合物中に含まれる、特定の不純物に由来する塩素原子等の濃度が50〜500ppmである有機発光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は陽極、陰極および有機化合物層を含み、陽極と陰極間に電圧を印加することにより発光する有機発光素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロルミネセンス現象を利用したデバイスが重要度を増している。このようなデバイスとして、陽極と陰極とからなる一対の電極間に形成された、有機化合物を含む発光層に電圧を印加することで発光を行わせる有機発光素子が注目を集めている。このような有機発光素子は、陽極と陰極の間に電圧を印加することで、陽極と陰極からそれぞれ正孔と電子を注入し、注入された電子と正孔とが、発光層で再結合することにより生じるエネルギーを利用して発光を行う。即ち、有機発光素子は、この電荷再結合によるエネルギーで発光層の発光材料が励起され、励起状態から再び基底状態に戻る際に光を発生する現象を利用したデバイスである。
【0003】
この有機発光素子を表示装置として使用した場合、発光材料が自己発光であるため、表示装置としての応答速度が速く、視野角が広いという特徴を有する。更に有機発光素子の構造上、表示装置の薄型化が容易になるという利点もあるほか、有機物質の選択によって色純度の高い光を発生させやすく、そのため色再現域を広くとることが可能であるという特徴がある。更に、有機発光素子は、白色での発光も可能であり、面発光であることから、この有機発光素子を照明装置に組み込んで利用する用途も提案されている。
【0004】
しかし有機発光素子をこれらの装置に使用するためには更なる長寿命化が必要である。有機発光素子の劣化を抑制する方法として、特許文献1には有機化合物層に含まれるハロゲン化された化合物からなる不純物の濃度を低下させることが開示されており、その具体的な方法として、単離した電荷輸送性化合物などの有機半導体にさらに脱ハロゲン化反応を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−516421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された脱ハロゲン化処理を含めて、有機化合物中のハロゲン化された化合物からなる不純物の濃度を低下させる操作には手間がかかるため、有機発光素子、特に発光層を2つ有する有機発光素子を低コストで製造できない問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は有機発光素子において、素子の寿命に影響を与える発光層中のハロゲン化された電荷輸送性化合物の濃度が、発光性化合物の発光波長によって異なることを見出し、比較的長波長の発光を示す発光層には高度に精製した電荷輸送性化合物を用いなくても、長寿命な素子が得られることを見出した。すなわち本発明は以下の[1]〜[6]に要約される。
【0008】
[1]
陽極と陰極間に、第1の発光層と第2の発光層を含む積層された複数の有機化合物層を有し、
前記第1の発光層が、第1の電荷輸送性化合物および、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加することによって発光する第1の発光性化合物を含み、
前記第2の発光層が、第2の電荷輸送性化合物および、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加することによって発光する第2の発光性化合物を含み、
前記第1の発光性化合物は発光スペクトルにおいて440〜500nmの波長範囲に発光極大波長を有し、
前記第2の発光性化合物は発光スペクトルにおいて510〜650nmの波長範囲に発光極大波長を有し、
前記第1の電荷輸送性化合物中に含まれる、当該化学構造中の水素原子の少なくとも1つが塩素原子または臭素原子で置換された化合物である第1の不純物に由来する塩素原子および臭素原子の合計の濃度が重量基準で50ppm未満であり、
前記第2の電荷輸送性化合物中に含まれる、当該化学構造中の水素原子の少なくとも1つが塩素原子または臭素原子で置換された化合物である第2の不純物に由来する塩素原子および臭素原子の合計の濃度が重量基準で50〜500ppmである
有機発光素子。
【0009】
[2]
前記第1の不純物または第2の不純物は、前記電荷輸送性化合物における芳香環を構成する炭素原子に結合した水素原子の少なくとも1つが塩素原子または臭素原子で置換された化合物である、上記[1]に記載の有機発光素子。
【0010】
[3]
前記電荷輸送性化合物が、下記一般式(1)で表される化合物、または一般式(1)で表される化合物の水素原子の少なくとも1つが主鎖との直接結合に置き換えられた構造を含むポリマーである、上記[1]または[2]のいずれかに記載の有機発光素子。
【0011】
【化1】

(一般式(1)中、R1〜R15はそれぞれ独立して水素原子、フッ素原子、シアノ基、
アルキル基、置換基を有してもよいアリール基、アルコキシ基、シリル基、ビニル基または置換基を有してもよいカルバゾリル基を表す。)
【0012】
[4]
前記第1の発光性化合物が下記一般式(2)で表される燐光発光性化合物である、上記[1]〜[3]のいずれか1つに記載の有機発光素子。
【0013】
【化2】

(一般式(2)中、R31〜R38はそれぞれ独立して水素原子、フッ素原子、シアノ基、アルキル基、置換基を有してもよいアリール基、アルコキシ基またはシリル基を表し、R32およびR34の少なくとも一方はフッ素原子である。)
【0014】
[5]
前記第2の発光性化合物が下記一般式(3)で表される燐光発光性化合物である、上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の有機発光素子。
【化3】

(一般式(3)中、R41〜R48はそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、置換基を有してもよいアリール基、アルコキシ基またはシリル基を表し、隣接するR41〜R48は互いに結合して縮合環を形成していてもよい。)
【0015】
[6]
陽極を形成する工程と、陰極を形成する工程と、第1の発光層を形成する下記工程(A)と、第2の発光層を形成する下記工程(B)とを含むことを特徴とする上記[1]に記載の有機発光素子の製造方法。
工程(A):
第1の電荷輸送性化合物および電極間に電圧を印加することによって発光する第1の発光性化合物を含み、第1の発光性化合物は発光スペクトルにおいて440〜500nmの波長範囲に発光極大波長を有し、前記第1の電荷輸送性化合物中に含まれる前記第1の不純物に由来する塩素原子および臭素原子の合計の濃度が重量基準で50ppm未満である第1の発光層を形成する工程、
工程(B):
第2の電荷輸送性化合物および電極間に電圧を印加することによって発光する第2の発光性化合物を含み、第2の発光性化合物は発光スペクトルにおいて510〜650nmの波長範囲に発光極大波長を有し、前記第2の電荷輸送性化合物中に含まれる前記第2の不純物に由来する塩素原子および臭素原子の合計の濃度が重量基準で50〜500ppmである第2の発光層を形成する工程
【発明の効果】
【0016】
本発明により、長寿命な有機発光素子、特に発光層を2つ有する有機発光素子を低コストで製造することができる。本発明の有機発光素子は長寿命であり、しかも駆動電圧が低い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の有機発光素子の構造の一例を説明した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1を参照しながら本発明の有機発光素子について説明する。
図1に示した有機発光素子10は、基板11上に、正孔を注入するための陽極12と、陽極から受け取った正孔を輸送する正孔輸送層13と、正孔と電子が結合して発光する第1の発光層14および第2の発光層15と、陰極から電子を受け取って輸送する電子輸送層16と、電子を注入するための陰極17とが順に積層した構造を備える。
【0019】
基板11は、陽極12、正孔輸送層13、第1の発光層14、第2の発光層15、電子輸送層16、陰極17を形成する支持体となるものである。基板11には、通常、このような支持体として必要な機械的強度を満たす材料が用いられる。
【0020】
基板11の材料としては、有機発光素子10の基板11側から光を取り出したい場合(基板11側の面が光を取出す面、すなわち、発光面となる場合)は、発光する光の波長に対して透明であることが好ましい。具体的には、発光する光が可視光の場合、ソーダガラス、無アルカリガラスなどのガラス;アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ナイロン樹脂などの透明プラスチック;シリコンなどが挙げられる。
【0021】
有機発光素子10の基板11側との面から光を取り出す必要がない場合は、基板11の材料としては、透明であるものに限られず、不透明なものも使用できる。具体的には、上記材料に加えて、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、タングステン(W)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、もしくはニオブ(Nb)の単体、またはこれらの合金、あるいはステンレスなどからなる材料も使用することができる。
【0022】
基板11の厚さは、要求される機械的強度にもよるが、好ましくは、0.1mm〜10mm、より好ましくは0.25mm〜2mmである。
陽極12は、陰極17との間に電圧が印加されることにより、任意に正孔輸送層13を介して第1の発光層14および第2の発光層15に正孔を注入する。陽極12に使用される材料としては、電気伝導性を有するものであれば、特に限定されるものではないが、−5℃〜80℃の温度範囲で面抵抗が1000Ω以下であることが好ましく、100Ω以下であることが更に好ましい。
【0023】
このような条件を満たす材料として、導電性金属酸化物、金属、合金が使用できる。ここで、導電性金属酸化物としては、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)、IZO(インジウム−亜鉛酸化物)が挙げられる。また金属としては、ステンレス、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、タングステン(W)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)等が挙げられる。そしてこれらの金属を含む合金も使用できる。透明陽極を形成するのに用いられる透明材料としては、例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、それらの複合体であるITO(酸化インジウムスズ)、IZO(インジウム−亜鉛酸化物)等からなる導電性ガラス(NESA等)、金、白金、銀、銅が挙げられる。これらの中でも、ITO、IZO、酸化スズが好ましい。また、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体等の有機物からなる透明導電膜を用いてもよい。
【0024】
陽極12の厚さは、有機発光素子10の基板11側から光を取り出したい場合は、高い光透過率を得るため、2nm〜300nmであることが好ましい。また有機発光素子10の基板11側から光を取り出す必要がない場合は、例えば、2nm〜2mmである。
【0025】
なお、基板11の材質は、陽極12と同一の材質であってもよい。この場合、基板11は陽極12を兼ねてもよい。
陽極12と第1の発光層14との間に、正孔輸送層13が設けられていてもよい。上記正孔輸送層13を形成する正孔輸送材料としては、公知の材料を使用することができ、例えば、TPD(N,N’−ジメチル−N,N’−(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’ジアミン);α−NPD(4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル);m−MTDATA(4、4’,4’’−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン)等の低分子トリフェニルアミン誘導体;ポリビニルカルバゾール;上記トリフェニルアミン誘導体に重合性置換基を導入して重合した高分子化合物などが挙げられる。上記正孔輸送材料は、1種単独でも、2種以上を混合して用いてもよい。また、異なる正孔輸送材料から形成された正孔輸送層同士を積層してもよい。正孔輸送層の厚さは、正孔輸送層の導電率などに依存するため、一概に限定できないが、好ましくは1nm〜5μm、より好ましくは5nm〜1μm、特に好ましくは10nm〜500nmである。
【0026】
陽極12と正孔輸送層13との間に、正孔注入障壁を緩和するために正孔注入層が設けられていてもよい。上記正孔注入層を形成する材料としては、銅フタロシアニン、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)の混合物(PEDOT:PSS)、フルオロカーボン、二酸化ケイ素などの公知の材料が用いられるほか、上記正孔輸送層13に用いられる正孔輸送材料と2,3,5,6−テトラフルオロテトラシアノ−1,4−ベンゾキノンジメタン(F4TCNQ)などの電子受容体とを混合したものが用いられる。
【0027】
本発明の有機発光素子は、第1の発光層14および第2の発光層15を有する。第1の発光層14と第2の発光層15は、それぞれ陽極12および陰極17の間に電圧を印加することによって発光する第1の発光性化合物および第2の発光性化合物を含んでいる。第1の発光性化合物および第2の発光性化合物は、その発光スペクトルにおいて、それぞれ440〜500nmおよび510〜650nmの波長範囲に発光極大を有する。第1の発光層と第2の発光層はどちらが陽極12に近い層でもよく、図1の態様では第1の発光層14の方が陽極12に近いが、本発明では、図1における15が第1の発光層であり、14が第2の発光層であってもよい。
【0028】
第1の発光層14は第1の電荷輸送性化合物を含む。なお第1の電荷輸送性化合物は、少なくとも1つの水素原子を有している。
第1の電荷輸送性化合物としては公知の材料を用いることができ、例えばChemical Reviews、第107巻、953−1010頁、2007年に記載された化合物などが挙げられるが、有機発光素子に含まれる有機化合物層の数を少なくできる観点で電子輸送性化合物が好ましく、中でも電子輸送性が高く、高発光効率の有機発光素子が得られる点で、下記一般式(1)で表される化合物、および一般式(1)で表される構造を繰り返し単位の1つに含むポリマーが好ましい。
【0029】
【化4】

(一般式(1)中、R1〜R15はそれぞれ独立して水素原子、フッ素原子、シアノ基、アルキル基、置換基を有してもよいアリール基、アルコキシ基、シリル基、ビニル基または置換基を有してもよいカルバゾリル基を表す。)
【0030】
上記のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などが挙げられる。
【0031】
上記の置換基を有してもよいアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、ナフチル基、ビフェニル基などが挙げられる。これらのアリール基は環を構成する炭素原子に水素原子やメチル基以外の置換基を有していてもよい。
【0032】
上記のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、デシルオキシ基などが挙げられる。
【0033】
上記のシリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、トリメトキシシリル基などが挙げられる。
上記の置換基を有してもよいカルバゾリル基としては、例えば、9−カルバゾリル基、3,6−ジメチル−9−カルバゾリル基、4−メトキシ−9−カルバゾリル基、9−エチル−3−カルバゾリル基などが挙げられる。
【0034】
上記「一般式(1)で表される構造を繰り返し単位の1つに含むポリマー」とは、一般式(1)で表される化合物の水素原子の少なくとも1つが主鎖との直接結合に置き換えられた構造を含むポリマーである。その具体例としては、−[CH2CH(X)]−(Xは一般式(1)で表される化合物から1つの水素原子を除いた構造である。)で表される繰り返し単位を含むポリマーなどが挙げられ、さらに具体的には、R3がビニル基でありR1、R2およびR4〜R15が水素原子である化合物をラジカル重合して得られるポリマーなどが挙げられる。
【0035】
上記一般式(1)で表される化合物、および一般式(1)で表される構造を繰り返し単位の1つに含むポリマーのさらに具体的な化合物を以下に例示する。
【0036】
【化5】

【0037】
【化6】

第1の発光層14における、第1の電荷輸送性化合物の化学構造中の水素原子の少なくとも1つが塩素原子または臭素原子で置換された化合物(以下「第1の不純物」ともいう。)に由来する塩素原子および臭素原子の合計の濃度は50ppm未満(重量基準)であり、これにより寿命の長い有機発光素子を得ることができる。第1の不純物に由来する塩素原子および臭素原子の合計の濃度は好ましくは0.1ppm以上50ppm未満(重量基準)であり、より好ましくは40ppm以下であり、もっとも好ましくは25ppm以下であり、その下限値は0.1ppm、1ppmまたは5ppmであってもよい。第1の不純物の例としては、前記第1の電荷輸送性化合物における芳香環を構成する炭素原子に結合した水素原子の少なくとも1つが塩素原子または臭素原子で置換された化合物が挙げられる。
【0038】
上記の塩素原子および臭素原子の合計の濃度をこの範囲にするための手段としては、例えば単離した第1の電荷輸送性化合物に対して昇華など公知の精製を、場合によっては繰り返して行ったり、特許文献1に記載された脱ハロゲン化処理を行ったり、第1の電荷輸送性化合物の合成反応に塩素や臭素を含む試剤を使わないなどの方法がある。
【0039】
第1の不純物以外の遊離の塩素、臭素、塩素原子または臭素原子を含有する化合物、塩素および/または臭素を含む溶媒や塩素および/または臭素合成中間体は、有機発光素子の寿命にそれほど大きな影響を与えないので、第1の電荷輸送性化合物においては前記第1の不純物の濃度だけを減少させればよく、従って第1の電荷輸送性化合物を比較的容易に精製することができる。
【0040】
第1の発光層を分析した際に検出される塩素および/または臭素が第1の不純物に由来するかどうかに関しては、当該発光層に含まれる個々の元素或いは化合物をNMRや液体クロマトグラフ質量分析計(以下「LC−MS」と記す。)等の分析手法で同定することにより区別することができる。
なお、第1の電荷輸送性化合物がポリマーである場合には、上記第1の電荷輸送性化合物の化学構造は、繰り返し単位の化学構造を指す。
【0041】
第2の発光層15は第2の電荷輸送性化合物を含む。なお第2の電荷輸送性化合物は、少なくとも1つの水素原子を有している。第2の電荷輸送性化合物としては、第1の電荷輸送性化合物として挙げたものと同じものを用いることができる。ただし、第2の発光層15における、第2の電荷輸送性化合物の化学構造中の水素原子の少なくとも1つが塩素原子または臭素原子で置換された化合物(以下「第2の不純物」ともいう。)に由来する塩素原子および臭素原子の合計の濃度は50〜500ppm(重量基準)、好ましくは70〜500ppm、より好ましくは100〜500ppmであればよく、その上限値は300ppmまたは200ppmであってもよく、濃度がこの範囲であっても有機発光素子の寿命にはそれほど大きな影響を与えない。第2の不純物の例としては、前記第2の電荷輸送性化合物における芳香環を構成する炭素原子に結合した水素原子の少なくとも1つが塩素原子または臭素原子で置換された化合物が挙げられる。
【0042】
また、第2の発光層を分析した際に検出される塩素および/または臭素が第2の不純物に由来するかどうかに関しては、当該発光層に含まれる個々の元素或いは化合物をNMRやLC−MS等の分析手法で同定することにより区別することができる。
【0043】
従って第2の電荷輸送性化合物は高度な精製を必要とせず、望みの純度の化合物を安価に得ることができ、有機発光素子を低コストで製造することが可能である。なお、第2の電荷輸送性化合物がポリマーである場合には、上記第2の電荷輸送性化合物の化学構造は、繰り返し単位の化学構造を指す。
【0044】
第1の電荷輸送性化合物および第2の電荷輸送性化合物がそれぞれ第1の不純物および第2の不純物を含むと電荷の注入障壁が低下する場合もあり、特に電荷輸送性化合物が電子輸送性化合物であるか、上記一般式(1)で表される化合物または式(1)で表される構造を含むポリマーであると、電荷注入障壁が大きく低下する。従って、有機発光素子の寿命に大きな影響を与えなければ、有機発光素子を低電圧で駆動できるため、前記電荷輸送性化合物が上記の不純物を含むことが好ましい。ただし第2の電荷輸送性化合物に含まれる第2の不純物の濃度が500ppmを超えると、有機発光素子は寿命に大きな影響を受ける。
【0045】
第1の発光層に含まれる上記第1の発光性化合物は、発光スペクトルにおいて440〜500nmの波長範囲に発光極大を有する限り、蛍光発光性化合物であっても燐光発光性化合物であってもよいが、高発光効率が得られるため燐光発光性化合物であることが好ましく、下記一般式(2)で表される燐光発光性化合物であることがより好ましい。
【0046】
【化7】

(一般式(2)中、R31〜R38はそれぞれ独立して水素原子、フッ素原子、シアノ基、アルキル基、置換基を有してもよいアリール基、アルコキシ基またはシリル基を表し、R32およびR34の少なくとも一方はフッ素原子である。)
【0047】
上記のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などが挙げられる。
【0048】
上記の置換基を有してもよいアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、ナフチル基、ビフェニル基などが挙げられる。これらのアリール基は環を構成する炭素原子に水素原子やメチル基以外の置換基を有していてもよい。
【0049】
上記のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、デシルオキシ基などが挙げられる。
【0050】
上記のシリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、トリメトキシシリル基などが挙げられる。
第1の発光性化合物は、通常、第1の発光層中に0.1〜40重量%の範囲で含まれる。
【0051】
第2の発光層に含まれる上記第2の発光性化合物は、発光スペクトルにおいて510〜650nmの波長範囲に発光極大を有する限り、蛍光発光性化合物であっても燐光発光性化合物であってもよいが、高発光効率が得られるため燐光発光性化合物であることが好ましく、下記一般式(3)で表される燐光発光性化合物であることがより好ましい。
【0052】
【化8】

(一般式(3)中、R41〜R48はそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、置換基を有してもよいアリール基、アルコキシ基またはシリル基を表し、隣接するR41〜R48は互いに結合して縮合環を形成していてもよい。)
【0053】
上記のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などが挙げられる。
【0054】
上記の置換基を有してもよいアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、ナフチル基、ビフェニル基などが挙げられる。これらのアリール基は環を構成する炭素原子に水素原子やメチル基以外の置換基を有していてもよい。
【0055】
上記のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、デシルオキシ基などが挙げられる。
【0056】
上記のシリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、トリメトキシシリル基などが挙げられる。
隣接する上記R41〜R48は互いに結合して縮合環を形成していてもよく、このような縮合環としては例えばナフタレン環、キノリン環、ベンゾキノリン環などが挙げられる。
【0057】
第2の発光性化合物は、通常、第2の発光層中に0.1〜40wt%の範囲で含まれる。 第2の発光層15と陰極17との間には、電子輸送層16が設けられていてもよい。電子輸送層16に用いることができる材料としては、キノリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ペリレン誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、キノキサリン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体などが挙げられる。更に具体的には、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(略称:Alq)、トリス(4−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナト)ベリリウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(4−フェニルフェノラト)アルミニウム、ビス[2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾオキサゾラト]亜鉛、ビス[2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾールや、1,3−ビス[5−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル]ベンゼン、3−(4−ビフェニリル)−4−フェニル−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール(略称:TAZ)、バソフェナントロリン、バソキュプロイン(略称:BCP)、トリフェニルビスイミダゾール(BPBI)、2,2’,2”−(1,3,5−ベンゼントリイル)トリス[1−フェニル−1H−ベンズイミダソール](略称:TPBI)、3,3’−[5’−[4−(3−ピリジニル)フェニル][1,1’:3’,1”−ターフェニル]−4,4”−ジイル]ビスピリジン(略称:TPyTPB)、4,4’−[5’−[3−(4−ピリジニル)フェニル][1,1’:3’,1”−ターフェニル]−3,3”−ジイル]ビスピリジン(略称:m4TPyTPB)、3,3’−[5’−[3−(3−ピリジニル)フェニル][1,1’:3’,1”−ターフェニル]−3,3”−ジイル]ビスピリジン(略称:mTPyTPB)、2,2’−[5’−[3−(2−ピリジニル)フェニル][1,1’:3’,1”−ターフェニル]−3,3”−ジイル]ビスピリジン(略称:m2TPyTPB)、3−[4−[ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)ボリル]−3,5−ジメチルフェニル]ピリジン(略称:Py211B)などである。この中でも、TPBI、TPyTPB、m4TPyTPB、mTPyTPB、m2TPyTPB、Py211Bをより好ましく用いることができる。
【0058】
また、電子輸送層16と第2の発光層15との間に、正孔が発光層を通過することを抑え、発光層内で正孔と電子とを効率よく再結合させる目的で、正孔ブロック層が設けられていてもよい。上記正孔ブロック層を形成するために、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体などの公知の材料が用いられる。
【0059】
第1の発光層14と第2の発光層15との間には、さらに正孔輸送層や電子輸送層などの層が形成されていてもよい。これらの層に用いられる材料としては、上記の正孔輸送層13および電子輸送層16で述べた材料と同じ材料を例示することができる。
【0060】
また、第1の発光層14と第2の発光層15の間にさらに電荷発生層が形成されていてもよい。ここで、電荷発生層とは、電界印加時に電荷(正孔及び電子)を発生する機能を有すると共に、発生した電荷を電荷発生層と隣接する層に注入させる機能を有する層である。このような電荷発生層に用いられる材料としては、例えばITOやIZOなどの透明導電材料、オリゴチオフェンや金属フタロシアニン類などの導電性有機物、公知の無機p型半導体、公知の無機n型半導体、V25などの電気絶縁性材料などを挙げることができる。
【0061】
上記陰極17に使用される材料としては、陽極12と同様に電気伝導性を有するものであれば、特に限定されるものではないが、仕事関数が低く、かつ化学的に安定なものが好ましい。具体的には、Al、MgAg合金、AlLiなどのAlとアルカリ金属の合金やAlCaなどのAlとアルカリ土類金属の合金等の材料を例示することができる。ただし、陰極17の材料は、有機発光素子10の陰極17側から光を取り出したい場合(陰極17側の面が光を取出す面、すなわち、発光面となる場合)は、例えば、陽極12と同様な、発光する光に対して透明な材料を用いることが好ましい。
【0062】
陰極17の厚さは、好ましくは0.01μm〜1μm、より好ましくは0.05μm〜0.5μmである。
また、陰極17から電子輸送層16への電子の注入障壁を下げて電子の注入効率を上げる目的で、図示しない電子注入層を、陰極17に隣接して設けてもよい。電子注入層には、陰極17より仕事関数の低い金属材料が好適に用いられ、例えば、アルカリ金属(Na、K、Rb、Cs)、アルカリ土類金属(Sr、Ba、Ca、Mg)、希土類金属(Pr、Sm、Eu、Yb)を使用することができるが、これら金属のフッ化物、塩化物、酸化物も好適に用いられる。電子注入層の厚さは、好ましくは0.05nm〜50nm、より好ましくは0.1nm〜20nm、さらに好ましくは0.5nm〜10nmである。
【0063】
有機発光素子10には、有機発光素子10を長期安定的に用い、有機発光素子10を外部から保護するための保護層や保護カバー(図示せず)を装着することが好ましい。保護層の材料としては、高分子化合物、金属酸化物、金属フッ化物、金属ホウ化物、窒化ケイ素、酸化ケイ素等のシリコン化合物などを用いることができる。そして、これらの積層体も用いることができる。また、保護カバーとしては、ガラス板、表面に低透水率処理を施したプラスチック板、金属などを用いることができる。この保護カバーは、熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂で素子基板と貼り合わせて密閉する方法を採ることが好ましい。またこの際に、スペーサーを用いることが、所定の空間を維持することができ、有機発光素子10が傷つくのを防止できるため好ましい。そして、この空間に窒素、アルゴン、ヘリウムのような不活性なガスを封入すれば、上側の陰極17の酸化を防止しやすくなる。特にヘリウムを用いることが、熱伝導性が高いため、電圧印加時に有機発光素子10より発生する熱を効果的に保護カバーに伝えることができるため、好ましい。更に酸化バリウム等の乾燥剤をこの空間内に設置することにより、上記一連の製造工程で吸着した水分が有機発光素子10にダメージを与えるのを抑制しやすくなる。

本発明の有機発光素子は、陽極を形成する工程と、陰極を形成する工程と、第1の発光層を形成する工程(A)と、第2の発光層を形成する工程(B)とを含むことを特徴とする製造方法により製造することができる。
【0064】
工程(A):
第1の電荷輸送性化合物および電極間に電圧を印加することによって発光する第1の発光性化合物を含み、第1の発光性化合物は発光スペクトルにおいて440〜500nmの波長範囲に発光極大波長を有し、前記第1の電荷輸送性化合物中に含まれる第1の不純物に由来する塩素原子および臭素原子の合計の濃度が重量基準で50ppm未満である第1の発光層を形成する工程、
工程(B):
第2の電荷輸送性化合物および電極間に電圧を印加することによって発光する第2の発光性化合物を含み、第2の発光性化合物は発光スペクトルにおいて510〜650nmの波長範囲に発光極大波長を有し、前記第2の電荷輸送性化合物中に含まれる第2の不純物に由来する塩素原子および臭素原子の合計の濃度が重量基準で50〜500ppmである第2の発光層を形成する工程。
【0065】
前記の製造方法において、第1の発光層および第2の発光層は、陽極と陰極との間に位置するように形成する。また、第1の発光層を陽極に近い側に形成し、第2の発光層を陰極に近い側に形成してもよく、第2の発光層を陽極に近い側に形成し、第1の発光層を陰極に近い側に形成してもよい。
【0066】
図1を参照しながら本発明の有機発光素子の製造方法について説明する。
本発明の有機発光素子の製造方法として第1の発光層14を形成する工程(A)および第2の発光層15を形成する工程(B)は、例えばこの順で順次行っても良いし、逆に行っても構わない。
【0067】
たとえば基板11の上に陽極12を形成した後、第1の発光層14を形成する工程(A)、第2の発光層15を形成する工程(B)、陰極17を形成する工程を行うことで製造することができる。
【0068】
さらに必要に応じて陽極12と第1の発光層14の間に正孔輸送層13を形成したり、第2の発光層15と陰極17の間に電子輸送層16を任意に形成しても構わない。
第1の発光層14を形成する方法、第2の発光層15を形成する方法、およびその他の層を形成する方法は、もちいる材料等に応じて公知の適切な方法を選択することができる。具体的には例えば塗布による方法や蒸着による方法等を挙げることができる。
【0069】
本発明の有機発光素子は、マトリックス方式またはセグメント方式による画素として画像表示装置に好適に用いられる。また、上記有機発光素子は、画素を形成せずに、面発光光源としても好適に用いられる。
【0070】
本発明の有機発光素子は、具体的には、コンピュータ、テレビ、携帯端末、携帯電話、カーナビゲーション、標識、看板、ビデオカメラのビューファインダー等における表示装置、バックライト、電子写真、照明、レジスト露光、読み取り装置、インテリア照明、光通信システム等における光照射装置に好適に用いられる。
【実施例】
【0071】
以下に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0072】
(合成例1)
不純物の少ない化合物1−1の合成
【0073】
【化9】

塩化シアヌル4.7g(25mmol)、4−tert−ブチルフェニルボロン酸15g(84mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム0.50g(0.43mmol)および1,2−ジメトキシエタン250mlの混合物に、炭酸カリウム31g(220mmol)の200ml水溶液を加え、24時間加熱還流した。得られた反応混合物から有機層を抽出し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した後、熱エタノール溶液から再結晶することによって化合物1−1(上記式1−1で表わされる化合物)を2.8g(5.9mmol)得た。
【0074】
得られた化合物の不純物をNMRおよびLC−MSにより分析したところ、化合物1−1には、化合物1−1の構造中のベンゼン環に塩素が1つだけ結合した不純物は検出されず、下記の不純物A(化合物A)が含まれていた。分子量から換算したこれらの不純物に由来する塩素原子の含有量は、それぞれ10ppm未満および200ppmと推定された。なお、他の不純物は検出されなかった。
【0075】
【化10】

(比較合成例1)
不純物の多い化合物1−1の合成
【0076】
【化11】

4−tert−ブチルベンゾニトリル5.0g(31mmol)および塩化4−tert−ブチルベンゾイル2.1g(11mmol)をジクロロメタン50mlに溶解し、塩化アルミニウム1.5g(11mmol)および塩化アンモニウム2.2g(42mmol)を加え、24時間加熱還流した。得られた反応混合物を室温にまで冷却した後、10%塩酸水溶液中に注ぎ、室温で1時間撹拌した。クロロホルムで有機層を抽出し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することによって化合物1−1の粗生成物を得た。これをエタノールに加熱溶解した後、再結晶精製することによって、化合物1−1を2.6g(5.4mmol)得た。
【0077】
得られた化合物の不純物をNMRおよびLC−MSにより分析したところ、化合物1−1には、化合物1−1の構造中のベンゼン環に塩素が1つだけ結合した不純物が含まれており、分子量から換算した塩素原子の含有量は150ppmであった。なお、他の不純物は検出されなかった。
【0078】
(比較合成例2)
不純物の多い化合物1−12の合成
【0079】
【化12】

4−tert−ブチルベンゾニトリル5.0gの代わりに3−ブロモベンゾニトリル5.0g(27mmol)を用い、塩化4−tert−ブチルベンゾイル2.1gの代わりに塩化3−ブロモベンゾイル2.0g(9.1mmol)を用いた以外は、比較合成例1における化合物1−1の合成と同様な方法で2,4,6−トリ−3−ブロモフェニルトリアジン3.3g(6.0mmol)を合成した。これにカルバゾール4.0g(24mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム0.50g(0.43mmol)、カリウム−tert−ブトキシド3.0g(27mmol)およびキシレン100mlを加え、24時間加熱還流した。得られた反応混合物をセライトでろ過し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した後、酢酸エチル溶液から再結晶することによって、化合物1−12(上記式1−12で表わされる化合物)を2.7g(3.4mmol)得た。
【0080】
得られた化合物の不純物をNMRおよびLC−MSにより分析したところ、化合物1−12には、化合物1−12の構造中のトリアジン環に結合したベンゼン環に塩素が1つだけ結合した不純物が含まれており、分子量から換算した塩素原子の含有量は80ppmであった。なお、他の不純物は検出されなかった。
【0081】
(合成例2)
化合物1−12の精製
比較合成例2で合成した化合物1−12を、キシレン中で、ヒドロトリブチルすずおよびトリ(o−トリルホスフィン)パラジウムとともに8時間加熱還流し、これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した後、酢酸エチル溶液から再結晶することによって、化合物1−12を精製した。得られた化合物の不純物をNMRおよびLC−MSにより分析したところ、化合物1−12に含まれていた、化合物1−12の構造中のトリアジン環に結合したベンゼン環に塩素が1つだけ結合した不純物は検出されず、分子量から換算した塩素原子の含有量は10ppm未満であると推定された。
【0082】
(比較合成例3)
不純物の多い化合物1−6の合成
【0083】
【化13】

比較合成例2で合成した2,4,6−トリ−3−ブロモフェニルトリアジン2.0g(3.7mmol)、4−tert−ブチルフェニルボロン酸2.5g(14mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム0.50g(0.43mmol)および1,2−ジメトキシエタン100mlの混合物に、炭酸カリウム5.0g(36mmol)の50ml水溶液を加え、9時間加熱還流した。得られた反応混合物から有機層を抽出し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した後、熱エタノール溶液から再結晶することによって化合物1−6(上記式1−6で表わされる化合物)を1.5g(2.1mmol)得た。
【0084】
得られた化合物の不純物をNMRおよびLC−MSにより分析したところ、化合物1−6には、化合物1−6の構造中のベンゼン環に塩素が1つだけ結合した不純物が含まれており、分子量から換算したこの不純物に由来する塩素原子の含有量は70ppmであった。なお、他の不純物は検出されなかった。
【0085】
(合成例3)
化合物1−6の精製
比較合成例3で合成した化合物1−6を、キシレン中で、ヒドロトリブチルすずおよびトリ(o−トリルホスフィン)パラジウムとともに8時間加熱還流し、これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した後、熱エタノール溶液から再結晶することによって、化合物1−6を精製した。得られた化合物の不純物をNMRおよびLC−MSにより分析したところ、化合物1−6に含まれていた、化合物1−6の構造中のベンゼン環に塩素が1つだけ結合した不純物は検出されず、分子量から換算した塩素原子の含有量は10ppm未満であると推定された。
【0086】
(比較合成例4)
不純物の多い化合物Bの合成
【0087】
【化14】

2,5−ジアミノ−p−キシレン1.5g(11mmol)、3−ブロモトルエン8.5g(50mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム0.50g(0.43mmol)、カリウム−tert−ブトキシド6.0g(53mmol)およびキシレン100mlを加え、12時間加熱還流した。得られた反応混合物をセライトでろ過し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:1,2−ジクロロエタン/ヘキサン)で精製した後、酢酸エチル溶液から再結晶することによって、化合物B(上記式Bで表わされる化合物)を4.6g(9.3mmol)を得た。
【0088】
得られた化合物の不純物をNMRおよびLC−MSにより分析したところ、化合物Bには、化合物Bの構造中のベンゼン環に臭素が1つだけ結合した不純物が含まれており、分子量から換算した臭素原子の含有量は100ppmであった。なお、他の不純物は検出されなかった。
【0089】
(合成例4)
化合物Bの精製
比較合成例4で合成した化合物Bを、キシレン中で、ヒドロトリブチルすずおよびトリ(o−トリルホスフィン)パラジウムとともに8時間加熱還流し、これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した後、酢酸エチル溶液から再結晶することによって、化合物Bを精製した。得られた化合物の不純物をNMRおよびLC−MSにより分析したところ、化合物Bに含まれていた、化合物Bの構造中のベンゼン環に臭素が1つだけ結合した不純物は検出されず、分子量から換算した臭素原子の含有量は20ppm未満であると推定された。
【0090】
(比較合成例5)
不純物の多い化合物Cの合成
米国特許第5645948号明細書に記載された方法と同様にして、下記の化合物C(下記式Cで表わされる化合物)を合成した。
【0091】
化合物Cの不純物をNMRおよびLC−MSにより分析したところ、化合物Cには、化合物Cの構造中のベンゼン環に塩素が1つだけ結合した不純物が含まれており、分子量から換算した塩素原子の含有量は200ppmであった。なお、他の不純物は検出されなかった。
【0092】
【化15】

(合成例5)
化合物Cの精製
比較合成例5で合成した化合物Cに対して、1.2×10-4Pa、290℃で昇華精製を2回繰り返し、化合物Cを精製した。化合物Cの不純物をNMRおよびLC−MSにより分析したところ、化合物Cには、化合物Cの構造中のベンゼン環に塩素が1つだけ結合した不純物が含まれており、分子量から換算した塩素原子の含有量は40ppmであった。
【0093】
(実施例1)
膜厚150nmのITO透明導電膜が形成されたガラス基板上に、6.7×10-5Paの減圧下、1Å/sの速度でm−MTDATAを20nm成膜し、ホール輸送層を形成した。次に合成例1で得た化合物1−1と、発光スペクトルにおいて490nmに発光極大を有する発光性化合物PH1(下記式PH1で表わされる化合物)を、85:15の重量比で蒸着し、第1の発光層を30nmの膜厚で成膜した。次に合成例1で得た化合物1−1と、発光スペクトルにおいて615nmに発光極大を有する発光性化合物PH2(下記式PH2で表わされる化合物)を、95:5の重量比で蒸着し、第2の発光層を10nmの膜厚で成膜した。次に電子輸送層としてAlqを1Å/sの速度で20nm成膜した。この上に、0.5nmのフッ化ナトリウム層と150nmのアルミニウム層を順に蒸着で積層成膜し、有機発光素子を作製した。
【0094】
作製した有機発光素子に定電圧電源(Keithley製、SM2400)を用いて電圧を印加して初期輝度1000cd/m2で発光させ、その時の電流を維持しながら素子を駆動し続け、一定時間おきに輝度を測定することで、発光寿命測定を行った。測定開始直後の駆動電圧と、輝度が半減するまでの時間(寿命)を表1に示す。
【0095】
(実施例2および比較例1、2、4、5)
第1の発光層および第2の発光層の材料を表1に示した材料を用いて形成したこと以外は実施例1と同様にして有機発光素子を作製し、輝度半減寿命と発光寿命測定開始直後の駆動電圧を測定した。
【0096】
(実施例3および比較例3、6)
第1の発光層および第2の発光層の材料として表1に示した材料を用い、第2の発光層をホール輸送層に接して形成し、第2の発光層上に第1の発光層を形成したこと以外は実施例1と同様にして有機発光素子を作製し、輝度半減寿命と発光寿命測定開始直後の駆動電圧を測定した。
【0097】
なお、表1の発光性化合物PH1〜PH5は、それぞれ下記式PH1〜PH5で表わされる化合物を意味する。
【0098】
【化16】

【0099】
【表1】

表1からわかるように、実施例1〜3と比較例1〜3を比べると、第2の発光層に用いる第2の電荷輸送性化合物の不純物に由来する塩素/臭素濃度は、有機発光素子の寿命に大きな影響を与えないが、比較例4〜6のように第1の発光層に用いる第1の電荷輸送性化合物の不純物に由来する塩素/臭素濃度が高い場合には、寿命が極端に短くなる。一方、第1および第2の電荷輸送性化合物の少なくとも一方の不純物に由来する塩素/臭素濃度が高い場合には駆動電圧が低下しており、本発明の有機発光素子は寿命が長いだけでなく、駆動電圧も低いことがわかる。
【符号の説明】
【0100】
10 有機発光素子
11 基板
12 陽極
13 正孔輸送層
14 第1の発光層
15 第2の発光層
16 電子輸送層
17 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極間に、第1の発光層と第2の発光層を含む積層された複数の有機化合物層を有し、
前記第1の発光層が、第1の電荷輸送性化合物および、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加することによって発光する第1の発光性化合物を含み、
前記第2の発光層が、第2の電荷輸送性化合物および、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加することによって発光する第2の発光性化合物を含み、
前記第1の発光性化合物は発光スペクトルにおいて440〜500nmの波長範囲に発光極大波長を有し、
前記第2の発光性化合物は発光スペクトルにおいて510〜650nmの波長範囲に発光極大波長を有し、
前記第1の電荷輸送性化合物中に含まれる、第1の電荷輸送性化合物の化学構造中の水素原子の少なくとも1つが塩素原子または臭素原子で置換された化合物である第1の不純物に由来する塩素原子および臭素原子の合計の濃度が重量基準で50ppm未満であり、
前記第2の電荷輸送性化合物中に含まれる、第2の電荷輸送性化合物の化学構造中の水素原子の少なくとも1つが塩素原子または臭素原子で置換された化合物である第2の不純物に由来する塩素原子および臭素原子の合計の濃度が重量基準で50〜500ppmである
有機発光素子。
【請求項2】
前記第1の不純物または第2の不純物は、前記電荷輸送性化合物における芳香環を構成する炭素原子に結合した水素原子の少なくとも1つが塩素原子または臭素原子で置換された化合物である、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項3】
前記電荷輸送性化合物が、下記一般式(1)で表される化合物、または一般式(1)で表される化合物の水素原子の少なくとも1つが主鎖との直接結合に置き換えられた構造を含むポリマーである、請求項1または2のいずれかに記載の有機発光素子。
【化1】

(一般式(1)中、R1〜R15はそれぞれ独立して水素原子、フッ素原子、シアノ基、
アルキル基、置換基を有してもよいアリール基、アルコキシ基、シリル基、ビニル基または置換基を有してもよいカルバゾリル基を表す。)
【請求項4】
前記第1の発光性化合物が下記一般式(2)で表される燐光発光性化合物である、請求項1〜3のいずれか1つに記載の有機発光素子。
【化2】

(一般式(2)中、R31〜R38はそれぞれ独立して水素原子、フッ素原子、シアノ基、アルキル基、置換基を有してもよいアリール基、アルコキシ基またはシリル基を表し、R32およびR34の少なくとも一方はフッ素原子である。)
【請求項5】
前記第2の発光性化合物が下記一般式(3)で表される燐光発光性化合物である、請求項1〜4のいずれか1つに記載の有機発光素子。
【化3】

(一般式(3)中、R41〜R48はそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、置換基を有してもよいアリール基、アルコキシ基またはシリル基を表し、隣接するR41〜R48は互いに結合して縮合環を形成していてもよい。)
【請求項6】
陽極を形成する工程と、陰極を形成する工程と、第1の発光層を形成する下記工程(A)と、第2の発光層を形成する下記工程(B)とを含むことを特徴とする請求項1に記載の有機発光素子の製造方法。
工程(A):
第1の電荷輸送性化合物および電極間に電圧を印加することによって発光する第1の発光性化合物を含み、第1の発光性化合物が発光スペクトルにおいて440〜500nmの波長範囲に発光極大波長を有し、前記第1の電荷輸送性化合物中に含まれる前記第1の不純物に由来する塩素原子および臭素原子の合計の濃度が重量基準で50ppm未満である第1の発光層を形成する工程、
工程(B):
第2の電荷輸送性化合物および電極間に電圧を印加することによって発光する第2の発光性化合物を含み、第2の発光性化合物が発光スペクトルにおいて510〜650nmの波長範囲に発光極大波長を有し、前記第2の電荷輸送性化合物中に含まれる前記第2の不純物に由来する塩素原子および臭素原子の合計の濃度が、重量基準で50〜500ppmである第2の発光層を形成する工程

【図1】
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【公開番号】特開2012−174901(P2012−174901A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35857(P2011−35857)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】