有機EL装置の製造方法
【課題】液滴吐出ヘッドを移動させつつ液滴を吐出する場合において、インク尾が目的該の領域に付着等する現象を低減して、信頼性等の向上した有機EL装置を得る。
【解決手段】基板10上に、平面視で画素電極29と該画素電極とY方向において隣り合う領域である非発光領域7の少なくとも一部を含めて囲むように隔壁8を形成する工程と、液滴吐出ヘッド41と基板10とをY方向に相対移動させつつ、隔壁8で囲まれた領域である機能層形成領域5に、発光機能層形成材料を含む機能液を吐出する工程と、を有する有機EL装置の製造方法。
【解決手段】基板10上に、平面視で画素電極29と該画素電極とY方向において隣り合う領域である非発光領域7の少なくとも一部を含めて囲むように隔壁8を形成する工程と、液滴吐出ヘッド41と基板10とをY方向に相対移動させつつ、隔壁8で囲まれた領域である機能層形成領域5に、発光機能層形成材料を含む機能液を吐出する工程と、を有する有機EL装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、平面型の表示装置として、画素電極(陽極)と少なくとも有機EL(エレクトロルミネッセンス)層を含む発光機能層と陰極とを積層して形成される有機EL素子を、画像表示領域内に規則的に配置してなる有機EL装置が注目されている。そして、上述の発光機能層の形成方法として、例えば特許文献1に記載されるように、画素電極を平面視で囲む隔壁(バンク)を形成した後、該隔壁を側壁とし該画素電極を底部とする凹部内に発光機能層形成材料を含む液体材料すなわち機能液を吐出し、該液体材料を固化して発光機能層とするインクジェット法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−73602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、インクジェット法による発光機能層の形成は、機能液の吐出時に生じるインク尾の影響が問題となりつつある。インク尾とは、吐出時において主液滴に続く少量の機能液である。
【0005】
図17(a)〜(d)は、インク尾と該インク尾の影響等について示す図である。なお、本図で示す各要素については、後述の各実施形態で説明する。図17(c)は、液滴(主液滴)50のみが吐出されている態様を示す図である。略球形の機能液13のみが吐出された、理想的な態様を示している。図17(a)は、機能液13が、略球形の液滴50と該液滴に続く一般的な形状のインク尾14として吐出された態様を示す図である。図17(b)は、機能液13が、略球形の液滴50と該液滴に続く小径の液滴として吐出された態様を示す図である。かかる小径の液滴も、インク尾14の一態様である。
【0006】
図17(d)は、インク尾14の影響を示す図である。液滴吐出法による発光機能層の形成は、画素電極29が形成された素子基板10と液滴吐出ヘッド41とを相対移動させて行う。画素電極29の周囲には隔壁(詳しく上部隔壁)8が形成されており、液滴50は該隔壁で囲まれた領域内に吐出される。かかる場合において、上述の液滴50の後に上述のインク尾14が続いていた場合、上述の素子基板10と液滴吐出ヘッド41との相対移動によりインク尾14が流れて、図示するように隔壁8上にインク尾14すなわち機能液が付着し得る。さらには、隣り合う画素電極29上にもインク尾14が付着する。
【0007】
かかる現象は、吐出の機能液13を硬化させて得られる発光機能層の層厚を減少させるため、有機EL装置の表示品質を劣化させ得る。また、機能液13が、隔壁の上面のような本来供給されるべきでない領域に付着することは、有機EL装置の信頼性の低下につながりかねない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]本適用例にかかる有機EL装置の製造方法は、基板上において互いに交差する第1の方向と第2の方向とにわたって複数の第1電極を形成する第1の工程と、上記第1電極を平面視で囲む隔壁を形成する第2の工程と、上記隔壁で囲まれた機能層形成領域に発光機能層形成材料を含む機能液を液滴吐出ヘッドから吐出する第3の工程と、吐出された上記機能液を硬化させて、上記機能層形成領域内に発光機能層を形成する第4の工程と、上記発光機能層上に第2電極を形成して、上記第1電極と上記発光機能層と上記第2電極とを備える有機EL素子を形成する第5の工程と、を有する有機EL装置の製造方法であって、上記第2の工程は、平面視で上記第2の方向において隣り合う上記有機EL素子に挟まれた非発光領域の少なくとも一部を含めて囲むように上記隔壁を形成する工程であり、上記第3の工程は、上記液滴吐出ヘッドと上記基板とを上記第2の方向に相対移動させつつ上記機能液を吐出する工程であることを特徴とする。
【0010】
隔壁内に非発光領域も含めることで、インク尾が形成される方向に機能層形成領域を拡大(延長)できる。したがってこのような製造方法であれば、インク尾が隔壁上に残る現象、及びインク尾が隣り合う形成領域に流出する現象(以下、上記双方の現象を「(機能液の)流出」と称する。)を低減できる。そのため、信頼性、及び表示品質等の向上した有機EL装置を得ることができる。
【0011】
[適用例2]上述の有機EL装置の製造方法であって、上記第1の工程の前に、上記有機EL素子を駆動する駆動回路を、上記基板上の上記非発光領域に形成する第6の工程を有することを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【0012】
このような製造方法であれば、有機EL素子が規則的に形成される領域である画像表示領域を有効に利用しつつ、非発光領域を形成できる。したがって、表示品質を低下させずに機能液の流出を低減できる。
【0013】
[適用例3]上述の有機EL装置の製造方法であって、上記第1の工程は、平面視で長軸と短軸を有する形状の上記第1電極を、該第1電極の長軸方向が上記第2の方向と一致するように形成する工程であることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【0014】
このような製造方法であれば、機能層形成領域をインク尾が形成される方向により一層拡大できる。したがって、機能液の流出をより一層低減できる。
【0015】
[適用例4]上述の有機EL装置の製造方法であって、上記第2の工程は、平面視で上記第1電極の長軸方向における両側に上記非発光領域の少なくとも一部が含まれるように、上記隔壁を形成する工程であることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【0016】
このような製造方法であれば、有機EL素子が形成される領域を、機能層形成領域の第2の方向における中央近傍に位置させることができる。したがって、発光機能層のうちの将来的に有機EL素子の構成要素となる部分の層厚均一性を向上させることができ、より一層表示品質の向上した有機EL装置を得ることができる。
【0017】
[適用例5]上述の有機EL装置の製造方法であって、上記第3の工程は、上記液滴吐出ヘッドが上記機能層形成領域を横切る際に一滴の上記機能液を吐出する工程であり、かつ、上記機能液が吐出される前に上記液滴吐出ヘッドが該機能層形成領域に対して相対的に接近する側の上記隔壁の端部と上記機能液が吐出される位置との距離が、上記機能液が吐出された後に上記液滴吐出ヘッドが該機能層形成領域に対して相対的に遠ざかる側の上記隔壁の端部と上記機能液が吐出される位置との距離よりも小さくなるように、上記機能液を吐出する工程であることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【0018】
このような製造方法であれば、インク尾が流れる方向における、機能液が吐出される位置と隔壁との間の距離を増大させることができる。したがって機能液の流出をより一層低減でき、より一層表示品質の向上した有機EL装置を得ることができる。
【0019】
[適用例6]上述の有機EL装置の製造方法であって、上記第3の工程は、上記液滴吐出ヘッドと上記基板とを上記第2の方向に沿って相対的に往復運動させつつ、上記液滴吐出ヘッドが上記機能層形成領域を一回横切る度に一滴の上記機能液を吐出する工程であることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【0020】
機能液を複数の液滴に分けて吐出することで個々の液滴のサイズを縮小でき、それに伴いインク尾の長さ等も縮小できる。したがって、このような製造方法であれば、機能液の流出をより一層低減でき、より一層表示品質の向上した有機EL装置を得ることができる。
【0021】
[適用例7]上述の有機EL装置の製造方法であって、上記第3の工程は上記液滴吐出ヘッドが上記機能層形成領域を横切る際に上記機能液を複数回吐出する工程であり、かつ、上記機能液が吐出される前に上記液滴吐出ヘッドが該機能層形成領域に対して相対的に接近する側の上記隔壁の端部と該機能層形成領域内において最初に上記機能液が吐出される位置との距離が、上記機能液が吐出された後に上記液滴吐出ヘッドが該機能層形成領域に対して相対的に遠ざかる側の上記隔壁の端部と該機能層形成領域内において最後に上記機能液が吐出される位置との距離よりも小さくなるように、上記機能液を吐出する工程であることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【0022】
このような製造方法であれば、インク尾が流れる方向における、機能液が吐出される位置と隔壁との間の距離を増大させることができる。したがって、機能液の流出をより一層低減でき、より一層表示品質の向上した有機EL装置を得ることができる。
【0023】
[適用例8]上述の有機EL装置の製造方法であって、上記第3の工程は、上記液滴吐出ヘッドと上記基板とを上記第2の方向に沿って相対的に往復運動させつつ、上記液滴吐出ヘッドが上記機能層形成領域を一回横切る度に上記機能液を複数回吐出する工程であることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【0024】
このような製造方法であれば、機能液の液滴をより一層縮小でき、それに伴いインク尾の長さ等もより一層縮小できる。したがって、機能液の流出をより一層低減でき、より一層表示品質の向上した有機EL装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1の実施形態の対象となる有機EL装置の回路構成を示す図。
【図2】第1の実施形態の対象となる有機EL装置の、画像表示領域内における画素電極等の配置等を示す模式平面図。
【図3】第1の実施形態の対象となる有機EL装置の画素の断面を示す図。
【図4】液滴吐出ヘッドの構造を示す模式断面図。
【図5】ヘッドユニットを素子基板上の機能層形成領域の配置と共に示す図。
【図6】第1の実施形態の有機EL装置の製造方法を示す工程断面図。
【図7】第1の実施形態の有機EL装置の製造方法を示す工程断面図。
【図8】第1の実施形態の有機EL装置の製造方法を示す工程断面図。
【図9】第1の実施形態の有機EL装置の製造方法を示す工程断面図。
【図10】第2の実施形態の対象となる有機EL装置の、画像表示領域内における画素電極等の配置等を示す模式平面図。
【図11】第2の実施形態の有機EL装置の製造方法を示す工程断面図。
【図12】第2の実施形態の有機EL装置の製造方法を示す工程断面図。
【図13】第3の実施形態の有機EL装置の製造方法を示す工程断面図。
【図14】第3の実施形態の有機EL装置の製造方法を示す工程断面図。
【図15】第4の実施形態の有機EL装置の製造方法を示す工程断面図。
【図16】第4の実施形態の有機EL装置の製造方法を示す工程断面図。
【図17】インク尾と該インク尾の影響等について示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態にかかる有機EL装置の製造方法、及び該実施形態にかかる製造方法の対象となる有機EL装置の構成等について、図面を参照しつつ述べる。なお、以下の各図においては、各層や各部位を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部位の縮尺を実際とは異ならせてある。
【0027】
(第1の実施形態)
<有機EL装置>
図1は、本実施形態の製造方法の対象となる有機EL装置1、及び後述する各実施形態の対象となる有機EL装置の回路構成を示す図である。有機EL装置1は、基板としての素子基板10(後述する図3参照)上に規則的に形成された複数の有機EL素子28の発光を個別に制御して、画像表示領域100にカラー画像を形成するアクティブマトリクス型の有機EL装置である。画像表示領域100には、第1の方向としてのX方向に延在する複数の走査線21と該走査線と平行に延在する複数の電源供給線23、及び走査線21と直交するように第2の方向としてのY方向に延在する複数の信号線22が形成されている。そして、上記3種類の配線で囲まれる区画毎に画素20が形成されている。
【0028】
各々の画素20は、走査線21を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用TFT(薄膜トランジスター)26と、スイッチング用TFT26を介して信号線22から供給される画像信号を保持する保持容量27と、保持容量27によって保持された画像信号がゲート電極に供給される駆動用TFT25と、駆動用TFT25を介して電源供給線23から駆動電流が供給される有機EL素子28とを備えている。有機EL素子28は、第1電極としての画素電極(陽極)29(図2参照)と、画像表示領域100の全域に形成された第2電極としての陰極33(図3参照)、及び、かかる画素電極29と陰極33との一対の電極間に挟持された発光機能層30(図3参照)を有している。
【0029】
画素20は、赤色光を射出する赤色画素20Rと緑色光を射出する緑色画素20Gと青色光を射出する青色画素20Bとの計3種類があり、画像表示領域100内に規則的に形成されている。具体的には、Y方向には同一の色を生成する画素20が並び、X方向には上述の3種類の画素20(R,G,B)が規則的に形成されている。なお、画素20は、かかる諸要素で構成される機能的な概念である。一方、後述する機能層形成領域5(図2等参照)等は、平面的な概念である。
【0030】
画像表示領域100の周辺には、走査線駆動回路98、及び信号線駆動回路99が形成されている。走査線21には、走査線駆動回路98から、図示しない外部回路より供給される各種信号に応じて走査信号が順次供給される。そして、信号線22には信号線駆動回路99から画像信号が供給され、電源供給線23には図示しない外部回路から画素駆動電流が供給される。
【0031】
走査線21が駆動されスイッチング用TFT26がオン状態になると、その時点の信号線22の電位が保持容量27に保持され、保持容量27の状態に応じて駆動用TFT25のレベルが決まる。そして、駆動用TFT25を介して電源供給線23から画素電極29に駆動電流が流れ、さらに発光機能層30を介して陰極33に駆動電流が流れる。発光機能層30は駆動電流の大きさに応じて発光する。その結果、該発光機能層を備える個々の有機EL素子28、そして該有機EL素子を備える個々の画素20は、該駆動電流の大きさに応じて光を射出する。その結果、3種類の画素20(R,G,B)が規則的に形成されている画像表示領域100にカラー画像が形成される。なお、以下の記載において、単に「画素20」とした場合、上述の3種類の画素20(R,G,B)の総称とする。
【0032】
夫々の画素20の発光色(3原色のいずれか)は、発光機能層30に含まれる有機EL層32(図3等参照)により設定されている。したがって、有機EL素子28も発光色により3種類に分類できる。ただし、本明細書では符号等による区別は行っていない。
各々の画素20は、所定の範囲内において任意の強度の光(3原色光の何れかの光)を生成できるため、X方向に並ぶ3つの画素20の組み合わせは任意の色(色度)の光を生成できる。かかる3つの画素20の組み合わせを「画素」として、上述の個々の画素20を「サブ画素」と定義することもできるが、本明細書では3原色光の何れかの光を生成できる最小単位を「画素20」としている。
【0033】
図2は、有機EL装置1の模式平面図であり、画像表示領域100内における機能層形成領域5、及び隔壁としての上部隔壁8の平面視での態様を示す図である。図3は、図2におけるA−A’線における断面図であり、画素20の断面を示す図である。ただし、断面線(A−A’線)の関係上、スイッチング用TFT26は示されていない。以下、双方の図を用いて有機EL装置1の概要を説明する。なお、図2においては、断面方向(基板面に垂直方向)に於ける形成位置にかかわらず、全ての要素を実線で示している。そして、走査線21等の3種類の配線は、図示を省略している。
【0034】
図2に示すように、画像表示領域100内には、複数の画素電極29がマトリクス状に形成されている。そして各々の画素電極29は、Y方向の間隔がX方向の間隔よりも大きくなるように隣り合っている。そして、Y方向に隣り合う画素電極29間には、駆動用TFT25とスイッチング用TFT26と保持容量27と、が形成されている。かかる3つの要素の集合を、以下「駆動回路35」と称する。すなわち駆動回路35は、平面視でY方向に隣り合う画素電極29間に形成されている。以下、駆動回路35の構成等を、図3を用いて説明する。
【0035】
有機EL装置1は、図3に示すように、素子基板10と対向基板11の一対の基板と、該一対の基板間に挟持された有機EL素子28等で構成されている。有機EL装置1はボトムエミッション型の装置であり、有機EL素子28の発光は素子基板10側から射出される。したがって素子基板10は透明性が必要であり、有機EL装置1においてはガラス等で形成されている。以下、素子基板10側から説明する。
【0036】
素子基板10の対向基板11側の面上には、酸化シリコン(SiO2)からなる下地保護膜51が形成され、該下地保護膜上には駆動用TFT25及び保持容量27が形成されている。なお、以下の記載において、かかる対向基板11側を、「上面」、「上方」あるいは「上側」と称する。
【0037】
駆動用TFT25は、半導体層60とゲート絶縁層52とゲート電極64で構成されている。半導体層60はポリシリコン(他結晶シリコン)からなる島状の層である。そして、ゲート電極64と対向する部分であるチャネル領域61と、該チャネル領域の両側の領域であるソース領域62及びドレイン領域63と、に区分されている。ソース領域62とドレイン領域63は不純物が注入されている領域であり、チャネル領域61は不純物が注入されていない領域である。ゲート絶縁層52は酸化シリコン等からなる透明性を有する層であり、画像表示領域100内の略全域に形成されている。
【0038】
ゲート電極64は、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、タングステン(W)などの低抵抗金属材料で形成されている。そして、ゲート電極64を構成する層は、走査線21を構成する層と同一の層である。すなわち、素子基板10上の全面に形成された上述の低抵抗金属材料層のうち、半導体層60の上方を横切るようにパターニングされた部分がゲート電極64となる。走査線21は保持容量27の一方の電極となる下部電極68も構成している。X方向に延在する走査線21から、Y方向に突出するようにパターニングされた部分が、下部電極68となる。
【0039】
下部電極68及び駆動用TFT25の上面には第1層間絶縁層53が形成されている。第1層間絶縁層53及び後述する第2層間絶縁層54は、例えば、酸化シリコン(SiO2)、酸化チタン(TiO2)等の透明性を有する絶縁材料で構成されている。そして、該第1層間絶縁層のうち、ソース領域62と重なる部分及びドレイン領域63と重なる部分を局所的に除去してコンタクトホール67が形成されている。
【0040】
ドレイン領域63上のコンタクトホール67には該コンタクトホールを埋め込むようにドレイン電極66が形成されている。そして、ソース領域62上のコンタクトホール67には該コンタクトホールを埋め込むようにソース電極65が形成されている。ソース電極65は、電源供給線23(図1参照)の一部である。電源供給線23は、保持容量27の一方の電極となる上部電極69も構成している。X方向に延在する電源供給線23から、Y方向に突出するようにパターニングされた部分が、上部電極69となる。保持容量27は、第1層間絶縁層53と該第1層間絶縁層を挟持する下部電極68及び上部電極69とで構成されている。
【0041】
上部電極69等の上面には、第2層間絶縁層54が形成されている。そして、該第2層間絶縁層のうち、ドレイン電極66と重なる部分を局所的に除去してコンタクトホール67が形成されている。そして、第2層間絶縁層54の上面には、該コンタクトホール及びドレイン電極66を介して駆動用TFT25と導通する第1電極としての画素電極29が形成されている。
なお、以下に記載においては、素子基板10の上面すなわち素子基板10と下地保護膜51との界面から第2層間絶縁層54の上面までの間を、「素子層12」とも称する。
【0042】
画素電極29は、ITO(酸化インジウム・すず合金)等の透明導電性を有する材料からなる。そして、図2に示すように、平面視でY方向が長軸でありX方向が短軸である長円形にパターニングされている。なお、画素電極の(平面視での)形状は長円形に限定されるものではなく、例えば矩形等の形状でも良い。ただし、Y方向、すなわち同一の色の画素20が形成されている方向の寸法が、X方向の寸法よりも大きい形状であることが好ましい。すなわち、Y方向が長軸方向であることが好ましい。また、島状にパターニングされており、隣り合う画素電極29が電気的に互いに独立していることが必要である。
【0043】
第2層間絶縁層54及び画素電極29の上面には、下部隔壁9が形成されている。下部隔壁9は、例えば、酸化シリコンあるいは窒化シリコン等の無機材料からなる。厚さは、50nm〜200nmの範囲である。下部隔壁9は、上述の厚さの無機材料層を、画素電極29の少なくとも一部が露出するようにパターニングして形成されている。
【0044】
図2においてハッチングが施されている領域が、下部隔壁9の形成領域である。本実施形態の対象となる有機EL装置1、及び後述する有機EL装置2(以下、「有機EL装置1等」と称する。)において、下部隔壁9は画素電極29の外縁部すなわち外周を囲む環状の領域と重なるようにパターニングされている。すなわち上述の無機材料層を、画素電極29が外縁部を除いて露出するようにパターニングしたものが、下部隔壁9である。
【0045】
有機EL装置1等は、ボトムエミッション型であるため、駆動回路35と画素電極29とは、素子基板10上において互いに異なる領域に形成されている。したがって、下部隔壁9は駆動回路35を完全に覆っている。下部隔壁9が形成された時点で画素電極29が露出している領域が、将来的に有機EL素子28が形成される領域、すなわち発光領域6である。後述する上部隔壁8で区画される領域内において下部隔壁9で覆われる領域が、非発光領域7である。有機EL装置1では、非発光領域7が一方の側(本図では右側)に偏って形成されている。本図の左側にも若干の非発光領域が存在するが、符号は省略している。
なお、下部隔壁9は、本実施形態の製造方法の対象となる有機EL装置における必須の構成要素ではないが、発光機能層30の層厚均一性の向上等のためには、形成されていることが好ましい。
【0046】
下部隔壁9の上面には、図3に示すように画素電極29及び駆動回路35を平面視で囲むように、隔壁としての上部隔壁8が形成されている。画素電極29がマトリクス状に形成されているため、上部隔壁8は平面視で格子状となるようにパターニングされている。上部隔壁8で囲まれた領域が、後述する発光機能層30が将来的に形成される機能層形成領域5である。機能層形成領域5は、発光領域6と非発光領域7の双方の領域を含む領域である。
【0047】
上部隔壁8の形成材料は、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂等の有機材料である。有機EL装置1(及び後述する有機EL装置2)においては、感光性アクリル樹脂層をパターニングして形成されている。上部隔壁8の厚さは、1μm〜3.5μmの範囲が好ましく、有機EL装置1では、略2μmである。そして、幅は略5μm〜10μmである。したがって、上部隔壁8のアスペクト比、すなわち幅に対する厚さの比率は、下部隔壁9のアスペクト比に比べると非常に高い値になっている。かかるアスペクト比の違いは、下部隔壁9が所定の領域を覆うために形成されているのに対して、上部隔壁8は所定の領域を区画するために形成されていることによる。そのため、上部隔壁8が素子基板10上に占める占有面積は、下部隔壁9の該占有面積に比べて大幅に縮小されている。
【0048】
上述したように、下部隔壁9が形成されていない領域が発光領域6である。そして、上部隔壁で囲まれた領域すなわち上部隔壁8が形成されていない領域が機能層形成領域5である。本実施形態の製造方法では、上部隔壁8を高アスペクト比に形成することで、個々の画素20が占める面積を増加させることなく、機能層形成領域5の面積を増大させている。
なお、図2に示すように、機能層形成領域5は平面視で略矩形である。そして、Y方向における機能層形成領域5のピッチは略141μmである。したがって、上部隔壁8で囲まれた領域である機能層形成領域5のY方向の寸法は略130μmである。
【0049】
機能層形成領域5内には、発光機能層30が形成されている。発光機能層30は、素子基板10側の正孔注入輸送層31とその上層に形成される有機EL層32との2層で構成されている。正孔注入輸送層31は、正孔を供給して、該正孔を有機EL層32まで効率的に輸送する層である。駆動回路35から画素電極29に駆動電流が供給されると、該正孔と後述する陰極33から供給される電子が有機EL層32内で結合して発光を生じる。
【0050】
有機EL装置1等においては、双方の層とも、液滴吐出法で形成されている。液滴吐出法は、機能層形成材料、すなわち正孔注入輸送層31又は有機EL層32を形成する材料を、溶媒または分散媒に分散等して得られる液体材料すなわち機能液の液滴を所定の領域に吐出した後、上述の溶媒等を乾燥除去して上述の材料からなる層を形成する方法である。
【0051】
正孔注入輸送層31の形成材料としては、例えばポリチオフェン誘導体、ポリピロール誘導体など、またはそれらのドーピング体等を用いることができる。具体的には、3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)[商品名;バイトロン−p(Bytron−p):バイエル社製]の分散液、すなわち、分散媒としてのポリスチレンスルフォン酸に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェンを分散させ、さらにこれを水に分散させた分散液等を用いることができる。
【0052】
有機EL層32の形成材料としては、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の発光材料を用いることができる。具体的には、(ポリ)フルオレン誘導体(PF)、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)などのポリシラン系等を用いることができる。
また、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子系材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等の低分子材料をドープして用いることもできる。
【0053】
なお、発光機能層30の構成は、上述の態様に限定されるものではなく、有機EL層32を主体として、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層などのキャリア注入層またはキャリア輸送層を含んでもよい。さらには、正孔阻止層(ホールブロッキング層)、電子阻止層(エレクトロン阻止層)を含んでもよい。
【0054】
発光機能層30の上面には陰極33が形成されている。陰極33は、発光機能層30とは異なり、上部隔壁8の上面を含む画像表示領域100(図1参照)の全域に形成されている。有機EL装置1等はボトムエミション型であるため、陰極33は発光機能層30内で生じた発光を素子基板10側に反射させる反射層も兼ねている。したがって、反射性を有する材料で形成される必要がある。有機EL装置1等では、Al(アルミニウム)で形成されている。
【0055】
画素電極29が下部隔壁9で覆われていない領域では、該画素電極と発光機能層30と陰極33との積層体が形成される。かかる積層体が有機EL素子28である。有機EL素子28が形成されている領域が発光領域6である。画素電極29に駆動電流が供給されると陰極33の間で通電し、通電量に合せて有機EL層32が3原色の何れかの色に発光する。個々の有機EL素子28の発光が制御されることで、画像表示領域100内にカラー画像が形成される。
【0056】
陰極33の上面には、封止接着層88が、少なくとも画像表示領域100の全域に渡って形成されている。そして、該封止接着層により対向基板11が貼り合されている。封止接着層88は素子基板10側から順に封止層と接着層が積層されて形成されており、封止層はさらに素子基板10側から順に電極保護層と緩衝層とガスバリア層とが積層されて形成されている。
【0057】
<液滴吐出ヘッド>
次に、本実施形態、及び後述する各実施形態の製造方法において、発光機能層30の形成等に用いる液滴吐出ヘッド41及びヘッドユニット40の概要について説明する。図4は、液滴吐出ヘッド41の構造を示す模式断面図である。
【0058】
液滴吐出ヘッド41は、機能液13等の流動経路と、該機能液を瞬間的に加圧して液滴50として吐出する機構と、を備えている。流動経路は、液滴50を吐出する孔であるノズル49と、吐出される直前の機能液13等が充填されるキャビティ43、及び、図示しない機能液13のタンクとキャビティ43との間に形成されている、機能液供給チューブ39と機能液導入路38と連通部37と機能液供給路36とで構成されている。ノズル49はノズルプレート42に形成された微細な孔であり、1つのノズルプレート42に複数個が一列に形成されている。ノズルプレート42及びその他の構成要素は、ステンレス、単結晶シリコン、プラスチック等の材料、あるいはかかる材料を組み合わせて構成されている。
【0059】
機能液13等を吐出させる機構は、圧電素子45と振動板44とキャビティ43とで構成されている。すなわち、キャビティ43は、機能液13等の経路であり、同時に加圧する機構でもある。圧電素子45は上下方向に振動して振動板44を振動させることができる。そして、かかる振動板44の上下方向の振動に連動して、キャビティ43内の容積も拡大と縮小を繰り返す。液滴吐出ヘッド41が、図示しない制御装置から機能液13等を吐出させるべき信号を受けると、圧電素子45が上下方向に伸縮する。そして、圧電素子45は振動板44を振動させるので、振動板44と隣接するキャビティ43の容積が拡大縮小する。それにより、キャビティ43内に供給された機能液13等のうち縮小した容積分がノズル49から液滴50として吐出される。
【0060】
なお、以下の記載において、「機能液13」は、後述する「第1の機能液13a」と「第2の機能液13b」の双方を含む総称とする。「液滴50」も、後述する「第1の液滴50a」と「第2の液滴50b」の双方を含む総称とする。
【0061】
<ヘッドユニット>
図5は、ヘッドユニット40を、素子基板10上の機能層形成領域5の配置と共に、模式的に示す図である。ヘッドユニット40は、複数(本図では3個)の液滴吐出ヘッド41を備えている。液滴吐出法の対象である素子基板10の画像表示領域100内には、上部隔壁8で区画された機能層形成領域5がマトリクス状に配置されている。各機能層形成領域5内に記載されているR,G,Bの符号は、発光色を表している。各々の液滴吐出ヘッド41は、ノズル49のX方向のピッチが、機能層形成領域5のX方向のピッチ一致するように傾けて配置されている。
【0062】
液滴吐出法の実施に用いられる液滴吐出装置(装置自体は不図示)は、素子基板10を載置しつつY方向に移動可能な基台と、ヘッドユニット40をX方向に移動させることができるヘッド移動機構を備えている。かかる機構により、素子基板10とヘッドユニット40とをY方向に相対的に移動させて、ノズル49が機能層形成領域5上に差し掛かる度に1又は複数の液滴50を吐出できる。
【0063】
なお、本図では、素子基板10上のX方向に形成された機能層形成領域5の個数とヘッドユニット40が備えるノズル49の個数とが同一であるように図示しているが、実際の有機EL装置では、ノズル49の個数以上の機能層形成領域5が、X方向に形成されていることが一般的である。かかる場合においては、所定の範囲の機能層形成領域5内に液滴50を吐出した後、上述のヘッド移動機構によりヘッドユニットをX方向に移動させ、再度液滴50の吐出工程を実施することで、画像表示領域100内の全域に発光機能層30(図3参照)を形成できる。
【0064】
<有機EL装置の製造方法>
次に、本実施形態の有機EL装置1の製造方法について、図面を参照して説明する。図6〜図9は、第1の実施形態にかかる有機EL装置1の製造方法を示す工程断面図である。上記各図は、1つの画素電極29と該画素電極のY方向における両側に形成された駆動回路35とを、Y方向に切断した断面で示す模式断面図である。以下、工程順に説明する。
【0065】
まず、図6(a)に示すように、第6の工程として、素子基板10の一方の面上に駆動回路35を含む素子層12を形成する。
【0066】
次に、図6(b)に示すように、第1の工程として、平面視でY方向に隣り合う駆動回路35の間に第1電極としての画素電極29を形成する。画素電極29は上述したようにITOの薄膜を島状にパターニングして形成する。
【0067】
次に、図6(c)に示すように、下部隔壁9を形成する。上述したように、下部隔壁9は、素子基板10上の全面に形成された無機材料層を、画素電極29の外縁部及び該画素電極が形成されていない領域を覆うようにパターニングして形成する。下部隔壁9が形成された段階において画素電極29(の表面)が露出している領域が発光領域6である。
【0068】
下部隔壁9の形成後、第2の工程として、感光性アクリル層をパターニングして、下部隔壁9の上面に隔壁としての上部隔壁8を形成する。本発明において、上部隔壁8は、平面視で画素電極29と該画素電極とY方向に隣り合う駆動回路35の少なくとも一部を囲むように形成される。そして、本実施形態の有機EL装置1の上部隔壁8は、画素20を含むように、すなわち画素20を平面視で囲むように形成される。具体的には、画素電極29と該画素電極に対応する駆動回路35とを囲むように形成される。その結果、非発光領域7は一方の側に偏るように形成される。
【0069】
なお、本図及び後述する各工程断面図において、上部隔壁8の上面を図示する必要性等の作図の都合上、上部隔壁8のY方向の寸法を拡大して図示している。そのため、上部隔壁8が駆動回路35と重なるように図示されている。実際には、上部隔壁8の寸法は図2に示す通りであり、平面視での寸法は極めて小さく形成されている。したがって、実際には、本図で示す上部隔壁8のX方向に延在する部分は、画素電極29の外縁部すなわち該画素電極が下部隔壁9で覆われた領域に形成されている。その結果、平面視において駆動回路35が占める領域の大部分が非発光領域7となる。
【0070】
次に、図6(d)に示すように、素子基板10の全面にプラズマ照射を行う。具体的には、酸素含有ガスを処理ガスとするプラズマ処理とフッ素含有ガスを処理ガスとするプラズマ処理の、2種類のプラズマ処理を順次行う。酸素含有ガスを処理ガスとするプラズマ処理により画素電極29の表面に残留している(可能性のある)有機系の残渣を除去する。そして、フッ素含有ガスを処理ガスとするプラズマ処理により、上部隔壁8の表面にフッ化層を形成して撥液性を付与する。かかるプラズマ処理工程は必須の工程ではないが、発光機能層30の層厚均一性を向上させ有機EL装置の表示品質を向上させるためは、実施することが好ましい。
【0071】
次に、図7(e)に示すように、第3の工程として機能層形成領域5内に、発光機能層形成材料としての正孔注入輸送層形成材料を含有する液材である第1の機能液13aを、第1の液滴50aとして、液滴吐出ヘッド41から吐出する。本工程は、素子基板10と液滴吐出ヘッド41とをY方向に相対移動させつつ行う。そして、本実施形態では、上述の相対移動を、液滴吐出ヘッド41が、発光領域6が形成されている側から非発光領域7が形成されている方向に移動するように行う。
【0072】
なお、本図では液滴吐出ヘッド41を移動させるように図示しているが、素子基板10を移動させてもよく、双方を互いに反対方向に移動させてもよい。該移動の速度は略60mm/secである。本実施形態の製造方法では、1つの機能層形成領域5内に第1の機能液13aを一滴のみ吐出する。したがって、本工程では一滴の第1の液滴50aに、必要とされる厚さの正孔注入輸送層31を形成可能な正孔注入輸送層形成材料が含有されるように吐出する。
【0073】
本工程では、液滴吐出ヘッド41が液滴50を吐出する前に横切る上部隔壁8と吐出点との間隔である第1の間隔15が、液滴吐出ヘッド41が液滴50を吐出した後に横切る上部隔壁8と吐出点との間隔である第2の間隔16よりも小さくなる位置に(第1の液滴50aを)吐出する。ここで、上部隔壁8の輪郭は、機能層形成領域5の外周線でもある。したがって、第1の間隔15は、第1の液滴50aが吐出される前に液滴吐出ヘッド41が機能層形成領域5に対して相対的に接近する側の上部隔壁8の端部と第1の液滴50aが吐出される位置との距離である。同様に、第2の間隔16は、第1の機能液13aが吐出された後に液滴吐出ヘッド41が機能層形成領域5に対して相対的に遠ざかる側の上部隔壁8の端部と第1の液滴50aが吐出される位置との距離である。なお吐出点は、液滴50の、インク尾14を除く部分の重心と略一致する点である。
【0074】
上述の段落14で述べたように、液滴50の吐出時にはインク尾14が生じる。本工程は、素子基板10と液滴吐出ヘッド41とをY方向に相対移動させつつ行う。したがって、図示するように、液滴吐出ヘッド41の移動に伴ってインク尾14はY方向に流れる。そして上述したように、本実施形態では、液滴吐出ヘッド41は非発光領域7の方向に移動させる。その結果、図示するように、インク尾14は主として非発光領域7側に流れる。
【0075】
本実施形態の製造方法では、上部隔壁8を、画素電極29だけではなく該画素電極とY方向に隣り合う駆動回路35の少なくとも一部を含めて囲むようにパターニングしている。すなわち、機能層形成領域5を、発光機能層30が必要とされる領域よりも、Y方向に延長(拡大)している。そしてさらに、上述の位置に液滴50を吐出することにより、インク尾14が流れる方向における吐出点と上部隔壁8との間隔を増大させている。したがって、図7(f)に示すように、滴下された後の第1の液滴50aは、インク尾14も含めて上部隔壁8で囲まれた領域内、すなわち機能層形成領域5内に収まり、上部隔壁8の上面、あるいは隣り合う機能層形成領域5内へ流出することが抑制される。
【0076】
したがって、図7(g)に示すように、液滴吐出ヘッド41から吐出された第1の液滴50aは全て目的の機能層形成領域5内に収まり、第1の機能液13aの液層を形成する。なお、本実施形態、及び後述する各実施形態の説明において、液滴吐出ヘッド41から吐出された機能液13が機能層形成領域5内に到達した時点までを「液滴50」と称し、略平坦になった時点以降を「機能液13」或いは「液層(符号無し)」と称している。
【0077】
次に、図8(h)に示すように、第4の工程として、第1の機能液13aを硬化させて機能層形成領域5内に正孔注入輸送層31を形成する。なお、本実施形態及び後述する各実施形態の説明に用いる工程断面図において、機能液13が硬化する前の時点では、中央の機能層形成領域5内に吐出された該機能液のみを図示し、両側の機能層形成領域5内の態様は図示を省略している。該両側の機能層形成領域5内の態様につては、図8(h)に示すように、硬化した状態から図示している。
【0078】
次に、図8(i)に示すように、第3の工程として、機能層形成領域5内に発光機能層層形成材料としての有機EL層形成材料を含有する液材である第2の機能液13bを、第2の液滴50bとして液滴吐出ヘッド41から吐出する。本実施形態、及び後述する各実施形態にかかる製造方法の対象となる有機EL装置(1,2)は、発光機能層30が、正孔注入輸送層31と有機EL層32との2層で構成されている。したがって、本実施形態、及び後述する各実施形態にかかる製造方法では、機能液13を吐出する第3の工程と該機能液を硬化させる第4の工程は2回ずつ行うこととなる。
【0079】
第2の機能液13bの吐出は、上述の第1の機能液13aの吐出と同様に行う。すなわち、本工程は素子基板10と液滴吐出ヘッド41とをY方向に、より具体的には、液滴吐出ヘッド41を、発光領域6から非発光領域7の方向に向かうように相対移動させつつ行う。そして、第1の間隔15が、第2の間隔16よりも小さくなる位置に(第2の液滴50bを)吐出する。
【0080】
上述の第1の機能液13aの吐出時と同様に、液滴吐出ヘッド41の移動に伴ってインク尾14がY方向に流れても、該インク尾が上部隔壁8上まで流出する現象、さらには上部隔壁8を越えてY方向に隣り合う他の機能層形成領域5内へ流出する現象が抑制される。すなわち、図8(j)に示すように、吐出された第2の液滴50bはインク尾14も含めて機能層形成領域5内に留まる。したがって、図9(k)に示すように、液滴吐出ヘッド41から吐出された第2の液滴50bは全て目的の機能層形成領域5内に収まり、第2の機能液13bの液層が形成される。
【0081】
次に、図9(l)に示すように、第4の工程として、第2の機能液13bを硬化させて機能層形成領域5内に有機EL層32を形成する。上述の工程で形成されていた正孔注入輸送層31と合せて、発光機能層30が形成される。
【0082】
次に、図9(m)に示すように、第5の工程として、素子基板10上にAlの薄膜を、少なくとも画像表示領域100を覆うようにスパッタ法で形成して、第2電極としての陰極33を形成する。以上の工程により、発光領域6すなわち画素電極29が下部隔壁9で覆われずに露出している領域に、画素電極29と発光機能層30と陰極33との積層体が形成される。かかる積層体が有機EL素子28である。有機EL素子28の形成後、封止接着層88(図3参照)を形成し、対向基板11(図3参照)を貼り合せて、有機EL装置1を完成させる。
【0083】
本実施形態の製造方法は、駆動回路35を画素電極29のY方向に形成し、上部隔壁8を、画素電極29と駆動回路35の少なくとも一部を囲むように形成している。つまり、上部隔壁8で囲まれた領域である機能層形成領域5をY方向に延長している。そのため、液滴吐出ヘッド41を素子基板10に対してY方向に相対移動させつつ液滴50を吐出するにもかかわらず、インク尾14を機能層形成領域5内に収めることが出来る。したがって、本実施形態の製造方法によれば、有機EL装置の表示品質あるいは信頼性等を、生産性等を損なうことなく向上させることができる。
【0084】
また、インク尾14は吐出後に一部が自然乾燥するため、発光機能層30の層厚均一性に影響を及ぼす可能性もあり得る。本実施形態の製造方法は、液滴吐出ヘッド41を発光領域6側から非発光領域7へ向かう方向に移動させるため、インク尾14を主として非発光領域7側に流すことができる。その結果、発光領域6内における層厚均一性が影響を受けることを抑制でき、表示品質を向上できる。
【0085】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態にかかる有機EL装置の製造方法について、図面を参照して説明する。上述の第1の実施形態の説明と同様に、本実施形態の説明も対象である有機EL装置2の構成の説明から始める。
【0086】
<有機EL装置>
有機EL装置2の構成は、上部隔壁8の態様とそれに伴う機能層形成領域5の構成以外の点では、上述の有機EL装置1の構成と略同一である。有機EL装置2の回路構成も、図1に示す有機EL装置1の該構成と同一である。そこで有機EL装置2の説明は、上述の図2に相当する模式平面図のみを用いて行う。なお、液滴50の吐出に用いる液滴吐出ヘッド41等の構成、及び素子基板10とヘッドユニット40とを相対移動させる方向等も同一である。
【0087】
図10は、有機EL装置2の、画像表示領域100(図1参照)内における画素電極29等の配置等を示す模式平面図である。有機EL装置2の平面的な構成は、有機EL装置1の該構成と類似している。画素電極29は画像表示領域100内にマトリクス状に形成されており、Y方向に隣り合う画素電極29の間には、駆動用TFT25とスイッチング用TFT26と保持容量27とを含む駆動回路35が形成されている。
【0088】
ハッチングが施されている領域は、下部隔壁9(図3等参照)が形成されている領域である。図示するように、下部隔壁9は、駆動回路35の形成領域を含む隣り合う画素電極29間の領域の全て、及び画素電極29の外縁部を覆うように形成されている。すなわち、下部隔壁9は、画素電極の29の外縁部を除く領域を露出させて、それ以外の領域は覆うように形成されている。
【0089】
上部隔壁8も、X方向及びY方向に隣り合う画素電極29間に形成され、平面視で格子状となっている点で、有機EL装置1の上部隔壁8と共通している。そして有機EL装置2の上部隔壁8は、X方向に延在する部分が駆動回路35の上面を横切るように形成されている点で、有機EL装置1の上部隔壁8と異なっている。有機EL装置1では、画素20が占める領域と機能層形成領域5とが略一致している。それに対して、本実施形態の有機EL装置2では、画素20が占める領域と機能層形成領域5とが、Y方向において大きくずれている。
【0090】
かかる構成により、有機EL装置2は、Y方向において発光機能層形成領域5の略中央に発光領域6が位置することとなる。すなわちY方向において、発光領域6の両側に下部隔壁9で覆われた領域である非発光領域7が位置することとなる。その結果、後述するように液滴吐出ヘッド41をY方向に沿って往復させて往路と復路の双方で液滴50を吐出する場合において、双方の吐出を同等の条件で行うことができる。
【0091】
<有機EL装置の製造方法>
図11及び図12は、第2の実施形態にかかる有機EL装置の製造方法を示す工程断面図である。上記2図では、第1の実施形態の説明と同様に、駆動用TFT25とスイッチング用TFT26と保持容量27との集合を駆動回路35として簡略化して図示している。また、素子基板10の一方の面上から画素電極29に至るまでの間に形成されている各要素を素子層12として簡略化して図示している。また、上部隔壁8のY方向の寸法を拡大して図示している。
【0092】
上述したように本実施形態にかかる製造方法の対象である有機EL装置2の構成は、上部隔壁8の態様、具体的にはX方向に延在する部分の形成領域を除くと、第1の実施形態にかかる製造方法の対象である有機EL装置1の構成と略同一である。また、各構成要素の形成方法等も、略共通している。そこで、本実施形態の説明では、主に第1の実施形態の製造方法と異なる事柄について説明し、共通している事柄については説明の記載を一部省略する。以下、工程順に説明する。
【0093】
まず図11(a)に示すように、第6の工程として、素子基板10の一方の面上に、駆動回路35を含む素子層12を形成する。そして次に、第1の工程として、素子層12の上面(具体的には図3に示す第2層間絶縁層54の上面)に、平面視でY方向に隣り合う駆動回路35の間に第1電極としての画素電極29と、画素電極29の外縁部及び該画素電極が形成されていない領域を覆う下部隔壁9を形成する。
【0094】
そして次に、第2の工程として、下部隔壁9の上面に隔壁としての上部隔壁8を形成する。上述したように、本実施形態の製造方法では、図10に示すように、上部隔壁8のX方向に延在する部分を、平面視で駆動回路35を横切るように形成する。したがって上部隔壁8は、Y方向において下部隔壁9の中央近傍に位置することとなる。その結果、図示するように、Y方向において発光領域6の両側に非発光領域7が形成される。すなわち機能層形成領域5は、中央の発光領域6と該発光領域の両側の非発光領域7とに区画される。上部隔壁8の形成後、素子基板10の全面に、酸素含有ガスを処理ガスとするプラズマ処理とフッ素含有ガスを処理ガスとするプラズマ処理を順次行い、画素電極29の表面に残留している有機系の残渣を除去し、上部隔壁8の表面に撥液性を付与する。
【0095】
次に、図11(b)に示すように、第3の工程として、機能層形成領域5内に、発光機能層形成材料としての正孔注入輸送層形成材料を含有する液材である第1の機能液13aを、第1の液滴50aとして液滴吐出ヘッド41から吐出する。
【0096】
本工程は、素子基板10と液滴吐出ヘッド41とをY方向に相対移動させつつ上述の第1の液滴50aを吐出する点では、第1の実施形態における第3の工程と共通している。ただし、吐出する第1の液滴50aの量、具体的には、一滴(の第1の液滴50a)に含有される正孔注入輸送層形成材料の量は異ならせてある。本工程では、正孔注入輸送層31の形成に要する第1の機能液13aを複数回に分けて吐出する。したがって、一滴の第1の液滴50aに含有される正孔注入輸送層形成材料の量は、正孔注入輸送層31の形成に要する量を吐出する回数で割った値である。本実施形態では第1の液滴50aを2回吐出するため、一滴の第1の液滴50aに含有される正孔注入輸送層形成材料の量は、正孔注入輸送層31の形成に要する量の略二分の一である。
【0097】
第1の液滴50aを吐出する位置は、上述の第1の実施形態における該位置と同様である。すなわち、第1の間隔15が第2の間隔16より小さくなる位置に第1の液滴50aを吐出する。したがって、インク尾14は液滴吐出ヘッド41が移動する方向に流れるものの、該インク尾が上部隔壁8上まで流出する現象、さらには上部隔壁8を越えてY方向に隣り合う他の機能層形成領域5内へ流出する現象は抑制される。1回目の第1の液滴50aの吐出により、図11(c)に示すように、機能層形成領域5内に第1の機能液13aの液層が形成される。
【0098】
次に、図12(d)に示すように、上述の第3の工程を再度実施する。すなわち、液滴吐出ヘッド41を素子基板10に対してY方向に相対移動させつつ、第1の機能液13aからなる第1の液滴50aを、機能層形成領域5内に吐出する。ただし、2回目の吐出は、液滴吐出ヘッド41を1回目の吐出時の方向とは反対の方向に相対移動させつつ行う。すなわち、本実施形態の製造方法では、液滴吐出ヘッド41をY方向に沿うように往復移動させる。そして該液滴吐出ヘッドが機能層形成領域5を横切る度に、第1の液滴50aを吐出する。1回目の吐出を往路で行うとすると、2回目の吐出は復路で行う。2回目の吐出も1回目の吐出と同様の位置に行う。すなわち、すなわち第1の間隔15が第2の間隔16より小さくなる位置に行う。ただし、図示するように、往路と復路では液滴吐出ヘッド41の移動方向が逆なので、第1の間隔15と第2の間隔16は図中において左右が逆になる。
【0099】
図12(e)は、2回目の吐出により、既に機能層形成領域5内に形成されていた第1の機能液13aの液層の層厚が倍化された状態を示す図である。上述したように、本実施形態の製造方法では、一滴の第1の液滴50aに正孔注入輸送層31の形成に要する量の略二分の一の正孔注入輸送層形成材料を含めている。したがって、2回の吐出により形成された上述の液層は、必要量の正孔注入輸送層形成材料を含んでいる。
【0100】
次に、図12(f)に示すように、第4の工程として、上述の液層を硬化させて、正孔注入輸送層31を得る。以下、同様の工程を繰り返して、有機EL層32(図3等参照)を形成する。有機EL層32の形成工程は、図11(b)〜図12(f)に示す工程と略同一なので、図示は省略して説明する。
【0101】
正孔注入輸送層31の形成後、有機EL層形成材料を含む第2の機能液13bからなる第2の液滴50bを、上述の方法と同様の方法で吐出する。すなわち、第3の工程として、液滴吐出ヘッド41をY方向に沿って往復移動させつつ、往路と復路の双方で第2の液滴50bを機能層形成領域5内に吐出して、機能層形成領域5内の正孔注入輸送層31の上面に第2の機能液13bの液層を形成する。そして次に、第4の工程として、第2の機能液13bの液層を硬化させて有機EL層32を形成する。該有機EL層と先に形成されていた正孔注入輸送層31とで、発光機能層30(図3等参照)が形成される。
【0102】
そして次に、第5の工程として、素子基板10上に、上部隔壁8及び発光機能層30を覆うようにAlからなる第2電極としての陰極33を形成する。該陰極の形成により有機EL素子28(図3等参照)が形成される。以下、封止接着層88(図3参照)を形成し、対向基板11(図3参照)を貼り合せて、有機EL装置2を完成させる。
【0103】
本実施形態の製造方法は、液滴吐出ヘッド41をY方向に沿って往復させて、正孔注入輸送層31あるいは有機EL層32の形成に要する機能液13を複数回に分けて吐出する点に特徴がある。そのため、個々の液滴50の体積を縮小でき、インク尾14の長さ等も縮小できる。そのため、吐出される機能液13の一部がインク尾14として隣り合う機能層形成領域5内等に流出する現象をより一層低減でき、有機EL装置の表示品質あるいは信頼性等をより一層向上させることができる。
【0104】
なお、本実施形態では、液滴吐出ヘッド41を1往復させて、液滴50を往路と復路で各1回吐出している。しかし、液滴吐出ヘッドを複数回往復させて、液滴50を3回以上吐出する態様も可能である。また、正孔注入輸送層31の形成時における吐出回数と有機EL層32の形成時における吐出回数とは、同一でなくてもよい。
【0105】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態にかかる有機EL装置の製造方法について説明する。本実施形態にかかる製造方法の対象となる有機EL装置(符号無し)は、図1〜図3に示す有機EL装置1と略同一の構成を有している。上部隔壁8は、1つの画素20を構成する画素電極29と駆動回路35とを平面視で含むように形成されている。したがって、図3に示す有機EL装置1と同様に、機能層形成領域5の、Y方向における一方の側に偏って非発光領域7が形成されている。その他の各構成要素の態様及び形成方法等も、有機EL装置1の態様等と略共通している。そこで、本実施形態の説明では、主に第1の実施形態の製造方法と異なる事柄について説明し、共通している事柄については説明の記載を一部省略する。以下、第3の実施形態にかかる有機EL装置の製造方法、具体的には液滴吐出法により発光機能層30を形成する工程について、図13、図14の工程断面図を参照しつつ、工程順に説明する。
【0106】
まず図13(a)に示すように、第6の工程として、素子基板10の一方の面上に、駆動回路35を含む素子層12を形成する。そして次に、第1の工程として、素子層12の上面(具体的には図3に示す第2層間絶縁層54の上面)に、平面視でY方向に隣り合う駆動回路35の間に第1電極としての画素電極29と、画素電極29の外縁部及び該画素電極が形成されていない領域を覆う下部隔壁9を形成する。そして次に、第2の工程として下部隔壁9の上面に隔壁としての上部隔壁8を一方の側に偏らせて形成する。該上部隔壁により機能層形成領域5が区画される。そして、該機能層形成領域内には、発光領域6と非発光領域7とがY方向に隣り合うように区画される。
【0107】
次に、図13(b)及び図13(c)に示すように、第3の工程として、機能層形成領域5内に発光機能層形成材料としての正孔注入輸送層形成材料を含有する液材である第1の機能液13aを、第1の液滴50aとして、液滴吐出ヘッド41から吐出する。
【0108】
本工程は、素子基板10と液滴吐出ヘッド41とをY方向に相対移動させつつ上述の第1の液滴50aを吐出する点では、第1の実施形態および第2の実施形態における第3の工程と共通している。そして、液滴吐出ヘッド41を発光領域6側から非発光領域7へ向かう方向に相対移動させる点でも、第1の実施形態および第2の実施形態における第3の工程と共通している。ただし、第1の液滴50aを吐出する回数が異なっている。本実施形態の第3の工程では、1回の走査、すなわち、液滴吐出ヘッド41が1つの機能層形成領域5を横切る動作の間に、複数の第1の液滴50aを吐出する。本実施形態では3滴の第1の液滴50aを吐出する。吐出する間隔は等間隔であることが好ましい。なお、吐出する液滴数は3滴に限定されず、複数であればよい。2滴でもよく、4滴以上吐出してもよい。
【0109】
本実施形態では、液滴吐出ヘッド41を、発光領域6から非発光領域7に至る向きに1回のみ走査させる。したがって、該1回の走査中に吐出する数の第1の液滴50a(本実施形態では3滴)で、正孔注入輸送層31を形成する。したがって、一滴の第1の液滴50aには、正孔注入輸送層31の形成に要する量の略三分の一の正孔注入輸送層形成材料が含有されている。
【0110】
本工程では、液滴吐出ヘッド41が液滴50を吐出する前に横切る上部隔壁8と最初に第1の液滴50aを吐出する位置との間隔である第3の間隔17が、最後に第1の液滴50aを吐出する位置と所要の液滴50を吐出した後に横切る上部隔壁8との間隔である第4の間隔18よりも小さくなるように(第1の液滴50aを)吐出する。ここで、上部隔壁の輪郭の線は、機能層形成領域5の外周線でもある。したがって、第3の間隔17は、第1の液滴50aが吐出される前に液滴吐出ヘッド41が機能層形成領域5に対して相対的に接近する側の上部隔壁8の端部と最初に第1の液滴50aが吐出される位置との距離である。同様に、第4の間隔18は、第1の機能液13aが吐出された後に液滴吐出ヘッド41が機能層形成領域5に対して相対的に遠ざかる側の上部隔壁8の端部と最後に(本実施形態では3滴目)第1の液滴50aが吐出される位置との距離である。
【0111】
本実施形態では、第3の間隔17を30μmとしている。そして第4の間隔18を40μmとしている。本発明の各実施形態では、液滴吐出ヘッド41と素子基板10とを相対移動させつつ液滴50を吐出する。したがって、機能層形成領域5内における液滴50の着弾位置は、若干のばらつきを生じ得る。かかる場合において、上部隔壁8から30μm離れた位置を目標に液滴50を吐出すれば、上述のばらつきが発生した場合においても、吐出された液滴50が上部隔壁8の上面、あるいは隣り合う機能層形成領域5内に流出することを抑制できる。また、インク尾14は、第4の間隔18側に形成される。かかる場合において、上部隔壁8から40μm離れた位置を目標に液滴50を吐出すれば、インク尾14を機能層形成領域5内に収めることができる。
【0112】
有機EL装置1等における画素20のY方向のピッチは、略141μmである。上部隔壁8の寸法を考慮すると、機能層形成領域5のY方向の寸法は略130μmとなる。したがって、本実施形態のように、機能層形成領域5毎に3滴の液滴50を吐出する場合、略30μm間隔で吐出する。4滴の場合は略20μm間隔となる。
【0113】
図14(d)は第3の工程が終了して、機能層形成領域5内に第1の機能液13aの液層が形成された状態を示す図である。該液層の形成後、第4の工程として図14(d)に示す第1の機能液13aの液層を硬化させて、図14(e)に示すように、機能層形成領域5内に正孔注入輸送層31を形成する。
【0114】
次に、上述の第3の工程、および第4の工程を再度実施して有機EL層32(図3等参照)を形成する。有機EL層32の形成工程は、図13(b)〜図14(e)に示す工程と略同一なので、図示は省略して説明する。
まず、第3の工程として、有機EL層形成材料を含む第2の機能液13bの液滴である第2の液滴50bを機能層形成領域5内の正孔注入輸送層31の上面に吐出する。そして、該機能層形成領域内に第2の機能液13bの液層を形成する。第2の液滴50bを吐出する位置も、正孔注入輸送層の形成時と同様である。すなわち第3の間隔17は30μmであり、第4の間隔18は40μmである。
そして次に、第4の工程として上述の第2の機能液13bの液層を硬化させて有機EL層32を得る。以上の工程で、機能層形成領域5内に、正孔注入輸送層31と有機EL層32の積層体である発光機能層30が形成される。
【0115】
そして次に、第5の工程として、素子基板10上の少なくとも画像表示領域100を覆うように陰極33を形成する。以上の工程で、図14(f)に示すように発光領域6すなわち画素電極29が下部隔壁9に覆われずに露出している領域に、画素電極29と発光機能層30と陰極33の積層体である有機EL素子28が形成される。以下、封止接着層88(図3参照)を形成し、対向基板11(図3参照)を貼り合せて、上述の有機EL装置1と類似する有機EL装置(符号無し)を完成させる。
【0116】
本実施形態にかかる有機EL装置の製造方法は、液滴吐出ヘッド41が機能層形成領域5を横切る間に、複数の液滴50を吐出する点に特徴がある。所要量の機能液13を複数(複数回)に分けて吐出するため、個々の液滴50のサイズ(体積)を縮小できる。そのため、インク尾14も縮小できる。そして、上部隔壁8から30μm以上離れた位置から吐出を開始し、上部隔壁8から40μm以上離れた位置で吐出を終えるため、吐出される液滴50の着弾位置のバラツキにも対処できる。したがって、機能液13が隣り合う機能層形成領域5内に流出する現象をより一層抑制できる。その結果、より一層信頼性等の向上した有機EL装置を得ることができる。
また、かかる複数の液滴50を、液滴吐出ヘッド41が機能層形成領域5を一回横切る間に吐出するため、生産性を低下させることなく、上述の効果を得ることができる。
【0117】
なお、本実施形態では正孔注入輸送層31と有機EL層32とを同数の液滴50を吐出して形成しているが、かかる態様に限定する必要は無く、正孔注入輸送層31と有機EL層32と異なる数の液滴50を吐出して発光機能層30を形成してもよい。また、上記層の一方のみを本実施形態の複数の液滴50を吐出する方法で形成し、他方は上述の第1の実施形態又は第2の実施形態に記載の方法で形成してもよい。
【0118】
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態にかかる有機EL装置の製造方法について説明する。本実施形態にかかる製造方法の対象となる有機EL装置(符号無し)は、図10に示す有機EL装置2と略同一の構成を有している。上部隔壁8のX方向に延在する部分は、平面視で駆動回路35を横切るように形成されている。したがって有機EL装置2と同様に、機能層形成領域5のY方向における両側に非発光領域7が形成されている。その他の各構成要素の態様及び形成方法等も、有機EL装置2の態様等と略共通している。そこで、本実施形態の説明では、主に第2の実施形態の製造方法と異なる事柄について説明し、共通している事柄については説明の記載を一部省略する。以下、第4の実施形態にかかる有機EL装置の製造方法、具体的には液滴吐出法により発光機能層30を形成する工程について、図15、図16の工程断面図を参照しつつ、工程順に説明する。
【0119】
まず図15(a)に示すように、第6の工程として、素子基板10の一方の面上に、駆動回路35を含む素子層12を形成する。そして次に、第1の工程として、素子層12の上面(具体的には図3に示す第2層間絶縁層54の上面)に、平面視でY方向に隣り合う駆動回路35の間に第1電極としての画素電極29と、画素電極29の外縁部及び該画素電極が形成されていない領域を覆う下部隔壁9を形成する。下部隔壁9で覆われない領域が、発光領域6である。
【0120】
そして次に、第2の工程として下部隔壁9の上面に隔壁としての上部隔壁8を形成する。該上部隔壁により、機能層形成領域5が区画される。上述したように、第2の工程では、上部隔壁8を該上部隔壁のX方向に延在する部分が駆動回路35を横切るように形成する。したがって、Y方向の断面において、図示するように発光領域6の両側に非発光領域7が形成(区画)される。
【0121】
次に、図15(b)に示すように、第3の工程として、画素電極29上を含む機能層形成領域5内に発光機能層形成材料としての正孔注入輸送層形成材料を含有する液材である第1の機能液13aを、第1の液滴50aとして、液滴吐出ヘッド41から吐出する。
【0122】
本工程は、上述の第1〜第3の実施形態における第3の工程と同様に素子基板10と液滴吐出ヘッド41とをY方向に相対移動させつつ第1の液滴50aを吐出する。そして、上述の第3の実施形態における第3の工程と同様に、液滴吐出ヘッド41が1つの機能層形成領域5を横切る動作の間に、複数の第1の液滴50aを吐出する。一回の上記横切る動作の間に吐出する液滴50の数は2滴以上であれば任意である点も第3の実施形態における第3の工程と同様である。ただし、本実施形態では、上述の横切る動作を、Y方向に往復するように複数回行い、その都度、複数の液滴50を吐出する。本実施形態では、液滴吐出ヘッド41をY方向に沿って一往復させる。そのため、一回の上記横切る動作の間には、正孔注入輸送層31の形成に要する量の二分の一の量の第1の機能液13aを吐出する。図15(c)は、液滴吐出ヘッド41を一回横切らせる間に吐出した第1の液滴50aにより形成された、必要量の二分の一の量の第1の機能液13aの液層を示している。
【0123】
液滴50を吐出する位置も、上述の第3の実施形態と同様である。液滴吐出ヘッド41が液滴50を吐出する前に横切る上部隔壁8と最初に第1の液滴50aを吐出する位置との間隔である第3の間隔17(図13参照)が、最後に第1の液滴50aを吐出する位置と所要の液滴50を吐出した後に横切る上部隔壁8との間隔である第4の間隔18(図13参照)よりも小さくなるように吐出する。より具体的には、第3の間隔17が30μm、第4の間隔18が40μmとなるように吐出する。なお、本図及び図16(d)図では、第3の間隔17及び第4の間隔18の図示を省略している。
【0124】
次に、図16(d)に示すように、液滴吐出ヘッド41をY方向に沿って図15(b)に示す方向の反対方向に移動させる。図15に示す方向の移動が往路とすると、図16(d)に示す方向の移動は復路である。そして、機能層形成領域5を横切る間に、複数の第1の液滴50aを吐出する。
【0125】
図16(e)は、液滴吐出ヘッド41をY方向に沿って往復させ、往路と復路の双方で複数の第1の液滴50aを吐出して形成した第1の機能液13aの液層を示す図である。一回横切る間に所要量の二分の一の第1の機能液13aを吐出するため、一回往復させた段階で必要量の第1の機能液13aの液層が形成される。該液層の形成後、第4の工程として、第1の機能液13aを硬化させて、機能層形成領域5内に、図16(f)に示すように正孔注入輸送層31を形成する。
【0126】
以下の工程は、図6〜図9及び図11〜図14を用いて説明した上記各実施形態における該工程と類似しているため、図示は省略する。正孔注入輸送層31を形成した後、上述の第3の工程及び第4の工程を、有機EL層形成材料を含む第2の機能液13bを用いて実施して、機能層形成領域5内に有機EL層32(図3参照)を形成する。その結果、正孔注入輸送層31と有機EL層32の積層体である発光機能層30(図3参照)が形成される。
【0127】
そして次に、第5の工程として、素子基板10上の少なくとも画像表示領域100を覆うように陰極33を形成する。以上の工程で、発光領域6すなわち画素電極29が下部隔壁9に覆われずに露出している領域に、画素電極29と発光機能層30と陰極33の積層体である有機EL素子28が形成される。以下、封止接着層88(図3参照)を形成し、対向基板11(図3参照)を貼り合せて、上述の有機EL装置2と類似する有機EL装置(符号無し)を完成させる。
【0128】
本実施形態にかかる有機EL装置の製造方法は、液滴吐出ヘッド41をY方向に沿って往復させ、かつ液滴吐出ヘッド41が機能層形成領域5を一回横切る間に、複数の液滴50を吐出する点に特徴がある。そのため、個々の液滴50のサイズをより一層縮小できる。したがって、最初の吐出位置と最後の吐出位置を、上部隔壁8からの間隔を用いて定めたことの効果と併せて、機能液13が隣り合う機能層形成領域5内に流出する現象をより一層抑制できる。その結果、より一層信頼性等の向上した有機EL装置を得ることができる。
【0129】
なお、本実施形態では正孔注入輸送層31と有機EL層32の双方を、液滴吐出ヘッド41を往復させる方法で形成しているが、どちらか一方の層を上記第3の実施形態に記載の方法で形成してもよい。さらには、どちらか一方の層を、上述の第1の実施形態又は第2の実施形態に記載の方法で形成してもよい。
【0130】
本発明の実施の形態は、上述の各実施形態以外にも様々な変形例が考えられる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0131】
(変形例1)
上述の第1〜第4の実施形態では、ボトムエミッション型の有機EL装置を対象に説明している。しかし本発明の製造方法は、トップエミッション型の有機EL装置に対しても適用可能である。液滴吐出法により発光機能層30を形成する場合において、生産性を維持しつつ目的外の領域に液滴50が流出する現象を低減して、表示品質の向上したトップエミッション型の有機EL装置を得ることができる。
【0132】
(変形例2)
上述の第1〜第4の実施形態の対象となる有機EL装置は、3原色光を有機EL層の形成材料のみで得ている。しかし、本発明は他の態様の有機EL装置に対しても適用可能である。具体的には、カラーフィルターを併用する有機EL装置、あるいは共振構造を併用する有機EL装置に対しても適用できる。
【符号の説明】
【0133】
1…第1の実施形態の製造方法の対象である有機EL装置、2…第2の実施形態の製造方法の対象である有機EL装置、5…機能層形成領域、6…発光領域、7…非発光領域、8…隔壁としての上部隔壁、9…下部隔壁、10…素子基板、11…対向基板、12…素子層、13…機能液、14…インク尾、15…第1の間隔、16…第2の間隔、17…第3の間隔、18…第4の間隔、20…画素、21…走査線、22…信号線、23…電源供給線、25…駆動用TFT、26…スイッチング用TFT、27…保持容量、28…有機EL素子、29…第1電極としての画素電極、30…発光機能層、31…正孔注入輸送層、32…有機EL層、33…第2電極としての陰極、35…駆動回路、36…機能液供給路、37…連通部、38…機能液導入路、39…機能液供給チューブ、40…ヘッドユニット、41…液滴吐出ヘッド、42…ノズルプレート、43…キャビティ、44…振動板、45…圧電素子、50…液滴、51…下地保護層、52…ゲート絶縁層、53…第1層間絶縁層、54…第2層間絶縁層、60…半導体層、61…チャネル領域、62…ソース領域、63…ドレイン領域、64…ゲート電極、65…ソース電極、66…ドレイン電極、67…コンタクトホール、68…下部電極、69…上部電極、88…封止接着層、98…走査線駆動回路、99…信号線駆動回路、100…画像表示領域。
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、平面型の表示装置として、画素電極(陽極)と少なくとも有機EL(エレクトロルミネッセンス)層を含む発光機能層と陰極とを積層して形成される有機EL素子を、画像表示領域内に規則的に配置してなる有機EL装置が注目されている。そして、上述の発光機能層の形成方法として、例えば特許文献1に記載されるように、画素電極を平面視で囲む隔壁(バンク)を形成した後、該隔壁を側壁とし該画素電極を底部とする凹部内に発光機能層形成材料を含む液体材料すなわち機能液を吐出し、該液体材料を固化して発光機能層とするインクジェット法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−73602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、インクジェット法による発光機能層の形成は、機能液の吐出時に生じるインク尾の影響が問題となりつつある。インク尾とは、吐出時において主液滴に続く少量の機能液である。
【0005】
図17(a)〜(d)は、インク尾と該インク尾の影響等について示す図である。なお、本図で示す各要素については、後述の各実施形態で説明する。図17(c)は、液滴(主液滴)50のみが吐出されている態様を示す図である。略球形の機能液13のみが吐出された、理想的な態様を示している。図17(a)は、機能液13が、略球形の液滴50と該液滴に続く一般的な形状のインク尾14として吐出された態様を示す図である。図17(b)は、機能液13が、略球形の液滴50と該液滴に続く小径の液滴として吐出された態様を示す図である。かかる小径の液滴も、インク尾14の一態様である。
【0006】
図17(d)は、インク尾14の影響を示す図である。液滴吐出法による発光機能層の形成は、画素電極29が形成された素子基板10と液滴吐出ヘッド41とを相対移動させて行う。画素電極29の周囲には隔壁(詳しく上部隔壁)8が形成されており、液滴50は該隔壁で囲まれた領域内に吐出される。かかる場合において、上述の液滴50の後に上述のインク尾14が続いていた場合、上述の素子基板10と液滴吐出ヘッド41との相対移動によりインク尾14が流れて、図示するように隔壁8上にインク尾14すなわち機能液が付着し得る。さらには、隣り合う画素電極29上にもインク尾14が付着する。
【0007】
かかる現象は、吐出の機能液13を硬化させて得られる発光機能層の層厚を減少させるため、有機EL装置の表示品質を劣化させ得る。また、機能液13が、隔壁の上面のような本来供給されるべきでない領域に付着することは、有機EL装置の信頼性の低下につながりかねない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]本適用例にかかる有機EL装置の製造方法は、基板上において互いに交差する第1の方向と第2の方向とにわたって複数の第1電極を形成する第1の工程と、上記第1電極を平面視で囲む隔壁を形成する第2の工程と、上記隔壁で囲まれた機能層形成領域に発光機能層形成材料を含む機能液を液滴吐出ヘッドから吐出する第3の工程と、吐出された上記機能液を硬化させて、上記機能層形成領域内に発光機能層を形成する第4の工程と、上記発光機能層上に第2電極を形成して、上記第1電極と上記発光機能層と上記第2電極とを備える有機EL素子を形成する第5の工程と、を有する有機EL装置の製造方法であって、上記第2の工程は、平面視で上記第2の方向において隣り合う上記有機EL素子に挟まれた非発光領域の少なくとも一部を含めて囲むように上記隔壁を形成する工程であり、上記第3の工程は、上記液滴吐出ヘッドと上記基板とを上記第2の方向に相対移動させつつ上記機能液を吐出する工程であることを特徴とする。
【0010】
隔壁内に非発光領域も含めることで、インク尾が形成される方向に機能層形成領域を拡大(延長)できる。したがってこのような製造方法であれば、インク尾が隔壁上に残る現象、及びインク尾が隣り合う形成領域に流出する現象(以下、上記双方の現象を「(機能液の)流出」と称する。)を低減できる。そのため、信頼性、及び表示品質等の向上した有機EL装置を得ることができる。
【0011】
[適用例2]上述の有機EL装置の製造方法であって、上記第1の工程の前に、上記有機EL素子を駆動する駆動回路を、上記基板上の上記非発光領域に形成する第6の工程を有することを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【0012】
このような製造方法であれば、有機EL素子が規則的に形成される領域である画像表示領域を有効に利用しつつ、非発光領域を形成できる。したがって、表示品質を低下させずに機能液の流出を低減できる。
【0013】
[適用例3]上述の有機EL装置の製造方法であって、上記第1の工程は、平面視で長軸と短軸を有する形状の上記第1電極を、該第1電極の長軸方向が上記第2の方向と一致するように形成する工程であることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【0014】
このような製造方法であれば、機能層形成領域をインク尾が形成される方向により一層拡大できる。したがって、機能液の流出をより一層低減できる。
【0015】
[適用例4]上述の有機EL装置の製造方法であって、上記第2の工程は、平面視で上記第1電極の長軸方向における両側に上記非発光領域の少なくとも一部が含まれるように、上記隔壁を形成する工程であることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【0016】
このような製造方法であれば、有機EL素子が形成される領域を、機能層形成領域の第2の方向における中央近傍に位置させることができる。したがって、発光機能層のうちの将来的に有機EL素子の構成要素となる部分の層厚均一性を向上させることができ、より一層表示品質の向上した有機EL装置を得ることができる。
【0017】
[適用例5]上述の有機EL装置の製造方法であって、上記第3の工程は、上記液滴吐出ヘッドが上記機能層形成領域を横切る際に一滴の上記機能液を吐出する工程であり、かつ、上記機能液が吐出される前に上記液滴吐出ヘッドが該機能層形成領域に対して相対的に接近する側の上記隔壁の端部と上記機能液が吐出される位置との距離が、上記機能液が吐出された後に上記液滴吐出ヘッドが該機能層形成領域に対して相対的に遠ざかる側の上記隔壁の端部と上記機能液が吐出される位置との距離よりも小さくなるように、上記機能液を吐出する工程であることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【0018】
このような製造方法であれば、インク尾が流れる方向における、機能液が吐出される位置と隔壁との間の距離を増大させることができる。したがって機能液の流出をより一層低減でき、より一層表示品質の向上した有機EL装置を得ることができる。
【0019】
[適用例6]上述の有機EL装置の製造方法であって、上記第3の工程は、上記液滴吐出ヘッドと上記基板とを上記第2の方向に沿って相対的に往復運動させつつ、上記液滴吐出ヘッドが上記機能層形成領域を一回横切る度に一滴の上記機能液を吐出する工程であることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【0020】
機能液を複数の液滴に分けて吐出することで個々の液滴のサイズを縮小でき、それに伴いインク尾の長さ等も縮小できる。したがって、このような製造方法であれば、機能液の流出をより一層低減でき、より一層表示品質の向上した有機EL装置を得ることができる。
【0021】
[適用例7]上述の有機EL装置の製造方法であって、上記第3の工程は上記液滴吐出ヘッドが上記機能層形成領域を横切る際に上記機能液を複数回吐出する工程であり、かつ、上記機能液が吐出される前に上記液滴吐出ヘッドが該機能層形成領域に対して相対的に接近する側の上記隔壁の端部と該機能層形成領域内において最初に上記機能液が吐出される位置との距離が、上記機能液が吐出された後に上記液滴吐出ヘッドが該機能層形成領域に対して相対的に遠ざかる側の上記隔壁の端部と該機能層形成領域内において最後に上記機能液が吐出される位置との距離よりも小さくなるように、上記機能液を吐出する工程であることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【0022】
このような製造方法であれば、インク尾が流れる方向における、機能液が吐出される位置と隔壁との間の距離を増大させることができる。したがって、機能液の流出をより一層低減でき、より一層表示品質の向上した有機EL装置を得ることができる。
【0023】
[適用例8]上述の有機EL装置の製造方法であって、上記第3の工程は、上記液滴吐出ヘッドと上記基板とを上記第2の方向に沿って相対的に往復運動させつつ、上記液滴吐出ヘッドが上記機能層形成領域を一回横切る度に上記機能液を複数回吐出する工程であることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【0024】
このような製造方法であれば、機能液の液滴をより一層縮小でき、それに伴いインク尾の長さ等もより一層縮小できる。したがって、機能液の流出をより一層低減でき、より一層表示品質の向上した有機EL装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1の実施形態の対象となる有機EL装置の回路構成を示す図。
【図2】第1の実施形態の対象となる有機EL装置の、画像表示領域内における画素電極等の配置等を示す模式平面図。
【図3】第1の実施形態の対象となる有機EL装置の画素の断面を示す図。
【図4】液滴吐出ヘッドの構造を示す模式断面図。
【図5】ヘッドユニットを素子基板上の機能層形成領域の配置と共に示す図。
【図6】第1の実施形態の有機EL装置の製造方法を示す工程断面図。
【図7】第1の実施形態の有機EL装置の製造方法を示す工程断面図。
【図8】第1の実施形態の有機EL装置の製造方法を示す工程断面図。
【図9】第1の実施形態の有機EL装置の製造方法を示す工程断面図。
【図10】第2の実施形態の対象となる有機EL装置の、画像表示領域内における画素電極等の配置等を示す模式平面図。
【図11】第2の実施形態の有機EL装置の製造方法を示す工程断面図。
【図12】第2の実施形態の有機EL装置の製造方法を示す工程断面図。
【図13】第3の実施形態の有機EL装置の製造方法を示す工程断面図。
【図14】第3の実施形態の有機EL装置の製造方法を示す工程断面図。
【図15】第4の実施形態の有機EL装置の製造方法を示す工程断面図。
【図16】第4の実施形態の有機EL装置の製造方法を示す工程断面図。
【図17】インク尾と該インク尾の影響等について示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態にかかる有機EL装置の製造方法、及び該実施形態にかかる製造方法の対象となる有機EL装置の構成等について、図面を参照しつつ述べる。なお、以下の各図においては、各層や各部位を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部位の縮尺を実際とは異ならせてある。
【0027】
(第1の実施形態)
<有機EL装置>
図1は、本実施形態の製造方法の対象となる有機EL装置1、及び後述する各実施形態の対象となる有機EL装置の回路構成を示す図である。有機EL装置1は、基板としての素子基板10(後述する図3参照)上に規則的に形成された複数の有機EL素子28の発光を個別に制御して、画像表示領域100にカラー画像を形成するアクティブマトリクス型の有機EL装置である。画像表示領域100には、第1の方向としてのX方向に延在する複数の走査線21と該走査線と平行に延在する複数の電源供給線23、及び走査線21と直交するように第2の方向としてのY方向に延在する複数の信号線22が形成されている。そして、上記3種類の配線で囲まれる区画毎に画素20が形成されている。
【0028】
各々の画素20は、走査線21を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用TFT(薄膜トランジスター)26と、スイッチング用TFT26を介して信号線22から供給される画像信号を保持する保持容量27と、保持容量27によって保持された画像信号がゲート電極に供給される駆動用TFT25と、駆動用TFT25を介して電源供給線23から駆動電流が供給される有機EL素子28とを備えている。有機EL素子28は、第1電極としての画素電極(陽極)29(図2参照)と、画像表示領域100の全域に形成された第2電極としての陰極33(図3参照)、及び、かかる画素電極29と陰極33との一対の電極間に挟持された発光機能層30(図3参照)を有している。
【0029】
画素20は、赤色光を射出する赤色画素20Rと緑色光を射出する緑色画素20Gと青色光を射出する青色画素20Bとの計3種類があり、画像表示領域100内に規則的に形成されている。具体的には、Y方向には同一の色を生成する画素20が並び、X方向には上述の3種類の画素20(R,G,B)が規則的に形成されている。なお、画素20は、かかる諸要素で構成される機能的な概念である。一方、後述する機能層形成領域5(図2等参照)等は、平面的な概念である。
【0030】
画像表示領域100の周辺には、走査線駆動回路98、及び信号線駆動回路99が形成されている。走査線21には、走査線駆動回路98から、図示しない外部回路より供給される各種信号に応じて走査信号が順次供給される。そして、信号線22には信号線駆動回路99から画像信号が供給され、電源供給線23には図示しない外部回路から画素駆動電流が供給される。
【0031】
走査線21が駆動されスイッチング用TFT26がオン状態になると、その時点の信号線22の電位が保持容量27に保持され、保持容量27の状態に応じて駆動用TFT25のレベルが決まる。そして、駆動用TFT25を介して電源供給線23から画素電極29に駆動電流が流れ、さらに発光機能層30を介して陰極33に駆動電流が流れる。発光機能層30は駆動電流の大きさに応じて発光する。その結果、該発光機能層を備える個々の有機EL素子28、そして該有機EL素子を備える個々の画素20は、該駆動電流の大きさに応じて光を射出する。その結果、3種類の画素20(R,G,B)が規則的に形成されている画像表示領域100にカラー画像が形成される。なお、以下の記載において、単に「画素20」とした場合、上述の3種類の画素20(R,G,B)の総称とする。
【0032】
夫々の画素20の発光色(3原色のいずれか)は、発光機能層30に含まれる有機EL層32(図3等参照)により設定されている。したがって、有機EL素子28も発光色により3種類に分類できる。ただし、本明細書では符号等による区別は行っていない。
各々の画素20は、所定の範囲内において任意の強度の光(3原色光の何れかの光)を生成できるため、X方向に並ぶ3つの画素20の組み合わせは任意の色(色度)の光を生成できる。かかる3つの画素20の組み合わせを「画素」として、上述の個々の画素20を「サブ画素」と定義することもできるが、本明細書では3原色光の何れかの光を生成できる最小単位を「画素20」としている。
【0033】
図2は、有機EL装置1の模式平面図であり、画像表示領域100内における機能層形成領域5、及び隔壁としての上部隔壁8の平面視での態様を示す図である。図3は、図2におけるA−A’線における断面図であり、画素20の断面を示す図である。ただし、断面線(A−A’線)の関係上、スイッチング用TFT26は示されていない。以下、双方の図を用いて有機EL装置1の概要を説明する。なお、図2においては、断面方向(基板面に垂直方向)に於ける形成位置にかかわらず、全ての要素を実線で示している。そして、走査線21等の3種類の配線は、図示を省略している。
【0034】
図2に示すように、画像表示領域100内には、複数の画素電極29がマトリクス状に形成されている。そして各々の画素電極29は、Y方向の間隔がX方向の間隔よりも大きくなるように隣り合っている。そして、Y方向に隣り合う画素電極29間には、駆動用TFT25とスイッチング用TFT26と保持容量27と、が形成されている。かかる3つの要素の集合を、以下「駆動回路35」と称する。すなわち駆動回路35は、平面視でY方向に隣り合う画素電極29間に形成されている。以下、駆動回路35の構成等を、図3を用いて説明する。
【0035】
有機EL装置1は、図3に示すように、素子基板10と対向基板11の一対の基板と、該一対の基板間に挟持された有機EL素子28等で構成されている。有機EL装置1はボトムエミッション型の装置であり、有機EL素子28の発光は素子基板10側から射出される。したがって素子基板10は透明性が必要であり、有機EL装置1においてはガラス等で形成されている。以下、素子基板10側から説明する。
【0036】
素子基板10の対向基板11側の面上には、酸化シリコン(SiO2)からなる下地保護膜51が形成され、該下地保護膜上には駆動用TFT25及び保持容量27が形成されている。なお、以下の記載において、かかる対向基板11側を、「上面」、「上方」あるいは「上側」と称する。
【0037】
駆動用TFT25は、半導体層60とゲート絶縁層52とゲート電極64で構成されている。半導体層60はポリシリコン(他結晶シリコン)からなる島状の層である。そして、ゲート電極64と対向する部分であるチャネル領域61と、該チャネル領域の両側の領域であるソース領域62及びドレイン領域63と、に区分されている。ソース領域62とドレイン領域63は不純物が注入されている領域であり、チャネル領域61は不純物が注入されていない領域である。ゲート絶縁層52は酸化シリコン等からなる透明性を有する層であり、画像表示領域100内の略全域に形成されている。
【0038】
ゲート電極64は、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、タングステン(W)などの低抵抗金属材料で形成されている。そして、ゲート電極64を構成する層は、走査線21を構成する層と同一の層である。すなわち、素子基板10上の全面に形成された上述の低抵抗金属材料層のうち、半導体層60の上方を横切るようにパターニングされた部分がゲート電極64となる。走査線21は保持容量27の一方の電極となる下部電極68も構成している。X方向に延在する走査線21から、Y方向に突出するようにパターニングされた部分が、下部電極68となる。
【0039】
下部電極68及び駆動用TFT25の上面には第1層間絶縁層53が形成されている。第1層間絶縁層53及び後述する第2層間絶縁層54は、例えば、酸化シリコン(SiO2)、酸化チタン(TiO2)等の透明性を有する絶縁材料で構成されている。そして、該第1層間絶縁層のうち、ソース領域62と重なる部分及びドレイン領域63と重なる部分を局所的に除去してコンタクトホール67が形成されている。
【0040】
ドレイン領域63上のコンタクトホール67には該コンタクトホールを埋め込むようにドレイン電極66が形成されている。そして、ソース領域62上のコンタクトホール67には該コンタクトホールを埋め込むようにソース電極65が形成されている。ソース電極65は、電源供給線23(図1参照)の一部である。電源供給線23は、保持容量27の一方の電極となる上部電極69も構成している。X方向に延在する電源供給線23から、Y方向に突出するようにパターニングされた部分が、上部電極69となる。保持容量27は、第1層間絶縁層53と該第1層間絶縁層を挟持する下部電極68及び上部電極69とで構成されている。
【0041】
上部電極69等の上面には、第2層間絶縁層54が形成されている。そして、該第2層間絶縁層のうち、ドレイン電極66と重なる部分を局所的に除去してコンタクトホール67が形成されている。そして、第2層間絶縁層54の上面には、該コンタクトホール及びドレイン電極66を介して駆動用TFT25と導通する第1電極としての画素電極29が形成されている。
なお、以下に記載においては、素子基板10の上面すなわち素子基板10と下地保護膜51との界面から第2層間絶縁層54の上面までの間を、「素子層12」とも称する。
【0042】
画素電極29は、ITO(酸化インジウム・すず合金)等の透明導電性を有する材料からなる。そして、図2に示すように、平面視でY方向が長軸でありX方向が短軸である長円形にパターニングされている。なお、画素電極の(平面視での)形状は長円形に限定されるものではなく、例えば矩形等の形状でも良い。ただし、Y方向、すなわち同一の色の画素20が形成されている方向の寸法が、X方向の寸法よりも大きい形状であることが好ましい。すなわち、Y方向が長軸方向であることが好ましい。また、島状にパターニングされており、隣り合う画素電極29が電気的に互いに独立していることが必要である。
【0043】
第2層間絶縁層54及び画素電極29の上面には、下部隔壁9が形成されている。下部隔壁9は、例えば、酸化シリコンあるいは窒化シリコン等の無機材料からなる。厚さは、50nm〜200nmの範囲である。下部隔壁9は、上述の厚さの無機材料層を、画素電極29の少なくとも一部が露出するようにパターニングして形成されている。
【0044】
図2においてハッチングが施されている領域が、下部隔壁9の形成領域である。本実施形態の対象となる有機EL装置1、及び後述する有機EL装置2(以下、「有機EL装置1等」と称する。)において、下部隔壁9は画素電極29の外縁部すなわち外周を囲む環状の領域と重なるようにパターニングされている。すなわち上述の無機材料層を、画素電極29が外縁部を除いて露出するようにパターニングしたものが、下部隔壁9である。
【0045】
有機EL装置1等は、ボトムエミッション型であるため、駆動回路35と画素電極29とは、素子基板10上において互いに異なる領域に形成されている。したがって、下部隔壁9は駆動回路35を完全に覆っている。下部隔壁9が形成された時点で画素電極29が露出している領域が、将来的に有機EL素子28が形成される領域、すなわち発光領域6である。後述する上部隔壁8で区画される領域内において下部隔壁9で覆われる領域が、非発光領域7である。有機EL装置1では、非発光領域7が一方の側(本図では右側)に偏って形成されている。本図の左側にも若干の非発光領域が存在するが、符号は省略している。
なお、下部隔壁9は、本実施形態の製造方法の対象となる有機EL装置における必須の構成要素ではないが、発光機能層30の層厚均一性の向上等のためには、形成されていることが好ましい。
【0046】
下部隔壁9の上面には、図3に示すように画素電極29及び駆動回路35を平面視で囲むように、隔壁としての上部隔壁8が形成されている。画素電極29がマトリクス状に形成されているため、上部隔壁8は平面視で格子状となるようにパターニングされている。上部隔壁8で囲まれた領域が、後述する発光機能層30が将来的に形成される機能層形成領域5である。機能層形成領域5は、発光領域6と非発光領域7の双方の領域を含む領域である。
【0047】
上部隔壁8の形成材料は、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂等の有機材料である。有機EL装置1(及び後述する有機EL装置2)においては、感光性アクリル樹脂層をパターニングして形成されている。上部隔壁8の厚さは、1μm〜3.5μmの範囲が好ましく、有機EL装置1では、略2μmである。そして、幅は略5μm〜10μmである。したがって、上部隔壁8のアスペクト比、すなわち幅に対する厚さの比率は、下部隔壁9のアスペクト比に比べると非常に高い値になっている。かかるアスペクト比の違いは、下部隔壁9が所定の領域を覆うために形成されているのに対して、上部隔壁8は所定の領域を区画するために形成されていることによる。そのため、上部隔壁8が素子基板10上に占める占有面積は、下部隔壁9の該占有面積に比べて大幅に縮小されている。
【0048】
上述したように、下部隔壁9が形成されていない領域が発光領域6である。そして、上部隔壁で囲まれた領域すなわち上部隔壁8が形成されていない領域が機能層形成領域5である。本実施形態の製造方法では、上部隔壁8を高アスペクト比に形成することで、個々の画素20が占める面積を増加させることなく、機能層形成領域5の面積を増大させている。
なお、図2に示すように、機能層形成領域5は平面視で略矩形である。そして、Y方向における機能層形成領域5のピッチは略141μmである。したがって、上部隔壁8で囲まれた領域である機能層形成領域5のY方向の寸法は略130μmである。
【0049】
機能層形成領域5内には、発光機能層30が形成されている。発光機能層30は、素子基板10側の正孔注入輸送層31とその上層に形成される有機EL層32との2層で構成されている。正孔注入輸送層31は、正孔を供給して、該正孔を有機EL層32まで効率的に輸送する層である。駆動回路35から画素電極29に駆動電流が供給されると、該正孔と後述する陰極33から供給される電子が有機EL層32内で結合して発光を生じる。
【0050】
有機EL装置1等においては、双方の層とも、液滴吐出法で形成されている。液滴吐出法は、機能層形成材料、すなわち正孔注入輸送層31又は有機EL層32を形成する材料を、溶媒または分散媒に分散等して得られる液体材料すなわち機能液の液滴を所定の領域に吐出した後、上述の溶媒等を乾燥除去して上述の材料からなる層を形成する方法である。
【0051】
正孔注入輸送層31の形成材料としては、例えばポリチオフェン誘導体、ポリピロール誘導体など、またはそれらのドーピング体等を用いることができる。具体的には、3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)[商品名;バイトロン−p(Bytron−p):バイエル社製]の分散液、すなわち、分散媒としてのポリスチレンスルフォン酸に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェンを分散させ、さらにこれを水に分散させた分散液等を用いることができる。
【0052】
有機EL層32の形成材料としては、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の発光材料を用いることができる。具体的には、(ポリ)フルオレン誘導体(PF)、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)などのポリシラン系等を用いることができる。
また、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子系材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等の低分子材料をドープして用いることもできる。
【0053】
なお、発光機能層30の構成は、上述の態様に限定されるものではなく、有機EL層32を主体として、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層などのキャリア注入層またはキャリア輸送層を含んでもよい。さらには、正孔阻止層(ホールブロッキング層)、電子阻止層(エレクトロン阻止層)を含んでもよい。
【0054】
発光機能層30の上面には陰極33が形成されている。陰極33は、発光機能層30とは異なり、上部隔壁8の上面を含む画像表示領域100(図1参照)の全域に形成されている。有機EL装置1等はボトムエミション型であるため、陰極33は発光機能層30内で生じた発光を素子基板10側に反射させる反射層も兼ねている。したがって、反射性を有する材料で形成される必要がある。有機EL装置1等では、Al(アルミニウム)で形成されている。
【0055】
画素電極29が下部隔壁9で覆われていない領域では、該画素電極と発光機能層30と陰極33との積層体が形成される。かかる積層体が有機EL素子28である。有機EL素子28が形成されている領域が発光領域6である。画素電極29に駆動電流が供給されると陰極33の間で通電し、通電量に合せて有機EL層32が3原色の何れかの色に発光する。個々の有機EL素子28の発光が制御されることで、画像表示領域100内にカラー画像が形成される。
【0056】
陰極33の上面には、封止接着層88が、少なくとも画像表示領域100の全域に渡って形成されている。そして、該封止接着層により対向基板11が貼り合されている。封止接着層88は素子基板10側から順に封止層と接着層が積層されて形成されており、封止層はさらに素子基板10側から順に電極保護層と緩衝層とガスバリア層とが積層されて形成されている。
【0057】
<液滴吐出ヘッド>
次に、本実施形態、及び後述する各実施形態の製造方法において、発光機能層30の形成等に用いる液滴吐出ヘッド41及びヘッドユニット40の概要について説明する。図4は、液滴吐出ヘッド41の構造を示す模式断面図である。
【0058】
液滴吐出ヘッド41は、機能液13等の流動経路と、該機能液を瞬間的に加圧して液滴50として吐出する機構と、を備えている。流動経路は、液滴50を吐出する孔であるノズル49と、吐出される直前の機能液13等が充填されるキャビティ43、及び、図示しない機能液13のタンクとキャビティ43との間に形成されている、機能液供給チューブ39と機能液導入路38と連通部37と機能液供給路36とで構成されている。ノズル49はノズルプレート42に形成された微細な孔であり、1つのノズルプレート42に複数個が一列に形成されている。ノズルプレート42及びその他の構成要素は、ステンレス、単結晶シリコン、プラスチック等の材料、あるいはかかる材料を組み合わせて構成されている。
【0059】
機能液13等を吐出させる機構は、圧電素子45と振動板44とキャビティ43とで構成されている。すなわち、キャビティ43は、機能液13等の経路であり、同時に加圧する機構でもある。圧電素子45は上下方向に振動して振動板44を振動させることができる。そして、かかる振動板44の上下方向の振動に連動して、キャビティ43内の容積も拡大と縮小を繰り返す。液滴吐出ヘッド41が、図示しない制御装置から機能液13等を吐出させるべき信号を受けると、圧電素子45が上下方向に伸縮する。そして、圧電素子45は振動板44を振動させるので、振動板44と隣接するキャビティ43の容積が拡大縮小する。それにより、キャビティ43内に供給された機能液13等のうち縮小した容積分がノズル49から液滴50として吐出される。
【0060】
なお、以下の記載において、「機能液13」は、後述する「第1の機能液13a」と「第2の機能液13b」の双方を含む総称とする。「液滴50」も、後述する「第1の液滴50a」と「第2の液滴50b」の双方を含む総称とする。
【0061】
<ヘッドユニット>
図5は、ヘッドユニット40を、素子基板10上の機能層形成領域5の配置と共に、模式的に示す図である。ヘッドユニット40は、複数(本図では3個)の液滴吐出ヘッド41を備えている。液滴吐出法の対象である素子基板10の画像表示領域100内には、上部隔壁8で区画された機能層形成領域5がマトリクス状に配置されている。各機能層形成領域5内に記載されているR,G,Bの符号は、発光色を表している。各々の液滴吐出ヘッド41は、ノズル49のX方向のピッチが、機能層形成領域5のX方向のピッチ一致するように傾けて配置されている。
【0062】
液滴吐出法の実施に用いられる液滴吐出装置(装置自体は不図示)は、素子基板10を載置しつつY方向に移動可能な基台と、ヘッドユニット40をX方向に移動させることができるヘッド移動機構を備えている。かかる機構により、素子基板10とヘッドユニット40とをY方向に相対的に移動させて、ノズル49が機能層形成領域5上に差し掛かる度に1又は複数の液滴50を吐出できる。
【0063】
なお、本図では、素子基板10上のX方向に形成された機能層形成領域5の個数とヘッドユニット40が備えるノズル49の個数とが同一であるように図示しているが、実際の有機EL装置では、ノズル49の個数以上の機能層形成領域5が、X方向に形成されていることが一般的である。かかる場合においては、所定の範囲の機能層形成領域5内に液滴50を吐出した後、上述のヘッド移動機構によりヘッドユニットをX方向に移動させ、再度液滴50の吐出工程を実施することで、画像表示領域100内の全域に発光機能層30(図3参照)を形成できる。
【0064】
<有機EL装置の製造方法>
次に、本実施形態の有機EL装置1の製造方法について、図面を参照して説明する。図6〜図9は、第1の実施形態にかかる有機EL装置1の製造方法を示す工程断面図である。上記各図は、1つの画素電極29と該画素電極のY方向における両側に形成された駆動回路35とを、Y方向に切断した断面で示す模式断面図である。以下、工程順に説明する。
【0065】
まず、図6(a)に示すように、第6の工程として、素子基板10の一方の面上に駆動回路35を含む素子層12を形成する。
【0066】
次に、図6(b)に示すように、第1の工程として、平面視でY方向に隣り合う駆動回路35の間に第1電極としての画素電極29を形成する。画素電極29は上述したようにITOの薄膜を島状にパターニングして形成する。
【0067】
次に、図6(c)に示すように、下部隔壁9を形成する。上述したように、下部隔壁9は、素子基板10上の全面に形成された無機材料層を、画素電極29の外縁部及び該画素電極が形成されていない領域を覆うようにパターニングして形成する。下部隔壁9が形成された段階において画素電極29(の表面)が露出している領域が発光領域6である。
【0068】
下部隔壁9の形成後、第2の工程として、感光性アクリル層をパターニングして、下部隔壁9の上面に隔壁としての上部隔壁8を形成する。本発明において、上部隔壁8は、平面視で画素電極29と該画素電極とY方向に隣り合う駆動回路35の少なくとも一部を囲むように形成される。そして、本実施形態の有機EL装置1の上部隔壁8は、画素20を含むように、すなわち画素20を平面視で囲むように形成される。具体的には、画素電極29と該画素電極に対応する駆動回路35とを囲むように形成される。その結果、非発光領域7は一方の側に偏るように形成される。
【0069】
なお、本図及び後述する各工程断面図において、上部隔壁8の上面を図示する必要性等の作図の都合上、上部隔壁8のY方向の寸法を拡大して図示している。そのため、上部隔壁8が駆動回路35と重なるように図示されている。実際には、上部隔壁8の寸法は図2に示す通りであり、平面視での寸法は極めて小さく形成されている。したがって、実際には、本図で示す上部隔壁8のX方向に延在する部分は、画素電極29の外縁部すなわち該画素電極が下部隔壁9で覆われた領域に形成されている。その結果、平面視において駆動回路35が占める領域の大部分が非発光領域7となる。
【0070】
次に、図6(d)に示すように、素子基板10の全面にプラズマ照射を行う。具体的には、酸素含有ガスを処理ガスとするプラズマ処理とフッ素含有ガスを処理ガスとするプラズマ処理の、2種類のプラズマ処理を順次行う。酸素含有ガスを処理ガスとするプラズマ処理により画素電極29の表面に残留している(可能性のある)有機系の残渣を除去する。そして、フッ素含有ガスを処理ガスとするプラズマ処理により、上部隔壁8の表面にフッ化層を形成して撥液性を付与する。かかるプラズマ処理工程は必須の工程ではないが、発光機能層30の層厚均一性を向上させ有機EL装置の表示品質を向上させるためは、実施することが好ましい。
【0071】
次に、図7(e)に示すように、第3の工程として機能層形成領域5内に、発光機能層形成材料としての正孔注入輸送層形成材料を含有する液材である第1の機能液13aを、第1の液滴50aとして、液滴吐出ヘッド41から吐出する。本工程は、素子基板10と液滴吐出ヘッド41とをY方向に相対移動させつつ行う。そして、本実施形態では、上述の相対移動を、液滴吐出ヘッド41が、発光領域6が形成されている側から非発光領域7が形成されている方向に移動するように行う。
【0072】
なお、本図では液滴吐出ヘッド41を移動させるように図示しているが、素子基板10を移動させてもよく、双方を互いに反対方向に移動させてもよい。該移動の速度は略60mm/secである。本実施形態の製造方法では、1つの機能層形成領域5内に第1の機能液13aを一滴のみ吐出する。したがって、本工程では一滴の第1の液滴50aに、必要とされる厚さの正孔注入輸送層31を形成可能な正孔注入輸送層形成材料が含有されるように吐出する。
【0073】
本工程では、液滴吐出ヘッド41が液滴50を吐出する前に横切る上部隔壁8と吐出点との間隔である第1の間隔15が、液滴吐出ヘッド41が液滴50を吐出した後に横切る上部隔壁8と吐出点との間隔である第2の間隔16よりも小さくなる位置に(第1の液滴50aを)吐出する。ここで、上部隔壁8の輪郭は、機能層形成領域5の外周線でもある。したがって、第1の間隔15は、第1の液滴50aが吐出される前に液滴吐出ヘッド41が機能層形成領域5に対して相対的に接近する側の上部隔壁8の端部と第1の液滴50aが吐出される位置との距離である。同様に、第2の間隔16は、第1の機能液13aが吐出された後に液滴吐出ヘッド41が機能層形成領域5に対して相対的に遠ざかる側の上部隔壁8の端部と第1の液滴50aが吐出される位置との距離である。なお吐出点は、液滴50の、インク尾14を除く部分の重心と略一致する点である。
【0074】
上述の段落14で述べたように、液滴50の吐出時にはインク尾14が生じる。本工程は、素子基板10と液滴吐出ヘッド41とをY方向に相対移動させつつ行う。したがって、図示するように、液滴吐出ヘッド41の移動に伴ってインク尾14はY方向に流れる。そして上述したように、本実施形態では、液滴吐出ヘッド41は非発光領域7の方向に移動させる。その結果、図示するように、インク尾14は主として非発光領域7側に流れる。
【0075】
本実施形態の製造方法では、上部隔壁8を、画素電極29だけではなく該画素電極とY方向に隣り合う駆動回路35の少なくとも一部を含めて囲むようにパターニングしている。すなわち、機能層形成領域5を、発光機能層30が必要とされる領域よりも、Y方向に延長(拡大)している。そしてさらに、上述の位置に液滴50を吐出することにより、インク尾14が流れる方向における吐出点と上部隔壁8との間隔を増大させている。したがって、図7(f)に示すように、滴下された後の第1の液滴50aは、インク尾14も含めて上部隔壁8で囲まれた領域内、すなわち機能層形成領域5内に収まり、上部隔壁8の上面、あるいは隣り合う機能層形成領域5内へ流出することが抑制される。
【0076】
したがって、図7(g)に示すように、液滴吐出ヘッド41から吐出された第1の液滴50aは全て目的の機能層形成領域5内に収まり、第1の機能液13aの液層を形成する。なお、本実施形態、及び後述する各実施形態の説明において、液滴吐出ヘッド41から吐出された機能液13が機能層形成領域5内に到達した時点までを「液滴50」と称し、略平坦になった時点以降を「機能液13」或いは「液層(符号無し)」と称している。
【0077】
次に、図8(h)に示すように、第4の工程として、第1の機能液13aを硬化させて機能層形成領域5内に正孔注入輸送層31を形成する。なお、本実施形態及び後述する各実施形態の説明に用いる工程断面図において、機能液13が硬化する前の時点では、中央の機能層形成領域5内に吐出された該機能液のみを図示し、両側の機能層形成領域5内の態様は図示を省略している。該両側の機能層形成領域5内の態様につては、図8(h)に示すように、硬化した状態から図示している。
【0078】
次に、図8(i)に示すように、第3の工程として、機能層形成領域5内に発光機能層層形成材料としての有機EL層形成材料を含有する液材である第2の機能液13bを、第2の液滴50bとして液滴吐出ヘッド41から吐出する。本実施形態、及び後述する各実施形態にかかる製造方法の対象となる有機EL装置(1,2)は、発光機能層30が、正孔注入輸送層31と有機EL層32との2層で構成されている。したがって、本実施形態、及び後述する各実施形態にかかる製造方法では、機能液13を吐出する第3の工程と該機能液を硬化させる第4の工程は2回ずつ行うこととなる。
【0079】
第2の機能液13bの吐出は、上述の第1の機能液13aの吐出と同様に行う。すなわち、本工程は素子基板10と液滴吐出ヘッド41とをY方向に、より具体的には、液滴吐出ヘッド41を、発光領域6から非発光領域7の方向に向かうように相対移動させつつ行う。そして、第1の間隔15が、第2の間隔16よりも小さくなる位置に(第2の液滴50bを)吐出する。
【0080】
上述の第1の機能液13aの吐出時と同様に、液滴吐出ヘッド41の移動に伴ってインク尾14がY方向に流れても、該インク尾が上部隔壁8上まで流出する現象、さらには上部隔壁8を越えてY方向に隣り合う他の機能層形成領域5内へ流出する現象が抑制される。すなわち、図8(j)に示すように、吐出された第2の液滴50bはインク尾14も含めて機能層形成領域5内に留まる。したがって、図9(k)に示すように、液滴吐出ヘッド41から吐出された第2の液滴50bは全て目的の機能層形成領域5内に収まり、第2の機能液13bの液層が形成される。
【0081】
次に、図9(l)に示すように、第4の工程として、第2の機能液13bを硬化させて機能層形成領域5内に有機EL層32を形成する。上述の工程で形成されていた正孔注入輸送層31と合せて、発光機能層30が形成される。
【0082】
次に、図9(m)に示すように、第5の工程として、素子基板10上にAlの薄膜を、少なくとも画像表示領域100を覆うようにスパッタ法で形成して、第2電極としての陰極33を形成する。以上の工程により、発光領域6すなわち画素電極29が下部隔壁9で覆われずに露出している領域に、画素電極29と発光機能層30と陰極33との積層体が形成される。かかる積層体が有機EL素子28である。有機EL素子28の形成後、封止接着層88(図3参照)を形成し、対向基板11(図3参照)を貼り合せて、有機EL装置1を完成させる。
【0083】
本実施形態の製造方法は、駆動回路35を画素電極29のY方向に形成し、上部隔壁8を、画素電極29と駆動回路35の少なくとも一部を囲むように形成している。つまり、上部隔壁8で囲まれた領域である機能層形成領域5をY方向に延長している。そのため、液滴吐出ヘッド41を素子基板10に対してY方向に相対移動させつつ液滴50を吐出するにもかかわらず、インク尾14を機能層形成領域5内に収めることが出来る。したがって、本実施形態の製造方法によれば、有機EL装置の表示品質あるいは信頼性等を、生産性等を損なうことなく向上させることができる。
【0084】
また、インク尾14は吐出後に一部が自然乾燥するため、発光機能層30の層厚均一性に影響を及ぼす可能性もあり得る。本実施形態の製造方法は、液滴吐出ヘッド41を発光領域6側から非発光領域7へ向かう方向に移動させるため、インク尾14を主として非発光領域7側に流すことができる。その結果、発光領域6内における層厚均一性が影響を受けることを抑制でき、表示品質を向上できる。
【0085】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態にかかる有機EL装置の製造方法について、図面を参照して説明する。上述の第1の実施形態の説明と同様に、本実施形態の説明も対象である有機EL装置2の構成の説明から始める。
【0086】
<有機EL装置>
有機EL装置2の構成は、上部隔壁8の態様とそれに伴う機能層形成領域5の構成以外の点では、上述の有機EL装置1の構成と略同一である。有機EL装置2の回路構成も、図1に示す有機EL装置1の該構成と同一である。そこで有機EL装置2の説明は、上述の図2に相当する模式平面図のみを用いて行う。なお、液滴50の吐出に用いる液滴吐出ヘッド41等の構成、及び素子基板10とヘッドユニット40とを相対移動させる方向等も同一である。
【0087】
図10は、有機EL装置2の、画像表示領域100(図1参照)内における画素電極29等の配置等を示す模式平面図である。有機EL装置2の平面的な構成は、有機EL装置1の該構成と類似している。画素電極29は画像表示領域100内にマトリクス状に形成されており、Y方向に隣り合う画素電極29の間には、駆動用TFT25とスイッチング用TFT26と保持容量27とを含む駆動回路35が形成されている。
【0088】
ハッチングが施されている領域は、下部隔壁9(図3等参照)が形成されている領域である。図示するように、下部隔壁9は、駆動回路35の形成領域を含む隣り合う画素電極29間の領域の全て、及び画素電極29の外縁部を覆うように形成されている。すなわち、下部隔壁9は、画素電極の29の外縁部を除く領域を露出させて、それ以外の領域は覆うように形成されている。
【0089】
上部隔壁8も、X方向及びY方向に隣り合う画素電極29間に形成され、平面視で格子状となっている点で、有機EL装置1の上部隔壁8と共通している。そして有機EL装置2の上部隔壁8は、X方向に延在する部分が駆動回路35の上面を横切るように形成されている点で、有機EL装置1の上部隔壁8と異なっている。有機EL装置1では、画素20が占める領域と機能層形成領域5とが略一致している。それに対して、本実施形態の有機EL装置2では、画素20が占める領域と機能層形成領域5とが、Y方向において大きくずれている。
【0090】
かかる構成により、有機EL装置2は、Y方向において発光機能層形成領域5の略中央に発光領域6が位置することとなる。すなわちY方向において、発光領域6の両側に下部隔壁9で覆われた領域である非発光領域7が位置することとなる。その結果、後述するように液滴吐出ヘッド41をY方向に沿って往復させて往路と復路の双方で液滴50を吐出する場合において、双方の吐出を同等の条件で行うことができる。
【0091】
<有機EL装置の製造方法>
図11及び図12は、第2の実施形態にかかる有機EL装置の製造方法を示す工程断面図である。上記2図では、第1の実施形態の説明と同様に、駆動用TFT25とスイッチング用TFT26と保持容量27との集合を駆動回路35として簡略化して図示している。また、素子基板10の一方の面上から画素電極29に至るまでの間に形成されている各要素を素子層12として簡略化して図示している。また、上部隔壁8のY方向の寸法を拡大して図示している。
【0092】
上述したように本実施形態にかかる製造方法の対象である有機EL装置2の構成は、上部隔壁8の態様、具体的にはX方向に延在する部分の形成領域を除くと、第1の実施形態にかかる製造方法の対象である有機EL装置1の構成と略同一である。また、各構成要素の形成方法等も、略共通している。そこで、本実施形態の説明では、主に第1の実施形態の製造方法と異なる事柄について説明し、共通している事柄については説明の記載を一部省略する。以下、工程順に説明する。
【0093】
まず図11(a)に示すように、第6の工程として、素子基板10の一方の面上に、駆動回路35を含む素子層12を形成する。そして次に、第1の工程として、素子層12の上面(具体的には図3に示す第2層間絶縁層54の上面)に、平面視でY方向に隣り合う駆動回路35の間に第1電極としての画素電極29と、画素電極29の外縁部及び該画素電極が形成されていない領域を覆う下部隔壁9を形成する。
【0094】
そして次に、第2の工程として、下部隔壁9の上面に隔壁としての上部隔壁8を形成する。上述したように、本実施形態の製造方法では、図10に示すように、上部隔壁8のX方向に延在する部分を、平面視で駆動回路35を横切るように形成する。したがって上部隔壁8は、Y方向において下部隔壁9の中央近傍に位置することとなる。その結果、図示するように、Y方向において発光領域6の両側に非発光領域7が形成される。すなわち機能層形成領域5は、中央の発光領域6と該発光領域の両側の非発光領域7とに区画される。上部隔壁8の形成後、素子基板10の全面に、酸素含有ガスを処理ガスとするプラズマ処理とフッ素含有ガスを処理ガスとするプラズマ処理を順次行い、画素電極29の表面に残留している有機系の残渣を除去し、上部隔壁8の表面に撥液性を付与する。
【0095】
次に、図11(b)に示すように、第3の工程として、機能層形成領域5内に、発光機能層形成材料としての正孔注入輸送層形成材料を含有する液材である第1の機能液13aを、第1の液滴50aとして液滴吐出ヘッド41から吐出する。
【0096】
本工程は、素子基板10と液滴吐出ヘッド41とをY方向に相対移動させつつ上述の第1の液滴50aを吐出する点では、第1の実施形態における第3の工程と共通している。ただし、吐出する第1の液滴50aの量、具体的には、一滴(の第1の液滴50a)に含有される正孔注入輸送層形成材料の量は異ならせてある。本工程では、正孔注入輸送層31の形成に要する第1の機能液13aを複数回に分けて吐出する。したがって、一滴の第1の液滴50aに含有される正孔注入輸送層形成材料の量は、正孔注入輸送層31の形成に要する量を吐出する回数で割った値である。本実施形態では第1の液滴50aを2回吐出するため、一滴の第1の液滴50aに含有される正孔注入輸送層形成材料の量は、正孔注入輸送層31の形成に要する量の略二分の一である。
【0097】
第1の液滴50aを吐出する位置は、上述の第1の実施形態における該位置と同様である。すなわち、第1の間隔15が第2の間隔16より小さくなる位置に第1の液滴50aを吐出する。したがって、インク尾14は液滴吐出ヘッド41が移動する方向に流れるものの、該インク尾が上部隔壁8上まで流出する現象、さらには上部隔壁8を越えてY方向に隣り合う他の機能層形成領域5内へ流出する現象は抑制される。1回目の第1の液滴50aの吐出により、図11(c)に示すように、機能層形成領域5内に第1の機能液13aの液層が形成される。
【0098】
次に、図12(d)に示すように、上述の第3の工程を再度実施する。すなわち、液滴吐出ヘッド41を素子基板10に対してY方向に相対移動させつつ、第1の機能液13aからなる第1の液滴50aを、機能層形成領域5内に吐出する。ただし、2回目の吐出は、液滴吐出ヘッド41を1回目の吐出時の方向とは反対の方向に相対移動させつつ行う。すなわち、本実施形態の製造方法では、液滴吐出ヘッド41をY方向に沿うように往復移動させる。そして該液滴吐出ヘッドが機能層形成領域5を横切る度に、第1の液滴50aを吐出する。1回目の吐出を往路で行うとすると、2回目の吐出は復路で行う。2回目の吐出も1回目の吐出と同様の位置に行う。すなわち、すなわち第1の間隔15が第2の間隔16より小さくなる位置に行う。ただし、図示するように、往路と復路では液滴吐出ヘッド41の移動方向が逆なので、第1の間隔15と第2の間隔16は図中において左右が逆になる。
【0099】
図12(e)は、2回目の吐出により、既に機能層形成領域5内に形成されていた第1の機能液13aの液層の層厚が倍化された状態を示す図である。上述したように、本実施形態の製造方法では、一滴の第1の液滴50aに正孔注入輸送層31の形成に要する量の略二分の一の正孔注入輸送層形成材料を含めている。したがって、2回の吐出により形成された上述の液層は、必要量の正孔注入輸送層形成材料を含んでいる。
【0100】
次に、図12(f)に示すように、第4の工程として、上述の液層を硬化させて、正孔注入輸送層31を得る。以下、同様の工程を繰り返して、有機EL層32(図3等参照)を形成する。有機EL層32の形成工程は、図11(b)〜図12(f)に示す工程と略同一なので、図示は省略して説明する。
【0101】
正孔注入輸送層31の形成後、有機EL層形成材料を含む第2の機能液13bからなる第2の液滴50bを、上述の方法と同様の方法で吐出する。すなわち、第3の工程として、液滴吐出ヘッド41をY方向に沿って往復移動させつつ、往路と復路の双方で第2の液滴50bを機能層形成領域5内に吐出して、機能層形成領域5内の正孔注入輸送層31の上面に第2の機能液13bの液層を形成する。そして次に、第4の工程として、第2の機能液13bの液層を硬化させて有機EL層32を形成する。該有機EL層と先に形成されていた正孔注入輸送層31とで、発光機能層30(図3等参照)が形成される。
【0102】
そして次に、第5の工程として、素子基板10上に、上部隔壁8及び発光機能層30を覆うようにAlからなる第2電極としての陰極33を形成する。該陰極の形成により有機EL素子28(図3等参照)が形成される。以下、封止接着層88(図3参照)を形成し、対向基板11(図3参照)を貼り合せて、有機EL装置2を完成させる。
【0103】
本実施形態の製造方法は、液滴吐出ヘッド41をY方向に沿って往復させて、正孔注入輸送層31あるいは有機EL層32の形成に要する機能液13を複数回に分けて吐出する点に特徴がある。そのため、個々の液滴50の体積を縮小でき、インク尾14の長さ等も縮小できる。そのため、吐出される機能液13の一部がインク尾14として隣り合う機能層形成領域5内等に流出する現象をより一層低減でき、有機EL装置の表示品質あるいは信頼性等をより一層向上させることができる。
【0104】
なお、本実施形態では、液滴吐出ヘッド41を1往復させて、液滴50を往路と復路で各1回吐出している。しかし、液滴吐出ヘッドを複数回往復させて、液滴50を3回以上吐出する態様も可能である。また、正孔注入輸送層31の形成時における吐出回数と有機EL層32の形成時における吐出回数とは、同一でなくてもよい。
【0105】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態にかかる有機EL装置の製造方法について説明する。本実施形態にかかる製造方法の対象となる有機EL装置(符号無し)は、図1〜図3に示す有機EL装置1と略同一の構成を有している。上部隔壁8は、1つの画素20を構成する画素電極29と駆動回路35とを平面視で含むように形成されている。したがって、図3に示す有機EL装置1と同様に、機能層形成領域5の、Y方向における一方の側に偏って非発光領域7が形成されている。その他の各構成要素の態様及び形成方法等も、有機EL装置1の態様等と略共通している。そこで、本実施形態の説明では、主に第1の実施形態の製造方法と異なる事柄について説明し、共通している事柄については説明の記載を一部省略する。以下、第3の実施形態にかかる有機EL装置の製造方法、具体的には液滴吐出法により発光機能層30を形成する工程について、図13、図14の工程断面図を参照しつつ、工程順に説明する。
【0106】
まず図13(a)に示すように、第6の工程として、素子基板10の一方の面上に、駆動回路35を含む素子層12を形成する。そして次に、第1の工程として、素子層12の上面(具体的には図3に示す第2層間絶縁層54の上面)に、平面視でY方向に隣り合う駆動回路35の間に第1電極としての画素電極29と、画素電極29の外縁部及び該画素電極が形成されていない領域を覆う下部隔壁9を形成する。そして次に、第2の工程として下部隔壁9の上面に隔壁としての上部隔壁8を一方の側に偏らせて形成する。該上部隔壁により機能層形成領域5が区画される。そして、該機能層形成領域内には、発光領域6と非発光領域7とがY方向に隣り合うように区画される。
【0107】
次に、図13(b)及び図13(c)に示すように、第3の工程として、機能層形成領域5内に発光機能層形成材料としての正孔注入輸送層形成材料を含有する液材である第1の機能液13aを、第1の液滴50aとして、液滴吐出ヘッド41から吐出する。
【0108】
本工程は、素子基板10と液滴吐出ヘッド41とをY方向に相対移動させつつ上述の第1の液滴50aを吐出する点では、第1の実施形態および第2の実施形態における第3の工程と共通している。そして、液滴吐出ヘッド41を発光領域6側から非発光領域7へ向かう方向に相対移動させる点でも、第1の実施形態および第2の実施形態における第3の工程と共通している。ただし、第1の液滴50aを吐出する回数が異なっている。本実施形態の第3の工程では、1回の走査、すなわち、液滴吐出ヘッド41が1つの機能層形成領域5を横切る動作の間に、複数の第1の液滴50aを吐出する。本実施形態では3滴の第1の液滴50aを吐出する。吐出する間隔は等間隔であることが好ましい。なお、吐出する液滴数は3滴に限定されず、複数であればよい。2滴でもよく、4滴以上吐出してもよい。
【0109】
本実施形態では、液滴吐出ヘッド41を、発光領域6から非発光領域7に至る向きに1回のみ走査させる。したがって、該1回の走査中に吐出する数の第1の液滴50a(本実施形態では3滴)で、正孔注入輸送層31を形成する。したがって、一滴の第1の液滴50aには、正孔注入輸送層31の形成に要する量の略三分の一の正孔注入輸送層形成材料が含有されている。
【0110】
本工程では、液滴吐出ヘッド41が液滴50を吐出する前に横切る上部隔壁8と最初に第1の液滴50aを吐出する位置との間隔である第3の間隔17が、最後に第1の液滴50aを吐出する位置と所要の液滴50を吐出した後に横切る上部隔壁8との間隔である第4の間隔18よりも小さくなるように(第1の液滴50aを)吐出する。ここで、上部隔壁の輪郭の線は、機能層形成領域5の外周線でもある。したがって、第3の間隔17は、第1の液滴50aが吐出される前に液滴吐出ヘッド41が機能層形成領域5に対して相対的に接近する側の上部隔壁8の端部と最初に第1の液滴50aが吐出される位置との距離である。同様に、第4の間隔18は、第1の機能液13aが吐出された後に液滴吐出ヘッド41が機能層形成領域5に対して相対的に遠ざかる側の上部隔壁8の端部と最後に(本実施形態では3滴目)第1の液滴50aが吐出される位置との距離である。
【0111】
本実施形態では、第3の間隔17を30μmとしている。そして第4の間隔18を40μmとしている。本発明の各実施形態では、液滴吐出ヘッド41と素子基板10とを相対移動させつつ液滴50を吐出する。したがって、機能層形成領域5内における液滴50の着弾位置は、若干のばらつきを生じ得る。かかる場合において、上部隔壁8から30μm離れた位置を目標に液滴50を吐出すれば、上述のばらつきが発生した場合においても、吐出された液滴50が上部隔壁8の上面、あるいは隣り合う機能層形成領域5内に流出することを抑制できる。また、インク尾14は、第4の間隔18側に形成される。かかる場合において、上部隔壁8から40μm離れた位置を目標に液滴50を吐出すれば、インク尾14を機能層形成領域5内に収めることができる。
【0112】
有機EL装置1等における画素20のY方向のピッチは、略141μmである。上部隔壁8の寸法を考慮すると、機能層形成領域5のY方向の寸法は略130μmとなる。したがって、本実施形態のように、機能層形成領域5毎に3滴の液滴50を吐出する場合、略30μm間隔で吐出する。4滴の場合は略20μm間隔となる。
【0113】
図14(d)は第3の工程が終了して、機能層形成領域5内に第1の機能液13aの液層が形成された状態を示す図である。該液層の形成後、第4の工程として図14(d)に示す第1の機能液13aの液層を硬化させて、図14(e)に示すように、機能層形成領域5内に正孔注入輸送層31を形成する。
【0114】
次に、上述の第3の工程、および第4の工程を再度実施して有機EL層32(図3等参照)を形成する。有機EL層32の形成工程は、図13(b)〜図14(e)に示す工程と略同一なので、図示は省略して説明する。
まず、第3の工程として、有機EL層形成材料を含む第2の機能液13bの液滴である第2の液滴50bを機能層形成領域5内の正孔注入輸送層31の上面に吐出する。そして、該機能層形成領域内に第2の機能液13bの液層を形成する。第2の液滴50bを吐出する位置も、正孔注入輸送層の形成時と同様である。すなわち第3の間隔17は30μmであり、第4の間隔18は40μmである。
そして次に、第4の工程として上述の第2の機能液13bの液層を硬化させて有機EL層32を得る。以上の工程で、機能層形成領域5内に、正孔注入輸送層31と有機EL層32の積層体である発光機能層30が形成される。
【0115】
そして次に、第5の工程として、素子基板10上の少なくとも画像表示領域100を覆うように陰極33を形成する。以上の工程で、図14(f)に示すように発光領域6すなわち画素電極29が下部隔壁9に覆われずに露出している領域に、画素電極29と発光機能層30と陰極33の積層体である有機EL素子28が形成される。以下、封止接着層88(図3参照)を形成し、対向基板11(図3参照)を貼り合せて、上述の有機EL装置1と類似する有機EL装置(符号無し)を完成させる。
【0116】
本実施形態にかかる有機EL装置の製造方法は、液滴吐出ヘッド41が機能層形成領域5を横切る間に、複数の液滴50を吐出する点に特徴がある。所要量の機能液13を複数(複数回)に分けて吐出するため、個々の液滴50のサイズ(体積)を縮小できる。そのため、インク尾14も縮小できる。そして、上部隔壁8から30μm以上離れた位置から吐出を開始し、上部隔壁8から40μm以上離れた位置で吐出を終えるため、吐出される液滴50の着弾位置のバラツキにも対処できる。したがって、機能液13が隣り合う機能層形成領域5内に流出する現象をより一層抑制できる。その結果、より一層信頼性等の向上した有機EL装置を得ることができる。
また、かかる複数の液滴50を、液滴吐出ヘッド41が機能層形成領域5を一回横切る間に吐出するため、生産性を低下させることなく、上述の効果を得ることができる。
【0117】
なお、本実施形態では正孔注入輸送層31と有機EL層32とを同数の液滴50を吐出して形成しているが、かかる態様に限定する必要は無く、正孔注入輸送層31と有機EL層32と異なる数の液滴50を吐出して発光機能層30を形成してもよい。また、上記層の一方のみを本実施形態の複数の液滴50を吐出する方法で形成し、他方は上述の第1の実施形態又は第2の実施形態に記載の方法で形成してもよい。
【0118】
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態にかかる有機EL装置の製造方法について説明する。本実施形態にかかる製造方法の対象となる有機EL装置(符号無し)は、図10に示す有機EL装置2と略同一の構成を有している。上部隔壁8のX方向に延在する部分は、平面視で駆動回路35を横切るように形成されている。したがって有機EL装置2と同様に、機能層形成領域5のY方向における両側に非発光領域7が形成されている。その他の各構成要素の態様及び形成方法等も、有機EL装置2の態様等と略共通している。そこで、本実施形態の説明では、主に第2の実施形態の製造方法と異なる事柄について説明し、共通している事柄については説明の記載を一部省略する。以下、第4の実施形態にかかる有機EL装置の製造方法、具体的には液滴吐出法により発光機能層30を形成する工程について、図15、図16の工程断面図を参照しつつ、工程順に説明する。
【0119】
まず図15(a)に示すように、第6の工程として、素子基板10の一方の面上に、駆動回路35を含む素子層12を形成する。そして次に、第1の工程として、素子層12の上面(具体的には図3に示す第2層間絶縁層54の上面)に、平面視でY方向に隣り合う駆動回路35の間に第1電極としての画素電極29と、画素電極29の外縁部及び該画素電極が形成されていない領域を覆う下部隔壁9を形成する。下部隔壁9で覆われない領域が、発光領域6である。
【0120】
そして次に、第2の工程として下部隔壁9の上面に隔壁としての上部隔壁8を形成する。該上部隔壁により、機能層形成領域5が区画される。上述したように、第2の工程では、上部隔壁8を該上部隔壁のX方向に延在する部分が駆動回路35を横切るように形成する。したがって、Y方向の断面において、図示するように発光領域6の両側に非発光領域7が形成(区画)される。
【0121】
次に、図15(b)に示すように、第3の工程として、画素電極29上を含む機能層形成領域5内に発光機能層形成材料としての正孔注入輸送層形成材料を含有する液材である第1の機能液13aを、第1の液滴50aとして、液滴吐出ヘッド41から吐出する。
【0122】
本工程は、上述の第1〜第3の実施形態における第3の工程と同様に素子基板10と液滴吐出ヘッド41とをY方向に相対移動させつつ第1の液滴50aを吐出する。そして、上述の第3の実施形態における第3の工程と同様に、液滴吐出ヘッド41が1つの機能層形成領域5を横切る動作の間に、複数の第1の液滴50aを吐出する。一回の上記横切る動作の間に吐出する液滴50の数は2滴以上であれば任意である点も第3の実施形態における第3の工程と同様である。ただし、本実施形態では、上述の横切る動作を、Y方向に往復するように複数回行い、その都度、複数の液滴50を吐出する。本実施形態では、液滴吐出ヘッド41をY方向に沿って一往復させる。そのため、一回の上記横切る動作の間には、正孔注入輸送層31の形成に要する量の二分の一の量の第1の機能液13aを吐出する。図15(c)は、液滴吐出ヘッド41を一回横切らせる間に吐出した第1の液滴50aにより形成された、必要量の二分の一の量の第1の機能液13aの液層を示している。
【0123】
液滴50を吐出する位置も、上述の第3の実施形態と同様である。液滴吐出ヘッド41が液滴50を吐出する前に横切る上部隔壁8と最初に第1の液滴50aを吐出する位置との間隔である第3の間隔17(図13参照)が、最後に第1の液滴50aを吐出する位置と所要の液滴50を吐出した後に横切る上部隔壁8との間隔である第4の間隔18(図13参照)よりも小さくなるように吐出する。より具体的には、第3の間隔17が30μm、第4の間隔18が40μmとなるように吐出する。なお、本図及び図16(d)図では、第3の間隔17及び第4の間隔18の図示を省略している。
【0124】
次に、図16(d)に示すように、液滴吐出ヘッド41をY方向に沿って図15(b)に示す方向の反対方向に移動させる。図15に示す方向の移動が往路とすると、図16(d)に示す方向の移動は復路である。そして、機能層形成領域5を横切る間に、複数の第1の液滴50aを吐出する。
【0125】
図16(e)は、液滴吐出ヘッド41をY方向に沿って往復させ、往路と復路の双方で複数の第1の液滴50aを吐出して形成した第1の機能液13aの液層を示す図である。一回横切る間に所要量の二分の一の第1の機能液13aを吐出するため、一回往復させた段階で必要量の第1の機能液13aの液層が形成される。該液層の形成後、第4の工程として、第1の機能液13aを硬化させて、機能層形成領域5内に、図16(f)に示すように正孔注入輸送層31を形成する。
【0126】
以下の工程は、図6〜図9及び図11〜図14を用いて説明した上記各実施形態における該工程と類似しているため、図示は省略する。正孔注入輸送層31を形成した後、上述の第3の工程及び第4の工程を、有機EL層形成材料を含む第2の機能液13bを用いて実施して、機能層形成領域5内に有機EL層32(図3参照)を形成する。その結果、正孔注入輸送層31と有機EL層32の積層体である発光機能層30(図3参照)が形成される。
【0127】
そして次に、第5の工程として、素子基板10上の少なくとも画像表示領域100を覆うように陰極33を形成する。以上の工程で、発光領域6すなわち画素電極29が下部隔壁9に覆われずに露出している領域に、画素電極29と発光機能層30と陰極33の積層体である有機EL素子28が形成される。以下、封止接着層88(図3参照)を形成し、対向基板11(図3参照)を貼り合せて、上述の有機EL装置2と類似する有機EL装置(符号無し)を完成させる。
【0128】
本実施形態にかかる有機EL装置の製造方法は、液滴吐出ヘッド41をY方向に沿って往復させ、かつ液滴吐出ヘッド41が機能層形成領域5を一回横切る間に、複数の液滴50を吐出する点に特徴がある。そのため、個々の液滴50のサイズをより一層縮小できる。したがって、最初の吐出位置と最後の吐出位置を、上部隔壁8からの間隔を用いて定めたことの効果と併せて、機能液13が隣り合う機能層形成領域5内に流出する現象をより一層抑制できる。その結果、より一層信頼性等の向上した有機EL装置を得ることができる。
【0129】
なお、本実施形態では正孔注入輸送層31と有機EL層32の双方を、液滴吐出ヘッド41を往復させる方法で形成しているが、どちらか一方の層を上記第3の実施形態に記載の方法で形成してもよい。さらには、どちらか一方の層を、上述の第1の実施形態又は第2の実施形態に記載の方法で形成してもよい。
【0130】
本発明の実施の形態は、上述の各実施形態以外にも様々な変形例が考えられる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0131】
(変形例1)
上述の第1〜第4の実施形態では、ボトムエミッション型の有機EL装置を対象に説明している。しかし本発明の製造方法は、トップエミッション型の有機EL装置に対しても適用可能である。液滴吐出法により発光機能層30を形成する場合において、生産性を維持しつつ目的外の領域に液滴50が流出する現象を低減して、表示品質の向上したトップエミッション型の有機EL装置を得ることができる。
【0132】
(変形例2)
上述の第1〜第4の実施形態の対象となる有機EL装置は、3原色光を有機EL層の形成材料のみで得ている。しかし、本発明は他の態様の有機EL装置に対しても適用可能である。具体的には、カラーフィルターを併用する有機EL装置、あるいは共振構造を併用する有機EL装置に対しても適用できる。
【符号の説明】
【0133】
1…第1の実施形態の製造方法の対象である有機EL装置、2…第2の実施形態の製造方法の対象である有機EL装置、5…機能層形成領域、6…発光領域、7…非発光領域、8…隔壁としての上部隔壁、9…下部隔壁、10…素子基板、11…対向基板、12…素子層、13…機能液、14…インク尾、15…第1の間隔、16…第2の間隔、17…第3の間隔、18…第4の間隔、20…画素、21…走査線、22…信号線、23…電源供給線、25…駆動用TFT、26…スイッチング用TFT、27…保持容量、28…有機EL素子、29…第1電極としての画素電極、30…発光機能層、31…正孔注入輸送層、32…有機EL層、33…第2電極としての陰極、35…駆動回路、36…機能液供給路、37…連通部、38…機能液導入路、39…機能液供給チューブ、40…ヘッドユニット、41…液滴吐出ヘッド、42…ノズルプレート、43…キャビティ、44…振動板、45…圧電素子、50…液滴、51…下地保護層、52…ゲート絶縁層、53…第1層間絶縁層、54…第2層間絶縁層、60…半導体層、61…チャネル領域、62…ソース領域、63…ドレイン領域、64…ゲート電極、65…ソース電極、66…ドレイン電極、67…コンタクトホール、68…下部電極、69…上部電極、88…封止接着層、98…走査線駆動回路、99…信号線駆動回路、100…画像表示領域。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上において互いに交差する第1の方向と第2の方向とにわたって複数の第1電極を形成する第1の工程と、
前記第1電極を平面視で囲む隔壁を形成する第2の工程と、
前記隔壁で囲まれた機能層形成領域に発光機能層形成材料を含む機能液を液滴吐出ヘッドから吐出する第3の工程と、
吐出された前記機能液を硬化させて、前記機能層形成領域内に発光機能層を形成する第4の工程と、
前記発光機能層上に第2電極を形成して、前記第1電極と前記発光機能層と前記第2電極とを備える有機EL素子を形成する第5の工程と、
を有する有機EL装置の製造方法であって、
前記第2の工程は、平面視で前記第2の方向において隣り合う前記有機EL素子に挟まれた非発光領域の少なくとも一部を含めて囲むように前記隔壁を形成する工程であり、
前記第3の工程は、前記液滴吐出ヘッドと前記基板とを前記第2の方向に相対移動させつつ前記機能液を吐出する工程であることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の有機EL装置の製造方法であって、前記第1の工程の前に、前記有機EL素子を駆動する駆動回路を、前記基板上の前記非発光領域に形成する第6の工程を有することを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の有機EL装置の製造方法であって、
前記第1の工程は、平面視で長軸と短軸を有する形状の前記第1電極を、該第1電極の長軸方向が前記第2の方向と一致するように形成する工程であることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の有機EL装置の製造方法であって、
前記第2の工程は、平面視で前記第1電極の長軸方向における両側に前記非発光領域の少なくとも一部が含まれるように、前記隔壁を形成する工程であることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機EL装置の製造方法であって、
前記第3の工程は、前記液滴吐出ヘッドが前記機能層形成領域を横切る際に一滴の前記機能液を吐出する工程であり、かつ、前記機能液が吐出される前に前記液滴吐出ヘッドが該機能層形成領域に対して相対的に接近する側の前記隔壁の端部と前記機能液が吐出される位置との距離が、前記機能液が吐出された後に前記液滴吐出ヘッドが該機能層形成領域に対して相対的に遠ざかる側の前記隔壁の端部と前記機能液が吐出される位置との距離よりも小さくなるように、前記機能液を吐出する工程であることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の有機EL装置の製造方法であって、
前記第3の工程は、前記液滴吐出ヘッドと前記基板とを前記第2の方向に沿って相対的に往復運動させつつ、前記液滴吐出ヘッドが前記機能層形成領域を一回横切る度に一滴の前記機能液を吐出する工程であることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機EL装置の製造方法であって、
前記第3の工程は前記液滴吐出ヘッドが前記機能層形成領域を横切る際に前記機能液を複数回吐出する工程であり、かつ、前記機能液が吐出される前に前記液滴吐出ヘッドが該機能層形成領域に対して相対的に接近する側の前記隔壁の端部と該機能層形成領域内において最初に前記機能液が吐出される位置との距離が、前記機能液が吐出された後に前記液滴吐出ヘッドが該機能層形成領域に対して相対的に遠ざかる側の前記隔壁の端部と該機能層形成領域内において最後に前記機能液が吐出される位置との距離よりも小さくなるように、前記機能液を吐出する工程であることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の有機EL装置の製造方法であって、
前記第3の工程は、前記液滴吐出ヘッドと前記基板とを前記第2の方向に沿って相対的に往復運動させつつ、前記液滴吐出ヘッドが前記機能層形成領域を一回横切る度に前記機能液を複数回吐出する工程であることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項1】
基板上において互いに交差する第1の方向と第2の方向とにわたって複数の第1電極を形成する第1の工程と、
前記第1電極を平面視で囲む隔壁を形成する第2の工程と、
前記隔壁で囲まれた機能層形成領域に発光機能層形成材料を含む機能液を液滴吐出ヘッドから吐出する第3の工程と、
吐出された前記機能液を硬化させて、前記機能層形成領域内に発光機能層を形成する第4の工程と、
前記発光機能層上に第2電極を形成して、前記第1電極と前記発光機能層と前記第2電極とを備える有機EL素子を形成する第5の工程と、
を有する有機EL装置の製造方法であって、
前記第2の工程は、平面視で前記第2の方向において隣り合う前記有機EL素子に挟まれた非発光領域の少なくとも一部を含めて囲むように前記隔壁を形成する工程であり、
前記第3の工程は、前記液滴吐出ヘッドと前記基板とを前記第2の方向に相対移動させつつ前記機能液を吐出する工程であることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の有機EL装置の製造方法であって、前記第1の工程の前に、前記有機EL素子を駆動する駆動回路を、前記基板上の前記非発光領域に形成する第6の工程を有することを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の有機EL装置の製造方法であって、
前記第1の工程は、平面視で長軸と短軸を有する形状の前記第1電極を、該第1電極の長軸方向が前記第2の方向と一致するように形成する工程であることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の有機EL装置の製造方法であって、
前記第2の工程は、平面視で前記第1電極の長軸方向における両側に前記非発光領域の少なくとも一部が含まれるように、前記隔壁を形成する工程であることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機EL装置の製造方法であって、
前記第3の工程は、前記液滴吐出ヘッドが前記機能層形成領域を横切る際に一滴の前記機能液を吐出する工程であり、かつ、前記機能液が吐出される前に前記液滴吐出ヘッドが該機能層形成領域に対して相対的に接近する側の前記隔壁の端部と前記機能液が吐出される位置との距離が、前記機能液が吐出された後に前記液滴吐出ヘッドが該機能層形成領域に対して相対的に遠ざかる側の前記隔壁の端部と前記機能液が吐出される位置との距離よりも小さくなるように、前記機能液を吐出する工程であることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の有機EL装置の製造方法であって、
前記第3の工程は、前記液滴吐出ヘッドと前記基板とを前記第2の方向に沿って相対的に往復運動させつつ、前記液滴吐出ヘッドが前記機能層形成領域を一回横切る度に一滴の前記機能液を吐出する工程であることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機EL装置の製造方法であって、
前記第3の工程は前記液滴吐出ヘッドが前記機能層形成領域を横切る際に前記機能液を複数回吐出する工程であり、かつ、前記機能液が吐出される前に前記液滴吐出ヘッドが該機能層形成領域に対して相対的に接近する側の前記隔壁の端部と該機能層形成領域内において最初に前記機能液が吐出される位置との距離が、前記機能液が吐出された後に前記液滴吐出ヘッドが該機能層形成領域に対して相対的に遠ざかる側の前記隔壁の端部と該機能層形成領域内において最後に前記機能液が吐出される位置との距離よりも小さくなるように、前記機能液を吐出する工程であることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の有機EL装置の製造方法であって、
前記第3の工程は、前記液滴吐出ヘッドと前記基板とを前記第2の方向に沿って相対的に往復運動させつつ、前記液滴吐出ヘッドが前記機能層形成領域を一回横切る度に前記機能液を複数回吐出する工程であることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−48933(P2012−48933A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189188(P2010−189188)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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