説明

有機金属化合物、極性基含有ノルボルネン重合用触媒および極性基含有ノルボルネン重合体の製造方法

【課題】広い範囲の極性基含有ノルボルネンの重合反応において良好な触媒活性を発現する触媒系を提供する。
【解決手段】下記の(a),(b)および(c)を混合することによって得られる有機金属化合物。
(a)パラジウムと、パラジウムとの結合に関与する炭素数が少なくとも3である有機配位子を2つ有する中性有機パラジウム錯体
(b)1つのリン原子を有する有機リン化合物
(c)中心原子に非共有電子対をもたないアニオンとカウンターカチオンから成る塩

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機金属化合物、極性基含有ノルボルネン付加重合触媒系および極性基含有ノルボルネン重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
極性基を側鎖に有するノルボルネン(以下、極性基含有ノルボルネン)の付加重合体は、高い耐熱性、低復屈折に加え、親水性、透水性、他の素材に対する密着性を有することなどから、光学フィルムとして有望である。
【0003】
従来、極性基含有ノルボルネンの付加重合は、結合に関与する炭素数が3である有機配位子(アリルもしくはメトキシノルボルニル)を有するカチオン性有機パラジウム錯体を触媒として用いることで達成できることが知られている(非特許文献1および2)。しかし、これらの手法では、極性基含有ノルボルネンに対し50分の1から550分の1当量の有機パラジウム錯体が必要とされ、製造コストの面で工業的には望ましくない。また、得られる極性基含有ノルボルネン重合体が黄色く着色してしまい、光学フィルムとして使用するには不適当であった。
【0004】
一方、アリルパラジウムにかさ高いホスフィン配位子とアニオン性配位子を配位させた錯体に非配位性アニオンを含む塩を添加することで発生させたカチオン性アリルパラジウム錯体を触媒として用いることで、トリエトキシシリルノルボルネン/ブチルノルボルネンの共重合活性が大きく向上することが知られている(特許文献1)。しかし、この錯体ではノルボルネンカルボン酸エチルエステルの重合反応の収率が0%、またノルボルネンメチルアセテートの重合反応の収率が1%と低い(非特許文献3)など、極性基含有ノルボルネンの種類によっては有効に触媒作用しない場合がある。
【0005】
一方、非特許文献4には、アリルシクロペンタジエニルパラジウムに分子内に非共有電子対をもたないアニオンとカウンターカチオンから成る塩を添加する触媒系が、ノルボルネンの単独重合に有効であることが記されている。しかしながら、極性基含有ノルボルネンの重合に関する記述はなかった。
【0006】
このように、従来知られている極性基含有ノルボルネン付加重合の触媒系は、触媒の活性が低い、極性基含有ノルボルネンの種類によって重合が進行しないなどの問題点がある。
【特許文献1】米国特許第6,825,307B2号公報
【非特許文献1】マクロモレキュールス(Macromolecules)、1996年、29巻、2755ページ
【非特許文献2】アクタ・ポリマー(Acta Polymer)、1997年、48巻、385ページ
【非特許文献3】ポリマー・プレプリンツ(Polymer Preprints)、2002年、43巻、963ページ
【非特許文献4】日本化学会第85春季年会予稿集、1PA−019
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者が、上記非特許文献3に記載の触媒を、極性基含有ノルボルネンの重合に適用したところ、良好な重合体は得られないことがわかった。したがって、本発明の課題は、
広い範囲の極性基含有ノルボルネンの重合反応において良好な触媒活性を発現する触媒系を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、(a)パラジウムと、パラジウムとの結合に関与する炭素数が少なくとも3である有機配位子を2つ有する中性有機パラジウム錯体と、(b)1つのリン原子を有する有機林化合物、および(c)中心原子に非共有電子対をもたないアニオンとカウンターカチオンから成る塩を混合させることによって得られる触媒が、広い範囲の極性基含有ノルボルネンの重合反応に対して高い触媒活性を有することを見出した。これにより、黄色味を帯びない重合体を得ることができる。すなわち、上記の課題は下記の(1)〜(8)によって達成される。
【0009】
(1)下記の(a),(b)および(c)を混合することによって得られる有機金属化合物。
(a)パラジウムと、パラジウムとの結合に関与する炭素数が少なくとも3である有機配位子を2つ有する中性有機パラジウム錯体
(b)1つのリン原子を有する有機リン化合物
(c)中心原子に非共有電子対をもたないアニオンとカウンターカチオンから成る塩
【0010】
(2)2つの有機配位子のうち、一方の有機配位子におけるパラジウムとの結合に関与する炭素数が3であり、他方の有機配位子におけるパラジウムとの結合に関与する炭素数が5であることを特徴とする、上記(1)記載の有機金属化合物。
(3)中性有機パラジウム錯体が一般式(I)で表されることを特徴とする、上記(2)記載の有機金属化合物。
一般式(I)
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、R1,R2,R3,R4,R5,R6,R7,R8,R9,およびR10は水素原子、ハロゲン原子もしくは一価の有機基を表し、これらは互いに結合して環構造を形成してもよい。)
【0013】
(4)中性有機パラジウム錯体が一般式(II)で表されることを特徴とする、上記(2)記載の有機金属化合物。
一般式(II)
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、R1,R2,R3,R4,R5,R11は水素原子、ハロゲン原子もしくは一価の有機基を表し、これらは互いに結合して環構造を形成してもよい。点線は配位結合を表す。)
【0016】
(5)中性有機パラジウム錯体が一般式(III)で表されることを特徴とする、上記(2)記載の有機金属化合物。
一般式(III)
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、R1,R2,R3,R4,R5,R12,R13は水素原子、ハロゲン原子もしくは一価の有機基を表し、これらは互いに結合して環構造を形成してもよい。nは1〜12の整数を表す。(R13nはn個のR13が結合していることを表す。点線は配位結合を表す。)
【0019】
(6)中性有機パラジウム錯体が一般式(IV)で表されることを特徴とする、上記(2)記載の有機金属化合物。
一般式(IV)
【0020】
【化4】

【0021】
(式中、R1,R2,R3,R4,R5,R14は水素原子、ハロゲン原子もしくは一価の有機基を表し、これらは互いに結合して環構造を形成してもよい。点線は配位結合を表す。)
【0022】
(7)上記(1)〜(6)記載の有機金属化合物を用いて製造されたことを特徴とする、極性基含有ノルボルネン重合用触媒。
(8)上記(7)記載の極性基含有ノルボルネン重合用触媒を用いて、極性基含有ノルボルネンを重合させることを特徴とする、極性基含有ノルボルネン重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、工業的に有利な触媒の使用量で、広い範囲の極性基含有ノルボルネンの重合体を得ることができる。また、着色が少なく光学材料等に有用な極性基含有ノルボルネン重合体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0025】
(有機金属化合物)
本発明の有機金属化合物は、下記の(a)、(b)、および(c)を混合することによって得られる。
【0026】
(a)中性有機パラジウム錯体
本発明で用いられる中性有機パラジウム錯体は、パラジウムと、パラジウムとの結合に関与する炭素数が少なくとも3である有機配位子を2つ有し、中性であることを特徴とする。2つの有機配位子は、ともに1価のカルボアニオンであることが好ましい。パラジウムは2価のパラジウムであることが好ましい。2つの有機配位子が、ともに1価のカルボアニオンであり、パラジウムは2価のパラジウムであると、有機パラジウム錯全体の電荷は0となり、中性である。2つの有機配位子はパラジウムと結合するが、結合に関与する炭素数はともに少なくとも3である。
【0027】
パラジウムと結合に関与する炭素数が3である有機配位子は、η3アリル、ビシクロヘプテニル、シクロオクテニル、シクロオクタトリエニル、ヘキサヒドロメタノインデニルおよびこれらの置換体などが挙げられる。パラジウムと結合に関与する炭素数が5である有機配位子は、η5シクロペンタジエニルおよびこの置換体などが挙げられる。
【0028】
パラジウム錯体における、2つの有機配位子のパラジウムとの結合に関与する炭素数の組み合わせは、好ましくは3と3、5と5、3と5であり、さらに好ましくは3と3、3と5であり、最も好ましくは3と5である。これらの錯体は、中性有機パラジウム錯体が連結基によって、連結されていてもよい。
【0029】
二つの有機配位子の結合に関与する炭素数が、3と5である場合、中性有機パラジウム錯体は、好ましくは一般式(I)〜(V)で表される。
一般式(I)
【0030】
【化5】

【0031】
式中、R1,R2,R3,R4,R5,R6,R7,R8,R9,R10はは水素原子、ハロゲン原子もしくは一価の有機基を表し、これらは互いに結合して環構造を形成してもよい。上記式中、左側のの配位子は、R6,R7,R8,R9,R10で置換されたη3アリル配位子を表し、右側の配位子は、R1,R2,R3,R4,R5で置換されたη5シクロペンタジエニル配位子を表す。
一般式(II)
【0032】
【化6】

【0033】
式中、R1,R2,R3,R4,R5,R11は水素原子、ハロゲン原子もしくは一価の有機基を表し、これらは互いに結合して環構造を形成してもよい。点線は配位結合を表す。上記式中、右側の配位子は、R1,R2,R3,R4,R5で置換されたη5シクロペンタジエニル配位子を表す。
一般式(III)
【0034】
【化7】

【0035】
式中、R1,R2,R3,R4,R5,R12,R13は水素原子、ハロゲン原子もしくは一価の有機基を表し、これらは互いに結合して環構造を形成してもよい。nは1〜12の整数を表す。(R13nはn個のR13が結合していることを表す。点線は配位結合を表す。上記式中、右側の配位子は、R1,R2,R3,R4,R5で置換されたη5シクロペンタジエニル配位子を表す。
一般式(IV)
【0036】
【化8】

【0037】
式中、R1,R2,R3,R4,R5,R14は水素原子、ハロゲン原子もしくは一価の有機基を表し、これらは互いに結合して環構造を形成してもよい。点線は配位結合を表す。上
記式中、右側の配位子は、R1,R2,R3,R4,R5で置換されたη5シクロペンタジエニル配位子を表す。
【0038】
1,R2,R3,R4,R5,R6,R7,R8,R9,R10,R11,R12,R13およびR14が一価の有機基を表す場合、例えば以下が挙げられる。
【0039】
アルキル基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルキル基で、例えばメチル、エチル、iso−プロピル、tert−ブチル、n−オクチル、n−デシル、n−ヘキサデシル、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが挙げられる。)、アルケニル基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルケニル基で、例えばビニル、アリル、2−ブテニル、3−ペンテニルなどが挙げられる。)、アルキニル基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルキニル基で、例えばプロパルギル、3−ペンチニルなどが挙げられる。)、アリール基(炭素数6〜20、好ましくは6〜15のアリール基で、例えばフェニル、p−メチルフェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、ピレニルなどが挙げられる。)、アミノ基(炭素数0〜20、好ましくは0〜10のアミノ基で、例えばアミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジベンジルアミノなどが挙げられる。)、アルコキシ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルコキシ基で、例えばメトキシ、エトキシ、ブトキシなどが挙げられる。)、アリールオキシ基(炭素数6〜20、好ましくは6〜15のアリールオキシ基で、例えばフェニルオキシ、2−ナフチルオキシなどが挙げられる。)、ヘテロ環オキシ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のヘテロ環オキシ基で、例えばピリジルオキシ、ピリミジニルオキシ、ピリダジニルオキシ、ベンズイミダゾリルオキシなどが挙げられる。)、シリルオキシ基(炭素数3〜20、好ましくは3〜10のシリルオキシ基で、例えばトリメチルシリルオキシ、t−ブチルジメチルシリルオキシなどが挙げられる。)、アシル基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアシル基で、例えばアセチル、ベンゾイル、ホルミル、ピバロイルなどが挙げられる。)、アルコキシカルボニル基(炭素数2〜20、好ましくは2〜10のアルコキシカルボニル基で、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニルなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニル基(炭素数7〜20、好ましくは7〜15のアリールオキシカルボニル基で、例えばフェニルオキシカルボニルなどが挙げられる。)、アシルオキシ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアシルオキシ基で、例えばアセトキシ、ベンゾイルオキシなどが挙げられる。)、アシルアミノ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアシルアミノ基で、例えばアセチルアミノ、ベンゾイルアミノなどが挙げられる。)、アルコキシカルボニルアミノ基(炭素数2〜20、好ましくは2〜10のアルコキシカルボニルアミノ基で、例えばメトキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニルアミノ基(炭素数7〜20、好ましくは7〜15のアリールオキシカルボニルアミノ基で、例えばフェニルオキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、アルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基で、例えばメタンスルホニルアミノ、ベンゼンスルホニルアミノなどが挙げられる。)、スルファモイル基(炭素数0〜20、好ましくは0〜10のスルファモイル基で、例えばスルファモイル、N−メチルスルファモイル、N,N−ジメチルスルファモイル、N−フェニルスルファモイルなどが挙げられる。)、カルバモイル基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のカルバモイル基で、例えばカルバモイル、N−メチルカルバモイル、N,N−ジエチルカルバモイル、N−フェニルカルバモイルなどが挙げられる。)、アルキルチオ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルキルチオ基で、例えばメチルチオ、エチルチオなどが挙げられる。)、アリールチオ基(炭素数6〜20、好ましくは6〜15のアリールチオ基で、例えばフェニルチオなどが挙げられる。)、ヘテロ環チオ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のヘテロ環チオ基で、例えばピリジニルチオ、ピリミジニルチオ、ピリダジニルチオ、ベンズイミダゾリルチオ、チアジアゾリルチオなどが挙げられる。)、アルキルもしくはアリールスルホニル基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルキルもしくはアリールス
ルホニル基で、例えばメシル、トシルなどが挙げられる。)、アルキルもしくはアリールスルフィニル基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルキルもしくはアリールスルホニル基で、例えばメタンスルフィニル、ベンゼンスルフィニルなどが挙げられる。)、ヒドロキシ基、メルカプト基、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のヘテロ環基で、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子、具体的には例えばイミダゾリル、ピリジル、キノリル、フリル、チエニル、ピペリジル、モルホリノ、ベンゾオキサゾリル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾチアゾリル、カルバゾリル、アゼピニルなどが挙げられる。)、シリル基(炭素数3〜20、好ましくは3〜10のシリル基で、例えばトリメチルシリル、トリフェニルシリルなどが挙げられる。)などが挙げられる。これらの有機基は更に置換されてもよい。また、置換基が二つ以上ある場合は、同じでも異なってもよい。また、可能な場合には互いに連結して環を形成してもよい。
【0040】
1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10およびR13として好ましくは、水素原子、メチル基、トリメチルシリル基もしくはフェニル基であり、さらに好ましくは、水素原子もしくはメチル基であり、特に好ましくは、水素原子である。
【0041】
11、R12、およびR14として好ましくは、アルコキシ基もしくはアリールオキシ基であり、さらに好ましくは、アルコキシ基であり、特に好ましくはメトキシ基である。
【0042】
nは1〜12の整数を表すが、R13が水素原子以外の場合、好ましくは1〜10であり、さらに好ましくは1〜5であり、最も好ましくは1〜2である。
【0043】
本発明のパラジウム錯体の具体例を示すが、これに限定されない。
【0044】
【化9】

【0045】
【化10】

【0046】
次に、本発明のパラジウム錯体の合成例を示す。
(パラジウム錯体1の合成)
【0047】
【化11】

【0048】
高純度アルゴンで置換したガラス製フラスコ内にアリルパラジウムクロライドダイマー
(東京化成(株)製)1.00gと脱水テトラヒドロフラン15mLを加えた。この黄色サスペンジョンを氷浴中で攪拌しながら、シクロペンタジエニルナトリウムの2.0Mテトラヒドロフラン溶液(アルドリッチ社製)2.9mLを滴下し、5分間攪拌した。反応混合物を室温に戻し、メタノール1mLを加えた。空気に触れることなく、溶媒をエバポレーションした。得られた残存物にヘキサン50mLを加え、赤色溶液とした。これをろ過し、得られたろ液をドライアイス浴で冷却した。上澄み液をデカンテーションし、得られた赤色の結晶を真空乾燥した。1の赤色結晶を825mg得た。1HNMRのデータは、文献値(ジャーナル・オブ・ケミカル・ソサイアティー・ダルトン・トランザクション(Journal of Chemical Society Dalton Transaction)、1973年2390ページ)と一致した。
(パラジウム錯体2の合成)
【0049】
【化12】

【0050】
高純度アルゴンで置換したガラス製フラスコ内に塩化パラジウム(和光純薬(株)製)2.00g、塩化リチウム(和光純薬(株)製)1.90gおよびメタノール40mL中を加え、4時間攪拌した。得られた均一溶液に3−クロロ−2−メチル−1−プロペン(和光純薬(株)製)1.62gを加え、これに一酸化炭素を4時間バブリングした。得られた黄色溶液を低温でエバポレーションした。黄色の残存物を塩化メチレンで抽出し、ろ過した。エバポレーションで濃縮し、ヘキサンを加えると黄色の2−メチルアリルパラジウムクロライドダイマーの結晶1.72gが得られた。
【0051】
上記2−メチルアリルパラジウムクロライドダイマー1.08gより、1の合成処方と同様の操作で、2の赤色結晶を895mg得た。1HNMRのデータは、文献値(ジャーナル・オブ・ケミカル・ソサイアティー・ダルトン・トランザクション(Journal
of Chemical Society Dalton Transaction)、1973年2390ページ)と一致した。
(パラジウム錯体3の合成)
【0052】
【化13】

【0053】
メチルシクロペンタジエンダイマー(和光純薬(株)製)50mLを180〜200℃に加熱して、メチルシクロペンタジエンを得た。このうち0.52gを、高純度アルゴンで置換したガラス製フラスコ内に仕込み、脱水テトラヒドロフラン5mLを加えた。氷浴でフラスコを冷却し、1.6Mブチルリチウムヘキサン溶液(和光純薬(株)製)4.1mLを添加した。得られた赤色溶液に、アリルパラジウムクロライドダイマー1.00gを加え、5分間攪拌した。反応混合物を室温に戻し、メタノール1mLを加えた。空気に触れることなく、溶媒をエバポレーションした。得られた残存物にヘキサン50mLを加え、赤色溶液とした。これをろ過し、得られたろ液をドライアイス浴で冷却した。上澄み液をデカンテーションし、得られた赤色の結晶を真空乾燥した。3の赤色結晶805mg得た。1HNMRのデータは、文献値(ナテュア・フォアシュンク(Nature Forschung)、B1984年39巻990ページ)と一致した。
(パラジウム錯体4の合成)
【0054】
【化14】

【0055】
塩化パラジウム(和光純薬(株)製)3.00gと塩化リチウム(和光純薬(株)製)2.10gおよびメタノール40mLを高純度アルゴンで置換したガラス製フラスコ内に仕込み、4時間攪拌した。得られた均一溶液にノルボルナジエン(アルドリッチ社製)2.1gを加え、12時間攪拌した。得られた黄色の固体を吸引ろ過し、ノルボルナジエンジクロロパラジウム3.6gを得た。
【0056】
高純度アルゴンで置換したガラス製フラスコ内で、メタノール20mL中に上記で得られたノルボルナジエンジクロロパラジウム1.40gを添加し、ドライアイス浴で内部温度−40℃とした。これに28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬(株)製)1.5mLを滴下した。1時間反応させ、室温に戻した。生じた黄色の固体を吸引ろ過、メタノール洗浄し、メトキシノルボルネンパラジウムクロライドダイマー1.22gを得た。
【0057】
上記メトキシノルボルネンパラジウムクロライドダイマー1.20gより、1の合成処方と同様の操作で、4の赤色結晶を1020mg得た。
(パラジウム錯体5の合成)
【0058】
【化15】

【0059】
塩化パラジウム(和光純薬(株)製)3.00gと塩化リチウム(和光純薬(株)製)2.10gおよびメタノール40mLを高純度アルゴンで置換したガラス製フラスコ内に仕込み、4時間攪拌した。得られた均一溶液にジシクロペンタジエン(和光純薬(株)製)3.06gを加え、12時間攪拌した。得られた黄色の固体を吸引ろ過し、ジシクロペンタジエンジクロロパラジウム4.84gを得た。
【0060】
上記ジシクロペンタジエンジクロロパラジウム4.50gより、4の合成処方と同様の操作で、5の赤色結晶を3.10g得た。1HNMRのデータは、文献値(ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・ケミカル・ソサイアティー(Journal of the American Chemical Society)、1966年88巻5135ページ)と一致した。
(パラジウム錯体6の合成)
【0061】
【化16】

【0062】
塩化パラジウム(和光純薬(株)製)3.0gと塩化リチウム(和光純薬(株)製)2.1gおよびメタノール40mLを高純度アルゴンで置換したガラス製フラスコ内に仕込み、4時間攪拌した。得られた均一溶液に1、5−シクロオクタジエンジエン(和光純薬(株)製)2.31gを加え、12時間攪拌した。得られた黄色の固体を吸引ろ過し、1、5−シクロオクタジエンジエンジクロロパラジウム4.82gを得た。
【0063】
上記1、5−シクロオクタジエンジエンジクロロパラジウム3.50gより、4の合成処方と同様の操作で、6の赤色結晶を1.23g得た。1HNMRのデータは、文献値(ジャーナル・オブ・ザ・ケミカル・ソサイアティー(Journal of the Chemical Society)、1964年5002ページ)と一致した。
【0064】
(b)有機リン化合物
本発明で用いられる有機リン化合物は、分子内に一つのリン原子を含み、(a)の中性有機パラジウム錯体に単座配位する働きをもつ。触媒活性種が発生した時、この有機リン化合物はパラジウムに配位しているため、極性基含有ノルボルネンの極性基がパラジウム
に配位することを妨げ、重合を進行させる。したがって、有機リン化合物が十分にかさ高くないと、この妨げが不十分となり、重合が進行しなくなる。一方で、有機リン化合物がかさ高すぎると、極性基含有ノルボルネンがパラジウムに配位、挿入しなくなり、やはり重合が進行しなくなる。したがって、有機リン化合物には適当なかさ高さが必要である。
【0065】
本発明で用いられる1つのリン原子を有する有機リン化合物は、好ましくは3つの有機基を有する3価の有機林化合物である。具体的には、ホスフィン化合物もしくはホスファイト化合物であり、好ましくは三級ホスフィン化合物もしくはホスファイト化合物であり、さらに好ましくは、ジアルキルアリールホスフィン、ジアリールアルキルホスフィン、トリアルキルホスフィン、トリアリールホスフィン、トリアルキルホスファイト、トリアリールホスファイトであり、最もこのましくはトリアリールホスフィン、トリアルキルホスフィンである。
【0066】
本発明で用いられるホスフィン化合物を以下に例示するが、これに限定されない。好ましいホスフィン化合物としては、トリフェニルホスフィン、トリトリルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、エチルジフェニルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、ジオクチルフェニルホスフィン、トリデカニルホスフィン、トリノニルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリヘプチルホスフィン、トリヘキシルホスフィン、トリペンチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリプロピルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリメチルホスフィン、ジメチルオクチルホスフィン、ジオクチルメチルホスフィン、ジメチルヘプチルホスフィン、ジヘプチルメチルホスフィン、ジメチルヘキシルホスフィン、ジヘキシルメチルホスフィン、ジメチルブチルホスフィン、ジブチルメチルホスフィン、トリペンチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリヘプチルホスフィン、トリベンジルホスフィン、ジメチルシクロヘキシルホスフィン、ジシクロヘキシルメチルホスフィンが挙げられる。
【0067】
これらの中でも、合成の容易さと扱いやすさの点から、トリアリールホスフィン系化合物とトリアルキルホスフィン系化合物が好ましく、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィンがさらに好ましく、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィンが最も好ましい。
【0068】
(c)中心原子に非共有電子対をもたないアニオンとカウンターカチオンから成る塩
本発明で用いられる塩は、アニオンとカチオンから成り、アニオンは中心原子に非共有電子対をもたない。したがって、このアニオンは(a)のパラジウム原子に配位しないもしくは弱く配位する性質を有しており、非配位性もしくは弱く配位するアニオンとも呼ばれる。(c)を(a)と(b)の混合物に添加することで、中性有機パラジウム錯体をカチオン性有機パラジウム錯体に変換される。パラジウム錯体のカチオン性を高くするには、アニオンの電荷を高くすることが必要である。したがって、アニオンには電気陰性度の高いフッ素などが含まれていることが好ましい。さらに、アニオンのパラジウムへの配位を弱めるため、アニオン分子をかさ高くすることが好ましい。このような設計により、発生したカチオン性パラジウム錯体に、極性基含有ノルボルネンが配位しやすくなり、これに続く挿入が容易になり、重合活性を高めることとなる。このようなアニオンの例として、置換ボレート系や置換アルミネート系のアニオンがあり、以下の例が挙げられる。
【0069】
ボレートの例として、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ボレート、テトラキス(2−フルオロフェニル)ボレート、テトラキス(3−フルオロフェニル)ボレート、テトラキス(4−フルオロフェニル)ボレート、テトラキス(3,5−ジフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(2,3,4,5−テトラフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(3,4,5,6−テトラフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(3,4,5−トリフルオロフェ
ニル)ボレート、メチルトリス(パーフルオロフェニル)ボレート、エチルトリス(パーフルオロフェニル)ボレート、フェニルトリス(パーフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(1,2 ,2−トリフルオロエチレニル)ボレート、テトラキス(4−トリ−i−プロピルシリルテトラフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(4−ジメチル−t−ブチルシリルテトラフルオロフェニル)ボレート、(トリフェニルシロキシ)トリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、(オクチルオキシ)トリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス[3,5−ビス[1−メトキシ−2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチル]フェニル]ボレート、テトラキス[3−[1−メトキシ−2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−5−(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート、およびテトラキス[3−[2,2,2−トリフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1−(トリフルオロメチル)エチル]−5−(トリフルオロメチル)フェニル]ボレートを挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。
【0070】
アルミナートの例としては、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)アルミナート、トリス(ノナフルオロビフェニル)フルオロアルミナート、(オクチルオキシ)トリス(ペンタフルオロフェニル)アルミネート、テトラキス(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)アルミネート、およびメチルトリス(ペンタフルオロフェニル)アルミネートを挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。
【0071】
アニオンに対するカウンターカチオンは、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、有機カチオンなど、任意のものをとることができるが、好ましくはアルカリ金属イオン(Li+、Na+、Ka+)、N,N−ジアルキルアニリニウムイオンまたはトリチルカチオンである。
【0072】
以上のアニオンとカチオンの組み合わせの塩が、本発明の(c)になるが、この例として、以下が挙げられる。
【0073】
リチウムテトラキス(2−フルオロフェニル)ボレート、ナトリウムテトラキス(2−フルオロフェニル)ボレート、リチウムテトラキス(3−フルオロフェニル)ボレート、ナトリウムテトラキス(3−フルオロフェニル)ボレート、フェロセニウムテトラキス(3−フルオロフェニル)ボレート、フェロセニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、リチウムテトラキス(4−フルオロフェニル)ボレート、ナトリウムテトラキス(4−フルオロフェニル)ボレート、リチウムテトラキス(3,5−ジフルオロフェニル)ボレート、ナトリウムテトラキス(3,5−ジフルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラキス(3,5−ジフルオロフェニル)ボレート、2,6−ジメチルアニリニウムテトラキス(3,5−ジフルオロフェニル)ボレート、リチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、リチウム(ジエチルエーテル)テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、リチウム(ジエチルエーテル)2.5テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、リチウムテトラキス(2,3,4,5−テトラフルオロフェニル)ボレート、リチウムテトラキス(3,4,5,6−テトラフルオロフェニル)ボレート、リチウムテトラキス(1,2,2−トリフルオロエチレニル)ボレート、リチウムテトラキス(3,4,5−トリフルオロフェニル)ボレート、リチウムメチルトリス(パーフルオロフェニル)ボレート、リチウムフェニルトリス(パーフルオロフェニル)ボレート、リチウムトリス(イソプロパノール)テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、リチウムテトラキス(メタノール)テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラキス(4−トリイソプロピルシリルテトラフルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラキス(4−ジメチル−t−ブチルシリルテトラフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジメチルアニリニウムテト
ラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート、リチウム(トリフェニルシロキシ)トリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ナトリウム(トリフェニルシロキシ)トリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ナトリウムテトラキス(2,3,4,5−テトラフルオロフェニル)ボレート、ナトリウムテトラキス(3,4,5,6−テトラフルオロフェニル)ボレート、ナトリウムテトラキス(1,2,2−トリフルオロエチレニル)ボレート、ナトリウムテトラキス(3,4,5−トリフルオロフェニル)ボレート、ナトリウムメチルトリス(パーフルオロフェニル)ボレート、ナトリウムフェニルトリス(パーフルオロフェニル)ボレート、ナトリウムメチルトリス(パーフルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラキス(2,3,4,5−テトラフルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラキス(3,4,5,6−テトラフルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラキス(1,2,2−トリフルオロエチレニル)ボレート、トリチルテトラキス(3,4,5−トリフルオロフェニル)ボレート、トリチルメチルトリス(パーフルオロフェニル)ボレート、トリチルフェニルトリス(パーフルオロフェニル)ボレート、リチウムヘキシルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、リチウムトリフェニルシロキシトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、リチウム(オクチルオキシ)トリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、リチウムテトラキス(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ボレート、ナトリウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ナトリウム(オクチルオキシ)トリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ナトリウムテトラキス(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ボレート、リチウムテトラキス[3,5−ビス[1−メトキシ−2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチル]フェニル]ボレート、ナトリウムテトラキス[3,5−ビス[1−メトキシ−2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチル]フェニル]ボレート、リチウムテトラキス[3−[1−メトキシ−2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−5−(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート、ナトリウムテトラキス[3−[1−メトキシ−2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−5−(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート、リチウムテトラキス[3−[2,2,2−トリフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1−(トリフルオロメチル)エチル]−5−(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート、ナトリウムテトラキス[3−[2,2,2−トリフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1−(トリフルオロメチル)エチル]−5−(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート、トリメチルシリリウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリメチルシリリウムエーテラートテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリエチルシリリウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルシリリウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリス(メシチル)シリリウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリベンジルシリリウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリメチルシリリウムメチルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリエチルシリリウムメチルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルシリリウムメチルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリベンジルシリリウムメチルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリメチルシリリウムテトラキス(2,3,4,5−テトラフルオロフェニル)ボレート、トリエチルシリリウムテトラキス(2,3,4,5−テトラフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルシリリウムテトラキス(2,3,4,5−テトラフルオロフェニル)ボレート、トリベンジルシリリウムテトラキス(2,3,4,5−テトラフルオロフェニル)ボレート、トリメチルシリリウムテトラキス(2,3,4,5−テトラフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルシリリウムテトラキス(2,3,4,5−テトラフルオロフェニル)ボレート、トリメチルシリリウムテトラキス(3,4,5−トリフルオロフェニル)ボレート、トリベンジルシリリウムテトラキス(3,4,5−トリフルオロフェニル)アルミネート、トリフェニルシリリウムメチルトリス(3,4,5−トリフルオロフェニル)アルミネート、トリエチルシリリウムテトラキス(1,2,2−トリフルオロエチニル)ボレート、トリシクロヘキシルシリリウムテトラキス(2,3,4,5−テトラフル
オロフェニル)ボレート、ジメチルオクタデシルシリリウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリス(トリメチルシリル)シリリウムメチルトリ(2,3,4,5−テトラフルオロフェニル)ボレート、2,2’−ジメチル−1,1’−ビナフチルメチルシリリウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、2,2’−ジメチル−1,1’−ビナフチルメチルシリリウムテトラキス(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ボレート、リチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)アルミネート、トリチルテトラキス(ペンタフルオロフェニル)アルミネート、トリチル(パーフルオロビフェニル)フルオロアルミナート、リチウム(オクチルオキシ)トリス(ペンタフルオロフェニル)アルミネート、リチウムテトラキス(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)アルミネート、ナトリウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)アルミネート、トリチルテトラキス(ペンタフルオロフェニル)アルミネート、ナトリウム(オクチルオキシ)トリス(ペンタフルオロフェニル)アルミネート、ナトリウムテトラキス(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)アルミネート、トリチルテトラキス(ペンタフルオロフェニル)アルミネートを挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。
【0074】
これらの中でも合成の容易さと扱いやすさの点から、ボレート系の塩が好ましく、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート系の塩がさらに好ましく、トリチルテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、リチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ナトリウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートなどが最も好ましい。
【0075】
(極性基含有ノルボルネン重合用触媒)
本発明では、前記の(a)、(b)および(c)を混合させた有機金属化合物は、極性基含有ノルボルネンの重合用触媒として用いることができる。(a)と(b)と(c)は反応して、カチオン性パラジウム錯体である触媒活性種を与える。(b)は(a)のパラジウムに配位するが、2分子以上配位すると極性基含有ノルボルネンが配位できなくなり、重合が進行しなくなる。従って、(b)は(a)に対し、0.1〜1.9当量が好ましく、0.3〜1.5がさらに好ましく、0.5〜1.3当量が最も好ましい。(c)は触媒活性種のアニオンを交換させ、パラジウムカチオン錯体を与える。このカチオン錯体の電荷は一価もしくは二価である。従って,(c)は(a)に対し、0.1〜10当量が好ましく、0.5〜5当量がさらに好ましく、1〜5当量が最も好ましい。
【0076】
本発明では、(a)、(b)および(c)を混合して、均一溶液とし、触媒活性種として用いる。極性基含有ノルボルネンが液体であり、(a)、(b)および(c)を溶解させることが可能であるならば、極性含有ノルボルネン中でこれらを混合してもよい。溶媒中で混合する場合、溶媒がパラジウムに配位し、触媒の活性を落とすことがある。したがって、溶媒は無極性もしくは低極性であることが望ましく、例えばトルエンなどが挙げられる。(c)は塩であるため、無極性もしくは低極性に溶解しないことがあるが、この場合、塩化メチレンなどのハロゲン系の低極性溶媒に溶かして、混合すればよい。
【0077】
本発明で用いる触媒系では、触媒量が多いと重合体の黄色味が強くなり、触媒量が少ないと反応に時間がかかるもしくは収率が落ちる。したがって、モノマー1当量に対しパラジウムは、1000000分の1当量〜1000分の1当量が好ましく、100000分の1当量〜1000分の1当量がさらに好ましく、100000分の1当量〜5000分の1当量がもっとも好ましい。
【0078】
(極性基含有ノルボルネン)
本発明の極性基含有ノルボルネンは、ノルボルネン環に少なくとも一つの極性基が含有されるものであり、以下の一般式で表される。
一般式
【0079】
【化17】

【0080】
式中、R14,R15,R16およびR17は水素原子、ハロゲン原子または一価の有機基を表し、これらは互いに結合して環構造を形成してもよい。R14,R15,R16およびR17のうち、少なくとも一つは一価の有機基を表し、有機基の少なくとも一つは極性基である。
【0081】
極性基とは、酸素、硫黄、窒素、ハロゲンなど電気陰性度の高い原子によって分極が生じている有機基のことをいう。具体的には、アミノ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアミノ基で、例えばアミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジベンジルアミノなどが挙げられる。)、アルコキシ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルコキシ基で、例えばメトキシ、エトキシ、ブトキシなどが挙げられる。)、アリールオキシ基(炭素数6〜20、好ましくは6〜15のアリールオキシ基で、例えばフェニルオキシ、2−ナフチルオキシなどが挙げられる。)、ヘテロ環オキシ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のヘテロ環オキシ基で、例えばピリジニルオキシ、ピリミジニルオキシ、ピリダジニルオキシ、ベンズイミダゾリルオキシなどが挙げられる。)、シリルオキシ基(炭素数3〜20、好ましくは3〜10のシリルオキシ基で、例えばトリメチルシリルオキシ、t−ブチルジメチルシリルオキシなどが挙げられる。)、アシル基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアシル基で、例えばアセチル、ベンゾイル、ホルミル、ピバロイルなどが挙げられる。)、アルコキシカルボニル基(炭素数2〜20、好ましくは2〜10のアルコキシカルボニル基で、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニルなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニル基(炭素数6〜20、好ましくは6〜15のアリールオキシカルボニル基で、例えばフェニルオキシカルボニルなどが挙げられる。)、アシルオキシ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアシルオキシ基で、例えばアセトキシ、ベンゾイルオキシなどが挙げられる。)、アシルアミノ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアシルアミノ基で、例えばアセチルアミノ、ベンゾイルアミノなどが挙げられる。)、アルコキシカルボニルアミノ基(炭素数2〜20、好ましくは2〜10のアルコキシカルボニルアミノ基で、例えばメトキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニルアミノ基(炭素数6〜20、好ましくは6〜15アリールオキシカルボニルアミノ基で、の例えばフェニルオキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、アルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基で、例えばメタンスルホニルアミノ、ベンゼンスルホニルアミノなどが挙げられる。)、スルファモイル基(炭素数0〜20、好ましくは0〜10のスルファモイル基で、例えばスルファモイル、N−メチルスルファモイル、N,N−ジメチルスルファモイル、N−フェニルスルファモイルなどが挙げられる。)、カルバモイル基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のカルバモイル基で、例えばカルバモイル、N−メチルカルバモイル、N,N−ジエチルカルバモイル、N−フェニルカルバモイルなどが挙げられる。)、ウレイド基(炭素数1
〜20、好ましくは1〜10のウレイド基で、例えばウレイド、メチルウレイド、フェニルウレイドなどが挙げられる。)、ヒドロキシ基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基などが挙げられる。これらの置換基は、ノルボルネン環に直接連結していてもよく、アルキレン基などで連結されていてもよく、更に置換されてもよい。また、置換基が二つ以上ある場合は、同じでも異なってもよい。また、可能な場合には互いに連結して環を形成してもよい。極性基として好ましいものは、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、シリルオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、およびアリールオキシカルボニルアミノ基であり、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基およびアルコキシカルボニルアミノ基がさらに好ましい。
【0082】
本発明の極性基含有ノルボルネンの具体例として、以下の化合物が挙げられるが、これに限定されない。
【0083】
【化18】

【0084】
(重合用モノマー)
本発明の重合用モノマーは、極性基含有ノルボルネンを必ず含むが、二種類以上の前述の極性基含有ノルボルネンの混合物として、共重合させてもよい。また、アリールノルボルネン、アルキルノルボルネンやノルボルネンなどの極性基非含有ノルボルネンやノルボルネン以外の環状オレフィン類、または鎖状のオレフィン類と共重合とすることもできる。
【0085】
本発明の重合触媒系は、空気、水、モノマー中の不純物などにより、触媒活性が低下することがあるので、これらの重合用のモノマーは、使用前に蒸留もしくは再結晶で精製することが好ましい。モノマーの純度は、好ましくは95〜100%、さらに好ましくは98〜100%、もっとも好ましくは99〜100%である。
【0086】
(重合反応の環境)
本発明の触媒系は、空気もしくは水によって、触媒が不活性化され、重合性が低下もしくは重合が進行しないことがある。したがって、高純度の不活性ガス雰囲気下で取り扱うことが望ましい。
【0087】
(重合反応の溶媒)
極性基含有ノルボルネンが液体であり、(a)、(b)および(c)を溶解させることが可能であるならば、これらを無溶媒で混合させ、ニートで反応させることもできる。しかし、反応の進行とともに、粘度が上昇し、攪拌困難となることがあるため、溶媒を用いることが望ましい。溶媒は、触媒に対し、配位しにくい低極性溶媒が好ましい。さらに、触媒、極性基含有ノルボルネンと生じる極性基含有ノルボルネン付加重合体を全て溶解させることのできるものが好ましい。このような溶媒の例として、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、p−シメン、メシチレンのような芳香族炭化水素類があげられ、好ましくはトルエン、キシレンであり、さらに好ましくはトルエンである。
【0088】
一方、溶媒の極性が低すぎると、極性基含有ノルボルネンもしくは極性基含有ノルボルネン重合体が溶解しなくなる。したがって、溶媒は用いる極性基含有ノルボルネンによって、適当なものを用いる必要がある。このような場合、上記の低極性溶媒に適量の極性溶媒を添加することができる。このような極性溶媒として、塩化メチレン、ジクロロエタン等が挙げられる。
【0089】
溶媒は、極性基含有ノルボルネンに対し、0〜50質量部、好ましくは0.3〜20質量部、さらに好ましくは0.5〜5質量部添加させることが好ましい。
【0090】
溶媒に、空気もしくは水が混入していると、触媒が不活性化され、重合性が低下もしくは重合が進行しないことがある。したがって、溶媒を用いる場合、使用前に脱水蒸留および脱気することが好ましい。
【0091】
(重合反応の温度)
本発明の重合反応は、室温以下の反応でも進行するが、加熱をすることで反応を促進できる。しかし、加熱しすぎると触媒活性種が分解してしまう。したがって、反応の温度は、室温〜150℃が好ましく、50〜130℃がさらに好ましく、70〜120℃が最も好ましい。
【0092】
(重合反応の反応時間)
本発明の重合反応の反応時間は、反応温度と溶媒の量、極性基含有ノルボルネンの種類などに依存するが、数十分から十数時間で終了させることができる。反応の終了は、反応液がパラジウムブラックが生じるところで判定できるが、反応時間が長くなることがあるので、適宜終了させることが望ましい。
【0093】
(重合反応の後処理)
反応液の加熱を停止したあと、反応液をそのままもしくは適当な溶媒で希釈した後、貧溶媒(例えば、メタノールなどのアルコール系溶媒)と混合させると、白色〜黄白色の固体が得られる。これをろ取、真空乾燥することで極性基含有ノルボルネン重合体が得られる。なお、重合体の黄色味が強い場合、適当な還元剤を用いると残存の2価パラジウムをパラジウムブラックとすることができ、これをろ過して取り除けば、白色の重合体が得られる。
【実施例】
【0094】
以下に本発明の実施例および比較例を例示して説明するが、本発明はこれらの例により限定されるものではない。
【0095】
(実施例1)
高純度アルゴンで置換したガラス容器に、モノマーとしてノルボルネンカルボン酸メチルM−1(endo/exo比率=51/49;東京化成社製)20.0gとトルエン40mLを仕込み、攪拌はねで攪拌した。これに、(a)として有機パラジウム錯体1 3.6mgをトルエン0.5mLに溶かした溶液、(b)としてトリフェニルホスフィンP(C653(和光純薬(株)製)4.9mgをトルエン0.5mLに溶かした溶液、さらに(c)としてジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロボレート(CH32(H)NC65・B(C654 (ストレム社製)54mgを塩化メチレン1mLに溶かした溶液を加えた。この混合溶液を内部温度90℃になるように加熱し、90℃を維持したまま6時間反応させた。反応終了後、反応液をメタノール300mL中に添加した。白色固体を吸引ろ過し、100℃で真空乾燥を6時間行った。白色固体14.8gを得た。
【0096】
得られた重合体の数平均分子量(Mw)と重量平均分子量(Mn)は、テトラヒドロフランを溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値として測定した。
【0097】
(実施例2〜9)
(a)の中性有機パラジウム錯体、(b)の有機リン化合物、(c)の塩、モノマーを、下記の表1のように変えて、実施例1と同様の実験を行なった。なお、各実施例のモル当量は実施例1と同じにした。
【0098】
(実施例10)
モノマーをM−1とノルボルネン(NB)をモル比で70/30とした以外は、実施例1と同様の実験を行った。
【0099】
(比較例1〜2)
(a)の中性有機パラジウム錯体、(b)の有機リン化合物、(c)の塩、モノマーを、下記の表1のように変えて、実施例1と同様の実験を行なった。なお、各実施例のモル当量は実施例1と同じにした。比較例1は再沈殿を行ったが、固体は生じなかった。比較例2では固体が析出収量が少なく、分子量等の解析は行わなかった。
【0100】
【表1】

【0101】
上記表から明らかなように、本発明の触媒系は任意の極性基含有ノルボルネンに対し優れた重合触媒活性を示す。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明により、工業的に有利な触媒量で、任意の極性基含有ノルボルネンに対しその重合体を与えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a),(b)および(c)を混合することによって得られる有機金属化合物。(a)パラジウムと、パラジウムとの結合に関与する炭素数が少なくとも3である有機配位子を2つ有する中性有機パラジウム錯体
(b)1つのリン原子を有する有機リン化合物
(c)中心原子に非共有電子対をもたないアニオンとカウンターカチオンから成る塩
【請求項2】
2つの有機配位子のうち、一方の有機配位子におけるパラジウムとの結合に関与する炭素数が3であり、他方の有機配位子におけるパラジウム原子との結合に関与する炭素数が5であることを特徴とする、請求項1記載の有機金属化合物。
【請求項3】
中性有機パラジウム錯体が一般式(I)で表されることを特徴とする、請求項2記載の有機金属化合物。
一般式(I)
【化1】

(式中、R1,R2,R3,R4,R5,R6,R7,R8,R9,R10は水素原子、ハロゲン原子もしくは一価の有機基を表し、これらは互いに結合して環構造を形成してもよい。)
【請求項4】
中性有機パラジウム錯体が一般式(II)で表されることを特徴とする、請求項2記載の有機金属化合物。
一般式(II)
【化2】

(式中、R1,R2,R3,R4,R5,R11は水素原子、ハロゲン原子もしくは一価の有機基を表し、これらは互いに結合して環構造を形成してもよい。点線は配位結合を表す。)
【請求項5】
中性有機パラジウム錯体が一般式(III)で表されることを特徴とする、請求項2記載の有機金属化合物。
一般式(III)
【化3】

(式中、R1,R2,R3,R4,R5,R12,R13は水素原子、ハロゲン原子もしくは一価の有機基を表し、これらは互いに結合して環構造を形成してもよい。nは1〜12の整数を表す。(R13nはn個のR13が結合していることを表す。点線は配位結合を表す。)
【請求項6】
中性有機パラジウム錯体が一般式(IV)で表されることを特徴とする、請求項2記載の有機金属化合物。
一般式(IV)
【化4】

(式中、R1,R2,R3,R4,R5,R14は水素原子、ハロゲン原子もしくは一価の有機基を表し、これらは互いに結合して環構造を形成してもよい。点線は配位結合を表す。)
【請求項7】
請求項1〜6記載の有機金属化合物を用いて製造されたことを特徴とする極性基含有ノルボルネン重合用触媒。
【請求項8】
請求項7記載の極性基含有ノルボルネン重合用触媒を用いて、極性基含有ノルボルネンを重合させることを特徴とする、極性基含有ノルボルネン重合体の製造方法。

【公開番号】特開2006−312665(P2006−312665A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−135166(P2005−135166)
【出願日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】