説明

有機硫黄化合物含有排水の処理装置

【課題】2槽以上の好気性生物反応槽を直列に配置してなる装置により、有機硫黄化合物含有排水を処理するに当たり、簡易な設備で発生する臭気を低減すると共に、安定した処理を行って良好な水質の処理水を得る。
【解決手段】2槽以上の好気性生物反応槽1〜4を直列に接続し、有機硫黄化合物含有排水を2槽以上の曝気槽1〜4に分注する。有機硫黄化合物含有排水を分注することで、注入される反応槽あたりのBOD負荷量が低減されるため、反応槽あたりの酸素要求量が低下し、特殊な曝気装置を用いなくても容易に酸素欠乏状態となることを防止できるようになる。このため、酸素不足で還元的雰囲気になることによるDMSやMMの生成に起因する臭気は軽減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はDMSO(ジメチルスルホキシド)、スルホン酸類などの有機硫黄化合物含有排水を生物処理する装置に係り、特に、有機硫黄化合物を生物処理する際に発生する臭気を低減すると共に、良好な水質の処理水を安定に得る有機硫黄化合物含有排水の処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体製造工程や液晶パネル製造工程でDMSOが多く使用されるようになってきている。例えば、液晶パネル製造分野では、ジエチレングルコールモノブチルエーテル、2−アミノエタノール、2,2−アミノエチルアミノエタノールなどにDMSOを添加してなる洗浄剤が用いられている。このため、これらDMSO含有排水の処理方法が重要となっている。
【0003】
DMSOは生物分解が可能であるため、生物処理を行うことが経済的な処理に繋がるが、DMSO含有排水を生物処理すると、DMSOの生分解の過程で発生する代謝物のうち、DMS(硫化メチル)やMM(メチルメルカプタン)が残留し、曝気槽や処理水から臭気が発生する問題があった。
【0004】
そこで、DMSやMMの残留が少なく、これらの悪臭対策が十分に行なえるDMSO含有排水の活性汚泥処理装置として、直列に連絡された3槽以上の複数の曝気槽と、被処理排水が流入する第1の曝気槽に、酸素含有ガスを散気する手段と、下流側に曝気槽が連絡されている上流側の各曝気槽から排出された散気排ガスを次の下流側の曝気槽に散気する手段と、前記第1の曝気槽の流出液を固液分離する手段と、該固液分離手段で分離された汚泥を第1の曝気槽に返送する手段とを備えてなる好気性処理装置が提案されている(特許第3331623号公報)。
【0005】
一般的な活性汚泥処理設備のように、単一曝気槽で全ての有機物を分解しようとすると、有機物の分解性、分解速度の差により、一部が分解不十分な状態で流出する危険性がある。特に、DMSO分解では、DMSOからDMSへの分解速度より、DMSからMMへの分解速度が低いと予想され、DMSの処理が不十分のまま流出することとなる。
【0006】
これに対して、特許第3331623号公報の好気性処理装置では、多段で曝気処理することにより、負荷量や濃度の変動により前段の曝気槽で処理が不十分のDMSについても、後段の曝気槽で効率的に処理することが可能となり、残留DMSやMMによる悪臭は低減される。
【0007】
また、DMSOの生物分解では、炭素と水素のみならず、硫黄も酸化する必要があるため、必要酸素量が非常に多い。そして、生物反応槽内の酸素不足で還元性雰囲気が形成されると、下記反応式のように悪臭成分であるDMSやMMの発生を引き起こす。
(CHSO+H→(CHS+H
2(CHSO+H→2(CHSH+2H
【0008】
そこで、生物反応槽内の溶存酸素を高く保つと共に処理水を循環する方法(特許第2769973号公報)なども提案されている。また、槽内に大量の酸素を供給し得る曝気装置も提案されている(特許第3555557号公報)。
【特許文献1】特許第3331623号公報
【特許文献2】特許第2769973号公報
【特許文献3】特許第3555557号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
DMSO含有排水の生物処理に限らず、生物処理反応槽は一般に大きな容量を必要とするため、反応槽の強度を確保するために複数槽に分割する必要が生じる場合がある。また、直列に複数の反応槽を設置することで原水のショートパスの影響を低減できることから、良好な処理水質を得るためにも、複数の反応槽を直列に接続して設置することは望ましい。
【0010】
しかし、複数の反応槽を直列に接続してDMSO含有排水を処理する場合には、次のような問題がある。
【0011】
即ち、直列に接続された複数の反応槽の第1段目は、原水が直接流入するため大量の酸素が必要となり、特に還元的雰囲気になりやすく、この結果、DMS、MMの発生による臭気の問題が起こり易いが、このように大量の酸素を必要とする第1段目の反応槽に十分な酸素を供給することは容易ではない。特許第3555557号公報に記載される曝気装置により、酸素の溶解量を上げることができるが、このような特殊な装置を用いることなく、対応することが望まれる。
【0012】
なお、特許第3331623号公報の装置であれば、前段の曝気槽の排ガスを後段の曝気槽に送給して曝気することにより、悪臭の問題を解決することができるが、この装置では、前段の曝気槽の排ガスを吸引する散気設備が腐食しやすく、また、前段の曝気槽で酸素が消費されて酸素濃度が低下するため、後段の散気効率が悪く、このため散気に必要な動力が大きくなる。また、曝気槽上部を密閉するため設備コストが大きいといった不具合もある。
【0013】
なお、このような問題はDMSOに限らず、スルホン酸類等の有機硫黄化合物を含む排水の処理において、同様に問題となる。
【0014】
従って、本発明は、2槽以上の好気性生物反応槽を直列に配置した装置により、有機硫黄化合物含有排水を処理するに当たり、簡易な設備で発生する臭気を低減すると共に、安定した処理を行って良好な水質の処理水を得る有機硫黄化合物含有排水の処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明(請求項1)の有機硫黄化合物含有排水の処理装置は、有機硫黄化合物含有排水を好気性生物反応槽に導入して処理する装置において、2槽以上の好気性生物反応槽を、前段の該反応槽の流出液を次段の該反応槽に供給するように直列に配置し、有機硫黄化合物含有排水を複数の該反応槽に分注するようにしたことを特徴とする。
【0016】
請求項2の有機硫黄化合物含有排水の処理装置は、請求項1において、好気性生物反応槽は3槽以上配置され、少なくとも最後段の該反応槽には有機硫黄化合物含有排水を分注しないことを特徴とする。
【0017】
請求項3の有機硫黄化合物含有排水の処理装置は、請求項1又は2において、好気性生物反応槽は3槽以上配置され、少なくともいずれか一つの該反応槽には有機硫黄化合物含有排水を分注せず、有機硫黄化合物含有排水を分注しない該反応槽に有機硫黄化合物含有排水以外の有機物含有排水を供給することを特徴とする。
【0018】
請求項4の有機硫黄化合物含有排水の処理装置は、請求項3において、有機硫黄化合物含有排水を分注しない好気性生物反応槽は、最前段の該反応槽であることを特徴とする。
【0019】
請求項5の有機硫黄化合物含有排水の処理装置は、請求項1ないし4のいずれか1項において、好気性生物反応槽は、生物担体を添加した曝気槽であることを特徴とする。
【0020】
請求項6の有機硫黄化合物含有排水の処理装置は、請求項1ないし5のいずれか1項において、有機硫黄化合物含有排水を分注する該反応槽にpH調整手段を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の有機硫黄化合物含有排水の処理装置によれば、直列に配置した複数の好気性生物反応槽に有機硫黄化合物含有排水を分注することにより、次のような作用機構で臭気を低減することができる。
【0022】
即ち、有機硫黄化合物含有排水を分注することで、注入される反応槽あたりのBOD負荷量が低減されるため、反応槽あたりの酸素要求量が低下し、特殊な曝気装置を用いなくても容易に酸素欠乏状態となることを防止できるようになる。例えば、4槽の反応槽を直列に配置した装置において、第1段目の反応槽に有機硫黄化合物含有排水の全量を注入すると各反応槽の必要酸素量は、第1段目:第2段目:第3段目:第4段目=4:2:1:1のように前段に偏り、前段で酸素不足になり易い。これに対して、本発明に従って、第1段目、第2段目、第3段目の反応槽に有機硫黄化合物含有排水を分注すれば、全体としての酸素必要量は変わらなくとも第1段目:第2段目:第3段目:第4段目=2:2:2:2のように必要酸素量が各槽で平均化し、極端に酸素が不足することが起こりにくくなる。このため、酸素不足で還元的雰囲気になることによるDMSやMM等の臭気物質の生成に起因する臭気は軽減される。
【0023】
本発明の有機硫黄化合物含有排水の処理装置は、多段に配置された反応槽に対して、有機硫黄化合物含有排水の分注配管を設けるのみで良く、特殊な曝気装置や排ガス吸引手段等を設ける必要もなく、簡易な設備で低コストに実現することができる。
【0024】
請求項2の有機硫黄化合物含有排水の処理装置によれば、好気性生物反応槽を3槽以上配置し、最後段の反応槽に有機硫黄化合物含有排水を分注しないことにより、有機硫黄化合物のショートパスを防止して有機硫黄化合物を十分に分解除去すると共に、最後段の反応槽に有機硫黄化合物の負荷をかけないことにより、この反応槽では残留TOCを効率的に分解して、得られる処理水のTOCを十分に低減することができる。
【0025】
請求項3の有機硫黄化合物含有排水の処理装置によれば、好気性生物反応槽を3槽以上配置し、有機硫黄化合物含有排水を分注しない反応槽に有機硫黄化合物含有排水以外の他の有機物含有排水を供給することにより、他の有機物含有排水をも同時に処理することができる。この場合において、有機硫黄化合物含有排水を分注しない反応槽に他の有機物含有排水を供給し、有機硫黄化合物含有排水を分注する反応槽には他の有機物含有排水を供給しないことにより、有機硫黄化合物含有排水を分注する反応槽において、有機硫黄化合物資化菌を優勢とし、有機硫黄化合物の分解効率を高めると共に、他の有機物負荷を抑制して酸素不足を防止し、有機硫黄化合物の分解を促進することができ、最終処理水のTOCを十分に低減することができる。
【0026】
請求項4の有機硫黄化合物含有排水の処理装置によれば、生物担体を添加した曝気槽を用いることにより、有機硫黄化合物資化菌を担体に付着させて高濃度に槽内に維持することにより、有機硫黄化合物の分解効率を高めることができる。
【0027】
請求項5の有機硫黄化合物含有排水の処理装置によれば、有機硫黄化合物含有排水を分注する各反応槽でpH調整することにより、有機硫黄化合物の分解によるpHの低下による反応活性の低下を防止して効率的な処理を行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に本発明の有機硫黄化合物含有排水の処理装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0029】
なお、以下においては、有機硫黄化合物含有排水としてDMSO含有排水を処理する場合を例示して本発明を説明するが、本発明はDMSOに限らず、スルホン酸類、その他の有機硫黄化合物を含む排水にも同様に適用することができる。
【0030】
[DMSO含有排水]
本発明で処理対象とするDMSO含有排水は、半導体工場や液晶工場、その他の分野から排出されるDMSOを含む排水であって、DMSOのみを含んでいてもよく、またTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイト)、2−アミノエタノール、イソプロピルアルコールなどを同時に含んでいる排水でも良く、また、DMSO含有排水と他の有機物含有排水とを混合した排水でも良い。また、DMSO含有排水には、高濃度にDMSOを含むもの、希釈されて中濃度、低濃度排水として排出されるものがあるが、いずれも本発明の処理対象となる。
【0031】
[好気性生物反応槽]
本発明において、複数用いられる好気性生物反応槽としては、特に制限はなく、通常使用される任意の生物反応槽が使用できる。
【0032】
例えば、散気装置、機械曝気機などの酸素供給手段を備えた曝気槽に、汚泥(微生物)を浮遊状態で保持した浮遊方式、浮遊汚泥と共に微生物保持担体を存在させた担体添加方式、活性炭などの微生物担体を充填し、固定床を形成した生物濾過方式、充填層を流動化した流動層方式、浮上担体を用いた浮上充填層方式、微生物汚泥層を形成したスラッジブランケット方式など、各種の方式のものを用いることができる。
【0033】
生物担体を用いる場合、担体としては、スポンジ小片、活性炭など任意の担体が使用できる。スポンジは表面積が大きく、内部にまで通水性が優れ、比重が水に近いため、DMSO資化菌を保持するのに好適である。生物担体の添加量は反応槽の容積に対して、見掛け容積で20〜50%程度とすることが好ましい。
【0034】
浮遊方式の反応槽などを用い、処理水と汚泥とを分離する必要がある場合は、例えば、沈殿槽、膜濾過装置などの固液分離手段が付設される。分離した汚泥の一部は、返送汚泥として、最前段の好気性生物反応槽に返送される。生物担体を好気性生物反応槽に投入した場合は、後段の沈殿槽等の固液分離手段を不要とすることもできる。
【0035】
なお、複数用いられる好気性生物反応槽は、すべて同型式の反応槽である必要はなく、異なる型式の反応槽を組み合わせて用いても良い。
【0036】
[栄養源]
微生物が活性を維持し、増殖していくには、炭素源、窒素源、リン源が必要であり、さらに各種微量金属も欠くことができない。被処理排水中にこれらの栄養源が存在する場合は添加の必要はないが、DMSO含有排水では通常の場合、窒素、リンを添加する必要がある。
【0037】
窒素源としてはアンモニア化合物、尿素、窒素含有有機化合物など、リン源としてはリン酸塩などを使用できる。また、アンモニアや窒素含有有機化合物等のケルダール窒素成分を含む排水、例えば前述のTMAH排水を窒素源として使用しても良いし、リン酸含有排水をリン源として使用することもできる。
【0038】
通常、被処理排水のBOD:N:Pは100:2.5:0.5〜100:5:1(重量比)となるように、DMSO含有排水に必要に応じて窒素源、リン源を添加して好気性生物反応槽に導入することが好ましい。
【0039】
[好気性処理条件]
曝気槽の処理条件としては、通常、好気性生物反応槽の負荷が0.5kg−BOD/m/日以下、例えば0.3〜0.4kg−BOD/m/日、MLSS3000〜5000mg/L、例えば4000mg/L程度、反応時間1時間以上、例えば2〜8時間で、pHは6.5〜8.5、特に7.0〜8.0となるように調整することが好ましい。
【0040】
DMSO含有排水の処理では、DMSOの分解でpHが低下するため、水酸化ナトリウム等のアルカリや、アルカリ性排水等を添加することにより、上記pHにpH調整を行うことがDMSOの分解効率の維持のために好ましい。このpH調整はDMSO含有排水が分注される反応槽のすべてにおいて行うことが好ましく、場合によっては、DMSO含有排水を分注した反応槽の次の段の、DMSO含有排水を分注していない反応槽においてもpH調整を行うことが好ましい。
【0041】
また、少なくともDMSO含有排水が分注される反応槽の溶存酸素(DO)濃度は0.5mg/L以上、特に1.5mg/L以上、例えば1.5〜2.0mg/Lとなるように曝気を行うことが好ましい。
【0042】
[DMSO含有排水の分注]
本発明のDMSO含有排水の処理装置においては、2槽以上の好気性生物反応槽を、前段の反応槽の流出液が次段の反応槽に供給されるように直列に配置し、DMSO含有排水を2以上の反応槽に分注することを必須とする。
【0043】
この場合、DMSO含有排水を分注する反応槽では、部分的な原水のショートパスが起こり、未処理のDMSO含有排水が一部流出して処理水質が悪くなるおそれがある。このため、このようなショートパスによる水質低下を防止するために、最後段の反応槽にはDMSO含有排水を分注しないことが好ましい。また、後述の如く、本発明の装置の処理水を純水製造用原水として用いる場合のように、特に高水質の処理水を必要とする場合には、DMSO含有排水を分注しない反応槽を2段以上設けること、とりわけ最後段の反応槽と、その直前の反応槽にDMSO含有排水を分注しないことが好ましい。このように最後段の反応槽、或いは更にその直前の反応槽にDMSO含有排水を分注しないことにより、DMSO含有排水のショートパスを防止するのみならず、DMSO含有排水を分注しない反応槽にDMSOでの負荷をかけないことによって、残留TOCの分解効率を高めることができ、これによっても処理水TOCを低減することができる。
【0044】
本発明において、複数直列に接続する反応槽の数には特に制限はなく、処理するDMSO含有排水の水質や必要とされる臭気低減効果、装置設置スペースやコスト等を考慮して適宜決定される。通常の場合、2〜6槽、特に4〜5槽程度の反応槽を設けることが好ましい。
【0045】
装置全体の反応槽容量に対して、DMSO含有排水を分注する反応槽容量の比率を高くする程臭気低減効果を高めることができるが、この比率が過度に高いと原水のショートパスによる処理水の低下の問題が起こり易い。従って、装置全体の反応槽容量に対するDMSO含有排水を分注する反応槽容量の割合は30〜90%、特に50〜80%とすることが好ましい。なお、各反応槽の容量は必ずしも同一である必要はなく異なるものであっても良い。
【0046】
分注するDMSO含有排水の量は、DMSO含有排水を分注する各反応槽のBOD槽負荷が同等となるように調整することが好ましい。従って、各反応槽への原水注入手段は、それぞれ原水流量を調節することができるものであることが好ましく、また、流入水質の変化を検出するためにTOC計や導電率計を設置し、更に、これらの値に基いて各反応槽への流入量を制御できるものとしても良い。また、DMSO含有排水を分注する反応槽にDO計を設置して各反応槽のDO値が平均化するように分注量を制御しても良い。後述の如く、DMSO含有排水と他の有機物含有排水を処理する場合、TOC又は導電率からBODを推定できる場合には、これらの測定値から、各反応槽のBOD負荷が同等となるように注入量を制御することが好ましい。
【0047】
従って、本発明の装置は、反応槽を多段に直列に配置して、原水の分注配管を設けた設計とされるが、DMSO含有排水の水質変動によって、分注する反応槽の数を増減したり、特に一時的にDMSO含有排水のDMSO濃度が低くなった場合には、DMSO含有排水を一つの反応槽にのみ注入するようにすることも可能である。また、他の有機物含有排水の導入の有無に応じて、分注する反応槽を変更するようにすることも可能であり、これらの制御を自動的に行うようにすることも可能である。
【0048】
[その他の有機物含有排水]
本発明の装置では、DMSO含有排水と共に、TMAH含有排水、MEA(モノエタノールアミン)含有排水、酢酸含有排水等、半導体製造工程や液晶パネル製造工程の他工程からの排水といった、他の有機物含有排水を導入して同時に処理し、DMSOと共に他の有機物も分解することができる。
【0049】
この場合、他の有機物含有排水はDMSO含有排水が分注されていない反応槽に導入するのが好ましい。特に他の有機物含有排水を導入する反応槽としては、最前段の反応槽を当てるのがより好ましく、最前段の反応槽に他の有機物含有排水を導入し、DMSO含有排水は2段目以降の反応槽に分注することが特に好ましい。これは、DMSO含有排水を処理する反応槽では、できるだけDMSO資化菌を優勢にするため他の有機物の混在を低減しておくのが望ましく、また、有機物負荷を抑制しておくことにより、酸素不足に陥るのを防止してDMSOの分解を促進するためである。
【0050】
即ち、例えば、TMAH含有排水などのようにTMAH含有排水成分を含む排水は、窒素源となる一方で生物処理により硝酸態窒素に酸化させるための酸素の消費量が多い。従って、このような他の有機物含有排水は、前段の反応槽に導入して、DMSO含有排水を分注する反応槽における酸素消費源とならないようにすることが好ましい。このように、他の有機物含有排水を同時に処理する場合でも、有機物含有排水の導入反応槽とDMSO含有排水の分注反応槽とを区別することにより、最終処理水のTOCを低減するようにするのが好ましい。なお、他の有機物含有排水を注入し、DMSO含有排水を分注しない反応槽は、DMSO含有排水を分注する反応槽ほどDO濃度を高く維持する必要はなく、この反応槽のDO濃度を若干低くして、曝気コストを低減することができる。
【0051】
[処理水の回収]
DMSO含有排水を処理した後、処理水を放流することもできるが、任意の用途に再利用することもできる。例えば、処理水を純水製造の原水として使用する場合は、本発明の装置に続いて、逆浸透膜分離装置などの膜分離装置、混床型純水装置、2床3塔型純水装置、連続式電気脱塩装置などのイオン交換装置、紫外線酸化装置などの酸化装置、活性炭塔などの吸着装置、脱気装置などの各装置を任意に組み合わせて形成した純水製造装置に通水して、純水を得ることができる。
【0052】
この場合、本発明の装置においてできるだけ処理水のTOCを低減して、純水製造装置への負荷を下げておくことが好ましく、従って、処理水TOCをより低減するために、前述の如く、最後段の反応槽にはDMSO排水を分注しない;更には、2段以上DMSO含有排水を分注しない反応槽を設置する;他の有機物含有排水を処理する場合、他の有機物含有排水は最前段の反応槽に注入し、2段目以降の反応槽にDMSO含有排水を分注するといった調整を行うことが好ましい。
【0053】
[具体的な装置構成]
図1〜3は本発明のDMSO含有排水の処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【0054】
図1〜3の装置は、いずれも4槽の好気性生物反応槽(曝気槽)1〜4を直列に配置し、第1曝気槽1の流出液を配管21より第2曝気槽2へ導入し、第2曝気槽2の流出液を配管22より第3曝気槽3へ導入し、第3曝気槽3の流出液を配管23より第4曝気槽4へ導入し、第4曝気槽4の流出液を配管24より沈殿槽5へ導入し、沈殿槽5の上澄水を配管25より処理水として系外へ排出し、沈殿槽5の分離汚泥の一部を配管26より余剰汚泥として系外へ排出し、残部を配管20より返送汚泥として第1曝気槽1に返送するようにしたものである。なお、図3の装置では、各曝気槽1〜4に生物担体6が投入されている。
【0055】
図1の装置では、配管10より導入されたDMSO含有排水は、配管11,12,1314より各曝気槽1〜4に分注される。この装置では、DMSO含有排水が4槽の曝気槽に分注されることにより、臭気の低減が図れる。
【0056】
図2の装置では、配管10より導入されたDMSO含有排水は、配管11,12,13より最後段の第4曝気槽4以外の曝気槽1〜3に分注される。図2の装置では、DMSO含有排水が最後段以外の3槽の曝気槽に分注されることにより、臭気の低減と共に処理水質の向上が図れる。
【0057】
図3の装置では、配管30より導入されたTMAH含有排水が第1曝気槽1に注入され、配管10より導入されたDMSO含有排水は、配管12,13により、この第1曝気槽1と第4曝気槽4以外の第2,3曝気槽2,3に導入される。図3の装置では、DMSO含有排水と共にTMAH含有排水を処理することができ、この場合において、TMAH含有排水を窒素源として有効利用することができる。また、TMAH含有排水を、DMSO含有排水を分注する曝気槽とは異なるそれよりも前の曝気槽に注入し、DMSO含有排水を、TMAH含有排水を注入する曝気槽と最後段の曝気槽以外に分注すると共に、生物担体を用いたことにより、臭気の低減と共に、処理水質の低減、安定化を図ることができる。
【実施例】
【0058】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0059】
なお、以下の実施例及び比較例で用いた第1〜第4曝気槽1〜4はいずれも容量:100L、MLSS:4000mg/L、DO:0.1〜2.5mg/Lのものであり、pHが7.0〜8.0となるように調整した。沈殿槽5は分離面積:0.5mで、沈殿槽5から第1曝気槽1への返送汚泥量は1440L/日とした。
【0060】
また、原水としたDMSO含有排水の水質は下記の通りであり、原水の処理量は1440L/日とした。
[DMSO含有排水]
溶解性TOC:45.2mg/L
DMSO:62.3mg/L
ケルダール窒素:0.5mg/L
【0061】
実施例1
図1に示す装置で原水を第1〜4曝気槽1〜4の各曝気槽に15L/hずつ分注して処理を行った。なお、原水には、TOCの3倍をBODと仮定してBOD:N:Pが100:5:1(重量比)となるように窒素、リンを添加して通水を行った。
得られた処理水の水質と各曝気槽排気中のDMS濃度を調べ、結果を表1に示した。
【0062】
実施例2
図2に示す装置を用い、原水を第1〜第3曝気槽1〜3に20L/hずつ分注したこと以外は実施例1と同様にして処理を行い、得られた処理水の水質と各曝気槽排気中のDMS濃度を表1に示した。
【0063】
実施例3
図3に示すように、各曝気槽1〜4に、3mm角のスポンジを見掛け容量で槽容量の30%添加した装置を用い、原水を第2〜第3曝気槽2,3に30L/hずつ分注すると共に、下記水質のTMAH含有排水を第1曝気槽1に供給し、原水にTOCの3倍をBODと仮定してBOD:Pが100:1(重量比)となるようにリンを添加したこと以外は実施例1と同様にして処理を行い、得られた処理水の水質と各曝気槽排気中のDMS濃度を表1に示した。
[TMAH含有排水]
溶解性TOC:32.8mg/L
TMAH:53.8mg/L
ケルダール窒素:12.3mg/L
【0064】
比較例1
原水をすべて第1曝気槽1に注入したこと以外は実施例1と同様にして処理を行い、得られた処理水の水質と各曝気槽排気中のDMS濃度を表1に示した。
【0065】
比較例2
原水をすべて第1曝気槽1に注入したこと以外は実施例3と同様にして処理を行い、得られた処理水の水質と各曝気槽排気中のDMS濃度を表1に示した。
【0066】
【表1】

【0067】
表1より次のことが明らかである。
【0068】
比較例1に比べて実施例1,2とも臭気が大幅に低減され、特に実施例2では比較例1と同等の良好な処理水質が得られている。
【0069】
また、比較例2に比べて実施例3では臭気が大幅に低減され、同等の良好な処理水質が得られている。
【0070】
これらの結果から、本発明によれば、簡易な処理設備で悪臭の発生を抑制し、安定した処理水質が得られることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の有機硫黄化合物含有排水の処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【図2】本発明の有機硫黄化合物含有排水の他の処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【図3】本発明の有機硫黄化合物含有排水の別の処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【符号の説明】
【0072】
1 第1曝気槽
2 第2曝気槽
3 第3曝気槽
4 第4曝気槽
5 沈殿槽
6 担体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機硫黄化合物含有排水を好気性生物反応槽に導入して処理する装置において、2槽以上の好気性生物反応槽を、前段の該反応槽の流出液を次段の該反応槽に供給するように直列に配置し、有機硫黄化合物含有排水を複数の該反応槽に分注するようにしたことを特徴とする有機硫黄化合物含有排水の処理装置。
【請求項2】
請求項1において、好気性生物反応槽は3槽以上配置され、少なくとも最後段の該反応槽には有機硫黄化合物含有排水を分注しないことを特徴とする有機硫黄化合物含有排水の処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、好気性生物反応槽は3槽以上配置され、少なくともいずれか一つの該反応槽には有機硫黄化合物含有排水を分注せず、有機硫黄化合物含有排水を分注しない該反応槽に有機硫黄化合物含有排水以外の有機物含有排水を供給することを特徴とする有機硫黄化合物含有排水の処理装置。
【請求項4】
請求項3において、有機硫黄化合物含有排水を分注しない好気性生物反応槽は、最前段の該反応槽であることを特徴とする有機硫黄化合物含有排水の処理装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、好気性生物反応槽は、生物担体を添加した曝気槽であることを特徴とする有機硫黄化合物含有排水の処理装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、有機硫黄化合物含有排水を分注する該反応槽にpH調整手段を設けたことを特徴とする有機硫黄化合物含有排水の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−142192(P2006−142192A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−334793(P2004−334793)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】