説明

有機ELディスプレイの製造方法

【課題】本発明は膜厚異常部の影響が広い範囲におよぶ、印刷技術を用いて作成される基板の異物の混入に関する印刷膜厚異常部を修復する方法を提供すること。
【解決手段】印刷技術を用いる有機ELパネルの製造工程において基板の印刷・乾燥後に有機層の膜中または表面にある異物を検出する検出工程と有機層が可溶な溶剤をノズルから吐出させつつ、別のノズルで吸い取ることで異物とともに印刷した有機層の材料を取り除く除去工程と、除去工程で付着した溶剤分を取り除く乾燥工程と、除去工程で取り除かれた印刷部分にのみに有機層材料を印刷することで再形成する修正印刷工程と、修正時の溶剤分を乾燥させ取り除く修正後乾燥工程を行うことで膜厚異常部を修正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ELディスプレイの製造方法に関し、特に印刷型の有機ELデイスプレイパネルを製造する工程において、当該パネルに異物が混入した際の修正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイにおける発光素子は、一般に陽極と陰極の一対の電極間に少なくとも一層の有機発光層が挟持された構造となっている。有機発光層の形成方法としては、例えば、真空蒸着による方法や、有機発光材料を溶媒に溶かすことでインク化し、印刷技術を用いる方法があるが、大型のディスプレイを低コストで製造する方法としては、高価な真空設備を必要としない、印刷技術による方法がより有効な手段とされている。
【0003】
具体的な印刷技術としては、インクジェット法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法などがあり、赤(R)、緑(G)、青(B)3色の有機EL材料を画素ごとに塗り分けることで、ディスプレイをカラー化することが可能である。ディスプレイの大型化に伴い、基板面積が大型化すると、クリーンルームなどの環境対策を行っている場合でも、基板全面にわたって膜厚異常部がない製品を、高い歩留りで実現することは難しく、不良発生箇所(膜厚異常部などが生じた箇所)を部分的に修復する修正方法が求められている。
【0004】
例えば、有機EL層の欠陥修正方法の一例としては、特許文献1の欠陥除去方法が知られている。
【0005】
図6は、特許文献1に開示された欠陥除去方法を示す図である。有機EL素子の製造工程において、まず、図6(a)に示すように、基板1に形成された下地層2上に形成された有機層4の内部、若しくはその表面に生じた異物5等の欠陥を検出する欠陥検出工程を行う。次に、図6(b)に示すように、欠陥検出工程により検出された異物5、及び、その近傍の有機層4にレーザー光17をレーザー照射装置18から照射し、異物5およびその近傍の有機層4を除去する。続いて、図6(c)に示すように、精度良く欠陥を除去した欠陥除去箇所19を形成することにより、修復する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−119243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の欠陥除去方法を有機EL発光素子に適用した場合、異物とその近傍の有機層を除去するだけでは膜厚の異常個所を修復し得ないという課題を有している。
【0008】
例えば、有機層を蒸着技術で形成する場合には、異物などの欠陥があっても形成される有機層の膜厚は異物のごく近傍のみが影響を受けるのに対し、印刷技術を用いて有機層を形成する場合には、ダストなどの異物が存在すると有機材料を溶媒に溶解したインクを用いるため、異物の周辺にインクが表面張力により引き寄せられる現象が発生し、膜厚異常がより広い範囲で発生することになる。無論、塗布領域に異物が入り込まないように、クリーンルームを極力、清浄な環境を維持することが行われるが、それでも大型ディスプレイの全領域において、異物が存在しないことを保証することは極めて困難であり、有機ELディスプレイの製造歩留りを低減させる要因となっているのが実状である。
【0009】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、印刷技術を用いて作製される基板において、異物に起因する膜厚異常箇所を高精度に修復する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決し目的を達成するために、本発明の有機ELディスプレイの製造方法は、基板上に形成された有機層の膜中または表面の異物を検出する検出工程と、前記異物が検出される領域に対し、前記有機層が可溶な溶剤を吐出しつつ吸引することで、前記異物と共に有機層の少なくとも一部取り除く除去工程と、前記除去工程で付着した溶剤を取り除く乾燥工程と、前記除去工程で取り除かれた領域に前記有機層の材料を再塗布形成する印刷工程と、前記再塗布形成された領域の溶剤を乾燥させることで取り除く乾燥工程と、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の有機ELディスプレイの製造方法により、印刷技術で作製する基板の異物に起因する膜厚異常部を除去でき、かつ、再塗布により膜厚異常を高精度に修復する方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態1に係る膜厚異常部の修復方法を示す図
【図2】本発明の実施の形態2に係る膜厚異常部の修復方法を示す図
【図3】本発明の実施の形態3に係る膜厚異常部の修復方法を示す図
【図4】本発明の実施の形態4に係る膜厚異常部の修復方法を示す図
【図5】均等でないライン状のバンク断面を示す図
【図6】特許文献1に記載された従来の欠陥修復方法を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明実施の形態1について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
(実施の形態1)
図1は本発明の基板の膜厚異常部修正方法のフローを模式的に現した図である。
【0015】
図1(a)は、欠陥の検出工程を表す図である。本実施の形態での膜厚異常部修正方法での基板は、有機EL素子の製造工程中における有機層を印刷技術により塗布/乾燥した状態を対象としている。
【0016】
同図において、1は基板であり、2は基板上に形成された下地層であり、修正対象となる印刷工程以前に形成される構造である。下地層2には素子に応じて分割された第1電極層や正孔輸送層などが含まれる。また、図1では簡略化のため省略しているが、実際には基板1は、分割された素子の夫々を駆動するための駆動回路と接続配線が含まれる。
【0017】
3はバンクであり、画素を区切り発光層を印刷する際のインクが混ざり合ってしまうのを防止する働きをする。4は有機層であり、有機発光材料などの機能材料を可溶な溶媒に溶解させたインクを使用し、印刷技術により所定の位置に塗布後・乾燥された状態である。有機EL素子の発光材料の場合、その乾燥時膜厚は20nmから200nm程度の厚みである。
【0018】
5は有機層に混入した異物である。有機層4を印刷する以前や乾燥前の有機層4が液体状態(インク)の時に異物が存在すると、その表面張力によりインクは異物5の周辺に集められる。これにより乾燥後の有機層4の膜厚が不均一となる。6は異物5の影響による有機層の膜厚が正常部と異なった膜厚異常部である。7は膜厚異常部検出手段であり、CCDカメラなどを用いる画像処理手段やレーザー変位計などの高さ検出手段を用いることにより、膜厚異常部の位置を検出することが可能である。
【0019】
図1(b)は除去工程を表す図である。8は除去ヘッドであり、吐出ノズル9と吸引ノズル10を含んでいる。除去ヘッド8は検出工程で見つけられた膜厚異常部箇所に位置決めされる。そして、吐出ノズル9より有機層4が可溶な溶剤11を吐出しつつ、吸引ノズル10で溶剤を吸引することで膜厚異常の原因となった異物5と共に、印刷された膜厚異常部の有機層4の材料を取り除く。なお、修正すべき画素の縦横比が異なる場合には、画素の長手方向に吐出ノズルと吸引ノズルを配置することによりノズル内径を大きくできるので流量を多くでき、除去速度を早くできる。
【0020】
また、図1では吐出ノズル9と吸引ノズル10は独立した一対の孔の形態の例を示したが、一個の吐出ノズルに対し複数の吸引ノズルを配しても良いし、逆に一個の吸引ノズルに対して複数の吐出ノズルを配しても良い。例えば、画素の縦横比が異なる場合には、画素長手方向に対して一個の吐出ノズルを挟むように2個の吸引ノズルを配置する方法や、1個の吸引ノズルを挟むように2個の吐出ノズルを配置する方法がある。これにより吐出した溶剤11が修正対象以外の場所に広がらないようにすることができる。
【0021】
また、同心円状のように中央に吐出ノズルを配し、その外周にリング状の吸引ノズルを配して吸引しても良いし、逆に中央に吸引ノズルを配し、外周にリング状の吐出ノズルを配するような構成をとることで溶剤11が修正対象以外の場所に広がらないようにすることもできる。また、溶剤を吐出するよりも時間的に早く吸引を開始し、吐出を終了した後に吸引を停止することにより、溶剤11が修正対象以外の場所に広がらないようにすることが望ましい。なお、除去工程で吐出する溶剤11は、有機層が可溶で乾燥により除去可能なものであれば、印刷時のインクに使用されている溶剤や修正印刷工程でインクに用いる溶剤と異なるものを用いることも可能である。印刷時の溶媒よりも低沸点の溶媒を用いることで乾燥を早くし、再印刷までの時間を短縮することが可能である。
【0022】
図1(c)は、乾燥工程を示す図であり、先の除去工程で異物と有機層が除去された除去部12に付着した溶剤成分を乾燥により取り除く。乾燥方法としては、ヒーターなどにより高温にして乾燥速度を上げる方法や、圧力を下げることで乾燥速度を上げる方法のどちらも適用可能である。しかしながら、有機層が有機EL発光材料の場合、前工程で除去しなかった正常箇所に塗布された材料が高温環境下で劣化することが多く、その耐熱温度はおおむね摂氏100度以下程度であることが多いため、乾燥工程では耐熱温度以下の温度を保つ必要があり、乾燥を効率的に進めるために減圧することがより望ましい。
【0023】
図1(d)は、修正印刷工程を説明する図であり、13は修正印刷手段であり、14は有機層の材料を溶剤に溶かしたインク液滴である。図1(b)の除去工程において、有機層が取り除かれた部分に位置合わせを行い、有機材料のインクを再度塗布することで有機層を再形成する。15は除去部に再塗布されたインク液滴溜りを表している。例えば、異物を取り除き乾燥させた評価基板に対し、有機層の印刷に用いたインクジェット装置に取り除かれた部分のみを印刷するようなデータを入力することで、正常部分と同等に除去部に有機層を塗布することが可能である。
【0024】
図1(b)において、膜厚異常の原因となる異物を取り除いているため、修正印刷によりインクは異物の存在しない正常な部分を印刷したときと同様の液滴溜りを形成する。なお、本図ではインクジェット印刷装置を用いたがその他ディスペンサ装置、修正部のみのマスクを使用したスクリーン印刷装置やフレキソ印刷装置などの塗布手段を用いることも可能である。
【0025】
図1(e)は、修正後乾燥工程であり、修正印刷工程で塗布したインク液滴溜りを乾燥させることで有機層を形成する。図1(b)の除去工程にて膜厚異常の原因となる異物を取り除かれ、図1(d)の修正印刷工程にて正常な部分を印刷したときと同様の液滴溜りが形成されている。このため乾燥により膜厚の均一性が乱されること無く正常な有機層を形成することが可能である。なお、修正後乾燥工程についても、図1(c)の乾燥工程と同様に有機層の耐熱温度以下の温度を保つ必要があり、乾燥を効率的に進めるために減圧することが望ましい。
【0026】
このように、本実施の形態の膜厚異常部修復方法では、混入した異物とともに膜厚異常となっている印刷膜を同時に取り除くことが可能であり、修正印刷で正常な印刷膜を形成することが可能となり、有機EL基板上の印刷膜厚異常部を修正することができる。
【0027】
(実施の形態2)
次に、本発明実施の形態2について、図面を参照しながら説明する。
【0028】
図2は本発明の実施の形態2の基板の膜厚異常部修正方法のフローを模式的に現した図である。図2(a)は、有機EL素子の製造工程中における膜厚異常部検出工程を表すものである。基板は、有機EL素子の製造工程中における有機層を印刷技術により塗布/乾燥した状態を対象としている。
【0029】
図2において、前述の実施の形態1と同符号の構成要件の説明は省略する。本実施の形態と実施の形態1との違いは、本実施の形態は、図2(a)に示す通り、有機層4がバンク3上にも形成された形態を示す点である。
【0030】
図2(a−1)は、塗布領域の長手方向の断面図を示すものであり、異物5が存在しない場合には、同図の破線のように、液体状態の有機層(インク)が塗布される。異物5が存在することで、異物5の周辺に有機層4の基となるインクが集められることで、異物5の周辺の膜厚が厚くなり、その周辺は薄くなる。
【0031】
図2(a−2)及び(a−3)は、それぞれ当該塗布領域の短手方向の断面図を示すものである。図2(a−2)は、異物5が存在することで、インク塗布の厚さが厚くなり、インクがバンク3の上面に乗り上げている状態を示し、隣接した塗布領域には影響を及ぼしていない状態である。図2(a−3)は、異物5により集められたインクが、バンク3の保持可能な限界を超えて高くなった状態を示し、隣接した塗布領域にも影響し、混色が発生する状態を示す。このように混色が発生すると、異物の存在する塗布領域だけでなく、その隣接する塗布領域も異常となるため、混色は絶対避けなければならない。
【0032】
しかしながら、ディスプレイの高解像度化や発光部の面積比率を高めるという要求のために、バンク3の幅は狭い方が有利であり、実際にはバンクの幅は20μmから50μm程度の幅に設計されることが多い。そのため、混色による不良が生じえた場合には、膜厚異常部を修正しなければ、高い生産歩留りを得ることは困難となる。
【0033】
図2(b)は除去工程を表す図である。除去ヘッド8は、吐出ノズル9と吸引ノズル10を有している。除去ヘッド8は検出工程で見つけられた異物箇所に位置決めされ、吐出ノズル9より有機層が可溶な溶剤を吐出しつつ、吸引ノズル10で溶剤を吸引する。このとき、異物5の存在する塗布領域に隣接する塗布領域は、混色による膜厚異常が発生していることが多いため、異物5の存在する塗布領域と、隣接する塗布領域の有機層を同時に取り除く。図2(b)では、吐出ノズル9と吸引ノズル10は独立した一対の孔の形態が3列並べられた例を示したが、一個の吐出ノズルに対し複数の吸引ノズルを配しても良いし、逆に一個の吸引ノズルに対して複数の吐出ノズルを配しても良い。
【0034】
また、同心円状のように中央に吐出ノズルを配し、その外周にリング状の吸引ノズルを配して吸引しても良いし、逆に中央に吸引ノズルを配し、外周にリング状の吐出ノズルを配するような構成をとっても良い。また、同時に除去する塗布領域に跨るような、スリット上の吐出ノズルや、吸引ノズルを用いても良い。スリット上のノズルを用いる場合は、円形のノズルを用いる場合に比べ、吸引した異物がノズルに詰まることが少なく、例え詰まった場合においても、ノズルの清掃が簡単であるという利点がある。
【0035】
以降の図2(c)〜(e)の工程は、上述の実施の形態1と同様な内容であるので説明を割愛する。
【0036】
以上のように、本実施の形態による膜厚異常部修正方法では、混入した異物とともに膜厚異常となっている印刷された有機層とを同時に取り除くことが可能であり、修正印刷工程により、正常な印刷膜を形成することで基板上の膜厚異常部を修正することが可能である。更に、異物の表面張力によりインクが集められることで発生する隣接素子との混色を同時に取り除くことが可能であり、特にバンクの間隔が狭く混色が発生しやすい場合においても、効率的に膜厚異常部を修正できるという点で優れている。
【0037】
(実施の形態3)
図3は、本発明の実施の形態3の基板の膜厚異常部修正方法のフローを模式的に現した図である。本実施の形態の特徴は、バンク3が一方向に形成(これを「ライン状のバンク3」と称す)された有機ELパネルに関する点にある。図3において、前述の実施の形態1及び2と同符号の構成要件の説明は省略する。
【0038】
図3(a)に示す通り、ライン状のバンク3によって囲まれた塗布領域に異物5が検出された場合、図3(b)に示すように、除去ヘッド8をバンク3が延出される方向に走査することで、有機層4を除去する。具体的には、吐出ノズル9より有機層が可溶な溶剤11を吐出しつつ、吸引ノズル10で溶剤を吸引し、バンクの延出方向に基板1と相対的に除去ヘッド8を走査して行き、これにより膜厚異常の原因となった異物5と共に印刷された膜厚異常部を含む有機層の材料をライン単位で取り除く。以降の図3(c)〜(e)の工程は、上述の実施の形態1や実施の形態2と同様な内容であるので説明を割愛する。
【0039】
以上のように、本実施の形態の膜厚異常部修復方法では、混入した異物とともに膜厚異常となっている印刷膜をバンクの延伸する方向の発光素子の線単位で取り除き、修正印刷で正常な印刷膜を形成することにより、膜厚異常部の影響を及ぼす範囲が広いライン状のバンクを用いた有機EL基板の印刷膜厚異常部を修復することが可能である。
【0040】
(実施の形態4)
図4は、本発明の実施の形態4の基板の膜厚異常部修正方法のフローを模式的に現した図である。
【0041】
本実施の形態は、上述の実施の形態3と同様、バンク3が一方向に形成(これを「ライン状のバンク3」と称す)された有機ELパネルに関する形態であり、そのため、図4において、実施の形態3と同符号の構成要件の説明は省略する。
【0042】
図4(b)は除去工程を表す図であるが、実施の形態3との違いは、除去ヘッド8が吐出ノズル9と吸引ノズル10の機能を備える点である。以降の図4(c)〜(e)の工程は、上述の実施の形態3と同様な内容であるので説明を割愛する。
【0043】
このように本実施の形態による膜厚異常部修正方法では、発光素子の混色を防止するためのバンクが一方向に形成された有機ELパネルの製造工程において、混入した異物および異物により膜厚異常となっている印刷された有機層をバンクの延伸する方向の発光素子の線単位で取り除くことができる。その際、異物のある素子を含む線と同時に少なくとも隣接する線の除去を行うことで隣接素子との混色箇所についても同時に取り除くことが可能である。異常の原因となった異物、膜厚異常箇所、混色箇所を取り除いた上で修正印刷工程により正常な印刷膜を形成することにより、基板上の膜厚異常部を修正することが可能である。
【0044】
これにより、特に膜厚異常部の影響を及ぼす範囲広いライン状のバンクを用い、バンクの間隔が狭く混色が発生しやすい場合においても効率的に有機EL基板の膜厚異常部を修正できるという点で優れている。
【0045】
なお、本実施の形態では、ライン状のバンクが均等な幅であり、発光画素の幅となるバンクとバンクの間隔も均等である例を図示したが、図5に示すように通常より広いバンク幅を有する部分20や、印刷が行われないバンク間21が存在し、隣接画素間隔が広い箇所が周期的に存在する基板に対しては、隣接画素間隔が広い間隔を一単位として除去工程を行うことにより周辺正常画素への溶剤が広がることなく、より確実に膜厚異常部を修正できるという点で優れている。
【0046】
(実施例)
ガラス基板上にアクリル系の撥液性を有するバンクを形成した基板を準備した。
【0047】
準備した基板のバンクの高さは1〜1.1μmであり、バンクの形状は有機層の塗られる凹部が長辺260μm、短辺60μmの矩形状であり、バンクの幅が40μmの1発光画素(塗布領域)ごとに区切られた基板と一方向にバンクが延伸され有機層の塗られる部分の溝状の凹部の幅が60μmでバンク幅が40μmの基板の2種類を用いた。
【0048】
これらの基板に対し、事前にインクジェット装置を用い、正常部の乾燥後厚さが100nm程度になるように有機発光材料を印刷し、減圧乾燥機を用いて十分に乾燥させておいた。
【0049】
印刷乾燥済みの基板に対し、CCDカメラを用い拡大観察を行い、異物の存在箇所の抽出を行った。異物の存在する箇所周辺は印刷膜の色の濃さが外観からみても、他の正常部と異なっており形成された膜厚の均一性が低いことが判別可能であった。一発光画素ごとに区切られたバンク形状の基板の場合、異物の大きさが画素内に納まる程度のサイズでは外観から見た膜厚の異常部は異物が存在している画素およびその隣接する画素に収まることが多いことが確認された。
【0050】
一方、バンクが一方向に延伸するように形成された基板においては、異物の存在する場所からバンクの伸びる方向に数mmから数十mmの範囲まで異常部が広がっている場合があり、異物の存在する画素だけを修復することでは正常化することが困難であり、線単位での修正が必要であることが確認できた。
【0051】
異物および異物周辺の膜厚異常部に対して、吐出ノズルと吸引ノズルを持つ除去ヘッドにより有機層を印刷するときのインクに含まれる溶媒成分を吐出/吸引し異物と膜厚異常を起こしている有機層の除去を試みた。
【0052】
一発光画素ごとに区切られたバンク形状の基板に関しては、除去ヘッドは、吐出ノズル内径30μm、吸引ノズル内径60μmのノズルが中心間距離200μmで対になったものを用い、吐出圧力0.2MPaで有機層を形成する材料が印刷時に溶解されている溶剤を吐出した。具体的には、溶剤として有機層をインクジェット印刷する際のインクに含まれている成分のシクロヘキシルベンゼンを溶剤として用いた。
【0053】
吸引側は事前に基板とノズル間のクリアランスを30μmにし周辺の画素に溶剤が溢れないような条件に吸引流量の調整を行った。この上で異物の存在している画素にノズルを位置合わせし、ノズル高さを事前に圧力調整を行った際と同じクリアランス30μmに高さ調整した後、溶剤の吐出/吸引を行った。一画素に対して30秒間溶剤を吐出/吸引させることで、塗布領域内に溶剤を循環させることで塗布領域に存在していた異物および印刷されていた有機層の材料を除去することが可能であった。
【0054】
この後、基板を乾燥炉に入れることで付着していた溶剤分を乾燥させた。乾燥炉は通常の印刷後に有機層のインクを乾燥させる炉と同じものを用い、同じ条件で乾燥させた。乾燥後の基板に対して有機層を除去した画素だけを印刷するように、インクジェット印刷装置の印刷データを修正したデータを用いて修正印刷を行い、基板を乾燥炉にて乾燥させた。初期、異物により膜厚が異常となっていた画素について、乾燥後の状態をCCカメラで観察を行ったが、原因となった異物を取り除いた上で再印刷を行ったことにより、正常部分と同様の印刷状態を得ることが可能であった。
【0055】
一方向にバンクが延伸された形状の基板に関しては、除去ヘッドの吐出ノズルと吸引ノズルは両方ともスリット上の開口が平面に平行に開口している形状のものを用いた。その開口は、吐出ノズルは開口スリット幅50μm、スリット長220μm、吸引ノズルの開口はスリット幅100μm、スリット長220μmであり吐出と吸引のスリット間は200μmのものを用い、吐出ノズルの吐出圧力は0.2MPaで、有機層を形成する材料が印刷時に溶解されている溶剤を吐出した。
【0056】
具体的には溶剤として有機層をインクジェット印刷する際のインクに含まれている成分のシクロヘキシルベンゼンを溶剤として用いた。吸引側の吸い込みについてはノズルと基板のクリアランスを50μmに調整した上で事前に吐出した溶媒が周辺に溢れないように吸引量の調整を行った。
【0057】
異物の存在する画素のあるラインの開始位置に除去ヘッド中心を位置決めした後、ノズル高さを事前に圧力調整を行った際と同じクリアランス50μmに高さ調整した後、溶剤の吐出・吸引を行った。ヘッドをバンクの延伸する方向に基板と相対的に移動させ溶剤を吐出/吸引させることで画素内に溶剤を循環させることで画素に存在していた異物および印刷されていた有機層の材料を除去することが可能であった。
【0058】
この後、基板を乾燥炉に入れることで付着していた溶剤分を乾燥させた。乾燥炉は通常の印刷後に有機層のインクを乾燥させる炉と同じものを用い、同じ条件で乾燥させた。乾燥後の基板に対して有機層を除去した画素だけを印刷するようにインクジェット印刷装置の印刷データを修正したデータを用いて修正印刷を行い、基板を乾燥炉にて乾燥させた。初期、異物により膜厚が異常となっていた画素について乾燥後の状態をCCDカメラで観察を行ったが原因となった異物を取り除いた上で再印刷を行ったことにより、正常部分と同様の印刷状態を得ることが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の有機ELディスプレイの製造方法は、障壁が形成された塗布領域に対し、インクを塗布するデバイスの膜厚異常部の修正方法に適用可能である。具体的には、有機半導体や有機ELディスプレイに適用できる。
【符号の説明】
【0060】
1 基板
2 下地層
3 バンク
4 有機層
5 異物
6 膜厚異常部
7 膜厚異常部検出手段
8 除去ヘッド
9 吐出ノズル
10 吸引ノズル
11 溶剤
12 除去部
13 修正印刷手段
14 インク液滴
15 インク液滴溜り
16 膜厚異常部修正箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された有機層の膜中または表面の異物を検出する検出工程と、
前記異物が検出される領域に対し、前記有機層が可溶な溶剤を吐出しつつ吸引することで、前記異物と共に有機層の少なくとも一部取り除く除去工程と、
前記除去工程で付着した溶剤を取り除く乾燥工程と、
前記除去工程で取り除かれた領域に前記有機層の材料を再塗布形成する印刷工程と、
前記再塗布形成された領域の溶剤を乾燥させることで取り除く乾燥工程と、を有すること
を特徴とする有機ELディスプレイの製造方法。
【請求項2】
前記除去工程において、
前記有機層が可溶な溶剤を第1ノズルから吐出させつつ、前記第1ノズルとは異なる別のノズルで吸引し、かつ、隣接する複数の塗布領域を同時に行う、
請求項1記載の有機ELディスプレイの製造方法。
【請求項3】
基板に形成されるバンクは一方向に設けられ、前記除去工程を、前記バンクが延出する方向に走査することで行う、請求項1または2に記載の有機ELディスプレイの製造方法。
【請求項4】
前記除去工程において、前記異物が存在する領域に隣接する領域も同時に処理する、請求項3記載の有機ELディスプレイの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−104302(P2012−104302A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250431(P2010−250431)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】