説明

有機EL表示装置及び電子機器

【課題】隣接画素へのリークの問題を解消して良好な色再現性を得ることが可能な有機EL表示装置、及び、当該有機EL表示装置を有する電子機器を提供する。
【解決手段】白色有機EL素子21Wとカラーフィルタ80との組み合わせにより、RGBの各色光を取り出す方式を採用し、しかも、タンデム構造の画素構造を有する有機EL表示装置において、有機層(電荷注入層214や接続層216,217)に対して電気的に接続された金属配線90をアノード電極211の周囲を囲むように形成する。そして、当該金属配線90の電位を有機EL素子21が非発光時のアノード電極211の電位よりも低い電位に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有機EL表示装置及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
平面型(フラットパネル型)の表示装置の一つとして、デバイスに流れる電流値に応じて発光輝度が変化する、所謂、電流駆動型の電気光学素子を画素の発光部(発光素子)として用いた表示装置がある。電流駆動型の電気光学素子としては、有機材料のエレクトロルミネッセンス(EL;Electroluminescence)を利用し、有機薄膜に電界をかけると発光する現象を用いた有機EL素子が知られている。
【0003】
画素の発光部として有機EL素子を用いた有機EL表示装置は次のような特長を持っている。すなわち、有機EL素子は、10V以下の印加電圧で駆動できるために低消費電力である。有機EL素子は自発光素子であるために、液晶表示装置に比べて、画像の視認性が高く、しかも、バックライト等の照明部材を必要としないために軽量化及び薄型化が容易である。更に、有機EL素子は、応答速度が数μsec程度と非常に高速であるために動画表示時の残像が発生しない。
【0004】
ところで、有機EL表示装置としては、R(赤)G(緑)B(青)の有機EL材料を、マスクを利用して蒸着で塗り分ける、所謂、RGBマスク塗り分け方式のものが一般的に知られている。これに対して、大型化、高精細化を目的として、RGBマスク塗り分けを行わず、白色光を発光する有機EL素子(以下、「白色有機EL素子」と記述する)とカラーフィルタとの組み合わせにより、RGBの各色光を取り出す方式のものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−123971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した、白色有機EL素子とカラーフィルタとの組み合わせからなる有機EL表示装置にあっては、各画素に対して共通に形成される共通層が存在することになる。このように、画素間に共通層が存在すると、当該共通層を通して隣接する画素へのリークが発生し、当該リークによって隣接する画素(以下、「隣接画素」と記述する)も僅かに発光してしまうために、色再現性(色純度)が悪化してしまうという問題がある。
【0007】
かかる問題は、白色有機EL素子とカラーフィルタとの組み合わせからなる有機EL表示装置の場合に限られるものではない。すなわち、例えば、マスク塗り分け方式の有機EL表示装置においても、画素間に共通層が存在する限り、当該共通層を通して隣接画素へのリークが発生するため同様の問題が発生する。
【0008】
そこで、本開示は、隣接画素へのリークの問題を解消して良好な色再現性(色純度)を得ることが可能な有機EL表示装置、及び、当該有機EL表示装置を有する電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本開示では、
アノード電極とカソード電極との間に有機層を挟んで成る有機EL素子を含む画素が行列状に配置され、
前記有機EL素子は、前記有機層内に画素間で共通に形成された共通層を少なくとも1層含む有機EL表示装置において、
前記アノード電極の周囲を囲み、かつ、前記有機層に対して電気的に接続された金属配線を有し、
前記金属配線の電位は、前記有機EL素子が非発光時の前記アノード電極の電位よりも低い電位に設定された
構成を採っている。
【0010】
上記構成の有機EL表示装置において、アノード電極の周囲に、有機層に対して電気的に接続された金属配線が形成されていることで、有機層内の共通層を通して横方向にリーク電流が流れたとしても、当該リーク電流は金属配線側に流れる。これにより、隣接画素へ流れ込むリーク電流を低減できるために、隣接画素での発光を抑えることができる。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、有機層内の共通層を通して横方向にリーク電流が流れたとしても、隣接画素での発光を抑えることができるために、良好な色再現性(色純度)を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本開示が適用されるアクティブマトリクス型有機EL表示装置の構成の概略を示すシステム構成図である。
【図2】画素(画素回路)の具体的な回路構成の一例を示す回路図である。
【図3】本開示が適用される有機EL表示装置の基本的な回路動作の説明に供するタイミング波形図である。
【図4】本開示が適用される有機EL表示装置の基本的な回路動作の動作説明図(その1)である。
【図5】本開示が適用される有機EL表示装置の基本的な回路動作の動作説明図(その2)である。
【図6】駆動トランジスタの閾値電圧Vthのばらつきに起因する課題の説明(A)、及び、駆動トランジスタの移動度μのばらつきに起因する課題の説明(B)に供する特性図である。
【図7】白色有機EL素子とカラーフィルタとの組み合わせ方式の画素構造の一例を示す断面図である。
【図8】典型的なタンデム構造の白色有機EL素子の構造の一例を示す要部の断面図である。
【図9】白色有機EL素子とカラーフィルタとの組み合わせ方式を採る表示パネルの等価回路を示す回路図である。
【図10】実施形態に係るタンデム構造の白色有機EL素子を含む画素構造の一例を示す要部の断面図である。
【図11】アノード電極及びその周囲を示す平面パターン図である。
【図12】実施形態の作用、効果についての説明図である。
【図13】実施形態に係る画素構造の表示パネルの等価回路を示す回路図である。
【図14】RGBマスク塗り分け方式を採用する画素構造の一例を示す要部の断面図である。
【図15】本開示が適用されるテレビジョンセットの外観を示す斜視図である。
【図16】本開示が適用されるデジタルカメラの外観を示す斜視図であり、(A)は表側から見た斜視図、(B)は裏側から見た斜視図である。
【図17】本開示が適用されるノート型パーソナルコンピュータの外観を示す斜視図である。
【図18】本開示が適用されるビデオカメラの外観を示す斜視図である。
【図19】本開示が適用される携帯電話機を示す外観図であり、(A)は開いた状態での正面図、(B)はその側面図、(C)は閉じた状態での正面図、(D)は左側面図、(E)は右側面図、(F)は上面図、(G)は下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明を実施するための形態(以下、「実施形態」と記述する)について図面を用いて詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.本開示が適用される有機EL表示装置
1−1.システム構成
1−2.基本的な回路動作
1−3.白色有機EL素子とカラーフィルタとの組み合わせ方式
1−4.共通層の存在によるリーク電流の問題
2.実施形態の説明
2−1.リーク電流を低減するための画素構造
2−2.実施形態の作用、効果
3.変形例
4.適用例(電子機器)
【0014】
<1.本開示が適用される有機EL表示装置>
[1−1.システム構成]
図1は、本開示が適用されるアクティブマトリクス型有機EL表示装置の構成の概略を示すシステム構成図である。
【0015】
アクティブマトリクス型有機EL表示装置は、電流駆動型の電気光学素子である有機EL素子に流れる電流を、当該有機EL素子と同じ画素内に設けた能動素子、例えば絶縁ゲート型電界効果トランジスタにより制御する表示装置である。絶縁ゲート型電界効果トランジスタとしては、典型的には、TFT(薄膜トランジスタ)が用いられる。
【0016】
図1に示すように、本適用例に係る有機EL表示装置10は、有機EL素子を含む複数の画素20と、当該画素20が行列状に2次元配置されてなる画素アレイ部30と、当該画素アレイ部30の周辺に配置される駆動回路部とを有する構成となっている。駆動回路部は、書込み走査回路40、電源供給走査回路50及び信号出力回路60等からなり、画素アレイ部30の各画素20を駆動する。
【0017】
ここで、有機EL表示装置10がカラー表示対応の場合は、カラー画像を形成する単位となる1つの画素(単位画素)は複数の副画素(サブピクセル)から構成され、この副画素の各々が図1の画素20に相当することになる。より具体的には、カラー表示対応の表示装置では、1つの画素は、例えば、赤色(Red;R)光を発光する副画素、緑色(Green;G)光を発光する副画素、青色(Blue;B)光を発光する副画素の3つの副画素から構成される。
【0018】
但し、1つの画素としては、RGBの3原色の副画素の組み合わせに限られるものではなく、3原色の副画素に更に1色あるいは複数色の副画素を加えて1つの画素を構成することも可能である。より具体的には、例えば、輝度向上のために白色(White;W)光を発光する副画素を加えて1つの画素を構成したり、色再現範囲を拡大するために補色光を発光する少なくとも1つの副画素を加えて1つの画素を構成したりすることも可能である。
【0019】
画素アレイ部30には、m行n列の画素20の配列に対して、行方向(画素行の画素の配列方向)に沿って走査線311〜31mと電源供給線321〜32mとが画素行毎に配線されている。更に、m行n列の画素20の配列に対して、列方向(画素列の画素の配列方向)に沿って信号線331〜33nが画素列毎に配線されている。
【0020】
走査線311〜31mは、書込み走査回路40の対応する行の出力端にそれぞれ接続されている。電源供給線321〜32mは、電源供給走査回路50の対応する行の出力端にそれぞれ接続されている。信号線331〜33nは、信号出力回路60の対応する列の出力端にそれぞれ接続されている。
【0021】
画素アレイ部30は、通常、ガラス基板などの透明絶縁基板上に形成されている。これにより、有機EL表示装置10は、平面型(フラット型)のパネル構造となっている。画素アレイ部30の各画素20の駆動回路は、アモルファスシリコンTFTまたは低温ポリシリコンTFTを用いて形成することができる。低温ポリシリコンTFTを用いる場合には、図1に示すように、書込み走査回路40、電源供給走査回路50、及び、信号出力回路60についても、画素アレイ部30を形成する表示パネル(基板)70上に実装することができる。
【0022】
書込み走査回路40は、クロックパルスckに同期してスタートパルスspを順にシフト(転送)するシフトレジスタ回路等によって構成されている。この書込み走査回路40は、画素アレイ部30の各画素20への映像信号の信号電圧書込みに際して、走査線31(311〜31m)に対して書込み走査信号WS(WS1〜WS m)を順次供給することによって画素アレイ部30の各画素20を行単位で順番に走査(線順次走査)する。
【0023】
電源供給走査回路50は、クロックパルスckに同期してスタートパルスspを順にシフトするシフトレジスタ回路等によって構成されている。この電源供給走査回路50は、書込み走査回路40による線順次走査に同期して、第1電源電位Vccpと当該第1電源電位Vccpよりも低い第2電源電位Viniとで切り替わることが可能な電源電位DS(DS1〜DSm)を電源供給線32(321〜32m)に供給する。後述するように、電源電位DSのVccp/Viniの切替えにより、画素20の発光/非発光の制御が行なわれる。
【0024】
信号出力回路60は、信号供給源(図示せず)から供給される輝度情報に応じた映像信号の信号電圧(以下、単に「信号電圧」と記述する場合もある)Vsigと基準電圧Vofsとを選択的に出力する。ここで、基準電圧Vofsは、映像信号の信号電圧Vsigの基準となる電位(例えば、映像信号の黒レベルに相当する電位)であり、後述する閾値補正処理の際に用いられる。
【0025】
信号出力回路60から出力される信号電圧Vsig/基準電圧Vofsは、信号線33(331〜33n)を介して画素アレイ部30の各画素20に対して、書込み走査回路40による走査によって選択された画素行の単位で書き込まれる。すなわち、信号出力回路60は、信号電圧Vsigを行(ライン)単位で書き込む線順次書込みの駆動形態を採っている。
【0026】
(画素回路)
図2は、画素(画素回路)20の具体的な回路構成の一例を示す回路図である。画素20の発光部は、デバイスに流れる電流値に応じて発光輝度が変化する電流駆動型の電気光学素子である有機EL素子21から成る。
【0027】
図2に示すように、画素20は、有機EL素子21と、有機EL素子21に電流を流すことによって当該有機EL素子21を駆動する駆動回路とによって構成されている。有機EL素子21は、全ての画素20に対して共通に配線(所謂、ベタ配線)された共通電源供給線34にカソード電極が接続されている。
【0028】
有機EL素子21を駆動する駆動回路は、駆動トランジスタ22、書込みトランジスタ23、保持容量24、及び、補助容量25を有する構成となっている。駆動トランジスタ22及び書込みトランジスタ23としてNチャネル型のTFTを用いることができる。但し、ここで示した、駆動トランジスタ22及び書込みトランジスタ23の導電型の組み合わせは一例に過ぎず、これらの組み合わせに限られるものではない。
【0029】
駆動トランジスタ22は、一方の電極(ソース/ドレイン電極)が有機EL素子21のアノード電極に接続され、他方の電極(ドレイン/ソース電極)が電源供給線32(321〜32m)に接続されている。
【0030】
書込みトランジスタ23は、一方の電極(ソース/ドレイン電極)が信号線33(331〜33n)に接続され、他方の電極(ドレイン/ソース電極)が駆動トランジスタ22のゲート電極に接続されている。また、書込みトランジスタ23のゲート電極は、走査線31(311〜31m)に接続されている。
【0031】
駆動トランジスタ22及び書込みトランジスタ23において、一方の電極とは、ソース/ドレイン領域に電気的に接続された金属配線を言い、他方の電極とは、ドレイン/ソース領域に電気的に接続された金属配線を言う。また、一方の電極と他方の電極との電位関係によって一方の電極がソース電極ともなればドレイン電極ともなり、他方の電極がドレイン電極ともなればソース電極ともなる。
【0032】
保持容量24は、一方の電極が駆動トランジスタ22のゲート電極に接続され、他方の電極が駆動トランジスタ22の他方の電極、及び、有機EL素子21のアノード電極に接続されている。
【0033】
補助容量25は、一方の電極が有機EL素子21のアノード電極に、他方の電極が共通電源供給線34にそれぞれ接続されている。この補助容量25は、有機EL素子21の容量不足分を補い、保持容量24に対する映像信号の書込みゲインを高めるために、必要に応じて設けられるものである。すなわち、補助容量25は必須の構成要素ではなく、有機EL素子21の等価容量が十分に大きい場合は省略可能である。
【0034】
ここでは、補助容量25の他方の電極を共通電源供給線34に接続するとしているが、他方の電極の接続先としては、共通電源供給線34に限られるものではなく、固定電位のノードであればよい。補助容量25の他方の電極を固定電位のノードに接続することで、有機EL素子21の容量不足分を補い、保持容量24に対する映像信号の書込みゲインを高めるという所期の目的を達成することができる。
【0035】
上記構成の画素20において、書込みトランジスタ23は、書込み走査回路40から走査線31を通してゲート電極に印加されるHighアクティブの書込み走査信号WSに応答して導通状態となる。これにより、書込みトランジスタ23は、信号線33を通して信号出力回路60から供給される、輝度情報に応じた映像信号の信号電圧Vsigまたは基準電圧Vofsをサンプリングして画素20内に書き込む。この書き込まれた信号電圧Vsigまたは基準電圧Vofsは、駆動トランジスタ22のゲート電極に印加されるとともに保持容量24に保持される。
【0036】
駆動トランジスタ22は、電源供給線32(321〜32m)の電源電位DSが第1電源電位Vccpにあるときには、一方の電極がドレイン電極、他方の電極がソース電極となって飽和領域で動作する。これにより、駆動トランジスタ22は、電源供給線32から電流の供給を受けて有機EL素子21を電流駆動にて発光駆動する。より具体的には、駆動トランジスタ22は、飽和領域で動作することにより、保持容量24に保持された信号電圧Vsigの電圧値に応じた電流値の駆動電流を有機EL素子21に供給し、当該有機EL素子21を電流駆動することによって発光させる。
【0037】
駆動トランジスタ22は更に、電源電位DSが第1電源電位Vccpから第2電源電位Viniに切り替わったときには、一方の電極がソース電極、他方の電極がドレイン電極となってスイッチングトランジスタとして動作する。これにより、駆動トランジスタ22は、有機EL素子21への駆動電流の供給を停止し、有機EL素子21を非発光状態にする。すなわち、駆動トランジスタ22は、有機EL素子21の発光/非発光を制御するトランジスタとしての機能をも併せ持っている。
【0038】
この駆動トランジスタ22のスイッチング動作により、有機EL素子21が非発光状態となる期間(非発光期間)を設け、有機EL素子21の発光期間と非発光期間の割合(デューティ)を制御することができる。このデューティ制御により、1表示フレーム期間に亘って画素が発光することに伴う残像ボケを低減できるために、特に動画の画品位をより優れたものとすることができる。
【0039】
電源供給走査回路50から電源供給線32を通して選択的に供給される第1,第2電源電位Vccp,Viniのうち、第1電源電位Vccpは有機EL素子21を発光駆動する駆動電流を駆動トランジスタ22に供給するための電源電位である。また、第2電源電位Viniは、有機EL素子21に対して逆バイアスを掛けるための電源電位である。この第2電源電位Viniは、基準電圧Vofsよりも低い電位、例えば、駆動トランジスタ22の閾値電圧をVthとするときVofs−Vthよりも低い電位、好ましくは、Vofs−Vthよりも十分に低い電位に設定される。
【0040】
[1−2.基本的な回路動作]
続いて、上記構成の有機EL表示装置10の基本的な回路動作について、図3のタイミング波形図を基に図4及び図5の動作説明図を用いて説明する。尚、図4及び図5の動作説明図では、図面の簡略化のために、書込みトランジスタ23をスイッチのシンボルで図示している。また、有機EL素子21の等価容量25についても図示している。
【0041】
図3のタイミング波形図には、走査線31の電位(書込み走査信号)WS、電源供給線32の電位(電源電位)DS、信号線33の電位(Vsig/Vofs)、駆動トランジスタ22のゲート電位Vg及びソース電位Vsのそれぞれの変化を示している。
【0042】
(前表示フレームの発光期間)
図3のタイミング波形図において、時刻t11以前は、前の表示フレームにおける有機EL素子21の発光期間となる。この前表示フレームの発光期間では、電源供給線32の電位DSが第1電源電位(以下、「高電位」と記述する)Vccpにあり、また、書込みトランジスタ23が非導通状態にある。
【0043】
このとき、駆動トランジスタ22は飽和領域で動作するように設計されている。これにより、図4(A)に示すように、駆動トランジスタ22のゲート−ソース間電圧Vgsに応じた駆動電流(ドレイン−ソース間電流)Idsが、電源供給線32から駆動トランジスタ22を通して有機EL素子21に供給される。従って、有機EL素子21が駆動電流Idsの電流値に応じた輝度で発光する。
【0044】
(閾値補正準備期間)
時刻t11になると、線順次走査の新しい表示フレーム(現表示フレーム)に入る。そして、図4(B)に示すように、電源供給線32の電位DSが高電位Vccpから、信号線33の基準電圧Vofsに対してVofs−Vthよりも十分に低い第2電源電位(以下、「低電位」と記述する)Viniに切り替わる。
【0045】
ここで、有機EL素子21の閾値電圧をVthel、共通電源供給線34の電位(カソード電位)をVcathとする。このとき、低電位ViniをVini<Vthel+Vcathとすると、駆動トランジスタ22のソース電位Vsが低電位Viniにほぼ等しくなるために、有機EL素子21は逆バイアス状態となって消光する。
【0046】
次に、時刻t12で走査線31の電位WSが低電位側から高電位側に遷移することで、、図4(C)に示すように、書込みトランジスタ23が導通状態となる。このとき信号出力回路60から信号線33に対して基準電圧Vofsが供給された状態にあるために、駆動トランジスタ22のゲート電位Vgが基準電圧Vofsになる。また、駆動トランジスタ22のソース電位Vsは、基準電圧Vofsよりも十分に低い電位、即ち、低電位Viniにある。
【0047】
このとき、駆動トランジスタ22のゲート−ソース間電圧VgsはVofs−Viniとなる。ここで、Vofs−Viniが駆動トランジスタ22の閾値電圧Vthよりも大きくないと、後述する閾値補正処理を行うことができないために、Vofs−Vini>Vthなる電位関係に設定する必要がある。
【0048】
このように、駆動トランジスタ22のゲート電位Vgを基準電圧Vofsに固定し、かつ、ソース電位Vsを低電位Viniに固定して(確定させて)初期化する処理が、後述する閾値補正処理(閾値補正動作)を行う前の準備(閾値補正準備)の処理である。従って、基準電圧Vofs及び低電位Viniが、駆動トランジスタ22のゲート電位Vg及びソース電位Vsの各初期化電位となる。
【0049】
(閾値補正期間)
次に、時刻t13で、図4(D)に示すように、電源供給線32の電位DSが低電位Viniから高電位Vccpに切り替わると、駆動トランジスタ22のゲート電位Vgが基準電圧Vofsに保たれた状態で閾値補正処理が開始される。すなわち、ゲート電位Vgから駆動トランジスタ22の閾値電圧Vthを減じた電位に向けて駆動トランジスタ22のソース電位Vsが上昇を開始する。
【0050】
ここでは、便宜上、駆動トランジスタ22のゲート電位Vgの初期化電位Vofsを基準とし、当該初期化電位Vofsから駆動トランジスタ22の閾値電圧Vthを減じた電位に向けてソース電位Vsを変化させる処理を閾値補正処理と呼んでいる。この閾値補正処理が進むと、やがて、駆動トランジスタ22のゲート−ソース間電圧Vgsが駆動トランジスタ22の閾値電圧Vthに収束する。この閾値電圧Vthに相当する電圧は保持容量24に保持される。
【0051】
尚、閾値補正処理を行う期間(閾値補正期間)において、電流が専ら保持容量24側に流れ、有機EL素子21側には流れないようにするために、有機EL素子21がカットオフ状態となるように共通電源供給線34の電位Vcathを設定しておくこととする。
【0052】
次に、時刻t14で、走査線31の電位WSが低電位側に遷移することで、図5(A)に示すように、書込みトランジスタ23が非導通状態となる。このとき、駆動トランジスタ22のゲート電極が信号線33から電気的に切り離されることによってフローティング状態になる。しかし、ゲート−ソース間電圧Vgsが駆動トランジスタ22の閾値電圧Vthに等しいために、当該駆動トランジスタ22はカットオフ状態にある。従って、駆動トランジスタ22にドレイン−ソース間電流Idsは流れない。
【0053】
(信号書込み&移動度補正期間)
次に、時刻t15で、図5(B)に示すように、信号線33の電位が基準電圧Vofsから映像信号の信号電圧Vsigに切り替わる。続いて、時刻t16で、走査線31の電位WSが高電位側に遷移することで、図5(C)に示すように、書込みトランジスタ23が導通状態になって映像信号の信号電圧Vsigをサンプリングして画素20内に書き込む。
【0054】
この書込みトランジスタ23による信号電圧Vsigの書込みにより、駆動トランジスタ22のゲート電位Vgが信号電圧Vsigになる。そして、映像信号の信号電圧Vsigによる駆動トランジスタ22の駆動の際に、当該駆動トランジスタ22の閾値電圧Vthが保持容量24に保持された閾値電圧Vthに相当する電圧と相殺される。この閾値キャンセルの原理の詳細については後述する。
【0055】
このとき、有機EL素子21は、カットオフ状態(ハイインピーダンス状態)にある。従って、映像信号の信号電圧Vsigに応じて電源供給線32から駆動トランジスタ22に流れる電流(ドレイン−ソース間電流Ids)は、有機EL素子21の等価容量及び補助容量25に流れ込む。これにより、有機EL素子21の等価容量及び補助容量25の充電が開始される。
【0056】
有機EL素子21の等価容量及び補助容量25が充電されることにより、駆動トランジスタ22のソース電位Vsが時間の経過と共に上昇していく。このとき既に、駆動トランジスタ22の閾値電圧Vthの画素毎のばらつきがキャンセルされており、駆動トランジスタ22のドレイン−ソース間電流Idsは当該駆動トランジスタ22の移動度μに依存したものとなる。尚、駆動トランジスタ22の移動度μは、当該駆動トランジスタ22のチャネルを構成する半導体薄膜の移動度である。
【0057】
ここで、映像信号の信号電圧Vsigに対する保持容量24の保持電圧Vgsの比率、即ち、書込みゲインGが1(理想値)であると仮定する。すると、駆動トランジスタ22のソース電位VsがVofs−Vth+ΔVの電位まで上昇することで、駆動トランジスタ22のゲート‐ソース間電圧VgsはVsig−Vofs+Vth−ΔVとなる。
【0058】
すなわち、駆動トランジスタ22のソース電位Vsの上昇分ΔVは、保持容量24に保持された電圧(Vsig−Vofs+Vth)から差し引かれるように、換言すれば、保持容量24の充電電荷を放電するように作用する。換言すれば、ソース電位Vsの上昇分ΔVは、保持容量24に対して負帰還がかけられたことになる。従って、ソース電位Vsの上昇分ΔVは負帰還の帰還量となる。
【0059】
このように、駆動トランジスタ22に流れるドレイン−ソース間電流Idsに応じた帰還量ΔVでゲート‐ソース間電圧Vgsに負帰還をかけることで、駆動トランジスタ22のドレイン−ソース間電流Idsの移動度μに対する依存性を打ち消すことができる。この打ち消す処理が、駆動トランジスタ22の移動度μの画素毎のばらつきを補正する移動度補正処理である。
【0060】
より具体的には、駆動トランジスタ22のゲート電極に書き込まれる映像信号の信号振幅Vin(=Vsig−Vofs)が高い程ドレイン−ソース間電流Idsが大きくなるため、負帰還の帰還量ΔVの絶対値も大きくなる。従って、発光輝度レベルに応じた移動度補正処理が行われる。
【0061】
また、映像信号の信号振幅Vinを一定とした場合、駆動トランジスタ22の移動度μが大きいほど負帰還の帰還量ΔVの絶対値も大きくなるため、画素毎の移動度μのばらつきを取り除くことができる。従って、負帰還の帰還量ΔVは、移動度補正処理の補正量とも言える。移動度補正の原理の詳細については後述する。
【0062】
(発光期間)
次に、時刻t17で、走査線31の電位WSが低電位側に遷移することで、図5(D)に示すように、書込みトランジスタ23が非導通状態となる。これにより、駆動トランジスタ22のゲート電極は、信号線33から電気的に切り離されるためにフローティング状態になる。
【0063】
ここで、駆動トランジスタ22のゲート電極がフローティング状態にあるときは、駆動トランジスタ22のゲート−ソース間に保持容量24が接続されていることにより、駆動トランジスタ22のソース電位Vsの変動に連動してゲート電位Vgも変動する。このように、駆動トランジスタ22のゲート電位Vgがソース電位Vsの変動に連動して変動する動作が、保持容量24によるブートストラップ動作である。
【0064】
駆動トランジスタ22のゲート電極がフローティング状態になり、それと同時に、駆動トランジスタ22のドレイン−ソース間電流Idsが有機EL素子21に流れ始めることにより、当該電流Idsに応じて有機EL素子21のアノード電位が上昇する。
【0065】
そして、有機EL素子21のアノード電位がVthel+Vcathを越えると、有機EL素子21に駆動電流が流れ始めるため有機EL素子21が発光を開始する。また、有機EL素子21のアノード電位の上昇は、即ち、駆動トランジスタ22のソース電位Vsの上昇に他ならない。そして、駆動トランジスタ22のソース電位Vsが上昇すると、保持容量24のブートストラップ動作により、駆動トランジスタ22のゲート電位Vgも連動して上昇する。
【0066】
このとき、ブートストラップゲインが1(理想値)であると仮定した場合、ゲート電位Vgの上昇量はソース電位Vsの上昇量に等しくなる。故に、発光期間中、駆動トランジスタ22のゲート‐ソース間電圧Vgsは、Vsig−Vofs+Vth−ΔVで一定に保持される。そして、時刻t18で信号線33の電位が映像信号の信号電圧Vsigから基準電圧Vofsに切り替わる。
【0067】
以上説明した一連の回路動作において、閾値補正準備、閾値補正、信号電圧Vsigの書込み(信号書込み)、及び、移動度補正の各処理動作は、1水平走査期間(1H)において実行される。また、信号書込み及び移動度補正の各処理動作は、時刻t16−t17の期間において並行して実行される。
【0068】
〔分割閾値補正〕
尚、ここでは、閾値補正処理を1回だけ実行する駆動法を採る場合を例に挙げて説明したが、この駆動法は一例に過ぎず、この駆動法に限られるものではない。例えば、閾値補正処理を移動度補正及び信号書込み処理と共に行う1H期間に加えて、当該1H期間に先行する複数の水平走査期間に亘って分割して閾値補正処理を複数回実行する、所謂、分割閾値補正を行う駆動法を採ることも可能である。
【0069】
この分割閾値補正の駆動法によれば、高精細化に伴う多画素化によって1水平走査期間として割り当てられる時間が短くなったとしても、閾値補正期間として複数の水平走査期間に亘って十分な時間を確保することができる。従って、1水平走査期間として割り当てられる時間が短くなっても、閾値補正期間として十分な時間を確保できるため、閾値補正処理を確実に実行できることになる。
【0070】
〔閾値キャンセルの原理〕
ここで、駆動トランジスタ22の閾値キャンセル(即ち、閾値補正)の原理について説明する。駆動トランジスタ22は、飽和領域で動作するように設計されているために定電流源として動作する。これにより、有機EL素子21には駆動トランジスタ22から、次式(1)で与えられる一定のドレイン−ソース間電流(駆動電流)Idsが供給される。
ds=(1/2)・μ(W/L)Cox(Vgs−Vth2 ……(1)
ここで、Wは駆動トランジスタ22のチャネル幅、Lはチャネル長、Coxは単位面積当たりのゲート容量である。
【0071】
図6(A)に、駆動トランジスタ22のドレイン−ソース間電流Ids対ゲート−ソース間電圧Vgsの特性を示す。図6(A)の特性図に示すように、駆動トランジスタ22の閾値電圧Vthの画素毎のばらつきに対するキャンセル処理(補正処理)を行わないと、閾値電圧VthがVth1のときに、ゲート−ソース間電圧Vgsに対応するドレイン−ソース間電流IdsがIds1になる。
【0072】
これに対して、閾値電圧VthがVth2(Vth2>Vth1)のとき、同じゲート−ソース間電圧Vgsに対応するドレイン−ソース間電流IdsがIds2(Ids2<Ids1)になる。すなわち、駆動トランジスタ22の閾値電圧Vthが変動すると、ゲート−ソース間電圧Vgsが一定であってもドレイン−ソース間電流Idsが変動する。
【0073】
一方、上記構成の画素(画素回路)20では、先述したように、発光時の駆動トランジスタ22のゲート−ソース間電圧VgsはVsig−Vofs+Vth−ΔVである。従って、これを式(1)に代入すると、ドレイン−ソース間電流Idsは、次式(2)で表される。
ds=(1/2)・μ(W/L)Cox(Vsig−Vofs−ΔV)2 ……(2)
【0074】
すなわち、駆動トランジスタ22の閾値電圧Vthの項がキャンセルされており、駆動トランジスタ22から有機EL素子21に供給されるドレイン−ソース間電流Idsは、駆動トランジスタ22の閾値電圧Vthに依存しない。その結果、駆動トランジスタ22の製造プロセスのばらつきや経時変化等により、駆動トランジスタ22の閾値電圧Vthが画素毎に変動したとしても、ドレイン−ソース間電流Idsが変動しないために、有機EL素子21の発光輝度を一定に保つことができる。
【0075】
〔移動度補正の原理〕
次に、駆動トランジスタ22の移動度補正の原理について説明する。図6(B)に、駆動トランジスタ22の移動度μが相対的に大きい画素Aと、駆動トランジスタ22の移動度μが相対的に小さい画素Bとを比較した状態で特性カーブを示す。駆動トランジスタ22をポリシリコン薄膜トランジスタなどで構成した場合、画素Aや画素Bのように、画素間で移動度μがばらつくことは避けられない。
【0076】
画素Aと画素Bで移動度μにばらつきがある状態で、駆動トランジスタ22のゲート電極に対して、例えば両画素A,Bに同レベルの信号振幅Vin(=Vsig−Vofs)を書き込んだ場合を考える。この場合、何ら移動度μの補正を行わないと、移動度μの大きい画素Aに流れるドレイン−ソース間電流Ids1′と移動度μの小さい画素Bに流れるドレイン−ソース間電流Ids2′との間には大きな差が生じてしまう。このように、移動度μの画素毎のばらつきに起因してドレイン−ソース間電流Idsに画素間で大きな差が生じると、画面のユニフォーミティ(一様性)が損なわれる。
【0077】
ここで、先述した式(1)のトランジスタ特性式から明らかなように、移動度μが大きいとドレイン−ソース間電流Idsが大きくなる。従って、負帰還における帰還量ΔVは移動度μが大きくなるほど大きくなる。図6(B)に示すように、移動度μの大きな画素Aの帰還量ΔV1は、移動度の小さな画素Bの帰還量ΔV2に比べて大きい。
【0078】
そこで、移動度補正処理によって駆動トランジスタ22のドレイン−ソース間電流Idsに応じた帰還量ΔVでゲート−ソース間電圧Vgsに負帰還をかけることにより、移動度μが大きいほど負帰還が大きくかかることになる。その結果、移動度μの画素毎のばらつきを抑制することができる。
【0079】
具体的には、移動度μの大きな画素Aで帰還量ΔV1の補正をかけると、ドレイン−ソース間電流IdsはIds1′からIds1まで大きく下降する。一方、移動度μの小さな画素Bの帰還量ΔV2は小さいために、ドレイン−ソース間電流IdsはIds2′からIds2までの下降となり、それ程大きく下降しない。結果的に、画素Aのドレイン−ソース間電流Ids1と画素Bのドレイン−ソース間電流Ids2とはほぼ等しくなるために、移動度μの画素毎のばらつきが補正される。
【0080】
以上をまとめると、移動度μの異なる画素Aと画素Bがあった場合、移動度μの大きい画素Aの帰還量ΔV1は移動度μの小さい画素Bの帰還量ΔV2に比べて大きくなる。つまり、移動度μが大きい画素ほど帰還量ΔVが大きく、ドレイン−ソース間電流Idsの減少量が大きくなる。
【0081】
従って、駆動トランジスタ22のドレイン−ソース間電流Idsに応じた帰還量ΔVで、ゲート−ソース間電圧Vgsに負帰還をかけることで、移動度μの異なる画素のドレイン−ソース間電流Idsの電流値が均一化される。その結果、移動度μの画素毎のばらつきを補正することができる。すなわち、駆動トランジスタ22に流れる電流(ドレイン−ソース間電流Ids)に応じた帰還量(補正量)ΔVで、駆動トランジスタ22のゲート−ソース間電圧Vgsに対して、即ち、保持容量24に対して負帰還をかける処理が移動度補正処理となる。
【0082】
[1−3.白色有機EL素子とカラーフィルタとの組み合わせ方式]
ところで、以上説明した本適用例に係る有機EL表示装置10にあっては、RGBマスク塗り分け方式を採らず、図7に示すように、白色有機EL素子21Wとカラーフィルタ80との組み合わせにより、RGBの各色光を取り出す方式を採っている。ここで、RGBマスク塗り分け方式とは、RGBの有機EL材料を、マスクを利用して蒸着で塗り分ける方式である。白色有機EL素子21Wとカラーフィルタ80との組み合わせ方式は、表示パネル70の大型化、高精細化に適している。
【0083】
(タンデム構造の白色有機EL素子)
白色有機EL素子21Wとしては、例えば、RGBの各発光層を含む有機層のユニット(発光ユニット)を複数、接続層を介して直列的に(タンデムに)連結(積層)して成るタンデム構造の有機EL素子が広く知られている。このタンデム構造の白色有機EL素子は、RGBの各発光ユニットの発光が重ね合わされることによって白色光が得られるようになっている。
【0084】
図8は、典型的なタンデム構造の白色有機EL素子の構造の一例を示す要部の断面図である。ここでは、一例として、3段タンデム構造の場合を例に挙げ、図面の簡略化のために、基本的な構造について簡素化して示している。また、RGBの3つの副画素のうち、RGの2つの副画素の画素構造について図示している。
【0085】
図8において、ウインド絶縁膜71の凹部71Aの底部には、アノード電極211(211R,211G,211B)が画素単位で設けられている。このアノード電極211と全画素共通に設けられたカソード電極212との間には、有機層213が全画素共通に設けられて白色有機EL素子21Wを構成している。そして、カソード電極212の上には層間絶縁膜72が積層され、当該層間絶縁膜72の上にはカラーフィルタ80がオンチップにて形成されている(オンチップカラーフィルタ)。
【0086】
白色有機EL素子21Wにおいて、有機層213は、アノード電極211の上に、一例として、電荷注入層214、Rの発光層215R、接続層216、Gの発光層215G、接続層217、及び、Bの発光層215Bが順に全画素共通に堆積されることによって形成されている。そして、図2の駆動トランジスタ22による電流駆動の下に、駆動トランジスタ22からアノード電極211を通して有機層213に電流が流れることで、当該有機層213内の各発光層215R,215G,215Bにおいて電子と正孔が再結合する際に発光するようになっている。
【0087】
このとき、R,G,Bの各発光層215R,215G,215Bの発光色が重ね合わされて(合成されて)白色光となる。そして、画素単位で白色有機EL素子21Wから発せられる白色光はカラーフィルタ80を透過する。このようにして、白色有機EL素子21Wをカラーフィルタ80と組み合わせることにより、白色光からR,G,Bの各色光を取り出すことができる。
【0088】
[1−4.共通層の存在によるリーク電流の問題]
上述したタンデム構造の白色有機EL素子21Wを含む画素(副画素)が配置されて成る有機EL表示装置10にあっては、各画素に対して共通に形成される共通層が存在することになる。具体的には、特に図8から明らかなように、電荷注入層214、接続層216、及び、接続層217が各画素に共通に形成された共通層となる。
【0089】
ここで、共通層の存在によるリーク電流(共通層を通して流れるリーク電流)の問題について、図8においてRの画素(副画素)のみが発光している場合を例に挙げて考える。図9に、白色有機EL素子21Wとカラーフィルタ80との組み合わせ方式を採る場合の表示パネル70の等価回路を示す。
【0090】
白色有機EL素子21Wとカラーフィルタ80との組み合わせ方式を採る表示パネル70では、電荷注入層214や接続層216,217などの比較的インピーダンスが小さいレイヤー(共通層)において横方向のリークが発生する。ここで、横方向とは、白色有機EL素子21W内で流れる電流の流れる方向を縦方向としたときのリーク電流の流れる方向である。そして、このリーク電流によってアノード電極211の外側の領域も発光することになる。
【0091】
このとき、隣接画素間の距離が十分に遠い(離れている)場合は問題ないが、隣接画素間の距離が近く、リーク電流が隣接画素まで流れ込む場合は、リーク電流に伴う発光領域が隣接画素まで及ぶことになる。その結果、隣接画素も発光してしまう。図8において、発光色を表わす矢印の大きさは、当該光の強度を概念的に表わしている。本例の場合は、本来発光すべきRの画素の隣のGの画素も発光してしまう。これにより、色再現性(色純度)が悪化してしまう。因みに、発光層215R,215G,215Bも共通層ではあるが、電荷注入層214や接続層216,217などに比べてインピーダンスが大きいために、一般的には、リークの問題は生じない。
【0092】
<2.実施形態の説明>
本実施形態では、有機層内に画素間で共通に形成された共通層を少なくとも1層含む有機EL表示装置において、共通層の存在によるリーク電流の問題を解決するために、有機層に対して電気的に接続された金属配線をアノード電極の周囲を囲むように形成する。そして、当該金属配線の電位を有機EL素子が非発光時のアノード電極の電位よりも低い電位に設定する構成を採るようにする。
【0093】
アノード電極の周囲に、有機層に対して電気的に接続された金属配線が形成されていることで、有機層内の共通層を通して横方向にリーク電流が流れたとしても、当該リーク電流は金属配線側に流れる。これにより、隣接画素へ流れ込むリーク電流を低減できるために、隣接画素での発光を抑えることができる。結果として、良好な色再現性(色純度)を得ることができる。
【0094】
[2−1.リーク電流を低減するための画素構造]
以下に、有機層内の共通層を通して流れるリーク電流を低減するための画素構造について具体的に説明する。
【0095】
図10は、実施形態に係るタンデム構造の白色有機EL素子を含む画素構造の一例を示す要部の断面図であり、図中、図8と同等部位には同一符号を付して示している。また、図11に、アノード電極及びその周囲の平面パターン図を示す。ここでは、一例として、3段タンデム構造の場合を例に挙げ、図面の簡略化のために、基本的な構造について簡素化して示している。また、RGBの3つの副画素のうち、RGの2つの副画素の画素構造について図示している。
【0096】
本実施形態に係るタンデム構造の白色有機EL素子は、基本的な構造については、先述した典型的なタンデム構造の白色有機EL素子と同じである。すなわち、図10に示すように、ウインド絶縁膜71の凹部71Aの底部には、アノード電極211(211R,211G,211B)が画素単位で設けられている。このアノード電極211と、全画素共通に設けられたカソード電極212との間には、有機層213が全画素共通に設けられて白色有機EL素子21Wを構成している。
【0097】
白色有機EL素子21Wにおいて、有機層213は、アノード電極211の上に、一例として、電荷注入層214、Rの発光層215R、接続層216、Gの発光層215G、接続層217、及び、Bの発光層215Bが順に全画素共通に堆積されることによって形成されている。そして、カソード電極212の上には層間絶縁膜72が積層され、当該層間絶縁膜72の上にはカラーフィルタ80がオンチップにて形成されている。
【0098】
上記構成のタンデム構造の白色有機EL素子21Wを含む画素構造において、本実施形態では、次の点を特徴としている。先ず、画素単位で形成されたアノード電極211(211R,211G,211B)の周囲を囲むように、具体的には、当該アノード電極211と同じ層に金属配線90を形成する。
【0099】
そして、この金属配線90には、白色有機EL素子21Wが非発光時のアノード電極211の電位よりも低い電位、例えば、カソード電極212の電位(カソード電位Vcath)を与えるようにする。金属配線90の電位としてカソード電位Vcathを用いることで、金属配線90専用の電位を用意しなくて済む利点がある。
【0100】
ここで、金属配線90としては、アノード電極211と同一の材料、例えば、アルミニウム(Al)や銀(Ag)等の配線材料を用いるのが好ましい。何故なら、金属配線90の材料としてアノード電極211と同一の材料を用いることで、アノード電極211と同じ工程で金属配線90を形成でき、工程数を増やさなくて済むからである。金属配線90をアノード電極211と同じ層に形成するのも同様の理由による。
【0101】
また、ウインド絶縁膜71における画素間の部位、即ち、金属配線90が形成されている部位にはコンタクトホール71Bを形成する。そして、このコンタクトホール71Bを介して、有機層213、本例では、有機層213の最下層の電荷注入層214と金属配線90とを電気的に接続する。
【0102】
[2−2.実施形態の作用、効果]
上述したように、有機層213に対して電気的に接続された金属配線90をアノード電極211の周囲を囲むように形成し、当該金属配線90の電位をカソード電位Vcathに設定することで、次のような作用、効果を得ることができる。すなわち、有機層213内の共通層、本例では、電荷注入層214や接続層216,217を通して横方向にリーク電流が流れた場合、図12に示すように、リーク電流はコンタクトホール71Bの部位(以下、コンタクト部71B」と記述する)を通して金属配線90に流れ込む。
【0103】
これにより、電荷注入層214を通して流れるリーク電流は、当該電荷注入層214が金属配線90に対して電気的に接続されているため完全に金属配線90に流れ込む。すなわち、電荷注入層214を通して横方向に流れるリーク電流については、隣接画素側に流れ込むのをコンタクト部71Bで完全に遮断される。
【0104】
また、接続層216,217を通して横方向に流れるリーク電流については、コンタクト部71Bに流れ込む成分と、隣接画素側に流れる成分と、発光に寄与する成分とに分けられる。従って、接続層216,217を通して流れるリーク電流についても、金属配線90を設けない場合に比べて低減することができる。図12において、発光色を表わす矢印の大きさは、当該光の強度を概念的に表わしている。図13に、実施形態に係る画素構造の表示パネルの等価回路を示す。
【0105】
このように、電荷注入層214や接続層216,217を通して横方向にリーク電流が流れたとしても、隣接画素側へ流れ込むリーク電流を低減できる。これにより、リーク電流に起因する隣接画素での発光を抑えることができるために、良好な色再現性(色純度)を得ることができる。
【0106】
尚、本実施形態では、アノード電極211の周囲を囲む金属配線90を、アノード電極211と共通のレイヤーに形成するとしたが、これに限られるものではない。すなわち、白色有機EL素子21Wの有機層213と電気的に接続可能なレイヤーであれば、金属配線90を形成するレイヤーとしてはどのようなレイヤーでも構わない。
【0107】
また、本実施形態では、アノード電極211の周囲を囲む金属配線90の電位をカソード電位Vcathに設定するとしたが、カソード電位Vcathに限られるものではなく、白色有機EL素子21Wが非発光時のアノード電極211の電位よりも低い電位であれば、どのような電位でも構わない。
【0108】
<3.適用例>
上記実施形態では、白色有機EL素子21Wとカラーフィルタ80との組み合わせにより、RGBの各色光を取り出す方式を採用し、しかも、タンデム構造の画素構造(表示パネル)に適用した場合を例に挙げて説明したが、本開示はこの適用例に限られるものではない。すなわち、本開示は、タンデム構造の構成を採らなくても、有機層内に画素間で共通に形成された共通層を少なくとも1層含む画素構造を持つ有機EL表示装置全般に対して適用可能である。
【0109】
但し、タンデム構造の画素構造の場合には、各色光の発光素子を含む発光ユニットを連結する接続層216,217が存在し、これら接続層216,217を通してリーク電流が流れることから、リーク電流に伴う問題は顕著である。従って、特に、タンデム構造の画素構造に本開示を適用すると、その効果は極めて大きいと言うことができる。
【0110】
有機層内に共通層を少なくとも1層含む他の画素構造としては、例えば、RGBの有機EL材料を、マスクを利用して蒸着で塗り分ける、RGBマスク塗り分け方式を採用する画素構造が挙げられる。この画素構造について図14を用いて説明する。
【0111】
図14において、画素毎に形成されたアノード電極211R,211G,211B、及び、ウインド絶縁膜71の上には、電荷注入層214が共通層として形成され、当該電荷注入層214の上には、R,G,Bの有機EL素子21R,21G,21Bが形成されている。また、有機EL素子21R,21G,21Bの上にはカソード電極212が全画素共通に形成され、その上には層間絶縁膜72を介してカラーフィルタ80がオンチップにて形成させている。
【0112】
RGBマスク塗り分け方式を採用する画素構造の場合には、R,G,Bの有機EL素子21R,21G,21Bそれ自体が各色光を発光するので、本来、カラーフィルタ80は不要である。しかし、カラーフィルタ80を併用することで、色純度を高めることができる利点がある。
【0113】
上述したRGBマスク塗り分け方式を採用する画素構造であっても、画素間で共通となる共通層、本例では、電荷注入層214が存在することで、当該電荷注入層214を通して隣接画素へ流れ込むリーク電流に伴う問題の発生は避けられない。従って、RGBマスク塗り分け方式を採用し、画素間で共通層を有する画素構造に対しても、先述した実施形態を同様に適用することができる。
【0114】
すなわち、図14に示すRGBマスク塗り分け方式を採用する画素構造において、有機層(電荷注入層214)に対して電気的に接続された金属配線をアノード電極211R,211G,211Bの周囲を囲むように形成する。そして、当該金属配線の電位を有機EL素子21R,21G,21Bが非発光時のアノード電極211R,211G,211Bの電位よりも低い電位に設定することで、先述した実施形態の場合と同様の作用、効果を得ることができる。
【0115】
<4.電子機器>
以上説明した本開示による有機EL表示装置は、電子機器に入力された映像信号、若しくは、電子機器内で生成した映像信号を、画像若しくは映像として表示するあらゆる分野の電子機器の表示部(表示装置)に適用できる。一例として、図15〜図19に示す様々な電子機器、例えば、デジタルカメラ、ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話等の携帯端末装置、ビデオカメラなどの表示部に適用することが可能である。
【0116】
このように、あらゆる分野の電子機器の表示部として本開示による有機EL表示装置を用いることにより、各種の電子機器の表示品位を高めることができる。すなわち、先述した実施形態の説明から明らかなように、本開示による有機EL表示装置は、有機層内の共通層を通して横方向にリーク電流が流れたとしても、隣接画素での発光を抑えることができるために、良好な色再現性(色純度)を得ることができる。その結果、各種の電子機器において、品位の高い、良好な表示画像をことができる。
【0117】
本開示による表示装置は、封止された構成のモジュール形状のものをも含む。一例として、画素アレイ部に透明なガラス等の対向部が貼り付けられて形成された表示モジュールが該当する。尚、表示モジュールには、外部から画素アレイ部への信号等を入出力するための回路部やFPC(フレキシブルプリントサーキット)等が設けられていてもよい。
【0118】
以下に、本開示が適用される電子機器の具体例について説明する。
【0119】
図15は、本開示が適用されるテレビジョンセットの外観を示す斜視図である。本適用例に係るテレビジョンセットは、フロントパネル102やフィルターガラス103等から構成される映像表示画面部101を含み、その映像表示画面部101として本開示による有機EL表示装置を用いることにより作製される。
【0120】
図16は、本開示が適用されるデジタルカメラの外観を示す斜視図であり、(A)は表側から見た斜視図、(B)は裏側から見た斜視図である。本適用例に係るデジタルカメラは、フラッシュ用の発光部111、表示部112、メニュースイッチ113、シャッターボタン114等を含み、その表示部112として本開示による表示装置を用いることにより作製される。
【0121】
図17は、本開示が適用されるノート型パーソナルコンピュータの外観を示す斜視図である。本適用例に係るノート型パーソナルコンピュータは、本体121に、文字等を入力するとき操作されるキーボード122、画像を表示する表示部123等を含み、その表示部123として本開示による有機EL表示装置を用いることにより作製される。
【0122】
図18は、本開示が適用されるビデオカメラの外観を示す斜視図である。本適用例に係るビデオカメラは、本体部131、前方を向いた側面に被写体撮影用のレンズ132、撮影時のスタート/ストップスイッチ133、表示部134等を含み、その表示部134として本開示による有機EL表示装置を用いることにより作製される。
【0123】
図19は、本開示が適用される携帯端末装置、例えば携帯電話機を示す外観図であり、(A)は開いた状態での正面図、(B)はその側面図、(C)は閉じた状態での正面図、(D)は左側面図、(E)は右側面図、(F)は上面図、(G)は下面図である。本適用例に係る携帯電話機は、上側筐体141、下側筐体142、連結部(ここではヒンジ部)143、ディスプレイ144、サブディスプレイ145、ピクチャーライト146、カメラ147等を含んでいる。そして、ディスプレイ144やサブディスプレイ145として本開示による有機EL表示装置を用いることにより、本適用例に係る携帯電話機が作製される。
【符号の説明】
【0124】
10…有機EL表示装置、20…画素(画素回路)、21…有機EL素子、21W…白色有機EL素子、22…駆動トランジスタ、23…書込みトランジスタ、24…保持容量、25…補助容量、30…画素アレイ部、31(311〜31m)…走査線、32(321〜32m)…電源供給線、33(331〜33n)…信号線、34…共通電源供給線、40…書込み走査回路、50…電源供給走査回路、60…信号出力回路、70…表示パネル、80…カラーフィルタ、90…金属配線、211(211R,211G,211B)…アノード電極、212…カソード電極、213…有機層、214…電荷注入層(共通層)、215R,215G,215B…発光層、216,217…接続層(共通層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード電極とカソード電極との間に有機層を挟んで成る有機EL素子を含む画素が行列状に配置され、
前記有機EL素子は、前記有機層内に画素間で共通に形成された共通層を少なくとも1層含んでおり、
前記アノード電極の周囲を囲み、かつ、前記有機層に対して電気的に接続された金属配線を有し、
前記金属配線の電位は、前記有機EL素子が非発光時の前記アノード電極の電位よりも低い電位に設定されている
有機EL表示装置。
【請求項2】
前記有機EL素子は、白色光を発光する白色有機EL素子であり、
前記白色有機EL素子とカラーフィルタとの組み合わせにより、各色光を取り出す
請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項3】
前記白色有機EL素子は、各色光の発光ユニットを複数、接続層を介して直列的に連結して成るタンデム構造である
請求項2に記載の有機EL表示装置。
【請求項4】
前記共通層は、画素間で共通に形成され、前記有機層に含まれる発光層に電荷を注入する電荷注入層である
請求項3に記載の有機EL表示装置。
【請求項5】
前記金属配線は、前記有機EL素子が設けられるウインド絶縁膜に形成されたコンタクトホールを介して前記電荷注入層と電気的に接続されている
請求項4に記載の有機EL表示装置。
【請求項6】
前記共通層は、前記接続層である
請求項3に記載の有機EL表示装置。
【請求項7】
前記金属配線は、前記アノード電極と同じ層に形成されている
請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項8】
前記金属配線は、前記アノード電極と同一の材料で形成されている
請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項9】
前記金属配線の電位は、前記カソード電極の電位に設定されている
請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項10】
前記有機EL素子は、各色の有機EL材料を、マスクを利用して蒸着で塗り分けることによって形成され、
各色光の前記有機EL素子には、各有機層に含まれる発光層に電荷を注入する電荷注入層が前記共通層として形成されている
請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項11】
アノード電極とカソード電極との間に有機層を挟んで成る有機EL素子を含む画素が行列状に配置され、
前記有機EL素子は、前記有機層内に画素間で共通に形成された共通層を少なくとも1層含んでおり、
前記アノード電極の周囲を囲み、かつ、前記有機層に対して電気的に接続された金属配線を有し、
前記金属配線の電位は、前記有機EL素子が非発光時の前記アノード電極の電位よりも低い電位に設定されている
有機EL表示装置を有する表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−155953(P2012−155953A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13049(P2011−13049)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】