説明

有機薄膜形成基材の製造方法

【課題】種々の組成物を用いた有機薄膜を、低コストでパターン精度よく形成してなる有機薄膜形成基材の製造方法を提供する。
【解決手段】基材1上に有機薄膜4を形成してなる有機薄膜形成基材11の製造方法であって、有機薄膜4の構成材料を凍結させた粉体状固化物2を準備し、静電界Fによって粉体状固化物2を基材1上に移行させ、基材1上に移行させた粉体状固化物2に第1の熱H1を与えて粉体状固化物2を融解し、融解してなる融解物3に第2の熱H2を与えて有機薄膜4を形成する。第1の熱H1を与えて粉体状固化物2を融解する前に、有機薄膜4の非形成部に移行した粉体状固化物を取り除くことができ、また、粉体状固化物2の基材1上への移行を静電スクリーン印刷法でパターン状に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜が形成されてなる有機薄膜形成基材の製造方法に関する。さらに詳しくは、凍結した粉体状固化物を静電印刷等で基材上に移行させ、その後に熱を与えて有機薄膜を形成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
基材上への有機薄膜の形成手段には、有機化合物を蒸着させたりするドライプロセスや、有機化合物を含むインキを塗布するウェットプロセスがある。特にウェットプロセスによる有機薄膜は、スピンコート法、インクジェット法、印刷法、ディスペンサー法等での成膜が可能であり、低コストで生産性が高いという利点から多方面で広く応用されている。
【0003】
近年、有機半導体層を利用した電子素子や有機EL層を利用した有機EL素子等の機能素子では、より高い特性を達成させるために、種々の有機化合物を組み合わせた組成物の利用が検討されている。例えば、不安定な有機化合物を含む組成物、反応性成分を含む組成物、2種の成分を混合した後に他の反応性成分と反応させたい組成物、等が検討されている。
【0004】
なお、関連する先行技術文献を以下に挙げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−31124号公報
【特許文献2】特開2005−144935号公報
【特許文献3】特開2003−182024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した一般的な有機薄膜の成膜手段では、前記組成物を用いて薄膜を成膜することは容易ではなく、優れた膜特性を示す有機薄膜の実現が困難であった。また、有機薄膜は印刷法やインクジェット法でのパターン形成が可能であり、ドライプロセスで成膜した後にフォトリソグラフィでパターニングする場合に比べて低コスト化が可能であるが、そのパターン精度は十分でないという難点がある。さらに、その場合、不要な箇所に形成した場合の修正や所定パターン以外の箇所に形成した場合の修正が可能であればよいが、そうした修正も困難である。
【0007】
本発明は、上記した問題を解決するためになされたものであって、その目的は、種々の組成物を用いた有機薄膜を、低コストでパターン精度よく形成してなる有機薄膜形成基材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明に係る有機薄膜形成基材の製造方法は、基材上に有機薄膜を形成してなる有機薄膜形成基材の製造方法であって、前記有機薄膜の構成材料を凍結させた粉体状固化物を準備し、静電界によって前記粉体状固化物を基材上に移行させ、基材上に移行させた前記粉体状固化物に第1の熱を与えて該粉体状固化物を融解し、融解してなる融解物に第2の熱を与えて前記有機薄膜を形成する、ことを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、有機薄膜の構成材料を凍結させた粉体状固化物を静電界によって基材上に移行させるので、例えば静電スクリーン印刷や静電潜像を与えたグラビア印刷等によって容易にパターン形成できる。また、基材上に移行させた粉体状固化物に第1の熱を与えて融解させることによって、構成材料の融解物を基材上に存在させることができる。そして、第2の熱を与えることにより、構成材料の融解物から有機薄膜を形成することができる。こうした本発明によれば、全面に有機薄膜を形成した後にフォトリソグラフィでパターニングする場合に比べて工数を削減でき、また、有機薄膜の構成材料の節約もでき、低コスト化を図ることができる。また、不安定な有機化合物を含む組成物、反応性成分を含む組成物、2種の成分を混合した後に他の反応性成分と反応させたい組成物等の、種々の組成物を用いた有機薄膜の形成に応用でき、高性能の有機薄膜の開発に応用することができる。
【0010】
本発明に係る有機薄膜形成基材の製造方法において、前記第1の熱を与えて前記粉体状固化物を融解する前に、有機薄膜の非形成部に移行した粉体状固化物を取り除く。
【0011】
この発明によれば、有機薄膜の非形成部に移行した粉体状固化物を、第1の熱を与えて粉体状固化物を融解する前に取り除くので、不要な箇所や所定パターン以外の箇所に移行させた粉体状固化物を、高精度でパターニング可能なフォトリソグラフィを適用することなく除去することができる。その結果、低コストでのパターン修正を行うことができる。
【0012】
本発明に係る有機薄膜形成基材の製造方法において、前記粉体状固化物の基材上への移行を、静電スクリーン印刷法でパターン状に行う。
【0013】
この発明によれば、静電スクリーン印刷法を適用することにより、容易かつ低コストでパターン印刷することができる。
【0014】
本発明に係る有機薄膜形成基材の製造方法において、(i)前記第1の熱で一定温度に保持することなく前記第2の熱を与えることにより、前記粉体状固化物を融解するのと同時に有機薄膜を形成する、又は、(ii)前記第1の熱で一定温度に保持することにより前記粉体状固化物を融解し、その後、前記第2の熱を与えることにより有機薄膜を形成する。
【0015】
これらの発明は、第1の熱の付与の仕方の違いを特定したものであり、前者は、第1の熱で一定温度に保持しないで第2の熱を付与して温度を上昇させ、成膜温度にまで到達させた態様であり、一方、後者は、第1の熱で一定温度に保持して融解物として一定時間存在させ、その後第2の熱を付与して温度を上昇させ、成膜温度にまで到達させた態様である。前者の場合は、有機化合物を溶媒で溶解した比較的単純な組成物を用いて有機薄膜を形成する場合に適用されることが好ましく、後者の場合は、融解物として一定温度で一定時間存在させている間に、混合、反応等の操作が入る場合、又は所定パターンに濡れ広がらせたりレベリングさせたりする場合に適用されることが好ましい。
【0016】
本発明に係る有機薄膜形成基材の製造方法においては、各種の組成物を粉体状固化物とした場合に適用でき、例えば以下の(ア)〜(エ)の態様で有機薄膜を形成できる。
【0017】
(ア)前記粉体状固化物が、前記有機薄膜の構成材料と溶媒とを含む組成物を凍結したものであって、前記第1の熱によって前記粉体状固化物を融解し、その後、前記第2の熱によって前記溶媒を揮発させて前記有機薄膜を形成する、
(イ)前記粉体状固化物が、前記有機薄膜を形成する2以上の異なる成分を含む組成物を凍結したものであって、前記第1の熱によって前記粉体状固化物を融解し、その後、前記第2の熱によって前記組成物中の2以上の成分を反応(架橋、熱硬化等)させて前記有機薄膜を形成する、
(ウ)前記粉体状固化物が、前記有機薄膜を形成する2以上の成分をそれぞれ含む組成物を凍結して得た2種以上の粉体状固化物の混合物であって、前記第1の熱によって前記2種以上の粉体状固化物を融解し、その後、前記第2の熱によって前記融解物に含まれる前記2以上の成分を反応させて前記有機薄膜を形成する、
(エ)前記粉体状固化物が、前記有機薄膜を形成する3以上の成分をそれぞれ含む組成物を凍結して得た3種以上の粉体状固化物の混合物であって、前記第1の熱と前記第2の熱との間で、前記3種以上の粉体状固化物のうちの少なくとも2種の粉体状固化物を融解して混合し、その後、他の粉体状固化物を融解して混合又は反応させて前記有機薄膜を形成する、
ように構成できる。
【0018】
これら(ア)〜(エ)の発明によれば、各種の組成物から有機薄膜を形成できるので、例えば、不安定な有機化合物を含む組成物、反応性成分を含む組成物、2種の成分を混合した後に他の反応性成分と反応させたい組成物等の、種々の組成物を用いた有機薄膜の形成に応用でき、高性能の有機薄膜の開発に応用することができる。
【0019】
本発明に係る有機薄膜形成基材の製造方法において、前記粉体状固化物を、前記組成物の急冷却によって形成する。
【0020】
この発明によれば、有機薄膜の構成材料を含む組成物を急冷却して粉体状固化物とすることができるので、単一種の構成材料からなる粉体状固化物を用いてもよいし、異なる化合物を含む組成物で複数種の粉体状固化物を形成し、それぞれの粉体状固化物を混ぜた混合物を用いてもよい。その結果、融解するまで安定な固化物として保存することも可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る有機薄膜形成基材の製造方法によれば、有機薄膜の構成材料を凍結させた粉体状固化物を静電界によって基材上に移行させるので、容易にパターン形成できる。また、全面に有機薄膜を形成した後にフォトリソグラフィでパターニングする場合に比べて工数を削減でき、また、有機薄膜の構成材料の節約もでき、低コスト化を図ることができる。また、不安定な有機化合物を含む組成物、反応性成分を含む組成物、2種の成分を混合した後に他の反応性成分と反応させたい組成物等の、種々の組成物を用いた有機薄膜の形成に応用でき、高性能の有機薄膜の開発に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る有機薄膜形成基材の製造方法の原理の説明図である。
【図2】本発明に係る有機薄膜形成基材の製造工程のフローチャート図である。
【図3】静電スクリーン印刷の一例を示す模式図である。
【図4】静電潜像を利用したグラビア印刷の一例を示す模式図である。
【図5】凍結手段の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明に係る有機薄膜形成基材の製造方法について、図面を参照して詳しく説明する。なお、本発明は、その技術的特徴を有すれば種々の変形が可能であり、以下に具体的に示す実施形態に限定されるものではない。
【0024】
本発明に係る有機薄膜形成基材の製造方法は、図1及び図2に示すように、基材1上に有機薄膜4を形成してなる有機薄膜形成基材11の製造方法である。そして、その特徴は、有機薄膜4の構成材料を凍結させた粉体状固化物2を準備し、静電界Fによって粉体状固化物2を基材1上に移行させ、基材1上に移行させた粉体状固化物2に第1の熱H1を与えて粉体状固化物2を融解し、融解してなる融解物3に第2の熱H2を与えて有機薄膜4を形成することにある。
【0025】
以下、本発明の製造方法を工程毎に詳しく説明する。
【0026】
[基材の準備]
基材1は特に限定されず、有機薄膜の形成対象となる各種の基材を適用できる。例えば、ガラス、石英、各種酸化物等の無機基材;銅、アルミニウム、スチール等の金属基材;フッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエステル、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、液晶性ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリミクロイキシレンジメチレンテレフタレート、ポリオキシメチレン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアクリレート、アクリロニトリル−スチレン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、シリコーン樹脂、非晶質ポリオレフィン等の有機基材;等を挙げることができる。また、繊維製品、革製品、紙製品等であってもよい。基材の形状や大きさについても特に限定されず、平面はもちろん、凹凸形状であってもよいし、曲面形状や矩形形状の立体形状であってもよい。また、硬いものであっても、柔らかいものであってもよい。工業製品用途の場合には、連続的に有機薄膜を形成できるシート状やフィルム状の基材であってもよいし、枚葉状の基材であってもよい。
【0027】
[粉体状固化物の準備]
粉体状固化物2は、有機薄膜4の構成材料を含む組成物を凍結させたものである。
【0028】
(組成物)
組成物は、有機薄膜4の構成材料を含んでいる。構成材料は、単一の有機化合物であっても、二以上の有機化合物であってもよい。また、組成物は必要に応じて溶媒、分散剤、凝固剤その他を含んでいてもよい。また、構成材料は、一の組成物内に全て含まれていてもよいし、二以上の組成物内に分けて含まれていてもよい。組成物は、溶媒を含む場合のように流動性の高い溶液状のものであってもよいし、溶媒が少ないか又は含まず、流動性があまり高くないものであってもよい。
【0029】
組成物としては、(ア)有機薄膜4の構成材料と溶媒とを含む組成物、(イ)有機薄膜4を形成する2以上の異なる成分を含む組成物、(ウ)有機薄膜4を形成する2以上の成分をそれぞれ含む2以上の組成物、(エ)有機薄膜4を形成する3以上の成分をそれぞれ含む組成物、等を挙げることができるが、これら以外の組成物であってもよい。
【0030】
有機薄膜4の構成材料は、その有機薄膜4の用途に応じて各種のものを例示できる。例えば、有機EL用の有機薄膜であれば有機EL材料を例示でき、薄膜トランジスタ用の有機薄膜であれば絶縁層形成材料を例示でき、太陽電池用の有機薄膜であれば光電変換層形成材料を例示でき、バイオ関連の有機薄膜であれば有機細胞膜を例示できる。これらの材料を用いれば、有機EL層、薄膜トランジスタの絶縁層、太陽電池の光電変換層、有機細胞膜等をそれぞれ形成することができる。
【0031】
薄膜トランジスタ用の絶縁層形成材料の代表例としては、無機物についてはゾルゲル反応による二酸化ケイ素等が挙げられ、有機物についてはポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン等が挙げられる。また、活性層の代表的な材料としては、低分子についてはルブレン、テトラセン、ペンタセン、ペリレンジイミド(PTCDI)、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)等が挙げられ、高分子についてはポリチオフェン、特にポリ3ヘキシルチオフェン(P3HT)や、ポリフルオレン、ポリジアセチレン、ポリ2,5チエニレンビニレン、ポリ−パラフェニレンビニレン(PPV)等が挙げられる。
【0032】
また、太陽電池用の光電変換層形成材料の代表例としては、微量のルテニウム錯体等の色素を吸着させた二酸化チタン材料、電解質導電性ポリマー、フラーレン、CdSeからできた量子ドットを挙げることができる。また、量子ドットのIII族・III−V族化合物半導体としては、III族(13族)元素としてアルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)が挙げられ、V族(15族)元素として窒素(N)、リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)が挙げられる。この他、ボロン(B)、タリウム(Tl)、ビスマス(Bi)もそのIII−V族化合物半導体を構成する元素とすることができる。また、V族元素として窒素を用いた窒化物半導体であるGaN(窒化ガリウム)、AlN(窒化アルミニウム)、InN(窒化インジウム)等を挙げることもできる。また、II−V族化合物半導体としては、II族元素とVI族元素を用いた半導体を用いることができ、II族元素としてはマグネシウム、亜鉛、カドミウム、水銀が挙げられ、VI族元素としては酸素、硫黄、セレン、テルルが挙げられる。
【0033】
バイオ関連の有機細胞膜としては、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)等への応用も可能であろう。なお、有機EL用の有機EL材料については後述する。
【0034】
溶媒は、例えば、有機薄膜4の構成材料を溶解又は分散するものとして組成物内に必要に応じて含まれる。その溶媒としては、第1の熱H1が与えられて上昇した所定の温度で融解するものが好ましい。具体的には、ベンゼン、ヘキサン等の非極性溶媒であっても、水、アルコール等の極性溶媒であってもよい。また、水等の無機溶剤であっても、アルコール、キシレン、ケトン、エーテル、エステル、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素等の有機溶剤であってもよい。これらの溶媒を含む組成物を用いる場合には、第2の熱H2によって到達した有機薄膜の成膜温度では、その溶媒が揮発等して有機薄膜を成膜することが好ましい。
【0035】
分散剤は、組成物中の有機化合物を分散させるためのものであり、従来公知の各種のものを用いることができる。例えば、アニオン性、カチオン性又はノニオン性の界面活性剤や、ヘキサメタリン酸ナトリウム等の一般的な分散剤を用いることができる。また、凝固剤は、構成材料をゲル状等にするものであり、一般的なものを用いることができる。なお、これらの分散剤や凝固剤、その他の配合物質は、本発明の製造方法の趣旨を阻害しない範囲で含有させることができる。
【0036】
(凍結手段)
組成物の凍結は、粉体状固化物2が得られる凍結手段であればよく、種々の凍結手段を用いることができる。具体的な凍結装置としては、例えば、図5に示すように、スプレードライヤー型の凍結装置40を用いることができる。一般的なスプレードライヤーは、組成物、スラリー等の液状原料又は半流動性原料を噴霧・微粒化させ、乾燥室中で高温気流と接触させて瞬間的に球状の粉粒体に造粒乾燥を行う装置である。本発明では、こうしたスプレードライヤーの乾燥室の代わりに、液体窒素、液体酸素、液体二酸化炭素等の冷却媒体44を充填させた冷却槽43を用いる。その冷却槽43中の冷却媒体44中に組成物41を滴下又は噴霧42することによって、組成物41を冷却媒体44で凍結してなる粉体状固化物2を得ることができる。なお、ここではスプレードライヤー型の凍結装置を説明したが、それ以外のものであってもよい。
【0037】
粉体状固化物2は、流動性又は半流動性の組成物を冷却媒体中に滴下して得ることができる。また、ロータリーアトマイザーをはじめとし、加圧ノズル、二流体ノズルの各噴霧装置から冷却媒体中に噴霧することによっても得ることができる。こうした滴下又は噴霧42によって、組成物41を急冷却することができ、球形の粉体状固化物2が容易に得ることができる。なお、図5に示すように、凍結した粉体状固化物2は、その下方の捕集容器45で捕集できる、その捕集容器45は、取外部材46で冷却槽43から外すことができる。
【0038】
粉体状固化物2の形状は、球形であることが好ましい。粉体状固化物2を球形とすることにより、同一体積の粉体状固化物2を篩で分別することができる。分別した粉体状固化物2を用いることにより、有機薄膜4の成膜時の膜厚制御を容易にすることができる。
【0039】
このように、有機薄膜4の構成材料を含む組成物を冷却媒体中に滴下又は噴霧して急冷却することにより、凍結した粉体状固化物2とすることができる。粉体状固化物2は、単一種の構成材料からなる粉体状固化物であってもよいし、異なる化合物を含む組成物で複数種の粉体状固化物を形成し、それぞれの粉体状固化物を混ぜた混合物であってもよい。凍結した粉体状固化物2は、第1の熱H1によって到達した所定の温度で融解するまで、安定な固化物として保存することができる。なお、その温度以下とすれば、長期間保存することができる。
【0040】
[静電界での移行]
次に、図1に示すように、静電界Fによって粉体状固化物2を基材1上に移行させる。静電界Fによる移行手段としては種々の方法を採用できる。一例としては、静電スクリーン印刷(図3参照)、静電フラットスクリーンの印刷、静電グラビア印刷(図4参照)等を採用できる。
【0041】
(移行手段)
静電スクリーン印刷は、図3に示すように、一般的なスクリーン印刷と同様にしてスクリーン21(金網)にパターン(画像)を作り、そのスクリーン21を基材23の上方に所定の間隔を空けて配置し、スクリーン21と基材23との間に直流電圧を印加する。なお、基材23が非導電性の場合には、基材23を置くステージ24を導電部材とし、そのステージ24に電圧を印加する。この静電スクリーン印刷では、コロナ放電又は摩擦帯電等により、スクリーン21と同符号に帯電した粉体状固化物2は、スクリーン21の画像部の目を通って対電極側に引っ張られ、スクリーン21と対電極との間にある基材23上に、粉体状固化物2を所望のパターン25で載せることができる。こうした静電スクリーン印刷は、基材23の形状に制限なく、立体形状を含む種々の形状からなる基材上や、柔らかい基材上等にも印刷することができるという利点がある。なお、摩擦帯電は、図3中に示す印刷ブラシ22を移動することにより接触摩耗して摩擦帯電する。
【0042】
静電フラットスクリーン印刷は、帯電させた粉体状固化物を静電気力で飛翔させ、フラットスクリーン版を通して基材上に付着させる方法である。なお、フラットスクリーン版を通した粉体状固化物を、転写体上に印刷し、その転写体から基材上に印刷することもできる。
【0043】
静電グラビア印刷は、図4に示すように、ドラム31の表面を所定のパターンに帯電(静電潜像)させ、そのドラム31に逆極性に帯電した粉体状固化物2を供給すると、静電潜像部に粉体状固化物2が付着する。付着した粉体状固化物2を基材1面に印刷すれば、所望のパターンを基材面に印刷することができる。
【0044】
詳しくは、図4に示すように、ドラム31の表面に、所定のパターンからなる静電潜像を形成する。ドラム31の回りには、除電部36、帯電電極33、静電潜像形成部32、粉体状固化物の収容部34が配置されている。また、被印刷物である基材1の裏側(下方)には、転写電極35が設けられている。この転写電極35は、ドラム31に一度移行させた粉体状固化物2を基材1に再移行又は転写するために利用される。また、被印刷物である基材1に移行させた後には、第1の熱の付与装置37と第2の熱の付与装置38が設けられている。
【0045】
図4に示すように、ドラム31上に形成された所定パターンの静電潜像に粉体状固化物2が静電界Fによって移行し、その粉体状固化物2がドラム31から基材1状に転写される。その後、転写された粉体状固化物2は、第1の熱H1の付与装置37で融解して融解物3となり、その後、第2の熱H2の付与装置38で有機薄膜4が成膜される。
【0046】
静電界Fを用いたこれらの各手段により、容易かつ低コストで基材1上にパターン印刷することができる。このように、有機薄膜の構成材料を粉体状固化物2として所定のパターンで基材1上に設けることができるので、後の工程で第1の熱H1を与えて粉体状固化物2を融解し、さらに第2の熱H2を与えて所定のパターンの有機薄膜4を形成することが可能となる。
【0047】
本発明では、静電界を利用し、基材1上に粉体状固化物2を所定のパターンで移行させるが、その基材1には、セル又は溝等の凹部が形成されていてもよいし、任意のパターンで接着剤層が形成されていてもよい。また、後述する融解によって粉体状固化物2が液状の融解物3になった場合、その液状の融解物3が、基材1の所定領域以外に流出しないように基材表面に撥液性加工や濡れ性変化層等を予めパターン状に形成してもよい。
【0048】
粉体状固化物2の基材上への移行は、粉体状固化物2が溶解しない環境下で行うことが好ましい。これにより、粉体状固化物2の取り扱いが容易になる。また、粉体状固化物2に水分等の液体状態のものが付着しないように、不活性ガスや窒素ガス等を作業雰囲気に充填させ、水分等の液体状態のものが除去された環境下で行うことが好ましい。なお、粉体状固化物2が溶解しない環境は、粉体状固化物2の種類によって異なるので一概に言えないが、例えば、各種の液化ガスのような低温環境下で行うことが好ましい。
【0049】
(パターン修正)
本発明では、インキ等の液状物を基材に移行させるものではないので、後述する第1の熱H1を与えて粉体状固化物2を融解する前に、有機薄膜4を形成する必要のない箇所(非形成部A2という。)に移行した粉体状固化物2を取り除いてパターン修正を行うこともできる。こうした修正手段を適用することにより、不要な箇所や所定パターン以外の箇所に移行させた粉体状固化物2を、高精度マスクを用いたフォトリソグラフィを適用することなく除去することができるので、低コストでのパターン修正を行うことができる。
【0050】
[融解]
次に、基材1上に移行させた粉体状固化物2に第1の熱H1を与えて粉体状固化物2を融解する。粉体状固化物2は、有機薄膜4の構成材料の組成物を凍結して固体化したものであるので、熱を与えて所定の温度に到達させることにより、粉体状固化物2を融解させて液化できる。与える第1の熱H1の熱量は、粉体状固化物2をどの程度の温度に到達させるかによって異なる。その温度は、構成材料の種類によって異なるので一概に言えないが、通常、−160〜+25℃の範囲内の温度である。融解させた融解物3は、液状となり、基材1上に濡れ広がる等して付着する。
【0051】
また、融解した融解物3は、上記した凹凸内、接着剤層上、撥液性加工や濡れ性変化層での領域規制、によって、所定のパターンで基材1上に存在させることができる。
【0052】
[有機薄膜の形成]
次に、融解してなる融解物3に第2の熱H2を与えて有機薄膜4を形成する。有機薄膜4は、融解物3に第2の熱H2が与えられてその融解物3が所定の温度に上昇して成膜される。その温度は、融解物3内の構成材料によって異なるので一概に言えないが、通常、有機化合物が分解する温度以下で行われる。
【0053】
第2の熱H2の与え方と上記した第1の熱H1の与え方とにより種々の態様とすることができる。例えば、(i)第1の熱H1で一定温度T1に保持することなく第2の熱H2を与えることにより、粉体状固化物2を融解するのと同時に有機薄膜4を形成するようにしてもよいし、(ii)第1の熱H1で一定温度T1に保持することにより粉体状固化物2を融解し、その後、第2の熱H2を与えることにより有機薄膜4を形成するようにしてもよい。
【0054】
これら(i)(ii)の手段は、第1の熱H1の付与の仕方の違いを特定したものであり、(i)は、第1の熱H1で一定温度に保持しないで第2の熱H2を付与して温度を上昇させ、成膜温度にまで到達させた態様であり、一方、(ii)は、第1の熱H1で一定温度に保持して融解物3として一定時間存在させ、その後第2の熱H2を付与して温度を上昇させ、成膜温度にまで到達させた態様である。(i)の場合は、有機化合物を溶媒で溶解した比較的単純な組成物を用いて有機薄膜4を形成する場合に適用されることが好ましく、(ii)の場合は、融解物3として一定温度で一定時間存在させている間に、混合、反応等の操作が入る場合、又は所定パターンに濡れ広がらせたりレベリングさせたりする場合に適用されることが好ましい。
【0055】
また、粉体状固化物2の構成を以下の(ア)〜(エ)のようにすることにより、第1の熱H1と第2の熱H2との役割を変えてもよい。
【0056】
(ア)粉体状固化物2が、有機薄膜4の構成材料と溶媒とを含む組成物41を凍結したものである場合、第1の熱H1によって粉体状固化物2を融解し、その後、第2の熱H2によって溶媒を揮発させて有機薄膜4を形成する。これは、比較的単純な構成材料を含む組成物の場合の例であり、溶媒を揮発させて有機薄膜4を成膜させることができる。
【0057】
(イ)粉体状固化物2が、有機薄膜4を形成する2以上の異なる成分を含む組成物41を凍結したものである場合、第1の熱H1によって粉体状固化物2を融解し、その後、第2の熱H2によって組成物41中の2以上の成分を反応(架橋、熱硬化等)させて有機薄膜4を形成する。これは、例えば第2の熱H2で融解物3中の2以上の成分を反応させるというものであり、その第2の熱H2が反応に関与する熱(温度)として与えられることになる。
【0058】
(ウ)粉体状固化物2が、有機薄膜4を形成する2以上の成分をそれぞれ含む組成物41を凍結して得た2種以上の粉体状固化物2A,2B,…の混合物2’である場合、第1の熱H1によって2種以上の粉体状固化物2A,2B,…を融解し、その後、第2の熱H2によって融解物3に含まれる前記2以上の成分を反応させて有機薄膜4を形成する。これは、凍結前の組成物では反応したりして混合することができない複数の化合物を用いて有機薄膜を形成する場合等に適用できる。
【0059】
(エ)粉体状固化物2が、有機薄膜4を形成する3以上の成分をそれぞれ含む組成物41を凍結して得た3種以上の粉体状固化物2A,2B,2C,…の混合物である場合、第1の熱H1と第2の熱H2との間で、前記3種以上の粉体状固化物2A,2B,2C,…のうちの少なくとも2種の粉体状固化物を融解して混合し、その後、他の粉体状固化物を融解して混合又は反応させて有機薄膜4を形成する。これは、上記した(ア)と(イ)の場合と、上記した(ウ)の場合とを複合したものであり、構成材料の一部に反応性の成分を含む場合に適用できる。
【0060】
これら(ア)〜(エ)の態様とすることにより、各種の組成物から有機薄膜4を形成できる。例えば、不安定な有機化合物を含む組成物、反応性成分を含む組成物、2種の成分を混合した後に他の反応性成分と反応させたい組成物等の、種々の組成物を用いた有機薄膜4の形成に応用でき、高性能の有機薄膜の開発に応用することができる。
【0061】
以上説明したように、本発明に係る有機薄膜形成基材11の製造方法によれば、有機薄膜4の構成材料を凍結させた粉体状固化物2を静電界Fによって基材1上に移行させるので、例えば静電スクリーン印刷や静電潜像を与えたグラビア印刷等によって容易にパターン形成できる。また、基材1上に移行させた粉体状固化物3に第1の熱H1を与えて融解させることによって、構成材料の融解物3を基材1上に存在させることができる。そして、第2の熱H2を与えることにより、構成材料の融解物3から有機薄膜4を形成することができる。こうした本発明によれば、全面に有機薄膜4を形成した後にフォトリソグラフィでパターニングする場合に比べて工数を削減でき、また、有機薄膜4の構成材料の節約もでき、低コスト化を図ることができる。また、不安定な有機化合物を含む組成物、反応性成分を含む組成物、2種の成分を混合した後に他の反応性成分と反応させたい組成物等の、種々の組成物を用いた有機薄膜の形成に応用でき、高性能の有機薄膜の開発に応用することができる。
【0062】
[有機EL層の形成]
次に、有機EL層の形成を例にして説明する。本発明に係る有機薄膜形成基材の製造方法は、有機EL層の形成にも好ましく適用できる。有機EL層の形成に本発明を適用することにより、今まで不安定で使用できない場合や、高価な材料で全面塗布した後にパターニングする成膜手段をとれなかった場合に特に有効である。
【0063】
有機EL層の形成手順としては、(A)有機EL層用材料の組成物を凍結し、篩にかけて同量同一粒形の固化物を得、(B)電極(ITO)がパターニングされた基材1に、粉体状固化物2を所定の載置部に置くための凹凸パターンの形成、接着剤層パターンの形成、撥水処理パターンの形成等をして粉体状固化物2のパターン載置と融解後の濡れ広がりを制御する層を任意に成膜し、(C)粉体状固化物2を所定の載置部に静電スクリーン印刷法で移行させ、(D)電極(ITO)がパターニングされた基材1に第1の熱H1を与えて所定温度(粉体状固化物2が融解する温度)にし、(E)融解した融解物3から溶媒を揮発させたり反応させたりして有機EL層を形成する。なお、その後においては、金属電極や封止層を形成して有機EL素子を作製できる。
【0064】
有機EL素子の作製にあたっては、有機EL層の他、有機EL素子を構成する他の層(絶縁層、隔壁層、電極、封止層等)も本発明を適用可能なものであれば、適用することができる。以下には、有機EL素子を構成する各層の構成材料を例示する。各構成材料は、組成物化でき、溶媒に可溶又は分散されるものであれば特に限定されるものではない。また、樹脂に分散させて溶媒に溶解させてもよい。
【0065】
(有機EL層)
有機EL層は、エレクトロルミネッセンスを起こすものであれば特に限定されない。有機EL層は、さらにその構成要素として、必須の層として発光層を有し、任意の層として、発光層に正孔を輸送する正孔輸送層及び電子を輸送する電子輸送層(これらは纏めて電荷輸送層と呼ぶことがある。)、並びに発光層又は正孔輸送層に正孔を注入する正孔注入層、発光層又は電子輸送層に電子を注入する電子注入層(これらは纏めて電荷注入層と呼ぶことがある。)を設けることができる。これらの有機EL層を構成する材料としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0066】
(発光層用材料)
色素系:シクロペンタジエン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ビラゾリンダイマー等が挙げられる。
【0067】
金属錯体系:アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体等、中心金属にAl、Zn、Be等又はTb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造等を有する金属錯体等が挙げられる。
【0068】
高分子系:ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリフルオレン誘導体等が挙げられる。
【0069】
ドーピング材料:ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾン等が挙げられる。
【0070】
(正孔注入層用材料(陽極バッファー材料))
フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体等が挙げられる。
【0071】
(電子注入層用材料(陰極バッファー材料))
アルミ−リチウム、フッ化リチウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、酸化アルミニウム、酸化ストロンチウム、カルシウム、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0072】
(絶縁層用材料)
有機EL素子には、必要に応じて絶縁層が設けられる。絶縁層は、電極から有機EL層への電荷の供給を止めて、絶縁層が設けられた部分を発光させないために設けられる。このような材料としては、感光性ポリイミド樹脂、アクリル系樹脂、その他、光硬化型樹脂、熱硬化型樹脂、無機材料等が挙げられる。
【0073】
(隔壁層用材料)
有機EL素子には、必要に応じて隔壁が設けられる。隔壁は、異なる色を発光する有機EL層を組み合わせるときに特に有用である。このような材料としては、感光性ポリイミド樹脂、アクリル系樹脂、その他、光硬化型樹脂、熱硬化型樹脂、撥水性樹脂等が挙げられる。
【0074】
(その他の態様)
例えば、3つの異なる融点を持つ粉体状固化物を用いて三色発光の有機EL層を形成することもできる。この場合には、融点又は軟化点の異なる3種の接着剤層を用い、それぞれの粉体状固化物を、それぞれの接着剤層の融点又は軟化点の差により塗り分け成膜することも可能である。
【0075】
例えば、有機EL層の三色発光にパターニングの例としては、予め基材上に3種の異なる融点又は軟化点を有する接着剤(例えばA、B及びC)をパターニング塗布及び乾燥しておき、一方、3種の粉体状固化物を用意し、最も低い温度で接着性となる接着剤Aを加熱等で接着性にし、該接着層Aに第1の粉体状固化物のみを付着させる。この際、他の接着層B及びCは接着性がないので、接着層B及びCの領域には第1の粉体状固化物は接着しない。続いて接着層Cは接着性にならないが、接着層Bが接着性になる温度において第2の粉体状固化物を接着層Bに接着させ、続いて最も融点又は軟化点が高い接着層Cを接着性にして第3の粉体状固化物を接着させる。このようにして第1〜第3の異なる粉体状固化物を基材上にパターン状に固定することができる。
【0076】
なお、本発明に係る有機薄膜形成基材の製造方法は、上記した有機EL薄膜の形成に限定されず、本発明の基本的な技術思想を応用して、薄膜トランジスタの絶縁層、太陽電池の光電変換層、有機細胞膜等の有機薄膜の形成に利用することができる。
【実施例】
【0077】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるわけではない。
【0078】
[実施例1]
実施例1は、静電スクリーン印刷法で有機EL素子を作製する例である。先ず、発光層形成用の粉体状固化物を製造した。高分子蛍光体Aをキシレンに溶解させ、固形分濃度1質量%に調整して発光層形成用組成物を調製した。その発光層形成用組成物を液体窒素中に滴下して凍結させ、粉体状固化物を作製した。その粉体状固化物を篩にかけて所定の大きさの粉体状固化物Aを得た。
【0079】
さらに、前記高分子蛍光体Aとは異なる発光色を示す高分子蛍光体Bをキシレンに溶解させ、固形分濃度1質量%に調整して発光層形成用組成物を調製した。その発光層形成用組成物を液体窒素中に滴下して凍結させ、前記同様に篩にかけて所定の大きさの粉体状固化物Bを得た。ここで、高分子蛍光体Aとは、ポリビニルカルバゾールとクマリン誘導体からなる発光材料を示し、高分子蛍光体Bとは、ポリビニルカルバゾールとペリレン誘導体からなる発光材料を示す。
【0080】
次に、封止用接着剤の粉体状固化物を作製した。紫外線硬化性接着剤を液体窒素中に滴下して凍結させ、粉体状固化物を作製した。その粉体状固化物を篩にかけて所定の大きさの粉体状固化物を得た。
【0081】
次に、基材として、ITOがパターニングされた300mm角サイズのガラス基板上に、スピンコーターを用いて正孔注入層としてポリスチレンスルフォネイト/ポリ(3,4)エチレンジオキシチオフェン(PSS/PEDOT)を100nm成膜した。さらに、成膜された基板を減圧下100℃で1時間乾燥して被印刷基板を準備した。その被印刷基板を金属製のステージ上に載置して、静電スクリーン印刷法で第1の版を用いて粉体状固化物Aを所定パターンで移行させた。その被印刷基板に第1の熱H1(約10℃)を与えて、粉体状固化物Aを融解した。引き続いて、被印刷基板に第2の熱H2(約150℃)を与えてキシレンを揮発等させ、粉体状固化物Aから有機EL層を成膜した。その後第2の版を用いて粉体状固化物Bを所定パターンで移行させた。その被印刷基板に第1の熱H1(約10℃)を与えて、粉体状固化物Bを融解した。引き続いて、被印刷基板に第2の熱H2(約150℃)を与えてキシレンを揮発等させ、粉体状固化物Bから有機EL層を成膜した。
【0082】
なお、静電スクリーン印刷は、印刷用スクリーンを用い、印刷ブラシで粉体状固化物A,Bを帯電させた。スクリーンと被印刷基板との間隔は2mmとし、スクリーンとステージとの間には4kVの電圧を印加した。なお、スクリーンと被印刷基板との間隔は500μm〜4mmであることが好ましく、印加した直流電圧は3.5〜5.5kVであることが好ましい。なお、静電スクリーン印刷は、各粉体状固化物が溶解しない低温環境(液体窒素温度等)で行った。
【0083】
こうして、ITOがパターニングされた300mm角サイズのガラス基板上に異なる発光色を示す厚さ100nmの有機EL層を所定のパターンで塗り分け成膜した。その後、有機EL層上にカルシウムを5nm成膜し、その上に銀を250nm真空蒸着して有機EL素子を作製した。
【0084】
[実施例2]
粉体状固化物として、絶縁性の熱硬化型接着剤層を形成する主剤と硬化剤を含む2液性エポキシ接着剤を凍結して粉体状固化物とした。その後、第1の熱(約10℃)によってその粉体状固化物を融解した。さらにその後、第2の熱(約80℃)によって融解した組成物中の主剤と硬化剤を反応させ、絶縁性の熱硬化型接着剤層を形成した。
【0085】
[実施例3]
粉体状固化物として、絶縁性の熱硬化型接着剤層を形成する2種の異なる成分を含む組成物を凍結した。1つは、2液性エポキシ接着剤の主剤を粉体状固化物とし、もう1つは、2液性エポキシ接着剤の硬化剤成分を粉体状固化物とした。これらの粉体状固化物を混ぜた後、第1の熱(約10℃)によって2種の粉体状固化物が融解して混ざり合い、その後、第2の熱(約80℃)によって融解した組成物中の主剤と硬化剤を反応させ、絶縁性の熱硬化型接着剤層を形成した。
【0086】
[実施例4]
粉体状固化物として、有機EL素子の発光層を形成する3種の成分をそれぞれ含む組成物を凍結した。1つは、ホスト材料として機能する高分子材料であって、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3”−メチルフェニル)−1、1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン基と水酸基とを有する材料を溶解させたトルエン組成物を粉体状固化物Iとしたものであり、もう1つは、ゲスト材料(ドーパント)として機能するクマリン誘導体を溶解させたトルエン組成物を粉体状固化物IIとしたものであり、さらにもう1つは、架橋材料として機能するN,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3”−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミンのジメトキシメチルシリル誘導体およびビス(ジメトキシメチルシリル)誘導体から形成されるシラン化合物を溶解させたキシレン組成物を粉体状固化物IIIとしたものである。こうして得られた3種の粉体状固化物I〜IIIを混合した。その混合物に第1の熱(−70℃)を与えて2種の粉体状固化物I,IIを融解して混合し、第1’の熱(10℃)を与えて残り1種の粉体状固化物IIIを融解して混合し、第1’の熱から第2の熱(150℃)までの間で融解物に含まれる2成分(ホスト材料と架橋材料)を架橋反応させ、その後、第2の熱(150℃)で溶媒を揮発させて、発光層を形成した。
【符号の説明】
【0087】
1 基材
2 粉体状固化物
2’ 混合物
2A,2B,2C 各粉体状固化物
3 融解物
4 有機薄膜
11 有機薄膜形成基材
20 静電スクリーン印刷装置
21 スクリーン
22 印刷ブラシ
23 基材
24 ステージ
25 移行パターン
30 静電グラビア印刷装置
31 グラビア版(ドラム)
32 静電潜像形成
33 帯電電極
34 粉体状固化物の収容部
35 転写電極
36 除電部
37 第1の熱の付与装置
38 第2の熱の付与装置
40 凍結装置(粉体状固化物作製装置)
41 組成物
42 滴下又は噴霧
43 冷却槽
44 冷却媒体
45 捕集容器
46 捕集容器の取外部材
F 静電界
H1 第1の熱
H2 第2の熱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に有機薄膜を形成してなる有機薄膜形成基材の製造方法であって、
前記有機薄膜の構成材料を凍結させた粉体状固化物を準備し、
静電界によって前記粉体状固化物を基材上に移行させ、
基材上に移行させた前記粉体状固化物に第1の熱を与えて該粉体状固化物を融解し、
融解してなる融解物に第2の熱を与えて前記有機薄膜を形成する、ことを特徴とする有機薄膜形成基材の製造方法。
【請求項2】
前記第1の熱を与えて前記粉体状固化物を融解する前に、有機薄膜の非形成部に移行した粉体状固化物を取り除く、請求項1に記載の有機薄膜形成基材の製造方法。
【請求項3】
前記粉体状固化物の基材上への移行を、静電スクリーン印刷法でパターン状に行う、請求項1又は2に記載の有機薄膜形成基材の製造方法。
【請求項4】
前記第1の熱で一定温度に保持することなく前記第2の熱を与えることにより、前記粉体状固化物を融解するのと同時に有機薄膜を形成する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機薄膜形成基材の製造方法。
【請求項5】
前記第1の熱で一定温度に保持することにより前記粉体状固化物を融解し、その後、前記第2の熱を与えることにより有機薄膜を形成する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機薄膜形成基材の製造方法。
【請求項6】
前記粉体状固化物が、前記有機薄膜の構成材料と溶媒とを含む組成物を凍結したものであって、
前記第1の熱によって前記粉体状固化物を融解し、その後、前記第2の熱によって前記溶媒を揮発させて前記有機薄膜を形成する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機薄膜形成基材の製造方法。
【請求項7】
前記粉体状固化物が、前記有機薄膜を形成する2以上の異なる成分を含む組成物を凍結したものであって、
前記第1の熱によって前記粉体状固化物を融解し、その後、前記第2の熱によって前記組成物中の2以上の成分を反応させて前記有機薄膜を形成する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機薄膜形成基材の製造方法。
【請求項8】
前記粉体状固化物が、前記有機薄膜を形成する2以上の成分をそれぞれ含む組成物を凍結して得た2種以上の粉体状固化物の混合物であって、
前記第1の熱によって前記2種以上の粉体状固化物を融解し、その後、前記第2の熱によって前記融解物に含まれる前記2以上の成分を反応させて前記有機薄膜を形成する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機薄膜形成基材の製造方法。
【請求項9】
前記粉体状固化物が、前記有機薄膜を形成する3以上の成分をそれぞれ含む組成物を凍結して得た3種以上の粉体状固化物の混合物であって、
前記第1の熱と前記第2の熱との間で、前記3種以上の粉体状固化物のうちの少なくとも2種の粉体状固化物を融解して混合し、その後、他の粉体状固化物を融解して混合又は反応させて前記有機薄膜を形成する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機薄膜形成基材の製造方法。
【請求項10】
前記粉体状固化物を、前記組成物の急冷却によって形成する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の有機薄膜形成基材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−198665(P2011−198665A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65539(P2010−65539)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】