説明

有機ELパネルおよびその製造方法

【課題】有機EL基板の陰極と外部配線を接続する配線部の電気抵抗を十分低下させることができ、この配線部の形成に際して、製造工程を減らすことができ、安価な材料を用いることができるようにする。
【解決手段】配線部を陰極配線下部層と、この陰極配線下部層上に積層された陰極配線上部層と、この陰極配線上部層上に積層された追加金属膜24との3層構造とする。陰極配線上部層は、アルミニウムなどを用い、陰極22の成膜と同時に成膜する。追加金属膜24は、アルミニウムなどを用い、蒸着により成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、有機EL(電界発光)基板を備えた有機ELパネルとその製造方法に関し、有機EL基板の陰極と外部配線を接続する配線部を容易にかつ安価に形成できるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
図6ないし図11は、従来のカラー有機ELパネルの製造方法の例を示すもので、カラー有機ELパネルの要部である有機EL基板の製造工程を工程順に示すものである。
これらの図において、符号1は、ガラス板などからなる透明基板を示す。
【0003】
まず、図6に示すように、透明基板1上に、赤色層2R、緑色層2Gおよび青色層2Bからなるカラーフィルター2を形成し、このカラーフィルター2上には、透明なオーバーコート層3を形成する。
次いで、透明基板1のオーバーコート層3を含む全域に、ITO、FTOなどの透明導電膜をスパッタなどによって成膜し、パターニングして、図7に示すように、陽極4、4、4と陰極配線下部層5とを形成する。
【0004】
陽極4は、平面形状が帯状のものであって、オーバーコート層3上のカラーフィルター2の各色層に対応する位置から延長して透明基板1上にそれぞれ独立して設けられている。陰極配線下部層5は、後述する陰極とフレキシブル配線板(FPC)などの外部配線とを接続するためのものである。
【0005】
ついで、図8に示すように、透明基板1全域に金属膜6をスパッタなどによって成膜する。この金属膜6は、例えばNiMo/Al/MoNb/NiMoの4層構造となっており、4回の成膜操作を経て形成されている。
つぎに、図9に示すように、この金属膜6をパターニングして陰極配線下部層5に対応する領域を補助配線層7となし、残余の領域を除去する。すなわち、補助配線層7は、封止シール部を跨ぐように形成される。
この封止シール部とは、完成した有機EL基板と封止基板とを紫外線硬化型樹脂などの封止剤を用いて接合する際の封止剤が存在する部位を言う。
【0006】
次に、図10に示すように、全面に酸化ケイ素などからなる絶縁膜8を成膜し、パターニングして、補助配線層7が露出するようにコンタクトホール9を形成し、同時にカラーフィルター2の各色部2R、2G、2Bが露出するように開口部10R、10G、10Bを形成する。
さらに、各画素を仕切るための隔壁11、11を残った絶縁膜8上に形成する。
【0007】
ついで、開口部10R、10G、10Bを介して各陽極4、4、4上に有機発光層を形成する。この有機発光層には、陽極側からホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層を積層してなるものなどが用いられる。
さらに、図11に示すように、この上からアルミニウム、リチウムなどの金属からなる陰極膜12を全体に成膜する。
【0008】
この陰極膜12は、少なくとも有機発光層上とコンタクトホール9を介して補助配線層7上に形成され、有機発光層上に形成された領域が陰極となり、補助配線層7上に形成された領域が陰極配線上部層23となる。
これにより、封止シール部の内側から陰極までの領域には、陰極配線下部層5と補助配線層7と陰極配線上部層23とが積層された3層構造の配線部が形成されることになる。
【0009】
以上の工程によって、有機EL基板が完成し、この有機EL基板を封止基板で封止することにより有機ELパネルが得られる。
【0010】
ところで、このようにして形成された配線部にあっては、上述のように、ITOなどの陰極配線下部層5とNiMo/Al/MoNb/NiMoの4層構造などの補助配線層7とアルミニウムなどの陰極配線上部層23とからなり、全体としての電気抵抗が低下するようになっている。また、補助配線層7にあっては、4層構造を採用することにより、透明導電膜からなる陰極配線下部層5と補助配線層7との密着性を高めるようになっている。
【0011】
しかしながら、このような配線部においては、補助配線層7をなすモリブデン、ニオブ、ニッケルなどの金属材料が高価であること、4回の成膜操作を要すること、パターニングが必要であることなどから、その形成にコストが嵩み、工程が多くなり、パターニングに伴って金属材料が残り、剥離液を用いることから基板が汚染される恐れがあるなどの不都合があった。
【特許文献1】特開2005−108437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
よって、本発明における課題は、上述の配線部の電気抵抗を十分低下させることができ、この配線部の形成に際して、製造工程を減らすことができ、安価な材料を用いることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、有機EL基板を備えた有機ELパネルであって、
この有機EL基板は、透明基板上に透明導電膜からなる陽極と透明導電膜からなる陰極配線下部層とが形成され、陽極上には有機発光層が形成され、この有機発光層上および陰極配線下部層上の封止シール部内側領域に連続した金属膜が形成されており、
この金属膜のうち、有機発光層上の領域が陰極とされ、陰極配線下部層上の領域が陰極配線上部層とされ、
陰極配線上部層の厚さが陰極の厚さよりも厚くなっていることを特徴とする有機ELパネルである。なお、ここで封止シール部内側領域とは、封止シール部の外側縁より内側の領域である。
【0014】
請求項2にかかる発明は、上記陰極配線上部層の大きさが、上記陽極と上記陰極とが交差して形成される画素の大きさの2倍以上であることを特徴とする請求項1記載の有機ELパネルである。
請求項3にかかる発明は、上記陰極配線上部層の上記封止シール部側端縁は、上記封止シール部の幅の中心位置から上記封止シール部の内縁から50μm離間した位置までの間に配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の有機ELパネルである。
【0015】
請求項4にかかる発明は、上記金属膜が、蒸着法により形成される膜であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の有機ELパネルである。
【0016】
請求項5にかかる発明は、有機EL基板を備えた有機ELパネルの製造方法であって、
透明基板上に透明導電膜からなる陽極と透明導電膜からなる陰極配線下部層を形成し、陽極上に有機発光層を形成し、ついでこの有機発光層上および陰極配線下部層上の封止シール部内側領域に連続した金属膜を形成し、
この金属膜のうち、有機発光層上に領域を陰極とし、陰極配線下部層上の領域を陰極配線上部層とし、
陰極配線上部層に追加の金属膜を形成して、有機EL基板とすることを特徴とする有機ELパネルの製造方法である。
【0017】
請求項6にかかる発明は、上記金属膜および追加の金属膜が、蒸着法により形成される膜であり、かつ同一材料からなることを特徴とする請求項5記載の有機ELパネルの製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来の補助配線層を設けた配線部と同等以上の低抵抗化が可能であり、かつ従来の補助配線層が不要となって、工程数が減少する。また、陰極配線上部層を安価なアルミニウムで構成すれば、原料費を下げることができる。さらに、従来のように補助配線層の形成の際にパターニングを行わなくてもよいので、金属材料の残査が発生することがなく、剥離液を使用しないので、基板を汚染する恐れもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1ないし図5は、本発明の有機ELパネルの製造方法の一例を工程順に示すもので、ここではカラー有機ELパネルにおけるカラー有機EL基板の製造方法を例示する。なお、従来の製造方法における構成要素と同じ構成要素には、同一符号を付してある。
【0020】
まず、図1に示すように、透明基板1上に、赤色層2R、緑色層2Gおよび青色層2Bからなるカラーフィルター2を形成し、このカラーフィルター2上に、透明なオーバーコート層3を形成する。
次いで、透明基板1のオーバーコート層3を含む全域に、ITO、FTOなどの透明導電膜をスパッタなどによって成膜し、パターニングして、図2に示すように、陽極4、4、4と陰極配線下部層5とを形成する。
【0021】
図2にあるように、陽極4は平面形状が帯状のものであって、オーバーコート層3上のカラーフィルター2の各色層に対応する位置から外方に延長して透明基板1上にそれぞれ独立して設けられている。陰極配線下部層5は、後述する陰極とフレキシブル配線板(FPC)などの外部配線とを接続するためのものである。
【0022】
次に、図3に示すように、全面にポリイミド樹脂などからなる絶縁膜8を成膜し、パターニングして、カラーフィルター2の各色部2R、2G、2B上の陽極4、4、4が露出するように開口部10R、10G、10Bを形成すると同時に陰極配線下部層5が露出する開口部15を形成する。
さらに、各画素を仕切るための隔壁11、11を残った絶縁膜8上に形成する。
【0023】
ついで、図4に示すように、開口部10R、10G、10Bを介して各陽極4、4、4上に有機発光層を形成する。この有機発光層には、陽極側からホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層を積層した積層物などが用いられるが、これに限定されることはなく、白色光を発光するものであれば、いかなるものでもよい。。
さらに、この上から蒸着法により形成されるアルミニウム、マグネシウム、亜鉛、銀などの金属からなる金属膜21を成膜する。なお、金属膜21はスパッタ法により形成されてもよいが、有機発光層へのダメージが少ない蒸着法が好ましい。
【0024】
この金属膜21は、少なくとも有機発光層上と陰極配線下部層5上の封止シール部の内側の領域とを覆うように連続して形成されおり、有機発光層上に形成された領域が陰極22となり、陰極配線下部層5上に形成された領域が陰極配線上部層23となる。
【0025】
さらに、図5に示すように、陰極配線上部層23上に、蒸着法により形成されるアルミニウム、マグネシウム、亜鉛、銀などの好ましくは金属膜21をなす金属と同一の金属からなる追加金属膜24を蒸着によって追加して成膜する。
これにより、封止シール部の内側から陰極までの領域には、陰極配線下部層5と陰極配線上部層23と追加金属膜24とが積層された3層構造の配線部が形成されることになる。
【0026】
上記陰極配線上部層23の形成位置を詳説すると、陰極配線上部層23の封止シール部側端縁は、封止シール部の幅方向の中央位置に配置してもよいし、封止シール部の内縁から50μm以内で有機発光層側に離れていてもよい。陰極配線上部層は、封止シール部の外側に位置すると金属膜からなる陰極配線上部層が酸化、腐食が生じ、配線部での抵抗値の上昇が発生する恐れがあり、封止シール部の形成位置精度を鑑みて陰極配線上部層の端縁位置を決定している。このことにより、前記陰極配線上部層の端縁位置が封止シール部の外側に配設されることがなくなる。
【0027】
また、陰極配線上部層の大きさは、陰極と陽極とが交差して形成される画素の大きさの2倍以上、好ましくは4倍以上とする。このような大きさとすることで、配線部の抵抗値を下げることができる。なお、ここでの大きさとは、面積であり、陰極配線上部層の幅と長さとで規定される。幅としては画素の幅の2/3以上であることが好ましく、長さとしては画素の長さの3/2以上であることが好ましい。
【0028】
この追加金属膜24の成膜により、配線部全体の厚さは陰極の厚さよりも厚くなり、例えば1.5〜3倍の厚さとされる。具体的には、アルミニウムからなる陰極の厚さを例えば150nmとすると、追加金属膜24の厚さを例えば200nmとして、配線部の厚さを、350nmとする。
【0029】
配線部の抵抗値を下げるために、有機発光層上に形成される陰極の金属膜を陰極配線上部層と一緒に厚くすることも考えられるが、陰極を厚く形成しすぎると陽極と陰極との層間短絡が発生しやすくなると言う実験結果が得られた。この不具合の原因は不明であるが、金属膜の膜厚上昇に伴い、有機発光層にダメージが与えられ、陽極と短絡しやすくなったものと推定している。したがって、本発明によって、部分的な成膜によって層間短絡という不具合も効果的に抑えることができる。
【0030】
以上の工程によって、有機EL基板が完成し、この有機EL基板を封止基板で封止することにより有機ELパネルが得られる。
【0031】
このような有機ELパネルの製造方法にあっては、陰極と外部配線を接続する配線部が、陰極配線下部層5と陰極配線上部層23と追加金属膜24とが積層された3層構造となって、厚さが厚くなっているため、電気抵抗が十分に低いものとなるとともに配線部での抵抗値のばらつきが小さいものとなる。
【0032】
また、従来の補助配線層では、高価な金属材料を用い、4回の成膜操作とパターニングを行って形成していたのに対して、追加金属膜24は、アルミニウムなどの安価な金属材料を用い、1回のメタルマスクを用いた蒸着操作で形成できるので、製造コストが安価になり、パターニングが不要となって、金属材料の残りがなく、剥離液で基板が汚染される恐れもなくなる。
【0033】
なお、上述の例では、カラー有機EL基板について説明したが、モノカラー有機EL基板では、カラーフィルター2およびオーバーコート層3の形成は不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の有機ELパネルの製造方法の一例を工程順に示した概略斜視図である。
【図2】本発明の有機ELパネルの製造方法の一例を工程順に示した概略斜視図である。
【図3】本発明の有機ELパネルの製造方法の一例を工程順に示した概略斜視図である。
【図4】本発明の有機ELパネルの製造方法の一例を工程順に示した概略斜視図である。
【図5】本発明の有機ELパネルの製造方法の一例を工程順に示した概略斜視図である。
【図6】従来の有機ELパネルの製造方法の例を工程順に示した概略斜視図である。
【図7】従来の有機ELパネルの製造方法の例を工程順に示した概略斜視図である。
【図8】従来の有機ELパネルの製造方法の例を工程順に示した概略斜視図である。
【図9】従来の有機ELパネルの製造方法の例を工程順に示した概略斜視図である。
【図10】従来の有機ELパネルの製造方法の例を工程順に示した概略斜視図である。
【図11】従来の有機ELパネルの製造方法の例を工程順に示した概略斜視図である。
【符号の説明】
【0035】
1・・透明基板、4・・陽極、5・・陰極配線下部層、21・・金属膜、22・・陰極、23・・陰極配線上部層、24・・追加金属膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機EL基板を備えた有機ELパネルであって、
この有機EL基板は、透明基板上に透明導電膜からなる陽極と透明導電膜からなる陰極配線下部層とが形成され、陽極上には有機発光層が形成され、この有機発光層上および陰極配線下部層上の封止シール部内側領域に連続した金属膜が形成されており、
この金属膜のうち、有機発光層上の領域が陰極とされ、陰極配線下部層上の領域が陰極配線上部層とされ、
陰極配線上部層の厚さが陰極の厚さよりも厚くなっていることを特徴とする有機ELパネル。
【請求項2】
上記陰極配線上部層の大きさが、上記陽極と上記陰極とが交差して形成される画素の大きさの2倍以上であることを特徴とする請求項1記載の有機ELパネル。
【請求項3】
上記陰極配線上部層の上記封止シール部側端縁は、上記封止シール部の幅の中心位置から上記封止シール部の内縁から50μm離間した位置までの間に配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の有機ELパネル。
【請求項4】
上記金属膜が、蒸着法により形成される膜であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の有機ELパネル。
【請求項5】
有機EL基板を備えた有機ELパネルの製造方法であって、
透明基板上に透明導電膜からなる陽極と透明導電膜からなる陰極配線下部層を形成し、陽極上に有機発光層を形成し、ついでこの有機発光層上および陰極配線下部層上の封止シール部内側領域に連続した金属膜を形成し、
この金属膜のうち、有機発光層上に領域を陰極とし、陰極配線下部層上の領域を陰極配線上部層とし、
陰極配線上部層に追加の金属膜を形成して、有機EL基板とすることを特徴とする有機ELパネルの製造方法。
【請求項6】
上記金属膜および追加の金属膜が、蒸着法により形成される膜であり、かつ同一材料からなることを特徴とする請求項5記載の有機ELパネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−35549(P2007−35549A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−220484(P2005−220484)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000103747)オプトレックス株式会社 (843)
【Fターム(参考)】