有機透明導電体、有機透明導電体形成用インク及びそれらの製造方法
【課題】 良好な透明性と導電性を有し、かつ作製が容易な、透明導電体及び透明導電体形成用インクを提供する。
【解決手段】 下記一般式で表される少なくとも1種のN−アルキルカルバゾールを重合させて得られるポリ(N−アルキルカルバゾール)と、金属とを接触させる工程を含む透明導電体の製造方法。
(式中、nは1以上の整数であり、アルキルの少なくとも1つの水素は、ヒドロキシ、カルボキシル、スルホ及びアミノから選択される少なくとも1種の基で置き換えられてもよい。)
【解決手段】 下記一般式で表される少なくとも1種のN−アルキルカルバゾールを重合させて得られるポリ(N−アルキルカルバゾール)と、金属とを接触させる工程を含む透明導電体の製造方法。
(式中、nは1以上の整数であり、アルキルの少なくとも1つの水素は、ヒドロキシ、カルボキシル、スルホ及びアミノから選択される少なくとも1種の基で置き換えられてもよい。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機透明導電体、有機導電体形成用インク及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電体は、液晶ディスプレイ、電界発光ディスプレイ、エレクトロクロミックディスプレイなどの画像表示装置の表示パネルや太陽電池のパネルに利用され、電圧印加や電荷注入のための電極として利用されている。また二次元情報入力装置であるタッチパネルなどにも広く用いられてきている。さらに、静電気発生を抑えかつ包装材が透け内包物の確認をしやすくした、透明性を有する導電性または帯電防止プラスティックス包装材への用途も検討されている。
【0003】
従来、透明導電体の材料として、金属酸化物である酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)の薄膜をガラス基板あるいはプラスチックシート状に堆積したパネルが用いられてきた。特に、上記金属酸化物に用いられるインジウムは近い将来資源が枯渇し、需給が逼迫する懸念がある。これら金属酸化物は材料の製膜のコストが高く、例えば有機電界発光素子や有機太陽電池のかなりのコストが金属酸化物膜に費やされてしまうといった問題がある。さらに金属酸化物は、有機物質との電子的又は化学的な相互作用が乏しく、例えば有機EL素子の電荷輸送層への電荷注入効率に問題が生じてしまっている。
【0004】
このような観点から、導電性微粒子を透明ポリマー中に分散させた材料を用いて、導電体膜を形成しようとする試みが、例えば下記特許文献1〜3に記載されている。また、近年、ポリチオフェン系の溶媒可溶性導電性ポリマー薄膜を基板上にコーティングするという試みがある(特許文献4参照)。
しかしながら、導電性微粒子を用いる方法では、導電性微粒子同士の相互作用が強く、透明ポリマー中に均一に分散させるのが困難である。さらに、得られるポリマー溶液を基板上に塗布する工程において、塗布の剪断力によって導電性ポリマー同士が会合してしまうという問題点がある。また、導電性ポリマーを用いる方法では、完全な無色透明化を実現することは困難であり、僅かであるが着色している。そのため、厚膜にすると着色が顕著になってしまうという問題点もある。
【0005】
本発明者らは、このような不都合を解消すべく、カルバゾール膜を電解重合により形成した後に、金属を接触させることで、透明な導電体膜を製造することを見出している(特許文献5)。この方法によると、透明度の高い透明導電体が得られるものの、電解重合により製造するため、電極として基板上に形成した膜を剥ぎ取る必要がある。また基板上に膜として形成するため、面積の大きな膜を得るためには大幅なスケールアップを要するなど、実用化するうえで問題がある。そのため、実用化に向けて更なる改善が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−219697号公報
【特許文献2】特開2000−123658号公報
【特許文献3】特開平3−167590号公報
【特許文献4】特開2002−60736号公報
【特許文献5】特開2007−165199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、良好な透明性と導電性を有し、かつ作製が容易な、透明導電体及び透明導電体形成用インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題について本発明者らは鋭意検討を行ったところ、ポリ(N−アルキルカルバゾール)に金属を接触させることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
(1)下記一般式で表される少なくとも1種のN−アルキルカルバゾールを重合させて得られるポリ(N−アルキルカルバゾール)と、金属とを接触させる工程を含む透明導電体の製造方法。
【化1】
(式中、nは1以上の整数であり、アルキルの少なくとも1つの水素は、ヒドロキシ、カルボキシル、スルホ及びアミノから選択される少なくとも1種の基で置き換えられていてもよい。)
(2)前記接触させる工程が、液相中で行われることを特徴とする、(1)に記載の透明導電体の製造方法。
(3)前記接触させる工程に用いる金属が、溶融金属であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の透明導電体の製造方法。
(4)前記重合が、化学重合であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の透明導電体の製造方法。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の方法で製造した透明導電体。
(6)下記一般式で表される少なくとも1種のN−アルキルカルバゾールを重合させて得られるポリ(N−アルキルカルバゾール)を溶媒に溶解させポリ(N−アルキルカルバゾール)溶液とし、前記溶液と金属とを接触させる工程を含む透明導電体形成用インクの製造方法。
【化2】
(式中、nは1以上の整数であり、アルキルの少なくとも1つの水素は、ヒドロキシ、カルボキシル、スルホ及びアミノから選択される少なくとも1種の基で置き換えられていてもよい。)
(7)下記一般式で表される少なくとも1種のN−アルキルカルバゾールを化学重合させて得られるポリ(N−アルキルカルバゾール)溶液と、金属とを接触させる工程を含む透明導電体形成用インクの製造方法。
【化3】
(式中、nは1以上の整数であり、アルキルの少なくとも1つの水素は、ヒドロキシ、カルボキシル、スルホ及びアミノから選択される少なくとも1種の基で置き換えられていてもよい。)
(8)前記重合が、化学重合である(6)に記載の透明導電体形成用インクの製造方法。(9)(6)〜(8)のいずれかに記載の方法で製造した透明導電体形成用インク。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、良好な透明性と導電性を有し、かつ作製が容易な、透明導電体及び透明導電体形成用インクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】N−n−オクチルカルバゾールのNMRチャートである。
【図2】ポリ(N−n−オクチルカルバゾール)のNMRチャートである。
【図3】錫を蒸着する前及び錫を蒸着した後のポリ(N−n−オクチルカルバゾール)膜の透過スペクトルである。
【図4】錫を蒸着する前及び錫を蒸着した後のポリ(N−n−ヘプチルカルバゾール)膜の透過スペクトルである。
【図5】錫を蒸着する前(A)及び錫を蒸着した後(B)のポリ(N−n−ヘプチルカルバゾール)膜である(写真代用図面)。
【図6】錫を蒸着する前及び錫を蒸着した後のポリ(N−n−ノニルカルバゾール)膜の透過スペクトルである。
【図7】1,2−ジクロロエタン溶液中で錫蒸着膜と接触させたポリ(N−n−オクチルカルバゾール)のスピンコート膜とポリ(N−n−オクチルカルバゾール)のみのスピンコート膜の透過スペクトルである。
【図8】1,2−ジクロロエタン溶液中で市販アルミニウム蒸着マイラーフィルムと接触させたポリ(N−n−オクチルカルバゾール)のスピンコート膜とポリ(N−n−オクチルカルバゾール)のみのスピンコート膜の透過スペクトルである。
【図9】クロロホルム中で粒状のマグネシウムならびに亜鉛と接触させたポリ(N−n−オクチルカルバゾール)のスピンコート膜の透過スペクトルである。
【図10】クロロホルム中で粒状のインジウムならびにガリウムと接触させたポリ(N−n−オクチルカルバゾール)のスピンコート膜の透過スペクトルである。
【図11】ポリ(N−n−オクチルカルバゾール)のスピンコート膜と溶融したガリウムならびにガリウム・インジウム合金とを圧着した膜の透過スペクトルである。
【図12】クロロホルム中で粒状のアルミニウムと接触させたポリ(N−エチルカルバゾール)のスピンコート膜の透過スペクトルである。
【図13】クロロホルム中で粒状の錫と接触させたポリ(N−n−ドコサイルカルバゾール)のスピンコート膜の透過スペクトルである。
【図14】ポリ(N−n−オクチルカルバゾール)ならびにポリ(N−n−ドコサイルカルバゾールのスピンコート膜の真空紫外光電子分光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明では、N−アルキルカルバゾールを重合して得られる重合度が2以上のN−アルキルカルバゾール重合体をポリ(N−アルキルカルバゾール)という。
【0013】
本実施形態に係る透明導電体の製造方法は、下記一般式で表される少なくとも1種のN−アルキルカルバゾールを重合させて得られるポリ(N−アルキルカルバゾール)と、金属とを接触させる工程を含むことを特徴とする。
【化4】
【0014】
上記式中、nは1以上の整数であり、アルキル(CnH2n+1)は、1つ又は複数の水素がヒドロキシ、カルボキシル、スルホ及びアミノから選択される少なくとも1種の基で置き換えられていてもよい。カルバゾールのN位と結合している炭素は、1級炭素又は2級炭素であることが好ましい。
本発明で用いられるポリ(N−アルキルカルバゾール)は、1種類のN−アルキルカルバゾールを重合させて得られるホモポリマーであっても、2種類以上のN−アルキルカルバゾールを共重合させて得られるコポリマーであってもよい。また、ポリ(N−アルキルカルバゾール)としては、1種類のポリ(N−アルキルカルバゾール)のみであっても、炭素数の異なるアルキルからなる2種類以上のポリ(N−アルキルカルバゾール)を混合して用いてもよい。
ポリ(N−アルキルカルバゾール)は、着色しており、透明性が低いために、本発明の方法で、透明導電体形成用インクまたは透明導電体とすることができる。
ポリ(N−アルキルカルバゾール)としては、下記式に示したとおり、4量体、2量体を例示する。
下記式において、nは上記式と同じである。また、ポリ(N−アルキルカルバゾール)の重合度は2〜1,000であることが好ましく、透明度及び強度の観点から4〜100であることがより好ましく、4〜22が特に好ましい。
【化5】
【0015】
(金属と接触させる工程)
本発明の製造方法では、ポリ(N−アルキルカルバゾール)と金属とを接触させることで、導電膜を透明にすることができる。接触させる金属は特段制限されないが、仕事関数が、ポリ(N−アルキルカルバゾール)のイオン化ポテンシャルよりも小さい金属を接触させて反応させることが好ましい。このような金属の具体例は、アルミニウム、インジウム、亜鉛、チタン、マンガン、鉄、銅、銀、錫、アンチモン、ナトリウム、マグネシウム、ガリウム、カリウム又はカルシウム及びこれらの合金が挙げられる。この中でも特に、アルミニウム、錫、亜鉛、インジウム、ガリウムが好ましく用いられる。
【0016】
本発明においてポリ(N−アルキルカルバゾール)に金属を接触させる方法としては、蒸着法、スパッタ法、めっき法、電着法、電子ビーム法、メカノケミカル法、溶融金属と接触させる方法及びポリ(N−アルキルカルバゾール)を溶解させた溶液中に、金属蒸着フィルムや金属粉末を加えて接触させる液相での接触法を挙げることができる。本発明において溶融金属とは、金属を融点以上の温度で溶融状態にした金属をいう。
また、金属を物理的に単に接触させるだけでもよい。金属に接触させるポリ(N−アルキルカルバゾール)は、後述の電解重合により作製した膜、後述の化学重合により作製した粉末(固体状態)、又はこれらの膜及び粉末を有機溶媒へ溶解させた溶液状態でもよい。本発明で用いるポリ(N−アルキルカルバゾール)は有機溶媒への溶解性が高く、ポリ(N−アルキルカルバゾール)溶液として存在させることが可能である。そのため、液相において金属と接触させる方法を採用することで、後述する透明導電体形成用インクを作製することができ、好ましい。
【0017】
ポリカルバゾールは、溶媒に溶解しないため、従来の透明導電体の作製手法においては、電解重合によりポリカルバゾール膜を作製していた。この方法では、一旦ポリカルバゾール膜を導電性基板上に形成しなければならず、その後、形成された膜に金属を蒸着させることで透明導電体を形成していた。そのため、あまり大きな膜を作製することができず、また、導電性基板上に形成したポリカルバゾール膜を導電性基板から剥がす作業が必要であり、実用化には透明導電体の作製のし易さを改善する必要があった。
しかしながら、ポリ(N−アルキルカルバゾール)は有機溶媒への溶解性が高いことから、有機溶媒に溶解させたポリ(N−アルキルカルバゾール)の溶液を用い、液相において金属と接触させる手法を用いることで、透明導電体とすることができる。この場合にはポリ(N−アルキルカルバゾール)の溶液と金属とを接触させた後に、得られた溶液を透明導電体形成用インクとして用いることができる。該インクは、これを塗布することで透明導電体を形成することができるため、作製が容易である。また、従来の電解重合によりポリ(N−アルキルカルバゾール)を導電性基板上に膜として作製した場合であっても、導電性基板から物理的に膜を剥がさなくても、クロロホルムなどの有機溶媒にポリ(N−アルキルカルバゾール)の膜が溶けるので、溶解させることで回収することができる。
【0018】
なお、ポリ(N−アルキルカルバゾール)と溶融金属とを接触させる場合、ポリ(N−アルキルカルバゾール)の粉末、又はポリ(N−アルキルカルバゾール)の溶液と溶融金属とを接触させることで、透明導電体を形成させることができるが、ポリ(N−アルキルカルバゾール)の膜を製膜後、この膜と溶融金属とを接触させることでも透明導電体を形成させることができる。
【0019】
具体的には、ポリ(N−アルキルカルバゾール)を製膜後、得られた膜に溶融金属を塗布し、溶融金属の融点以上に保持しておくことで、本発明の透明導電体膜を容易に作製することができる。
金属としては、ポリ(N−アルキルカルバゾール)膜の熱劣化を防ぐため、融点200℃以下の金属または合金を使用することが好ましく、融点30℃以下の金属または合金を用いることがさらに好ましい。具体的には、ガリウム(融点29.8℃);ガリウム(75.5重量%)とインジウム(24.5重量%)との合金(融点15.7℃);ガリウム(62重量%)とインジウム(25重量%)と錫(13重量%)との合金(融点5℃);ガリウム(67重量%)とインジウム(29重量%)と亜鉛(4重量%)との合金(融点13℃);ガリウム(92重量%)と錫(8重量%)との合金(融点20℃);ガリウム(95重量%)と亜鉛(5重量%)との合金(融点25℃);ガリウム(95.5重量%)と銀(4.5重量%)との合金(融点25℃)等が挙げられる。溶融金属を塗布した後、金属の融点以上の温度に保ち、圧力(具体的には、1.5×1.5cm2の膜に、薄膜を形成したガラス基板自体の重さである1.0gの重量をかける。溶融金属を容器に入れ、その上に薄膜を下向きにしてガラスごと置くという方法である。)を掛けることにより、透明化が早く進行する。
【0020】
本発明の金属と接触させる工程では、着色しているポリ(N−アルキルカルバゾール)に金属を接触させることで、得られたポリ(N−アルキルカルバゾール)を無色にさせることができる。これは、ポリ(N−アルキルカルバゾール)−金属間のイオン化ポテンシャル−仕事関数の差を駆動力とし、接触する金属からポリ(N−アルキルカルバゾール)に電子を移動させ、この電子とポリ(N−アルキルカルバゾール)の発色に起因しているカチオンラジカル又はジカチオンとを結合させて消滅させ、着色しているポリ(N−アルキルカルバゾール)を無色にさせる。また電子の一部は、ポリ(N−アルキルカルバゾール)内に存在する吸着水を還元する。金属からポリ(N−アルキルカルバゾール)に電子を移動させるには、金属の仕事関数がポリ(N−アルキルカルバゾール)のイオン化ポテンシャルより小さいことが好ましい。なお電子を失い酸化された金属はイオンとなるが、該金属イオンはポリ(N−アルキルカルバゾール)内のカチオンラジカル又はジカチオンと対をなしていた負イオン(アニオンドーパント)と結合して無色の塩を形成するか、或いは上記水の還元反応に加わり無色の金属酸化物及び水酸化物となる。すなわち金属とポリ(N−アルキルカルバゾール)との間でガルバニ腐食反応を生じさせ、金属の塩と金属の酸化物及び水酸化物を形成することができる。
【0021】
本発明の製造方法で作製される透明導電体は、透過スペクトル測定において、450〜700nmの波長での透過率が70%以上であり、非常に透明度が高い。図3、4、6に示すように、ポリ(N−アルキルカルバゾール)は、金属との接触により、その透過スペクトルの透過率が増加する。これによりポリ(N−アルキルカルバゾール)が金属と接触したと判断できる。また、本発明における透明導電体は良好な電気伝導度を有し、10-4S・cm-1以上の電気伝導度を有する導電体であり、非常に電気伝導性に優れている。また、本発明における透明導電体は、膜状及び板状のものを含み、膜状である場合にはその厚みはおおよそ50nm〜0.1mm程度であり、板状の場合には0.1mmを超える場合もある。
【0022】
本発明の製造方法に用いるポリ(N−アルキルカルバゾール)は、カルバゾールのN位にアルキルが一級炭素または二級炭素で結合したN−アルキルカルバゾールが重合したポリマーが好ましい。このポリマーは、N−アルキルカルバゾールの電解重合によって形成することができ、また化学重合によっても形成することができる。ポリ(N−アルキルカルバゾール)のアルキルは特段限定されないが、炭素数が1以上(上記式において、nが1以上を示す。)のアルキルであればよい。商業的に入手容易という観点から、炭素数22以下(上記式において、nが22以下を示す。)のアルキルであることが好ましい。また、有機溶媒への溶解性の観点から、炭素数2以上(上記式において、nが2以上を示す。)のアルキルであることが好ましい。炭素数が7〜22(上記式において、nが7〜22を示す。)のアルキルであることが更に好ましい。また、アルキルの1つ又は複数の水素が、ヒドロキシ、カルボキシル、スルホ及びアミノから選択される少なくとも1種の基で置き換えられてもよい。
【0023】
(N−アルキルカルバゾールの合成)
カルバゾールのN位にアルキルが結合したN−アルキルカルバゾールは、水素化ナトリウム等の強塩基性のアルカリ金属化合物存在下で、カルバゾールとアルキル化剤であるハロゲン化アルキルとの脱ハロゲン化水素反応により合成することができる。または、カルバゾールカリウム塩とハロゲン化アルキルの脱ハロゲン化カリウム反応で合成することができる。なお、酸化剤を用いる化学重合で、ポリ(N−アルキルカルバゾール)を合成する場合には、カルバゾールのN位に結合するアルキルは、一級炭素または二級炭素であることが好ましい。カルバゾールのN位に結合するアルキルが三級炭素の場合には、重合時にアルキルが脱離する傾向にあり、所望のポリ(N−アルキルカルバゾール)が得難い場合がある。
【0024】
(ハロゲン化アルキル)
上記アルキル化剤であるハロゲン化アルキルは、試薬メーカーより入手することができる。実験室で取り扱うには、反応性、アルキルの種類の豊富さから、アルキルモノ臭化物が扱いやすい。入手できるアルキルモノ臭化物は、具体的に、1−ブロモプロパン、2−ブロモプロパン、1−ブロモブタン、2−ブロモブタン、1−ブロモ−2−メチルプロパン、2−ブロモ−2−メチルプロパン、1−ブロモ−3−メチル−ブタン、1−ブロモヘキサン、2−ブロモヘキサン、3−ブロモヘキサン、1−ブロモメチルペンタン、1−ブロモヘプタン、3−ブロモヘプタン、4−ブロモヘプタン、1−ブロモ−5−メチルヘキサン、1−ブロモ−2−エチルヘキサン、1−ブロモオクタン、2−ブロモオクタン、1−ブロモノナン、2−ブロモノナン、1−ブロモデカン、1−ブロモウンデカン、1−ブロモドデカン、2−ブロモドデカン、1−ブロモトリデカン、1−ブロモテトラデカン、2−ブロモテトラデカン、1−ブロモペンタデカン、1−ブロモヘプタデカン、1−ブロモ−2−メチルヘキサデカン、1−ブロモオクタデカン、1−ブロモエイコサン、1−ブロモドコサンがあり、東京化成工業(株)、シグマアルドリッチジャパン(株)、ランカスター社等から入手できる。
【0025】
(ハロゲン化アルキルの合成)
上記ハロゲン化アルキルは、アルキルモノハロゲン化物以外に、アルケンのハロゲン水素付加反応により得ることができる。この反応は、アルケン溶液にハロゲン化水素を添加することで容易に進行する。アルケンのハロゲン化水素付加反応でハロゲン化アルキルを得るには、JOHN WILEY & SON,INC.出版のOrganic Syntheses IV 543−544頁(1962年発行)記載の方法に従ってアルキルモノヨウ化物をアルケンのヨウ化水素付加反応により、合成することが都合がよい。
【0026】
入手できる上記アルケンには、3,3−ジメチル−1−ブテン、2−ヘキセン、3−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−2−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ペンテン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、2−ヘプテン、3−ヘプテン、3−メチル−1−ヘキセン、4−メチル−1−ヘキセン、4−メチル−2−ヘキセン、5−メチル−1−ヘキセン、5−メチル−2−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、3,4−ジメチル−1−ヘキセン、5−メチル−2−ヘプテン、5−メチル−3−ヘプテン、2−オクテン、trans−3−オクテン、trans−4−オクテン、2−ノネン、4−ノネン、3,3,5−トリメチル−1−ヘキセン、cis−2−デセン、cis−4−デセン、cis−5−デセン、5−ドデセン、7−テトラデセン、cis−9−トリコセンがあり、東京化成工業(株)等より入手できる。
【0027】
上記、アルケンのヨウ化水素付加反応により、2−ヨード−3,3−ブタン、3−ヨードヘキサン、4−ブロモヘキサン、2−ヨード−4−メチルペンタン、3−ヨード−4−メチルペンタン、2−ヨード−3,3−ジメチルペンタン、2−ヨード−4,4−ジメチルペンタン、3−ヨード−ヘプタン、4−ヨードヘプタン、2−ヨード−3−メチルヘキサン、2−ヨード−4−メチルヘキサン、3−ヨード−4−メチルヘキサン、2−ヨード−5−メチルヘキサン、3−ヨード−5−メチルヘキサン、2−ヨード−ジメチルヘキサン、2−ヨード−3,4−ジメチルヘキサン、2−ヨード−4,4−ヘキサン、3−ヨード−5−メチルヘプタン、4−ヨード−5−メチルヘプタン、3−ヨード−オクタン、4−ヨードオクタン、5−ヨードオクタン、3−ヨードノナン、5−ヨードノナン、2−ヨード−3,3,5−ヘキサン、3−ヨードデカン、4−ヨードデカン、6−ヨードデカン、6−ヨード−ドデセン、8−テトラデセン、10−ヨードトリコサンを得ることができる。
【0028】
(電解重合によるポリ(N−アルキルカルバゾール)の形成)
電解重合によってポリ(N−アルキルカルバゾール)を形成する工程について説明する。なお、本発明において電解重合とは、通電手段を用いることにより、重合性モノマーを重合させることを意味し、具体的には溶媒中にモノマーと電解質を溶かし、電極に電圧を印加し、重合する方法である。特徴として、触媒を用いていないため、高純度の導電性のポリマーが得られる。
まず、上記の方法で合成したN−アルキルカルバゾール、支持電解質を電解重合用溶媒に溶解し、N−アルキルカルバゾールを含む溶液を準備する。
【0029】
上記溶液中のN−アルキルカルバゾールの濃度は、電解重合用溶媒を100重量部とした場合に、0.001重量部以上50重量部以下であることが好ましく、0.01重量部以上17重量部以下であることがより好ましい。0.001重量部以上とすることで構造的に連続した重合膜を得ることができるという効果があり、0.01重量部以上とすることでこの効果がより顕著となる。また50重量部以下とすることで溶液粘度を低下させ、十分な反応速度で重合反応を行わせることができるという効果があり、17重量部以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0030】
上記溶液中の電解重合用溶媒は、上記N−アルキルカルバゾール及び支持電解質を溶解させることが可能であって、電解重合を達成することができれば特に限定されるわけではないが、比較的高い誘電率をもつ溶媒であることが好ましい。電解重合用溶媒としては、例えばジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素、ジメチルホルムアミド等のホルムアミド、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド、テトラヒドロフラン等のエーテル、メタノール等のアルコール、γ−ブチロラクトン等のラクトン、N−メチル−2−ピロリドン等のピロリドン、プロピレンカーボネート等のカーボネート、アセトニトリル等のニトリル類を使用することができる。これらは単独で使用することもできるし、適宜混合して用いてもよい。混合溶媒としては、例えば、過塩素酸水溶液とメタノールとを混合させて使用すると、良好なポリカルバゾール膜ができる。また、溶媒と水とを混合させて使用することもできる。具体的には、例えば、混合溶媒として水(25容量%)とメタノール(75容量%)が適している。
【0031】
上記溶液中の支持電解質は、電気化学反応を生じさせることができれば、特に限定されるわけではないが、電解重合の際電極反応を受けないことが好ましい。支持電解質としては、例えば、HClO4、(C4H9)4N+ClO4-、(C3H7)4N+ClO4-、(C2H5)4N+ClO4-、(CH3)4N+ClO4-、Li+ClO4-、Na+ClO4-、K+ClO4-、H+ClO4-、(C4H9)4N+BF4-、(C4H9)4N+PF6-、(C2H5)4N+BF4-、(C2H5)4N+PF6-、Li+BF4-、Li+PF6-を使用することができる。これらは単独で使用してもよいし、適宜混合して使用してもよい。なお、溶媒が水を含む場合には、上記のほかNaCl、NaBr、Na2SO4、NaNO3、LiCl、LiBr、LiNO3、Li2SO4、KCl、KBr、KNO3及びK2SO4等を好ましい支持電解質としての選択肢に含めることができる。
【0032】
支持電解質の濃度としては、電気化学反応を生じさせることができる限りにおいて限定されるわけではないが、溶媒を100重量部とした場合に、0.001重量部以上50重量部以下とすることが好ましく、0.01重量部以上50重量部以下とすることがより好ましい。0.001重量部以上とすることでN−アルキルカルバゾールの電解重合の駆動力である電気二重層の形成を十分に行うことができるという効果があり、50重量部以下とすることで溶液粘度を低下させ、十分な反応速度で重合反応を行わせることができるという効果がある。具体的には、水(25容量%)とメタノール(75容量%)の混合溶媒では、12.6重量部が適している。
【0033】
電解重合による透明導電体の製造方法は、電解重合用溶媒、N−アルキルカルバゾール及び支持電解質を含む溶液を電解して、ポリ(N−アルキルカルバゾール)を形成する工程を含む。電解は、上記溶液に陽極及び陰極を浸し、陽極と参照電極の間に電圧を印加することにより行う。また、参照電極を用いず、陽極と陰極の間に電圧を印加することによっても行うことができる。
【0034】
陽極としては、導電材料であって、電解において溶解しない金属であることが好ましく、例えばPt、Au、ステンレスなどの金属や導電性を有する炭素材料であることが好ましい。また、酸化インジウム錫(ITO)や酸化錫等の導電性酸化物や導電性プラスチック、更にはシリコンやガリウムヒ素等の半導体も条件によって使用することが可能である。
【0035】
陰極としても、導電材料であれば特に限定されず、例えばPt、Au、Cu、Ni、ステンレス等の金属、酸化インジウム錫(ITO)や酸化錫といった導電性酸化物、導電性プラスチック、及びシリコンやガリウムヒ素等の半導体を使用することができる。
【0036】
陽極と参照電極の間に印加する電圧としては、飽和カロメル参照電極に対して+0.5V以上+1.8V以下であることが好ましく、より好ましくは+0.5V以上+1.5V以下である。電位がより貴な電位になると、N−アルキルカルバゾールのアルキルが脱離し、電気伝導性や通電に対して耐久性の低い9,9’−ジカルバジルが生成してしまう場合がある。また、電解重合用溶媒や支持電解質の分解が起こり、ポリ(N−アルキルカルバゾール)の電解重合には好ましくない傾向にある。参照電極を用いない場合、陽極と陰極の間に印加する電圧としては、同様の理由により+0.9V以上+4V以下であることが好ましく、より好ましくは+1V以上+3V以下である。また、この参照電極を用いない電解において、印加電圧が上記範囲内に入る限りにおいて、陽極と陰極の間に一定電流を流すことによってもポリ(N−アルキルカルバゾール)の電解重合を行うことができる。
【0037】
また、本実施形態における溶液の電解は、空気中においても行うことはできるが、空気中の酸素の影響をできる限り少なくするため窒素雰囲気中で行うことが好ましく、溶液に対し窒素バブリングを行うことはより好ましい。
【0038】
また、本実施形態における溶液の電解は、限定されるわけではないが比較的高い電気伝導度を有するポリ(N−アルキルカルバゾール)膜を形成する観点から−40℃以上40℃以下であることが好ましい。
【0039】
電解によって形成するポリ(N−アルキルカルバゾール)は陽極上に膜状に形成される。膜厚は、電解重合の際の通電量と原料として用いるN−アルキルカルバゾールの置換基に依存する。必要とされる膜厚により適宜調整可能であるが、構造的に連続膜であり、金属と接触させて形成される膜の透明性を十分確保する観点から10nm以上10μm以下であることが好ましく、50nm以上5μm以下であることがより好ましい。例えば、上記一般式で示されるN−アルキルカルバゾールにおけるアルキルの炭素が8であるN−n−オクチルカルバゾールの場合、陽極1cm2に対して1mCの電荷量を通電すると、得られるポリ(N−n−オクチルカルバゾール)膜の膜厚16nmとなる。膜厚は、通電電荷量に比例して増加する。
【0040】
電解重合により得られた固体のポリ(N−アルキルカルバゾール)は、先に述べたように金属と接触させることで透明導電体を形成するが、得られた透明導電体を溶媒に溶解させることで後述の透明導電体形成用インクを製造することができる。
【0041】
(化学重合によるポリ(N−アルキルカルバゾール)の形成)
化学重合によってポリ(N−アルキルカルバゾール)を形成する工程について説明する。なお、本発明において化学重合とは、通電手段を用いることなく、酸化剤の作用により重合性モノマーを酸化重合させることを意味する。本実施形態に係るポリ(N−アルキルカルバゾール)は、化学重合によっても形成することができる。すなわちポリ(N−アルキルカルバゾール)は、N−アルキルカルバゾールを含む溶媒に酸化剤を加えて化学重合を行うことで得られる。
【0042】
化学重合では、比較的高い誘電率の溶媒を用いることが好ましい。溶媒としては、例えばジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、プロピレンカーボネート、ピリジン、ジオキサン、酢酸、水およびこれらの混合物を用いることができる。化学重合の場合は、より多量のN−アルキルカルバゾールを溶媒に溶解させることが可能となり、上記の溶媒の重量を100重量部とした場合、0.01重量部以上300重量部以下とすることが好ましく、0.1重量部以上50重量部以下であることがより好ましい。0.01重量部以上とすることで生成物であるポリ(N−アルキルカルバゾール)の生産性を上げることができ、0.1重量部以上とすることでこの効果がより顕著となる。また300重量部以下とすることで化学重合の反応収率を上げることができ、50重量部以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0043】
また酸化剤としては、例えば第二鉄塩、セリウム塩、二クロム酸塩、過マンガン酸塩、過硫酸アンモニウム、三フッ化ホウ素、臭素酸塩、過酸化水素、塩素、臭素及びヨウ素が挙げられ、なかでも、第二鉄塩が好ましい。第二鉄塩としては、例えば、過塩素酸鉄(III)が例示できる。この過塩素酸鉄(III)を使用することで重合度を上げることができる。酸化剤の濃度としては、適宜調整が可能であり限定されるわけではないが、溶媒の重量を100重量部とした場合、0.01重量部以上500重量部以下とすることが好ましく、0.1重量部以上100重量部以下であることがより好ましい。0.01重量部以上とすることで原料であるN−アルキルカルバゾールと同等以上の濃度となるために効率的に重合反応を進めることができ、0.1重量部以上とすることでこの効果がより顕著となる。また500重量部以下とすることで溶液の粘度上昇を抑制し、やはり効率的に重合反応を進めることができ、100重量部以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0044】
化学重合において、この反応温度は、酸化剤やN−アルキルカルバゾールの濃度等により適宜調整が可能であり、特に限定されないが、−100℃以上100℃以下であることが好ましく、−80℃以上90℃以下であることがより好ましい。−80℃以上とすることで生成物であるポリ(N−アルキルカルバゾール)の電気伝導度を高めることができるという利点がある。また100℃以下とすることでポリ(N−アルキルカルバゾール)の架橋反応や過酸化反応を抑止することができ、電気伝導度の低下を防ぐことができるという利点がある。また反応時間についても、反応温度と同様に適宜調整が可能であり、特に限定されないが、例えば上記好ましい温度範囲において1秒以上1週間以下であることが好ましく、より好ましくは1秒以上48時間以下である。
【0045】
化学重合による反応後の溶液を濾過、洗浄、乾燥させることにより、粉末状のポリ(N−アルキルカルバゾール)を得ることができる。これらの吸引濾過、洗浄、乾燥工程は公知の方法により適宜行えばよい。また、これらの粉末を上述のように金属と接触させることにより、粉末状の透明導電体を形成することもできる。
【0046】
本発明において、重合により得られるポリ(N−アルキルカルバゾール)の重合度は2〜1000であることが好ましく、透明度及び強度の観点から4〜100であることがより好ましく、4〜22が特に好ましい。
【0047】
(透明導電体形成用インク)
本発明の別の形態は、透明導電体形成用インク及びその製造方法である。なお、本発明でいうインクとは、無色である。
上述のとおり、ポリ(N−アルキルカルバゾール)は、溶媒に対する溶解性が高いため、溶媒と混合することで溶液とすることができる。溶媒としては、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、ジメチルホルムアミド等のホルムアミド、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド、テトラヒドロフラン等のエーテル、メタノール等のアルコール、γ−ブチロラクトン等のラクトン、N−メチル−2−ピロリドン等のピロリドン、プロピレンカーボネート等のカーボネート、アセトン等のケトン等を用いることができる。得られたポリ(N−アルキルカルバゾール)溶液を上述のように金属と接触させることで、本発明の透明導電体形成用インクを作製することができる。また、化学重合によりポリ(N−アルキルカルバゾール)を調製した場合には、その調製溶液に金属を直接接触させることでも本発明の透明導電体形成用インクを調製することができる。金属との接触は、例えば金属を蒸着させたフィルムを溶液中に浸すことや、金属粉末を溶液中に混合させることで行うことができる。このように溶液中で金属と接触させる場合、溶液100重量部に対して金属を0.01〜300重量部用いることが好ましい。
なお、本発明の透明導電体形成用インクの濃度は、成膜が可能である範囲において適宜調整することができるが、溶媒100重量部あたりポリ(N−アルキルカルバゾール)0.01〜10重量部であることが好ましく、0.1〜1重量部であることがより好ましい。
【0048】
このようにして作製した透明導電体形成用インクは、スピンコート、スクリーン印刷、インクジェット等の成膜手段により必要とする大きさの透明導電体を簡易に作製することができることから、透明導電体を作製した後に加工する手間を省くことができる点に優れる。
【実施例】
【0049】
ここで、上記実施形態に基づき実際に透明導電体及び透明導電体形成用インクの作製を行い本発明の効果の確認を行った。以下、実施例を用いて説明を行うが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
膜厚の測定方法は、接触式膜厚測定機(KLA−Tencor製アルファステップ IQ)またはSEM(トプコン(株) Model ABT−32)で断面観察を行った。
【0050】
(アルキル化剤の合成)
N−アルキルカルバゾールの製造に用いるアルキル化剤は、アルキルモノ臭素化物を東京化成工業(株)、シグマ−アルドリッチ社及びランカスター社より購入した。試薬として購入できないアルキル化剤は、JOHN WILEY & SON,INC.出版のOrganic Syntheses IV 543−544頁(1962年発行)の例に従ってアルケンのヨウ化水素付加反応により合成した。
【0051】
原料となるアルケン1当量に対して、ヨウ化カリウム3当量と95重量%オルト燐酸4.3当量の混合物を加え、撹拌しながら80℃で3時間加熱した。95重量%オルト燐酸は、85重量%リン酸に98重量%リン酸(東京化成工業(株)製)を加えることで調製した。反応液を冷却後、水と石油エーテルを加え、撹拌後、分液した。石油エーテル層を10重量%チオ硫酸ナトリウムで脱色し、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。石油エーテルを蒸発させた後、アルキルモノヨウ化物を減圧蒸留により得た。
【0052】
(N−アルキルカルバゾールの合成)
テトラヒドロフランとN,N−ジメチルホルムアミドの3対1(体積比)の混合溶媒にカルバゾールを溶解し、上記で得たアルキル剤(アルキル臭化物又はアルキルヨウ化物)をカルバゾール1当量に対して1当量加え、撹拌しながら水素化ナトリウム1.5当量に相当する60重量%の水素化ナトリウム鉱物油分散物(関東化学(株)製、商品名「水素化ナトリウム」)を徐々に加え、室温で1時間撹拌した。そこに、反応を停止させるためにメタノールを気泡が出なくなるまで加えた後、溶媒を減圧下で蒸発除去した。残渣にジクロロメタンを加え、3N塩酸と水とで洗浄した。無水硫酸マグネシウムを加え乾燥し、濾過した。得られた濾液に含まれる溶媒を真空除去し、ヘキサンを展開溶媒に用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより残渣を精製した。
【0053】
(N−オクチルカルバゾールの合成)
ポリ(N−n−オクチルカルバゾール)の重合に用いるモノマー(N−n−オクチルカルバゾール)を例に具体的な合成法を説明する。
テトラヒドロフラン(30mL)とN,N−ジメチルホルムアミド(10mL)の混合溶液にカルバゾール(東京化成工業(株)製、6.0g、0.036mol)を溶かし、1−ブロモオクタン(東京化成工業(株)製、3.95g、0.036mol)を加え、さらに室温(約20℃)で60重量%水素化ナトリウム鉱物油分散物((関東化学(株)製、商品名「水素化ナトリウム」、2.16g、0.054mol)を徐々に添加し、1時間攪拌し反応を完了させた。
反応完了後、得られた反応液に、メタノールを気泡が出なくなるまで注ぎ、反応を停止させた。エバポレーターで反応液中の溶媒を除去後、濃縮物を塩化メチレンで抽出し、有機層を3N塩酸、水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過した。濾液中の塩化メチレンをエバポレーターで除去し、ヘキサンを展開溶媒に用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。エバポレーターでヘキサンを除去し、透明液体(8g、収率80%)を得た。H−NMRにより、N−n−オクチルカルバゾールであることが確認できた。また、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって純度が99.5%であることを確認した。図1にNMRチャートを示す。
【0054】
<実施例1>
(化学重合によるポリ(N−n−オクチルカルバゾール)の合成)
化学重合法による、ポリ(N−アルキルカルバゾール)の合成について、ポリ(N−n−オクチルカルバゾール)を例に詳細に説明する。
アセトニトリル(10mL)にモノマーであるN−n−オクチルカルバゾール(0.14g、0.05mol)と酸化剤である過塩素酸鉄(III)(0.33g、0.1mol)を溶解し、窒素雰囲気下、室温(約20℃)で24時間攪拌し、化学重合を行った。反応液を濾過し、濾過物をメタノールで洗浄し、40℃で1時間乾燥して、目的とするポリ(N−n−オクチルカルバゾール)の緑色粉末(0.21g)を得た。図2にNMRチャートを示す。
【0055】
(ポリ(N−n−オクチルカルバゾール)の膜の形成)
上記の化学重合で得たポリ(N−n−オクチルカルバゾール)0.1gをクロロホルム4mLに溶解し、スライドガラス上にスピンコーター((株)エイブル製 AS−300)を使い、1,000rpmでスピンコートして製膜した。このスライドガラス上の膜厚100nmのポリ(N−n−オクチルカルバゾール)膜の透過スペクトルを図3に示す。スペクトルから明白のように、この膜は緑色であった。膜厚は100nmであった。この膜の四探針法による電気伝導度は、7.6×10-4S・cm-1であった。
【0056】
(錫層の蒸着)
次に、上記のポリ(N−n−オクチルカルバゾール)の緑色膜に抵抗加熱式蒸着装置(アルバック機工(株)製VPC−260F)で錫を10nmの厚みで蒸着した。得られた膜は、錫を蒸着した後、錫の金属光沢と緑色とが共に退色し、無色透明な膜に変化した。得られた無色透明な膜の透過スペクトルを測定し、その結果を図3に示す。
【0057】
(電気伝導度の測定)
この膜厚100nmの無色透明な膜の電気伝導度を測定した。電気伝導度の測定は、(株)ダイアインスツルメンツ製抵抗率計ロレスタGP、四探針プローブMCP−TP06Pを用いて、四探針法により測定した。この結果、電気伝導度は、7.5×10-4S・cm-1であり、優れた電気伝導性を示すことが確認できた。
【0058】
以上、本実施例により、比較的厚膜にした場合にも良好な無色透明性と電気伝導性を保ち、かつ作製(合成)が容易な透明導電体となることが確認できた。
【0059】
<実施例2>
(化学重合ポリ(N−n−ヘプチルカルバゾール)膜の形成)
n−ヘプチルカルバゾール0.05mol、過塩素酸鉄(III)0.1mol、アセトニトリル10mLから化学重合で得たポリ(N−n−ヘプチルカルバゾール)0.1gをクロロホルム4mLに溶解し、スライドガラス上にスピンコーター((株)エイブル製 AS−300、1,000rpm)でスピンコートし製膜した。スライドガラス上のポリ(N−n−ヘプチルカルバゾール)膜の透過スペクトルを図4に示す。透過スペクトルと図5の写真から明らかなようにポリ(N−n−ヘプチルカルバゾール)膜は緑色であった。この膜の四探針法による電気伝導度は、4.0×10-5S・cm-1であった。
【0060】
(錫層の蒸着)
次に、上記の緑色のポリ(N−n−ヘプチルカルバゾール)膜に、抵抗加熱式蒸着装置(アルバック機工(株)製VPC−260F)で10nmの厚みで錫を蒸着した。得られた膜は、図5の写真に示すように錫を蒸着した後、錫の金属光沢と緑色とが退色し、無色透明な膜に変化した。得られた無色透明な膜の透過スペクトルを測定し、その結果を図4に示す。
【0061】
(電気伝導度の測定)
この膜厚100nmの無色透明な膜の電気伝導度を測定した。この測定は、実施例1と同様の方法で測定した。この結果、電気伝導度は、1.4×10-4S・cm-1であり、優れた電気伝導性を示すことが確認できた。
【0062】
<実施例3>
(化学重合ポリ(N−n−ノニルカルバゾール)膜の作製)
n−ノニルカルバゾール0.05mol、過塩素酸鉄(III)0.1mol、アセトニトリル10mLから化学重合で得たポリ(N−n−ノニルカルバゾール)0.1gをクロロホルム4mLに溶解し、スライドガラス上にスピンコーター((株)エイブル製 AS−300)を使い、1,000rpmでスピンコートして膜を製膜した。スライドガラス上の膜厚200nmのポリ(N−n−ノニルカルバゾール)膜の透過スペクトルを図6に示す。透過スペクトルから明らかなようにポリ(N−n−ノニルカルバゾール)膜は緑色であった。この膜の四探針法による電気伝導度は、4.0×10-5S・cm-1であった。
【0063】
(錫層の蒸着)
次に、上記のポリ(N−n−ノニルカルバゾール)の緑色の膜に抵抗加熱真空蒸着法により錫を10nmの厚みで蒸着した。上記ポリ(N−n−オクチルカルバゾール)膜、ポリ(N−n−ヘプチルカルバゾール)膜と同様に、得られた膜は、錫を蒸着した後、錫の金属光沢と緑色とが共に退色し、無色透明な膜に変化した。得られた無色透明な膜の透過スペクトルを測定し、その結果を図6に示す。
【0064】
(電気伝導度の測定)
この膜厚200nmの無色透明な膜の電気伝導度を測定した。この測定は、(株)ダイアインスツルメンツ製抵抗率計ロレスタGP、四探針プローブMCP−TP06Pを用いて、四探針法により測定した。この結果、電気伝導度は、1.4×10-4S・cm-1であり、優れた電気伝導性を示すことが確認できた。
【0065】
<実施例4>
(透明導電体形成用インク)
実施例1において化学重合で得たポリ(N−オクチルカルバゾール)0.1gを1,2−ジクロロエタン4mLに溶解し、そこに抵抗加熱式蒸着装置(アルバック機工(株)製VPC−260F)で錫を200nm蒸着した市販のポリエステルフィルム(東レ(株)製ルミラーフィルム)90cm2を入れ、透明導電体形成用インクを作製した。ポリエステルフィルムを取り出したところ、ポリエステルフィルム上の錫は消失し、緑色であった溶液は、灰黒色に変化した。
【0066】
(透明導電体膜の形成)
このインクをスピンコーター((株)エイブル製 AS−300)を使い、スライドガラス上に回転数1,000rpmでスピンコートし、透明導電体膜を製膜した。作製した透明導電体膜の膜厚は100nmであった。この膜の透過スペクトルを図7に示す。この膜の四探針法による電気伝導度は9.5×10-2S・cm-1であった。この膜は、非常に優れた電気伝導性を示すことが確認できた。
【0067】
<実施例5>
(透明導電体形成用インク)
実施例1において化学重合で得たポリ(N−オクチルカルバゾール)0.1gを1,2−ジクロロエタン4mLに溶解し、そこにアルミニウムが70nm蒸着した市販のポリエステルフィルム(デュポン(株)製マイラーPETフィルム)75cm2を入れ、透明導電体形成用インクを作製した。ポリエステルフィルムを取り出したところ、ポリエステルフィルム上の錫は消失し、緑色であった溶液は、灰黒色に変化した。
【0068】
(透明導電体膜の形成)
このインクをスピンコーター((株)エイブル製 AS−300)を使い、スライドガラス上に回転数1,000rpmでスピンコートし、透明導電体膜を製膜した。作製した透明導電体膜の膜厚は100nmであった。この膜の透過スペクトルを図8に示す。この膜の四探針法による電気伝導度は4.5×10-4S・cm-1であった。この膜は非常に優れた電気伝導性を示すことが確認できた。
【0069】
<実施例6>
(透明導電体形成用インク)
N−エチルヘキシルカルバゾール(アルドリッチ社製)を用いて、実施例1のポリ(N−オクチルカルバゾール)と同様な方法で化学重合により得たポリ(N−エチルヘキシルカルバゾール)0.1gを1,2−ジクロロエタン4mLに溶解し、そこに粒状の錫0.15gを加え、透明導電体形成用インクを作製した。加えた錫は一部溶解した。残った錫の粒は濾過で取り除いた。緑色であった溶液は、灰黒色に変化した。
【0070】
(透明導電体膜の形成)
このインクをスピンコーター(ミカサ(株)製 MS−A150)を使い、スライドガラス上に回転数2,000rpmでスピンコートし、透明導電体膜を製膜した。作製した透明導電体膜の膜厚は100nmであった。この膜の四探針法による電気伝導度は2.0×100S・cm-1であった。この膜は非常に優れた電気伝導性を示すことが確認できた。
【0071】
<実施例7>
(透明導電体形成用インク)
実施例1において化学重合で得たポリ(N−n−オクチルカルバゾール)0.1gをクロロホルム4mLに溶解し、そこに粒状のマグネシウム0.1gを加え、透明導電体形成用インクを作製した。加えたマグネシウムは一部溶解した。残ったマグネシウムの粒は濾過で取り除いた。緑色であった溶液は、灰黒色に変化した。
【0072】
(透明導電体膜の形成)
このインクをスピンコーター(ミカサ(株)製 MS−A150)を使い、スライドガラス上に回転数2,000rpmでスピンコートし、透明導電体膜を製膜した。作製した透明導電体膜の膜厚は100nmであった。この膜の透過スペクトルを図9に示す。この膜の四探針法による電気伝導度は4.0×10-3S・cm-1であった。この膜は非常に優れた電気伝導性を示すことが確認できた。
【0073】
<実施例8>
(透明導電体形成用インク)
実施例1において化学重合で得たポリ(N−n−オクチルカルバゾール)0.1gをクロロホルム4mLに溶解し、そこに粒状の亜鉛0.25gを加え、透明導電体形成用インクを作製した。加えた粒状の亜鉛は一部溶解した。残った亜鉛の粒は濾過で取り除いた。緑色であった溶液は、灰黒色に変化した。
【0074】
(透明導電体膜の形成)
このインクをスピンコーター(ミカサ(株)製 MS−A150)を使い、スライドガラス上に回転数2,000rpmでスピンコートし、透明導電体膜を製膜した。作製した透明導電体膜の膜厚は100nmであった。この膜の透過スペクトルを図9に示す。この膜の四探針法による電気伝導度は4.0×10-3S・cm-1であった。この膜は非常に優れた電気伝導性を示すことが確認できた。
【0075】
<実施例9>
(透明導電体形成用インク)
実施例1において化学重合で得たポリ(N−n−オクチルカルバゾール)0.1gをクロロホルム4mLに溶解し、そこに粒状のインジウム0.35gを加え、透明導電体形成用インクを作製した。加えた粒状のインジウムは一部溶解した。残ったインジウムの粒は濾過で取り除いた。緑色であった溶液は、灰黒色に変化した。
【0076】
(透明導電体膜の形成)
このインクをスピンコーター(ミカサ(株)製 MS−A150)を使い、スライドガラス上に回転数2,000rpmでスピンコートし、透明導電体膜を製膜した。作製した透明導電体膜の膜厚は100nmであった。この膜の透過スペクトルを図10に示す。この膜の四探針法による電気伝導度は7.1×10-3S・cm-1であった。この膜は非常に優れた電気伝導性を示すことが確認できた。
【0077】
<実施例10>
(透明導電体形成用インク)
実施例1において化学重合で得たポリ(N−n−オクチルカルバゾール)0.1gをクロロホルム4mLに溶解し、40℃で加温し溶融したガリウムをスポイトで0.2g加え、透明導電体形成用インクを作製した。加えたガリウムは溶液中で一部溶解した後、粒状に固化した。残ったガリウムの粒は濾過で取り除いた。緑色であった溶液は、灰黒色に変化した。
【0078】
(透明導電体膜の形成)
このインクをスピンコーター(ミカサ(株)製 MS−A150)を使い、スライドガラス上に回転数2,000rpmでスピンコートし、透明導電体膜を製膜した。作製した透明導電体膜の膜厚は100nmであった。この膜の透過スペクトルを図10に示す。この膜の四探針法による電気伝導度は4.9×10-3S・cm-1であった。この膜は非常に優れた電気伝導性を示すことが確認できた。
【0079】
<実施例11>
(溶融金属との圧着による透明導電体膜の形成)
実施例1において化学重合で得たポリ(N−n−オクチルカルバゾール)0.1gをクロロホルム4mLに溶解し、スライドガラス上にスピンコーター(ミカサ(株)製 MS−A150)でスピンコートし製膜した。トレイに40℃に加温した溶融ガリウムを注ぎ、ポリ(N−n−オクチルカルバゾール)を製膜したスライドガラスを被せ、スライドガラスの重量を利用してポリ(N−n−オクチルカルバゾール)スピンコート膜と溶融ガリウムとを圧着させ、40℃に加温した。緑色であったスピンコート膜は、無色透明になった。この膜の透過スペクトルを図11に示す。この膜の四探針法による電気伝導度は2.0×10-3S・cm-1であった。この膜は非常に優れた電気伝導性を示すことが確認できた。
【0080】
<実施例12>
(溶融金属との圧着による透明導電体膜の形成)
実施例1において化学重合で得たポリ(N−n−オクチルカルバゾール)0.1gをクロロホルム4mLに溶解し、スライドガラス上にスピンコーター(ミカサ(株)製 MS−A150)でスピンコートし製膜した。トレイに室温で溶融しているガリウム75.5重量%とインジウム24.5重量%との合金を注ぎ、ポリ(N−n−オクチルカルバゾール)を製膜したスライドガラスを被せ、スライドガラスの重量を利用してポリ(N−n−オクチルカルバゾール)スピンコート膜と溶融ガリウムとを圧着させた。緑色であったスピンコート膜は、無色透明になった。この膜の透過スペクトルを図11示す。この膜の四探針法による電気伝導度は1.0×10-3S・cm-1であった。この膜は非常に優れた電気伝導性を示すことが確認できた。
【0081】
<実施例13>
(化学重合ポリ(N−n−エチルカルバゾール)からなる透明導電膜の形成)
n−エチルカルバゾール0.05mol、過塩素酸鉄(III)0.1mol、アセトニトリル10mLから、N−n−オクチルカルバゾールの調製と同様の重合条件で化学重合した。得られたポリ(N−n−エチルカルバゾール)0.1gをクロロホルム4mLに溶解し、粒状のアルミニウム0.15gを加えて反応させた後、残ったアルミニウムの粒は濾過で取り除き、透明導電体形成用インクを作製した。さらに細かい不溶物を除くため溶液をワットマンジャパン製プラディスクシリンジフィルター(型番3784−1302、孔径0.2μm)で濾過後、スライドガラス上に2,000rpmでスピンコート膜を製膜した。スピンコーターは、ミカサ(株)製 MS−A150を使用した。この膜の透過スペクトルを図12に示す。この膜の四探針法による電気伝導度は、2.0×10-4S・cm-1であった。
【0082】
<実施例14>
(化学重合ポリ(N−n−ドコサイルカルバゾール)からなる透明導電膜の形成)
n−ドコサイルカルバゾール0.05mol、過塩素酸鉄(III)0.1mol、アセトニトリル10mLから、N−n−オクチルカルバゾールの調製と同様の重合条件で化学重合した。得られたポリ(N−n−ドコサイルカルバゾール)0.1gをクロロホルム4mLに溶解し、粒状の錫0.15gを加えて反応させた後、残った錫の粒は濾過で取り除き、透明導電体形成用インクを作製した。緑色であった溶液は、灰黒色に変化した。このインクをスピンコーター(ミカサ(株)製 MS−A150)でスライドガラス上に回転数2,000rpmでスピンコートし、透明導電体膜を製膜した。作製した透明導電体膜の膜厚は100nmであった。この膜およびポリ(N−n−ドコサイルカルバゾール)膜の透過スペクトルを図13に示す。この膜の四探針法による電気伝導度は、3.8×10-4S・cm-1であった。
【0083】
<参考例15>
(ポリ(N−n−オクチルカルバゾール)膜のイオン化ポテンシャル測定)
実施例1における化学重合で得たポリ(N−n−オクチルカルバゾール)0.1gをクロロホルム4mLに溶解し、シリコンウェファー上にスピンコーター(ミカサ(株)製 MS−A150)でスピンコートし製膜した。アルバック・ファイ(株)製ESCA−5400での紫外光電子分光法によるこの膜のイオン化ポテンシャルは、5.2eVであった。光電子分光スペクトルを図14に示す。
【0084】
<参考例16>
(ポリ(N−n−ドコサイルカルバゾール)膜のイオン化ポテンシャル測定)
実施例14における化学重合で得たポリ(N−n−ドコサイルカルバゾール)0.1gをクロロホルム4mLに溶解し、シリコンウェファー上にスピンコーター(ミカサ(株)製 MS−A150)でスピンコートし製膜した。アルバック・ファイ(株)製ESCA−5400での紫外光電子分光法によるこの膜のイオン化ポテンシャルは、5.0eVであった。光電子分光スペクトルを図14に示す。
【0085】
<比較例1>
市販されているカルバゾール(5mM)と過塩素酸テトラブチルアンモニウム(0.1M)を溶解したジクロロメタン溶液からなる電解液を、耐熱ガラス製の2部屋タイプの電解セルの主室に入れた。そしてこの主室にITO膜(膜厚170nm)がコートされたガラス電極と白金板電極を浸漬した。一方、焼結ガラス膜で隔てられた副室には、過塩素酸テトラブチルアンモニウム(0.1M)を溶解したジクロロメタン溶液からなる電解液を入れ、SCEを浸漬した。主室の溶液に窒素ガスを40分通し、溶存酸素を排除した。そしてITOガラス電極を動作電極、白金板電極を対向電極、SCEを参照電極として定電位電源(ポテンショスタット)に接続した。動作電極に、参照電極に対して+1.2Vの電位を印加した。通電電気量は50mC/cm2であり、電解中は電解液上部に窒素ガスを流し、窒素雰囲気を保った。なお電解セルは恒温機中に設置されており、電解温度は5℃に保った。
【0086】
この操作により、ITOガラス電極上に膜厚800nmのポリカルバゾール膜が形成された。なおこの膜はジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンには溶解せず、インクの調製ができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の製造方法により、容易に透明導電体、及び透明導電体形成用インクが得られ、液晶ディスプレイ、電界発光ディスプレイなどのディスプレイ装置に応用が可能である。また、太陽電池、タッチパネル等にも適用可能であり、産業上有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は有機透明導電体、有機導電体形成用インク及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電体は、液晶ディスプレイ、電界発光ディスプレイ、エレクトロクロミックディスプレイなどの画像表示装置の表示パネルや太陽電池のパネルに利用され、電圧印加や電荷注入のための電極として利用されている。また二次元情報入力装置であるタッチパネルなどにも広く用いられてきている。さらに、静電気発生を抑えかつ包装材が透け内包物の確認をしやすくした、透明性を有する導電性または帯電防止プラスティックス包装材への用途も検討されている。
【0003】
従来、透明導電体の材料として、金属酸化物である酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)の薄膜をガラス基板あるいはプラスチックシート状に堆積したパネルが用いられてきた。特に、上記金属酸化物に用いられるインジウムは近い将来資源が枯渇し、需給が逼迫する懸念がある。これら金属酸化物は材料の製膜のコストが高く、例えば有機電界発光素子や有機太陽電池のかなりのコストが金属酸化物膜に費やされてしまうといった問題がある。さらに金属酸化物は、有機物質との電子的又は化学的な相互作用が乏しく、例えば有機EL素子の電荷輸送層への電荷注入効率に問題が生じてしまっている。
【0004】
このような観点から、導電性微粒子を透明ポリマー中に分散させた材料を用いて、導電体膜を形成しようとする試みが、例えば下記特許文献1〜3に記載されている。また、近年、ポリチオフェン系の溶媒可溶性導電性ポリマー薄膜を基板上にコーティングするという試みがある(特許文献4参照)。
しかしながら、導電性微粒子を用いる方法では、導電性微粒子同士の相互作用が強く、透明ポリマー中に均一に分散させるのが困難である。さらに、得られるポリマー溶液を基板上に塗布する工程において、塗布の剪断力によって導電性ポリマー同士が会合してしまうという問題点がある。また、導電性ポリマーを用いる方法では、完全な無色透明化を実現することは困難であり、僅かであるが着色している。そのため、厚膜にすると着色が顕著になってしまうという問題点もある。
【0005】
本発明者らは、このような不都合を解消すべく、カルバゾール膜を電解重合により形成した後に、金属を接触させることで、透明な導電体膜を製造することを見出している(特許文献5)。この方法によると、透明度の高い透明導電体が得られるものの、電解重合により製造するため、電極として基板上に形成した膜を剥ぎ取る必要がある。また基板上に膜として形成するため、面積の大きな膜を得るためには大幅なスケールアップを要するなど、実用化するうえで問題がある。そのため、実用化に向けて更なる改善が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−219697号公報
【特許文献2】特開2000−123658号公報
【特許文献3】特開平3−167590号公報
【特許文献4】特開2002−60736号公報
【特許文献5】特開2007−165199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、良好な透明性と導電性を有し、かつ作製が容易な、透明導電体及び透明導電体形成用インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題について本発明者らは鋭意検討を行ったところ、ポリ(N−アルキルカルバゾール)に金属を接触させることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
(1)下記一般式で表される少なくとも1種のN−アルキルカルバゾールを重合させて得られるポリ(N−アルキルカルバゾール)と、金属とを接触させる工程を含む透明導電体の製造方法。
【化1】
(式中、nは1以上の整数であり、アルキルの少なくとも1つの水素は、ヒドロキシ、カルボキシル、スルホ及びアミノから選択される少なくとも1種の基で置き換えられていてもよい。)
(2)前記接触させる工程が、液相中で行われることを特徴とする、(1)に記載の透明導電体の製造方法。
(3)前記接触させる工程に用いる金属が、溶融金属であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の透明導電体の製造方法。
(4)前記重合が、化学重合であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の透明導電体の製造方法。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の方法で製造した透明導電体。
(6)下記一般式で表される少なくとも1種のN−アルキルカルバゾールを重合させて得られるポリ(N−アルキルカルバゾール)を溶媒に溶解させポリ(N−アルキルカルバゾール)溶液とし、前記溶液と金属とを接触させる工程を含む透明導電体形成用インクの製造方法。
【化2】
(式中、nは1以上の整数であり、アルキルの少なくとも1つの水素は、ヒドロキシ、カルボキシル、スルホ及びアミノから選択される少なくとも1種の基で置き換えられていてもよい。)
(7)下記一般式で表される少なくとも1種のN−アルキルカルバゾールを化学重合させて得られるポリ(N−アルキルカルバゾール)溶液と、金属とを接触させる工程を含む透明導電体形成用インクの製造方法。
【化3】
(式中、nは1以上の整数であり、アルキルの少なくとも1つの水素は、ヒドロキシ、カルボキシル、スルホ及びアミノから選択される少なくとも1種の基で置き換えられていてもよい。)
(8)前記重合が、化学重合である(6)に記載の透明導電体形成用インクの製造方法。(9)(6)〜(8)のいずれかに記載の方法で製造した透明導電体形成用インク。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、良好な透明性と導電性を有し、かつ作製が容易な、透明導電体及び透明導電体形成用インクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】N−n−オクチルカルバゾールのNMRチャートである。
【図2】ポリ(N−n−オクチルカルバゾール)のNMRチャートである。
【図3】錫を蒸着する前及び錫を蒸着した後のポリ(N−n−オクチルカルバゾール)膜の透過スペクトルである。
【図4】錫を蒸着する前及び錫を蒸着した後のポリ(N−n−ヘプチルカルバゾール)膜の透過スペクトルである。
【図5】錫を蒸着する前(A)及び錫を蒸着した後(B)のポリ(N−n−ヘプチルカルバゾール)膜である(写真代用図面)。
【図6】錫を蒸着する前及び錫を蒸着した後のポリ(N−n−ノニルカルバゾール)膜の透過スペクトルである。
【図7】1,2−ジクロロエタン溶液中で錫蒸着膜と接触させたポリ(N−n−オクチルカルバゾール)のスピンコート膜とポリ(N−n−オクチルカルバゾール)のみのスピンコート膜の透過スペクトルである。
【図8】1,2−ジクロロエタン溶液中で市販アルミニウム蒸着マイラーフィルムと接触させたポリ(N−n−オクチルカルバゾール)のスピンコート膜とポリ(N−n−オクチルカルバゾール)のみのスピンコート膜の透過スペクトルである。
【図9】クロロホルム中で粒状のマグネシウムならびに亜鉛と接触させたポリ(N−n−オクチルカルバゾール)のスピンコート膜の透過スペクトルである。
【図10】クロロホルム中で粒状のインジウムならびにガリウムと接触させたポリ(N−n−オクチルカルバゾール)のスピンコート膜の透過スペクトルである。
【図11】ポリ(N−n−オクチルカルバゾール)のスピンコート膜と溶融したガリウムならびにガリウム・インジウム合金とを圧着した膜の透過スペクトルである。
【図12】クロロホルム中で粒状のアルミニウムと接触させたポリ(N−エチルカルバゾール)のスピンコート膜の透過スペクトルである。
【図13】クロロホルム中で粒状の錫と接触させたポリ(N−n−ドコサイルカルバゾール)のスピンコート膜の透過スペクトルである。
【図14】ポリ(N−n−オクチルカルバゾール)ならびにポリ(N−n−ドコサイルカルバゾールのスピンコート膜の真空紫外光電子分光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明では、N−アルキルカルバゾールを重合して得られる重合度が2以上のN−アルキルカルバゾール重合体をポリ(N−アルキルカルバゾール)という。
【0013】
本実施形態に係る透明導電体の製造方法は、下記一般式で表される少なくとも1種のN−アルキルカルバゾールを重合させて得られるポリ(N−アルキルカルバゾール)と、金属とを接触させる工程を含むことを特徴とする。
【化4】
【0014】
上記式中、nは1以上の整数であり、アルキル(CnH2n+1)は、1つ又は複数の水素がヒドロキシ、カルボキシル、スルホ及びアミノから選択される少なくとも1種の基で置き換えられていてもよい。カルバゾールのN位と結合している炭素は、1級炭素又は2級炭素であることが好ましい。
本発明で用いられるポリ(N−アルキルカルバゾール)は、1種類のN−アルキルカルバゾールを重合させて得られるホモポリマーであっても、2種類以上のN−アルキルカルバゾールを共重合させて得られるコポリマーであってもよい。また、ポリ(N−アルキルカルバゾール)としては、1種類のポリ(N−アルキルカルバゾール)のみであっても、炭素数の異なるアルキルからなる2種類以上のポリ(N−アルキルカルバゾール)を混合して用いてもよい。
ポリ(N−アルキルカルバゾール)は、着色しており、透明性が低いために、本発明の方法で、透明導電体形成用インクまたは透明導電体とすることができる。
ポリ(N−アルキルカルバゾール)としては、下記式に示したとおり、4量体、2量体を例示する。
下記式において、nは上記式と同じである。また、ポリ(N−アルキルカルバゾール)の重合度は2〜1,000であることが好ましく、透明度及び強度の観点から4〜100であることがより好ましく、4〜22が特に好ましい。
【化5】
【0015】
(金属と接触させる工程)
本発明の製造方法では、ポリ(N−アルキルカルバゾール)と金属とを接触させることで、導電膜を透明にすることができる。接触させる金属は特段制限されないが、仕事関数が、ポリ(N−アルキルカルバゾール)のイオン化ポテンシャルよりも小さい金属を接触させて反応させることが好ましい。このような金属の具体例は、アルミニウム、インジウム、亜鉛、チタン、マンガン、鉄、銅、銀、錫、アンチモン、ナトリウム、マグネシウム、ガリウム、カリウム又はカルシウム及びこれらの合金が挙げられる。この中でも特に、アルミニウム、錫、亜鉛、インジウム、ガリウムが好ましく用いられる。
【0016】
本発明においてポリ(N−アルキルカルバゾール)に金属を接触させる方法としては、蒸着法、スパッタ法、めっき法、電着法、電子ビーム法、メカノケミカル法、溶融金属と接触させる方法及びポリ(N−アルキルカルバゾール)を溶解させた溶液中に、金属蒸着フィルムや金属粉末を加えて接触させる液相での接触法を挙げることができる。本発明において溶融金属とは、金属を融点以上の温度で溶融状態にした金属をいう。
また、金属を物理的に単に接触させるだけでもよい。金属に接触させるポリ(N−アルキルカルバゾール)は、後述の電解重合により作製した膜、後述の化学重合により作製した粉末(固体状態)、又はこれらの膜及び粉末を有機溶媒へ溶解させた溶液状態でもよい。本発明で用いるポリ(N−アルキルカルバゾール)は有機溶媒への溶解性が高く、ポリ(N−アルキルカルバゾール)溶液として存在させることが可能である。そのため、液相において金属と接触させる方法を採用することで、後述する透明導電体形成用インクを作製することができ、好ましい。
【0017】
ポリカルバゾールは、溶媒に溶解しないため、従来の透明導電体の作製手法においては、電解重合によりポリカルバゾール膜を作製していた。この方法では、一旦ポリカルバゾール膜を導電性基板上に形成しなければならず、その後、形成された膜に金属を蒸着させることで透明導電体を形成していた。そのため、あまり大きな膜を作製することができず、また、導電性基板上に形成したポリカルバゾール膜を導電性基板から剥がす作業が必要であり、実用化には透明導電体の作製のし易さを改善する必要があった。
しかしながら、ポリ(N−アルキルカルバゾール)は有機溶媒への溶解性が高いことから、有機溶媒に溶解させたポリ(N−アルキルカルバゾール)の溶液を用い、液相において金属と接触させる手法を用いることで、透明導電体とすることができる。この場合にはポリ(N−アルキルカルバゾール)の溶液と金属とを接触させた後に、得られた溶液を透明導電体形成用インクとして用いることができる。該インクは、これを塗布することで透明導電体を形成することができるため、作製が容易である。また、従来の電解重合によりポリ(N−アルキルカルバゾール)を導電性基板上に膜として作製した場合であっても、導電性基板から物理的に膜を剥がさなくても、クロロホルムなどの有機溶媒にポリ(N−アルキルカルバゾール)の膜が溶けるので、溶解させることで回収することができる。
【0018】
なお、ポリ(N−アルキルカルバゾール)と溶融金属とを接触させる場合、ポリ(N−アルキルカルバゾール)の粉末、又はポリ(N−アルキルカルバゾール)の溶液と溶融金属とを接触させることで、透明導電体を形成させることができるが、ポリ(N−アルキルカルバゾール)の膜を製膜後、この膜と溶融金属とを接触させることでも透明導電体を形成させることができる。
【0019】
具体的には、ポリ(N−アルキルカルバゾール)を製膜後、得られた膜に溶融金属を塗布し、溶融金属の融点以上に保持しておくことで、本発明の透明導電体膜を容易に作製することができる。
金属としては、ポリ(N−アルキルカルバゾール)膜の熱劣化を防ぐため、融点200℃以下の金属または合金を使用することが好ましく、融点30℃以下の金属または合金を用いることがさらに好ましい。具体的には、ガリウム(融点29.8℃);ガリウム(75.5重量%)とインジウム(24.5重量%)との合金(融点15.7℃);ガリウム(62重量%)とインジウム(25重量%)と錫(13重量%)との合金(融点5℃);ガリウム(67重量%)とインジウム(29重量%)と亜鉛(4重量%)との合金(融点13℃);ガリウム(92重量%)と錫(8重量%)との合金(融点20℃);ガリウム(95重量%)と亜鉛(5重量%)との合金(融点25℃);ガリウム(95.5重量%)と銀(4.5重量%)との合金(融点25℃)等が挙げられる。溶融金属を塗布した後、金属の融点以上の温度に保ち、圧力(具体的には、1.5×1.5cm2の膜に、薄膜を形成したガラス基板自体の重さである1.0gの重量をかける。溶融金属を容器に入れ、その上に薄膜を下向きにしてガラスごと置くという方法である。)を掛けることにより、透明化が早く進行する。
【0020】
本発明の金属と接触させる工程では、着色しているポリ(N−アルキルカルバゾール)に金属を接触させることで、得られたポリ(N−アルキルカルバゾール)を無色にさせることができる。これは、ポリ(N−アルキルカルバゾール)−金属間のイオン化ポテンシャル−仕事関数の差を駆動力とし、接触する金属からポリ(N−アルキルカルバゾール)に電子を移動させ、この電子とポリ(N−アルキルカルバゾール)の発色に起因しているカチオンラジカル又はジカチオンとを結合させて消滅させ、着色しているポリ(N−アルキルカルバゾール)を無色にさせる。また電子の一部は、ポリ(N−アルキルカルバゾール)内に存在する吸着水を還元する。金属からポリ(N−アルキルカルバゾール)に電子を移動させるには、金属の仕事関数がポリ(N−アルキルカルバゾール)のイオン化ポテンシャルより小さいことが好ましい。なお電子を失い酸化された金属はイオンとなるが、該金属イオンはポリ(N−アルキルカルバゾール)内のカチオンラジカル又はジカチオンと対をなしていた負イオン(アニオンドーパント)と結合して無色の塩を形成するか、或いは上記水の還元反応に加わり無色の金属酸化物及び水酸化物となる。すなわち金属とポリ(N−アルキルカルバゾール)との間でガルバニ腐食反応を生じさせ、金属の塩と金属の酸化物及び水酸化物を形成することができる。
【0021】
本発明の製造方法で作製される透明導電体は、透過スペクトル測定において、450〜700nmの波長での透過率が70%以上であり、非常に透明度が高い。図3、4、6に示すように、ポリ(N−アルキルカルバゾール)は、金属との接触により、その透過スペクトルの透過率が増加する。これによりポリ(N−アルキルカルバゾール)が金属と接触したと判断できる。また、本発明における透明導電体は良好な電気伝導度を有し、10-4S・cm-1以上の電気伝導度を有する導電体であり、非常に電気伝導性に優れている。また、本発明における透明導電体は、膜状及び板状のものを含み、膜状である場合にはその厚みはおおよそ50nm〜0.1mm程度であり、板状の場合には0.1mmを超える場合もある。
【0022】
本発明の製造方法に用いるポリ(N−アルキルカルバゾール)は、カルバゾールのN位にアルキルが一級炭素または二級炭素で結合したN−アルキルカルバゾールが重合したポリマーが好ましい。このポリマーは、N−アルキルカルバゾールの電解重合によって形成することができ、また化学重合によっても形成することができる。ポリ(N−アルキルカルバゾール)のアルキルは特段限定されないが、炭素数が1以上(上記式において、nが1以上を示す。)のアルキルであればよい。商業的に入手容易という観点から、炭素数22以下(上記式において、nが22以下を示す。)のアルキルであることが好ましい。また、有機溶媒への溶解性の観点から、炭素数2以上(上記式において、nが2以上を示す。)のアルキルであることが好ましい。炭素数が7〜22(上記式において、nが7〜22を示す。)のアルキルであることが更に好ましい。また、アルキルの1つ又は複数の水素が、ヒドロキシ、カルボキシル、スルホ及びアミノから選択される少なくとも1種の基で置き換えられてもよい。
【0023】
(N−アルキルカルバゾールの合成)
カルバゾールのN位にアルキルが結合したN−アルキルカルバゾールは、水素化ナトリウム等の強塩基性のアルカリ金属化合物存在下で、カルバゾールとアルキル化剤であるハロゲン化アルキルとの脱ハロゲン化水素反応により合成することができる。または、カルバゾールカリウム塩とハロゲン化アルキルの脱ハロゲン化カリウム反応で合成することができる。なお、酸化剤を用いる化学重合で、ポリ(N−アルキルカルバゾール)を合成する場合には、カルバゾールのN位に結合するアルキルは、一級炭素または二級炭素であることが好ましい。カルバゾールのN位に結合するアルキルが三級炭素の場合には、重合時にアルキルが脱離する傾向にあり、所望のポリ(N−アルキルカルバゾール)が得難い場合がある。
【0024】
(ハロゲン化アルキル)
上記アルキル化剤であるハロゲン化アルキルは、試薬メーカーより入手することができる。実験室で取り扱うには、反応性、アルキルの種類の豊富さから、アルキルモノ臭化物が扱いやすい。入手できるアルキルモノ臭化物は、具体的に、1−ブロモプロパン、2−ブロモプロパン、1−ブロモブタン、2−ブロモブタン、1−ブロモ−2−メチルプロパン、2−ブロモ−2−メチルプロパン、1−ブロモ−3−メチル−ブタン、1−ブロモヘキサン、2−ブロモヘキサン、3−ブロモヘキサン、1−ブロモメチルペンタン、1−ブロモヘプタン、3−ブロモヘプタン、4−ブロモヘプタン、1−ブロモ−5−メチルヘキサン、1−ブロモ−2−エチルヘキサン、1−ブロモオクタン、2−ブロモオクタン、1−ブロモノナン、2−ブロモノナン、1−ブロモデカン、1−ブロモウンデカン、1−ブロモドデカン、2−ブロモドデカン、1−ブロモトリデカン、1−ブロモテトラデカン、2−ブロモテトラデカン、1−ブロモペンタデカン、1−ブロモヘプタデカン、1−ブロモ−2−メチルヘキサデカン、1−ブロモオクタデカン、1−ブロモエイコサン、1−ブロモドコサンがあり、東京化成工業(株)、シグマアルドリッチジャパン(株)、ランカスター社等から入手できる。
【0025】
(ハロゲン化アルキルの合成)
上記ハロゲン化アルキルは、アルキルモノハロゲン化物以外に、アルケンのハロゲン水素付加反応により得ることができる。この反応は、アルケン溶液にハロゲン化水素を添加することで容易に進行する。アルケンのハロゲン化水素付加反応でハロゲン化アルキルを得るには、JOHN WILEY & SON,INC.出版のOrganic Syntheses IV 543−544頁(1962年発行)記載の方法に従ってアルキルモノヨウ化物をアルケンのヨウ化水素付加反応により、合成することが都合がよい。
【0026】
入手できる上記アルケンには、3,3−ジメチル−1−ブテン、2−ヘキセン、3−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−2−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ペンテン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、2−ヘプテン、3−ヘプテン、3−メチル−1−ヘキセン、4−メチル−1−ヘキセン、4−メチル−2−ヘキセン、5−メチル−1−ヘキセン、5−メチル−2−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、3,4−ジメチル−1−ヘキセン、5−メチル−2−ヘプテン、5−メチル−3−ヘプテン、2−オクテン、trans−3−オクテン、trans−4−オクテン、2−ノネン、4−ノネン、3,3,5−トリメチル−1−ヘキセン、cis−2−デセン、cis−4−デセン、cis−5−デセン、5−ドデセン、7−テトラデセン、cis−9−トリコセンがあり、東京化成工業(株)等より入手できる。
【0027】
上記、アルケンのヨウ化水素付加反応により、2−ヨード−3,3−ブタン、3−ヨードヘキサン、4−ブロモヘキサン、2−ヨード−4−メチルペンタン、3−ヨード−4−メチルペンタン、2−ヨード−3,3−ジメチルペンタン、2−ヨード−4,4−ジメチルペンタン、3−ヨード−ヘプタン、4−ヨードヘプタン、2−ヨード−3−メチルヘキサン、2−ヨード−4−メチルヘキサン、3−ヨード−4−メチルヘキサン、2−ヨード−5−メチルヘキサン、3−ヨード−5−メチルヘキサン、2−ヨード−ジメチルヘキサン、2−ヨード−3,4−ジメチルヘキサン、2−ヨード−4,4−ヘキサン、3−ヨード−5−メチルヘプタン、4−ヨード−5−メチルヘプタン、3−ヨード−オクタン、4−ヨードオクタン、5−ヨードオクタン、3−ヨードノナン、5−ヨードノナン、2−ヨード−3,3,5−ヘキサン、3−ヨードデカン、4−ヨードデカン、6−ヨードデカン、6−ヨード−ドデセン、8−テトラデセン、10−ヨードトリコサンを得ることができる。
【0028】
(電解重合によるポリ(N−アルキルカルバゾール)の形成)
電解重合によってポリ(N−アルキルカルバゾール)を形成する工程について説明する。なお、本発明において電解重合とは、通電手段を用いることにより、重合性モノマーを重合させることを意味し、具体的には溶媒中にモノマーと電解質を溶かし、電極に電圧を印加し、重合する方法である。特徴として、触媒を用いていないため、高純度の導電性のポリマーが得られる。
まず、上記の方法で合成したN−アルキルカルバゾール、支持電解質を電解重合用溶媒に溶解し、N−アルキルカルバゾールを含む溶液を準備する。
【0029】
上記溶液中のN−アルキルカルバゾールの濃度は、電解重合用溶媒を100重量部とした場合に、0.001重量部以上50重量部以下であることが好ましく、0.01重量部以上17重量部以下であることがより好ましい。0.001重量部以上とすることで構造的に連続した重合膜を得ることができるという効果があり、0.01重量部以上とすることでこの効果がより顕著となる。また50重量部以下とすることで溶液粘度を低下させ、十分な反応速度で重合反応を行わせることができるという効果があり、17重量部以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0030】
上記溶液中の電解重合用溶媒は、上記N−アルキルカルバゾール及び支持電解質を溶解させることが可能であって、電解重合を達成することができれば特に限定されるわけではないが、比較的高い誘電率をもつ溶媒であることが好ましい。電解重合用溶媒としては、例えばジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素、ジメチルホルムアミド等のホルムアミド、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド、テトラヒドロフラン等のエーテル、メタノール等のアルコール、γ−ブチロラクトン等のラクトン、N−メチル−2−ピロリドン等のピロリドン、プロピレンカーボネート等のカーボネート、アセトニトリル等のニトリル類を使用することができる。これらは単独で使用することもできるし、適宜混合して用いてもよい。混合溶媒としては、例えば、過塩素酸水溶液とメタノールとを混合させて使用すると、良好なポリカルバゾール膜ができる。また、溶媒と水とを混合させて使用することもできる。具体的には、例えば、混合溶媒として水(25容量%)とメタノール(75容量%)が適している。
【0031】
上記溶液中の支持電解質は、電気化学反応を生じさせることができれば、特に限定されるわけではないが、電解重合の際電極反応を受けないことが好ましい。支持電解質としては、例えば、HClO4、(C4H9)4N+ClO4-、(C3H7)4N+ClO4-、(C2H5)4N+ClO4-、(CH3)4N+ClO4-、Li+ClO4-、Na+ClO4-、K+ClO4-、H+ClO4-、(C4H9)4N+BF4-、(C4H9)4N+PF6-、(C2H5)4N+BF4-、(C2H5)4N+PF6-、Li+BF4-、Li+PF6-を使用することができる。これらは単独で使用してもよいし、適宜混合して使用してもよい。なお、溶媒が水を含む場合には、上記のほかNaCl、NaBr、Na2SO4、NaNO3、LiCl、LiBr、LiNO3、Li2SO4、KCl、KBr、KNO3及びK2SO4等を好ましい支持電解質としての選択肢に含めることができる。
【0032】
支持電解質の濃度としては、電気化学反応を生じさせることができる限りにおいて限定されるわけではないが、溶媒を100重量部とした場合に、0.001重量部以上50重量部以下とすることが好ましく、0.01重量部以上50重量部以下とすることがより好ましい。0.001重量部以上とすることでN−アルキルカルバゾールの電解重合の駆動力である電気二重層の形成を十分に行うことができるという効果があり、50重量部以下とすることで溶液粘度を低下させ、十分な反応速度で重合反応を行わせることができるという効果がある。具体的には、水(25容量%)とメタノール(75容量%)の混合溶媒では、12.6重量部が適している。
【0033】
電解重合による透明導電体の製造方法は、電解重合用溶媒、N−アルキルカルバゾール及び支持電解質を含む溶液を電解して、ポリ(N−アルキルカルバゾール)を形成する工程を含む。電解は、上記溶液に陽極及び陰極を浸し、陽極と参照電極の間に電圧を印加することにより行う。また、参照電極を用いず、陽極と陰極の間に電圧を印加することによっても行うことができる。
【0034】
陽極としては、導電材料であって、電解において溶解しない金属であることが好ましく、例えばPt、Au、ステンレスなどの金属や導電性を有する炭素材料であることが好ましい。また、酸化インジウム錫(ITO)や酸化錫等の導電性酸化物や導電性プラスチック、更にはシリコンやガリウムヒ素等の半導体も条件によって使用することが可能である。
【0035】
陰極としても、導電材料であれば特に限定されず、例えばPt、Au、Cu、Ni、ステンレス等の金属、酸化インジウム錫(ITO)や酸化錫といった導電性酸化物、導電性プラスチック、及びシリコンやガリウムヒ素等の半導体を使用することができる。
【0036】
陽極と参照電極の間に印加する電圧としては、飽和カロメル参照電極に対して+0.5V以上+1.8V以下であることが好ましく、より好ましくは+0.5V以上+1.5V以下である。電位がより貴な電位になると、N−アルキルカルバゾールのアルキルが脱離し、電気伝導性や通電に対して耐久性の低い9,9’−ジカルバジルが生成してしまう場合がある。また、電解重合用溶媒や支持電解質の分解が起こり、ポリ(N−アルキルカルバゾール)の電解重合には好ましくない傾向にある。参照電極を用いない場合、陽極と陰極の間に印加する電圧としては、同様の理由により+0.9V以上+4V以下であることが好ましく、より好ましくは+1V以上+3V以下である。また、この参照電極を用いない電解において、印加電圧が上記範囲内に入る限りにおいて、陽極と陰極の間に一定電流を流すことによってもポリ(N−アルキルカルバゾール)の電解重合を行うことができる。
【0037】
また、本実施形態における溶液の電解は、空気中においても行うことはできるが、空気中の酸素の影響をできる限り少なくするため窒素雰囲気中で行うことが好ましく、溶液に対し窒素バブリングを行うことはより好ましい。
【0038】
また、本実施形態における溶液の電解は、限定されるわけではないが比較的高い電気伝導度を有するポリ(N−アルキルカルバゾール)膜を形成する観点から−40℃以上40℃以下であることが好ましい。
【0039】
電解によって形成するポリ(N−アルキルカルバゾール)は陽極上に膜状に形成される。膜厚は、電解重合の際の通電量と原料として用いるN−アルキルカルバゾールの置換基に依存する。必要とされる膜厚により適宜調整可能であるが、構造的に連続膜であり、金属と接触させて形成される膜の透明性を十分確保する観点から10nm以上10μm以下であることが好ましく、50nm以上5μm以下であることがより好ましい。例えば、上記一般式で示されるN−アルキルカルバゾールにおけるアルキルの炭素が8であるN−n−オクチルカルバゾールの場合、陽極1cm2に対して1mCの電荷量を通電すると、得られるポリ(N−n−オクチルカルバゾール)膜の膜厚16nmとなる。膜厚は、通電電荷量に比例して増加する。
【0040】
電解重合により得られた固体のポリ(N−アルキルカルバゾール)は、先に述べたように金属と接触させることで透明導電体を形成するが、得られた透明導電体を溶媒に溶解させることで後述の透明導電体形成用インクを製造することができる。
【0041】
(化学重合によるポリ(N−アルキルカルバゾール)の形成)
化学重合によってポリ(N−アルキルカルバゾール)を形成する工程について説明する。なお、本発明において化学重合とは、通電手段を用いることなく、酸化剤の作用により重合性モノマーを酸化重合させることを意味する。本実施形態に係るポリ(N−アルキルカルバゾール)は、化学重合によっても形成することができる。すなわちポリ(N−アルキルカルバゾール)は、N−アルキルカルバゾールを含む溶媒に酸化剤を加えて化学重合を行うことで得られる。
【0042】
化学重合では、比較的高い誘電率の溶媒を用いることが好ましい。溶媒としては、例えばジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、プロピレンカーボネート、ピリジン、ジオキサン、酢酸、水およびこれらの混合物を用いることができる。化学重合の場合は、より多量のN−アルキルカルバゾールを溶媒に溶解させることが可能となり、上記の溶媒の重量を100重量部とした場合、0.01重量部以上300重量部以下とすることが好ましく、0.1重量部以上50重量部以下であることがより好ましい。0.01重量部以上とすることで生成物であるポリ(N−アルキルカルバゾール)の生産性を上げることができ、0.1重量部以上とすることでこの効果がより顕著となる。また300重量部以下とすることで化学重合の反応収率を上げることができ、50重量部以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0043】
また酸化剤としては、例えば第二鉄塩、セリウム塩、二クロム酸塩、過マンガン酸塩、過硫酸アンモニウム、三フッ化ホウ素、臭素酸塩、過酸化水素、塩素、臭素及びヨウ素が挙げられ、なかでも、第二鉄塩が好ましい。第二鉄塩としては、例えば、過塩素酸鉄(III)が例示できる。この過塩素酸鉄(III)を使用することで重合度を上げることができる。酸化剤の濃度としては、適宜調整が可能であり限定されるわけではないが、溶媒の重量を100重量部とした場合、0.01重量部以上500重量部以下とすることが好ましく、0.1重量部以上100重量部以下であることがより好ましい。0.01重量部以上とすることで原料であるN−アルキルカルバゾールと同等以上の濃度となるために効率的に重合反応を進めることができ、0.1重量部以上とすることでこの効果がより顕著となる。また500重量部以下とすることで溶液の粘度上昇を抑制し、やはり効率的に重合反応を進めることができ、100重量部以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0044】
化学重合において、この反応温度は、酸化剤やN−アルキルカルバゾールの濃度等により適宜調整が可能であり、特に限定されないが、−100℃以上100℃以下であることが好ましく、−80℃以上90℃以下であることがより好ましい。−80℃以上とすることで生成物であるポリ(N−アルキルカルバゾール)の電気伝導度を高めることができるという利点がある。また100℃以下とすることでポリ(N−アルキルカルバゾール)の架橋反応や過酸化反応を抑止することができ、電気伝導度の低下を防ぐことができるという利点がある。また反応時間についても、反応温度と同様に適宜調整が可能であり、特に限定されないが、例えば上記好ましい温度範囲において1秒以上1週間以下であることが好ましく、より好ましくは1秒以上48時間以下である。
【0045】
化学重合による反応後の溶液を濾過、洗浄、乾燥させることにより、粉末状のポリ(N−アルキルカルバゾール)を得ることができる。これらの吸引濾過、洗浄、乾燥工程は公知の方法により適宜行えばよい。また、これらの粉末を上述のように金属と接触させることにより、粉末状の透明導電体を形成することもできる。
【0046】
本発明において、重合により得られるポリ(N−アルキルカルバゾール)の重合度は2〜1000であることが好ましく、透明度及び強度の観点から4〜100であることがより好ましく、4〜22が特に好ましい。
【0047】
(透明導電体形成用インク)
本発明の別の形態は、透明導電体形成用インク及びその製造方法である。なお、本発明でいうインクとは、無色である。
上述のとおり、ポリ(N−アルキルカルバゾール)は、溶媒に対する溶解性が高いため、溶媒と混合することで溶液とすることができる。溶媒としては、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、ジメチルホルムアミド等のホルムアミド、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド、テトラヒドロフラン等のエーテル、メタノール等のアルコール、γ−ブチロラクトン等のラクトン、N−メチル−2−ピロリドン等のピロリドン、プロピレンカーボネート等のカーボネート、アセトン等のケトン等を用いることができる。得られたポリ(N−アルキルカルバゾール)溶液を上述のように金属と接触させることで、本発明の透明導電体形成用インクを作製することができる。また、化学重合によりポリ(N−アルキルカルバゾール)を調製した場合には、その調製溶液に金属を直接接触させることでも本発明の透明導電体形成用インクを調製することができる。金属との接触は、例えば金属を蒸着させたフィルムを溶液中に浸すことや、金属粉末を溶液中に混合させることで行うことができる。このように溶液中で金属と接触させる場合、溶液100重量部に対して金属を0.01〜300重量部用いることが好ましい。
なお、本発明の透明導電体形成用インクの濃度は、成膜が可能である範囲において適宜調整することができるが、溶媒100重量部あたりポリ(N−アルキルカルバゾール)0.01〜10重量部であることが好ましく、0.1〜1重量部であることがより好ましい。
【0048】
このようにして作製した透明導電体形成用インクは、スピンコート、スクリーン印刷、インクジェット等の成膜手段により必要とする大きさの透明導電体を簡易に作製することができることから、透明導電体を作製した後に加工する手間を省くことができる点に優れる。
【実施例】
【0049】
ここで、上記実施形態に基づき実際に透明導電体及び透明導電体形成用インクの作製を行い本発明の効果の確認を行った。以下、実施例を用いて説明を行うが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
膜厚の測定方法は、接触式膜厚測定機(KLA−Tencor製アルファステップ IQ)またはSEM(トプコン(株) Model ABT−32)で断面観察を行った。
【0050】
(アルキル化剤の合成)
N−アルキルカルバゾールの製造に用いるアルキル化剤は、アルキルモノ臭素化物を東京化成工業(株)、シグマ−アルドリッチ社及びランカスター社より購入した。試薬として購入できないアルキル化剤は、JOHN WILEY & SON,INC.出版のOrganic Syntheses IV 543−544頁(1962年発行)の例に従ってアルケンのヨウ化水素付加反応により合成した。
【0051】
原料となるアルケン1当量に対して、ヨウ化カリウム3当量と95重量%オルト燐酸4.3当量の混合物を加え、撹拌しながら80℃で3時間加熱した。95重量%オルト燐酸は、85重量%リン酸に98重量%リン酸(東京化成工業(株)製)を加えることで調製した。反応液を冷却後、水と石油エーテルを加え、撹拌後、分液した。石油エーテル層を10重量%チオ硫酸ナトリウムで脱色し、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。石油エーテルを蒸発させた後、アルキルモノヨウ化物を減圧蒸留により得た。
【0052】
(N−アルキルカルバゾールの合成)
テトラヒドロフランとN,N−ジメチルホルムアミドの3対1(体積比)の混合溶媒にカルバゾールを溶解し、上記で得たアルキル剤(アルキル臭化物又はアルキルヨウ化物)をカルバゾール1当量に対して1当量加え、撹拌しながら水素化ナトリウム1.5当量に相当する60重量%の水素化ナトリウム鉱物油分散物(関東化学(株)製、商品名「水素化ナトリウム」)を徐々に加え、室温で1時間撹拌した。そこに、反応を停止させるためにメタノールを気泡が出なくなるまで加えた後、溶媒を減圧下で蒸発除去した。残渣にジクロロメタンを加え、3N塩酸と水とで洗浄した。無水硫酸マグネシウムを加え乾燥し、濾過した。得られた濾液に含まれる溶媒を真空除去し、ヘキサンを展開溶媒に用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより残渣を精製した。
【0053】
(N−オクチルカルバゾールの合成)
ポリ(N−n−オクチルカルバゾール)の重合に用いるモノマー(N−n−オクチルカルバゾール)を例に具体的な合成法を説明する。
テトラヒドロフラン(30mL)とN,N−ジメチルホルムアミド(10mL)の混合溶液にカルバゾール(東京化成工業(株)製、6.0g、0.036mol)を溶かし、1−ブロモオクタン(東京化成工業(株)製、3.95g、0.036mol)を加え、さらに室温(約20℃)で60重量%水素化ナトリウム鉱物油分散物((関東化学(株)製、商品名「水素化ナトリウム」、2.16g、0.054mol)を徐々に添加し、1時間攪拌し反応を完了させた。
反応完了後、得られた反応液に、メタノールを気泡が出なくなるまで注ぎ、反応を停止させた。エバポレーターで反応液中の溶媒を除去後、濃縮物を塩化メチレンで抽出し、有機層を3N塩酸、水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過した。濾液中の塩化メチレンをエバポレーターで除去し、ヘキサンを展開溶媒に用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。エバポレーターでヘキサンを除去し、透明液体(8g、収率80%)を得た。H−NMRにより、N−n−オクチルカルバゾールであることが確認できた。また、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって純度が99.5%であることを確認した。図1にNMRチャートを示す。
【0054】
<実施例1>
(化学重合によるポリ(N−n−オクチルカルバゾール)の合成)
化学重合法による、ポリ(N−アルキルカルバゾール)の合成について、ポリ(N−n−オクチルカルバゾール)を例に詳細に説明する。
アセトニトリル(10mL)にモノマーであるN−n−オクチルカルバゾール(0.14g、0.05mol)と酸化剤である過塩素酸鉄(III)(0.33g、0.1mol)を溶解し、窒素雰囲気下、室温(約20℃)で24時間攪拌し、化学重合を行った。反応液を濾過し、濾過物をメタノールで洗浄し、40℃で1時間乾燥して、目的とするポリ(N−n−オクチルカルバゾール)の緑色粉末(0.21g)を得た。図2にNMRチャートを示す。
【0055】
(ポリ(N−n−オクチルカルバゾール)の膜の形成)
上記の化学重合で得たポリ(N−n−オクチルカルバゾール)0.1gをクロロホルム4mLに溶解し、スライドガラス上にスピンコーター((株)エイブル製 AS−300)を使い、1,000rpmでスピンコートして製膜した。このスライドガラス上の膜厚100nmのポリ(N−n−オクチルカルバゾール)膜の透過スペクトルを図3に示す。スペクトルから明白のように、この膜は緑色であった。膜厚は100nmであった。この膜の四探針法による電気伝導度は、7.6×10-4S・cm-1であった。
【0056】
(錫層の蒸着)
次に、上記のポリ(N−n−オクチルカルバゾール)の緑色膜に抵抗加熱式蒸着装置(アルバック機工(株)製VPC−260F)で錫を10nmの厚みで蒸着した。得られた膜は、錫を蒸着した後、錫の金属光沢と緑色とが共に退色し、無色透明な膜に変化した。得られた無色透明な膜の透過スペクトルを測定し、その結果を図3に示す。
【0057】
(電気伝導度の測定)
この膜厚100nmの無色透明な膜の電気伝導度を測定した。電気伝導度の測定は、(株)ダイアインスツルメンツ製抵抗率計ロレスタGP、四探針プローブMCP−TP06Pを用いて、四探針法により測定した。この結果、電気伝導度は、7.5×10-4S・cm-1であり、優れた電気伝導性を示すことが確認できた。
【0058】
以上、本実施例により、比較的厚膜にした場合にも良好な無色透明性と電気伝導性を保ち、かつ作製(合成)が容易な透明導電体となることが確認できた。
【0059】
<実施例2>
(化学重合ポリ(N−n−ヘプチルカルバゾール)膜の形成)
n−ヘプチルカルバゾール0.05mol、過塩素酸鉄(III)0.1mol、アセトニトリル10mLから化学重合で得たポリ(N−n−ヘプチルカルバゾール)0.1gをクロロホルム4mLに溶解し、スライドガラス上にスピンコーター((株)エイブル製 AS−300、1,000rpm)でスピンコートし製膜した。スライドガラス上のポリ(N−n−ヘプチルカルバゾール)膜の透過スペクトルを図4に示す。透過スペクトルと図5の写真から明らかなようにポリ(N−n−ヘプチルカルバゾール)膜は緑色であった。この膜の四探針法による電気伝導度は、4.0×10-5S・cm-1であった。
【0060】
(錫層の蒸着)
次に、上記の緑色のポリ(N−n−ヘプチルカルバゾール)膜に、抵抗加熱式蒸着装置(アルバック機工(株)製VPC−260F)で10nmの厚みで錫を蒸着した。得られた膜は、図5の写真に示すように錫を蒸着した後、錫の金属光沢と緑色とが退色し、無色透明な膜に変化した。得られた無色透明な膜の透過スペクトルを測定し、その結果を図4に示す。
【0061】
(電気伝導度の測定)
この膜厚100nmの無色透明な膜の電気伝導度を測定した。この測定は、実施例1と同様の方法で測定した。この結果、電気伝導度は、1.4×10-4S・cm-1であり、優れた電気伝導性を示すことが確認できた。
【0062】
<実施例3>
(化学重合ポリ(N−n−ノニルカルバゾール)膜の作製)
n−ノニルカルバゾール0.05mol、過塩素酸鉄(III)0.1mol、アセトニトリル10mLから化学重合で得たポリ(N−n−ノニルカルバゾール)0.1gをクロロホルム4mLに溶解し、スライドガラス上にスピンコーター((株)エイブル製 AS−300)を使い、1,000rpmでスピンコートして膜を製膜した。スライドガラス上の膜厚200nmのポリ(N−n−ノニルカルバゾール)膜の透過スペクトルを図6に示す。透過スペクトルから明らかなようにポリ(N−n−ノニルカルバゾール)膜は緑色であった。この膜の四探針法による電気伝導度は、4.0×10-5S・cm-1であった。
【0063】
(錫層の蒸着)
次に、上記のポリ(N−n−ノニルカルバゾール)の緑色の膜に抵抗加熱真空蒸着法により錫を10nmの厚みで蒸着した。上記ポリ(N−n−オクチルカルバゾール)膜、ポリ(N−n−ヘプチルカルバゾール)膜と同様に、得られた膜は、錫を蒸着した後、錫の金属光沢と緑色とが共に退色し、無色透明な膜に変化した。得られた無色透明な膜の透過スペクトルを測定し、その結果を図6に示す。
【0064】
(電気伝導度の測定)
この膜厚200nmの無色透明な膜の電気伝導度を測定した。この測定は、(株)ダイアインスツルメンツ製抵抗率計ロレスタGP、四探針プローブMCP−TP06Pを用いて、四探針法により測定した。この結果、電気伝導度は、1.4×10-4S・cm-1であり、優れた電気伝導性を示すことが確認できた。
【0065】
<実施例4>
(透明導電体形成用インク)
実施例1において化学重合で得たポリ(N−オクチルカルバゾール)0.1gを1,2−ジクロロエタン4mLに溶解し、そこに抵抗加熱式蒸着装置(アルバック機工(株)製VPC−260F)で錫を200nm蒸着した市販のポリエステルフィルム(東レ(株)製ルミラーフィルム)90cm2を入れ、透明導電体形成用インクを作製した。ポリエステルフィルムを取り出したところ、ポリエステルフィルム上の錫は消失し、緑色であった溶液は、灰黒色に変化した。
【0066】
(透明導電体膜の形成)
このインクをスピンコーター((株)エイブル製 AS−300)を使い、スライドガラス上に回転数1,000rpmでスピンコートし、透明導電体膜を製膜した。作製した透明導電体膜の膜厚は100nmであった。この膜の透過スペクトルを図7に示す。この膜の四探針法による電気伝導度は9.5×10-2S・cm-1であった。この膜は、非常に優れた電気伝導性を示すことが確認できた。
【0067】
<実施例5>
(透明導電体形成用インク)
実施例1において化学重合で得たポリ(N−オクチルカルバゾール)0.1gを1,2−ジクロロエタン4mLに溶解し、そこにアルミニウムが70nm蒸着した市販のポリエステルフィルム(デュポン(株)製マイラーPETフィルム)75cm2を入れ、透明導電体形成用インクを作製した。ポリエステルフィルムを取り出したところ、ポリエステルフィルム上の錫は消失し、緑色であった溶液は、灰黒色に変化した。
【0068】
(透明導電体膜の形成)
このインクをスピンコーター((株)エイブル製 AS−300)を使い、スライドガラス上に回転数1,000rpmでスピンコートし、透明導電体膜を製膜した。作製した透明導電体膜の膜厚は100nmであった。この膜の透過スペクトルを図8に示す。この膜の四探針法による電気伝導度は4.5×10-4S・cm-1であった。この膜は非常に優れた電気伝導性を示すことが確認できた。
【0069】
<実施例6>
(透明導電体形成用インク)
N−エチルヘキシルカルバゾール(アルドリッチ社製)を用いて、実施例1のポリ(N−オクチルカルバゾール)と同様な方法で化学重合により得たポリ(N−エチルヘキシルカルバゾール)0.1gを1,2−ジクロロエタン4mLに溶解し、そこに粒状の錫0.15gを加え、透明導電体形成用インクを作製した。加えた錫は一部溶解した。残った錫の粒は濾過で取り除いた。緑色であった溶液は、灰黒色に変化した。
【0070】
(透明導電体膜の形成)
このインクをスピンコーター(ミカサ(株)製 MS−A150)を使い、スライドガラス上に回転数2,000rpmでスピンコートし、透明導電体膜を製膜した。作製した透明導電体膜の膜厚は100nmであった。この膜の四探針法による電気伝導度は2.0×100S・cm-1であった。この膜は非常に優れた電気伝導性を示すことが確認できた。
【0071】
<実施例7>
(透明導電体形成用インク)
実施例1において化学重合で得たポリ(N−n−オクチルカルバゾール)0.1gをクロロホルム4mLに溶解し、そこに粒状のマグネシウム0.1gを加え、透明導電体形成用インクを作製した。加えたマグネシウムは一部溶解した。残ったマグネシウムの粒は濾過で取り除いた。緑色であった溶液は、灰黒色に変化した。
【0072】
(透明導電体膜の形成)
このインクをスピンコーター(ミカサ(株)製 MS−A150)を使い、スライドガラス上に回転数2,000rpmでスピンコートし、透明導電体膜を製膜した。作製した透明導電体膜の膜厚は100nmであった。この膜の透過スペクトルを図9に示す。この膜の四探針法による電気伝導度は4.0×10-3S・cm-1であった。この膜は非常に優れた電気伝導性を示すことが確認できた。
【0073】
<実施例8>
(透明導電体形成用インク)
実施例1において化学重合で得たポリ(N−n−オクチルカルバゾール)0.1gをクロロホルム4mLに溶解し、そこに粒状の亜鉛0.25gを加え、透明導電体形成用インクを作製した。加えた粒状の亜鉛は一部溶解した。残った亜鉛の粒は濾過で取り除いた。緑色であった溶液は、灰黒色に変化した。
【0074】
(透明導電体膜の形成)
このインクをスピンコーター(ミカサ(株)製 MS−A150)を使い、スライドガラス上に回転数2,000rpmでスピンコートし、透明導電体膜を製膜した。作製した透明導電体膜の膜厚は100nmであった。この膜の透過スペクトルを図9に示す。この膜の四探針法による電気伝導度は4.0×10-3S・cm-1であった。この膜は非常に優れた電気伝導性を示すことが確認できた。
【0075】
<実施例9>
(透明導電体形成用インク)
実施例1において化学重合で得たポリ(N−n−オクチルカルバゾール)0.1gをクロロホルム4mLに溶解し、そこに粒状のインジウム0.35gを加え、透明導電体形成用インクを作製した。加えた粒状のインジウムは一部溶解した。残ったインジウムの粒は濾過で取り除いた。緑色であった溶液は、灰黒色に変化した。
【0076】
(透明導電体膜の形成)
このインクをスピンコーター(ミカサ(株)製 MS−A150)を使い、スライドガラス上に回転数2,000rpmでスピンコートし、透明導電体膜を製膜した。作製した透明導電体膜の膜厚は100nmであった。この膜の透過スペクトルを図10に示す。この膜の四探針法による電気伝導度は7.1×10-3S・cm-1であった。この膜は非常に優れた電気伝導性を示すことが確認できた。
【0077】
<実施例10>
(透明導電体形成用インク)
実施例1において化学重合で得たポリ(N−n−オクチルカルバゾール)0.1gをクロロホルム4mLに溶解し、40℃で加温し溶融したガリウムをスポイトで0.2g加え、透明導電体形成用インクを作製した。加えたガリウムは溶液中で一部溶解した後、粒状に固化した。残ったガリウムの粒は濾過で取り除いた。緑色であった溶液は、灰黒色に変化した。
【0078】
(透明導電体膜の形成)
このインクをスピンコーター(ミカサ(株)製 MS−A150)を使い、スライドガラス上に回転数2,000rpmでスピンコートし、透明導電体膜を製膜した。作製した透明導電体膜の膜厚は100nmであった。この膜の透過スペクトルを図10に示す。この膜の四探針法による電気伝導度は4.9×10-3S・cm-1であった。この膜は非常に優れた電気伝導性を示すことが確認できた。
【0079】
<実施例11>
(溶融金属との圧着による透明導電体膜の形成)
実施例1において化学重合で得たポリ(N−n−オクチルカルバゾール)0.1gをクロロホルム4mLに溶解し、スライドガラス上にスピンコーター(ミカサ(株)製 MS−A150)でスピンコートし製膜した。トレイに40℃に加温した溶融ガリウムを注ぎ、ポリ(N−n−オクチルカルバゾール)を製膜したスライドガラスを被せ、スライドガラスの重量を利用してポリ(N−n−オクチルカルバゾール)スピンコート膜と溶融ガリウムとを圧着させ、40℃に加温した。緑色であったスピンコート膜は、無色透明になった。この膜の透過スペクトルを図11に示す。この膜の四探針法による電気伝導度は2.0×10-3S・cm-1であった。この膜は非常に優れた電気伝導性を示すことが確認できた。
【0080】
<実施例12>
(溶融金属との圧着による透明導電体膜の形成)
実施例1において化学重合で得たポリ(N−n−オクチルカルバゾール)0.1gをクロロホルム4mLに溶解し、スライドガラス上にスピンコーター(ミカサ(株)製 MS−A150)でスピンコートし製膜した。トレイに室温で溶融しているガリウム75.5重量%とインジウム24.5重量%との合金を注ぎ、ポリ(N−n−オクチルカルバゾール)を製膜したスライドガラスを被せ、スライドガラスの重量を利用してポリ(N−n−オクチルカルバゾール)スピンコート膜と溶融ガリウムとを圧着させた。緑色であったスピンコート膜は、無色透明になった。この膜の透過スペクトルを図11示す。この膜の四探針法による電気伝導度は1.0×10-3S・cm-1であった。この膜は非常に優れた電気伝導性を示すことが確認できた。
【0081】
<実施例13>
(化学重合ポリ(N−n−エチルカルバゾール)からなる透明導電膜の形成)
n−エチルカルバゾール0.05mol、過塩素酸鉄(III)0.1mol、アセトニトリル10mLから、N−n−オクチルカルバゾールの調製と同様の重合条件で化学重合した。得られたポリ(N−n−エチルカルバゾール)0.1gをクロロホルム4mLに溶解し、粒状のアルミニウム0.15gを加えて反応させた後、残ったアルミニウムの粒は濾過で取り除き、透明導電体形成用インクを作製した。さらに細かい不溶物を除くため溶液をワットマンジャパン製プラディスクシリンジフィルター(型番3784−1302、孔径0.2μm)で濾過後、スライドガラス上に2,000rpmでスピンコート膜を製膜した。スピンコーターは、ミカサ(株)製 MS−A150を使用した。この膜の透過スペクトルを図12に示す。この膜の四探針法による電気伝導度は、2.0×10-4S・cm-1であった。
【0082】
<実施例14>
(化学重合ポリ(N−n−ドコサイルカルバゾール)からなる透明導電膜の形成)
n−ドコサイルカルバゾール0.05mol、過塩素酸鉄(III)0.1mol、アセトニトリル10mLから、N−n−オクチルカルバゾールの調製と同様の重合条件で化学重合した。得られたポリ(N−n−ドコサイルカルバゾール)0.1gをクロロホルム4mLに溶解し、粒状の錫0.15gを加えて反応させた後、残った錫の粒は濾過で取り除き、透明導電体形成用インクを作製した。緑色であった溶液は、灰黒色に変化した。このインクをスピンコーター(ミカサ(株)製 MS−A150)でスライドガラス上に回転数2,000rpmでスピンコートし、透明導電体膜を製膜した。作製した透明導電体膜の膜厚は100nmであった。この膜およびポリ(N−n−ドコサイルカルバゾール)膜の透過スペクトルを図13に示す。この膜の四探針法による電気伝導度は、3.8×10-4S・cm-1であった。
【0083】
<参考例15>
(ポリ(N−n−オクチルカルバゾール)膜のイオン化ポテンシャル測定)
実施例1における化学重合で得たポリ(N−n−オクチルカルバゾール)0.1gをクロロホルム4mLに溶解し、シリコンウェファー上にスピンコーター(ミカサ(株)製 MS−A150)でスピンコートし製膜した。アルバック・ファイ(株)製ESCA−5400での紫外光電子分光法によるこの膜のイオン化ポテンシャルは、5.2eVであった。光電子分光スペクトルを図14に示す。
【0084】
<参考例16>
(ポリ(N−n−ドコサイルカルバゾール)膜のイオン化ポテンシャル測定)
実施例14における化学重合で得たポリ(N−n−ドコサイルカルバゾール)0.1gをクロロホルム4mLに溶解し、シリコンウェファー上にスピンコーター(ミカサ(株)製 MS−A150)でスピンコートし製膜した。アルバック・ファイ(株)製ESCA−5400での紫外光電子分光法によるこの膜のイオン化ポテンシャルは、5.0eVであった。光電子分光スペクトルを図14に示す。
【0085】
<比較例1>
市販されているカルバゾール(5mM)と過塩素酸テトラブチルアンモニウム(0.1M)を溶解したジクロロメタン溶液からなる電解液を、耐熱ガラス製の2部屋タイプの電解セルの主室に入れた。そしてこの主室にITO膜(膜厚170nm)がコートされたガラス電極と白金板電極を浸漬した。一方、焼結ガラス膜で隔てられた副室には、過塩素酸テトラブチルアンモニウム(0.1M)を溶解したジクロロメタン溶液からなる電解液を入れ、SCEを浸漬した。主室の溶液に窒素ガスを40分通し、溶存酸素を排除した。そしてITOガラス電極を動作電極、白金板電極を対向電極、SCEを参照電極として定電位電源(ポテンショスタット)に接続した。動作電極に、参照電極に対して+1.2Vの電位を印加した。通電電気量は50mC/cm2であり、電解中は電解液上部に窒素ガスを流し、窒素雰囲気を保った。なお電解セルは恒温機中に設置されており、電解温度は5℃に保った。
【0086】
この操作により、ITOガラス電極上に膜厚800nmのポリカルバゾール膜が形成された。なおこの膜はジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンには溶解せず、インクの調製ができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の製造方法により、容易に透明導電体、及び透明導電体形成用インクが得られ、液晶ディスプレイ、電界発光ディスプレイなどのディスプレイ装置に応用が可能である。また、太陽電池、タッチパネル等にも適用可能であり、産業上有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式で表される少なくとも1種のN−アルキルカルバゾールを重合させて得られるポリ(N−アルキルカルバゾール)と、金属とを接触させる工程を含む透明導電体の製造方法。
【化1】
(式中、nは1以上の整数であり、アルキルの少なくとも1つの水素は、ヒドロキシ、カルボキシル、スルホ及びアミノから選択される少なくとも1種の基で置き換えられていてもよい。)
【請求項2】
前記接触させる工程が、液相中で行われることを特徴とする、請求項1に記載の透明導電体の製造方法。
【請求項3】
前記接触させる工程に用いる金属が、溶融金属であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の透明導電体の製造方法。
【請求項4】
前記重合が、化学重合であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の透明導電体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法で製造した透明導電体。
【請求項6】
下記一般式で表される少なくとも1種のN−アルキルカルバゾールを重合させて得られるポリ(N−アルキルカルバゾール)を溶媒に溶解させポリ(N−アルキルカルバゾール)溶液とし、前記溶液と金属とを接触させる工程を含む透明導電体形成用インクの製造方法。
【化2】
(式中、nは1以上の整数であり、アルキルの少なくとも1つの水素は、ヒドロキシ、カルボキシル、スルホ及びアミノから選択される少なくとも1種の基で置き換えられていてもよい。)
【請求項7】
下記一般式で表される少なくとも1種のN−アルキルカルバゾールを化学重合させて得られるポリ(N−アルキルカルバゾール)溶液と、金属とを接触させる工程を含む透明導電体形成用インクの製造方法。
【化3】
(式中、nは1以上の整数であり、アルキルの少なくとも1つの水素は、ヒドロキシ、カルボキシル、スルホ及びアミノから選択される少なくとも1種の基で置き換えられていてもよい。)
【請求項8】
前記重合が、化学重合である請求項6に記載の透明導電体形成用インクの製造方法。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれかに記載の方法で製造した透明導電体形成用インク。
【請求項1】
下記一般式で表される少なくとも1種のN−アルキルカルバゾールを重合させて得られるポリ(N−アルキルカルバゾール)と、金属とを接触させる工程を含む透明導電体の製造方法。
【化1】
(式中、nは1以上の整数であり、アルキルの少なくとも1つの水素は、ヒドロキシ、カルボキシル、スルホ及びアミノから選択される少なくとも1種の基で置き換えられていてもよい。)
【請求項2】
前記接触させる工程が、液相中で行われることを特徴とする、請求項1に記載の透明導電体の製造方法。
【請求項3】
前記接触させる工程に用いる金属が、溶融金属であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の透明導電体の製造方法。
【請求項4】
前記重合が、化学重合であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の透明導電体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法で製造した透明導電体。
【請求項6】
下記一般式で表される少なくとも1種のN−アルキルカルバゾールを重合させて得られるポリ(N−アルキルカルバゾール)を溶媒に溶解させポリ(N−アルキルカルバゾール)溶液とし、前記溶液と金属とを接触させる工程を含む透明導電体形成用インクの製造方法。
【化2】
(式中、nは1以上の整数であり、アルキルの少なくとも1つの水素は、ヒドロキシ、カルボキシル、スルホ及びアミノから選択される少なくとも1種の基で置き換えられていてもよい。)
【請求項7】
下記一般式で表される少なくとも1種のN−アルキルカルバゾールを化学重合させて得られるポリ(N−アルキルカルバゾール)溶液と、金属とを接触させる工程を含む透明導電体形成用インクの製造方法。
【化3】
(式中、nは1以上の整数であり、アルキルの少なくとも1つの水素は、ヒドロキシ、カルボキシル、スルホ及びアミノから選択される少なくとも1種の基で置き換えられていてもよい。)
【請求項8】
前記重合が、化学重合である請求項6に記載の透明導電体形成用インクの製造方法。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれかに記載の方法で製造した透明導電体形成用インク。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−257797(P2010−257797A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107096(P2009−107096)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】
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