有機EL素子の製造方法および有機EL素子の製造装置
【課題】エージング工程において表示品質を維持しつつ欠陥部をオープン化できないような陰極の膜厚が135nm以上である有機EL素子において、リーク電流の発生しやすい欠陥部を顕在化させて良否判定を適切に行う。
【解決手段】陰極40を膜厚135nm以上として有機EL素子100を形成し、続いて、上下電極20、40のうち陰極40側をプラス極、陽極20側をマイナス極としてこれら両電極20、40間に、直流電圧を、有機EL素子100に存在する欠陥部が短絡するレベル以上まで時間とともに上昇させながら印加し、その後、有機EL素子100において短絡した欠陥部の有無を検出する。
【解決手段】陰極40を膜厚135nm以上として有機EL素子100を形成し、続いて、上下電極20、40のうち陰極40側をプラス極、陽極20側をマイナス極としてこれら両電極20、40間に、直流電圧を、有機EL素子100に存在する欠陥部が短絡するレベル以上まで時間とともに上昇させながら印加し、その後、有機EL素子100において短絡した欠陥部の有無を検出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子の製造方法および有機EL素子の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、一般に、基板上に、下部電極、発光層を含む有機膜、上部電極を積層してなるが、有機材料を使用しているために、電界や熱によって変質や拡散が起こりやすく、その結果として、上下電極の短絡が発生することがある。特に初期のリーク電流が検出限界(たとえば1nA以下)であっても、駆動時に、突然、上下の電極の短絡にいたる場合がある。
【0003】
その対策として、従来では、上下両電極のうち陰極側をプラス極、陽極側をマイナス極として両電極間に、発光時に印加する順電圧とは反対の逆電圧を印加し、欠陥部を顕在化させてオープン破壊するエージング工程を行い、その後、有機EL素子に逆電圧を印加し両電極間に流れるリーク電流を測定し、このリーク電流値に基づいて良否判定を実施する工程を行う製造方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
このものによれば、逆電圧の印加により欠陥部にリーク電流が発生し、このリーク電流によるジュール熱により欠陥部に対応する上部電極を破壊させる。その結果、欠陥部が電気的にオープンになり、駆動時にはリークが発生しないようになる。
【0005】
ここで、欠陥部とは、通常、異物などの段差によって有機膜が薄くなり短絡しやすくなっている部位である。オープン化した欠陥部は、上部電極が飛散したため局所的な非発光部となるが、直径がたとえば約50μm以下であり肉眼で見分けることができない。そのため表示品質に影響はない。
【特許文献1】特許第3562522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記したような欠陥部をオープン化させるエージング工程を行うものは、逆電圧の印加により欠陥部がオープン化する素子構造には有効である。
【0007】
しかしながら、本発明者の検討によれば、上記方法を用いても、このような欠陥部をオープン化できない素子構造が存在し、そのようなものには、上記方法が適用できないことが実験的にわかった。
【0008】
欠陥部をオープン化できない素子構造とは、上部電極を厚膜とした構造である。この上部電極を厚くしていくと、上記した電極破壊によるオープン化のメカニズムより、ある膜厚以上でオープン化しなくなる。具体的には、そのような上部電極の膜厚が135nm以上であることがわかった。
【0009】
このことに関する本発明者が行った具体的な実験検討について述べる。一般的な有機EL素子構造において、上部電極の膜厚を変えたものを作製し、これらについて、欠陥部をオープン化させるためのエージング工程を行った。また、エージング工程において印加する逆電圧が大きいほど欠陥部のオープン化がなされやすいため、その逆電圧も変えて行った。
【0010】
図18は、種々の逆電圧における上部電極膜厚とオープン化成功率との関係を示す図である。エージング工程において印加する逆電圧が16Vである場合、上部電極膜厚が100nmまでオープン化可能である。さらに、逆電圧を18V以上とすることで135nmまでオープン化可能である。また、観察の結果、このオープン化が上記したような電極破壊であり、具体的には上部電極の飛散によるものであることを確認した。
【0011】
ここで、上部電極膜厚が135nm以上の構造では、逆電圧を22Vとすることで、欠陥部は電気的にオープン化する。しかし、この時の欠陥部は上部電極の破壊が大きく目視可能であり、品質不良となるものであった。
【0012】
たとえば、オープン化してできた穴の径が約50μm以下ならば目視されず表示品質上問題ないが、それよりも大きいとオープン化した部分が目視可能となり、表示品質を維持できなくなる。
【0013】
これは、印加する逆電圧を22Vまで上げたことにより、ジュール熱が増大し、上部電極の飛散量が大きくなったためと考えられる。つまり、上部電極の膜厚が135nm以上の素子構造は、欠陥部をオープン化させるエージング工程を採用しても、表示品質の点より、オープン化できない構造であることがわかった。
【0014】
また、上記特許文献1では、エージング工程後に有機EL素子に逆電圧を印加したときに流れるリーク電流値に基づいて良否判定を実施する、すなわち正常品と欠陥品とを判定するようにしているが、上述の理由から、上部電極が135nm以上に厚く表示品質を維持するようにオープン化することができない素子構造の場合には、この手法は適用することができない。
【0015】
このような上部電極の厚膜化は、配線抵抗を小さくするために必要である。特に、長い配線を必要とする大画面の有機EL表示装置においては必須となる。したがって、上部電極の厚膜化によって欠陥部のオープン化ができなくても、出荷前に逆電圧を印加する処理を行って欠陥部を顕在化させ不良品を取り除くことは、市場における短絡不良を防止するためには、必要である。
【0016】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、エージング工程において表示品質を維持するように欠陥部をオープン化できないような上部電極の膜厚が135nm以上である有機EL素子において、リーク電流の発生しやすい欠陥部を顕在化させて良否判定を適切に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、鋭意検討を行った。まず、上部電極の膜厚が135nm以上であること以外は一般的な構成を有する有機EL素子において、故意に有機膜の膜厚を薄くして欠陥部を生じやすくした欠陥品を試作した。
【0018】
これらの欠陥品に、時間とともに電圧が上昇する逆バイアス電圧を印加した結果、欠陥品が電気的に短絡することがわかった(後述の図4参照)。
【0019】
また、後述する図5に示されるように、この時間に対して上昇する逆バイアス電圧の上昇レートを大きくすると、上記課題の欄にて述べたように、表示品質を維持できない程度までオープン化してしまう欠陥品が発生し、一方、当該上昇レートを小さくすることで確実に欠陥品を短絡させられることを見出した。
【0020】
これは、時間に対して上昇する逆バイアス電圧の上昇レートを小さくすることにより、欠陥部において一度に大きな電流が流れないようになり、その結果、ジュール熱の発生が抑えられ、上部電極が飛散することなく短絡に至るものと推定される。
【0021】
この現象の詳細メカニズムは不明であるが、本発明者が新たに見出したことである。なお、上記特許文献1には、時間に対して電圧が上昇する逆バイアス電圧を印加する手法の記載があるが、時間に対して上昇する逆バイアス電圧の上昇レートを考慮する点については一切記載がない。
【0022】
そして、上記の電圧印加後の有機EL素子に対して発光時に印加する順電圧を印加してみると発光しなかった。これは電流が短絡した欠陥部に集中して流れるためである。このことは点灯状態による発光・非発光の外観を見ることなどにより、正常品と欠陥品とを判定できることを示している。
【0023】
上記の電圧印加後の欠陥品におけるオープン化した部位と短絡した部位とを、顕微鏡写真の画像から模式化した図として、図17に示す。上述のとおり、オープン化した部位は(図17(a)参照)、上部電極の飛散量が大きく表示品質の点で適用できないことがわかる。
【0024】
一方、図17(b)に示されるように、短絡した欠陥部はその直径が小さく、短絡していることを除けば、非駆動時では目視されない程度の小さなものであり、表示品質上、問題はない。
【0025】
このことは、この短絡した欠陥部における上部電極や有機膜を、レーザ等で除去し非導通化することで表示品質上、問題が無くなることを示している。また、この短絡した欠陥部は、顕微鏡観察のレベルで認識可能であり、このことは、欠陥部を、短絡した欠陥部として顕在化させ、その検出が可能となることを意味する。
【0026】
つまり、上記した実験検討によれば、上部電極の膜厚が135nm以上である有機EL素子においては、時間に対して電圧が上昇する逆電圧を、その上昇レートを考慮して印加することにより、欠陥品の欠陥部を、表示品質上問題となるようなオープン化を行うことなく短絡破壊させ、正常品か欠陥品かを点灯状態の外観などに基づいて判定できることがわかった。
【0027】
本発明は上記したような実験検討の結果、創出されたものであり、上部電極(40)を膜厚135nm以上として有機EL素子(100)を形成し、続いて、上下両電極(20、40)のうち陰極(40)側をプラス極、陽極(20)側をマイナス極としてこれら両電極(20、40)間に、直流電圧を、有機EL素子(100)に存在する欠陥部が短絡するレベル以上まで時間とともに上昇させながら印加し、その後、有機EL素子(100)において短絡した欠陥部の有無を検出するようにしたことを、第1の特徴とする。
【0028】
それによれば、上述したように、リークの発生しやすい欠陥部を、表示品質上、問題無いように短絡破壊して顕在化させることで、短絡した欠陥部の有無を検出して、正常品と欠陥品とを識別することができるため、良否判定を適切に行うことができる。
【0029】
ここで、この製造方法においては、後述する図5に示されるように、欠陥部短絡工程では、直流電圧の上昇レートを1V/秒以下とすることで、欠陥部の短絡破壊をより確実に行うことができる。
【0030】
また、直流電圧を時間とともに上昇させることは、連続的すなわち直線的な上昇でもよいが、時間に対して階段状に上昇させていくものでもよい(後述の図7参照)。
【0031】
また、欠陥部短絡工程では、直流電圧における印加の開始電圧を0Vよりも大きくすることによって、欠陥部短絡工程の処理時間を短くすることができる(後述の図8、図9参照)。
【0032】
また、判定工程によって検出された欠陥部の領域に位置する上部電極(40)もしくは有機膜(30)を除去することにより、当該欠陥部を修復するようにすれば、製品の歩留まりの向上が可能となる。
【0033】
ここで、欠陥部修復工程では、欠陥部に光エネルギーもしくは電気エネルギーを与えることにより、上部電極(40)もしくは有機膜(30)を焼失させるようにすることができる。
【0034】
また、判定工程は、有機EL素子(100)を点灯させた状態で外観検査を行うものにすれば、短絡した欠陥部は非発光となり、外観にて認識できるため、欠陥部の有無を検出できる。
【0035】
また、この外観検査は、欠陥部短絡工程の前と後との両時点で行い、欠陥部短絡工程の前後の外観の差により欠陥部の有無を検出するものにすれば、欠陥部短絡工程にて短絡した欠陥部を、それ以外の欠陥や異物などと識別して検出することが可能となる。
【0036】
また、判定工程は、有機EL素子(100)の上下電極(20、40)間のリーク電流を測定し、このリーク電流の値に基づいて有機EL素子(100)の欠陥部の有無を検出するものにできる。それによれば、電流値に基づく確実な判定が行える。
【0037】
また、このリーク電流の測定は、有機EL素子(100)における上下両電極(20、40)のうち陰極(40)側をプラス極、陽極(20)側をマイナス極として行うものにすれば、確実な判定が行える。
【0038】
ここで、リーク電流の測定は、有機EL素子(100)の実駆動時に用いられる逆バイアス電圧以上の電圧を印加して測定することが好ましい。
【0039】
また、リーク電流の測定は、欠陥部短絡工程の前と後との両時点で行い、欠陥部短絡工程の前後のリーク電流の差により欠陥部の有無を検出するものにすれば、欠陥部短絡工程にて短絡した欠陥部を、確実に検出することが可能となる。
【0040】
ここで、素子形成工程にて、有機EL素子(100)をマトリクス状に複数個形成した場合、欠陥部短絡工程にて、これら複数個の有機EL素子(100)における上下両電極(20、40)に対し、一括して上記の直流電圧を印加するようにすれば、複数個の有機EL素子(100)について一括して欠陥部の短絡を行うことができる。
【0041】
また、素子形成工程では、マトリクス状に配置された複数個の有機EL素子(100)を基板(10)上に形成するとともに、これら複数個の有機EL素子(100)における上下両電極(20、40)の少なくとも一方に対して欠陥部短絡工程において一括して直流電圧を送るための配線部(200)を、基板(10)上に形成するようにすれば、欠陥部短絡工程における電気的な接続箇所を少なくすることができる。
【0042】
また、本発明は、有機EL素子(100)の欠陥部の有無を検出する製造装置であって、第1の出力端子(311)および第2の出力端子(312)を有する直流電源(310)と、欠陥部を検出する検出手段(340、360)とを備え、第1の出力端子(311)と有機EL素子(100)の陽極側の電極(20)とを第1のリード線(321)、第1の端子部(331)を介して接続し、第2の出力端子(312)と有機EL素子(100)の陰極側の電極(40)とを第2のリード線(322)、第2の端子部(332)を介して接続し、直流電源(310)の第1の出力端子(311)をアースとし、第2の出力端子(312)にて時間とともに電圧が上昇する直流電圧を出力するようにしたことを、第2の特徴とする。
【0043】
それによれば、この製造装置を用いて、上記第1の特徴を有する製造方法における欠陥部短絡工程および判定工程を適切に実行することができる。
【0044】
ここで、この製造装置において、検出手段(360)によって検出された欠陥部の領域に位置する上部電極(40)を除去することにより、当該欠陥部を修復する欠陥部修復手段(370)を有するものとすれば、判定工程によって検出された欠陥部の修復を行うことができる。
【0045】
また、この製造装置において、直流電源(310)の第1の出力端子(311)に一定電圧を出力し、第2の出力端子(312)をアースとして有機EL素子(100)を点灯させ、この点灯状態の有機EL素子(100)の外観検査を検出手段(340)によって行い、欠陥部の有無を検出するようにすれば、上記の外観検査による判定工程を適切に行うことができる。
【0046】
また、上記製造装置における検出手段を、第1および第2のリード線(311、312)の少なくとも一方に電気的に接続された電流計測手段(360)を備え、直流電源(310)の第1の出力端子(311)をアースとし、第2の出力端子(312)に一定電圧を出力したときに電流計測手段(360)により計測される電流値により、欠陥部の有無を検出するものにすれば、上記のリーク電流の測定による判定工程を適切に行うことができる。
【0047】
なお、特許請求の範囲およびこの欄で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、説明の簡略化を図るべく、図中、同一符号を付してある。
【0049】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る1つの有機EL素子100の断面構成を示す図である。
【0050】
この有機EL素子100は、基板10上に、下部電極としての陽極20、有機膜30、上部電極としての陰極40を積層してなる。この有機EL素子100は、陰極40の膜厚が135nm以上であること以外は、一般的な有機EL素子と同様の膜構成を有するものである。
【0051】
すなわち、基板10はガラス、プラスチックなどの透明基板からなり、陽極20はITOなどの透明電極膜からなり、有機膜30は、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層などが積層されたものからなり、陰極40はアルミなどの金属電極からなるものである。
【0052】
そして、この有機EL素子100においては、実駆動時には、陽極20をプラス極、陰極40をマイナス極として両極20、40間に順電圧を印加することにより、有機膜30にて発光がなされ、たとえば、基板10側から光が取り出されるようになっている。
【0053】
ここで、本実施形態では、このような有機EL素子100を複数個マトリクス状の形成したものとしている。図2は、複数個の有機EL素子100をマトリクス状に形成した構成の概略平面図である。
【0054】
図2に示されるように、基板10上において、陽極20および陰極40が互いに交差するように延びるストライプ状に形成されており、これら上下両電極20、40が交差して重なり合う部位が、画素すなわち上記図1に示される有機EL素子100として構成されている。
【0055】
このようなマトリクス状に配置された有機EL素子100においては、図示しない駆動回路によって、複数個の有機EL素子100のうち所望のものを発光させることで、ディスプレイパネルとして使用できるようになっている。
【0056】
次に、有機EL素子100の製造方法について述べる。図3は本実施形態の有機EL素子の製造方法を示す工程フロー図である。
【0057】
まず、基板10上にスパッタなどにより下部電極としての陽極20を形成し、有機発光材料を用いて蒸着法により有機膜30を形成する。続いて、Alなどを蒸着することにより上部電極としての陰極40を膜厚135nm以上(たとえば、300nm程度)となるように形成する。
【0058】
ここで、本実施形態では、陽極20および陰極40を、フォトリソグラフ法などにより、上記図2に示されるようにストライプ状にパターニングすることで、有機EL素子100をマトリクス状に複数個形成する。ここまでが、素子形成工程であり、これにより、上記図1および図2に示される有機EL素子100が形成される。
【0059】
次に、欠陥部短絡工程では、この有機EL素子100における陰極40をプラス極、陽極20をマイナス極として両電極20、40間に、上記順電圧とは逆方向の直流電圧すなわち逆バイアス電圧を印加する。
【0060】
ここで、逆バイアス電圧は、有機EL素子100に存在する欠陥部が短絡するレベル以上まで時間とともに上昇させながら印加する。本発明者の検討によれば、有機EL素子において欠陥部が短絡するレベルとは、たとえば35V〜40V程度である。このような逆バイアス電圧の印加は直流電源を用いて行うことができる。
【0061】
ここで、図2において逆バイアス電圧の印加は、個々の有機EL素子100毎に行ってもよいが、複数個の有機EL素子100における上下両電極20、40をそれぞれ、共通の配線を用いて直流電源に接続し、複数個の有機EL素子100に対して一括して逆バイアス電圧を印加するようにしてもよい。それによれば、複数個の有機EL素子100について一括して欠陥部の短絡を行うことができ、短時間の処理が可能となる。
【0062】
なお、この欠陥部短絡工程では、欠陥部の短絡破壊をより確実に行うために、直流電圧である逆バイアス電圧の上昇レートを1V/秒以下とする。この逆バイアス電圧を時間とともに上昇させることは、連続的な上昇でもよいが、時間に対して階段状に上昇させていくものでもよい。
【0063】
さらに、欠陥部短絡工程では、欠陥部短絡工程の処理時間を短くすべく、逆バイアス電圧における印加の開始電圧を0Vよりも大きくする。なお、これら上昇レートや開始電圧についての詳細は、後述の図4〜図9にてより具体的に述べる。
【0064】
そして、本実施形態では、この欠陥部短絡工程を行った後、有機EL素子100において短絡した欠陥部の有無を検出する判定工程を行う。具体的には、この判定工程では、有機EL素子100に順電圧を印加することで点灯させた状態とし、この状態で外観検査を行うようにする。
【0065】
ここで、本実施形態の製造方法において、短絡した欠陥部は、上記図17(b)に示されるようなものであり、目視されずに表示品質上問題ない小さなものであるが、顕微鏡観察のレベルで認識可能である。
【0066】
しかし、たとえば、上記図2に示される複数個の有機EL素子100がマトリクス状に形成されている場合、正常な有機EL素子100は発光し、短絡した欠陥部が存在する有機EL素子100は非発光となるため、目視にて欠陥部の有無を検出することができる。そして、この判定工程において、欠陥部が存在する有機EL素子100は、観察者によって欠陥品として判定される。
【0067】
このように、本実施形態の製造方法によれば、リークの発生しやすい欠陥部を、表示品質上、問題無いように短絡破壊して顕在化させることで、短絡した欠陥部の有無を検出して、正常品と欠陥品とを識別することができるため、有機EL素子100の良否判定を適切に行うことができる。
【0068】
ここにおいて、本実施形態では、上述したように、欠陥部短絡工程において、有機EL素子100に対して、欠陥部が短絡するレベル以上まで時間とともに電圧が上昇する逆バイアス電圧を印加する。このような逆バイアス電圧を印加する根拠は、上記解決手段の欄にも述べたが、本発明者の実験検討の結果によるものである。この検討およびそれに基づく根拠について、より具体的に述べる。
【0069】
上記図1に示される素子構成において、有機膜30の膜厚tを変えることで、リーク電流の発生しやすい欠陥品を作製した。リーク電流の発生度合に関する主たるパラメータは、有機膜30の膜厚t(図1参照)であり、この有機膜30を薄くすることでリーク電流が発生しやすくなる。
【0070】
欠陥品としては、有機膜30の膜厚tを60nm以下とした。この60nm以下の膜厚tは、通常の有機EL素子中に存在する段差などにより生じる欠陥部の膜厚であり、通常の有機EL素子においてリークが発生する範囲である。
【0071】
ちなみに、欠陥部の断面分析からも有機膜30の膜厚tが概ね60nmであることを確認している。どれほどの膜厚tを欠陥品とするかは、使用する環境も考慮して設計的に決まる。有機膜の膜厚tが厚くなれば短絡させるまでの必要電圧が大きくなるだけで、本発明の有効性は変わらない。
【0072】
そして、n=10の欠陥品について、室温環境のもと、時間とともに1V/秒のレートで上昇する逆バイアス電圧を、上記欠陥部短絡工程と同様にして、有機EL素子100の欠陥部が短絡するまで印加した。
【0073】
図4は、この時の逆バイアスの印加電圧に対する有機EL素子100に流れるリーク電流の対数値(任意単位)を示す。このように、各測定サンプルにおいてリークが発生し、欠陥品が短絡することがわかった。
【0074】
さらに、時間とともに上昇する逆バイアス電圧の上昇レートを種々変えて、欠陥部短絡工程を実施した。その結果を図5に示す。この図5では、横軸に逆バイアス電圧の上昇レートをとり、左の縦軸に短絡による欠陥検出率をとり、右の縦軸にオープン化する率をとってある。
【0075】
短絡による欠陥検出率とは、上記図17(b)に示されるように欠陥部が短絡した欠陥部となる割合であり、オープン化する率とは、上記図17(a)に示されるように表示品質が維持できないオープン化が発生する割合である。
【0076】
この図5に示されるように、逆バイアス電圧の上昇レートを大きくするとオープン化する欠陥品が発生し、上昇レートを小さくすることで確実に欠陥品を短絡できることがわかった。
【0077】
また、上昇レートが1V/秒以下の場合は、短絡による欠陥検出率が90%以上であり、0.7V/秒以下の場合は100%であるが、2V/秒になると、オープン化してしまう割合の方が大きくなってしまう。このような図5に示される結果より、逆バイアス電圧の上昇レートを1V/秒以下、好ましくは0.7V/秒以下とすることで、欠陥品の欠陥部を確実に短絡破壊できることがわかる。
【0078】
また、この逆バイアス電圧の上昇レートを1V/秒以下とすることで欠陥品の欠陥部を確実に短絡破壊できることは、上部電極すなわち陰極40の膜厚が135nm以上であれば、当該膜厚によらず実現可能である。
【0079】
このことの検証例を図6に示す。図6は、逆バイアス電圧の上昇レートを0.5V/秒とし、陰極40の膜厚(つまり上部電極膜厚)を変化させた時の短絡による欠陥部検出率を調べた結果を示す図である。この図6に示されるように、上部電極である陰極40の膜厚が135nm以上であれば、上記効果が発現することを確認した。
【0080】
また、上述したように、欠陥部短絡工程では、逆バイアス電圧を時間とともに連続的に上昇させてもよいが、階段状に上昇させていくものでもよい。この階段状に上昇する逆バイアス電圧の一例を図7に示す。
【0081】
この図7に示される例では、電圧が時間に対して所定の電圧まで、所定の時間を保持しながら、階段状に上昇する。本例では、1V/秒の上昇レートで逆バイアス電圧が時間に対して、不連続的にすなわち階段状に上昇している。逆バイアス電圧の上昇レートが同じであれば、連続的であっても階段状であっても同様の効果が得られる。
【0082】
また、本実施形態では、欠陥部短絡工程にて、逆バイアス電圧における印加の開始電圧を0Vよりも大きくすることが好ましいが、その開始電圧を0Vよりも大きくした逆バイアス電圧の一例を図8に示す。
【0083】
図8に示される例では、開始電圧が10Vであり、逆バイアス電圧は、時間とともに上昇レート1V/秒にて連続的に上昇している。逆バイアス電圧の上昇レートが同じであれば、開始電圧に関わらず同様の効果が得られるため、開始電圧を高くすることで、開始電圧を0とした場合よりも処理時間を短くすることが可能となる。
【0084】
図9は、上記欠陥品を用いて逆バイアス電圧の上昇レートを0.5V/秒とし、開始電圧を変化させた時の短絡による欠陥部検出率を調べた結果を示す図である。図9に示されるように、当該欠陥部検出率が開始電圧に依存しないことがわかる。
【0085】
ただし、逆バイアス電圧の開始電圧が欠陥品が短絡するレベルの電圧(35V〜40V程度)に近づくと、欠陥部検出率が落ちている。これは、短絡するレベルの電圧に近い大きな逆バイアス電圧をいきなり印加すると、上記図17(a)に示されるようなオープン破壊の状態になるためである。このことから、開始電圧の上限は、欠陥部が短絡するレベルよりも10V程度以上低い電圧であることが好ましい。
【0086】
このように、本実施形態の製造方法によれば、上部電極40の膜厚が135nm以上である有機EL素子100において、リーク電流の発生しやすい欠陥部を顕在化させて良否判定を適切に行うことができる。
【0087】
また、本実施形態においては、判定工程は、有機EL素子100を点灯させた状態で外観検査を行うものとしているが、この外観検査は、欠陥部短絡工程の前と後との両時点で行ってもよい。
【0088】
それによれば、欠陥部短絡工程にて短絡した欠陥部のみを実質的に検出でき、それ以外の欠陥や異物などと識別して検出することが可能となる。たとえば、有機EL素子100の表面に付着するゴミなどが存在する場合には、このようなゴミと短絡した欠陥部とを層別した判定が可能となる。
【0089】
また、本実施形態の製造方法において判定工程は、上記の外観検査以外にも、有機EL素子100の上下電極20、40間のリーク電流を測定し、このリーク電流の値に基づいて有機EL素子100の欠陥部の有無を検出するものにでもよい。
【0090】
たとえば、本製造方法において、上記欠陥部短絡工程を行った後、直流電源などにより有機EL素子100の上下電極20、40間に電圧を印加すれば、短絡した欠陥部が存在する場合には、電流値の異常すなわちリーク電流が確認できる。
【0091】
そして、このときに、大きなリーク電流が発生すれば、欠陥品であると判定できる。人間による目視判定では判定を誤る可能性があるが、リーク電流値により判定することで確実な判定が可能となる。
【0092】
また、このリーク電流の測定は、有機EL素子100における上下両電極20、40のうち陰極40側をプラス極、陽極20側をマイナス極として行うものにした方が好ましい。逆バイアス電圧とすれば、正常品にはほとんど電流が流れないため、短絡した欠陥部と正常部とをより明確に判定することができる。
【0093】
また、このリーク電流の測定は、有機EL素子100の実駆動時に用いられる逆バイアス電圧以上の電圧を印加して測定することが好ましい。実際の駆動時に発生するリーク部分を検出するという観点より、実駆動、本例ではマトリクス駆動する際に用いられる逆バイアス電圧以上の電圧を印加して測定することが望ましい。
【0094】
また、リーク電流の測定は、欠陥部短絡工程の前と後との両時点で行い、欠陥部短絡工程の前後のリーク電流の差により欠陥部の有無を検出するほうがよい。それによれば、素子構造の違いにより発生する電気特性に関係なく判定が行え、欠陥部短絡工程にて短絡した欠陥部を、確実に検出することが可能となる。
【0095】
ところで、上述したが、上記図17(b)に示されるように、短絡した欠陥部はその直径が小さく、非駆動時には目視されない小さなものであることから、この短絡した欠陥部を、非導通化することで品質上問題が無くなる。そこで、上記図3に示されるように、本実施形態の製造方法では、外観検査やリーク電流による判定工程の後に、さらに、この短絡した欠陥部を修復する欠陥部修復工程を実行する。
【0096】
この欠陥部修復工程は、判定工程によって検出された欠陥部の領域に位置する上部電極としての陰極40もしくは有機膜30を除去することにより、当該欠陥部を修復するものである。
【0097】
具体的には、欠陥部修復工程では、短絡した欠陥部に光エネルギーもしくは電気エネルギーを与えることにより、陰極40もしくは有機膜30を焼失させるものにできる。たとえば、光学的にはレーザ照射装置を用いてレーザで陰極40を焼失させて欠陥部を非導通化させることができる。
【0098】
このレーザによる修復の例を図10に示す。図10において(a)は、修復前の短絡した欠陥部の顕微鏡写真を模式化した図であり、(b)は、修復後の修復された欠陥部すなわち修復部の顕微鏡写真を模式化した図である。また、図11は、修復前の欠陥品と修復後の欠陥品との電気特性を調査した結果を示す図であり、印加電圧とリーク電流の対数値との関係を示す図である。
【0099】
図10(a)、(b)に示されるように、修復前の短絡した欠陥部も、修復後の修復部も、目視できないレベルのたとえば50μm未満の小さなものであり、表示品質上問題はない。ここでは、修復部は、レーザによって、陰極40と有機膜30との両方が除去されることで非導通化され修復されている。
【0100】
そして、図11に示されるように、修復前の短絡した欠陥部では、上下電極20、40間に電圧を加えることによりリーク電流が流れるが、修復部では、リーク電流が流れず非導通部となっており、修復がなされていることが確認される。なお、図11では、修復前のものにおいて、0Vよりも大きな印加電圧に対するリーク電流の値は、測定限界を越えているため、便宜上、測定限界で示してある。
【0101】
また、欠陥部修復工程において、電気的には、たとえば、上下電極20、40間に逆バイアス電圧を印加するなどの手段によって、陰極40もしくは有機膜30を焼失させて欠陥部を非導通化させることができる。
【0102】
ここで、逆バイアスに電圧印加して修復を行う場合、欠陥部に流れる電流を制限する必要があり、本発明者の検討によれば、この修復時の制限電流値を50μA以下の値とする必要がある。この逆バイアス電圧による修復の詳細メカニズムは不明であるが、電流によるジュール発熱により短絡した欠陥部の有機膜30を焼き切ることで非導通化できると推定される。
【0103】
この時、上下電極20、30間を熱変形などによって近接させることなく焼き切る必要があり、これら電極を熱変形させないためには、電流値を50μA以下の小さい値とする必要があると考える。そして、この場合も、短絡した欠陥部は直径が約50μm以下と小さく、欠陥部修復工程後も同様であることから、目視されることなく表示品質上問題が無くなる。
【0104】
この逆バイアス電圧による修復の例を図12、図13に示す。図12において(a)、(b)、(c)は、それぞれ上記修復時の制限電流を50μA、100μA、1mAとしたときの欠陥部の顕微鏡写真を模式化した図であり、図13は、図12に示される各修復後の欠陥部の電気特性を調査した結果を示す図であり、逆バイアス電圧の印加時間(任意単位)と制限電流(nA)との関係を示す図である。
【0105】
図12、図13に示されるように、制限電流を50μAとした場合には、修復後の欠陥部は目視できないレベルのたとえば50μm未満の小さなものであり、表示品質上問題はなく、また、途中で制限電流が流れなくなっており、修復が適切になされた修復部となっていることがわかる。しかし、制限電流をそれよりも大きくした場合には、短絡した欠陥部の周辺の電極が熱変形して修復できず、この熱変形部は、目視可能なほどに大きくなってしまう。
【0106】
ここで、制限電流の調整は、上下電極20、40間に逆バイアス電圧を印加して、短絡した欠陥部に流れる制限電流をモニターしながら、当該逆バイアス電圧を調整することで可能である。
【0107】
このように、本実施形態の製造方法において、欠陥部修復工程を行うことにより、欠陥部の領域は小さいので、表示品質上、問題なく修復でき、製品の歩留まりの向上が可能となる。
【0108】
なお、上記図1に示される有機EL素子100において、有機膜30の膜材料を通常用いられる数種類のものに変えた場合に、同様の検討を行ったところ、上記図4〜図13に示されるものと同様の傾向が得られた。このことから、上記図4〜図13に示される傾向は、上部電極40の膜厚が135nm以上の有機EL素子ならば広く反映されるものと考えられる。
【0109】
次に、本実施形態の製造方法を適用した一具体例を挙げておくが、本実施形態は、この例に限定されるものではない。
【0110】
基板10としてガラス基板を用意し、この基板10の上にITOからなる陽極20を形成した。そして、この陽極20に対して、UVオゾンと酸素を含有するガスによるプラズマ処理などによって表面処理を行った。
【0111】
続いて、この陽極20の上に、蒸着法により有機膜30を形成した。ここでは、陽極20側から正孔輸送層、発光層、電子輸送層が積層された有機膜30とした。
【0112】
まず、陽極20の上に、平坦化層となる第1の正孔輸送層として市販されているトリフェニルアミンA(Tg:135℃)を60nmの厚さで形成した。続いて、この第1の正孔輸送層を160℃で、10分間、平坦化処理した。その上に、第2の正孔輸送層として、市販されているトリフェニルアミンB(Tg:200℃以上)を24nmの厚さで形成した。
【0113】
その後、この上に、発光層として、クマリンを1%ドープしたアルミキノリノール(Tg:167℃)とトリフェニルアミンBとを1:1の比で混合したものであって、厚さ60nmにて成膜されたものを形成した。そして、その上に、厚さ30nmのアルミキノリノールからなる電子輸送層を形成した。
【0114】
こうして、正孔輸送層、発光層、電子輸送層が積層されてなる有機膜30を形成した後、その上に、厚さ0.5nmのLiFなどからなる電子注入層を形成し、さらに厚さ300nmのAl−0.2%Cuからなる陰極40を形成した。
【0115】
そして、この有機EL素子を露点−70℃以下の乾燥窒素雰囲気に入れ、封止用の掘り込みガラスからなるカバーに吸湿剤をつけて封止した。こうして、有機EL素子100を形成した。
【0116】
また、このような有機EL素子100を複数個作製した。そして、これら複数個の有機EL素子100について、欠陥部短絡工程を行った。ここでは、室温雰囲気にて、開始電圧10V、上昇レート0.5V/秒、欠陥部が短絡するレベル以上の値として最終的な電圧値が40Vとなる逆バイアス電圧を印加した。
【0117】
この欠陥部短絡工程の終了後に、判定工程として、室温雰囲気で有機EL素子100に順電圧を印加した点灯状態にて外観検査を行い、短絡した欠陥部の有無を検出し、欠陥のない有機EL素子を良品とする良否判定を実施した。
【0118】
次に、各有機EL素子100について、良品の各素子群について、85℃の恒温槽内で500時間、連続点灯試験を実施した。
【0119】
この点灯試験の印加波形としては、125Hz、1/64デューティの矩形パルスであり、1周期の詳細としては、順バイアス電圧12Vを1回印加し、続いて、逆バイアス電圧−15Vを63回印加するものとした。また、各素子について、リーク電流が初期の4倍以上となった場合をリーク発生有とした。
【0120】
この試験の結果、良品の素子群では、リーク発生率は0であった。このように、本実施形態の製造方法により良品と判定された有機EL素子は、実駆動中のリークを確実に防止できる。
【0121】
なお、本実施形態の製造方法において、陰極40の膜厚を135nm以上とすること、および、欠陥部短絡工程における逆バイアス電圧の上昇レートを1V/秒とすること、というように境界を設けているが、これらの値は実質的に均等な範囲で幅を持った値も含むものである。
【0122】
(第2実施形態)
図14は、本発明の第2実施形態に係る有機EL素子の製造方法を示す図であり、本製造方法における欠陥部短絡工程に供するワークの概略平面図である。
【0123】
図14に示されるように、本製造方法においても、上記第1実施形態と同様に、素子形成工程では、マトリクス状に配置された複数個の有機EL素子100を基板10上に形成する。
【0124】
ここで、本製造方法では、複数個の有機EL素子100における上下両電極20、40に対して欠陥部短絡工程において一括して直流電圧を送るための配線部200を、基板10上に形成する。
【0125】
この配線部200は、複数個の陽極20を一体に連結して導通する配線部200と、複数個の陰極40を一体に連結して導通する配線部200の2つよりなる。各配線部200は、基板10上に形成されたITOやAlまたは銅などの導体パターンにより構成されたものである。
【0126】
そして、欠陥部短絡工程では、この配線部200に上記した直流電源を接続することにより、複数個の有機EL素子100における上下両電極20、40に対し、一括して逆バイアス電圧を印加し、複数個の有機EL素子100について一括して欠陥部の短絡を行うことができる。
【0127】
そして、この場合、欠陥部短絡工程の後、判定工程や欠陥部修復工程などを行うとともに、図14中の四角形の破線に示されるように、基板10を切断することにより、上記図2に示したような複数個の有機EL素子100がマトリクス状に形成されたものを製造することができる。
【0128】
このように、本製造方法によれば、複数個の有機EL素子100について一括して欠陥部の短絡を行う場合において、欠陥部短絡工程における電気的な接続箇所を少なくすることができる。その結果として、接続不良による誤判定の防止や、低コストでの処理が可能となる。
【0129】
(第3実施形態)
図15は、本発明の第3実施形態に係る有機EL素子の製造装置300の構成を模式的に示す図である。本実施形態の製造装置300は、有機EL素子100の欠陥部の有無を検出するものであり、上記第1実施形態の製造方法における欠陥部短絡工程、判定工程を行う検査装置として適用される。
【0130】
図15に示されるように、本製造装置300は、第1の出力端子311および第2の出力端子312を有する直流電源310を備えている。この直流電源310は電気信号などにより、出力電圧を適宜調整可能な一般的なものである。
【0131】
この直流電源310の第1の出力端子311には、金属線などの導体線材などよりなる第1のリード線321の一端部が電気的に接続され、この第1のリード線321の他端部は第1の端子部331に電気的に接続されている。
【0132】
この第1の端子部331は、導体材料よりなるものであって、有機EL素子100における陽極20に電気的に接続されるものである。ここでは、素子形成工程により形成された有機EL素子100は、マトリクス状に複数個形成されたものであり、第1の端子部331は、第1のリード線321から分岐して複数個の有機EL素子100の陽極20に一括して電気的に接続される第1の端子群331として構成されている。
【0133】
一方、直流電源310の第2の出力端子312には、金属線などの導体線材などよりなる第2のリード線322の一端部が電気的に接続され、この第2のリード線322の他端部は、導体材料よりなる第2の端子部332に電気的に接続されている。
【0134】
この第2の端子部332は、有機EL素子100における陰極40に電気的に接続されるものであり、上記第1の端子部331と同様に、本実施形態の第2の端子部332は、第2のリード線322から分岐して複数個の有機EL素子100の陰極40に一括して電気的に接続される第2の端子群332として構成されている。
【0135】
このような第1の端子部としての第1の端子群331、および、第2の端子部としての第2の端子群332としては、たとえば、複数個の陽極20、陰極40に対応した数を持つ櫛歯金属状の配線部材が挙げられる。
【0136】
また、本製造装置300は、欠陥部を検出する検出手段としてカメラ340を有している。このカメラ340は、欠陥部短絡工程後の有機EL素子100の外観を画像として記録できるものであり、たとえばCCDなどよりなる。
【0137】
そして、これら直流電源310およびカメラ340は、制御部350に電気的に接続されている。この制御部350は、直流電源300およびカメラ340の作動を制御したり、カメラ340の画像を記録したりするもので、パソコンなどよりなる。
【0138】
具体的に、本製造装置300では、欠陥部短絡工程において、制御部350が直流電源310を制御することにより、直流電源310の第1の出力端子311をアースとし、第2の出力端子312にて時間とともに電圧が上昇する上記逆バイアス電圧を出力するようにしている。これにより、上記の欠陥部短絡工程が行われる。
【0139】
そして、判定工程では、制御部350が直流電源310を制御することにより、直流電源310の第1の出力端子311に一定電圧(たとえば10V程度)を出力し、第2の出力端子312をアースとして有機EL素子100を点灯させる。また、制御部350によって、カメラ340が作動し、この点灯状態の有機EL素子100の画像を撮影し、撮影された画像は制御部350に記録される。
【0140】
そして、外観検査は、このカメラ340により記録された画像によって行われ、制御部350は記録した画像に基づいて、欠陥部の有無を判定する。こうして、上記の判定工程が行われ、良否判定がなされる。
【0141】
このように、本実施形態の製造装置300によれば、上記第1実施形態に示した有機EL素子100の製造方法において、欠陥部短絡工程および外観検査による判定工程を連続して行うことができる。
【0142】
また、本製造装置300によれば、外観検査において特に点灯用の直流電源を別体に用意することが不要となり、低コストな製造が可能となる。また、カメラ340および制御部350により外観検査を自動化できる。
【0143】
また、本実施形態では、第1および第2の端子部331、322を、上記した端子群として構成することにより、有機EL素子100をマトリクス状に複数個形成した場合、これら複数個の有機EL素子100について一括して、欠陥部短絡工程および判定工程を行うことができる。
【0144】
(第4実施形態)
図16は、本発明の第4実施形態に係る有機EL素子の製造装置400の構成を模式的に示す図である。本実施形態の製造装置400は、有機EL素子100の欠陥部の有無を検出するものであり、上記第1実施形態の製造方法における欠陥部短絡工程、判定工程および欠陥部修復工程を行う製造装置として適用される。
【0145】
本製造装置400について、上記第4実施形態と相違する点を中心に述べる。図16に示されるように、本製造装置400は、上記第3実施形態とは異なり、検出手段であり電流計測手段としての電流計測部360を有する。この電流計測部360は、一般的な直流電流測定を行うものであり、第2のリード線322の途中に介在して当該第2のリード線322に電気的に接続されている。
【0146】
この電流計測部360は、制御部350によって作動制御され、有機EL素子100に流れる電流を測定できるようになっている。なお、電流測定部360は、有機EL素子100に流れる電流を測定できればよく、第1のリード線321側に接続されていてもよいし、第1および第2のリード線321、322の両方に接続されていてもよい。
【0147】
本製造装置400においても、制御部350によって、直流電源310の第1の出力端子311をアースとし、第2の出力端子312にて上記逆バイアス電圧を出力することで、欠陥部短絡工程が行われる。
【0148】
そして、本実施形態では、判定工程では、制御部350が直流電源310を制御することにより、直流電源310の第1の出力端子311をアースとし、第2の出力端子312に一定電圧(たとえば10V程度)を出力する。こうして有機EL素子100に逆バイアス電圧を印加した状態で、電流計測部360によって有機EL素子100のリーク電流を計測する。
【0149】
そして、この電流計測部360により計測されたリーク電流は、制御部350に送られ、制御部350では、このリーク電流の値によって欠陥部の有無を検出する。こうして、本実施形態では、上記したリーク電流の測定による判定工程を適切に行えるようになっている。
【0150】
さらに、本製造装置400では、判定工程によって検出された欠陥品における短絡した欠陥部を修復する欠陥部修復手段として、レーザ照射装置370を有する。このレーザ照射装置370は、検出された欠陥部の領域にレーザを照射して当該領域に位置する上部電極40を除去するものである。
【0151】
たとえば、レーザ照射装置370としては、YAGなどの半導体レーザなどを用いることができ、このレーザ照射装置370の作動は、制御部350からの信号により制御されるようになっている。
【0152】
本製造装置400では、判定工程によって欠陥品が検出されたとき、これを制御部350が認識して短絡した欠陥部の位置を特定し、レーザ照射装置370に指令を送って当該欠陥部にレーザを照射する。それにより、上記したレーザによる欠陥部修復工程を行うことができる。
【0153】
このように、本実施形態の製造装置400によれば、上記第1実施形態に示した有機EL素子100の製造方法において、欠陥部短絡工程、リーク電流による判定工程およびレーザによる欠陥部修復工程を連続して行うことができる。
【0154】
また、本実施形態によれば、電流計測部360を持った構成とすることにより、リーク電流による欠陥部の検出を自動化できる。また、電流測定用の直流電源を追加することなく、低コストな検出が実現できる。
【0155】
(他の実施形態)
なお、上記第3および第4実施形態の製造装置では、第1および第2の端子部331、332は端子群として構成されていたが、端子群を単一の端子部に変えれば、これらの製造装置は上記第2実施形態に用いてもよい。
【0156】
また、上記した各製造装置において、検出手段や欠陥部修復手段は、上記したカメラや電流計測部、レーザ照射装置に限定されるものではない。また、各手段をさらにいろいろな形態で組み合わせてもよい。たとえば、上記第4実施形態における製造装置において、電流計測部に代えてカメラを加えてもよい。
【0157】
また、有機EL素子としては、上記図2に示したような複数個のものでなくてもよく、たとえば基板に1個の有機EL素子が形成されている場合であっても、上記第1実施形態の製造方法は適用が可能である。
【0158】
また、上記各実施形態では、陽極20を下部電極、陰極40を上部電極として構成した有機EL素子100の例を示したが、これとは反対に、上部電極をITOなどの透明な陽極とし、下部電極をAlなどの陰極として、上部電極側より光を取り出す構造、いわゆるトップエミッション構造としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0159】
【図1】本発明の第1実施形態に係る有機EL素子の断面図である。
【図2】複数個の有機EL素子をマトリクス状に形成した構成の概略平面図である。
【図3】第1実施形態の有機EL素子の製造方法を示す工程フロー図である。
【図4】逆バイアスの印加電圧に対する有機EL素子に流れるリーク電流との関係を示す図である。
【図5】逆バイアス電圧の上昇レートに対する短絡による欠陥検出率およびオープン化する率の変化を示す図である。
【図6】上部電極膜厚を変化させた時の短絡による欠陥部検出率を調べた結果を示す図である。
【図7】階段状に上昇する逆バイアス電圧の一例を示す図である。
【図8】開始電圧を0Vよりも大きくした逆バイアス電圧の一例を示す図である。
【図9】開始電圧を変化させた時の短絡による欠陥部検出率を調べた結果を示す図である。
【図10】(a)はレーザによる修復前の欠陥部を示す図であり、(b)はレーザによる修復部の図である。
【図11】レーザによる修復前の欠陥品と修復後の欠陥品の電気特性の調査結果を示す図である。
【図12】逆バイアス電圧による修復の例を示す図である。
【図13】図12に示される各修復部の電気特性を調査した結果を示す図である。
【図14】本発明の第2実施形態に係る有機EL素子の製造方法を示す概略平面図である。
【図15】本発明の第3実施形態に係る有機EL素子の製造装置の構成を模式的に示す図である。
【図16】本発明の第4実施形態に係る有機EL素子の製造装置の構成を模式的に示す図である。
【図17】欠陥品におけるオープン化した部位と短絡した部位とを示す図である。
【図18】種々の逆電圧における上部電極膜厚とオープン化成功率との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0160】
10…基板、20…下部電極としての陽極、30…有機膜、
40…上部電極としての陰極、100…有機EL素子、310…直流電源、
311…直流電源の第1の出力端子、312…直流電源の第2の出力端子、
321…第1のリード線、322…第2のリード線、
331…第1の端子部としての第1の端子群、
332…第2の端子部としての第2の端子群、340…検出手段としてのカメラ、
360…検出手段としての電流計測部、
370…欠陥部修復手段としてのレーザ照射装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子の製造方法および有機EL素子の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、一般に、基板上に、下部電極、発光層を含む有機膜、上部電極を積層してなるが、有機材料を使用しているために、電界や熱によって変質や拡散が起こりやすく、その結果として、上下電極の短絡が発生することがある。特に初期のリーク電流が検出限界(たとえば1nA以下)であっても、駆動時に、突然、上下の電極の短絡にいたる場合がある。
【0003】
その対策として、従来では、上下両電極のうち陰極側をプラス極、陽極側をマイナス極として両電極間に、発光時に印加する順電圧とは反対の逆電圧を印加し、欠陥部を顕在化させてオープン破壊するエージング工程を行い、その後、有機EL素子に逆電圧を印加し両電極間に流れるリーク電流を測定し、このリーク電流値に基づいて良否判定を実施する工程を行う製造方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
このものによれば、逆電圧の印加により欠陥部にリーク電流が発生し、このリーク電流によるジュール熱により欠陥部に対応する上部電極を破壊させる。その結果、欠陥部が電気的にオープンになり、駆動時にはリークが発生しないようになる。
【0005】
ここで、欠陥部とは、通常、異物などの段差によって有機膜が薄くなり短絡しやすくなっている部位である。オープン化した欠陥部は、上部電極が飛散したため局所的な非発光部となるが、直径がたとえば約50μm以下であり肉眼で見分けることができない。そのため表示品質に影響はない。
【特許文献1】特許第3562522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記したような欠陥部をオープン化させるエージング工程を行うものは、逆電圧の印加により欠陥部がオープン化する素子構造には有効である。
【0007】
しかしながら、本発明者の検討によれば、上記方法を用いても、このような欠陥部をオープン化できない素子構造が存在し、そのようなものには、上記方法が適用できないことが実験的にわかった。
【0008】
欠陥部をオープン化できない素子構造とは、上部電極を厚膜とした構造である。この上部電極を厚くしていくと、上記した電極破壊によるオープン化のメカニズムより、ある膜厚以上でオープン化しなくなる。具体的には、そのような上部電極の膜厚が135nm以上であることがわかった。
【0009】
このことに関する本発明者が行った具体的な実験検討について述べる。一般的な有機EL素子構造において、上部電極の膜厚を変えたものを作製し、これらについて、欠陥部をオープン化させるためのエージング工程を行った。また、エージング工程において印加する逆電圧が大きいほど欠陥部のオープン化がなされやすいため、その逆電圧も変えて行った。
【0010】
図18は、種々の逆電圧における上部電極膜厚とオープン化成功率との関係を示す図である。エージング工程において印加する逆電圧が16Vである場合、上部電極膜厚が100nmまでオープン化可能である。さらに、逆電圧を18V以上とすることで135nmまでオープン化可能である。また、観察の結果、このオープン化が上記したような電極破壊であり、具体的には上部電極の飛散によるものであることを確認した。
【0011】
ここで、上部電極膜厚が135nm以上の構造では、逆電圧を22Vとすることで、欠陥部は電気的にオープン化する。しかし、この時の欠陥部は上部電極の破壊が大きく目視可能であり、品質不良となるものであった。
【0012】
たとえば、オープン化してできた穴の径が約50μm以下ならば目視されず表示品質上問題ないが、それよりも大きいとオープン化した部分が目視可能となり、表示品質を維持できなくなる。
【0013】
これは、印加する逆電圧を22Vまで上げたことにより、ジュール熱が増大し、上部電極の飛散量が大きくなったためと考えられる。つまり、上部電極の膜厚が135nm以上の素子構造は、欠陥部をオープン化させるエージング工程を採用しても、表示品質の点より、オープン化できない構造であることがわかった。
【0014】
また、上記特許文献1では、エージング工程後に有機EL素子に逆電圧を印加したときに流れるリーク電流値に基づいて良否判定を実施する、すなわち正常品と欠陥品とを判定するようにしているが、上述の理由から、上部電極が135nm以上に厚く表示品質を維持するようにオープン化することができない素子構造の場合には、この手法は適用することができない。
【0015】
このような上部電極の厚膜化は、配線抵抗を小さくするために必要である。特に、長い配線を必要とする大画面の有機EL表示装置においては必須となる。したがって、上部電極の厚膜化によって欠陥部のオープン化ができなくても、出荷前に逆電圧を印加する処理を行って欠陥部を顕在化させ不良品を取り除くことは、市場における短絡不良を防止するためには、必要である。
【0016】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、エージング工程において表示品質を維持するように欠陥部をオープン化できないような上部電極の膜厚が135nm以上である有機EL素子において、リーク電流の発生しやすい欠陥部を顕在化させて良否判定を適切に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、鋭意検討を行った。まず、上部電極の膜厚が135nm以上であること以外は一般的な構成を有する有機EL素子において、故意に有機膜の膜厚を薄くして欠陥部を生じやすくした欠陥品を試作した。
【0018】
これらの欠陥品に、時間とともに電圧が上昇する逆バイアス電圧を印加した結果、欠陥品が電気的に短絡することがわかった(後述の図4参照)。
【0019】
また、後述する図5に示されるように、この時間に対して上昇する逆バイアス電圧の上昇レートを大きくすると、上記課題の欄にて述べたように、表示品質を維持できない程度までオープン化してしまう欠陥品が発生し、一方、当該上昇レートを小さくすることで確実に欠陥品を短絡させられることを見出した。
【0020】
これは、時間に対して上昇する逆バイアス電圧の上昇レートを小さくすることにより、欠陥部において一度に大きな電流が流れないようになり、その結果、ジュール熱の発生が抑えられ、上部電極が飛散することなく短絡に至るものと推定される。
【0021】
この現象の詳細メカニズムは不明であるが、本発明者が新たに見出したことである。なお、上記特許文献1には、時間に対して電圧が上昇する逆バイアス電圧を印加する手法の記載があるが、時間に対して上昇する逆バイアス電圧の上昇レートを考慮する点については一切記載がない。
【0022】
そして、上記の電圧印加後の有機EL素子に対して発光時に印加する順電圧を印加してみると発光しなかった。これは電流が短絡した欠陥部に集中して流れるためである。このことは点灯状態による発光・非発光の外観を見ることなどにより、正常品と欠陥品とを判定できることを示している。
【0023】
上記の電圧印加後の欠陥品におけるオープン化した部位と短絡した部位とを、顕微鏡写真の画像から模式化した図として、図17に示す。上述のとおり、オープン化した部位は(図17(a)参照)、上部電極の飛散量が大きく表示品質の点で適用できないことがわかる。
【0024】
一方、図17(b)に示されるように、短絡した欠陥部はその直径が小さく、短絡していることを除けば、非駆動時では目視されない程度の小さなものであり、表示品質上、問題はない。
【0025】
このことは、この短絡した欠陥部における上部電極や有機膜を、レーザ等で除去し非導通化することで表示品質上、問題が無くなることを示している。また、この短絡した欠陥部は、顕微鏡観察のレベルで認識可能であり、このことは、欠陥部を、短絡した欠陥部として顕在化させ、その検出が可能となることを意味する。
【0026】
つまり、上記した実験検討によれば、上部電極の膜厚が135nm以上である有機EL素子においては、時間に対して電圧が上昇する逆電圧を、その上昇レートを考慮して印加することにより、欠陥品の欠陥部を、表示品質上問題となるようなオープン化を行うことなく短絡破壊させ、正常品か欠陥品かを点灯状態の外観などに基づいて判定できることがわかった。
【0027】
本発明は上記したような実験検討の結果、創出されたものであり、上部電極(40)を膜厚135nm以上として有機EL素子(100)を形成し、続いて、上下両電極(20、40)のうち陰極(40)側をプラス極、陽極(20)側をマイナス極としてこれら両電極(20、40)間に、直流電圧を、有機EL素子(100)に存在する欠陥部が短絡するレベル以上まで時間とともに上昇させながら印加し、その後、有機EL素子(100)において短絡した欠陥部の有無を検出するようにしたことを、第1の特徴とする。
【0028】
それによれば、上述したように、リークの発生しやすい欠陥部を、表示品質上、問題無いように短絡破壊して顕在化させることで、短絡した欠陥部の有無を検出して、正常品と欠陥品とを識別することができるため、良否判定を適切に行うことができる。
【0029】
ここで、この製造方法においては、後述する図5に示されるように、欠陥部短絡工程では、直流電圧の上昇レートを1V/秒以下とすることで、欠陥部の短絡破壊をより確実に行うことができる。
【0030】
また、直流電圧を時間とともに上昇させることは、連続的すなわち直線的な上昇でもよいが、時間に対して階段状に上昇させていくものでもよい(後述の図7参照)。
【0031】
また、欠陥部短絡工程では、直流電圧における印加の開始電圧を0Vよりも大きくすることによって、欠陥部短絡工程の処理時間を短くすることができる(後述の図8、図9参照)。
【0032】
また、判定工程によって検出された欠陥部の領域に位置する上部電極(40)もしくは有機膜(30)を除去することにより、当該欠陥部を修復するようにすれば、製品の歩留まりの向上が可能となる。
【0033】
ここで、欠陥部修復工程では、欠陥部に光エネルギーもしくは電気エネルギーを与えることにより、上部電極(40)もしくは有機膜(30)を焼失させるようにすることができる。
【0034】
また、判定工程は、有機EL素子(100)を点灯させた状態で外観検査を行うものにすれば、短絡した欠陥部は非発光となり、外観にて認識できるため、欠陥部の有無を検出できる。
【0035】
また、この外観検査は、欠陥部短絡工程の前と後との両時点で行い、欠陥部短絡工程の前後の外観の差により欠陥部の有無を検出するものにすれば、欠陥部短絡工程にて短絡した欠陥部を、それ以外の欠陥や異物などと識別して検出することが可能となる。
【0036】
また、判定工程は、有機EL素子(100)の上下電極(20、40)間のリーク電流を測定し、このリーク電流の値に基づいて有機EL素子(100)の欠陥部の有無を検出するものにできる。それによれば、電流値に基づく確実な判定が行える。
【0037】
また、このリーク電流の測定は、有機EL素子(100)における上下両電極(20、40)のうち陰極(40)側をプラス極、陽極(20)側をマイナス極として行うものにすれば、確実な判定が行える。
【0038】
ここで、リーク電流の測定は、有機EL素子(100)の実駆動時に用いられる逆バイアス電圧以上の電圧を印加して測定することが好ましい。
【0039】
また、リーク電流の測定は、欠陥部短絡工程の前と後との両時点で行い、欠陥部短絡工程の前後のリーク電流の差により欠陥部の有無を検出するものにすれば、欠陥部短絡工程にて短絡した欠陥部を、確実に検出することが可能となる。
【0040】
ここで、素子形成工程にて、有機EL素子(100)をマトリクス状に複数個形成した場合、欠陥部短絡工程にて、これら複数個の有機EL素子(100)における上下両電極(20、40)に対し、一括して上記の直流電圧を印加するようにすれば、複数個の有機EL素子(100)について一括して欠陥部の短絡を行うことができる。
【0041】
また、素子形成工程では、マトリクス状に配置された複数個の有機EL素子(100)を基板(10)上に形成するとともに、これら複数個の有機EL素子(100)における上下両電極(20、40)の少なくとも一方に対して欠陥部短絡工程において一括して直流電圧を送るための配線部(200)を、基板(10)上に形成するようにすれば、欠陥部短絡工程における電気的な接続箇所を少なくすることができる。
【0042】
また、本発明は、有機EL素子(100)の欠陥部の有無を検出する製造装置であって、第1の出力端子(311)および第2の出力端子(312)を有する直流電源(310)と、欠陥部を検出する検出手段(340、360)とを備え、第1の出力端子(311)と有機EL素子(100)の陽極側の電極(20)とを第1のリード線(321)、第1の端子部(331)を介して接続し、第2の出力端子(312)と有機EL素子(100)の陰極側の電極(40)とを第2のリード線(322)、第2の端子部(332)を介して接続し、直流電源(310)の第1の出力端子(311)をアースとし、第2の出力端子(312)にて時間とともに電圧が上昇する直流電圧を出力するようにしたことを、第2の特徴とする。
【0043】
それによれば、この製造装置を用いて、上記第1の特徴を有する製造方法における欠陥部短絡工程および判定工程を適切に実行することができる。
【0044】
ここで、この製造装置において、検出手段(360)によって検出された欠陥部の領域に位置する上部電極(40)を除去することにより、当該欠陥部を修復する欠陥部修復手段(370)を有するものとすれば、判定工程によって検出された欠陥部の修復を行うことができる。
【0045】
また、この製造装置において、直流電源(310)の第1の出力端子(311)に一定電圧を出力し、第2の出力端子(312)をアースとして有機EL素子(100)を点灯させ、この点灯状態の有機EL素子(100)の外観検査を検出手段(340)によって行い、欠陥部の有無を検出するようにすれば、上記の外観検査による判定工程を適切に行うことができる。
【0046】
また、上記製造装置における検出手段を、第1および第2のリード線(311、312)の少なくとも一方に電気的に接続された電流計測手段(360)を備え、直流電源(310)の第1の出力端子(311)をアースとし、第2の出力端子(312)に一定電圧を出力したときに電流計測手段(360)により計測される電流値により、欠陥部の有無を検出するものにすれば、上記のリーク電流の測定による判定工程を適切に行うことができる。
【0047】
なお、特許請求の範囲およびこの欄で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、説明の簡略化を図るべく、図中、同一符号を付してある。
【0049】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る1つの有機EL素子100の断面構成を示す図である。
【0050】
この有機EL素子100は、基板10上に、下部電極としての陽極20、有機膜30、上部電極としての陰極40を積層してなる。この有機EL素子100は、陰極40の膜厚が135nm以上であること以外は、一般的な有機EL素子と同様の膜構成を有するものである。
【0051】
すなわち、基板10はガラス、プラスチックなどの透明基板からなり、陽極20はITOなどの透明電極膜からなり、有機膜30は、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層などが積層されたものからなり、陰極40はアルミなどの金属電極からなるものである。
【0052】
そして、この有機EL素子100においては、実駆動時には、陽極20をプラス極、陰極40をマイナス極として両極20、40間に順電圧を印加することにより、有機膜30にて発光がなされ、たとえば、基板10側から光が取り出されるようになっている。
【0053】
ここで、本実施形態では、このような有機EL素子100を複数個マトリクス状の形成したものとしている。図2は、複数個の有機EL素子100をマトリクス状に形成した構成の概略平面図である。
【0054】
図2に示されるように、基板10上において、陽極20および陰極40が互いに交差するように延びるストライプ状に形成されており、これら上下両電極20、40が交差して重なり合う部位が、画素すなわち上記図1に示される有機EL素子100として構成されている。
【0055】
このようなマトリクス状に配置された有機EL素子100においては、図示しない駆動回路によって、複数個の有機EL素子100のうち所望のものを発光させることで、ディスプレイパネルとして使用できるようになっている。
【0056】
次に、有機EL素子100の製造方法について述べる。図3は本実施形態の有機EL素子の製造方法を示す工程フロー図である。
【0057】
まず、基板10上にスパッタなどにより下部電極としての陽極20を形成し、有機発光材料を用いて蒸着法により有機膜30を形成する。続いて、Alなどを蒸着することにより上部電極としての陰極40を膜厚135nm以上(たとえば、300nm程度)となるように形成する。
【0058】
ここで、本実施形態では、陽極20および陰極40を、フォトリソグラフ法などにより、上記図2に示されるようにストライプ状にパターニングすることで、有機EL素子100をマトリクス状に複数個形成する。ここまでが、素子形成工程であり、これにより、上記図1および図2に示される有機EL素子100が形成される。
【0059】
次に、欠陥部短絡工程では、この有機EL素子100における陰極40をプラス極、陽極20をマイナス極として両電極20、40間に、上記順電圧とは逆方向の直流電圧すなわち逆バイアス電圧を印加する。
【0060】
ここで、逆バイアス電圧は、有機EL素子100に存在する欠陥部が短絡するレベル以上まで時間とともに上昇させながら印加する。本発明者の検討によれば、有機EL素子において欠陥部が短絡するレベルとは、たとえば35V〜40V程度である。このような逆バイアス電圧の印加は直流電源を用いて行うことができる。
【0061】
ここで、図2において逆バイアス電圧の印加は、個々の有機EL素子100毎に行ってもよいが、複数個の有機EL素子100における上下両電極20、40をそれぞれ、共通の配線を用いて直流電源に接続し、複数個の有機EL素子100に対して一括して逆バイアス電圧を印加するようにしてもよい。それによれば、複数個の有機EL素子100について一括して欠陥部の短絡を行うことができ、短時間の処理が可能となる。
【0062】
なお、この欠陥部短絡工程では、欠陥部の短絡破壊をより確実に行うために、直流電圧である逆バイアス電圧の上昇レートを1V/秒以下とする。この逆バイアス電圧を時間とともに上昇させることは、連続的な上昇でもよいが、時間に対して階段状に上昇させていくものでもよい。
【0063】
さらに、欠陥部短絡工程では、欠陥部短絡工程の処理時間を短くすべく、逆バイアス電圧における印加の開始電圧を0Vよりも大きくする。なお、これら上昇レートや開始電圧についての詳細は、後述の図4〜図9にてより具体的に述べる。
【0064】
そして、本実施形態では、この欠陥部短絡工程を行った後、有機EL素子100において短絡した欠陥部の有無を検出する判定工程を行う。具体的には、この判定工程では、有機EL素子100に順電圧を印加することで点灯させた状態とし、この状態で外観検査を行うようにする。
【0065】
ここで、本実施形態の製造方法において、短絡した欠陥部は、上記図17(b)に示されるようなものであり、目視されずに表示品質上問題ない小さなものであるが、顕微鏡観察のレベルで認識可能である。
【0066】
しかし、たとえば、上記図2に示される複数個の有機EL素子100がマトリクス状に形成されている場合、正常な有機EL素子100は発光し、短絡した欠陥部が存在する有機EL素子100は非発光となるため、目視にて欠陥部の有無を検出することができる。そして、この判定工程において、欠陥部が存在する有機EL素子100は、観察者によって欠陥品として判定される。
【0067】
このように、本実施形態の製造方法によれば、リークの発生しやすい欠陥部を、表示品質上、問題無いように短絡破壊して顕在化させることで、短絡した欠陥部の有無を検出して、正常品と欠陥品とを識別することができるため、有機EL素子100の良否判定を適切に行うことができる。
【0068】
ここにおいて、本実施形態では、上述したように、欠陥部短絡工程において、有機EL素子100に対して、欠陥部が短絡するレベル以上まで時間とともに電圧が上昇する逆バイアス電圧を印加する。このような逆バイアス電圧を印加する根拠は、上記解決手段の欄にも述べたが、本発明者の実験検討の結果によるものである。この検討およびそれに基づく根拠について、より具体的に述べる。
【0069】
上記図1に示される素子構成において、有機膜30の膜厚tを変えることで、リーク電流の発生しやすい欠陥品を作製した。リーク電流の発生度合に関する主たるパラメータは、有機膜30の膜厚t(図1参照)であり、この有機膜30を薄くすることでリーク電流が発生しやすくなる。
【0070】
欠陥品としては、有機膜30の膜厚tを60nm以下とした。この60nm以下の膜厚tは、通常の有機EL素子中に存在する段差などにより生じる欠陥部の膜厚であり、通常の有機EL素子においてリークが発生する範囲である。
【0071】
ちなみに、欠陥部の断面分析からも有機膜30の膜厚tが概ね60nmであることを確認している。どれほどの膜厚tを欠陥品とするかは、使用する環境も考慮して設計的に決まる。有機膜の膜厚tが厚くなれば短絡させるまでの必要電圧が大きくなるだけで、本発明の有効性は変わらない。
【0072】
そして、n=10の欠陥品について、室温環境のもと、時間とともに1V/秒のレートで上昇する逆バイアス電圧を、上記欠陥部短絡工程と同様にして、有機EL素子100の欠陥部が短絡するまで印加した。
【0073】
図4は、この時の逆バイアスの印加電圧に対する有機EL素子100に流れるリーク電流の対数値(任意単位)を示す。このように、各測定サンプルにおいてリークが発生し、欠陥品が短絡することがわかった。
【0074】
さらに、時間とともに上昇する逆バイアス電圧の上昇レートを種々変えて、欠陥部短絡工程を実施した。その結果を図5に示す。この図5では、横軸に逆バイアス電圧の上昇レートをとり、左の縦軸に短絡による欠陥検出率をとり、右の縦軸にオープン化する率をとってある。
【0075】
短絡による欠陥検出率とは、上記図17(b)に示されるように欠陥部が短絡した欠陥部となる割合であり、オープン化する率とは、上記図17(a)に示されるように表示品質が維持できないオープン化が発生する割合である。
【0076】
この図5に示されるように、逆バイアス電圧の上昇レートを大きくするとオープン化する欠陥品が発生し、上昇レートを小さくすることで確実に欠陥品を短絡できることがわかった。
【0077】
また、上昇レートが1V/秒以下の場合は、短絡による欠陥検出率が90%以上であり、0.7V/秒以下の場合は100%であるが、2V/秒になると、オープン化してしまう割合の方が大きくなってしまう。このような図5に示される結果より、逆バイアス電圧の上昇レートを1V/秒以下、好ましくは0.7V/秒以下とすることで、欠陥品の欠陥部を確実に短絡破壊できることがわかる。
【0078】
また、この逆バイアス電圧の上昇レートを1V/秒以下とすることで欠陥品の欠陥部を確実に短絡破壊できることは、上部電極すなわち陰極40の膜厚が135nm以上であれば、当該膜厚によらず実現可能である。
【0079】
このことの検証例を図6に示す。図6は、逆バイアス電圧の上昇レートを0.5V/秒とし、陰極40の膜厚(つまり上部電極膜厚)を変化させた時の短絡による欠陥部検出率を調べた結果を示す図である。この図6に示されるように、上部電極である陰極40の膜厚が135nm以上であれば、上記効果が発現することを確認した。
【0080】
また、上述したように、欠陥部短絡工程では、逆バイアス電圧を時間とともに連続的に上昇させてもよいが、階段状に上昇させていくものでもよい。この階段状に上昇する逆バイアス電圧の一例を図7に示す。
【0081】
この図7に示される例では、電圧が時間に対して所定の電圧まで、所定の時間を保持しながら、階段状に上昇する。本例では、1V/秒の上昇レートで逆バイアス電圧が時間に対して、不連続的にすなわち階段状に上昇している。逆バイアス電圧の上昇レートが同じであれば、連続的であっても階段状であっても同様の効果が得られる。
【0082】
また、本実施形態では、欠陥部短絡工程にて、逆バイアス電圧における印加の開始電圧を0Vよりも大きくすることが好ましいが、その開始電圧を0Vよりも大きくした逆バイアス電圧の一例を図8に示す。
【0083】
図8に示される例では、開始電圧が10Vであり、逆バイアス電圧は、時間とともに上昇レート1V/秒にて連続的に上昇している。逆バイアス電圧の上昇レートが同じであれば、開始電圧に関わらず同様の効果が得られるため、開始電圧を高くすることで、開始電圧を0とした場合よりも処理時間を短くすることが可能となる。
【0084】
図9は、上記欠陥品を用いて逆バイアス電圧の上昇レートを0.5V/秒とし、開始電圧を変化させた時の短絡による欠陥部検出率を調べた結果を示す図である。図9に示されるように、当該欠陥部検出率が開始電圧に依存しないことがわかる。
【0085】
ただし、逆バイアス電圧の開始電圧が欠陥品が短絡するレベルの電圧(35V〜40V程度)に近づくと、欠陥部検出率が落ちている。これは、短絡するレベルの電圧に近い大きな逆バイアス電圧をいきなり印加すると、上記図17(a)に示されるようなオープン破壊の状態になるためである。このことから、開始電圧の上限は、欠陥部が短絡するレベルよりも10V程度以上低い電圧であることが好ましい。
【0086】
このように、本実施形態の製造方法によれば、上部電極40の膜厚が135nm以上である有機EL素子100において、リーク電流の発生しやすい欠陥部を顕在化させて良否判定を適切に行うことができる。
【0087】
また、本実施形態においては、判定工程は、有機EL素子100を点灯させた状態で外観検査を行うものとしているが、この外観検査は、欠陥部短絡工程の前と後との両時点で行ってもよい。
【0088】
それによれば、欠陥部短絡工程にて短絡した欠陥部のみを実質的に検出でき、それ以外の欠陥や異物などと識別して検出することが可能となる。たとえば、有機EL素子100の表面に付着するゴミなどが存在する場合には、このようなゴミと短絡した欠陥部とを層別した判定が可能となる。
【0089】
また、本実施形態の製造方法において判定工程は、上記の外観検査以外にも、有機EL素子100の上下電極20、40間のリーク電流を測定し、このリーク電流の値に基づいて有機EL素子100の欠陥部の有無を検出するものにでもよい。
【0090】
たとえば、本製造方法において、上記欠陥部短絡工程を行った後、直流電源などにより有機EL素子100の上下電極20、40間に電圧を印加すれば、短絡した欠陥部が存在する場合には、電流値の異常すなわちリーク電流が確認できる。
【0091】
そして、このときに、大きなリーク電流が発生すれば、欠陥品であると判定できる。人間による目視判定では判定を誤る可能性があるが、リーク電流値により判定することで確実な判定が可能となる。
【0092】
また、このリーク電流の測定は、有機EL素子100における上下両電極20、40のうち陰極40側をプラス極、陽極20側をマイナス極として行うものにした方が好ましい。逆バイアス電圧とすれば、正常品にはほとんど電流が流れないため、短絡した欠陥部と正常部とをより明確に判定することができる。
【0093】
また、このリーク電流の測定は、有機EL素子100の実駆動時に用いられる逆バイアス電圧以上の電圧を印加して測定することが好ましい。実際の駆動時に発生するリーク部分を検出するという観点より、実駆動、本例ではマトリクス駆動する際に用いられる逆バイアス電圧以上の電圧を印加して測定することが望ましい。
【0094】
また、リーク電流の測定は、欠陥部短絡工程の前と後との両時点で行い、欠陥部短絡工程の前後のリーク電流の差により欠陥部の有無を検出するほうがよい。それによれば、素子構造の違いにより発生する電気特性に関係なく判定が行え、欠陥部短絡工程にて短絡した欠陥部を、確実に検出することが可能となる。
【0095】
ところで、上述したが、上記図17(b)に示されるように、短絡した欠陥部はその直径が小さく、非駆動時には目視されない小さなものであることから、この短絡した欠陥部を、非導通化することで品質上問題が無くなる。そこで、上記図3に示されるように、本実施形態の製造方法では、外観検査やリーク電流による判定工程の後に、さらに、この短絡した欠陥部を修復する欠陥部修復工程を実行する。
【0096】
この欠陥部修復工程は、判定工程によって検出された欠陥部の領域に位置する上部電極としての陰極40もしくは有機膜30を除去することにより、当該欠陥部を修復するものである。
【0097】
具体的には、欠陥部修復工程では、短絡した欠陥部に光エネルギーもしくは電気エネルギーを与えることにより、陰極40もしくは有機膜30を焼失させるものにできる。たとえば、光学的にはレーザ照射装置を用いてレーザで陰極40を焼失させて欠陥部を非導通化させることができる。
【0098】
このレーザによる修復の例を図10に示す。図10において(a)は、修復前の短絡した欠陥部の顕微鏡写真を模式化した図であり、(b)は、修復後の修復された欠陥部すなわち修復部の顕微鏡写真を模式化した図である。また、図11は、修復前の欠陥品と修復後の欠陥品との電気特性を調査した結果を示す図であり、印加電圧とリーク電流の対数値との関係を示す図である。
【0099】
図10(a)、(b)に示されるように、修復前の短絡した欠陥部も、修復後の修復部も、目視できないレベルのたとえば50μm未満の小さなものであり、表示品質上問題はない。ここでは、修復部は、レーザによって、陰極40と有機膜30との両方が除去されることで非導通化され修復されている。
【0100】
そして、図11に示されるように、修復前の短絡した欠陥部では、上下電極20、40間に電圧を加えることによりリーク電流が流れるが、修復部では、リーク電流が流れず非導通部となっており、修復がなされていることが確認される。なお、図11では、修復前のものにおいて、0Vよりも大きな印加電圧に対するリーク電流の値は、測定限界を越えているため、便宜上、測定限界で示してある。
【0101】
また、欠陥部修復工程において、電気的には、たとえば、上下電極20、40間に逆バイアス電圧を印加するなどの手段によって、陰極40もしくは有機膜30を焼失させて欠陥部を非導通化させることができる。
【0102】
ここで、逆バイアスに電圧印加して修復を行う場合、欠陥部に流れる電流を制限する必要があり、本発明者の検討によれば、この修復時の制限電流値を50μA以下の値とする必要がある。この逆バイアス電圧による修復の詳細メカニズムは不明であるが、電流によるジュール発熱により短絡した欠陥部の有機膜30を焼き切ることで非導通化できると推定される。
【0103】
この時、上下電極20、30間を熱変形などによって近接させることなく焼き切る必要があり、これら電極を熱変形させないためには、電流値を50μA以下の小さい値とする必要があると考える。そして、この場合も、短絡した欠陥部は直径が約50μm以下と小さく、欠陥部修復工程後も同様であることから、目視されることなく表示品質上問題が無くなる。
【0104】
この逆バイアス電圧による修復の例を図12、図13に示す。図12において(a)、(b)、(c)は、それぞれ上記修復時の制限電流を50μA、100μA、1mAとしたときの欠陥部の顕微鏡写真を模式化した図であり、図13は、図12に示される各修復後の欠陥部の電気特性を調査した結果を示す図であり、逆バイアス電圧の印加時間(任意単位)と制限電流(nA)との関係を示す図である。
【0105】
図12、図13に示されるように、制限電流を50μAとした場合には、修復後の欠陥部は目視できないレベルのたとえば50μm未満の小さなものであり、表示品質上問題はなく、また、途中で制限電流が流れなくなっており、修復が適切になされた修復部となっていることがわかる。しかし、制限電流をそれよりも大きくした場合には、短絡した欠陥部の周辺の電極が熱変形して修復できず、この熱変形部は、目視可能なほどに大きくなってしまう。
【0106】
ここで、制限電流の調整は、上下電極20、40間に逆バイアス電圧を印加して、短絡した欠陥部に流れる制限電流をモニターしながら、当該逆バイアス電圧を調整することで可能である。
【0107】
このように、本実施形態の製造方法において、欠陥部修復工程を行うことにより、欠陥部の領域は小さいので、表示品質上、問題なく修復でき、製品の歩留まりの向上が可能となる。
【0108】
なお、上記図1に示される有機EL素子100において、有機膜30の膜材料を通常用いられる数種類のものに変えた場合に、同様の検討を行ったところ、上記図4〜図13に示されるものと同様の傾向が得られた。このことから、上記図4〜図13に示される傾向は、上部電極40の膜厚が135nm以上の有機EL素子ならば広く反映されるものと考えられる。
【0109】
次に、本実施形態の製造方法を適用した一具体例を挙げておくが、本実施形態は、この例に限定されるものではない。
【0110】
基板10としてガラス基板を用意し、この基板10の上にITOからなる陽極20を形成した。そして、この陽極20に対して、UVオゾンと酸素を含有するガスによるプラズマ処理などによって表面処理を行った。
【0111】
続いて、この陽極20の上に、蒸着法により有機膜30を形成した。ここでは、陽極20側から正孔輸送層、発光層、電子輸送層が積層された有機膜30とした。
【0112】
まず、陽極20の上に、平坦化層となる第1の正孔輸送層として市販されているトリフェニルアミンA(Tg:135℃)を60nmの厚さで形成した。続いて、この第1の正孔輸送層を160℃で、10分間、平坦化処理した。その上に、第2の正孔輸送層として、市販されているトリフェニルアミンB(Tg:200℃以上)を24nmの厚さで形成した。
【0113】
その後、この上に、発光層として、クマリンを1%ドープしたアルミキノリノール(Tg:167℃)とトリフェニルアミンBとを1:1の比で混合したものであって、厚さ60nmにて成膜されたものを形成した。そして、その上に、厚さ30nmのアルミキノリノールからなる電子輸送層を形成した。
【0114】
こうして、正孔輸送層、発光層、電子輸送層が積層されてなる有機膜30を形成した後、その上に、厚さ0.5nmのLiFなどからなる電子注入層を形成し、さらに厚さ300nmのAl−0.2%Cuからなる陰極40を形成した。
【0115】
そして、この有機EL素子を露点−70℃以下の乾燥窒素雰囲気に入れ、封止用の掘り込みガラスからなるカバーに吸湿剤をつけて封止した。こうして、有機EL素子100を形成した。
【0116】
また、このような有機EL素子100を複数個作製した。そして、これら複数個の有機EL素子100について、欠陥部短絡工程を行った。ここでは、室温雰囲気にて、開始電圧10V、上昇レート0.5V/秒、欠陥部が短絡するレベル以上の値として最終的な電圧値が40Vとなる逆バイアス電圧を印加した。
【0117】
この欠陥部短絡工程の終了後に、判定工程として、室温雰囲気で有機EL素子100に順電圧を印加した点灯状態にて外観検査を行い、短絡した欠陥部の有無を検出し、欠陥のない有機EL素子を良品とする良否判定を実施した。
【0118】
次に、各有機EL素子100について、良品の各素子群について、85℃の恒温槽内で500時間、連続点灯試験を実施した。
【0119】
この点灯試験の印加波形としては、125Hz、1/64デューティの矩形パルスであり、1周期の詳細としては、順バイアス電圧12Vを1回印加し、続いて、逆バイアス電圧−15Vを63回印加するものとした。また、各素子について、リーク電流が初期の4倍以上となった場合をリーク発生有とした。
【0120】
この試験の結果、良品の素子群では、リーク発生率は0であった。このように、本実施形態の製造方法により良品と判定された有機EL素子は、実駆動中のリークを確実に防止できる。
【0121】
なお、本実施形態の製造方法において、陰極40の膜厚を135nm以上とすること、および、欠陥部短絡工程における逆バイアス電圧の上昇レートを1V/秒とすること、というように境界を設けているが、これらの値は実質的に均等な範囲で幅を持った値も含むものである。
【0122】
(第2実施形態)
図14は、本発明の第2実施形態に係る有機EL素子の製造方法を示す図であり、本製造方法における欠陥部短絡工程に供するワークの概略平面図である。
【0123】
図14に示されるように、本製造方法においても、上記第1実施形態と同様に、素子形成工程では、マトリクス状に配置された複数個の有機EL素子100を基板10上に形成する。
【0124】
ここで、本製造方法では、複数個の有機EL素子100における上下両電極20、40に対して欠陥部短絡工程において一括して直流電圧を送るための配線部200を、基板10上に形成する。
【0125】
この配線部200は、複数個の陽極20を一体に連結して導通する配線部200と、複数個の陰極40を一体に連結して導通する配線部200の2つよりなる。各配線部200は、基板10上に形成されたITOやAlまたは銅などの導体パターンにより構成されたものである。
【0126】
そして、欠陥部短絡工程では、この配線部200に上記した直流電源を接続することにより、複数個の有機EL素子100における上下両電極20、40に対し、一括して逆バイアス電圧を印加し、複数個の有機EL素子100について一括して欠陥部の短絡を行うことができる。
【0127】
そして、この場合、欠陥部短絡工程の後、判定工程や欠陥部修復工程などを行うとともに、図14中の四角形の破線に示されるように、基板10を切断することにより、上記図2に示したような複数個の有機EL素子100がマトリクス状に形成されたものを製造することができる。
【0128】
このように、本製造方法によれば、複数個の有機EL素子100について一括して欠陥部の短絡を行う場合において、欠陥部短絡工程における電気的な接続箇所を少なくすることができる。その結果として、接続不良による誤判定の防止や、低コストでの処理が可能となる。
【0129】
(第3実施形態)
図15は、本発明の第3実施形態に係る有機EL素子の製造装置300の構成を模式的に示す図である。本実施形態の製造装置300は、有機EL素子100の欠陥部の有無を検出するものであり、上記第1実施形態の製造方法における欠陥部短絡工程、判定工程を行う検査装置として適用される。
【0130】
図15に示されるように、本製造装置300は、第1の出力端子311および第2の出力端子312を有する直流電源310を備えている。この直流電源310は電気信号などにより、出力電圧を適宜調整可能な一般的なものである。
【0131】
この直流電源310の第1の出力端子311には、金属線などの導体線材などよりなる第1のリード線321の一端部が電気的に接続され、この第1のリード線321の他端部は第1の端子部331に電気的に接続されている。
【0132】
この第1の端子部331は、導体材料よりなるものであって、有機EL素子100における陽極20に電気的に接続されるものである。ここでは、素子形成工程により形成された有機EL素子100は、マトリクス状に複数個形成されたものであり、第1の端子部331は、第1のリード線321から分岐して複数個の有機EL素子100の陽極20に一括して電気的に接続される第1の端子群331として構成されている。
【0133】
一方、直流電源310の第2の出力端子312には、金属線などの導体線材などよりなる第2のリード線322の一端部が電気的に接続され、この第2のリード線322の他端部は、導体材料よりなる第2の端子部332に電気的に接続されている。
【0134】
この第2の端子部332は、有機EL素子100における陰極40に電気的に接続されるものであり、上記第1の端子部331と同様に、本実施形態の第2の端子部332は、第2のリード線322から分岐して複数個の有機EL素子100の陰極40に一括して電気的に接続される第2の端子群332として構成されている。
【0135】
このような第1の端子部としての第1の端子群331、および、第2の端子部としての第2の端子群332としては、たとえば、複数個の陽極20、陰極40に対応した数を持つ櫛歯金属状の配線部材が挙げられる。
【0136】
また、本製造装置300は、欠陥部を検出する検出手段としてカメラ340を有している。このカメラ340は、欠陥部短絡工程後の有機EL素子100の外観を画像として記録できるものであり、たとえばCCDなどよりなる。
【0137】
そして、これら直流電源310およびカメラ340は、制御部350に電気的に接続されている。この制御部350は、直流電源300およびカメラ340の作動を制御したり、カメラ340の画像を記録したりするもので、パソコンなどよりなる。
【0138】
具体的に、本製造装置300では、欠陥部短絡工程において、制御部350が直流電源310を制御することにより、直流電源310の第1の出力端子311をアースとし、第2の出力端子312にて時間とともに電圧が上昇する上記逆バイアス電圧を出力するようにしている。これにより、上記の欠陥部短絡工程が行われる。
【0139】
そして、判定工程では、制御部350が直流電源310を制御することにより、直流電源310の第1の出力端子311に一定電圧(たとえば10V程度)を出力し、第2の出力端子312をアースとして有機EL素子100を点灯させる。また、制御部350によって、カメラ340が作動し、この点灯状態の有機EL素子100の画像を撮影し、撮影された画像は制御部350に記録される。
【0140】
そして、外観検査は、このカメラ340により記録された画像によって行われ、制御部350は記録した画像に基づいて、欠陥部の有無を判定する。こうして、上記の判定工程が行われ、良否判定がなされる。
【0141】
このように、本実施形態の製造装置300によれば、上記第1実施形態に示した有機EL素子100の製造方法において、欠陥部短絡工程および外観検査による判定工程を連続して行うことができる。
【0142】
また、本製造装置300によれば、外観検査において特に点灯用の直流電源を別体に用意することが不要となり、低コストな製造が可能となる。また、カメラ340および制御部350により外観検査を自動化できる。
【0143】
また、本実施形態では、第1および第2の端子部331、322を、上記した端子群として構成することにより、有機EL素子100をマトリクス状に複数個形成した場合、これら複数個の有機EL素子100について一括して、欠陥部短絡工程および判定工程を行うことができる。
【0144】
(第4実施形態)
図16は、本発明の第4実施形態に係る有機EL素子の製造装置400の構成を模式的に示す図である。本実施形態の製造装置400は、有機EL素子100の欠陥部の有無を検出するものであり、上記第1実施形態の製造方法における欠陥部短絡工程、判定工程および欠陥部修復工程を行う製造装置として適用される。
【0145】
本製造装置400について、上記第4実施形態と相違する点を中心に述べる。図16に示されるように、本製造装置400は、上記第3実施形態とは異なり、検出手段であり電流計測手段としての電流計測部360を有する。この電流計測部360は、一般的な直流電流測定を行うものであり、第2のリード線322の途中に介在して当該第2のリード線322に電気的に接続されている。
【0146】
この電流計測部360は、制御部350によって作動制御され、有機EL素子100に流れる電流を測定できるようになっている。なお、電流測定部360は、有機EL素子100に流れる電流を測定できればよく、第1のリード線321側に接続されていてもよいし、第1および第2のリード線321、322の両方に接続されていてもよい。
【0147】
本製造装置400においても、制御部350によって、直流電源310の第1の出力端子311をアースとし、第2の出力端子312にて上記逆バイアス電圧を出力することで、欠陥部短絡工程が行われる。
【0148】
そして、本実施形態では、判定工程では、制御部350が直流電源310を制御することにより、直流電源310の第1の出力端子311をアースとし、第2の出力端子312に一定電圧(たとえば10V程度)を出力する。こうして有機EL素子100に逆バイアス電圧を印加した状態で、電流計測部360によって有機EL素子100のリーク電流を計測する。
【0149】
そして、この電流計測部360により計測されたリーク電流は、制御部350に送られ、制御部350では、このリーク電流の値によって欠陥部の有無を検出する。こうして、本実施形態では、上記したリーク電流の測定による判定工程を適切に行えるようになっている。
【0150】
さらに、本製造装置400では、判定工程によって検出された欠陥品における短絡した欠陥部を修復する欠陥部修復手段として、レーザ照射装置370を有する。このレーザ照射装置370は、検出された欠陥部の領域にレーザを照射して当該領域に位置する上部電極40を除去するものである。
【0151】
たとえば、レーザ照射装置370としては、YAGなどの半導体レーザなどを用いることができ、このレーザ照射装置370の作動は、制御部350からの信号により制御されるようになっている。
【0152】
本製造装置400では、判定工程によって欠陥品が検出されたとき、これを制御部350が認識して短絡した欠陥部の位置を特定し、レーザ照射装置370に指令を送って当該欠陥部にレーザを照射する。それにより、上記したレーザによる欠陥部修復工程を行うことができる。
【0153】
このように、本実施形態の製造装置400によれば、上記第1実施形態に示した有機EL素子100の製造方法において、欠陥部短絡工程、リーク電流による判定工程およびレーザによる欠陥部修復工程を連続して行うことができる。
【0154】
また、本実施形態によれば、電流計測部360を持った構成とすることにより、リーク電流による欠陥部の検出を自動化できる。また、電流測定用の直流電源を追加することなく、低コストな検出が実現できる。
【0155】
(他の実施形態)
なお、上記第3および第4実施形態の製造装置では、第1および第2の端子部331、332は端子群として構成されていたが、端子群を単一の端子部に変えれば、これらの製造装置は上記第2実施形態に用いてもよい。
【0156】
また、上記した各製造装置において、検出手段や欠陥部修復手段は、上記したカメラや電流計測部、レーザ照射装置に限定されるものではない。また、各手段をさらにいろいろな形態で組み合わせてもよい。たとえば、上記第4実施形態における製造装置において、電流計測部に代えてカメラを加えてもよい。
【0157】
また、有機EL素子としては、上記図2に示したような複数個のものでなくてもよく、たとえば基板に1個の有機EL素子が形成されている場合であっても、上記第1実施形態の製造方法は適用が可能である。
【0158】
また、上記各実施形態では、陽極20を下部電極、陰極40を上部電極として構成した有機EL素子100の例を示したが、これとは反対に、上部電極をITOなどの透明な陽極とし、下部電極をAlなどの陰極として、上部電極側より光を取り出す構造、いわゆるトップエミッション構造としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0159】
【図1】本発明の第1実施形態に係る有機EL素子の断面図である。
【図2】複数個の有機EL素子をマトリクス状に形成した構成の概略平面図である。
【図3】第1実施形態の有機EL素子の製造方法を示す工程フロー図である。
【図4】逆バイアスの印加電圧に対する有機EL素子に流れるリーク電流との関係を示す図である。
【図5】逆バイアス電圧の上昇レートに対する短絡による欠陥検出率およびオープン化する率の変化を示す図である。
【図6】上部電極膜厚を変化させた時の短絡による欠陥部検出率を調べた結果を示す図である。
【図7】階段状に上昇する逆バイアス電圧の一例を示す図である。
【図8】開始電圧を0Vよりも大きくした逆バイアス電圧の一例を示す図である。
【図9】開始電圧を変化させた時の短絡による欠陥部検出率を調べた結果を示す図である。
【図10】(a)はレーザによる修復前の欠陥部を示す図であり、(b)はレーザによる修復部の図である。
【図11】レーザによる修復前の欠陥品と修復後の欠陥品の電気特性の調査結果を示す図である。
【図12】逆バイアス電圧による修復の例を示す図である。
【図13】図12に示される各修復部の電気特性を調査した結果を示す図である。
【図14】本発明の第2実施形態に係る有機EL素子の製造方法を示す概略平面図である。
【図15】本発明の第3実施形態に係る有機EL素子の製造装置の構成を模式的に示す図である。
【図16】本発明の第4実施形態に係る有機EL素子の製造装置の構成を模式的に示す図である。
【図17】欠陥品におけるオープン化した部位と短絡した部位とを示す図である。
【図18】種々の逆電圧における上部電極膜厚とオープン化成功率との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0160】
10…基板、20…下部電極としての陽極、30…有機膜、
40…上部電極としての陰極、100…有機EL素子、310…直流電源、
311…直流電源の第1の出力端子、312…直流電源の第2の出力端子、
321…第1のリード線、322…第2のリード線、
331…第1の端子部としての第1の端子群、
332…第2の端子部としての第2の端子群、340…検出手段としてのカメラ、
360…検出手段としての電流計測部、
370…欠陥部修復手段としてのレーザ照射装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(10)上に、下部電極(20)、有機膜(30)、上部電極(40)を積層してなる有機EL素子(100)を形成する素子形成工程を備える有機EL素子の製造方法において、
前記素子形成工程では、前記上部電極(40)を膜厚135nm以上にて形成し、
続いて、前記有機EL素子(100)における前記上下両電極(20、40)のうち陰極(40)側をプラス極、陽極(20)側をマイナス極としてこれら両電極(20、40)間に、直流電圧を、前記有機EL素子(100)に存在する欠陥部が短絡するレベル以上まで時間とともに上昇させながら印加する欠陥部短絡化工程と、
前記有機EL素子(100)において前記欠陥部短絡化工程により短絡した欠陥部の有無を検出する判定工程とを、備えることを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項2】
前記欠陥部短絡工程では、前記直流電圧の上昇レートを1V/秒以下とすることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項3】
前記欠陥部短絡工程では、前記直流電圧を、時間に対して階段状に上昇させていくことを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項4】
前記欠陥部短絡工程では、前記直流電圧における印加の開始電圧を0Vよりも大きくすることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項5】
前記判定工程によって検出された前記欠陥部の領域に位置する前記上部電極(40)もしくは前記有機膜(30)を除去することにより、当該欠陥部を修復する欠陥部修復工程を備えることを特徴とする請求項1ないし4に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項6】
前記欠陥部修復工程では、前記欠陥部に光エネルギーもしくは電気エネルギーを与えることにより、当該上部電極(40)もしくは有機膜(30)を焼失させることを特徴とする請求項5に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項7】
前記判定工程は、前記有機EL素子(100)を点灯させた状態で外観検査を行い、前記欠陥部の有無を検出するものであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項8】
前記外観検査は、前記欠陥部短絡工程の前と後との両時点で行い、前記欠陥部短絡工程の前後の外観の差により前記欠陥部の有無を検出することを特徴とする請求項7に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項9】
前記判定工程は、前記有機EL素子(100)の前記上下電極(20、40)間のリーク電流を測定し、前記リーク電流の値に基づいて前記有機EL素子(100)の欠陥部の有無を検出することにより行うことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項10】
前記リーク電流の測定は、前記有機EL素子(100)における前記上下両電極(20、40)のうち陰極(40)側をプラス極、陽極(20)側をマイナス極として行うことを特徴とする請求項9に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項11】
前記リーク電流の測定は、前記有機EL素子(100)の実駆動時に用いられる逆バイアス電圧以上の電圧を印加して測定することを特徴とする請求項9または10に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項12】
前記リーク電流の測定は、前記欠陥部短絡工程の前と後との両時点で行い、前記欠陥部短絡工程の前後のリーク電流の差により前記欠陥部の有無を検出することを特徴とする請求項9ないし11のいずれか1つに記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項13】
前記素子形成工程では、前記有機EL素子(100)をマトリクス状に複数個形成し、
前記欠陥部短絡工程では、これら複数個の有機EL素子(100)における前記上下両電極(20、40)に対し、一括して前記直流電圧を印加することを特徴とする請求項1ないし12のいずれか1つに記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項14】
前記素子形成工程では、前記マトリクス状に配置された複数個の前記有機EL素子(100)を前記基板(10)上に形成するとともに、
これら複数個の有機EL素子(100)における前記上下両電極(20、40)の少なくとも一方に対して前記欠陥部短絡工程において一括して直流電圧を送るための配線部(200)を、前記基板(10)上に形成することを特徴とする請求項13に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項15】
基板(10)上に、下部電極(20)、有機膜(30)、膜厚135nm以上の上部電極(40)を積層してなる有機EL素子(100)の欠陥部の有無を検出する製造装置であって、
第1の出力端子(311)および第2の出力端子(312)を有する直流電源(310)と、
前記第1の出力端子(311)に第1のリード線(321)を介して接続され、かつ前記有機EL素子(100)における陽極側の電極(20)に電気的に接続される第1の端子部(331)と、
前記第2の出力端子(312)に第2のリード線(322)を介して接続され、かつ前記有機EL素子(100)における陰極側の電極(40)に電気的に接続される第2の端子部(332)と、
前記欠陥部を検出する検出手段(340、360)とを備え、
前記直流電源(310)の前記第1の出力端子(311)をアースとし、前記第2の出力端子(312)にて時間とともに電圧が上昇する直流電圧を出力するようにしたことを特徴とする有機EL素子の製造装置。
【請求項16】
前記検出手段(360)によって検出された前記欠陥部の領域に位置する前記上部電極(40)を除去することにより、当該欠陥部を修復する欠陥部修復手段(370)を有することを特徴とする請求項15に記載の有機EL素子の製造装置。
【請求項17】
前記直流電源(310)の前記第1の出力端子(311)に一定電圧を出力し、前記第2の出力端子(312)をアースとして前記有機EL素子(100)を点灯させ、この点灯させた状態の前記有機EL素子(100)の外観検査を前記検出手段(340)によって行い、前記欠陥部の有無を検出することを特徴とする請求項15または16に記載の有機EL素子の製造装置。
【請求項18】
前記検出手段は、前記有機EL素子(100)の画像を記録するカメラ(340)を備えており、前記外観検査は、このカメラ(340)により記録された画像によって行うことを特徴とする請求項17に記載の有機EL素子の製造装置。
【請求項19】
前記検出手段は、前記第1のリード線(311)および前記第2のリード線(312)の少なくとも一方に電気的に接続された電流計測手段(360)を備え、
前記直流電源(310)の前記第1の出力端子(311)をアースとし、前記第2の出力端子(312)に一定電圧を出力したときに前記電流計測手段(360)により計測される電流値により、前記欠陥部の有無を検出するものであることを特徴とする請求項15または16に記載の有機EL素子の製造装置。
【請求項20】
前記有機EL素子(100)をマトリクス状に複数個形成したものについて用いられるものであり、
前記第1の端子部は、前記第1のリード線(321)から分岐して前記複数個の有機EL素子(100)の陽極側の電極(20)に電気的に接続される第1の端子群(331)として構成されたものであり、
前記第2の端子部は、前記第2のリード線(322)から分岐して前記複数個の有機EL素子(100)の陰極側の電極(40)に電気的に接続される第2の端子群(332)として構成されたものであることを特徴とする請求項15ないし19のいずれか1つに記載の有機EL素子の製造装置。
【請求項1】
基板(10)上に、下部電極(20)、有機膜(30)、上部電極(40)を積層してなる有機EL素子(100)を形成する素子形成工程を備える有機EL素子の製造方法において、
前記素子形成工程では、前記上部電極(40)を膜厚135nm以上にて形成し、
続いて、前記有機EL素子(100)における前記上下両電極(20、40)のうち陰極(40)側をプラス極、陽極(20)側をマイナス極としてこれら両電極(20、40)間に、直流電圧を、前記有機EL素子(100)に存在する欠陥部が短絡するレベル以上まで時間とともに上昇させながら印加する欠陥部短絡化工程と、
前記有機EL素子(100)において前記欠陥部短絡化工程により短絡した欠陥部の有無を検出する判定工程とを、備えることを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項2】
前記欠陥部短絡工程では、前記直流電圧の上昇レートを1V/秒以下とすることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項3】
前記欠陥部短絡工程では、前記直流電圧を、時間に対して階段状に上昇させていくことを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項4】
前記欠陥部短絡工程では、前記直流電圧における印加の開始電圧を0Vよりも大きくすることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項5】
前記判定工程によって検出された前記欠陥部の領域に位置する前記上部電極(40)もしくは前記有機膜(30)を除去することにより、当該欠陥部を修復する欠陥部修復工程を備えることを特徴とする請求項1ないし4に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項6】
前記欠陥部修復工程では、前記欠陥部に光エネルギーもしくは電気エネルギーを与えることにより、当該上部電極(40)もしくは有機膜(30)を焼失させることを特徴とする請求項5に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項7】
前記判定工程は、前記有機EL素子(100)を点灯させた状態で外観検査を行い、前記欠陥部の有無を検出するものであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項8】
前記外観検査は、前記欠陥部短絡工程の前と後との両時点で行い、前記欠陥部短絡工程の前後の外観の差により前記欠陥部の有無を検出することを特徴とする請求項7に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項9】
前記判定工程は、前記有機EL素子(100)の前記上下電極(20、40)間のリーク電流を測定し、前記リーク電流の値に基づいて前記有機EL素子(100)の欠陥部の有無を検出することにより行うことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項10】
前記リーク電流の測定は、前記有機EL素子(100)における前記上下両電極(20、40)のうち陰極(40)側をプラス極、陽極(20)側をマイナス極として行うことを特徴とする請求項9に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項11】
前記リーク電流の測定は、前記有機EL素子(100)の実駆動時に用いられる逆バイアス電圧以上の電圧を印加して測定することを特徴とする請求項9または10に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項12】
前記リーク電流の測定は、前記欠陥部短絡工程の前と後との両時点で行い、前記欠陥部短絡工程の前後のリーク電流の差により前記欠陥部の有無を検出することを特徴とする請求項9ないし11のいずれか1つに記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項13】
前記素子形成工程では、前記有機EL素子(100)をマトリクス状に複数個形成し、
前記欠陥部短絡工程では、これら複数個の有機EL素子(100)における前記上下両電極(20、40)に対し、一括して前記直流電圧を印加することを特徴とする請求項1ないし12のいずれか1つに記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項14】
前記素子形成工程では、前記マトリクス状に配置された複数個の前記有機EL素子(100)を前記基板(10)上に形成するとともに、
これら複数個の有機EL素子(100)における前記上下両電極(20、40)の少なくとも一方に対して前記欠陥部短絡工程において一括して直流電圧を送るための配線部(200)を、前記基板(10)上に形成することを特徴とする請求項13に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項15】
基板(10)上に、下部電極(20)、有機膜(30)、膜厚135nm以上の上部電極(40)を積層してなる有機EL素子(100)の欠陥部の有無を検出する製造装置であって、
第1の出力端子(311)および第2の出力端子(312)を有する直流電源(310)と、
前記第1の出力端子(311)に第1のリード線(321)を介して接続され、かつ前記有機EL素子(100)における陽極側の電極(20)に電気的に接続される第1の端子部(331)と、
前記第2の出力端子(312)に第2のリード線(322)を介して接続され、かつ前記有機EL素子(100)における陰極側の電極(40)に電気的に接続される第2の端子部(332)と、
前記欠陥部を検出する検出手段(340、360)とを備え、
前記直流電源(310)の前記第1の出力端子(311)をアースとし、前記第2の出力端子(312)にて時間とともに電圧が上昇する直流電圧を出力するようにしたことを特徴とする有機EL素子の製造装置。
【請求項16】
前記検出手段(360)によって検出された前記欠陥部の領域に位置する前記上部電極(40)を除去することにより、当該欠陥部を修復する欠陥部修復手段(370)を有することを特徴とする請求項15に記載の有機EL素子の製造装置。
【請求項17】
前記直流電源(310)の前記第1の出力端子(311)に一定電圧を出力し、前記第2の出力端子(312)をアースとして前記有機EL素子(100)を点灯させ、この点灯させた状態の前記有機EL素子(100)の外観検査を前記検出手段(340)によって行い、前記欠陥部の有無を検出することを特徴とする請求項15または16に記載の有機EL素子の製造装置。
【請求項18】
前記検出手段は、前記有機EL素子(100)の画像を記録するカメラ(340)を備えており、前記外観検査は、このカメラ(340)により記録された画像によって行うことを特徴とする請求項17に記載の有機EL素子の製造装置。
【請求項19】
前記検出手段は、前記第1のリード線(311)および前記第2のリード線(312)の少なくとも一方に電気的に接続された電流計測手段(360)を備え、
前記直流電源(310)の前記第1の出力端子(311)をアースとし、前記第2の出力端子(312)に一定電圧を出力したときに前記電流計測手段(360)により計測される電流値により、前記欠陥部の有無を検出するものであることを特徴とする請求項15または16に記載の有機EL素子の製造装置。
【請求項20】
前記有機EL素子(100)をマトリクス状に複数個形成したものについて用いられるものであり、
前記第1の端子部は、前記第1のリード線(321)から分岐して前記複数個の有機EL素子(100)の陽極側の電極(20)に電気的に接続される第1の端子群(331)として構成されたものであり、
前記第2の端子部は、前記第2のリード線(322)から分岐して前記複数個の有機EL素子(100)の陰極側の電極(40)に電気的に接続される第2の端子群(332)として構成されたものであることを特徴とする請求項15ないし19のいずれか1つに記載の有機EL素子の製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2007−265633(P2007−265633A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−85216(P2006−85216)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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