説明

有機EL装置、電子機器及び有機EL装置の冷却方法

【課題】 有機EL素子の冷却効果を向上させた有機EL装置及び当該有機EL装置の冷却方法を提供すること。
【解決手段】 ペルチェ素子4の吸熱側電極である上部電極13が有機EL素子3に接触しているので、当該有機EL素子3で発生した熱を上部電極13が直接的に吸熱することができる。このように、ペルチェ素子4が有機EL素子3を直接的に冷却することができるため、冷却効果が極めて高くなるのである。また、ペルチェ素子4の発熱側電極である下部電極11が、基板2に接触しているので、下部電極11に移動してきた熱が、基板2を介してスムーズに放熱されることになる。これにより、吸熱から放熱までの熱の移動が滞ることなく、効率的な冷却が可能となる。この場合、例えばシリコンや金属等の熱伝導率の高い材料で基板2を構成することで、放熱を一層促進させることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆるトップエミッション型の有機エレクトロルミネセンス(以下、「有機EL」という。)装置及び当該有機EL装置の冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、有機EL装置は、例えばガラス基板上に有機EL素子が形成される構成となっている。有機EL装置がトップエミッション型の場合、有機EL素子は、金属等の材料からなりガラス基板上に形成される陽極と、この陽極上に形成される有機層と、この有機層の上に形成されITO(Indium Tin Oxide:インジウムチンオキサイド)等の透明導電材料からなる陰極とで構成される。
【0003】
有機層は、正孔注入層/輸送層、発光層がこの順に積層されてなる。陽極及び陰極に電圧を印加すると、陽極からは発光層に正孔が注入され、陰極からは発光層に電子が注入され、発光層でこの正孔と電子とが再結合して発光する。トップエミッション型の有機EL装置では、陰極を通過して光が射出される。
【0004】
有機EL装置を駆動すると、正孔又は電子の流れや再結合等により有機EL素子等が発熱する。この熱は有機EL素子に悪影響を及ぼし、表示不良や動作不良の原因となる。特に有機EL素子は熱に弱く劣化しやすいため、ペルチェ素子等の冷却素子を用いて冷却している(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】WO98/13725号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の記載によれば、ペルチェ素子と有機EL素子との間がヒートシンクや封止基板により隔てられており、間接的にしか有機EL素子を冷却できないため、十分な冷却効果が得られない。
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、有機EL素子の冷却効果を向上させた有機EL装置及び当該有機EL装置の冷却方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る有機EL装置は、基板と、前記基板上に設けられたペルチェ素子と、前記ペルチェ素子の上に設けられ、前記基板とは反対の方向に光を射出する有機EL素子とを具備し、前記ペルチェ素子の吸熱側に設けられた吸熱側電極が、前記有機EL素子に接触していることを特徴とする。
【0007】
本発明では、ペルチェ素子の吸熱側電極が有機EL素子に接触しているので、有機EL素子で発生した熱を吸熱側電極が直接的に吸熱することができ、冷却効果が向上する。
ここで、ペルチェ素子について簡単に説明する。ペルチェ素子には、例えば単層型のものやpn型のものがあり、いずれも半導体層(単層型の場合はp型又はn型半導体層、pn型の場合はp型半導体層及びn型半導体層)を電極で挟んだ構造となっている。ペルチェ素子を駆動させたときには、熱が一方の電極から他方の電極へと、当該半導体層を介して移動するようになっている。従って、「一方の電極」側が熱を吸収することになり(吸熱側)、「他方の電極」側が熱を発することになる(発熱側)。吸熱側の電極が吸熱側電極であり、発熱側の電極が発熱側電極である。
【0008】
本発明に係る有機EL装置は、いわゆるトップエミッション型の有機EL装置である。トップエミッション型の有機EL装置では、有機EL素子からは、基板とは反対の方向へ光が射出されるようになっている。このため、基板と有機EL素子との間にペルチェ素子を設けても、当該ペルチェ素子により光が遮られることは無い。よって、本発明によれば、有機EL素子から射出される光を遮ったり弱めたりすることなく、冷却効率を高めることができる。
【0009】
有機EL素子においては、一般的には基板側から正孔注入/輸送層、発光層の順に積層された有機層を陽極と陰極とで挟持した構成となっており、基板側に陽極が設けられる。本発明に係る有機EL装置としては、この有機層が単一である面発光型のもの(例えば、照明として用いられる)であっても良いし、複数の有機層をマトリクス状に配置したもの(例えば、表示装置として用いられる)であっても良い。特に照明等に用いられる面発光型の有機EL装置は、発光時の単位面積あたりの発熱量が多く、熱により有機EL素子が劣化しやすいため、本発明を適用して冷却効率を向上させる意義は大きいといえる。
【0010】
また、前記ペルチェ素子の発熱側に設けられた発熱側電極が、前記基板に接触していることが好ましい。
上述したように、有機層からの熱は、ペルチェ素子の吸熱側電極により吸収される。吸収された熱は、吸熱側から発熱側へと移動し、発熱側電極より放熱される。本発明では、発熱側電極が基板に接触しているので、発熱側電極に移動してきた熱が、基板を介してスムーズに放熱されることになる。これにより、吸熱から放熱までの熱の移動が滞ることなく、効率的な冷却が可能となる。熱伝導率の高い材料で基板を構成するとなお好ましく、これにより、放熱を一層促進させることができる。
【0011】
また、前記有機EL素子が、前記光を射光する発光層を含む有機層を有し、前記吸熱側電極が前記有機層に接触していることが好ましい。
これにより、有機層で発生した熱が、当該有機層と接触する吸熱側電極により直接的に吸熱されるので、効果的な冷却が可能となる。
【0012】
また、前記有機EL素子が、前記有機層を挟持する一対の電極を備え、前記吸熱側電極が、前記一対の電極のどちらか一方の電極を兼ねていることが好ましい。
本発明においては、吸熱側電極を有機層に接触させ、当該吸熱側電極をペルチェ素子の吸熱側の電極としてだけではなく、有機層の電極としても利用するものである。このように構成すれば、吸熱側電極と有機層の電極とを一つの電極(吸熱側電極)で共通化することができる。これにより、一つの有機EL装置に形成される電極が少なくなるため、当該有機EL装置の構成を簡略化することができ、電極を形成する工程が簡単になる。また、電極を共通化してその数を減らすことにより、電極から発生する熱を減少させることにもなる。電極から発生する熱を減少させることで、熱による有機層の劣化を抑えることができる。
【0013】
また、複数の有機層がマトリクス状に配置されたアクティブマトリクス型の表示装置等として有機EL装置を用いる場合であっても、吸熱側電極を各有機層の電極(例えば陽極)として共通して用いることができ、有機EL装置の構成を簡略化することができる。特にアクティブマトリクス型の表示装置においては、複数の有機層や、スイッチング素子(TFT)、配線、電極等を細密に形成しなければならないため、構造が複雑になってしまう。電極(例えば陽極)を吸熱側電極と共通化して構成を簡略化することは、有機EL装置を形成する工程を簡単にすることに効果的である。
【0014】
また、複数の前記有機層が格子状に配置され、前記ペルチェ素子が、前記吸熱側電極と前記発熱側電極とで挟持される半導体層を有し、前記半導体層が、前記複数の有機層の配置に対応するように格子状に配置されることが好ましい。
有機層の配置に対応するように半導体層を設けることで、熱に弱い有機層を集中的に冷却することができ、半導体層を無駄なく形成することもできる。
【0015】
また、例えば表示装置の各画素に有機層が形成される場合、有機EL装置には各有機層に信号を送出するための配線(例えば、信号線や走査線等)や、スイッチング素子としてのTFT(Thin Film Transistor)等が形成される。この配線やTFTが形成される領域では、通常配線及びTFTの周りは絶縁層により絶縁される。
【0016】
本発明では、有機層の配置に対応するように半導体層を設ける構成としている。言い換えれば、有機層と有機層との間、すなわち有機層が存在しない部分に対応する領域には半導体層を設けない構成になる。この半導体層を設けない領域には、上記の配線やTFT素子、あるいは、その周りの絶縁層を設けることができ、スペースを有効に活用できるという利点がある。このように、本発明は、表示装置にも適用しやすい構成となっている。
【0017】
また、前記ペルチェ素子が、単層型ペルチェ素子であることが好ましい。
単層型ペルチェ素子は構成が簡単なため、吸熱側電極、半導体層及び発熱側電極の形成が容易である。このため、有機EL装置に容易に組み込むことができる。
【0018】
また、前記ペルチェ素子が、pn型ペルチェ素子であることが好ましい。
pn型ペルチェ素子においては、p型及びn型の2つの半導体層を介して熱を移動することができる。つまり、有機層からの熱はp型半導体層及びn型半導体層のそれぞれに分散して移動させることができる。これにより、熱の移動がスムーズになり、冷却効率を一層高めることができる。
【0019】
本発明の別の観点に係る電子機器は、上記の有機EL装置を搭載したことを特徴とする。
本発明によれば、冷却効果の優れた有機EL装置を搭載できるので、有機層からの発熱量が多くても動作不良を起こすことが無く、明るく表示特性の良い電子機器を得ることができる。
【0020】
本発明の別の観点に係る有機EL装置の冷却方法は、基板上にペルチェ素子を設け、前記基板とは反対の方向に光を射出する有機EL素子を前記ペルチェ素子の上に設け、前記有機EL素子には前記ペルチェ素子の吸熱側に設けられた吸熱側電極を接触させ、前記有機EL素子から発せられた熱を前記吸熱側電極に吸熱させることで前記有機EL素子を冷却することを特徴とする。
【0021】
本発明によれば、ペルチェ素子の吸熱側電極を有機層に接触させているので、有機EL素子で発生した熱を吸熱側電極が直接的に吸熱できる。これにより、冷却効果を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の図では、各部材を認識可能な大きさとするため、縮尺を適宜変更している。
図1は、有機EL装置1の全体構成を概略的に示す断面図である。
有機EL装置1は、基板2と、基板2上に設けられたペルチェ素子4と、ペルチェ素子4上に設けられた有機EL素子3とを主として構成されている。この有機EL装置1は、駆動部39(図2参照)から供給される電気信号に応じて有機EL素子3が発光することで、画像や動画等を表示できるようになっている。また、基板2上に設けられた絶縁層10上には、有機EL素子3を覆うように封止部5が形成されている。
【0023】
本実施形態では、画素ごとに薄膜トランジスタ(Thin film Transistor:TFT)が形成されたアクティブマトリクス型であり、有機EL素子3により発生した光が基板と反対の方向に射出され封止部5を透過して取り出されるトップエミッション型である有機EL装置1を例に挙げて説明する。
【0024】
基板2は、例えばガラスや石英、樹脂(プラスチック、プラスチックフィルム)等の透明材料で形成することができるが、シリコンや金属等、熱伝導性の高い材料を用いて構成してもよい。本実施形態に係る有機EL装置1はトップエミッション型のものであるため、必ずしも透明材料で形成する必要は無い。
【0025】
図2は、この基板2を平面的に見たときの図である。
同図に示すように、基板2は、中央部分の表示領域7(一点鎖線の内側の領域)と、表示領域7を取り囲む周縁領域8(当該一点鎖線の外側の領域)とに区画されている。表示領域7は、画素が形成され有機EL素子3からの光が通過する画素領域7aと、画素が形成されない画素間領域7bとに区画されている。基板2の端部2aには、駆動部39(図2参照)が取り付けられている。
【0026】
基板2の周縁領域8に設けられる走査駆動回路20は、シフトレジスタ等のメモリや信号レベルを変換するレベルシフタ等の回路を有しており、ゲート配線35に接続されている。データ駆動回路21は、このシフトレジスタ、レベルシフタの他、ビデオラインやアナログシフタ等の回路を有しており、ソース配線37に接続されている。走査駆動回路20及びデータ駆動回路21は、駆動制御信号線(図示しない)を介して駆動部39に接続されており、当該駆動部39の制御によりゲート配線35及びソース配線37に電気信号を出力する。検査回路22は、有機EL装置1の作動状況を検査するための回路であり、例えば検査結果を外部に出力する検査情報出力手段(図示せず)等を備え、製造途中や出荷時の表示装置の品質、欠陥の検査を行うことができるように構成されている。また、走査駆動回路20、データ駆動回路21及び検査回路22は、駆動電源線(図示しない)を介して電源に接続されている。
また、周縁領域8には、有機EL素子3に接続する接続用配線27が形成されている。この接続用配線27は駆動部39に接続されており、当該接続用配線27を介して駆動部39からの電気信号を有機EL素子3に供給することができるようになっている。
【0027】
図1に戻って、有機EL素子3は、陰極13、有機層14、共通電極(陽極)16及び有機バンク層18を有する。これらはペルチェ素子4上に積層されている。有機層14は、電子注入層15及び発光層17を主として構成されている。陰極13、有機層14は画素領域7aに形成されており、有機バンク層18は画素間領域7bに形成されている。
【0028】
陰極13は、電子注入層15に電子を注入する電極であり、例えばアルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、金(Au)等の金属材料から形成され、例えば配線やコンタクトホール等を介してドレイン電極38に接続されている。
電子注入層15は、陰極13から注入された電子を発光層17に輸送する層であり、例えばポリチオフェン誘導体、ポリピロール誘導体、あるいはそれらのドーピング体等から形成されている。また、陽極16は、駆動部からの電気信号に応じて発光層17に正孔を注入する層であり、例えばITO(Indium Tin Oxide)等の透明な材料からなる。この陽極16は、基板2上の接続用配線27に接続され、当該接続用配線27を介して駆動部39に接続されている。
【0029】
発光層17は、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の発光材料、例えば低分子材料や高分子材料等により形成されている。この発光層17では、電子注入層15からの電子と陽極16からの正孔とが結合して光を発する。発光層17には、赤色光を発する層(17R)、緑色光を発する層(17G)、青色光を発する層(17B)の3種類がある。各発光層17R、17G、17Bからの光が陽極16及び封止部5を透過することで、基板2の表示領域7に画像や動画等が表示されるようになっている。
【0030】
有機バンク層18は、電子注入層15や発光層17をインクジェット法等の液滴吐出法で形成する際の隔壁であり、また、隣接する電子注入層15及び発光層17の間で電子の移動が起こらないようにする絶縁層である。有機バンク層18は、例えばアクリルやポリイミド等で形成され、各電子注入層15及び発光層17を遮断するように設けられている。
【0031】
ペルチェ素子4は、基板2上に設けられ、下部電極11と、半導体層12と、上部電極13とを主として構成されている。なお、上部電極13は、有機EL素子3における陰極13と同一の構成要素であり、有機EL3の陰極13として、また、ペルチェ素子の上部電極13として共通して用いられる電極である。以下、陰極及び上部電極については、「上部電極」として統一して表記する。
【0032】
ここで、図3を参照して、ペルチェ素子の原理について簡単に説明する。
図3は、ペルチェ素子の原理を示す図である。
一般にペルチェ素子には、例えば単層型のもの(図3(a)参照)やpn型のもの(図3(b)参照)がある。
【0033】
図3(a)に示すペルチェ素子40は単層型ペルチェ素子と呼ばれ、p型又はn型の半導体層、例えば図3(a)ではn型の半導体層40aを電極40bと電極40cとで挟持した構造となっている。電極40bを陽極とし、電極40cを陰極として、電極40bと電極40cとの間に電圧を印加し、ペルチェ素子40を駆動すると、熱が電極40bから電極40c(陽極側から陰極側)へ、当該半導体層40aを介して移動するようになっている。
【0034】
これにより、電極40b側が熱を吸収することになり(吸熱側)、電極40c側が熱を発することになる(発熱側)。以下、吸熱側の電極40bを吸熱側電極40bと称し、発熱側の電極40cを発熱側電極40cと称するものとする。なお、電圧を逆に印加したり(電極40bを陰極、電極40cを陽極とする)、半導体層40aとしてp型の半導体層を用いた場合には、熱の移動が逆方向(陰極側から陽極側)になる。
【0035】
図3(b)に示すペルチェ素子140はpn型ペルチェ素子と呼ばれ、単層型ペルチェ素子40を直列に接続した構造となっている。具体的には、当該ペルチェ素子140は、p型半導体層140aと、n型半導体層140bと、電極140c〜140eとを有する。電極140c及び電極140dと、電極140eとが対向して設けられ、例えば図3(b)のように、電極140eが、電極140cとの間ではp型半導体層140aを挟持し、電極140dとの間ではn型半導体層140bを挟持する構成となっている。
【0036】
このペルチェ素子140に、p型半導体層140a側を陰極側、n型半導体層140b側を陽極側として電圧を印加すると、電極140c及び電極140d側が発熱側となり、電極140e側が吸熱側となる。以下、pn型ペルチェ素子の電極140c及び140dを発熱側電極140c及び140dと称し、電極140eを吸熱側電極140eと称するものとする。
本実施形態に係る有機EL装置1に用いられるペルチェ素子4の構成は、図3(a)に示す単層型ペルチェ素子40と同等の構成である。以下、ペルチェ素子40と対応させながら、ペルチェ素子4の各部を説明する。
【0037】
図1を参照して、下部電極11は、図3(a)の発熱側電極40cに対応する電極であり、例えばアルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、金(Au)等の金属からなり、基板2の表面2b上に設けられている。半導体層12は、半導体層40aに対応し、例えばビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、テルル(Te)等のn型半導体からなり、下部電極11上に設けられている。半導体層12は、各有機層14の配置に対応するように画素領域7aに設けられており、有機層14が設けられない画素間領域7bには半導体層12は設けられない。上部電極13は、図3(a)の吸熱側電極40bに対応する電極であり、例えばアルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、金(Au)等の金属からなり、下部電極11との間で半導体層12を挟持するように形成されている。下部電極11、半導体層12及び上部電極13は、電気的に接続されている。
【0038】
本実施形態では、下部電極11は発熱側電極40c、上部電極13は吸熱側電極40bにそれぞれ対応する電極であるため、このペルチェ素子4を駆動するときに上部電極13を陽極、下部電極11を陰極として電圧が印加されるようになっている。半導体層12をp型半導体で構成したときには、これとは逆に、上部電極13を陰極、下部電極11を陽極として電圧が印加されるように構成する。このような電圧の調整は、例えば駆動部39により行われるようになっている。
【0039】
下部電極11、半導体層12、上部電極13及び有機層14の平面的な配置を図4に示す。上部電極13の上層側(図4における紙面手前側)には有機層14(一点鎖線で示した部分)が設けられ、上部電極13の下層側(図4における紙面奥側)には、有機層14と対応するように半導体層12(破線で示した部分)が設けられている。
【0040】
一方、図1に戻って、半導体層12が設けられない画素間領域7b及び周縁領域8には絶縁層10が設けられている。この絶縁層10は例えばSiO等からなり、絶縁層10内には、シリコン膜32、ゲート絶縁層33、ゲート配線35、ソース配線37、ドレイン電極38が形成されている。このように、半導体層12が設けられない領域に絶縁層や配線を設けることで、スペースを有効に活用した構成となっている。
【0041】
シリコン膜32は、チャネル領域、ソース領域及びドレイン領域を有する駆動用トランジスタである。シリコン膜32のうち、ゲート絶縁層33を挟んでゲート配線35と重なる領域がチャネル領域32aである。チャネル領域32aのソース側には、低濃度ソース領域32b及び高濃度ソース領域32sが形成され、チャネル領域32aのドレイン側には、低濃度ドレイン領域32c及び高濃度ドレイン領域32dが形成されている。このようにシリコン膜32は、LDD(Light Doped Drain)構造を形成する。
【0042】
ゲート配線35及びソース配線37は、それぞれマトリックス状に配設されている。ゲート配線35は、例えば図2又は図4のX方向に延びるように形成され、ソース配線37は、ゲート配線35とほぼ直交する方向(図2又は図4のY方向)に延びるように形成されている。このソース配線37は、高濃度ソース領域32sに接続される。また、ドレイン電極38は、高濃度ドレイン領域32dに接続されている。このドレイン電極38からは、例えば配線などを介して上部電極13に接続されている。
【0043】
図5は、このように構成された有機EL装置1の配線構造を概念的に示す図である。
この有機EL装置1によれば、ゲート配線35が駆動されてスイッチング用TFT200がオン状態になると、そのときのソース配線37の電位が保持容量201に保持され、該保持容量201の状態に応じて、駆動用TFT32のオン・オフ状態が決まる。駆動用TFT32のチャネルを介して電源線202から上部電極13に電流が流れると、上部電極13から電子注入層15を介して発光層17に電子が移動し、陽極16から発光層17に正孔が移動する。このように、見かけ上電流が陽極16から上部電極13に流れるようになっており、発光層17は、この電流量に応じて発光する。また、ここでは図示を省略するが、上部電極13からは下部電極11との間に電圧を加えるための回路が形成されている。なお、スイッチング用TFT200、保持容量201、電源線202は、図1〜図4では図示を省略している。
【0044】
次に、図6を参照して、本実施形態に係る有機EL装置1の動作及び効果について説明する。
図6は、有機EL装置を駆動したときの様子を示す図である。図6(a)は、既成の有機EL装置51にペルチェ素子を接触させて駆動したときの様子、図6(b)は、本実施形態に係る有機EL装置1を駆動させたときの様子をそれぞれ示している。
【0045】
図6(a)を参照して、有機EL装置51は、基板52上に絶縁層53が形成され、当該絶縁層53の上に有機EL素子54が形成された構成となっている。また、絶縁層53上には、有機EL素子54を覆うように、封止部55が形成されている。ここでは、有機EL装置51が、基板52とは反対の方向に光を射出するトップエミッション型である場合を例に挙げて説明する。ペルチェ素子56は、射出された光を遮らないようにするため、光を取り出す封止部55側ではなく、基板52側に接触させるように設けられるものとする。
【0046】
有機EL装置51を駆動すると、正孔又は電子の流れ等により有機EL素子54が発熱する。ペルチェ素子56と有機EL素子54との間は基板52により隔てられているため、ペルチェ素子56は基板52に伝わった熱を吸熱する。基板52に伝わらない熱については吸熱することができない。吸熱できない分の熱は有機EL装置51の内部にこもってしまい、有機EL素子54を劣化させてしまう危険がある。このように、間接的にしか有機EL素子54を冷却できないため、十分な冷却効果が得られない。
【0047】
一方、図6(b)に示すように、本実施形態に係る有機EL装置1であれば、ペルチェ素子4の吸熱側電極である上部電極13が有機EL素子3に接触しているので、当該有機EL素子3で発生した熱を上部電極13が直接的に吸熱することができる。このように、ペルチェ素子4が有機EL素子3を直接的に冷却することができるため、冷却効果が極めて高くなるのである。
【0048】
また、ペルチェ素子4の発熱側電極である下部電極11が、基板2に接触しているので、下部電極11に移動してきた熱が、基板2を介してスムーズに放熱されることになる。これにより、吸熱から放熱までの熱の移動が滞ることなく、効率的な冷却が可能となる。この場合、例えばシリコンや金属等の熱伝導率の高い材料で基板2を構成することで、放熱を一層促進させることもできる。
【0049】
また、上部電極13と有機EL素子3の陰極13とを共通化しているので、有機EL装置1に形成される電極数が少なくなる。これにより、当該有機EL装置1の構成を簡略化すると同時に、電極を形成する工程が簡単になる。また、電極を共通化してその数を減らすことにより、電極から発生する熱を減少させることにもなる。
【0050】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を説明する。第1実施形態と同様、以下の図では、各部材を認識可能な大きさとするため、縮尺を適宜変更している。また、第1実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。本実施形態では、ペルチェ素子104の内部構成が第1実施形態と異なっているため、この点を中心に説明する。
【0051】
図7は、本実施形態に係る有機EL装置101の概略構成を示す断面図である。
有機EL装置101は、基板2と、基板2上に設けられたペルチェ素子104と、ペルチェ素子104上に設けられた有機EL素子3とを主として構成されている。なお、基板2上に設けられた絶縁層10上に、有機EL素子3を覆うように封止部5が形成されている点については、第1実施形態と同様である。
【0052】
ペルチェ素子104は、基板2上に設けられており、下部電極111と、半導体層112と、上部電極113とを主として構成されている。
本実施形態に係る有機EL装置1に用いられるペルチェ素子104の構成は、図3(b)に示すpn型ペルチェ素子140と同等の構成である。以下、ペルチェ素子104とペルチェ素子140とを対応させながら、ペルチェ素子104の各部を説明する。
【0053】
図7に示すように、下部電極111は、下部電極111a及び下部電極111bを有する。下部電極111aは、図3(b)の発熱側電極140cに対応する電極であり、例えばアルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、金(Au)等の金属からなり、基板2の表面2b上に設けられている。下部電極111bは、図3(b)の発熱側電極140dに対応する電極である。下部電極111aと下部電極111bとは絶縁されている。
【0054】
半導体層112は、p型半導体層112aと、n型半導体層112bとを有し、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、テルル(Te)等の半導体で構成されている。p型半導体層112aは、図3(b)のp型半導体層140aに対応しており、n型半導体層112bは、図3(b)のn型半導体層140bに対応している。p型半導体層112aは下部電極111a上に設けられ、n型半導体層112bは下部電極111b上に設けられている。これら半導体層112a、112bは、各有機層14の配置に対応するように画素領域7aに設けられている。
【0055】
上部電極113は、図3(b)の吸熱側電極140cに対応する電極であり、例えばアルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、金(Au)等の金属からなる。下部電極111aとの間で半導体層112aを挟持し、下部電極111bとの間で半導体層112bを挟持するように形成されている。
【0056】
本実施形態では、下部電極111a及び下部電極111bが発熱側、上部電極113が吸熱側になるようにするため、ペルチェ素子104を駆動するときには下部電極111aを陰極、下部電極111bを陽極として電圧が印加されるようになっている。このような電圧の印加は、例えば駆動部39により行われるようになっている。
【0057】
下部電極111、半導体層112、上部電極113及び有機層14の平面的な配置を図8に示す。上部電極113の上側(図8における紙面手前側)には有機層14(一点鎖線で示した部分)が設けられ、上部電極113の下側(図8における紙面奥側)には、有機層14と対応するように半導体層112a及び112b(破線で示した部分)が設けられている様子がわかる。また、下部電極111aがp型半導体層112aに、また、下部電極111bがn型半導体層112bに、それぞれ対応する位置に配置され、一様の幅で形成されている。
【0058】
本実施形態によれば、ペルチェ素子104においては、p型半導体層112a及びn型半導体層112bの2つの半導体層112を介して熱を移動することができる。つまり、有機層14からの熱はp型半導体層113a及びn型半導体層112bのそれぞれに分散して移動させることができる。これにより、熱の移動がスムーズになり、冷却効率を一層高めることができる。
【0059】
(電子機器)
次に、本発明に係る電子機器について、携帯電話を例に挙げて説明する。
図9は、携帯電話300の全体構成を示す斜視図である。
携帯電話300は、筺体301、複数の操作ボタンが設けられた操作部302、画像や動画、文字等を表示する表示部303を有する。表示部303には、本発明に係る有機EL装置1、101が搭載される。
【0060】
このように、冷却効果の優れた有機EL装置1、101を搭載しているので、有機EL素子3からの発熱量が多くても動作不良を起こすことが無く、明るく表示特性の良い電子機器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第1実施形態に係る有機EL装置の構成を示す断面図である。
【図2】本実施形態に係る有機EL装置の構成を示す平面図である。
【図3】ペルチェ素子の原理を説明する図である。
【図4】本実施形態に係る有機EL装置の一部の構成を示す平面図である。
【図5】本実施形態に係る有機EL装置の回路を示す図である。
【図6】本実施形態に係る有機EL装置の動作を示す図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る有機EL装置の構成を示す断面図である。
【図8】本実施形態に係る有機EL装置の一部の構成を示す平面図である。
【図9】有機EL装置を搭載した電子機器の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1、101…有機EL装置 2…基板 3…有機EL素子 4、104…ペルチェ素子10…絶縁層 11、111…下部電極 12、112…半導体層 13、113…陰極(上部電極) 14…有機層 300…携帯電話

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられたペルチェ素子と、
前記ペルチェ素子の上に設けられ、前記基板とは反対の方向に光を射出する有機EL素子と
を具備し、
前記ペルチェ素子の吸熱側に設けられた吸熱側電極が、前記有機EL素子に接触している
ことを特徴とする有機EL装置。
【請求項2】
前記ペルチェ素子の発熱側に設けられた発熱側電極が、前記基板に接触していることを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項3】
前記有機EL素子が、前記光を射光する発光層を含む有機層を有し、
前記吸熱側電極が前記有機層に接触していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有機EL装置。
【請求項4】
前記有機EL素子が、前記有機層を挟持する一対の電極を備え、
前記吸熱側電極が、前記一対の電極のどちらか一方の電極を兼ねていることを特徴とする請求項3に記載の有機EL装置。
【請求項5】
複数の前記有機層が格子状に配置され、
前記ペルチェ素子が、前記吸熱側電極と前記発熱側電極とで挟持される半導体層を有し、
前記半導体層が、前記複数の有機層の配置に対応するように格子状に配置されることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の有機EL装置。
【請求項6】
前記ペルチェ素子が、単層型ペルチェ素子であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のうちいずれか一項に記載の有機EL装置。
【請求項7】
前記ペルチェ素子が、pn型ペルチェ素子であることを特徴とする請求項1又は請求項5のうちいずれか一項に記載の有機EL装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のうちいずれか一項に記載の有機EL装置を搭載したことを特徴とする電子機器。
【請求項9】
基板上にペルチェ素子を設け、
前記基板とは反対の方向に光を射出する有機EL素子を前記ペルチェ素子の上に設け、
前記有機EL素子には前記ペルチェ素子の吸熱側に設けられた吸熱側電極を接触させ、
前記有機EL素子から発せられた熱を前記吸熱側電極に吸熱させることで前記有機EL素子を冷却する
ことを特徴とする有機EL装置の冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−147826(P2006−147826A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−335589(P2004−335589)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】