説明

有毒ガス検知および避難誘導システム

【課題】複数階層からなる建造物で有毒ガスが発生したとき、その有毒ガスを吸引することなく戸外に避難できる、安全な避難経路を報知する。
【解決手段】各階各戸に取り付けたHS検知センサ110とCO検知センサ120で、これらの有毒ガスを検知したとき、情報伝達手段200を通して監視手段300に送信された有毒ガス検知情報と、予め避難経路データベース410に格納された各戸からの避難経路とに基づいて、避難経路決定部420で各戸からの避難経路を決定し、情報伝達手段200を通して、各戸の音声出力部510と避難経路提示部520で避難経路を報知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集合住宅等の居住施設や、ショッピングセンター等の商用施設、ホテル等の宿泊施設、あるいは工場等の工業施設などに適用可能な、有毒ガスを検知して、安全な避難経路を報知する有毒ガス検知および避難誘導システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、災害発生時に、被災者の避難誘導を安全かつ迅速に行うため、居住施設や商用施設、宿泊施設、工業施設等には、誘導灯が設置されている。
【0003】
しかし、昨今、このような施設で、予期せぬ有毒ガスの発生事例が多発している。
【0004】
有毒ガスが発生した場合、的確な経路で避難しないと、避難中に有毒ガスを吸引して、二次災害が起こる危険性がある。例えば、化学薬品の事故や自殺行為によって、度々発生報告がある硫化水素(以下HS)は、比重が1.19と空気よりも重いため、避難時に体をかがめて低い姿勢をとると、却ってHSを吸引してしまうことになり危険である。また、ガス器具の不完全燃焼等で発生する一酸化炭素(以下CO)は、比重が0.97と空気よりも若干軽いため、避難時に体をかがめて姿勢を低くしないと、COを吸引してしまう可能性がある。このような有毒ガスの比重に着目して、避難姿勢を報知する発明が提案されている(特許文献1)。
【0005】
また、建造物で災害が発生した場合、災害の発生位置や発生規模に応じて避難経路を設定して、それを報知する発明が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−241874号公報
【特許文献2】特開2000−113357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された発明は、検知した有毒ガスの種類に応じて、単に避難姿勢を報知するものであって、避難経路を報知する構成にはなっていない。
【0008】
また、特許文献2に開示された発明は、建造物を所定の3次元ブロックに分割して災害の現状を判定し、その時間推移を予測して安全な避難経路を探索するものである。
【0009】
しかし、特許文献2の発明は、火災発生時については詳細に説明されているが、有毒ガス発生時の避難経路の算出方法については言及されていない。
【0010】
本発明は上記問題点に鑑みなされたもので、避難中に、有毒ガスを吸引することによって、二次災害を誘発することなく、住人や施設利用者を安全に避難させることが可能な、有毒ガス検知および避難誘導システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る有毒ガス検知および避難誘導システムは、複数階層からなる建造物の各部屋または通路に備えられた複数の有毒ガス検知手段が、発生した有毒ガスの濃度と種類と発生場所を検知して、検知された有毒ガスの濃度と種類と発生場所に基づいて避難経路を決定し、決定した避難経路を可視的または可聴的に報知することによって、避難の最中に、発生した有毒ガスを吸引しない安全な避難経路を報知するものである。
【0012】
すなわち、本発明に係る有毒ガス検知および避難誘導システムは、複数階層からなる建造物の各部屋または通路に設置され、有毒ガスの濃度、前記有毒ガスの種類、および前記有毒ガスの発生場所を検知して出力する複数の有毒ガス検知手段と、前記複数の有毒ガス検知手段の出力を監視する監視手段と、前記監視手段の監視結果に基づいて、前記有毒ガスの種類、および発生場所から、前記各部屋または通路から前記建造物外部(以下、単に外部と呼ぶ)までの避難経路を算出する避難経路決定手段と、前記避難経路決定手段によって決定された前記避難経路を、前記各部屋または通路に、可視的または可聴的に報知する報知手段と、前記有毒ガス検知手段、前記監視手段、および前記報知手段を接続して情報を伝達する情報伝達手段とを備えたことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る有毒ガス検知および避難誘導システムによれば、各階の各部屋(以下、各戸と呼ぶ)または通路に設置された有毒ガス検知手段によって有毒ガスの濃度と種類と発生場所とが検知され、検知された有毒ガスの濃度と種類と発生場所とを情報伝達手段によって監視手段に伝達し、監視手段は、前記有毒ガスの濃度と種類と発生場所とに基づいて避難経路決定手段に避難経路の決定を指示し、避難経路決定手段は、前記有毒ガスの種類と発生場所とに基づいて避難経路を決定し、決定した避難経路は、情報伝達手段によって各戸または通路に設けられた報知手段に送られ、報知手段によって各戸または通路に、可視的または可聴的に報知される。したがって、建造物の各戸や通路にいる住人や利用者には、適切な避難経路が伝わり、外部へ安全に避難することができる。
【0014】
また、本発明に係る有毒ガス検知および避難誘導システムにおいては、前記建造物は、その各階に、前記建造物の外部に通じる非常階段を備え、前記避難経路決定手段は、検知された前記有毒ガスの種類から一意に定まる比重が空気よりも小さく、かつ、前記有毒ガスの濃度が所定値以上のときは、前記有毒ガスが検知された階、および前記有毒ガスが検知された階よりも下層階に対しては、それぞれの階から下層階に向かって避難する経路を前記避難経路として決定し、前記有毒ガスが検知された階よりも上層階に対しては、それぞれの階から前記非常階段を使って避難する経路を前記避難経路として決定し、また、前記有毒ガスの種類から一意に定まる比重が空気よりも大きく、かつ、前記有毒ガスの濃度が所定値以上のときは、前記有毒ガスが検知された階に対しては、前記有毒ガスが検知された階よりも上層階の前記非常階段を使って避難する経路を前記避難経路として決定し、前記有毒ガスが検知された階よりも上層階に対しては、それぞれの階から前記非常階段を使って避難する経路を前記避難経路として決定し、前記有毒ガスが検知された階よりも下層階に対しては、それぞれの階から下層階に向かって避難する経路を前記避難経路として決定するものであることが望ましい。
【0015】
このように構成された本発明に係る有毒ガス検知および避難誘導システムによれば、検知された有毒ガスの比重が空気よりも小さく、かつ、前記有毒ガスの濃度が所定値以上のときは、有毒ガスが発生した階を含む、それより下層階に対しては、下層階に向かって避難する経路が指示され、有毒ガスが発生した階よりも上層階に対しては、各階の非常階段から避難する経路が指示される。
【0016】
また、検知された有毒ガスの比重が空気よりも大きく、かつ、前記有毒ガスの濃度が所定値以上のときは、有毒ガスが発生した階に対しては、当該階から一旦上層階に上がり、上層階の非常階段を使って避難する経路が指示され、有毒ガスが発生した階よりも上層階に対しては、各階の非常階段から避難する経路が指示され、有毒ガスが発生した階よりも下層階に対しては、下層階に向かって避難する経路が指示される。
【0017】
したがって、比重が小さい有毒ガスが発生したときは、発生したガスが上部に広がるため、有毒ガスが発生した階には、有毒ガスが広がる方向と逆方向である下向きの避難経路を設定し、この避難経路を報知することによって、避難中に有毒ガスを吸引する二次災害の発生を防ぐことができる。
【0018】
また、比重が大きい有毒ガスが発生したときは、発生したガスが床に広がるため、有毒ガスが発生した階には、有毒ガスが広がる方向と逆方向である上層階に上がってから外部に避難する避難経路を設定し、この避難経路を報知することによって、避難中に有毒ガスを吸引する二次災害の発生を防ぐことができる。
【0019】
さらに、本発明に係る有毒ガス検知および避難誘導システムにおいては、前記有毒ガス検知手段によって検知される有毒ガスが、HSとCOのうち少なくとも一方であることが望ましい。
【0020】
このように構成された本発明に係る有毒ガス検知および避難誘導システムによれば、HSとCOの発生時に、それらの比重に基づいた避難経路を算出して、これを報知することができる。したがって、昨今、頻繁に発生事例が報告されているHSやCOの発生時においても、建造物の住人や利用者に対して、安全な避難経路を指示することができる。
【0021】
また、本発明に係る有毒ガス検知および避難誘導システムにおいて、前記情報伝達手段は、少なくとも前記有毒ガス検知手段が検知した情報を、前記各部屋または通路に電力を供給する電力線を通して伝達することが望ましい。
【0022】
このように構成された本発明に係る有毒ガス検知および避難誘導システムによれば、建造物に既設の給電用電力線を通して、有毒ガス検知手段で検知された前記有毒ガスの濃度と種類と発生場所とを監視手段に伝達することができ、これによって、監視手段は、前記有毒ガスの濃度と種類と発生場所とに基づいて、避難経路決定手段に避難経路の決定を指示することができ、避難経路決定手段において決定された避難経路を報知することができる。したがって、有毒ガス検知および避難誘導システムの敷設に必要な電線類の使用量が削減でき、よって、敷設作業に要する時間が短縮できるため、敷設コストを圧縮することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る有毒ガス検知および避難誘導システムによれば、有毒ガス発生時に、発生した有毒ガスを吸引する二次災害を誘発することなく、建造物の住人や利用者を、安全に避難させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係る有毒ガス検知および避難誘導システムの構成図である。
【図2】(a)本発明の実施形態に係る有毒ガス検知および避難誘導システムが実装された集合住宅の外観図である。(b)本発明の実施形態に係る有毒ガス検知および避難誘導システムが実装された集合住宅の3階部分の構造図である。(c)本発明の実施形態に係る有毒ガス検知および避難誘導システムが実装された集合住宅の1階部分の構造図である。
【図3】図2の集合住宅でHSやCOが発生したときの避難経路情報の一部である。
【図4】本発明の実施例1の動作の流れを示したフローチャートである。
【図5】商用交流電圧信号に有毒ガス検知情報を重畳する様子を示す図である。
【図6】避難経路提示部で提示される画面情報の1例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る有毒ガス検知および避難誘導システム1の実施形態について、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0026】
本実施例は、本発明を集合住宅に適用したものである。図1は、本実施例の有毒ガス検知および避難誘導システム1の全体構成を示す構成図である。また、図2(a)は、本発明の有毒ガス検知および避難誘導システム1が実装された集合住宅600の外観図であり、図2(b)は、その集合住宅600の3階部分をA方向から見た構造図である。また、図2(c)は、その集合住宅600の1階部分をB方向から見た構造図である。
【0027】
集合住宅600は5階建てで、各階に10世帯分の居住区があるものとする。また、図2(b)に示す通り、3階部分には、通路910を挟んで居住区が配置されている。上下階への行き来は、エレベータ900もしくは階段800を使って行う。また、各階の両端には、第1非常階段810と第2非常階段820が設置されている。この構造は、3階以外の階においても同一であるとする。また、図2(c)に示す通り、第1非常階段810の1階部分には、外部に通じる第1階段口840が設けられ、第2非常階段820の1階部分には、外部に通じる第2階段口850が設けられ、階段800の1階部分には、外部に通じる第3階段口830が設けられている。
【0028】
本実施例に係る有毒ガス検知および避難誘導システム1は、各戸で発生した有毒ガスの濃度、種類、発生場所を検知する、設置場所を一意に特定できる固有のID番号が付与された有毒ガス検知手段100と、各戸の有毒ガス検知手段100で検知された有毒ガスの濃度と種類と発生場所の情報を監視する監視手段300と、監視手段300で監視された有毒ガスの濃度と発生場所とに基づいて、各戸の避難経路(以下、避難経路情報と呼ぶ)を決定する避難経路決定手段400と、決定した避難経路情報を、可視的または可聴的に各戸に報知する報知手段500と、前記有毒ガス検知手段100、前記監視手段300、および前記報知手段500を接続して、有毒ガスの種類と、濃度と、その発生場所と、避難経路情報を伝達する情報伝達手段200を備えている。
【0029】
有毒ガス検知手段100は、詳しくは、HSを検知するHS検知センサ110と、COを検知するCO検知センサ120と、HS検知センサ110およびCO検知センサ120で検知した有毒ガスの濃度を収集するセンサ情報収集部130とを備える。
【0030】
情報伝達手段200は、詳しくは、各戸に設置され、センサ情報収集部130で収集したHSの濃度と、COの濃度と、有毒ガス検知手段100が有するID番号(以後、これらを纏めて有毒ガス検知情報と呼ぶ)とを商用交流電圧信号(以後、単に交流電圧信号と呼ぶ)に重畳するために変調し、さらに、避難経路決定手段400から交流電圧信号に重畳されて伝達された避難経路情報を復調する第1情報変調・復調部210と、各戸に交流電圧を供給する第1電源コンセント220と、図2に示す管理人室610に設置され、管理人室610に交流電圧信号を供給する第2電源コンセント230と、避難経路決定手段400で算出した避難経路情報を交流電圧信号に重畳するために変調し、さらに、センサ情報収集部130から交流電圧信号に重畳されて伝達された有毒ガス検知情報を復調する第2情報変調・復調部240と、第1電源コンセント220と第2電源コンセント230を接続し、交流電圧信号を各戸に供給する電力線225とから構成されている。なお、第1電源コンセント220から、有毒ガス検知手段100と、第1情報変調・復調部210と、報知手段500とに動作電力が供給されており、第2電源コンセント230から、第2情報変調・復調部240と、監視手段300と、避難経路決定手段400とに動作電力が供給されている。
【0031】
避難経路決定手段400は、詳しくは、集合住宅600の構造に基づいて、予め設定した各戸の避難経路情報と、避難経路情報をテキストや音声で表現した案内情報とを格納した避難経路データベース410と、監視手段300からの指示によって、有毒ガス検知情報と避難経路データベース410に格納された避難経路情報と案内情報とに基づいて、各戸の避難経路情報を決定する避難経路決定部420と、決定した避難経路情報を提示する避難経路提示部430とを備えている。
【0032】
報知手段500は、詳しくは、避難経路決定手段400で決定した避難経路情報を音声で報知する、スピーカからなる音声出力部510と、避難経路決定手段400で決定した避難経路情報を画面情報で報知する、ディスプレイ装置からなる避難経路提示部520とを備えている。
【0033】
ここで、有毒ガス検知手段100と報知手段500は、集合住宅600の各戸に設置され、監視手段300と避難経路決定手段400は、管理人室610に設置されている。
【0034】
なお、HSやCOを検知するセンサには、様々な形式のものが考案されている。例えば、金属酸化物半導体がこれらのガスと接触したときに生じる抵抗値の変化をガス濃度として検知する半導体式センサや、一定の電位に保たれた電極上でガスを電気分解して、そのときに発生する電流をガス濃度として検知する定電位電解式センサなどである。HS検知センサ110とCO検知センサ120には、これらいずれのセンサを用いてもよい。
【0035】
なお、HSは比重が空気よりも大きいため、HS検知センサ110は床面近くに設置するのが望ましく、COは比重が空気よりもやや小さいため、CO検知センサ120は天井近くに設置するのが望ましい。これは、微量の有毒ガスを確実に検知できるようにするためである。
【0036】
次に、本実施例に係る有毒ガス検知および避難誘導システム1の作用について、図4のフローチャートを参照して説明する。
【0037】
各戸に設置されたHS検知センサ110とCO検知センサ120によって、各有毒ガスの濃度が常時計測され、その結果は、センサ情報収集部130に送信され、センサ情報収集部130が有するメモリに記憶される。なお、センサ情報収集部130が有するメモリには容量の制約があるため、所定回数の濃度情報を記憶したら、最初に記憶した濃度情報から順に消去されるものとする。
【0038】
監視手段300は、各有毒ガス検知手段100に付与されたID番号を使って、各戸に設置された有毒ガス検知手段100を順に呼び出し(図4のS1)、呼び出された有毒ガス検知手段100は、センサ情報収集部130に記憶された最新のHSの濃度と、最新のCOの濃度と、呼び出された有毒ガス検知手段100が有するID番号とを纏めて、有毒ガス検知情報として第1情報変調・復調部210に送信する(図4のS2)。
【0039】
第1情報変調・復調部210は、有毒ガス検知情報に、100kHz程度の搬送周波数で変調をかけ、変調された有毒ガス検知情報を、図5に示すように、電圧100または200V、周波数50または60Hzの交流電圧信号に重畳する(図4のS3)。
【0040】
有毒ガス検知情報に変調をかけるのは、50または60Hzの交流電圧信号と、有毒ガス検知情報の識別性を高めるためである。変調波の搬送周波数は、屋内電力線搬送通信で使用できる周波数が法律で定められているため、その範囲内の周波数、例えば100kHzとする。但し、搬送周波数はこの周波数に限られるものではなく、設計要件に照らして、適切な周波数が選択される。
【0041】
有毒ガス検知情報が重畳された交流電圧信号は、各戸の第1電源コンセント220から、電力線225を経由し、さらに第2電源コンセント230を経て、第2情報変調・復調部240に送信される(図4のS4)。
【0042】
第2情報変調・復調部240では、有毒ガス検知情報が重畳された交流電圧信号に基づいて、有毒ガス検知情報が復調される(図4のS5)。復調された有毒ガス検知情報は、監視手段300に送られる(図4のS6)。
【0043】
監視手段300には、各戸から有毒ガス検知情報が集められ(図4のS7)、各戸から集まった有毒ガス検知情報が監視される(図4のS8、S10、S11)。ここで、有毒ガスの濃度が、予め設定されたしきい値(HSの濃度しきい値D1、COの濃度しきい値D2)を超えていたら、有毒ガスが発生したと判断して、避難経路決定部420に対して避難経路決定の指示を出す。また、全戸の有毒ガス検知情報の確認が終了したら、再び図4のS1に戻って、監視を続ける(図4のS16)。
【0044】
避難経路決定部420は、避難経路データベース410に予め格納されている避難経路のうち、監視手段300において有毒ガスが発生したと判断された部屋で、該当する有毒ガスが発生した場合に対応する避難経路を読み込む。(図4のS9、S12)。
【0045】
なお、有毒ガス発生時にエレベータ900の運転を行うのは危険であるため、避難経路決定部420からの指示によって、エレベータ900を最寄り階で停止させ、乗員が降りた後、ドアを閉じて運転を停止する(図4のS13)。
【0046】
次に、避難経路情報の算出手順を説明する。避難経路データベース410には、予め、有毒ガス発生時の避難経路情報が格納されている。図3は、実際に格納されているHS発生時の避難経路情報と、CO発生時の避難経路情報を示す。実際は、集合住宅600の全戸に対する避難経路情報が用意されているが、分量が大きく煩雑であるため、その一部分のみを図示する。図3の縦軸には、有毒ガスが発生した各戸の部屋番号が記載され、横軸には、各戸の避難経路が記載されている。
【0047】
図3において、「X↓」の表記は、Xの部分に記載された、階段800、第1非常階段840、または第2非常階段850のいずれかを使って1階まで下り、Xに繋がった第1階段口840、第2階段口850、または第3階段口830から、外部に避難する経路を表している。
【0048】
また、「階段↑」の表記は、階段800を使って、一旦1階層上に上がり、その階の第1非常階段810、または、第2非常階段820を使って1階まで下り、第1非常階段810につながった第1階段口840、または第2非常階段820につながった第2階段口850から、外部に避難する経路を表している。
【0049】
さらに、「Z→」の表記は、Zの部分に記載された、第1階段口840、第2階段口850、または第3階段口830のいずれかの階段口から、外部に避難する経路を表している。
【0050】
例えば、図3には、302号室710の住人は、301号室700でHSが発生したとき、階段800を使って一旦4階に上がり、4階の第1非常階段810を使って1階に下りて第1階段口840から外部に避難する、もしくは、4階の第2非常階段820を使って1階に下りて第2階段口850から外部に避難することが示されている(図3のP)。また、例えば、203号室(図2への図示省略)の住人は、階段800を使って1階に下り、第3階段口830から外部に避難することが示されている(図3のQ)。
【0051】
一方、図3のTには、301号室700でCOが発生した時、302号室710の住人は、階段800を使って1階まで下り、第3階段口830から外部に避難することが示されている。
【0052】
このように、同じ302号室710でも、発生した有毒ガスの種類によって異なる避難経路が指示される。すなわち、n階で空気よりも比重が大きいHSが発生したとき、n階の住人が階段800を使って下層階に避難すると、HSは比重が大きく下方に降下するため、下層階への避難途中や避難先でHSを吸引することによって二次災害が起こる危険性がある。したがって、一旦上層階に上がった後、上層階の非常階段を使って避難する経路が指示される。なお、最上階でHSが発生したときは、一旦屋上に上がった後、第1非常階段810、または第2非常階段820を使って避難する経路が指示される。
【0053】
一方、比重が空気に対してやや小さいCO発生時には、上層階を経由して避難すると、上昇したCOによって、上層階への避難途中または避難先で逆にCOを吸引してしまう恐れがあるため、階段800、第1非常階段810、または第2非常階段820を使って下層階に避難する経路が指示される。
【0054】
なお、最下階の住人に対しては、避難時間の短縮と、上層階の住人の避難を円滑に進めるために、発生した有毒ガスの種類によらず、最短経路で、第1非常階段口840、第2非常階段口850、または第3階段口830から外部に避難する経路が指示される。
【0055】
以下、避難経路を報知する処理の流れを説明する。例えば、302号室710でHSが発生した場合、避難経路決定部420には、避難経路データベース410から、「302号室でHSの発生した場合」に対応した、図3のRの部分の避難経路が読み込まれる(図4のS9)。避難経路決定部420では、読み込まれた避難経路に基づいて避難経路を決定して(図4のS14)、各戸に報知する音声と画面情報を作成する(図4のS17)。この音声と画面情報は、予め、避難経路データベース410に格納しておいた各戸の避難経路情報と、それをテキストや音声で表現した案内情報を用いて作成される。作成された音声と画面情報には、その情報を報知する部屋に設置された有毒ガス検知手段100に付与されたID番号と同じID番号を付与して、第2情報変調・復調部240において変調した後、交流電圧信号に重畳して(図4のS18)、第2電源コンセント230、電力線225、および第1電源コンセント220を経て、対応する部屋に設置された第1情報変調・復調部210に送信する(図4のS19)。
【0056】
各戸では、第1情報変調・復調部210において、音声と画面情報が重畳された交流電圧信号を復調し(図4のS20)、各戸に対応するID番号が付与されていることを確認した後、各戸に設けた音声出力部510、および避難経路提示部520が、音声や画面情報で避難経路を報知する(図4のS21)。
【0057】
例えば、301号室700でHSが発生したとき、302号室710には、音声出力部510を構成するスピーカから、「301号室で硫化水素ガスが発生しました。直ちに階段で4階に上がり、4階の非常階段で避難して下さい。」という音声案内を出力するとともに、避難経路提示部520を構成するディスプレイには、図6に示す画面情報が表示される。302号室710の住人は、これらの音声案内と画面情報に従い、避難を行う。
【0058】
以上説明したように、本実施例の有毒ガス検知および避難誘導システムによると、有毒ガスの濃度と、有毒ガスの種類から一意に定まる比重と、有毒ガスの発生場所に基づき、発生した有毒ガスの種類毎に、避難中に有毒ガスを吸引することのない避難経路を決定して、これを報知することができるため、避難中の二次災害の発生を防止することができ、安全に避難することができる。
【0059】
なお、避難経路は、本実施例で示す経路に限る訳ではない。すなわち、有毒ガス検知手段100は、集合住宅600の各戸のみならず、通路910や階段800に設置してもよく、その場合、図3に相当する避難経路情報を、より詳細に設定できるため、本実施例に比べて、より詳細な避難経路を設定することができるようになる。
【0060】
また、本実施例では、避難経路決定部420で決定した避難経路情報を、情報伝達手段200の中の電力線225を介して各戸に送信し、各戸の報知手段500で報知する構成としたが、集合住宅600に、インターネット回線が敷設されているときは、避難経路決定手段420で決定した避難経路情報を、インターネット回線を通して報知手段500に伝達し、各戸に報知するようにしてもよい。この場合、避難経路情報は、インターネット回線に応じた、適切な符号化がなされた後に伝達される。
【0061】
あるいは、例えば小規模な集合住宅では、避難経路決定部420で決定した避難経路情報を、管理人室610にいる管理人が確認した後、電話回線を通して、避難経路に関する情報を各戸に通報するようにしてもよい。
【0062】
なお、本実施例では、HSが発生した場合について説明したが、COが発生した場合も、同様に避難経路を算出して、これを報知する。
【0063】
さらに、複数の部屋で同時に有毒ガスが発生した場合や、HSとCOが同時に発生した場合にも、本実施例の構成によって対応することが可能である。ただし、このような場合、有毒ガスの発生パターンには膨大な場合の数があり、図3に相当する避難経路情報を、予め作成しておくのは困難である。そのため、以下のように対応する。
【0064】
例えば、複数の部屋で同時にHSが発生した場合は、まず、避難経路決定部420が、図3の避難経路を参照し、各部屋で個別にHSが発生したと想定して、複数の避難経路を算出する。次に、避難経路決定部420が、算出された複数の避難経路のうち、同じ部屋の避難経路同士を比較して、避難経路が一致した場合は、その一致した避難経路を、その部屋の最終的な避難経路にすればよい。
【0065】
一方、同じ部屋の避難経路が一致しない場合は、避難経路決定部420が、監視手段300に集められた各部屋のHSの濃度を比較して、HSの発生濃度が最も高い部屋に対する避難経路を、その部屋の最終的な避難経路にすればよい。
【0066】
また、HSとCOが、互いに異なる別の部屋で同時に発生した場合は、まず、避難経路決定部420が、HSに対する各部屋の避難経路と、COに対する各部屋の避難経路を、各々算出する。次に、避難経路決定部420が、同じ部屋のHSに対する避難経路とCOに対する避難経路とを比較して、避難経路が一致した場合は、その一致した避難経路を、その部屋の最終的な避難経路にすればよい。
【0067】
一方、同じ部屋のHSに対する避難経路とCOに対する避難経路とが一致しない場合は、避難経路決定部420が、各部屋のHSの濃度とCOの濃度に基づいて、身体に最も影響の大きい量の有毒ガスが発生した部屋とその有毒ガスの種類を特定し、その部屋に対する避難経路を、その部屋の最終的な避難経路にすればよい。
【0068】
さらに、本実施例において、管理人室610に設置された監視手段300に電話回線を接続して、監視手段300が避難経路決定手段400に対して避難経路決定の指示を出したとき、電話回線を使って消防署や警察署に通報して、有毒ガス検知情報を送信する構成にしておけば、有毒ガスの発生と同時に、これらの機関に有毒ガス検知情報を送信することができ、これによって、消防や警察による迅速な救援活動を実施することができる。
【0069】
さらに、本実施例は、本発明を図2の集合住宅600に適用したものであるが、図3に相当する避難経路情報を予め作成しておきさえすれば、別の構造の建造物にも適用可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0070】
1 有毒ガス検知および避難誘導システム
100 有毒ガス検知手段
110 HS検知センサ
120 CO検知センサ
130 センサ情報収集部
200 情報伝達手段
210 第1情報変調・復調部
220 第1電源コンセント
225 電力線
230 第2電源コンセント
240 第2情報変調・復調部
300 監視手段
400 避難経路決定手段
410 避難経路データベース
420 避難経路決定部
500 報知手段
510 音声出力部
520 避難経路提示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数階層からなる建造物の各部屋または通路に設置され、有毒ガスの濃度、前記有毒ガスの種類、および前記有毒ガスの発生場所を検知して出力する複数の有毒ガス検知手段と、前記複数の有毒ガス検知手段の出力を監視する監視手段と、前記監視手段の監視結果に基づいて、前記有毒ガスの種類、および発生場所から、前記各部屋または通路から前記建造物外部までの避難経路を決定する避難経路決定手段と、前記避難経路決定手段によって算出された前記避難経路を、前記各部屋または通路に、可視的または可聴的に報知する報知手段と、前記有毒ガス検知手段、前記監視手段、および前記報知手段を接続して情報を伝達する情報伝達手段とを備えたことを特徴とする有毒ガス検知および避難誘導システム。
【請求項2】
前記建造物は、その各階に、前記建造物の外部に通じる非常階段を備え、
前記避難経路決定手段は、検知された前記有毒ガスの種類から一意に定まる比重が空気よりも小さく、かつ、前記有毒ガスの濃度が所定値以上のときは、前記有毒ガスが検知された階、および前記有毒ガスが検知された階よりも下層階に対しては、それぞれの階から下層階に向かって避難する経路を前記避難経路として決定し、前記有毒ガスが検知された階よりも上層階に対しては、それぞれの階から前記非常階段を使って避難する経路を前記避難経路として決定し、
また、前記有毒ガスの種類から一意に定まる比重が空気よりも大きく、かつ、前記有毒ガスの濃度が所定値以上のときは、前記有毒ガスが検知された階に対しては、前記有毒ガスが検知された階よりも上層階の前記非常階段を使って避難する経路を前記避難経路として決定し、前記有毒ガスが検知された階よりも上層階に対しては、それぞれの階から前記非常階段を使って避難する経路を前記避難経路として決定し、前記有毒ガスが検知された階よりも下層階に対しては、それぞれの階から下層階に向かって避難する経路を前記避難経路として決定することを特徴とする、請求項1記載の有毒ガス検知および避難誘導システム。
【請求項3】
前記有毒ガス検知手段によって検知される有毒ガスが、硫化水素と一酸化炭素のうち少なくとも一方であることを特徴とする請求項1または2記載の有毒ガス検知および避難誘導システム。
【請求項4】
前記情報伝達手段は、少なくとも前記有毒ガス検知手段が検知した情報を、前記各部屋または通路に電力を供給する電力線を通して伝達することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の有毒ガス検知および避難誘導システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−221722(P2011−221722A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89084(P2010−89084)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(510097976)株式会社ヤマガタ共同 (2)
【Fターム(参考)】