説明

有機EL素子およびそれを用いた薄型有機ELパネル

【課題】 凹部を設けたガラスを封止用基板として使用する有機ELパネルに比べて同等以上の封止性能を有し、かつ、安価で高強度、高熱伝導の薄型有機ELパネルの提供。
【解決手段】 基板、透明電極、シャドウマスク、陰極分離壁、有機EL層、反射電極、無機保護層、および吸湿層を有し、無機保護層が有機EL層の側面並びに反射電極の側面および上面を少なくとも覆うように形成され、吸湿層が少なくとも無機保護層上に形成される有機EL素子。また、該素子と封止用基板との間に接着剤が充填されて封止された有機ELパネル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子およびそれを用いた薄型の有機ELパネルに関する。より詳細には、本発明は、凹部を設けた封止用基板と吸湿剤とを備えた従来の有機ELパネルに比べて、より薄型で低コストの有機ELパネルを提供すること、および、該パネルの構成要素として適用可能な有機EL素子を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置に適用されるような発光素子の一例としては、有機化合物の薄膜積層構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と称する)が知られている。有機EL素子については、1987年、イーストマンコダック社のC.W.Tangらによって、高効率の発光を実現する2層積層構造の有機EL素子が発表されて以来、現在に至るまでに様々な有機EL素子が開発され、その一部は既に実用化され始めている。
【0003】
しかしながら、当該有機EL素子は、素子を構成する有機EL層や反射電極などが、大気中に存在する酸素や水分などの影響を受けて劣化するために、貯蔵寿命や動作寿命が極めて短くなるといった問題をかかえている。したがって、このような問題を解決するために、有機EL素子をガラスや金属缶で封止して、大気中からの水分および酸素の侵入を防ぐ工夫がなされている。中でもガラスを利用することが多いが、これは、ガラスが水分を透過させないこと、および、有機EL素子の透明基板として用いられるガラス基板と線膨張係数が一致するため、貼り合せ後の反りや応力の発生を押さえることが可能であること、といった利点を有するためである。
【0004】
より具体的には、図1および図2に示すようなボトムエミッション型の有機ELパネルの場合、最初に、該パネルに適用される有機EL素子を、例えば、透明なガラス基板11上に、色変換フィルタ層21、透明電極22、シャドウマスク23、有機EL層25、反射電極26などの各層を含む有機EL素子の積層膜12を積層することによって形成する。ここで、シャドウマスク23は、有機EL素子の複数の発光部位に相当する位置の開口部を除いた透明基板11および透明電極22の全面に形成されている。また、有機EL層25は、有機材料から形成されているため、反射電極26の成膜後にストライプ形状をエッチング処理で形成する場合、該有機EL層25を劣化させる可能性がある。したがって、このような劣化を生じさせずに、ストライプ状の有機EL層25および反射電極26を形成する必要がある。そのような方法の1つとして、陰極分離壁24を用いる方法がある。この方法は、図2に示すような断面形状の陰極分離壁24を、透明電極22と直交する方向にレジスト材料を用いてフォトリソグラフ法によって形成し、次いで、真空蒸着装置内で有機EL層25成分および反射電極26成分を順次蒸着して、ストライプ状の有機EL層25および反射電極26を形成するという方法である。
【0005】
上記のような構成の有機EL素子の場合、図2に示すような、反射電極26に覆われない有機EL層25の僅かな剥き出し部(端部27)が存在する。有機EL層25は、酸素や水分に極めて弱いため、このような状況のまま有機EL素子を大気中に暴露すると、前記端部27を通じて水分などが侵入して有機EL層25を短時間で劣化させ、最終的には発光を生じなくさせる。この他にも、反射電極26が、侵入した酸素によって酸化され、導電性や反射率が低下するという劣化も生じる。したがって、このような劣化を防止するために、一般的には、有機EL素子形成後に、酸素や水分を極限まで抑えたチャンバー内で、有機EL素子と封止用基板14とを、図1(b)のように紫外線硬化型の接着剤13などで接合して封止する。しかしながら、接合に利用される接着剤13は、高分子でできていて密度が粗いために水分などが比較的容易に出入りしてしまう。したがって、接着剤13の隙間から侵入する水分を捕獲するために、有機EL素子および封止基板14の間に吸湿剤15を内蔵させる。さらにこの際、封止用基板14には、該基板と有機EL素子の積層膜12との接触を避けるため、かつ、吸湿剤15の入る隙間を確保するために、有機EL素子の積層膜12と対向する位置に凹部19を設けた基板が用いられることがある。これにより、吸湿剤15を有機EL素子に接触させることなく、封止用基板14の接合部を数μmレベルまで有機EL素子の透明基板11に近づけること(すなわち、接着剤13の厚さを減少させること)が可能となるため、封止用基板14に平板ガラスを用いた有機ELパネルよりも封止性能をさらに高めることができる(特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−235077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
凹部19を設けた封止用基板14を適用する図1のような有機ELパネルによれば封止性能は大幅に高められるものの、サンドブラストやエッチングによって、封止用基板14に数百μmの深さの凹部19を形成する必要があり、平板ガラスを適用する場合に比べて非常に高コストとなる。また、凹部19を設けた封止用基板14では、凹部19の肉厚が薄くなることと、加工時に入ったマイクロクラックとの影響で機械的強度が低下する。この機械的強度の低下を避けるため、封止用基板14に比較的厚いガラス(厚さ:0.7mm〜2mm)が一般的に使用されるが、これにより有機ELパネル全体の厚さを薄くできないのが現状である。
【0008】
さらに、有機ELパネルを高輝度発光させた場合、自己発熱によって有機ELパネルの温度が上昇して動作寿命が顕著に低下してくるため、発生した熱を効率よく外部に放熱させる必要がある。しかしながら、図1(b)に示すような封止構造の有機ELパネルでは、有機ELパネルの内部(凹部19)が中空であり、そこを通じての熱伝導がほとんど期待できないために、自己発熱による動作寿命の低下を解決することができない。
【0009】
したがって、本発明の目的は、封止用基板14に凹部19を設けたガラスなどを使用する従来の有機ELパネルに比べて同等以上の封止性能を確保しつつ、安価で高強度かつ高熱伝導の実用的で薄型の有機ELパネルを提供すること、およびその有機ELパネルの構成要素として適用可能な有機EL素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述の課題を解決するために、以下の通りの発明を提供する。
【0011】
本発明の有機EL素子は、透明基板と、前記透明基板上にストライプ状に形成された透明電極と、前記透明電極上に複数の開口部を有するように形成されたシャドウマスクと、前記透明電極に対して直交する方向および前記シャドウマスクの開口部間に形成された陰極分離壁と、前記シャドウマスクの開口部内および前記陰極分離壁上に形成された少なくとも有機発光層を含む有機EL層と、前記有機EL層上に形成された反射電極とを有する有機EL素子であって、前記有機EL層の側面並びに反射電極の側面および上面を少なくとも覆うように形成された無機保護層と、少なくとも前記無機保護層上に形成された吸湿層とをさらに有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の有機ELパネルは、上記有機EL素子と、封止用基板と、前記有機EL素子および封止用基板を接合するための接着剤とを有する有機ELパネルであって、
前記有機EL素子と封止用基板との間に前記接着剤を隙間無く充填して、前記有機EL素子および封止用基板が貼り合わされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
封止用基板として凹部を設けたガラスを用いる代わりに平板ガラスを用いた場合、接合部(接着剤層)の厚みは相対的に厚くなるため、一般的に封止性能は減少する。しかしながら、本発明によれば、有機EL層および反射電極の周囲を、無機保護層および吸湿層で直接的に被覆しているため封止性能が大幅に向上し、平板ガラスの使用による封止性能の減少分をカバーすることができる。したがって、本発明によれば、封止性能を減少させることなく封止用基板に平板ガラスを使用できるため、封止用基板に凹部を設けたガラスなどを使用する従来の有機ELパネルに比べて安価な有機ELパネルを提供することができる。また、平板ガラスの使用により封止用基板の厚みをより薄くでき、従来の有機ELパネルよりも薄型の有機ELパネルを提供することができる。
【0014】
また、本発明の有機ELパネルは、該パネルを構成する有機EL素子と封止用基板との間を接着剤で隙間なく充填して固着させる構造のため、パネル内に隙間を有する従来の有機ELパネルに比べて、高強度で放熱性能の良好な有機ELパネルを提供することもできる。この際、充填した接着剤から生じる水分やガス成分による有機EL素子の劣化が考えられるが、本発明では、有機EL層および反射電極が無機保護層と吸湿層とで直接的に被覆されているので、このような影響を受けることがない。
【0015】
この他、上記に示したような封止性能および放熱性能の向上により、本発明の有機ELパネルは、貯蔵寿命および動作寿命の長寿命化を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、上記のような特徴を有するが、図3に本発明の有機ELパネルの1つの実施形態を示す。本発明の有機ELパネルは、有機EL素子と封止用基板34との間に接着剤33が充填された構造になっている。この内、有機EL素子は、透明基板11と、前記透明基板11上にストライプ状に形成された透明電極22と、前記透明電極22上に複数の開口部を有するように形成されたシャドウマスク23と、前記透明電極22に対して直交方向および前記シャドウマスク23の開口部間に形成された陰極分離壁24と、前記シャドウマスク23の開口部内および前記陰極分離壁24上に形成された少なくとも有機発光層を含む有機EL層25と、前記有機EL層25上に形成された反射電極26と、前記有機EL層25の側面並びに前記反射電極26の側面および上面を少なくとも覆うように形成された無機保護層31と、少なくとも前記無機保護層31上に形成された吸湿層32とを有する構造をしている。図3の有機ELパネルはさらに、透明基板11と透明電極22との間に色変換フィルタ層21を有している。
【0017】
透明基板11は、積層される層の形成に用いられる条件(溶媒、温度等)に耐えるものであるべきであり、かつ、寸法安定性に優れていることが好ましい。好ましい材料は、ガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレートなどの樹脂を含む。あるいはまた、ポリオレフィン、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂またはポリイミド樹脂などから形成される可撓性フィルムを基板として用いてもよい。
【0018】
必要に応じて、透明基板11上に、色変換フィルタ層21を形成することができる。本明細書において、色変換フィルタ層21とは、カラーフィルタ層、色変換層、およびカラーフィルタ層と色変換層との積層体の総称を指す。フルカラー表示を可能にするためには、少なくとも青色(B)領域、緑色(G)領域および赤色(R)領域の光を放出する独立した色変換フィルタ層21が設けられる。なお、有機EL層25自体で、前記R、G、B領域を含む光を放出できる場合には、色変換フィルタ層21としてカラーフィルタ層のみの構成を用いることができる。
【0019】
カラーフィルタ層は、所望される波長域の光のみを透過させる層である。また、色変換層との積層構成を採る場合、色変換層にて波長分布変換された光の色純度を向上させることにカラーフィルタ層は有効である。例えば、市販の液晶用カラーフィルタ材料(富士フィルムアーチ製カラーモザイクなど)を用いてカラーフィルタ層を形成してもよい。
【0020】
色変換層とは、有機EL層25にて発光される近紫外領域ないし可視領域の光、特に青色ないし青緑色領域の光を吸収して異なる波長の可視光を発光するものである。RGBそれぞれの色変換層は、少なくとも有機蛍光色素とマトリクス樹脂とを含む。
【0021】
1)有機蛍光色素
本発明において、好ましくは、少なくとも赤色領域の蛍光を発する蛍光色素の1種類以上を用い、さらに緑色領域の蛍光を発する蛍光色素の1種類以上と組み合わせてもよい。これは、光源として青色ないし青緑色領域の光を発光する有機EL層25を用いる場合、有機EL層25からの光を単なる赤色フィルタに通して赤色領域の光を得ようとすると、元々赤色領域の波長の光が少ないために極めて暗い出力光になってしまうからである。
【0022】
したがって、有機EL層25からの青色ないし青緑色領域の光を、蛍光色素によって赤色領域の光に変換することにより、十分な強度を有する赤色領域の光の出力が可能となる。発光体から発せられる青色から青緑色領域の光を吸収して、赤色領域の蛍光を発する蛍光色素としては、例えばローダミンB、ローダミン6G、ローダミン3B、ローダミン101、ローダミン110、スルホローダミン、ベーシックバイオレット11、ベーシックレッド2などのローダミン系色素、シアニン系色素、1−エチル−2−[4−(p−ジメチルアミノフェニル)−1,3−ブタジエニル]−ピリジニウムパークロレート(ピリジン1)などのピリジン系色素、あるいはオキサジン系色素などが挙げられる。さらに、各種染料(直接染料、酸性染料、塩基性染料、分散染料など)も蛍光性があれば使用することができる。
【0023】
発光体から発せられる青色ないし青緑色領域の光を吸収して、緑色領域の蛍光を発する蛍光色素としては、例えば3−(2’−ベンゾチアゾリル)−7−ジエチルアミノ−クマリン(クマリン6)、3−(2’−ベンゾイミダゾリル)−7−ジエチルアミノ−クマリン(クマリン7)、3−(2’−N−メチルベンゾイミダゾリル)−7−ジエチルアミノ−クマリン(クマリン30)、2,3,5,6−1H,4H−テトラヒドロ−8−トリフルオロメチルキノリジン(9,9a,1−gh)クマリン(クマリン153)などのクマリン系色素、あるいはクマリン色素系染料であるベーシックイエロー51、さらにはソルベントイエロー11、ソルベントイエロー116などのナフタルイミド系色素などが挙げられる。さらに、各種染料(直接染料、酸性染料、塩基性染料、分散染料など)も蛍光性があれば使用することができる。
【0024】
さらに、青色領域の光に関しては、有機EL層25が発する近紫外光または青緑色光の波長分布変換を行って青色光を出力する青色変換層を含んでもよい。ただし、有機EL層25が青色から青緑色の光を発する場合、青色カラーフィルタ層のみを用いることが好ましい。
【0025】
有機EL層25が白色発光する場合には、カラーフィルタ層のみにて所望の色を得ることができるが、各色変換層を用いることによりカラーフィルタ層のみの場合よりも高い効率で3原色の発光を得ることが可能となる。
【0026】
なお、本発明に用いる有機蛍光色素を、ポリメタクリル酸エステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、アルキッド樹脂、芳香族スルホンアミド樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂およびこれらの樹脂混合物などに予め練り込んで顔料化して、有機蛍光顔料としてもよい。また、これらの有機蛍光色素や有機蛍光顔料(本明細書中で、前記2つを合わせて有機蛍光色素と総称する)は単独で用いてもよく、蛍光の色相を調整するために2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
本発明の色変換層は、該色変換層の重量を基準として0.01〜5質量%、より好ましくは0.1〜2質量%の有機蛍光色素を含有する。前記含有量範囲の有機蛍光色素を用いることにより、濃度消光などの効果による色変換効率の低下を伴うことなしに、充分な波長変換を行うことが可能となる。
【0028】
2)マトリクス樹脂
次に、本発明の色変換層に用いられるマトリクス樹脂は、光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂(レジスト)を光および/または熱処理して、ラジカル種またはイオン種を発生させて重合または架橋させ、不溶不融化させたものである。また、色変換層のパターニングを行うために、該光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂は、未露光の状態において有機溶媒またはアルカリ溶液に可溶性であることが望ましい。
【0029】
具体的には、マトリクス樹脂は、(1)アクリロイル基やメタクリロイル基を複数有するアクリル系多官能モノマーおよびオリゴマーと、光または熱重合開始剤とからなる組成物膜を光または熱処理して、光ラジカルまたは熱ラジカルを発生させて重合させたもの、(2)ボリビニル桂皮酸エステルと増感剤とからなる組成物を光または熱処理により二量化させて架橋したもの、(3)鎖状または環状オレフィンとビスアジドとからなる組成物膜を光または熱処理してナイトレンを発生させ、オレフィンと架橋させたもの、および(4)エポキシ基を有するモノマーと酸発生剤とからなる組成物膜を光または熱処理により、酸(カチオン)を発生させて重合させたものなどを含む。特に、(1)のアクリル系多官能モノマーおよびオリゴマーと光または熱重合開始剤とからなる組成物を重合させたものが好ましい。なぜなら、該組成物は高精細なパターニングが可能であり、および重合した後は耐溶剤性、耐熱性等の信頼性が高いからである。
【0030】
本発明で用いることができる光重合開始剤、増感剤および酸発生剤は、含まれる蛍光変換色素が吸収しない波長の光によって重合を開始させるものであることが好ましい。本発明の色変換層において、光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂中の樹脂自身が光または熱により重合することが可能である場合には、光重合開始剤および熱重合開始剤を添加しないことも可能である。
【0031】
マトリクス樹脂(色変換層)は、光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂、有機蛍光色素および添加剤を含有する溶液または分散液を、支持基板上に塗布して樹脂の層を形成し、そして所望される部分の光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂を露光することにより重合させて形成される。所望される部分に露光を行って光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂を不溶化させた後に、パターニングを行う。該パターニングは、未露光部分の樹脂を溶解または分散させる有機溶媒またはアルカリ溶液を用いて、未露光部分の樹脂を除去するなどの慣用の方法によって実施することができる。
【0032】
3)構成
赤色に関しては、赤色変換層のみから形成されてもよい。しかし、蛍光色素による変換のみでは十分な色純度が得られない場合は、赤色変換層とカラーフィルタ層との積層体としてもよい。カラーフィルタ層を併用する場合、カラーフィルタ層の厚さは1〜2μmであることが好ましい。
【0033】
また、緑色に関しては、緑色変換層のみから形成されてもよい。しかし、蛍光色素による変換のみでは十分な色純度が得られない場合は、緑色変換層とカラーフィルタ層との積層体としてもよい。カラーフィルタ層を併用する場合、カラーフィルタ層の厚さは1〜2μmであることが好ましい。
【0034】
一方、青色に関しては、カラーフィルタ層のみとすることができる。カラーフィルタ層のみを用いる場合、その厚さは1〜17μmであることが好ましい。
【0035】
色変換層は、スピンコート法、ロールコート法、キャスト法、ディップコート法などを用いて基板に塗布し、続いてフォトリソグラフ法などを用いてパターニングすることによって形成することができる。色変換層の厚さは5〜15μmであることが好ましい。
【0036】
色変換フィルタ層21を形成する場合、ブラックマトリックスを、各色に対応する色変換フィルタ層21の間の領域に、スピンコート法、ロールコート法、キャスト法、ディップコート法などを用いて基板に塗布し、続いてフォトリソグラフ法などを用いてパターニングすることによって形成することが好ましい。ブラックマトリックスの材料としては、市販の液晶用などのフラットパネルディスプレイ用ブラックマトリックス材料などを用いることができる。ブラックマトリックスを設けることによって、隣接するサブピクセルの色変換フィルタ層21への光の漏れを防止して、にじみのない所望される蛍光変換色のみを得ることが可能となる。後述する有機ELパネルの封止を妨げないことを条件として、透明基板11上の色変換フィルタ層21が設けられている領域の周囲にブラックマスクを設けてもよい。
【0037】
任意選択的に、色変換フィルタ層21を覆うように平滑層を、キャスト法、スピンコート法またはロールディップコート法で形成することができる。この平滑層は、色変換フィルタ層21上に平滑な塗膜を形成することができ、色変換層の機能を低下させないポリマー材料で構成されることが好ましい。より好ましくは、該材料は、可視域における透明性が高く(400〜800nmの範囲で透過率50%以上)、電気絶縁性を有し、水分、酸素および低分子成分に対するバリア性を有するポリマー材料である。
【0038】
上記のようなブラックマトリックス、色変換フィルタ層21、平滑層などを形成した場合、これらから生じる水分やガス成分などによって有機EL層25などが劣化する可能性がある。したがって、任意選択的ではあるが、これらの最上部に50nm〜1000nmの厚さのSiO、SiNなどからなるガスバリア層を、スパッタ法やCVD法によって形成することが望ましい。
【0039】
透明基板11上、または存在する場合に前述の色変換フィルタ層21などの上に、透明電極22(陽極)をスパッタ法によって積層する。透明電極22は、SnO、In、ITO、IZO、ZnO:Alなどの導電性金属酸化物を用いて形成される。透明電極22は、波長400〜800nmの光に対して好ましくは50%以上、より好ましくは85%以上の透過率を有することが好ましい。
【0040】
透明電極22は、第一の方向に延びるストライプ状の複数の部分電極から形成される。そのような透明電極22は、所望の形状を与えるマスクを用いて形成してもよいし、最初に基板上に均一な層を形成してフォトリソグラフィーなどを用いて形成してもよいし、あるいはリフトオフ法を用いて形成してもよい。
【0041】
次いで、シャドウマスク23を、有機EL素子の複数の発光部位に相当する位置の開口部を除いた透明基板11および透明電極22の全面に形成する。シャドウマスク23は、有機または無機の絶縁性材料を用いて形成することができる。例えば、有機材料としては、ノボラック系樹脂膜(例えば、「JEM−700R2」、商品名、JSR製)のような感光性レジスト材料などを用いることができ、無機材料としては、SiO、SiN、SiN、AlO、TiO、TaOなどの無機酸化物または無機窒化物などを用いることができる。ここで、シャドウマスク23に無機材料を使用した場合、シャドウマスク23は、その下に設けられる色変換フィルタ層21などからの水分および酸素が有機EL層25に侵入するのを防止するガスバリア層としての機能も有することができる。一方、感光性レジスト材料のような有機材料を使用した場合には、シャドウマスク23の加工は通常のフォトプロセスだけで精度良く実現でき、工程を簡略化できる。
【0042】
なお、シャドウマスク23は、任意の色を有することができるが、透明(この場合、70〜100%の可視光透過率を有することが望ましい)であってもよい。あるいはまた、シャドウマスク23を黒色にして、ブラックマトリックスと同様の性能を発揮させることができる。また、シャドウマスク23は、絶縁性を確保するために、0.1〜5μm、好ましくは1〜2μmの膜厚を有することが望ましい。
【0043】
次いで、陰極分離壁24を、有機レジスト材料を使用して、シャドウマスク23の開口部間、および透明電極22と直交する方向(すなわち、第一の方向に対して直交方向)に連続的に延びるように、露光量や露光時間などを調整して所望の断面形状を有するようにフォトリソグラフ法で形成した。陰極分離壁24の断面形状としては、反射電極26の形成において、該電極を正確に分離でき、陽極と短絡させない形状であればどのような形状をとってもよいが、中でも、底面幅が5μm以上、上面幅が底面幅+3〜+10μm、高さが2〜5μmの逆テーパの形状が好ましい。このような逆テーパ形状であれば、以下で詳述する無機保護層31および吸湿層33を都合よく形成することができる。
【0044】
次に、透明電極22および陰極分離壁24の上に有機EL層25が形成される。有機EL層25は、有機発光層を少なくとも含み、必要に応じて正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層を含む。これらの各層は、それぞれにおいて所望される特性を実現するのに充分な膜厚を有して形成される。例えば、下記のような層構成からなるものが採用される。
(1)有機発光層
(2)正孔注入層/有機発光層
(3)有機発光層/電子注入層
(4)正孔注入層/有機発光層/電子注入層
(5)正孔輸送層/有機発光層/電子注入層
(6)正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子注入層
(7)正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子輸送層/電子注入層
(上記の構成において、陽極として機能する電極が左側に接続され、陰極として機能する電極が右側に接続される)
【0045】
正孔注入層と正孔輸送層の両機能を有する正孔注入輸送層を用いてもよく、また、電子注入層と電子輸送層の両機能を有する電子注入輸送層を用いてもよい。
【0046】
有機発光層の材料としては、任意の公知の材料を用いることができる。例えば、青色から青緑色の発光を得るためには、例えば、ベンゾチアゾール系、ベンゾイミダゾール系、ベンゾオキサゾール系などの蛍光増白剤、金属キレート化オキソニウム化合物、スチリルベンゼン系化合物、芳香族ジメチリディン系化合物などの材料が好ましく使用される。あるいはまた、ホスト化合物にドーパントを添加することによって、種々の波長域の光を発する有機発光層を形成してもよい。ホスト化合物としては、ジスチリルアリーレン系化合物(例えば、出光興産製IDE−120など)、N,N’−ジトリル−N,N’−ジフェニルビフェニルアミン(TPD)、アルミニウムトリス(8−キノリノラート)(Alq)などを用いることができる。ドーパントとしては、ペリレン(青紫色)、クマリン6(青色)、キナクリドン系化合物(青緑色〜緑色)、ルブレン(黄色)、4−ジシアノメチレン−2−(p−ジメチルアミノスチリル)−6−メチル−4H−ピラン(DCM、赤色)、白金オクタエチルポルフィリン錯体(PtOEP、赤色)などを用いることができる。
【0047】
正孔注入層の材料としては、Pc類(CuPcなどを含む)またはインダンスレン系化合物などを用いることができる。
【0048】
正孔輸送層は、トリフェニルアミン誘導体(TPD)、N,N’−ビス(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニルビフェニルアミン(α−NPD)、4,4’,4”−トリス−(N−3−トリル−N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)、N,N,N’−テトラビフェニル−4,4’−ビフェニレンジアミン(TBPB)などのようなトリアリールアミン系材料を用いることができる。
【0049】
電子輸送層としては、2−(4−ビフェニル)−5−(p−tブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)のようなオキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、フェニルキノキサリン類、およびアルミニウムのキノリノール錯体(例えばAlq)などを用いることができる。
【0050】
電子注入層の材料としては、アルミニウム錯体、またはアルカリ金属ないしアルカリ土類金属をドープしたアルミニウムのキノリノール錯体(例えば、Alq)を用いてもよい。
【0051】
さらに電子注入性を向上させるために、有機EL層25と反射電極26との界面にバッファ層を設けてもよい。バッファ層の材料としては、Li、Na、K、またはCsなどのアルカリ金属、Ba、Srなどのアルカリ土類金属またはそれらを含む合金、希土類金属、あるいはそれら金属のフッ化物などを用いることができるが、それらに限定されるものではない。バッファ層の膜厚は、駆動電圧および透明性等を考慮して適宜選択することができるが、通常の場合には10nm以下であることが好ましい。
【0052】
有機EL層25を構成するそれぞれの層は、蒸着法(抵抗加熱または電子ビーム加熱)などの当該技術分野において知られている任意の手段を用いて形成することができる。
【0053】
反射電極26(陰極)は、蒸着(抵抗加熱または電子ビーム加熱)、イオンプレーティング、レーザーアブレーションなどの当該技術分野において知られている任意の手段を用いて、有機EL層25上に積層される。反射電極26は、90%以上の反射率を有するAl、Agのような金属またはそれらの合金を用いて形成されることが好ましい。中でも、低コストで高反射率のAlが特に好ましい。
【0054】
なお、本実施形態においては、透明電極22と直交する方向に図3に示すような逆テーパ状の陰極分離壁24が形成されている。したがって、Alなどからなる反射電極26を蒸着法などで形成すると、反射電極26の成分は、陰極分離壁の根元付近までは回り込まずに直線的に垂直方向に堆積していく。その結果、反射電極26は分断され、透明電極に対して直交方向に延びるストライプ状の反射電極26が形成される。
【0055】
無機保護層31とは、有機EL素子を劣化させる水分や酸素などが該素子へ侵入することを防止する層であり、SiOやSiNなどの材料からなり、スパッタまたはCVDなどを用いて適用される。シャドウマスク23が無機材料の場合、シャドウマスク23自体に無機保護層31と同等の機能(ガスバリア層)が備わっているため、無機保護層31は、図3に示すように少なくとも露出している有機EL層25の側面部並びに反射電極26の側面部および上面部に形成すればよいが、好ましくは、図4に示すように有機EL素子の表面全てを被覆するように形成した方がよい。また、シャドウマスク23が有機材料の場合には、水分や酸素が該シャドウマスク23を通じて、有機EL層25に侵入する可能性があるため、図4に示すように有機EL素子の表面全てを被覆するように形成することが好ましい。無機保護層31の形成方法としては、陰極分離壁24の影になる部分への無機保護層31成分の回り込みが大きい、上記のようなスパッタやCVDを用いることが望ましいが、基板を自公転させるような手段をとれば、電子ビーム蒸着やイオンプレーティング法を用いることもできる。無機保護層31の厚さは、保護性能と膜応力との兼ね合いで選定されるが、50nm〜1000nm、好ましくは、100nm〜600nmが望ましい。
【0056】
無機保護層31の上には吸湿層32が設けられる。無機保護層31として欠陥が全くない層を形成して一切の水分を透過させないようにすることができれば吸湿層32は必ずしも必要ではないが、そのような完全無欠な無機保護層31を形成するのは非常に困難であり、ピンホール、粒界の隙間、その他の欠陥などが生じやすい。そこで無機保護層21にこのような欠陥が生じていてもそこから水分を透過させないように無機保護層31の上に吸湿層32を設ける。
【0057】
吸湿層32は、接合部を通じて侵入してきた水分や、接着剤に含有している水分を捕獲する層であり、NaOやKOのようなアルカリ金属酸化物、CaOやSrO、BaO、MgOのようなアルカリ土類金属酸化物、NaSOやCaSO、MgSOのような硫酸塩、CaCl、MgClのような金属ハロゲン化物などの材料からなる。吸湿層32は、無機保護層31で使用される方法と同様な方法を用いて適用され、図3または図4に示すように、少なくとも無機保護層31の形成前に露出していた有機EL層25の側面部並びに反射電極26の側面部および上面部に該吸湿層33を形成すればよいが、好ましくは、図5に示すように有機EL素子の表面全てを被覆するように形成した方がよい。
【0058】
さらに、本実施形態の有機EL素子を、乾燥窒素雰囲気内(例えば、酸素5ppm以下、水分5ppm以下)に移動させ、図7のような真空滴下貼り合せ法によって封止することができる。この真空滴下貼り合せ法とは、封止用基板34上に紫外線硬化型のエポキシ系またはアクリル系低粘度接着剤33(0.3〜3Pa・sの粘度を有する)を滴下した後、0.1〜10Paの真空下において、封止用基板34および有機EL素子を重ね合せ、引き続き大気圧に開放することによって有機EL素子と封止用基板34とを貼り合せる方法である。この方法によれば、有機EL素子および封止用基板34の間を隙間なく接着剤で充填することが可能である。この際、封止用基板34上の接着部の周囲部分に対応する位置に、紫外線硬化型のエポキシ系またはアクリル系高粘度接着剤61(100〜400Pa・sの粘度を有し、スペーサとなるビーズを含有してもよい)で土手部分を予め作製しておくことにより、きれいな充填形状および一定のギャップ間隔を維持することができる。貼り合せ終了後、必要に応じてマスクした上で封止用基板34側もしくは透明基板11側から紫外線を照射して、低粘度接着剤33および高粘度接着剤61を硬化させ、最終的な有機ELパネルを形成することができる。なお、熱硬化型の接着剤で代用する場合には、紫外線ではなく加熱することで同様に対応することができる。
【0059】
また、前述した接着剤に、高い熱伝導性を有する充填剤(例えば、シリコーン、炭素繊維、金属粉末など)を添加することもできる。ただし、この場合、紫外線硬化を妨げないという条件が必要となる。
【0060】
封止用基板34は、上記の封止工程の条件(接着剤成分、温度等)に耐えられるものであり、かつ、寸法安定性に優れていることが好ましい。さらに、使用される透明基板11との線膨張係数を考慮して選択されることが好ましい。封止用基板34の材料としては、ガラス、金属、またはポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレートなどの樹脂を用いることができるが、中でもガラスが好ましい。あるいはまた、ポリオレフィン、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂またはポリイミド樹脂などから形成される可撓性フィルムを基板として用いることも可能である。
【0061】
また、封止用基板34に、有機EL素子の積層膜(有機EL層25、陰極分離壁24などを含む)の膜厚程度(数十μm)の深さを有する浅い凹部を設ければ、有機EL素子の周辺部で図1(b)のような狭いギャップを形成することができ、図6(b)の構造以上に封止性能を向上させることができる。凹部をサンドブラスト加工で形成する場合、サンドブラストのコストは、一般的に加工深さに大きく依存するが、上記のような比較的浅い凹部加工では、加工費用は極端に安く抑えることができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。なお、本実施例は、図5の構成の有機ELパネルに基づくものである。
【0063】
有機EL素子の透明基板11としては、230mm×200mm×厚さ0.7mmの大きさの無アルカリガラス基板を使用した。該基板を用いた場合、有機EL素子の複数取りが可能であるが、以下においては、複数の有機EL素子の中の1つの有機EL素子について説明する。前記透明基板11の色変換フィルタ層21を形成する部分以外の部分に、感光性フォトレジストをスピンコートし、フォトリソグラフィー法を用いてブラックマトリックスを形成した。次いで、色変換フィルタ層21を構成するカラーフィルタおよび色変換層をスピンコートとその後のフォトリソグラフィーで順次形成した。形成したブラックマトリックスおよび色変換フィルタ層21の上面に平滑層をスピンコートとその後のフォトリソグラフィーで形成し、次いで、これらの各層から生じる水分やガス成分を遮断するために、約200nmのSiOのガスバリア層をスパッタで形成した。ここでスパッタ装置にはRF−プレーナマグネトロン装置を使用し、スパッタガスにはArを使用した。ガスバリア層形成時における基板温度は80℃とした。
【0064】
さらに、ガスバリア層の上面に、ターゲットとしてIDIXO(出光興産株式会社製、インジウムおよび亜鉛の酸化物と酸化インジウムとの混合物)を用いるスパッタ法によって膜厚300nmのIZOを全面成膜した。成膜されたIZO上にレジスト剤「OFPR−800」(東京応化社製)をスピンコートした後、フォトリソグラフィー法にてパターニングを行い、ストライプ状の複数の部分電極からなる透明電極22を形成した。
【0065】
これに有機レジスト剤を塗布して1μmのレジスト膜を形成し、次いで、フォトプロセスで、透明電極22上の発光部位に開口部を設けてシャドウマスク23を形成した。シャドウマスク23の開口部は、約80μm×240μmとした。次に、マトリックス駆動型構造の有機EL素子となるように、透明電極22を形成するストライプの延びる方向と直交する方向で、シャドウマスク23の開口部間の隙間に位置する部分に陰極分離壁24を形成した。ここで、陰極分離壁24は、有機レジスト材料を使用し、露光時間を調整して、上面が約12μm幅、底面が約6μm幅、高さ約4μmの逆テーパ形状とした。
【0066】
次いで、陰極分離壁24まで形成された基板を抵抗加熱蒸着装置内に装着し、正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層、電子注入層を、真空を破らずに順次成膜し、有機EL層25を形成した。成膜に際して真空槽内圧は1×10−4Pa まで減圧した。正孔注入層としては膜厚100nmの銅フタロシアニン(CuPc)を積層した。正孔輸送層としては膜厚20nmの4,4′−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(α−NPD)を積層した。発光層としては膜厚30nmの4,4′−ビス(2,2′−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)を積層した。電子注入層としては膜厚20nmのアルミキレート(Alq)を積層した。
【0067】
有機EL層25を形成した後、陰極分離壁24を利用して、透明電極22のストライプに対して直交する方向に延びるストライプ状の反射電極26が得られるように、厚さ200nmのAlからなる反射電極26を、真空を破らずに蒸着で形成した。
【0068】
反射電極26を形成した後、該基板をインライン(大気開放せず)のまま対向スパッタのチャンバー内に移動し、圧力を1Pa、基板温度を80℃に設定し、スパッタガスにArを使用して、SiOからなる無機保護層31を200nm成膜した。この対向スパッタは、有機EL層25にダメージを与えにくく、かつ、陰極分離壁24の根元までスパッタ成分を回り込ませることが期待できるため、無機保護層31および吸湿層33の形成においては有効な手段である。上記のように形成された無機保護層31は、図5に示すように、陰極分離壁24の根元に至るまで隙間なく全面に形成されていた。同様に対向スパッタを用いて、SrOからなる吸湿層32を、図5に示すように無機保護層31上の全面を覆うように2μmの厚さで成膜して、最終的な有機EL素子を形成した。
【0069】
次いで、形成された有機EL素子を、酸素5ppm、水分5ppm以下の貼り合せ装置に移動させた。貼り合せ装置内には、予めアセトン洗浄および200℃、5分間の真空加熱乾燥が終了している230mm×200mm×厚さ0.3mmの無アルカリ平板ガラス(封止用基板34)がセットされている。図7に示すように、この封止用基板34の接着部の周囲部分に対応する56mm×46mmの外周位置に、紫外線硬化型のビーズ含有エポキシ系高粘度接着剤61をディスペンサーで塗布しておき、引き続きパネル中央部に対応する位置に、高粘度接着剤61よりも低粘度の紫外線硬化型のエポキシ系低粘度接着剤33を滴下し、約1Pa程度まで減圧して、有機EL素子および封止用基板34を貼り合せた。貼り合せ後、大気圧に解放し、封止用基板34側から紫外線を照射した。次いで、加熱炉に入れて80℃で1時間加熱し、炉内で30分間自然冷却して取り出し、有機ELパネルを作製した。
【0070】
以上のように、本発明によれば、約1mm(透明基板11(厚さ0.7mm)+封止用基板34(厚さ0.3mm)+有機EL素子の積層膜(全膜厚約50μm))の薄型有機ELパネルを実現できることが明らかとなった。また、封止用基板34に平板ガラスを使用することが可能になったため、凹部を設けたガラスを使用する従来の有機ELパネル(以下、従来型有機ELパネルと称す)に比べてコストを大幅に低減することができた。さらに、本発明の有機ELパネルは、有機EL素子および封止用基板34の間が接着剤34で隙間無く充填されて貼り合わされているため、隙間を有する従来型有機ELパネルに比べて薄くとも機械的強度を向上させることができた。水分や酸素などの封止性能は、従来型有機ELパネルと同程度であったが、有機EL素子および封止用基板34に隙間無く充填した接着剤34により放熱性能が向上したため、従来型有機ELパネルに比べて高輝度駆動時の動作寿命を延ばせることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】(a)は従来型有機ELパネルの封止領域を示す概略図であり、(b)は従来型有機ELパネルの概略的な横断面図であり、(c)は従来型有機ELパネルの封止領域および表示部を示す概略図である。
【図2】従来型有機ELパネルの封止構造および成膜状態を示す概略的な横断面図である。
【図3】本発明の有機ELパネルの一実施形態であり、該有機ELパネルの封止構造および成膜状態を示す概略的な横断面図である。
【図4】本発明の有機ELパネルの一実施形態であり、該有機ELパネルの封止構造および成膜状態を示す概略的な横断面図である。
【図5】本発明の有機ELパネルの理想的な実施形態であり、該有機ELパネルの封止構造および成膜状態を示す概略的な横断面図である。
【図6】(a)は本発明の有機ELパネルの封止領域を示す概略図であり、(b)は本発明の有機ELパネルの概略的な横断面図であり、(c)は本発明の有機ELパネルの封止領域および表示部を示す概略図である。
【図7】真空滴下貼り合せ法による本発明の封止工程を示す概略図である。
【符号の説明】
【0072】
11 透明基板
12 有機EL素子積層膜
13 接着剤
14 封止用ガラス基板
15 吸湿剤
16 表示部
17 端子取り出し部
18 接着剤封止領域
19 凹部
21 色変換フィルタ層
22 透明電極
23 シャドウマスク
24 陰極分離壁
25 有機EL層
26 反射電極
27 端部
31 無機保護層
32 吸湿層
33 低粘度接着剤
34 封止用基板
61 高粘度接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、前記透明基板上にストライプ状に形成された透明電極と、前記透明電極上に複数の開口部を有するように形成されたシャドウマスクと、前記透明電極に対して直交する方向および前記シャドウマスクの開口部間に形成された陰極分離壁と、前記シャドウマスクの開口部内および前記陰極分離壁上に形成された少なくとも有機発光層を含む有機EL層と、前記有機EL層上に形成された反射電極とを有する有機EL素子であって、
前記有機EL層の側面並びに反射電極の側面および上面を少なくとも覆うように形成された無機保護層と、少なくとも前記無機保護層上に形成された吸湿層とをさらに有することを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
透明基板と、前記透明基板上にストライプ状に形成された透明電極と、前記透明電極上に複数の開口部を有するように形成されたシャドウマスクと、前記透明電極に対して直交する方向および前記シャドウマスクの開口部間に形成された陰極分離壁と、前記シャドウマスクの開口部内および前記陰極分離壁上に形成された少なくとも有機発光層を含む有機EL層と、前記有機EL層上に形成された反射電極とを有する有機EL素子であって、
前記有機EL素子の表面を全て覆うように形成された無機保護層と、前記無機保護層上に形成された吸湿層とをさらに有することを特徴とする有機EL素子。
【請求項3】
前記吸湿層が、前記無機保護層の下部に位置する有機EL層の側面部並びに反射電極の側面部および上面部を少なくとも覆うように形成されることを特徴とする請求項2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記吸湿層が、前記無機保護層の全面を覆うように形成されることを特徴とする請求項2に記載の有機EL素子。
【請求項5】
透明基板と透明電極との間に、色変換フィルタ層が形成されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の有機EL素子。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の有機EL素子と、封止用基板と、前記有機EL素子および封止用基板を接合するための接着剤とを有する有機ELパネルであって、
前記有機EL素子と封止用基板との間に前記接着剤を隙間無く充填して、前記有機EL素子および封止用基板が貼り合わされていることを特徴とする有機ELパネル。
【請求項7】
前記封止用基板は、凹部を設けたガラスであることを特徴とする請求項6に記載の有機ELパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−5138(P2007−5138A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−183755(P2005−183755)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】