説明

有機高分子複合電気亜鉛合金めっき液組成物及び該組成物を用いためっき金属材

本発明は、表面処理を行わなくても塗装膜との密着性に優れ、且つ耐食性にも優れためっきを得ることのできる電気めっき液組成物を提供することを課題とする。本発明は、(A)Znイオンを1〜600g/l、(B)鉄族元素イオンを1〜600g/l、(C)タングステン酸系化合物をWイオンとして0.1〜200g/l、及び(D)数平均分子量が1,000〜1000,000の水溶性又は水分散性有機高分子化合物を0.5〜500g/l含有することを特徴とする有機高分子複合電気亜鉛合金めっき液組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、めっきと表面処理の役割を兼ね備えた電気めっき皮膜を形成するための有機高分子複合電気亜鉛合金めっき液組成物に関するものであり、該組成物を用いて電気めっきして得られる有機高分子複合電気亜鉛合金めっき金属材に関するものである。
【背景技術】
自動車、家電製品、建材等に用いられている亜鉛系めっき金属材の表面処理としては、クロム酸塩処理及びリン酸亜鉛処理が一般に行われているが、クロムの毒性が問題になっている。クロム酸塩処理は、処理工程でクロム酸塩ヒュームが揮散する、排水処理設備に多大の費用を要すること、さらには化成処理皮膜からクロム酸が溶出するという問題などがある。また6価クロム化合物は、IARC(International Agency for Research on Cancer Review)を初めとして多くの公的機関が人体に対する発癌性物質に指定しており極めて有害な物質である。
またリン酸亜鉛処理では、リン酸亜鉛処理後、通常、クロム酸によるリンス処理を行うためクロム処理の問題があるとともに、リン酸亜鉛処理剤中の反応促進剤、金属イオンなどの排水処理、被処理金属からの金属イオンの溶出によるスラッジ処理の問題がある。
さらに、塗装ラインにかかる費用の削減を求める声も強く、表面処理を行わなくても塗装膜との密着性に優れ、且つ耐食性にも優れためっき皮膜の開発が望まれている。
このような目的から、亜鉛めっき浴中に水溶性有機高分子を添加し、金属材を電気めっきする際に金属と有機高分子を共析させる方法が開発されてきた(例えば、特許文献1、特許文献2等参照)。
しかしながら、一般的なめっき浴中に水溶性有機高分子を添加するだけでは十分な耐食性が得られず、自動車等の厳しい耐食性を要求される分野への適用は困難な状況にあった。
【特許文献1】特開平1−177394号公報
【特許文献2】特公平7−56080号公報
【発明の開示】
本発明の目的は、表面処理を行わなくても塗装膜との密着性に優れ、且つ耐食性にも優れためっきを得ることのできる電気めっき液組成物を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、Znイオンと水溶性及び/又は水分散性有機高分子を含有する有機高分子複合電気亜鉛めっき液中に鉄族元素イオン及びWイオンを含有せしめることにより、めっきの耐食性が大幅に改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
かくして、本発明は、(A)Znイオンを1〜600g/l、
(B)鉄族元素イオンを1〜600g/l、
(C)タングステン酸系化合物をWイオンとして0.1〜200g/l、及び
(D)数平均分子量が1,000〜1000,000の水溶性又は水分散性有機高分子化合物を0.5〜500g/l
含有することを特徴とする有機高分子複合電気亜鉛合金めっき液組成物に関する。
また、本発明は、上記電気めっき液組成物を用いて鉄素材に電気めっきして得られる有機高分子複合電気亜鉛合金めっき金属材に関する。
さらに、本発明は、上記有機高分子複合電気亜鉛合金めっき金属材上に、表面処理を施すことなく直接有機樹脂皮膜が形成されてなる耐指紋金属材に関する。
さらに、また、本発明は、上記有機高分子複合電気亜鉛合金めっき金属材上に、表面処理を施すことなく直接潤滑機能を有する有機樹脂皮膜が形成されてなる潤滑金属材に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の有機高分子複合電気亜鉛合金めっき液組成物(以下、電気めっき液組成物という)は、Znイオン(A)、鉄族元素イオン(B)、タングステン酸系化合物(C)及び水溶性又は水分散性有機高分子化合物(D)を必須成分として含有するものである。
「Znイオン(A)」
本発明の電気めっき液組成物の(A)成分であるZnイオンは、めっき層の主成分を構成するものである。
Znイオンは、塩化物、硫酸化物、フッ化物、シアン化物、酸化物、有機酸塩、リン酸塩又は金属単体等の形でめっき浴に添加される。
「鉄族元素イオン(B)」
鉄族元素とは、一般にニッケル、コバルト及び鉄をいう。本発明の電気めっき液組成物の(B)成分である鉄族元素イオンは、Niイオン、Coイオン及びFeイオンから選ばれるものであり、中でもFeイオンが耐食性の点から好ましい。
鉄族元素イオン(B)は、塩化物、硫酸化物、フッ化物、シアン化物、酸化物、有機酸塩、リン酸塩又は金属単体等の形でめっき浴に添加される。
「タングステン酸系化合物(C)」
本発明の電気めっき液組成物の(C)成分であるタングステン酸系化合物は、有機高分子化合物(D)との組み合わせによって得られるめっき層の耐食性を大幅に改良することができる。
タングステン酸系化合物(C)としては、例えばタングステン酸、タングステン酸塩、リンタングステン酸及びリンタングステン酸塩を挙げることができ、塩としては、例えばアンモニウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩などを挙げることができ、中でもアンモニウム塩又はナトリウム塩が好ましい。これらの中でも特にタングステン酸アンモニウム、リンタングステン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウム及びリンタングステン酸ナトリウムが耐食性の点から好ましい。
「水溶性又は水分散性有機高分子化合物(D)」
本発明の電気めっき液組成物の(D)成分である水溶性又は水分散性有機高分子化合物は、上記金属イオンと混合しても化学的に安定なものの中から選択される。めっき液中に有機高分子化合物を添加することにより、それから得られるめっき皮膜とめっき皮膜上に形成される有機樹脂皮膜との密着性が大幅に向上し、めっきをりん酸亜鉛やクロメート等の表面処理剤で化成処理しなくても十分な耐食性を得ることができる。
有機高分子化合物(D)は、水溶性、水分散性(分散形態としては懸濁でもエマルジョンでもよい)の性質を有するものを使用することができる。有機高分子化合物を水に水溶化、分散化、エマルジョン化させる方法としては、従来から公知の方法を使用して行うことができる。水溶性または水分散性有機高分子化合物としては、ノニオン性親水性基、アニオン性親水性基及びカチオン性親水性基からなる群から選ばれる少なくとも1種の親水性基を有したものが好ましい。具体的には、単独で水溶化や水分散化できる官能基(例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ(イミノ)基、スルホン酸基、リン酸基などの少なくとも1種)を含有するもの及び必要に応じてそれらの官能基の一部又は全部を、酸性樹脂(カルボキシル基含有樹脂等)であればエタノールアミン、トリエチルアミン等のアミン化合物、アンモニア水、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物で中和したもの、また塩基性樹脂(アミノ基含有樹脂等)であれば、酢酸、乳酸等の脂肪酸、リン酸等の鉱酸で中和したものなどを使用することができる。
かかる有機高分子化合物(D)としては、例えば、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン−カルボン酸系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリオキシアルキレン鎖を有する樹脂、ポリグリセリン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどが挙げられる。
上記エポキシ系樹脂としては、エポキシ樹脂にアミンを付加してなるカチオン系エポキシ樹脂;アクリル変性、ウレタン変性等の変性エポキシ樹脂などが好適に使用できる。カチオン系エポキシ樹脂としては、例えば、エポキシ化合物と、1級モノ−もしくはポリアミン、2級モノ−もしくはポリアミン、1,2級混合ポリアミンなどとの付加物(例えば米国特許第3984299号明細書参照);エポキシ化合物とケチミン化された1級アミノ基を有する2級モノ−またはポリアミンとの付加物(例えば米国特許第4017438号明細書参照);エポキシ化合物とケチミン化された1級アミノ基を有するヒドロキシル化合物とのエーテル化反応生成物(例えば特開昭59−43013号公報参照)などがあげられる。
上記エポキシ化合物は、数平均分子量が400〜4,000、特に800〜2,000の範囲内にあり、かつエポキシ当量が190〜2,000、特に400〜1,000の範囲内にあるものが適している。そのようなエポキシ化合物は、例えば、ポリフェノール化合物とエピルロルヒドリンとの反応によって得ることができ、ポリフェノール化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン、4,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−tert−ブチルフェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、ビス(2,4−ジヒドロキシフェニル)メタン、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,2,2−エタン、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン、フェノールノボラック、クレゾールノボラックなどがあげられる。
上記フェノール系樹脂としては、フェノール成分とホルムアルデヒド類とを反応触媒の存在下で加熱して付加、縮合させて得られる高分子化合物を水溶化したものを好適に使用することができる。出発原料である上記フェノール成分としては、2官能性フェノール化合物、3官能性フェノール化合物、4官能性以上のフェノール化合物などを使用することができ、例えば、2官能性フェノール化合物として、o−クレゾール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、p−エチルフェノール、2,3−キシレノール、2,5−キシレノールなど、3官能性フェノール化合物として、フェノール、m−クレゾール、m−エチルフェノール、3,5−キシレノール、m−メトキシフェノールなど、4官能性フェノール化合物として、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどを挙げることができる。これらのフェノール化合物は1種で、又は2種以上混合して使用することができる。
上記アクリル系樹脂としては、例えば、カルボキシル基、アミノ基、水酸基などの親水性の基を持ったモノマーの単独重合体又は共重合体、親水性の基を持ったモノマーとその他共重合可能なモノマーとの共重合体などが挙げられる。これらは、乳化重合、懸濁重合又は溶液重合し、必要に応じて、中和、水性化した樹脂または該樹脂を変性して得られる樹脂である。
上記カルボキシル基含有モノマーとしては、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸などを挙げることができる。
含窒素モノマーとしては、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの含窒素アルキル(メタ)アクリレート;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド等の重合性アミド類;2−ビニルピリジン、1−ビニル−2−ピロリドン、4−ビニルピリジンなどの芳香族含窒素モノマー、;アリルアミンなどが挙げられる。
水酸基含有モノマーとして、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート及びポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の、多価アルコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのモノエステル化物;上記多価アルコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのモノエステル化物にε−カプロラクトンを開環重合した化合物などが挙げられる。
その他モノマーとして、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜24のアルキル(メタ)アクリレート;スチレン、酢酸ビニルなどが挙げられる。これらの化合物は、1種で、又は2種以上を組合せて使用することができる。本発明において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタアクリレートを意味する。
上記ウレタン系樹脂としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等のポリオールとジイソシアネートからなるポリウレタンを必要に応じてジオール、ジアミン等のような2個以上の活性水素を持つ低分子量化合物である鎖伸長剤の存在下で鎖伸長し、水中に安定に分散もしくは溶解させたものを好適に使用でき、公知のものを広く使用できる(例えば特公昭42−24192号、特公昭42−24194号、特公昭42−5118号、特公昭49−986号、特公昭49−33104号、特公昭50−15027号、特公昭53−29175号公報参照)。ポリウレタン樹脂を水中に安定に分散もしくは溶解させる方法としては、例えば下記の方法が利用できる。
(1)ポリウレタンポリマーの側鎖又は末端に水酸基、アミノ基、カルボキシル基等のイオン性基を導入することにより親水性を付与し、自己乳化により水中に分散又は溶解する方法。
(2)反応の完結したポリウレタンポリマー又は末端イソシアネート基をオキシム、アルコール、フェノール、メルカプタン、アミン、重亜硫酸ソーダ等のブロック剤でブロックしたポリウレタンポリマーを乳化剤と機械的剪断力を用いて強制的に水中に分散する方法。さらに末端イソシアネート基を持つウレタンポリマーを水/乳化剤/鎖伸長剤と混合し機械的剪断力を用いて分散化と高分子量化を同時に行う方法。
(3)ポリウレタン主原料のポリオールとしてポリエチレングリコールのごとき水溶性ポリオールを使用し、水に可溶なポリウレタンとして水中に分散又は溶解する方法。
上記ポリウレタン系樹脂には、前述の分散又は溶解方法については単一方法に限定されるものでなく、各々の方法によって得られた混合物も使用できる。
上記ポリウレタン系樹脂の合成に使用できるジイソシアネートとしては、芳香族、脂環族及び脂肪族のジイソシアネートが挙げられ、具体的にはヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、3,3´−ジメトキシ−4,4´−ビフェニレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、1,3−(ジイソシアナトメチル)シクロヘキサノン、1,4−(ジイソシアナトメチル)シクロヘキサノン、4,4´−ジイソシアナトシクロヘキサノン、4,4´−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、2,4−ナフタレンジイソシアネート、3,3´−ジメチル−4,4´−ビフェニレンジイソシアネート、4,4´−ビフェニレンジイソシアネート等が挙げられる。これらのうち2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートが特に好ましい。
上記ポリウレタン系樹脂の市販品としては、ハイドランHW−330、同HW−340、同HW−350(いずれも大日本インキ化学工業社製)、スーパーフレックス100、同150、同F−3438D(いずれも第一工業製薬社製)などを挙げることができる。
上記ポリビニルアルコール樹脂としては、ケン化度87%以上のポリビニルアルコールであることが好ましく、なかでもケン化度98%以上の、いわゆる完全ケン化ポリビニルアルコールであることが特に好ましく、また数平均分子量が3,000〜100,000の範囲内にあることが好適である。
上記ポリオキシアルキレン鎖を有する樹脂としては、ポリオキシエチレン鎖又はポリオキシプロピレン鎖を有するものが好適に使用でき、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、上記ポリオキシエチレン鎖と上記ポリオキシプロピレン鎖とがブロック状に結合したブロック化ポリオキシアルキレングリコールなどを挙げることができる。
上記オレフィン−カルボン酸系樹脂としては、エチレン、プロピレン等のオレフィンと重合性不飽和カルボン酸との共重合体、及び該共重合体の分散液に重合性不飽和化合物を加えて乳化重合しさらに粒子内架橋してなる樹脂の2種から選ばれる少なくとも1種の水分散性又は水溶性樹脂を使用できる。
上記共重合体は、オレフィンと(メタ)アクリル酸やマレイン酸等の不飽和カルボン酸との1種又は2種以上との共重合体である。該共重合体においては、該不飽和カルボン酸の含有量が3〜60重量%、好ましくは5〜40重量%の範囲内であることが適当であり、共重合体中の酸基を塩基性物質で中和することにより水に分散できる。
本発明に用いることが出来る水溶性又は水分散性有機高分子化合物(D)のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)測定法を用いたポリスチレン基準による数平均分子量は、1,000〜1,000,000、特に2,000〜500,000の範囲内であることが、有機樹脂皮膜との密着性、めっき液の貯蔵安定性などの点から好ましい。
また、上記めっき液には、金属イオンをめっき液中で安定に存在させるための錯化剤を添加するのが好ましい。該錯化剤としては、クエン酸塩、酒石酸塩、グルコン酸塩等のオキシカルボン酸塩類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミノアルコール類、エチレンジアミン(EDA)、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のポリアミン類、エチレンジアミン四酢酸塩、ニトロ酢酸塩等のアミノカルボン酸塩、ソルビット、ペンタエリトリトール等の多価アルコール類、及びこれらの混合物より成る群から選択することができる。
本発明においては電気めっき液から不連続粒子として析出することのできる腐食抑制顔料及び/又はセラミックス粒子を組み合わせることにより高度な耐食性、塗料密着性等の機能を付与することができる。
上記腐食抑制顔料としては、一般公知のものが使用できるが、好ましいものとしては、例えばリン酸塩、モリブデン酸塩、メタホウ酸塩、珪酸塩等が挙げられる。また、セラミックス粒子としては、例えばAl、SiO、TiO、ZrO、Y、ThO、CeO、Fe等の酸化物;BC、SiC、WC、ZrC、TiC、黒鉛、弗化黒鉛等の炭化物;BN、Si、TiN等の窒化物;Cr、ZrB等のホウ化物;2MgO・SiO、MgO・SiO、ZrO・SiO等の珪酸塩等が挙げられる。腐食抑制顔料及び/又はセラミックス粒子の配合量はめっき浴1リットル当り5〜300gの範囲が望ましい。また粒子の大きさは小さいものほど分散安定性に優れるため1μm以下の超微粒子のものがよい。また、めっきマトリックス中への共析量は、全析出量に対して1〜30重量%、特に1〜10重量%の範囲にコントロールすることが望ましい。共析量が少ないと耐食性向上の効果が発現せず、また30重量%を超えるとめっき皮膜が脆くなったり、基材との密着性が低下して問題となる。
めっき浴には耐食性を向上させるため、さらに腐食抑制有機化合物を添加してもよい。好ましい腐食抑制有機化合物としては例えばアルキン類、アルキノール類、アミン類若しくはその塩、チオ化合物、芳香族カルボン酸化合物若しくはその塩、複素環化合物等が挙げられる。
このうちのアルキン類とは、炭素−炭素三重結合を含む有機化合物のことであり、例えばペンチン、ヘキシン、ヘプチン、オクチン等が挙げられる。アルキノール類とは上記アルキン類に1個以上の水酸基を有する有機化合物のことであり、例えばプロパルギルアルコール、1−ヘキシン−3−オール、1−ヘプチン−3−オール等が挙げられる。アミン類とは分子中に窒素原子を1個以上含む有機化合物を意味し、脂肪族及び芳香族の何れをも含む。このようなアミン類としては、例えばオクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、トリヂシルアミン、セチルアミン等が挙げられる。チオ化合物とは分子中に硫黄原子を1個以上含む有機化合物を意味するが、このようなチオ化合物としては、例えばデシルメルカプタン、セチルメルカプタン、チオ尿素等が挙げられる。複素環化合物とは環状の分子において環の構成元素として炭素以外の原子が含まれている有機化合物を意味するが、このような複素環化合物としては、例えばピリジン、ベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール、キノリン、インドール等が挙げられる。また、芳香族カルボン酸化合物としては、例えば安息香酸、サリチル酸、トルイル酸、ナフタレンカルボン酸等が挙げられる。なお、アミン類及びカルボン酸化合物についてはその塩を用いることも可能であり、この場合でも同等の効果を得ることができる。塩として、アミン類の場合は、硫酸塩、塩酸塩等の酸付加塩、芳香族カルボン酸化合物の場合は、アルカリ金属塩、亜鉛塩等の金属塩やアンモニウム塩を使用できる。
めっき浴中に添加される腐食抑制有機化合物の量は、アルキン類やアルキノール類の場合には0.1〜10重量%に、アミン類若しくはその塩の場合には3〜10重量%に、チオ化合物では0.2〜5重量%に、複素環化合物では1〜10重量%に、芳香族カルボン酸化合物若しくはその塩では3〜8重量%に調整することが望ましい。 また上記めっき液には、高い電流密度でのヤケ、低電流密度でのつき回り性を向上させる目的で通常使われている添加剤を含むことが可能である。これらの例としてはアミンとエピハロヒドリンの反応物、ポリエチレンポリアミン、その他の4級アミンポリマー、尿素、チオ尿素、ゼラチン、ポリビニルアルコール、アルデヒド等が挙げられる。
「電気めっき液組成物」
本発明の電気めっき液組成物は、Znイオン(A)、鉄族元素イオン(B)、タングステン酸系化合物(C)及び水溶性又は水分散性有機高分子化合物(D)を必須成分として含有するものである。使用できる電気めっき浴としては、(1)硫酸亜鉛を用いる硫酸塩浴、塩化亜鉛を用いる塩化物浴、ホウフッ化亜鉛を用いるホウフッ化物浴等の酸性浴、(2)塩化亜鉛をアンモニアや塩化カリ等で中和する中性浴、(3)ピロリン酸亜鉛浴を用いるピロリン酸浴、亜鉛、水酸化ナトリウムよりなるジンケート浴などのアルカリ浴などが挙げられる。電気めっき液組成物の成分の含有量は、Znイオン(A)を1〜600g/l、好ましくは50〜300g/l、更に好ましくは60〜250g/l、鉄族元素イオン(B)を1〜600g/l、好ましくは50〜300g/l、更に好ましくは60〜250g/l、タングステン酸系化合物(C)をWイオンとして0.1〜200g/l、好ましくは5〜150g/l、更に好ましくは10〜100g/l、及び水溶性又は水分散性有機高分子化合物(D)を固形分として0.5〜500g/l、好ましくは10〜300g/l、更に好ましくは20〜200g/lの範囲内で含有するものがめっきへの塗膜密着性、耐食性などの点から適している。
本発明の電気めっき液組成物には、金属イオンを安定化させるための錯化剤、耐食性をより向上させるために電気めっき液から不連続粒子として析出できる腐食抑制顔料及び/又はセラミックス粒子、腐食抑制有機化合物等を添加することが出来る。また上記電気めっき液組成物には、高い電流密度のヤケ及び低電流密度でのつき回り性を向上させる目的で通常使われている添加剤、例えばpH調整剤、ピット防止剤、ミスト防止剤、消泡剤等を使用することができる。
本発明の電気めっき液組成物は、従来と同様の方法で電気めっきすることにより有機高分子化合物と金属とが共析し、塗膜密着性、耐食性等に優れためっき皮膜を形成することができる。
電気めっきする条件として、めっき浴が硫酸浴の場合にはpHは1〜3程度及び浴温は30〜80℃程度、めっき浴が塩化浴の場合にはpHは4〜7程度及び浴温は10〜50℃程度、めっき浴がアルカリ浴の場合にはpHは12以上及び浴温は10〜50℃程度が好ましく、めっき膜厚としてはいずれも0.5〜5μm程度が適している。
「電気めっき金属材」
本発明の電気めっき金属材は上記電気めっき液組成物を用いて金属素材に電気めっきすることにより得られる。金属素材としては、鉄を主成分とする材料、例えば、板、管、継手、クランプ、ボルト、ナット等の形状に加工された、自動車、家電製品あるいは建材用材料が挙げられる。
電気めっき条件は上記した通りである。
また、電気めっき皮膜を形成させた後に、コバルト、ニッケル、チタニウム及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物の酸性水溶液で後処理することによって、耐食性をさらに向上させることができる。上記、コバルト、ニッケル、チタニウム及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物としては、例えば、これら金属元素の酸化物、水酸化物、フッ化物、錯フッ化物、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩等を用いることができ、具体的には、硝酸コバルト、オキシ硝酸ジルコニウム、チタンフッ化水素酸、ジルコンフッ化水素酸、チタンフッ化水素酸アンモニウム、ジルコンフッ化水素酸アンモニウム等を好ましいものとして挙げることができる。
これらの金属元素を含む化合物の酸性水溶液は、pHが1以上で7未満、好ましくは3以上で6以下の範囲内にあることが好ましく、塩酸、硝酸、硫酸、フッ化水素酸等の酸、又は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アミン類等のアルカリでpHを調整することができる。酸性水溶液には、さらに必要に応じて、錯化剤、シリカ粒子等を添加してもよい。金属元素を含む化合物の添加量は0.001〜5mol/l、特に0.01〜1mol/l程度が好ましい。
酸性水溶液による後処理は、例えば、浴温20〜80℃、好ましくは30〜60℃の処理液に5秒間以上、好ましくは20〜90秒程度金属材を浸漬するなどして電気めっき皮膜を処理液と接触させることにより行うことができる。
上記のようにして得られた電気めっき金属材は塗膜密着性に優れているため、特に表面処理をしなくてもそのまま塗料を塗布することができる。また、クロムフリーの環境対応型表面処理剤と組み合わせても優れた耐食性を発揮する。
本発明の電気めっき金属材に塗装する場合の塗料は、特に限定されるものではなく、常乾型、熱硬化型、活性エネルギー線硬化型などいずれの硬化方式のものも使用することができ、溶剤型塗料、水性塗料、粉体塗料等いずれの種類の塗料を使用してもよい。特に本発明の電気めっき液組成物を自動車に適用した場合には、めっき皮膜上に電着塗料、中塗り塗料及び上塗り塗料を順次塗装し、焼付けするのが一般的である。
本発明の電気めっき金属材は耐食性に優れているため、無処理の平板状電気めっき金属材にそのまま有機樹脂皮膜を形成して耐指紋鋼板として使用することができ、また、上記有機樹脂皮膜に潤滑性を持たせることにより潤滑鋼板として使用することができる。
耐指紋鋼板は、該鋼板が使われるまでの間に発生する錆を防止するために鋼板上に薄膜有機樹脂皮膜が形成されたものであり、該有機樹脂皮膜を形成する有機樹脂としては、特に制限されない。適当な樹脂としては、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アルキド系樹脂、メラミン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等が挙げられる。有機樹脂は、有機溶剤に溶解させた溶剤型の樹脂でもよいが、可能であれば水中に溶解ないし分散(懸濁もしくは乳化)させた水性樹脂、特にエマルジョン樹脂とすることが好ましい。
上記有機皮膜中には、皮膜の密着性、耐食性を向上させるためシリカ粒子を添加してもよい。シリカ粒子としては水分散性のコロイダルシリカが好適であるが、これ以外の気相法シリカ、粉砕シリカも使用することが出来る。水分散型のコロイダルシリカとしては、例えばスノーテックスN、スノーテックスC、スノーテックスO(いずれも日産化学社製)等、その他のシリカ粒子としては、アエロジル200V、アエロジルR−811(いずれも日本アエロジル社製)等が挙げられる。
また、潤滑鋼板は、銅板成型加工後のプレス油の洗浄工程で使用されるフロン、1,1,1−トリクロロエタンなどの地球環境保全上、好ましくない溶剤の使用を抑えるため、鋼板に予め潤滑性を付与して、プレス油を塗布しなくてもプレス成型などの加工ができるようにしたものであり、通常、耐指紋鋼板などに用いられる有機樹脂皮膜に潤滑機能付与剤を含有させて鋼板上に潤滑性皮膜を形成せしめてなるものである。潤滑機能付与剤は、皮膜に潤滑(摩擦係数軽減)機能を付与し、かつ焼付けにより着色しないものが好ましい、好ましい潤滑機能付与剤としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系ワックス;四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、三フッ化塩化エチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、フッ化ビニル樹脂、エチレン/四フッ化エチレン共重合体樹脂、四フッ化エチレン/六フッ化プロピレン共重合体樹脂等のフッ素系ワックスなどを挙げることができ、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
上記耐指紋性や潤滑性を有する有機樹脂皮膜の膜厚は0.5〜5μm程度であり、染料や顔料を含有する着色皮膜であってもよい。また、表面処理を省くことができるため、有機樹脂皮膜を形成するための塗装工程を、電気めっき鋼板製造ラインの中に組み込むことによって、製造工程を大幅に短縮でき、作業の効率化を図ることができる。
本発明の電気めっき金属材に表面処理を施す場合は、クロメート系表面処理剤やりん酸塩系表面処理剤により行なうことができるが、本発明の電気めっき金属材は耐食性に優れているため、ジルコニウム系表面処理剤、チタン系表面処理剤等のクロムフリーの環境対応型表面処理剤と組み合わせても優れた耐食性を発揮する。環境負荷低減のためには、クロムフリーの環境対応型表面処理剤と組み合わせるのが好ましい。
塗装金属材の用途は、建材用、家電用、自動車用、締結部品など従来塗装金属材を使用している用途には、特に制限なく使用でき、下塗り塗料、上塗り塗料の塗装はその用途、被塗物の形状などによって適宜選定すればよい。例えば、成形されたものに塗装する場合には、スプレー、ディップ、電着等が適しており、また、プレコート塗装金属材等板状のものに塗装する場合には、ロール塗装、カーテンフロー塗装などが好適に用いられる。
【実施例】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。なお、以下、「部」及び「%」はいずれも重量基準によるものとする。
「1.めっき液の作成及び電気めっき金属材の作成」
[実施例1〜15、比較例1〜3]
下記表1に示す配合組成に従って各めっき液を得た。
板厚0.8mmの冷延金属材(SPCC)をアルカリ脱脂し、水洗した後、上記各めっき液を用いて次の条件でめっきを施した。
めっき条件:電流密度1〜30A/dmの直流電流を用い、浴温30〜60℃の範囲でめっきを行った。めっき皮膜厚は全て3μmとした。膜厚は蛍光X線分析装置SEA5200(セイコーインスツルメント社製)で測定した。

*1:表1における各金属イオンは、下記の化合物より供給されるものである。
Zn;ZnSO・7H
Fe;FeSO・7H
Co;CoSO・7H
Ni;NiSO・7H
W ;NaWO・2H
*2:表1における各有機樹脂は、下記の内容のものである。
R1;リグニンスルホン酸ソーダ、数平均分子量約10,000。
R2;ノボラック型フェノール樹脂のスルホン化物のNa塩、数平均分子量約23,000。
R3;ノボラック型フェノール樹脂のスルホン化物のNa塩、数平均分子量約40,000。
R4;ポリ−P−ヒドロキシスチレンのスルホン化物のNa塩(スルホン化度0.8)、数平均分子量約5,000。
R5;ビスフェノールA型エポキシ樹脂のスルホン化物のNa塩、数平均分子量約7,000。
*3:表1における各腐食抑制剤は、下記の内容のものである。
F1;K−WHITE 840E、テイカ株式会社製、縮合リン酸アルミニウム。
F2;スノーテックス−O、日産化学工業株式会社製、コロイダルシリカ。
F3;3−アミノ−1,2,4−トリアゾール。
「2.塗装系1」
[実施例16〜30、比較例4〜6]
上記表1で得られためっき金属材の表面をアルカリ脱脂、水洗及び水切り乾燥した後、「マジクロン1000ホワイト」(関西ペイント社製、アクリル−メラミン樹脂系塗料、白色)を乾燥膜厚が30μmになるようにして塗布し、160℃で20分間焼きつけて各試験塗板を得た。
(比較例7)
板厚0.8mmのリン酸塩処理(商品名:パルボンド3118、日本パーカライジング社製)された電気亜鉛めっき鋼板(めっき付着量20g/mのSECC材:JIS G−3313)に「マジクロン1000ホワイト」(関西ペイント社製、アクリル−メラミン樹脂系淦料、白色)を乾燥膜厚が30μmになるよに塗布し、160℃で20分間焼きつけて試験塗板を得た。
上記実施例及び比較例で得られた各試験塗板について、下記試験方法に基いて各種試験を行った。その結果を後記表2に記す。
(上塗密着性):試験塗板を約98℃の沸騰水中に2時間浸漬した後、引き上げて室温に2時間放置し、この試験塗板の塗膜面にナイフにて素地に達する縦横各11本の傷を碁盤目状にいれて2mm角の桝目を100個作成した。この碁盤目部にセロハン粘着テープを密着させて瞬間にテープを剥がした際の塗膜の剥離面積を下記基準により評価した。
5:塗膜の剥離が全く認められない。
4:塗膜の剥離が認められるが、剥離面積が10%未満。
3:剥離面積が10%以上で25%未満。
2:剥離面積が25%以上で50%未満。
1:剥離面積が50%以上。
(塗装後耐食性):試験塗板に素地に達するクロスカットを入れ、これをJIS Z−2371に準じて240時間塩水噴霧試験を行なった後、該試験塗板を水洗し、乾燥させた後、クロスカット部にセロハン粘着テープを密着させ、瞬時に剥がした時のクロスカット部からの最大剥離幅(片側、mm)を測定した。

「3.塗装系2」
[実施例31〜45、比較例8〜10]
前記表1で得られためっき金属材を脱脂、水洗、水きり乾燥した後、カチオン型電着塗料「エレクロンGT−10」(関西ペイント社製、エポキシポリエステル樹脂系)を電着塗装し、170℃で20分間焼付し、乾燥膜厚20μmの電着塗装板を得た。この電着塗装面に中塗り塗料「アミラックTP−65グレー」(関西ペイント社製、アミノアルキッド樹脂系)を乾燥膜厚が30μmになるようにしてスプレーにて塗装し、140℃で20分間焼きつけた。その後に、上塗塗料ネオアミラック#6000ホワイト(関西ペイント社製、アミノアルキッド樹脂系)を乾燥膜厚が30μmとなるようにスプレーにて塗装し、140℃で20分間焼きつけ、各試験塗板を得た。
(比較例11)
板厚0.8mmのリン酸塩処理(商品名:パルボンド3020、日本パーカライジング社製)された合金化溶融亜鉛めっき鋼板(SGCC F06材:JIS G−3302)に、カチオン型電着塗料「エレクロンGT−10」(関西ペイント社製、エポキシポリエステル樹脂系)を電着塗装し、170℃で20分間焼付し、乾燥膜厚20μmの電着塗装板を得た。この電着塗装面に中塗り塗料「アミラックTP−65グレー」(関西ペイント社製、アミノアルキッド樹脂系)を乾燥膜厚30μmになるようにスプレーにて塗装し、140℃で20分間焼きつけた。その後に、上塗塗料ネオアミラック#6000ホワイト(関西ペイント社製、アミノアルキッド樹脂系)を乾燥膜厚が30μmとなるようにスプレーにて塗装し、140℃で20分間焼きつけ、試験塗板を得た。
上記実施例及び比較例で得られた各試験塗板について、下記試験方法に基いて各種試験を行った。その結果を後記表3に記す。
(耐チッピング性):試験塗板を飛石試験機JA−400型(スガ試験機社製、チッピング試験装置)の試験片保持台に石の噴出し口に対して直角になるようにして固定し、−20℃において0.294MPs(3kgf/cm)の圧縮空気により粒度7号の花崗岩砕石50gを塗面に吹き付け、これにより生じた塗膜キズの発生程度を目視で観察し、下記基準で評価した。
◎:キズの大きさはかなり小さく、上塗塗膜がキズつく程度。
○:キズの大きさは小さく、中塗塗膜が露出している程度。
△:キズの大きさは小さいが、素地の金属材が露出している。
×:キズの大きさはかなり大きく、素地の金属材も大きく露出している。
(耐水2次密着性):試験塗板を40℃の温水に10日間浸漬した後、この試験塗板の塗膜面にナイフにて素地に達する縦横各11本の傷を碁盤目状にいれて、2mm角の桝目を100個作成した。この碁盤目部にセロハン粘着テープを密着させて瞬間にテープを剥がした際の塗膜の剥離面積を下記基準により評価した。
5:塗膜の剥離が全く認められない。
4:塗膜の剥離は認められるが、剥離面積が10%未満。
3:剥離面積が10%以上で25%未満。
2:剥離面積が25%以上で50%未満。
1:剥離面積が50%以上。
(耐食性):塗装板に素地に達するクロスカットを入れ、これをJIS Z−2371に準じて960時間塩水噴霧試験を行った後、水洗、風乾させ、一般部のサビ、フクレを下記基準で評価するとともに、クロスカット部にセロハン粘着テープを密着させ瞬時に剥がした時のクロスカット部からの最大剥離幅(片側、mm)を測定した。
○:塗面にサビ、フクレ等の発生が全く認められない。
△:塗面にサビ、フクレ等の発生が僅かに認められる。
×:塗面にサビ、フクレ等の発生が著しく認められる。
(耐塩水ディップ性):塗装板に素地まで達するクロスカットを入れ、これを5%の食塩水に50℃で10日間浸漬した後、水洗、風乾させ、一般部のサビ、フクレを下記基準で評価するとともに、クロスカット部にセロハン粘着テープを密着させ瞬時に剥がした時のクロスカット部からの最大剥離幅(片側、mm)を測定した。
○:塗面にサビ、フクレ等の発生が全く認められない。
△:塗面にサビ、フクレ等の発生が僅かに認められる。
×:塗面にサビ、フクレ等の発生が著しく認められる。

「4.塗装系3」
[実施例46〜60、比較例12〜14]
前記表1で得られためっき金属材の表面をアルカリ脱脂、水洗、水切り乾燥した後、その上にKPカラー8000プライマー(関西ペイント社製、変性エポキシ樹脂系塗料)を乾燥膜厚が5μmとなるようにバーコーターで塗装し、PMT(鋼板の最高到達温度)が210℃となる条件で、20秒間、焼付けて塗膜を形成し、ついでこのプライマー皮膜上にKPカラー1580ホワイト(関西ペイント社製、ポリエステル樹脂系塗料)を乾燥膜厚が15μmとなるようにバーコーターで塗装し、PMTが215℃となる条件で、40秒間、焼付して上層塗膜を有する各試験塗板を作成した。
(比較例15)
板厚0.8mmのクロメート処理(商品名:コスマー500、関西ペイント社製)された溶融亜鉛めっき鋼板(SGCC Z25材:JIS G−3302)に、KPカラー8000プライマー(関西ペイント社製、変性エポキシ樹脂系塗料)を乾燥膜厚が5μmとなるようにバーコーターで塗装し、PMTが210℃となる条件で、20秒間、焼付けて塗膜を形成し、ついでこのプライマー皮膜上にKPカラー1580ホワイト(関西ペイント社製、ポリエステル樹脂系塗料)を乾燥膜厚が15μmとなるようにバーコーターで塗装し、PMTが215℃となる条件で、40秒間、焼付して上層塗膜を有する試験塗板を作成した。
上記実施例及び比較例で得られた各試験塗板について、塗膜の密着性、耐食性及び耐湿性の試験を下記試験方法に従って行った。試験結果を後記表4に示した。
(塗膜の密着性):試験塗板の塗膜面にナイフで素地に達する縦横11本の傷を碁盤目状に入れて1mm角の桝目を100個作成した。この碁盤目部にセロハン粘着テープを密着させて瞬時にテープを剥がした際の塗膜の剥離程度を下記基準により評価した。
5:塗膜の剥離が全く認められない。
4:塗膜の剥離が認められるが、剥離面積が10%未満。
3:剥離面積が10%以上で25%未満。
2:剥離面積が25%以上で50%未満。
1:剥離面積が50%以上。
(耐食性):70cm×150cmの大きさに切断した上層塗膜を有する試験塗板の端面部及び裏面部をシールした後、試験塗板の上部に4T折り曲げ部(塗膜面を外側にして0.8mm厚さのスペーサー4枚を挟んで180度折り曲げ加工した部分)を設け、試験塗板の下部にクロスカット部を設けた塗装板についてJIS Z−2371に規定する塩水噴霧試験を1000時間行なった。試験後の塗装板における、4T折り曲げ部の白錆の発生程度、クロスカット部のふくれ幅及び一般部(加工、カットのない部分)のふくれ発生程度を下記基準で評価した。
一般部:
◎:ふくれの発生が認められない。
○:ふくれの発生が僅かに認められる。
△:ふくれの発生がかなり認められる。
×:ふくれの発生が著しく、塗膜が一部剥離している。
クロスカット部:
◎:クロスカットからの片面ふくれ幅が1mm未満。
○:クロスカットからの片面ふくれ幅が1mm以上で2mm未満。
△:クロスカットからの片面ふくれ幅が2mm以上で5mm未満。
×:クロスカットからの片面ふくれ幅が5mm以上。
折り曲げ部:
◎:白錆の発生が認められない。
○:白錆の発生が僅かに認められる。
△:白錆の発生がかなり認められる。
×:白錆の発生が著しく、塗膜が一部剥離している。
(耐湿性):70cm×150cmの大きさに切断した上層塗膜を有する試験塗板の端面部及び裏面部をシールした後、JIS K−5400 9.2.2に準じて試験を行った。耐湿試験機ボックス内の温度が50℃及び相対湿度が95〜100%の条件で試験時間は1000時間とした。試験後の試験塗板における塗膜のふくれ発生程度を下記基準により評価した。
◎:ふくれの発生が認められない。
○:ふくれの発生が僅かに認められる。
△:ふくれの発生がかなり認められる。
×:ふくれの発生が著しく、塗膜が一部剥離している。

「5.塗装系4」
[実施例61〜75及び比較例16〜18]
前記表1で得られためっき金属材の表面を脱脂、水洗、水切り乾燥した後、その上に下記表5に示す配合(配合比率は固形分比)に従って製造した各有機樹脂被覆組成物C1〜C5を表6に示す組合わせに従って乾燥皮膜重量が0.8g/mとなるように塗布して、PMTが120℃となる条件で、20秒間、焼付して表6に示す各試験塗板を作成した。
表5における各注の原料は各々下記の内容のものである。
※1)ニカゾールRX−672A:日本カーバイト工業社製、アクリルエマルジョン
※2)スーパーフレックス150:第一工業製薬社製、ポリウレタンディスパージョン
※3)ケミパールS−650:三井化学工業社製、エチレンアイオノマー樹脂
※4)アデカボンタイターHUX232:旭電化工業社製、カルボキシル基含有ウレタンディスパージョン
※5)エピコート1007:ジャパンエポキシレジン社製、エポキシ樹脂
※6)ヂュラネートMF−80:旭化成工業社製、ブロックイソシアネート樹脂
※7)スノーテックスN:日産化学工業社製、コロイダルシリカ
※8)アエロジルR−811:日本アエロジル社製、微粉末シリカ
※9)ケミパールW−700:三井化学工業社製、ポリエチレンディスパージョン
※10)PTFE粉末:粒径2〜5μmのポリ四フッ化エチレン樹脂粉末
(比較例19)
板厚0.8mmのクロメート処理(商品名:コスマー500、関西ペイント社製)された電気亜鉛めっき鋼板(めっき付着量20g/mのSECC材:JIS G−3313)上に表5に示す有機樹脂被覆組成物C1を乾燥皮膜重量が0.8g/mとなるように塗布して、PMTが120℃となる条件で、20秒間、焼付して試験塗板を作成した。

上記実施例及び比較例で作成した各試験塗板について、下記試験方法に基いて各種試験を行った。得られた結果を後記表6に示す。
(試験方法)
(裸耐食性):試験塗板の端面部及び裏面部をシールした試験塗板に、JIS Z2371に規定する塩水噴霧試験を360時間まで行い処理膜面の錆の程度を下記基準により評価した。
○:白錆の発生程度が塗膜面積の5%未満。
△:白錆の発生程度が塗膜面積の5%以上で30%未満。
×:白錆の発生程度が塗膜面積の30%以上。
(上塗密着性):試験塗板に「マジクロン#1000ホワイト」(関西ペイント社製、熱硬化型アクリル樹脂塗料、白色)を乾燥膜厚が30μmとなるように塗装し、150℃で20分間焼き付けて上塗塗装板を得た。得られた上塗塗装板について、沸騰水に2時間浸漬したものを、2時間室内に放置後塗膜面にナイフにて素地に達する縦横各11本の傷を碁盤目状に入れて1mm角のマス目を100個作成した。この碁盤目部にセロハン粘着テープを密着させて瞬時にテープを剥がした際の上層塗膜の剥離程度を下記基準により評価した。
○:上層塗膜の剥離が全く認められない。
△:上層塗膜の剥離が1〜9個認められる。
×:上層塗膜の剥離が10個以上認められる。
(耐指紋性):色差計「SMカラーコンピュータMODEL SM−5」(スガ試験機社製)を用いて試験板塗膜のL値、a値及びb値を測定後、塗膜上に白色ワセリンを塗布し、ウェスで拭き取った後、再び塗膜のL値、a値及びb値を測定して、ワセリン塗布前後の色差(ΔE)を計算して、以下の基準により評価した。
○:ΔEが1.0未満。
△:ΔEが1.0以上3.0未満。
×:ΔEが3.0以上。
(潤滑性):引張り試験機によって、面圧50kg/cm及び引き抜き速度100m/分の条件で、平板状の試験片を引き抜き後、その際の動摩擦係数を調べて潤滑性を下記基準により評価した。なお、本試験は、有機樹脂被覆組成物に潤滑機能付与剤が添加されたC3、C4及びC5を塗装された系について実施した。
○:動摩擦係数0.15未満。
△:動摩擦係数0.15以上0.30未満。
×:動摩擦係数0.30以上。

「6.塗装系5」
[実施例76〜82]
鋼製ボルトをアルカリ脱脂し、水洗した後、1%硫酸液に室温で30秒間浸漬して活性化処理を行なった。その後バッチ式バレルめっき装置を使用して、表7に示す所定の金属イオン、腐食抑制顔料、腐食抑制有機化合物及びセラミックス粒子を含有するアルカリ性めっき浴にてめっきを施した。皮膜の組成は、めっき浴中の金属イオン濃度比、電流密度及び浴温度を変えることにより調整し、また、めっき膜厚はめっき時間を適宜選択することによりコントロールした。その後、HNO 5g/l及び(NHZrF 15g/lからなる酸性水溶液に50℃で30秒間浸漬することにより後処理を行なって試験用ボルトを作成した。
(比較例20)
鋼製ボルトをアルカリ脱脂し、水洗した後、1%硫酸液に室温で30秒間浸漬して活性化処理を行なった後、ジンケート浴(金属亜鉛10g/l、水酸化ナトリウム120g/l)を用いて電気亜鉛めっき(5μm)を施した。その後、ユケン工業(株)製6価クロム含有クロメート液:メタスCY−6に、25℃で10秒間浸漬してクロメート処理を行なって比較用ボルトを作成した。クロメート皮膜の付着量は、5〜6mg/dmであった。
得られた試験用ボルトの耐食性を下記方法で評価した。評価結果を表7に記す。
(耐食性):JIS Z2371に準拠して塩水噴霧試験(SST)を実施し、耐食性は、白錆10%および赤錆5%の発生時間により評価した。

*4:表7における各金属イオンは、下記の化合物より供給されるものである。
Zn;ZnO
Fe:FeSO・7H
Co;CoSO・7H
Ni;NiSO・7H
W ;NaWO・2H
*5:表7における各有機樹脂は、下記の内容のものである。
R6;ポリエチレンイミン、数平均分子量約3,000。
R7;ポリエチレングリコール、数平均分子量約10,000。
*6:表7における各腐食抑制剤は、下記の内容のものである。
F1;K−WHITE 840E、テイカ株式会社製、縮合リン酸アルミニウム。
F2;スノーテックス−O、日産化学工業株式会社製、コロイダルシリカ。
F3:3−アミノ−1,2,4−トリアゾール。
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2003年12月9日出願の日本特許出願(特願2003−410843)、及び2004年5月19日出願の日本特許出願(特願2004−149276)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
本発明の有機高分子複合電気亜鉛合金めっき液組成物を用いて得られる有機高分子複合電気亜鉛合金めっき金属材は、その上に塗装される塗装膜との密着性に優れているため、通常必要となるクロメート処理、りん酸塩処理などの表面処理を行わなくても十分な塗料密着性、耐食性が得られるものであり、表面処理時に発生するクロム廃液といった有害物質を削除できるだけでなく、塗装ラインの短縮によるコストダウンにも大きな効果がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)Znイオンを1〜600g/l、
(B)鉄族元素イオンを1〜600g/l、
(C)タングステン酸系化合物をWイオンとして0.1〜200g/l、及び
(D)数平均分子量が1,000〜1000,000の水溶性又は水分散性有機高分子化合物を0.5〜500g/l含有することを特徴とする有機高分子複合電気亜鉛合金めっき液組成物。
【請求項2】
鉄族元素イオン(B)が、Feイオンである請求項1に記載の有機高分子複合電気亜鉛合金めっき液組成物。
【請求項3】
タングステン酸系化合物(C)が、タングステン酸、タングステン酸塩、リンタングステン酸及びリンタングステン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1又は2に記載の有機高分子複合電気亜鉛合金めっき液組成物。
【請求項4】
有機高分子化合物(D)が、ノニオン性親水性基、アニオン性親水性基及びカチオン性親水性基からなる群から選ばれる少なくとも1種の親水性基を有するものである請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機高分子複合電気亜鉛合金めっき液組成物。
【請求項5】
有機高分子化合物(D)が、水酸基、スルホン酸基、リン酸基、カルボキシル基、アミノ基及びアンモニウム基からなる群から選ばれる少なくとも1種の親水性基を有するものである請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機高分子複合電気亜鉛合金めっき液組成物。
【請求項6】
さらに、腐食抑制顔料及び/又はセラミックス粒子を5〜300g/l含有するものである請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機高分子複合電気亜鉛合金めっき液組成物。
【請求項7】
腐食抑制顔料が、リン酸塩、モリブデン酸塩、メタホウ酸塩および珪酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項6に記載の有機高分子複合電気亜鉛合金めっき液組成物。
【請求項8】
セラミック粒子が、Al、SiO、TiO、ZrO、Y、ThO、CeO、Fe、BC、SiC、WC、ZrC、TiC、黒鉛、弗化黒鉛、BN、Si、TiN、Cr、ZrB、2MgO・SiO、MgO・SiO、およびZrO・SiOからなる群から選ばれる少なくとも1種の粒子である請求項6に記載の有機高分子複合電気亜鉛合金めっき液組成物。
【請求項9】
さらに、アルキン類、アルキノール類、アミン類若しくはその塩、チオ化合物、芳香族カルボン酸化合物若しくはその塩、及び複素環化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機化合物を含有してなるものである請求項1〜8項のいずれか一項に記載の有機高分子複合電気亜鉛合金めっき液組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の有機高分子複合電気亜鉛合金めっき液組成物を用いて金属素材に電気めっきして得られることを特徴とする有機高分子複合電気亜鉛合金めっき金属材。
【請求項11】
電気めっきにより形成された皮膜を、更に、コバルト、ニッケル、チタニウム及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物の酸性水溶液と接触させて得られることを特徴とする請求項10に記載の有機高分子複合電気亜鉛合金めっき金属材。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の有機高分子複合電気亜鉛合金めっき金属材上に、表面処理を施すことなく直接有機樹脂皮膜が形成されてなることを特徴とする耐指紋鋼板。
【請求項13】
請求項10又は11に記載の有機高分子複合電気亜鉛合金めっき金属材上に、表面処理を施すことなく直接潤滑機能を有する有機樹脂皮膜が形成されてなることを特徴とする潤滑鋼板。

【国際公開番号】WO2005/056884
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516214(P2005−516214)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018543
【国際出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】